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澪「錆びつくくらいなら燃え尽きちゃった方がいいよね」#前編 【シリアス】


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澪「錆びつくくらいなら燃え尽きちゃった方がいいよね」#前編
澪「錆びつくくらいなら燃え尽きちゃった方がいいよね」#後編




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 21:34:24.49 ID:Zl9D3tUd0

『It's better to burn out than to fade away』

己の心情を長々と書き綴ったノートブックの最後の文章を
こんな言葉で締めて、澪は、大きく一つ溜息を吐いた。

澪「やっぱり日本語で書いた方がいいな……。
  ムギはともかく、律や唯は英語じゃ理解出来ないかもしれない……」

思い浮かぶのは、人生で最も楽しかった時期を一緒に過ごした親友達の顔だった。

澪「もうあの頃には戻れないんだな……」
 
そう呟いて、淹れたばかりの紅茶に口をつける。
あまり美味しいとはいえない味だ。
これはムギから貰った高級なお茶っ葉のはずなのに、
やはり入れる人間が違うと味も違うということなのか。

もはや人生の何もかもがどうでもよくなってきてしまった。

澪「……さよなら」

そして澪は床に無造作に転がっていた、
どす黒い無骨な光沢を放つショットガンを手に取った。





2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 21:35:42.22 ID:Zl9D3tUd0

ライヴ前の楽屋。
バンドの登場を今か今かと待ちわびるオーディエンスの熱狂とは裏腹に、
シンと静まり返ったこの場所に、秋山澪はいた。

澪「あっ……。んっ……」

目一杯に締め付けたチューブのおかげで、透き通るようなまっさらな腕に浮き出た血管。
そこに鋭く尖った注射針を挿入し、一気に注入する。

澪「んっ……これっ……凄い上物だ」

やがて表現の仕様のない多幸感が、澪の五体を駆け抜ける。
足の先から頭の天辺まで、全身これ全てが性感帯になったかのような、
世界最高峰のオーガズムだ。

澪「――――――ッ!!」

そして声にならない声を上げ、澪はそのままバタリと後方に倒れこんだ。
もしそこにソファーがなかったならば、頭を打っていてもおかしくない危険な倒れ方だった。



3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 21:37:18.00 ID:Zl9D3tUd0

(数十分後)

律「おい! 澪!! 起きろってば!」

澪「んんん……律か……。どうしたんだ?」

律「どうしたもこうしたもあるか。
  あと少しで私達の出番なのにさ。楽屋に戻ってきたらお前が寝てるから……」

紬「澪ちゃん……いくら揺すっても目が覚めなかったんですよ」

唯「そうそう。心配したよ~」

ああ、そうか。自分は眠ってしまっていたのか
――澪はやっとのことで自分が置かれた状況に気付いた。
いや、正確には眠っていたのではなくトンでいたのだが。
そして、ソファーの下に転がるそれに最初に気付いたのは――



4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 21:39:42.17 ID:Zl9D3tUd0

澪「…………」

律「おい! これはどういうことなんだって聞いてるんだ! 
  これからライヴ本番だって言うのに、
  そのラリったオメデタイ頭のままステージにあがるつもりか!?」

激高した律が、思わず澪の肩に掴みかかる。

唯「り、律ちゃん、だ、ダメだよ……!」

紬「けんかはいけません!」

律「唯とムギは黙ってろ!
  こいつには一回ガツンと言ってやらなきゃダメなんだ!」
  二人に制されてもなお、飛び掛らんとする律に、

澪「うるさいなぁ……」



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 21:43:49.92 ID:Zl9D3tUd0

澪「うるさいなぁ……。私の勝手だろ」

澪は信じられない言葉を返した。

紬「え……?」

唯「澪ちゃん……」

律「お、お前ッ……!」

澪「クスリの一発や二発ぐらい、何が悪いの? それにこれくらいやらなきゃ……」

律「ふざけるな!」

唯&紬「ダメーッ!」

 二人の制止を振り切り、律は澪の整った顔に拳を飛ばそうと――

「皆さーん、出番ですよ~」

すると、コンサートスタッフと思しき若い男が
楽屋のドアから半分身を乗り出して四人に声をかけた。

律「チッ……。とにかく澪、ステージだけはちゃんとこなせよ」

澪「………」

唯&紬「(オロオロ)」



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 21:49:03.86 ID:Zl9D3tUd0

澪にとって血管中をモルヒネに支配された状態の身体で立つステージは、
なぜかいつもより遥かに高く感じ、照明も目障りなくらいにいつもより眩かった。
心なしか愛機のフェンダー・ジャズベースがやけに重く感じる。

唯「皆さんこんばんは~。放課後ティータイムです」

ステージのMC役である唯がいつものほんわかした調子でマイクに向かうと、
オーディエンス達は一気に沸き上がった。


客1「ウオーーーッ!! 唯ちゃーん!!」

客2「むぎゅううううううううううううっっっっ!!」

客3「律ちゃぁーーーん!! デコ舐めさせてえぇぇぇぇぇ!!」



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 21:52:21.24 ID:Zl9D3tUd0

あちらこちらから沸き上がるメンバーへの熱の籠った歓声。
しかし、その熱気が最も向けられていたのは、

客4「澪タソ、ハァハァ……!」
客5「澪タソの縞パン縞パン縞パン縞パン縞パ(ry」
客6「澪タソーーッ! 俺の股間のベースギターもスラップしてくれーー!!」
客7「澪タソーーッ! 俺だぁーー!! 結婚してくれーー!」

誰あろう澪であった。

澪「(こんなバカな客相手に……やってられない)」

唯がハードに刻むギターリフを虚ろな頭で捉えながら、気だるげに澪は歌い出した。

『キミを見てると いつもハードDOKI DOKI~♪』

しかしドラッグで靄ががった今の澪に、正確な音程の歌唱とベースプレイを求めるのは無理があった。

紬「(澪ちゃん……ベース音が外れてます……)」

律「(歌も……最悪だ……)」

唯「(表情も……全然ノッてない……)」

澪「揺れる想いはマシュマロみたいにふわふわ~♪(やっていられない……)」



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 21:54:06.70 ID:Zl9D3tUd0

目の前には自分の「女」である部分にしか興味を示さず、
音楽など二の次のバカなオーディエンス達。
こいつらは自分の歌や演奏など、ちっとも聴いちゃいない。

澪「いつも頑張る~♪ キミの横顔~♪(
  早くライヴ終わらないかな……。そうすれば家に帰ってまたキメられる……)」

と、その時――澪の視界に飛び込んできた一人の少女の姿。

澪「(あれは……ッ、あ、梓!!)」

関係者が陣取るVIP席の片隅で、ちょこんと飛び出るツインテール。
それはまさしく澪の軽音部の後輩で、
「以前まで」のバンドメイトであった中野梓その人に違いなかった。

梓「(……ふいっ)」

梓はしばらくの間、ステージ上のバンドの姿を眺めていたが、
すぐに踵を返すと席を立って行ってしまった。
そして後輩のそんな行為に、

澪「(そうか……私達のこんな酷い演奏なんて見る価値もない。そう言うのか……梓!!)」

澪のイライラは頂点に達した。



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 21:55:31.05 ID:Zl9D3tUd0

澪「Ah~神様お願い 二人だけの~♪ ドリームタ………」

律「(澪!?)」

紬「(歌うのを……止めた?)」

唯「(もしかして……歌詞が飛んだ?)」

気付けばいつのまにか、
澪のフェンダー・ジャズベースから繰り出されていた重低音も鳴りやんでしまっている。

オーディエンスは何が起こったのか、
すぐには把握できずに一様にキョトンとした表情を浮かべている。
他の三人は戸惑いながらもなんとか曲を成立させようと演奏は止めない。だが、

澪「……やってらんない」


澪はマイクに向かって小さくそう呟くと、
澪「もう……やってらんない!!」

愛器のフェンダー・ジャズベースのストラップを外すと、
あろうことかステージの床に、そしてアンプに、思いっきりそれを叩きつけたのだ。
そしてアンプをなぎ倒し、ベースのネックに大きなヒビが入り、
ステージ上に断末魔の叫びのようなフィードバック音が響くと、
澪はそのままステージ袖へと逃げるように消えてしまった。



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 21:56:39.93 ID:Zl9D3tUd0

律「澪ッッ!! なんだ今日のザマは!!」

唯「律ちゃん、落ちついて……っ!」

律「これが落ち着いていられるかよっ!! だって唯もムギも見ただろ!?
  今日のコイツは最悪だ!! 『ふわふわ時間』のキーもわかっちゃいなかったし、歌詞も飛びまくり。
  しまいにはに曲の途中にベースを破壊して途中退場だなんてお前はどこのシド・ヴィシャスだ!?」

紬「律ちゃん、落ち着きましょう? ね? 澪ちゃんにもきっと何か理由があったんだわ。そうでしょう?」

律「理由もなんもあるか!? コイツがライヴ前にキメるようなバカだから……それに尽きるだろう?
  澪、なんとか言ってみろよ!」

澪「……が来てた」

律「えっ?」

澪「梓が……来てたんだ。関係者席に……。
  で、私達の演奏聴いて……私の歌を聴いて……つまらなさそうに鼻で笑って……途中で帰った」

紬「そ、そんな……」

唯「あ、あずにゃんが……? うそ……。だってあずにゃんは……」

澪「とりあえず今日はそういうことにしておいて。私は……帰る」



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 21:58:06.12 ID:Zl9D3tUd0

律「っ! そう言うことってお前なぁ! それに帰ってまたヘロインキメるつもりなんだろう!?」

澪「……律には関係ないだろう?」

律「関係なくない!! 今日だって、お前……おかしいぞ!!
  『ふわふわ時間』は私達が初めて演奏したオリジナルの曲で……お前が歌詞を書いたんだろう?
  それなのにどうしてその歌詞を忘れちゃうんだ?」

澪「…………」

律「それにあのフェンダーベースは……私とお前でバンドやろうって言って……
  お互いにお小遣いを溜めて買った初めての楽器じゃないか……。
  どうしてそんな思い入れのあるベースをあんな風に扱えるんだ?
  やっぱりお前はおかしいよ……ううう……」

唯「り、律ちゃん……(泣いてる……)」

澪「ごめん。とにかく今日は帰る。お客さんには
  『秋山澪の体調不良によりライヴは中止しました』とでも何とも言って」

紬「そんな……澪ちゃん」

律「うううっ……お前いったいどうしちゃったんだよ……?」

 楽屋に残された三人の間には、重苦しい空気が漂う。

律「どうしてこんなことになっちゃんだろうな……」

紬「澪ちゃん……昔はあんな状態じゃなかったのに……」

唯「いつから変わっちゃったんだろう……」



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:01:10.42 ID:Zl9D3tUd0

ここで話は数年前にさかのぼる。
秋山澪、田井中律、琴吹紬、平沢唯の4人――所謂『放課後ティータイム』――が
まだ桜が丘女子高校の軽音部で活動をしていた時のことだ。
もっとも当時は、メンバーは4人ではなかったのではあるが。

ある日いつものように、お茶とお菓子を囲んで雑談に耽っていたメンバーの前に、
軽音部の顧問である山中さわ子がこんな話を持ちかけた。

さわ子「きゃにゅうふぃー♪ きゃにゅうふぃー ざっ はいぶれっ レイインボウ♪っと。
    さてと、今日は実はちょっとみんなに聞いてほしい話があるの」

律「なんだよー。新しいコスプレ衣装なら澪で試してくれよなー」

澪「ちょ、ちょっと……律! へんなこと言わないで!」

唯「澪ちゃんのメイド服姿、また見たいなー♪」

紬「見たいなー♪」

梓「いや……そろそろバンドの練習しましょうよ……」

さわ子「ときにあなた達……CDデビューしてみない?」

律澪唯紬梓「えっ?」



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:03:56.98 ID:Zl9D3tUd0

話を聞くと、さわ子の高校時代の軽音部仲間で、今は音楽業界に身を置く人間が、
この度新しくインディーズレーベルを立ち上げたらしい。

さわ子「それでね、どこかにいいバンドはいないかってその子に聞かれてて。
    で、思いついたのがあなた達っていうわけ」

澪「ちょっと待ってください……。
  私達、ライヴの経験だって学園祭でくらいしかないし……。
  CDデビューなんてそんな……」

さわ子「大丈夫よ。所詮インディーズだし。
    今は立ち上げたばかりでとにかく所属してくれるバンドが
    のどから手が出るほど欲しいっていう状況らしいし」

澪「でもお金が……」

さわ子「CDの製作費は殆どレーベルで持ってくれるらしいわ」

澪「いやでも……」

律「いや、それはおいしい話なんじゃないか? タダ同然で私達のCDが作れるんだぞ?」

唯「そうだね~。せっかくみんなで楽しく部活やってるんだから、
  記念として残るようなCD欲しいな~」

紬「来年の新人勧誘の時に配布して宣伝するのもいいかもしれませんね」

梓「わ、私もっ!! CD作ってみたいです!!」



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:05:31.46 ID:Zl9D3tUd0

さわ子「アウイエッ! きまりね! それじゃその子には私から連絡しておくから」

澪「そ、そうか……私達がCDデビュー……」

梓「これは……いっぱい練習しなくちゃいけませんね」

紬「音源として残るとなると、中途半端な演奏はできませんからね」

唯「練習の前にお菓子全部食べちゃおうよ~」

律「唯はもう少し緊張感を持て! って、
  さわちゃん、一応聞いとくけどそのレーベルなんてところなの?」

さわ子「確かボブ・サップ(BOB SUP)っていう名前よ。
    言っておくけど、過度な期待はしないでね?
    本当に立ち上げたばかりの弱小レーベルらしいから」

その後、5人はさわ子の紹介でボブ・サップ・レーベル所属バンドの
コンピレーションアルバムに提供するための楽曲
『ふわふわ時間』のレコーディングにこぎつけた。

さわ子の言うとおり、弱小レーベルだけあって借りられるスタジオも小さく、
機材も紬の別荘に備え付けられていたそれより貧相とも思えるようなものだったが、
5人が5人とも初めてのレコーディングを緊張しながらも楽しみ、
楽しみながらも真剣にやり遂げたのであった。

そして数ヶ月後、無事発売されたそのCDの参加アーティストには、
『放課後ティータイム』の名が確かに記されていた。



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:07:43.05 ID:Zl9D3tUd0

唯「いやぁ……しかし私達の曲がこうしてCDになるなんて……感慨深いね」

澪「でも地元の高校生バンドばかりが参加したコンピレーションアルバムだろう?
  はたしてどれだけの人が買ってくれるのかな……」

律「贅沢は言うなって。CD出せただけでも凄いことだろう?」

紬「そうですよ♪ 私なんて嬉しくて毎日124回、リピート再生して聴いてます♪」

梓「クラスの子たちも『凄い凄い』って、とても評判ですよ!」

さわ子「アウイエッ! そんなあなた達に朗報よ!」

唯「? さわちゃん?」

律「いつの間に入ってきたんだ……」

梓「朗報って……なんですか?」

さわ子「実はね、あのアルバムの評判、凄くいいらしいの! この辺のレコード店でもどこも完売だって」

律澪唯紬梓「!」



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:11:38.63 ID:Zl9D3tUd0

さわ子「それでね、アルバムの中でも最も反響の大きかったバンドの名前が……
    なんと『放課後ティータイム』」

律澪唯紬梓「!!」

さわ子「で、ここからが本題よ。私の同級生のそのレーベルの社長がね、
    放課後ティータイムの単独音源をぜひリリースしたいって!」

律澪唯紬梓「!!!」

さわ子「と、いうわけであなた達、
    お菓子食ってダベってるのもいいけど、しっかりバンドの練習もしてね!
    ミニアルバムにしても5曲はオリジナルが必要よ! ちなみにレコーディングは一か月後!」

澪「う、嘘だろ……」

律「私達が……インディーズとはいえ……単独デビュー……?」

紬「夢みたいです……」

梓「私……軽音部入ってよかったです……!」

唯「どうしよう……私、この前追試があったから
  その勉強したせいでまたCのコードから忘れちゃってるよ……」



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:23:49.61 ID:Zl9D3tUd0

突然のグッドニュースに、5人は戸惑いつつも大いに喜んだ。
そこから一ヶ月間、
5人は普段の「ふわふわ」な部活動風景とは打って変わって、バンドの練習に明け暮れた。

それはまさにストイックと言っても差支えがないほどの、
普段の彼女達からは想像できない姿だったが、

5人が5人ともレコーディングという大きな目標があることで、
練習の苦痛など微塵にも感じていなかった。
とにかく、軽音部の仲間で音を出すことが楽しい――。
そして、そんな仲間達と一緒に出した音をもう一度CDに出来る――。
そんな純粋な思いで、5人の頭の中は一杯だった。

そしてやって来たレコーディング。
澪と紬がこの日のために作ったオリジナル数曲と
『ふわふわ時間』『私の恋はホッチキス』といった既存の曲を、
5人は2日間という短い期間でレコーディングしてみせた。

決して良いとはいえない音質、アレンジの甘さも窺える楽曲、
技術的に未熟な演奏……それでもなお、それらの未完成な部分を補って余りある、
キラキラとしたエネルギーと輝く希望が詰まったアルバム
『放課後ティータイム』が完成したのだ。

律「あの頃は楽しかったよな……」

唯「うん……。CDも最初はあまり売れなかったけど……
  少しずつ学校以外のライヴハウスとかでも演奏できるようになって」

紬「澪ちゃんも楽しそうでしたし……」

律「それに梓も……」

唯「いつからこんな風になっちゃったんだろう……」

紬「それはやはり――」



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:29:10.66 ID:Zl9D3tUd0

アルバムの売り上げは必ずしも思わしいものではなかった。
それでも、少しずつではあるが放課後ティータイムには
地元のライヴハウスで演奏をする機会が増えてきた。

律が言うところの「目指せ! 武道館!」の目標はまだまだ遠かったものの、
ライヴハウスで自分達の学校の人間以外のオーディエンスに向けて曲を演奏することは、
5人にとって新鮮であり、そして何よりも成長の糧となった。

律「だけど……本当に楽しかったのはそこまでだったんだ」


 いつの頃からか、放課後ティータイムのライヴには
ライヴハウスが満員になるほどの客が入るようになっていたのだ。

紬「たしか……私達がインディーズ専門の音楽雑誌に紹介されたのがきっかけでしたね」

 『とびきりの美少女バンドあらわる!』――そう題された雑誌の記事には
バンドの説明やリリースされて程ないアルバムの紹介もそこそこに、
ベースを構えて凛々しくマイクに向かう澪の写真が大きく掲載されていた。

唯「女の子だけのバンドなんて……珍しかったからね」

要するに放課後ティータイムの曲や演奏でなく
『彼女達自身』に何らかの偶像的なモノを見出したファン達が集まり始めたのだ。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:35:05.23 ID:Zl9D3tUd0

律「あん時の澪の人気は凄かったなぁ……」

もともと整った顔立ちにモデルのような身体つき、
そしてバンドではボーカルもこなし、反面、歌詞ではちょっと可愛らしい面も覗かせる
――そんな意外性を持つヒロイン、澪の人気はうなぎ登りであった。
そしてライヴへの集客と比例するかのように、
当初は伸び悩んでいたアルバムの売り上げが爆発的に伸びたのだ。

さわ子「アウイエッ! ちょっとちょっと! すごいじゃないあなた達!
    『放課後ティータイム』、ついにオリコンのインディーズアルバムランキング1位よ!?」

律「これは……マジで夢じゃないかもな武道館……」

唯「わわ~、頬をつねってみてもちゃんと痛いし。律ちゃん! これは夢じゃないんだよ!」

紬「今年のフジロックにも出演依頼が来ましたしね。ちょうど夏休みですし良かったです♪」

梓「フジロック……私、憧れたんです……」

律「それもこれも全部澪のおかげだな!! お前のおかげで私達も一躍ロックスター候補だ!!」

唯「またインディーズ雑誌の表紙飾ったしね! すごいよ、澪ちゃん」

紬「新曲の歌詞も評判ですしね」

梓「澪先輩……尊敬します……」

澪「……あ、ああ。そうだな……」

 思えばこの時から既に澪の様子は、おかしくなる兆しを見せていたのだ。



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:46:07.37 ID:Zl9D3tUd0

そしてついに来るべき時がやって来た。
とある日のライヴ後、楽屋で談笑しながら
紬の用意したお茶とお菓子でしばしの休息を楽しんでいた5人の前に、
とあるメジャーレコード会社の担当者を名乗る人間が現れた。

そこで語られたのは他でもない、メジャーレーベルへの移籍話であった。 
勿論、5人は自分達に成功のキッカケを与えてくれたさわ子や
バンドを見出してくれたボブ・サップ・レーベルを裏切る形になることは認識しており、
メジャー進出の話に即座に首を縦に振る気にはなれなかった。だが――

さわ子「アウイエッ! そんなの気にする必要はないわ。
    みんながメジャーデビューして……
    学生時代の私がかなえなれなかった夢をかなえようとしているなんて、
    これほど嬉しいことはないもの」

と、いうさわ子の言葉に後押しされた。
そして、ボブ・サップ・レーベルにも、
所属バンドの出世を素直に喜ぶだけの器量が備わっていた。

『放課後ティータイム、満を持してのメジャー進出!!』
――このニュースが世の音楽雑誌やインターネットにて一斉に報道されたのは、
そのすぐ後のことだった。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:48:25.25 ID:Zl9D3tUd0

澪「ただいま……」

 返事など返ってくることのない、薄暗い高級マンションの部屋。
まだうら若き乙女である澪にとって、
親元を離れての一人暮らしは当初様々な不安を伴ったものだったが、
今となっては慣れ切ってしまっていた。
それに、このマンションは高級なだけあって、セキュリティは無駄なくらいに厳重だ。

澪「それに……今は一人暮らしの方が色々と都合がいいしね……」

そんな独り言をつぶやきながら、
澪は懐からマリファナ煙草を一本取り出すと慣れた手つきで火を点けた。
確かに、親元でこんなに堂々と酩酊に逃避することなんてできない。

澪「ヘロイン……今日ので最後だったんだっけ……。また、アイツに連絡しなきゃな」

マリファナ程度の軽いトリップでは、この憂鬱は紛らわせそうになかった。
眠る気にもなれず、手持無沙汰な澪はテレビのリモコンを手に取った。



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:52:36.34 ID:Zl9D3tUd0

目の前に映し出されたのは、
流行りの音楽のミュージッククリップを垂れ流すMTVの番組だった。
猿回しのようなつまらないポップバンドのナヨナヨとしたサウンドや、
盛りのついた雌犬のように腰をふる
自称セクシー系女性シンガーの耳障りな歌唱が、澪の気分をさらに憂鬱にさせる。

そして、次に流されたのは……
『放課後ティータイム』のメジャーデビューシングル『ふわふわ時間』
――シングルカットするために改めて録音しなおしたもの――であった。

澪「何度見ても……酷い演奏だな」

テレビの中のそのバンドには、かつてあったはずの輝くようなエネルギーは全くなかった。
特に酷いのは……生気のない表情でリードボーカルを取る、
バンド内で最も高い人気を誇る“秋山澪”という名のベーシスト――。

澪「――――ッ!」
思わず澪は画面から顔を背けていた。
――すると、視覚に頼らず、耳でのみその酷い演奏をよく聴くと……
今の放課後ティータイムが失ったもう一つのパズルのピース
――歌うようにメロディアスなリードギターのサウンドがそこにはあった。

澪「そうか……この頃はまだ梓がいたんだっけ……」

改めて画面を見れば、生気のない自分とはまるで対照的に、
にこやかな表情でご自慢のツインテールを振り乱しながら、
小さな身体にみなぎる躍動感をもって、
フェンダー・ムスタングを掻き毟る梓の姿があった。
そこで澪の憂鬱は限界を突破した。たまらず携帯電話を手に取る。

澪「ああ……もしもし、私。久しぶりね……。用件は……わかってるでしょう?
  切れちゃったのよ、アレが……。うん……お金は大丈夫だから、なるべく早く……お願い」

澪が足を踏み入れてしまったトンネルは、まだまだ長く険しい道のりだった。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:54:05.33 ID:Zl9D3tUd0

放課後ティータイムのメジャーデビューは、
世間にこれ以上ないくらいの好リアクションで迎えられた。

1stシングルとしてリリースした
再録バージョンの『ふわふわ時間』はオリコン初登場4位を記録。
その勢いのまま出演した初めてのテレビ番組
――金曜8時のあの生放送音楽番組である――においては、

全国の思春期の少年たちや大きなお兄さんたちが
テレビに全裸で正座をして待機し、彼女達の演奏を食い入るように見つめた。

律「あの頃からだよな……。澪の様子がマジでおかしくなってきたのは」

唯「澪ちゃんの人気……ちょっと異常なくらいだったもんね……」

紬「傍目から見ても戸惑っているって感じでしたよね……」



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:55:08.87 ID:Zl9D3tUd0

この頃から、放課後ティータイム全体の人気から、
澪の人気が独り歩きし始めるようになった。

彼女が使用していたフェンダー・ジャズベースはあっという間に市場から消え、
PVで使用していたという理由だけでヘッドフォンや携帯電話まで飛ぶように売れた。
それだけではない。音楽雑誌では澪の人気を当て込み、
他の4人を差し置いて彼女に単独インタビューを申し込むこともあった。

酷いところでは、「水着グラビアを撮らせてほしい」という雑誌すらあった。
最初こそ、バンドの宣伝になればと思い、律儀に対応していた澪だったが……。

律「きっと私達のことを気にしたのかもしれないな……」

紬「それでなくても澪ちゃん……繊細な子ですからね」

唯「いつからか……取材を嫌がるようになっていったよね」


 そして満を持してのメジャー1stアルバムのレコーディング。
この頃澪は既に自分達の手を離れて暴走し始める
バンドのパブリックイメージに戸惑いを感じ始めていた。

ただ楽しく好きなバンドをやりたかっただけなのに
どうしてこんなアイドルみたいな扱いを受けるのか。

ただ信頼できる仲間と一緒にバンドをやりたかっただけなのに
どうして自分だけがこんな扱いを受けるのか。

どうして水着になどならければいけないのか。

どうしてPVでヒラヒラの衣装を纏わねばならないのか。

どうしてステージでは演奏よりパンモロを期待されるのか。

 澪の中に大きな葛藤が渦巻いていた。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:57:24.83 ID:Zl9D3tUd0

律「それで澪の奴……そんな状況をなんとか打破しようとしたんだろうな」

紬「そうですね……アルバムのセッションの時には、
  山のように自作曲を書いて持ってきてくれましたしね」

唯「きっと自分はアイドルなんかじゃなくて
  ロックミュージシャンなんだって証明したかったんだよ」

 事実、アルバムのセッションに対する澪の入れ込みようには凄まじいものがあった。
20以上の自作曲をスタジオに持ち込み、歌詞は勿論のこと、
演奏のアレンジにまで積極的に意見を出した。が、しかし、

律「結局澪の曲はプロデューサーの判断で数曲しかアルバムには入らなかったんだよな」

紬「その入った数曲も……澪ちゃんではなくプロデューサー主導のアレンジになっていましたし」

唯「それ以外の残りの曲は全部、外の作曲家が作った曲を演奏することになったしね……」



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:03:13.01 ID:Zl9D3tUd0

結局、澪の「ロックミュージシャン」としての自立心は顧みられることがなかったのだ。
多くの敏腕サウンドスタッフや敏腕プロデューサーによって「作られた」1stアルバム。
そのサンプル音源を5人で始めて聴いた時の澪の複雑な表情は、三人の脳裏を今も離れることがない。
そしてそうやって製作され、リリースされた
放課後ティータイムのメジャー1stアルバム『うんたん♪マインド』は皮肉にも売れに売れた。

律「あの時はオリコンチャート1位を取ったけど……」

紬「素直に喜べなかったですよね」

唯「あんな悲しそうな澪ちゃんの様子を見せられちゃ……ね」

そして、決定的な出来事が起こったのはアルバムがオリコンチャートで1位を獲得して程ない頃。
放課後ティータイムが遂に夢にまで見た武道館のステージに初めて立とうとしていた時であった。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:11:29.50 ID:Zl9D3tUd0

 テレビに映るミュージッククリップ垂れ流しの番組は、
相変わらずくだらなくて辟易することこの上ない。
それでもなぜか消さないでいるのは、消したら最後、何の音も光も温もりも、
自分が逃避することのできる何かがなくなってしまうことがどうしようもなく怖いから――。

澪「寂しい……」

そう呟いた時、部屋のインターホンがけたたましく鳴らされた。
それも無遠慮に、何回も連続で。
こんな子供じみた真似をする人間は、少なくとも澪の知る限り律と、あともう一人しか居ない。

男「やぁ、プリンセス。ご機嫌はいかがかな?」

ズカズカと部屋に上がりこんできたその男は、澪が懇意にしていたドラッグの売人だった。
もっとも、世間的には、その不良じみたアティチュードで
人気を博すとあるロックバンドのメンバーといった方が、通りがよかったが。

澪「さっき電話したばかりなのに、ずいぶんと早いのね……」

男「そりゃあね。
  何たってあの天下の秋山澪に物寂しげな声色で『早く来て……』なんて囁かれて、
  のんびりしてられる男なんて世界中捜したってそうはいない」

澪「そ、そういう意味で呼んだんじゃ……!」

男「わかってるよ。ほら約束のブツ、このアタッシュケースの中だ」



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:13:15.62 ID:Zl9D3tUd0

アタッシュケースと束ねられた札束の交換を終えると、
男は部屋のソファーに腰を下ろした。

澪「ちょ、ちょっと……。用件は終わったんだから早く帰ってよ……」

男「別にいいじゃねえか。早速一緒にキメて、ゆっくりしていこうぜ」

澪「そういうわけにはいかないjんだ。
  それでなくても最近、このマンションの周りを写真週刊誌の連中がうろうろしてるのに……」

男「成る程な。
  あの秋山澪が、人気バンドのメンバーと夜の密会なんて洒落にならないもんな。
  しかもその男がヤクの売人だっていうんだから尚更だ」

澪「わかったのならさっさと……」

男「大丈夫だって。俺だってこの道のプロだ。下手はこいたりしない」

 ――と、テレビの中から突如響き渡る雷鳴のような激しいギターリフ。
簡単なコードの組み合わせではあるが、
逆にキャッチーで効果的なそのリフに思わず澪は耳を奪われた。
そして画面に映しだされたとあるバンドのPVに、思わず目を見開いた。

澪「梓……」

男「ん? ああ、このバンド、『ギャルズ・アンド・ローゼズ』だっけ。
  最近MTVでも良く流れるよな……って、そういえばこのバンドのギタリスト、
  一時期『放課後ティータイム』にいたんだよな』

画面の中で最高の笑顔でギターを弾く少女、中野梓。
彼女が在籍していたのは一時期どころの話ではない。

放課後ティータイムがまだ高校の軽音部で活動していた頃からのメンバーで、
澪にとっては可愛い後輩だったのだ。

澪「気分がわるい……。テレビ、消して」

男「おいおい、せっかく昔の仲間が頑張ってる姿が流れてるんだから見てやれよ」

澪「いいの。この子はもう……仲間じゃないから」

男「随分薄情な話だなぁ」

澪「それより注射器貸して。早くトビたくて仕方がないの」



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:15:28.20 ID:Zl9D3tUd0

望む形ではない「作られた」1stアルバムがリリースされ、
これまた望む形でない大ヒットを記録していた頃、
放課後ティータイムは念願の武道館での初めてのステージに立った。
だが、この時すでに澪の精神状態は限界に近づいていたのだ。

澪「ライヴ……出たくない……」

出番前の楽屋で、突如そんなことを言い出した澪に、他の四人は目を?いた。

律「な……澪! お前、今日は私達が夢にまで見た武道館ライヴだぞ……!?」

紬「もしかして体調でも悪いの?」

澪「そうじゃないんだ……。でも……」

唯「澪ちゃん……もしかして……」

実は皆、薄々気付いてはいたのだ。今の成功が、自分達が望んだものでないことには。

あんなに楽しかったはずの5人でのバンド練習は、
新曲のレコーディングのプレッシャーと常に隣り合わせ。

あんなに達成感に満ち溢れていたはずのステージは、
まるでアイドルを見に来たかのような勘違いしたファンに占拠され、作り笑いで喜ばせる。

あんなに頑張った曲作りも、出来あがった曲は全て『敏腕プロデューサー』のおかげで台無しに。

そんな不満と葛藤を抱えていたのは、何も澪だけというわけではなかったのだ。

しかし、ただ一人だけは違っていた。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:16:41.59 ID:Zl9D3tUd0

梓「澪先輩、どうしてそんなことを言うんですか!?」

本番前の澪の弱音など、それこそ軽音部時代から日常茶飯事で慣れていたはずの梓が、
この日初めて己の不満をぶちまけたのだ。

梓「せっかくメジャーデビューできて……CDも売れて……武道館までたどり着いたのに。
  どうしてそんな後ろ向きなことを言うんですか!?」

澪「じゃあ逆に聞くけど、梓はこんな形での成功を望んでいたのか?
  私達はただ5人で楽しく音楽を演りたかっただけなのに……
  動物園の見せ物みたいな今の状況を望んでいたのか?」

梓「私は……自分達の音楽をより多くの人たちに聴いてもらうためには、
  そういうことも必要なことだと思ってます」

澪「自分達の音楽だって? 今の放課後ティータイムは大人達の操り人形で、
  打ち込まれたデータを無機質に奏でるだけの機械と変わらないじゃないか。
  そんな私達に自分達の音楽なんか……」

梓「澪先輩の口からそんな言葉を聞くだなんて……見損ないました」



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:17:35.34 ID:Zl9D3tUd0

律「梓のやつ、昔から澪のこと、尊敬してたからな……」

紬「あんな澪ちゃんの姿を見て、ショックだったのかもしれませんね」

唯「でも、まさかあんなことになるなんて……」

その日の武道館で演奏は、それは酷いものだった。

澪の歌唱に生気はなく、カラオケのような気の抜けた歌声に観客は戸惑いの表情を見せた。
ベースプレイも明らかに精彩を欠き、それに引きずられるように、
律のドラムはテンポを乱し、紬のキーボードは不協和音を奏で、
唯は『ふわふわ時間』のコード進行を丸ごと忘れてしまった。

そしてそれとは対照的に、煮え切らない態度の澪と
ふがいない先輩達へのフラストレーションをぶつけたような
梓の激しいギタープレイだけが、バンド内で浮き立っていた。

ちなみにこの日のライヴはあろうことかDVDとして市場に出回ってしまっている。
放課後ティータイムのキャリアの中での初めての汚点であった。

そして終演後の楽屋で、ついに梓は放課後ティータイムからの脱退を申し出た。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:22:45.06 ID:Zl9D3tUd0


唯「そ、そんな~っ! あずにゃん……嘘だよね?」

梓「嘘ではありません」

律「いくらなんでも突然すぎるだろう……」

梓「ここ最近、ずっと考えていたんです」

紬「ここまで長い間一緒にやってきたのに……」

梓「先輩達には感謝しています」

澪「……辞めてどうするつもりなの?」

梓「実はあるバンドに誘われてるんです。澪先輩も知ってるでしょう?
  『ギャルズ・アンド・ローゼズ』というバンドです」


 『ギャルズ・アンド・ローゼズ』――人呼んで『ギャンズ』。
放課後ティータイムの一年前にメジャーデビューしたガールズロックバンドだ。

ハードロックを下敷きしたにポップな楽曲で人気を博し、
メジャー1stアルバムの『ツルペタイト・フォー・デストラクション』で
放課後ティータイムと同じくオリコン1位を獲得している。

今となってはツアーで確実にアリーナ級の会場を埋めてみせるモンスターギャルバンであった。

唯「律ちゃん、ギャンズって確か……」

律「そうだよ……ギャンズは曲の良さもさることながら、
  メンバーのアイドル性やファッション性で人気を博してきたようなバンドだぞ?」

紬「確か……メンバーのステージ衣装は常にコスプレ。
  ナースにスク水に猫耳……なんでもありでしたよね」

 一年生の頃、さわ子が持ってきた猫耳を装着するのをあれほど嫌がっていた梓に、
ギャンズのギタリストが務まるとはとても思えなかったのだが――。



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:24:23.60 ID:Zl9D3tUd0

梓「もう決めたんです。私はギタリストとしてもっと上に行きたいんです」

澪「梓……ギャンズになんか入ったら
  それこそ本当にただの金稼ぎマシーンになっちゃうよ?」

梓「私のギターで巨万の富が生み出されるというなら、
  それもまた一つのギタリストとしての生きがいだと思います」

澪「そうか……」

梓「後悔はしていません。きっとギャンズで世界一のギタリストになってみせます」

唯律紬「…………」

こうして梓は放課後ティータイムを脱退した。

その衝撃のニュースは、ほぼ同時のギャンズ加入という
これまた大衝撃のニュースとともに世間へと知れ渡った。

マスコミはこぞって梓脱退の理由を推測し、書きたてた。

曰く

「メンバー間のギャラの配分を巡ったトラブル」、
「音楽性の違い」、
「律にいじめられていた」、
「ムギに喰われかけていた」、
「唯の残念な子クオリティにいい加減に嫌気がさしていた」
……そして「メンバーの中で一人特別扱いの澪と衝突していた」――。


律「澪がマスコミ嫌いになったのはあの時がきっかけだよな……」

紬「雑誌のインタビューにもめったに応えなくなりましたしね……」

唯「あずにゃんが辞めちゃったの……だいぶツラかったみたいだからね」



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:26:42.83 ID:Zl9D3tUd0

澪の言動もこの頃からおかしくなっていく傾向が見られた。
梓脱退後、嫌々ながらも初めて応えた
音楽雑誌のインタビューで、澪は梓を痛烈に批判したのだ。

澪「梓はカネに魂を売った。ギャンズにあるのはパッション(情熱)でなくファッションだけ。
  あんなバンドに入るなんて、アタマがどうかしているとしか思えない」

澪「梓は札束に股を開くビッチ」

澪「ギャンズに入ってからの梓のギターには輝きが感じられない。
  死亡5秒前の蚊の鳴き声みたいに聴こえる」

これには梓も黙っていなかった。同じくインタビューで反論する。

梓「私が放課後ティータイムを抜けたのは、
  セルアウトすることを執拗に拒もうとする澪先輩の態度に耐えかねたから。
  売れることは悪いことじゃないし、ヒラヒラの衣装を着てギターを弾くことも悪いとは思わない」

梓「澪先輩の言ってることは駄々をこねる子供と同じ。
  売れることを潔癖なまでに拒もうとするあの態度はガキ臭いだけ」

梓「所詮、放課後ティータイムだって、そういうアイドル性で売れた『商品』バンドだった。
  澪先輩だって高校の頃はヒラヒラの衣装を着て、パンツを丸出しにしてオーディエンスに媚びてた」

この舌戦はしばらくの間、音楽雑誌のゴシップ記事にネタを提供し続けた。



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:28:28.37 ID:Zl9D3tUd0

澪「んっ……あっ……これ……凄い……」

 澪は男から買ったヘロインを早速静脈に注ぎ込んでいた。

男「上物だって言ったろ?」

澪「うん、凄い……。どこかに飛んでいっちゃいそう……」

すると、とろんと蕩けた澪の光悦とした表情を見た男が突如目の色を変えた。

男「そうかい。じゃあもっと遠くまで飛んでってみるか」

澪「えっ……」

 抵抗する暇もなく、澪の身体はソファーに押し倒されていた・

男「知ってるか? キメながらセックスすると、その快感はシラフの時の何十倍にもなるんだぜ?」

澪「や、やめて! 私はそんなつもりであなたを呼んだんじゃ……!」

男「別にいいじゃねえか。お互いヤク中のミュージシャン同士――
  いや、音楽かじってるヤク中っていうのが正解か。とにかく似た者同士、仲良くやろうぜ?」

澪「イヤーーーーッ!」



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:29:56.94 ID:Zl9D3tUd0

律「そのすぐ後のことだよ……。澪が薬に手を染め始めたのは」

唯「確か……あの夏、2回目のフジロックに出演した時だよね」

紬「一緒に出演したとあるバンドのメンバーに……ジョーカーがいたんですよね」

男「おっ、君は確か放課後ティータイムの秋山澪じゃないか。テレビで見るより可愛いなあ」

自分達の出番前、相変わらずの憂鬱な気分と気だるさを持て余して
ステージ裏を一人でぶらついてた澪に声をかけたのは、

同じくフジロックに出演していた『エビル・ホット・チリ・ペッパーズ』
――通称『エビチリ』というロックバンドのボーカルを務めていた男だった。

澪「あなたは……?」

男「おおっと。俺のことを知らないっていうのかい?
  ちょっとはこの業界でも有名になったと思ってたんだけどなあ」

澪「用がないなら話しかけないでください。一人でいたいんです」

男「そう言いなさんなって。別にとって食いやしないから。
  それより、随分と浮ない顔してるみたいだけど、何かあった?」

澪「別に……」

男「『音楽』をやりたいだけなのに、『アイドル』やらされてるのはそんなに憂鬱かい?」

澪「ッ!!」

男「ハハハ。どうやら図星かな?
  ところでさ、そんな腐った音楽業界と
  それをどうにもできない自分にイラついてるプリンセスに朗報だ。
  憂鬱な気分吹き飛ばしてみたいと思わない?」



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:31:17.75 ID:Zl9D3tUd0

こうして澪は男にまんまと騙され、ドラッグに手を出した。
最初は軽い興奮剤をちょっぴりキメただけだったが、それだけで澪の憂鬱は紛れたのだ。
そこからはもう雪崩のように落ちていくのみ。

アンフェタミン、マリファナ、コカイン、LSD、エクスタシー
……男経由で手に入るドラッグは何でもやった。

律「おい澪、お前最近『エビチリ』のボーカルとつるんでるって聞いたぞ?」

唯「え~、あのよくテレビとかでも見るカッコイイ人? 澪ちゃんまさか……」

紬「男性となんてダメです!」

澪「おいおい……別にそういう関係なわけじゃないよ。ただ作曲とかの相談をよくするだけ」

律「お前は知らないかもしれないがな……あの男、業界内じゃ『コートニー』ってあだ名で通ってるらしい。
  『コートニー』ってのはアメリカのスラングで『最悪のビッチ』って意味なんだぜ?」

唯「ビッチってどういう意味?」

紬「あまり口にだして言いたい言葉じゃないですね……。と、いうことはまさか……」

律「そうだぞ澪、あの男は危険だ。つるむのは止めた方がいい」

澪「別に何もないってば……。もう、皆心配性なんだから」




57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:32:56.84 ID:fY/7Kl0mO

コートニー・ラブからきてんのか
スラングになってんだな
勉強になるぜ





58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:34:45.35 ID:Zl9D3tUd0

>>57
いや、完全なねつ造ですwwww ごめんよ、コートニー。




86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 00:10:49.95 ID:9hJDFXmv0

エビチリってwwww

れっ○りか?w





91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/02(火) 00:15:10.45 ID:In/YiVs30

>>86
本当はカートはレッチリとは仲良かったんだけどね。



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:32:39.33 ID:Zl9D3tUd0

ドラッグをキメるようになってからの澪は、
他の三人から見れば、少しは精神的にはマシになったように思えた。
弱音を吐くことも少なくなったし、
インタビューで梓のことをボロクソに言うこともなくなった。

しかし、身体的には別であった。
ステージ上では目の焦点が合わず、
虚ろな表情で律のカウントにノリ損ねる。歌詞を飛ばす。
曲のキーを間違える。一人だけ三人とは別の曲を弾いている。

かと思えば興奮して呂律の回らないシャウトを飛ばし、
ライヴの終了とともに律のドラムセットに倒れ込む……。

律「なぁ……最近の澪、またおかしくないか?」

紬「そうですね……。精神的にはよくなったのに、
  なにか挙動が不審というか……調子が悪そうです」

唯「この前なんてトイレですごい吐いてたよ?」

この時、まだドラッグなどの音楽業界の闇というものに対して無知だった三人には、
澪が嵌り込んでいる泥沼の深さを測ることができていなかった。



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澪「錆びつくくらいなら燃え尽きちゃった方がいいよね」#前編
[ 2011/05/24 00:49 ] シリアス | カート・コバーン | CM(1)

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タイトル:
NO:2170 [ 2011/05/24 04:06 ] [ 編集 ]

BSLでふいたw

でも話はシリアスだな
澪みたいなのってありがちと言うか、わからないでもないが
高校生がCD制作出来て、それが売れた上に人気まで出たのに、外見上じゃなくて音楽性で評価されたいって強欲だな
外見上で評価されるだけでも凄いのに

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