SS保存場所(けいおん!) TOP  >  ホラー >  唯「ゾンビの平沢」★2

お知らせ

SS保存場所は移転しました。
現在けいおん!関連の更新はしていません。
今後更新するかは未定です。
SS保存場所






唯「ゾンビの平沢」★2 【ホラー】


SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)@VIPServiseより


http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi?bbs=news4ssnip&key=1296460278&ls=50


唯「ゾンビの平沢」★index




39 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 19:57:55.33 ID:yiRVTPAu0

★2
私の席は、最も窓際に近い列の一番後ろ。
前から、しずかちゃん、いちごちゃん、そして最後尾に私。
私の右横には和ちゃんがいて、その前にはりっちゃんと澪ちゃんがいた。

廊下側前列の方には、元3年2組の佐藤アカネちゃん、佐伯三花ちゃん、野島ちかちゃんがいる。
あの日までは、あの3人も「人間」だった。
アカネちゃんは、あの日のりっちゃんとエリちゃんの事で軽音部と気まずくなり、
以来、互いに声をかける事すら無くなった。

同じバレー部の三花ちゃんと、三花ちゃんの友達のちかちゃんは、
たまにしずかちゃんと話しているのを見掛ける。

しずかちゃんはいちごちゃんと一番仲が良いみたいだけど、ちかちゃんとは以前からよくお喋りしていた。
私達の中で、彼女達と会話が出来るのはしずかちゃんだけだった。

しずかちゃんによると、三花ちゃんとちかちゃんも軽音部に入りたかったらしい。
でも、そうするとアカネちゃんが孤立してしまう。
アカネちゃんが軽音部に入る事は絶対にないから。
それで二人は軽音部入部を断念したとの事だった。





40 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 20:02:55.34 ID:yiRVTPAu0

さわ子「……おはよう。」

さわちゃん先生が来た。今、学校に来てくれている唯一の教師だ。
最初10名いた教師達は、その後一人二人と姿を見せなくなっていった。
今ではさわちゃん先生が全学年を受け持っている。
といっても、さわちゃん先生が行うのは朝と帰りのHRだけだ。
それ以外の時間は、全て各自自習となる。

自習といっても、普通の学校のそれとは全く違う。
ある子達は調理室で料理をしたり、
またある子達は、体育館に集まって様々なスポーツをしたりしている。
一人で携帯電話やノートパソコンをずっと弄ったりしている子達もいる。
最近では、ぼーっとする子も増えてきた。

さわ子「……それじゃあみんな、今日も一日頑張ってね」

出席を取り終えて、さわちゃん先生は教室を出て行った。
さわちゃん先生は、帰りのHRまで職員室でパソコンを弄っている。
あの日以来、さわちゃん先生はティータイムに来なくなった。

律「うっし、じゃあ音楽室に行くか!」

教室のドアを開けると、先にHRを終えていた2年生3人組が待っていた。

私達9人は音楽室に向かった。



41 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 20:12:30.41 ID:yiRVTPAu0

私達9人は、HR以外の全ての時間を音楽室で過ごす。

以前は、音楽室でまず最初にする事はお茶だった。
けれど、朝ごはんを食べてくればこの時間にお腹は空かない。
そんなわけで、お茶の時間は10時半と15時半から30分ずつ計2回となっている。

基本的に、お茶の時間以外は皆自由行動だ。
ただし、必ず楽器の練習を少しはしなくてはいけない。
午後のお茶の後に、どんなに拙い演奏でも皆で合奏する事が今の軽音部の決まりだからだ。

私達の軽音部には、ティータイムとこの合奏が不可欠だった。
ティータイムは以前の軽音部らしさの象徴であり、合奏には皆との絆を強める役割があった。

りっちゃん、あずにゃん、いちごちゃんは、最初に各自買ってきた雑誌を読む。
りっちゃんはコンビニで買ってきた漫画の雑誌。
あずにゃんは音楽雑誌で、いちごちゃんはファッション雑誌のようだ。
準備室には、三人が買ってきた雑誌が山積みになっている。



42 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 20:16:28.47 ID:yiRVTPAu0

和ちゃんとしずかちゃんは、何か難しそうな分厚い本を読んでいる。

この前、二人の本を後ろからこっそり覗いて見たら、
小さな文字がびっしりと詰まっていて、私は眩暈がした。
たまに二人で本の内容について語り合っている。
和ちゃんとしずかちゃんは、趣味が合うのかもしれない。

澪ちゃんはヘッドホンをして、自宅から持ってきたノートパソコンと睨めっこ。
音楽サイトや情報サイトを巡ったり、詩を書いたりしているらしい。

純ちゃんは人懐っこい性格からか、皆の所を回っている。
澪ちゃんのパソコンを覗いてみたり、あずにゃんと一緒に雑誌を見てたり、
りっちゃんと一緒に漫画を読んで笑ってたり。
でも、和ちゃんとしずかちゃんの本は過去一度覗いたきりだ。

最近では、よくいちごちゃんと一緒にファッション雑誌を読んで、
なにやら二人であーだこーだと論議している。
いちごちゃんがあんなに喋っている姿を、以前の私なら想像する事すら出来なかった。



43 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 20:19:39.30 ID:yiRVTPAu0

憂はヘッドホンを付けて、ムギちゃんの置いていったキーボードを練習している。
以前よりも練習する量が増えていた。
そして、練習している時に、度々不機嫌な顔を見せる様になった。

本人は無意識なのだろうが、誰もがその事に気付いていた。
その理由も分かっていたから、誰も気付かない振りをした。

私はヘッドホンをしてギターの練習を始めた。
この音楽室は、私が唯一ギターを弾ける場所だ。
それが、私の学校生活における最後の救いだった。

家でギターを弾く事は無い。
「崩壊者」は音にも非常に敏感だ。
日常生活以外の音がすれば、それに惹かれて寄ってくるかもしれない。
万が一の為、私は家でギターには触れない様にしているのだ。
私がゾンビであれば、そんな事を気にする必要など無いのに……。

私は夢中でギターを掻き鳴らした。
全てを忘れ、ただただギターを奏でる事に集中した。



44 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 20:26:22.40 ID:yiRVTPAu0

律「そろそろお茶にしよーぜー」

気付けば1回目のお茶の時間になっていた。
憂と和ちゃんが皆のお茶を入れている。

ムギちゃんの居ないティータイム、私はもう慣れた。

お菓子は、私と憂を除いた各自が当番制で持ってくる。
私が外を無闇に歩き回れば、それだけ危険が増える。
だから、登下校以外で私は外を歩いてはいけない。

今の私は籠の中の鳥だ。

でも、籠は私の自由を奪う為のモノではない。
私は籠の中でしか自由を得られない存在なのだ。

りっちゃんは、鞄の中から大量の駄菓子を出した。
りっちゃん達の通学路の途中にある駄菓子屋から「持ってきた」らしい。

和「凄い量ね……」

いちご「……タダだからって持ってきすぎ。」

律「一度これ位の量の駄菓子を一気に食べてみたかったんだよ!」

そうか、駄菓子屋のお婆ちゃんも居なくなったんだ……。




45 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 20:31:35.32 ID:BuWsp7OCo

初っ端からほとんどのキャラがゾンビになっていてワロタ
異常が正常を上回るとそれが普通になるから怖いよな





46 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 20:34:15.92 ID:yiRVTPAu0

駄菓子を摘みながら、熱い緑茶を啜る。
それが全身を駆け巡り、冷たくなった体を火照らせた。

音楽室の冷房は強めにしてある。
夏に冬服を着て冷房、なんて非効率なのだろう。
環境に悪いわね、和ちゃんは笑いながら言った。

ライフラインが未だ健在なのは、
私達と同様、自我を保つ為に日常を維持しようとする人達がいるからだ。
足りない人手は、自衛隊や有志の人達が補っているらしい。
もちろん、その人達もゾンビだ。
たまに町内の見回りをして、崩壊者の「駆除」をしているらしい。

街の商店も普通に営業しているけれど、最近は店員のいない店も増えてきた。
窃盗など今は取るに足らぬ行為で、それを取り締まる気配など無い。

このような状況になったら、略奪が起こるのは必然だろう。
しかし、そのような暴動じみた事はまだ一度も起きていない。
せいぜい、私達のようにちょこっと物資を持ち出す程度のものだ。

ゾンビになると、食肉欲とその他の欲求が反比例するらしい。
症状が進行する程、彼らは無気力になっていく。
そして、虚脱感が増し抵抗力を失うと、症状は加速度的に悪化していくのだ。

何もしなければ、病状の悪化を早める。
だからこそ、私達は無理矢理にでも何かする事を求めなければならない。

軽音部の活動は、その為のものなのだ。



47 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 20:39:03.55 ID:yiRVTPAu0

1回目のお茶の後は、皆楽器の練習をする。

憂はお茶をする前と変わらずキーボードの練習。
りっちゃんは純ちゃんのコーチを受け、エリザベスで練習だ。
ベースを弾けなくなった澪ちゃんの代わりに。

澪ちゃんはパソコンを使って音を奏でる。
キーを押すと、それに対応して様々な音が出るというアプリらしい。

ドラムを叩くのは和ちゃん。
和ちゃんは最初りっちゃんから教わっていたが、
りっちゃんもベースの練習をしなければならないので、
ドラムに関する本を借り、一人で頑張った。
勉強も運動も得意で、練習熱心な和ちゃんは、
すぐにある程度の演奏技術を身に付ける事が出来た。
りっちゃんも、和ちゃんの事をセンスがあると褒めていた。

いちごちゃんはリコーダー、しずかちゃんはピアニカを持ってきた。
二人は同じ小学校で、一緒に音楽クラブに入っていた事があるらしい。

私はあずにゃんとギターの練習だ。
以前はあずにゃんに、真面目に練習してください、とよく怒られたものだが、
今ではそんな事はもうない。
家でギターを弾けなくなってから、私はこの音楽室で誰よりも練習に励んだ。

あの練習熱心だったあずにゃんよりも……。



48 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 20:44:25.79 ID:yiRVTPAu0

お昼、音楽室でお弁当を食べ、私はまたギターを掻き鳴らす。
一心不乱に、時の流れすら忘れる程に。

澪「……そろそろ教室に戻ろう」

時計は14時半を指している。
大体14時40分から15時が帰りのHRの時間。
楽器を置き、私達は教室に向かった。

帰りのHRといっても、連絡事項など何も無い。
ただ一言、挨拶をするだけの儀式だ。
それが終われば、私達はまた音楽室に戻る。

部外者からすれば、それは無駄で無意味な行為に見えるかもしれない。
でも、私達は必ずそれに参加する。

さわちゃん先生に挨拶をする為に。
それがさわちゃん先生が学校に来る理由なのだから。

教室に戻り、暫くしてさわちゃん先生が入ってきた。
クラスを一瞥し、一言挨拶をする。

さわ子「……みなさんさようなら、ではまた明日」

クラスメイト達が次々と教室を出て行く。
私達は最後に席を立ち、また音楽室に向かって歩き出した。



49 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 20:48:35.97 ID:yiRVTPAu0

2回目のお茶が終わり、合奏の時間になった。

最初の曲目は「翼をください」。
その後は順不同に、HTTの楽曲や、音楽の教科書にあった曲などを演奏する。
私はその全ての曲のボーカルも兼任している。

和「ワン、ツー!」カチカチ

音楽室が大音響に包まれる。
私達の奏でる音は音楽室を飛び出し、学校中に響き渡っている事だろう。

私は音の大きさなど気にする事なく、思いっ切りギー太を掻き鳴らす。
この瞬間だけは、私を囲う籠など存在しない。

平沢唯は、音楽という翼で自由に大空を飛び回った。



50 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 20:58:19.69 ID:yiRVTPAu0

合奏の後は、あずにゃんの提案がキッカケで、私が独奏を披露する事になっていた。

最初は、あずにゃんや澪ちゃんに借りたCDの中から気に入った曲を演奏していた。
そのうち、他の皆もCDを持ってくる様になった。
気付けば、私のレパートリーは膨大な数になっていた。

律「また唯は上手くなったな」

澪「……ああ」

しずか「私、感動しました!」

いちご「……凄い。」

憂「良かったよお姉ちゃん」ニコ

梓「やっぱり唯先輩は凄いです!」

純「ホントに凄いですよ、唯先輩……」

和「最高だったわ、唯」

皆が私を絶賛してくれた。
練習時間が増えた事で、私の演奏技術は格段に上がっていた。
でも、私は少しも嬉しくなかった。むしろ辛かった。

私が上達するのと反対に、皆の演奏は稚拙になっていったのだ。



51 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 21:03:23.04 ID:yiRVTPAu0

症状が進行して脳神経に障害が出始めると、細かい作業が苦手になる。
それが、演奏技術を著しく低下させていたのだ。

感染初期のりっちゃんのドラムは凄かった。
それは、脳が正常な内に運動能力の向上があったからだ。

脳に異常を来せば、単純な運動なら問題なく出来ても、
楽器演奏の様に緻密な操作は、徐々に出来なくなってしまう。
彼女達の演奏が、まさにそれを物語っていたのだ。

そしてその事が、憂に苛立ちの表情を作らせ、澪ちゃんがベースを辞める原因となった。

りっちゃんは、澪ちゃんがベースを辞める事に猛反対した。
でも、澪ちゃんの意思は揺るがなかった。

澪ちゃんはりっちゃんに大切なベースを託した。
私の代わりにベースを弾いて欲しいと。

翌日から、りっちゃんはベーシストになった。
あんなに反対していたのに、なぜ翌日にはそれをあっさり受け入れたのだろうか。
私には分からない何かが、幼馴染の二人にはあったのだろう。
昔から澪ちゃんにベースを触らせて貰っていたらしく、ある程度の基礎は出来ていた。

ベーシストのりっちゃんはカチューシャを外していた。



52 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 21:07:25.67 ID:yiRVTPAu0

外はもう暗くなり始めていた。
時計は既に19時を回っている。

律「今日はそろそろ解散とするか」

澪「……そうだな」

私達は音楽室を後にした。

校門でいちごちゃん、しずかちゃんとはお別れだ。

いちご「また明日。」
しずか「気をつけてね」

別れを告げて、私達も帰路に就く。

皆と別れ別れになる帰り道、私はどうしようもなく怖くなる。

明日もみんなに会えるだろうか?

そんな私の感情に関係なく、無慈悲にも別れは淡々と私達を切り裂いていった。



54 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 21:12:22.23 ID:yiRVTPAu0

唯「ただいま~憂~」

憂「ただいま、お姉ちゃん」ニコ

唯「おかえり~憂~」

憂「おかえり、お姉ちゃん」ニコ

これが帰宅時の私達のルールだ。
二人で「ただいま」を言い、二人で「おかえり」と答える。
私は憂に、憂は私に。

一人なら滑稽な姿になってしまうかもしれないが、私達は二人なんだ。

雨戸は常に閉めっぱなしにしているから、部屋は真っ暗だ。
こんな所に一人で帰ってきたら、寂しさで涙を流してしまうかもしれない。
でも、私達は二人なんだ。二人なら、どんな暗闇だってへっちゃらだ。

私は着替え、憂と一緒に家事に取り掛かる。
室内で陰干しした洗濯物を畳み、掃除をして早めにお風呂を焚く。
あとは夕食の下拵え、炊飯をして和ちゃんを待つ。




53 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 21:10:12.33 ID:GQUqw1rRP

むぎゅがまだ出てこないの



55 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 21:14:55.63 ID:T+0eQH8no

ムギは死んでいるか黒幕かだな



56 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 21:38:09.64 ID:WGpeRLTOo

普通に家族で避難してるんじゃないか?





57 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 21:41:48.75 ID:yiRVTPAu0

ピンポーン ピンポーン

玄関のチャイムが鳴る。
この鳴らし方は和ちゃんだ。
玄関を開けると、沢山の食材を持った和ちゃんがいた。

唯「いらっしゃ~い」

憂「いらっしゃい」ニコ

和「お邪魔するわね」

和ちゃんは、いつも私達の代わりに日用品や食料品を買ってきてくれる。
最初は心苦しかったけれど、これも和ちゃんの為なのだと割り切った。
和ちゃんの意思なら、私はどんな事だって受け入れるつもりだ。
私が和ちゃんにしてあげられる事は、それしかないのだから。

和「カレーの材料を買ってきたから、一緒に作りましょう」

憂「うん!」ニコ

唯「ありがとう和ちゃん」

和ちゃんは、毎日夕食を私達と一緒に作り、一緒に食べる。
でも、絶対に泊まって行く事は無い。
私が誘っても、和ちゃんは頑なにそれを拒否し続けた。

私にはその理由が分かっていた。
和ちゃんは恐れていたのだ。
自我を失い、幼馴染であり親友である私を傷付けてしまうのではないかと。



59 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 21:44:08.40 ID:yiRVTPAu0

唯「ご馳走さま~」

憂「美味しかったね、お姉ちゃん」ニコ

和「いっぱい作ったから、残りはタッパーに詰めて冷蔵庫に入れるのよ」

唯「は~い」

和「じゃあ私、家に帰るわね。片付けは任せるわ」

唯「らじゃ~」ビシッ

憂「また明日」ニコ

和ちゃんは帰っていった。

唯「私が後片付けしとくから、憂はお風呂入っちゃってね」

憂「うん」ニコ

憂は着替えを取りに行った。

唯「それじゃあ、ちゃっちゃと片付けちゃいましょ~!!」グッ



60 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 21:49:10.12 ID:yiRVTPAu0

憂と一緒のお風呂に入ったのは、あの日から一週間後の時が最後だった。
私はふと、その時の事を思い出していた。

肌は雪の様に白くなり、まるで白雪姫のようだった。
憂はその姿が嫌だったのか、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
けれど、私の口からはそれを賛美する言葉が自然と洩れていた

「とても綺麗だよ憂……」

憂はその言葉を聞き、大声を出して泣き出してしまった。
私は憂を優しく抱きしめた。

私が抱き締めても憂が泣き止まなかったのは、あの時だけだった。

今にして思えば、私はなんて酷い事を言ってしまったのだろうか。
でも、本当に憂は綺麗だった。世界中の誰よりも。

その日、私は憂と一緒に寝た。
憂と一緒に寝たのも、その日が最後だった。



61 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 21:51:21.22 ID:yiRVTPAu0

憂「お風呂上がったよ、お姉ちゃん」ニコ

唯「ほ~い」

片付けは終わり、私もお風呂に入る事にした。

お風呂に入るといつも、あの時の憂の裸を思い出してしまう。
私は妹に恋をしてしまったのだろうか。
性別に関係なく、あの姿を見たら誰でも同じ事を思うのではないだろうか。
そんな事を考えている自分を、私は嫌悪した。

(ごめんね憂……)

私は心の中で、憂に何度も何度も懺悔した。



62 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 21:55:29.27 ID:yiRVTPAu0

お風呂から上がると、憂が私を呼んだ。

憂「アイス一緒に食べよ?」ニコ

カレーの材料と一緒に、和ちゃんは私の好きなアイスも買ってきてくれていた。
2つのアイス、私の分と憂の分。
和ちゃんの気配りと優しさが、今の私には辛かった。

唯「うん、一緒に食べよ~」ニコ

嘘を付く事が下手だった私。
でも、私はいつの間にか嘘を付く事が得意になっていた。
私は憂に悲しい顔など見せたくなかった。
私が悲しい顔をすれば、憂が悲しむから……。

憂も同じ事を考えていたのだろう。
自分が悲しい顔をすれば、私が悲しむと……。
だから、憂は笑顔を振り撒いた。偽りの笑顔を。

でも、私はその笑顔の違和感に気付いていた。
私は憂が生まれてから、ずっとその顔を見てるんだよ?
本当に笑っているのかどうかなんて、すぐに見分けられるんだよ。
だから無理に笑わなくていい、泣きたい時は泣けばいいんだ。
私は憂のお姉ちゃんなんだ。
憂が私に遠慮する必要なんて、どこにも無いんだ。

私はその言葉が言えず、憂の偽りの笑顔を受け入れた。
私には、憂の優しさを否定する事が出来なかった。

私は最低のお姉ちゃんだった。



63 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 22:00:09.75 ID:yiRVTPAu0

アイスを食べ終え、私達は居間のソファーで寛いでいた。
横を見ると、憂がこっくりこっくり居眠りをしている。
時計は22時になった所だ。

唯「憂、起きて。ベッドに行こう?」

憂「う~?」

憂は少し寝惚けているみたいだ。
私は憂を支えながら、妹の部屋へと連れて行った。
そして、ベッドに寝かせ、布団を掛ける。

唯「おやすみ憂、また明日ね」

憂「おやすみ……おねえちゃん……」ニコ

憂はすぐに眠りに就いてしまった。
私は憂の額に軽くキスをして部屋を出た。

私も眠ろう。
ベッドに潜り込むと、すぐに強い睡魔に襲われた。
私はそのまま深い眠りに落ちた。

ああ、今日もまた、あの日の夢を見るのだろうか……。



64 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 22:02:01.73 ID:yiRVTPAu0

唯2年 2月15日

もう春休みも目の前に迫ってきていた。
私たちはもうすぐ最上級生になる。

新歓ライブに向け、私達は珍しく熱心に練習をしていた。
今年新入部員を引き入れなければ、来年はあずにゃん一人になってしまうからだ。

そんな頃、私たちの周りではある噂が流行していた。

「健康美白ウイルス」

なんでもそのウイルスに感染すると、肌が美しくなり、健康にもなるというのだ。
副作用は、ちょっとした摂食障害になる事らしい。

最初は誰もがそんな噂を信じる事は無かった。
実際に感染者を自分の目で見るまでは。



65 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 22:06:48.61 ID:yiRVTPAu0

桜ヶ丘高校で最初に感染が明らかになったのは、あずにゃんのクラスの子だった。
あずにゃんによると、一週間程度でみるみるうちに肌が白く綺麗になっていったという。
さらにその子は、今まで運動が苦手だったにも関わらず、
体育の時間に信じられない程の活躍を見せたという。
その子は瞬く間に学校中の噂になった。

しかし、その子から感染が拡大する事は無かった。
純ちゃんによると、その子は内気な性格で友達もいないらしい。
そんな子が何時、何処で感染したのか、誰もが興味を持った。
けれども、彼女は詳しい感染の経緯を語らず、真相は闇に包まれた。

そんな彼女に、ウイルスをうつして欲しいとお願いする子もいたらしいが、
直接噛むという行為自体が、感染の予防になった様だ。
見ず知らずの他人を噛むというのは、噛む方にとってもかなりの抵抗があったのだろう。

けれども、そこで感染が止まる程甘くはなかった。

どうしてもウイルスが欲しい子達は、中学の時の友人と連絡を取ったり、
携帯コミュニティーサイトなどで保菌者を探していたのだ。



66 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 22:09:48.22 ID:yiRVTPAu0

2年生で最初に感染したと思われるのは、立花姫子ちゃんという子だった。

その頃の私は、まだ姫子ちゃんと面識はなかったけれど、
姫子ちゃんの噂はすぐに私の耳にも届いた。
彼女のバイト先の友人の知り合いが保菌者で、その子から感染したという。

もともと姫子ちゃんは、人目を引くクール系の美人だった。
そんな彼女の肌がどんどん白くなっていくと、
まるで女優を思わせるかの様な美しさ、輝きを放つようになった。

その美しさが、「健康美白ウイルス」の需要を爆発的に高める要因となった。

春休み直前には、私のクラスにも数人、肌が白くなりつつある子がいた。



67 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 22:12:33.12 ID:yiRVTPAu0

軽音部で最初に感染したのはりっちゃんだった。
それに最初に気付いたのは澪ちゃんだった。

春休み、新勧ライブに向けての練習の為、部室に集まった時の事だ。

いつもりっちゃんと澪ちゃんは一緒に登校しているが、
その日は澪ちゃんだけ先に部室に来ていた。
りっちゃんは寝坊したらしく、後から来るとの事だった。
お茶をしていると、暫くしてりっちゃんがやってきた。

律「わりーわりー、寝坊しちった」

唯「も~、りっちゃんは駄目駄目だね~」

律「どうせ唯は憂ちゃんに起こして貰ったんだろ?」

唯「でへへ、すいやせん」

紬「今お茶入れるわね」

梓「それ飲んだらすぐ練習しますからね」

律「へいへい」

澪「……」



68 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 22:17:00.33 ID:yiRVTPAu0

澪「律、お前肌の色、少し白くなってないか?」

律「お、澪ちゃん、気付いちゃいましたか~」

紬「言われてみると、りっちゃんの肌、前より少し白いわね」

律「実は昨日マキちゃんに、健康美白ウイルスをうつして貰ってさ。
  その後、ラブ・クライシスのみんなとオールでカラオケしてたんだ~。
  今日は寝ないで、そのままこっちに来ようと思ってたんだけど、
  横になったらいつの間にか寝ちゃっててさぁ」

梓「律先輩も美白で綺麗になりたかったんですか?」

唯「りっちゃんはそのままでも可愛いのに~」

律「ちげーって! てゆーか、私はそんなミーハーじゃないぞ?」

梓「じゃあ何でですか」



69 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 22:19:11.56 ID:yiRVTPAu0

りっちゃんが感染した理由は、ラブ・クライシスというバンドにあった。

そのバンドのドラマーは、りっちゃんと澪ちゃんの中学時代の友人だった。
りっちゃんは、同じドラマーという事で今でも付き合いが深く、
一緒に出掛ける事もしばしばあるらしい。

律「ラブ・クライシス、メジャーデビューしたんだよ」

梓「メジャーデビューですか!?」

律「ああ、昨日はその祝賀会だったんだ」

梓「なるほど。で、それが健康美白ウイルスと何の関係があるんですか?」

律「デビュー出来たのは、そのウイルスの力なんだよ」



70 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 22:21:23.64 ID:yiRVTPAu0

ラブ・クライシスのメンバーは、才能の壁に悩まされていた。

バンドとしての能力は高く、小さなライブハウスなら、
単独で満員にする位の実力も人気もあった。

しかし、それはあくまでもアマチュアレベルでの話である。
プロの世界はそれ程甘くは無い。
彼女達は、アマチュア以上プロ未満という、
ミュージシャンとして一番辛い時期にあった。

そんな時、彼女達は健康美白ウイルスの話を知った。
それを利用し、ルックスを良くする事によってバンドの人気を上げようとした。

大成功だった。

さらに、ウイルスの思わぬ効能が表れた。
身体能力の向上により、楽器演奏の技術が飛躍的に向上したのだ。

かくして、ラブ・クライシスはメジャーデビューを果たす。



71 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 22:24:46.57 ID:yiRVTPAu0

梓「信じられません……と言いたい所ですが……」

実際に私達は、感染者を身近に見ている。
そうでなければ、この様な話をすぐには信じられなかっただろう。

律「私も、直に演奏を見て、聴いて、ビックリしたよ。
  マキのドラムは、今までのソレとは別次元のレベルだったんだ。
  それで私も、って思って……。
  今度の新歓ライブ、梓の為に最高の出来にしたいからさ……」

梓「律先輩……」

紬「りっちゃんらしいわね」

唯「りっちゃん部長っぽいよ」

律「へへ……」

澪「……」



72 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 22:25:42.30 ID:yiRVTPAu0

唯「でも、本当にりっちゃんも上手くなるの?」

梓「確かに、律先輩まで上手くなるというのは信じ難いですね」

律「言うじゃない中野~。まぁ、百聞は一見にしかずってね」

唯「おお~、りっちゃんがやる気になってる!」

律「なんか体中から力が漲ってくる感じがするんだよね」

梓「それじゃあ、一回合わせてみましょうか」

律「よっしゃ!!」



74 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 22:28:35.81 ID:yiRVTPAu0

りっちゃんのドラムは凄かった。
リズムキープは相変わらずだったけれど、
力強く刻むビートは、りっちゃんらしさに磨きが掛かっていた。
荒削りだけれど、そこには輝く何かが確かに存在した。

律「ふぅ~……」

紬「今のりっちゃんのドラム、凄く良かったと思う!」

唯「うんうん、凄かったよりっちゃん!」

梓「リズムキープはまだまだですが……確かに良かったです!」

律「だろ? 今日は寝不足だったからまだまだだけど、
  本調子になったら、こんなもんじゃないぜ?」

唯「私もウイルス貰ったらギター上手くなるかな……?」

律「私が唯を噛んでやろうか? にひひ」

紬「あらあらあらあら」

唯「なんかりっちゃんイヤラシ~よ~」ケラケラ

澪「やめろよ!!」

それまで無口だった澪ちゃんが突然大きな声を上げた。




73 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 22:27:29.11 ID:FCZwfyNSO

気になったので一応言っとくと、菌とウィルスは別物





75 名前:キャリアの方が良かったかな:2011/01/31(月) 22:34:59.11 ID:yiRVTPAu0

律「何だよ澪……突然大声出してさ……」

澪「何でそんな事勝手にするんだよ……何で私に相談しなかったんだ、律……。
  それはウイルスなんだぞ? 病気なんだぞ?
  摂食障害になるって聞いたし、治療薬だってまだ出来てないって聞くし……。
  それなのに、故意に感染してくるなんて、何を考えてんだよ!
  それがどんなに危ない事なのか、お前は分からないのかよ……!」

律「澪は気にし過ぎだろ……。
  みんなやってるし、マキちゃんの話だと症状も大した事ないらしいし……。
  そもそも、そんなに危ないモノなら、もっとテレビとかで大騒ぎしてる筈だろ?」

澪「だからお前は単純だっていうんだ!
  そりゃあ、今は平気かもしれないけど、今後の事は分からないだろ!
  場当たり的に行動するから、いつも失敗するんじゃないか!
  もうちょっと先の事も考えろよ、馬鹿律!!」

律「な、なんだよ……お前は私の保護者か何かか?
  何でいちいち澪に相談しなきゃいけないんだよ!
  それとも、私が綺麗になる事に嫉妬でもしてんのか?」

音楽室にパチンと乾いた音が響いた。
澪ちゃんの大きな掌が、りっちゃんの頬を紅く染めた。
澪ちゃんは瞳にいっぱいの涙を溜め込んで、
何も言わずに音楽室から走り去っていった。



76 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 22:40:52.45 ID:yiRVTPAu0

りっちゃんは、ただただ茫然と立ち尽くしていた。

私もムギちゃんもあずにゃんも、なんて声を掛ければいいのか分からず、
黙ってその様子を眺めている事しか出来なかった。

結局、その後は練習も出来ず解散となった。

りっちゃんと澪ちゃんが喧嘩した事は以前にもあった。
でも、翌日には決まって仲直りをしていた。
だから、明日になれば、また仲良しの二人に戻っている筈だ。
私は、そんな風に楽観的に考えていた。

次の日、澪ちゃんとムギちゃんは練習に来なかった。
りっちゃんは元気なく項垂れていて、目の下には隈が出来ていた。

私もあずにゃんも、その顔を見てすぐに分かった。
まだ二人は仲直りをしていないという事が。
昨日のりっちゃんと澪ちゃんの喧嘩が、
今までのそれとは全く違うものであるという事が。

とても練習など出来る状態ではなかった。
そんなりっちゃんを見兼ねたあずにゃんは、しばらく練習を中止しようと提案した。
りっちゃんと澪ちゃんには時間が必要だと判断したのだろう。
りっちゃんは俯きながら、弱々しく一言、ごめん、と言った



関連記事

ランダム記事(試用版)




唯「ゾンビの平沢」★2
[ 2011/02/03 20:57 ] ホラー | | CM(1)

コメント(アンカー機能)
●>>1と半角で書き込むと>>1と記事へのアンカーが生成される。
●*1と半角で書き込むと1とコメントへのアンカーが生成される。
上記の2つのアンカーが有効なのは該当記事のみ。

タイトル:承認待ちコメント
NO:6723 [ 2012/11/16 14:49 ] [ 編集 ]

このコメントは管理者の承認待ちです

コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

サイト関連
メール ツイッター 最新記事一覧(30件)
ユーザータグ 検索

U:
P:
色々変更
好みのカラーコードをどうぞ

記事の背景色変更


本体の背景色変更


名前の色変更
IE8:重
火狐4.01:軽
chrome:軽


広告4
広告5
広告6