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澪「唯、今日のエサだよ。」唯「澪ちゃん・・・これ、ゲロだよね?」#中編 【ホラー】









管理人:タイトルの他、血、暴力などの表現があります。閲覧にはご注意下さい。












http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1248789770/l50


澪「唯、今日のエサだよ。」唯「澪ちゃん・・・これ、ゲロだよね?」#前編
澪「唯、今日のエサだよ。」唯「澪ちゃん・・・これ、ゲロだよね?」#中編
澪「唯、今日のエサだよ。」唯「澪ちゃん・・・これ、ゲロだよね?」#後編




343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:06:30.87 ID:B8WgX64e0


梓は携帯を軽音部の部室に忘れたことを思い出し、引き返していた。
部室の前まで来ると、中からすすり泣く声が聞こえる。

梓「・・・唯先輩・・・?」

そっと扉を開ける。

唯は窓の下に座り込み
両手で顔を覆い、肩を震わせて泣いていた。

梓は酷く狼狽した。
唯のこんな姿を見るのは初めてだ。

こんな唯先輩は──厭だ。

梓は唯に駆け寄り声を掛ける。

梓「どうしたんですか?唯先輩。」



344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:08:01.46 ID:B8WgX64e0

そっと肩を抱き慰めるが
一向に泣き止まない。

梓は鞄から、ハンカチを取り出し唯に手渡すと
暫く様子を見ることにした。

──和先輩のことだろうか?
和が亡くなったと伝えられたときは
唯は酷く落ち込んでいた。
それでも、一緒に参列した葬儀・告別式で唯が涙を見せる事は無かった。
梓は、強い人だなと思ったくらいだ。

しかし、あれから二週間は経っている。
今になって、悲しみが込み上げることがあるのだろうか。
梓には判らなかった。

本人に聞くにしても、抜け殻のようになってしまった唯に
和の話をすれば、壊れてしまうのではないかと
梓達軽音部の仲間は心配して、一切話題を出さないように気を配った。

ニュースや新聞でも取り上げられたが
その情報も意識的に遠ざけていたし
全校集会でも梓は唯を心配して、二人部室でお茶をして過した。



346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:10:44.63 ID:B8WgX64e0

それでも、周りからは様々な情報が洩れ聞こえてくる。
(自殺なんだって?)
(川原で首吊りよ。)
(なにかあったのかしら・・・?)
(でも、不自然な死に方だったみたい)
(えっ?やだ、それって殺人とか・・・?)
(馬鹿ね。週刊誌が騒いでるだけよ)
(警察も自殺だって)
(事件かも知れないって、会見で言ってなかった?)

暫くして、和に関する報道はぴたりと止んだ。
梓は、気にする事はしなかった。
正直ほっとしていたのだ。
そして、少しずつ日常は戻っていった。

──唯先輩を除いて。



348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:15:08.95 ID:B8WgX64e0

唯「あず・・・にゃん・・・」

唯は泣きはらした顔を梓に向ける。

梓「何ですか?唯先輩。」

梓は優しく語り掛ける。

唯「寂しいよぉ・・・あずにゃん・・・」

そう言うとまた涙を流した。

梓「わたしが付いていますから、安心してください。」

慰める言葉は散々言い尽くした。もう、掛ける言葉も無い。
梓はそっと唯の頭を撫でる。

唯は、声を上げて泣き出した。

梓「ごっごめんなさい。その・・・」

梓は酷く慌てる。



350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:16:41.75 ID:B8WgX64e0

見ていて辛かった。
梓は唯の微笑む顔が見たかった。
眩しいくらいの笑顔に何度励まされたことだろう。
唯ほど笑顔の似合う人間を梓は他に知らない。

唯の悲しい姿を見ているだけで、胸が痛む。
息が苦しい。
目頭が熱くなってくる。
気づいたときには、梓は泣いていた。

唯「あずにゃん・・・泣いてるの?」

梓「だって・・・だって・・・唯先輩が、辛そうにしてるのが・・・耐えられなくて」

唯「ごめんね、あずにゃん」

唯は泣きながら梓に謝罪の言葉を漏らす。

梓「謝らないでください。私、唯先輩が笑ってる顔が好きなんです。」

だから──泣かないでください。



351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:17:41.76 ID:B8WgX64e0

唯は漸く泣き止むと、梓に抱きついて甘えてきた。

唯が震えているのを梓は体で感じる。

何がこんなにも唯先輩を怯えさせているのか
梓はその時から考え始めるようになっていた。



354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:20:47.68 ID:B8WgX64e0

次の日、梓は憂に話聞いてみることにした。

梓「あの様子は絶対おかしいよ。」

憂「お姉ちゃんが、そんなに・・・?」

既に憂の目には涙が浮かんでいた。

梓「憂は何かしらないの?」

憂「ごめんなさい。」

それだけ言うと憂は俯く。

梓「何か知ってるなら教えて。憂も唯先輩が心配なんでしょ?」

憂は、ごめんなさいともう一度漏らす。



356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:23:52.91 ID:B8WgX64e0

梓「・・・このままで、本当にいいと思ってるの?」

憂「だって・・・だってお姉ちゃん。私が何を聞いても、答えてくれなくて。」

憂は涙ながらに話始める。

憂「ずっと様子が変だったの。ご飯もあんまり食べないし・・・」

憂「私といて笑ってても、あんまり楽しそうじゃないみたいだし」

憂「悩み事でもあるのかと思って聞くと、何も聞かないでって。」

憂「私も本当にお姉ちゃんのこと心配で、必死に話してくれるように頼んでもみたよ」

憂「そしたら、そしたらお姉ちゃん急に泣き出して・・・お願いだから何も聞かないでって」

憂「そんなお姉ちゃん見てたら何も言えなくて、誰かに相談したかったけど・・・」

憂「この事は誰にも言わないでって、何度も何度も・・・」

憂「私に頭下げて必死にお願いするんだよ?」

憂「それに、和先輩が亡くなってから・・・
  お姉ちゃん、私とほとんど口もきいてくれなくなって。」

憂「私っどうしたいいのかっ・・・」

憂はそこで声を詰まらせ咽び無いた。



358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:26:26.11 ID:B8WgX64e0

梓は憂の様子に言葉を失った。
肉親である妹にでさえ、何も言えずに・・・私なんかじゃ
梓は自分なら唯の支えになれると、今まではそう思っていた。
しかし、これではどうしようもないではないか。

憂「私がこんなこと梓ちゃんに話したってわかったら・・・もう・・・」

梓「ごめんね・・・何も聞かなかったから・・・何も聞いてないから・・・」

それ以来、憂とは唯について話をする事は無くなった。



360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:30:26.65 ID:B8WgX64e0

梓は誰もいない軽音部の部室で考えていた。
唯先輩の身に何があったのか。
憂の話からすると、相当怯えているようだ。
──何に?
誰にも相談できないのは、唯先輩の身に危険が及ぶからだろうか。
それとも、憂や軽音部の皆に・・・?

ふと、和先輩のことを思い出す。
いや相談したのだ──和先輩に
そして和先輩は──

はっとして梓はその考えを振り払う。
飛躍のしすぎだ。
私は、唯先輩と和先輩の死を無理やりに結び付けようとしている。

だいたい誰がそんなことを・・・。



364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:35:09.24 ID:B8WgX64e0


その時、扉が開いて律先輩とムギ先輩が部室に入ってきた。

律「よっ。早いな梓。」

紬「こんにちわ。梓ちゃん。」

梓「こんにちわ。」

紬「今、お茶いれますね。」

梓「はい。ありがとうとざいます。」

律「ん?どうした、何か悩み事か?」

律は梓の顔を覗き込んで言った。

梓「いえ・・・」

梓は先輩達に相談してみようかと考える。
しかし、憂のことを思うと口を噤まずにはいられなかった。

少し考えて和のことを口にする。

梓「あの、和先輩のことなんですけど。」



365 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:36:47.11 ID:B8WgX64e0

部室の空気が重くなる。
律は、表情を曇らせて言う。

律「あのな、梓。その事はもう口にしないって約束しただろ・・・」

紬「そうよ、梓ちゃん。もう、済んだことなんだし。」

梓「でも・・・」

律「梓ッ!」

律の怒鳴り声に梓はひっと声を漏らす。

律「唯がいまどんだけ辛いか判らないのか?」

律「他の奴らは唯に無神経なこと聞いてくることもあるけど、
  私達だけは唯を支えてあげようって」

律「そう、みんなで約束したじゃないかっ」

紬「りっちゃん・・・」

紬が律に声を掛けると、律は悪いとだけ言って椅子に腰掛けた。

梓「ごめんなさい。」

梓は沈黙し、部室は張り詰めた空気に覆われた。
誰も一言も発しなかった。



368 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:47:28.36 ID:B8WgX64e0

部室の扉が開く音が聞こえた。

唯「みんな、ごめん遅くなっちゃった。」

唯を顔を見せると、みんなほっとした表情を見せる。

律「おうっ、日直ご苦労!」

紬「おつかれさまでした。」

二人は、明るく唯に話しかけた。
律は梓を睨み付け釘を刺す。
もちろん、梓は何か言うつもりは無かった。

唯「あれ?澪ちゃんは?」

律「そういえば先生に呼ばれて職員室に行ったな。」

唯「そう・・・」

寂しそうな表情を見せる。

梓は何か言葉を掛けたかったが、思いつかなかった。



370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:50:53.96 ID:B8WgX64e0

再度部室の扉が開くと、澪が入ってきた。

澪「ごめん、遅れた。」

唯「澪ちゃん」

唯はそう言うと澪に抱きつく。

澪「ははっ、なんだよ唯。」

紬「唯ちゃんは寂しがりやさんなのね。」

律「お前らホントに仲いいよなー。」

律は乾いた声で言った。

梓は、その光景を見て寂しさを感じていた。
溜め息をつき、目を伏せる。

嫉妬、なのだろうか。
自分では良くわからなかった。
いや、わかっていても気づかないようにしていた。

──私は唯先輩が好きだ。
その感情は常に梓の心の中にあった。



372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:54:10.29 ID:B8WgX64e0

暫くお茶とお菓子を食べ和やかに過す。

澪「そろそろ、始めるか。」

律「え~。明日にしようぜ~。」

何時もなら、律に倣って唯も怠けようとするが
最近では、積極的に練習を始めようとする。

唯「りっちゃん。やろうよ。」

律「あ、あぁ・・・そうだな。」

律は調子を崩してしまう。
よし、始めるかと言って重い腰を上げる。

梓は唯の演奏を聞きながら思う。
最近の唯先輩のギターは、はっきり言って上手い。
コードを忘れるようなドジはしないし、リズムも完璧だ。
以前よりも集中して演奏している。
まるで、今の唯先輩にはギターを演奏することしか残されていないような──
そんな必死さを感じる。



373 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:56:08.16 ID:B8WgX64e0

練習を終え、片づけをして梓は部室を出る。

梓「それではみなさん、失礼します。」

頭を下げて扉を閉める。

梓は一階の昇降口まで来ると、また自分が携帯を部室に忘れたことに気が付いた。
梓は自分にあきれて溜め息をつく。

梓「はぁ、なにやってんだろ。」

そう、独り言ちた。

急いで部室に戻る。
部室から澪先輩と律先輩の話し声が聞こえた。
くすくすと笑う澪先輩に、下卑た笑い声を発する律先輩。
暫く、耳を欹てていたが
自分が悪いことをしているようで、変な後ろめたさを感じた。
躊躇いがちに扉を開け、失礼しますと声を掛けた。

二人は驚いた表情を見せ、澪は鞄を床に落とした。



375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/29(水) 23:59:36.66 ID:B8WgX64e0

律「なっ、なんだ梓か」

律は慌てた様子で言う。

律「じゃ、じゃぁまた明日なっ。」

そう言って、急ぐように部室を後にした。

梓「ご、ごめんなさい。あの、携帯を忘れてしまって・・・」

澪「そ、そうか・・・あっ私も帰るから。」

澪はそういうと部室の鍵を梓に渡すと、逃げるように部室を去った。

──なんだったんだろう?
何か話をしていたようだったが、会話の内容は聞こえなかった。
私に聞かれると困るようなことでも話していたのだろうか。

梓は、携帯を見つけると鞄に仕舞った。
部室を出る前に、何の気なしに部室を見回した。
机の下に黒く光る物体が見えた。



377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 00:01:52.08 ID:XibG4hpW0

梓「なんだろう?」

屈んで机の下を覗き込む。

──テープ?

梓はそれを拾い上げる。
カセットテープよりも少し小ぶりだ。
家庭用のビデオカメラのテープだと判ると
家にも古いカメラがあったかな、などと考えていた。

多分、澪先輩が落としたものだろう。
ラベルが無いが、きっとバンドの演奏でも撮ってあるのだろう。
そう思うと、少しくらい中身を見ても大丈夫だろうと罪悪感は沸かなかった。


家に帰ると梓はベッドに横になり、今日部室で拾ったテープを眺めていた。
勝手に見るのは悪いよね。
今になって、その考えが頭を擡げる。

そうは思っていても既に梓の部屋のテーブルの上には
押入れから出してきたビデオカメラが置いてあった。



379 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 00:03:44.20 ID:XibG4hpW0

律先輩の笑い声を思い出す。
酷く気持ちの悪い笑い声だった気がする。

──このテープに

二人の慌てよう。
これが原因か?

──いったい何が?

少し胸の鼓動が早くなるのを感じる。
悩んでいても仕方ない。

──見ちゃおう。

梓は、ビデオカメラをテレビに繋げる。
テープをビデオにセットすると
躊躇いがちに再生ボタンを押した。



381 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 00:04:58.30 ID:XibG4hpW0

テレビに映る映像を見て梓は驚愕した。

梓「えっ!?ゆ、唯・・・先輩・・・?」

そこには、全裸で椅子に腰掛ける唯の姿があった。
体中には生々しい傷がある。
思わず画面から目を逸らした。

唯(澪ちゃん・・・怖い・・・)

その言葉にさらに衝撃を受ける。
どういうことなのか、思考が追いつかない。

澪(今日は、どうしよっか)

澪先輩の声だ。
何が始まるのか、息を呑んで待った。

澪(唯、左腕上げて?)

画面の中の唯がゆっくりと左腕を上げる。
澪の姿が画面に映りこむ
左手に何かを摘んで持っている。



382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 00:07:11.90 ID:XibG4hpW0

澪は画面に向かってそれを見せ付ける。
──釣り針だった。
釣り糸を通した釣り針を手にしていた。

澪は右手で脇の下辺りの皮膚を摘み上げると、
左手に持った釣り針を摘み上げた皮膚に通す。

唯(ひっ、痛いっ・・・)

梓は思わず口に手をあてた。

梓「酷い・・・なんで、どうして。」

澪は糸を最後まで通すと、今度はそのすぐ下の皮膚を摘み上げ
針を通した。

唯(うっ・・・んんっ・・・)

くぐもった声を漏らす。
澪は、荒い呼吸を繰り返しながら
合間合間に、ははっと笑い声を漏らす。



385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 00:10:51.96 ID:XibG4hpW0


澪は、唯の体の下へ下へと針と糸を通していく
その度に唯は悲痛な声を上げ、澪は醜く笑う。

唯(痛い・・・痛いよ、澪ちゃん)

澪(あぁ、唯は可愛いよ。)

唯(澪ちゃん、澪ちゃん)

澪(唯っ、唯ッ)

背筋が凍るような思いで梓はそれを見ていた。
梓は涙を流し、嗚咽を漏らす。
恐怖に体を震わせた。

梓「唯先輩・・・」

ビデオを止めたかった。
こんなもの、早く消してしまいたかった。
それでも、私が見るのをやめたところで
唯先輩の傷が癒えるわけではない、そう思った。



386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 00:14:18.63 ID:XibG4hpW0

これで、はっきりした。
唯先輩が怯えていた訳を。
そう、唯先輩は澪先輩に酷い仕打ちを受けて
こんな姿をビデオに写され
きっと澪先輩に脅されていたのだ。
しゃべったらばら撒くとでも言ったのだろう。
それで唯先輩は、誰にも言えず・・・。

梓は自分の中に正義感が溢れてくるのを感じる。

梓「絶対助けてあげますからね。唯先輩。」

画面に映る澪は、丁度唯の腰の辺りまで糸を通し終えると
唯に向かって微笑んだ。

澪(唯、痛い?嬉しい?)

唯(うん、痛いけど嬉しいよ。)

澪(唯、愛してる。)

唯(私もだよ澪ちゃん。愛してる。)

嘘だ、と梓は思った。
唯先輩は言わされてるだけだ。
こんなことをされて嬉しい訳が無い。
きっと今まで酷い仕打ちを繰り返されてきたのだろう。
澪先輩は狂ってる。
激しい怒りの感情が湧き上がる。



390 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 00:17:02.57 ID:XibG4hpW0

澪は唯とキスを交わす。

梓は思わず叫びそうになった。
歯を食いしばる。

澪は鋏を取り出し糸を切り釣り針を外す。
余った糸を左手に絡めるように巻いていく。

唯(澪ちゃん澪ちゃん澪ちゃん澪ちゃん澪ちゃん澪ちゃん澪ちゃん澪ちゃん澪ちゃん澪ちゃん)

唯は延々と澪の名を呼び続ける。

澪は糸を充分に巻いたあと、
最後に糸を通した唯の腰の辺りに左手を密着させた。

勢い良く左腕を真上に振り上げる。

皮膚の裂ける音と唯の絶叫がこだました。

唯(ぎぃぎゃぁあああっ!!あああぁぁっ・・・)

梓は思わず耳を塞ぐ。
怖くて逃げ出したい衝動にも駆られた。
こんなあまりにも異常な光景は夢だと思いたい。
それでも画面には唯先輩の苦しむ姿が映し続けられていた。



396 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 00:22:13.07 ID:XibG4hpW0

唯の脇の下から腰の辺りにかけて赤い線が滲む。
次第に線は太くなりどくどくと脈打ちながら滴り落ちた。

澪はその様子を暫く眺めた後
膝を付いて、唯から流れ出したその液体を啜り上げる。

唯(澪ちゃん・・・澪ちゃん・・・)

唯は繰り返す。

澪は、何十分と唯の傷口に舌を這わせていたが、
満足すると、立ち上がりカメラの前までくる。
そこで、録画は終わっていた。

梓は見終わると体から力が抜けていくのを感じる。
急に吐き気を覚え部屋を駆け出してトイレへ向かった。



403 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 00:27:17.77 ID:XibG4hpW0


最悪な気分だ。
梓は何度も吐いた。
それでも、気分が落ち着く事は無かった。

その後、暫くトイレに篭って泣いていた。
ビデオの内容は恐ろしく酷いものだった。
澪先輩があんなことを・・・。
それに唯先輩も・・・。

ビデオに映った唯の表情を梓は思い起こす。

泣き笑いのような顔。
苦痛にゆがむ顔。
その後に見せた──幸せそうな笑顔・・・。

ありえないっ。
唯先輩がそんなことを望んでいる訳が無い。
きっと澪先輩が脅しているんだ。

梓はこのとき警察へ届け出る事は考えていなかった。
唯を助けたいと思う心とは裏腹に
澪への怒りの感情の方が大きかった。

──償わせてやる。
梓は強く心に刻んだ。



502 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 20:17:40.02 ID:XibG4hpW0


部屋に戻ると、梓は考えを整理する。

そういえば、何時の頃からか唯先輩は澪先輩と帰る事が多くなっていた。
少し嫉妬していたものの特に気には留めていなかった。
もしかしたら、あのときから。

それから、今日の澪先輩と律先輩の様子。
きっと律先輩も知っているのだろう。
部室で澪先輩は律先輩にテープを渡していたのだ。

こんな物がいくつもあるなんて想像したくも無かったが
きっと、何度も唯先輩を傷つけてはその様子を写し
二人して楽しんでいたのだ。

冷静になって考えていると一つの大きな疑問が浮かんだ。
澪先輩は怖いことや痛いことが苦手だったはずだ。
血を見るのでさえ嫌がっていたし
況してや、あんな酷いことを好んでするだろうか。

──律先輩が何かしたのだろうか?

考えても馬鹿馬鹿しい想像しか浮かばない。
一旦その考えを頭の隅に追いやる。



504 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 20:18:34.80 ID:XibG4hpW0

今は、唯先輩と澪先輩のことだ。

どうするべきか、必死で考える。

兎に角、澪先輩から唯先輩を引き離そう。
私が澪先輩から唯先輩との時間を奪ってしまえばいいんだ。
そうしてしまえばきっと澪先輩の方からボロを出す。
そして澪先輩が私に牙を剥いた時には・・・。

梓は立ち上がり、机の引き出しを開ける。
カッターナイフを取り出すと制服の内ポケットにそっと忍ばせた。



505 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 20:19:24.16 ID:XibG4hpW0

翌日軽音部の部室で
梓は澪に昨日拾ったビデオテープを差し出す。

澪「梓・・・これは・・・?」

澪の驚く表情を見て梓は心の中で笑った。

梓「昨日部室で拾ったんです。追いかけて渡そうとしたんですけど。」

澪「そ、そうか・・・これ見たのか?」

梓は少し間を置き、澪の怯える表情を見ていた。

何に怯えているのか──警察に捕まるのを恐れているのだろう。
誰にも言いませんよ──つい口に出しそうになる。
これを弱みに澪先輩に唯先輩が受けた苦痛の半分でも味わってもらうか
などと考えていたが、犯罪者になるのはごめんだと思った。

──犯罪者はお前だけで十分だ。

梓「いえ、私の家は父が家電オタクで、
  BDとかHDに記録するやつしか持ってないんです。」

澪「なんだ、そうなのか。」

澪はそう言うと、ほっと胸を撫で下ろす。



507 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 20:21:19.81 ID:XibG4hpW0

梓「何が写ってるんです?」

澪「あ、あぁ・・・ひみつだ。」

澪は何故か顔を赤らめて言う。
梓は怒りが込み上げてくるのを感じた。

梓「恥ずかしいような事でも写ってるんですか?」

澪「まぁ、その・・・かわいい・・・ものとか、かな。」

かわいい?あれが?
唯先輩が苦痛に歪む姿をかわいいと言うのか。

梓は拳を握り締め澪に殴りかかりそうになるが、
歯を食いしばって耐えた。

梓「そ、そうですか。」

梓は紅茶を一口すすって、気持ちを落ち着ける。

澪先輩は本当に狂ってしまったのだろうか
学校では何時も通り、周りには優しく振舞っているのに
何が澪先輩を変えてしまったのだろう。
兎に角今は昨日考えたことを実行するまでだ。



508 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 20:22:40.50 ID:XibG4hpW0

みんなが集まり、何時も通りお茶とお菓子を食べる。
練習を終えると梓は唯に向かって言う。

梓「唯先輩、たまには一緒に帰りませんか?」

唯「えっ?う、うん・・・」

梓「私と帰るの嫌、ですか?」

唯「そんなこと無いよ。あずにゃん大好きだよ。」

面と向かって言われると少し照れる。
澪先輩が何か言うかと思っていたが、何も言わなかった。
自分のものに出来たとでも思っているのだろうか
鎖を離れる事は無いと、そんな自信でもあるのか。
益々澪先輩への怒りが沸いてくる。

梓「私、いいお店見つけたんです。」

唯「そうなの?行きたい行きたい。」

そんな唯の笑顔に梓も微笑をかえす。



510 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 20:25:11.70 ID:XibG4hpW0

それから二人でアイスを食べて
お気に入りの店で紅茶とケーキを食べた。

その後、一緒に洋服を見たり
雑貨屋でお揃いのストラップを買ったりした。

ゲームセンターでクレーンゲームをやってみたり
プリクラも一緒に撮った。

二人で過す時間はあまりに短かった。
もっと唯先輩と一緒にいたい。
唯先輩はどう思っているのだろうか、少し不安になる。

梓「なんか、デートみたいでしたね。」

唯は何も言わなかった。
梓は急に自分の言った台詞が恥ずかしくなり
変なこと言いましたねと照れ笑いを浮かべる。

唯「・・・ひさしぶりだなぁ・・・」

梓「何が、です?」

唯「・・・楽しかった。」

梓「また、誘ってもいいですか?」

唯「うん。」

唯は頷くと梓に抱きついてきた。



511 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 20:26:52.51 ID:XibG4hpW0

唯「あずにゃん、大好き。」

梓は顔に火照りを感じる。
梓も唯をぎこちない動作でそっと抱く。

梓「私も、唯先輩が大好きです。」

告白のつもりだった。
きっと唯先輩はそう思わないだろう。
私の好きは唯先輩のとは違う好きなのだ。
それでも、好きと伝えられたことに満足していた。

次の日も梓は唯を誘った。
澪は何も言わなかった。
律はラブラブですねぇなどと囃し立てたが
澪はホントだなぁとだけ面白くなさそうに言った。



512 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 20:27:46.73 ID:XibG4hpW0

その日は、一緒に川辺を歩いた。
肩を寄せ合い、ふわふわ時間を一緒に口遊む。

~~キミを見てるといつもハートDOKI☆DOKI

~~揺れる思いはマシュマロみたいにふわ☆ふわ

~~いつもがんばるキミの横顔

~~ずっと見てても気づかないよね

~~夢の中なら二人の距離縮められるのにな

~~あぁカミサマお願い

──どうか、唯先輩を助けてあげてください。
──どうか、唯先輩の傷を癒してあげてください。
──どうか、唯先輩にあの頃の笑顔を返してあげてください。
──どうか、幸せだったあの頃に唯先輩を連れて行ってください。



513 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 20:29:02.58 ID:XibG4hpW0

唯先輩の横顔を見る。
楽しそうだった。
それでもあの日の笑顔とは随分違って見えた。
きっとあの頃にはもう、戻れないだろう。
和先輩のこともある。
死んだ人は生き返らない。

失くしたものはいつかまた見つけることも出来る。
しかし、壊れたものは完全には戻らない。

唯先輩の日常はとっくに壊れていたのだ。
私が気づかない間に、少しずつ、崩壊していった。
今更私が何かしたところで、唯先輩は何を取り戻せるのか
失うものが大きいことは、私にも十二分に理解できた。

それでも、このまま唯先輩が澪先輩に陵辱されるのを
ただ、黙って見ている訳にはいかなかった。

焦ることは無い、こうして唯先輩と一緒にいる時間が長ければ
その分、澪先輩に与える時間は短くなる。
そう、自分に言い聞かせた。



523 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 20:58:03.41 ID:xIIysIcD0

ふと唯は足を止める。

唯「あずにゃん、あそこ。」

唯の指差す先には橋があった。
そこは和が首を吊っていた場所だということに梓は暫く気がつけないでいた。

唯「和ちゃん、あそこで死んじゃってたんだよ。」

梓は唯の言葉で漸く理解した。

梓「ご、ごめんなさい、私・・・。回り道しましょう、唯先輩。」

梓が言うと唯は首を振る。

唯「ううん、いいの。」

そう言って橋に足を向けて歩いていった。
梓もそれを追う。

橋の袂まで来ると唯は手を合わせる。
梓も倣って手を合わせた。



524 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:00:16.33 ID:xIIysIcD0

ちらと供えられた花が梓の目に入る。

梓「お花、持ってくれば良かったですね。」

唯は首を横に振る。

唯「和ちゃんは此処には居ないから・・・」

梓「でも、手は合わせるんですね。」

唯「何処でもいいんだよ。和ちゃんは何時も私のそばに居るような気がするから。」

唯「街中や学校でしたら、みんなおかしいと思うでしょ?」

梓「そうですね、お墓も遠いですし。」

唯「うん。だから、今此処でしておくんだよ。」

梓は躊躇いがちに口を開く。

梓「・・・なにを伝えたんですか?」

唯「ありがとう。大好きだよって。」

梓「先輩らしいです。」



525 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:02:08.36 ID:xIIysIcD0

唯「そうかな?」

梓「そうですよ、昨日だって私に大好きだよって──」

唯「その好きは違う好きだよ。」

梓の胸は高鳴った。
どういう意味だろう。
違う好き、昨日の自分も同じようなことを思っていた。

梓「そ、それって唯先輩は和先輩を・・・その、愛していたってことですか?」

梓は自分の意に反したことを言う。
正直に言って自分の思い上がりだと知るのが怖かったのだ。

唯「和ちゃんは大切な親友だよ。」

梓「じゃ、じゃぁ・・・」

唯は梓に体を向ける。
雲の隙間から覗く西日が
唯の顔を鮮やかに照らしだす。

本当に、眩しいほどの笑顔だった。



527 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:04:13.77 ID:xIIysIcD0

唯はそっと梓に顔を寄せ
──優しいキスをした。

唇が触れ合う。
唯先輩の唇は、とても柔らかかった。
ファーストキスは最愛の人と交わすことができた。
その幸福感で胸の中がいっぱいになる。

頬を伝う涙が温かい。
今まで流した涙とは違う涙だった。
嬉しくても涙はでるんだ、そんなことを思った。

唯は梓から唇を離し、耳元で囁く。

唯「あずにゃんは──私を好きでいてくれるだけでいいから。」

梓にはどういう意味かはわからなかった。
自分の気持ちを伝えることでそれに応える。

梓「はい、好きです、大好きです。ずっと好きでいますから。」

唯「ありがとう。あずにゃん。」

唯の笑顔が梓の心に染み入る。



529 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:06:16.90 ID:xIIysIcD0

唯先輩の笑顔だけは必ず守って見せます──強く心に誓った。
これから自分がすることで、唯先輩が失ってしまうもの
その穴を埋められるほどのものを、私は持っているのだろうか。
唯先輩の望む答えが欲しかった。
助けてと一言言って欲しかった。
そうすれば、今すぐにでも救い上げることができるのに──

梓は唯を家に送り届けて帰宅した。

何事も無く二日間を過すことができ
梓はほっとしていた。

明日こそ、澪先輩は耐え切れなくなり私に苦言を呈するだろう。
そしたら問い詰めてやればいい──唯先輩との関係を。
恋人同士などと言うのであれば、ビデオテープのことを話す。
澪先輩が唯先輩に何をしてきたのか、あれが恋人同士のすることなのか。
唯先輩の本当の気持ちを聞いて、私の気持ちを澪先輩の目の前で伝える。
それを聞いた澪先輩が怒り狂って我を忘れてしまえば私の勝ちだ。
その後は私に殴りかかるなりすればいい。
一発ぐらいなら気持ちよく殴られてやる。
そして──

梓は制服に忍ばせたカッターナイフに触れる。



531 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:08:15.98 ID:xIIysIcD0

梓「正当防衛になるよね・・・」

不敵な笑みを浮かべて呟いた。

澪先輩に痛みをわからせてやろう。
散々な目に遭わせて、
もう二度と唯先輩に手出しできないようにしてやる。
澪先輩の罪をその顔に刻んで
鏡で自分の顔を見るたびに思い出させてやりたい。
澪先輩のしてきた行いを。


翌日も同じように梓は唯を誘う。
唯は笑顔で頷く。
澪は何も言わなかった。

──おかしい。
唯先輩と澪先輩は毎日ではないが、一緒に帰ることが常だった。
どちらかがどちらかを誘うといった感じではなかったが
気が付くと二人は一緒に帰っていた。
その後澪先輩の家に行っていたのでは無いのか?
なら・・・嫌な予感が脳裡を掠める。



532 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:10:19.33 ID:xIIysIcD0

梓は唯と連れたって校舎を後にする。
道すがら、梓は唯に切り出す。

梓「唯先輩。今日唯先輩のお家にお邪魔してもいいですか?」

唯「うん、いいよ。」

唯は明るい笑顔で頷く。
二人はコンビニでお菓子とジュースを買って
唯の家に向かった。

梓「おじゃましま~す。」

唯「憂、ただいま。」

憂が二階から顔を出す。

憂「おかえり、お姉ちゃん。梓ちゃんも、いらっしゃい。」

憂は梓に視線を送った後唯に向かって言う。

憂「お姉ちゃん、先上がってて。私、梓ちゃんと話があるの。」

唯はわかったと言って頷くと階段を上がって行った。
憂はそれを見届けてから、
奥の方で話しよっかと言って廊下の突き当たりに歩を進める。



534 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:12:21.62 ID:xIIysIcD0

憂「ごめんね。」

梓「ううん、私も聞きたいことあったから。」

憂「そう、お姉ちゃんから何か聞いた?」

梓は正直に答える。

梓「何も聞いてないよ。」

憂「やっぱり、何も話してくれないんだね、お姉ちゃん。」

憂は俯いて溜め息をつく。

憂は本当に心配しているのだろう。
今まで何も出来なかったのは、唯先輩がそれを望まなかったからだ。
唯先輩のことを思えばこそ、憂はただ見守ることしかできなかったのだろう。
そんな憂を私は責めることなどできなかった。

私だってあのビデオテープを見なければ何も知らずにいたのだから。
いっそ、今ここで澪先輩のことを話すべきだろうか。
力になってくれるなら心強い。

しかし、唯先輩の思いを無駄にしてしまう。
憂が傷つくことは私もしたくなかった。



536 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:14:24.60 ID:xIIysIcD0


憂「梓ちゃん。それで、聞きたいことって?」

梓「あ、うん。唯先輩って土日は何してるのかな?って。」

憂「それがね、澪さんの家に泊まりに行ってるみたいなの。」

やはり、そうだったのか。
道理で私と唯先輩が一緒に帰ることを咎めない訳だ。
土日なら誰かに邪魔されることも無いのだろう。
唯先輩自ら赴くのだ。
多分私が誘っても予定があると言って行ってしまう。
私が今日までしてきた事は無駄だったのだろうか。
やっと唯先輩を助ける道を見つけたと思ったのに。

憂「それも毎週・・・」

その言葉に梓は言い知れぬ恐怖を感じた。

梓「それって、何時頃から?」

憂「もう、何ヶ月も前。」

そんなに前から唯先輩は澪先輩に・・・。
それなのに、私は何も気づけなかったのか。
何故、もっと早く気づいて上げられなかったのだ。
そんな自分に腹が立った。



538 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:16:37.16 ID:xIIysIcD0

憂「梓ちゃんは何か知ってるの?」

梓「私は何も。唯先輩からは何も聞いてないし。」

憂「澪さんからは何か?」

梓「ううん。今日初めて知った。」

憂「そう。」

梓はそんな憂に掛ける言葉をなくしていた。

憂「梓ちゃん。」

梓「なに?」

憂は暫く逡巡した後頭を振って言った。

憂「ううん、なんでもない。」

憂「・・・お姉ちゃんのことよろしくね。」

梓「憂・・・。」

憂「前にも言ったけどお姉ちゃん、
  私に何か聞かれるのが怖くてあまり口利いてくれないから」

憂「梓ちゃんが話し相手になってくれると嬉しいな。」

梓「わかった。唯先輩のことは私にまかせて。」



539 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:18:41.00 ID:xIIysIcD0

そうは言ったものの、どうしていいのかわからなかった。
毎日、唯先輩と一緒に下校すれば、
澪先輩の凶行は行われないだろうと思っていたのだ。
土日にそれが行われるのだとすれば
何とか唯先輩を引き止めるために説得しなくてはならない。
しかも、最悪なことに今日は金曜日だ。
今日中にいったい何が出来るだろうか
迷っている暇は無い、何とかするんだ。

梓は、そう自分に言い聞かせて階段を上がっていった。

梓はリビングに顔を出す。
唯の姿はそこに無かった。

自室に居るのだろか。
憂は唯先輩にあまり口を利いてもらえないと言っていた。
そういうことなのだろう。
だから、憂にお茶とお菓子を頼むことなく
コンビニで買い物をしたのだ。

梓はノックをして唯の部屋に入る。



547 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:36:37.63 ID:xIIysIcD0


唯「あずにゃん、憂と何話してたの?」

梓「うん、学校のこと。」

梓は唯と憂のことを思って嘘をついた。

唯「そうなんだ。」

唯もそれを気に留める事はなかった。

それからは二人で笑い合って話をした。
部活や学校のことではなく、昔のことを。
そうすれば、唯先輩の昔の笑顔を取り戻せるような気がしたから。
和先輩の話題も口に出した。
唯先輩は悲しい顔も見せずに楽しそうに語った。
それでも以前の笑顔を見せることはない。
どこか無理をしているような気もした。
些細な違いかもしれないが
唯先輩をもっとよく見ていれば
もっと早く気づけたはずだ。
後悔するにしても遅すぎたのかもしれない。
ならば、今出来ることをしよう。
もう、終わらせよう。



548 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:38:57.89 ID:xIIysIcD0

梓は決意した。

梓「唯先輩、憂のことどう思ってます?」

唯「大好きだよ。」

梓「じゃぁ、私のことは?」

唯「もちろん大好きだよ。憂への好き、とは違うけど。」

梓「じゃぁ、澪先輩のことは?」

唯「大好き。」

唯は躊躇いも無くそう言った。

梓「それは、私への好き、とは違うんですか?」

唯は困惑した表情で、どうしてと聞いた。

梓「私、澪先輩が唯先輩に何をしているのか知ってます。」

唯は驚いた表情で聞く。

唯「憂に何か聞いたの?」

梓「違います。憂は何も知りません。」



550 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:40:50.72 ID:xIIysIcD0

梓はそこで大きく息を吸う。

梓「ビデオテープを見ました。」

その言葉だけで伝わったのだろう。
唯はひどく悲しい顔をみせた。

唯「ごめんね・・・気持ち悪かったでよね?嫌いになっちゃったよね・・・」

梓「そんなことないです。私は今でも唯先輩のこと大好きですよ。」

梓「だから、もうこんなこと終わりにしましょう。」

梓「私が助けになりますから、だから──逃げましょう。」

唯は縋る様な目で梓を見る。
助けを求めようとしているのかと期待した。
しかし、唯から発せられた言葉は
梓をひどく混乱させた。

唯「このままじゃ、駄目なのかな?」

梓「えっ?」

唯「あずにゃんが黙っててくれれば、みんな幸せになれるんだよ。」



555 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:43:21.00 ID:xIIysIcD0

梓「それって、どういうことですかッ!」

梓「唯先輩はそれでいいんですかッ!」

思わず声を荒げる梓に、唯は、憂に聞こえるからと静かに言った。

梓「ごめんなさい、でもこのままじゃ唯先輩が・・・」

唯「私は平気だよ。」

唯「それに澪ちゃんしか居ないんだ。」

梓「なにがです?」

唯「私の体を好きで居てくれる人。」

唯「澪ちゃんだけなんだよ。こんな醜い私を愛してくれる人。」

梓「そんなの関係ないです。」

梓「私は、唯先輩が好きです。憂だってきっと先輩のこと好きで居てくれます。」

唯「そんなのわかんないよ。」

唯「気持ち悪いって言われる。」

梓「いいませんよ、そんなこと。私も、憂も。」

唯「あぁ、ビデオで見ただけじゃ判らないかもね。」



557 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:46:06.77 ID:xIIysIcD0

そう言うと唯は制服を脱ぎだす。
少しずつ、傷ついた体が露わになる。

上半身だけでも相当酷い傷跡だった。
所々赤黒く変色していた。
焼け爛れてケロイド状になった部分もある。

ビデオで見た左の腋の下から腰に掛けては
皮膚が抉れて白い組織が見えていた。
傷はまだ塞がっていない。

次に唯はスカートとタイツを脱いで下半身を見せる。
上半身程ではないが、切り傷と火傷の痕が窺えた。
脚の付け根辺りには
[澪]と刃物で彫られた痕がくっきり残っていた。

そして唯は下着を外していった。
乳房には針か何かで刺したような小さな穴の痕がある。

露わになった下腹部は正面から見ただけでも酷い有様だった。
臍の下辺りは皮膚が焼け焦げて茶色く硬くなっていた。

陰毛は剃り取られているようだった。
恥丘周辺は裂けたような、ひび割れたような、奇妙な傷痕があった。
他にも蚯蚓腫れや乳房にみられたような穴の開いた痕もある。



561 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:49:13.45 ID:xIIysIcD0

唯は、ベッドに腰を掛けると
ゆっくり股を広げる。
襤褸襤褸だった。
大陰唇は傷だらけで、執拗に責め立てられていた。
外陰部全体に火傷の痕が散見される。
小陰唇は所々裂けていて、小さなピアスが一つ付けられていた。

唯「中も見る?」

そう言うと唯は陰唇を指で広げる。
血が滲んでいた。

そこで梓は思わず目を背ける。

唯「ね?気持ち悪いよね?」

唯「澪ちゃんはね。これでも好きだって言ってくれるんだよ。」

梓「気持ち悪いから目を逸らした訳じゃありません。」

梓「唯先輩の傷が痛々しくて見ていられないだけです。」



569 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:52:46.71 ID:xIIysIcD0

唯「どうして?澪ちゃんは、ちゃんと見てくれるよ?」

唯「傷だって優しく舐めてくれるんだよ?」

梓「唯先輩を傷つけてっ、その傷を見て喜んでいる方がおかしいんですっ!」

思わず叫んでいたが構うものかと梓は思った。

梓「それに私は、唯先輩の体が好きになったわけじゃありませんからっ!」

梓「傷ついた体しか愛せない澪先輩とは違いますからっ!」

梓「私はっ、傷ついていても、傷だらけでも、傷が癒えるまで唯先輩のことを愛せます。」

梓「傷痕が残ったって、私は唯先輩を愛し続けることが出来ます。」

梓「だいたい澪ちゃん澪ちゃんって、唯先輩は痛くないんですかっ!?」

梓「澪先輩は唯先輩の傷を癒してくれるんですかっ!痛みを消してくれるんですかっ!」

梓「傷つけるだけじゃないですかっ!」

梓「それを愛だなんて、とんだ勘違いですっ!」



574 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:55:16.17 ID:xIIysIcD0

梓は唯を勢い良くベッドに押し倒すと
顔をくっ付けんばかりにして唯の瞳をまっすぐに見つめる。
唯から伝わる震えを梓は感じた。

梓「私ならっ、どんな事があったって唯先輩を・・・・」

唯の頬に涙が滴る。
梓は涙を流していた。

梓「唯先輩を傷つけることはしません」

梓「唯先輩を──愛してますから」

梓は唯に唇を重ねる。

梓「お願い。目を覚まして。唯先輩。」

最後の願いを込めて唯の名前を呼ぶ。

唯の震えは治まっていた。
唯の目に光が戻る。
気のせいなんかじゃないと梓は確信した。
唯は力の篭った眼差しを、梓に向ける。
見開いた唯の瞳の奥に、
希望の光が瞬いたのを梓は見た。



581 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 21:58:04.28 ID:xIIysIcD0

唯「あずにゃん・・・」

梓「唯先輩・・・」

唯「ごめんね、こんなに心配してくれてたのに・・・。」

唯「こんなに、私のこと愛してくれてたんだね。」

梓「憂だって同じ様に思ってくれてますよ。」

唯「そうだね、そうだよね。私、ばかだなぁ。」

梓「ホントですよ。ばかですよ。」

唯「もう、終わらせるよ。全部、終わらせる。」

──そしたら、また一緒にデートしようね。

あの日の笑顔がそこにあった。

梓「はい。唯先輩ならいつでも大歓迎です。」

梓は涙を流しながら笑った。



585 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 22:00:58.84 ID:xIIysIcD0

唯は服を着ると、梓に照れながら言う。

唯「ねぇ、あずにゃん。」

梓「なんですか?」

唯「私、何時もあずにゃんに甘えてたよね。」

梓「そうですね、甘えてましたね。」

唯「今度はね、あずにゃんに甘えてきて欲しいな・・・なんて」

唯は照れ笑いを浮かべる。

梓「いいですよ。恥ずかしいですけど・・・。えっと・・・」

甘える、とはどうすればいいのか、梓にはよくわからなかった。

私は人に甘えなれていない、何時も甘えてくるのは唯先輩だった。
そのせいもあって、自分がしっかりしないといけないと思い、
誰かに甘えることをしなくなった。

梓「あの、どうやって甘えればいいんでしょうか?」

唯は、変なあずにゃんと言って笑う。

唯「ん~とね。なにか私にして欲しいことある?」



587 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 22:03:04.59 ID:xIIysIcD0

梓「なんでも、いいですか?」

唯「うん。なんでも。」

梓「わ、わかりました。じゃぁ・・・その、ひ、膝枕・・・してください。」

唯「かわいいなぁ~あずにゃんは。いいよ。」

そう言って唯は膝を畳んで梓に手招きする。

梓「じゃ、じゃぁ失礼します。」

梓は唯の膝に頭を乗せて寝転んだ。

とても温かかった。
目を閉じる。
唯先輩が頭を撫でてくれている。
心地よかった。
幸せだった。
ずっとこうして居たかった。

しかし、まだ何も終わっていないのだ。



589 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 22:05:48.99 ID:xIIysIcD0

梓は、目を閉じたまま呟くように話す。

梓「唯先輩、私の親戚にいいお医者さんが居るんです。」

唯「うん」

梓「此処から結構離れてるんですけど、そこまで行けば安心ですよ。」

唯「うん」

梓「澪先輩だって追っては来れませんよ。」

唯「うん」

梓「だから、明日一緒に電車に乗って行きませんか?」

唯「うん」

梓「朝七時に駅前に来てください。」

唯「うん」



594 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/30(木) 22:08:16.56 ID:xIIysIcD0

梓「それで──」

唯「うん」

梓「──全部終わりにしましょう。」

唯「うん」

梓「カレーは甘口と中辛どっちが好きですか?」

唯「あまくち」

梓「私もです。」

二人は幸せそうに笑った。

それから、梓は唯と取り留めの無い会話を交わした。

その日は明日の出発に備えるために家に帰ることにした。
ずっと唯先輩と居たかった、それでも明日になればずっと一緒に居られる。

──事実、その通りになった。より多くのものを失って・・・



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