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唯「寄らば大樹の陰」#前編 【非日常系】


http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1296643516/l50




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 19:45:16.70 ID:dQNv8rrJ0



一つの卵が生まれ落ちました。
私の世界に、違和感と言う名の一つの卵が。

時を経て、殻を破り、中から出てきた幼な子は。

私の気づかぬうちに、秘密を喰らい、事実を喰らい、真実を喰らい。

養分を得て日増しに大きくなり、さなぎへと変態するのです。


他ならぬ私のために。


だって、さなぎから孵化する蝶は。


美しすぎて、みんなの目を惹きつけてしまうから――





3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 19:48:33.02 ID:dQNv8rrJ0


何かがヘンだ。
気のせいじゃないよね? 私がおかしいんじゃないよね?
そう思いたいくらい、みんながおかしい。私、何かしたのかな?

どうおかしいのか、ちょっと見てみましょう。
以下、いつもの軽音部の風景です。どうぞー


唯「あずにゃんぎゅ~」

梓「………ぎゅ~」

はい、ここです、まずいきなりおかしいです。あずにゃんが抵抗しません!
……うん、これは別に私はうれしいんだけどね。なんか調子狂うというか、ね。
っと、そうじゃなくて、では続きをどうぞ。

唯「おぉ? なんかあずにゃんが素直だ! よしよし」ナデナデ

梓「………」ウットリ

澪「………」ジトリ

はい、次は澪ちゃんです。文字では伝わりにくいと思いますが、目が怖いです。マジです。
本気と書いてマジです。

そして他にも――



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 19:52:15.60 ID:dQNv8rrJ0

律「こら唯、いつまでも抱きついてないで練習するぞ」

紬「唯ちゃん、いつまでも抱きついてないでお茶にしましょ?」

律「………」バチバチ

紬「………」バチバチ

こちらは私の知らないところで火花を散らしてます。
とりあえず二人に共通するのはどうにかして抱きつきをやめさせたいようです。

りっちゃんに至ってはサボる側なのに私に練習を促す始末です。
ムギちゃんもムギちゃんで、遠回しにあずにゃんかりっちゃんかどちらかを威嚇しているかのような言い方です。

まぁ、これくらいは日常茶飯事です、最近の軽音部は。軽音部だけならまだしも、
さわちゃんや和ちゃんもやたら最近世話を焼いてくれるような気がしますが、
それはきっと卒業が近い時期だからでしょう。
ともあれ、軽音部の皆は一体どうしたんでしょうか?


――というわけで、私なりに考えてみた。考えてはみたんだけど。
……うん、なんか思い上がってるみたいで言いたくないね。一度は言ってみたいセリフではあるんだけどね。
「私のために争わないで!」っていうのは。
勘違いだったらすごく恥ずかしいしね。確証が持てるまでは言葉にしないほうがいいかな。



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 19:56:06.55 ID:dQNv8rrJ0

――つぎのひ!

憂「お姉ちゃん、朝だよー? 起きてる? 起きてないよね?」

唯「ん~……起きてるよぉ」

憂「ちぇ、残念。いろいろして起こそうと思ったのに」

唯「いろいろって何……」

憂「聞きたい?」

唯「聞きたく…ない、かな……」

憂「ふふっ、じゃあ早く朝ごはん食べよ?」

……我が妹はどっち側なのか判断がつかないよ。
ともかく、そうこうしていつも通り家を出て、学校へ向かうワケですよ奥さん。
奥さんって誰だろう。まあいいや。

要するに私が言いたいのは、通学路もまた……困難な道なのですよ。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 19:59:46.91 ID:dQNv8rrJ0

憂「お姉ちゃん、もうすぐチャイムなるよ? 急いで!」

唯「………だったら腕から離れてくれないかなぁ」

梓「そうだよ憂、唯先輩迷惑してるじゃん」

唯「あずにゃんも腕から離れてくれないかな」

あずにゃんが右腕、憂が左腕。両手に花……とは言うけど、花だって重さもある立派な荷物だよ。
あ、荷物といえば……

唯「澪ちゃん、ギー太は……」

澪「返さないぞ!!」

両手が塞がっているから、と澪ちゃん達が荷物を持ってくれる。それは助かるんだけど…

唯「いや返してよ、私のだよ……まぁムギちゃんに安くしてもらったんだけど、それでもお金出したの私だし」

紬「今なら私も大安売りよ!」フゴフゴクンカクンカ

唯「ムギちゃんはナチュラルに私のカバンの匂いを嗅ぎながら会話しないで!」

律「私は隣の沢庵屋より一割安いぞ!」

唯「なにその売り文句。あとりっちゃんは特に持つ物無いからって腰に抱きついてこないで欲しいんだけど…」



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:03:11.58 ID:dQNv8rrJ0

正直、一番歩きにくい理由はりっちゃんだ。昨日はムギちゃんが抱きついてきた。
じゃんけんで負けた人がこのポジションらしい。よくわかんないけど。

唯「とにかくっ! 遅刻しそうだからそろそろ離れて!」

律「ふむ、唯は怒った顔も可愛い。けど」

梓「怒らせたい訳じゃないので」

憂「大人しく離れようかな」

……と、素直に離れる三人。なんか距離の取り方が絶妙だなぁ……いつかどこかで見習おう。
さて、あとは荷物を返して貰わな――

澪「」ペロペロペロ

唯「澪ちゃんなんでギー太なめてるの!?」

紬「」スーハースーハー

唯「ムギちゃんそれ私の体操着!?」

紬「って洗剤の匂いしかしないわ!」ダンッ

憂「できた妹ですから♪」



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:07:02.59 ID:dQNv8rrJ0

律「こら、澪ももうやめとけ、錆びたらどうする」

唯「そういうレベルの問題はもうとっくに越してる気がするよ!?」

梓「律先輩がここにきていい子ちゃんぶって点数稼ぎしてます…ムカつきます」

律「ハハッ、梓みたいなお子様とは違うのさ」

梓「ハッ、必死すぎて滑稽ですよ。自然体が一番です」

律「それじゃあ梓は永遠にお子様としか見てもらえないな、可哀想に」

梓「グヌヌ」

律「ウギギ」

……なんか言い争いまで始まったし……
遅刻しそうとかいっときながら、みんな勝手だなぁ…

唯「……あ~もうっ! みんな荷物返して! もう先行くから!」プンスカ



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:10:31.12 ID:dQNv8rrJ0

柄にもなく怒っちゃった私は、そのまま後ろを振り返らず学校まで一直線。
まぁ、どっちみち皆とクラス一緒だし、教室でまた会うんだけど……

律「……ゴメンな、唯」

憂「ゴメンね、お姉ちゃん」

梓「ごめんなさい、唯先輩」

和「――ほら、唯。そろそろ話だけでも聞いてあげたら?」

りっちゃんはともかく、憂とあずにゃんまでうちのクラスに来ちゃったし。わざわざ私に謝りに。

唯「……まぁ、三人は言えばやめてくれたし、特に憂は何もしてないし怒る事も無いんだけど…」

律「………」

梓「………」

唯「…もうケンカしないでね?」

りっちゃんとあずにゃんは、ケンカってほどじゃないけどよく口論してる。
そのたびに私はこうしてなだめてる気がする。
……よくやってるわりに、私のなだめ方は『もうケンカしないで』っていうのは少しおかしいかな?



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:14:07.62 ID:dQNv8rrJ0

律「別にしたくてケンカしてるわけじゃないけど…今回だって吹っかけてきたのは梓だし」

梓「だったら点数稼ぎなんて止めてください」

律「ホラみろ、またコイツは――」

唯「だからそーじゃなくて! あずにゃんはりっちゃんのことをそんな目で見ない! りっちゃんも先輩なんだから後輩には優しく!」

律梓「…はい」

唯「わかったら戻ってよし」

律梓「はい」

憂「じゃあね、お姉ちゃん」ガラッ

周囲のみんなの目も気になるし、早々に切り上げることにする。いつものことなんだけどね。
ともあれ、この二人と憂はまだ行動は常識的な方に思えるからこれくらいでいいけど……



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:18:23.13 ID:dQNv8rrJ0

唯「………」チラッ

紬「……ごめんなさい」

唯「……ムギちゃんってあんなキャラだったっけ?」

紬「…違うと言いたいけど、意外と違和感無いと思う…」

唯「私はいつものムギちゃんに戻って欲しいよ……」シュン

紬「っ…ごめんなさい、本当にごめんなさい…! もうしません…!」

唯「……信じていいの?」

紬「唯ちゃんのそんな顔なんて見たくないから……もう絶対にしない!」

唯「……ありがとう、ムギちゃん。ムギちゃんは優しいね」

違うと信じてるけど、もしかしたら、万に一つくらいは、あれがムギちゃんの本性なのかも、とも思っちゃう。見てしまった以上は。
ま、もしそうだとしても、私のために、私のお願いのためにその本性を隠すと言ってくれるムギちゃんは、きっと優しいよ。
一時の気の迷いだったと信じてるけど。



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:22:57.00 ID:dQNv8rrJ0

唯「………で、澪ちゃん」

澪「」ビクッ

唯「ギー太は今和ちゃんが拭いてくれてるけど……さすがにこれは擁護出来ないレベル…なんだけど、一応理由を聞こうか」

澪「……唯は、私が狂ってると思うか?」

唯「え? いや、そこまでは…」

澪「いや、いいんだ、狂ってると言ってくれていいんだ。だって私を狂わせたのは唯、お前だから!」

唯「え? え??」

澪「唯の顔が! 身体が! 匂いが! 全てが……恋しいんだ! 欲しいんだ! だから仕方な――」

律「落ち着けバカ」ザクッ

澪「ぁなルッ!?」ビクン

紬「……ドラムスティックがお尻の穴に…」

澪「」ビクンビクン



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:26:44.26 ID:dQNv8rrJ0

唯「澪ちゃん今日も縞パンなんだー」

澪「ひぃ!? み、見るな!」ガバッ

律「……浅かったか」

すごい食い込んでますけど浅いんですか。そうですか。私にはわからない世界です。

律「おい唯、いい方法を教えてやるから耳貸せ」

唯「うん?」

律「澪に言うことを聞かせるには、とりあえず『嫌い』って言葉をちらつかせるんだ」ボソボソ

唯「…なんで?」ボソボソ

律「お前に嫌われたら生きていけないからだよ。あ、もちろん加減には気をつけろよ?」ボソボソ

唯「加減間違ったらどうなるの?」ボソボソ

律「刺されるとか、飛び降りるとか…」ボソボソ

紬「かーなーしぃーみのーー」

唯「ひぃぃぃぃ」



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:32:02.14 ID:dQNv8rrJ0

律「まあ、まだ序盤だから死にはしないさ。ほら行け」

序盤って何さ、りっちゃん。
まぁとりあえず……言われたとおりやってみようか。

唯「……澪ちゃん、大丈夫?」

澪「うぅ……大丈夫じゃない…はじめては唯がよかったのに…」

唯「……そういう発言は止めようよ…ヒくよ…」

澪「え……っ?」

しまった、素でドン引きしてしまった…!

唯「あ、その、そうじゃなくて……」

澪「……私のこと、嫌いになった?」

唯「い、いや、大丈夫…たぶん」

澪「たぶんって……そんな、イヤだ! やめて! 嫌いにならないで! 何でもするから、言うこと聞くからぁ…!」

澪ちゃんが必死な形相で、私のスカートにしがみつきながら訴えかけてくる。
いつもの凛々しい澪ちゃんとは違う、稀に見せる臆病な澪ちゃんとも違う、それこそ命を賭けたような必死な訴え。
さっきまではドン引きしてたけど……さすがにこれは可哀想。



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:37:15.64 ID:dQNv8rrJ0

唯「え、あ、うん、大丈夫! 大丈夫だから! いつもの澪ちゃんでいてくれればそれでいいから!」

澪「……いいの? いつも通り唯を大好きな私でいいの?」

唯「…ギー太舐めるのは禁止ね」

澪「ギー太ぺろぺろしなければ私のことを好きでいてくれるんだな!?」

唯「え、うん、たぶん……」

澪「イヤッホオオオオオオゥ!」ガタン


律「押し切られてどーする…」

唯「いや、なんかテンションの上下幅の大きさについていけなくて…」

紬「ヤンデレでメンヘラねぇ♪」ウフフ

唯「笑い事なの? それ……」



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:41:46.65 ID:dQNv8rrJ0

――お昼!

梓「唯先輩! ご飯食べますよ!!」ガラッ

唯「んむ、まぐぁん」フゴフゴ

律「ほれほれ」

澪「食え食え」

紬「まぁまぁ」

和「解説をすると、みんなからお弁当を口に突っ込まれてる唯の図、です」

唯「はふへへ~」ヘルプ

梓「先輩方やめてください! 唯先輩困ってるじゃないですか!!」

律「……じゃあ私はそろそろやめよう」ガタッ

梓「そのポジション貰ったァァァ! はい唯先輩あ~ん♪」

唯「」



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:45:26.69 ID:dQNv8rrJ0

紬「唯ちゃん何か飲む? 何でも揃えてあるわよ~?」ズラリ

澪「じゃあ私がウーロン茶を飲ませてあげよう」

梓「じゃあ私はコーラで」

紬「私はやっぱりいつも通り紅茶かしら」

澪「さぁさぁ、唯」

梓「口を開けてください、さあ!」

唯「」

和「そろそろ止めるべきかしら」

律「そうだな…まぁ私が止めると梓に絡まれるから和頼むわ」

和「仕方ないわね…」ガタッ

憂「さすが私のお姉ちゃんは世界一!」

律「憂ちゃんもいたんなら止めてあげてくれよ」

憂「口いっぱい頬張ってるお姉ちゃん可愛い…///」

律「まぁ、それは否定できない///」

唯(ダメだこりゃ)



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:49:17.26 ID:dQNv8rrJ0


違和感を感じ始めてから、私がツッコミに回ることこそ多くなっちゃったけど、それでもこのメンバーでいる時間は嫌いじゃなかった。
みんなが変わっちゃった理由はわからないけど、それでも私はみんなのことが大好きだったから。

さわ子「そんなの簡単よ。みんな唯ちゃんのことが大好きだからよ」

唯「唐突に出てきて唐突に心を読まないでください」

さわ子「梓ちゃんの言ったことは的を射てるわ。みんな点数稼ぎに必死で、それでお互いがギスギスしちゃってる」

唯「唐突に出てきて過去を覗かないでください」

さわ子「一度、みんなを集めて腹を割って話し合うといいわ」

唯「話を聞いてください」

さわ子「たぶんこれから先は私の出番ないから出張ってみました!」

唯「帰ってください」



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:54:22.44 ID:dQNv8rrJ0

あんなんだけど、さわちゃんの言うことも一理あると思う。
なんだかんだで私もみんなとずっと一緒にいたいと思うし、こういう機会も必要なのかもしれない。
みんなとずっと一緒に、バンドしてたい。それは偽り無い私の気持ち。
そう、ずっと。進路もまだ決めてないような時期だけど、卒業後も……

唯「――そうだ、みんな」

放課後、部室で私はその意見をみんなにぶつけてみた。

唯「みんなで一緒の大学に行かない?」

我ながらいい提案だと思った。みんな合格してハッピーエンドの未来が見えた気さえした。
………現実は、みんなの呆気に取られた――いや、驚愕した顔が見えただけだったけど。

唯「……ど、どうしたの? みんな」

和「律ー? 書類また出してないでしょー?」ガラッ

律「うぉぉぉぉ和空気読め帰れぇぇ!」グイグイ

和「え、ちょ、ちょっと何?」

律「私が悪かったから早く戻れ!」グイグイ

和「わ、わかったわよ。ちゃんと出してね?」ガラッ

律「………ふぅ」



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 20:57:40.85 ID:dQNv8rrJ0

唯「…………?」

律「えー、っと……」

……本当にどうしたんだろう? みんな…

紬「ゆ、唯ちゃんこそどうしたの? 急にそんなこと言って」

唯「え? えーっと、だって、私みんなのこと大好きだし…一緒にいたいと思って。できれば和ちゃんも」

梓「そ、それは嬉しいですねー…って、私は来年ですけど…」

唯「大丈夫、待ってるよ。なんというか、みんな一緒にいるべきというか、ずっと昔にそんな夢を見たような気がして、ね」

……そしてその言葉でまた、みんなが固まった。
今度は間違わない。さっきと同じ、驚愕に満ちた顔。
そして私も、きっと同じ顔をしていた。

唯「……あれ、そんな夢、いつ見たんだっけ?」



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 21:01:54.92 ID:dQNv8rrJ0

澪「考えちゃダメだ」

唯「え? 澪ちゃん?」

澪「考えるな」

唯「え? どうしたの…?」

律「……そんな言い方があるか、バカ」

唯「りっちゃん、何の話?」

律「唯、その質問には答えない。けど、唯が何かをしようとするのも、私は止めない」

どうしたんだろう? りっちゃん、急にまじめな顔して……
そしてそのりっちゃんを、澪ちゃんとあずにゃんは恨めしそうに睨んでる…ムギちゃんは戸惑ってるみたい。
でもそんな空気も視線も、りっちゃんは気にせず、私に言うんだ。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 21:04:35.07 ID:dQNv8rrJ0

律「ただ、一つだけ聞いておきたい事と、知っておいてほしい事がある」

唯「う、うん、何?」

律「唯は、今の私達の関係に不満を持っているか?」

唯「……そんなの、あるわけないよ。最高の仲間に囲まれて、不満なんてあるわけないよ」

律「…その言葉を、忘れないで欲しい」

唯「…知っておいてほしい事は?」

律「ああ、それは簡単な事だよ」


律「……みんな、唯の事が大好きだ、って事」



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 21:05:25.46 ID:dQNv8rrJ0

前半終了一旦休憩




30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 21:07:36.94 ID:JcIVsX2c0

唯「ゆめおち!」と被らないことを期待します





33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 22:10:35.46 ID:dQNv8rrJ0

じーちゃん長風呂すぎた
書く



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 22:15:11.33 ID:dQNv8rrJ0

――愛とは、一方的なものであるべきである。

私、平沢唯は、そう思うのです。でも特に理由はありません。
それでも、この考えは曲げることは無いと思います。
見返りを求めるならば。愛して欲しいから好きだと囁くくらいなら。
私はそんな人のために、愛を返すだけの人形を作ってあげたいと思います。とても寂しく、悲しい人形を。
もちろん、そんな人形を使う人も寂しく、悲しい人。
……つくづく、そう思うのです。




律「唯は」

澪「こう、薄く伸ばしてだな」

梓「まぁ、虚飾ですかね」

紬「くるくる」

和「廻る」

さわ子「あ」

憂「お姉ちゃん…帰ってきた」


「「「「「「「おかえりなさい」」」」」」」



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 22:18:44.99 ID:dQNv8rrJ0


【ずっと前の出来事】


……寝惚けた頭で、私はとんでもないことを呟いたらしい。
扉の前に立つ憂の顔が、それを物語っている。

憂「……大学? 何言ってるのお姉ちゃん、今日から高校生でしょ?」

――今日から私は大学生なのに、なんで憂がいるの? とか、そんなことを言ったような気がする。たぶん。
ああ、そうだ、私は大学進学を機に一人暮らしをしようとして……あれ、でもここはいつもの家、いつもの部屋だよね?

憂「もう、寝惚けてないで早く起きてよ? ご飯できてるよ?」

唯「う…うん」

大学生になる夢でも見ていたんだろうか? まぁ、憂も言っているんだしそう考えるのが妥当だろう。
全部夢だったんだ。みんなと一緒に卒業して、みんなと一緒の大学に――あれ、みんなって誰?
和ちゃん? いや、違う気がする。だいたい一人じゃなかったし。
確か…4人だったような気がする。名前も顔も…わからないけど。


――今思えば、これが最初の違和感。
――2年少し前の事なんて、そりゃ変なキッカケでも無いと思い出さないから無理ないけど。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 22:23:00.49 ID:dQNv8rrJ0


その後、私は軽音楽部に入部し、様々な出来事を経て、進級。後輩も一人得た。
澪ちゃん、りっちゃん、ムギちゃん、あずにゃん。これが今の軽音部。みんな私と仲良くしてくれている。
不思議すぎるほど、すぐに皆打ち解けた。
そう、まるで――昔からの知り合いのように。

私達は、不思議と喧嘩も仲違いもそんなにしなかった。5人も集まっているにもかかわらず、だ。
というより、対立したことすら数えるほどだと思う。
……あずにゃんとりっちゃんはまぁ、じゃれ合いとして。

私が喜ぶコトを、みんなは知っている。
私も、みんなが喜ぶコトを知っている。
私が嫌なコトも、みんなは知っている。
私も、みんなが嫌なコトを知っている。

不思議すぎるほど、私達は仲良しだ。
そう、まるで――ずっと昔からの、長い長い付き合いのように。



どうしてだろう?
どうしてこんなに、仲良しなんだろう?
仲良しなのは、悪いことじゃない。りっちゃんにも聞かれたけど、今の関係に不満はない。
なのに、私は疑問を持ち始めた。違和感が、発展していく……



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 22:27:36.49 ID:dQNv8rrJ0

それから何度も、私は夢を見た。
正確には、現実のような夢を沢山見るようになった。

過ごした覚えのある光景。覚えの無い光景。あるはずの無い光景。
どの夢にも、軽音部の皆が、あるいは軽音部の誰かがいて。たまに憂や和ちゃんもいて。
逆に、憂や和ちゃんと私だけの夢というのは見なかった。

何故だろう?
違和感を解くカギがここにある気がして、私は考える。

憂や和ちゃんだけしか出てこない夢。それがあるなら、高校以前の夢であるはず。
そういい切れるほど、高校時代は軽音部の皆と一緒だった。
だから、中学、あるいはもっと前の夢なら登場人物は私と憂、和ちゃんメインになるはず。
それか、中学の頃の友達が出てくるかもしれないけど……って、あれ?

唯「……中学の頃の友達って…誰がいたっけ?」

思い出せない。
名前も、顔も。
中学の制服は…さすがに思い出せる。私が一年の時に憂も着ていたくらいだし。学校名もそれを見ればわかるはず。
なのに、クラスメイトが思い出せない。それどころか、中学時代の思い出が思い出せない。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 22:33:04.49 ID:dQNv8rrJ0

唯「……ちょっとまって…確か…」

憂や和ちゃんから聞いた私関連のお馬鹿なエピソードがある、はず。
何かを間違えただとか、どこかでコケただとか。うん、確かにいろいろ聞かされたよね。大丈夫、私は覚えてる。
……聞かされたこと以外の思い出が、まるで出てこないけどね。

――今夜は中学時代に思いを馳せて、眠りにつく。
相変わらず思い出は出てこないし、こんなことをしても夢に見るとは限らないけれど。それでも私は賭けた。
……次の日の朝、私は思い知った。夢の中で出会った、誰かのおかげで。赤い目の誰かのおかげで。


唯「――ああ、私には、高校以外『無い』のかな…」


その仮説は、あくまで仮説なのにも関わらず、私自身にとってものすごい説得力を持っていた。まるで、ずっと目を背けていた事実であるかのように。
あくまで『私』には、の仮説。持っている人は持っている、あるいは持っていた。そういうこと。

でも、まだ仮説。確証は私の中以外にはない。証拠が欲しい。できれば物証、それがだめでも他の人の証言が。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 22:38:23.00 ID:dQNv8rrJ0

唯「ういー?」

憂「お姉ちゃん? どうしたの?」

唯「私の中学の卒業アルバムとかない?」

憂「あるよ? 卒業式で貰ったでしょ? 変なお姉ちゃん」

……あれ、あるの?
てっきり存在しないか、あるいは誰かに捨てられたりとかしてるかと思ったのに。
……誰か、って誰だろう?

憂「はい、どうぞ」

唯「あ、うん、ありがと……」

憂から受け取ったはいいけど、開くのが怖かった。
……こういう『私の過去を示すモノ』が存在しないと私が高をくくってたのは、逆に言えばそれが存在したら……

唯「………やっぱり」

それが存在したら、私は逆に、現実を見せ付けられてしまうから。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 22:43:39.02 ID:dQNv8rrJ0

唯「」ポロポロ

憂「ど、どうしたの!? お姉ちゃん」

唯「覚えて、ないの……中学の、友達、出来事、全部……何もかも…」ポロポロ

憂「お姉ちゃん……」ギュッ

唯「どうして……どうしてなの!? 私は…なんなの!?」

憂「落ち着いて、お姉ちゃん……落ち着くまで、こうしててあげるから」ナデナデ



憂「――落ち着いた?」

本当に憂は、私が泣き止んで落ち着くまで抱きしめて頭を撫でてくれた。
その優しさは凄く嬉しいし、助けられたけど……

唯「……教えて、憂。憂は何を知ってるの?」

憂は、私の言ったことにまったく動じてなかった。憂は何かを知ってる。軽音部の皆の時と同じような、私だけが『わかってない』感覚。
いや……私にも仮説はあるんだけど。それでもやっぱり、誰かの口から真実を聞きたかった。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 22:49:20.42 ID:dQNv8rrJ0

憂「……律さんも呼んでいいかな?」

唯「どうしてりっちゃん?」

憂「…部長さんだから、かな」

唯「よくわからないけど…話してくれるなら」

憂は頷いて、りっちゃんに電話をかける。
……いつ番号聞いたんだろう? まぁいいか。いくらでも機会はあったよね。


律「うーっす」

唯「来るの早っ!」

律「登校途中だったんだよ。なんとなくいつもより早く唯の家の近くを通ってな」

唯「あはは……虫の知らせでもあったの?」

律「そうかもな。……学校は休むだろ? ムギにメールしとくよ」

唯「うん……」

一瞬、澪ちゃんには言わなくていいのかな、と思ったけど……今の澪ちゃんに言ったらそのまま押しかけてくるのは目に見えてる。
少なくとも話が終わるまではムギちゃんに引き止めていてもらおう、というりっちゃんの判断だろう。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 22:55:25.53 ID:dQNv8rrJ0

律「――で、なんだっけ? 唯の高校以外の思い出が無いって話だっけ?」

唯「なんでそんな軽く言うのさ、りっちゃん……」

律「そりゃ知ってたからな。澪も言ってただろ?」

そうだ、澪ちゃんは考えるなと忠告してくれてた。考えれば私が今みたいに落ち込むことも、ちゃんと知ってたんだ、澪ちゃんは。
いや、澪ちゃんだけじゃなく、私以外の皆が知っている。それはもういい加減認めないといけない。

唯「……でも、りっちゃんは私が考えることも止めなかったよね」

律「ああ。だって唯の人生だ、どんな道を歩もうと、私に止める権利は無い」

憂「正確には『私達に止める権利は無いはずだった』ですよね」

律「……そうだな。私も憂ちゃんも悔いてる。本当によかったのか、って。だから皆みたいに隠し通そうとせず、中途半端な立ち位置にいる」

憂「そのせいで、梓ちゃんから点数稼ぎって言われるんですよね」

律「間違っちゃいないんだよな、それ。私達がやったことなのにさ、『唯のため』とかカッコつけて責任を果たそうとしないんだから」



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:02:12.52 ID:dQNv8rrJ0

……結局、二人の会話を聞いてるだけじゃ納得はできない。
でも、いくつか見えてくる。
りっちゃんと憂だけは『私の意志』を尊重しようとしてること。でも、そのりっちゃんや憂も加わって、私に何かをしたということ。それが原因で、私には高校生活しかない、ということ。

唯「……結局、みんなは私に何をしたの?」

律「……それは言えないよ。言ったら、私達は唯の側についたことになる。みんなを見捨てて、裏切って、な」

唯「……勝手だね、りっちゃん」

律「ああ。というか誰に聞いても教えてくれないさ。澪、ムギ、梓はもちろん、和達クラスメイトも、名前さえ知らない同級生も」

憂「もちろん、私の同級生も、ね」

律「でも、唯が自分で思い出すことは止めない。止める権利は無い」



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:07:51.51 ID:dQNv8rrJ0

唯「うん……あのさ、学校、今からでも行っていいかな? 何か思い出すかもしれない」

律「止めないよ。あー、でも私は澪にいろいろ言われるんだろうなぁ……私はこのままサボるよ」

憂「そしたら私のところに来るじゃないですか…私もサボりますよ」

律「っていうかこのままここに匿ってくれ」

憂「家事を手伝ってくれるならいいですよ?」

唯「……なんかごめんね?」

上手く言えないけど、私のことを思っての行動をしている二人が困ってるんだから、謝っておくべきかな、と思った。
けどもちろん、二人は私のそんな言葉にもいつもの笑顔を返す。

憂「お姉ちゃんは気にしないで。私達の責任なんだから」

律「唯が悪いわけじゃない。澪一人が悪いわけでもない。……私があの日言ったこと、まだ覚えてるか?」

唯「…『私は今の関係に不満なんてない』『みんなは私のことが大好き』…ってやつ?」

律「ああ。お願いだから、それだけは忘れないでくれ。その上で唯が決めたことなら、何も文句は言わないから…」

私は頷いて、部屋を出た。
学校に行かないと、というのもあったけど、それよりもあんなつらそうな顔のりっちゃん、初めて見たから、目を背けたかった。
私は……もしかしたら思い出さないほうがいいのかも。いや、澪ちゃんの言うとおり、思い出さないほうがいいんだ、きっと。



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:14:14.52 ID:dQNv8rrJ0


それでも、やっぱり知りたい。知らないと不安で、怖くて、押しつぶされそうだから。
私はひたすら全力で、学校に走った。

学校に来たのはもちろん、高校が私の全てだから…というのもあるけど、それ以外にも理由はあった、というかこっちのほうが大きい。
りっちゃんと憂は、ああ言いながらも私にヒントをくれていた。
『誰も教えてくれない』『澪、ムギ、梓も、和達クラスメイトも、同級生も』『私の同級生も』と、二人は言っていた。
そこには…生徒しか含まれてない。つまり…聞くなら、助けを求めるなら、生徒ではなく。

唯「さわちゃん!」ガラッ

教師へ、と。きっと、部外者の人にこそ聞け、と言いたかったんだろう。



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:19:45.65 ID:dQNv8rrJ0



さわ子「――なるほどね」

教室にも向かわずに会いに来た私を、さすがのさわちゃんでも怪訝に思ったとは思うけど、それでも黙って私の話を聞いてくれた。

さわ子「みんなが何かを隠していて、それはきっと知ってはいけないことで。でも唯ちゃんは忘れていることを思い出したい、と」

唯「…信じてくれるの? さわちゃん」

さわ子「教師が教え子を疑う理由なんて何も無いでしょ? それに、私も唯ちゃんと似たような違和感を感じることはあったのよ」

唯「それじゃ、さわちゃんも私と同じ…」

さわ子「いいえ、きっと違う。というか細かく言うと、唯ちゃんが感じてるのは違和感で、私が感じてるのは既視感」

既視感……確か、デジャヴとかいうやつだっけ。これ、前にも見たような気がする――ってやつ。
私は、以前とは違ってる――という感じだから、確かに少し違う。

さわ子「……唯ちゃんに起こっている現象のアタリはついてる。私達大人はただそれに巻き込まれただけの被害者よ」



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:29:24.02 ID:dQNv8rrJ0

唯「被害者……って、それこそ私もそうじゃ…」

さわ子「違うわ。あなたはみんなの『願い』。みんな、あなたのためにやったこと。皆、あなたのことが大好きだからね」

愛されているのね、と。優しさと寂しさを混ぜたような瞳で、さわちゃんは私を見る。
優しい顔をしてくれるのはわかる。さわちゃんも本当は優しい『先生』だから。
でも、だったらどうして寂しさがさっきから顔を覗かせてるの?

さわ子「……唯ちゃんがみんなに違和感を持ったのはいつ頃?」

唯「え、えっと……いつだっけ、結構前だと思うけど」

さわ子「それは『いつ』のみんなと比べて?」

唯「え、そりゃもちろん出会った頃の…」

さわ子「じゃあ出会ってからどれくらいまでは普通だったの?」

唯「い、一年くらい…?」

さわ子「梓ちゃんはまだ出会ってからちょうど一年くらいよね。じゃあ梓ちゃんはおかしくなったのは最近?」

唯「いや、あれ…? みんなと同じくらいの時期におかしくなったような…? みんなと張り合ってたし」



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:39:13.53 ID:dQNv8rrJ0

さわ子「梓ちゃんって絶対唯ちゃん達の卒業式の後に泣くタイプよね」

唯「あ、それ私も思った! っていうかそんな夢見た!」

さわ子「『現実みたいな夢を最近よく見る』って言ってたものね。でも未来の夢を見る確率って低いのよ」

唯「……そういえば夢って結局は過去の体験や記憶が元になってるって澪ちゃんから聞いたような…」

さわ子「でも唯ちゃんはそんな未来の夢を見た。大学入試も、最後の文化祭も、卒業式も」

唯「う、うん……」

……なんだろう、怖くなってきた。さわちゃんが、じゃなくて、話の流れが。
間違いなく、核心に迫ってきてる。

さわ子「なぜか見る『未来』の夢。そして唯ちゃんが感じる『過去』との違和感。そしてやたらと『現在』を大切にしたがってる仲間達」

『未来』のことを話すと様子がおかしくなるみんな。『過去』を具体的に思い出せない私。
そして『現在』のみんなとの関係に不満は無いなんて言っておきながら、澪ちゃんの制止を無視して真実を求める私。
考えてみれば、何もかも歪だった。



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:44:01.03 ID:dQNv8rrJ0


そして。

さわ子「でも、もしもみんなに『未来』がないとしたら?」

さわちゃんの、その言葉は。

さわ子「『過去』と『現在』しかないとしたら?」

私に、全てを思い出させるには充分で。

さわ子「唯ちゃんの見た『未来』も、実は『過去』だったとしたら?」

私が高校より前を思い出せないのは、そのころを生きていたのが『私』じゃない私だから。
『私』は高校生として生まれ、高校生として死ぬ。大学生にはなれない。『私』に『未来』は無い。

さわ子「さながらあなた達は……いえ、唯ちゃんと、この世界は」


唯「……蝶になれない、永遠の蛹のよう」



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:49:20.52 ID:dQNv8rrJ0


【産まれた時のコト】


――寒い。

確か一番最初に、そんなことを思った気がする。

人肌恋しい寒さ、とは違うんだけど、でもある意味当たっていた。
実際その時、『人』というものがこの世界には少なかったんだと思う。

いくら歩き回っても、親しいみんな以外の姿は見えなくて。
いくら泣き喚いても、親しいみんなでさえ聞いてくれなくて。

――そういえば、そこにさわちゃんはいなかった。

みんなは、私のことなど見えないように、何かを言っていた。
みんなは、私のためだと言いながら、知らない歌を歌っていた。



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:54:26.53 ID:dQNv8rrJ0


私のため、というその言葉を、その時の私は信じられなかった。だから、きっと忘れてしまったんだ。
だって、私のためって言いながら。
みんなは。

『なんでだよ、唯』

『許されると思っているのか』

『唯ちゃん……ひどい』

『一生恨んでやる』

『死ぬまで忘れない』

『責任の一つも取らないで逝くなんて、許されると思いますか』

『お姉ちゃん……』

『唯…あなたは…』



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/02(水) 23:59:03.01 ID:dQNv8rrJ0

『唯……』

『信じてたのに』

『許さない』

『憎い』

みんなは、私を責める。
みんなの、その言葉が怖くて。瞳が怖くて。
私のことは見えていないはずなのに、その言葉の全ては、瞳の全ては、私に向けられていて。
いつの間にか、親しかったみんな以外の声も混ざっていて。瞳も混ざっていて。

怖くて。

恐くて。

私は泣きながら、震えながら、『それ』にお祈りした。

だって、憎まれるよりも、優しくしてほしかったから……



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:06:04.52 ID:bcjfaAOK0



唯「――っ!?」ガバッ

澪「唯!? よかった、目が覚めたか…」

唯「……あれ、みお、ちゃん?」

梓「私もいますよ!」

唯「みんな……ここは、保健室?」

紬「よかった……さわ子先生から聞いて来てみたら、うなされてるんだもの」

さわちゃんの前で倒れちゃったのかな。少し恥ずかしい。
……でも、ここにさわちゃんはいないよね?

唯「さわちゃん、何て言ってたの?」

澪「登校してきた唯と会ったけど、辛そうだから寝かせてる、って」

唯「他には?」

梓「目が覚めたら連絡してくれ、くらいですかね。それより気分はどうですか? 調子悪いようならまだ寝ていたほうがいいですよ」



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:11:50.51 ID:bcjfaAOK0

さわちゃんは私達の会話の内容は言わなかった。つまり、私達の問題に口出しするつもりはないということ。
だったら……私がまず、向き合わないといけないんだと思う。

唯「大丈夫だよ、あずにゃん。それより、教えてほしいことがあるんだけど」

梓「何ですか? 何でも言ってください! 唯先輩のためなら!」

澪「…なんだ唯、私達じゃダメなのか?」ムッ

唯「別に誰でもいいんだけど……よっ、ととと」フラッ

紬「唯ちゃん!」ガシッ

唯「おお……ありがと、ムギちゃん」

ベッドから降りようとしてフラついちゃった。寝すぎた…なんてわけじゃなく、理由はきっと、私自身。
思ったよりもショックを受けていたんだと思う。この世界の真実に。

梓「やっぱりまだ横になっていたほうが…」

唯「大丈夫だから……それより、質問に答えてね?」



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:18:05.51 ID:bcjfaAOK0

澪「……? 待て唯、まさか――」

唯「待たないよ。みんな教えて? この世界は何回目なの?」

――みんなの驚愕に満ちた顔は予想通り。むしろもう見飽きた感さえある。

唯「ねえ、あずにゃん」

梓「っ………」

唯「ムギちゃん」

紬「………それ、は…」

唯「教えてよ、澪ちゃん」

澪「……誰から聞いたんだ?」

唯「誰でもないよ。思い出したんだ」

澪「また思い出したか……やっぱり私達の記憶も毎回リセットするべきだったんだ」

梓「澪先輩ッ!!」

澪「……何度目だろうと関係ないさ、唯。知ったところで何も出来ない。今までの唯がそうだったように」



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:21:20.50 ID:bcjfaAOK0

澪ちゃんは『また』と言った。以前にも何度か私は気づいたんだろう。
そして、その度私は挑戦したはず。今の私と同じ想いを抱えて。
みんなを、こんな閉じた世界から解放してあげたい想いを。
……それなのに、ずっと失敗している、と澪ちゃんは言うんだ。

唯「みんなは……こんな閉じられた世界で、幸せなの?」

紬「唯ちゃん、その質問は残酷よ」

梓「……唯先輩のいない世界に比べたら、百万倍幸せですよ」

唯「私は……そんなこと言われても、嬉しくないよ…」

澪「唯なら…私達の大好きな、優しい唯ならそう言うさ。だからこそ、過去を繰り返すことを選んだ。犠牲を払い、唯が生き続けた世界を創れば、唯は心を痛めるから」

紬「だから、犠牲を払ってでも、唯ちゃんが全てを知らない時間にまで遡る方法を採った」

澪「まぁ、そもそも過去に戻るんだ、記憶があるほうが異常なんだが」

つまり、澪ちゃん達が記憶を引き継いでいることのほうが異常で。
少なくとも普通は―ー私とさわちゃんくらいしか当てはまらないけど、普通はリセットされる、と。
まあ、そこはとりあえずわかったけど……それより、さっきの会話でまた気になる単語が。



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:27:25.50 ID:bcjfaAOK0

唯「……犠牲って、何?」

澪「聞いたところでどうにもならないよ。強いて言うなら『元の世界』かな」

……澪ちゃん達は元々の、時間が普通に進む、私達が最初に辿った世界を犠牲にしてこの閉じた世界を創り出した。
永遠に繰り返す、この世界を。

唯「……みんなの気持ちは嬉しいけど…それでも私は、みんなの未来を奪ったなんて……嫌だよ」

澪「奪ったわけじゃない。元々要らなかったものを私達が捨てた、それだけだよ」

唯「でも! みんなにはきっとこの先、もっと楽しい未来が――」

梓「ありません! 唯先輩のいない未来が楽しいわけがないです! 唯先輩のいない世界に、楽しいことなんてあるわけないです!」

澪「その点は、律も憂ちゃんも同意してたんだけどな……」

唯「…私が自分で思い出したんだよ、澪ちゃん」

澪「わかってる。律も憂ちゃんも善い奴だから、私達をハッキリと裏切るような真似はしない。ただ……」



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:32:18.99 ID:bcjfaAOK0

澪ちゃんは、言いづらそうに私を見る。

澪「結局、私達が、私達のために唯を求めた結果がこの世界なんだ。自分勝手なのは私も認めるけど、それでも、その自分勝手さを悔いて、挙句に判断を唯に押し付けるようでは、それはただの偽善者だ」

そんな言い方やめて、とは口に出来なかった。
言いづらそうだったのは百も承知だし、澪ちゃんの言うことも一理あると思ってしまったから。

澪「本当に悔いるなら、唯に真実を告げて、唯の意思だけを尊重して、唯の味方になればいいんだ。そうしないから、唯は今、こんなに悩んでる」

唯「……そうかもしれない。けど、澪ちゃんだってりっちゃんに見捨てられたいわけじゃないでしょ?」

澪「そうだな。律も律なりに悩んでるんだってのはわかってる。憂ちゃんなんてもっと顕著なはずだ。唯のこと、大好きだからな」

唯「うん……きっと、憂もずっとずっと、悩んで苦しんでるんだよね…」

澪「……あの二人は、優しすぎるんだよ。誰も傷つけたくないから、一歩を踏み出せない。その一歩で誰かを踏みつけてしまうことを恐れてる。だから動けない」

唯「でも、私はそんな優しい二人も…大好きだよ」

澪「私達もだよ。だから、私達はこの世界はこのままでいいって言うんだ」




64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:27:31.07 ID:vbe7U9BT0

なんで下げ進行なの?
ひっそりやりたいのであれば構わないけれど、埋もれるぞ





66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:35:55.95 ID:bcjfaAOK0

>>64
忠告ありがとうage



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:36:48.32 ID:bcjfaAOK0

……澪ちゃん達の言い分はわかる。りっちゃんや憂の気持ちもわかる。
みんなも、私の気持ちをわかってくれてる。

だからこそ、私達は動けない……


わけじゃなく、動けないのは優しすぎる二人だけ。
私は動く。澪ちゃん達も、絶対動く。
話をして、お互い逆にその気持ちが強まったと思う。

私はみんなが大好きだから、みんなをどうにかしてあげたいと思う。たとえ、その先で私が消えるとしても。

澪ちゃん達も、そんな私を大好きだと言ってくれたから、意地でも止めるだろう。


でも私は止まる気はない。もちろん理由は前述の通りだけど、実はもう少しあったりする。
情けないからあまり言いたくはないけど、

忘れられないんだ。

私を責める瞳と声が。

きっと、あれが最初の世界の『犠牲』。

あれが私に何を求めてるのか、わからないけど。

きっと、あそこまで憎まれる私は、みんなのために命を捧げて、消えてしまうべきなんだ。



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:43:33.12 ID:bcjfaAOK0


【母親】

ただ、決意は固いけど、方法がわからなかった。
さすがに『世界』を創っただなんて摩訶不思議で奇妙奇天烈な事象の対処法なんて調べる方法さえわからない。

とりあえず、りっちゃんがいないので部活は休み。さっさと帰って二人に聞こうかと思ったけど、二人はきっとまた教えてくれない。
教えれば澪ちゃん達を敵に回すから、ね。

いきなり八方塞がりだ、とトボトボと家に向かって歩いていると、知らない番号から電話がかかってきた。

唯「……も、もしもし?」

さわ子『そんなに警戒しないで。私よ、ギターマスターさわ子よ』

唯「さすがにギャグやってる空気じゃないと思います」

さわ子『私も思うわ。急いでるから簡潔に、今日私が調べたことを教えてあげる。この世界について、ね』

……! 珍しくさわちゃんが頼りになる!
珍しく、じゃないか、さっきも助けてもらったばかりだ。尊敬しよう。りすぺくと。



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:48:38.49 ID:bcjfaAOK0

さわ子『――この世界はいくつもの命を捧げて作られている大樹。私達『被害者』の命を葉にして、あなたの仲間達の中の誰かの命を幹にした、ね』

捧げられた命。それはきっと最初の世界の犠牲。それはわかってた。
だから問題は次。木の幹。つまり、世界を支える根幹。そこに『誰か』の命があって、それでこの世界は成り立ってる、と。
いきなり光明が見えてきた…! さわちゃんすごい!

さわ子『つまり、こんな世界に私達を閉じ込めた、あるいはこんな世界を創った幹…『母親』がいるはずよ。その人を見つければ…あるいは』

唯「アテは……あるかも」

さわ子『そうよ。あなたに親密な誰か。あなたのことを大好きな誰か。ここから先は…あなた自身がやりなさい』

唯「…うん。というか、私がやらないといけないよね」

さわ子『ええ。じゃあ急いでるから切るわよ?』

唯「なにをそんなに急いでるの?」

さわ子『今から出張なのよ。じゃあ、頑張りなさい!』ブツッ



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:52:43.64 ID:bcjfaAOK0

お礼を言う暇さえも与えてもらえなかった。そんなに急ぐことかな?
まぁ、とにかくさわちゃんのおかげでやることはわかった。

この世界を創った『母親』とも呼べる人を見つけて……

……あれ、それからは?
まぁ、きっと説得して止めればいいんだよね!

ということで、今までの雰囲気とかを総合して、『母親』だと思う人は……


りっちゃんと憂は違うよね、きっと。世界の根幹であったとしたら、もっと責任は重いはず。中途半端な立ち居地なんて選べないはずだから。

私を大好きで暴走しちゃってる澪ちゃん?
暴走気味だけど私の意思もちゃんと伺ってるムギちゃん?
いつになく素直でデレデレなあずにゃん?
それとも……



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 00:58:54.44 ID:bcjfaAOK0

最初ムギ澪どっちがいい?>>74




73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:06:10.24 ID:H3UPyu1JP

むぎゅうううううううう



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:08:59.77 ID:H3UPyu1JP

じゃあ澪ちゃんでお願いします



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:09:03.78 ID:m05Om3hP0

ムギ





76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:14:09.42 ID:bcjfaAOK0

実はムギのほうが短いからムギがよかったなんて今更言えない


※澪

【間違いだらけの】


ピンポーンと、インターホンの音だけが夜に響く。ちょっと家族さんに迷惑じゃないかな? 呼ばれたから仕方ないんだけど。
とか思ってると、すぐにドアは開いた。

澪「ようこそ、上がってくれ」

唯「うん……」

そのまま、澪ちゃんの部屋へ。澪ちゃんはボスンと音を立ててベッドに座り、隣を叩く。

唯「おじゃまします……ってのもヘンかな」

澪「ヘンじゃないよ。唯なら何もヘンじゃない、全部可愛いよ」

唯「テレるねぇ~……じゃなくって、もう! マジメな話をしに来たんだよ!?」

澪「私は真面目だよ。過去にも何度か唯は私に辿りついたことがあったけど、今の唯が一番可愛い」

唯「辿りついたって言うか、澪ちゃんが一番変わったからね……そういうセリフを恥ずかしげもなく言えるところも」

澪「私を変えたのは唯だよ。……最初の世界の唯は、私の目の前でいなくなったんだ」

唯「えっ……」



77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:17:41.68 ID:bcjfaAOK0

澪「何が起きたのか、理解したくもなかったし認めたくもなかった。でもそれが現実だった。受け入れて、理解して認めて、私はこの世界を創ろうとみんなに持ちかけた」

唯「澪ちゃん…」

澪「唯はいずれいなくなる。そう認めて、私は変わった。自分の気持ちを隠さず、どんどん唯にぶつけた。だってそうしないと後悔する! 絶対に!! もうあんな思いはしたくない!!!」

唯「……ごめんね、澪ちゃん」

澪「いいんだ、唯は何も悪くないんだから」

唯「ううん、そうじゃないよ。澪ちゃんの話を聞いても、私はやっぱり、この世界は…間違ってると思うから」

澪「…そうか。いやぁ…私を否定されたはずなんだけど、唯なら腹は立たないな」

唯「ごめんね、澪ちゃん」

澪「私のほうこそゴメンな、唯。言いにくいんだが、そういうことなら私を選んだのは間違いだよ」

唯「え……っ!?」ドサッ

気がつけば澪ちゃんにベッドに押し倒され、上から押さえつけられていた。
……って、ええ!? なにこの状況!?

澪「……今、家に誰もいないんだ」

唯「み、澪ちゃん、そういう冗談は……!」

澪「冗談じゃないし、それに勘違いしてるよ、唯は」



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:20:06.78 ID:bcjfaAOK0

唯「……どういうこと?」

澪「うん、だから私は唯を襲うつもりなんて毛頭なくて」ガチャリ

唯「ないならなんで私を手錠でベッドに繋ぐの!? っていうかなんでそんなの持ってるの!?」ガチャリ

澪「そして家に誰もいないってことは、誰も気づかないし助けに来れないってこと」

唯「なんかあんまり勘違いじゃないような気が――って澪ちゃん、それ何…?」

澪「ポリタンク」

唯「中身は?」

澪「よく燃える液体」バシャバシャ

……え、ちょっと待って、なにそれ、澪ちゃん、もしかして……

唯「…私を燃やすの?」

澪「この世界が繰り返す『条件』を教えてあげようか、唯」

唯「ねえ、澪ちゃんってば……!」

澪「誰か一人でも死ねば、世界は繰り返す。振り出しに戻る。私達はそう設定した。結果的に、だけどね」

唯「聞いてよぉっ!!」



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:24:28.68 ID:bcjfaAOK0

そうか、澪ちゃんは私を……殺すつもりなんだ。
私が、澪ちゃんと対立したから。澪ちゃんの思いと相反する行動を取ったから。澪ちゃんの思い通りにならなかったから……

唯「やめて澪ちゃん! 助け――」

助けて、と言おうとして思い出す。私は元々、最終的に消えても構わないという覚悟をして、ここに来たはずじゃなかったか。
なら……別に、ここで澪ちゃんに燃やされること自体は問題じゃない。問題は、さっき澪ちゃんが言ったこと。
私が死ぬことで、また世界が繰り返してしまうこと。
私は…きっと、間違った。

唯「……澪ちゃん、教えてくれる? 私はどうすれば、この世界を終わらせることが出来たの?」

澪「誰も死ななければいいんじゃないか?」

唯「…もし私が、真実に気づかなかった場合はどうなるの?」

澪「私達がいろいろ試した結果、どうやったとしても唯が死ぬ未来は変わらなかったよ。だから私はいっそ今、唯を殺してしまおうとしてるんだ」ガチャリ

唯「……? 澪ちゃん、なんで自分にも手錠を?」

澪「唯も一人は嫌だろ? 私も一緒に逝くよ」

唯「なっ…!? そんな、ダメだよ澪ちゃん! 私だけでいいよ…! 私が間違ったんだから…!」

澪「これは私のワガママだよ。私だって、唯を手にかけること、罪悪感が無いわけじゃない……せめてこの身で、少しくらいは償わせてくれ」ガチャリ

唯「ダメだよ! 私は忘れちゃうけど、澪ちゃんは忘れないんでしょ!? きっと、すごく苦しいよ…!」



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:29:15.64 ID:bcjfaAOK0

澪「忘れないよ。忘れてなるものか。唯の痛みも、苦しみも、私が手を下す以上、私が忘れていいわけが無いだろ…!」

唯「澪ちゃん、澪ちゃんっ…! お願いだから…!」

澪「ゴメンね、唯。きっと、すごく熱くて、すごく苦しいよ」シュボッ

唯「澪ちゃんのバカぁっ!!!!」

澪ちゃんの手から、ライターが滑り落ちて。周囲はあっという間に火の海。
ベッドに手錠で繋がれた私と、そこからさらに手錠で自分の腕を繋いだ澪ちゃんに、逃げる術なんてあるはずもなく。
熱い、苦しい、コゲ臭い、そんな全ての感覚は、とうの昔に通り過ぎて。
終わりがもう目の前に見えてきた頃、澪ちゃんが私に囁いた。

澪「……唯、少しだけヒントをあげる」

唯「え…?」

澪「もし、次があって、何かの奇跡が起きて、私とのことを覚えているなら私を選びはしないだろうけど…」


澪「それでも、唯は半分は正解だよ」





    エンド1『微笑みだけを残して』



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:35:47.63 ID:bcjfaAOK0


※紬


【母親の在り方というモノ】


唯「――ねぇ、ムギちゃんってお母さん?」

紬「へ? 急に何? 唯ちゃん」

うん、そりゃ言葉が足りないよね。落ち着け私。

唯「この『世界』を創った人、産んだ人……だから、お母さん」

紬「なるほど……まぁ、否定はしない、じゃダメ?」

唯「うーん……一番お母さんっぽいのはムギちゃんなんだけどなぁ」

紬「唯ちゃんに隠し事はしたくないけど、他のみんなとの約束だから…」

唯「じゃあ、仮にムギちゃんだとして……どうして、こんな世界を創ったの?」

紬「仮に私がお母さんじゃなくってもこう答えるわ。唯ちゃんがいない世界が嫌だったからよ」



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:39:11.13 ID:bcjfaAOK0

唯「じゃあ私が死ななければいいんだよね?」

紬「……そんな簡単に言わないで? 私達だって、何度も試したのよ……でも、ダメだったの、どうやっても、唯ちゃんは…!」ジワリ

唯「あ、ご、ごめんねムギちゃん! 覚えてなかったとはいえ、勝手なこと言っちゃった……」

紬「……たとえどんな万全な状態で挑んでも、たとえ周囲に何も無い状態でも、唯ちゃんは急に倒れてそのまま…起きなかった…」

私のせいとはいえ、自分の最期を聞くのもなんか微妙な気分になる…

唯「……私はもしかして、毎回そんな苦しい思いをしてたのかな?」

紬「安楽死の方法なんて…いくらでもあるわ……眠ったように、あっちに逝けるの…」グスッ

そうか、もしかして私が過去の出来事が夢とごっちゃになってるのは、ここしばらくは眠ったように終わってたから?
そして、きっとそんなことを手配してくれてるのは……

唯「…ごめんねムギちゃん、そしてありがと」

紬「お礼なんて…言わないで…」

唯「…ごめんね、私は何回も苦しませてたんだね、ムギちゃんも」

紬「うっ、ううっ……!」ポロポロ

……もう、これ以上ムギちゃんを苦しませることは出来ないよね。
この世界をどうにかしたい、という私の最初の思いももちろん忘れたわけじゃないけど、もしそれが叶わなかった時は…ムギちゃんの手は煩わせないようにしよう。



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:42:54.69 ID:bcjfaAOK0

――それから、軽音部のみんな一人一人に「お母さんなの?」と聞いたけど、みんな答えはムギちゃんと一緒。
……やっぱり、自信と確証を持って当たらないとそりゃ教えてくれないよね…

でも、その自信も確証も持てないまま、卒業式さえも終わってしまった。

唯「……間に合わなかった、のかな…」

今回も、ダメだったらしい。いつか澪ちゃんも言っていた。何も出来ない、って。
何も出来ないまま、また私は高校生を繰り返す。
…そういえば、いつ私に最期が訪れるのか、それを聞いてなかったことを思い出す。
ま、高校生を繰り返すんだから…早ければ今日かなぁ?

唯「……ムギちゃんの手は、煩わせない」

今はもう放課後、部室に向かえばみんながいる。会っちゃダメだ。
部室をスルーして、私は外に飛び出した。


――道路の向こうから、おあつらえ向きの大型トラックが向かってくる。
あとは飛び出すだけ。少し恐いけど、どうせ一瞬だ。終われば今回の始まりみたいに、私は全て忘れて、憂に起こされて目を覚ますんだ。

――バイバイ、みんな。助けられなくてごめんね。次は頑張るから。

……私は覚悟を決めて、飛び出した。



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:46:04.63 ID:bcjfaAOK0



ドンッ


――飛び出した私は、それ以上の勢いで何かにはじき出され、トラックを通り過ぎた。

唯「え……?」

ブレーキ音。衝突音。悲鳴。流れる血。
でも血だまりの中心にいるのは、私じゃなくて。

唯「あれは……」

どうして、そこに横たわってるの?
どうして、ここに来たの?
どうして…私を助けたの?

見間違えるはずの無い、自分と同じ制服。
見間違えるはずの無い、ふわふわの髪。
見間違えるはずの無い、どんなに遠くでも、どんなに変わり果てても、見間違えるはずの無い……!

私の大好きな、あたたかくて、ぽわぽわしてて、おっとりしてて、お母さんみたいな……!!


唯「……い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」



86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:46:47.51 ID:bcjfaAOK0




――どこをどう走ったかなんて覚えてない。どれくらい走ったかも覚えてない。
覚えてるのは、最初の願い。

――みんなを、こんな世界から、解放してあげたい。

その結果がこれだ。私が生き永らえて、かわりに大好きな人が死んだ。
こんなの、こんなこと、認められるわけがない。許されるわけがない。誰が何と言おうと、私自身が認めない。


認めないから――やり直す。


すごく高い場所から、空へ向かって、私は躊躇なく一歩を踏み出した。



    エンド2『赤い空へ』




87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:49:51.49 ID:beXJQGGv0

ムギは身勝手な澪と正反対だなw



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:50:02.58 ID:H3UPyu1JP

紬トラとは珍しい



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/03(木) 01:56:46.21 ID:pej/g96k0

ムギは天使だな





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唯「寄らば大樹の陰」#前編
[ 2011/02/03 19:02 ] 非日常系 | | CM(5)

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タイトル:
NO:780 [ 2011/02/03 22:49 ] [ 編集 ]

これって日常系っていうのかな?
できればもっと細かく分類して欲しいんだけど

タイトル:
NO:789 [ 2011/02/04 06:57 ] [ 編集 ]

どのカテゴリにしようか悩んだあげく
ぴったり来るものが無ければ日常系に
カテゴリしてます。

何か良いカテゴリ名は無いですかね?

タイトル:
NO:791 [ 2011/02/04 13:20 ] [ 編集 ]

非日常とかはどうでしょうか?

タイトル:
NO:797 [ 2011/02/04 17:54 ] [ 編集 ]

日常系と比べるとなると、非日常系とした方がいいかもしれませんね。

試しに『非日常系』で運用します。
どの作品を非日常とするかは難しいところですが
けいおん原作では展開しなさそうな場合

・キャラクタの死
・キャラクタ同士の恋愛・・・など

の時に非日常系にカテゴライズします。

過去作品のカテゴリ見直しは余裕があるときに行なう予定。
コメントありがとうございます。

タイトル:
NO:801 [ 2011/02/04 20:49 ] [ 編集 ]

大分見やすくなりました。
ありがとうございます。

けいおんSSはキャラクター同士の恋愛が多いし
見た感じが日常系でも恋愛が絡んでくる事もあるだろうから
無理に非日常にはしなくてもいいと思います。

あと鬱描写が嫌いな人もいると思うし(僕とか)
バッドエンドとか百合ネタがある場合は
最初に書いておいてはどうでしょうか

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