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律「どんなに返事がなくたって」#前編 【SFホラー】


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律「そりゃあたしは、部長だからな」

律「どんなに返事がなくたって」#前編
律「どんなに返事がなくたって」#後編




3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:00:50.23 ID:2eIFyN/F0

律「おーい、憂ちゃん」

憂「……あ、律さん、おはようございます」

律「どうよ、調子は?」

憂「………いつも通りって感じです。でも、全然大丈夫ですよ!」

律「……うん、そっか」

いつも通りの、力のない笑顔。張り付いたような笑顔。
私はもうここ数ヶ月、憂ちゃんの満面の笑みを見ていない。

律「……憂ちゃんは偉いよな」

憂「いや、本当に大丈夫なんです!律さん、いつも有難うございます!
  あ、今日も部活頑張りましょう!それじゃ、また放課後に!!」

律「お、おぉ……」

憂ちゃんは、1年生の教室の方向へ走って行った。
随分と汚れた彼女の上靴。私のと比べれば、随分と灰色がかっている。
その後ろ姿を見ながら、今日も一日が始まることを嫌でも実感する。





4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:02:44.57 ID:2eIFyN/F0

放課後

律(今日は私が一番最初って訳か……珍しいな)

いつもは澪や憂ちゃんが先に来ているのだが……

澪「おっす、律」

律「おぉ、澪。あたしより遅いなんて、珍しいじゃん」

澪「いや、ちょっと追試が……な」

律「あぁ、そっか。澪ちゃん、勤勉だけど要領悪いもんな~」

澪「う、うっさい!仕方ないだろ、私は全力尽くしてるんだから!」

律「ははは、冗談冗談。じゃ、梓と憂ちゃんが来るまでダラダラすっか」

澪「……あのさ、律」

律「ん?」

澪「練習より前に、私たち、するべきことがあるんじゃないか?」



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:05:26.35 ID:2eIFyN/F0

律「……………」

澪「わかってるんだろ?」

律「……でも、どうしようもないじゃん、あれは」

澪「でも!どうにかしないと、このままじゃ憂ちゃんが唯と同じ道を辿ることに」

律「じゃ、あれか?私たちが身代わりにでもなるか?
  1年生の教室まで行って?
  いちいち現場取り押さえて、憂ちゃんをいじめてる1年坊をしばくか?」

澪「そ、それは……」

律「無理だろ、そんなの。
  今私たちに出来ることは、軽音部っていう居場所を提供してやることくらいだ」

澪「……………」

律「まぁ、納得いかないのもわかるけどさ。
  けど、憂ちゃんだって憂ちゃんなりのプライドがあるだろ。
  憂ちゃんが助けを求めてきたら、あたしたちが手を差し伸べれば良い。
  けど、その前にしゃしゃり出てくのは、
  憂ちゃんのなけなしの自尊心が、傷ついちまうだろ」

澪「……ごめん」

律「謝んなよ。あたしだって、何かしてやりたいって気持ちは十二分にあるからさ」



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:07:10.55 ID:2eIFyN/F0


――
―――

律「おっす、梓」

唯「あずにゃーん、ちゃおー」

梓「あ、り、律先輩、唯先輩!お、おはようございます!」

唯「?あずにゃん、もう3時だってことは、私だってわかるよ~」

梓「!?す、すみません、こんにちは!」

律「どうしたんだー、梓ー?何か顔微妙に赤いし。何かあったのか?」

梓「べ、別に何もありませんよ!さぁ、練習練習!」

唯「あれ?あずにゃんの鞄の上に置いてあるの、何?」



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:09:14.20 ID:2eIFyN/F0


律「お、まさか、私たちへのバレンタインチョコ?
  照れるねぇ、良い後輩だねぇ?」

梓「………ま、まぁそうですけど」

律「ほぅ~、あたしたちにチョコをあげるということだけでも、
  こんなに照れてしまう中野梓さん、もしかして梓ってレz……」

梓「そ、そんな訳ないじゃないですか!ただ、何となく緊張しちゃっただけです!」

唯「あずにゃん、か~わい~!」

梓「だ、だきつかないでください!!」


―――
――




9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:11:49.00 ID:2eIFyN/F0

律(最近またあの夢を見るようになってしまった……)

律(相変わらずあっちの世界は幸せそうだな……羨ましいぜ)

律(こっちは問題が山積してるっつうのに…)

律(………まぁ、前よりはマシなのかな…)

律(……もっとひどくなってるかも知れない…)

律(でも、澪に言って余計な迷惑かけたくないし……)

律(………どうしたもんか)



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:15:14.53 ID:2eIFyN/F0

放課後

梓「律先輩、おはようございます」

律「お、梓、おはよ」

梓「……珍しいですね、律先輩が率先して練習してるなんて」

律「………ドラム叩いてる時は、余計なこと考えずに済むからな」

梓「ま、そうですね……私も練習しよっかな」

律「そういや、梓」

梓「何ですか」

律「この頃外バンの方はどうなってんの?」



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:18:42.55 ID:2eIFyN/F0

梓「な、何でそんなこと聞くんですか?」

律「だって、お前外バンの練習があるから、
  週2・3日しか出てこれないって言ってたじゃん。でも、最近毎日部室来てるだろ」

梓「……それは、色々こっちにも事情があるんです」

律「そっか。なら良いんだけど。お前が練習出てきてくれるのは、嬉しいんだけどさ」

律「無理すんなよ」

梓「……………心配しないで下さい。全て、順調ですから」

律(この子、嘘つけない子だよな)



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:21:42.00 ID:2eIFyN/F0

律「じゃ、今日はここら辺でやめにすっか」

澪「律、最近どんどん上手くなってるんじゃないか?全然ドラム走ってないし」

律「あー、まぁ、それ相応に練習してるからな」

憂「そうですね!私ももっと練習しないと、置いてかれちゃうかも」

律「どの口がそんなことおっしゃる、ギター始めたの3ヶ月前なのに、
  もう人前に出しても恥ずかしくないレベルまで上手くなってんじゃん」

梓「へー、憂がギター始めたのって、
  3ヶ月前なんですか?てっきり中学からやってるものかと……」

憂「へへへ、実はお姉ちゃんが練習してたの、ずっと聞いてたから」

律「え?そうだったの?」

憂「はい!お姉ちゃん、高校始まってすぐにジャズ研に入ったんです。
  それで、いつも部屋でギター弾いてたんですよ」

澪「そうだったんだ……でも、聞いてただけでそこまで上手くなるとは…」

憂「ギターの教則本とかも読んで、色々研究したしね!」



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:25:08.16 ID:2eIFyN/F0

憂「あれ?」

梓「ん、どうしたの?」

憂「……いや、何でもない………ん、ちょっと忘れ物したから、先帰ってて!」

梓「?」

澪「ちょっと憂ちゃん!もしかして、また」

律「おーっし。澪、梓、帰るぞー」

澪「な、ちょっと律!でも!」

梓「…………」

律「憂、また明日な~」

憂「……はい、皆さん、さようなら!」

梓「……じゃね」

澪「……………」



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:29:14.34 ID:2eIFyN/F0

澪「何でほっとくんだよ、律!あれ絶対、いつもみたいに外靴隠されてるじゃないか!」

律「……お前、逆にあたしたちが声かけたら、憂ちゃんはどう思う?」

梓「…………」

律「憂ちゃんには憂ちゃんのプライドってものがあるんじゃないか?
  子供は親にいじめられてることを報告したがらないだろ」

律「それに、あたしたちがあそこで騒ぎ立てたところで、
  憂ちゃんはあたしたちに負い目を感じるだけだろ」

律「同情されるのが、一番惨めなんだよ」

澪「……でも、私は、少しくらい手を差し伸べてあげても良いと思うけど、
  なぁ、梓?」

梓「…………ごめんなさい、わからないです。
  律先輩の言ってることも、澪先輩の主張も、正しいと思います」

澪「……んー」

律「…………ま、あたしたちに出来る最善のことは、
  毎日部活やって、憂ちゃんの居場所を作ってやることじゃないか」

梓「……そう…ですね」

澪「…………そうなのかな…」



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:31:09.65 ID:2eIFyN/F0


――
―――

律「おーい、あずさー」

梓「……り、りつせんぱい」

律「練習後に会うなんて、珍しいなー。何してんの?」

梓「わ、わたしは、普通に帰る途中です!」

律「?でも、お前の帰り道って、唯と同じ方向じゃなかったっけ?
  私とは正反対の方向のはず」

梓「唐突にアイスが食べたくなって、目に付いたコンビニに飛び込んだら、
  そこから帰り方がよくわからなくなったんです!」

律(………何か、おかしいな……挙動がいつもと全然違う)

梓「それでは、失礼します!」

律「あ、ちょ、ちょっと、梓」

律(……なんだ、あいつ)

―――
――




17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:34:28.50 ID:2eIFyN/F0

律(……梓って、可愛いよな……、どっちの世界でも)

律(……まぁ、顔が同じだから、当たり前なんだけど)

律(それにしても、いつもの夢と、少し違ったな)

律(……今までの夢とは、関係ない夢なのかね。純粋な、ただの夢)

律(考えても、詮ないけど)

律(……行くか、学校)



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:39:51.72 ID:2eIFyN/F0

律「うっす」

澪「……よ」

梓「こんにちは」

律「あれ? 憂ちゃんは今日休み?」

梓「憂なら……お姉さんの面会に行きました」

律「あ、そっか!そういや今日水曜だもんな」

澪「……裁判、来月だったっけ」

律「確か、そうだったはず」

梓「…………こればっかりは、どうも出来ませんね」

澪「なぁ律!もっと私たちが、積極的に憂ちゃんをサポートしてくべきだよ!
  これから裁判も始まって、憂のお姉さんの事件がまたマスコミに取り上げられる! 
  そしたら、報道陣だって憂の家に押し掛けるはずだ。
  憂に対するいじめだって、まだ続いてる!恐らくこれからも続くよ!
  なら、こっちから憂ちゃんの話を聞いてあげるべきじゃないのか?」



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:43:14.47 ID:2eIFyN/F0


律「………………正直、あたしにもわからん」

律「この話は、やめにしようぜ」

澪「なんで、でも、憂ちゃんが居ない今の内に話しといた方が!」

律「………………個人個人が、したいようにする。それで良いんじゃないか? 
  あたしたちで意思統一図らなくても、別にいいだろ。
  あたしはあたしのしたいようにする。それは澪も然り、梓も然り。
  それで良いんじゃないか?」

澪「………でも、部活のみんなでケアしてあげた方が、」

律「うるさい」

澪「!…………」

梓「さ、練習しましょ、練習!話しててもキリがないですから、ほら!」

律「……そだな、練習しようぜ、澪」

澪「………………」



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:45:02.05 ID:2eIFyN/F0

律(……やべー、最近雰囲気悪いな)

律(憂ちゃんが居たら、澪が過剰に憂ちゃんを気遣っちまうし)

律(梓は周囲の空気読むので必死だし)

律(梓自身も、外バンあんまし上手くいってないみたいだしな)

律(……………ここは、部長として、どうにかするべきなんだろうが)

律(……自分の身に置き換えると、
  憂ちゃんには余計な干渉はしないのが吉だと思える)

律(私自身、ひとりぼっちだった時、同情されることが一番むかついたからな)

律(でも、それはあくまでも私の話だし……)

律(………全然わかんね)

律(……田井中律さん、あんたなら、こんな時どうするよ…)



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:48:30.19 ID:2eIFyN/F0


――
―――

律「おい、梓」

梓「何ですか、先輩」

律「お前、あたしに何か隠してないか?」

梓「かくしてないか、と言いますと?」

律「ほら、昨日!お前あたしと会ったとき、すっげぇ挙動不審だったろ」

梓「きのうあったとき?部活のことですか?」

律「違う違う!昨日、部活終わって家帰る時に、
  お前あたしと会ったろ!私と帰る方向全く違うのにも関わらず!」

梓「………え?」

律「え?じゃないよ!もー中野さんったら、先輩に嘘ついちゃいけまちぇんよ?」

梓「いえ、律先輩のおっしゃる通り、
  私と先輩の家は逆方向ですから、会える訳がないじゃないですか」



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)21:57:07.24 ID:2eIFyN/F0

律「へ?お、お前だってコンビニがどうとか」

梓「?それに、私は昨日唯先輩と帰りましたから、
  唯先輩に聞いて頂ければわかるはずですけど」

律「……マジで?」

唯「何話してるの、あずにゃん、りっちゃん」

梓「律先輩が、私と昨日帰り道で会ったって言うものですから」

唯「うーん……それはないと思うなー。だって、あずにゃんはわたしと帰ったし」

律「??ん……そうなのか…でも、あたしは確かに会ったんだよな、昨日の帰りに……」

唯「りっちゃん、きっと疲れてるんだよ!いろんなことに!」

律「色んなことって何だよ……もう学祭も3ヶ月前だぞ。
  練習もいつも通り適当な感じだし……疲れる要因なんて、ありゃしないよ」

梓「適当な感じじゃ駄目なんです!さぁ、練習しましょう!!」

唯「えー、ケーキは~?」



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:02:02.50 ID:2eIFyN/F0

梓「駄目ですよ!澪先輩と紬先輩、
  今日掃除当番やら日直やらで遅いらしいじゃないですか!
  私たちだけでも、早めに練習しましょう!!」

唯「あずにゃんきびしいー」

梓「これが普通です!」

律「………………」


―――
――



律(……わからん、よくわからん)

律(………引っかかるっちゃ、引っかかるけど)

律(……いいや、こっちには考えることが沢山あるし)

律(……………学校行こ)



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:04:09.02 ID:2eIFyN/F0

憂「律さん」

律「………お、憂ちゃん。おはよ」

憂「律さん、もしかして、私、軽音部に御迷惑かけてます?」

律「え?い、いや、全然そんなことないよ、マジで」

憂「…………いや、何か気を遣わせてたら嫌だな、と思って」

律「余計なこと考えんなって。
  むしろ昨日は憂ちゃん居なかったから、大変だったんだぜ
  澪のベースもあたしのドラムも下手だし、
  梓はまぁまぁだけど、憂ちゃんには及ばないからな
  今日は来てくれよ、憂ちゃん」

憂「……は、はい!わかりました」

律「あと、憂ちゃん」

憂「?」



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:05:52.74 ID:2eIFyN/F0

律「もし何かあったら、力になるから」

憂「…………」

憂「………ありがとう、ございます」

律「んじゃ、また放課後に」


律(おっし、4限終了した!
  この昼飯時だけが楽しみで、毎日生きてるようなもんだからな!)

澪「り、律」

律「うぉ!びっくりした!なんだ澪か……どした?何か用か?」

澪「お、お昼御飯、一緒に食べない?」

律「へ? だって澪、お前文芸部の連中と一緒に食べてたんじゃなかったっけ?」



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:08:21.43 ID:2eIFyN/F0

澪「……ちょっと、色々あって」

律「……………じゃ、部室でも行くか」

澪「……うん」


律「そういや、あたし誰かと一緒に昼飯食べたのとか、中学の時以来かも知れない」

澪「え、いつも教室で一人で食べてるの?」

律「そうだけど?」

澪「…………そうなのか」

律「何ですかその憐れみの目は!人間慣れれば何だって可能になるんですよ!
  むしろ今あたしが澪と食べてるってことの方に違和感感じるわ!」

澪「中学までは、一緒に食べてたのに」

律「あーら、あたしから離れてったのは、澪ちゃんじゃありませんこと?」



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:13:09.50 ID:2eIFyN/F0

澪「………ごめん」

律「いや、いいから!湿っぽくならなくて!
  んで、どしたのよ、わざわざあたし誘うってことは、何かあったんだろ?」

澪「……うん、ありがと」

澪「最近、妙な夢を見るようになって」

律「…………ついに澪も見るようになってしまったか」

澪「……多分、4ヶ月くらい前に律が言ってたのと同じ感じの夢」

律「幸せそうなあたしたちが、軽音部で幸せそうにしてる夢だろ?」

澪「うん……メンバーは、私と律と梓、
  あとは憂ちゃんみたいな人と、どこかで見覚えある人が居る。憂ちゃんは居ない」

律「憂ちゃんみたいな人は、憂のお姉さんの唯で、
  残りの1人は、学祭延期の原因となった、琴吹さん」

澪「!?琴吹さんって、あの琴吹さん?そう言えば、どこかで見たことあると思ったら……」

律「まぁ、学校全体の葬儀もやったし、新聞にもばんばん出てたからな」



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:14:47.31 ID:2eIFyN/F0

澪「………でも、憂のお姉さんと琴吹さんって」

律「はいはーい、そこらへんで終わりにしとこうね、澪ちゃん。
  夢はあくまでも夢だから」

澪「でも、一時期、律あれが本当のことだー、とか騒いでたじゃん。
  私も、あの夢は他の夢と何か違う気がするんだ」

律「……いや、夢は夢だろ」

澪「夢から覚めてもはっきりと覚えてるし、細部がやけにリアルなんだ」

律「そ、そんなことより澪、文芸部の奴らは大丈夫なん?一緒に飯食ってたんだろ?」

澪「文芸部? あぁ……辞めた」

律「やめた?お前、掛け持ちしてるって言ってたじゃん!」

澪「軽音部入ってから、居づらくなって……」

律「そうなのか……知らなかった」



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:17:11.78 ID:2eIFyN/F0

澪「……まぁ、私が言ってなかったからな。言うの恥ずかしかったし」

律「……………何か、ごめんな」

澪「……いや、律が謝ることないよ。軽音部に入ったのは、私の選択だし」

律「………………」

澪「……帰るか、教室」

律「…………あぁ」



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:20:39.88 ID:2eIFyN/F0

澪まであの夢を見始めた。
ということは、梓や憂ちゃんも見てると考えるのが自然なのかな?

でも、憂ちゃんは夢の中には出てこない……
いや、あっちの世界で会ったっけか。

梓と憂ちゃんが夢を見ている可能性も、大いに有り得る。
でも一体、あの夢を見る条件ってのは一体何なんだ?
私は、あっちの世界から帰ってきてから、
少しの間あの夢を見なかったけれど、暫くしてまた見るようになった。

……ということは、澪や梓、憂ちゃんが
あっちの世界に行きたくなる可能性もある、という訳で。

また唯の二の舞踏ませない為にも、しっかり対策しないとな。
何故私が対策しなけりゃならないかは、分からないけどさ。
4ヶ月前からの一連の流れで、気を配らなくても良いところまで配ってるな、私。
もう少し、気を楽に持つことにしよう。
そうじゃないと、また変な気を起こすことになる。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:24:32.33 ID:2eIFyN/F0


――
―――


澪「律ー」

律「……ん、澪か。どしたん?」

澪「いや、律が柄にもなく険しい顔してるからさ。何かあったのかな、と思って」

律「…………まぁ、あったと言えばあったんだけど。別に大したことじゃないからな」

澪「そう言われると、気になるな」

律「……実はさ」



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:28:49.37 ID:2eIFyN/F0

澪「へー、そんなことが」

律「何か、不気味じゃん?別に大問題でもないんだけど、
  むしろどうでも良いんだけど、釈然としないと言うか……」



澪「……確かに。律が言ったことも本当で、
  梓が言ったことも本当ってことは、有り得ないしな」

律「でも、梓が嘘をついているようにも見えないんだ。
  それに、梓は途中まで唯と帰ってるから、
  唯と別れてから逆方向に向かうとは考えづらいし」

澪「うーん…………不思議だな…」

律「……ま、別に実害はないから、どうでも良いんだけどさ」


―――
――




36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:32:43.03 ID:2eIFyN/F0

律(………梓が、ねぇ)

律(…………)

律(……おいおいおいおい、ちょっと待ってくれよ)

律(………ここ3日間の夢って、もしかして)

律(……………もしかして、もしかしちゃうのか?)

律(……これって、ヤバい?)



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:37:59.02 ID:2eIFyN/F0

昼食時

律(C組だったっけ、梓のクラス)

律(あ、良かった、居る……)

律(成る程、梓には友人も居る訳ですね、わかります)

律(いつもの可愛いあずにゃんだ…)

律(あっちの世界の唯の口癖が移ってる……)

律(じゃ、自分のクラス帰るか……)

律(……と、ちょっと待て)

律(……………)

律(………何だよ、あれ)



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:40:05.92 ID:2eIFyN/F0

目を疑った。疑うしかなかった。
憂ちゃんが、教室の隅に居る。
隅で小さくなっているように見える。

彼女の傍には、誰も居なかった。
まるで彼女を避けるかのように、昼食の机が組まれている。

憂ちゃんの全身は、びしょびしょに濡れていた。
まるで頭上から水でも浴びせられたかのように。

今、季節は冬だが、雲一つない快晴。勿論、雨に濡れる訳もない。
そして、机が、薄黒い。
通常、机の色は白っぽい灰色なのだが、憂ちゃんの机だけ、黒に近い。

さらに。
憂ちゃんの机の周囲に、紙屑、が散乱している。

紙屑?…………違う。
表紙で判断出来る。
これは、教科書だ。私が昨年使ったものと同じ。
世界史Bと、数学Ⅰの教科書。

が、これでもかという程、ビリビリに割かれて
憂ちゃんの机の周囲に放置されていた。

そして。
当の憂ちゃんは。
当の憂ちゃんはと言えば。
ただただ、そこに座っているだけ。
空虚な目をして。顔を歪ませもせず。憎悪に歪ませることもなく。
表情には、何も堪えず。

ただ、そこに、ポツリと、座っているのだ。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:44:44.30 ID:2eIFyN/F0

「梓!!」

 叫ばずには居られなかった。
 考えるより、体が先に動いていた。
 シンと静まり返る教室。
 梓が狐につままれたような表情で、こちらを見ている。
 一直線に、梓へ歩み寄る。周囲の2年生が、怯えたように道を空ける。

 何故、お前。こんな状況を目にしても、何もしてやれない?
 歩みよってやるだけでも良い。近くにいてやるだけでも良い。
 
 お前、憂ちゃんは軽音部の仲間だろ?
 いつも憂ちゃんと、普通に話してるじゃんか。
 軽音部で、いっつも普通の友人みたいに話してるじゃんか。
 それなのに、何で。何で……

「何もしてねぇんだよ!!」

 梓の胸倉を思い切り掴む。そして、拳を振り上げる。
 
 何で、助けて、やらねぇんだよ。
 何故、助けて、やれなかった?
 何で、ここまでなるまで放っておいたんだ?

 下手に干渉されると、プライドが傷つくから。
 同情ほど、辛いものはないから。
 良いじゃん、個人の裁量に委ねとけば。
 居場所だけ、作ってやれば、良いんだよ。
 
 私たちには、何もできないんだ。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:46:56.48 ID:2eIFyN/F0


 ……私だ。
 ……………今まで何もしてこなかったのは、私だ。

「ありがとうございます」
 
 振り上げた拳を、柔らかな手が、しっかりとした力で、押さえつける。
 誰かは、振り向かなくても、分かる。
 
「……私は、大丈夫ですから。律さん、ありがとうございます」
 
「………憂ちゃん」
 視線だけ後ろにやると。
 微かに微笑んだ憂ちゃんが、そこに立っている。
 
 その笑顔を守れなかった。
 その笑顔を、守ってやれなかった。

「……誰も悪くなんかないんです、誰も」

 梓は、涙ぐんでいた。
 憂ちゃんは、空虚な笑みを浮かべていた。

「それに、私、お姉ちゃんの為なら、どんなことでも、頑張れますから」

 私は、どんな顔をすれば良いのか、わからなかった。


 ただ、その場から、逃げ出すことしか、出来なかった。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:49:56.32 ID:2eIFyN/F0

最低だ、私は。
憂ちゃんの為だとか言って、ずっと問題から目を逸らし続けてた。
私は、ただ皆から孤立しているだけだった。いじめられている訳ではなかった。
むしろ、私自ら孤独を選んでいるきらいがあった。

しかし、憂ちゃんは違う。
あれは、いじめられているんだ。
暴力。精神的にも、肉体的にも、苦しめられている。
それじゃなくても憂ちゃんは唯のことで、疲労しているのに……


私は、最低だ。
 


その日、私は部活を休んだ。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:54:16.31 ID:2eIFyN/F0


――
―――

唯「ムギちゃん」

紬「なーに、唯ちゃん」

唯「ムギちゃんって、いつもわたしたちより最初に部室来てるよね」

律「言われてみれば、ムギが後からくるの、見たことないな」

紬「それは、お菓子とお茶を用意する為よ~」

唯「あ、そっか!ムギちゃん居ないと、みんなお茶もお菓子も食べられないもんね!」

澪「いつもごめんな、ムギ」

梓「私たちも手伝った方が、良いんですかね?」



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:57:02.22 ID:2eIFyN/F0



紬「全然!私、こういうの準備するの好きだから!」

唯「ムギちゃ~ん、いつもありがとね!」

律「ムギが居るからこそ、この部活があるってのは絶対あるよな!!
  なんてったって、放課後ティータイムだし!!」

澪「……意味わからん」

紬「ふふふふふふふ」

―――
――




45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)22:59:12.55 ID:2eIFyN/F0

律(ムギ……か)

律(こっちの世界には、もう居ないんだよな……)

律(ムギが居たら、私たちの軽音部も、もうちょっと良くなったかな)

律(……唯もムギも居ないんじゃ、上手くいくはずないのか)

律(で、でも!こっちはこっちで独立した世界だし、
  あっちの軽音部メンバーとこっちのメンバーは、
  名前や外見同じでも人格は全く違うし!!)

律(……………)

律(……うまくいかねーな、何もかも)



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:01:48.67 ID:2eIFyN/F0

今日は土曜なので、学校は休み。
1日中部屋でダラダラするつもりだった。
こんな日くらい、喧騒から逃れて一人で音楽聞きながら漫画でも読むのが、
いいかな、と思ったりもした。

けれど、頭の中では、憂ちゃんの件に関する自己嫌悪や、梓や澪のこと、
そしてあっちの世界のことなんかがグルグル回って、何も考えられない。
しかし、寝るとまたあの夢を見てしまって、頭の中がさらにグチャグチャになってしまう。

……琴吹紬、もといムギ。

そういえば、私はムギに一度だけ会ったことがある。
私が初めてあっちの世界に、文字通り首を突っ込んだ時。
彼女は、言った。私は、あっちの世界のムギだと。

そして、彼女は2つの世界が存在することを、知っている。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:03:48.25 ID:2eIFyN/F0


何か、というのは、夢や2つの世界の仕組み、
そしてあわよくば、どうやったら私たちの世界を「良い」ものへと組みかえていけるか。

最後の望みは、冷静に考えれば詮のないものということは、誰でもわかる。
もしこっちの世界とあっちの世界が完全に独立したものであれば、
こっちで私が幸せだろうがどうだろうが、それは一切関係のないことだ。

律(……それでも)

今の状況は、どうにかして打破しなければならない。
しかし、私の頭に思い浮かぶ限りでは、突破口は見当たらない。
だんだんと、夕闇が漆黒に変化していくように、わたしたちの状況は悪くなっていく。

律(……何か、手掛かりが見つかるかも知れない)

もう二度と行かないと誓ったあの世界に、もう1度行く必要があるのかも知れない。


聡「おねえちゃーん」



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:08:46.79 ID:2eIFyN/F0

律「?どした、聡」

聡「お友達が来てるよー、珍しいね、澪さんじゃないみたいだし」

律「澪じゃない?じゃ、誰が……」

聡「中野梓って人だよー」

律「!?梓、が……」


梓「律先輩、朝早くすみません」

律「……梓、何故あたしの家を知ってるんだ?」

梓「澪先輩に聞きました」

律「そっか、まぁそれは良いけど……」

梓「……………」

律「………………」



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:10:11.06 ID:2eIFyN/F0

梓「………」

律「…………(気まずい……)」

律「あ、あがってく?」

梓「…………はい」


律「……はい、お茶。麦茶だけど」

梓「………ありがとう、ございます」

律「…………」

梓「………………」

律「……昨日は、ごめん」

梓「………いえ、律先輩の、言った通りですから」

律「………あたしは、ただ逃げてただけだからな」

梓「……でも、同情されるのも、辛いと思います」

律「………あたしもそう思ってた。けど、あの状況は訳が違う」



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:11:52.64 ID:2eIFyN/F0

梓「律先輩」

律「?」

梓「だからと言って、律先輩に、身を呈して憂を守る覚悟はありますか?」

律「そ、それは……」

梓「憂の代わりに、肉体も精神も、ズタズタに裂かれて、蹂躙されて、
  これ以上ないくらいの苦痛を引き受けられますか?」

律「………」

梓「……そういうことです。
  私たちは、私たちのできることを淡々とやるしかないんです」

律「でも、そんなの間違ってるだろ!」

梓「じゃ、先輩が守ってくださいよ!手段なんて、いくらでもあるでしょう!!
  自分の手を汚さずに、相手を守るなんてこと、出来る訳ないんです!
  みんな、手頃な言い訳見つけて、善人ぶって保身に走るんだ!
  先輩は、単なる偽善者です。いや、偽善さえ為せていない、傍観者です!!」

律「………っ……」

梓「…………………」

律「…………」



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:15:57.84 ID:2eIFyN/F0

梓「………ごめんなさい。要件だけ言って帰ります」

律「……………」

梓「明日の午後8時までに、音楽準備室のあの穴を塞いで下さい、
  もう誰も入れないように、そして、出られないように」

律「!?」

梓「それだけです。それでは、失礼します」

律「ちょっと待て梓!お前、何する気だ?何故、穴のことを知ってる?」

梓「……それは、律先輩が穴を知っている理由と、同じだと思いますよ。それでは」

律「待て、梓!!」

律「………………」

律「…………」



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:20:47.58 ID:2eIFyN/F0

これから、どうする?
梓は、あの穴のことを知っている。

まぁ、夢はそのことを暗に示していた訳だから、それにはさして大きな驚きもない。
しかし、疑問点はいくつか存在する。
一番大きな疑問は、何故梓は私に穴を塞ぐことを依頼したのか。
これ対しては、様々な答えが考えられるが、一番有力なのは……

律(唯パターン、か……こりゃ、まずいかもな…)

そして、2つ目の疑問は、何故私が穴の存在を知っていることを承知していたのか。
……これは、わからないな。何故なんだろ。
私は、梓に対して夢のことは一言も話してない、はずだ。

他にも様々な疑問は存在するが、多くはわからないことだらけだ。
今すべきことは……唯の時と同じことか。

律「行きますか。気は進まないけれども」



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:24:18.77 ID:2eIFyN/F0

土曜日の昼下がり。
色んな部活が練習こそしているものの、平日より人はまばら。
簡単に部室へは行くことが出来た。

律(梓に電話しても、つながらないし)

律(メールも送れない)

律(……もう既に外の世界に行ってるなら、繋がらなくて当然、なのかも知れない)

律(………唯の時は繋がったんだけどな…けどあれは、
  同じ世界に居たからな……仕組みがよくわからん)

律(……じゃ、行きますか)

今回の目的は、梓が梓を殺さないようにすること……ですか。
前回とほぼ同じ。いや、前回は唯の殺人をサポートしようとしてたんだけどさ、当初は。
それにしても、どうやってあっちの世界の梓を守ろうか。

また説得か?前回の学祭ライブみたいには行かないぞ?
やっぱここは、梓を自分の部屋に監禁でもして、説得でもするべきだったか。
……でも、あまりにも梓の意図が不明確すぎる。
そんなにあいつ、そんなに不幸だったか?異なる世界に行きたくなるほどに?



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:27:43.39 ID:2eIFyN/F0

外バンと上手くいかないとか言ってたけど、
あの頃の唯や今の憂ちゃんに比べりゃ、随分と幸せだろうに。

律(……あー、もうわかんねーわかんねー、とことんわかんねー!!)

律(……行ってから考えるしかないか)

それに、私自身も、色々なことを知りたい。
別世界のこと、向こうのムギのこと、そして、幸せな生活の「ヒント」のようなもの。

音楽準備室のドアを開く。
3ヶ月前と、全く変わらない状況。
古ぼけた楽器や段ボール類。埃っぽい臭いが鼻をつく。

律(変わんねぇな、ここも……)

律(確か穴は……お、あったあった)

部屋の隅に存在する、穴。
そこからは、微小な光が漏れており、穴の輪郭が浮かび上がっている。
しかし、注意して見ないと絶対に分からないであろう。それくらい、微小な光だ。

そして、今回、穴は塞がれていなかった。
少々のためらいはあったが、意を決して、穴へと向かう。



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:31:11.30 ID:2eIFyN/F0

?「やっぱり来ましたね」

律「ひぇ!!」

突然の声に驚いて、頭を穴の淵に思い切りぶつけてしまう。

律「い、痛っ、だ、だ、誰?」

?「誰って、私ですよ、私」

穴に入る前の準備室(つまり、私たちの世界の準備室)にて、私はその人物と対面した。

?「久しぶりですね、りっちゃん」

律「……ム、ムギ、さん?」

紬「ムギって呼んで下さい。その方が自然じゃないかしら」

薄暗くても、その顔ははっきりと拝むことが出来た。
ブロンドと白髪の中間色を持つ髪、白い肌、綺麗な顔立ち、少々太い眉。
それは、一時期新聞やニュースでで何度も何度も見た、
あの殺された琴吹紬の顔と、全く同じだった。



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:38:48.88 ID:2eIFyN/F0

紬「驚かせてごめんなさい。時間がなかったものだから」

律「……………こうして会うの、2回目ですよね、ムギさ……じゃなくて、ムギ」

紬「えぇ、そうね。2回目ね。毎日会ってるような気もするけれど、2回目ね」

律「……まぁ、それは良いんだけど。んでもって、」

紬「梓ちゃんのことかしら?」

律「……エスパーかい、あんたは」

紬「ふふふ、エスパーよ、私は」

律(どうにもやりづらい、この人は)

律「で、何で知ってるの?そのこと?」

紬「知りたい、りっちゃん?」

律「そりゃ知りたいよ。その為にこっちに来たんだから」

紬「じゃ、条件があるわ」



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:41:38.94 ID:2eIFyN/F0

律「?な、何だよ」

紬「あなたたちの世界のことについて、教えて欲しいの」

律「……………べ、別にいいけどさ」

紬「交渉成立ね。じゃ、こっちの部室に来てくれる?」


また目にする、こっちの部室。
作りは私たちの世界の部室と全く同じなのだが、細部は完全に違う。

私のドラムはあんなに立派じゃないし、落書きで一杯のホワイトボードもない。
5人掛けの机の上には、ティーセットが置いてあって。
ご丁寧にカップが二つ置いてあるのは、私の分とムギの分ってことだろう。
極めつけには、ケーキまである。ここ本当に、軽音楽部の部室なのか。

紬「お茶をどうぞ」

律「あ、ありがと……」

紬「ショートケーキとモンブラン、どっちがいいかしら?」

律「じゃあ、ショートケーキでお願いします」

紬「どうぞ」



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:45:29.95 ID:2eIFyN/F0

律「どうも(……あ、お茶美味しい…)」

紬「美味しい?」

律「うん、何か落ち着いた……」

紬「良かった。何かりっちゃん、焦ってるみたいだったから」

律「………緊張が、スッと抜けてくような、そんな感じ」

紬「りっちゃん達の部室にも、お茶は常備しといたほうがいいわよ」

律「帰ったら、澪と相談してみるよ」

紬「ケーキも召し上がれ」

律「はい、では遠慮なく……って、ちょっとちょっと、ムギさんムギさん」

紬「ムギって呼んでよ」

律「……ムギ。情報交換をするって言ってなかったっけ?」

紬「そうだったかしら?」

律(やっぱりやり辛い……)



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:50:00.04 ID:2eIFyN/F0

紬「そう焦らなくても大丈夫よ。
  今日はこっちの他の軽音部メンバーは、旅行に行ってて居ないから」

律「へ?そ、そうなん?」

紬「そう。だから、他の軽音部メンバーに見つかる心配は、ないのよ」

律「……そっか、それは良かった。一つ、心配ごとが減ったよ」

紬「そして、あなたたちの世界の人間は、あなたと梓ちゃんがこっちに居る」

律「……やっぱり梓はこっちに居るんだ。で、何でムギがそれを知ってるの?」

紬「私が梓ちゃんをかくまってるからよ」

律「…………もう一杯お茶貰っていいか?」

紬「ええ、どうぞ」

律「………………今、かくまってるって言った?」

紬「えぇ、ここ2,3週間、ずっとかくまってるわ」

律「……それは、『私たちの世界の梓を』ってことだよな?」

紬「そう。『あなたたちの世界の梓ちゃん』よ」

律「……これまた難儀な話になって参りましたね…」



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金)23:55:31.42 ID:2eIFyN/F0

紬「りっちゃんごめんね、混乱させてるみたいで」

律「……いや、大丈夫。こういうの慣れっこだから」

伊達に3ヶ月前の事件を切り抜けた訳ではない。
でも、やはり混乱しているものは混乱しているのだが。

律「……聞かせてくれる?詳細を」

紬「わかったわ。少し長くなるけれど」

そしてムギは、粛々と語り始めた。


・・・・・・・・・




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[ 2010/09/25 09:20 ] SFホラー | | CM(0)

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