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澪「本気で私のこと…好きなの?」#前編2 【シリアス】


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澪「本気で私のこと…好きなの?」#前編1





108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 17:56:42.24 ID:lMOe12560

翌日。目が覚めた時から、私はずうっと緊張しっぱなしだった。
律に何をどう話そうかと考えているとあっという間に日が過ぎて、夜。
私はご飯を炊いた後、意味も無く部屋を片づけたり、鏡を見て髪の乱れを気にしたりして、そわそわと律を待った。
手持ちぶさたにテレビのチャンネルをちょいちょいと回していると、呼び鈴が鳴った。

「来たっ」

私は玄関に飛んでいった。
玄関の戸を、開ける。

「……こんばんわ」

律が惣菜屋の買い物袋を片手にさげて、少し瞳を大きくしながら、現れた私をみつめていた。
私は曖昧な態度を一切取らず、にっこりと笑った。

「やっとだな律。お腹がすいたぞ」

律は二度瞬きをした後、微笑んで、買い物袋を持ち上げた。

「澪の好きそうなのを選んでたんだよ」

持ち上げた袋からは、胃袋を刺激するいい匂いがした。





114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 19:34:21.52 ID:lMOe12560

カーペットに小さなテーブルを広げて、二人でご飯をつつきながら、たわいも無い話をおかずにする。
一週間分の話題が溜まっていたのだから余計に会話がはずんだ。
お互い腹にイチモツを抱えていると分かっていてもごく自然にそんな世間話を楽しめてしまうのが私と律の仲なのだ。
私は自分と律の相性の良さを、心から嬉しく感じるのだった。

「ふぅ。ごちそうさま。おいしかったし、ふふ、楽しかった」

少しはにかみながら茶碗に箸を寝かせる。ほとんど同時に律も茶碗を空にした。うさぎ柄とくま柄の、二人の茶碗。

「さて……と」

後ろ手を付きながら、どこを見るでもなく呟く。
それに呼応して律も小さく息をつく。

「ん……」

場の空気の味が、暖かくて甘いホットミルクティーから渋みのある冷緑茶に変わったのを感じながら、私は口端を上げた。

「恥ずかしい事言うけどさ。私、律と一緒にいる時間が最高に大好きだ」

それを口火にして、互いに避けていた話題に、私達はそろそろと踏み込んでいった。

「律がレズだからって、それは変わらない」
「……ありがと」

俯いて微笑んだ律の顔は、けれどどこか寂しさの影があって、そう単純な感情ではないのだと私に感じさせた。



117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 19:56:23.69 ID:lMOe12560

「黙っててごめんな。仲よかった従姉妹が、私がビアンだって告白したせいでうまくつきあえなくなった事があったから……怖くて」
「そっか……。その従姉妹の事も、その……好き、だったのか?」

自分自身、意図のはっきりしない質問だった。一歩踏み込んでみたというところだろうか。律は一呼吸してから答えた。

「いや。その人の事は違う。ただ私を理解してほしかったんだ。その人ならわかってくれると思った。本当の自分を知ってくれる人がほしかった……」

私は頷きながら、自分がしばしばうなされる悪夢の事を思い出していた。

「律のその気持ち、全然違うんだけどさ、少しだけわかる。私も、誰にも言ったことないけど、ずっと悩んでることがあった。もし律がいなかったら、私って友達がいないんじゃないかって」
「…え?」
「……夢を見るんだ。私の隣から律がいなくなって、友達がみんな私の事を無視するようになる夢。私は律と友達だけど、お前とは友達じゃない、って」
「……」

夢を話すのは、初めての事だ。律は静かな瞳でじっと、時折頷きながら、私の話に耳を傾けていた。

「でも、そんな時必ず律が戻ってきて助けてくれるんだ」
「私が?」
「泣いている私の肩に律が手を触れて、笑いかけてくれるんだ。……ぅ。なんか照れるなこんな夢の話。……でも、だから分かる」
「もし律がいなかったら、私を孤独から助けてくれる人は誰もいないんだ。律がいないと、寂しい。唯やムギ、梓も友達だし仲間だけど、律とは違う」
「みんながいても律がその場にいないとき、あの夢を思い出して、すごく不安になる。だから、ちょっとだけ、臆病になるのも、本当に自分をわかってくれる人を作りたいっていうことも、共感できる」

律は言葉少なげにうつむいて、顔を少し歪ませた。瞼の間から伺える黒い瞳が僅かに潤んでいるように見える。

「知らなかった。澪がそんなふうに思ってたなんて」



119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 19:59:16.85 ID:lMOe12560

「でも……」

どれだけ律を大切に思っても、どうしても覆せないただ一つの気持ちがある。それだけははっきりと伝えなければならなかった。
それはこれからの二人の関係の大前提なのだ。
私は律が顔をあげるのを待った。
律が私の沈黙に気づいて、上目使いに視線を送って、二人の視線が交わって。
お互いに十分に気持ちが整ってから、私は告げた。

「私は恋人にはなれない」



125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 20:23:39.90 ID:lMOe12560

律の瞳はそれまでの潤いを捨て、一瞬鋭く揺れる。それから何かをこらえる様な眼をして、私の瞳を覗く。
私は息をするのも忘れて律の反応を待った。
 
「……私、この一週間ずっと悩んだ。やっぱ澪とさよならするべきなのかもって」

私は冷たい手で両の肺をわしづかみにされた心地だった。けれど、じっと我慢して律の言葉に耳を傾ける。

「澪が私と変わらず親友でいてくれる事はすごく嬉しい。私がビアンだっていう事実を受け止めてくれたんだから。だから、後は私が自分の気持ちに踏ん切りをつければ、それで良いんだって思った。でも……」

律は私に微笑みかけた。ただの笑みではなかった。泣き顔かとも思える、律の心のうちがそのまま現れたかのような顔だった。

「でも駄目だった」

私は自分の血管の一本一本が言い知れぬ不安に冷えていくのを感じている。

「だって、私と澪はどこまでいってもただの友達。じゃあ私は、もしいつか澪に彼氏ができた時、笑っておめでとうを言わなきゃいけないのか? ……言えるわけない……ごめん。全部私の我がままだ」
「律が謝る必要なんてない」
「いいや。せっかく澪が私と友達でいたいって言ってくれるのに……私はそれだけじゃ嫌なんだ。自分勝手だ」
「そんな事無い。律の気持ちは当然だと思う。……自分勝手なのは私だ。私、律がこれからも友達でいてくれるってかってに考えて、律にたよりきってた。自分の事しか考えてなかった……」

律が気持ちを忘れられないと言ったら、どうしよう? 私もそれを考えなかったわけではない。けれど、深く考える事をさけていた。その先にチラつく結論が、怖かったからだ。



128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 20:43:37.99 ID:lMOe12560

「いつか澪が私の事を迷惑に感じるようになる……それを思うと怖いんだ。今だって澪と一緒にいて楽しいはずなのに、不安でしかたないんだ」
「待って、待ってくれよ……じゃあ律は本当に、私とはもう一緒にいられないって言うのか……?」

でも律は、首をふった。

「私は澪と友達でいたいと思ってる。でも、それで本当にいいのか分からない。……だから澪に会いに来たんだ」
「え……?」
「一人で考えてもどうしようもないって気づいたから。澪と話して決めようって」

律の心には今、不安定に揺れる天秤があるのだと気づかされて、私の背筋に冷たい緊張が走る。
この瞬間の一言一言が、二人の未来を分けるのだ。
私は、すくんでしまっている自分に気づいて、己の心で尻を叩いた。



129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 20:45:20.54 ID:lMOe12560

「……二人とも一緒にいたいと思ってるんだ。なら一緒にいようよ」

もちろん律は簡単には納得しない。

「一緒にいたいと思っても、そこから先が全く違う。私は……私は澪と恋人になりたい。でも澪にとって私はただの友達――」
「ただの友達なんかじゃないっ」

私は律の言葉を遮って、立ち上がった。自分で自分の尻を叩いたおかげで、気持ちが発奮している。

「澪?」

机を回り込んで律の隣に膝をつく。
驚いている律の手をとって、私は睨み付けんばかりに律と顔を付き合わせる。

「私がどれだけ律の事を大切に思っているか、律はちっとも分かってない」

律はつながれた手に少し眼を落として、口を尖らせた。

「澪はあんまりそういう事を言ってくれないじゃんか」
「これから話すから、ちゃんと聞いて」



133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 20:58:22.83 ID:lMOe12560

私は切々と語った。
自分にとって律がどれだけ特別な存在か。会えない間、会えなくなるかもと思った時、どれだけ辛かったか。昔喧嘩したときに家で一人泣いた事も、正直に明かした。
律は時々恥ずかしそうに頬を緩めたり、私の本音に少し驚いたりしながら、話を聞いていた。
私は話し終わってホゥと息をつく。
律は少し顔を赤らめながら、どう受け止めたらいいのか戸惑っているようだった。

「澪は……」

か細い声で、律が言った。

「私の事どう思ってるの? 今のだけ聞くと、まるで告白されてるみたいなんだけど……」
「その……私も自分の気持ちがよくわからないんだ」
「……」
「律とキスしたいとかそんな風には思えないけど、律とは絶対に離れたくない。……誰にもわたしたくない、なんて風にも思う」
「それって友情? それとも……愛情?」
「分からない。 愛情とか好きとかじゃないと思うけど……あぅ、ごめんな……でも絶対、この気持ちはただの友情なんかじゃないとも思う」

互いに、私自身どう理解していいのか分からず、手を握ったまま無言で見つめ合う。

「はは……私もいっそレズだったらいいのにな」
「…澪はこれだから……やっぱりデリカシーがない」
「え?」
「だって、そんな風に言われたらよけい澪を好きになっちゃう…。ビアンじゃないくせに……」

そう言いながら、瞼の端を人差し指の背でこすった。律の瞳は濡れていた。



135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 21:20:52.81 ID:lMOe12560

自分の気持ちが少しは律に届いたのだろうか、と私は思う。

「実際、澪はどう思う?」
「え? どうって、それは今言ったよ」
「いや。私が澪を好きなことについて、どう感じる? やっぱり、気持ち悪い?」
「それは……」
「気を使わずに正直に言ってほしい。必要な事なんだ。お互いの違いを理解し合いたいから」
「……それって、これからも私と一緒にいてくれるって事?」
「私だって、できるなら澪と一緒にいたいから。そのためにはっきりと澪の気持ちを知っておきたい」
「う、うん。……ええとな、よく、分からないって感じ……かな。同性に恋愛をするってどんな気分なんだろうって。理解できないから、律が私に向ける気持ちが少し怖くもある。律が私にキスしたいと思う気持ち
少しは想像できる。けどやっぱり自分がその感情を抱く事はないと思うし、その……本当にごめんだけど、考えると、どうしてもちょっと気持ち悪いって感じてしまう」

私がたどたどしく話して、律はぎこちなく微笑んだ。

「……ちゃんと話してくれて、ありがとう澪」

律は気丈にそう笑ったけれど、心にある失望を隠し切る事はできないようだった。気配のふしぶしにそれが現れているのだ。
そして私はそんな律を慰めずにはいられない。

「なぁ律。私は律の事を世界一大切な友達だと思ってるし、もし私が男だったら、け、結婚しちゃってもいいってくらいだぞ。あはは……。それなのに、キス、とか、抱き合うとか考えるとやっぱり気持ち悪いって思ってしまう。私おかしいのかな」

律はまたいくらか瞳をうるませながら、笑った。

「馬鹿だな澪は。おかしいのは私だ。私が……ビアンだから……」

とても一言では表せないような、複雑な思念を感じる律の表情だった。笑っているのか、泣いているのか、困っているのか、喜んでいるのか、呆れているのか、私には分からなかった。



139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 22:25:26.64 ID:lMOe12560

「私……あの薬を手にいれて使おうかって考えた」

大学の授業で、レズやゲイを「治療」する薬があるということを聞いた。
私が後輩に告白されたことを律に話したとき、その薬の話もした。
律が言う『薬』とは、この同性愛を「治す」薬のことに違いない。

「あの薬って……律……」
「私だって、それくらい悩んだんだぞ」
「私に言う資格はないかもしれないけど……今までの律を殺すなんて事、してほしくない」
「私だってしたくない。でも」
「もし、私のせいで律が望まずにそんな事をしなきゃいけないなら……私……私は律と一緒にいられない」
「……私がビアンじゃなければ、普通の親友でいられるんだぞ」
「律」

私は律を握る手にギュッと力を込めた。

「レズビアンは律の生き方なんだろう。それを否定することなんてない。私は今の律のすべてが大切なんだ。律が私のせいで自分を殺してしまうなんて耐えられない」

律は俯いて瞳を隠した。涙が一つ、カーペットを濡らした。

「澪は我がまますぎるよ。ビアンじゃなくなれば、私はこんなに悩まなくてすむのに。私にビアンでいろだなんて」
「もちろん、律が本当にそうしたいなら、私はもちろん受け入れる。けど律はそんな事したくないんだろう。だったら……お互いに少しづつ歩み寄って、ありのままの二人で一緒にいようよ。そのために、二人で話しあってるんだろう?」
「……澪は、じゃあ、私にどう歩み寄ってくれるの?」

一寸、私は考えた。それから、律の瞳をまっすぐに見て、はっきりと言った。

「彼氏とかつくらないし、そうだな、結婚もしない。律がずっと私の一番」

私の言葉を聴いて、律がぽかぁんと呆れたような顔になった。
私だって馬鹿な事を言っていると自分で思う。けれど嘘をついているとは思わなかった。私の胸にはそれほど強い想いがある。



141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 22:34:49.43 ID:lMOe12560

「ずっとって、いつまでだよ」
「ずっとは、ずっとだ」
「大学を卒業しても? 三十路になっても?」
「もちろん」

また二、三粒、俯いた律の瞳から涙が落ちた。

「嘘つき……!」

律は泣きながら小さく怒鳴った。

「そんな先の事分からないだろ。気持ちは変わるんだからっ」
「未来の事を恐れて、今の自分の気持ちに背をむけないで。私はそれくらい律が大切。それは絶対だ。ね、律、顔をあげて」
「……嫌だ。恥ずかしい」
「お願い。律の顔を見せて」

少しためらってから、律はしぶしぶ恥ずかしそうに顔を上げた。眉は弱って、瞳は赤く潤んで、唇はキュッと結ばれて、頬は紅潮し。
私は律のそんな表情をはじめて見た。
頬に流れる二筋の涙が、私をドキリとさせた。涙とは、それ自体に人の感情が流れているように思えた。

「ジロジロ見んなよっ」

少し顔を背けながら、律が鼻声で呻いた。

「……律の泣き顔、可愛いなぁって」
「馬鹿っ」



144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 22:45:11.51 ID:lMOe12560

私が茶化すと律はまた俯いてしまった。
感情の高ぶりが律の震える肩に現れている。すがるような声で、律は求めた。

「私のためにそこまで言ってくれるなら恋人になってよ……。なんで駄目なんだ? 私とずっと一緒にいてくれるんだろ? それって愛情じゃないのか? 私の恋人になってよ澪……」

それはきっと、律が理性で押さえ込んでいた恋の欲望そのものの声なのだ。
なのに、やっぱり私は

「律……ごめん。許して」

俯いていた律の頭が、また少しうなだれたように思えた。

「何を許せばいいのか分からないよ」
「歪な私の心を、だよ。……律の事が誰よりも大切なのに、私の頭にはくだらない価値観がこびりついてもいる。私も……こんな自分が嫌だ」

誰よりも大切な目の前の女性の、その心からの願いを叶えて上げられない自分を私は殺してしまいたかった。

「……じゃあその代わりに抱きしめて」

律は、震える声で呟いた。

「え?」
「外国じゃ友人どうしでも親愛の意味でハグするだろ?うちの留学生だってよくやってる。 ……それでいいから抱いて」
「……分かった」
 
映画で見るような、男同士や女同士の親友が抱き合うシーン。それを想像すると、いくらかは、抱き合うことへの違和感も薄れた。

――でもきっと律は……

少し考えて私は頭を振った。なんだっていいじゃないか。律がどんな気持ちで自分と抱き合うか、そんな事にまで自分が口出しできるはずがない。



145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/09(水) 22:55:07.27 ID:lMOe12560

「じゃ、じゃあ律……するから」
「ん」

ずっと膝立ちだった私は、カーペットにお尻を据えて乙女座りになる。それからおずおずと律の肩に手をかけた。
向い合って座る律は少し前かがみになって、そのまま、私の鎖骨の辺りに顔を埋めた。
私の鼻頭に律の髪が触れる。律の香りがいっそうはっきりと鼻腔に流れてくる。
良い匂いだとは思う。それでもどこか、私の頭にこびりついた男女観がその香りをわずかに拒否するのだった。
律が私の背中に手を回して、ぎゅっと二人の体を密着させる。ここまでするのってやっぱり親友同士のハグじゃないよな、などと考えつつも私は律にならって手を回す。
律の腰は、抱き心地自体はとても気持ちよいのだが。やはり気持ちがどこか、抵抗した。
それから壁かけ時計の秒針が三回転して、律はまだ無言で私にすがっていた。

「……律、あの、いつまでこうしてるんだ?」
「私が良いって言うまで、このままでいて」
「は、はい」

鎖骨に律の暖かい吐息を感じながら、私も黙した。
時折窓の外から聞こえてくる夜の世界の音や、無音の中にのみうまれる静かな耳鳴りを聴きながら、私は、律が今どんな気持ちでいるのかと想像した。
――そしてふと、悲しくなった。
二人は心から互いを求めてやまない。なのに、私と律の間には地平の果てまで続く巨大で分厚いガラスの壁があって、それが二人を隔てている。
そのガラスには小さな穴が開いていて、そこから手を伸ばせばお互いの手を握り合うことはできるし、話もできる。
でもけして、心からお互いの体を抱きしめあう事はできないのだ。ガラス越しに体を触れ合わせる真似事をするだけで。
私の感情が荒れ、流れそうになる涙を必死でこらえた。

「律。さよならなんて言わないで」

律の頬が小さく頷いて、私の肌を優しく撫でた。



190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 18:39:38.55 ID:J5Sd8k+I0

翌朝。
眼を覚ました私は、隣にいたはずの律の姿が消えているのに気づいて、飛び起きて叫んだ。

「律!?」

部屋を見回す。
律は、いない。



191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 18:41:59.56 ID:J5Sd8k+I0

「律……どこだよ……?」

心臓がものすごい速さで脈打って、背筋のあたりに嫌なものがザァっと広がった。
 
――昨晩。二人で10分近くも無言で抱き合った。
律はときどき腕にきゅっと力を入れなおしたり、胸を押し合わせたり、頬で私の胸をさすったり、まるで、私の感触を肌に刻み込もうとしているようだった。
いやきっとそうなのだろう。私も何も言わずにただ律の体を抱き寄せていた。自分がこれほどに律を抱きしめてあげられることは、多分、そうそう無いのだ、と思う申し訳なさがそうさせた。
逢瀬の終わりは唐突だった。律は前触れなくふっと私から体を離し、

「握手しよ」

と、まだいくらか潤んでいる目で笑ったのだ。
私が戸惑いながらそれに応じると、

「今日からまた私達は友達」

と微笑んだのだ。
私はあっけにとられながらもなんとか、

「す、末永くよろしく」

とおかしな返事をかえした。
それから私達は、どこかむずがゆい空気の中、食べ終わった食器を一緒に片付け、順番に風呂に入り、眠るまでの時間をくつろいだのだった。
二人はそうやってこれからも一緒にいるのだと思ったのに。
律は違ったのだろうか……?
目の前の景色が遠くなって、キィンキィンと頭の中で鋭い音がなりはじめ――



193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 18:47:22.67 ID:J5Sd8k+I0

「どうしたの澪?」
「へ?」

突然に律の声が私の耳に飛び込んできた。
声のした方に目を向けると、ベランダ窓のカーテンの端から、律の首がにょっきりと生えていた。
 
「り、りつ……何してるの」
「天気がいいから。ベランダで朝日を眺めてたんだ」
「あ……ああ……そう」

朝日って。
私はどっと力が抜けて、その場でカクンと首を前に落とした。
律はそんな私の内心を見透かしたのか、ベランダから部屋に戻って、ケケケと笑った。

「心配しなくても黙って出て行ったりしないよ」
「べ、べつにそんなんじゃ」

私は頬を膨らませようとしたけれど、ほっとしてしまった気持ちが遥かに強くて、できなかった。不貞寝するようにまたベッドに横になる。
律がしゃっとカーテンを開いて、薄暗かった部屋を明るい光が照らした。

「まぶしー……」

頭まで毛布にもぐって、私はだらしない声で呻いた。



194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 18:53:08.87 ID:J5Sd8k+I0

「起きないと、もう七時だよ」
「んー……」
「今日は朝一の授業なんだろ?」
「そうなんだよなー……」

けれど私はどうにも起きる気になれなかった。というより、大学に行く、という気になれない。
律と気持ちを打ち明けあった昨晩の特別な時間が、まだ私をふわりと宙に浮かせているのだ。

「なぁ律?」

毛布から顔の上半分だけだして、私は律に言った。

「今日さぁ大学、休まないか?」
「うん? 何で?」
「何でって言うかさ……今日は二人で家にいたいなぁ……」
「何だそれ。まるで私達が恋人にでもなったみたいじゃん」

律がまた笑って、私は今度こそ頬を膨らませた。

「ちょっと律。それって私へのあてつけか?」
「まさか。ありのままを言っただけ。私達は仲直りしてまた親友になったんだろ?」

律は私を見下ろしながらにっこりと笑った。
朝日の中でのせいか、律の笑顔が私には飛びきり爽やかに思えた。



196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 19:06:10.77 ID:J5Sd8k+I0

「何だよ律……。やけにさっぱりした顔じゃないか」
「澪とはこれからもずっと友達。そう決めたから。あぁ久しぶりに気持ちがいい朝だ。迷いが無いって、いいな」

律は昨日の泣きべそがまるで嘘だったかのように、晴れ晴れと笑っている。
私はそれを毛布の下から恨めしそうな眼で見つめていた。

「そうですかぃ……」

私は今だ律への思いの納め場所に困っているのだ。ただの友情とも言えずさりとて恋心とも言えず、これまでにない感情であって、落としどころを決めかねていた。
でもそれが律だけにしか向けられない特別な気持ちである事に変りはなく、二人で一緒にもっとその感情を愛でていたかったのだけど……。

「さぁさぁ。起きなさい。パンを焼いといてあげるから、さっさと顔を洗って」

律は昨晩の泣き顔なんて無かったかのようにいつもの様子に戻ってしまっていた。気持ちの切り替えが遅い律のわりには早い立ち直りだと思った。 

「もぅ、わかったよ……」
 
私は自分だけが取り残されたような、そんな寂しさを感じていた。
けれど、その寂しさを律に伝えて甘える事は、私にはできなかった。

(まぁ、律が笑ってるならそれでいいよな)

求められても答えてあげられないという負い目。その負い目のために、私は自分の気持ちを押し殺した。
負い目を感じる付き合いというのは健全な関係ではないと思う。けれど、どうしようもない。
本当はその負い目も寂しさも、律に慰めてほしいけれど、それはあまりに自分勝手だろう、と私は思う。それにきっと、慰めてもらった事自体に、また負い目を感じてしまうに違いなかった。



197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 19:13:44.59 ID:J5Sd8k+I0

数日たったある夜の事。それまでと変わることなく律は私の家に転がり込み、私もまた表面上は今まで通りそれを歓迎した。そうしてソファーにならんで一緒にテレビを見ていた時だ。
ソファーに一緒にならんで座っていた時、律の手が私の手に、すっと触れた。その瞬間である。

「あっ」

私はほとんど意識せず、熱湯に触れてしまったかの様にシュッと手を引いた。
馬鹿、と私は自分に唾棄する。
この数日、私は律とのスキンシップを極端に避けていた。無造作に腕を絡めたり、突然後ろから抱きついたり、今までは当たり前のように行っていた事も全てやめた。
嫌がっているわけではない。律の恋心に波風をたたせないためだ。
けれど今の反応は、明らかに誤りだった。律が今のをどう思うか。私は想像して、悔やんだ。
横目でチラリと、律の顔色を伺う。律は何にも気づいていない様子で、でも不自然なくらいにただじっと、テレビを見ていた。しかし、今の私の大げさな動きに気づいていないはずがないのだ。
 
「律……その、ごめん、手を繋ぐのが嫌だったわけじゃないんだ。つい」
「ん? 何?」

律は、一体なんの話?、という顔でそう言った。気を使ってくれているに決まっている。
私は申し訳なくなって、今度は自分から律の手の平を握ろうとした。けれど律はやんわりとその手を引いてしまった。



198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 19:21:46.15 ID:J5Sd8k+I0

「いいよ。ありがとう」

こんなくだらない事で律に気を使わせてしまった自分が情けなくて、私はうなだれて自分の太ももと終わりのない睨めっこを始める。

「……澪?」

心底うなだれている私を見かねたのか、律が一度引いた手のひらをかえしてくれる。
私はしっかりとその手を握り返した。よくよく落着いてみればその手は暖かくて心地よい。そこにあるのは純粋な思いやりの気持ちなのに、私は自分の色眼鏡が嫌だった。

「律。私は自分が嫌になる」
「……気にしないでいいよ。あるがままでいようって言っただろ。澪と一緒にいられるのなら私はそれで十分」

大人びた律の笑み。
私は、自分が人よりも臆病な性格のために孤独感にさいなまれていた。けれど律はそんな私の倍、周りと異なる部分を抱えてきたのだ。その差が、笑みに現れるのかもしれない。

「でも、私は……」

――律を全部受け止めてあげたいのに

そう思う心の裏にあるのは、恋にも劣らぬ独占欲なのだと、私自身気づいている。
律を誰にも奪われたくない。ならば律の全てをがっちりとがんじがらめにしておかねばならない。それなのに性的に律を拒んでしまう自分の価値観が、私は許せない。
そんな私の葛藤には気づかず、律がくすくすと笑った。

「な、何だよ」
「だって……こういう時って普通は、ビアンの方が変に気を病んでぐじぐじするのに、ノンケの澪がビアンの私に慰められてるなんて、なんだか可笑しくてさ」

そう言ってまた律は笑った。気取ったところのない、可愛い笑みだった。



199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 19:27:39.79 ID:J5Sd8k+I0

「わ、笑うなよっ」

私は文句を言いながら、それでも、どうしようもなく癒されてしまう自分を感じていた。手の平に感じるぬくもりと、律の笑い声が、心を軽くする。
それから日付が変って、深夜。私達は以前と同じように枕を並べて眠る。
電気を消して十分ほど。暗い天井をみつめる私の目は、まだ冴えていた。仰向けのままチラリと横目で隣の律を伺う。目を瞑ってはいるけれど、まだ寝息は立っていなかった。

「律。起きてる?」
「ん……?」

私は横向きになって、律と向い合った。

「私が眠ってる時ならさ……キス、してもいいよ」
「……澪。あのな」

律は少し呆れた顔をしながら、よいせと自分も横向きになった。
二人で向かい合って瞳を交わす。律の瞳には少し、私を咎めるような色があった。



201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 19:32:17.87 ID:J5Sd8k+I0

「気をつかうなって、言ったはずだろ」
「そうじゃないんだ。そうでもしないと……フェアじゃない」
「フェア?」
「だって、律は今でも我慢してるんだろ。私への……その……気持ち。私は律と一緒にいたくて、一緒にいる。そのくせ律の気持ちには応えてあげられないなんて。私って、自分勝手だ。だから……」
「馬鹿。それが変な気をつかってるっていうんだよ」
「そうかな」
「そうだよ。それに……澪がそんな事言うから、余計に私の気持ちを刺激するんだよ」

律は冗談まじりではあるが少し怒った顔をして、私に背中を向けてしまった。

「あ……」

律の背中は黙りこんでしまって、私はハァと自分に溜め息をついて、また仰向けになった。  
今律はどんな顔をしているのだろう。律の顔を覗き込んで、身を寄せてあげられればいいのに。
それを出来ない自分が、私はやっぱり嫌いだった。



205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 19:45:28.88 ID:J5Sd8k+I0

それからまた幾日か経ったある平日。大学にいた私は次の講義までの時間を、友人と共にキャンパスを適当にぶらついて時間つぶししていた。
友人と話をしながらふと目線を遠くにやると、少し先のベンチに律の姿を見つけた。隣には短髪の、体育会系っぽい女学生がいて、二人で楽しそうに会話をしている。
私は、友達かな、と特に気にとめなかったのだけど、

「あぁ。あの人知ってる」

と、私の視線を追った友人が、ベンチを見てうわずった声を上げた。

「律の隣に座ってる子?」
「そうそう。澪は知らない?」
「うん。なに、有名人なのか?」

友人は噂好きする笑顔を浮かべながら、わざとらしく私の耳元に口をやって、こしょこしょと言った。

「あの人私らの一コ上の先輩なんだけど、自分がレズビアンだって公言してるのよ」
「……へぇ。そーなんだ」 
「あら、あんまり驚かないのね」
「そんな事ないけど」

むしろ逆。そうとうにギクリとしたからそれを隠すために平静を装っているのだ。



207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 19:51:09.67 ID:J5Sd8k+I0

「けど、もしかして田井中さんも……そうなの?」
「そうなのって、何が」
「だからさ、レズなの?」
「し、知らないよ」
「あんたらメチャ仲良いじゃん。あやしー。というかじゃあ澪もそうなの……!?」

友人は一歩引いて、私に怯えるようにして我が身を抱いた。

「アホ!」

私は持っていたバインダーで友人の肩を叩いた。そして、楽しげに話をしている律を横目にそそくさとその場を立ち去ったのだった。

(レズビアンである律が、レズを公言している人と、仲よさそうにしている)

何か、もやもやとしたものを胸のうちに抱えてしまう。
心を取り出して観察するとすぐにそのもやもやの正体が分かった。
嫉妬だ。
ただの嫉妬ではない。危機感を伴った、強い嫉妬だ。なぜなら、律と話をしていたあの女学生は、同じ立ち位置にいるのだ。
つまり、異端を共有する仲間。あの女子生徒は律とレズビアンという生き方を共有している。
律にとっての特別な存在が自分以外にもいることが、私は嫌なのだ。律をとられるかも、という子供じみた、けれど本物の恐怖。



208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 20:01:22.28 ID:J5Sd8k+I0

その晩、律を家に招いた私はさっそく大人気ない唾付けをはじめた。

「なぁなぁ律」
「なに?」
「今日の昼間。大学で律を見たんだ」
「そっか。毎日会ってる気がしないでもないけどな」
「……そのとき律は友達とすごく仲よさそうにお喋りしてたよな」
「ん?」

晩ご飯のカレーをつつきながら律は不思議そうな返事をした。もっとな反応ではあるのだが、私は自分の言葉にこめた言外の意図に気づいてほしいのだ。

「律と一緒にいた人。あの人もレズなんだってな」

レズ、という単語には律も顔を上げた。そしてすぐにピンときたようだった。

「あぁ、あの時の話か。私も澪に気づいてたよ? でも澪だって友達と話してたろ」
「え、そっちも気づいてたの?」
「うん。歩いてくるのが見えてたし」
「そ、そう」

なら手ぐらいふってよ、とは思ってもさすがに言えない。

「で……あの人は律がレズだって事、知ってるのか?」
「うん。私が告白した」
「え……」



209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 20:10:33.40 ID:J5Sd8k+I0

そういう意味ではないと分かっていても、告白、という単語にドキリとしてしまう。

「すごく前向きな人なんだ。自分がビアンだって事を堂々と宣言してて、ぜんぜん引け目に感じなくてさ。それで、私みたいにクローゼットしてる人の話をこっそり聞いてくれたりするんだ
さっぱりした性格で友達の多い人だから、あの人と話してるイコールそくビアンって事にもならないし、こっそり悩み相談する人が結構多いっぽいな。もちろん、それが誰かって、言うような人じゃない」

律の笑顔に、その人に対する特別な尊敬を感じて、私は鬱屈する。一方ではそんな自分がどうしようもなく器の小さい人間に思えて、余計にもんもんとしてしまうのだ。

「律も、その人に何か相談してるのか?」
「私は相談っていうか、ただ話をさせてもらってるだけ。同じビアンの人と話す機会って、無いからな」
「……悪かったな。私は話を聞いて上げられなくて」

内なる陰が声になってしまった。スプーンをくわえながら、もごもごと愚痴る。

「へ?」

と律がきょとんとした顔をした。
少しの間、私の顔色をうかがっていた律だが、突如、目と口が急角度で弧を描いてニヤァといやらしい表情になった。



210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 20:16:41.93 ID:J5Sd8k+I0

「えぇー……? 何それ澪もしかしてヤキモチ?」
「ち、違うぞ!」

私は唾を飛ばして、三つの三日月を貼り付けた律の忌々しい顔を睨む。
実際、単純な嫉妬ではない。自分に対する嫌悪、と言った感情の方が強い。だけど律はそれを違った風に受け取ったらしかった。

「澪さんったら意外と安いのね。うふふ」
「だからぁ!!」

かってに決めてかかる律に腹がたって、私は本当の気持ちは説明してあげなかった。

「……時々、澪がビアンじゃないのを忘れそうになる」

律はひとしきりニヤニヤした後、今度は少し寂しそうな顔になってそう言った。私はそこに込められた気持ち全てを把握することはできなかった。
そんな事があって私は律との間にある溝をまた意識してしまった。だから、その日私は律の手の平を握って眠ろうとした。毛布の中でもぞもぞと手を動かして、隣で横になる律の手を握る。

「澪……?」

律はきっと、その手に込められた私の気持ちを分からない。二人の間の、さして幅の無い、だけど深い深い溝。それが以心伝心をどこまでも阻んだ。



212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 20:21:39.93 ID:J5Sd8k+I0

その深夜。
私は唇に何かやわらかい感触を得て、目を覚ました。
律の匂いも、している。
何が起こっているのかはすぐに分かった。
律が私にキスしているのだ。

(気をつかうなって言ったくせに)

それでも私は寝たふりをしていた。内から沸く嫌悪感を必死に耐えながら、ただじっと目を瞑る。
律は注意深く、静かに、ゆっくりと優しく、何度も何度もキスをした。唇が触れ合うだけの儚い口づけ。はがゆさを数でおぎなおうとしているのだろうか。
 
――私が眠ってる時ならキスしてもいいよ

私がそう告げたとき律はその言葉を一蹴した。
なのに、律は結局はその言葉にすがっているのだろうか。私がいたずらに律の気持ちに触れて、高ぶらせてしまったのだろうか。
思えば、私が律の秘めたる思いを知ったあの夜も、私は律の手を握って眠ったように思う。
律にしてみれば好きな人と手を握って一つ同じベッドで眠るのだから、どれだけ心乱された事だろう。
とすれば、律がキスを我慢できなくなったのは結局自分のせいで……。
私は己の不用意さを悔やんだ。




213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 20:26:28.94 ID:Rava2Hk0O

めっちゃ巧いし面白いんだけどビアンって言い方だけ気になるな…

語源からもレズの方が良いような気がしないでもないようなしかしレズの人たちの間でビアンっていうのが普通ならきにしない



214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 20:28:21.20 ID:0yWdFKxSO

レズは蔑称だからそれを避けてビアン



215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 20:36:09.93 ID:Rava2Hk0O

>>214
蔑称なのか?

気にしすぎな気もするがまあいいや。

設定大学生だしな



216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/10(木) 20:37:06.02 ID:dM+aMUrnP

レズの人たちはビアンって自称するんじゃない





239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 00:30:19.65 ID:S3VBjWxd0

――いつまでこんな関係が続くのだろう? 

私はふとそう考えて、そして恐ろしくなった。
律は今でもきっと私の事が好きで、けれどノンケの私を気遣って、その気持ちを押さえ込んでいる。
私はそんな律の気持ちに答えてあげる事はできないのに、そのくせ律と離れ離れになるのは嫌で、自己の歪な心への嫌悪を重ねながら、律を離すまいとしている。
結局、いつまでたっても二人は幸せにはなれないのかも。律もそれを悟って、自分と同じレズであるあの先輩のところに行ってしまうのでは――突然そんな不安が膨れ上がって、私の心をおどかした。
律はあてない思慕を、こうやって深夜にこっそりと一人で処理する以外にしようがなく、そしてそうさせているのは私自身で。律を苦しませている自分が、私はどうしようもなく情けなかった。

(やば……泣いちゃいそう)

そんな自分に何も言わず笑って側にいてくれる律の事を想うと、私はとうとう溢れだす涙を止められなくなってしまった。
悔しさと、見えない未来への恐怖と、感謝と、沢山の感情がない交ぜになった涙だった。

「……ひっ……うっく……っく……すん……」

慌てたのは律だ。眠っていると思った私が突然嗚咽を始めたのだから、無理もない。

「澪!? 起きてたの!? ご、ごめん、ごめんな。嫌だったよな」

律は申し訳なさそうに謝りながら、ベッドから出て行こうとした。
私は起き上がり、律の手を掴んで、涙交じりの声で止めた。

「駄目、行かないで律!」
「で、でも、私、澪を泣かせて」
「違う。律のせいじゃないんだ、私が……ひっく」
 
と、また嗚咽の発作がきて、私は両腕で顔を覆った。律に泣いているところを見られたくなくて、必死に声を殺す。けれど、小さなしゃっくりみたいに、何度も声がもれた。



240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 00:35:02.21 ID:S3VBjWxd0

「ああどうしよう……」
 
律は何度か私の肩や腕に手をあてながらも、自分が触ると嫌がられるかもとでも思ったのか、すぐに手を離す。
けれどやっぱり心配でたまらないようで、また私の体に触れて……そんな事をおろおろと繰り返していた。
早く律の勘違いをといてあげなければと思うのに、後から後から涙があふれて、私は歯がゆかった。
一分か二分か、ようやく発作がおさまって、私は涙をぬぐって、鼻をすすりながら、弱々しく笑った。

「えへへ、ごめんな。びっくりさせて」

律はにこりともせず、心配そうな顔で私を見つめている。

「澪。何で泣くの? キスが嫌だったんじゃないの?」

自分を責めている律の内心が私にはありありと感じられた。
ベッドの上で並んで上体を起こしている二人。私はそっと自分の肩を律に触れさせた。互いの肌が触れる感覚は、それだけで少し気持ちを落着かせてくれる。

「キスが嫌で泣いたんじゃないんだ。してあげられない自分が嫌で、泣いたんだ」
「澪……」

律は、二度三度何かを言いかけて、そのまま俯いた。
律の手の平が動いて、触れ合う肩の下で、私の手のひらに重なった。



241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 00:40:29.88 ID:S3VBjWxd0

「澪。お願いだから信じて。私は今のままで十分幸せだよ」
「もちろん信じてるよ」

律がきゅっと私の手を握った。

「なら自分を嫌いだなんて思わないで。私は今の澪が好きなんだ」
「……そうだな」

律が幸せでいてくれるならそれが何よりだと私は思う。けれどどうしても、自分の心の中にいる自分自身への裏切り者が許せない。

「なぁ律」
「何?」
「あのさ……。……やっぱ、なんでもない」
「何だよ。言って」
「……。あの、ありがと」
「……うん」

私が口にしようとしたのは、本当は違う事だった。
けれど、言えば律は怒ると思った。だから話せなかった。

「寝よっか。律」
「う、うん」
「私が眠ったら、またキス、していいからな」
「馬鹿。泣いちゃうくせにそんな事言うなよ」
 
まだいくらかそわそわとしている律の気配を隣に感じながら、私は閉じた瞼の裏に、今しがた律に言いかけた言葉を反響させていた。

――なぁ律。レズビアンになる薬ってあるのかな?



242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 00:53:02.53 ID:S3VBjWxd0






前半  ~終わり~








243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 00:54:39.59 ID:fSGJeDpi0

前半だと……
とりあえずおつおつ!後半はまた後日かな?めっちゃ期待して待ってるよ



244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 00:55:32.15 ID:/JVGEIw+O

とりあえず乙


すぐ始まるかどうかわからんけど後半めちゃくちゃ楽しみにしてる



245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 00:57:26.46 ID:vrPhOCO/O

おつ
後半も期待



246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 01:06:35.23 ID:KSYyDKnUO

おつー



247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 01:10:09.31 ID:A6DEzB9d0


りっちゃん可愛いいいいい
俺と結婚してくれええええ



248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 01:18:00.70 ID:iLwh9n510

おーつ





249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 01:18:43.85 ID:S3VBjWxd0

後半は量的にもペース的にもダメそうなので、一旦出直してきます。

ストーリー的にはきりがいいので、ここで終わりだと思ってください。

すみません。ありがとうございました。




250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 01:34:21.42 ID:PANSphcfO

速度的にVIPでやるには向いてないが、SS速報でならやっていけるんじゃないだろうか
まあ一応今日から3連休だし、行けるとこまで突っ走ってみてくれよ



251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 01:34:25.35 ID:XCu0NAei0

乙です



252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 02:05:15.34 ID:8wWVwiG90

ぜひともがんばってくれ



253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 02:08:45.85 ID:bE00TMuEP

この律のしゃべり方が好き
しゅがのおとなしいモードの声で再生される



254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 03:09:45.60 ID:b8IcMRiF0

>>1
おもしろかったよ
とりあえずオツ
続き待ってる



255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 03:16:02.13 ID:nkFFp3awO

乙、続きがすごく気になるわ。
次のスレタイわかりやすくしといてくれー



256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 03:35:49.85 ID:xEIqz/NUO

面白い
んですっげえ切ないな



258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 03:46:19.15 ID:pei/PfQs0


面白いけど切なさがはんぱない
続き待ってるよー





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澪「本気で私のこと…好きなの?」#前編2
[ 2011/02/11 10:49 ] シリアス | 律澪 | CM(12)

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タイトル:
NO:904 [ 2011/02/11 11:52 ] [ 編集 ]

面白いな続きがきになる

タイトル:
NO:905 [ 2011/02/11 14:06 ] [ 編集 ]

ここに来てけいおん百合SSも一つの壁を越えた気がする。
今までの百合SSはべたべたな百合か断絶鬱展開のどちらかが主だが
埋めることが出来ない溝がありながら離れられない二人を描くという
より深みに達した感がある。
特にこの作者は丁寧でぶれることが無い描写で読ませてくれるので
完結すれば名作の1つになると思う。

タイトル:
NO:906 [ 2011/02/11 14:44 ] [ 編集 ]

面白い!けど切ない…


胸が締め付けられる

タイトル:
NO:909 [ 2011/02/11 21:32 ] [ 編集 ]

心情や仕草の、細やかな描写。
とても、綺麗。

タイトル:後半に期待大
NO:911 [ 2011/02/11 23:57 ] [ 編集 ]

結構深い作品ですねぇ…
ハッピーエンド至上主義者としては是非とも律澪に幸せになって欲しいけど…
性的欲求は別として性別ではなく1人の人間としてその対象人物に(擬似的な物を含む)恋愛感情を抱くと言うのは有りだと思う。
後、暴力的な個人的意見だけど本作の澪ちゃんの感情―強烈な独占欲―は現時点でも十二分に恋愛感情に匹敵してると思う。

タイトル:
NO:931 [ 2011/02/13 02:30 ] [ 編集 ]

読みやすい。せつないな。
焦らずに完結させてほしい

タイトル:
NO:950 [ 2011/02/13 19:40 ] [ 編集 ]

後半が楽しみすぎるぜ

タイトル:おいふざけんな
NO:1398 [ 2011/03/19 04:01 ] [ 編集 ]

面白すぎ ワロタ
泣くわ。マジで。なんだこれ。過去最高だわ。
切なすぎんだろ

タイトル:
NO:1942 [ 2011/05/13 00:20 ] [ 編集 ]

マジ続き希望

タイトル:
NO:2832 [ 2011/06/26 02:09 ] [ 編集 ]

せつなすぎてまじでなきそーなんだが・・・。
てか最後の締めいいな

タイトル:
NO:3173 [ 2011/07/03 12:48 ] [ 編集 ]

最後の澪の台詞にじーんときた・・・

タイトル:
NO:5561 [ 2012/02/10 08:07 ] [ 編集 ]

別ジャンルでまったく同じSSがあったけどいいのかね?
この後同性愛になる薬とか出てきたらさすがにアウト…

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