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唯「私のDNAには特殊な反復配列があるんだってー、すごいよね~」 【非日常系】


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 12:05:10.36 ID:H1FrcTia0

代理





6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 12:36:28.72 ID:inGPvhEh0

「けいおん!」続編!!
【水の螺旋!!!】


(第一章)


1


 また、この夢か。彼女は思った。
 
 自分は今、水の中にいる。けれど、自分の身体は水に包まれてはいない。
四方を水の壁に包まれた空間の中に、自分は今たたずんでいる。

 目の前に、水でできた階段がある。ひと巻きのらせんを描きながら、それは
下の階へと続いている。一歩一歩、確かめるように下りてみる。

ピシャリ、ピ シャリという水の跳ねる音を聞きながら (とはいえ、足は少しも濡れていない) 、
下の階へ来てみた。すると、突然、眼前に宇宙とも云うべきか、何か果てしのないものが広がった。

次第に胸の中の時間が加速度を増し、
気づけば自分は今、光の速度で気の遠くなるような時間の中を旅している。

それは、我々のたどってきた進化の歴史だ。過去と現在と未来を途絶えること なく繋いでいる、
らせんの形をしたものの果てのない旅路だった。





7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 12:38:04.10 ID:inGPvhEh0

 彼女は急に怖くなった。目をつぶりがむしゃらに手を伸ばした。
すると、何やら手に当たるものがあった。
掴んで自分のもとへ引きよせ、目を開けてみると、それは自分の愛用のギターだった。

抱きかかえるようにしながら、6つの弦を親指でなぞってみた。
すると、アンプにもつないでないのに、それは大きく、のびやかで、倍音豊かなサウンドを奏でた。

 その刹那、自分の周りをぐるぐる回っているらせんの一部分が、激しく光り出した。
その光は自分の目から自身の身体全体の細胞へ行き渡り、身体全体を激しく揺さぶった。
まるで、自分の目の前のらせんと、自分の身体の中のらせんが呼応しているかのように思えた。

 彼女は大きく息を吐き、再び目を閉じた。
今の周囲の情景は、測り知れない空洞のような得体の知れない怖さがあり、
スリリングであり、壮大であり、心地よくもあった。
生命の源である宇宙と、自分が一体になっているような、そんな快感があった。

 と、怖いと思うくらいに肌で感じていたスピードが急に消えた。彼女は暗闇の中に落ち込んでいた。
目の前には、大きな壁が立ちはだかっている。
暗闇なのにも関わらず、目の前の漆黒の壁だけははっきりと見える。

その壁には、何やら文字が書き込まれている。ATGCATGC…。
こんな文字の羅列を彼女は大学の教科書で見た記憶がある。

自分の中にも生来刷り込まれている、生命を司る暗号、生命が生命たりうる証。
壁にはその証となる情報が刻まれていた。

 むろん、彼女はその暗号の並びをすべて覚えているわけではない。
しかし、なぜか彼女は一目見て、これはヒトゲノムの配列だとわかった。

そして、ところどころ、その配列にミスがある。
つまり、突然変異によって、情報が書きかえられてしまっているのだ。

彼女は、何とかこの壁を壊したいと思った。
そうしなくては、私たちには未来はない、そんな気がしたのだ。

 彼女は肩にかけていたギターをかき鳴らそうとした。
自分の奏でるサウンドで、この壁を打ち崩そうとしたのだ。

しかし、その刹那、ぶちっと音がした。
見ると、ギターの絃がすべて切れてしまっていた。
彼女は絶望感に襲われ、その場にへたり込んでしまった。

 果てのない暗闇の中で、壁はちっぽけな彼女をあざ笑うかのようにそびえ立っていた。



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 12:39:31.90 ID:inGPvhEh0

 けたたましい目覚ましの音で、彼女は目を覚ました。

 窓の外は明るい。いつもの朝の光景だ。彼女はほっと胸を撫で下ろした。
この夢を見るのは、はじめてのことではなかった。もう何度も見ている。

なのに、夢の中のあの闇の恐怖から、明るい朝日の住む朝に帰ってこれた時に、
胸を撫で下ろす癖は未だに治らない。

 彼女は起き上った。布団をたたんで、顔を洗う。
またいつもと同じ一日が始まるのだ。
大学に出かけ、講義を受け、仲間たちとお茶をして、下宿先に帰ってくる。
授業の課題がまだ終わっていなかったから、今日は帰ったらそれをやらなくてはならない。

 これが平沢 唯のたいていの一日の流れであった。
彼女がN女子大に入学して、すでに一年が経った。

大学に合格してすぐに大学の近くの寮に部屋を借り、一人暮らしを始めた。
初めは慣れないことも多く、失敗も多かったし心細いこともあったが、
住めば都というもので、今ではひとりでも不自由なく暮らしていけるようになった。

 朝食も済ませた。今朝は、いちごジャムを塗ったトーストに、インスタントのコーンスープだ。
家族と暮らしていた頃は、妹が食事を作ってくれていたが、
ひとり暮らしをしているので、自分の食事は自分で作らなくてはならない。

なので、どうしても手抜きがちになってしまう。
ことに、慌ただしい朝には、サラダもフルーツもなく、本当に簡単な食事で済ませてしまうことが多い。

 これでも相当慣れた方なのだ。
元来寝坊がちで、高校までは朝は妹に起こしてもらっていた彼女は、
大学に入って寝坊にかなり苦しめられた。

朝一の講義を寝過ごしてしまうこともザラで、
そのため一年時の一時間目の講義の単位は殆ど落とした。
落とした科目の中に、必修科目がなかったことがせめてもの救いだ。
必修科目を落とさなければ、ある限度以上の単位を取れていれば進級はできる。

とりあえず、単位数の方は問題なかったので、唯は無事二年生に上がることができた。
だが、このままでは次の進級、さらには卒業が危うくなる。

なので、これからは心を入れ替えねばと思い、
ひとりでも朝起きられるように心がけているのだった。



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 12:40:35.11 ID:inGPvhEh0

 朝食を済ませ、身支度をととのえたら、唯は部屋を出た。
穏やかな春の風が、身体を通り抜ける。

「もう春だね。エヘヘ…」

 彼女は嬉しそうにぽつりと呟いて、歩き出した。
自室のある2階から下に降り、寮を出た。

ここから大学の門までは、10分ほどで着く。
今日の朝一の授業のある講義室までと考えても、15分あれば十分だろう。
十分間に合うはずだ。


「おっす」

 という声と同時に、後ろから肩を叩かれた。
 振り返ると、高校時代からの友人、田井中 律だ。

「りっちゃん、おいっす」

 律は友人たちから『りっちゃん』と呼ばれている。
高校時代、唯が所属していた軽音楽部のメンバーであり、部長でもあった女の子だ。

唯のパートはギターであったのに対し、彼女はドラム。エネルギッシュで明るい子だ。
高校時代は、やや短めの髪に、カチューシャで前髪を上げておでこを出すヘアースタイルが常であったが、
大学に入ってからは、色んなヘアースタイルを試すようになった。

髪も、あの頃よりは少し伸びたようだ。
だが、ピンで止めても後ろで縛っても、おでこを出すことだけは忘れない。

 因みに、当時の軽音楽部の同級生は唯や律を含めて四人いたが、
全員が同じN女子大に進学している。
実は後輩の梓、妹の憂までもが同じ大学に入学している。

高校時代のようにまたみんなで過ごせることを唯は嬉しく思っていた。
ただ、部屋が狭いため、同居は困難だということで、憂はまだ自宅から通うことになっている。
とはいえ、度々部屋には訪れ、色々と世話を焼いてくれるのだが。



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 12:41:54.43 ID:inGPvhEh0

「めずらしい。今日は早いなぁ」

 律がイタズラっぽい笑みを浮かべて云った。

「うん。これからは寝坊しないようにしなくちゃ、と思って」

 唯は恥ずかしそうに顔を掻いて答える。

「そりゃいいことだ。あ、そういやまたいつものライブハウスで
 ライブイベントの告知が出てるんだけど、どうする?」

「えっ、いつ?」

「来月の16日」

「来月の16…、うんいけるよ。出よう出よう!」

「OK。みんなにもいけるかどうか聞いて、また連絡するわ。っと、私こっちだから」

 すでに二人は大学の構内に入っていた。
軽音楽部のメンバーは同じ大学に入学したとはいえ、学部はばらばらであった。

そのため、講義を受ける場所も、時間割もまったく違う。
ことに唯は、家族からの勧めもあって、
他の仲間が文系の学部を選んだのに対し、理系の学部に入学していた。

そのため、このようにキャンパス内で別れるタイミングも早いのだ。
その上、理系の講義は文系の講義よりも多い。

よって唯は、あの頃の友人たちに会える時間が、他の仲間たちよりも少なかった。
そのことを唯は少し寂しく思っていた。

 でも、みんなとまったく会えないワケじゃない。
毎日のように会って、楽しくお茶したり喋ったりしてるし、
今年からは、憂やあずにゃんとも毎日会える。寂しがることはない。

 そう心に云い聞かせ、唯は自分の行くべき講義室へ向かって歩いて行った。



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 12:53:00.68 ID:inGPvhEh0

2


「我々の細胞の中の染色体DNAは、常にミューテーション、即ち突然変異の危機にさらされている。
 それはなぜか。まず、ひとつは我々の生きているこの環境は、さまざまな変異原であふれている。
 紫外線・放射線・タバコの煙・食物に含まれる化学物質なんかだ。
 
 また、もうひとつの原因は、我々のDNA複製機構・修復機構はカンペキじゃない点だ。
 変異原がない環境においても、細胞分裂一回につき、百万ないし一千万分の1の確率で、
 エラーが起こると考えられている。
 
 つまり、一生のうちに起こる細胞分裂の回数を考えれば、
 我々の細胞にある染色体DNAは、一生のうちにかなりの数の変異を抱えるうることになる。
 その複数の変異がたまたま何か重要な遺伝子に変異を及ぼしたとしよう。
 するとどうなるか?
 
 ある細胞は生存に必須な重要なタンパク質が作られなくなって、死んでしまうかも知れない。
 ある細胞は、逆に不要な細胞と認識され、免疫機構によって除外されてしまうかも知れない。
 また別の細胞は、アポトーシス機構が働いて、自ら死の道を選ぶかも知れない。
 
 ところが、その中で逆に自己の生存・分化を過剰に促進されてしまった細胞がいたとしよう。
 その細胞は、おそらく他の細胞のことなど無視して増え続けるだろう。
 
 そして、個々の細胞を押しやって自らの勢力を広げ、自分のテリトリーから飛び出して、
 他の組織にまでその勢力を伸ばすかも知れない。
 そうなると、我々の身体の秩序は乱され、最終的には破綻してしまうだろう。

 このように、突然変異によって暴走して増え続け、
 最終的に我々の身体に悪影響を及ぼしてしまう細胞の例が実際に存在する。
 それががん細胞だ…」




41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:30:47.59 ID:q7PQLR6G0

アポトーシス機構ってなんだ





44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:35:44.95 ID:inGPvhEh0

>>41

そんなの気にしなくったっていーよ!
だって、Wikipediaに書いてあるかーるぁっ!!




46 名前:Fランク ◆1A7nTFrank :2011/02/18(金) 13:44:03.86 ID:vdw3BTFi0

>>44
ようは、しんちん代謝のことか



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:47:33.67 ID:1st7b+zXO

>>41
簡単に言えば細胞の自殺のこと



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:50:17.39 ID:fMyGw8d60

オタマジャクシのしっぽがなくなるってのだよな



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:51:53.39 ID:GIidEFeN0

大暮維人の魔人にも出てきたな



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:52:11.86 ID:q7PQLR6G0

基本生物なんたらの授業は伏線だよな
楽しみにしてる





53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:53:08.66 ID:TI/i5Qa+O

>>46

手の指ができる機構です。

因みに、しばし中断します。書き溜めたりしつつ、また近いうちに再開します。




54 名前:Fランク ◆1A7nTFrank :2011/02/18(金) 13:56:23.27 ID:vdw3BTFi0

>>53
思い出したわ
胎児の腕は最初ドラえもんの腕みたいにただの丸い肉のカタマリらしいが
細胞が自ら死んで指を形成するっていうプログラム細胞死ってやつ





Wikipedia:アポトーシス



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 12:54:45.28 ID:inGPvhEh0

 大きなあくびをひとつして、唯は眠そうな眼をこすった。
朝一から頑張って授業に出ると決めたものの、やはり眠いのはどうしようもない。
その上、朝からこんなややこしい話を延々聞かされているのだ。
どんな睡眠薬よりも効果は絶大だろう。

 唯は生命理学部・基礎生物科学科に所属している。
彼女がこの学部を選んだ理由は、
理系の中でも生物系は数学・物理系のややこしい学問が必要でないと
高校時代の先生から聞いたためであった。

また、基礎生物科学科を選んだ理由は“基礎”とつくからには、
それほど難しいことはやらないだろうという、安直な考えからであった。

 当然、これらの志望理由は見事に裏切られた。
生物学とはいえ、理系であるからには計算や数理論的な概念は必ず出てくる。

また、生命活動もこの世の理を基盤にして成り立っているものなので、
その裏には必ず化学があり、さらに掘り下げると、熱力学というやはり物理の一概念に行きつく。

さらに、“基礎”と名前がつくのは、決して「基礎的なことしかやらない」という意味ではなく、
「基礎を徹底的に固めることで、今後の飛躍をより大きなものにする」というコンセプトからのようであった。

 しかし、数学や物理や化学ではなく、生物でよかったと思える部分がないわけではない。
我々の身体に密接に関係した話も多く、馴染みやすい部分が多少はあるのが救いだ。

もっとも、そう考えているのは自分だけではないらしく、
女子大において、理学系の学問で活気があるのはここ生命理学部か、
後は一部の化学系の分野くらいのものだ。

ほかの物理や数学系の学部は閑古鳥が鳴いており、ほとんど潰れかけである。
先生たちは、客員教授として他の大学の学生を教えに行って、生計を立てているらしい。

 周りを見渡すと、寝ている学生も何人かいた。
じゃあ、私も寝て大丈夫かな?などという考えが頭をもたげる。

(ううん、だめだめ!頑張るって決めたんだもん!)

 フンス!といって唯は、前のめりになって授業に集中しようとした。
 その直後、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:02:51.56 ID:inGPvhEh0

3


「さっきの江藤先生、チョーうざくね?」

「うん、ウザい。しかもフケだらけで、不潔そう」

「あいつ、よく私たちのこといやらしい目で見てくるわよね」

「こないださ、あいつに会ったの。そしたら、ニカッて気持ち悪い笑顔してきたの」

「うわー、最低!ほんとイヤだわ。早く死んで欲しいよねー」

「ほんとほんと!キャハハハ」

 このような低レベルな連中の話を聞いていると頭にくる。
少なくとも、自分が通っていた桜ケ丘女子高等学校では、
こんなことを云っている人間なんて、ひとりもいなかった。

お互いがお互いを思いやり、先生も生徒も互いの人間性を信頼し合って、
清らかな関係を築いていたと思う。

そりゃあ、ケンカや仲たがいもあるにはあった。
けれど、相手をむやみに誹謗中傷したことなんか、一度もない。

 大学に入ると、視野が広がったためか、こういう醜いことを云い合う連中が目に付くようになった。
もちろん、そんな人物ばかりというワケじゃない。
中には、見るからにお嬢様のような、高潔そうな雰囲気を醸し出している人もいた。

しかし、このような現実を目の前にして、自分のものの見方もひねくれてしまったようだ。
そのお嬢様が実は影で何を云っているか、何をしでかしているか分かったもんじゃない、
そう考えるようになっていた。

 周りの人間は信用できない。ただ、以前から心を許し合ってきたあの仲間たちは例外だが。

 キャンパス内のベンチで本を読んでいたが、
低レベルな会話が耳触りで、彼女は立ち上がって、別の場所に行こうと歩き出した。

「澪ちゃん」

 ふと声がした。馴染みのある、安心感のある柔らかな声。

「ムギか」

 声の方を彼女は振り返った。期待した通りの柔らかな顔立ちの仲間がそこにはいた。

「澪ちゃん、次は授業ある?」

「いや、次は3時間目だから」

「よかった。私も今ヒマなの。よかったら、“赤い鳥”にでも行かない?」

 ふたりは、同じ方向に向かって歩き出した。



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:06:03.83 ID:inGPvhEh0

 『赤い鳥』。大学に店を構えるこぢんまりとした喫茶店だ。
学内にある店であるため、普通の喫茶店よりは値段は安め。

ただし、それでも普通の学食よりは値は張るし料理の量も少なめのためか、客の入りは比較的少ない。
その分落ち着けるという理由から、固定客は割といるらしく、
教職員と学生が常に半々ぐらいの割合でいるといった店である。

 秋山 澪と琴吹 紬はこの店の窓際の席に座っていた。
 ふたりは、運ばれてきたミルクティーをすすった。

「うーん、おいしい」

 紬につづいて、澪は少し声をひそめて云った。

「でも、ムギの持ってきてくれてたお茶のほうが、ずっと美味しいよ」

「そう?じゃあ、またみんなで集まった時に、持ってきましょうか」

 天使のような柔らかな笑顔でムギは云った。
 澪はN女子大の法学部、ムギは芸術学部に所属している。

ふたつの学部は、向かい合わせに各々の棟が建っているので、
ふたりはばったり顔を合わすことも度々あった。

とはいえ、キャンパスが広いのと学生の数が多いのとで、頻度はそれほど高くはないが。
まぁそれでも、授業終わりにはみんなで顔を合わせるのだから、何ら問題はない。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:07:42.70 ID:inGPvhEh0

 見れば、澪が少し険しい表情をしているのが、ムギは気になった。

「どうかしたの、澪ちゃん?ちょっと深刻そうな顔しているけど…」

 澪は一瞬、呆気にとられたような顔になった。

「あ、ごめん。そんなつもりなかったんだけど…」

「どうしたの?よかったら、話してみて」

「う、うん。実は、学内で人の悪口ばっかり云い合ってる連中が気になって」

「ああ。たまにいるわよね。同じ学年の人とか、先生の悪口を延々云ってる人。
 私も最初は気になったわ。最近は、もう気にしないようにしてるけど」

「うん。気にしなきゃいいってだけの話なんだけどさ。どうしても腹が立って。ダメだよな、入学して一年も経つのに」

「ううん。それって、澪ちゃんがとても優しいからだと思う」

「そうかな…」

 澪は少しうつむいて、顔を少しの間両手で隠すようにして拭った。
そして、思いだしたように云った。

「唯は、、、大丈夫かな?」

「唯ちゃん?」

「うん。こう云っちゃ何だけど、唯ってああいう連中に、一番目をつけられやすいような気がする。

 あ、もちろん唯に悪いところがあるって云いたいんじゃないぞ。
 何というか、連中ってああいう個性があって目立つ人を標的にしたがるからさ」

「そうね。でも、唯ちゃんならきっと大丈夫よ。そんな噂話なんて、気にしないわ」

 ムギはつとめて明るい声を出して云った。澪はそんなムギの言葉に安心した。

「そうだ、な…」




23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:02:07.72 ID:xsJS4EArO

しかし何の話なんだこれは
Fランの俺でも理解できるのか





28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:09:02.67 ID:inGPvhEh0

>>23

けいおん愛をもって読めば、心で分かる、はず!!



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:16:49.77 ID:inGPvhEh0

4


 細胞分子遺伝学概論の講義が終わった。
今回の講義は、『我々の身体に寄生する遺伝子』と題して、
ウイルスやトランスポゾン、ミトコンドリアなどの概説であった。

先生の話によると、ウイルスと通常の細菌は実はまったく違う。
ウイルスは生物であると考えられがちだが、実はその表現は正しくなく、
本来は生物と無生物の境界に位置する物体なのだそうだ。

というのも、生物の基本原則は、

『遺伝情報をもち、自身で子孫を残すことができる』

ということなのだが、
ウイルスは遺伝情報を持っているにもかかわらず、自分自身では子孫を作ることができない。
そのためにウイルスは別の生物の細胞に感染して、
その細胞のゲノム上に自身のDNAを埋め込むことで、その細胞に自身のコピーを作らせるのだという。

唯自身もこれまでは、細菌とウイルスはほぼ同義だと思っていたが、
実際には性質もその感染経路・発病までのプロセスもまったく違うものであることを初めて知った。

 トランスポゾンとは、DNA上を自由に飛び回る能力をもったDNAのことで、
場合によっては細胞間や種間をまたいで行き交うこともあるらしい。

 つまり、そういう意味ではウイルスもトランスポゾンの一種と考えることもできる。

 また、ミトコンドリアは高校生物でも細胞内小器官として馴染みのある名前だが、
これも実はかつては別の小さな単細胞生物で、それをより大きな単細胞生物が捕食したが、
その小さな生物はどういうわけか消化されずに
その大きな生物の中に居座ってしまった名残であるという。

たまたま、捕食されたその小さな生物は、
酸素を使ってエネルギーを作り出すことができる能力を持っており、
それによって、その大きな生物は酸素を自身の生存に必須なエネルギーを産生するための
主要ファクターとして使うことができるようになった。

それが我々の細胞にも存在する、ミトコンドリアのできた背景だというのだ。
それが証拠に、ミトコンドリアは細胞の核の中に含まれている染色体DNAとは違う、
独自のDNAをもっている。

 同じような例として、緑色植物に含まれる葉緑体が挙げられるそうだ。
葉緑体も、もとはシアノバクテリアと呼ばれる単細胞生物がより大きな単細胞生物に飲みこまれ、
最終的に細胞内小器官としてはたらくようになったのだという。




32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:17:39.60 ID:G6GeASHfQ

>>30
唯と憂の子どもがあずにゃんから産まれるとか胸熱





33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:19:00.34 ID:inGPvhEh0

>>32

腎臓移植と肝細胞培養のキーワードから、どうしてそういう発想になったwww



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:22:06.96 ID:inGPvhEh0

 このような話を1時間半ずっと聞いていたのだが、それにしても、、、

「むずかしすぎだよォ~~~」

 気の抜けるような声とともに、唯は机の上に突っ伏した。

 ふと、かすかにクスクスという笑い声がした。
声の方を振り返ると、同じ学科の女子4人が、こちらをみながらニヤニヤ笑っている。

「ん?どうしたの?」

 唯は彼女たちに聞いてみた。
すると、笑っている顔を隠すように目を背けたのが2人、
相変わらず好奇な目を向けているのが1人、そして、残りのひとりが、

「別に、何でもないよ」

といって、彼女たちは講義室を出て行った。廊下から笑い声に混じった話し声が聞こえてくる。

 私を笑っていたのかな?と唯は思った。
あのような態度をとられることは、一年の頃からあった。
最初は自分が笑われているなどとは思わず、あれ、どうしたのかな?というぐらいだったが、
それが一年も続けば、自分を笑ってたのだといやでも気づく。
当然、いい気はしない。かといって、向こうに腹を立てるのも、意味のないことと思えた。

 いつか、分かってくれるだろう。

 彼女はそんな風に考えて、一瞬ムッとしかけたその気持ちを、勉強に向けることにした。

先ほどの講義で分からなかったところは山ほどある。
講義中にとったノートを見直して、少しでも分からないところを減らそうと考えた。

 みんなが出て行ってひとり残った講義室の中で、唯は大学ノートを開いた。
そしたら、思わぬミスに気がついた。
開いた頁のとある行。書いていた文字がだんだんミミズのようになり、
最後は文字とも見えない線になって、ノートの端まで続いている。

どうやら、知らぬうちに、またうとうときてしまっていたらしい。

 また、別の行を見れば、教壇のほうを見ながらノートをとっていたせいだろう、
ノートの同じ行に字を二重に書き込んでしまっていて、何を書いているのかさっぱり分からない。

「ありゃ、やっちゃった」

 唯は思わず、苦笑いを浮かべた。これじゃ、笑われてもしょうがないや…。
 そこへ、携帯が振動を始めた。誰かから、メールが来たらしい。
 見てみると、妹の憂からだった。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:26:11.20 ID:inGPvhEh0

 西門の前で、平沢 憂と中野 梓は唯を待っていた。
憂と梓は高校時代のクラスメイトであり、軽音楽部の仲間でもあった。
元々、憂は軽音楽部ではなかったのだが、
唯たちが卒業し、梓ひとりだけになってしまった軽音楽部に友人の鈴木 純とともに入部した。

桜ケ丘女子高等学校の校則では、クラブは部員が4人以下では廃部になってしまうという規則があり、
廃部を阻止するための入部でもあった。

幸運なことに、彼女たちが3年生になった時、
新しい部員が5人入ってくれたため、軽音部は無事廃部を免れた。

それから、ふたりは唯たちと同じ大学を目指して勉強し、
無事この春から、憂は姉と同じ生命理学部・基礎生物科学科、
梓は理工学部・物質科学科に通うことになった。

因みに、純は別の大学に進学したが、互いの大学は同じ県下にあり、
距離もそれほど離れていないので、彼女との交流もなお途切れることなく続いている。

 しばらくしたら、唯の姿が見えた。

「あ、お姉ちゃーん!」

 憂は手を振って、姉を呼んだ。
 唯はその声に気づき、「あ、憂~!」と声をあげて駆けよってきた。
そして、駆け足の勢いのままで、

「あずにゃ~ん!」

と、梓に抱きついてきた。

「あずにゃん、久しぶり~」

 梓に抱きついたままで、唯は云った。

「やめて下さい。みんなが見てますよ!」

と梓はじたばたと抵抗したが、抱きしめる唯の手を振りほどかない程度の抵抗であった。
因みにあずにゃんとは、主に唯が使っている梓のあだ名である。

「お姉ちゃん、お昼どこに行こうか」

 憂の声で、ようやく唯は梓の身体から離れ、こう云った。

「まだ憂もあずにゃんも、来たばっかりでこの辺よく知らないでしょ?とっておきのお店、案内するよ」

 唯を先頭に、三人は門を通って、大学の外へ出た。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:30:02.34 ID:inGPvhEh0

 大学の食堂以外にも、学外に出ると、さまざまな飲食店がある。
昼休みには当然学食は学生たちでごった返して、座る場所を見つけるのにも一苦労である。

なので、気に入ったお店が学外で見つかれば、そこで食べるという方法もある。

 ただし、この時間にはもちろん他の学生たちも学外へ出ているし、
社会人の人たちが食べに来ていることもあるので、学外だから必ず空いているとはまったく限らないが。

 唯おすすめの店は、大学を出て横断歩道を渡り、しばらく行ったところにあった。
憂は看板に書かれていた店名を見て驚いた。

「…喫茶グリコーゲン?」

「面白い名前でしょ。高校の頃に習ったよね」

 グリコーゲンとは、動物細胞のエネルギー貯蔵の目的で、
肝細胞や筋細胞に蓄えられている多糖のことである。

中学・高校時代から聞き覚えのある名前だ。

「大学の近くだから、わざと小難しい言葉をつけたって感じですね」

 梓は苦笑していた。
 店の中に入ると、結構混んでいた。

「あら、唯ちゃん。いらっしゃい」

 店員のおばちゃんが唯に話しかけてきた。

「おばちゃん、こんにちは」

 唯も笑顔で答える。どうやら、唯はこの店の常連らしい。

「悪いけど、今ちょっといっぱいでね。すぐ空くと思うから、少し待ってもらえるかしら」

 店のおばちゃんは、少しすまなさそうに云った。

「どうする。少し待ってもいいかな?」

 唯はふたりの連れにそう訊いた。

「私はいいよ。お姉ちゃん」

「私もいいです」

 このふたりの答えで、待つことが決定した。

 5分待たないうちに先客が店を出てゆき、ひとつのテーブルが空いた。
唯たちはそこに案内された。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:30:50.55 ID:inGPvhEh0

「唯先輩、おすすめのメニューってありますか?」

 梓はメニューを開きながら、そう聞いてみた。

「ここね、いちごパフェが大きくてとーってもおいしいんだよ!」

「デザートじゃないですか…」

「ごはんでおいしいのはないの、お姉ちゃん?」

「うーん、どれも結構おいしいけど。カレーライスと、ハンバーグがおいしいよ!」

 唯はメニューの『ハンバーグ定食』に指を指した。
大きなお皿にてりやきソースのかかったハンバーグと、
サラダ、マッシュポテトが置かれ、ご飯、味噌汁が付けられている。

 やがて、さっきの店員のおばちゃんがやってきた。

「あら、今日は知り合いを連れて来たのね」

「うん。妹の憂と後輩のあずにゃんだよ」

 唯の紹介に続いて、ふたりは「こんにちは」「どうもです」と続いた。

「それで唯ちゃん、今日もパフェにするの?」

 おばちゃんは笑顔で訊いた。

(昼ごはんにパフェ食べたんだ。。。)
 憂と梓は心の中で呟いた。

「ううん。今日はねー、ハンバーグカレーにする」

「じゃあ、私もお姉ちゃんと同じのにする」

「それじゃあ、私はハンバーグ定食で」

「はい。じゃあ、ちょっと待っててね」

 店のおばちゃんは奥に下がっていった。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 13:32:04.04 ID:inGPvhEh0

「そういえばあずにゃん、来月16日にこの辺のライブハウスでライブイベントがあるんだけど、
 放課後ティータイムで出てみない?」

「来月の16ですか?別に問題ないと思います」

 梓の顔がにわかに明るくなった。唯は顔をほころばせた。

「良かった。あとでみんなに会った時にあずにゃんも参加するって話しておくね」

「今でもみなさんとよく会うんですか?」

「うん。大体授業が終わったら、みんなでどこかの喫茶店に集まってお茶して帰るんだよ。
 憂もあずにゃんも来なよ。またあの頃みたいに、みんなでおしゃべりしようよ」

「そうだね。私はOKだよ」

「そうですね。私も行きたいです」

 そのような話をしていると、やがて注文した料理が運ばれてきた。
梓は何気なく携帯を手にして、ディスプレイに表示されている時刻を見た。
もう昼休みが始まって、かなりの時間が経っている。
うかうかしていたら、3時間目の講義に間に合わない。

「あ、もうこんな時間。早く食べないと」

 そこから三人は言葉少なく、急いで昼ご飯を食べた。



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 16:38:08.16 ID:NQLWpDTu0

(続き)


5


唯と憂と梓が大学近くのカフェ『シフォン』に着いたのは、
午後6時を15分ほど過ぎてからのことだった。
他のみんなは、もうすでに店内にいた。

唯たち元桜高軽音部のメンバーは、大学の授業が終われば、
たいていこの『シフォン』に集まることにしていた。

大学の授業が終わる時間は曜日によって違うことで、
最初に来る人間やその時間帯も曜日によって違うが、
理系である唯は授業数が多いこともあり、
たいていみんなよりも遅い時間に来るのだった。

三人は唯を先頭に、メンバーのいる席へと歩いて行った。
唯に気づいた仲間たちは、いっせいに笑顔を向けた。

「よぅ、唯。梓と憂ちゃんも久しぶりだな」

澪が一番に声をかけた。



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 16:39:00.69 ID:NQLWpDTu0

それから、みんなは楽しい時を過ごした。
梓と憂とは久しぶりに会うということもあり、話にも特に花が咲いた。
時計を見ると、すでに8時をまわっている。

「ごめん、私そろそろ帰らないと」

唯が云った。

「どうした。何か用事か?」

「うん。授業のレポート明日までに作らなきゃいけなくって。
 ずっとやってなかったから、何としても今日やらないといけないんだ」

「そうなの。まあ、もうこんな時間だし、私たちもそろそろ出ましょうか」

「そうだな。また明日も会えることだし」

勘定を済ませて、外へ出た。もう四月とはいえ、夜になるとまだまだ肌寒い。

「じゃあ、また明日」

といって、唯は急いで下宿している寮へと帰っていった。



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 16:40:02.26 ID:NQLWpDTu0

唯の後ろ姿を見ながら、澪が云った。

「唯、最近頑張ってるよなぁ」

 律とムギと梓がそれに続く。

「そうだな。高校の頃は、一番のんびりしてたのに」

「見違えるようだわ」

「あの唯先輩が。でも確かになんとなく雰囲気変わりましたよね」

憂は、次第に小さくなり、闇へと溶けてゆく姉の姿を見ながら、
お姉ちゃん頑張ってるんだなぁ、と感慨にふけっていた。
しかしどういうわけか、そこに一抹の不安がよぎったのが、彼女本人にも分かった。



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 16:42:14.27 ID:NQLWpDTu0

みんなと別れた唯は、ひとり寮へと急いでいた。

帰る前に、コンビニで弁当とペットボトルのお茶を買った。
帰ったら、明日『細胞生物学』の講義で提出しなくてはならない課題に取りかかるつもりだ。

課題内容は、『細胞間コミュニケーションのしくみについて、A4の用紙2, 3枚でまとめよ』だった。
晩ごはんをゆっくり作って食べる余裕などない。
帰ったら先ほど買った弁当を食べながら、授業ノートやパソコンとにらめっこの予定だ。

家まであと数十メートルというところまで来たとき、ふとある男性とすれ違った。
その瞬間、唯の胸はズキリと痛くなって、彼女は胸を押さえてその場で立ち止まった。

暗がりで、その姿まではよく分からなかったが、
どういうわけか、唯の胸には棍棒で強く打たれたような、
身体中には電気が走るような衝撃を覚えた。

振り返ってみたが、男はこちらを気にする気配もなく、歩き去っていた。



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 16:45:17.13 ID:NQLWpDTu0

家に帰った唯は、早速机に座ってノートパソコンをつけ、課題に取りかかろうとした。

しかし、どうにも課題の方に集中できず、ぼんやりと別のことに頭がいってしまう。
帰り道で見た、あの男性のこと。帰り道にすれ違ったのは、何もあの人だけじゃない。
たくさんの人がこの街にはいて、毎日多くの人とすれ違う。今日だって、例外じゃない。
それなのに、暗がりでよく姿も見えなかった、見知らぬ男に自分は衝撃を受けたのだろう。

これに似た衝撃を、15の春にも受けたことがあった。
あれは、軽音部の仲間たちと楽器店へギターを見に行った時のこと。
そこで彼女は、あるひとつのギターと運命的な出逢いをした。
唯はそのギターを『ギー太』と名づけ、今までずっと愛用している。

ギー太をひとめ見た時のあの吸い込まれるような感覚、
ギー太を手に入れた時のあの胸の高鳴り・躍動感は今でもはっきりと覚えている。

今回の衝撃は、その時に感じたときめきと少し似ていた。
もっとも、今回はときめきよりも胸を打たれた痛みの方がはるかに強く残っているが。

ギー太を手に入れてから、彼女はギー太をまるで恋人のように想い、大切にしてきた。
今でも、ギー太を変わることなく愛用している。
ということは、今回受けた衝撃、これって…。
それにしても、なぜ通りすがりの顔も見えなかった人に対して、そんな気持ちになったのだろう。



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 16:46:51.06 ID:NQLWpDTu0

などとぼんやり考えていたら、課題は殆ど進まない。
ううん、ダメダメ!課題に集中しなきゃ、と唯は課題のキーワードを頭に浮かべてみた。

細胞間コミュニケーション、レセプター、リガンド、ホルモン、
神経伝達物質、パラクリン、オートクリン、セカンドメッセンジャー、cANP、、、

ギー太、あの男性、もしかして恋…?ダメだ!考えがまた戻っちゃう…。

「今年から、しっかり勉強するって決めたのに。どうしちゃったの、私…?」

唯は机に突っ伏してしまった。
当然、そのままの体勢でいても、課題は進まないし、
自分の気持ちに整理もつくはずはなかった。

ハッと机の上から跳ね起きた。机の上で眠ってしまっていたらしい。
自発的に先ほどまで見ていた光景が脳裏に浮かんだ。
また印象の強い夢を見てしまっていたのだった。

ぼんやりと外を見ると、夜はもう明けていた。

続いて、パソコンのディスプレイを見る。
課題はまだ原稿用紙1枚の半分ぐらいまでしか書けていない。
そのままタスクバーの右側に表示されている時刻を見た。午前5時すぎ。

この課題は3時間目の授業で提出することになっており、今日の授業は2時間目からだ。
今から大急ぎでやれば、朝の授業までには課題を済ませられるだろう。



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 16:49:49.07 ID:NQLWpDTu0

唯はそう考えて、立ち上がった。
課題をやる前に、外の空気を吸って気分をリフレッシュさせようと思った。
唯は玄関から外へ出た。何気に、外の手すりごしに下を見る。

ひとりの男性がこちらを見上げていた。
その瞬間、唯の胸がドクンと強く打った。
目は大きく見開かれ、身体はしばしの間硬直した。

昨日の夜に受けた衝撃と同じ。間違いない、あの時の人だ。
唯はいてもたってもいられなくなり、駆け足で外の階段を下りていった。
寮を背に立ち、彼女は男を見た。男は唯のほうをじっと見ていた。

手をジャケットのポケットに突っ込み、風に吹かれて立っている男。
その目はどんな感情も、邪念や下心さえも映さず、ただじっとこちらを見ている。
とたんに、彼女の脳裏に、再び先ほど見た夢の光景が蘇ってきた。
鼓動は速くなり、息が苦しい。

唯は我慢できなくなって、手で胸を押さえて腰を落とした。
その体勢で顔を上げると、男は相変わらず同じような体勢・視線でこちらを見ている。
目がかすむ。気が遠くなる。今にも倒れそうだ。

唯はとうとう我慢ができなくなり、その場に倒れ込んだ。
今にも途切れそうな意識の中、足音が聞こえ、男の左足が自分の目の前にきたのが分かった。
その刹那、唯のすべての感覚が途切れた。

その日、唯は大学に現れなかった。

----------

(第一章了。第二章につづく)




73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 16:46:25.30 ID:CtG8OhhM0

見やすくなったな



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 16:47:11.01 ID:Sjeg8/E40

見やすさと引き換えに誰得展開入りそうだぞ





78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/18(金) 16:57:02.61 ID:NQLWpDTu0

>>73

ワープロ用の書き方から、ブログ用の書き方に変えました。
こういうコトか。


>>75

俺の嫁である唯ちゃんの物語を誰得展開にはしません!
俺得展開にはするかも知れません。
ただ、この話に作者は登場しないので悪しからず。

因みに、リア充の用事 (バイト) があるので、またしばし中断します。
第二章は、鋭意製作中です。まさかのあのキャラが登場します。



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