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澪「本気で私のこと…好きなの?」#前編1 【シリアス】


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 16:49:10.96 ID:AiH7jJau0

――夢――

その日見た夢は奇妙な、倒錯した夢だった。

――律が私にキスしてる……

夢独特のぼんやりとした薄暗い世界で、目の前には幼馴染の顔。律は眼を閉じている。
明るい茶色に染めた髪と下ろした前髪。唇が触れている。柔らかい。

「律……?」

夢の中の私が呟いた。お互いの唇が、柔らかくと押し合う感触。
すると律がビクンと震えて、顔を離した。どことなく怯えた感じの目で私を見下ろす。

「りつ……?」

再びそう呟いた、その次の瞬間だった。

「――え?」

夢じゃない。
突如、これが現実であるという感覚がはっきりと私を飲み込んだ。





8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 16:51:42.81 ID:AiH7jJau0

「えっ!?」

驚きを隠さないまま、自分を覗き込んでいる律を押しのける。
飛び起きて、ふわふわしている自分の意識をたたき起こす。
深夜、電気の消えた自分の家、ベッドの上。
今日の記憶――大学の食堂で一緒にご飯を食べた後、私の家で飲むことになって、女の子の後輩に告白された話を律にして。
自分は先に寝て、あとから律がベッドに入ってきて――。そして、さっきの唇の感触。
すべて現実の感覚だった。
 
唇に残った生暖かい感触に――鳥肌がたった。
 
「何してるの律!?」

私の中の性の価値観が一斉に拒否反応を起こした。
ごしごしと唇をぬぐいながら呆然とする。
律の強張った顔を、暗がりの中で凝視する。

「み……みお……その……」
「馬鹿じゃないか!? 何なんだよもう!」

唇に残る律の感触が、私にヒステリックな悲鳴を上げさせた。ぬぐってもぬぐっても、後から後から嫌悪感がわいてくる。
何が起こっているのか、まったく理解できない。
私はベッドから飛び出して、乱暴に蛍光灯のスイッチを入れた。
暗がりの部屋に、目障りな眩しい光が広がる。
私はベッドの上の律を睨んだ。
律は体を縮こませて、俯いている。その肩が小さく震えていた。



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 17:00:41.86 ID:AiH7jJau0

「説明してくれよ津! なぁ? どういうこと!?」

怖い。気持ち悪い。理解できない。同性に本気でキスされたという現実が受け入れられない。
目の前にいる律が、知らない誰かに思えてゾッとした。

「なんでこんな気持ち悪い事するの!?」

叩きつけるような私の怒声に、律は小さく呟いた。
それは、消えてしまいそうな、震える声だった。私が知っている凛とした律の影はもはやどこにも無かった。
 
「そ、の……寝ぼけて……つい……」

それが真実だったならいい、と私は思った。だけど私と律の深い仲が、律は嘘をいっていると見破らせてしまう。

「そんなふうじゃないだろ……!?」

嫌悪と非難が、私の心にあふれた。律はそれを感じて怯えるように、ただ頭をたれて、顔を青くしている。

「……ごめん……」

律のかすれた呟きが、私に非情な現実を突きつけた。

「本気で私に……してたの……?」

律の行為をキスと呼ぶことさえ私の心には耐えがたかった。もっとおぞましい、別の何かだった。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 17:04:24.43 ID:AiH7jJau0

「なんで……? なんで律が私に、するの……? 意味わかんない……なんだよそれ……」

考えたくない可能性が、私の頭の中にはあった。だから声が震えた。体も震えた。
親友との絆が、震えていた。この現実から逃げ出したかった。

「律。帰って。私どうしていいかわからない」
「み、お」

重たい沈黙。
蛍光灯の音が、ジージーと虫の羽音のようで耳障りだった。

「出て行って」
「……」

律は傷を負った小動物のような動きで、ようやく体を引きずってベットから降りた。
鞄と、服を手にとって、寝まきのまま、よろよろと玄関に向かった。



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 17:16:42.57 ID:AiH7jJau0

私は時計を見た。午前四時前。……この時間に女の子を一人で帰らせるわけにはいかない。まだ外は真っ暗だった。
ためらった後、私は玄関に向かう律にかすれた声をかけた。感情の無い声だったと思う。

「……待って律。ソファーで寝て」

私はそれだけ言って、すぐに電気を消して、ベッドに逃げ込んだ。律用の枕を床につき落として、ベッドの真ん中で身を埋めた。頭まで毛布をかぶって、ソファーには背を向けた。
それでも、律が動く音からは逃げられなかった。よろよろとしたその足音は玄関からまっすぐにソファーに向かって、律がソファーに倒れこむ音が聞こえた後は、何も聞こえなくなった。
ただ小さな泣き声で、

「ごめんなさい」

とだけ聞こえた。
音がなくなって、闇の世界で私は強い混乱に襲われた。
律に、友人に、キスをされた。その現実をどう処理すべきか、私にはわからなかった。
友人との楽しい日々が、これからの未来が、突然何もかも真っ暗になってしまったようだった。
悲しみか、苦しみか、叫びだしたくなるような負の衝動が、心の中で渦巻いた。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
体感で三十分ほども苦しみ続けた後、私は毛布から頭を出して囁いた。暗がりになれた瞳に、ぼんやりとソファーが見える。その上に横たわる、律の姿も。

「……律はレズなの?」

暗い部屋に、囁きが広がる。
暗闇の奥から、切なげな返事が投げ返されてきた。

「私ずっと、澪。澪の事が好きだった。……ごめん」

その言葉はカナヅチで頭を殴られたような衝撃で。今までにうけた告白のどれよりも、私の心を脅かした。
私はまた頭まで毛布を被った。親友がいるこの部屋のベッドの上で、私は一人ぼっちになった。
ふいに涙が一筋こぼれて頬と枕を濡らした。



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 17:30:16.07 ID:AiH7jJau0

朝日がカーテンを照らす頃、律はそっと帰っていった。私はそれに気づいていたけど、声をかけることができなかった。
酷いことを言ってしまったという後悔はあったし、それを謝りたい気持ちもあった。けれど心に、律を拒否する気持ちが粘りついてしまっている。
律の足音が遠くに消えて、私はベッドから降りて、洗面台で顔を洗う。鏡に映っているのは、一睡もしていない酷い顔。
部屋にもどって、律が眠っていたソファーに目を向ける。律が枕代わりにつかったであろうクッションに、大きな染みができていた。
涙だろうか。涙だとしたら、私と比べ物にならないくらいに、律は泣いたのだ。
友人の気持ちを考えると胸が痛んだ。でも、唇に残るキスの感触はどうしようもなく不快で、その友情をもかき消そうとする。

「律……」

カーテンを開ける。
朝日眩しく、空は青い。だが、そんな陽の光も心までは照らしてくれなかった。
今日は大学休もうか、とさえ考えてしまう。けれど、気持ちになんとか活を入れて、大学へ行った。家にいたら、泣いてしまいそうだった。
講義は何一つ頭に入らず、講師の声は耳から耳へと素通りしてゆく。頭の中にあるのは律の事だけだった。正確には、律とのこれからの関係、というべきか。

――律はレズで、そして私の事が好き? ……どうしたらいいの?

律は得がたい大親友であり、小さい頃からずっと音楽を共有してきた仲間なのだ。簡単に縁を切って、はいそれでお終い、なんて事は私自身も望んでいない。
けれども、律が同性愛者であるという事実は、軽くない。いや、ただ同性愛者であるだけなら、まだよかった。
性癖はどうあれ、律の人格は信じている。でも……その思いが自分に向いているとなると。
答えが、でない。
その日、大学で律と会う事はなかった。あるいは不可抗力で律とすれ違えるかもしれないと思っていたのだけど。
帰宅して、味気のない晩御飯を食べる。ふとカレンダーに目がとまって、明日が週半ばの祝日である事を思い出した。明日は、放課後ティータイムの活動予定だった。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 21:24:08.34 ID:AiH7jJau0

「……どうしよう」

一度電話してみようか、と思う。けれど、躊躇ってしまう。

「ああもう……私はどうしたいんだよ……!」

苛立って、テーブルに拳を振り下ろす。ガシャンと、空になっていた茶碗が跳ねた。
結局、電話することは出来なかった。そしてまた、律から電話が来る事も無かった。
翌朝、私は一人で目覚め、一人でご飯を食べた。そして、一人でバンドのメンバーと合流した。
その日の放課後ティータイムは、一人が欠席した4人で久しぶりの活動を開始することになった。



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 21:43:05.01 ID:AiH7jJau0

空気が震えている。スピーカーから弾けるように響くエレキの音色と、キーボードの鮮やかなグラデーション。
そこへ私のベースの低音が交じり、私達だけの音楽ができあがる。
私の大好きな音楽がほんの一時だけ心の淀みを忘れさせた。
視線を横に流せば仲間がいる。けれどそこには、リズムだけじゃない、明らかに足りないものがあった。

「もー、ドラムが無断欠席なんて聞いたことないです!」
「じゃあちょっと休憩して、お茶にする?」
「するー!」

いつもの放課後ティータイムだ、と少しだけ安堵する。みんなは私と律にあったことを知らないようだった。
律が言えるはずもないし、当たり前のことなのだが。

「りっちゃん、どうしたんだろうね」
「電話も通じないし、ちょっと心配ですよね」
「澪ちゃんは何か聞いてない?りっちゃんから」

私は。

「う、うん。風邪でも引いて病院にでもいるんじゃないかな」

(私は……)



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 22:11:10.80 ID:AiH7jJau0

律が私に音楽を教えた。根暗で人見知りで友達もいなかった私が、あの日からはよく笑うようになった。

律に電話が通じないと知ったとき、私はどうしようも無い孤独感に襲われた。仲間が隣にいるのにもかかわらず、だ。
律にそこまで依存しているなどという事があるはずがない。人見知りは相変わらずだけど、私だってそこまで孤独ではないつもりだ。
一昨日あんなことがあったから、少し感情的になっているんだと自分に言いきかせた。
 
――私にとって律は、何?

あの夜から、ずっとそのことばかり考えていた。
律がきっかけで音楽を好きになり、バンドを組みたくて高校では軽音楽部をつくった。
自分の居場所を作りたかった。そして、その願いは叶ったはずだった。
自分を受け止めてくれる友人を、一緒に笑い合える友達をこうしてたくさん、私は得たのだ。そのはずだった。

「……っ」

突然は私は怖くなった。何か得たいの知れない感情が体内に噴出してきて、これ以上律のことを考えるとおかしくなってしまいそうだった。
だから私はいつもより激しく、音楽に没頭しようとした。ドラムのいないバンド演奏で、私の低音がいつもより響いた。
そして私の頭の中から、律が消えることはなかった。
ああ、なんてことだ。
私は泣き出したくなるほど、淋しかった。
そしていつもなら、律がこの淋しさを癒してくれるのに……!



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 22:23:03.16 ID:AiH7jJau0

その日のバンド活動は、メンバーが一人抜けていたということもあり、いつもより早く解散した。
家に帰ってから、夕食を食べているときも、シャワーを浴びているときも、ベッドに入ってからも、私の心が休まることは一瞬たりともなかった。

「律……」

律。律。律。
閉じた瞼に律の顔ばかりが浮かんだ。 
律。律。律。
自分はいつの間にこんなに弱くなってしまったのだろうか。そんな事を考える余裕さえ、もはや私にはなかった。
錯乱といってもいい。私から拒絶した律をもとめて、心が喘いだ。
私はすがるように震える手で携帯を取り出した。親指を痙攣させ電話帳を検索する。

『田井中律』

ディスプレイに浮かぶ無機質なその文字さえもが、私には、いとおしかった。
大げさではなかった。同じこの空の下に、律という人間が今も確かに生きているのだと思うと、とりとめのない恍惚があふれた。
と、同時にそんな相手と離れ離れになっているこの現実がどうしようもなく悲しかった。それで私はもう我慢ならなくなって――

――唐突に、あの晩の律のキスを、私は理解できたような気がした。
求めてやまない人が自分の側にいて、でも気持ちを伝える事ができなくて。それはどんなに辛い事なのか。律を渇望する今の私には、それが痛いほど理解できた。
律はそんな気持ちをずっと抱えて。ずっとずっと耐えて、そしてとうとう我慢できなくなったのだろう。あのキスはあふれ出した想いそのもの だったに違いない。

「律」

律の気持ちに心が重なって、私の目から涙がこぼれた。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 22:26:09.28 ID:AiH7jJau0

「ごめんね律。好きになってあげられなくて」

自分にとって律は誰よりも求めて止まない相手なのに、その気持ちにこたえてあげることができないなんて、自分は何と歪んだ人間なのだろう。
私は己の身勝手な精神を嫌悪した。
本能的な寂しさが律を強く求めているのに、本能的な性の価値観が律を頑なに拒んでもいる。
いっそ自分もレズビアンだったなら全てのすれ違いは解決できるのに、とそんな事さえ考えた。
私は自分の脳みそをぐちゃぐちゃにかき混ぜてしまいたかった。

「律と話さなきゃ。私、一方的に……あんな酷い事を」

後悔と同時に、心は決まった。
さよならなんてしたくないと、律に伝えなくてはならない。

「今まで通りの友達でいてほしいって……ああ、それじゃだめだ、友達じゃあ……」

一昨日律に言われた、「デリカシーの無いやつ」、の言葉を思い出す。

(……そうか、あれはつい数日前の事だった……)



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 22:32:41.16 ID:AiH7jJau0

早くなった秋の夕刻。私が大学の講義室でレポートの作成を行っていると、背後で、ガチャリと部屋のドアのノブが鳴った。
誰か来たかな、と一瞬顔を向ける。が、いっこうにドアは開かれる気配がない。んん? と片眉をあげ、手を止めて今度は肩ごと向けて注視する。

(気のせい……?)

と私が思い始めた頃に、ようやくドアは開いた。いや、開き始めた、と言うか。
ドアは、まるでホラー映画のようなもったいぶり方で、ゆっくりと押し開けられていくのだ。

(な、何だよ)

若干警戒しながら眉をひそめる。まさか大学構内で泥棒や変質者、ましてやおばけに出くわしたりはしないだろうが……。
ドアの隙間が、人間一人がギリギリ横歩きで通り抜けられるかな、というくらいになった時だ。
見覚えのある顔がヒョイッと現れた。

「お?」

ゼミの後輩である。特別親しい仲ではないけれど、何度か一緒に調べ物をしたり食堂で一緒にご飯を食べた事がある。
でもそれはさておき、私は首をかしげた。彼女はこの階の教室には関係ない学生のはずだった。

「どうしたんだ?」

後輩がその呼びかけに気づいて、私と目が合う。

「あ! せ、先輩!」

後輩はぎょっとした顔をして、それから、ささっと講義室に入ってきて、バンッ!とやかましい音でドアをしめた。
後輩は室内をきょろきょろと見回して、他に誰もいないのを確認したようだった。それから、トトトトと早足で私のそばにやってくる。
どうも様子がおかしい。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 22:35:39.99 ID:AiH7jJau0

「秋山先輩。お、お話があります。ちょっと、い、い、いいですか!?」

あからさまに声は裏返って、顔は真っ赤に強張って、おまけに両の拳をギュッとにぎっちゃったりなんかして。
いつもはどちらかというと物静かな性格の後輩だ。その緊張っぷりは何かの喜劇のようだった。
とにかく必死な感じはよく伝わってきて、ちょっと気おされてしまう。

「え、あ、うん。私を探してたの?」
「はい。こ、こここ、ここではなんなので、場所を変えませんかっ」
「う、うん。いいけど……」
 
後輩は一瞬ほっとしたような顔をした。けれど、すぐにまた固い顔になって「では」とだけ言って私を連れ出した。
一緒にならんで廊下を歩く。後輩は、歩く姿までガチガチに緊張していた。適当に話かけても、「はい」、とか、「ええ」、とか口数の少ない返事だけ。

(あー……これはもしかして)

この時にはもう、私はおおむね後輩の用件に察しがついていたのだった。相手は違うが、これまでにも似たような事があった。

(やれやれ。またかぁ)

と、内心で溜め息を吐きつつ、連れてこられたのは夕焼けの差し込む空き教室だった。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 22:37:44.27 ID:AiH7jJau0

「それで、何の話?」

なるべく、優しく声をかける。
二人でこっそりと講義室に忍び込んでから、後輩はまだ一言も口を開いていない。
ただ、組んだ両の手のひらをもじもじとさせながら俯いている。 夕日に染まる幻想的な沈黙の空間。
時折どこか遠くの廊下から足音や会話のこだまが届いてくる。もちろん教室には二人きり。多分、悪くないムードなのだろう。
けれど私の心内は冷め切っていた。後輩には悪いとは思うのだが。

「あ、あのっ」

後輩はいよいよ覚悟を決めたようで、握りこぶしに力をこめて、心を吐き出したのだった。
そしてそれは、おおむね私の想像通りの話だった。

「私、先輩には打ち明けます。先輩なら……きっと聞いてくれるって……今日こそは絶対言おうって……」

一度深呼吸をしてから、後輩は打ち明けた。

「あの、私……ビアン、なんです!」



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 22:44:05.76 ID:AiH7jJau0

(あぁ先にそれを伝えるパターンか)

相当に勇気をふりしぼっているであろう彼女には悪いと思うが、私は特に驚きもせずくだらない分析をしていた。

(まぁ、まずはワンクッションあったほうが、聞くほうも理解しやすいよな)

単刀直入に、好きです、とだけ言ってくる子も過去にはいた。たしかはじめての被同性告白経験の時もそうだった。
その時は初めての事でさすがに動揺して、つい相手に奇異の目を向けてしまって、あの時は悪いことしたなぁ、と今でも後悔している。

「えっ?」

と、私は一応は驚いたふりをした。相手も驚かれることを想定しているだろうから、その想定どおりに動いてあげるほうがいいのだ。
私は場慣れしてしまっている自分に、苦笑いをする。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 22:50:09.68 ID:AiH7jJau0

「それで、私……先輩の事が好きなんです!」
「ええっ……!!」

衝撃の告白がはじけて、一瞬、教室は音の真空状態になった。……のだろう、彼女にとっては。
しかし、その告白を受けたとうの私は……。

(うー……何で私ってこう……レズの人に好かれるんだろう)

運動場から聞こえてくる、カキーンというどこか間の抜けた音に耳を澄ましながら、どうしたものかなぁ……なんて考えていた。
百合の花影も薔薇の香りも、心中には一切ない。今年にはいって三度目の経験に、ただうんざりしていた。

(やっぱ律か? 律と普段よく一緒にいるし、休みも結構一緒に行動してるし、そういう話を他の友達にしてるし……なんか、そういう趣味だとおもわれるのか?)

(いやけど、ここ女子大だし……高校の時は…ファンとかだったし…うーん……)

「友達、からでもいいです! 私と付き合ってくださいっ」

私は結構本気で悩んでいたために、半ば自己世界に埋没してしまっていた。それで、後輩の気合のこもった声に、驚く。

「……ハッ! あ、ああ、ええと……うーん……」

見ると、後輩は腰を前方に45度曲げたお願いしますポーズで私に頭をさげている。
私は逃げ場を求めて、窓の夕焼けに目をやった。

(うー……助けて律-)

赤い空に、律の他人事な笑みが浮かんでいた。



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 22:59:25.32 ID:AiH7jJau0

「――なんて事があってさ。まいっちゃった。何で助けてくれなかったんだよ律」

私は占領したソファーにうつ伏せになりながら律に愚痴った。
大学から近い、ワンルームマンション。
律は、大学の帰りが遅くなった日などは自分の部屋に帰らず私の部屋に泊まる。その日の晩御飯と食後のデザートが宿代だ。
今夜のメニューは近所のスーパーの惣菜とケーキ。それに加えて私が炊いた米である。すでに二人とも晩を食べ終わって、ケーキをつついている。

「さぁ。私がでしゃばって、勘違いされて修羅場になるのが嫌だったのかもね」

律は適当に話をあわせて私をあしらった。カーペットに座りソファーを背もたれにしてテレビを見ている。
きっと、私の話よりもテレビに意識が向いているのだろう。

「あー……まぁそんな風になっちゃうかもしれないなぁ」
「それでー? 返事は?」

律の片手間な質問が、私はちょっと気に入らない。まぁ、愚痴を聞いてもらっているのだから我慢するのだけど。

「そりゃ、ごめんなさいって言ったに決まってるだろ」
「あら、かわいそ」

律はひょいと肩をすくめただけで、テレビから目を離さなかった。
私はその投げやりな態度に、むぅ、と頬を膨らませる。私は律に相手をしてほしいのだ。
私の丁度目の前に、律の後頭部がある。私は、短く整った綺麗な茶髪をひょいと一房、握った。
親指と人差し指の腹で髪をこすると、細くて柔い繊細な感触が伝わってくる。染めた髪がよく手入れされている。



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 23:14:13.90 ID:AiH7jJau0

「ねぇ律、私ってなんかそういう、レズっぽい雰囲気あるのかな? 引き寄せてるのかなぁ」
「んー」

律は一言、気の無い返事をよこしただけだった。

「……むぅっ!」

私はすねて、くぃっくぃっと少し強めに律の髪を引っ張った。

「ちょっと! 痛い!痛いって!」

と、さすがに律が振り向いた。
私はその律に鼻を突き合わせる。

「だって。律が話を聞いてくれないんだもん」
「聞いてるよっ。澪の言った事を考えてたの!」
「……ふん、それならごめんなさい」

私は悪びれもせず唇をピルピルさせた。
 
「ったく! ……澪って、可愛いくせにどこか男っぽいと言うか、口調もそうだけど、美人な割に女々しくないっていうのか?ビアンの娘達にとっては、それが頼もしく思えるのかもな。
 女性でありながら、男性的な魅力を持ち合わせてるって感じかな? それに、面倒見もいいし。……実際の澪は結構、かまってちゃんなのにな。まったく、枝毛になっちゃうだろ」

律は、引っ張られた髪を迷惑そうに整えながら言った。

「男っぽいのは律の方だと思うけどな。…まあ、そうだな、なるほど。けどイヤに詳しいよな、律。……まさか律も私のこと!」

私がふざけると、律の表情がゴキブリの交尾を見てしまったような顔になった。



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 23:22:45.67 ID:AiH7jJau0

「やめてくださいまし。それに詳しくて当たり前だろ。なんせ私ら女子高上がりの女子大生ですから」

律の嫌そうな顔は、まさに私の期待通りの反応で、私は楽しくなってケタケタと笑う。

「ははっ。けど、そっか……私も罪作りな女だなぁ」

私の演技の入りすぎた芝居に律は、馬鹿だな、というような顔をしてまたテレビの方を向いてしまった。
私はそんな律の後頭部を眺めながら、とりとめもない思考に走った。

「彼女、大丈夫かなぁ……。私が断ったら、あの子、泣き出しちゃったんだよ」
「あら」
「泣きながら言うんだ。どうか自分がレズだって事は誰にも言わないでくださいって。もう見ててかわいそうでならなかった」
「まぁ、澪なら言いふらしたり蔑んだりはしないはず、とは考えてたと思うけどな。でなきゃカミングアウトしないだろ」
「そりゃもちろんそんな事はしないさ。けど、慰めるのに必死だったんだから。これからも仲良くしような、これからも友達でいような、って」

と、それまでテレビに目を向けていた律が、振り向いた。そして私を非難した。

「おいおい……澪お前、そんな事言ったのか?」
「え……な、なんだよ。いけなかったか?」

律は、大きな溜め息をついた。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 23:36:06.55 ID:AiH7jJau0

「あのなぁ、考えてみろよ。ふった相手に、仲の良い友達でいようねー、なんてわざわざ伝えて、それって追い討ちだろ」
「え、ええー……?」

半ばこんがらがった頭で私は弁解する。

「ち、違う。私は、貴方がレズでも一切気にしないよって言いたかっただけで……。これからも友達だよって……」
「はぁ……だからその言葉が余計でしょ……」

律に白い目で見られて、私はうぐっと声を詰まらせる。それからソファーに顔を埋めて、足をばたつかせた。

「あーもう、ややこしいなぁー!」
「デリカシーの無いやつ……」

呆れた言葉を言い捨てて、律はまたテレビに戻ってしまった。
罰が悪くて、しばらくは私も黙って、一緒にテレビを眺める。
それでも少し、後輩の事が気になってしまう。次会った時、あの娘はいつもの笑顔を見せてくれるのだろうか、なんて考えて。
でもそれもすぐに頭から消えて、テレビを見終わってからも少し飲んで、いつもと同じ夜を、律と過ごした。



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/08(火) 23:47:04.98 ID:AiH7jJau0


あれから二日しかたっていないのに、随分と昔の事に思える。

「あの時間に戻りたい、律とさよならなんてしたくない……そう、それが私の伝えたい事」

律ならきっとその願いに応えてくれる。私はその希望にしがみついた。自分にだけ都合のいい話なのかもしれない。けれど私には他にどうすることもできないのだ。
ベッドの上に立ち上がって、深く息を吸って、吐いた。私は思い切って律に電話をかけた。

トゥルルル、トゥルルル……

コール音に、緊張が高まる。でも……

『……お客様は、ただいま電話に出ることができません……』

無機質な声が、私を拒絶した。

「……律……」

さけられているのだろうかと嫌な考えが浮かんで、顔をしかめる。ともあれ私は伝言を残した。
 
『律。できたら今日、会いたい。会って話をしたい。電話で話すだけでも、いいから……。私、この間は酷い事言った。ごめんなさい。会って謝りたいんだ。許してほしい』



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 16:38:28.15 ID:lMOe12560

律から電話がかかってきたのは、日付が変ろうとする頃だった。
その時私は枕に突っ伏してもんもんとしていた。
律専用の着信メロディがなって、私はまさに飛び上がった。枕元に転がる携帯をあわてて手にとり、二つ折を開く。
画面には、間違いなく田井中律の表記があった。
携帯を手にとるのは素早かったのに、画面を確認してから通話ボタンを押すまでは、倍以上の時間がかかった。

「……もしもし。律?」
『……澪』

お互いに、不安を隠そうとして隠しきれていない、そんな低く沈んだ声だった。
私は、たった二日会っていないだけなのに、律の声が懐かしくてたまらなかった。
二人ともに相手の出方を伺っているのか、少しの間、会話は無かった。

「……律。本当にごめん。私、あんな事言っちゃいけなかった。すごく後悔してる」

私は普通に話そうとしているのに、どうしても、声に暗さが残った。
僅かに緊張を感じさせる律の声が返ってきた。 

『……ううん。いいよ』
「よくないよ」
『私のほうこそ。ごめん』

何に対しての『ごめん』なのかという疑問と、やっと律と話せた安心と、慎重に話をしなきゃという意識が、私に冷や汗を浮かべさせる。



97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 16:47:10.99 ID:lMOe12560

「……ねぇ、聞いて。私はこれからも律と一緒にいたい。二人で話し合って……なんとかできないかな」
 
少し、律の返事には間があった。
嫌な予感がして、私は表情を強張らせた。

『……ありがとう。私も澪と一緒にいたい』
「よかった……」

私はほっと頬を緩ませた。
でも、続く律の言葉が再び私の顔を凍りつかせた。

『でも、今は一人にしてほしい』
「え……」
『澪といると辛いんだ。声を聞くのも……』
「律。で、でも」
『私にキス、してくれる?』

私には律のその言葉が不協和音の塊のように響く。私の常識とは相容れない感覚なのだ。

「……それは……」
『気持ち悪い?』
「……っ」

私は何も答えられなかった。
それなのに、沈黙の言葉が、私の明確な意志を律に伝えてしまう。
私の顔が精神の苦痛に歪む。



98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 16:51:13.38 ID:lMOe12560

「ごめんっ……」
『気にしないで。しかたないって。それに私のはただの失恋の痛手だから。しばらくしたら……きっと平気になる』

律は無理に笑っている。それが痛々しくて、私の心を切り刻む。

「律。私達、友達でいられるよな」
 
言ってはいけないと思いつつ、聞いてしまう。
少し間をおいて戻ってきた返事は、ひどくたよりなかった。

『…うん。きっと』
「きっとじゃ嫌だ律!」
『だって私、まだ澪の事が好きだもん』

私は眉を寄せて唇を噛んだ。友人が自分を好きだといってくれた事は嬉しい。けれど、律の好きと私の好きは違うのだ。
律はセクシュアリティな感情を込めて私を想っている。そのすれ違いが私には耐え難い。



99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 16:54:53.97 ID:lMOe12560

『じゃあ、もう切るよ。また……気持ちが整理できたら連絡するから』
「待って!」

反射的に呼び止めた。それから口にでた言葉は、紛れも無い真心だろう。

『何?』
「律は誰よりも大切な人だから。連絡、私、本当に待ってるから」

電話の向こうで、律の小さな深呼吸が聞こえた。

『ありがと。澪』

そして、通話は切れた。途絶えてしまった携帯電話を見つめながら、私は立ち尽くした。律が遠くへ行ってしまったようで寂しかった。

「はぁ……」

友達、という言葉はやっぱり律を傷つけたのかもしれない。律の最後の声はどこか寂しげだった。

「馬鹿馬鹿……私の馬鹿……」

どうしてあの晩、自分はもっと落着いて律に接する事が出来なかったのだろう。
もっと落着いてちゃんと親友の気持ちを聞いてあげられていたなら、きっとこんな事にはならなかったのに。
痛みをともなった後悔が胸にたまって、ズシンと私を押しつぶした。



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 17:28:35.51 ID:lMOe12560

ようやく待ちに待った連絡が来たのは、最後に電話で話してから一週間後の夜だった。私にとっては長い長い一週間だった。
ほとんど毎日学校で律を見かけた。そのたびに駆け寄りたくなるのを我慢した。友人達には、律と喧嘩をしているのだと言ってごまかした。

「一番辛いのは律なんだから」

そう自分に言い聞かせて、耐えた。
そして今日、私が丁度お風呂からあがってバスルームから片足を踏み出した時。部屋の奥の机の上で携帯が鳴っているのに気づいた。
律からの着信だった。私はバスタオルもまとわず慌ててドタドタと部屋を走って、雫があたりに飛び散るのも構わず携帯に掴みかかった。
ディスプレイには、間違いなく『田井中律』と表示されていた。
ごくりと唾を飲んで、私は携帯を耳にあてた。

何と声をかけようか迷って、結局妙な挨拶が押し出されてしまった。

「お……おっす」

電話口の向こうで、律の吹き出す音が聞こえた。

『なんだよそれ』

久しぶりに聞いた、律の声。笑っていた。少し不自然なくらいに、暗さが無かった。きっと意識して明るく振舞っているのだろう。つい、こちらも力んでしまう。

「あ、いや、お風呂から飛び出して慌てちゃってさ。あはは。まだ体も拭いてないんだ。カーペットが濡れちゃった』
『え、裸? …そんなに慌てなくていいのに。じゃあいったん切るから、澪がかけなおして。寒いのに風邪ひくぞー』
「あ、う、うん。じゃ」

電話はきれた。
久々の会話は奇妙に滑らかで、しかし十数秒とたたずに終った。それがなんだかまぬけで、気が抜けた。あるいはそれが二人の日常の帰還を表しているようにも思えて、私は可笑しかった。
とは言え、私はバスタオルで体を拭きながら、「律は今頃私の裸を想像しているのかな」、なんて邪推してしまって、どうしてもやはり、少し変ってしまった二人の関係を感じてしまう。
それでも律が再び連絡をくれたという事が何よりも嬉しくて、私は数分も経たないうちに電話をかけなおした。いつもなら肌の手入れで十分二十分は時間をとられるのだけど、全部すっとばした。



105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 17:44:48.57 ID:lMOe12560

「律」
『澪』
「……」
『……』

さっきとは違って、何を話すべきか、聞くべきか、戸惑いが沈黙を生んだ。
もちろん律の想いを聞きたい。でも、デリケートな会話なのに相手の顔を見て話せないというのが、どうにもやりにくい。 

「……明日の夜、家にこないか? ゆっくり二人でご飯食べながらさ。律とお喋りしたい」
『え……うん。そうだな。じゃあ晩御飯、買ってくよ』

律があっさりと了承してくれて、ほっとする。

「ご飯とお味噌汁は用意しとくから、いつもみたいに、適当に惣菜をお願いな」
『ん。いつもどおりに』

いつもみたいに、いつもどおりに――なんでもないその言葉が、今の私達にとっては何か特別な魔法の文言のようだった。
きっと私達二人の願いが込められた希望の言葉なのだ。

『……澪。元気だった?』
「ん……元気だけど寂しかった。ずっと律の連絡を待ってたんだからな。何度こっちから電話しそうになったか」
『……』

律は一言、二言、言葉にならない音を口から漏らしたようだった。私はその吐息に、律の安心を感じたような気がした。

『……そっか。ありがと。じゃあ、また明日な』
「うん。また明日……」

静かに、何か厳かな儀式のように、私は携帯を耳から離す。
電話を終えて、私はしばらくじっとディスプレイに目を落とした。画面の向こうから、律が同じようにこちらを覗き見ているような気がした。



106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 17:47:11.90 ID:lMOe12560

「話し合えば、きっと何とかなる」

私は、自分が律をどれだけ大切に思っているか、律がいないと自分がどれだけ寂しいか、伝えなければならないと思った。
あるいはそれは律に辛い思いをさせることなのかもしれない。
けれどちゃんとそれを律に伝えなければ、これからの二人の未来はくだらない嘘の触れ合いになるに違いなかった。
二人のすれ違いは何も解決していない。話合いはまだまだこれからなのだ。
けれど自分と律なら必ず理解しあえると、私は心から信じていた。



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澪「本気で私のこと…好きなの?」#前編1
[ 2011/02/11 10:48 ] シリアス | 律澪 | CM(0)

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