SS保存場所(けいおん!) TOP  >  日常系 >  いちご「ジュリエット」

お知らせ

SS保存場所は移転しました。
現在けいおん!関連の更新はしていません。
今後更新するかは未定です。
SS保存場所






いちご「ジュリエット」 【日常系】


http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1295886950/l50





1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 01:35:50.03 ID:qYq0mCqr0

代理





2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 01:38:05.24 ID:tXOdkwh40

スレ立てサンクス

私の名前? 若王子いちご。

「いちご」なんて痛い名前だよね。自分でもわかってる。苗字とも合っていないし、ほんとうに変な名前。

名前のせいでバカにされたことは幾度かある、その度に私は傷ついて、泣いた。好きでこんな名前にしているわけじゃないのだ。

自己紹介とかが苦手だった。自分の名前を人前で言うのが苦痛だった。いちご、なんて、私のキャラじゃない。ダサい名前。

こんな変な名前を付けた両親を、私は憎んでいた。私は加南子、とか単純な名で良かったのだ。若王子加南子、何かイケてる。

だから、私がやさぐれたキャラを演じているのは、両親へのささやかな復讐だった。

いちごという名前とは似つかわしくない言動をとるようにした。出来るだけ冷たく、そして薄情になれ、と自分に戒めた。





3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 01:40:01.68 ID:tXOdkwh40

――はず、なのに。

高校生活初日、一年生の教室では自己紹介があった。私の大嫌いな自己紹介だ。

私の苗字は「わ」から始まるので、出席番号はいつも一番最後だった。

自己紹介は決まって出席番号順だから、きまって私がトリを飾る。クラス中の嘲笑が目に浮かぶ。

いちご、という名前がトリなのだ、笑わない奴はいないだろう。憂欝。

数分して、私の自己紹介の番。立ち上がり、屈辱に震えながら自己紹介をした。

いちご「私は若王子いちごです、……一年間よろしく」

出来るだけ冷たい声を心がけた。

すると、クラスの中の何人かが、ぷっと苦笑するのが聞こえる。私は歯噛みしながら、席に座った。



4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 01:41:56.81 ID:tXOdkwh40

朝のホームルームが終わる。周りの女子は早速中のいい女子を見つけて、談笑しあっている。その光景を横目で眺めていると――ふと、彼女たちに気づいた。

一人は黒髪ロングの女の子。すらりとした体躯。彼女の机の横には、カチューシャをした女の子が立っていた。茶髪のセミロング。

彼女たちはちらちらと、私の方を見てきていた。視線を感じる。私の名前でも、嘲笑っているに違いない。

?「――あの子って、いちごって名前だっけ?」

カチューシャの女の子が、私を指差しながら言ってくる。目が合わないよう気をつけながら、私は彼女たちを横目で見続ける。

席の距離が離れているため、彼女たちは私の視線に気づかぬまま話を進めた。

?「あぁ、さっきの自己紹介聞いていなかったのか? 律」



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 01:43:40.40 ID:tXOdkwh40

カチューシャの女の子は、律、という名前らしい。いちご、なんかよりはかなりましな名前だ。

律「いやー、何か眠くてな。でも、いちごかぁ……、珍しい名前だよな。澪はどう思う?」

黒髪ロングの女の子は、澪というのか。なんとなく、その名前の響きが素敵だと思った。

澪「可愛い名前だと思うよ、うん」

…………………………。

え?

私は耳を疑った。

可愛い? いちごという名前が? そんなこと生まれて初めて言われた。不覚にも、胸が高鳴る。



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 01:45:23.39 ID:tXOdkwh40

澪「孤高って感じがして、何か格好いいし」

律「へぇ、澪らしい……。じゃああの子は?」

澪「たしか……紬って名前だっけ?」

その後の話には耳を貸さなかった。ただ、彼女が……澪に言われたことの余韻が、何度もよみがえる。

格好いい。孤高。

その台詞が胸に響いた。

今まで味わったことの無い感情が、昂ぶる。

体が熱くなるのが、わかる。

いちご、という名前がちょっとだけ好きになった。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 01:46:56.54 ID:tXOdkwh40


いちご(――――…………あぁ、夢か)

まわりを見やる。エリとかいう女子がアカネとかいう女子と会話している。

姫子とかいう不良女が教壇のところでヤンキー座りをしている。

信代とかいうデカ女が、大声をあげて笑っている。

見慣れた三年生の教室。机に突っ伏したまま私は寝ていたらしい。時計を見る。昼休みはまだまだある。

もう一眠りでもしようかな、そう思いながら、私は教室の後ろに目線をやる。

軽音部の面々と生徒会長が談笑していた。その中に、彼女の姿を認めた。見紛うことない、滑らかな黒髪――。



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 01:48:30.58 ID:tXOdkwh40

いちご(澪……笑っている)

いちご(何の話ししてるんだろう)

律が澪に小突かれていた。金髪眉毛はそれをなだめている。天然娘は朗らかに笑っていて、生徒会長は無表情だった。

いちご(……楽しそう。あの中に入りたいな)

いちご(でも、私は孤高だから…………、クールでいないと、格好よくいないと)

いちご(…………綺麗な笑顔。もっと近くで、あの澪の笑顔を見てみたい…………)

私は首を振った。雑念を払う。変なことを考えてはいけない。私は『孤高』なのだ。

いちご(でも…………せめて、ご飯くらいは一緒に食べたい)

いちご(………………あぁ、私変だ。孤高でいようと決めたのに、澪のことを見ていると気持ちが揺らいじゃう)

いちご(寝よう…………それがいい)

そして私は、再び目をつぶった。



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 01:50:05.01 ID:tXOdkwh40


律「わ、私がジュリエットはありえないだろ! ……例えば、いちごとか! 御姫様見たいで可愛いし!」

あのとき、私が『ジュリエット』になりたい、と希望していれば。

私は澪と、もっと仲良くなれたのだろうか。

でも、私は孤高であるべき存在だから。

私の愛する人は、私が孤高であることが格好いい、と評してくれたから。

いちご「え? やだ」



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 01:51:44.36 ID:tXOdkwh40

そう、答えてしまった。

律「えぇー……」

ほんとうは、ジュリエットを演じたかったのだ。

澪と一緒に、壇上で熱い抱擁を交わしてみたかった。

でも私は、孤高であることを優先した。

もしも、時間を戻すことが出来るなら。

ほんの数ヶ月前に戻りたい。

文化祭の役決めをしているあのころに戻って、ジュリエットになりたいと言うのに。




15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 01:53:33.67 ID:tXOdkwh40

教師「おい、若王子。起きろ!」

男の声で、私は眼を覚ました。

また、深く眠っていたのか。授業はもう始まっていたようだった。黒板を見る。訳のわからない数式が羅列されていた。

教師「……ったく。居眠りするんじゃないぞ」

いちご「……はい」

孤高が聞いてあきれる、と私は思った。こんなヘマを犯すなんて。くすくすと、どこからか笑い声が聞こえた。

ため息。男性教諭は黒板に向きなおり、再び数式を描いていった。私は教室の壁に貼られたカレンダーに目をやる。

もう、二月か。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 01:55:22.08 ID:tXOdkwh40

三年生のほとんどが受験をする中、私は進学ではなく就職を選んだ。

高卒は不利、とか聞いているが知ったことではない。大学でまた勉強をするなんて、まっぴらごめんだ。

高校を卒業したら働くつもりの私には、もう、勉強など必要ないのだ。出席日数も足りているのだから、卒業式までサボっても何も言われないだろう。

それでも学校に来ているのは、澪がいるからに他ならない。

くだらない、と私は思う。

彼女が私に好意を抱いていないなんて、わかりきっていることなのに。

私は何かを、まだ期待している。



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 01:57:06.84 ID:tXOdkwh40


放課後になると、そのまま帰宅する生徒が大半だった。二次試験というものがあるらしい。ご苦労なことだ。

軽音部の面々は、そのまま部室へと向かったようだ。彼女たちも受験はあるはずなのに、余裕を感じる。

遠くの方で、今日のおやつはシュークリームよという声が聞こえる。金髪眉毛のものだろう。

いちご「楽しそうだなぁ………………」

ウカツ。気付いた時にはもう遅い。声に出してしまっていた。

まだ教室にいた何人かの生徒が、私の声に気づいて、こちらを見てくる。

猛烈に恥ずかしくなって、私は学校を出た。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 01:58:31.70 ID:tXOdkwh40

その日は曇りだった。昨日から天気は変わっていない。灰色の空。灰色の世界。

コンビニの前を通ると、その店舗の前に大きな垂れ幕がかかっていた。

『バレンタインフェア 実施中!』

赤色の紙に、白抜きの文字。

いちご(バレンタイン……)

いちご(今日は2月11日…………あと3日か)

いちご(去年も一昨年も、澪の下駄箱の中にチョコ入れたっけ…………、私が入れる前から、たくさんチョコが入っていたけど)

いちご(人気者なんだよね…………)



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:00:46.92 ID:tXOdkwh40

孤高、という言葉を思い出す。

私には似つかわしくない言葉だ、とつくづく感じる。

いちごという名前以上に、私には相応しくない形容。

私は誰よりも、甘えたがりなのだ。それを隠しているだけで……。

いちご(……今年も、チョコ渡そうかな)

いちご(下駄箱に入れるとかじゃなく、直接……)

いちご(手渡したいけど…………変に思われたら嫌だし……)

コンビニの前で、私は立ち続けていた。垂れ幕の文字を見ながら考える。

いちご(今年も結局、何の返事もなくバレンタインが過ぎ去るのか……)

いちご(………………まぁいいや。チョコは買っておこう)

孤高なはずの私が、チョコ一つでウジウジ悩んでいるなんて、澪に見られたら幻滅されるだろうな。

そう自嘲しながら、コンビニに足を踏み入れた。



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:02:17.78 ID:tXOdkwh40

店員の機械的な「っらっしゃあせー」という台詞を聞きながら、チョコが売られているところに向かった。

包装されているはずなのに、甘いにおいがする。チョコのにおい。香ばしい。

いちご(甘いもの好きそうだよね……澪って)

いちご(だからビターチョコとかは避けて……、あ、ホワイトチョコでいいかな)

いちご(下駄箱の中に入れても……食べてもらえないだろうし。他の子も下駄箱の中に入れているしなぁ)

いちご(やっぱり、手渡しした方がいいのかな…………)



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:03:25.10 ID:tXOdkwh40

いちご(でも、私の孤高ってイメージが壊れてしまう…………)

いちご(………………いいかな、別に。もう高校生活最後なんだし)

いちご(ちょっとくらい大胆になってもいいよね)

よみがえる、澪の笑顔。今日の休み時間見た、あの自然な微笑み。上品で、綺麗で……。

つい、私の顔も緩んでしまう。

いけない。せめてバレンタインまでは、孤高でいよう。

格好いいと言われた、孤高の私のままで。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:04:56.49 ID:tXOdkwh40


翌日も、曇っていた。一週間ほどこの天気が続くらしい。

目ざましテレビでそう言っていた。バレンタインの日には雨まで降るかもしれないという。

天気の神様はどうやら、空気が読めないみたいだった。

昨日買ったチョコは、コンビニで包装してもらったまま、冷蔵庫に保管してある。

自分でも、気が早いのはわかっている。

いちご(明後日が、バレンタインか……)

高校最後のバレンタイン。

そう意識するだけで、胸が痛むのはなぜなのか。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:06:35.96 ID:tXOdkwh40

私が学校につく時間は、きまってHRが始まる直前だ。今日も、私が教室に入るなり朝のHRを告げる鐘が鳴った。

自分の席に座った瞬間、その異変に気付いた。

いちご(……澪が、いない?)

欠席だろうか。

不安になる。

内心の動揺を悟られないように、冷静な表情を作る。

そのとき教壇の上で、女教師が口を開いた。

さわ子「えー、秋山さんは、風邪により欠席です」

天気の神様だけじゃなく、病気の神様まで空気の読み方を知らないようだった。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:08:36.39 ID:tXOdkwh40

その日、何があったか覚えていない。

ただ空虚に時間だけが経過していって、気付いたら、放課後になっていた。

軽音部の面々と生徒会長は、お見舞いに行かない? とかいう話をしていた。そこには二年生のツインテールの子もいた。

言うまでもなく、澪のお見舞いの話だろう。

私も行きたかったが、いかんせん、澪の家を知らなかった。私の恋は、一方的すぎる想いにすぎないのだ、ということを自覚させられた。

いちご(胸が苦しい……)

いちご(心配だなぁ……)

軽音部の面々と生徒会長が教室を出ていく。彼女たちが向かった先は音楽室ではなく、校舎の外だった。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:09:55.31 ID:tXOdkwh40

付いていこうか、と私は考えた。

でも、いきなり行っても迷惑になるかもしれない。

それに、と思う。

私が澪を好いているだけで、澪は私のことなど見てくれていないのだ。

私は軽音楽部の一人でもなければ、クラスメイトと言えるほどの間柄でもない。

ただ、澪のことが好きな人。

二年も前の時に、名前が可愛いって言われて、孤高であることを格好いいって誉められて、以来澪を好きになった一人の女の子。

それが、私。若王子いちご。



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:11:28.98 ID:tXOdkwh40

私は変な名前を授けやがった両親に、並々ならない憎悪を持っている。

でも、この名前のおかげで、澪に恋慕を抱くことが出来たのだとしたら――。

それはとても幸せなことだ、と思えた。

私は孤高の女の子を演じていた。そして演じている。今この瞬間も。

ほんとうは、孤高なんかじゃない。甘えんぼなのだ。誰かとずっと一緒にいたいのだ。一緒に笑いあって、一緒にご飯を食べたりしたい。

名前という劣等感が、誰かと関わるのを躊躇わせていただけで。

名前で笑われたりするのが恐くて。

臆病になって、やがて、ひとりになった。

けれど、彼女は私の名前を可愛いと言った。

孤高で孤独な私を見て、そこに格好よさを見出してくれた。

彼女なら、私のことを受け止めてくれるんじゃないかと。

私が澪のもとに行って悪い理由があるだろうか?

いや、ない。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:13:06.81 ID:tXOdkwh40


外はまだ曇っていた。晴れるわけがないと知っているのに、晴天になるのを望んでいる。

私は軽音部の面々の後ろを追った。彼女たちはきっと、澪の家に向かうはずだ。

数分後、予想通り彼女たちは一軒の民家に入った。玄関より中に入って行くのを眺めた後、私はその家の表札を見る。

『秋山』

いちご(……澪の家だ)

いちご(よし、大体の道のりは覚えた……あ、でも今行くと律とか生徒会長とかと鉢合わせに…天)

いちご(時間、ずらして行こうかな。うん、そのほうがいいよね)

いちご(どこかで時間つぶそうかな……)

いちご(バレンタインまでには治っていてほしいな……、風邪ならすぐ治るよね、きっと)



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:14:44.95 ID:tXOdkwh40

ふと、自分を客観的に見た。

いちご(あぁ……駄目だ、私。全然孤高じゃなくなっている)

いちご(行動も何もかも、全部感情的になってる……)

いちご(よく考えたら、家の場所が分かっても入れてくれるかどうか…………。それほど……仲好くはないんだし)

つきん、と心が痛んだのは気のせいではあるまい。

いちご「あぁ……何かお見舞いの品持っていけば大丈夫かも……」

ちょうどいい時間つぶしにもなるし。

そう思った私は、コンビニを求めてその場から離れた。




33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:16:07.55 ID:tXOdkwh40

品物を選ぶのに、三十分もかかってしまった。

何を買えばいいのかよくわからず、結局、カロリーメイトを持っていくことにした。四本入りの奴だ。

秋山家のインターホンを押す。さすがに軽音部の面々はもう帰っているだろう。

?『はい? どちらさまですか』

その声は、聞き覚えのあるものだった。

いちご(……澪の声)

澪「あの、新聞とかは要りませんので……」

いちご「あ、その、お見舞いに来ました、若王子いちごです」

何故か敬語になってしまった。澪の方も敬語だったからだろうと思うことにした。




34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:17:32.60 ID:tXOdkwh40

私は澪の部屋に招かれた。熱も下がってきていて、明日には治ると医者に言われているらしい。

私はその澪の言葉にそこはかとなく安堵した。

澪「いやぁ、それにしても、いちごが来てくれるなんてなぁ」

気恥ずかしさを覚える。

いちご「……その、受験まであと少しだから、心配になった」

言い訳するような口調で、私は澪に言った。

冷たい口調になってしまったのが、少し悔やまれる。

澪から、ありがとう、という返答が一つ。



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:19:22.62 ID:tXOdkwh40

いちご「あ、これ、お見舞いの品みたいな……」

す、とカロリーメイトを手渡す。フルーツ味。

澪「いいのか? ありがとう」

受け取ってもらえた。

澪「昨日の夜くらいに高熱が出てさ、一時はどうなるかと思ったけど、受験には間に合いそうでよかったよ。一日落としたのは痛いけど」

言いながら、澪は机の方を見やった。私も視線をそちらに移す。勉強道具がひろげられていた。

いちご「……どこの大学受けるんだっけ?」

澪「N女。いちごは……?」

普通に会話していることが何だか可笑しくて、笑いを噛み殺しながら、私は「就職」と答えた。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:20:52.84 ID:tXOdkwh40

澪「へぇ、高校卒業と同時に働くなんて、親孝行だな」

親孝行。そのフレーズが意外で、私は吹き出してしまった。

いちご「そうでもない。私はただ、勉強がしたくないだけ」

悪い気分では、なかった。

私は部屋中を見渡す。と、一点で視線が止まった。

見覚えのある豪奢な衣装。中世の貴族が着るような刺繍の服が、ハンガーでつるされていた。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:22:41.31 ID:tXOdkwh40

いちご「あれって……ロミオの服?」

その衣装を指差し、尋ねる。

澪「あ? ああ。うん。文化祭の時のね」

澪が遠い眼をする。

いちご「……あの時の澪、格好良かった」

澪「そうか? 何かそう言われると恥ずかしいな」

いちご「何か、覚えている台詞ある? あの劇の時ので」

そう尋ねる気分になったのは、単なる気まぐれだろうか。

澪「ああ、うん。一つだけ、印象に残った台詞なら」

いちご「どんなの?」



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:24:25.54 ID:tXOdkwh40

澪はすぅ、と深呼吸した。

澪「愛に導かれてやってきました、案内人などいません。しかし、あなたがどれほど離れていようと、
  
  そこがはるか海に洗われている広々とした岸辺だったとしても、私はあなたのような宝を見つけて旅に出ますよ」

すらすらと紡いで見せた澪に、私は羨望のまなざしを向ける。すごい、と思えた。

ジュリエットになりたい、とあの時言っておけばよかった。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:25:46.35 ID:tXOdkwh40

澪の口から、あの場所で、この台詞を生で聞けたのだ。

澪「何か、今思うと大仰な台詞だけどさ、ロミオになり切っている時は、金言に感じられたんだ」

感慨深そうに、澪が呟く。

私はジュリエットじゃないけれど、その言葉の重みが伝わってきた。

〝愛に導かれてやってきました〟

私も、愛に導かれてやってきた。

愛? それはあまりにも一方的な片想いだけど。

いちご「……素敵な台詞だった」

ジュリエットになり損ねた私は、目の前のロミオに向かってそう答えた。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:26:35.95 ID:tXOdkwh40

異変は、私がそろそろ帰ろうかな、と立ちあがったときに起こった。

窓の外から、音。ぽつり、ぽつり。音は大きくなっていく。ざぁ……ざぁぁぁぁ……。曇り空が崩れた。シャワーのように、雨が降り始めた。

澪「うわ、ついに雨が降っちゃったか……。天気予報では明日とか明後日に振るって言ってたのに……」

いちご「……あ、私傘持ってきていないや」

澪「あ、家のでよかったら、貸すけど」

断る理由はなかった。

紺色の傘が手渡される。重い。男性用の傘だろうか。

澪「ありがとう、今日はお見舞いに来てくれて」



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:27:58.47 ID:tXOdkwh40

いちご「ううん、どういたしまして」

あ、そうだ。と私は澪に言う。

いちご「2月14日の放課後……四時半くらいかな。三年二組の教室にさ、来てくれない?」

私は、笑ってみることにした。上手く笑えている自信がない。

澪「――え?」

いちご「渡したいものがあるんだよね」

それだけを言って、私は秋山家を出た。




42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:29:30.50 ID:tXOdkwh40

雨は12日から13日まで降り続いた。14日の今日はすっかり晴れ模様で、天気予報は信用ならないと痛感した。

朝から私は落ち着かなかった。それは何故か? きまっている。

放課後になるまでは、それほど時間はかからなかった。四時半になるまでなんて、あっという間だった。心の準備は出来ていないと言うのに。

そういえば、澪や他の軽音部の面々は、もう少しでN女の試験があるらしい。

澪がN女に合格したら、会う機会が少なくなってしまう。それ以前に会えるかどうかも怪しい。それが、残念でならなかった。

〝しかし、あなたがどれほど離れていようと、そこがはるか海に洗われている広々とした岸辺だったとしても、私はあなたのような宝を見つけて旅に出ますよ〟

ふと、その台詞を思い出す。

いずれ、会えるだろうか。

別れてしまった後も、十年後か二十年後か、もっと後。ふたたび澪に逢うことはできるだろうか。

きっとできる。そうに違いない。逢えなかったら、こちらから逢いに行ってやろう。あなたのいる場所が遠く離れていようとも。

この想いを伝えるために。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:31:07.49 ID:tXOdkwh40

教室の扉が開く。

澪がいた。

澪「こ、この前言われたとおりに来たけど……」

澪の顔は少し赤い。私の顔もそうかもしれない。

私は澪に歩みよる。

いちご「ありがとう。来てくれて」

そして、私は言うのだ。

いちご「あのさ、どうしても食べてほしくて――――」

まだ想いは伝えない。いずれ、その時が来たら伝えたい。今、この時は、少しでも澪と一緒にいよう――。

私はホワイトチョコレートを手渡す。澪は、ゆっくりと受け取ってくれた。まだら模様の包装紙のかかった、一枚のチョコ。

その味は、とてつもなく甘いに違いない。

                              終わり




44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:36:05.59 ID:QVtuP2FN0


もっと読みたいその後の話とかないの?



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:44:26.86 ID:K/4bXxy5O

おつ



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:51:45.79 ID:qYq0mCqr0

おつおつ



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 02:53:26.53 ID:PkeogvG/P

素晴らしい
まっさらな先が待ち遠しい話だな



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 04:19:37.56 ID:SceB6Jak0

姫子を不良扱いしたことを除けば珍しいカプで面白かった
姫子は見た目はアレだが礼儀正しくて人情に厚い子なんだよ



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 04:50:25.47 ID:dty0Vr1eO

乙乙
すごく良かった



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/25(火) 05:26:39.82 ID:aSoAH+O10

おつ
珍しいな





関連記事

ランダム記事(試用版)




いちご「ジュリエット」
[ 2011/01/25 10:51 ] 日常系 | 澪いちご | CM(7)

コメント(アンカー機能)
●>>1と半角で書き込むと>>1と記事へのアンカーが生成される。
●*1と半角で書き込むと1とコメントへのアンカーが生成される。
上記の2つのアンカーが有効なのは該当記事のみ。

タイトル:
NO:632 [ 2011/01/25 12:03 ] [ 編集 ]

この終わり方が最高とはいえ、この作者の書く付き合い始めた後の二人の話をどうしても読んでみたい
ホワイトチョコみたいに起伏も何もなくひたすら甘いやつ

タイトル:
NO:643 [ 2011/01/25 18:18 ] [ 編集 ]

何だこれ…近年まれにみる最良SS

タイトル:
NO:644 [ 2011/01/25 18:28 ] [ 編集 ]

素敵な文章でした!

タイトル:
NO:658 [ 2011/01/26 20:35 ] [ 編集 ]

つか律いちご澪いちご、しまいには梓いちごまであって唯いちごってないんだ?
アニメや原作だと律と唯しか接触してないのに唯いちごや紬いちごがなくて澪いちごや梓いちごってどーよ?

タイトル:
NO:850 [ 2011/02/07 19:16 ] [ 編集 ]

地の文が下手くそ過ぎて読む気になれなかった。
今年、最強の駄作だ。

タイトル: 
NO:2594 [ 2011/06/16 16:25 ] [ 編集 ]

↑なら代わりに書いたらぁ?

タイトル:
NO:3524 [ 2011/08/10 20:09 ] [ 編集 ]

いいねこれ
批判するぐらいなら自分で書けよ

コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

サイト関連
メール ツイッター 最新記事一覧(30件)
ユーザータグ 検索

U:
P:
色々変更
好みのカラーコードをどうぞ

記事の背景色変更


本体の背景色変更


名前の色変更
IE8:重
火狐4.01:軽
chrome:軽


広告4
広告5
広告6