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紬「ゴーストの囁き」#前編 【クロス】



http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1297398854/l50




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 13:34:14.50 ID:SXuZJV1I0

西暦20XX年


企業のネットが星を被い


電子や光が駆け巡っても


国家や民族が消えてなくなるほど


情報化されていない近未来――――――



2 名前:>>1代行ありがと:2011/02/11(金) 13:36:55.70 ID:7a85sOFd0


―――いつからだろう

私にとって、ムギ先輩が大切な人になったのは…………


―――どうしてだろう

ムギ先輩がいるだけで、幸せを感じられるのは…………




広大なネットワークの中で高度に発達していく技術社会と、それを構成する膨大な数の人間…

その一人一人が本来の多様性を保持しながらも、集中化による個も同時に失われつつある現代において

私たちは出会った



中野梓の物語は、桜ケ丘女子高等学校への入学から始まる





3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 13:46:00.35 ID:7a85sOFd0

―――思考するだけで操作が可能なインターフェイスを持つ「電脳」―――

宗教的規制も特にない日本では数年前から爆発的に普及し始め、私が電脳化したのも

その流行が最も盛り上がりを見せていた時期だった。

一昔前で言うところの、携帯電話が普及し始めた頃と似ている。

今では日本の人口のおよそ半数以上が電脳化していて、情報機器の最先端として広く一般に使われている。

また、「電脳」が注目されるようになった背景には、「義体」というもう一つの電子デバイスとの共存において

電脳が重要な役割を果たしていることも大きい。

電脳化と義体化の技術の進歩には、単に人々の生活を豊かにするだけにとどまらず

高度な身体能力を保持するためにより適合した肉体との親和を追求した義体を制御するために

情報処理能力を補う形で進化していくという、もう一つの道筋があった。

言うなれば必要目的以上の、人間の知的好奇心と欲望を残さず昇華する上での道具として発展していった。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 13:53:06.68 ID:7a85sOFd0

桜が丘女子高等学校は近年の電脳犯罪の増加をうけ、早くから電脳教育を導入し
その実績は今では全国トップクラスを誇っている名門校。

私、中野梓は去年、新入生としてこの桜が丘女子高に入学した。

志望理由は至って簡単、家が近所だから。
私の両親は教育熱心で、小さいころからやれ勉強しろだの習い事に通えだのと厳しかったから
気がついたら私は周りよりも少し、ほんの少し賢くなっていた。

おまけに私が小学5年になった頃、両親は何を思ったのか私に電脳化を勧めてきた。
身体が急激に成長するこの年頃に電脳化するのは珍しいケースで、その影響もあってか高校2年になる今でも
体は中学生みたいにちっちゃいし、胸だってまるで成長していない。

でも、電脳化することでいいこともあった。
小学4年から始めていたギターは、電脳化と合わせて取り入れた義体のおかげでみるみる上達していった。
義体の制御能力も一緒に向上するし、電脳に関して悪い気分はしなかった。


そして私は中学を卒業、桜高の試験と適性検査に無事合格することが出来た。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 14:01:34.93 ID:7a85sOFd0

桜高は名門といっても、特別に勉強ができる生徒が集まるような、いわゆるエリート校とは違う。
どこにでもある普通の女子高に、電脳教育というカリキュラムが大幅に実装されているだけ。

でもこの電脳教育を受けるには当然、自分の脳を電脳化する必要があるわけで、
大抵の生徒は入学する前に電脳化を済ませる。

もっとも、電脳化にはたくさんのお金が必要になるし、メンテナンス代だって馬鹿にならない。
必然的に桜高は裕福な家の子が多くなるんだけどね。



とまあ、そんなこんなで桜高に入学した私は、紆余曲折を経てなぜか軽音部に入ることになってしまった。

桜高の軽音部は私を含めて5人。

この5人で私たちはバンドを組み、学園祭や新歓ライブに向けて日々練習に励んでいる。

嘘です。

本当は毎日お茶とお菓子を食べて、ぐだぐだとおしゃべりしています。

でも、時々練習もします。



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 14:11:39.73 ID:7a85sOFd0

 ○   ○   ○

現在、私は高校2年生。

先輩方は3年生になり、これが高校生活最後の1年間になる。

もちろん私にとっても、先輩たちと一緒に部活が出来る最後の年。

悔いが残らないように、今まで以上に練習に精を出さないと……!


唯「あ~ずにゃんっ」

梓「にゃっ!?ゆ、唯先輩こんなところでやめてください!」

唯「えぇ~、減るもんじゃないし、いいではないか」


私が先輩方のために頑張る決意をしたちょうどその時、
唯先輩がいつものように私に抱きつき、頬をすりすりとさする。

甘いものと可愛いものが大好きな、ちょっと間の抜けた先輩…
このだらけた軽音部の原因の一つでもある。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 14:25:49.65 ID:7a85sOFd0

私を見つけるたびに抱きついて来る唯先輩に呆れつつも、内心そんなに嫌なわけじゃない。
でも……

梓「あ~っもう!いい加減にしてください!」

唯「あずにゃんが怒った~」

律「暴力反対よっ」

なんだか子供扱いされてるみたいで、ちょっと悔しい。

唯先輩と一緒になって私をからかうこの人は律先輩。
部長なのに全然責任感がなくて、いい加減だし大雑把。

律「誰がいい加減で大雑把だってぇ~?」

梓「えっ?」

澪「梓、防壁のロック外れてるんじゃないか?」

律「はっはっは、梓もまだまだ甘いな!」

梓「だ、だからって勝手に繋がないで下さい!」

まさか律先輩にクラックを許してしまうとは……不覚。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 14:33:31.13 ID:7a85sOFd0

澪「律、校内でのハッキングは禁止だろ。全く……」

やんちゃな律先輩と唯先輩をたしなめるのは澪先輩の役目だ。
スタイルが良くてかっこいいし、ベースも上手な私の憧れの人。
実質的にこの軽音部をまとめているのはこの澪先輩だ。

澪「梓は電脳を自閉モードにしてないのか?」

梓「いえ、さっき電脳交信の授業で一時的に解放していたのでそのまま……」

澪「学校の中ならいいけど、外だと危険だからな。気を付けないと」

梓「はい……っていうか、部室で枝張ったりしないでください!」

紬「まあまあまあ。梓ちゃん、お茶のおかわりいる?」

梓「あ、すいません、ありがとうございます……」

唯「ムギちゃんのお茶パワーで大人しくなるあずにゃん…」

律「現金なヤツだな」

梓「唯先輩や律先輩には言われたくありません!」



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 14:38:35.90 ID:7a85sOFd0

律「あ、ムギ、私にもおかわりくれ」

唯「わたしも~」

澪「お前ら少しは遠慮したらどうだ…」

紬「いいのよ澪ちゃん。気にしないで」

紅茶のおかわりを用意しながら、ムギ先輩が優しく諭す。

ムギ先輩は毎日お茶とお菓子を用意してくれる、軽音部になくてはならない人だ。

一年前に私が入部した頃は、部活中に飲食するなんて考えられないと思っていたけど

慣れとは恐ろしいもので、今は特に抵抗も感じなくなっている。

澪「よし、飲み終わったら練習するぞ」

唯「えぇ~、もうちょっとゆっくりしてからにしようよ~」

梓「わがまま言わないで下さい。唯先輩はだらけすぎです」

唯「あずにゃん先輩厳しいっす……」



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 14:50:44.22 ID:7a85sOFd0

ムギ先輩の淹れてくれた美味しい紅茶を飲みほしたあと、それぞれの楽器を準備し始めた。

やっと軽音部らしい風景を見られる。

律「久しぶりだな、皆で合わせるのも」

澪「新学期になってから、まだ一回も合わせてなかったもんな」

唯「なんだかわくわくするね!」

澪先輩やムギ先輩は私が心配するまでもないけど、唯先輩や律先輩の演奏には若干不安がよぎる。

梓「唯先輩、ちゃんとギターの弦変えましたか?」

唯「もちろん!あずにゃんと同じElixirにしたよ。
  よく滑るし使いやすいし、さすがあずにゃんのお気に入りだね!」

梓「弾き終わったらしっかり手入れしないと他の弦と同様にすぐ錆びますからね」

律「唯にElixirなんて贅沢だな」

澪「そういう律だって、すぐスティック傷めるくせに……
  しかもアーティストモデルにこだわるから人の事とやかく言えないだろ」



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 14:56:33.84 ID:7a85sOFd0

紬「…そういえば」

律先輩が何か反論しようとした時、ムギ先輩がぽつりと呟いた。

澪「ん?どうした、ムギ」

紬「今日はみんなで電脳通信しながら演奏してみるっていうのはどう?」

梓「電脳通信、ですか?」

電脳通信、または電脳交信は、電脳を持つ者どうしがネットワークを利用して行う会話のことで
俗に電通と呼ばれている。

唯「でも、あずにゃんはまだ無線で通信は出来ないんじゃ……」

律「あ、そうか!」

律先輩が納得したように顔を明るくした。

律「そういえば梓、2年生だもんな。もう電通の授業は受けてるんだろ?」

梓「はい。でも授業以外であまり使うなって先生が…」


電通、それも無線の場合は電脳ネットワークに接続する必要があるため
万全のセキュリティを実装していない私たち学生は特に危険が及ぶ可能性が高い。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 15:00:47.10 ID:7a85sOFd0

律「大丈夫だって!この学校の中で使う分にはほとんど問題ないし…」

梓「そうなんですか?」

澪「うん、まあ、なんだかんだ言ってみんなやってるしな」

唯「なんだか面白そうだね!やってみようよ!」

確かに演奏している間は肉声では会話することは出来ない。
その代わり電通なら楽器の音に邪魔されずに会話することは可能だ。

桜高のカリキュラムでは1年次は電脳のシステムやネットワークの仕組み、
電脳犯罪の実態とその予防や対策についてなど、机上での勉強が主だったため
電脳通信や情報の解析といった技術を身につけることはなかった。

生徒の中には独学で電通を習得する人もいたけど、一般の学生にとっては必要となる機会が
まずないので、私も例にもれず実際に電通をしたのはつい最近のことだ。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 15:09:50.29 ID:7a85sOFd0

私たちは自閉モードを解除し、お互いのネットワークに接続した。

唯《もしもしあずにゃん?聞こえる~?》

梓《はい、聞こえてます》

律《うん、これなら楽器の音に邪魔されずに会話できるな》

紬《一度やってみたかったの~》

見るとムギ先輩が一番喜んでいるみたいだった。

実際、電脳通信はコツさえつかめばそんなに難しいことではない。
もしかしたら私たちの演奏も上手く合わせることができるかも……。

律《よし、じゃあまずはふわふわから!》

律先輩のカウントから、唯先輩のカッティングへと音が繋がっていく。

今まで何度も弾いてきただろうリフに、全員の音が重なるように奏でられていく。

ディストーションをかけた私のギターの、カリカリとしたバッキングが

この5人の演奏に溶け込んでいく。


まるで私と先輩たちの境界が綺麗に取れてなくなったような、不思議な一体感に包まれた。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 15:38:16.79 ID:7a85sOFd0

―――――演奏が終わった。

久しぶりに合わせたとは思えない、充実した時間だった。

唯「ねえ、今の感じ、すごく良くなかった!?」

唯先輩も手ごたえを感じたのだろう。
興奮気味に私たちを見渡す。

澪「確かに……今までにないくらいぴったり合ってたな」

律「っていうか今の完璧だったんじゃないか!?」

律先輩もとても嬉しそうにはしゃいでいる。
ムギ先輩も、にっこりと笑顔を向けた。

でも――

澪「でも、全く電脳通信なんてできなかったな」

唯「私、ギターと歌うので精いっぱいで電通してる暇なんてなかったよ」

私もそのことをすっかり忘れて、自分の演奏に夢中になっていた。



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 16:07:03.54 ID:7a85sOFd0

律「そうなんだよなぁ。なんていうか、私もドラム以外のことなんて全然考えてなかったのに
  これだけぴったり息が合うってのも珍しいよな」

私は、実はその気になれば義体化した自分の腕を独立させて動かすことが出来る。
そうすれば、少なくとも私だけは全員の演奏を集中して聞き、電脳通信で会話することだって出来たはずだった。

澪「う~ん…もう一回合わせてみるか」

梓「そうですね…。今度は電脳通信も取り入れながら…」

唯《よ~し!頑張るぞ~》

律「唯、あんまり無理するなよ。お前はギター弾きながら歌うわけだし
  基本的に私たちの会話を聞いてればいいんだから」

澪「そうだな。一番重要になってくるのはリズム隊だから、もし気になる所があったら
  梓やムギが指摘してくれ」

紬《任せて!》

意気揚々とムギ先輩がガッツポーズを決め、私たちは再び楽器を構えた。

律《それじゃあ次は…ふでペンで!》

律先輩が見渡すように確認し、カウントを取った。



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 16:16:15.72 ID:7a85sOFd0

ふでペンの入りは私のギターで弾き、バックは唯先輩だ。
ふわふわと違って最初から全員が一つにならないと気持ちの悪いアンサンブルになってしまう。

澪《律、もう少しテンポを遅くしてもいいんじゃないか?》

案の定、律先輩のドラムが走り気味になる。
澪先輩はやはり安定してリズムキープしているけど、今度は唯先輩が崩れ始めた。

律《おい唯!お前がテンポ落としてどーすんだよっ》

梓《唯先輩はベースの音を聞いててください!》

唯先輩を見ると、混乱している様が顔に浮かんでいる。

紬《今度は梓ちゃんが引っ張られているわ》

気付くと、私の義体がリズムの変化に追いつけずによれてしまっていた。
急いで私の意識をつなげ直したけどもう遅い――。



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 16:23:47.89 ID:7a85sOFd0

結局、バラバラなまま演奏は終わってしまった。

さきほど得たように思えた一体感は、もうこの部屋のどこにもなかった。

澪「…やっぱり演奏中に会話するのは無理があるかもしれないな…」

紬「そうね…」

ムギ先輩は肩を落とし、残念そうに言った。

唯「みんな、ごめんね…」

律「唯が謝ることないだろ」

私も、義体に演奏を任せるなんて馬鹿なことしたな。
妙な罪悪感が残る。

律「どうしたんだよみんな。そんなにがっかりすることないぜ!
  大体、これくらい酷いのは今に始まったことじゃないし、今回はたまたまだって!」

律先輩が持ち前の元気でみんなを励ましてくれる。

半分くらいフォローになってない気がするけど……



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 16:32:27.77 ID:7a85sOFd0

 ○   ○   ○

桜の季節も終わりを迎え、暖かな日差しも容赦がなくなってきた頃

私はいつものように部室へと足を運んだ。

入口に立って、中の気配を探ってみる。

どうやらまだ先輩方は来ていないみたい。

少し早く来ちゃったかな、と思いながら私は扉を開け、中に入った。

梓(……先輩方が来るまで練習してようかな)

そんなことを考えながら、長椅子に鞄とギターを置いた、その時だった。


私はドキッとした。


ムギ先輩が、独りで椅子に腰かけていたからだ。

窓の外を虚ろな顔で見つめながら、まるで遠くに目をやられた瞬間に凍らされたようにピクリとも動かない。

私が側に近づくまで全くその存在に気付けないほど、ムギ先輩は部屋の空気と同化していた。



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 16:42:37.31 ID:7a85sOFd0

梓「あっ」

思わず声を出してしまった。

紬「……あら、梓ちゃん」

ムギ先輩も私に気付き、さっきまでの虚ろな表情は消え、いつものようににっこりと微笑んだ。

梓「す、すいません!気が付かなくって……」

紬「ああ、私の方こそごめんなさい。少しボーっとしてたみたい…。
  梓ちゃん、今日は早いのね?」

梓「はい……ムギ先輩こそ、一人ですか?」

紬「ええ。他のみんなはそれぞれ用事があるみたいで、遅れるそうよ」

梓「そうですか…」

私は気持ちを落ち着かせ、会話を続けようと努力した。

でも、あの時のムギ先輩の表情が目に焼き付いて離れない。

普段は決して見せないような、存在しない先輩を見てしまったような感覚。

思えば、この時からだったのかもしれない……


私が、ムギ先輩は他の人とは違う特別な人だと認識するようになったのは。



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 16:50:34.12 ID:7a85sOFd0

紬「どうしたの?座りましょ」

梓「は、はい」

ムギ先輩に促され、私は急いで椅子に座った。
きっと今の私は誰から見ても挙動不審に映っただろう。

紬「ねぇ、梓ちゃん」

梓「はい?」

紬「義体の調子はどう?」

梓「今のところ特に問題はないです。この間メンテしたばかりですし」

紬「そう……」

ムギ先輩はそう言うと、お茶淹れるわね、と言って席を立った。

紬「はい、どうぞ」

梓「ありがとうございます」

ムギ先輩の淹れてくれたお茶を飲む。
やっぱり美味しい。なんだか心が落ち着く味だ。

だけど、今日の紅茶は少し…濃いような気がした。



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 17:03:51.22 ID:7a85sOFd0

梓「…ムギ先輩は義体化していないんですよね?」

紬「うん。でも、電脳化したのは中学の頃よ」

梓「そうなんですか?」

紬「当時は周りの子も結構電脳化しててね。何も特別なことじゃなかったわ」

梓「そういえば、ムギ先輩ってどこの中学校でしたっけ」

紬「私のいた学校は県外だから、言っても分からないと思うけど…
  新女子学院中学校っていう所でね。実際はこことそんなに離れていないわ」

梓「新女子学院中学校…?」

聞いたこともない名前だった。
でも、きっとムギ先輩のことだし、かなり良い家の生徒が集まるんだろうな。

紬「ね、梓ちゃん。梓ちゃんはどうして義体化したの?」

梓「小5の時に両親が電脳化を勧めてきて、その時に一緒に義体化もしたんです」

紬「小5かぁ…梓ちゃんは嫌じゃなかったの?」



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 17:11:06.21 ID:7a85sOFd0

梓「う~ん…そんなに嫌な感じはしませんでした。
  頭が良くなるからって言われて、ああ、そうなんだ。じゃあやろう。と思ったくらい、
  軽い気分だった気がします」

紬「そうなの…。でもその年頃で義体化もするなんて、珍しいんじゃない?」

梓「確かに周りで電脳化と義体化を両方してる人はいませんでしたね。
  でも、そんなに気になりませんでした」

紬「ギターを弾く時は、やっぱり制御ソフトに色々組み込んでるの?」

梓「…はい」


私の両腕の義体は、電脳に組み込まれた専用の制御ソフトで動いている。
そのソフトにはギターを弾くための最適化が施されていて、そのおかげで私は他の人に比べて
比較的ギターの演奏が上達しやすくなっている。

義体化した当時はすぐに上達していくのが嬉しくて仕方なかった。
それに例え義体化しているとはいえ、自分の腕前にはそれなりに自信を持っていた。


桜ケ丘高校の新歓ライブを見るまでは。



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 17:21:07.96 ID:7a85sOFd0

―――1年前の新歓ライブ。

薄暗い講堂でひときわ明るく照らされたステージ。

その時は名前も知らない先輩方の、お世辞にも上手とは言えない演奏。

最初は「ああ、高校の軽音部っていってもこんなものか」と思った。

ギターは私の方が上手いし、アンプの使い方だって素人なのが目に見えている。


なのに最後まで目が離せなかった。

技術的には私より拙いはずなのに、不思議と心地良く響くひとつひとつの音…

今まで聞いたどんな音楽やライブよりも私の心を打った。


私の音楽に足りない何かがここにある。

私の、義体に頼った演奏では到底たどり着けない音楽がここにある。


それが、私が軽音部に入った理由だった。



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 17:25:37.72 ID:7a85sOFd0

紬「義体化していると、色々と便利なのよね」

梓「…実は、今は少し後悔してるんです」

紬「あら、なんで?」

梓「義体化した時は、単純に技術が向上していくだけで満足だった。
  でも、先輩方の演奏を聴いて、私の音楽が何か違うことに気付いたんです」

紬「そんなことないわ。梓ちゃんのギターはとても上手よ」

梓「そうじゃないんです。
  私の弾いているギターの音が、本当に自分の奏でている音なのか…
  もしかしたら義体が、ただ最適化されただけの制御プログラムに従って運動しているだけなんじゃないか…
  そんな不安があるんです」

紬「………」

梓「先輩方の音楽には心を感じます。
  でも、私の音楽にはどこにも心がない…そんな気がするんです」

紬「…それはきっと、梓ちゃんが独りだから。だからそんな気がするのよ。
  大丈夫。梓ちゃんの演奏には、ちゃんと心がこもってる」

梓「………」



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 17:30:17.14 ID:7a85sOFd0

私の漠然とした不安について話したのは、これが初めてだ。

正直、ここまで真剣に話を聞いてくれるとは思わなかった。

ムギ先輩だからこそ、こんな悩みを聞いてくれる。

ムギ先輩は、私の音楽に心があると言ってくれた。

嬉しかった。


紬「私はしっかり感じ取れるわ。
  梓ちゃんのギターには梓ちゃんにしかない何かがあるってこと。
  でもそういうのって自分では分からないものなのよね」

梓「…そうなんですか?」

紬「うん。だから私たちはこうやってバンドを組んで、一緒に演奏するんだと思うの」

梓「………」

ムギ先輩の柔らかな表情が私を安心させる。

紬「せっかくだし、みんなが来るまで少し練習しよっか」

梓「はいっ」

なんだか、救われたような気がした。



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 17:43:19.82 ID:7a85sOFd0

ガチャ

律「おーっす!ごめん、遅れちゃったー…って、あれ?
  まだムギと梓の二人だけか?」

紬「うん。これから二人で練習しようと思ってたんだけど」

律「おおっ、やる気満々だな」

梓「これが普通です」

律「まーまー。澪は何やってんだか知らないけど、もうすぐ来るだろ。
  それから唯なんだけど、外せない用事があるから今日は部活休むってさ」

梓「そうですか…」

律「うっし!じゃあさっそくムギ、私にもお茶頼む!」

梓「だから今から練習するんです!」

紬「そうね、りっちゃん来たからお茶にしましょ?」

梓「ムギ先輩まで…」

律「なんだ梓、いらないのか?」

梓「………」


私はしぶしぶ席に座った。澪先輩が来たら絶対に練習するんだから。



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 17:46:25.28 ID:7a85sOFd0

―――部活が終わり、帰り道

律「じゃ~な!ムギ、梓!また明日!」

澪「じゃあな」

紬「また明日~」

梓「お疲れさまでした」


今日は結構練習できたかな。
唯先輩がいないとここまでしっかり部活動ができるとは…
でも、やっぱり5人そろわないと意味がない。


紬「あつくなってきたわね~」

梓「…そうですね。もうしばらくしたら夏至ですし…月日が経つのはあっという間です」

紬「そうね…」


心なしか、帰りのムギ先輩は元気がないように思えた。



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 17:52:45.35 ID:7a85sOFd0

梓「…そういえばさっき、私の義体の話がありましたけど…」

ムギ先輩と二人で帰る機会なんてあまりないし、なるべく沢山おしゃべりしたい。
そう思って私は話題をふった。

梓「律先輩や澪先輩は義体化してないんですよね」

紬「りっちゃんはしてないけど、実は澪ちゃん、体の一部は義体なのよ」

梓「ええっ!?そうなんですか?」

私は意外な事実に驚いてしまった。澪先輩が義体持ちだったなんて…

梓「で、でも見た目は全然義体化しているようには見えないですけど…」

骨格や筋肉を義体化していないなら、考えられるのは内臓系の義体化。
それはすなわち、体のどこかに障害や病気をもっているということだ。

紬「澪ちゃんの場合は、そんな目立った部分を義体化しているわけじゃないもの」

梓「…?」



66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 17:59:22.85 ID:7a85sOFd0

紬「このことは他の人には内緒よ?」

ムギ先輩がいたずらな笑みを浮かべて言った。

梓「…どういうことですか?」

紬「澪ちゃんはね、体の機能を補うための義体化じゃなくて、見た目を綺麗にするための義体化なの」


…どうりで澪先輩、スタイルがいいわけだ。

紬「確か義体化してるのは歯と、顔の一部の骨格と、骨盤あたりだったと思うわ」

梓「どうしてムギ先輩はそんなことまで知ってるんですか?」

紬「うふふ、ヒミツよ」

先輩はまたもやいたずらに笑う。

まるで子供みたいに。



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 18:05:53.71 ID:7a85sOFd0

梓「唯先輩はどう見ても義体化してなさそうですね」

紬「唯ちゃんは義体化しなくても、そのままの唯ちゃんで十分魅力的だもの。
  梓ちゃんもそう思うでしょ?」

確かに唯先輩は義体化するような人じゃない。
それに電脳化だって、むしろ違和感があるくらいだ。

まあ、唯先輩は電脳に関しては誰よりも才能があるって憂が言ってたっけ。
他の勉強はてんで駄目みたいだけど。

梓「魅力的かどうかは……わかりませんけど」

紬「澪ちゃんやりっちゃんだってそう。何もしなくても、そのままの姿でも十分魅力的だわ。
  そして、例え唯ちゃんが全身を義体化したとしても、その魅力は何も変わらない」

梓「…はい」

ムギ先輩が何を言いたいのか、私には良く分からなかった。
私はただ、普段あまり話したことのないムギ先輩の色々な考えを知ることができた、そのことが嬉しかった。



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 18:08:57.85 ID:7a85sOFd0

紬「そうだ、梓ちゃん」

梓「なんですか?」

紬「今度のお休みに、一緒にどこか出かけない?」

梓「二人でですか?」

紬「うん。もしかして、都合悪い?」

梓「い、いえ、そんなことありません。大丈夫です」

紬「ほんとに?やったぁ!」

先輩が私の手を取り、無邪気な仕草で喜ぶ。
そのあまりの可愛らしさは、先程までの真剣な表情をかき消すほどに私を惹き付けた。


紬「じゃあ後でメールするから」

ムギ先輩と駅の前で別れる。

また明日会えることをお互い確認するように

私も笑顔で手を振った。




77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 18:26:56.77 ID:fvg4xkU60

ムギは義体化するかどうか悩んでるのか
あるいは強要されてるのか





75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 18:18:01.21 ID:7a85sOFd0


 ○   ○   ○

休日のムギ先輩とのデートは、私の提案で遊園地に行くことになった。

先輩と二人で遊園地…

なんだか妙に緊張してしまう。

おかげで待ち合わせの時間より30分も早く来てしまった。

梓(早く来すぎちゃった…何してようかな)

時間にルーズになるよりいいけど、早すぎるのも問題だ。
私がどうやって時間をつぶそうか考えていた、その時だった。


紬「わっ!!!」


梓「ぎゃーーー!!」

まんまとムギ先輩にしてやられた。
うら若き女子高生がみっともない叫び声をあげてしまい、ついでに目から涙まで…

梓「び、びっくりしました…」

紬「うふふっ。大成功!」



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 18:29:58.65 ID:7a85sOFd0

おちゃめなムギ先輩も可愛い。
可愛いけど、何も本気で驚かさなくても…

紬「ごめんね、梓ちゃん。一度やってみたかったの~」

梓「…今度は律先輩にやってあげて下さい…。
  それにしても先輩、ずいぶん早いですね。まだ待ち合わせの時間まで30分ありますけど」

紬「それはもちろん梓ちゃんを驚かすためよ~。
  梓ちゃんが来るのを今か今かと待ちかまえるの、すごい楽しかったわ~」

梓「それは…喜ばしいことです」

ムギ先輩のやんちゃぶりは、時に律先輩と唯先輩をも軽く凌駕する。
そんな時、私の本来のツッコミはなりをひそめ、ムギ先輩のペースに見事に巻き込まれてしまうのだった。

紬「じゃあ早く集まったことだし、さっそく行きましょっ」

ムギ先輩は嬉しさを隠しきれないと言った様子で私の手を掴み、入口へと歩いて行った。

私は半ば呆れながらもわくわくしていた。


今日は忘れられない日になる。

そんな予感がした。



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 18:33:05.29 ID:7a85sOFd0

紬「わぁ~…」

ムギ先輩が目を輝かせながら辺りを見渡す。

梓「先輩はこの遊園地は来たことないんですよね」

紬「わたし、遊園地自体初めてなの~」

梓「ディズニーランドとかにも行ったことないんですか?」

紬「うん。あっ、梓ちゃん!あの乗り物は何!?」

ムギ先輩はジェットコースターを指差し、期待の眼差しを私に向けた。

梓「あれはジェットコースターですね。最初はあれに乗りますか?」

紬「はやく!梓ちゃんこっちこっち!」

乗るかどうか聞く前にムギ先輩は走って行ってしまった。

梓「ま、待ってください!」

慌てて追いかける私。

まるで子供に振り回される親だ。



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 18:38:50.53 ID:7a85sOFd0

搭乗の順番を待っている間、私はムギ先輩と色々なことを話した。

学校の授業、軽音部のみんなのこと、普段何をして過ごしているか…

ムギ先輩は私の話をとても楽しそうに聞いてくれたけど、先輩自身についてはほとんどしゃべらなかった。

依然として私はムギ先輩について知ることが出来ないまま、順番が回ってきてしまった。

紬「こ、これに乗るのね」

声だけ聞くと怖がっているようだけど、先輩の顔を覗く限りでは怖がっている様子は微塵もない。
むしろ私の方が少し怖気づいていた。
ジェットコースターに乗るなんていつぶりだろう。

紬「ドキドキしてきたわ~」

梓「わ、私もドキドキしてきました…」

頑丈な手すりが降りてきて、係り員の合図が響いた。

私たちの体を縛り付けている乗り物が、ガコンと音を立てて動き出す。

そこから先は何も考えられず、気付いたら終わっていた。



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 18:45:15.69 ID:7a85sOFd0

紬「すごい面白かったわ~!」

ふらふらと出口へ向かう私の横で、ムギ先輩が肌をツヤツヤさせながら喜んでいた。

紬「あっ!今度はあれに乗ってみない!?」


先輩はよほどジェットコースターが気に入ったのか、
次から次へと絶叫マシンに梓を誘っていった。

梓「ム、ムギ先輩…少し休みませんか…」

流石に私も限界を迎え、先輩と一緒にベンチに腰掛け休憩した。

紬「遊園地ってこんなに楽しい所だったのね~」

売店で買ってきたジュースを飲みながら、ムギ先輩は言った。

紬「梓ちゃん、ありがとう。こんな楽しい所へ連れてきてくれて」

梓「そんな、お礼なんていいです。私も、ムギ先輩のおかげですごく楽しいですし…」



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 18:51:27.99 ID:7a85sOFd0

紬「わたしのおかげ?」

梓「先輩は、何かを楽しむことにかけては天才だと思うんです。
  今まで色んな人と遊びに行ったことがありますけど、ムギ先輩と居る時が一番楽しいです」

紬「そうかしら?なんだか嬉しいわ~」

そう言ってムギ先輩は頬を赤らめて喜んだ。


梓「それにしても今日は暖かいですね。私、汗かいちゃいまいた」

私は持ってきたタオルで汗をぬぐい、手元のジュースを飲んだ。

梓「ムギ先輩はあまり汗かいてないみたいですね。羨ましいです」

紬「昔からなぜかそういう体質なのよね」

先輩は苦笑いして言う。



突然、遠くで叫び声がした。




86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 18:52:19.77 ID:fQyTDBnDO

むぎゅう支援

http://mup.2ch-library.com/d/1297417914-TS3S0190.jpg





87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 18:56:18.50 ID:fvg4xkU60

お茶w



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 18:56:53.20 ID:2YpytNqA0

ミスマッチだw



89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 19:03:51.03 ID:TsFfrknb0

>>86
誰?にでももてなしを忘れないムギは天使





91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 19:23:47.55 ID:7a85sOFd0

続いて爆発音。

私は一瞬、何かのアトラクションだと思った。

園内に次々に叫び声が上がる。

紬「何かしら…?」

ムギ先輩も異変を感じたのだろう。警戒するように辺りを見回す。

見ると、私たちのいる所からそう遠くない所で黒い煙が立っていた。

梓「なんですかね…事故ですか?」

私は立ち上がり、煙の方へ歩こうとした。


紬「梓ちゃんっ!!」


強い衝撃と共に私の体は硬直した。
次の瞬間、私のこめかみに冷たい鉄の芯が当てられていた。



92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 19:25:57.49 ID:7a85sOFd0

「動くな」

耳元で知らない男の声がささやく。

正面にいるムギ先輩が、私と私の後ろにいる誰かを凝視している。

「動いたらこいつの命はない」

ポケットに手を入れようとしたムギ先輩に、男が淡々と警告する。

同時に、園内のスピーカーから物々しい放送が流れた。


『現時刻をもって、この遊園地は我々の支配下におかれた。
 これは犯行声明である。
 我々は政府に対し、義体輸出の完全撤廃と、電脳開発規制提案の凍結を要求する…』



テログループがこの遊園地を占拠し、私を人質にとったことを理解するのに時間はかからなかった。

男は私に拳銃を突きつけたまま、じりじりと後ずさりする。



93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 19:32:16.37 ID:7a85sOFd0

またどこかで悲鳴が聞こえた。

間を空けずに乾いた発砲音が響く。

「来い」

男が私の腕を縛りあげ、乱暴に引っ張る。

私は恐怖に体を震わせ、こちらを見つめるムギ先輩へと視線を向けた。


助けて。


叫び声を出すこともできず、私は口をぱくぱくさせてムギ先輩に助けを求めた。

先輩はそれでも表情ひとつ変えず、私をじっと見ている。


男は乱暴に私の髪をたくしあげると、首にある電脳の外部端子へとコードを刺した。



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 19:36:23.28 ID:7a85sOFd0

いくら電脳を自閉モードにしているとはいえ、直接コードで繋がれてしまっては
侵入を防ぐ術はほぼ無い。

きっと犯人は私のゴーストをハッキングするつもりなんだ。
ゴーストハックされた人間は完全に乗っ取られてしまう。

梓「いやぁっ!!」

私は恐ろしさのあまり抵抗した。
すると意外にもあっさりと男の手ははがれた。

梓「!」

何が起きたか分からず、必死にその場から逃げ、ムギ先輩のもとに駆け寄った。

紬「梓ちゃん!」

私は思い切り先輩に抱きつき、息を切らした。

梓「先輩…怖かったです……うっ」

紬「もう大丈夫…男は気を失っているわ」



96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 19:43:05.23 ID:7a85sOFd0

梓「…?」

恐る恐る男の方を見ると、白目をむいてその場に倒れていた。

梓「な、何が起きたんですか…?」

紬「今は説明している暇はないわ。とにかく逃げましょう」

ムギ先輩は私を強く抱きしめながら言った。
その温もりが私を安心させる。

とにかく今は逃げないと。

梓「は、はい」


ムギ先輩が私の手を引っ張り、どこかへ向ってまっすぐに歩いていく。

梓「どこへ逃げるんですか?もう遊園地の周りは武装グループに囲まれているんじゃ…」

紬「大丈夫。心配しないで」

先輩はなおも歩き続ける。



97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 19:47:45.88 ID:7a85sOFd0

ふと前を見ると、物騒な格好をしたテロリストが2人ほど待ちかまえている。

梓「ムギ先輩!こっちは駄目です!他の道から…」

紬「しっ!梓ちゃん、少し黙ってて」

先輩が口元に指を立て、そのまま犯人たちの方へ歩いて行った。


梓(!?)


紬「………」

すると、ムギ先輩は何事もなかったかのように犯人の真横を通り過ぎていった。

紬《梓ちゃんも早く!》

いつの間にかムギ先輩が私の電脳ネットに無線で繋いでいた。

梓《は、はい…》

私は急いでムギ先輩の後についていき、同じように犯人に気付かれずに通り過ぎた。



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 19:53:44.34 ID:7a85sOFd0

梓《ムギ先輩、何を…》

私が質問しようとしたとき、どこかから人の声がした。

梓《まさかテロリスト…?》

紬《梓ちゃんはここに隠れていて》

私はムギ先輩に促されるまま、近くの陰に隠れた。

段々と声が近づいて来る。
私は息を殺して物陰からムギ先輩の後ろ姿を見ていた。

既に声は私たちのすぐ側まで来ている。



突然、ムギ先輩が飛び出した。

梓《先輩っ!!》



104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 19:58:56.18 ID:7a85sOFd0

いきなり飛び出したムギ先輩に向って、テロリストが「誰だ!」と叫ぶ。

次の瞬間、ものすごい音とともに私の目の前に大きな男が吹っ飛んできた。

梓「!?」

男はよだれを垂らしながら伸びている。
何が何だか分からない。

ムギ先輩は無事なのか?

鈍い音と、物が壊れる音が聞こえる。

私はムギ先輩が駆け出した方向へ、恐る恐る顔を出した。

そこには別の男が壁に叩きつけられ、気絶している姿があった。


ボキッ


もう一度、鈍い音がした。

ムギ先輩が、最後に残った大男の腕をへし折る音だった。



107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 20:03:56.56 ID:7a85sOFd0

「ぎゃあ…」

大男が悲鳴を上げる前に、ムギ先輩がみぞおちに掌底を放つ。

「…っ!」

そのまま流れるように顎へと掌底。

大男は気を失い、大きな音を立てて倒れた。

紬「………」


私は自分の目を疑った。
一人の女子高生が、屈強な男3人をわずか数秒で倒したことが信じられなかった。

先輩は全く息を乱すことなく、大男の外部端子にコードを繋げる。

紬「………」


しばらくした後、ムギ先輩がコードを回収し、私の方へ歩いてきた。



110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 20:10:19.06 ID:7a85sOFd0

紬「遊園地の南の壁を乗り越えて脱出できるわ。そこはテロリストの配備が手薄みたいだから」

ムギ先輩は淡々と説明する。

梓「一体どうやって…?」

紬「この男の電脳にアクセスして遊園地の地図情報とテロリストたちの行動を調べたの。
  相手は防壁迷路を組んでいたから、こんなふうに強行突破せざるを得なかった…」

先輩が悲しそうに言った。

梓「強行突破って…でも今のは……」

紬「…ごめんなさい。私、梓ちゃんにウソついちゃった。
  私の体は生身じゃない。全身義体のサイボーグなの」



私はショックで言葉も出なかった。

色々な感情が頭の中で渦巻き、正常な思考ができなくなっていた。




111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 20:11:48.66 ID:fvg4xkU60

ムギちゃん…





112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 20:16:55.97 ID:7a85sOFd0

紬「梓ちゃん、とにかく今は逃げましょう」

私は先輩の言葉で我に返り、南へ向かって走った。

途中、何人かのテロリストたちのそばを通りかかったけど
やはり私たちのことが見えていないかのように無視していた。


梓「はあ…はあ…」

紬「後はこの壁を登るだけ…」

ムギ先輩はそう言うと、ふわりとジャンプし、壁の上にのぼった。

紬「さあ梓ちゃん。私の手をとって」

ムギ先輩が私に手を差し伸べる。

紬「せーのっ」


どさっ

私たちはうっそうと茂る森の中に落ちた。

どうやら無事に脱出できたみたい。



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 20:21:08.91 ID:7a85sOFd0

梓「いたたた…」

紬「大丈夫?」

結構高い所から着地したせいか、足がしびれる。
私は先輩の肩を借り、二人で民家の方へ歩いて行った。


生きてる。


人通りの多い道に出た時、私は安心しその場に崩れるようにへたってしまった。

紬「梓ちゃん!しっかりして!」

梓「だ、大丈夫です…ただ、安心したら力が抜けちゃって…」


私たちはとりあえず、近くのファーストフード店に入り、気持ちを落ち着かせた。



115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 20:25:58.07 ID:7a85sOFd0

紬「…せっかくのデートだったのに、大変な目にあっちゃったわね」

梓「ムギ先輩のおかげで助かりました…。
  私、もしかしたらここで死んじゃうのかなって…すごく怖かったです」

私は恐怖から解放され、自然と涙が出る。


するとムギ先輩が隣に座り、そっと抱いてくれた。

紬「もう大丈夫。梓ちゃんは私が守るから」

私は先輩の服をギュッとつかみ、包み込むような優しさを感じた。



ムギ先輩の存在が私にとってかけがえのないものになった瞬間だった。



116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 20:31:36.27 ID:7a85sOFd0

梓「…先輩は、どうやって私を助けてくれたんですか?」

私が最初に犯人に捕まった時、なんの前触れもなしに犯人が倒れた。
きっとムギ先輩が何かしたのだと、私は直感的に思ったのだ。

紬「あの時は時間がかかってしまってごめんなさい…。
  梓ちゃんの電脳に攻性防壁を組み込むのに手間がかかっちゃって…
  迂闊に犯人に電脳ハックは出来なかったし、それしか手段がなかったの」

梓「攻性防壁をあの短時間で組んだんですか!?」

紬「簡単なものだったけど、まさか犯人も一般人が攻性防壁を装備しているとは思わなかったでしょうね」



防壁とは、電脳への不正なアクセスを防ぐためのプログラムのことだ。
私たち桜ケ丘高校の生徒は全員、ある程度の防壁を電脳にあらかじめ入れているが完全に防げるわけではない。

防壁にも色々と種類があって、今回ムギ先輩が組んだ「攻性防壁」というのは
アクセスを防ぐだけではなく、ハックしてきた者を逆探知して攻撃するという優れたものだ。

ただし、一般人がこれを装備するのは違法であり、普通は警察や公安などの極秘情報を取り扱う
組織でしか使用されることはない。

それに、普通の防壁だってプログラムを組むのは並大抵の電脳知識じゃできない。
しかも攻性防壁となると、一部の電脳適合者でさえ小一時間はかかるとされているほど高度な技術だ。



117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 20:36:53.47 ID:7a85sOFd0

梓「…ということは、途中でテロリストたちが私たちに気付かなかったのも…」

紬「わたしが彼らの視覚素子をハックしたから。逆探知されないようにするのは大変だったわ」

梓「リアルタイムで視覚情報を上書きするなんて…ムギ先輩は一体…」

紬「何者か……って?」


先輩はいつになく真剣な顔つきで言った。
いつもの笑顔がそこにはなかった。

どことなく悲しんでいるようにも見える。


紬「私が何者なのか、知りたい?」

梓「………はい」

今まで知ろうと思ってもなかなか教えてくれなかったムギ先輩という人物について

私は知りたかった。

好奇心からではなく、それが私にとって必要だと思えたから…



118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 20:40:18.88 ID:7a85sOFd0

紬「…梓ちゃんになら話してもいいかもしれない。
  でも、約束してくれる?」

梓「何をですか?」

紬「私の事を、絶対に他の人には洩らさないということ。
  理由は聞けば分かるわ」

梓「分かりました。絶対に他の人にはしゃべりません」

もとより他人に話すつもりなんてない。
私だけが知ることのできる、ムギ先輩という存在。
それだけで私にとって十分だからだ。

紬「これは最重要機密事項だから、無線の電通でも話せない。
  だから有線で繋ぐけど、いい?」

梓「はい…」

ムギ先輩が私の髪をめくり、外部端子にコードを差し込んだ。




119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 20:40:23.30 ID:M/qydlnlO

ガキの頃に全身義体化したんなら精神的ストレス凄かっただろうな
少佐もそれが原因であんなん成ったんだろうし



121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 20:44:33.40 ID:fQyTDBnDO

>>119
少佐の場合は戦時中の軍隊って環境がダメだったろ
むしろあの人はどう育っても結局ああなりそう





122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 20:45:19.02 ID:7a85sOFd0

紬《…梓ちゃん、聞こえる?》

梓《はい、しっかり聞こえます》

紬《何から話せばいいかしら…。
  そうね、まずは私のこの体について》

紬《さっき言った通り、私の体はほぼ全て義体化されているわ》

梓《…でも、見た目は全然普通の、生身の体に見えます…》

私はまじまじとムギ先輩の体を見た。
骨格や筋肉を義体化している場合は、よく見てみるとなんとなく違いが分かるものだ。
だけど先輩の体はまるっきり生身そのもの…

紬《これは現在一般に出回っている普通の義体とは違う、特殊な物なの。
  だから一目見ただけでは生身となんら変わりがない》

梓《特殊…?》

紬《…梓ちゃんは、私がなぜ桜ケ丘高校に入学したか分かる?》

梓《それは…名門校だからじゃないんですか?》



123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 20:50:56.42 ID:7a85sOFd0

紬《それもあるわ。だけど本当の理由は、普通の女子高生と同じように授業を受けながら
  電脳教育も受けることができるということにあるの。私の他にもそういう生徒はいると思う》

紬《ただ、私の場合は電脳の授業を受けることによる成績向上が目的じゃない。
  私の電脳を狙うハッカーや電脳ウイルスを外部から守ることにあるのよ》

梓《ムギ先輩は狙われているんですか?》

紬《狙われる時もある。なぜなら、私が琴吹商社の社長の一人娘だから…》

琴吹商社。
それはムギ先輩のお父さんが社長を務める日本でも屈指の総合商社だ。
その話は前に軽音部で聞いたことがある。

梓《それは…誘拐されて、身代金を要求されたり…?》

紬《いいえ。それよりももっと大きな価値が私のボディと電脳にある》

梓《…?》



126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 21:08:46.81 ID:7a85sOFd0

紬《…ここ数年、琴吹商社では新興事業として独自に義体と電脳システムを開発していたの。
  私の体は、脳と脊髄の一部を除く全身が琴吹商社が新たに開発した義体で出来ている。
  聞くところによるとボディの素材や制御ソフトは通常、絶対に手に入らない超高級、高品質なもの…》

紬《そしてこれらの開発過程や設計、構造など全ては開発部の最重要機密事項…
  その存在すら表向きに発表できないほど、私の義体やシステムは現在の技術の数歩先を行っているのよ》

梓《そ、そんなにすごいんですか…?》

紬《だから私の義体と電脳システムは定期的なメンテナンスが欠かせない。
  そのメンテナンスとシステムの更新だけで会社の経営を圧迫するくらい莫大な資金が動いている》

紬《当然、私のこの体はそれ以上の投資を得て作られたもの…
  だから私の存在そのものが、会社の最重要機密事項ということなの》

梓《…そんな》


これがムギ先輩の真実。

私は知ってはいけないことを知ってしまったのかもしれない。

だけど、後悔はしていなかった。



127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 21:15:47.34 ID:7a85sOFd0

梓《…それだけ重要なら、護衛とかはつかないんですか?》

紬《ええ、いつも学校に行く時と帰る時、それから授業中も外でSPが見張っているわ》

梓《授業中もですか!?》

紬《桜ケ丘高校自体が万全のセキュリティだから最低限の護衛だけど、一応居ることは居るわ》

梓《じゃあ、今日も…?》

それだけ完璧にムギ先輩を守っているなら、今日だってSPの一人や二人いてもおかしくない。
むしろ当然のことだ。

紬《ううん。今日は私、自分の動作記憶を復元したAIを搭乗させたコピーアンドロイドを家に置いてきたから
  きっと誰も遊園地に遊びに行ってるなんて知らないわ》

先輩がいたずらな口調で言った。

梓《そ、そんなので大丈夫なんですか?》

紬《さあ…念のため周りのSPには部屋に入らないように言ってあるからバレないと思うけど…》



129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 21:20:02.92 ID:7a85sOFd0

梓《……ふふっ》

私はなんだか可笑しく感じてきた。
ムギ先輩のやんちゃぶりに振り回されているSPを考えると笑えてしまう。

梓「あははは……」

紬「なんで笑うの~?」

私が意外な反応をしたせいか、ムギ先輩が思わず言った。

梓「なんだか可笑しくって…そんなに遊園地に行きたかったんですか?」

たぶん先輩も窮屈な思いで普段過ごしているんだろうな。
たまには思いっきり遊びたくなるのもしょうがない。

紬「う~ん、それもあるけど…一番はやっぱり梓ちゃんと一緒に遊びたかったから、かな」

梓「あはは……えっ?」

はっとしてムギ先輩を見ると、先輩も私の目を見つめていた。

吸い込まれるように大きな先輩の瞳に私の姿が映り、
いつのまにかお互い顔を近づけていた。
ムギ先輩の吐息を感じるほどに。



130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 21:29:14.00 ID:7a85sOFd0

紬「…梓ちゃんは今の話を聞いて、私のこと嫌いになった?」

じっと見つめあったまま、先輩が言った。

梓「そんなわけありません。たとえどんな体だろうと、ムギ先輩はムギ先輩です」

梓「それにこの間、先輩が言ってたじゃないですか。
  そのままの姿でみんな十分に魅力的だって…もちろんムギ先輩だってそうです」

梓「今わたしの目の前にいる先輩が私の知る先輩の全てです。
  新しい事実を知ったからといって、私の中のムギ先輩は変わりません。
  だから、嫌いになるわけないじゃないですか」

私は自分の思っていることを正直に口にした。

先輩はそれを聞くと優しく微笑んだ。
その頬に一筋の涙が伝う。

紬「…ありがとう、梓ちゃん」

そう言って、先輩は私の唇に自分の唇を重ねた。

柔らかい、濡れた感覚が私に伝わる。

二人だけの世界が、そこにはあった。



132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 21:35:54.46 ID:7a85sOFd0

―――数日後

あの日、遊園地の集団テロは警察の活躍により、犠牲者を一人も出さずに鎮圧した。
軽傷を負った人もいたが、幸いにも後遺症が残るような重度の被害者は出ず、
ゴーストをハッキングされたことによる障害もなかった。

ただ、純から聞いた話では本当に事態を解決に導いたのは警察ではなく、公安9課という
攻性の特殊治安部隊の暗躍によるものだということだ。
一体どこの情報ソースなんだか…

紬「梓ちゃん。はい、どうぞ」

あの出来事から、私はムギ先輩のことを常に考えるようになってしまった。
対する先輩は、前と変わらずに私に接する。

律「…どうしたんだよ梓、ボーっとして」

梓「…へっ?べ、別にぼけっとなんてしてません!」

唯「そうかな?なんだか心ここにあらずって感じだよ~」

梓「そんなことないです……熱っ!」

澪「……大丈夫か?梓」



136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 21:41:39.05 ID:7a85sOFd0

律「しっかりしてくれたまえよ梓君」

梓「すいません…」

唯「さてはあずにゃん、恋ですな!?」

梓「!!?」

こういう時の唯先輩の謎の鋭さには感心する。

澪「そうなのか?」

梓「ち、違います!私に好きな人なんか…」

律「その割には顔が真っ赤だぞ」

梓「これは…その…
  そ、そんなことより練習です!そうしましょう!」

唯「ごまかした…まさか本当に…!」

梓「だーっ!違いますってば!」

律「梓が怒ったぞ~」



137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 21:43:55.66 ID:7a85sOFd0

紬「まあまあ、梓ちゃんがかわいそうよ」

梓「ムギ先輩…」

澪「…オホン。ま、ふざけるのはこれくらいにして…」

律「澪もノったくせに…」

澪「うるさい。とりあえずもうすぐ夏休みだ。
  私たちも今年は受験勉強があるし、軽音部の活動は少なくなる」

律「こんなクソ暑いなか学校なんて行きたくないしな」

澪「今までより練習する時間が少なくなると思うけど、夏休みが明けたら学園祭がある。
  あんまり楽器の練習をしてないと学園祭に間に合わなくなるかもしれないから、
  各自しっかり練習しておくように!」

唯「大丈夫だよぉ澪ちゃん。私毎日ギー太に触ってるから」

梓「触ってるだけじゃ意味ないですから…それに唯先輩はちゃんと立って弾く練習をしないと
  本番で思うように弾けなくなりますよ」

律「心配すんなって!こんなんでも今までのライブは成功してたんだしさ!」

梓「でも今年のライブは先輩方にとって最後なんですよ!?
  確かに勉強も大事ですけど、もっと真剣になって下さい!」

律「ん……まあ、それもそうだけどさ」

澪「梓の言うとおりだ。私たちにとって最後のライブ、悔いのないようにしよう」



138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 21:46:59.81 ID:7a85sOFd0

紬「そうね…最後の学園祭なのよね…」

最後の、という言葉を強く印象付けるようにムギ先輩は呟いた。
私だって出来ればずっと軽音部でバンドをやり続けたい。
だけどそんなことは不可能なんだ。

唯「そうだよね…。うん、わたし頑張る!」

唯先輩のやる気に火がついたようだ。
律先輩もやれやれ、という仕草をしたけど、その顔はやる気が垣間見える。

澪「よし。じゃあ今日はこれで解散だな」


帰り道。

私と唯先輩、そしてムギ先輩は楽しくおしゃべりしながら歩いていた。



139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/11(金) 21:51:54.36 ID:7a85sOFd0

唯「帰ったら猛練習だねっ」

梓「唯先輩、勉強は大丈夫なんですか?」

唯「あ、そういえば勉強もしなくちゃ」

紬「ふふっ。唯ちゃんったら、何か一つに全力投球したら他のことは目に入らないものね」

梓「その極端さがまた唯先輩らしいです…」

唯「ムギちゃんとあずにゃんは楽器も上手いし、勉強も出来て羨ましいなぁ~」

梓「そんなことないですよ」


こんな風に私たちは他愛もないことをずっと話していた。

でも時々、ムギ先輩の顔に暗い影が落ちるのを私は見逃さなかった。

最近、部活中でも発見することがある。

ムギ先輩が、私たちでない何か別のものを見つめているような…

私がそれに気付くのは、決まって学園祭や卒業の話をしている時だった。



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紬「ゴーストの囁き」#前編
[ 2011/02/14 00:13 ] クロス | 攻殻機動隊 | CM(3)

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タイトル:
NO:967 [ 2011/02/14 00:41 ] [ 編集 ]

攻殻機動隊ってこういう感じなんだ
有線で繋がれたら防ぐ手段無いってそんなアホな、って感じだがそれも攻殻機動隊のネタなのか?

タイトル:
NO:977 [ 2011/02/14 22:31 ] [ 編集 ]

>防ぐ手段が無い
自閉モードが意味ないってことじゃない?
PCでいうとネット繋いでなけりゃウイルスにはかからないけど、ウイルス仕込んだデータをUSBとかでに直接繋いだらそりゃ防げないでしょ、っていう事だと思うんだけど…

タイトル:承認待ちコメント
NO:6760 [ 2013/03/21 13:33 ] [ 編集 ]

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