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唯「ゾンビの平沢」★17 【ホラー】


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唯「ゾンビの平沢」★index




679 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 21:44:26.82 ID:D4ccMxpB0

私達は自室に戻り、血で汚れた洋服を脱ぎ捨て、浴室へ向かった。
この施設のライフラインは、人がいなくても故障でもしない限り自動で維持される。

私の体は傷と痣だらけになっていた。
大丈夫?痛くない?とムギちゃんが心配そうに私を見詰める。
大丈夫だよ、と私は彼女に優しく微笑んだ。

浴室から出て寝巻きに着替え、私達はベッドに潜り込んだ。

今日はもう疲れた。

腕の痛みなど気にならない程、私は強烈な睡魔に襲われていた。
今の私達に、アルコールなど必要無かった。

唯「明日になったらさ、ムギちゃんのお父さんを土に埋めよう」

紬「ええ……」

私達は抱き合いながら、間も無くして深い眠りに付いた。

私はその日、悪夢を見なかった。





680 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 21:46:31.06 ID:D4ccMxpB0

次の日、目が覚めると、私の体は驚く程に回復していた。
流石に折れた腕はまだ痛むけれど、傷や痣は昨日負った物とは思えない位に小さくなっていた。

紬「おはよう、唯ちゃん……」

唯「おはよう、ムギちゃん」

時計を見るとお昼の12時、私達は二人で寝坊をしてしまった様だ。
私のお腹が大きな音を立てる。
こんな時でも、やっぱりお腹は空くんだなぁ。
その音を聞き、ムギちゃんはクスクスと笑った。

唯「ご飯にしよっか……」

食堂まで続く廊下の、至る所に死体や血の跡がある。
その中に私達以外の動く影、崩壊者達の姿も見えた。
昨日の出来事が、夢では無かったという証拠だ。

ムギちゃんが私の手をぎゅっと握る。

唯「怖い?」

紬「ううん、大丈夫よ……」

血生臭い通路を抜け、私達は食堂に着いた。
そこは廊下と違い血の跡や死体など無く、驚く程に綺麗なままだった。

良かった。

流石の私でも、死体の中で食事などしたくはなかった。




682 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 21:48:37.88 ID:ZN0ZblSo0

あ続いた



683 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 21:48:51.00 ID:vHvpRRIMo

アフターktkr





684 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 21:51:12.27 ID:D4ccMxpB0

私もムギちゃんも、しっかりと食事を取った。
ムギちゃんがこんなに食べる所を見たのは初めてだった。

普通の人間なら、あんな光景を見た後で食事などする気にはなれないだろう。
しかし、私達はそんな事を言っていられる状況ではなかったのだ。

ここはもう「人間」の住むべき世界ではないのだから。

それに、十分に栄養を取らなければ、いざという時に迷惑を掛けてしまうかもしれない。
私はムギちゃんに、ムギちゃんは私に、お互いに心配など掛けたく無かった。
こんな所で弱音を吐くワケにはいかない。
その想いが、私達を精神的に強くしていたのだ。

この世界を二人で生き抜く為に。

食事を済ませた私達は、少し休憩した後、この施設の中を見回る事にした。
まだ他に「生存者」がいるかもしれない。
人間でもゾンビでも、とにかく意思疎通の出来る者に会いたかった。

私達はまず、斉藤さんや紬父が幽閉されていた地下収容所に向かった。
あそこにはまだ人間が残っているかもしれない。そんな期待をしていた。

私達の期待は最悪な方向で裏切られた。

そこに「あった」のは無残に引き裂かれた肉塊と、徘徊する崩壊者達だけだった。
その中には、昨日まで人間だった施設管理者の姿もあった。

私達は早々にその場を後にした。



688 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:01:53.23 ID:D4ccMxpB0

その後、一般人居住区を隅々まで調べ回ったけれど、「人間」に出会う事は無かった。

兵士達が使う軽装甲車両などが置いてある地下駐車場に行くと、その殆んどが無くなっていた。
ヘリを持たない者達は、ここにあった車を使って脱出したのだろうか。

無くなった車の代わりに、一般人を含む夥しい数の死体が散乱している。
その中で、まだ多くの崩壊者達が黙々と食事をしていた。
どうやら、ここが一番の「地獄」だった様だ。

この施設から脱出しようと、多くの人がここに詰め掛けた。
しかし、その者達全員を収容出来る程、車両は存在しない。
となれば、何が起こるかは容易に想像出来る。

人間同士の殺し合い。

その血の臭いに惹かれて、集まって来る亡者達。
この惨状は、その結果なのだ。

昨日、何故崩壊者達が階下に集中していたのか、その謎が解けた。
奴等は皆、ここに集まって来ていたのだ。

もしあの時、車で逃げようとしていたら……。
間違いなく、私達もこの惨たらしい風景の一部となっていただろう。

唯「もう行こう……」

紬「うん……」



689 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:04:53.93 ID:D4ccMxpB0

私とムギちゃんは、死んだ紬父の元へと向かった。

私は紬父を殺した後、そのまま放置するのは気が引けたので、
その遺体を近くの談話室に移動させたのだ。

部屋の中の紬父の遺体は、私が昨日動かしたままの状態で寝かされていた。

紬「お父様……」

ムギちゃんは、涙を流しながら紬父の頬を撫でていた。

紬「ありがとう、唯ちゃん……」

唯「ムギちゃん……」

紬「お父様がこんなにも安らかな顔で眠っているのは、唯ちゃんのお陰だから……」

そう言うと、ムギちゃんは紬父を抱き起こし背負った。
ゾンビ化した事で、痩せ細ったムギちゃんでも、大きな紬父を担ぐ事が出来た。

唯「……手伝おうか?」

紬「ありがとう、でも平気よ。お父様は私一人で運ばせて。これが最後だから……」



690 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:08:13.47 ID:D4ccMxpB0

外は雲一つ無い快晴だった。太陽の光が目に染みる。

私は小さめのユンボに乗り込み、紬父を埋める為の穴を掘っていた。
この操縦方法も、斉藤さんに教わった事だ。

片手で操縦するの事は難しく、思ったより捗らない。
それでも私は、顎や肩を使い、何とか重機を動かした。

広く大きめに掘った穴の底に、ムギちゃんが紬父を優しく丁寧に寝かす。
そこでムギちゃんは、紬父に最後の別れを告げた。
ムギちゃんが穴から出た後、私はそこにゆっくりと土を被せた。

3月も終わりになると、かなり暖かい。
いつの間にか私は汗まみれになっていた。

土を全て被せ終え、近くにあった大きな石をショベルで持ち上げ、その上に置いた。

これで紬父のお墓は完成だ。

ユンボから降りると、ムギちゃんが冷えたジュースを持って来てくれた。

紬「ありがとう、唯ちゃんのお陰で立派なお墓が出来たわ」

ムギちゃんが優しく微笑む。私もそれに笑顔で応えた。

紬「ねえ、唯ちゃんの腕が治ったら……」

ムギちゃんが真剣な顔で私に言った。

紬「もう一度、東京に戻らない?」



691 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:11:11.93 ID:D4ccMxpB0

紬「私ね、もう一度……もう一度だけ桜ヶ丘高校に行きたいの。
  みんなが笑顔でお喋りしながらお茶をしたあの部室に……」
  
唯「ムギちゃんの気持ちは分かるけど……。
  あそこはもうムギちゃんの知ってる場所じゃ無いの。
  桜ヶ丘高校は、ここと同じ様に崩壊した場所なんだよ。
  今、期待を持ってあの場所に行っても、失望するだけだと思う」

紬「それでも……私はどうしてもあの場所に戻りたいの……お願い……」

唯「……。何があっても、後悔しない?」

紬「ええ、どんな現実でも、私は受け入れるわ」

唯「……そっか。」

唯「いいよ、行こう。私達の学校に。私達が出会ったあの場所に」

紬「唯ちゃん……」

唯「そうと決まったら、早速出発の準備をしよっか」

紬「えっ!? 今すぐ?」

唯「思い立ったが吉日、だよ? ムギちゃん!」

ゾンビになった私達を縛り付ける物など何も無い。
私達は、完全に自由なんだ。
だから、何処にでも飛び立って行ける。
施設という鳥籠に留まる必要なんて何処にも無いんだ。



692 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:15:26.37 ID:D4ccMxpB0

紬「でも、その腕じゃ……」

唯「大丈夫、片腕だって、運転くらい簡単に出来るって!」

唯「それに、外に出られるのなら、私はどうしても行きたい所があるんだ……」

紬「……憂ちゃん達の所ね」

唯「うん。あれから8ヶ月も経っちゃったから、あそこが今どうなっているか分からないけどね」

紬「場所は分かるの?」

唯「軽井沢駅から真っ直ぐ行った所だから、駅まで行ければ分かると思う」

紬「そうね。それじゃあ、出発の準備をしましょ?」

唯「うん」

私達は警備室へ行き、車のスペアキーを持って、再びあの忌まわしい駐車場に戻った。
そこにある軽装甲車に付いている番号と、キーの番号を照らし合わる。
私は残っていた車の中からガソリンの残量が一番多い物を選び、
ムギちゃんを助手席に乗せ、それを施設の表玄関に移動させ停車した。

唯「カーナビも付いてるし、ガソリンも満タンに入ってる。
  後は、食料と生活用品を詰め込めばバッチリだね」

私達は自室に戻り、ヘリに持って行く筈だったバッグを車に積んだ。
その後、食堂で長持ちしそうな食料や水、缶詰などを、手当たり次第に車に詰め込んだ。



695 名前:ミスったorz 訂正>>694:2011/02/02(水) 22:24:09.91 ID:D4ccMxpB0

唯「ふぅ~、こんなもんかな」

紬「そうね」

唯「後はギー太を持ってくるだけか」

紬「そういえば、部屋には無かったわ……」

唯「うん……」

私は小さめのバッグを持ち、ギー太の元へと向かった。

紬「待って、唯ちゃん。私も行く」

私達はギー太が眠っている廊下までやって来た。
4人の崩壊者達の死体と、バラバラになったギー太が散乱している。

紬「唯ちゃん……」

唯「うん、ギー太は壊れちゃったんだ……」

私は血の付いていない綺麗な破片を拾い、それをバッグに詰め込んだ。

唯「女ちゃんを助ける時にね、武器が無くってさ。ギー太は私と女ちゃんを守ってくれたんだ……」

私は後悔なんてしていなかった。
いくら大切でも、ギー太は「物」なんだ。
人間の命と比べられる筈なんてない。

ごめんね、ギー太。ありがとう、ギー太。



696 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:30:09.42 ID:D4ccMxpB0

出発の準備が整った頃、もう陽は沈み掛けていた。

唯「もうこんな時間か……。出発は明日にしよう」

紬「ええ、そうね……」

私達は早めの夕食を済ませ、入浴し、翌日の為に寝る事にした。
目覚ましをセットし、睡眠薬をアルコールで流し込んだ。
そのお陰で、私達は20時前には既に熟睡していた。

翌日朝6時55分。

私達は、目覚ましが鳴る5分前に起きる事が出来た。
シャワーを浴び、軽めの朝食を済ませる。
サンドイッチを作り、それを昼食にする為、バスケットに詰め込んだ。

唯「それじゃあ、行こうか」

今日も昨日と同様に、澄み渡った青空が広がっている。
私達は車に乗り込み、開かれた表門から施設を出た。

流石観光名所、綺麗な景色の山道が続く。
この施設に来た時、私は気を失っていた為、この辺りの風景を見るのは初めてだった。

穏やかな景色を眺めていると、施設内の悲惨な光景が夢の様に思えてくる。

いつかこの夢から醒める時は来るのだろうか。



697 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:33:24.24 ID:D4ccMxpB0

助手席のムギちゃんは、カーナビを見ながら進行方向を私に的確に伝えてくれた。
そのお陰で、私は軽井沢駅に行かずにこの場所に来る事が出来た。

憂と和ちゃんが殺されたこの場所に。

私は車の速度を落とし、辺りを見渡しながらゆっくりと道を進んだ。

紬「ここが憂ちゃん達の……?」

唯「うん……。ムギちゃんも、周りをよく見ててね」

紬「分かったわ……」

私とムギちゃんは、注意深く周囲を見ていた。
しかし、私達は憂や和ちゃん、あの時死んだ崩壊者達の痕跡すら見付ける事は出来なかった。
やはり、時間が経ち過ぎてしまったのだろうか……。

暫く進むと、私達が一夜を過ごした公民館が見えてきた。
その道端に車が一台停めてある。
和ちゃんがどこからか拾って来た車だ。
さらにその先には、私達が東京から乗って来た車が放置されていた。

唯「ここで私達は一泊したの。その時に純ちゃんが自我を失いそうになって……。
  純ちゃんとあずにゃんの二人とは、ここで別れたんだ……。

私は車を公民館の入り口の前に停めた。

唯「中を確認して行きたいの。いいかな?」

紬「もちろんよ。行きましょう……」



698 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:36:53.41 ID:D4ccMxpB0

中はあの時とは違い、塵が積もり、まるで廃墟の様に汚くなっている。
そして、白骨化した巨漢崩壊者の残骸が残されていた。

私達は皆で泊まった3階の部屋に向かった。
そこには、和ちゃん達が敷いてくれた布団がそのまま残されていた。

唯「あの時のままだ……」

私は過去の記憶を探りながら、部屋を見回した。
あずにゃんと純ちゃんを抱き抱えながら眠った時の事を思い出しながら。

その時、私はこの部屋からある違和感を感じた。
その違和感の正体に、私は程無くして気が付いた。

唯「バットが無い……」

紬「バット?」

唯「うん。あの日私はこの部屋にバットを持って来た……。
  でも、次の日ここを出た時、私はバットを持って行かなかったの。
  憂も和ちゃんも、バットなんて持ってなかった……」

紬「梓ちゃんか純ちゃんが持って行ったんじゃ……?」

唯「その可能性もあるけど、二人はゾンビだったんだよ? 今更武器なんて必要無いはず……」

あずにゃんか純ちゃんが、何かの為に持っていったのだろうか?
それとも……?



699 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:41:03.54 ID:D4ccMxpB0

そもそも、あずにゃんと純ちゃんは何処に行ったのか。
もし、この場所で朽ち果てたのなら、あの崩壊者の様に骸が残っている筈だ。

唯「あずにゃんと純ちゃんはどこに行ったのかな……?」

紬「もし行くとすれば、町の方じゃないかしら? 食料や日用品もあるだろうし……」

私達は駅を中心とした軽井沢の市街地を車で回りながら二人の姿を探した。
クラクションを派手に鳴らし、人間がいる事をアピールしながら。
しかし、二人の姿はおろか、他の人間やゾンビの姿すら見掛ける事は無かった。

この町は、既に幽霊街となっていた。

日は疾うに暮れ、辺りは闇に包まれていた。
私達は彼女達の捜索を諦め、駅前の駐車場に車を停め、車内で一泊する事にした。

車内の寝心地は、施設のベッドに比べると頗る悪かった。
荷物を詰め込み過ぎた所為もあって、座席を余り後ろに倒す事が出来ない。
念の為、睡眠薬を持って来ておいて正解だった。

私達は、薬の力を借りて、何とか眠りに就く事が出来た。



700 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:48:28.81 ID:D4ccMxpB0

次の日、私達は一路東京を目指して進んでいた。

ムギちゃんがカーナビを桜ヶ丘高校にセットし、私はそのナビに淡々と従う。
車道は以前よりもかなり荒れていたけれど、この軽装甲車なら問題なく進む事が出来た。

途中、乗り捨ててある車などを発見した場合、残っているガソリンの量を確認する。
残量がある時は、手動ポンプで自分達の車に燃料を移し変えた。
そのお陰で、東京都に入っても車の燃料メーターの針はほぼ満タンを示していた。
もうガス欠は懲り懲りだった。

東京は以前に増して荒み切っていた。
歩道も車道も、大量のゴミで溢れ返っている。
人の乗っていない車が道路のあちこちに放置され、私達の行く手を阻む。
私はアクセルを踏み込み、邪魔な車を強引に押し退けた。

ここにも人気は全く無い。
もしかしたら、この世界で生きているのは私達だけじゃないのだろうか?
そんな錯覚に陥る程に、生命の気配を感じる事が出来なかった。

そんな中、多くの障害物を乗り越え、私達は漸くこの場所に着いた。

桜ヶ丘高校。

終わりが始まったこの場所に、私達は戻って来た。

私達は車を降りる。
春の爽やかな風が、私達の横を通り過ぎて行く。
辺りは満開の桜に包まれていた。



701 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:51:54.61 ID:D4ccMxpB0

学校の中に入ると、そこには無数の骨が散乱していた。
私達が殺した女生徒達だろうか。
その風景を、ムギちゃんは悲しそうな顔で眺めていた。

私はムギちゃんの手を握り締め、音楽室へと向かった。

音楽室の扉を開ける。
懐かしい匂いが、私達を包む。
私は、自分が東京に帰って来た事を改めて実感した。

そして次の瞬間、私の目に信じられない物が飛び込んできた。

間違いない、あれは私が軽井沢に持って行ったバット……!
何故このバットがここに……部室にあるの?

紬「どうしたの? 唯ちゃん?」

唯「そんなハズない……なんで……なんでバットがここにあるの……?」

紬「唯ちゃんが持っていったのとは違うバットなんじゃ……?」

私はバットを手に取り、グリップエンドの裏を見た。
そこには、赤のマジックで確かに「姫」と書いてある。
間違い無い、このバットは私が軽井沢の公民館に置いてきたバットだ。

その時、ムギちゃんが大きな声を出し、私を呼んだ。

紬「唯ちゃん! テーブルの上に書き置きがあるわ!!」




702 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 22:52:39.23 ID:rsuQX6fLo

まさか





704 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:07:11.17 ID:D4ccMxpB0

平沢唯さん、琴吹紬さんへ。

もし、これを見たなら、赤の印が付いた場所まで来て下さい。

曽我部恵

2010年7月19日

書き置きの下には地図が置いてあり、そのある一点にペンで赤い印が付けてあった。

7月19日……。この日付は、憂と和ちゃんが死んだ日だ。
ここにバットを持って来たのも、この人の仕業なのだろうか。

曽我部恵……ここでこの人の名前を見る事になるなんて……。

紬「曽我部恵……確か生徒会長をしていた……」

そう、桜ヶ丘高校の元生徒会長、曽我部恵。
私達より一つ年上の先輩で、和ちゃんの前の生徒会長だった人。

容姿端麗、成績優秀、品行方正、運動神経抜群。
非の打ち所が無い完全無欠の生徒会長。
にも拘らず、「近いからこの高校を選んだ」といった、気さくな人柄の持ち主でもあった。
また、澪ファンクラブなる物を創り、その会長も務めていた。

その桜ヶ丘高校始まって以来の天才は、日本で一番良い国立大学に現役で合格し、進学した。

彼女は誰からも愛される生徒会長だった。

そんな曽我部先輩に、私は嫉妬していた。




705 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:15:31.31 ID:glwKiTrDO

先輩はN女子大じゃなかった?





706 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:21:04.73 ID:D4ccMxpB0

>>705
一部原作と設定が異なっております。



707 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:23:29.36 ID:D4ccMxpB0

和『それじゃあ私、生徒会行くね』

澪ちゃんが風邪を引き、軽音部が休みになって、和ちゃんに一緒に帰ろうと誘った時の事だった。
和ちゃんは、私が知らない間に生徒会に入っていた。

そんな事を一々私に報告する必要など無いのは分かっている。
それでも、私は和ちゃんの幼馴染みとして彼女の全てを知っていたかった。
親友として、私は和ちゃんの事が大好きだったから。

私は軽音部があったし、和ちゃんは生徒会で忙しく、私達が会う機会はめっきりと減っていた。
それでも私は、和ちゃんとの関係が絶対のモノであると信じていた。
何があろうと、どんな時でも、必ず一番に私の事を想ってくれる存在であると。

私は欲張りだった。

憂という存在がありながら、私は和ちゃんも求めていた。
私はこの二人を独占していたかったのだ。
高校に入るまで、二人の中心にはいつも私がいた。
それが当たり前の事だと思っていた。

あの光景を見るまでは。

私は軽音部の事と託けて、生徒会室にいる和ちゃんに会いに行った事がある。
扉を開けた時に私が目にしたのは、生徒会長の曽我部恵と楽しく談笑している和ちゃんの姿だった。
あんなに楽しそうに笑う和ちゃんの姿を、私は今まで見た事が無かった。

その光景を見て、私は衝撃を受けた。
最高の笑顔をしている和ちゃんの横にいるのが私ではなかったから。
私は曽我部先輩に対して嫌悪感を抱いた。
それが自分勝手で最低な事であると私は分かっていた。



708 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:30:50.46 ID:D4ccMxpB0

★17
私は曽我部先輩に和ちゃんを取られまいと必死だった。
下校時間を合わせてみたり、休日に一緒にお出掛けをしたり、夕食に招いたり、
私は和ちゃんとの時間を出来るだけ作ろうとした。
一緒にいる事、それこそが和ちゃんをk~ぎ止める最善の方法だと思っていたからだ。

そんな私の思惑は結局無駄に終わった。

和ちゃんは、曽我部先輩に心底夢中だった。
私と二人の時、和ちゃんが口にするのはいつでも曽我部先輩の事ばかりだった。
彼女の凄い所、面白い所、優しい所、可愛い所などを、目を輝かせながら嬉しそうに語るのだ。
私は、そうなんだ、と笑顔で返していたけれど、内心イライラしていた。

和ちゃんは曽我部先輩の事ばっかり見てるんだ……。

曽我部先輩を慕う和ちゃんに対して、私は心の中で悪態をついた。
独占欲の強い私は、和ちゃんが他の人に強い関心を持つ事が気に食わなかった。

そして私は、曽我部先輩を褒めちぎる和ちゃんの姿など見たくはなかった。
頭が良く、運動も得意な和ちゃんは、私の憧れでありヒーローだった。
そんな和ちゃんが、自らを卑下してまで曽我部先輩を称賛する。
私にはそれが堪らなく不愉快だった。

生徒会だけではなく、私生活でも二人は関係を深めていった。
曽我部先輩の勧めで、和ちゃんは彼女の知り合いが運営する塾で講師としてのアルバイトを始めた。
それ以来、和ちゃんはいつも曽我部先輩と行動を共にする様になった。
その姿は、まるで仲の良い姉妹の様だった。

その一方で、私は和ちゃんと過ごす時間を殆んど失った。
生徒会の仕事を理由に、一緒に登校する事も昼食を取る事も無くなっていた。



709 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:35:23.51 ID:D4ccMxpB0

そんなある日、隣町の楽器店から一人で帰る途中、私は偶然曽我部先輩に出会った。

恵『こんにちは、平沢唯さん』

唯『曽我部先輩……どうして私の名前を……?』

恵『和から貴女の事を聞いていてね。貴女こそ、どうして私の名前を?』

唯『それは……生徒会長だし、みんな知ってます……』

私は嘘を付いた。
和ちゃんから聞かなければ、生徒会長の名前など私は知らなかった。

恵『そっか。平沢さん今時間ある? 一緒にお茶でもしましょう。私が奢るわよ』

唯『えっと……私は……』

断ろうと思った。
しかし、返事をする間も無く、私は近くの喫茶店に連れ込まれてしまった。
窓際の席に座ると同時に、彼女は腕を挙げ、近くの店員を呼んだ。

恵『コーヒーとチーズケーキを。平沢さんは?』

唯『えっと……じゃあ……オレンジジュースを……』

恵『あ、あと苺パフェ。平沢さん、苺もパフェも好きなんでしょ? これも和から聞いたのよ』

彼女は爽やかな笑顔を私に見せた。



710 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:39:51.28 ID:D4ccMxpB0

曽我部先輩は、私の顔をじっと見詰めている。

唯『な、なんでしょう……?』

恵『唯ちゃんって呼んでいい?』

唯『べ、べつに構いませんけど……』

恵『ありがとう。……唯ちゃんって可愛いわね』

唯『ふぇっ? な、なんですか突然……』

恵『ふふ、軽音部って本当に可愛い子が多いのね。
  そういえば私の友達がね、秋山澪って子の大ファンなの。
  ファンクラブを作りたいらしいのだけれど、その子は恥ずかしがり屋でね。
  自分には出来ないから、私に秋山さんのファンクラブを作って欲しいって言うのよ』

唯『そ、そうなんですか……』

恵『あなたどう思う?』

唯『澪ちゃんは恥ずかしがり屋だし、そういうの苦手かもしれません……』

恵『そうなんだ……。それなら、ファンクラブ作ったら面白そうね!』

彼女はコーヒーを片手に、悪戯っぽく笑いながら言った。



711 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:42:47.99 ID:D4ccMxpB0

店員が持って来た苺パフェが、私の目の前に置かれた。
どうぞ、と曽我部先輩が笑みを浮かべながら言った。
私は、いただきます、と言い、苺パフェに手を付けた。
曽我部先輩は、そんな私の様子を微笑みながら見ている。

恵『唯ちゃんは私の事、嫌い?』

唐突な質問に、私は驚き咳き込んだ。

唯『い、いえ……。どうして、そんな事を聞くんですか……?』

恵『私が貴女の大好きな和ちゃんといつも一緒にいるから……かな?』

まるで、私の心を見透かしているかの様だった。
私は冷静を装い、彼女の発言を否定した。

唯『私は別に、そんな事で嫉妬したりしません。子供じゃありませんから』

恵『そっか……。私は子供だから、唯ちゃんに嫉妬していたわ』

唯『えっ……?』

恵『和はね、私といる時に、いつも貴女の事を楽しそうに話すのよ。
  その笑顔を見ているとね、こんなに想われているなんて羨ましいなって……』

唯『そ、そうなんですか?』

恵『あら、嬉しそうね。顔がニヤけているわよ』

私は彼女に指摘され、緩んだ口元を急いで結んだ。



712 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:48:25.64 ID:D4ccMxpB0

恵『それで私、貴女と是非お話したいと思っていたの。一体どんな子なのかなってね』

唯『わ、私は……別に……。ごく普通の女子高生です……』

恵『そうかしら。和は、貴女には人を惹き付ける何かがあるって言っていたわ』

唯『私にそんなモノは無いです……。それに、曽我部先輩の方が、みんなの人気者じゃないですか』

恵『人気者……か。でもね、私には心から友人って呼べる存在がいないの』

恵『勉強が出来たり、スポーツで活躍したりすると、皆私を褒めてくれるわ。
  けれど、それは私自身の本質じゃない。
  もし私の容姿が悪く、勉強も運動も出来なかったら、誰か私に振り向いてくれるかしら?』

恵『皆、私の上辺にしか興味が無いの。
  本当の私は、ネガティブで嫉妬深い、嫌な女なのよ』

彼女は憂いた表情でそう呟いた。
西日が射したその顔は美しく、女の私でさえドキっとする程だった。

唯『そ、そんな事無いです! 少なくとも、和ちゃんは人を表面だけで判断する子じゃないです!』

唯『和ちゃんは、私にいつも曽我部先輩の事を楽しそうに話してくれました。
  曽我部先輩の事を、和ちゃんは心から尊敬しています。
  長い間、幼馴染として和ちゃんの傍にいた私が保障します』

唯『正直、私は曽我部先輩の事が嫌いでした。嫉妬してました。
  和ちゃんは今まで、他人をそんなに褒めた事なんて無かったから……』
  
唯『私の方が嫉妬深くて嫌な女です! しかも、勉強も運動も家事も、何にも出来ません!』



713 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:52:29.44 ID:D4ccMxpB0

曽我部先輩は呆気に取られた表情をしていた。
暫くして、彼女はクスクスと小さな声を出し笑い始めた。

恵『やっぱり、貴女は面白い子ね。和が惹かれるのも分かる気がするわ』

恵『和が言ってた。唯ちゃんは周りを明るくする、皆を笑顔にする子だって。
  私も唯ちゃんと話していたら、グダグダ悩んでいる自分が馬鹿らしくなったわ』

恵『ねぇ、唯ちゃん。世界が詰まらなく感じたりする事は無い?』

唯『う~ん、無いです……。軽音部は楽しいし、友達や妹とお喋りするのも好きだし……』

恵『私はこの世界が退屈だった。こんな世界、全部壊れちゃえって思った事もあったわ。
  でもね、今やっと気付いたの。詰まらないのは世界じゃなくて、私の方なんだって……』

恵『人間ってね、誰もが自分の世界、自分だけの世界を持っていると思うの。
  でも、唯ちゃんはその自分の世界を、他人と共有する事が出来る、そんな気がするわ』

唯『えっ……? それってどういう……』

恵『簡単に言うと、唯ちゃんにはスターの素質があるって事よ』

唯『へっ?』

恵『あ、もうこんな時間。バイトがあるから、そろそろ失礼するわね』

そう言うと、彼女は伝票を持って席を立って行った。
その時の私には、彼女の言っている意味がよく分からなかった。

ただ、彼女に対する嫉妬や嫌悪感は、私の中からすっかり無くなっていた。



714 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:15:50.13 ID:4GbNjW1z0

今の私は、少しだけあの時の曽我部先輩の事が分かる気がした。

天才曽我部恵は、その才能故に孤独だったのだろうと。

天才は凡人と異なる感覚や思考を持っている。
それ故に周囲から理解されず、孤立してしまうのだ。

曽我部先輩は、自分の持っている「世界」を誰かと共有したかったのだ。

「世界」を共有出来る人こそ、彼女の言う「心からの友人」たり得るのだ。

私とムギちゃんは、間違い無く同じ「世界」を共有した。
曽我部先輩は、私とムギちゃんの様な関係を誰かに求めていたのではないだろうか。



715 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:27:58.53 ID:4GbNjW1z0

紬「この印の場所って、彼女の進学した大学の辺りね」

唯「行ってみよう、ムギちゃん!」

紬「ええ。でもその前に、唯ちゃんは自宅に戻らなくていいの?」

自宅……そこは私と憂の思い出が詰まった場所……。

唯「確かに、いつかはあの家に行かなくちゃいけない。
  憂との思い出がいっぱいあるから、それを取りにね。
  でも、それは今じゃ無い気がするの」

唯「書き置きの日付は、和ちゃんと憂があそこで死んだ日なんだ。
  そして、軽井沢に置いてきたこのバットが今ここにある……」

唯「偶然なんかじゃ無い気がする! 私は曽我部先輩に会って話したい!」

唯「かなり時間が経ってるから、もしかしたら印の場所に行っても無駄かもしれない……」

唯「それでも、1秒でも早く私はこの場所に行きたいの!」



716 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:30:23.30 ID:4GbNjW1z0

私達は地図を持って、すぐさま印の場所へ向かう事にした。

曽我部先輩に会えば、全ての謎が解ける。
そんな予感がしていた。

私達は、瓦礫に塗れた都内を、只管目的地に向かって進んだ。
途中迂回を余儀なくされ、曽我部先輩が通う某大学まで到着するのに4時間程掛かった。

現在16時、印象的な赤い門の前を通り過ぎ、印のある辺りまで私達は来ていた。
この辺りは、都心部とは思えぬ程緑が多く、自然が溢れていた。

私達は車で周辺を巡り、何か目印等がないか注意深く探して回った。

紬「この辺りのハズなんだけど……」

唯「もしかして、この黒い柵の中なんじゃ……」

先程からずっと気になっていた。

高くて太い頑丈そうな黒い鉄の柵が、広大な一角を丸ごと囲んでいる。
茂る木々に遮られ、柵の外からでは中の様子がよく分からない。

私達は、この柵の内側へ行く入り口を探す事にした。

柵に沿って移動し、私達は漸くその入り口に辿り着いた。



717 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:32:20.67 ID:4GbNjW1z0

入り口の門は完全に閉ざされていた。
攀じ登る事も出来そうにない。

車から降り、ふと門の横を見上げると、監視カメラが私を捉えていた。
赤いランプが点いていて、カメラが作動している事は分かる。
私とムギちゃんは、監視カメラに向かって手を振ってみた。

その時、大きな音と共に、門が勝手に開き始めた。
どうやら、私達を受け入れてくれる様だ。
車に乗り込み、開いた門から中へと入る。
私達の車が門を過ぎると、黒い檻の入り口はまた堅く閉ざされた。

道なりに暫く進んで行くと、巨大な白い施設が見えてきた。
私達は施設の入り口に車を止め、中の様子を伺う。
人の気配は感じられない。
勝手に中に入ってもいいのだろうか。

そんな事を考えていると、奥から白衣を来た50代位の熟年男性が現れた。
彼は私達の姿を見るなり、笑顔で近付いてきた。

「来客とは珍しいね。まぁ、中にお入りなさい」

唯「でも……私達……」

「ウイルスに感染して、まだ間も無い様だね。大丈夫、心配はいらないよ。さあ。」

白衣の男は手招きをしている。
私達は、彼の言うままに建物の中へと入っていった。



718 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:34:18.62 ID:4GbNjW1z0

白く綺麗な内装で覆われ、病院特有の消毒液の香りがする。

唯「ここは……?」

「元は生物研究所だったが、今は噛み付き病に特化したウイルス研究所さ。
 今日は休日なので、殆んどの研究員達は隣の避難施設で過ごしているがね」

唯「ウイルス研究所……?」

「私達は、ある企業から莫大な援助を受けて、噛み付き病ウイルスの治療薬を開発していてね」

紬「お薬は……出来たのですか……?」

「ああ。臨床試験を経て効果は実証され、後は量産するだけさ。悪夢はもう終わったんだよ」

抗ウイルス薬は完成していた。
とある精神安定剤に、東南アジアの奥地で取れる野草の成分を組み込んで作られたそれは、
大きな副作用も無く、ウイルスを完全に浄化する事ができるらしい。

ただし、自我を失った崩壊者になってしまうと、もう完治する事は無い。
崩壊者は、脳の一部がウイルスによって破壊され、そこに病巣が出来ている。
抗ウイルス薬を注入すると、その部分に強く作用し、死んでしまうのだ。

白衣の男に案内され、私達は治療室の前まで来た。
そのドアを開くと、中には白衣に身を包んだ若い女性が立っていた。

「先生、どこに行ってたんです? まだ仕事は残ってるんですよ?」

その女性の顔を見て、私は驚き声を上げた。



719 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:36:50.38 ID:4GbNjW1z0

唯「曽我部先輩!」

恵「唯ちゃん!? 一緒にいるのは琴吹さんね!
  良かった、部室にあった書き置きを見てくれたのね?」

唯「はい、あの書き置きを見てここに来たんです」

恵「あの書き置きを残してから、ずっと貴女達がここに来るのを待っていたのよ」

先生「琴吹? もしや、あの琴吹グループの一人娘の?」

紬「はい、そうです」

先生「この施設の研究費は、全て琴吹グループが出していてね。
   君のお父さんのお陰で、抗ウイルス薬が出来たんだ。
   以前、試験薬が完成した時に、曽我部君と軽井沢まで挨拶をしに行ったのだよ」

先生「お父さんは元気にしているかい?」

紬「父は……死にました……」

先生「なんて事だ……。せっかく薬が完成したというのに……」

先生は天井を見上げ、憂いた表情をしていた。

先生「君もこれから大変かもしれないが、お父さんの為にも、一緒に頑張ろう……」

紬「はい……」



720 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:40:18.11 ID:4GbNjW1z0

ふと気が付くと、曽我部先輩の姿が見えなくなっていた。

先生「しかし、君達が助手の曽我部君と知り合いだったとは驚きだ」

唯「そういえば、なぜ曽我部先輩が先生の助手に?」

先生「この辺りでも爆発感染、パンデミックが起こってね。
   その時に、多くの研究員が犠牲になってしまったんだ。
   それで人手不足になり、某大学から優秀な生徒達を連れて来て貰ってね」

先生「曽我部君は生物学や医学が専門ではないが、素晴らしい見識と素質を持っていてね。
   無理を言って、私の助手としてここで働いて貰っているんだ。彼女には本当に感謝しているよ」

そう言うと、先生はビンに入った薬と注射器を持って来た。
そしてそれを、私達の腕に注射した。

先生「期間を空けてあと数回この注射をすれば、体内のウイルスは死滅するからね」

私はもう人間に戻れる事など無いと思っていた。
この滅び行く世界の中で、ゾンビとして私も共に死ぬのだと思っていた。
しかし、世界の崩壊は食い止められた。
多大な犠牲を出しながらも、人類は希望の光を見い出したのだ。

そんな中、曽我部先輩が治療室に戻って来た。
その後ろから、数人の話し声が聞こえる。

次の瞬間、私は自分の目を疑った。
信じられない光景が、私の目に飛び込んで来たのだ。

憂「お姉ちゃん……?」



721 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:41:35.02 ID:4GbNjW1z0

唯「う……い……?」

憂「おねえちゃん……おねえちゃーん!!」

憂は涙を流しながら私の元に飛び込んで来た。
私の胸で、憂は大声を上げながら泣きfVった。

律「感動の再会ってヤツかな? 唯隊員、ムギ隊員」

唯紬「りっちゃん!!」

梓「唯先輩、無事で良かったです……」

唯「あずにゃん……」

梓「ムギ先輩も……絶対また逢えるって、私信じてました……」

紬「梓ちゃん……」

和「純は他の子達に、唯とムギが帰って来た事を伝えに行ったわ」

唯「和ちゃん……」

和「お帰り、唯……ムギ……」

唯紬「ただいま……」

私とムギちゃんは涙を流し、大声で泣いた。
それは悲しみの涙などではなく、喜びの涙だった。



722 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:49:42.34 ID:4GbNjW1z0

恵「私と唯ちゃんは入れ違いだったみたいね。
  私はあの日、軽井沢の施設に先生と一緒に琴吹さんのお父様に会いに行ったのよ。
  試験薬が完成して、そのお披露目にね。琴吹グループが私達のスポンサーだったから」

恵「本当はヘリで行く予定だったのだけれど、色々事情があってね……。
  結局、警備員を伴って車で行く事になったの。そのお陰で、和達と会えたのだけれど」

和「ヘリだったら、私達はとっくに死んでいたでしょうね……」

恵「本当にビックリしたわ。道端に和と憂ちゃんが倒れているんだもの……。
  あの時は何で和がこんな所に? って思ったわ。しかも銃で撃たれているし……」

憂「その時、恵さんが助けてくれて、この施設に連れて来てくれたの」

恵「このウイルスに感染すると、生命力が格段に向上するでしょ?
  そのお陰で、二人とも何とか一命を取り留める事が出来たのよ」

恵「幸運だったのは、抗ウイルス剤の試験薬が手元にあった事ね。
  本当は軽井沢の施設に提供する物だったのだけれど、
  琴吹さんのお父様が、ここは平気だからこれは必要ないって。
  自分達より、今苦しんでいる人の為に使って欲しいって言ってくれたの」

紬「お父様……」



724 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:55:47.41 ID:4GbNjW1z0

恵「二人を応急手当てした後、和が他にも助けて欲しい子がいるって言ってね……」

梓「私と純は、あの後ずっと公民館の部屋の中にいたんです」

和「そのお陰で私達と合流する事が出来たの」

恵「だけどその後、崩壊者達に気付かれちゃって、大変だったのよ?
  私も部屋に置いてあったバットを借りて頑張ったんだから」

純「あの時の曽我部先輩はかなり怖かったですよ……」

唯「純ちゃん!」

恵「純ちゃんはかなり危なかったわね。あと少しでも遅れていたら、間違いなく手遅れだったわ」

梓「純は運だけは良いからね……」

純「日頃の行いが良いからかな」

梓「調子に乗るな!」ポカッ

純「いてっ!」



726 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 00:58:04.26 ID:4GbNjW1z0

純「お久しぶりです、唯先輩、ムギ先輩……。
  ムギ先輩、私や憂も軽音部に入って、ムギ先輩の後輩になったんですよ」

いちご「……私も軽音部員。」
しずか「わ、わたしも……」

紬「ええ、みんなの演奏、DVDで見せて貰ったわ……。凄く良かった!」

いちご「……。」

律「いちご……口閉じながら笑うの怖いって……」

いちご「……律、五月蝿い。」

ちか「久しぶり、唯。それに琴吹さん……」

三花「私とちかちゃんは、一年生の時に琴吹さんと一緒のクラスだったんだよね。
   あんまりお話した事は無かったけど……」

紬「ごめんなさい……。私、人見知りして……」

三花「あ、ごめん、そういうつもりじゃなくて……」

ちか「綺麗な髪だって、結構噂になってたんだよ? 琴吹さんの事」

紬「そ、そうなの……? 全然知らなかったわ……」

アカネ「私は、琴吹さんとは初対面ね。初めまして、佐藤アカネよ」

紬「初めまして、琴吹紬です」



727 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:02:01.73 ID:4GbNjW1z0

アカネ「私、琴吹さんに謝らなきゃいけない事があって……」

紬「ううん、謝らなきゃいけないのは私の方なの……。私はみんなに……」

律「あー、湿っぽい話は無し無し! もう全部過去の事だよ!」

紬「でも……」

梓「それより、私を褒めて下さい! 部室に書き置き残す様に言ったのは私なんですよ?」

唯「あずにゃんが……?」

梓「はい。唯先輩とムギ先輩が生きていれば、必ずあそこに戻って来ると思ったんです。
  だから私は、曽我部先輩にお願いして、書き置きを残して貰ったんです」

恵「軽井沢から帰る途中にね、梓ちゃんがどうしても学校に寄って欲しいって。
  幸い、崩壊者達は学校に残っていなかったわ。
  そこで、りっちゃんやいちごちゃん達に会って、一緒にここに連れて来たの」

梓「私達、試験薬の被験者として、優先的に薬を貰う事が出来たんですよ」

和「軽井沢の施設に唯達がいるって知って、本当はすぐに逢いに行きたかったのだけれど、
  私達は薬の臨床試験中で、この施設から離れる事が出来なかったの」

律「それにこっちも、色々トラブルがあってさ。車やヘリが使えなかったんだ」

唯「トラブル?」



729 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:21:18.09 ID:4GbNjW1z0

恵「この薬はまだ量産されていないの。つまり、とっても貴重なワケ」

唯「なるほど……」

恵「察しが良いのね。貴女の想像している通りよ」

薬の奪い合いがあったんだ……。

恵「感染者の数が膨大過ぎて、とてもじゃないけど全員分なんて無理だった。
  試験薬でもいいから寄こせって言い出す連中もいてね。
  それこそ、大金を出して買いたいなんていう人達もごまんといたわ」

恵「それで薬を巡って対立が起きて、暴動みたいな事が起こったの。
  その時に、車や施設の備品などがかなり壊されたりもしてね……」

律「私達が優先的に薬を貰っているのも不公平だって言われてさ……」

和「それで私達は、外部に知られない様に隠れて治療を受けていたの」

梓「自由に出歩く事も出来なかったんですから」

恵「桜ヶ丘の子はみんな可愛いから、すぐ顔を覚えられてね。
  出歩くとすぐバレちゃうの。そうすると、また薬がどうのって話になるから、
  彼女達には出来るだけ出歩かない様にお願いしていたの」

憂「軽井沢の施設で問題が起きたって聞いた時は、凄く心配したんだよ。
  でもね、お姉ちゃん達は絶対に無事だって、私、信じてた」



730 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:24:27.05 ID:4GbNjW1z0

唯「そういえば、どうして私達が軽井沢の施設にいるって分かったの……?」

憂「私、録画して何回も聞いたよ、お姉ちゃんが私の為に唄った歌……」

唯「えっ……?」

梓「大晦日の歌番組ですよ。まさか、唯先輩達が出ているとは思いませんでした」

律「放課後ティータイムも、遂にメジャーデビューしてしまったな!」アハハ

純「憂なんか、唯先輩の歌を聴いたら号泣しちゃって、大変だったんですよ?」

憂「う~、それは言わないでよ~」ポカッ

純「いてっ」

律「でも、ホントに唯は輝いてたよ……。正直、少し嫉妬したかな……」

いちご「……律のキャラじゃない。」

律「ですよねー」

唯「そういえば、他の施設にも放送されるって聞いた……。
  でも、私、みんなが死んじゃったと思ってたから……」

和「私と憂なんて、銃で撃たれてたしね」

唯「ところで、澪ちゃんは……?」

今までの空気が一変し、皆の表情が暗くなった。



731 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:28:15.52 ID:4GbNjW1z0

律「唯、ムギ……澪に会いたいか……?」

唯「うん……」

紬「ええ……」

律「分かった、私に付いて来てくれ……」

和「それじゃあ、私達は唯とムギの歓迎会の準備をしましょうか……」

憂「うん……」

梓「そうですね……」

私達は皆と別れ、りっちゃんの後に続いた。
皆の様子を見て、私達はすぐに察しが付いた。
しかし、私はそれを受け入れたくなかった。
きっと笑顔で再会できる、私はそう信じていた。

私達は、ある個室の前まで来ていた。
その病室のネームプレートには、「秋山 澪」と書いてある。

澪ちゃんは生きている。
私の勘違いだったんだ。
そうに違いない。

律「入るぞ、澪……」

りっちゃんはそう言うと、扉を開け中に入った。
私達もその後に続いた。



732 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:32:20.30 ID:4GbNjW1z0

8畳程の個室、そこにあるベッドで、澪ちゃんは静かに寝ていた。
安らかな表情で眠っている澪ちゃんはとても綺麗で、まるで眠り姫の様だった。
腕には点滴のチューブがk~がれている。
ベッドの横には花瓶があり、色鮮やかな花達が活けてあった。

律「澪は薬を投与されてから、一度も目を覚ましてないんだ……」

りっちゃんは、今までに見せた事の無い、憂愁の表情をしていた
そして、優しく澪ちゃんの手を握った。

律「唯達と別れた後さ、澪が私に言ったんだ。自分を殺してくれって。
  だけど、そんな事、私には出来なかった……。出来る筈ないじゃないか……」

律「それでも、澪が殺してくれってせがむから、私は言ったんだ。
  それじゃあ、澪を殺して私も死ぬって。澪を一人にはしないって。
  そしたらこいつさ、私が死ぬ事は許さないって言うんだよ……」

律「我侭な奴だろ?」

澪ちゃんの前髪を分け、りっちゃんは優しく彼女の頭を撫でた。
りっちゃんは泣いていた。大粒の涙が、シーツに吸い込まれていった。

律「私は澪がいなくちゃ生きて行けない。澪がいない世界なんて在り得ない。
  だから生きてくれって言ったんだ。そしたら、澪は頷いてくれた。
  私が生きている限り、澪も死なないって約束してくれたんだ」

律「抗ウイルス薬のお陰で、私はゾンビ化から順調に回復していった。
  でも、澪は違った……。澪は間に合わなかった……。
  ゾンビ化が進み過ぎて、脳の一部がやられたって……。
  先生は、澪が目を覚ます事はもう無いだろうってさ……」



733 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:36:45.70 ID:4GbNjW1z0

律「唯、ムギ。澪の手を触ってみてくれ」

私とムギちゃんは、雪の様に白い澪ちゃんの手に触れた。
その大きな手からは、澪ちゃんの温もりを感じる事が出来た。

律「あったかいだろ?」

唯「うん、あったかいね……」

紬「澪ちゃん……」

律「澪は今も生きている。私との約束をちゃんと守ってくれている。
  だから、私も澪との約束を守る。例え何があっても澪の傍にいるって……」

唯「私も澪ちゃんと一緒にいる! だって、澪ちゃんは大切な親友だもん!」

私はムギちゃんを見た。
ムギちゃんも、目を潤ませながら頷いた。

律「人見知りで、口下手で、恥ずかしがり屋だけど……」

律「良かったな、澪……。お前には、お前の事をこんなにも想ってくれる仲間達がいるんだぞ……」

私達の声、私達の想い、澪ちゃんには届いているだろうか。

いや、きっと届いてる。

私は、心の底からそう信じて疑わなかった。



734 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:41:32.70 ID:4GbNjW1z0

律「ムギ、ごめん。私があの時ゾンビなんかにならなければ……」

紬「それはお互いもう言わない約束でしょ?」

律「そうだな……。ムギは……その……色々辛かっただろ?」

紬「気にしなくても平気よ、りっちゃん。遠慮はいらないわ……」

律「テレビでムギの姿を見た時さ、ムギがどんな気持ちで過ごしてきたのかすぐに分かった。
  私は辛かったんだ……。私達の所為でムギがこんなに苦しんでいるなんて……」
  
律「だから本当はすぐに伝えたかった。私達が元気だって事を。
  私達がムギの無事を心から願っていた事を……」

紬「りっちゃん……」

律「でも、私は信じてたんだ。きっと唯がムギを守ってくれる。
  そして、ムギも唯を守るって。お互いに支え合えば、絶対に大丈夫だって……」

紬「うん、唯ちゃんはいつも私を守ってくれた。私は唯ちゃんのお陰で生きていられたの」

唯「私もムギちゃんがいなければ強くなれなかった。
  ムギちゃんは私の生きる目的、希望だった。私の全てだった」

紬「施設で初めて逢った時の唯ちゃんは、今の私よりも酷く憔悴していたわ」

律「だろうな。なんてったって、唯は憂ちゃんが死んだと思ってたんだろ?」

唯「うん……」



735 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:46:22.65 ID:4GbNjW1z0

律「唯と憂ちゃんが互いをどれだけ想っているかは、誰もが知っているからな。
  だからテレビで元気そうにしていた唯の姿を見て安心してたんだ。
  唯はちゃんと、今、何を一番にすべきかを分かっているんだなってさ。
  あの時、もし辛そうな顔でもしていたら、次会う時に殴ってやろうと思ってたんだぜ」

唯「りっちゃんは強いね……」

律「私には、怖がりで臆病な幼馴染がいるからな。
  そいつの為に、私は強くなくちゃいけないからさ。
  どんな時でも、何があっても、そいつの事を守ってあげられる様に……」

りっちゃんがそう言った時、澪ちゃんが微かに笑った様に見えた。
それが目の錯覚などと言うモノでは無いと、私は断言する事が出来る。
りっちゃんの強い想いが、澪ちゃんに届いたのだと。

医者は澪ちゃんは目覚めないと言った。
しかし、私はいつか澪ちゃんがもう一度「唯」という言葉を発すると信じている。

その時、きっと私は「ありがとう」と口にするだろう。
澪ちゃんの優しさと強さが、私に勇気と力を与えてくれたから。

その後、皆は私とムギちゃんの為に再会記念パーティーを開いてくれた。
私達はそこで、私とムギちゃんが付き合っている事を打ち明けた。
皆、私達を祝福してくれた。憂もおめでとうと言ってくれた。

夜、私は憂と一緒の部屋の同じベッドで寝る事になった。
ムギちゃんとあずにゃんがそうするよう、私に勧めたのだ。
懐かしい憂の匂いは、薬やアルコールよりも私の安眠を促した。



736 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:51:03.07 ID:4GbNjW1z0

世界は緩やかに、しかし確実に、立ち直る兆しを見せていた。

薬が量産される様になると、何処に隠れていたのだろうか、多くの人々が再び地上へと現れた。
どんなに傷付き、疲れ果てても、そこに希望が在る限り、人類は何度でも立ち上がるだろう。

皆の心に刻まれた大きな傷は、長い時間を経たとしても完全に消える事は無い。

それでも、私達はきっと大丈夫。
明日に向かって生きて行ける。

私達は、決して一人ではない。
手を伸ばせば、自分の事を想ってくれる仲間に触れる事が出来るのだ。

痛み、悲しみ、苦しみ……。
それらも皆で分け合えば、もう恐れる事などない。

大切な人達が傍にいれば、どんな事だって耐えられる、乗り越えて行けるんだ。



737 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:53:29.02 ID:4GbNjW1z0

それから一年、日本は驚きの速さで復興を実現した。
抗ウイルス薬の開発に逸早く取り組み、成功した事がその大きな要因だろう。

薬の特許権は琴吹グループが所有している。
それにより、ムギちゃん率いる琴吹グループは莫大な利益を生み出した。
その利益の多くが、日本復興の為に費やされた。

紬父亡き後、ムギちゃんは代表の座を引き継いだ。
とはいえ、未成年の女の子がいきなりその任を全うする事など、出来る筈は無い。
軽井沢の施設で勉強していたとはいえ、実際の経験が圧倒的に不足しているのだ。

ムギちゃんが一人前になるまで、その実務は全て斉藤さんが熟した。
斉藤さんの元で、ムギちゃんは実践的にそれらを学んでいった。

ムギちゃんは、暫く放課後ティータイムの活動を休止せざるを得なかった。
私達は、ムギちゃんのその意向を了承し受け入れた。
ムギちゃんには、ムギちゃんのやるべき事が在る。

例え今は一緒に演奏出来なくても、彼女は放課後ティータイムのメンバーだ。
その事実が変わる事など、永遠に無い。

ムギちゃんの提案で、和ちゃんと曽我部先輩も斉藤さんの実務を学ぶ事になった。
二人の資質にムギちゃんは目を付け、自らの側近になって欲しいと頼み込んだのだ。
和ちゃんと曽我部先輩はそれを承諾し、ムギちゃんの支えとなる事を約束した。

今では、二人はムギちゃんの右腕として、その実力を遺憾無く揮っている。



738 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 01:56:30.85 ID:4GbNjW1z0

私は皆と再会してから、音楽活動を通して人々に元気を分け与えようと取り組んできた。
皆もそんな私の意見に賛同し、協力してくれた。

ムギちゃんは、琴吹グループの中に芸術部門を創設し、私達を全面的にバックアップしてくれた。
そのお陰もあり、テレビ、ラジオ、ネット、あらゆるメディアを通して、私達は人々に歌を届けた。

そして放課後ティータイムは、国民的人気バンドとしての地位を確立したのだ。

私はギターとボーカル。
あずにゃんはギター。
りっちゃんはドラム。
憂はキーボード。
純ちゃんはベース。

いちごちゃんとしずかちゃんは、私達のマネージャーを引き受けてくれた。
出演交渉等は全て彼女達に任せてあり、上手く日程を調整してくれている。

アカネちゃん、三花ちゃん、ちかちゃんは、
私達の活動をサポートしつつ、澪ちゃんをの面倒を看ていてくれた。

最初、りっちゃんは澪ちゃんの世話をすると言っていた。
しかし、澪ちゃんが本当に望んでいる事を、りっちゃんが分からない筈は無い。
だからこそ、私達と共にバンド活動を行う決意をしてくれたのだ。

今の私には、何の不安も無かった。
ただ全力でギターを掻き鳴らし、歌い続けた。

そして今、私達放課後ティータイムは武道館にいる。



739 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 02:01:26.49 ID:4GbNjW1z0

湧き上がる声援、眩しいスポットライト。
高校生の時夢に見た武道館ライブを、私達は実現するに至ったのだ。

あの頃の私達には、ただ目立ちたいという薄っぺらな願望しかなかった。

けれど、今は違う。

大切な人に届けたい想いがある。
そしてそれを、この歌を聴いてくれる全ての人と分かち合いたい。

誰かの優しさに触れた時、その人もまた優しくなれるのだから。
私は日本中に、そんな優しさの輪を広げていきたい。

だから私は、歌い続ける。
それが今の私に出来る事。
私にしか出来ない事だから。

高校に入学してから今に至るまでの出来事が、私の頭の中を走馬灯の様に駆け巡った。
桜ヶ丘高校の軽音部に入った事が、「平沢唯」の始まりだったと私は思う。
何も出来なかった平沢唯。
他者に頼り続けた平沢唯。
そんなそれまでの平沢唯を音楽が打破し、新しい「平沢唯」に変えたのだ。

だから今、私は触れた音楽達に「ありがとう」と言おう。
そして、私を支え続けてくれた素晴らしき友人達と妹に、私の最高の音楽を捧げよう。
この歌に乗せた想いが、皆の心に届きます様に……。

武道館ライブを無事終えた私達に、ちかちゃんから緊急の電話がきた。

ちか「もしもし、ちかだけど! 澪ちゃんが……早く戻って来て!」



740 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/03(木) 02:06:42.16 ID:4GbNjW1z0

尋常ではないその声の様子から、何か重大な事態が起きた事は明白だった。
楽屋に来た和ちゃん、ムギちゃん、曽我部先輩に事情を説明して、
ライブの打ち上げをキャンセルし、私達は澪ちゃんの元へと急いだ。

澪ちゃんの病室の扉を開けると、アカネちゃん、三花ちゃん、ちかちゃんがベッドを囲んでいる。
私達は息を整え、ゆっくりとベッドに近付いた。

律「澪……」

りっちゃんの目から涙が溢れ出した。
私の目からも涙が流れ出した。
その場にいる全員が涙を流し、泣いていた。

澪「何泣いてるんだよ律……、唯……。それにみんなまで……」

律「お前が寝坊し過ぎるからだよ……馬鹿澪……」

澪「眠っている間、ずっと律の声が聞こえてたよ……。唯の歌も聞こえた……」

唯「私の歌、澪ちゃんにちゃんと届いたんだね……」

澪「唯、暫く見ない間に、凄く綺麗になったな……。
  ムギも無事で良かった……本当に良かった……」

澪ちゃんの目からも涙が溢れ、頬を伝い枕に滲み込んだ。

唯「私、澪ちゃんに伝えたい言葉があるんだ……」


完終。



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唯「ゾンビの平沢」★17
[ 2011/02/04 06:37 ] ホラー | | CM(0)

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