SS保存場所(けいおん!) TOP  >  ホラー >  唯「ゾンビの平沢」★1

お知らせ

SS保存場所は移転しました。
現在けいおん!関連の更新はしていません。
今後更新するかは未定です。
SS保存場所






唯「ゾンビの平沢」★1 【ホラー】


SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)@VIPServiseより


http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi?bbs=news4ssnip&key=1296460278&ls=50


唯「ゾンビの平沢」★index




1 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 16:51:18.36 ID:yiRVTPAu0

★1
7月16日

ジリリリリリリィィィ
けたたましくベルの音が部屋に響く。
時計は朝の6時半を指していた。

「はぁ、もう朝かぁ……」

私はベッドからゆっくりと起き上がり、洗面所に向かう。

顔を洗い、鏡を見て寝癖を直した後、自室に戻り制服に着替えて今度はキッチンへ。

「朝ごはんはおにぎりで……お弁当は昨日の残り物を詰めよう」





2 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 16:53:15.24 ID:yiRVTPAu0

私の名前は平沢唯。
私立桜ヶ丘高校に通う3年生だ。
高校から始めた軽音部のガールズバンドでギターをしている。

バンド名は放課後ティータイム。
その名の如く、放課後の部活時間にお茶を飲む事から付いた名だ。
私はそのまったりとしたティータイムが大好きだった。
練習時間よりお茶を飲む時間が長く、周りからはよく何部なのかと冷やかされたけど、
合宿にライブと、それなりに部活らしい事もした。

バンドの仲間は皆良い子達ばかりで、私のかけがえの無い友人となった。

そんな私の高校生活は充実していた。
しかし、その楽しい高校生活はある日突然無くなってしまったのだ。



3 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 16:56:18.62 ID:yiRVTPAu0

「おはよう、お姉ちゃん……」

妹の憂が起きて来た。

唯「おはよう憂。ほら、涎垂れてるよ~」

憂「う~?」

私は妹の口元をハンカチで優しく拭った。

唯「女の子なんだから、ゾンビになってもこういう所は気を付けなきゃ駄目だよ?」メッ

憂「えへへ、ありがとうお姉ちゃん」ニッコリ

唯「おにぎり作ったから、一緒に食べよ?」

憂「うん」ニコ



4 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 17:00:15.23 ID:yiRVTPAu0

唯「おいしい? 憂」

憂「うん、お姉ちゃんの作ったマシュマロおにぎり凄く美味しいよ」ニコ

ゾンビになっても、私の唯一の妹である事に変わりはない。
憂と一緒に食事をする事が、今の私にとって一番の安らぎだった。

唯「あ、憂、ご飯粒がほっぺに付いちゃってるよ~」

憂「あう~?」

唯「お姉ちゃんが取ってあげるね」ヒョイ

憂「ありがと~」ニコリ

唯「食べ終わったら歯磨きして、一緒に学校行こ?」

憂「うん!」ニコ

私は、本当は学校になんて行きたくなかった。
だって、あの学校に「人間」はもう私しかいないのだから。



5 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 17:04:48.66 ID:yiRVTPAu0

事の発端は、私が2年生の夏休みに入って間もない頃。
米国で起きた、世界有数の大手製薬会社で起きた爆発事故。
新聞やテレビ、ネットでも大々的に取り上げられた。
死者は千数百人に上り、全メディアが悲劇と謳い悲しみを煽ったが、
今にして思えば、そんなのはそれから起こる惨劇の些細な序章に過ぎなかったのだ。

爆発から二ヶ月後、米国で「噛み付き病」と呼ばれるものが流行りだした。
識者達は、人が人に喰らい付く、狂犬病の様なものだと説明した。
そして、近いうちに予防薬・治療薬が出来て沈静化するだろう、という見解を示した。

しかし、実際は狂犬病程度で済む問題ではなかった。
識者達の見解は、最悪の方向に裏切られたのだった。

まず、このウイルスに対する薬は、そう簡単に出来るものではなかった。
その上、「噛み付き病」は非常に厄介な性質を持っていたのである。



6 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 17:09:39.22 ID:yiRVTPAu0

「噛み付き病」の性質

1 感染経路

「噛み付き病」は、保菌者に噛み付かれる事によって感染する、ウイルス感染症である。
ウイルスは唾液に最も多く含まれ、それが直に血液中に入ると100%感染する。
このウイルス事態は非常に脆弱で、唾液と共に体外に排出されると、ものの僅かで死滅してしまう。
即ち、保菌者に直接噛まれなければ、感染する事はまずないのだ。
また、このウイルスは人間にしか感染しないらしい。

2 潜伏期間

潜伏期間と発症するまでの時間は、傷の状況や個人差によって大きく異なる。
傷が深く大量のウイルスが血液中に入れば、感染後数分で噛み付き行動をする事も有り得る。
正確な期間は分かっておらず、中には発生当時に感染しているにも関わらず、
未だ噛み付き行動を起こしていない人もいるのだ。

しかし、それらは間違った解釈だった。
症状の項でも述べるが、実際は感染と同時に発症もしていたのだ。



7 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 17:16:22.24 ID:yiRVTPAu0

3 症状

感染者かどうか見分けるのは、非常に簡単だ。
感染すると、徐々に皮膚の色素が抜けていき、およそ一週間で雪の様に白くなる。
日本人同士であれば、一瞥しただけで感染者か否か判別出来るだろう。

次に、生命力・運動能力の向上。
このウイルスは、生物の生命活動を爆発的に高める作用があるらしいのだが、
その所為か、常人ではありえない身体能力と回復力を持つのだ。

故に、噛み殺された筈の人間がすぐに息を吹き返し、近くの人間を襲う事もあったとか。
その様は、病気のそれというよりもむしろ「ゾンビ」といった方が正しいかもしれない。

その分燃費が悪くなり食欲が増すのではないか、という指摘には一応「YES」と答えよう。
実際には、消化・吸収効率が格段に上がり、それ程大食いにはならない。
また、その所為か排便・排尿が減るようだ。

そして、感染すると「食肉」の欲求が尋常でなく高まってゆく。
この「食肉」とは、私達人間が普段食べている肉では全く駄目なようなのだ。
理由は分からない。ただ、体が、脳が欲するのだという。

人 間 の 肉 を 。



8 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 17:21:34.91 ID:yiRVTPAu0

それは例えるなら、薬物中毒患者が欲する「薬物」を「人肉」に変えると分かり易いだろう。

では、感染者同士の共喰いはあるのか?
答えは「NO」だ。

感染者同士は、外見ではない「何か」で互いを認知出来るらしく、互いの肉を喰い合う事はない。
肉好きの人間でも、普通は人肉を食べたがらないのと同じ理屈だそうだ。

それはつまり、「感染者と非感染者は異なる生物」という事を意味するのだという。

しかし、この食肉衝動は理性で抑える事が出来るらしい。
それこそが、この病の最も恐ろしい所なのだ。



10 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 17:31:52.34 ID:yiRVTPAu0

感染者と非感染者の違いは何か。
肌の色?そんなものは非感染者同士だって大いにある。
生命力・運動能力だって、当然個人差がある。

決定的に違うのは、「食肉衝動」この1つである。

ウイルス感染だが、噛み付かれない限り感染する危険性は0だ。
即ち、理性で食肉衝動を抑えられさえすれば、感染の危険はない。
普通の人間となんら変わりは無いのである。

エイズの人間はどうか。
保菌者を危険な存在として隔離する事を、現在の国際社会は是とするだろうか。
刑期を終えた薬物中毒患者はどうなる?
病院に通いながら中毒を克服しようとする人間を、危険因子とし刑務所に拘留し続けるべきなのか。
精神病患者が殺人を犯した場合はどうなる?
現在の日本の法では、刑事責任能力が無ければ無罪だ。
酒癖の悪い人間に、酒を飲むなと強制する事は可能か?
では、酒癖の悪い人間は無害と言えるのか。

人によって考えはそれぞれだろう。
しかし、確実に言える事がある。
もしこの人達を隔離・規制しようとすれば、
世界中の自称人権団体なる者達が一斉に騒ぎ立てるだろう。
人権を、平等を、と。

ならば、この「噛み付き病」の感染者をどう扱えば良いのか?



11 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 17:36:46.66 ID:yiRVTPAu0

世界はこの病を持て余した。

この病がどの程度危険で、どの程度の規制を掛ければいいのか。
理性の弱い人間はまさに狂犬、感染してから数日のうちに大量殺人を起こすケースもあった。
理性の強い人間は、未だ普通の人と変わらぬ生活を送っている。

犯罪を犯す人間と犯さない人間の違いは何か?

それは理性の強さだ。
悪いのは病気ではなく、理性を持たぬ人間の方なのだ、世界はこう結論付けた。

つまりは、患者の人権を優先すべきという事である。
人の驕りが楽観的視観を助長する。
所詮は狂犬病と似たようなもの、治療薬だって今の科学技術があればすぐに開発される筈だ。

この瞬間、人類滅亡への序曲が始まったのだ。



13 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 17:44:35.14 ID:yiRVTPAu0

当初、世界に表立った変化は無かった。
所謂「噛み付き事件」なるものが米国で起きる事はしばしばあったが、
全米の凶悪事件の割合から見れば、取るに足らない程度のものだった。
また、その頃はこの事件の関連での死者が少ない事が、その存在を薄めた。

人間が人間を噛み殺すというのは、非常に労力のいる行為だ。
噛まれる場所にもよるが、腕や足に噛み付かれ、肉を削がれた程度で人間は死なない。

「噛み付き事件」を起こす人間(ゾンビ)に理性は無いし、
肉食動物としての野生があるわけでもない。
所構わず周囲の人間に襲い掛かり、その肉を噛む。ただそれだけだ

噛まれる方も抵抗するから、肉体的に優位に立つ感染者でもそうそう決着は付かない。
その間に周囲の人間が止めに入り、いずれは警官も到着する。
多勢に無勢、いくら屈強な男であろうと、数で圧倒されればなす術もない。

傷害事件発生、犯人確保。それで終わりだ。

しかしそれが、結果として死者が出るよりも恐ろしい事態を招いた。
保菌者の爆発的増大。

そして、ある現象に注目が集まり始める。

「スポーツにおける噛み付き病感染者の優位性」



14 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 17:48:24.04 ID:yiRVTPAu0

噛み付き病感染者は、筋組織に特殊な変化が起こり、
常人よりも遥かに優れた運動能力を手にする事が出来るのだ。

また、怪我をしても、その直りが常人よりも遥かに早い。
スポーツ界では、保菌者に金を払って感染させて貰うという事態にまで至った。
さらには、スポーツ選手を目指す子供に、親が故意に感染させるというケースすら発生し始めた。

流石に事態を重く見た米政府は、
故意による噛み付き病感染の全面禁止を決定する。

しかし、故意かどうか見分けるのは至難な上、
それはもはや米国一国で済むような問題ではなくなっていた。

スポーツ選手を目指す近隣諸国の人達が、保菌者を求めた。
闇のブローカーがその願望を実現させた。
新たなる人身売買、しかも売られる方が非人道的扱いを受けるわけでもなく、むしろ高待遇だ。

人の欲望がこのウイルスを世界に蔓延させた。



16 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 17:52:34.94 ID:yiRVTPAu0

唯2年 1月15日

このウイルスが日本社会に蔓延するキッカケを作ったのは、ある女子高生だった。
帰国子女と名乗るその女子高生は、詳しい経緯は語らなかったが、
米国で噛み付き病ウイルスに感染したらしい。

日本人離れした、その白く透き通った肌は、画質の悪い投稿動画でも十分に伝わる程だった。
その子は言った。感染した事でニキビ等で酷かった自分の肌が、こんなにも綺麗になったと。
感染前と感染後の比較を映したその動画は、各動画サイトに転載され、大きな反響を呼んだ。

ただの比較動画なら、これ程の反響は無かっただろう。
この5分弱の動画の人気の本質は、最後の10秒に凝縮されていた。

「交通費+1万円で噛み付き病ウイルス売ります。東京在住。メルアドは……」



19 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 17:58:20.39 ID:yiRVTPAu0

動画はすぐに運営によって削除された。
けれども、一度流出した動画を止める事は不可能だった。
某有名匿名掲示板では、連日この話題で賑わっていた。
その動画の内容が、真実なのか否か……。

そんな事を必死に議論した所で、答えなど出る筈がなかった。
分かっているのは、その動画が存在したという事実だけ。
その内容が真実かどうかなど、当事者以外に分かる筈が無い。

実際の所、それが真実であろうが無かろうが、彼らにとってはどうでもよい事なのだ。
彼らにとっての情報とは、所詮暇つぶし程度のモノでしかないのだから。

ネットには情報が氾濫している。
しかし、必ずしもそれらの情報が真実とは限らない。

もちろん、それはその他のメディアについても言える事だ。
ただ、ネットでは誰でも自由に、簡単に情報を発信する事が出来る。
噂話や迷信すら、あたかも事実の様に語る事すら簡単なのだ。
愉快犯がとんでもないデマを流す事も日常茶飯事である。
それ故、ネットの情報は信頼性が低いと言わざるを得ないのだ。

逆に、組織じゃないからこそ出てくる驚愕の真実、スクープもある。
情報流出を未然に防ぐ事が不可能だからだ。

そんな重大な情報でも、彼らにとってはどうでもいい事なのだ。
それを知った所で、彼らに出来る事など何も無い。
所詮はただの傍観者に過ぎないのだから。

「ああ、そうだったのか」と思った所で、現実は何も変わらない。



20 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 18:03:41.53 ID:yiRVTPAu0

ついには、その女子高生に実際に噛まれてきたという者まで現れ始めた。
丁寧にも、その噛み傷の写真を携帯で撮り、証拠として提示もしていた。

ここでまた不毛な議論が始まる。
その噛み傷が本物であるか否か。

仮に傷が本物だったとしても、それを付けたのが誰なのかなど特定できる筈もない。
けれど、そんな事はどうでもいい。
面白おかしく、暇さえ潰せれば彼らは満足した。

それらの情報は全て真実だった。
この時点で、もしその事をそこにいた全ての人が理解出来ていたなら、現在(いま)は変わっていただろうか。

何も変わらない。

行動を起こせない無力な人間がいくら集まった所で、それは何の力も持たない。
ただ力を持っている様な錯覚に陥ってるに過ぎず、彼らの妄想的自己満足以外の何物でもない。

0にいくら0を加えようが0なのだ。



21 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 18:11:14.43 ID:yiRVTPAu0

翌日、都内の公園で30代の男性が、20代の女性を噛み殺す事件が発生した。
しかし、事件の残虐性から事の真相は伏せられ、普通の暴行事件としてニュースに取り上げられた。

「残虐な真実は、極力国民に知らせない様にする」
そんなメディアの姿勢が、完全に裏目に出たのだ。

以降、噛み付きウイルスに関して、表向きは下火となる、
しかし、会員制の携帯サイトなど、表からは見えにくい小さなコミュニティ内では、
秘密の美容法として女子中高生を中心に、日本全国に拡大していった。

ネットでは、噛み付き病がカニバリズムという理解が一般的であったが、
テレビなどのマスメディアはその残虐性から、「特殊な摂食障害」と報道していた。
その事が、少女達の噛み付きウイルスに対する危機意識を著しく低下させていた。

また、この食肉衝動は、人間の持つ攻撃性とも関連があった。
一般的に、男性より女性の方が攻撃性は低く、
食肉衝動も、男性より女性の方が影響を受けにくかったのである。
その事が、ウイルスの拡大を覆い隠す帳となっていたのだった。



22 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 18:14:10.88 ID:yiRVTPAu0

唯3年 7月16日

唯「お弁当持った?」

憂「あ、忘れてた……取ってくるね!」パタパタ

唯「憂……」

憂「持ってきたよ~」ニコ

唯「……じゃあ、行こっか」

憂「うん!」ニコ

私は憂の手を握り、玄関のドアを開けた。

和「おはよう唯、一緒に学校に行きましょう」

唯「うん、和ちゃん」

和ちゃんはゾンビになっても、とても優しい女の子。
あの日以来、毎日私の家までお迎えに来てくれる。



23 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 18:18:31.34 ID:yiRVTPAu0

律「おいーっす!」ビシ

澪「……おはよう」

唯「おはよ~りっちゃん、澪ちゃん」ビシ

和「おはよう」

憂「おはようございます」ニコ

唯「今日のりっちゃんのおやつは何かな~」

律「ふっふっふっ……ティータイム、楽しみにしとけよ~」ニヤリ

唯「うん、期待してるよ~」

律「和と憂ちゃんもな」ビシ

和「ふふふ、楽しみにしてるわ、律」

憂「はい」ニコ

和ちゃんと憂はあの日の後、一緒に軽音部に入部してくれた。
生徒会はもう無い。
生徒会役員は、和ちゃん以外は皆死んでしまったから。

ゾンビは生命力が高く、手足がもげた程度では死にはしない。
そんな事をされれば、当然、激痛で悶え苦しむだろうけど……。
だからといって、不死身というワケでもない。
いくら生命力が強いといっても、脳や心臓等、重要器官に致命的なダメージを受けると死んでしまう。



24 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 18:22:18.33 ID:yiRVTPAu0

梓「おはようございます」

純「……おはよう……ございます」

あずにゃんと純ちゃんが来た。
勿論、二人ともゾンビだ。
純ちゃんも軽音部の新しいメンバー。
ジャズ研の部員はもういない。

皆の挨拶に続いて、私も二人に挨拶をした。

唯「おはよう純ちゃん、ゾンビにゃん~」

梓「なんですか、そのゾンビにゃんて……」

唯「ゾンビあずにゃん、略してゾンビにゃんだよ~」フンス

私は以前の様に、あずにゃんに抱き付こうとした。

梓「やめてください!!!」

あずにゃんは私を強く突き飛ばした。
その勢いで、私は尻餅をついた。
場が静まり返る。
天然と言われる私にだって分かる。
今の私の行為が、あずにゃんにとってどれだけ辛い事なのか……。



25 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 18:25:35.54 ID:yiRVTPAu0

梓「す、すいません唯先輩……。でも前に言ったとおり、そういう行動は今後一切しないで下さい……」

唯「……。」

梓「唯先輩……?」

唯「……なんで?」

梓「だって私は……以前の中野梓じゃないんです……」

俯きながら、あずにゃんはそう呟いた。
尻餅をついていたので、俯いてるあずにゃんの目に涙が溜まっているのが見える。
私はゆっくり立ち上がってから言った。

唯「あずにゃんはあずにゃんだよ……何も変わってないよ。みんなだってそうだよ……」

私は和ちゃん達の方に振り返った。

唯「世界は変わっちゃったかもしれない……。でも私達は変わってないよ……変わってないんだよ!!」

皆俯いている。



26 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 18:29:07.17 ID:yiRVTPAu0

唯「憂、こっち見て……私をちゃんと見て……」

憂が私を真っ直ぐ見詰めた。目には涙が溜まっていて、今にも溢れそうだった。

唯「憂は私の妹じゃなくなったの? 私の事が嫌いになったの?」

憂「私は……お姉ちゃんの妹だし……お姉ちゃんの事が……大好きだよ……」

小さな声だった。でも、はっきりとした口調で答えた。

唯「和ちゃんは私の幼馴染で、一番の親友でしょ? 違うの?」

和「そうね……その通りよ」ニコ

和ちゃんは笑って答えてくれた。でも、その瞳は潤んでいた。
そしてそれは、今までで一番優しい和ちゃんの笑顔だった。

唯「りっちゃん、澪ちゃん、放課後ティータイムの絆って、こんな事で壊れる位脆いものだったの?」

律「んなワケないだろ! 何があろうと私達の絆は壊れやしねーよ!!」

りっちゃんは私を真っ直ぐ見てくれた。
澪ちゃんはまだ俯いてる。

唯「澪ちゃんは?」

澪ちゃんは俯いたままだったけれど、ちゃんと言ってくれた。

澪「私が……唯を嫌いになる事なんて……絶対……無いよ」



27 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 18:34:00.50 ID:yiRVTPAu0

私はあずにゃんと純ちゃんの方に向き直った。

唯「純ちゃん! 純ちゃんは憂とあずにゃんの親友でしょ? それは何があっても変わらないでしょ?」

純「……。」

唯「純ちゃん!」

純「……はい。」

純ちゃんは小さく頷いた。
私は、明るくて陽気な純ちゃんの、今にも泣き出しそうな声を初めて聞いた。

唯「憂とあずにゃんの親友なら、私の親友なんだよ……私は純ちゃんの事が大好きなんだよ……」

純「はい……」

俯いた純ちゃんの顔から、大きな雫がポタポタと地面に落ちていった。



28 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 18:35:25.07 ID:yiRVTPAu0

唯「分かったでしょ、あずにゃん……。何も変わらない、変わってないんだよ……」

唯「だから私はあずにゃんに今までと同じ様にするし、それを変えるつもりはないから!」

梓「でも駄目なんです、私達はゾンビなんです……」

あずにゃんが顔を上げて私を見た。
目を真っ赤にして、鼻水を流して、声を啜りながら……。

梓「私は唯先輩が大好きです、だからお願いです、分かってください……」

後ろからも鼻を啜る音が聞こえてきた。

唯「もし、みんながゾンビになった事で、私に対する態度を変えると言うのなら……」

唯「私もゾンビになるよ……」



29 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 18:39:47.42 ID:yiRVTPAu0

和「唯!!」
憂「お姉ちゃん!!」

唯「だって、私はみんなと一緒がいいもん……何があったって離れたくないもん……」

唯「誰でもいいから、私を噛んでよ!!」

私は痛い事をされるのが嫌だ。
でも、心が痛くなる事はもっと嫌だ。
ゾンビになる事で皆と一緒にいられるというのなら、
どんなに痛くたって、苦しくたって耐えられる。

お願いだから……誰か私をゾンビにしてよ……。

律「そんな事……ぜってー誰にもさせねーし」

梓「そんなの絶対嫌です!!」

なんで……なんでみんな私の事を差別するの……?
みんなの気持ちは分かるよ……でも苦しいんだよ……。
こんな気持ち耐えられないんだよ……。

憂も和ちゃんも、私の所為でゾンビになった。
頭も良くて、運動神経抜群の二人だ。
私に構わず逃げていれば、ゾンビに噛まれる事なんて絶対に無かった筈なんだ。
その証拠に、ドジで運動音痴な私が、かすり傷一つ無く、無事にあの日を生き延びた。

二人が私を守ってくれたから……。



30 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 18:44:12.26 ID:yiRVTPAu0

澪「……いい加減に……しろ、唯……」

澪ちゃんが私の顔を見て言った。

澪「私達はみんなで話し合って……唯をゾンビから守るって決めたんだ……。
  唯だけは……何があっても……絶対に守るって……。
  その気持ちがあるからこそ……私達はあの学校の中で、まともな精神を保つ事が出来るんだ……。
  唯の気持ちも分かる……でも……唯が人間である事が私達の最後の支えなんだ……。
  だから……ブレないでくれ……唯……頼む……」

そう言うと、澪ちゃんはまた俯いてしまった。

唯「ごめん澪ちゃん……あずにゃんもごめん……みんなごめん……」

私はみんなの優しさに涙が出そうになった。でも堪えた。
ここで泣いちゃ絶対に駄目だと思った。
皆が私の心の支えで、私が皆の心の支えなんだ……。
どっちが崩れても駄目なんだ……私は心に言い聞かせた。
そして空を仰ぎ、目から湧き出る水が零れるのを必死に堪えた。



31 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 18:47:35.13 ID:yiRVTPAu0

律「辛気臭いのはもうやめようぜ!」

赤い目をしたりっちゃんが、元気で明るい声を出した。

和「そうね。それに、ここでこんなに道草喰っていたら遅刻するわ」

律「この話はこれでお終いな。蒸し返すのは無しだぞ!」

唯「了解です、りっちゃん隊長!」ビシ

律「よし、じゃあ学校に行くぞ唯隊員」ビシ

こうして私達は再び歩き出した。

私立桜ヶ丘高校……私達の日常の終焉が始まった場所へ……。



32 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 19:02:36.16 ID:yiRVTPAu0

そもそも、何故私達は崩壊してしまった桜ヶ丘高校に向かうのか。
それは、私達にとって、いや、ほとんどの学生にとって「学校」が日常そのものだからだ。
そして、その日常こそが、このウイルスの進行を遅らせる方法の一つなのである。
ある精神学者が提示した、噛み付き病に関する調査報告書の中にそれはあった。

私達学生は、皆必ずある共通の盟約の様なものを持っている。

「学校に行く事」

学校が好きであろうが嫌いであろうが、学校に行かなくてはならないのだ。
その「しなくてはならない」という目的意識が自我を確立する。
自我を確立する事が、食肉衝動という本能に抵抗する理性を生むのだ。

感染者の病状進行は、軽度のレベル1から重度のレベル5という5段階で表される。

レベル1とは、感染初期の状態だ。肉体的変化は起きるが、精神的変化は、常人にはまず現れない。

レベル2とは、感染後7日経ち、皮膚の色素が完全に抜けた状態の事だ。
精神的疾患を持つ者や、異常性癖者は、この時点で殆どが「崩壊者」状態に陥る。
普通の精神の持ち主であれば、食肉欲を理性で抑え「崩壊者」状態になる事はまずない。

レベル3とは、感染後7日目以降の安定期の事だ。この期間は、個人差により大きく異なる。
自我をしっかりと持ち、精神が安定している者程この期間が長くなる。

レベル4になると、言語障害、記憶障害、手足の痙攣などが現れ始める。
自我崩壊の序曲だ。

とは言え、レベル4の初期であれば、常人と比較してもその差は微々たるものだ。
言葉がすぐに出てこない、ちょっとした物忘れをする、たまに手足が震える、ぼーっとする、それは常人にもありえる事だ。
しかし、レベル3の時とは異なり、非常に危うい面も出始める。



33 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 19:12:08.48 ID:yiRVTPAu0

非感染者の血の臭いに非常に敏感になるのだ。

このウイルスは、唾液を媒体にし他者の血液に侵入する。
その習性が、感染者の血に対する執着・過敏な反応を生むのだろう。
レベル4の者がこの匂いを嗅ぐと、言葉では言い表せぬ苦しみ、俗に言う禁断症状が現れるのだ。
大抵の者は、ここで自我が崩壊し、レベル5へと移行する。

レベル5になった者は自我を失い、「肉」を求めるだけの人食いに成り果てる。
この人食いの事を、識者達は「崩壊者」と呼んだ。

「崩壊者」達のその様は、まさに生者の肉を求め跋扈する「ゾンビ」そのものだ。
こうなるともう、以前の状態に戻る事は不可能となる。

そしてもう一つ重要な事がある。

レベル1の状態から、一気にレベル5まで移行するパターン。
このウイルスは、人間の持つ生命の力を爆発的に高める。
そして、その力を最も大きく高める要因が、「生命の危機」なのだ。

初期感染時に母体が危機的状態にある場合、中度のレベルを一気に飛び越え「崩壊者」になる。
もちろん、レベル2、3,4の状態である場合でも同様だ。
肉体に多大な損傷を受けると、「崩壊者」へと覚醒する。



34 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 19:15:27.15 ID:yiRVTPAu0

私の友人達は、私と六つの盟約を結んでいる。

一つ、学校に行く事。
二つ、ティータイムを行う事。
三つ、楽器の練習をする事。
四つ、平沢唯をゾンビ達から守る事。
五つ、上の四つを毎日継続する事。

そして最後に、傍にいる者が自分から離れるよう促した場合、平沢唯は必ずそれに従う事。

それが私達9人、「新生放課後ティータイム(新HTT)」の掟。絶対に破ってはならないもの。

私達は絶対に希望を捨てない。
必ず特効薬が発明され、私達は元の緩い日常生活に戻れると。

既に失ったモノは大きすぎるけれど……。
それでも、私達にはまだ失いたくないモノが沢山あるんだ。



35 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 19:19:44.95 ID:yiRVTPAu0

校門が見えてきた。
そこには、二人の女生徒達が立っていた。
七月も半ばのこの時期に、彼女達も私達と同じく冬物のブレザーを着ている。

これが、「平沢唯を守る会」の目印だ。

なぜこの暑い中ブレザーなのか。
りっちゃん曰く、「防御力が高そうだから」

ゾンビだって暑さ寒さは感じる。
「崩壊者」でない限り、服装は季節によって変わるのだ。

では、誰もがブレザーを着る冬はどうするのか。
りっちゃん曰く、「また、あの着ぐるみでも着ようか」
澪ちゃんのゲンコツがりっちゃんの後頭部に炸裂した事は言うまでも無い。

二人の女生徒達も私達に気が付いたようだ。
一人の女生徒がこちらに向かって手を振っている。
もう一人は不機嫌そうにそっぽを向いている。
あくまで不機嫌そうに見えるだけであって、実際に不機嫌なのではない。
彼女、若王子いちごはそういう風に見えやすいタイプの人間なのだ。
もう一人の手を振っている彼女は木下しずか、笑顔がかわいい女の子だ。



36 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 19:33:34.11 ID:yiRVTPAu0

しずか「みんな、おはよ~」
いちご「……遅い。」

和「遅くなってごめんなさい」

律「いちごは私たちの事心配してくれてたのかな~?」

いちご「……律、ウザい。」

律「素直になれよ、いちごしゃん~」ギュッ

いちご「……暑苦しい。」

満更でもなさそうな顔をしている。
私とあずにゃんのハグも、傍から見たらこんな感じだったのだろうか。

唯「二人とも本当にごめんね」

しずか「ううん、全然平気だよ」
いちご「……別に気にしてない。」

和「教室に行きましょう」



37 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 19:43:24.31 ID:yiRVTPAu0

外観は以前と全く変わっていない桜ヶ丘高校。
あの日の後、7日間で業者が全てを元通りにした。

でも、直ったのは外見だけ。
もうここに「桜ヶ丘高校」は存在しない。
でも、それは何があっても口にしてはいけない。
それを口に出せば、私達ですら崩壊しかねないから。

以前は各学年3クラスあったけれど、現在は各学年1クラスしかない。
それで足りてしまう程の生徒数になってしまったのだ。

その全てのクラスは3階にある。
3階を使用するのは、見晴らしがよく、遠くの景色まで見る事が出来るからだ。
何かが起これば、逸早くそれを知る事が出来る。

階段を上って、手前から1年生、2年生、3年生の教室となっている。
私はこの廊下を歩くのが嫌だった。
私がこの学校で唯一の「人間」なのだという事を、嫌でも実感してしまう。

教室の前を通る時、下級生達の黒く光の無い視線が私に集中する。
もともと私は鈍感で、他人の考えている事など読めない人間だ。
そんな私でも感じてしまう程の強烈な意思が、そこには含まれていた。

その漆黒の視線に感じるもの……。
悪意や狂気、敵意といった類のモノではない、もっと異質な何か。

「食欲」

その視線から、私は彼女達の強烈な食欲を感じていたのだ。



38 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 19:49:41.12 ID:yiRVTPAu0

律「ういーっす」ガラガラ

いつもりっちゃんが最初にドアを開ける。
次に澪ちゃん、いちごちゃん、しずかちゃん、私、和ちゃんの順に入る。
この順番で教室に入る事が、いつの間にか私達のルールになっていた。

誰もこちらに視線を向けない。
3年生は下級生達と違って、私に視線を向ける事は無い。
私は挨拶を絶対にしない。してはいけない。
それは和ちゃんにきつく言われている事だ。

皆分かっているのだ。
私が皆の崩壊のキッカケを招きかねない、危険な存在だという事に。
だから、私はクラスメイトを刺激しない様、細心の注意を払う。
私はこの空間で息を潜め、ただひたすら空気となるのだ。

ここは、私にとって「教室」と呼べる場所ではなかった。

本来なら、私はこの場に居ていい人間ではない。
皆、自我を保とうと必死にここに居るというのに、
私の存在は、それを危ういモノにしているからだ。

しかし、私はここに居なければならない。
その一番の理由は、生徒会を失った和ちゃんだ。

和ちゃんは生徒会の活動で忙しかった為、
生徒会役員以外で親友と呼べる者は、私しかいなかったのだ。
もちろん、りっちゃんや澪ちゃんとは親しい友人ではあるが、
「軽音部」という絆を持たない和ちゃんは、やはり円の外側の人間なのだ。



関連記事

ランダム記事(試用版)




唯「ゾンビの平沢」★1
[ 2011/02/03 20:41 ] ホラー | | CM(1)

コメント(アンカー機能)
●>>1と半角で書き込むと>>1と記事へのアンカーが生成される。
●*1と半角で書き込むと1とコメントへのアンカーが生成される。
上記の2つのアンカーが有効なのは該当記事のみ。

タイトル:
NO:888 [ 2011/02/10 20:38 ] [ 編集 ]

頭もなく運動神経もなくて鈍感、顔は平均ってwゾンビ設定だけ加えてキャラ壊したくないなら唯は敏感な奴にするべき、他人に敏感それが唯の取り柄だろ

コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

サイト関連
メール ツイッター 最新記事一覧(30件)
ユーザータグ 検索

U:
P:
色々変更
好みのカラーコードをどうぞ

記事の背景色変更


本体の背景色変更


名前の色変更
IE8:重
火狐4.01:軽
chrome:軽


広告4
広告5
広告6