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けいおん!の真鍋和ちゃんはチェケラチョイかわいい#2 【日常系】


けいおん!の真鍋和ちゃんはチェケラチョイかわいい より
http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1298977356/l50

けいおん!の真鍋和ちゃんは過去スレ可愛い




759 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 22:46:11.47 ID:tudFMSQr0

23レスくらい占拠する
オートマトンが投下するから
俺は和ちゃんの背中を流しに行っていると見てもらって差し支えない




760 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 22:48:56.82 ID:tudFMSQr0

「……おー」

朝、通学中に会うと、梓は長い黒髪を揺らしながら明後日の方向を向いて答えた。
季節の変わり目に、花粉症にでもかかったのかその鼻は少し赤い。
ついでに頬もちょっと赤い。

「こっち向けよー」

私が頬に人差し指を差してぐりぐり回すと、梓はあうあうと変な声を出した。
それが可笑しくて、私はけらけら笑って指を離す。
すると梓はじっと私のほうを見て、頬を掻いて言った。

「今日、軽音部は練習するから……私の代はしっかりするから!」

「おう」

「うん。だからちゃんと来なさいよ」

「おう」

「それと……なんか、その……アレ、」

梓は顔の高さにあった手を横におろして、
不自然に頭を上下させた後、うー、と唸って、結局真っ直ぐに首を伸ばした。
そうして、私の目を真っ直ぐに見つめた。

「サンキュー入部!」

サンキュー武道館、みたいな妙な言い方に
私は吹き出しそうになったけれど、
出てきたのは存外優しい微笑と返事だった。

「……おう」



761 名前:オートマトン動かねえでやんのクソが:2011/03/05(土) 22:52:14.45 ID:tudFMSQr0

そろそろ季節も変わろうとしている。
青くなっていく木や、
深みを増していく空が余計に春を急かして、
春は加速度運動で近づいてくる。

「暖かいねえ、ここんところ」

通学路を歩きながら、
私はつい最近までマフラーを巻いていた首に手を当てて、何も無いのを確認する。
自由になって嬉しいような、けれどちょっと寂しい、物足りないような気がする。

「私は花粉症が酷いんだよ、もー」

と梓は鼻を啜って言った。
ふと、梓の髪に葉っぱが付いているのに気づく。
それを摘まんで取って、梓に笑いかけた。

「けどまあ、春だね」

「うん、春だ」

歩きながら、だんだんと近づいてくる校舎を眺めた。
今はちょっと寂しいけれど、四月になれば新入生がどっと押し寄せてくる。
そうしたら、またそれを鬱陶しいとも思うようになるんだろう。

偉ぶる先輩たちを鬱陶しいと思っていて、
そのくせ卒業してしまった今になって恋しがっている自分を省みると、滑稽な気がする。
何気なく、隣の梓の頭に手を置いた。
梓がこちらを振り向いて口を尖らせる。

「なによ」

「ん、なんとなくね、梓はいいなあってさ。
 可愛いし元気だしね、私は梓みたくなりたい」



762 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 22:54:24.84 ID:tudFMSQr0

梓はふん、と鼻で息を吐いて、また前へ向き直った。
ずず、とまた鼻をすする。

「花粉症で眠れない私へのあてつけかな、それは」

「そういう意味じゃないよ」

「じゃ、どういう意味?」

「梓は、一度でも先輩たちをウザいだなんて思ったかな?」

むー、とちょっと宙を見て考えて、えへへと笑う。

「ないねえ、そんなことは」

「だからさ」

梓はまだなにか言いたそうだった。
けれど、私にとってはこの会話は既に終了していることに気がついたのか、

「勝手に納得しちゃってさ」

と言って話を切り上げた。
しばらくぼうっと、会話もなく歩く。
並木が青い。力強さを増してきた幹には、何匹か虫が付いている。
春だな、ともう一度私は胸の内で繰り返した。

そうして歩いて、校門の近くまで来たところで、梓が声を上げた。

「あ、憂だ」



763 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 22:55:26.27 ID:tudFMSQr0

梓の言うとおり、憂だった。
短いポニーテールをいつも通りに小さく揺らして、
ゆったりとした足取りで歩いて来ている。
しかしちょっと不自然だったのは、
その隣に赤いアンダーリムの眼鏡をかけた、元生徒会長がいることだった。
名前は……なんと言ったっけ?

「ありゃ、和先輩もいるね」

「そうだそうだ、和先輩だった」

また一人で納得して、私はぱんと手を打った。

真鍋 和先輩。元生徒会長。
国立のえらく難しい大学に受かった、とクラスの誰かが噂していた。
やけに大人びた表情に、清潔なドレスシャツと黒いジーンズが良く似合っている。

あまり面識のない彼女の隣にいる憂に、
いつも通り近寄っていいものか私は少し躊躇ってしまう。
けれど梓は私のことなどお構いなしに憂の方へ小走りで近づいていった。
仕方が無いので私もついていく。

「おはよ、憂、それに和先輩も」

梓に元気よく挨拶をされて、憂も和先輩も小さく微笑んだ。
憂の微笑のほうが、あどけなさが少し色濃く残っている。

「おはよ」

「おはよう。梓ちゃん、それに鈴木さんも」

驚いた。
私も挨拶されてしまった。



764 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 22:56:52.09 ID:tudFMSQr0

「あ……どうも」

突然のことに、素っ気ない返事しかできない。
和先輩はそれを咎める様子もなく、
ただどこか淋しげに微笑んで憂に言った。

「ごめんなさい、私少し急ぐわね」

そして、じろじろと見てくる他の生徒達の視線に臆することもなく、
すたすたと高校の敷地に入っていった。

「おお、なんか格好良いね」

私がぼけー、っと和先輩を見ながら言うと、梓は現実的な疑問で返してきた。

「でもさ、制服着てないのに校舎に入っていいのかな。」

「あ、大丈夫みたいだよ。和さんちゃんと学校に許可貰ってるって言ってた」

梓の疑問に応えて、憂はえへへと笑った。
どこか誇らしげだ。

「和さん、しっかりものだからね。
 梓ちゃんに心配してもらうまでもないんだよー」

「な……私もしっかりするもん!部長だから!」

けらけら笑いながら二人は校舎へと向かっていった。
私は和先輩の淋しい微笑があった場所を眺めていた。
二人がいなくなってちょっとして、
隣からまだ冬の残る空気が体にあたるのを感じて、急いで二人を追っていった。



765 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 22:57:53.28 ID:tudFMSQr0

クラスは三年生が卒業した後もいつもと変わらずざわついている。
それどころか、
自分たちが最上級生になったという自覚が生むどこか得意げな態度が、
いつもより喧騒を大きくしているようだ。

「和ちゃ……和さんねー、
 生徒会の仕事引き継ぐ人のために手引書作ってるんだって。偉いでしょ」

自分のことのように胸を張って憂が言う。
それを見て私は、ちょっと羨ましいなと思う。

「それでね、昨日教えてもらったんだけど、その手引書には
 "部活動代表者が提出物の期限を破ったときの対応について"
 って項目があるんだってさ」

「律先輩だね」

梓が苦笑して答える。

「うん、ビンゴ。なんか和さん、
 軽音楽部ばかり贔屓してないかって批判されたことがあったらしいの」

「うわ……なんか申し訳ないね」

「でもね、他の部活にも完全に同じ対応したら相手も黙ったって。
 手引書にも載せておけばもう文句無いだろう、ってことかもね」

梓と憂が律先輩について話しているときに、
私はなんとなく窓から外を見て、まだ花の咲いていない桜を眺め、

「そりゃ大変だ」

と呟いた。



766 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 22:59:01.53 ID:tudFMSQr0

この時期、先生たちは
「今から受験勉強は始まるのだー」
などと言って私たちを急かしてくるが、殆どの生徒にそれは届かない。

結局、認識のズレかな、などと最近理由もなく感傷的で学者的な私は思う。
感傷的で学者的でも、一日の授業の終わりは眠りながら迎えた。

「よくそんなに寝られるよね」

と、寝起きに頬をつつかれながら梓に言われた。

「眠いからね」

そう私が答えると、梓は鼻を啜って、ちぇ、と言った。
何故か申し訳なくなって、

「悪いね。私も花粉を鼻に詰めてこようか」

などと下らないことを言う。
梓はくすりと笑って、私の制服の肩の辺りを摘んだ。

「別にいいよ、私の花粉症が治るわけでもなし。
 それより音楽室行こう。憂は先に行ってるよ」

「あいあい」

あまりやる気のない返事をした私を咎めることもせず、
梓は私の手を引いて意気揚々と教室を出た。
勢い良く揺れるツインテールを見ながら、羨ましい、とまた思った。



767 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:00:06.13 ID:tudFMSQr0

音楽室の机には、嬉しいことに紅茶やらお菓子やらが並べられていた。
音楽室の机には、これはあまり嬉しくないが和さんが何故かいた。

「いや、いやいやいや」

私が入り口で突っ立ったまま抗議の声をあげると、梓は照れ臭そうに答えた。

「真面目にやるつもりはあるよ? でもね、
 先輩たちのいたころの軽音楽部の雰囲気を体験してもらおうと……」

「そっちじゃないよ」

私は梓の言葉を遮って、びし、とその頭を叩いた。
すると和さんが、眉を下げて笑って言った。

「私は練習を急かす役ですって。要するに、今までの梓ちゃん役ね」

次に憂と梓を指差し、最後に私に人差し指を向けた。

「憂がムギ兼唯、梓ちゃんが澪、鈴木さんは律ってところかしらね」

自信なさ気に首を傾げる和先輩に対して、梓は生真面目な顔で頷いた。

「そうです……未練がましいでしょうか」

「まさか。素敵だと思うわ」

和先輩は優しく微笑んだ。けれど、その微笑もまたどこか寂しそうだった。

「私も良いと思うよ」

そう言いながら私は椅子に座った。



768 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:01:11.68 ID:tudFMSQr0

実際体験してみると、なかなか悪くない。
憂が淹れたお茶、さらに手作りの菓子は
ティーパックや出来合いの物とは比べものにならないほど美味く、
役など関係なしに夢中になってしまう。

梓も「練習するよ」などと言いながらも
休むことなく菓子に手を伸ばしている。
澪先輩、こんな風だったんですか。

そして憂はそんな私たちを見て笑っている。

しばらくそんな状態が続いた後で、かたん、と陶器の触れ合う音がした。
ふう、と息をついて、和先輩が言う。

「練習、したほうが良いんじゃないかしら」

ああ。
私は妙な気持ちになってしまう。
なんだろう、不思議な親近感を感じる。
失礼な言い方かもしれないが、落伍者同士の親近感、傷の舐め合いへの期待だ。

そんな私の気持ちには全く気づかず、梓が興奮した様子で立ち上がる。
ぱん、と手を打って和さんを指さした。

「素晴らしい!確かに私はそんな感じでしたよ、和さん!」

「あ、そう、よかったわ」

嘘だろ。
この反応は絶対嘘だと思ったが、私は黙っていた。
憂も同じことを思ったようで、私と目が合うとあははと笑った。



769 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:02:20.87 ID:tudFMSQr0

「練習しようね、練習。
 私ポジションの和さんが言ってるからね!練習しよう、うん」

梓がうるさい。
ちょっと茶化してやろうかと思ったが、和先輩が私たちを見て、
相変わらずの笑顔で微笑んでいたから、そんな気分は何処かへ行ってしまった。

「へいへい、分かりましたよ……だぜー」

いまいち曖昧な記憶しか残らない
律先輩の口調を思い出そうとするが、どうも上手くいかない。
結局私は、アンプにシールドを繋ぎながら、これでいいやと思う口調で言った。
憂がいつも通りの調子で、

「合わせて弾くことなんてあまりしないから自信ないなあ」

と言ったので、なんだか損した気分になる。
梓は明らかにそわそわした様子で、エフェクターをごちゃごちゃと弄っている。
あれ?

「ねえ梓、何弾くの? っていうか私たちなんか弾けたっけ」

「あ、やべ」

梓の動きが止まった。
憂も怪訝そうな顔で梓を見ている。
私は、なんていうか梓を殴りたい。

しばらくしんと沈黙が流れた。
それを最初に破ったのは和先輩だった。

「そうなんだ。じゃあ私生徒会行くね」



770 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:03:26.91 ID:tudFMSQr0

和先輩がいなくなった後、私と憂は梓の轟音ギターを聴きながらお茶会をした。

「梓もお菓子食べればー」

と言うと、梓はムキになってギターを掻き鳴らし、

「練習する!」

と返した。
私と憂は肩を竦めて笑った。

憂の手作りお菓子はチョコレートクッキーだ。
それを頬張ると、チョコレートは急な温度変化に耐え切れず、口の中で溶けた。

「甘いねー、うまいねー」

「ふふ、ありがと。
 ホワイトデーのお菓子をお姉ちゃんに作ったときに余ったチョコレートでね、作ったの」

「バレンタインにあげて、挙句ホワイトデーにもあげたんだ?」

「だって、卒業して独り暮らし始めたらいなくなっちゃうもの」

「……そうだねー」

なんかまずいな。
憂の目はもう潤んできている。
私は無理に話題の方向を変えた。



771 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:05:18.07 ID:tudFMSQr0

「和さんにはあげたのかな?」

「あ、やべ」

新軽音楽部は、こんなのばかりだ。
案外一番まともなのは私かも知れない、と溜息をついた。

梓は独りで気分が乗り始めたのか、ごうごうとギターを鳴らしながら、歌い始めた。

「すりーぷ らい か ぴろう」

「マイブラなのは分かるけどさ、梓の歌ってあんまり上手くないね」

頬杖をついてまた憂のクッキーを頬張りながら私が言うと、梓は頬をふくらませた。

「練習しない人に言われたくありません。
 それに私、新軽音楽部ではギターボーカルするつもりなんだから」

「マジで?」

私の手からぽとりとクッキーが落ちる。
梓は赤面した。



772 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:06:31.79 ID:tudFMSQr0

そんなこんなで新生軽音楽部の活動初日は終わった。
梓は不服そうだったが、

「まあ、先輩たちも大体こんな感じだったし」

と言ってギターを片付けた。
先輩たちと同じじゃ不味いんじゃないか、とも思ったが、黙っていた。
それよりなにより、やっぱり梓は羨ましいな、いいなあと思うのだ。

「よし、じゃあ帰りますか」

ソフトケースを肩に下げて、梓が振り返った。
私は断った。

私が断ったのは別に一緒に帰るのが嫌だったからではなく、単純に他の用事があるからだ。
勘違いしないでほしい、と言うと、憂は笑って梓は頬を膨らませた。
こんなので機嫌を損ねるなんて、軽音楽部はよっぽど仲が良かったと見える。

でも、なんだか楽しい。

思ったより軽音楽部の空気に毒されていた梓と、直ぐにそれに馴染んだ憂、
思いの外、相対的にはまともだった自分を思い浮かべて、ぴうと口笛を吹いた。

長い廊下を歩いていき、階段を登り、ジャズ研の部室の扉を開ける。
部屋の窓からはまだ少し干からびた感じのある、桜の木が見えた。



773 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:07:53.38 ID:tudFMSQr0

「こんちは、鈴木先輩」

部屋に独りでぽつんと立っているジャズ研の元後輩が、元先輩の私に言った。

「うーす。あー……なんだっけ」

「会計の仕事ですよ。
 先輩とっとと辞めて軽音楽部に行っちゃうんだから、私困ってんですよ」

後輩は短い髪をばらばらの方向に散らして怒った。
あははー、と誤魔化すために私は笑う。

「ごめんねえ。でも会計なんてそんなにやることないしね、今度紙にでも纏めて渡すよ」

「そうですか」

そうして、後輩はちょっと黙りこむ。
自分勝手にジャズ研を辞めてしまった私には、
その沈黙を埋めることも出来なくて、他人行儀な言葉が出てきてしまう。



774 名前:以下、名無しにかわりましてJUNがお送りします:2011/03/05(土) 23:09:30.33 ID:tudFMSQr0

「それだけ、かな。帰ってもいい?」

「それだけですよ、ばーか」

むう、と眉をひそめて、上目遣いに私を睨みつけながら後輩は言った。
なんだよう、と私が言うと、
後輩はとっとと自分のベースの入ったケースを背負って、
私に肩をぶつけて部屋を出ていってしまった。

「おーい、部屋の鍵は最後の奴が閉めなよー」

「元先輩が最後でしょうが」

そう素っ気無く返されて、ビクっとする。

「……元先輩だなんてさあ」

呟くと、部屋の中には自分しかいないことが、一層はっきりする。
それで、続きは声には出さなかった。

ヤなこと、言うなあ。



775 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:11:22.36 ID:tudFMSQr0

私はジャズ研の元先輩で、軽音楽部の新後輩だ。
ジャズ研の後輩たちとは違う部活にいる。
ジャズ研の先輩たちに教えてもらったことを、ジャズ研の後輩たちには伝えていない。

軽音楽部の先輩たちからは、なにも教わっていない。
梓みたいに、彼女たちを誇りうるほど、私は軽音楽部員ではないのだ。

今になって、もっとジャズ研の先輩たちと仲良くしとけば良かった、
しておきたかったと思う。
そりゃあちょっと鬱陶しかったりもしたけれど、
自分が先輩の立場になってみると、後輩に感謝されないっていうのは、辛い。
後輩がいないっていうのは、辛いなあと今になって思う。

「……やだやだ」

そう言って部屋を出て、鍵を閉める。
廊下の窓の張に、まだ冬は残っているというのに、せっかちな蝶が止まっていた。

「もう春だ」

本当は最年長者に成るはずだった部活の部室の鍵を指でいじくりながら、私は生徒会室に向かった。



776 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:12:39.47 ID:tudFMSQr0

生徒会室には和先輩だけがいた。
私が部屋に入っていくと顔を上げてこっちを見た。
その時に、まだ優しい西日が眼鏡に反射した。

「あー、どうも。部室の鍵の返却に来ました」

「あら、音楽室の鍵はもう返されてるわよ?」

「いえ、そっちじゃなくて。ジャズ研のです」

「そう」

それだけ言って、和先輩はまた顔を落とした。
彼女が向かっている机の上にはクリアファイルが置いてある。

コルクボードに刺された釘に鍵を掛けて、私は直ぐに帰るつもりだった。
しかし、何を思ったのか、私は和先輩の隣に座った。
和先輩はちらと私のほうを見て、チョコレートクッキーを差し出した。

「憂がくれたの。食べる?」

これで間に合わせたんだろうか。
そう思ったが、私は何も言わずに素直に頂いておいた。

和先輩が見ているクリアファイルには、文字がぎっしりと書かれたプリントが入っている。
見てみると、上のところに大きな字で

"部活動代表者が提出物の期限を破ったときの対応について"

と書いてある。



777 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:13:41.50 ID:tudFMSQr0

「あー、噂の引き継ぎ手引きですか」

「噂にはなってないわよ」

和先輩はふふ、と微笑んで私を見つめた。
またクリアファイルに視線を戻して、何気ない風に言う。

「ジャズ研と軽音楽部は兼部?」

「いいえ、ジャズ研のほうは辞めましたよ」

「思い切ったことするのね」

「本当にねー」

「ちょっと、後悔してる?」

いいえ、と言うべきだった。そしてそれは即答するべき言葉だった。
けれど、一瞬喉に詰まったなにかは、返事を遅らせる。
遅れた返事は、大きく姿を変えた。

「ちょっと。本当に、ちょっとだけ」

和先輩は嫌な顔ひとつせずに、やっぱりちょっと淋しそうに笑った。

「そう。よければ話を聞きましょうか」

和先輩はもうクリアファイルを見ていなかった。



778 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:18:13.14 ID:W/ZtyzGTi

「いえ、ただ、私はもうジャズ研の先輩じゃないわけで、それが淋しいんです」

「淋しい、ね」

「淋しい、です。先輩が私に伝えたい事はきっとあったはずで、
 私が後輩に伝えたいこともあったはず、なんですけど。
 それはもう伝えられないわけで」

「軽音楽部に新入部員が入ればオッケーなのかしら」

「そういうんじゃないですね。なんていうか、こう、流れみたいなのが必要というか」

「むつかしいこと考えるのね。意外だわ」

パタン、とクリアファイルを閉じて、それを本棚に置き、和先輩は言った。

「一緒に帰りましょうか」

「ええ」

そうして私も立ち上がって生徒会室を後にした。
扉が閉まるときに振り返ると、生徒会室には西日が溢れていた。
春がそこを侵略しようとしていた。



779 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:20:08.14 ID:W/ZtyzGTi

校門を通り過ぎた辺りで、和先輩は柄にも合わず足元の石をぽっけと蹴飛ばした。
その石の行方を見届けた後で、独り言のように言った。

「私はお堅い感じだから、後輩ともあまり親しくないし、
 卒業した後に残してあげられるのもあんなクリアファイルぽっちね」

すたすたと真っ直ぐに歩いていく割に、口調は落ち込んでいる、ような気がした。

「淋しいわね。唯たちが羨ましい」

私も、梓が羨ましい。
傷の舐め合いだ。心地がいい。出来ることならばいつまでもこうしていたい。
けれど、確実に近づいてくる春は、和先輩に変な力を与えたらしかった。

「でもま、しようがないか!
 今さらどうにもならないことで悩むのも馬鹿馬鹿しいわね」

さっき蹴飛ばした石に追いついて、通り越し、しばらくして別の石を拾い上げた。
折よく私たちは川にかかる橋の上にいた。
それで、和先輩は遠慮無く石を投げることが出来た。
石は水面に連続して広がっていく波紋を作った。
それを見ていると、やっぱり羨ましいという気持ちが強くなってきた。

「なんか、ないですか」

「うん?」

「なんか、伝えておきたいこと、ないですか」

和先輩はまたちょっと淋しそうに笑って、逆に尋ね返してきた。

「どんなこと、伝えてほしい?」



780 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:21:10.60 ID:W/ZtyzGTi

ああ、なんだろう。
私は何を伝えてほしい、それより、和先輩は何を伝えたいのだろう。
先回りをして和先輩の望みを叶えたら、
それが一番良いのだろうか、そうじゃないのだろうか。

なにも分からない、なにも分かりやしないのだ。
だって結局、私は和先輩の後輩じゃないし、和先輩は私の先輩じゃない。

私はジャズ研の先輩でもなくて、
軽音楽部の後輩でもなくて、宙ぶらりんの状態で、今ここにいる。

我侭言ってもいいだろうか。
失敗してもいいだろうか。
多分いいだろうな。後輩いないから恥ずかしくないし。

さんざ考えてだした私の答えは、不恰好なものだった。
中指と薬指の間を大きく開いて両手を付き出して見せて、鋭く声を上げた。

「ぶたっ!」

ざあ、と葉がさざめく音が聞こえた。
一緒に和先輩の髪も揺れた。
目にかかった髪を払ったとき、彼女は笑っていた。

「……に代わる一発芸をね、一つ」

「ふふ、マジで?」

凡そ生徒会長らしくない俗っぽい言葉を吐いて、くすくすと笑う。
しばらく考え込んだあとで、得意げに微笑んだ。



781 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:22:43.14 ID:W/ZtyzGTi

「私キツネのコンちゃん、チェケラッチョイ」

右手でキツネの形を作って、こん、と私の額をつつく。
脳みそがグラグラ揺れる感じがした。
立っていられない気がした。

「じゃあね」

彼女はくるりと後ろを向いて、私から離れていった。
綺麗な声で歌を歌いながら、歩いて行った。
それはあまり春の賑やかさには合っていないような曲だった。

「sleep like a pillow......」

彼女と比べて、やっぱり梓の歌は下手だ。
私は夕陽とは反対方向に向かって歩いて行く彼女を呼び止めて、言った。

「歌、上手ですね!待ってますから、また音楽室に来てくださいね……」

彼女はこっちを向いた。ちょっと淋しそうな、不安げな顔をしている。
私は急いで付け加える。

「待ってますから、先輩!」

和先輩は優しく笑った。寂寥の影もない。
和先輩は、ひらひらと蝶が羽ばたくように手を振った。

「そうなんだ。じゃあ……じゃあ、また今度」



782 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:24:00.36 ID:W/ZtyzGTi

それからしばらくして、桜の咲いた頃には、私は会計だけジャズ研で担当していた。
後輩は勝手にやめた私のことをまだ嫌っているのか、
私のことを天パー純ちゃん、などとふざけた呼び方で呼ぶ。
そのたびに、私は手でキツネの形を作って見せる。

「私キツネのコンちゃん、チェケラッチョイ」

後輩は馬鹿にしていたが、ある時彼女が鏡に向かってチェケラッチョイをしているのを見た。
なんだか嬉しかった。

軽音楽部は案外真面目に練習をしている。
梓は梓役と澪先輩役を、素で担っている。
私はというと、やっぱり存外マトモなままだ。

そんなある日の放課後、
私は新勧ライブで演奏する予定の曲をイヤフォンから聴きながら音楽室へ向かっていた。
窓の外の桜の木にはすっかり花が咲いていて、
ゆらゆら揺れながら落ちていく花びらが、地面に何層もやさしく積もっている。
それを見て、私はずず、と鼻をすすった。

「花粉症かな……」

なんだか目も痒い気がする。
しかしまあ、演奏には影響がないだろうくらいに考えて、そのまま音楽室に向かった。
到着してみると、音楽室から賑やかな話し声が聞こえる。
梓と憂の二人にしては賑やかすぎる。
二人の声にしては、落ち着きすぎている声が混ざっている。

私はせっかちを抑えながら、手を握ったり開いたりして、ゆっくりと音楽室の扉を開いた。



783 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:26:28.31 ID:W/ZtyzGTi

「わかった、ダージリンかしら」

「アールグレイだよ、しったかぶりだね、和さん」

「和さん、新勧ライブで歌ってくれませんか。憂も純も私じゃ駄目だとばかり言うんです」

「そう言われてもね……ちょっと歌ってみてくれる?」

「はい……~、~ん、どうでした?」

「なんていうか……あまり上手くないわね」

「あう」

憂はくつくつ笑った。梓も不服そうな顔をしているけれど笑っている。
そのときに漸く、じっと扉の傍に突っ立っている私に、三人とも気づいたらしい。

「純、遅い」

「今日はね、チーズケーキだよ純ちゃん」

梓と憂が話しかけてくる。いつもの軽音楽部だ。
それに加えて、今日は……今日は和先輩がいる。
和先輩は子供っぽく笑って、言った。

「顔が赤いわ、風邪?」

「花粉症ですよ」

私は右手でキツネの形をつくって、笑って答えた。



784 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:27:22.12 ID:W/ZtyzGTi

終わり
鼻炎の薬もらったから俺は花粉症平気だよ和ちゃん!
さるさんのお供にiPhoneだね純ちゃん!




785 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:34:46.34 ID:jvD75GBf0

おつおつ



786 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/03/05(土) 23:34:57.66 ID:2Dyku79z0

わちゃんが乙って言ってた





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けいおん!の真鍋和ちゃんはチェケラチョイかわいい#2
[ 2011/03/06 21:50 ] 日常系 | 和純 | CM(1)

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タイトル:
NO:1894 [ 2011/05/08 11:04 ] [ 編集 ]

和さわの人が後輩組書くの珍しい

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