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律「べいびーべいびー」#前編 【シリアス】


1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 15:25:04.23 ID:COILw5zm0

書き溜めはある



3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 15:25:26.01 ID:COILw5zm0

お、立った



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 15:27:16.13 ID:COILw5zm0


「え…?」
「やっぱり、だめ、かな…。」
「…。」

練習が終わったあと、忘れ物に気付いて教室に戻ってきた。
置き勉なんてするからこうなるんだと澪の小言を右から左に流しながら、私は走った。

教科書を鞄にしまっていると、ガラリと引き戸の開く音がした。
振り向くとそこにはムギがいて、真剣な顔で私にこう言った。

「りっちゃん、私…りっちゃんのことが好き。」

にぶい私でもこれには流石にピンときて。
何言ってんだよと笑い飛ばすことすらできずにただ佇んでいた。

「だからね、その…付き合って、欲しいな、って…。」

そうして冒頭。
間抜けな声を発しながらムギを見る。





7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 15:31:53.47 ID:COILw5zm0


消え入りそうな声。
ムギは今にも泣きそうだ。

私だって、結構困った顔をしているはずだ。
だけど、夕日の逆光で私の顔はちゃんと見えないんだろうな。
きっとそれがムギをさらに不安にさせているんだ。

だから私はムギに近づいた。
私を好きというムギを気持ち悪いとは思わなかった。

不安を感じているなら安心させてやらないと。
私はそのことで頭がいっぱいだった。

「ムギ…。」

どうしていいのかわからなくなって、
どう言ってあげたらいいのかわからなくなって、
その場しのぎでムギの頭に手を伸ばした。

ドンッと音がして。
視界にいたはずのムギが見えなくなった。
だけど、その姿は探すまでも無い。



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 15:36:18.51 ID:COILw5zm0


「…お、おい、ビックリしただろ?」

ムギは私に勢い良く抱きついていた。
元々は頭を撫でるために伸ばした手が、
行き場をなくしてムギを抱き締め返す。

「ありがとうな。」

こんなことしか言ってやれない私はきっとバカだ。
こんなことしか言ってやれない私を好きになったムギはきっともっとバカだ。

「ごめんね…変なこと言って…。」
「変なことか、確かにな。」

そう言って私は誤魔化すように笑った。

「こんなこと急に、迷惑でしょう?」
「迷惑なんかじゃ、ない。ただ、ちょっとビックリしてる。」
「…。」
「時間をくれないか。」
「え…?」
「考えさせて欲しい。」

考えさせて欲しい、なんてよく言ったもんだ。
残酷な現実を先延ばしにしているだけじゃないか。

傷つけたくないんだ。
傷つきたくないから。



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 15:41:02.78 ID:COILw5zm0


そんな私の気持ちには気付かず、ムギは私の胸で泣き続けた。

「ありがとう…、私、嫌われちゃったら…どうしようかと、思って…。」

途切れ途切れ、喋るのもやっとといった様子で
不安を吐露するムギを少し可愛いな、と思ったものの
これはそういう気持ちではないと妙に冷めたもう一人の自分が耳元で囁く。

返事を先延ばしにされるのも想定内だったのか、
とりあえずは最悪の事態は免れたと安堵しているみたいだ。

「心外だな。」

思ったままを口にした。



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 15:44:41.16 ID:COILw5zm0


「え?」
「嫌いになんて、なるわけない。」
「でも…。」
「それとこれとは話が別。とにかく、ムギを嫌いになったりはしない。」
「そう…ありがとう。」
「お礼言うところじゃないぞー?」

ムギの頭を軽く小突く。
何故か嬉しそうな表情を浮かべて、一呼吸置いてから。

「ありがとう、りっちゃん。」

ムギはまた私にお礼を言った。


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15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 15:49:21.94 ID:COILw5zm0


それから数日が経った。
ムギへの返事は、まだだった。

どうしていいのかわからない。
酷い話だけど、最初は断り方を考えていたんだ。

だけど、なぜ断らなければいけないか、その理由を考えれば考えるほどわからなくなっていった。
考えていく内に、ムギと付き合うということに私は何も抵抗を感じなくなっていく。

でも、ムギのことが好きなわけじゃないんだ。
要するに、付き合うってことが具体的にどういうことなのかが私にはわからないんだと思う。

澪に相談…はしなかった。
ムギはきっとずっと一人で悩んで、一人で考えて、一人で決めたんだ。
あの告白からそれは容易に想像できた。

私も同じようにしたい。
単純だけど、そう思ったんだ。

「……。」

こんな時期に屋上に一人、ただの不審者だな。
寒さに震えながらそんなことを考える。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 15:56:57.15 ID:COILw5zm0


「りーっちゃん!」
「のわぁ!?」
「えへへ、ビックリした?」
「…心臓止まるかと思ったぞ。」

声の主はムギだった。
これまたすごいタイミングでお出ましだ。

「ねぇ、りっちゃん。何してたの?」
「うーん、考え事。」
「そうなんだ。何を考えていたの?」
「お前のこと。」
「……!」

なんちゃって、そう言って誤魔化そうと思ったのに。
あんまりムギが嬉しそうにするもんだから私はその言葉を飲み込んだ。



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 16:00:13.66 ID:COILw5zm0


その表情が無性に可愛かったからかな。
この先の人生、いつ振り返っても今の私の気持ちをズバリ言い当てることは出来ないだろう。

今まで迷ってたのが嘘みたいに。

霧が晴れるように。

「あのさ、ムギ。付き合って…みないか?」

私は提案した。


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18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 16:05:12.38 ID:COILw5zm0



「ねぇ、りっちゃん。今度の日曜日、買い物に行かない?」
「はは。ムギ、今日が何曜日か知ってるか?」
「えっと、土曜日かしら。」
「今度の日曜日って明日だぞ。」

あはは、と笑い合う。
あれから私たちは『一応』恋人同士だ。

私はまだムギのことが好きじゃないけど、付き合っている。
どれだけ考えても結論が出なかったから。
二人で話をしてこういう形に落ち着いた。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 16:09:35.35 ID:COILw5zm0


-私は、ムギのことが好きだけどまだ好きじゃない

-…

-ごめん、意味わからないよな

-ううん、わかるわ

-…私な、考えたんだ。人を好きになるってどういうことか

-うん

-だけどな、まだわからないんだ

-そっか…

-だから、私に…教えてくれないか?

-え…?

-だからさ…



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 16:13:31.28 ID:COILw5zm0


簡単に言ってしまうと所謂『お試し期間』。
だけど、合わなければすぐにポイッな関係になりたかったわけじゃない。

好きじゃないから本当の意味では付き合えないかもしれない。
だけど、できることなら気持ちに応えたい。
その上で二人で導き出した道なんだ。

私は本気だぜ。
今まで気付かなかったムギのいいところや知らなかったことにたくさん気付きたい。
一つでも多く見つけて、少しでも好きになりたい。

ムギには申し訳なかったけど、
『その気持ちが嬉しい』とこの関係を快諾してくれた。
その時の笑顔を見て、ちょっぴりムギを可愛く思ったのは内緒。


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24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 16:16:40.65 ID:COILw5zm0


ある日の部室。
ティータイムの和やかな雰囲気の中で澪が口を開いた。

「なぁ、これ。」

そう言って机の上にチラシを置く。
私達はそれを見て固まる。

「澪、これ…。」
「ガールズバンドしばりのライブイベントだ。出てみないか?」

耳を疑った。
私たちは三年生、つまり受験生だ。

唯や私ならともかく…。
まさか澪が率先してこんなことを言い出すなんて思ってもみなかった。

「でも、これ…思いっきり受験シーズンじゃないか。二ヶ月後って…。」
「あぁ。でも持ち時間も少なめだし。新曲じゃなくて今までやった曲の中から選んで出ればいいと思って。」

確かに。
転換込みで30分っていう短めの持ち時間も今回ばかりは有り難い。



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 16:19:59.88 ID:COILw5zm0


「あぁ、私このイベント知ってますよ。」
「へ?なんでだ?」
「純が前にこのフライヤー持ってきてくれたんですよ。HTTで出たら?って。」
「そうなの?初耳だよ。」
「だって受験勉強忙しそうでしたし…。」
「そうだったのか。」
「はい。だから、澪先輩が言い出してくれてすごく、その、嬉しいです…。みなさんはどうですか?」

「……。」

賑やかだった部室が急に静かになる。
唯は、言うまでもなくやる気だろう。
なんの曲がいいかなーなんて言いながらやりたい曲を指折り数えている。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 16:23:25.39 ID:COILw5zm0


ムギを見る。
イタズラを思いついた子供のような表情をしている。

よし、決まり。

「やろうぜ。」

久しぶりに私達はバンドという形で話し合いをした。
選曲はあれがいいとか、それだとこの曲とノリが被るとか。
セットリストはこうしようとか、MCに澪も挑戦してみれば?とか。
もちろん速攻で断られたけど。
そんなやりとりすらも久々で、私達は笑い合った。


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28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 16:27:20.79 ID:COILw5zm0


私とムギの関係はあの日からあまり変わっていない。

たくさんの時間をムギと過ごした。
だけど未だに私の気持ちは変わらないままだった。

日を増すごとにどんどんと焦りを感じていた。
いつまで待たせるんだって、自分に苛立つ夜は増えていった。

「ねぇ、りっちゃん。」
「どうした?」
「明日、お買い物に行かない?」

ムギは『お買い物』が好きだ。
月に数回は必ず行っている。

でも大抵は何も買わずに二人で街をぶらぶらしておしまい。
こんなことを何度も繰り返して、ムギは楽しいのかな。

もしかしたら私が何かアクションを起こすことを期待しているのかも知れないとも考えた。
だけど結局、何も思いつかなかった。



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 16:32:02.11 ID:COILw5zm0


「あぁ、いいぜ。どこいく?」
「いつものところでいいわ。」

いつものところ、駅前のことな。

「あぁ、わかった。何時にする?」
「いつもの時間でいいわ。」

いつもの時間、これは朝の11時。
ちょっと街をぶらついて、一緒に昼食をとってまたぶらぶら。
それが私達のデートの『いつもの』。

果たしてこれはデートと呼んでいいのか、それはわからない。
だけどムギはなんだかんだで楽しそうだし、今はとりあえずそれでいいのかなと思っている。

そう、今日は大切な話があるんだった。

「なぁ、ムギ。ちょっと聞いて欲しい話があるんだ。」
「どうしたの?」

首を傾げるムギはいつ見てもやっぱ可愛い。



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 16:36:00.26 ID:COILw5zm0


「軽音部のメンバーにな…。」
「う、うん…?」
「私達のこと、話したんだ。」

怒るかな。
怒るよな。

ごめん。

「それは…どうして?」
「昨日、ムギは練習来れなかっただろ?」
「えぇ。家の用事で…。」
「い、いやそれはいいんだよ!えっと、そのときに…澪に聞かれちゃってさ。」
「聞かれたって、何を?」

焦っているような、泣き出しそうな、そんな様子で私を急かす。
そりゃ、そうだよな。怖いよな、ごめん。

「お前ら最近なんか変だ、って。だから、実は付き合ってるって言った。」
「……。」
「む、むぎ…?」
「どうして…?」
「え?」
「どうして、言っちゃったの…?」

やはり私はまずいことをしたらしい。



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 16:43:04.27 ID:COILw5zm0


「ごめん。澪達に、隠し事したくなくて…。」
「……。」
「…ごめんな。」
「……。」

ムギは何も言わなかった。
普段、私は人を怒らせるとヤバいと感じる。
だからなんとか取り繕ってその場をしのごうとする。

だけど今は違った。
怖かった。
勝手なことをしたせいで、ムギに嫌われてしまったら…?
そんな風に考えると、無性に怖くなって私も何も言えなくなった。

「……。」
「……。」

なんでだろうな。
これが澪や唯、他の親しい人達だったら…
ごめんって!なんて言って、半ば強引に許しを乞えるのに。

なんで、こんなに臆病になっているんだ。
ムギが私を好きだと言ったから?
なんか違う気がする。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 16:46:24.84 ID:COILw5zm0


「ねぇ、りっちゃん。」

思考がまとまる前にムギは私の名前を呼んだ。

「な、なに?」

かっこ悪ぃ。
どもってしまった。

「澪ちゃん達は、なんて?」

今にも泣き出しそうだ。
あぁ、そうか。
ムギは知らないのか、この話の結末を。
だからこんなにも不安そうなんだな。

「別に、知らなかったってビックリしてたよ。」
「それだけ?」
「いんや。」
「……。」

私を見つめるその視線が少し痛い。
続きを聞きたいんだろう、だけど怖いから聞きたくないんだろう。

私は構わず続ける。
早くこの話をして安心させてやりたいから。



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 16:52:43.88 ID:COILw5zm0


「あとな、怒られた。」
「え?」
「どうしてもっと早く教えてくれなかったんだ、って。すげー怒られた。」
「…!」
「唯と梓はおめでとうって言ってくれた。」
「そ、そう…なんだ…。」

すごく、嬉しそうだった。
信じられないといった様子で口元を両手で隠しながら、今度は嬉し泣きしそうだ。

問題は私だ。
この件に関して大きな罪悪感を抱いている。
それはムギのいないところで勝手に話をしてしまったということだけではなくて。

まだムギのことを「そういう意味で」好きになってはいないのに。
隠し事をしたくないという私の我侭を押し通して、
我慢できずに軽はずみに付き合っていることを話してしまった。

それが本当の罪悪感の正体だと思う。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 17:01:50.95 ID:COILw5zm0


「ムギ?」
「よかった…よかったぁ…!」

嬉しくても悲しくても結局泣くのか、お前は。
急にどうしようもない衝動に駆られてムギを抱きしめた。

ムギはしばらく私の腕の中で泣いていた。
得体の知れない充足感で満たされる。

これはなんだ?
気持ちの正体を探るように私はムギを抱く腕に力を込めた。
だけど結局わからずじまいだった。


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37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 17:07:42.14 ID:COILw5zm0



その日の夜。

ベッドに横たわりながら最近のことを振り返る。
先日、澪がイベントに参加しないかと言い出してくれたことをきっかけに
私たちはバンド活動を再開させた。

澪には感謝しなければならない。
昔の澪なら、バンドをやりたいって気持ちがあったとしても、あんなことは言い出せなかったと思う。
すごく勇気がいる提案だっただろう。

私ですら躊躇う、と思う。
自分がライブやりたいって言い出したせいで誰かが受験に失敗したら…なんてな。

周りを振り回したり巻き込んで何かをやる、なんてことが澪にも出来るようになったらしい。
あいつもあいつで成長してるんだな。
そう思うと嬉しくもあり、ちょっと寂しくもなった。

「勝手だなぁ、私。」

だけど、そんなこんなでバンドは順調だ。
セットリストも決まったし、演奏し慣れた曲ばかりだからそれぞれの負担も少ないだろう。
なんだか物足りない感じもするけど、それは仕方ないだろうな、うん。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 17:13:55.64 ID:COILw5zm0


「……。」

今日の、あの感覚はなんだろう。

思考がジャンプする。

ここで、私はムギを抱きしめた。

今までだってそんなことしてきた。

だけど、今日の感覚はいつものそれとは明らかに違った。

どうしてだろう、どうしてだろう。

私は告白されたあの日以上に自問した。

どうして?、と。

そういえば最近、ムギのことばかり考えている。

もちろん、好きになれるように努力するんだから、それは当たり前なんだけど。

じゃあムギに『もう考えなくていいよ』って言われたら…。

私はムギのことを考えないまま生きていけるのかな。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 17:19:58.71 ID:COILw5zm0


「……。」

明かりのついていない暗い部屋にも目が慣れてきた。

不意に隣にムギがいるんじゃないかという錯覚に陥る。

首を少し動かす、布がこすれる音が妙にうるさく感じる。

「…いるわけ、ないよな。」

何をやっているんだ、私は。

「阿呆らし、寝よ。」

そんな風に言い放ったくせになかなか寝付けない夜だった。


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41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 17:27:45.75 ID:COILw5zm0



「おーっす、待ったか?」

遠くから話しかける。
私は待ち合わせでいつもムギを待たせている。

「ううん、私も今来たところだから。」

振り返って、私の姿を見つけるとそう言って微笑んだ。
なんて幸せそうに笑うんだろう。
どうしてかわからないけど、今日のムギはとても可愛く見えた。

「そっか。あのさ、今日は行きたいところができたんだ。」

言いながらムギの手をとる。
そしてそのままコートのポケットに手を突っ込んだ。

「えっ…。」

少し恥ずかしそうに顔を伏せている。
ぶっちゃけ私もちょっと恥ずかしい。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 17:39:00.15 ID:COILw5zm0


「手、冷たいかなって、思ったから。こうしたら暖かくなるだろ?」

だけど、今日はそうしたい気分だったんだ。
傍から見たらちょっと阿呆みたいだけど、私たちはそのまま街を歩いた。

「ねぇりっちゃん、行きたいところって何処なの?」

目を輝かせながら質問するその姿はまるでわんこだった。
頭をぐしゃぐしゃっと撫でたくなったが、なんとか堪えた。

どうしたってんだ、私。

「えっとな、下見しようと思って。」

どうせこれといって行くところがないんだ。
今日のデートは下見を兼ねたライブ鑑賞。
それを伝えるとムギはすごく嬉しそうだった。

「りっちゃんが考えてくれたデートコース…うふふ。」
「バカ、大げさだって。」



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 17:50:22.94 ID:COILw5zm0


コツンと頭を小突いた。
ムギはいたっと嬉しそうに声をあげた。
叩かれて嬉しいなんて、変わってるなぁ、ムギは。

「りっちゃん、最近よく私のこと叩くよね。」
「えっ。」

もしかして、嫌だったのか?

「その調子よ。」

どの調子だ、ばか。


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47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 17:59:38.39 ID:COILw5zm0



ライブハウスに辿り着くにはそれほど時間はかからなかった。
フライヤーの地図がわかりやすかったお陰だ。

「へぇ、ここか。」
「今はリハーサル中かしら。」
「だな、よし。そこら辺で飯食おうぜ。」

場所を確認すると私たちは適当にファミレスに入った。
最近はこういう外食での出費がなかなか痛い。

「りっちゃんはどれにするの?」
「私はこれかな。」
「えっ、これだけ?」
「あんまお金ないし…ライブハウスに入るのだってお金かかるだろ?」

なんて貧乏臭いんだ、私は。
一緒にいる相手がムギなだけに、妙に恥かしく感じるぜ。

「…りっちゃん、ちゃんと食べないと大きくならないわよ?」
「お前、私のどこを見て言ってるんだ?こら。」

胸を凝視された。
最近、ムギは私にこういう冗談を言うようになった。
もちろん、イヤじゃない。
なんだか距離が近づいてきているのかな、なんて思うと嬉しくもなる。
私がムギを気兼ねなく小突けるようになったのも、きっとそういうことなんだろう。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 18:06:29.03 ID:COILw5zm0


「ねぇ、りっちゃん。これ押していい?」
「ん、いいぜ。」

ムギはいつも店員を呼ぶボタンを押したがる。
ピンポンと音が鳴ると一瞬満足気な顔をするんだ。

そうしてソワソワと辺りを見渡して店員がどこからくるのかチェックする。
ま、それをずっと観察する私も大概だけどな。

「お待たせしました。ご注文をどうぞ。」
「えーと、私はこれ。」

そう言って唐揚げセットを指差す。
なんかちょっと恥ずかしい。

「はい、かしこまりました。お客様は?」
「私も同じものを。」
「はい、かしこまりました。唐揚げセットを二つですね。」

ピッとメニューを打ち込む音が聞こえる。
そうしてすぐに店員がいなくなった。
さて、問いただそう、今すぐ問いただそう。



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 18:16:03.86 ID:COILw5zm0


「おい、ムギ。なんで唐揚げセットなんて…。」
「『同じものを』って言うのが夢だったの。」
「あほ。」

そう言って私は少し乗り出してムギの頭をまた小突いた。
夢ってなんだよ、夢って。

「15分もすればきっとテーブルの上は唐揚げだらけになるわね。」
「なんか馬鹿っぽいな。」

10分後。
見事に私達のテーブルは馬鹿っぽくなった。


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51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 18:26:20.37 ID:COILw5zm0



時間は4時半、ちょうどライブの会場時間だ。

「おぉ、ちょうどよかったな。」
「そうね。それじゃ、行きましょうか。」
「ん、だな。」

受付で料金を払う。
ワンドリンクと引換にできるチップを受け取る。

「……。」
「ムギ?どうした?」
「これ、よくカジノで見るチップよね。」
「ん、まぁそうだな。私はカジノには行ったことないけど。」

ムギはどういう環境で生きてきたんだろう。
たまにスケールがでか過ぎてついていけないことがある。

「じゃあ、自分でチップを用意すればここではドリンク飲み放題ね…!」
「多分バレないだろうけどやめような。」



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 18:33:43.67 ID:COILw5zm0


そんなやりとりをしながら扉を開ける。
開演は5時だからまだ会場は静かだ。

どんなバンドが出るんだろう。
出演バンドの書かれた小さな黒板を見つける。

「これが今日出るバンドか。」
「6バンド、ね。」
「あぁ。」

バンド名の雰囲気がてんでバラバラだ。
きっとオリジナル縛りのブッキングか何かだろう。

「あれ、これって…。」
「LOVE CRYSIS…マキちゃんのバンドじゃん。」

偶然ってすごいな。
っていうかこの時期にライブ活動してるのか。
気合入ってるなー、マキちゃん達。

「しかも一発目だな。よっしゃ、前に行こうか。」

ムギの手をとって走った。
ステージは少し高くなっていて、客席とステージはポールで隔てられていた。
そのポールに肘をかけて辺りを見る。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 18:42:25.93 ID:COILw5zm0


「なんていうか、いい雰囲気のところだな。」
「……。」

返事はなかった。
ムギを見ると、真剣にステージを見つめている。

こんな真面目な表情のムギ、あまり見たことがないかもしれない。
真面目というか、なんだろう…。
ちょっとカッコいいかも知れない。

「って、何考えてんだ、私。」
「え?今なんか言った?」
「っわぁぁ!?な、なんでもないなんでもない!」
「…そう?」
「そ、それよりも、マキちゃん達が終わったらちょっと話に行かないか?」
「そうね、久しぶりだものね。」
「あぁ。それに、ステージに立った人にどんな感じか、ハコの感想も聞きたいだろ?」

とっさに話を逸らした。
これでもかってくらい、ぎこちなく。

「……。」

さっきのムギの表情が頭から離れない。
なんだろう、妙に気になる。



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 18:48:26.06 ID:COILw5zm0


「まぁ、いっか。」

会場のBGMが徐々に小さくなる。
そして消えたかと思うと、違う曲が流れる。

どこかで聴いたことのある曲だな。
きっと、一年前のライブで聴いたんだ。
LOVE CRYSISのSEなんだろうな、きっと。

SEが大きくなるにつれて会場のざわめきが小さくなる。
みんな、今か今かと待っているんだろう。

最前列はいつの間にか熱心そうなファンでいっぱいだ。
はぐれてしまわないようにと、私はムギの手を握った。

そう、はぐれてしまわない為にだからな。
って…何に言い訳してるんだ、私は。
別に付き合ってるんだから手ぐらい繋いだっていいじゃないか。

ジャーン!!!
ジャッジャッジャー!

ギターの音に驚いて顔を上げる。
そこには一年ぶりに会うLOVE CRYSISの姿があった。



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 18:55:26.20 ID:COILw5zm0


「みんな、来てくれてありがとう。それじゃ、一曲目…いくよ…!」

涼しい顔で激しいドラムを叩くマキちゃんに見惚れてしまった。
ハイハットがぐわんぐわん揺れている。
バスドラがずんずん私の中に響く。
耳を劈くクラッシュシンバルの音も心地いい。

ピッタリと息の合った演奏。
みんなが堂々としていて…。
曲はオリジナル曲だろうか、むちゃくちゃカッコいい。

「すっげ…。」

間抜けな感想、だけど本当にそう思ったんだ。
それくらいカッコよかったんだ。
だけどちょっと悔しかった。
私達もこんな演奏したいって、ちょっとだけ対抗心を燃やしてしまった。



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58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 18:59:32.98 ID:COILw5zm0


「いやぁ…すごかったな!!」

私は興奮しながら言った。
できる事なら30分といわず1時間くらい演奏を聴いていたかった。

「そうね…。」

一方、ムギは元気がなかった。

「どうした?具合悪くなっちゃったか?」
「ううん、そんなことはないわ。ほら、友達のところ行こう?」
「あ、あぁ。そうだな…?」

その原因はわからなかった。
もしかしたら私の杞憂かもしれない。

帰り際だとファンの子にもまれてまともに話せないだろうから、
その前にマキちゃん達と話をしないと。

そんな風に考えていると、後ろからこんにちはと声をかけられた。
振り返ると、LOVECRYSISのベーシスト、アヤちゃんがいた。



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:02:46.20 ID:COILw5zm0


「おつかれ!いやぁ、すっげぇいい演奏だったよ!」
「そうですか?ありがとうございます!」
「私も、感激しちゃった。」
「いやー、あはは照れますね…あ、よかったら楽屋に来ませんか?」
「いいのか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。ここの楽屋、結構広いんで。」

私たちはお言葉に甘えて楽屋にお邪魔した。
通路の曲がり角、ムギの表情を盗み見た。
やっぱりどこか暗い表情をしている、ような気がする。


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60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:06:36.29 ID:COILw5zm0


通された楽屋は確かになかなか広かった。
部屋の奥の方、ソファに腰掛けている見覚えのある後ろ姿に話しかける。

「おーい、マキちゃーん!」
「…りっちゃん!」

私は駆け寄った。
ステージは暑かったのか、マキちゃんはタオルで汗を拭いていた。

「来てくれてたんだよね?ステージに上がってすぐに気付いたよ。」
「えぇ?あちゃー、バレてたかー。」
「あはは、そりゃわかるよ。」

久々に会ったマキちゃんは少しだけ大人っぽくなっていた。
だけど、笑った顔は相変わらずでちょっと安心した。

「で?別に私達のライブ観に来たわけじゃないんでしょ?」
「うお、なんでわかるんだ?」
「そりゃわかるって。だってライブの日程とか教えてなかったじゃん?」
「まぁな。だけどそれくらい調べるには私には朝飯前なんだよ。」
「いいから、で。どうしたの?」

さらりと冗談を躱されてしまった。
私はここに来た理由を説明した。



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:09:35.41 ID:COILw5zm0


「なるほど、あのイベント出るんだ?」
「おう、もしかしてマキちゃん達も出るの?」
「いいや。うちのギタボが受験勉強だからね。今日のライブで数ヶ月間活動停止なんだ。」
「なるほどな。あれ…?マキちゃん達は…?」
「大学なんて行かないよ。」
「あ、そうなのか。」
「嘘だよ。推薦決まってんの。」
「そういうわかりにくい嘘やめろ。」

まるで中学の時に戻ったようだ。
私は一歩下がって談笑を見守っていたムギの腕を引っ張る。

「うちのキーボードの」
「うん!覚えてるよ、ムギちゃんだよね?」
「はい、さっきはお疲れ様でした。」

よかった、いつも通りのムギだ。
さっきのは、私の気のせいだったのかな。
後で聞いてみよう。

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64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:14:28.43 ID:COILw5zm0



楽屋をあとにして、会場に戻る途中。
短い廊下で、気になっていたことをムギに問う。

「なぁ、ムギ?」
「なぁに?」
「さっき、怒ってなかったか?」
「……。」

やっぱり、か。
薄々は気づいていたけど、実際そうだったとするとちょっとショックだったり。

「私、何か悪いことしたか?」
「……。」

ムギは何も言わない。
自分で気付けということか。

「私が、マキちゃんと楽しそうに話していたから?」
「……。」

思いつくことを挙げてみた。
実際、これくらいしか心当たりはない。




65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:16:56.68 ID:wPqDq0K50

嫉妬するむぎかわいいよむぎゅ





66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:17:05.73 ID:COILw5zm0


「半分、当たり…かな。」
「えっ。」

しかし、正解したのは半分だという。
でも確かに演奏後には既に機嫌悪そうだったから、タイミングから考えてもおかしいよな。
…難し過ぎるだろ、この問題。
琴吹先生、正解を教えてください。

「怒っていたんじゃないの…私ね、不安になっちゃったの。」
「え…?」
「りっちゃんは、私のことをなんて…やっぱり好きになれないじゃないかなって。」
「え…。」

おい。
なんだよ、それ。

「意味がわかんない。何言ってるんだ?」
「りっちゃんの周りには魅力的な人が、たくさん居て…私なんかが、図々しいのかなって…。」
「はぁ…!?ふざっけんな!」

つい大声を上げてしまった。
だけどムギは怯むことなく、真っ直ぐ私を見つめていた。
睨みつけるんじゃなくて、ただただ真っ直ぐに私を見つめていた。

「…りっちゃん、私達…やっぱり別れた方がいいね。」
「…え?意味が、わからないってば。」



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:22:28.21 ID:COILw5zm0


展開の早さについていけない。
ムギは何を言っているんだ?

「え、だって…いつから?」
「え?」
「いつから、そんなこと考えてたんだよ…!」
「今さっきよ。やっぱり、私といたって…りっちゃんは幸せになれないと気付いたの。」
「何、言ってるんだよ…。」

なんだよ、それ。
ムギが、わからない。

「ムギは、私といて…幸せじゃないのか?」
「……。」

何を言ってるんだ、私も。
今はムギが私を幸せに出来るかって話だろう。
私といてムギが幸せか、は別問題じゃないか…。



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:27:04.13 ID:COILw5zm0


「りっちゃん…そういう聞き方、ずるい…。」
「……。」
「私が、りっちゃんと一緒に居て、幸せなのは…りっちゃんだって、わかってると思ってた…!」
「ごめん、そうだよ。…その通りだ。」
「私は…りっちゃんの『お荷物』に、なりたくないから…。」
「おい、ちょっと待てよ。お荷物ってなんだよ。」

無性に頭に来た。
それにしても、こんな狭い通路で痴話喧嘩なんて、主催者もいい迷惑だよな。
トイレのためにここを通りがかった人が気まずそうに、そそくさと個室に入っていくのを見てそう思った。

「だって、そうじゃない…!りっちゃんにはたくさん友達がいて、広い世界があって…!」
「だから言ってる意味がわかんないって言ってるだろ!?」
「私だってわからないもん…!」
「んなっ…!そ、それじゃわかるわけないだろ!?なんでムギ自身ですらわからないことが」

「わかってよ!!」

「……!?」

思わず黙ってしまった。
ムギがこんなに大きい声をあげたところを初めて見たから。
ムギが、また…泣いているから。

私は…。
何度ムギを泣かせれば気が済むんだ。



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:31:36.68 ID:COILw5zm0


「わかってよ…、私ですらわからないことも全部、全部…りっちゃんに気付いて欲しいよ…!」
「ムギ…。」

理由はわからないけど、また無性にムギを抱き締めたくなった。
この衝動には勝てなさそうだ。

「……。」

だけど、出来るだけじっと堪えた。
有耶無耶にして先に進みたくないから。
二人の間に、曖昧なものを挟みたくないから。

だから、私はムギと向き合ったまま、ムギの名前を呼んだ。

「なぁ、ムギ?」
「な…な、にぃ…?」

泣きじゃくっているせいでまともに喋れないんだろう。
やっとの思いで声を出しているのが伝わる。



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:38:14.50 ID:COILw5zm0


なんで、今なんだろう。

どうしてこんなところで…。

私は、ムギが好きだ。

どうしょうもなく、いつの間にかムギに惹かれている。

それに今、気付いた。


「あのさ、私…。」
「……?」

「ムギのこと、好きだ。」
「え…?」
「私には広い世界があるとか、わかって欲しいとか、ムギの言ってることの意味はよくわからないけど。」
「……。」

あ、今ちょっと不機嫌そうな顔した。
ムギはすぐに顔に出るよな。

今から告白するからな、よく聞いてくれ。
あ、やっぱりよく聞かなくていい、恥ずかしいから。
枝毛の手入れの片手間にでも聞いてくれ。



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:43:31.45 ID:COILw5zm0


「だけど、ムギが好き。これだけはハッキリと言える。」
「で、でも…。」
「なんでだろうな…今、気付いたんだ。この気持ちに。」

可愛いとか、カッコいいとか、そういうのじゃなくて。
ただ、ムギが愛しいと、そう思ったんだ。

それはムギの見せた涙のせいで。
二人が今まで重ねてきた時間のおかげで。
このところずっとムギのことを考えていた私の脳みその終着駅で。

とにもかくにも、私はムギが好きなんだ。
きっと、今この瞬間、はっきりと私はムギを愛したんだと思う。

上手く言えないけど、今日ここに来なければ、私はまだムギのことを好きになれずにいたと思う。
さっきムギと口論をしなければ、まだ…。



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:46:26.59 ID:COILw5zm0


「嘘じゃない?」
「嘘じゃない。」

「本当に?」
「本当に。」

「私が、好き…?」
「あぁ、大好きだ。」

しばらくこんなやりとりを繰り返した。
私達が我に返ったのは、用を足し終わった人に後ろから声かけられてからだった。

ムードもへったくれもない。
それをムギに謝ると、りっちゃんらしくていいと思う、
なんて言われたからまた一つ小突いておいた。


-----------

-------

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76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:50:38.21 ID:COILw5zm0


そして帰り道。
私たちは手を繋いで歩いていた。

「ねぇ、りっちゃん。」

呼び止められて、視線をムギに移した。
どうした?そう言うように。

「あのね、聞いて欲しい話があるの。」
「なんだよ、改まって。」

ムギは少し緊張した様子だった。
握っていた手に力が入るのがわかる。
一体どうしたっていうんだ。

「私ね、みんなと…りっちゃんと同じ大学行けないの。」
「…は?」

一難去ってまた一難。
さらに今回は話のスケールがデカすぎる。




77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:51:05.42 ID:I5BRKfJS0

ジャスティンビーバーかとおもって



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:54:43.72 ID:qnch12vJ0

また?
ムギが海外に行くオチの律紬がちょっと前にあった気が・・・



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:56:29.21 ID:dCPElNUM0

>>78
クリスマスのヤツだな
だがまだ俺はイケメンりっちゃんが阻止してくれることを期待してるぜ





80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:55:25.19 ID:COILw5zm0

>>78
しらん



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:55:12.47 ID:COILw5zm0


「海外にね、行かなきゃいけないの。」
「……。」

何を…言っている?

「三年後、私は結婚するんですって。」
「……。」
「すごいでしょ?私のことなのに、私が聞かされたのもこの間なの。」
「むぎ」
「おかしいわよね。どうして自分の選んだ好きな人と一緒にいることすら許されないのかしら。」
「ムギ!!」

淡々と呟いているようだったが、私はムギの目に光るものを見た。

「それ、どういうことだよ…!」
「…今日、会ったらすぐに話そうと思ったの…。」
「……。」
「だけどね、やっぱり…りっちゃんの顔見たら…言えなく、なっちゃって…それで…。」
「……なんだよ、それ。」

話が、色々飛び過ぎじゃないか。



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 19:57:28.46 ID:COILw5zm0


「実は、こんなことが起こる予感はしていたの…でも、私は、りっちゃんが好きだから…。」
「ムギ…。」
「だから、あの日…勇気を出して、告白できたの…。」
「……。」

知らなかった。
そんなことを考えて私に気持ちを打ち明けたなんて。

脳天気な自分に腹が立つ。
私はムギの話を聞きながら拳を強く握りしめた。

「私ね、お父様に…初めて反抗したの…好きな人がいるって…だけど、もう決まってしまったことだから、どうにもできないって…。」
「そ、そんなのおかしいだろ!ムギの人生はムギが決めるべきだ!」
「私の世界は、りっちゃんの世界ほど広くないの…。」
「…!じゃあムギはそれを受け入れるのかよ!」
「……。」

強く言いすぎてしまった。
ムギが悪いわけではないのに…。



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 20:00:41.31 ID:COILw5zm0


「私は…ムギが好きだ。遅くなったけど…今なら本当にムギのことが好きだって胸を張って言えるよ。」
「…りっちゃん。」
「私は…ムギに、行って欲しくない。」
「……。」
「だって、あんまりじゃないか…そんなの…。」
「……。」
「……。」
「ごめんね…。」

ムギは謝りながら、子供みたいに泣きじゃくる私を抱き締めた。
抱かれたまま、温かい胸の中で私はまた泣いた。
私を抱きながら、ムギもきっと泣いている。

ムギだって、甘えたいハズなのに。
ここ一番でムギを甘やかしてやれない。
私はなんて弱いんだ。

そんな私に、泣かないで、なんて声をかけてくれた。

優しくて強いムギが好きだと、また強く想った。
出来れば、いつまでも二人でいたい、そう強く願った。


----------

------

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86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 20:03:45.87 ID:COILw5zm0



その日の夜。
また寝付けなかった。
二日連続での寝不足は免れないようだ。

「ムギ…。」

私はやはりムギのことを考えていた。
卒業と同時に、ムギは海外に行ってしまうらしい。

そして、今はまだ顔も知らない十も歳の離れた男と結婚させられるらしい。
こんなことがあっていいのか。

ムギが言っていた。
私の世界は広くていいね、と。
今ならその言葉の意味も痛いほどにわかる。

そんなに『私の世界』ってやつがいいなら。
連れ出してやりたい。



89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 20:08:47.57 ID:COILw5zm0


「……。」

でも、ムギは海外に行くと決めた。
もう、きっと…何をしても今更なんだろうな。

ムギだって、私のことが好きだ。
私も、今日やっと本当の意味でムギと向き合えた気がする。

これからだって、思ってた。

「なのに、なんだよ…。」

何を考えても、どんな風に考えても。
まとまらなかった。

いつの間にか寝ていた。
夢の中でもムギのことを考えていた、ような気がする。
夢の中で、夢の中で…。


--------

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90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 20:12:53.39 ID:COILw5zm0



「新曲がやりたいです、先生…!」
「はぁ?」

唯が突拍子もなく、とんでもないことを言い出した。
ライブまであと一ヶ月くらいってところで、新曲がやりたいだと…?
コピー一曲くらいなら余裕で間に合っちゃうじゃないか、やめてくれ。
そんなことを考えていると澪が口を開いた。

「新曲って…今回は今までやった曲の中で」
「わかってるよ。でもさ、今までやった曲だけだったら、もうほとんど完成しちゃってるでしょ?」

確かに、唯の言うとおりだ。
時間も案外使い分けが出来ているし、この調子なら新しい曲をやるのも問題なさそうだ。
ただし、コピーに限る。

「唯、気持ちは分かるけど、今から作詞して作曲して…っていうのは流石に厳しいぞ?」
「そうだな。私も落ち着いて歌詞書けないし…。」
「うん!だから、コピーとか、どうかな?」

まさか唯からそう提案してくるとは。
私たちは意外過ぎて声が出なかった。



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/04(火) 20:14:47.61 ID:COILw5zm0


「私は構いませんけど、先輩達はどうですか?」
「うーん、実は私もちょっと物足りないなーとは思ってたんだよな。」
「一曲くらいならいいんじゃないかしら。どう?」

そんなこんなで私たちは一曲コピーをやることになった。
といっても転換込みの30分だ。
MCを入れると出来て大体4曲といったところか。
そんな負担にはならないし、みんな問題ないだろう。

やっぱりバンドは楽しい、と。
打ち合わせの途中、そう思った。



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