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唯「ゾンビの平沢」★3 【ホラー】


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唯「ゾンビの平沢」★index




77 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 23:06:34.08 ID:yiRVTPAu0

★3
残りの春休みはあっという間に終わり、始業式を迎えた。
クラス割りを見ていると、りっちゃんと澪ちゃんが一緒に登校してきた。
りっちゃんの肌は真っ白くなり、その容姿は驚く程美しくなっていた。

二人の間の溝は、まだ完全には埋まっていなかった。
そのぎこちなさ、余所余所しい態度を完全に隠す事は出来ていなかった。
私とあずにゃんはそれに気付かないフリをした。
私達に心配を掛けまいとする、二人の気遣いを感じたからだった。

澪ちゃんは、私とあずにゃんに「悪かった」と一言謝り、
今日からまた一緒に練習を頑張ろうと言った。
あずにゃんは元気良く、はい、と答えた。





78 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 23:09:58.38 ID:yiRVTPAu0

唯「私と和ちゃんとりっちゃんと澪ちゃんは一緒のクラスだよ」

和「一年間よろしくね」

律「澪と和がいれば、どんなに宿題が出ても安心だな」

澪「いい加減、宿題くらいちゃんと自分でしろ!」

梓「私は憂、純と一緒のクラスです」

純「私達って、腐れ縁ってやつかな」

憂「ふふ、二人ともよろしくね」

澪「そういえば、ムギがいないな……」

唯「ムギちゃんとは違うクラスになっちゃったみたいだね……。
  電話しても繋がらないし……」

律「もうこんな時間だし、先に自分の教室に行ったんじゃないか? 私達も教室に行こう」

梓「それじゃあ先輩方、また放課後に」




79 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 23:17:06.95 ID:gI4Oo540o

引き込まれるな、このスレ……。





80 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 23:18:42.73 ID:yiRVTPAu0

教室に入ると、一人の少女が箱を持って近付いてきた。

いちご「……席を決めるクジを引いて。」

律「あ、いちごじゃん。また同じクラスだな、よろしく」

いちご「……早く引いてくれない?」

律「相変わらず、愛想の無い奴だな~」ギュッ

いちご「……暑苦しい。」

いちごちゃんは、2年生の時に同じクラスで、大人しい子だった。
物静かだけれど、お姫様みたいに綺麗な容姿は、クラスの中で目立っていた。

その雰囲気が、どことなく澪ちゃんに似ていた。

人見知りの激しい澪ちゃんは、私達がいない時はとっても大人しい。
そんな澪ちゃんも、その容姿の所為か、ただ静かにそこにいるだけで十分な存在感があった。

そんないちごちゃんに、りっちゃんはいつもちょっかいを出していた。
最初は激しく抵抗していたものの、りっちゃんのしつこい攻めは止まらない。
いつの間にか、二人は名前で呼び合う仲になっていた。

いちご「黒板に席の位置と番号が書いてあるから、引いた番号と同じ所に名前を書いて。」



81 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 23:19:48.07 ID:yiRVTPAu0

律「げ、中央の一番前……」

いちご「……。」クスッ

律「あ、笑ったな!」

いちご「……笑ってない。」

律「席代わってくれよ、いちご~」

いちご「やだ。」

唯「私は……窓際の一番後ろ」

和「私は唯の前ね」

澪「ほら、律、席に行くぞ」

私達は黒板に名前を書き込み、自分達の席に着いた。

「平沢さん、だっけ? よろしくね」

私は突然、横の席の子に話しかけられた。
立花姫子ちゃんだった。



82 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 23:22:24.89 ID:yiRVTPAu0

私はその時初めて、姫子ちゃんを間近で見た。

息を呑んだ。その美貌に。

容姿には特に気を使っていない私だけれど、
ウイルスに群がる女の子の気持ちが分かった。

唯「よろしくね、立花さん」

姫子「姫子でいいよ」

笑顔はさらに素敵だった。

唯「私も唯でいいよ、姫子ちゃん」

外見からは少し冷たく見えるけれど、実際はとても優しい女の子だった。
私と姫子ちゃんが親しくなるまで、殆んど時間は掛からなかった。

間も無くして担任の先生がやってきた。
私達の担任はさわちゃん先生だった。



84 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 23:25:42.52 ID:yiRVTPAu0

始業式が終わり、帰りのHRの後、私達軽音部の3人はさわちゃん先生に呼び出された。
そこで、私達が一緒のクラスだったのは、さわちゃん先生の策略だったと聞かされた。

そんな話をしていると、あずにゃんがやってきた。
あずにゃんもさわちゃん先生に呼び出されたらしい。

嫌な予感がした。

その予感は的中した。
さわちゃん先生の表情は一転して陰り、それが私達をさらに不安にさせた。

しばらく沈黙が続き、重い空気が私達を押し潰そうとしていた。
さわちゃん先生は意を決したのか、硬く噤んでいた口をゆっくりと開いた。

さわ子「ムギちゃんね、転校したの」



85 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 23:32:10.24 ID:yiRVTPAu0

私は、「何故?」と聞こうとした。
口を開けて言葉を発せようとした。
しかし、私の口からは音を発する事が出来なかった。

苦しい。息が出来ない。心臓が爆発するかの様に、激しく鼓動した。

私は胸に手を当て、必死に呼吸を整えようとしていた。
周りを見ると、りっちゃんも澪ちゃんもあずにゃんも固まっていた。

さわ子「今日の朝、斉藤さんって執事の方から連絡がきてね、
    事情により、彼女のお父さんが外国に行く事になって、
    長期になるから、ムギちゃんも一緒にって……」

さわ子「彼女と直接話をしたかったのだけれど、
    もう一週間位前に外国に行っちゃってて、連絡出来ないって言われたの。
    あなた達が何か知らないかと思って呼んだのだけれど、
    その様子じゃ、あなた達も知らなかったみたいね……」

一週間前というと、りっちゃんがウイルスに感染して澪ちゃんと喧嘩をした頃だ。
あの時のムギちゃんには、そんな兆候など全然無かった。

もし、あの時すでに転校が決まっていたとしたら、
あんなに普通でいられた筈がない。

私達は職員室を出て、音楽室に向かった。



86 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 23:35:27.66 ID:yiRVTPAu0

私達は音楽室で呆然としていた。

もうムギちゃんのティータイムは無く、ムギちゃんとの合奏も無い。
ティーセットもキーボードも、何も変わらずここに存在するのに……。

執事の斉藤さんは、それらは学校に寄付するので自由に使って貰って構わない、
と、さわちゃん先生に電話で言ったそうだ。

律「もしかして、私のせいかな……」

りっちゃんが弱々しく呟いた。
皆気付いていた。
ムギちゃんの転校の時期と、りっちゃんが感染した時期が重なっている事に。

澪「違う! そんな事でムギが私達に何も言わないで転校するわけがない!」

梓「そうですよ! それにムギ先輩は家がお金持ちですし、何か別の理由があったんですよ!」

澪ちゃんとあずにゃんは、必死でりっちゃんを慰めていた。

律「でも……」

澪「律が気にする事は無い。それに律以外にだって感染者はいっぱいいるんだ!
  それでも、ムギは何も気にせず普通にしてたじゃないか!」

沈黙が流れた。



88 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 23:41:22.80 ID:yiRVTPAu0

唯「ムギちゃんはいつも優しかった。
  いつも笑って私達を見守ってた。
  例え何があっても私はムギちゃんの友達だし、
  ムギちゃんもそう思っていると私は信じてる。
  だから、今、私達に出来る事をしようよ」

唯「色々考えて不安になっちゃう事もあるけど、
  考えても分からない事を考えていてもしょうがないよ。
  私達が今しなくちゃいけないのは、軽音部を守る事だよ。
  ムギちゃんがいたこの軽音部を、私達みんなの居場所を……」

澪「唯の言う通りだ。ムギだって軽音部の為にあんなに頑張っていたんだから……」

梓「そうですよ、一緒に頑張りましょうよ……」

律「そうだな……」



89 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 23:42:43.77 ID:yiRVTPAu0

唯「弱気なんて、りっちゃんのキャラじゃないよ」

梓「ですね。サバサバしてて、いい加減で、能天気な律先輩の方が私は好きです」

律「中野~」ギュッ

唯「りっちゃんずるい~私もあずにゃん分補給~」ギュッ

唯「澪ちゃんもおいでよ~」スリスリ

澪「こ、今回だけだぞ」ギュッ

私の目からは大粒の涙が零れ落ちていた。
私はあずにゃんに抱き付いたまま、大声を出して泣いた。
それに釣られて、りっちゃんも澪ちゃんもあずにゃんも泣いた。
これからムギちゃんがいなくても泣かなくて済むように、
私達は涙が枯れ果てるまで泣き続けた。



90 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 23:44:48.75 ID:yiRVTPAu0

それから私達は、毎日一生懸命練習に励んだ。
練習してる時は全てを忘れられた。

ティータイムも続ける事にした。
ムギちゃんがいた時の様な豪華なものではないけれど、
皆で交代でお菓子とお茶を用意して。

時々さわちゃん先生が差し入れを持って来てくれた。
和ちゃんが和菓子を持って来てくれた。
憂が手作りのお菓子を作って来てくれた。
純ちゃんもたまに遊びに来てくれた。

そして新歓ライブ、私達は誰も弾かないキーボードを持って行った。
転校しても、ムギちゃんは放課後ティータイムのメンバーなのだ。

舞台の上の、弾き手がいないキーボード。
新入生達には異様に見えたかもしれない。
それでも、私達にとってはそれが必要だった。

ライブは今までで最高の出来だった。
さわちゃん先生がこの演奏をしっかり録画してくれた。
いつか、この映像をムギちゃんに見て欲しい、心からそう願った。

しかし、新入部員が来る事はなかった。



91 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 23:50:10.47 ID:yiRVTPAu0

新歓ライブが終わった頃、嫌なニュースが流れ始めた。

「噛み付き事件」

私達が健康美白ウイルスと呼んでいたモノが原因だった。
全国で同時多発的に起きたその事件は、連日ニュースを賑わせた。

こんなに話題になる前にも、噛み付き事件は度々起きていたらしい。
しかし、加害者・被害者の人権的観点から、情報は伏せられていた。
それが隠し通せない程、事態は深刻になっていたのだ。

噛み付き事件が表舞台に姿を現すと、
今までの静けさが嘘の様に、メディアはこぞってそれを取り上げた。

そして初めて、私達はそのウイルスの本当の恐ろしさを知る事となった。
その危険性を、パニック防止、人権保護等を理由に国が糊塗していた事も。

その中で私達が一番驚愕したのが、摂食障害とされていた病状の真実……。

「食肉衝動」

この真実は日本中にかつてない衝撃と恐怖を与えた。

一部で真しやかに囁かれていたが、本気で信じる者などいなかった。
都市伝説の類と似たような物と思われていたのだ。
それが今、確かに私達の前に存在していた。



92 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/31(月) 23:53:36.47 ID:yiRVTPAu0

連日の報道が、感染者に対する不信感・恐怖感・嫌悪感を高めた。
それは桜ヶ丘高校においても例外ではなかった。

それまで羨望の眼差しを向けられていた感染者達は、
一転して忌み嫌われる存在へと変貌していた。

表向きにその様な態度は表されなかったが、
そこかしこで陰口を叩かれ、その声は私にも聞こえてきた。

誰が最初に言い出したのかは分からない。
食肉衝動、異様な肌の白さ、それらから連想されたのだろう。

いつしか感染者は「ゾンビ」と呼ばれる様になっていた。

「人間」と「ゾンビ」の対立は日毎に悪化の一途を辿っていた。
それが、ゾンビ達の精神的安定に悪影響を及ぼしていた。



93 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:00:49.05 ID:oU4XMhGz0

私のクラスは全部で38人、内ゾンビは8人。
人数で言えば、「人間」は圧倒的優位な状態にあった。
他の学年、クラスも大体それ位の割合だった。
故にゾンビ達は肩身が狭く、今の状況を受け入れざるを得なかった。

綺麗で明るくて優しかった姫子ちゃん。
お喋りが好きだった彼女の口数もめっきり減っていた。
目の下には隈ができ、その顔は酷く憔悴していた。

ゾンビに対して、恐怖感が全く無いと言ったら嘘になるかもしれない。
でも、私はそんな事より、窶れていく姫子ちゃんの支えになってあげたいという気持ちが強かった。

私と和ちゃん、りっちゃん、澪ちゃん、姫子ちゃんは教室で一緒にお弁当を食べる様になった。
食肉衝動の所為か、昼食時には特に隔絶感が私達を包んでいた。
この学校で「人間」と「ゾンビ」が一緒に食事をしているのは私達だけだった。

そんな私達を見て、なにやらヒソヒソと話す子達もいた。
でも、私達はそんな事気にしなかった。気にしないようにした。

りっちゃんは姫子ちゃん程ではないけれど、たまに少し疲れている様な顔を見せた。
けれど、りっちゃんはそんな事は無いと言わん許りに、無理に明るく振舞っていた。

澪ちゃんは口数が減った。授業中もノートを取らず、ただただ俯いている。
怖がりな澪ちゃん。でも、ゾンビのりっちゃんを怖がっているワケではない。
私にはすぐに分かった。澪ちゃんはりっちゃんを心配しているのだ。

和ちゃんは普段通りだった。幼馴染だから分かる、和ちゃんの強さ。
何時でも冷静で、優しくて、正義感に溢れている。
いつも私の傍に居てくれる和ちゃん。
だから私は、こんな状況でも安心していられた。




94 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:02:46.47 ID:hn4/utdEo

おお……ゆっくりと崩れていく感覚がたまらねえ……。





95 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:05:18.04 ID:oU4XMhGz0

唯3年 5月20日

そして「あの日」がきた。

桜ヶ丘高校が崩壊した日。

今までの日常が破綻した日。

いつもの様に5人で昼食を取った後、その片付けをしていた時の事だ。
姫子ちゃんが不意に言葉を漏らした。

「軽音部が羨ましい」

りっちゃんと私達の関係を見てそう思ったのだろう。

姫子ちゃんはソフトボール部に所属していたが、そこに彼女の居場所はもう無かった。
それを聞いてりっちゃんは得意気に言った。

「軽音部の絆は永遠に不滅だからな」

その言葉が、あの揉め事の原因となった。



96 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:08:31.76 ID:oU4XMhGz0

「絆とか馬鹿みたい」

りっちゃんのその言葉を聞いたクラスメイトの一人が鼻で笑った。
瀧エリちゃんだった。

律「……思いっ切り聞こえてるんですけど。」

エリ「あ、ごめん、聞こえちゃった?」クスクス

律「言いたい事があるならはっきり言えよ。
  いつもコソコソ陰口ばっか言ってて恥ずかしくないのかよ」

エリ「は? だから何? てかさ、絆とか言ってるのが可笑しかっただけだから」

律「……何が可笑しいんだよ」

エリ「ちょ、マジで分かんないの? 琴吹だよ、琴吹紬」



97 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:11:26.91 ID:oU4XMhGz0

りっちゃんの顔が引き攣った。
私の心臓に、何か鋭い物で突かれた様な痛みが走った。
澪ちゃんも一瞬体をビクッとさせた。

律「ムギがなんだっていうんだよ……」

エリ「みんな噂してるって。あいつんち金持ちだから、一人で逃げたってさ」ケラケラ

律「なっ……」

エリ「あいつは私達より先に知ってたんだよ。
   健康美白ウイルスが、かなりヤバイ物だって事をさ。
   だから金の力で一人だけ先に安全な所に逃げたんだろ」

律「ちが……」

りっちゃんが言い掛けた所に、エリちゃんが追い討ちを掛けた。



98 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:19:32.98 ID:oU4XMhGz0

エリ「あいつはお前らを見捨てたんだよ。
   本当に仲間だったら、自分だけ逃げるワケないじゃん。
   お前らの事なんて、所詮どうでもいい存在としか見てなかったんだ」

律「それは……」

エリ「違うって言うなら、その証拠見せてみなよ」

律「……もし、お前の言う様にムギが一人で逃げたとしても、
  私達はムギが安全な所に逃げられたのなら、それを素直に喜べる。
  ムギが私達をどう思っていようが、私達はムギの事を仲間だと思ってるんだ」

エリ「ふぅん、律ってさ……」

エリ「ホントに馬鹿なんだ」クスクス

エリ「そういう独り善がりってさ、ホントにウザイからやめてくれない?」

律「……は? 何だよそれ……」



99 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:24:11.97 ID:oU4XMhGz0

エリ「そんな風に考えてるのはお前だけだよ。
   お前はさ、もうゾンビだからいいのかもしれないけどさ、
   唯も澪も人間なんだよ? お前とは違うの。
   内心ではお前の事を気味悪がってるに決まってんだろ……」

唯「そんなこと無いよ!
  私もりっちゃんと同じ事を思ってるし、
  りっちゃんの事を気味悪いとか思ってないもん!」

エリ「あー、そういえば唯も馬鹿だったね」ケラケラ

和ちゃんが立ち上がり何かを言おうとしたが、私はそれを止めた。
ここで私が和ちゃんを止めていなければ、
あんな事も起きなかったかもしれない。

でも、これは軽音部の問題なんだ。
ここで和ちゃんを巻き込んではいけないと、その時の私は思ったのだ。



100 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:29:22.78 ID:oU4XMhGz0

エリ「これ以上『人間』を巻き添えにするのやめてくれない?
   澪だって、幼馴染だから傍に居るんだろうけどさ、
   ゾンビと一緒とか迷惑だっての。澪が可哀相だと思わないの?」

澪「わ、私は迷惑だなんて思っていない!」

澪ちゃんは小刻みに震えていた。
りっちゃんが激しく責め立てられていたからだろう。
けれど、そんな事はエリちゃんには分からなかった。

エリ「ほら、澪だってこんなに震えてるじゃん」

澪「ち、違う! こ、これは……」

エリ「とにかくさ、お前はもう『人間』じゃないんだからさ、
   ゾンビはゾンビ同士でつるんでなって」

律「エリ、お前……」

次の瞬間、りっちゃんの拳がエリちゃんの左頬を強打した。
エリちゃんは机を薙ぎ倒しながら倒れ込んだ。
それを見て、佐藤アカネちゃんがエリちゃんに駆け寄った。

アカネちゃんはエリちゃんの一番の親友だ。
アカネちゃんはりっちゃんを睨み付けていた。



102 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:35:36.80 ID:oU4XMhGz0

エリ「いったぁ……こいつ、殴りやがった……」

エリちゃんは口を切ったらしく、血を流していた。
りっちゃんはただ呆然と立ち尽くしている。
教室の空気は凍りついていた。

いちご「律!」

いちごちゃんが、今までに聞いた事の無い声でりっちゃんの名を叫んだ。
りっちゃんは一瞬ビクッとして、我に返った。

いちご「……やり過ぎ。」

律「……ごめん」

いちご「エリは言い過ぎ。」

エリ「……。」

張り詰めた雰囲気の教室に、始業のチャイムが鳴り響いた。
皆それぞれの席に帰っていった。



103 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:39:03.66 ID:oU4XMhGz0

5時間目は、先生が体調不良の為自習となった。
いつもなら、自習の時は皆騒いだりするものだが、
昼休みのいざこざが尾を引き、教室は静まり返っていた。

授業の残り時間が半分位になった頃だろうか。
教室内には、ある異変が起きていた。

私の隣の席の姫子ちゃんが、小刻みに震えだしていた。
それは次第に大きくなっていき、ガタガタと机を揺らし始めた。
他にも何人か、震えている子がいた。
岡田春菜ちゃん、飯田慶子ちゃん、小磯つかさちゃん、中島信代ちゃん……ゾンビの子達だ。

唯「……姫子ちゃん、大丈夫?」

姫子「ふうぅぅ……うぅ、ふぅぅぅぅぅぅ……」

呼吸がおかしい。姫子ちゃんは右手で自分の左手を強く握っていた。
よく見ると、右手の爪が左手の肉に食い込み、血が流れている。
只事ではないと直感した。
周りの人も姫子ちゃんを心配そうに見ていた。

唯「姫子ちゃん……?」

姫子「ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛……」

姫子ちゃんは小さく地響きの様な唸り声を出し始め、それは段々大きくなっていった。
次の瞬間、姫子ちゃんはいきなり立ち上がった。
椅子は飛ばされ、教室の後ろの壁に激しく衝突した。

姫子「唯……」



104 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:41:22.72 ID:oU4XMhGz0

姫子「唯……唯……ゆい……ゆ…い……」

唯「なに? 姫子ちゃん? 私はここにいるよ……」

姫子「もう駄目だ……もう抑えられない……もう……もう……」

唯「なにが駄目なの? 保健室行く? 和ちゃん、どうすれば……」

私は和ちゃんの方を見た。和ちゃんの顔は恐怖で引き攣っていた。
私が姫子ちゃんの方へ振り返ろうとした瞬間、私の体は何かに押され横に倒れた。

和「唯!!!」

私を押したの和ちゃんだった。
そして私が見たものは、和ちゃんの右手に噛み付いている姫子ちゃんの姿だった。

姫子ちゃんは既に「人間」ではなくなっていた。
教室に悲鳴が響いた。

姫子ちゃんは和ちゃんの腕の肉を喰い千切った。
その反動で和ちゃんは後ろに倒れ込んだ。

血が噴水の様に噴き出している。
辺りは真っ赤に染まっていた。

鉄の匂いが立ち込める。それが引き金になった。

他のゾンビの子達も一斉に近くの子に襲い掛かった。
教室は地獄絵図の様相になっていた。



105 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:45:11.81 ID:oU4XMhGz0

和ちゃんの肉を食べ終えた姫子ちゃんが、私達の方に近づいてきた。
目は大きく見開かれ、口は真っ赤に染まり、人とは思えない声を発していた。

姫子「ぅ゛ぅ゛ぅ゛う゛う゛う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ……」

和「唯!! 下がって!!」

和ちゃんはハンカチで傷口の上をきつく縛っていた。
私の手を引っ張り、自分の後ろへ私を引っ張り込んだ。
そして和ちゃんはシャーペンを握り、姫子ちゃんと対峙した。

次の瞬間、姫子ちゃんが和ちゃんに向かって来た。
和ちゃんは椅子を蹴り飛ばし、それが姫子ちゃんの膝に激突した。

姫子ちゃんが体制を崩したと同時に、和ちゃんは姫子ちゃんに飛び掛り、
深々と姫子ちゃんの目にシャーペンを突き刺した。

姫子ちゃんは物凄い悲鳴をあげ、腕を振り回した。
その腕に和ちゃんが当たり、和ちゃんの体は吹っ飛ばされ宙を舞った。

唯「大丈夫!? 和ちゃん!!」

和「なんとかね……この場から早く離れましょう!」

その時、澪ちゃんの悲鳴が聞こえた。




106 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:45:21.49 ID:Etv4e7vbo

この>>1まじですげぇ・・・
ここまでの緊迫感を感じたssは初めてだわ・・・
形こそけいおんのキャラを借りてるが
普通にすごいと思う





108 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:48:32.09 ID:oU4XMhGz0

澪ちゃんの肩に噛み付いていたのは信代ちゃんだった。

信代「ぐお゛お゛お゛お゛お゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

澪「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!!」

信代ちゃんは澪ちゃんの両腕を掴み、澪ちゃんの体は宙に浮いていた。

澪「痛いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

律「澪ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

りっちゃんが信代ちゃんの腹部にドラムのスティックを何度も突き刺した。
信代ちゃんは奇声を上げ、澪ちゃんを投げ飛ばした。
そしてりっちゃんを睨み付け、大声を上げながら猛突進していった。

律「唯、和! 澪を頼む!! 私は平気だから」

和「分かったわ!! 行くわよ唯、澪!!」

和ちゃんは澪ちゃんを抱き起こしながら言った。

澪「で、でも律が!! 律ぅぅぅぅー!!!」

律「馬鹿澪! いいからさっさと隠れてろ! ぐっ!!」

信代ちゃんがりっちゃんの首を両手で締め上げている。
りっちゃんの体は宙に浮き、苦しそうに足をバタつかせている。



109 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:51:58.43 ID:oU4XMhGz0

律「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……」

りっちゃんはスティックを信代ちゃんの首に突き刺した。
それでも信代ちゃんは手の力を緩めない。
りっちゃんは苦痛で顔を歪めた。

和「唯、何してるの!? さっさと行くわよ!!」

私は和ちゃんの声で我に返り、彼女の後を追い掛けた。

教室の入り口付近では、つかさちゃんが曜子ちゃんを食べていた。
曜子ちゃんはまだ生きているのか、手足がピクピクと小さく痙攣していた。

つかさちゃんはふと顔を上げ、私たちの方を見た。
その黒い瞳には、一切の感情が感じられない。
真っ白な顔の口元は、曜子ちゃんの血で鮮やかな紅に染まっていた。
つかさちゃんは虚脱した表情で私を見詰めている。
近くに食料があるからなのか、私達を襲おうとはせず、彼女はまた食事を再開した。

私達は教室を後にした。

他のクラスも似た様な惨状になっていた。
恐らく、私達の教室の血の匂いが伝染していったのだろう。

後ろを振り向くと、私達の教室の前に、全身血塗れの曜子ちゃんが立っていた。
足や手、首などに肉を噛み千切られた傷が無数にある。
大抵の人間は、「完全に死ぬ」前に彼女の様に起き上がる。
大きく目を見開き、瞬きする事も無く、じっとこちらの様子を伺っている。

もはや彼女は人間ではない。



110 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 00:59:19.27 ID:oU4XMhGz0

ふと、廊下から外を見た。
外には、悲鳴を上げながら、血に染まったワイシャツで逃げ惑う女生徒達がいた。
そして、それを追うゾンビの姿……。

そのゾンビ達は、桜ヶ丘高校の生徒だけではなかった。
血の匂いを嗅ぎ付け、どこからともなく湧いて来た者達。
校内にも校外にも、私達にとって安全な場所はどこにもなくなっていた。

緊急校内放送が流れ、生徒は速やかに外へ非難するようにと伝えられた。
しかし、あの情景を見れば、校舎の外が安全などと思えるわけがなかった。

和「生徒会室に行きましょう、あそこはドアも頑丈だし」

私達は校外へ逃げ出す事を諦め、校内に立て篭もる事にした。
澪ちゃんは全身をガタガタと震わせていた。
こんな状態では、外へ逃げ出すのは無理だと和ちゃんは判断したのだろう。
私達は生徒会室に逃げ込み、ドアに鍵を掛け、息を潜めた。

外からは「人間」の悲鳴と、人か獣か分からない奇声が絶え間なく聞こえてきた。
自分は今安全な場所に居る、そう感じた途端、一気に恐怖心が私の体の奥から湧いてきた。
先程までは、その光景が信じられず、まるで夢を見ている様な錯覚に陥っていたのだ。

私は目を瞑り耳を塞いだ。
恐怖で体がガクガクした。
それを止めようと、必死で口唇を噛んだ。



111 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 01:01:54.87 ID:oU4XMhGz0

和「澪、大丈夫?」

澪「だ、大丈夫。和は平気か?」

和「私は大丈夫よ」

和ちゃんは本当に凄い。
酷い怪我をしているのに、他人を気遣う余裕があった。

私はどこにも怪我などしていないのに、頭の中は恐怖心で満ち、
これから自分が何をすべきかも分からずにいた。
真っ白になった頭の中で、私が一つだけ覚えていた事……。

「憂」

憂は無事だろうか。
しっかり者で、頭が良くて、運動神経も凄くて、私とは正反対の憂。
憂なら大丈夫だろうと思ってはいるが、私は不安を拭い去る事が出来なかった。

私を助ける為に怪我をした親友より、自分の妹の事を心配している。
我ながら、なんて薄情な人間だろうと思った。

それでも私は今、憂の事しか考えられずにいた。



112 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 01:04:39.60 ID:oU4XMhGz0

何より早く憂の安否が知りたい。

私は無意識のうちに憂に電話を掛けていた。
コール音だけが鳴り響き、憂が電話に出る事はなかった。

唯(もしかしたら、あずにゃん達と一緒かもしれない)

私はあずにゃんに電話を掛けた。

あずにゃんの事も心配だったのは本当だ。
でも、私は妹の安全を確認する為にあずにゃんに電話を掛けたのだ。

私は最低の先輩だった。

結局、あずにゃんも電話には出なかった。

コールはした。私は、着信履歴見て二人が返信してくる事を待った。
しかし、私の携帯が鳴る事は無かった。



113 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 01:07:28.98 ID:oU4XMhGz0

生徒会室に逃げ込んでから1時間が経過していた。
先程の阿鼻叫喚が嘘の様に、外は静まり返っていた。

泣き叫ぶ「人間」はもういなくなったのだ。

ゾンビ達はさらなる肉を求めて校外に出ていったのだろう。
そろそろ外の様子を見に行こう、和ちゃんが声を出したのと同時だった。
生徒会室の扉をドンドンと叩く音がした。

「お姉ちゃん?」

憂の声だ。

私は一目散に扉に駆寄り扉を開けた。
そこには憂と、憂の肩を借りて立っているりっちゃんがいた。

私は憂に抱きついた。
良かった、憂は無事だった。

その時の私は、憂の腕に小さな噛み傷がある事に全く気付いていなかった。



114 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 01:09:41.68 ID:oU4XMhGz0

澪「憂ちゃん、梓や純ちゃんは無事なのか?」

澪ちゃんが尋ねた。
私は憂の無事を確認して喜んでいた自分を恥じた。
と同時に、あずにゃんや純ちゃんの事で頭が一杯になった。

今更こんな事を言っても信じてもらえないかもしれないが、
私は心の底から二人の無事を願っていた。

憂「分かりません……」

憂が俯きながら、小さな声で答えた。



115 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 01:13:35.13 ID:oU4XMhGz0

憂のクラスは体育で、体育館にいたらしい。

何やら外が騒がしい、何かあったのか。
しかし、始めは誰もがそれ程気にしてはいなかった。
暫くして、血塗れの生徒が体育館に逃げ込んできた。
それを見て、誰もが事態は深刻であると気付く。

だが、その時には既に手遅れたっだ。
そして、その血の臭いをきっかけに、憂のクラスのゾンビ達が凶暴化した。

憂とあずにゃんと純ちゃんは、体育館から無事に逃げ出した。
純ちゃんは、このまま学校を出て、警察に連絡しようと提案した。
あずにゃんもそれに賛同した。
しかし、憂は私を心配し、学校に残って私を探すと言った。

憂はその場で二人と別れ、私の教室に向かったのだ。

そこで憂は、りっちゃんと他のゾンビが乱闘している現場を目撃する。
憂は昇降口から持ってきた傘を武器に、りっちゃんに加勢した。

あの時、憂ちゃんがいなかったらヤバかった、
りっちゃんは苦笑しながら私達にそう言った。



116 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 01:16:53.17 ID:oU4XMhGz0

その後、あずにゃんと純ちゃんの無事を確認した。
ゾンビに噛まれてはいたが、とりあえず生き延びていた。

校庭で憂と分かれた後、憂を追って校舎の中に入ったらしい。
しかし、凶暴化したゾンビに襲われ、止む無く多目的室に逃げ込んだ。
そこから出るに出れず、二人はそこに留まっていたという。

あれだけの騒ぎが起きたにも関わらず、次の日には既に事態は沈静化していた。
凶暴化したゾンビ達も、霧の様にその姿を消していた。

といっても、噛み付き事件が終わったわけではない。
この桜が丘町から隣の町へ、そこからさらに次の町へと、
惨劇の場を移していっただけなのだった。

最初、数の上では圧倒的優位にいた人間達であったが、
ゾンビに致命傷を負わされた者達が凶暴化して蘇ると、
その数の差は瞬く間に逆転した。

他の町では、私達が体験した以上の惨劇が起きている事は間違いなかった。

人間が逃げる。それをゾンビが追っていく。
桜ヶ丘町が平穏になったのは、この町から「人間」がいなくなったからなのだ。



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唯「ゾンビの平沢」★3
[ 2011/02/03 21:16 ] ホラー | | CM(1)

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NO:6724 [ 2012/11/16 15:05 ] [ 編集 ]

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