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紬「心に響いたの」#4 【シリアス】


SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)@VIPServiseより


http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi?bbs=news4ssnip&key=1294153656&ls=50


紬「心に響いたの」#1
紬「心に響いたの」#2
紬「心に響いたの」#3




132 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/05(土) 10:54:20.24 ID:luiyRSXr0

「合宿を、しましょう!」


七月――
夏休みも近付き、生徒達が一斉に浮かれ始める頃。
それは私も例外ではなく、今回は既に別荘の予約が済んでいる。
恐らく今年も去年と同じで、遊びが中心になると思うけれど。

『去年は合宿したんですか?』

「ええ。楽しかったわぁ」

そう、去年の合宿は楽しかった。あの時は聴力に何の問題も無かったし。

「合宿には賛成。ムギはいいのか?」

「ええ、もう別荘も手配しているの」

「まさか、前より、大きい別荘なの?」

「去年は皆が『これでも十分』って言ってくれたから、
 同じ所……梓ちゃん、どうしたの?」

見やると、梓ちゃんが頭を抱えている。

『別荘って、もう別世界のような話ですから。ちょっと驚いてます』

前回は皆も驚いていたし、当然梓ちゃんも例外ではないだろう。
しかし今回は、梓ちゃんの歓迎も兼ねているんだ。
是非来てもらいたかった。





133 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/05(土) 10:56:01.62 ID:luiyRSXr0

「合宿と言っても、強化合宿とかそういう難しいのを考えなくてもいいの。
 海で泳いだり、バーベキュー、花火も。
 ちょっとした息抜きよ。梓ちゃんも部活を頑張っているでしょう?」

ご褒美だなんて偉そうな事を言うつもりは無いけれど、
思えば部活中も気を張ったままでいる彼女には、少しでも楽しんでもらいたい。

『私なんてまだまだです。あまり上手く行ってないですし』

「もう、そんなに気にすることはないのよ?
 それで梓ちゃん、参加してくれる?」

『是非』

笑顔で答えてくれた。

「今のところ梓はどれぐらい手話出来んの?」

『恥ずかしいから、絶対やりません』

「あずにゃん照れ屋さんだねぇ」

「でも梓ちゃん、手話は頭で覚えるより実践の方が早いのよ?」

梓ちゃんは一しきり考えて、俯いたまま書いた。

『じゃあ……ムギ先輩と澪先輩、あとで見てもらえますか?』

これはまた意外な名指しで。
実は教えを乞うならりっちゃんが一番良いのだけど。
でも頼ってくれたのは嬉しいし、それには応えたいと思う。



134 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/05(土) 10:58:21.04 ID:luiyRSXr0

「なんで私達じゃ駄目なのー?」

『馬鹿にされそうで嫌です』

二人に限ってそれは無いと思うけど。

「じゃあ、部活が終わったら少し残りましょう?
 澪ちゃんもそれでいい?」

「分かった」

唯ちゃんとりっちゃんはしきりにぶーたれている。
まぁきっと、扉から覗いていたりするんだろう。


「指文字は一通り覚えられた?」

『一応は……多分ですけど』

酷く曖昧だ。
となれば何かお題……

「じゃあ、『あずにゃん』ってやってみて?」

「何でよりによってそれなんだ?」

アルファベットを最初に覚える時と同じように、まず自分の名前からだろう。
それに中野梓、より拗音を含むこちらの方がお題としては適切かと思う。

「あ、ず、に……や? ……ん」

断られるかと思ったけど、やってくれる辺り良い子だ。



135 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/05(土) 11:00:46.22 ID:luiyRSXr0

「小さい『や』は手前に引く、ね?」

反復し、覚えようとする梓ちゃん。
と、軽く息を吐いて筆談を始めた。

『すみません。
 いくらなんでも、覚えるのが遅過ぎ、ですよね』

「……気にしないで。
 梓ちゃんは覚えようとしてくれているじゃない。
 私は、成果主義じゃないわ。ありがとう、梓ちゃん」

そう、本当に感謝している。
もし彼女が望むなら、練習相手になんて何度でもなる。
と、澪ちゃんがこちらをじっと見ていた。

「どうしたの? 澪ちゃん」

「いや、仲が良いなってだけだよ」

「つまりヤキモチ?」

「変な事言うな。
 それじゃ、もう少し会話を続けてみようか。梓」

やはりというか、梓ちゃんは読む方の練習はしていなかったようだ。
発話が無くなれば、ほとんど読めていない。
上手くなる為の練習だけど、梓ちゃんの表情は大分沈んでしまった。



136 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/05(土) 11:02:13.51 ID:luiyRSXr0

『悔しいです。こんなに、何も出来ないなんて』

声を掛けたくても、掛けられなくて。
何も出来なくて悔しいのはこっちの方だ。

澪ちゃんが一歩前に出たかと思うと、そのまま梓ちゃんを抱きしめる。
そしてぽつりぽつりと梓ちゃんの耳元で何かを呟く。

頭を撫でる手は優しく、表情はまさに聖母のそれ。
小さな体は文字通り優しさに包まれていた。


「もう大丈夫だよ、ムギ」

「うん。ありがとう澪ちゃん。
 ……何て話したの?」

「結構恥ずかしいこと言ったからな……内緒、でいいか?」

離れた梓ちゃんの表情は
何か吹っ切れたような顔つきで、見ていて安心出来た。
一連の会話を読み取れなかったのが少し残念だけど。

「そろそろ、帰ろうか」

鞄を持ち、立ち上がる。
澪ちゃんと梓ちゃんは扉の方を凝視していた。

「にしても、あいつら覗くの下手だな」

やっぱり澪ちゃんも気付いていたのか。
梓ちゃんも同じ様子だった。




121 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/01/30(日) 22:30:52.21 ID:gQlRffif0

出来れば「」の前にキャラ名を入れてくれたら……



123 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/01(火) 23:05:21.52 ID:rB9HKo0Go

タイトルに惹かれて来た
つらいな
5人の中でムギを選んだ理由は何だ?





137 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/05(土) 11:06:17.84 ID:luiyRSXr0

話が進んでないけどここまで

>>121
口調いじって分かり易くなるようにするからそれで勘弁

>>123
酷い話だけど他キャラの立ち回りを考えた時の消去法
ただ新歓の件はやりたかったから梓は選択肢に無かった




138 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/05(土) 17:57:20.56 ID:PVwHUBUHo

そうなのか
昔vipにあった唯が自閉症で澪が全盲で
紬が聾唖で律が両足欠損のssの影響かもしくは作者と思ってた





139 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/05(土) 22:47:45.84 ID:luiyRSXr0

>>138
タイトル教えてくれないか?
気になる




140 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/05(土) 23:02:07.03 ID:xVNLZkcTP

>>139
律「平沢唯さん?ああ、あの自閉症の」唯「」





参考URL
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1250517553

リンク:http://mimizun.com/log/2ch/news4vip/1250517553/





141 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/06(日) 11:51:02.75 ID:Sa8Gp2sz0

>>140
ありがとう
参考になった



143 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 10:24:38.65 ID:jVmWk9560

合宿当日。駅前に集合となった。

『お嬢様、行ってらっしゃいませ。道中お気を付けて』

「ありがとう斉藤。行ってくるわ」

斉藤に送ってもらい、到着する。
集合時刻の30分前だけあって、さすがに誰も来ていない、か。

ベンチに腰掛け、目を瞑る。
別荘に着いたら、海へ行って、皆でご飯食べて、花火もして……
この合宿で、もっと梓ちゃんと仲良くなれたらいいな。
もちろん皆ともだけれど。


とんとん


背中を悪寒が走る。
肩を叩いた手を、思い切り振り払った。

「あ……」

梓ちゃんだった。
勢いよく叩き過ぎたせいか、手の甲を押さえている。

『すみませんでした。
 見えない所からいきなり触るなんて、驚かせるだけでした』

深く頭を下げられた。



144 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 10:26:30.43 ID:jVmWk9560

「違う、今のは違うの。
 謝らないで……お願い……!」

そうだ梓ちゃんのせいなんかじゃない。
目を閉じていた私が悪いんだ。
それに時間から考えて誰かが来ることくらい分かっていたはずなのに。

と、視界の端にりっちゃんの姿を見つけた。
手を伸ばし、梓ちゃんの手を取る。

「お願い。さっきのことはもう気にしないで。
 手、痛かったでしょう? ごめんなさい、梓ちゃん」

折角の楽しい合宿なんだ。
これ以上引き摺る必要が無い。最悪、皆の雰囲気を悪くしてしまう。


「どーしたんだよ二人共。手なんか繋いじゃって」

「うふふ、なんでもないのよ?」

よく見れば、梓ちゃんの表情はどこかぎこちないが、恐らく大丈夫かと思う。
いくら相手がりっちゃんでも。

『律先輩、思ってたより早いんですね』

「思ってたより、って失礼だろ……」



145 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 10:28:28.69 ID:jVmWk9560

「そうだ、梓ちゃんは水着持ってきた?」

こくん、と頷く。
海に出られることを確認して、鞄から防水筆談シートを取り出す。

「今の内に渡しておくわね。これなら海でも使えるから」

差し出すが梓ちゃんは受け取らず、吹き出していた。
何か、変な事をしただろうか?
不安に思っていると、梓ちゃんも鞄から筆談シートを取り出す。

『私も用意していたんです』

同型の筆談シートだ。
さすが、梓ちゃんはしっかりしていた。

「……二人共、息ぴったりじゃないか」

『面白い事もあるものですね。
 でも折角持ってきてもらったんだから、ムギ先輩のを使わせてもらいます』

「はい、どうぞ」

梓ちゃんは受け取ったペンとシートを鞄に仕舞う。
私は、別にどちらを使っても気にはしないんだけどなぁ。

と、向こうから歩いてくる澪ちゃんと唯ちゃんの姿が見えた。



146 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 10:30:12.57 ID:jVmWk9560

電車に揺られ、目的の駅に到着する。

「それじゃ梓ちゃん、ここからちょっと歩くわ」

その道中のこと。

『まさか別荘にお手伝いさんが居たりは、しませんよね?』

「そのつもりだったらしいけれど、断っているの。
 さすがに皆も居心地が悪いと思うから」

筆談を待っていると、梓ちゃんの体が歩く勢いそのままに前に浮く。

「梓ちゃんっ!」

踏み込み、手を伸ばして支えた。

「ふぅ……梓ちゃん大丈夫? 段差には気を付けてね?」

なんとか間に合い、地面との接触は避けられた。
彼女はその場に足を止め、ペンを走らせる。

『ありがとうございます。
 もう、歩きながらの筆談は止めた方がいいですね』

「……危ないし、その方が良いかも……」

鞄にメモ帳を落とし、歩き出す。
何か、一切の発言を許さないオーラが背中から滲み出ていて、
なんだか梓ちゃんが怖かった。

地に吸い付いた足がなかなか離れず、何か声を掛けようと口を開いた。
それでも梓ちゃんは歩みを止めずにいて。
それは声が出せていなかったのか、無視をされたのか分からない。



147 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 10:31:51.35 ID:jVmWk9560

到着。
するやいなや、唯ちゃんとりっちゃんが砂浜に向かって走る。
そして息を吸い込み、二人で何かを叫んでいるようだ。
去年の事から想像するに、「うみだー」といったところだろうか。

「ほら、ムギちゃんも一緒に」

「え? 私?」

戻ってきた唯ちゃんに手を引かれ、足を踏み入れる。
熱い砂に足を埋め、思わず転げそうになった。

「なんでもいーから叫ぼう!」

「せーのっ!」

半ば強制的に連れてこられ、しかも打ち合わせ無しでいきなり始まる。
海だ―っ。
声を張り上げたつもり。
内容は二人と同じつもり。
二人の言いたい事を、私はちゃんと理解出来ていたのだろうか。

「はっ……はっ……!」

一度叫んだだけで、肺が酸素を求める。
あまりに久しぶりのことだったから、驚かせてしまったかもしれない。
なんとか息を落ち着かせた私の肩を、りっちゃんが叩く。



148 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 10:33:21.88 ID:jVmWk9560

「よし、まずは荷物置いて、海水浴だな」

「私……ちゃんと出来てた、かしら……」

「良い叫びっぷりだったよ。ムギの大きな声なんて久しぶりに聞いた」

それはそうだ。声量を自分で判断出来なくなってからは確かに無い。
いや、正確には失聴直後の一回があったかな。


「梓ちゃん、可愛い水着ね。似合っているわ」

彼女は、可愛いピンクのワンピースだった。

『ムギ先輩も、素敵ですよ』

嬉しいことを言ってくれる。
こういう恥ずかしい事を正面から伝えられるのは、筆談の長所だろうか。

『澪先輩のインパクトが強過ぎて、私達は全体的に霞んでいますけど』

「うん……そうよね……」

あのスタイルにあの水着では、仕方がないか。
私も去年はショックを受けた。

思えば……食事量は減らしているのに体
重計は今一つ良い数値を示してくれない。
本当に唯ちゃんが羨ましいな。
それに梓ちゃんだって、ワンピースタイプの水着を着ているくらいだし。



149 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 10:35:30.73 ID:jVmWk9560

「ムギー、どした?」

「澪ちゃんが凄いってことよ」

なるほどね、と澪ちゃんを見つめるりっちゃん。
そんな彼女の肩を叩き、梓ちゃんは筆談シートを見せる。

『羨ましがるのは分かりますけど、ねぇ?』

笑いを堪えている。顔がすごく引き攣っていた。
正直二人共あまり差が無いような……っていけない。

「よし梓……律先輩と向こうで話そうか」

りっちゃんは梓ちゃんの肩をがっしり掴み、そのまま海へ突き落とした。


「おかえりなさい」

『律先輩ひどいです……』

「でも、二人があんなに、
 お互いに遠慮の無いことをし合ったのは初めてじゃないかしら?」

……梓ちゃんなりに、先輩と距離を縮めようとしたのだろうか。
私にはそう感じ取れたのだけど。

『そんなに深い考えは無いですよ。ただの、普段の仕返しです』

それは何て良い事だろう。
つまり仕返しが出来るほどの関係なんだ。



150 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 10:37:25.66 ID:jVmWk9560

『安心してください。律先輩が嫌いってわけじゃないです。
 時々だらしないなぁって思うことはありますけど、
 そこそこ尊敬はしていますから』

それは仕方がないことだと思う。
私の考えでは、りっちゃんは普段はもっと気を張っているんだ。
羽を伸ばせる軽音部だからこそのんびり出来て、
それが真面目な梓ちゃんの目にはだらしなく映ってしまうだけだろう。

「そこそこ、ね。
 私はこの合宿で梓ちゃんの考えが変わればいいと思うの。
 こういう場を設けた以上は、
 私達はもっとお互いの事を知り合わなきゃ。ね?」

『そうですね。それじゃ、ムギ先輩も海に行きましょうか』

差し出された手を掴む。
小さな手だ。触れてみるとやっぱり違うな。

パラソルの下から離れ、二人で砂浜を歩く。
少し前を歩く梓ちゃんの表情は、
あくまで平坦で、何を考えているのか分からない。

私はこんなにドキドキしていて、顔はきっと強張っているし、
手が汗ばんでいるのに、彼女は平気だなんて何か嫌だ。

軽く声を掛けた。ちょっと口が震えてしまったかも。
向けられた表情は今まで通りで、それが一瞬で驚嘆の物に変わる。
横から飛び込んできた影に、梓ちゃんは押し倒された。

「ゆ、唯ちゃん……?」

いつもの光景だけど、屋外で、
しかも水着で行われているのはちょっと……刺激がある。



151 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 10:39:53.36 ID:jVmWk9560

ヒドイよあずにゃん! ムギちゃんとばっかりいちゃいちゃして!

違います! っていうか背中が痛いです! 離れてください!

あずにゃん分が足りないんだよぉ~!


なーんて。
ちょっと想像。読めないけど、きっとこういう流れだろう。
この二人の、この絡みは何度も見てきたから。
梓ちゃんが先に折れるのも分かってる。

梓ちゃんは押し倒されてがっちりとホールドされている。
あれでは唯ちゃんが満足しない限り逃れられない。
さすがに可哀想に思えたので、とりあえず助けてあげよう。

「唯ちゃん、梓ちゃんが困っているわ」

「いや、これぐらいでは足りません!」

と、私に伝える為に両手を離す唯ちゃん。
その隙を突いて、梓ちゃんの反撃。
逆に唯ちゃんが押し倒されるようになった。

「梓ちゃん、大胆……」

なんだろう、唯ちゃんの顔が心なしか色っぽく見える。
それに反応したのか、
梓ちゃんは見る見るうちに真っ赤になり、海へ向かって全力疾走。

「あはは、逃げられちゃったぁ。あずにゃんはやっぱり照れ屋さんだね」

多分あれは、咄嗟の行動故に予想外の結果になってしまって驚いたんだろうな。
何にせよ、唯ちゃんとの仲は相変わらずだけど、それでも安心できるものだった。



152 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 10:42:02.26 ID:jVmWk9560

「それじゃあ皆、
 使ったお皿とかは簡単に纏めておいてね。あとで私が洗っちゃうから」

夕食が終了し、あとはしばらく休憩して練習再開となる。
その間、後片付けをしていようかと思った。

『わたしも』

「本当? ありがとう梓ちゃん」

簡易手話で伝えてくれた。
小さな事でも、意思の疎通が出来るのは嬉しいものだ。

食器を持ち、
梓ちゃんと共にキッチンまで向かおうとした私を、
りっちゃんが引き止める。

「折角だから、じゃんけんで負けたヤツ、二人にしないか?
 ムギばっかりにやらせるのは悪いよ」

あくまで自分がやるとは言わない。
勝負の結果、言い出しっぺのりっちゃんが負けるのもまた面白いだろう。


「じゃんけん――ぽん!」


「悪いな。結局ムギがやることになって」

「気にしないでね。じゃんけんだもの」

「まー、私も負けた訳だけど」

結果として、私とりっちゃんが皿洗い担当。
しかも一回で勝負が決してしまったのだから面白い。



153 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 10:44:26.67 ID:jVmWk9560

食器を洗い始めると両手が塞がる為、会話が無くなる。
と言っても、皿洗いは個人作業であるし、それで問題はないのだけど。

「面白いように分かれたわね、りっちゃん。
 もしかしたら裏で何か仕組まれてたりして」

彼女は手に持つお皿とスポンジを置く。
それもなんだか乱暴に見える動きで。

「それはないだろ。いつもそういうのを言い出すのは私だし、
 ……少なくとも、私達がムギを――――ありえないから」

いけない、読めなかった。

「ごめんなさい。私を、何って?」

「ムギを、騙す、裏切る、絶対しない。
 それだけは絶対にしないし、アイツらにもさせない」

ひどく真面目な表情。いかにりっちゃんが真剣か、それに怒りが読み取れた。

「だからさ、そういう事を言うのはやめてくれよ。
 そりゃあムギは耳が聞こえないんだから、
 内緒で打ち合わせなんて簡単だし、疑うのも分かる。
 でも、やらない。信じてくれ」

「そう、ね……ごめんなさい」

私だって信じていたい。
でもそれは本心か。

根の性格が歪んでしまっているんだから、疑わしいものだ。
無神経でぶっきらぼうな発言も増えたし、
何度も皆を傷付けてきただろう。



154 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 10:46:27.37 ID:jVmWk9560

りっちゃんが、洗ったお皿を手に取る。

「話の続きは、要らないよな」

この話を続ける意味は無い。
どんどん雰囲気が悪くなるし、唯ちゃん達も怪しむだろう。
軽くこくん、と頭を振る。
それを見たりっちゃんは食器を拭き上げ、棚に戻しだす。

「ムギのおおばかやろー、か」

りっちゃんの言葉を思い出す。
間違ってなんていない、確かに私は馬鹿だ。
あの時よりもっと馬鹿になった。



なんでこうなるんだろう。
今日は特に、危ないバランスで居続けている私。
親睦会はただの綱渡りになってしまっている。

不意に口を突く卑屈な言葉は、皆の表情を沈ませ、気まずさを演出する。
自傷の渦は一向に終着する気配を見せてはくれない。

肩に置かれた手が、私の意識を引き戻す。
そうだ、確か今は練習中だった。

「ムギ、具合が悪いのか?」

もちろんそのようなことはなく、どちらかと言えば問題があるのは内側で。
無意識を意識するあまり、反って不自然に、それは表に出てしまう。
時計を見やる。練習を始めてからまだ10分ぐらいしか経っていなかった。



155 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 10:49:46.18 ID:jVmWk9560

「私……先に休ませて」

これじゃ、駄目なんだ。
水面から顔を出そうともがけばもがくほど、沈んで行ってしまう。
濁った水。音もなく何も見えない世界はそんな底無し沼のようで。

「皆、ごめんね。練習、出来なくて」

随分自然に出せるようになった、笑みを貼り付ける行為。
足取りも軽く見せ、皆に心配は掛けまいとする。
言われても聞こえない。背を向ければ後は振り返らず歩くだけだった。


扉を乱暴に開ける。
部屋に用意された5つのベッドの内1つへ倒れ込んだ。

あの時以来の、思考を放棄する為の睡眠だ。
泥のように眠る。とはまさにこのような事を言うんだろうな。
ふかふかの生地は私の体を優しく包んでくれ、眠りを促す。
よほど疲れているのだろうか。あっと言う間に意識が薄れていった。


夢を見た。
それは先ほどまでの私の、巡る思考の続きのようだった。
居るのは水の中。
夢だからだろうか。何も疑問に思わず、私はただそのままぼーっとしていた。



156 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/13(日) 10:51:21.09 ID:jVmWk9560

ここまで




157 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/14(月) 02:05:23.94 ID:DlHCi99mo

お疲れ様です、紬はん・・・・引き込まれますなぁ





159 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 16:17:33.33 ID:eA0eKI1g0

ふと、目が覚めた。
いつの間にか布団が掛けられ、頭は丁寧に枕の上にあった。
誰かがしてくれたんだろうか。

時刻は、午前4時を過ぎたところ。
天井の明かりが点いている。
皆を起こさぬよう、そっとベッドから降りて部屋を出た。

大きく伸びる。
昨日の分を取り返さなくては。
結局合宿初日、私は少しも練習をしていない。
さすがにこれでは皆に怒られてしまうだろう。
早く寝た分早く起き、その時間を練習と、朝食の準備に充てよう。
それくらいはしてもいいはず。


スタジオには既に先客が居た。

「りっちゃん……?」

「もう大丈夫か、ムギ」

「ええ、心配掛けてごめんなさい」

りっちゃんは軽く笑みを返し、またドラムに向き直した。
音を立てないようにしているのだろう。ドラムセットには布が掛けられていた。

「ここは防音設備がしっかりしているから、音を出しても大丈夫よ?」

「……だろうと思ってたけど、なぁ」

ぺいっ、と布が放り出された。



160 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 16:18:59.40 ID:eA0eKI1g0

「りっちゃん、早いのね」

「昨日は早く寝たからな。目が冴えちゃって」

「それでドラムを演奏しに? りっちゃんって楽しそうに叩くものね」

「私は、き、っ、す、い、のドラマーってヤツだからな」

りっちゃんはにへら、と笑う。
その笑みは唯ちゃんに似ていた。

「ちょっと合わせてみるか。さすがに一人じゃ心細くて」

「だったら、皆より一足早く新曲をやってみる? 譜を持ってきているの」

聴力を失ってから、ずっと考えていた物。
聞こえない音を記憶を頼りに引き出して、頭の中で組み立て続ける。
それを一曲分。
家の者に何回も感想を貰って、何回も修正を繰り返した。

自信があるとは言えない。そんなことは間違っても言えない。
こんな風にあっさりと出せた理由は分からないけど、
りっちゃんならしっかりと答えを出してくれるだろう。

「お、桜ヶ丘のベートーヴェンの新作発表だな」

聴力を失った身なら分かる。あの人が偉人なのは当たり前だ。
耳が聞こえないという境遇が同じだけで、やっている事が同じであるだけ。
その功績や実力まで同じようにはなれない。

「あくまでお試しよ。部長の立場から見て、
 これが使えない物だったらそれでも構わないの」

「そんなのやってみなくちゃ分からない。
 やる前からマイナスに考えてどーすんだよ」



161 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 16:20:31.98 ID:eA0eKI1g0

それから、ちょっと二人で簡単に流してみて。
真剣な顔のりっちゃん。この曲に関して色々考えていてくれるんだろう。
そして休憩。

「はい、どうぞ」

「さんきゅー」

りっちゃんの前にカップを置く。
いつもはすぐに口を付ける彼女が、それより先に行ったこと。

「新曲な、良い感じだよ」

「本当? お世辞じゃなくて?」

「当たり前だろ。きっと皆も納得してくれるよ」

納得してくれるのは嬉しい。
でも、何かおかしい所があれば、ちゃんと指摘はして欲しいと思っている。

「ま、この曲に関しては大丈夫だよ。後で皆にも見せようか。
 それで、別の話があるんだ。
 ちょっと真面目な話になるから、出来ればしっかりした返事が欲しい」

話、なんだろう。
今までのどんな時も、りっちゃんは今のような表情はしていなかった。
真面目と言えば真面目な表情なんだけど、
どことなく緊張のような物が混じっているように見える。

「……明々後日、な。ちょっと場所は遠いんだけど、夏祭りがあるんだ。
 一緒に行かないか?」

「ええ、勿論!」

別におかしくもない話。即答できる。
そんな私をりっちゃんが手で制した。

「違うんだ……その、二人で行きたい」



162 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 16:22:04.57 ID:eA0eKI1g0

二人、で。

「それでも構わないけれど……どうして?」

「その時に、大事な話があるからで……」

なんだかよく分からないけれど、
わざわざこうして言い出すということは、
とても大事な話であるのだろう。

そして、それは今言えない事。

「分かったわ。そのデートの誘い、お受けします」

「……」

「だって、二人きりで祭りに行くのよ? デートでしょう?」

りっちゃんは照れくさそうに頭を掻く。
軽く溜め息をついて、立ち上がった。

「もうそういうことにしといてくれ。朝食の準備しよーぜ」

「りっちゃんって、料理出来たの?」

「梓といいムギといい、本当に失礼だな……」


朝食の準備は、どちらかといえばりっちゃんがメインで進む。
手際が良く、かなり出来るようだ。
その姿はやっぱり意外な物で、感心出来るものだった。



163 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 16:23:41.76 ID:eA0eKI1g0

有能な人間、というのはやはりいるもので。

「お嬢様、本日はどちらまでお送りすれば宜しいのでしょうか」

「いいえ、今日は徒歩で駅まで向かうわ。ありがとう斉藤」

「左様でございますか」

現在、私の知る限りで最も手話が上手い人物。
ここまで、どれだけの努力と研鑽を重ねてきたか、想像に難くない。
それも私の為に、だ。

「……もう行くわ。今日は大切な、約束の日だから」

「はい」

服装髪型確認良し、忘れ物は無し、お金も勿論ちゃんとある。

「お気を付けて、行ってらっしゃませ」


結局、今日の事に関しては何も聞かれなかった。
大切な用事であるが故に、
無関心――と言えば語弊があるかもしれない。

そうだ。詮索はしない、というやつだろう。

夕暮れ時とはいえ、夏場。気温は決して低くない。
が、優しく吹く風は髪を運び、体に纏わりつく嫌な感触を飛ばす。
清々しい気分が頭一杯に広がり、
今日という日を良い思い出にしてくれそうだった。

勿論、りっちゃんの言う『大事な話』を気にしていないわけじゃない。
でもわざわざ祭りに誘うぐらいだから、きっと暗い話ではないのだろう。



164 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 16:25:37.34 ID:eA0eKI1g0

電車を乗り継ぎ、現地到着。
少しでもデートという雰囲気を出すために、敢えて現地集合にした。
規模の大きそうな祭りで、辺りはたくさんの人で賑わっている。

りっちゃんを待たせる事がないよう、それなりに早く着くようにした。
しばらくは、このままぼーっと待っていよう。
……時折、敏感になった鼻を突く良い匂いが辛いけど。
すぐにお腹が減ってしまいそうだ。

およそ5分くらいだろうか。
手鏡を覗いて髪を整えていると、前方に影が差す。

「りっ」

ではない。通りで影が大きいと思った。
やっぱり祭りだけあって、こういう人はいるものだな。

如何にも素行が悪そうな、恐らく年は同じくらいだろうか。
男性が1人、私の前に立っていた。

「――? ――?」

私が中途失聴であることを知らないその男性は、
話し方も滅茶苦茶で読もうと思っても読めない。第一読みたくない。

とりあえずこの場を離れてしまわなければ。
無視して背を向け、歩き出す。
と、肩を掴まれた。

「離して、くださいっ」

突然の事に驚いた私は、つい声を荒げてしまう。
それが彼にとって不快だったのか、状況が悪化する。



165 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 16:26:50.50 ID:eA0eKI1g0

仕方がない。
本当ならこんな人、話すだけでも嫌なのだが、
事情を説明してさっさとご退場願おう。

知って尚、初対面の厄介者と関わろうとする度量はなさそうだし。
髪を掻き上げ、補聴器を晒す。
と、私の補聴器を見つめる男性の背後に映るのは、私の待ち人だった。

「すんませーん。その子耳が聞こえないんですよ。
 口説きたかったら手話を勉強して出直してくださいね」

いこーぜ、と私の手を握りそのまま歩き出すりっちゃん。
唖然とした表情の男性を置いたまま。


「遅くなってゴメン」

「ううん、助けてくれてありがとう」

手を引かれ、その場を離れた先のこと。
内容は助けた、とは言い難いものだったが、
あれがあの状況での最善の策だっただろう。
あんなのに、一々構っていられない。

「じゃ、回ろーぜ。はい」

りっちゃんは、ごく自然に手を差し出してきた。

「なぁに?」

「だから、手、繋ぐんだよ。
 逸れたら大変だろ? ほら、特にムギの場合はさ」

それは尤もで。おずおずと差し出した手だったが、
りっちゃんの手が素早くそれを引っ掴む。

「行きますか。ムギ隊員!」



166 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 16:29:16.31 ID:eA0eKI1g0

内容としては極々普通の屋台巡りだ。
どちらかといえば食事が中心だったけど。

りっちゃんはずっと私と繋いだ手を離さず、
屋台の人達の反応は『奇異の目』に尽きる。

それでもりっちゃんは気にせず……
というより話題に出さず、ただ明るく居た。

私は半ば引っ張られるように、
でも楽しんでついて行って、ある程度お腹が膨れた辺りのこと。


「ここに、座って」

そう言ってりっちゃんは、一足先に草むらに腰を下ろす。
周囲の明かりは若干弱く、隣のりっちゃんの表情は読みにくい。
そのまま口を開こうとはしていないりっちゃんに、聞いてみた。

「……大切な話、って、なんだったの……?」

「やっぱ聞いちゃうんだなー」

もしかしてこのまま無かったことにするつもりだったのか。
こちらとしては、りっちゃんとのデート以外に、
「大切な話」の方も大事だったのだけど。

「ムギの耳が聞こえなくなってから……私なりにいろいろ頑張ったよ。
 なんとかムギに触れるようになろうとして、苦手な勉強も頑張った。
 夏休みが終わったら文化祭で……あれからもう一年が経ってしまうんだよな。
 私、ちゃんとやれてたか?
 こんなでも、ムギの事、一番に考えてやってきたつもりなんだ」

「たまに、暴走しちゃうところもあるけど、ね?
 りっちゃんは立派。

 しっかりやれてなくても、
 私は変わらずにりっちゃんと一緒に居たい、って思ったはずよ」

そう、本当だ。
何度も彼女は、私を助けてくれた。救ってくれたんだ。



167 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 16:31:43.82 ID:eA0eKI1g0

「りっちゃんのこと、好きに決まってるわ。
 離れろ、って言われても離れないんだから」

りっちゃんはそのまま地に背を預ける。
額に手を当て、笑っていた。

「サンキュ、ムギ。
 じゃあ、今日誘った一番の理由な」

上体を起こし、空を仰ぐ。
その姿のなんと様になることか。

「本当は、賭けなんだ。
 でも、私は信じてる」

話が読めず。

「私は、ムギと一緒にこれを見に来たかった」


りっちゃんが夜空を指差す。
一筋の閃光が空に向かって一直線に伸びてゆき……
大きな花を咲かせた。
ぱぁっと広がる光の羽。

どうやらここは距離も近いらしく、その迫力は凄まじいものだった。


どおぉん


確かに感じた。
その花火は、私に音をもたらしていた。



168 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 16:33:40.45 ID:eA0eKI1g0

「え、うそっ」

突然の事に、思わず耳を押さえる。
何故聞こえるのだろう。
私はもう完全に聴力を失った。
いくら音が大きくても聞こえないはずなのに。

「やっぱり、分かるんだな」

「どうして……?」

小さく2発。少し空いて大きく1発。小さく1、2、3発。
目を閉じても、それが分かる。

「ちょっと落ち着け。
 ムギも経験あるだろ? 打ち上げ花火っていうのは、お腹に響くものだからな。
 これなら……ムギにも分かるかも、って思ったんだ。
 もし駄目だったら、最低なことするトコだったけど」

そう言われても、落ち着けはしなかった。
強い空気振動がお腹に響く……なんてどうでもいい。

それはただの音で、耳はただ機能している。
私は目を閉じて、ただその音を感じていた。



169 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 16:35:18.11 ID:eA0eKI1g0

「終わっちゃった……」

総花火数は多いはずだったのに、今までの花火の中で最も短く感じた。
充実した時間こそ早く進むもので。
だからこそ、この余韻にずっと浸っていたかった。


目を開ける。
隣にりっちゃんが寝そべっているだけだった。

「もう、良いのか」

「ずっと待ってもらってごめんなさい」

「私は寝てただけだぞ」

まぁ、嘘だろう。
それにりっちゃんに隠し通す気は最初から無いようだ。

「実を言うと、私も寝てたの」

「こんな所で女子高生二人が寝てたのか。そりゃ危ないな」

二人で笑い合う。
こんなに楽しい気分になれたのは、りっちゃんのお陰だ。
もう少し話していたかったけど、さすがに時間も時間で。

「んじゃ、そろそろ帰るか」

飛び上がるように起きた彼女は、私に手を差し出す。
先ほどのような、乙女な雰囲気は無かった為、
私も躊躇なく手を握ることが出来た。



170 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 16:36:22.28 ID:eA0eKI1g0

「実はな、私の賭けはまだ終わってないんだ」

「どういうこと?」

賭けというのはさっきの花火のことか。

「ムギは、打楽器の経験は有るか?」

打楽器……打楽器の類なら、
トライアングルやカスタネットを幼少時に使った事があるような。

「本当に小さい頃にしか触ったことがないわ」

ふんふん、と頷いている。
一人で納得されると困るのだけど。

「夏休み中のいつか、練習に出てこられるか?」

「ええ。基本的にはいつでも出られると思う」

旅行の予定も入っていない。
入っていたとしても、それは軽音部の活動に比べたら些細な事だ。
キャンセルも入れるだろう。

「ムギと私で、ポジションチェンジだ。ムギ、ドラムやれ」

なんて急な提案だ。
ここまで来て大がかりな改革。
そもそもりっちゃんは、ちまちました物が嫌いだったはずじゃあ?

「そんで、この夏休みの内に実践で使えるぐらいにしてしまおう」



171 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 16:37:57.82 ID:eA0eKI1g0

りっちゃんの提案は私を想っての事だろう。

彼女の考えは分かる。
演奏の音量を、体に伝わる衝撃で補完する。
鍵盤に優しく触れて音を出すよりも、
手首を振るってドラムを打ち鳴らす方が全身で感じ取れるはず。

「りっちゃん、随分無茶なことを言うのね?」

「私はいつだって無鉄砲。問題が起こればその場で何とかするタイプだからなっ」

それに、と一旦間を空ける。

「ムギの顔からは、無茶だの無理だのはちっとも感じられないよ」

何故だろう。
まだ分からないのに、彼女は賭けだって言っているのに、
今から楽しみでしょうがなかった。
りっちゃんの言う事ならきっと正しい。信じられる。

「早速、明日からしましょうか?」

「変に火がついちゃったかぁ。真面目なのは私のキャラじゃないんだけどな。
 ……んじゃ明日の昼、部室に集合な」

「せめて10時くらいからにしない?」

「分かった分かった。お嬢様の仰せのままに」

丁寧に頭を下げる。
その姿は、私が普段から見ている家の者の動きとそっくりで、綺麗な物だった。




158 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/19(土) 14:34:21.33 ID:kb6POwXSO

なんというオレンジデイズ…

オレンジデイズの沙絵はピアノとかの高音域は聞き取れてたけど、
このムギは全く無理なのか

あと、沙絵は発音が変になるって理由で
手話のみの会話だったけど、このムギは口でも喋ってる?





172 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 16:43:55.67 ID:eA0eKI1g0

進行が遅いのはすいませんね
本日ここまで


>>158
ムギは完全失聴のつもり
訓練を受けてて、発話+手話ってことにしてるけど、多分活かされない設定




173 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/20(日) 17:13:46.26 ID:jzEa4J7Mo



なんとなく同じような事を考えてたけどドラムに転向とは良い意味予想外だったwwww
ライブハウスの大音響ならドラムやベースの低音は体で感じられるかもって考えてた





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紬「心に響いたの」#4
[ 2011/04/19 16:51 ] シリアス | | CM(0)

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