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律「行こう!!!!!」#後編 【非日常系】


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律「行こう!!!!!」#前編




79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 02:42:21.89 ID:8KpYZro40






【 律 】

「んーっ、……はぁ、だりぃ」

大きく背伸びをして溜息を吐く。これから一旦部屋に帰って、20時からバイト。
明日のスタジオ練習は休みだから、何をしようかなぁなんてぼんやり考える。

……梓への返事も、早くしてやらないとな。

ふと、視界の先に見慣れた後ろ姿を見つけた。小走りで追いついて肩を叩く。

「ゆーいっ、駅まで一緒に……、唯?」

振り返った唯の表情を見て驚く。
小刻みに震える手には携帯が握られている。





80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 02:46:25.49 ID:8KpYZro40

「……りっぢゃん……」

「どうした、なんかあったのか?」

そう訊ねると、唯はぽろぽろと涙をこぼして私に抱きついた。

「お、おい、唯」

「和ぢゃんが、和ぢゃんが……」

「?! 和がどうした!」

「……風邪引いて、明日、来られなくなったって」

あちゃー。



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 02:50:30.34 ID:8KpYZro40


大学近くのカフェに入って、唯にロイヤルミルクティーを奢ってやる。
自分のカフェオレを啜りながら、唯が落ち着くのを待つ。
今日は部屋に帰らずバイト先に直行だな。

和は熱も出ているらしいから長旅は無理だろう。
さすがに唯も我が侭言えず、ドタキャンした恋人を想ってさめざめと泣くしかない。
唯は鼻をかんで、ありがとうりっちゃん、と小さな声で言った。

「明日は暇だし、なんなら私が泊まりに行こうか?話し相手くらいにはなるぞー」

和の代わりにはならないけどなと付け足すと、唯はちょっと眉を下げて笑った。

「いいの?あ、私もりっちゃんと話したいことあった」

「ん?……ああ、あの話か?」

唯はうん、と頷いた。



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 02:54:14.35 ID:8KpYZro40

「ねえりっちゃん、澪ちゃんはどう思ってるのかな」

「んー、澪とはあの話してないからよくわかんない」

「ふーん、そうなんだ」

どうしてとは聞かず、唯はミルクティーを一口飲んで、ほうと息を吐く。

「唯はどう思ってるんだ?」

「いいよって言ったよ。ムギちゃんもやりたいって。あの日うちで話したよ」

「え、ムギも?」

「うん」

意外だった。唯はともかく、ムギも即答とは。
心臓のあたりがチリチリと痛む。



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 02:58:44.63 ID:8KpYZro40

「りっちゃんは?」

「え、私?私は……」

言い淀んだ私を見て、唯が質問を重ねる。

「ほかに何かやりたいこととかあるの?」

「や、そういうわけじゃないけど……」

答えに窮して、頭をばりばりと掻く。
唯は少し首を傾げたまま私の言葉を待っている。

「なんていうか、ほら、やっぱ音楽で食ってくの、大変そうだし?」

「……うん」

「生半可な覚悟じゃ、できないだろうし」

「……」

「それに、えーと……」



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 03:04:54.19 ID:8KpYZro40

「……りっちゃん、」

「ん?」

「りっちゃんが悩んでるのは、そんなことが理由じゃないよね」

唯はやけに真面目な顔で、確信をもってそう言い切った。
私はボケることもツッコむことも出来ず、唖然として唯を見る。

唯はしばらく私の顔を見て、それからふっと肩の力を抜いた。

「うーん、でも、まあいいや。りっちゃんが話したくないんなら聞かない」

「……」

「だけど、私で相談に乗れるなら、いつでも聞くからね?」

こいつは普段ぽやんとしているくせに、
どうしてこうピンポイントで鋭いことを言ってくるんだろう。

「このロイヤルミルクティーのお礼にネ!」

下手なウインクをしてみせた唯に、私は苦笑いを返した。
いろんな意味で、唯にはかなわない。



87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 03:09:00.42 ID:8KpYZro40






【 梓 】

「あーっ、もうダメ!エネルギー切れ!」

「純うるさい、ここ図書室」

参考書を投げ出してテーブルに突っ伏した純をたしなめる。

図書室の長机は、放課後には赤いタイを着けた生徒で半分くらい埋まっている。
日が経つごとに、漂う緊張感がほんの少しずつ強くなっている気がする。

「ちょっと休もうか」

純の向かい側で黙々と英文を訳していた憂が、顔を上げて苦笑いする。



89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 03:12:58.74 ID:8KpYZro40

「ねー、部室にお茶しに行こうよ?」

「1年の子たちの邪魔になるよ。……純を見てると、なんか律先輩を思い出す」

「えー、じゃあ大丈夫じゃない?律先輩も受かったし」

随分と暢気なことを言う。何気に失礼な発言だよそれ。

「律先輩には、澪先輩っていう専属家庭教師がいたからね」

「あっ、澪先輩カテキョのバイトしてるんだっけ。いいなー私も教えてもらいたい」

純は駄々っ子のように唇を尖らせ、束ねた癖毛をパタパタと揺らす。

「散々憂に助けてもらっといて、どの口が言ってんの」

「梓は専門学校だから入試もラクだし、いいよねー」

「梓ちゃんは、学校に入ってからが大変だね」

やんわりと憂がフォローに回る。



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 03:17:29.08 ID:8KpYZro40

「あっ、バンドのこと先輩たちに言ったんでしょ?返事はなんて?」

「え?うん、唯先輩とムギ先輩は、一緒にやりたいって」

言ってくれたよと応えて、ちょっと憂を見る。
憂は私と視線を合わせてニッコリと微笑んだ。

「うん、お姉ちゃんから聞いたよ。嬉しそうだった」

「へーよかったじゃん。澪先輩と律先輩は?」

「あのふたりからは、まだ何も」

「そうなんだ?いい返事してもらえるといいね」

「……うん」



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 03:21:59.06 ID:8KpYZro40


先輩方にあのことを話してから、今日で一週間。

いつものように一斉メールでの雑談はしていても、誰もその話には触れない。
唯先輩とムギ先輩はきっと律先輩と澪先輩への配慮からなんだろうけど。

……もしかして迷惑だったのかな。

こっちから切り出したほうがいいのかな。でも急かしてるようで申し訳ないし。
時間が経てば経つほど、不安な気持ちが大きくなる。

これじゃまるで、入試結果を待っている受験生の気分だ。



92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 03:26:13.43 ID:8KpYZro40






【 ー 】

窓の外から防災無線の時報が聞こえる。

5時になりました。みんなおうちに帰りましょう。

窓は夕焼け色に染まり、いつの間にか薄暗くなった部屋の中、
蛍光灯を点けようと立ち上がりかけた澪の腕を掴んで強く引っ張る。

短い悲鳴。

テーブルの上のグラスが倒れる。

グラスからこぼれたオレンジジュースが、
退屈な数式を書きなぐっていたノートと教科書と消しゴムとシャープペンシルを飲み込む。



93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 03:30:10.16 ID:8KpYZro40

澪。

仰向けに倒れた澪の顔の横に両手をついて、名を呼んだ。

なに、と、私を見上げたまま澪が応える。

桜高、一緒に受かるといいな。

澪が小さく頷く。

澪、

なんだ、と、少し眉を寄せて澪が応える。

バンド、一緒にやろうな。約束だぞ。

うん、と、澪がまた頷く。



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 03:34:24.66 ID:8KpYZro40

……みお、

面倒臭そうに、なんだよ、と澪が応える。

キス、しない?

頭の後ろのほうで自分以外の誰かが言ったような、変な感覚。

嫌だ。少し怒った顔で、澪が返す。

しようよ。

嫌だって。澪の表情が歪む。

なんで?

変だよ。汚いものを見るような目。

……なんで

澪の頬にぽたりと落ちたのは、私の涙か。

変だよ、そんなの、おかしいよ。そんなの、女同士で、そんなの、気持ち悪い……



95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 03:38:35.93 ID:8KpYZro40






【 律 】

激しく体を揺すられる感覚に、はっとした。くわんくわんと意識が揺れる。

輪郭が曖昧な視界の中で、誰かが私を見下ろしているのがぼんやり見えた。
りっちゃん、と呼ぶ声で、それが唯であることを認識する。

ああそうか、今日は和の代わりに唯の部屋に泊まりに来ていたんだった。



97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 03:42:13.86 ID:8KpYZro40

「大丈夫?怖い夢見たの?」

「え……」

「りっちゃん、うなされてたから」

「あ、うん……」

久し振りにあの夢を見た。ここしばらくは見ていなかったのに。

右手の袖で両目を拭って体を起こす。
私のすぐ横に座り込んでいる唯の顔が近くなる。

「お水、持ってこようか?」

そう言って立ち上がりかけた唯の腕を掴む。

「いい、大丈夫。それより、話、聞いて欲しい……」

唯はうん、と小さく応えて、静かに座り直した。



98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 03:46:12.59 ID:8KpYZro40

「……唯、いつから気付いてた?」

「りっちゃんが澪ちゃんを好きなこと?」

唐突で曖昧な問いに、的確な答えが返ってくる。ほっとして、頷く。

「んと……軽音部に入って、みんなでギター見に行った時くらいから」

「ちょ、そんな前かよ。ってかほとんど会ってすぐじゃん」

驚きすぎて思わず笑った私を見て、唯がエヘヘと表情を崩した。

「なんで?私そんな分かりやすかった?」

「ううん、最初は普通に仲良しだなーって思ってたけど、」

「……」

「たまに、ほんとにたまーに、澪ちゃんとの距離測ってるような時があって」

「……」

「それで、りっちゃんも私とおんなじなのかなって」

「……そっか」

こくりと唯が頷く。



99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 03:51:14.65 ID:8KpYZro40

「でも私は全然気付かなかったぞ?唯のこと。いつも和に平気でくっついてたし」

「うーん、距離っていうのは、そういうことじゃなくって」

関係を崩さずにいられるギリギリの、気持ちの距離のことかな、と、唯が小さく笑う。


澪に対して幼馴染みのそれとは違う感情を抱いていることに気付いてから、
同じ夢を繰り返し見るようになった。

求めて、酷く拒絶される夢。

自分の願望とやましさが作り上げた夢の中の澪は
いつしか意識の奥底に居座って、どうしようもない絶望感を植え付けた。



100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 03:55:40.96 ID:8KpYZro40

「大学に入ったらさ、」

「うん」

「お互い新しい友達が出来て、バイトとかして、そのうち澪に好きな人が出来て、」

「……」

「澪との距離もいい具合に離れて、普通に幼馴染でいられるんじゃないかって思ったんだよな」

うん、と、唯が相槌を打つ。

「だから入学前、澪にルームシェアしようって言われたのも断ったし」

「……そうだったんだ」

「でも、逢う時間が減ると、もっと逢いたくなるのな」

唯が言った通りだ、と笑うと、愛しい人を思い出したのか、唯は少し寂しそうな顔で頷いた。



101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 04:00:29.75 ID:8KpYZro40

「ずっと一緒にバンド続けたいって梓が言った時、私嬉しかったんだ」

「うん」

「でも、そうなったら、澪との距離は変わんないままで、だから、」

「……うん、」

あれ?と思って、唯を見る。

「……唯?」

「うん?」

「なんで唯が泣いてんだよ」

「ふぇ?」

私と視線を合わせたまま、唯の両目からぱたぱたと大粒の涙がこぼれおちた。

「あ、あれ?」

「ああほら鼻水出てるって、ティッシュどこだ」

唯が座っているすぐ後ろにボックスティッシュを見つけて、
2、3枚引き抜いて鼻に押し付けてやる。
唯はティッシュを手で押さえて、思い切り鼻をかんだ。



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 04:06:01.76 ID:8KpYZro40

「えへへ、ごめん……。自分が悩んでた時のこと、思い出しちゃった」

袖口で涙を拭って、唯が恥ずかしそうに笑う。

「つらいのに、誰にも相談できなくて、気持ちばっかり大きくなっちゃって」

「……」

「とにかく、ばれないようにって、もぉ、どっちにも、進めなくなっちゃうん、だよね」

語尾が震えて、唯の目からまた涙があふれだす。

「ああもう、また泣く……」

てのひらで涙を拭いてやると、唯はしゃくり上げながらちょっと首を傾げた。

「りっちゃんも、泣いてるよ?」

言われて、涙が頬を伝っていることに気付く。

首の後ろに手が回ってぎゅっと抱きしめられた。鼻がツンと痛む。
唯の肩に顎を預けて、両手を背中に回す。暖かくてやさしい匂い。



103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 04:09:38.92 ID:8KpYZro40

「私ね、りっちゃんのこと応援してるよ」

「……うん」

「それにね、」

「ん?」

「……ううん、りっちゃんが泣き止むまで、こうしててあげるからね」

「私も、唯が泣き止むまでこうしてる」

唯の背に回した手に力を込める。

「えぇー、慰めてるのは私だよ?」

「……ありがとな」

そう言った私に、唯はロイヤルミルクティーのお返しだよと笑った。



105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 04:13:13.58 ID:8KpYZro40




……どこからかメロディが聞こえる。
次第に意識が覚醒して、朝がきていることに気付く。

鳴っているのは唯の携帯。持ち主はまだ夢の中だ。
アラームなら止めてやろうと思い、ごそごそと布団を這い出て唯の携帯を手に取る。

「……あ」

アラームではなく着信だった。
表示された名前を見て一瞬考え、通話ボタンを押す。

『唯?おはよう』

久し振りに聞く声。様子からして、まだあまり調子は良くなさそうだ。

「おはよ~和ちゃん」

『……久し振りね、律。その様子だと寝起きかしら?』

唯の声真似はスルーされ、何時だと思ってるのと言われて時計を見る。



107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 04:17:43.93 ID:8KpYZro40

「おぅ……10時半過ぎとるやないかい」

『唯はまだ寝てる?』

「ああ、ぐっすりな。体調はどう?」

『あんまりよくないわね』

小さく鼻をすする音が聞こえる。

「唯の落ち込みようったらなかったぞ」

『私も、落ち込んでるわ』

声のトーンを変えず、和が言った。ああそうか、そうだよなあ。



108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 04:22:21.95 ID:8KpYZro40

『唯に付き合ってくれてありがとね』

「いや、私が唯に付き合ってもらったようなもんだから」

『え?』

「なあ和、」

『なあに?』

「私、唯のこと好きになっちゃうかも」

『……そう。それじゃ唯に伝えておいて、律に気をつけなさいって』

声を上げて笑ったら、りっちゃんどうしたのー?と寝ぼけた声で
携帯の持ち主が布団から顔を出した。



109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 04:26:56.36 ID:8KpYZro40






【 澪 】

昼過ぎに律からメールがきて、夕方過ぎてインターフォンが鳴った。
エントランスのオートロックを解除して1分、今度は玄関の呼び鈴が鳴る。

「いらっしゃい」

「おっじゃまっしまーす」

スーパーの買い物袋を両手に下げた律が、靴を脱ぎ散らかして一直線にキッチンに向かう。
ドアの鍵を掛けて、靴を揃えて私も後を追った。

「うちでご飯作らせろなんて、急にどうしたんだ?」

「新作料理考えてて。ほらうちのキッチン狭いじゃん?折角だし味見もしてもらおっかなーと」

「調理実習か何か?」

「んー?まあ、そんなとこ」

袋から出した食材をシンク横の小さな調理台に並べながら、律がニカッと笑う。



111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 04:33:46.67 ID:8KpYZro40

「ふーん、ちゃんとやってるんだな、律も。あっ、食材費、私も出すよ」

「いーって。澪はキッチンだけ貸してくれれば」

「そうか?」

「ん、作ってる間、歌詞でも考えてなさい」

「うっ……」

ほれ邪魔邪魔、とキッチンから追い出された。仕方なく部屋に戻ってソファに座る。
座ったまますこし背伸びすると、対面キッチンの中で忙しく動く律が見える。
溜息を吐いて、バッグから作詞用のノートとペンを出してテーブルに広げた。

ムギに新曲をのデモ音源を貰ってから2週間。まだ歌詞は浮かばない。
頬杖をついて、窓の外に見える夕焼け空にのんびり漂う雲を追う。



113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 04:37:14.86 ID:8KpYZro40

「歌詞、ずいぶん苦しんでるみたいだな」

キッチンを見ると、ボウルを抱えてこちらを覗いた律と目が合った。

「ああ……久し振りの新曲だと思ったら、なんか気負っちゃって」

「ふぅん、別にいつもどおりでいいんじゃね」

律がなにやらバリバリと袋を開ける音が響く。

「簡単に言うなよ……」

「んー、じゃあ、英文学科らしく全文英語で、とか?」

「英語か……」

いいかも……と思いかけて、はたと気付く。
いや、だから、英語もなにも詞の内容が浮かばないと始まらないだろ。

私は額に手を当てて、真っ白なページの上に大きな溜息を落とした。



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 04:41:24.16 ID:8KpYZro40




「……美味し」

「だろー?」

出されたのは、律特製のヘルシーハンバーグ。

「豆腐と鶏ミンチがベースだから、カロリーも低いぞ」

「このしゃりしゃりしてるのは何?」

「レンコン」

付け合わせは蒸したインゲン、人参、ブロッコリー。素材の甘さが口にやさしい。
私が体重を気にしているのを覚えていたんだろうか。

「多めに作って冷蔵庫に入れておいたから、早めに食えな」

「うん、ありがとう」

本当に美味しくて、あっという間に食べ終わった。
律がカップに暖かいお茶を注いでくれる。



115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 04:45:03.00 ID:8KpYZro40

「ふぅ……。ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」

手を合わせ、それから律と視線を合わせてちょっと笑う。

「ほんと料理上手くなったな」

「こう見えて、食物学科の学生ですわよ」

「……将来は、料理関係の仕事目指すのか?」

私の言葉に、律が少し眉を上げる。

一緒にバンドを続けていきたいと言った梓の言葉を忘れているわけじゃない。
だけど律は、いや、律も私も、まだ梓に返事をできないままでいる。

私の答えは決まっているんだ。だから、あとは律の答えを待つだけ。



117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 04:48:36.31 ID:8KpYZro40


「……澪、」

律が私の名前を呼ぶ。

「なに?」

「……あっ、えっと、コーヒー飲む?」

「あっ、うん」

なんだか慌てたふうの律に、こちらもちょっと返事がうわずる。

「食器片付けないとな」

律はそう言って、膝立ちになって食べ終わった食器を重ね始めた。

「あ、片付けは私がやるよ。ご飯作ってもらったし」

「そ、そか?じゃあ、その間コーヒー淹れるな」

「うん」



118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 04:52:09.59 ID:8KpYZro40

二人並ぶとちょっと狭いキッチンで、私は食器を洗い、
律は細口ケトルで湯を沸かしてドリップの準備をする。

洗い終わった食器を順に籠に立てていく。
最後の1枚を洗い終えて、蛇口をひねって湯を止める。
ケトルの口から水蒸気が噴き出して、律も火を止めた。

洗った食器を今度は拭いて、大きいものから順に食器棚に戻す。
律は沸騰した湯が少し冷めるのを待ちながら、
二人分のカップに湯を注いで温める。

手元から箸がこぼれ、カツンと小さな音を立てて床に落ちた。



119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 04:56:46.62 ID:8KpYZro40

あ、と同時に声を出して、かがんだ拍子に額がぶつかる。

「~~~ッ!」

目の前に星が飛んだ。あまりの痛みに声も出ない。
キッチンの床にしゃがみこんだまま、二人して額を押さえ痛みが引くのを待つ。

「……い、ったぁ。この石頭」

「お前もな……」

二人同時に噴き出す。

目を開けると、視線のすぐ先に落とした箸が転がっている。
拾い上げようと伸ばした私の左手を、律の右手が強く掴んだ。



120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 05:01:00.91 ID:8KpYZro40






【 律 】

目の前に伸びた澪の左手を、とっさに掴んでしまった。
掴んだはいいが、どうすればいいかわからない。

りつ?と、不安そうな声で、澪が私の名前を呼んだ。
右手が熱い。落ち着け心臓。何か言え私。

「み、みおっ」

顔を上げたら至近距離で視線がぶつかって、頭が真っ白になる。

「なに?」

「……澪、」

自分の声が頭の後ろのほうから響いて、
まるで自分以外の誰かが喋っているようだ。

「だから何」

「キス、しない?」



121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 05:05:08.04 ID:8KpYZro40


至近距離のまま澪は目を見開いて、私を見る。
澪の黒い瞳の中に映っている、自分の姿が見える。

「…………嫌だ」

澪は少し怒った顔をして私の右手を振りほどくと、立ち上がって私に背を向けた。
くらりと視界が揺れて、脳裏に夢の中の澪が浮かぶ。


……ああ、やってしまった。


力が入らない足で立ち上がって、シンクのふちに手を置く。
澪は背を向けたまま、黙って俯いている。

死刑宣告を受ける犯罪者のような気持ちで、澪の言葉を待つ。
こんな時でも、澪の髪はほんとうに綺麗だな、と思ってしまう。



122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 05:08:55.89 ID:8KpYZro40


「……違う、だろ」

絞り出すように、小さな声で澪が呟く。

「……」

「順序が、違うだろ」

「……へ?」

言われた意味が一瞬わからず、間の抜けた声が出てしまった。

「ばか」

きれいな黒髪から覗く両耳が赤いことに、ようやく気付く。

「……澪、」

その名前を呼ぶ声がかすれる。
澪はこちらを向かずに、もういちど、ばか律、と呟いた。



123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 05:12:30.09 ID:8KpYZro40


シンクから手を離し、1歩、足を前に出す。
手を広げて、私に背を向けたままの澪を後ろから抱きしめる。

「……っ」

抱きしめた体が一瞬震えた。自分よりも背の高い澪の肩に額を押し付ける。

「澪」

「……」

「澪?」

「……なに、」

「すきです」

自分でもびっくりするくらいすんなりと言葉が出た。
黙ったまま何も言わない澪に、もういちど、すき、と伝える。


消えてしまいそうな小さな声で、澪が、ありがとう、と言った。



124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 05:16:12.47 ID:8KpYZro40






【 梓 】

「梓ちゃん、大丈夫?」

「梓、落ち着いて」

息抜きしたいと訴える純に付き合った買い物帰り、
ハンバーガー店の2階隅っこの席。

なだめてくれる憂と純に応えられないくらい、こぼれる涙が止まらない。
握りしめた携帯の液晶パネルには、届いたばかりのメール。



126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 05:19:56.19 ID:8KpYZro40




 待たせてゴメン。私もみんなと一緒にバンド続けたい。
 梓ありがとう。新曲の歌詞はもうすぐできそうです。


お礼を言うのは私です、澪先輩。

震える指で受信箱をスクロールして、先に読んだもう一通を再び開く。


 遅くなってすまん!
 メジャーデビューしてもリーダーは私だからな!


「……もう、気が早いですよ、律先輩」

涙声で呟いた私に、憂と純がやさしく笑う。



128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 05:24:10.92 ID:8KpYZro40

返信しようと携帯を握り直したら、立て続けに2件の着信。

「あ、ムギ先輩と、唯先輩から」

「お姉ちゃんから?なんて?」

向かいの席に座った二人が腰を浮かせたので、
よく見えるようにテーブルの上に携帯を置いた。


 梓ちゃん、よかったね。これからもよろしくね。


ムギ先輩の笑顔がほんわりと浮かぶ。

続けて唯先輩からのメールを開いて、私たちは思わず顔を見合わせた。



129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 05:26:36.11 ID:8KpYZro40



本文には、楽器の絵文字が5つ。
それから、やさしく揺れるピンク色の八分音符がひとつ。


「……ほんっと、唯先輩らしい……」

ちょっと笑ってそう言ったらまた涙がこぼれて、
憂と純から二人掛かりで頭を撫でられた。






おしまい



131 名前:>>1:2011/03/03(木) 05:32:06.53 ID:8KpYZro40

支援、ありがとうございました。

以前投下した、和「桜の護り人」と同じ世界観で書いています。
読んで下さった方が少しでもいると嬉しいです。

自分語り失礼しました。
ではおやすみなさいノシ




132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 05:32:36.37 ID:+rMWljoY0

前作のURLおいてけ





133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 05:35:38.79 ID:8KpYZro40

>>132
http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1298051416/




134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 05:51:28.63 ID:xL3sSl360

え、おわりか…

律澪のとこは本当ハラハラした
またこの二人は鬱ENDなのかと
すごい良かったよ、乙



138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 07:26:44.77 ID:u8UIWEJr0

よかった。おつ!



139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 08:11:50.30 ID:Kuv+3HCX0


地の文ある律澪見るとバッドエンドしか思い浮かばなかったが
言い終わり方で安心したぜ



140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 09:16:20.43 ID:r9R5WSVeO

おつ!
おもしろかった!



141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 09:27:52.51 ID:7ziD7AzC0

>>1
おー桜の護り人の人だったのか!
しっとりしてていいですねほんと、貴重な唯和をありがとうございました。



142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 09:36:21.01 ID:hNCoAyOe0


全員の描写をしっかり書いてるわりに最後のほうがあっさり気味で終わったのが残念
カレー屋のシーンとか余計な所は削ってその辺りを厚くしたほうがよかったと思う
話は面白かった



143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 09:42:50.51 ID:dzF89zYL0

読みやすかったし展開も気持ちよかった
ありがとう



144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 09:55:04.99 ID:68ZRjVlSO


面白かった



145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 10:26:16.18 ID:tpsThAfiO

乙!
話が目に浮かんだ



146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 11:03:52.88 ID:OEzO5Vkw0

イイヤァァァァッフゥゥーーーー!!!!

ハッピーエンド乙!





147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 11:14:07.44 ID:8KpYZro40

わ、まだ残ってた。ありがとうございます。
蛇足になるかと思ってラストのプロットから削った部分があるんですが、
今から書き溜めてスレ落ちずに残ってたら投下します。




148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 11:47:01.10 ID:4HRdsmww0

そういう事なら落としませんよ



149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 12:09:26.29 ID:xL3sSl360

待ってる





150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 12:22:32.44 ID:8KpYZro40

ありがとう。できるだけ違和感ないように書きます。
>>129の「おしまい」は無かったことにしてください。




151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 12:27:46.46 ID:dzF89zYL0

楽しみにしてます



152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 13:00:13.55 ID:tBtzPMMeO

わーい





153 名前:>>1:2011/03/03(木) 13:26:46.09 ID:8KpYZro40

それでは、ものすごくゆっくりペースになりますが、落としていきますね。
>>129から再開します。



154 名前:>>129部分から再開です:2011/03/03(木) 13:29:49.55 ID:8KpYZro40

本文には、楽器の絵文字が5つ。
それから、やさしく揺れるピンク色の八分音符がひとつ。


「……ほんっと、唯先輩らしい……」

ちょっと笑ってそう言ったらまた涙がこぼれて、
憂と純から二人掛かりで頭を撫でられた。



156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 13:35:35.56 ID:8KpYZro40






【 紬 】

澪ちゃんから歌詞が出来たと一斉メールが届いたのが火曜の夜。
メールで送ってとお願いしたら、恥ずかしいからって言われた。

メールで送れないくらい恥ずかしい歌詞って、いったいどんなのだろう……。
ものすごく気になる。



157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 13:40:15.10 ID:8KpYZro40

サザンテラスにあるスタバのオープンテラスが、今日の待ち合わせ場所。
携帯の時計を見ると、約束の時間まであと30分ある。
読みかけの文庫本をバッグから出して、カモミール ティー ラテの隣に置く。

「……あ、」

体と背もたれの隙間にバッグを置こうとしたら、バッグのポケットから振動音。
上半身を少し後ろにひねった体勢のまま、携帯を取り出して画面を開く。

「電車、今日は順調みたいね」

ふふ、と笑みがこぼれる。気をつけてきてねと返信して、携帯を文庫本の上に重ねる。



158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 13:48:21.49 ID:8KpYZro40

ラテを一口飲んで、ほっと一息。柔らかく吹いた風に髪を遊ばれ、
前髪を直して見上げた空は、もうすっかり秋の色になっていた。

「あれ?ムギ、早いな」

振り返ると、左手に携帯、右手にカップを持った澪ちゃんが立っていた。

「澪ちゃんこそ」

「ああ、時間あったから、本でも読んで待とうかと思って」

「私もよ。でも、澪ちゃん来たから、本は仕舞っちゃおう」

澪ちゃんはちょっと笑って、私の左隣の椅子を引いてカップをテーブルに乗せ、
背負っていたベースを降ろす。
携帯を仕舞って腰掛けて足を組むところまで待って、澪ちゃんのほうに身を乗り出した。



159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 14:07:44.09 ID:8KpYZro40

「ねえ、澪ちゃん」

「ん?」

カップを取ろうとした手を止めて、澪ちゃんが私を見る。

「新しい歌詞、見たいな」

「え、」

ギクリという顔をして、澪ちゃんは宙に浮かせた手をぎこちなく膝の上に戻す。
ええと……と言い淀んで、なんだか一人であれこれ葛藤している様子。



160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 14:23:03.27 ID:8KpYZro40

「……うん、でも、ムギには、見て貰ったほうがいっか」

澪ちゃんの中で行われていた会議に結論が出たみたい。
バッグから4つに折り畳んだA4サイズの紙を取り出して、手渡してくれた。

「わ、英語の歌詞なのね」

「うん」

「訳詞はないの?」

「そっ……それは、恥ずかしいから……」

やっぱり、恥ずかしいんだ。
読んでいい?と聞いたら、澪ちゃんは頬を赤くして頷いた。



162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 14:32:14.19 ID:8KpYZro40


プリンタで出力された文字に目を落とす。
少し難しい言い回しもあるけど、なんとか意味は掴めそう。

「……あら、」

無意識に声がこぼれた。
そわそわとカップを揺らしていた澪ちゃんの両手がビクッとなる。

「あら、あらあら」

「……」

「……澪ちゃん、」

「は、はいっ」

顔を上げて澪ちゃんを見る。多分私、口元が緩んじゃってる。

「これ、誰のことを想って書いたの?」

ぼん、と音がしそうな勢いで、澪ちゃんの顔が真っ赤になった。



163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 14:43:13.38 ID:8KpYZro40






【 梓 】

定刻通り、終点に着いた。
ギターを背負ってボストンバッグを肩に掛け、ホームに降りる。

「人、多いねー」

私の後ろで憂が大きく息を吐いた。

「お姉ちゃんと律さんが改札のところで待っててくれるんだよね?」

「うん、そう書いてあった」

着きました、と携帯画面に打ち込みながら応える。
パチンと閉じてポケットに仕舞って、ホームを見回す。



164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 14:51:20.61 ID:8KpYZro40

「あ、あっち」

南口と書かれた案内板を見つけ、憂を促す。

「純ちゃん、すごく来たがってたね」

「純は多分練習より買い物とか観光したかったんだよ」

「ふふ、そうかも」

純にお土産買って帰らないとね、と話しながら階段を上がって切符を取り出した。
肩に掛けていたボストンバッグを一旦手に下げて、ぶつけないように改札を通る。

「あれー?いないね」

「うん……」

相変わらず目が回るような雑踏に、憂が尻込みする。
とりあえず人が少ない場所に移動しようと、憂の腕をとって歩き出す。



165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 14:59:41.10 ID:8KpYZro40


「うーいっ、あーずにゃんっ!」

「あっ、お姉ちゃん!……お姉ちゃん?」

「唯先輩?」

唯先輩は私たちの目の前で手を広げた状態のまま、何故か固まっている。
どうしたの?と憂が不思議そうに聞く。

「憂とあずにゃん、どっちから先に抱きつくかで迷った」

真面目な顔をしてそう言った唯先輩の頭を、
後ろにいた律先輩が苦笑いしながらポコンとはたいた。



166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 15:08:40.31 ID:8KpYZro40

律先輩にまたひょいとボストンバッグを取られて、
人波を抜け駅を出て赤信号で立ち止まる。

「お、いるじゃん、あそこ」

律先輩が指をさした先、道路を挟んだ反対側の歩行者信号の下で、
澪先輩とムギ先輩が手を振っていた。


「みんなおつかれ。憂ちゃん、久し振り」

「澪さん、紬さん、お久し振りです」

憂がペコリと頭を下げる。



167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 15:14:10.74 ID:8KpYZro40

「今日は無理言ってすみません、バイトのシフトまで変えてもらっちゃって」

続けて私も頭を下げる。

「いいんだよー、あずにゃん、次の練習まで待ちきれなかったんだよね」

唯先輩がニコニコしながら私を覗き込む。

はいそうです、と応えたら、梓が素直だ……と律先輩が大げさに驚いた顔をした。



169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 15:33:42.87 ID:8KpYZro40




【 唯 】

シールドをアンプに繋いで、電源を入れる。
隣にいるあずにゃんと視線を合わせて、お互いの音を聞きながらボリュームを調整する。

後ろではりっちゃんがドコドコとドラムの具合を確認していて、
あずにゃんの向こう側ではムギちゃんと憂が譜面を見ながら何か話している。



170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 15:40:43.96 ID:8KpYZro40

「よし、じゃ、とりあえず一度合わせてみるか」

りっちゃんに頷いて視線を追うと、
唇に柔らかくピックを挟んでベースのストラップを肩に掛け、
長い髪を整えている澪ちゃんの姿。

憂はスタジオの隅っこにある折畳み椅子に腰を降ろして、
ニコニコしながら私たちの演奏を待つ。


それぞれが軽く音を出して、一瞬の間。りっちゃんのカウント。



171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 15:50:35.10 ID:8KpYZro40

……おお、今日はりっちゃん絶好調だね。
そう思ってあずにゃんを見ると、あずにゃんがリズムを刻みながら小さく笑って頷く。

ムギちゃんの旋律に誘われるように、澪ちゃんのボーカルが乗る。
澪ちゃんは軽く目を閉じて、想いを込めるように唄う。

英語が不得意な私には、歌ってる内容はよくわからないけれど、
なんだか胸があったかくなるよ。



173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 15:56:24.24 ID:8KpYZro40



……

残響に酔ったみたいに、放心してしまって言葉が出てこない。
ゆるゆると振り返ってみると、みんなも同じ顔をしてる。

ぱちぱちと鳴る音がスタジオに響いて、はっと我に返った。
椅子から立ち上がった憂が、満面の笑みで手を叩いている。

「すごい……すごく、よかったです」

今日のオーディエンスはひとりだけど、鳴り止まない拍手がくすぐったい。
お互いを見回しながら、ちょっと照れて笑う。



176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 16:04:18.97 ID:8KpYZro40

「澪さん!」

「うん?」

「すごく素敵な、ラブソングですね!」

憂がそう言った途端、澪ちゃんが真っ赤になって固まった。
おお……、そういう内容だったのですか。

にやける顔を隠しきれないまま振り返ると、おでこまで赤くしたりっちゃんと目が合った。
りっちゃんは、やりずれぇ、と小さな声で呟いて、私から目を逸らして頬を掻く。

そんなりっちゃんを、ムギちゃんがニコニコと見ている。
もう澪ちゃんから聞いたのかな?



177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 16:11:12.01 ID:8KpYZro40

「あの、みなさん……」

あずにゃんが口を開いて、みんなの視線が集まる。
ちょっと興奮気味に、両手に握りこぶしを作って私たちを見渡した。

「この曲で、デモテープ、作りませんか?」

「デモテープ?」

聞き返した私に、あずにゃんは力強く頷く。

「デモテープって、音楽事務所とかに送るあれか?」

「はい。送るかどうかは別として、一度、ちゃんと作ってみませんか?」



178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 16:15:48.95 ID:8KpYZro40

「……楽しそう」

口元で両手を合わせて、ムギちゃんがキラキラした目で微笑んだ。
りっちゃんと澪ちゃんも、顔を見合わせて頷く。

「じゃあ、この曲がメジャーデビューへの第一歩になるかもだねあずにゃん!」

両手を握ってそう言うと、あずにゃんはちょっと戸惑った顔をして、
それから、気が早いですよ唯先輩、と満面の笑みを浮かべた。



179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 16:20:27.03 ID:8KpYZro40



スタジオの外のソファで、6人でのティータイム。
みんなのおしゃべりを聞きながら、携帯を開いてキーを叩く。


 和ちゃんあのね、すごくいい曲が出来たよ。
 あずにゃんがね、この曲でデモテープ作ろうって。
 ムギちゃんの紅茶は今日も美味しいよ。
 りっちゃんと澪ちゃんを見てると、ちょっとくすぐったいよ。
 今日は憂も来てるんだよ。今度和ちゃんが来る時は、3人で遊ぼうね。


文末にギターの絵文字を付け足して、送信。

携帯を閉じてポケットに入れて、紅茶を一口飲んだら、
ポケットからブルブルと振動が伝わってきた。



180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 16:24:03.59 ID:8KpYZro40

珍しく早い、和ちゃんからの返信。
紅茶の入ったカップを置いてもう一度携帯を取り出し、メール画面を開く。


 来週末逢いに行くわ。みんなによろしくね。


短い文章の後ろで揺れる赤い眼鏡の絵文字に、
私はこぼれる笑みを抑えきれなかった。







おしまい




182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 16:27:43.57 ID:5cgny5M60

乙。



183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 16:27:44.57 ID:+rMWljoY0



やっぱ蛇足どころかそれくらい描写あったほうがいいな



184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 16:33:18.21 ID:xL3sSl360


蛇足なんてとんでもない、よかったです



185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 16:33:52.32 ID:5zqlbaoHO

ぉっ



186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/03(木) 16:41:44.49 ID:rSIJAtoz0

おつ





187 名前:>>1:2011/03/03(木) 16:48:37.16 ID:8KpYZro40

乙&支援ありがとうありがとう。
物足りないって感じのコメを戴けたのでここまで書けました。

またどこかでー。ノシ



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タイトル:
NO:1218 [ 2011/03/04 02:09 ] [ 編集 ]

ハッピーエンドだ、わっしょい!わっしょい!

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