SS保存場所(けいおん!) TOP  >  非日常系 >  さわ子「輝け!乙女達!」#前編

お知らせ

SS保存場所は移転しました。
現在けいおん!関連の更新はしていません。
今後更新するかは未定です。
SS保存場所






さわ子「輝け!乙女達!」#前編 【非日常系】


http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1306319715/l50


さわ子「輝け!乙女達!」#前編
さわ子「輝け!乙女達!」#後編




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:35:15.24 ID:rCu3B8tI0

―――軽音楽(けいおんがく)。

 『軽い音楽』と書き、
 その内容は主にジャズやダンス音楽など、気軽に楽しめる音楽の事を指す。

 近年様々な高校では「バンド部」と称されることもあり
 メンバーはギター、ベース、カスタネット、トライアングル等多種に渡り
 各々が好きな楽器を好きに奏でる事で、
 今時の若者に比較的人気の音楽のジャンルとして幅広く慕われている。

 そして、音楽には人の様々な思いが込められる。
 友情、夢、努力、達成、絶望、後悔…様々な思いを、
 人は音楽に込めては歌い、音楽を通じて、人は様々な思いを抱く。

 それはここ、私立桜が丘女子高等学校、その学校にある軽音部も変わらない。

 これはその軽音楽、軽い音楽の中に込められた…3組の少女達の青春の物語である。





2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:35:58.70 ID:rCu3B8tI0

 さわ子の部屋

さわ子「部屋の掃除も楽じゃないわ…っと…わっ!」

バササッ!

さわ子「あ~~…やっちゃった…えっと、このダンボールは……」

さわ子「ん…………アルバム…か。」

さわ子「これ、私がヘビメタをやる前の………」

 ぱらりとアルバムをめくり、昔を思い返す。

 
さわ子「………懐かしいなぁ…」

さわ子(勝手やってヘビメタに走っちゃったけど、あの頃も楽しかったわよねぇ…)

さわ子「っと、だめだめ、今は片付けが先っと」

さわ子(でも………もしも、あの頃に戻れるんだとしたら…私は……)



3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:36:50.24 ID:rCu3B8tI0

 受験も大詰めを迎えた高3の秋、
 文化祭を大成功に納めた私達は受験勉強に追われていました。
 大学の事で調べ事があった私は、職員室にいる担当の先生に話を聞こうとしたんだけど、
 まさかそこで、あんな話を聞くことになるなんて思いもしなかった…。


 職員室

唯「失礼しまーす。先生あの~…」

さわ子「…はい、ええ……分かりました」

教頭「それではよろしくお願いしますよ、山中先生」

唯(さわちゃん…?)

さわ子「はい…」

教頭「……正直急な話で戸惑うかと思いますが、どうかよろしくお願いします…」

さわ子「いずれこうなる事は覚悟はしてましたし、私でしたら大丈夫です…」

教頭「ええ、無論心配なさらなくとも大丈夫ですよ、
   山中先生の実績があれば他校でもやっていけます。どうか自信を持って下さい。」

さわ子「はい……」

教頭「転勤先の教頭先生は私の恩師でしてね、これがまた良い方なんですよ…。」

さわ子「…………」


唯(他校って…転勤って……一体何の話?)



4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:37:27.07 ID:rCu3B8tI0

教師「あら平沢さん、どうかしたの?」
唯「あっ…えっと、大学の事なんですけど…」
教師「そっか、それじゃあ場所を移しましょうか」

唯「はい…」

唯(まさか…さわちゃん……)

―――
――


図書室

律「X=…ううう……」
澪「ほら律、またここの方程式飛ばしてる…」
律「うがーーー!! わかるかこんな計算!」

澪「あのなぁ…この計算式、1年生の頃習っただろ?」
律「私、過去は振り返らない主義だからっ!」

澪「あっそ…じゃあ律だけ浪人で私達は3人で楽しいキャンパスライフを…」
律「そ…それだけは嫌ぁぁ~」

澪「はい、じゃあしっかり計算しような?」
律「うううううう………」



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:38:10.45 ID:rCu3B8tI0

紬「りっちゃんも大変そうねぇ…」
唯「ん~~…」

紬「唯ちゃん?」
唯「ん~~……」

紬「唯ちゃん、ゆいちゃーん?」

唯「んえ…? あっ…ごめんムギちゃん、どうかした?」
紬「どうかしたは唯ちゃんよ、さっきから唸ってばっかで…どうしたの?」

澪「ペンも進んでないな…唯、何かあったのか?」
律「お腹でも痛いの? あ、良かったら私の薬貸そっか?」

唯「ううん、そういうんじゃないから……」

 ここで私一人だけ考え込んでても仕方ないか…。

 一人でモヤモヤしてるのも嫌だったから、
 私はみんなに職員室で聞いた事を話してみました。


唯「実は、さっき職員室で…」



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:39:42.74 ID:rCu3B8tI0

―――
――


律「そっか……さわちゃん、いなくなっちゃうのか…」
澪「でも、まだ確定じゃないんだろ?」

唯「でも、あの話の感じ、ほとんど決まってたみたいだよ…
  来年の春にはもう、別の学校に行っちゃうんだって…」
紬「先生も、『卒業』しちゃうのね…」

………………

唯「あのさ、みんな…」
澪「唯が何を言いたいのかは分かるよ」

唯「ん…私、まだ何も…」
律「分かるよ、梓と同じで、歌を届けたいって言うんだろ?」

唯「………うん。」

 りっちゃんと澪ちゃんの言葉に、私は無言で頷きます。

紬「……唯ちゃんらしいわ、優しいのね」



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:40:22.96 ID:rCu3B8tI0

 私が考えていることは、みんなにはお見通しだったようです。

 そう。 夏のある日、
 私は、卒業の日にあずにゃんに歌を届けようとみんなに提案しました。

 そして、私のその気持ちを酌んでくれたように、
 澪ちゃんは歌詞を、ムギちゃんは作曲を快く引き受けてくれた。

 澪ちゃんもムギちゃんも受験勉強で大忙しなのに、引き受けてくれた…。


澪『曲作りは私とムギでなんとかするから唯と律はとにかく勉強しろ、
  他に時間を食って受験に失敗したら元も子もないからな』

紬『そうね、私もあまりこんな事言いたくはないけど…成績も判定も、
  私と澪ちゃんなら多少勉強が遅れても取り戻せる余裕はまだあるからね…』


 そうして、2人は私のわがままに付き合ってくれた…。
 それどころか、私の提案を全部引き受けてくれて…
 私とりっちゃんは勉強に打ち込むことができた…。

 その甲斐もあって、
 私とりっちゃんは志望校への合格率を大きく引き上げる事が出来たんだ。
 そうやって、夏休みに4人で集まって決めた曲名が『天使にふれたよ!』。

 この学校で出会えた掛け替えの無い一人の天使、
 私の…ううん、私達のとっても大切な後輩に捧げる歌が、生まれたんだ。



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:41:47.41 ID:rCu3B8tI0

紬「『天使にふれたよ!』は、なんとかパートの振り分けまでは出来上がっているわ、
  でも他に作るとなると…時間が上手く取れるかどうか…」
澪「私も、3/4ぐらいまでなら歌詞もできているけど…これ以上の作詞はちょっとな…」

律「だろうなぁ…まぁ、唯の気持ちもわかるけどさ…
  さすがに、これ以上曲作りを2人に課すのはヤバイって…」

 りっちゃんの言うことはもっともでした。

澪「音合わせをしたりする事も考えると…どこまでやれるか分からないからな…」

紬「悔しいけど…さすがに………さわ子先生の分までは……」

 それは私自身も分かっていました。
 文化祭も終わって本格的に受験モードに入った今、
 これ以上勉強以外の事でみんなの時間を割くわけには行かない…。

 でも…それでも……私は悔しかった…。

 …一人じゃ満足に作詞も作曲も出来ない、
 ギターを弾いて歌うだけしかできない自分が、すごく悔しかった…。
 3年間、この学校で一番お世話になった先生に…
 軽音部らしいこと、何もしてあげられないなんて……。


 ―――ただ、それだけが…すごく悔しかった……。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:42:19.46 ID:rCu3B8tI0

―――
――


 さわ子の部屋

さわ子「…ん~~……さすがに、多いなぁ…」

さわ子「一人暮らししてから色々と買い込んではみたけど、
    よくもまぁこんなに荷物があるもんだわ…」


 ―――引っ越し準備。
 転勤が決まってからゆっくりやろうと決めたので、今はとりあえず荷物の整理から。
 
 しかし…多いなぁ……。

 フラれた腹いせに衝動買いしたバッグや洋服、
 どっぷりハマってグッズを買い漁った洋楽バンドのCD、
 教師を志した時に買った参考書やら哲学書……数えたらキリが無い…。

 …いっそのこと、質屋にでも売ってしまおうかな?



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:42:55.53 ID:rCu3B8tI0

さわ子「これはゴミっ…これは…んん~~……悩むなぁ…」

さわ子「…………」

 転勤は、来年の春に決まった。
 新学期と同時に、私の新たな教師生活もスタートを切ることになる。

 転勤先は遠くの女子高で、桜が丘(ここ)よりも偏差値はやや高め。

 …まだ見て来たわけではないのだが、手のかかる子はいないと評判らしい。


……………


さわ子「ふぅ……」

 一段落着き、軽く食事を済ませる。

 そして、ふと目についたものをぱらぱらとめくる…。



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:43:38.05 ID:rCu3B8tI0

さわ子「………ぷっ…」

さわ子「……あははっ…懐かしいー」
さわ子「あーー、クリスティーナ若い…うふふっ…」

 高校時代のアルバムをめくり、思い出にふける。

 そして、とあるページを前に指を止める。

 私がヘビメタをやる前にやっていたグループ、
 その頃のメンバーの2人の写真が目に止まる。

さわ子「…………懐かしいな…」

さわ子「まだ…あったかな……あの衣装…」



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:44:42.81 ID:rCu3B8tI0

 私は押入れの奥を漁る。

 あの人に恋をしてから一心不乱に走り続けた過去を、
 そして決してあの子達には見せられない過去を、私は探す…。

 …どうしてだろうか。

―――何故、今更になって…私は…あんな物を探しているのか。

 過去を忘れたい気持ち。
 でも、それを大事に残しておきたいと言う思い。

 矛盾した気持ちがグルグルと頭の中を回り……。

さわ子「……やっぱり、やめよう…」


 心が重くなり、私は探すのを中断する。

さわ子「今更あんなもの探して、何をやってるんだ私は……」


 今更あんなもの見つけても、何かが変わるハズ無いのに…。

 だって……私は…私は、あの2人を…裏切ったのだから……。

 2人を裏切って…ヘビメタの世界に進んだのだから……。



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:45:14.41 ID:rCu3B8tI0

―――
――


 桜が丘図書館

唯「う~ん…」
澪「…まだ悩んでるのか?」

唯「うん…ちょっと…ね」
律「諦めろって…1曲作るだけでいっぱいいっぱいなんだからさ…」

紬「唯ちゃん、今は勉強頑張ろっ、これが終わったら久々に演奏よ♪」
律「そうそう、やっと澪とムギの歌が完成したって話だから、
  早いところ音合わせやっておかないとな」
唯「…うん、そう……だね」


和「あら、みんなお揃いね?」

 さわちゃんの事で勉強も手つかずだった時、和ちゃんが声をかけてくれました。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:45:49.50 ID:rCu3B8tI0

唯「和ちゃんっ」
澪「和、図書館に来るなんて珍しいな」

和「ちょっと志望校の過去問をね…あら? 唯何か考え事?」

律「うわ、顔見ただけで当てたよ」
和「だって、いかにも悩んでますって顔してるじゃない?」

澪「さすが、幼馴染…」
律「私と澪も大概知ってるけど、こいつらの仲は私ら以上だねぇ…」
紬(目と目で通じ合う関係…素敵ねぇ)

 和ちゃんには一発で見抜かれた、
 さすがは和ちゃんと言うか…私の事よく知ってると言うか…。

和「話してごらんなさい、私でよければ力になるわよ?」

唯「うん、実は……」

 私は事の始まりを和ちゃんに話してみた。
 和ちゃんなら、もしかしたら
 すんなり答えを出してくれるかも知れない…そんな期待を込めながら…。



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:46:34.17 ID:rCu3B8tI0

―――
――


和「そっか…そんな事が…」
唯「うん……だから私さ…」

澪「でも、さすがにこれ以上の時間は…」

和「澪や律の言う事はもっともね、でも、唯の気持ちも分からなくはないわね…」
唯「うん……」


和「だったらその、先生の昔いたバンドの音楽を、
  みんなで演奏して聴かせてあげるってのはどうかしら?」

紬「先生の…昔のバンド…」

和「そうよ、梓ちゃんの為に歌う歌と違って、無理に新曲にする必要はないんじゃないかしら?」
和「それに、先生の思い出にある音楽なら、送別の歌にはもってこいだと思うけど」

律「…そ、そうか…!」
唯「和ちゃんすごい! こんなに簡単に答えを出してくれた!」

 みんなが『その手があったか』って顔で和ちゃんを見ています。

 前から思っていたけど和ちゃんの提案にはいつも驚かされる…。
 やっぱり、和ちゃんはすごい…!



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:47:24.00 ID:rCu3B8tI0

紬「確かに、それなら音源はもうあるから作詞も作曲も必要はないわね…」

律「って事は、私達にヘビメタをやれと…」
澪「……私…無理かも……」

唯「いつかの結婚式のとき、私先生にダメ出しされちゃったからなぁ…」

和「そこは…みんなの頑張り次第だと思うけど…」
和「でも、現状で上手く時間を使うのなら、これが一番ベストな方法だと思うけどね」

律「私、和の意見に賛成」
紬「私も、それならさわ子先生喜んでくれると思うわ」
澪「怖いのは苦手だけど…先生の為だし、頑張ってみるよ」

唯「わたしも……頑張ってみる!」


和「うん、みんな頑張ってね」

 そして、和ちゃんはまるでお姉さんの様に優しく微笑んで…エールを送ってくれました。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:47:47.09 ID:rCu3B8tI0

和「それじゃあ私、家に戻るね」

律「っと…和!」

和「…?」

律「これからライブハウスで音合わせするんだ、良かったら私達の歌、聴いてってよ」

和「そうねぇ…ありがと、せっかくだし、聴かせてもらおうかしら?」

唯「じゃあ私…憂も誘ってみるねっ」

和「それじゃあ、私は憂と一緒に向かうから、先行っててくれる?」

唯「うん! 和ちゃんありがと!」


 そして、一足先にライブハウスに向かった私達は、
 お茶を飲みながら憂と和ちゃんが来るのを待ちました…。

 それから…



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:48:19.02 ID:rCu3B8tI0

―――
――


 ライブハウス

―――♪ ~~♪

唯「ずっと、永遠に一緒だーよ…♪」

~~~♪ …♪


唯「…ど、どうかな?」

憂「良い歌…梓ちゃん、きっと喜んでくれるよ…」
和「ええ…卒業にぴったりね…」

律「さすが私達、息ぴったりだな」
澪「これなら各々練習すれば何とかなりそう、卒業までには完璧に仕上がりそうだな」
紬「3年間、頑張った甲斐があったわねぇ」

唯「じゃ…じゃあ! この調子でさわちゃんの歌もやってみようよ!」
憂「先生の歌?」

唯「うん…見てて!私、先生っぽく歌ってみるから!」



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:48:55.19 ID:rCu3B8tI0

 そして、私は咳払いを一つして…

唯「スゥゥ……お…お前らが来るのを…待っていたあああ!!!」

――――シーン……………。


律「わ…ワンツースリーフォー!!」

ジャカジャカジャカジャカ………ジャラララン!!!

―――――!!! ~~~~!!!


 半ば強引に始まったりっちゃんのドラムに合わせて、
 私達は先生のバンドの音を…デスデビルの音を再現してみる。

~~~!!! ―――!!!

―――! ―――!!!

唯「ヘゥザワールド、ヘゥザワ~~! あ~~~!!!」

 ……………………

 な…なんとか歌えた……。
 …でも、やっぱり…何かが違う…。

 と、とりあえず、憂と和ちゃんに感想を聞いてみようかな…



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:51:28.35 ID:rCu3B8tI0

唯「ね、ねえ…。 ど…どうだったかな……?」 

和「んんん……私は良かったと思うけど……ねぇ憂?」
憂「…う、うん!! お姉ちゃんなら大丈夫だよ!!」

唯「みんなぁ…優しい言葉ありがとうねぇ……」

 憂と和ちゃんのフォローが胸に刺さる…やっぱり、私には難しいのかな…

律「前途多難だな…あはは……」
澪「でも、演奏自体に問題なかったな」
紬「先生の演奏、テープでよく聴いてたもんね…」

律「演奏は練習すりゃなんとかなりそうだけど…ボーカル次第…かねぇ」

 やっぱり、私が頑張らなきゃいけないよねぇ…

 と、自分の声の小ささに半ば幻滅しかけてた時。
 

声「おやおや、懐かしい音がしたと思ったら、まさかあんた達が演奏してたとはねぇ…」

 聞き覚えのある声が聞こえたので声の方を向いてみる、するとそこには…

唯「の…紀美さん!」

紀美「よ、久しぶりっ!」


―――軽音部のOB…さわちゃんと同じデスデビルのメンバーの、河口紀美さんが…そこにいた…!



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:52:19.34 ID:rCu3B8tI0

―――
――


 ライブハウス

 憂と和ちゃんも帰って、私達は久々に会えた紀美さんとお茶を飲んでいました。

紀美「久々に顔出したら懐かしい音が聞こえたからちょっとね、
   でも、なかなか上手い演奏だったよ」
紀美「っても、まだまだ私達には及ばないけどね、あははっ」

 ニコニコ顔で紀美さんは褒めてくれた、
 先輩に褒められたこともあって、それが妙にくすぐったかったな…えへへ。

律「あ、ありがとうございますっ!」
紬「紀美さん、お茶をどうぞ…」

紀美「うん、ありがと。 んで、なんでまた私達の演奏を?」
紀美「あー、まさか顧問に影響されちゃったクチ? まったくさわ子のヤツ…」

唯「あ、そーゆうんじゃなくて…」
紀美「…?」

澪「実は…さわ子先生、来年の春に別の学校に行ってしまうんです…」

紀美「ふむふむ」

紬「それで、先生がヘビメタに出会ったこの学校の軽音部で、
  私達がヘビメタを演奏すれば…喜んでくれるかなと思って…」

紀美「んで、恩師であるさわ子の為に、慣れないヘビメタをやったと…」



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:53:13.52 ID:rCu3B8tI0

唯「紀美さんっ! あの、私達に…ヘビメタを教えてください!!」

律「時間は取らせません! コツを教えてくれるだけでいいんです!」
澪「練習は…あまりできないかもしれませんけど、なんとか時間作ってやってみたいんです!」
紬「ですから…お願いします!」

 みんなで紀美さんに頭を下げます、そして……

紀美「………そっか…」

紀美「……………」

 少しの間を置いて、紀美さんは持ってたタバコに火を付ける。

紀美「…っと失礼、さすがに年頃の女の子の前で吸うモンじゃなかったね…」

 すぐさま火を付けたばかりのタバコを灰皿に押し付け、ゆっくりと紀美さんは言葉を繋げます。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:54:07.40 ID:rCu3B8tI0

紀美「私からあんた達に教える事は無いよ…」

唯「そんな…」
澪「やっぱり、私達には荷が重すぎたのかな…」

律「いくら私達でも…先輩の紀美さん達には遠く及ばないか…」

紀美「違う違う…みんなの音楽は大したもんだと、私は思ってるよ……」
紀美「ただ…みんなの音楽は私達のそれとは違うからさ…」

紀美「私のアドバイス一つでどうこう出来るとも思えないし、
   それにヘビメタってのはそんなに甘い道じゃ無い」

紀美「何より、突貫工事で作り上げた音で、本当にさわ子の心を揺さぶれるとは思えない」

 そう言って紀美さんは優しく、私達を諭してくれた…

紀美「でも、みんならしい音楽でさわ子の心に響く曲、私知ってるよ」

唯「…? どういうこと…ですか?」

紀美「…さわ子がヘビメタに入るきっかけ、知ってるよね?」

唯「えっと…確か、好きだった男の人に振り向いてもらいたくて、
  ヘビメタをやるようになったんですよね?」
紀美「まぁそんな感じかな、その男、ワイルドな感じなのが好きだったからさ…」

紀美「じゃあその前、ヘビメタをやる前のさわ子が
   どんな歌を歌っていたかは、みんな知らないワケだ」



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:54:47.50 ID:rCu3B8tI0

唯「ヘビメタをやる前のさわちゃん?」
律「まぁ…きっかけがあったからヘビメタに走ったんだから、
  それ以前にも音楽はやってたんだよな…」

紬「それ、どんな歌だったんですか?」

紀美「あいつさ、よくみんなに可愛い衣装作ってくれたりしてない?」

澪「まぁ…ちょっと恥ずかしいけど、確かに可愛らしい衣装を作ってくれますね…」

紀美「やっぱり抜けてないな、アイツ……フフッ」

 何かを思い出したように含み笑いをする紀美さん、そして話は続きます…。


紀美「私らん時の軽音部は部員もたくさんいてさ、それぞれいろんな演奏をしていたんだ」

紬「前に、さわ子先生から聞いた事あったわね」

紀美「ああ、私は最初っからヘビメタ一直線でさ、デラやジェーン…
   あ、前に披露宴に来てたアイツらね、そいつらと一緒に歌ってたんだけど…」

紀美「さわ子は…今で言うと萌え系って言うのかな、
   メイド服とかを着て歌って踊ってた時期があったんだ」

澪「あの先生が…メイド服!?」
唯「い…意外……」
律「さわちゃん…やるなぁ…」



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:55:17.87 ID:rCu3B8tI0

紀美「そう、だから元はみんなと変わらない、
   明るくて可愛らしい歌を歌っていたのさ、アイドルみたいに元気な歌を…ね」

紀美「それが、ある日を境に私らのとこに来たもんだからそりゃもう大変でさ…」
紀美「当時のさわ子のグループのメンバーにゃ白い目で見られたもんよ、
   なんせボーカル取ってっちゃったって事になったんだから…」

澪「それで…その、先生のグループのメンバーは…
  先生がいなくなってからはどうしたんですか?」

紀美「…ああ、さわ子が抜けてから、日も経たないうちに退部した…」

唯「そうなんだ……」

紀美「色々あったなぁ…あの時は……」


―――紀美さんは嬉しそうに、時に寂しそうに当時の事を語ってくれた。

 さわちゃんの昔の事。
 さわちゃんがどんな感じで歌を歌っていたのか。
 ヘビメタをやる前のさわちゃんのグループの人が、どんな人だったのか。

 さわちゃんが紀美さん達と出会ってから、どう変わったのか…

 それを遠い目で、昔を懐かしむように、教えてくれました…。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:56:15.64 ID:rCu3B8tI0

―――
――


紀美「とまぁ、こんな感じかな」

律「さわちゃんにも色々あったんだなぁ…」

紀美「…この話、さわ子には絶対内緒だからね? アイツもこの事相当気にしてるから…」

唯「私にはとても言えないよ…あはは」
律「さすがにこれをネタにゆすったら殺されるかもな…」

澪「でも、さわ子先生の在学時代にそんな事があったんじゃ…
  その歌をいくら私達が聴かせても…嫌な記憶を思い出させるだけなんじゃないか…?」

紬「…理由はどうあれ、さわ子先生が紀美さん達の所に入った事で、
  その二人は部を辞めてしまったんですものね…」

紀美「ああ、そこは私に任せてよ、なんとかしとくからさっ」

 そして、紀美さんは親指を立てて私達に微笑んでくれました。

 …和ちゃんやさわちゃんとは違うけど、
 とても頼り甲斐のあるお姉さん、そんな雰囲気が、紀美さんから感じられました…。



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:57:21.84 ID:rCu3B8tI0

紀美「来週またここに来てよ、そん時の音源探しといてあげるからさ。
   ついでに色々と奢ってあげる♪」

唯「わぁ~、や…やったぁ!」
律「へへ、儲け儲けっと♪」
澪「すみません…でも、ありがとうございます!」
紬「紀美さんのお気持ち、すごく助かります!」

紀美「いえいえ、それにあの歌ならみんなにも問題なく演奏できると思うよ。
   明るくてポップな楽しい歌だからさ」

律「明るくてポップな歌か…きっと放課後ティータイムにはもってこいの曲なんだろうなぁ」

澪「私、今ならわかる気がする…なんで私達が、
  あの人の前で、あの人とは違った音楽を奏でられてたのか…」

紬「さわ子先生も…もとは私達と同じ音楽を奏でていたのね……」

唯「みんな…これだよ、その…さわちゃんがやってた演奏こそが、
  私達がさわちゃんに送るのに一番の曲なんだよ!!」

律「ああ、梓への曲もそうだけど…絶対に聴かせてやりたいよな」
紬「頑張って練習しなきゃ!」
澪「みんな、もちろん勉強もな?」
律「ああ、受験もライブも何もかも、私達で乗り切るぞ!」

一同「おーーーー!!!」

紀美(いいねぇ…若いって…)

紀美(さわ子…あんた幸せじゃないの…こんなに想ってくれる生徒がいてくれて…さ)



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:58:56.64 ID:rCu3B8tI0

―――
――


 1週間後

紀美「来た来た、はいこれ、約束の音源」

 紀美さんから渡されたCDをセットし、再生ボタンを押します。

律「どんな曲なんだろうな……」

~~~♪ ~~~♪

 ……………。

 プレーヤーから流れる曲は、ちょうど当時のアイドルソングみたいにノリノリで、
 明るくて…歌ってるさわちゃんも、
 コーラスの人もとっても楽しそうに歌っているのがよく分かる、そんな歌でした。


唯「すごい…心が軽くなるね」
律「これが…さわちゃんの最初の最初の歌…」

澪「正直信じられない…あんなに怖い歌を歌ってた人なのに…」
紬「でも……すごく可愛い歌声…♪」

唯「うん、私達にもぴったりの歌だよ、コレ!」

律「決まりだ、これをさわちゃんに送ろう! この歌を、さわちゃんの前で歌ってあげよう!!」
澪「ああ、賛成だ!」
紬「さわ子先生、きっと喜んでくれるわよ…ね?」



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 19:59:57.39 ID:rCu3B8tI0

律「じゃあ、今日はこの歌聴いて練習と行くか!」
唯「うん!」

澪「律、梓への歌も忘れちゃダメだからな?」
律「わかってるって…それじゃあ放課後ティータイム、やるぞー!」

一同「お~~~~!!」


紀美「さわ子の事は私に任せて、安心して練習してね。」

紀美「あ、でも、勉強もしっかりとね?」

律「平気平気、いざとなったら澪に頼んで…」

澪「私に何をさせるつもりだ…」


紀美「あはははっ、みんな、良い友達を持ったもんだねぇ♪」

―――――――――――――――――――

 そして、日々は過ぎて行きます。

 最初は都合を見つけてやってた音合わせも、
 次第に回数が減り…受験勉強一色になって…
 音合わせも練習も、たまにやる程度になって…
 
 今じゃ勉強時間1日8時間! でもたまに息抜きにギー太をいじってると…
 止まらなくなっちゃうんだよね…あはは。 こんなんじゃまた憂に怒られちゃうな…

 でも、ギー太を触ってる時が、一番楽しいな…



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:00:28.60 ID:rCu3B8tI0

―――――――――――――――――――

 冬休み、クリスマス、お正月と季節は巡ります。
 受験のプレッシャーに押しつぶされそうになった時でも、
 上手く時間を見つけてみんなで集まってお茶飲んで演奏すれば、どこか心が軽くなって…

 やっぱり私、この学校でみんなに会えてよかった…
 みんなとお茶でほっと出来て、本当に良かった…

 だから、絶対に受験も演奏も成功させなきゃ…

 大好きなあずにゃんとさわちゃんの為に…そして、私自身の将来の為に……
 憂やりっちゃん、和ちゃん、澪ちゃん、ムギちゃん…お父さんにお母さん……
 私を信じて頑張ってくれてるみんなの為にも、頑張らなくちゃ……!!


―――――――――

――――――

―――


 引っ越し準備も生徒の進路もおよそ半分が片付いた1月の終わり頃の休日、
 私は紀美に呼び出されて近くの飲み屋まで来ていた。

 この冬真っ盛りで雪も降りしきる夜、…寒さが身体に堪えるなぁ……



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:01:43.86 ID:rCu3B8tI0

さわ子「ったく、紀美のやつ急に呼び出して…」

紀美「おーい、さわ子久しぶり~」

さわ子「紀美、あんたねぇ…」
紀美「まぁまぁ、あんたもいろいろあって疲れてるだろうから、
   今日はプチ同窓会でもねと思ってさ」

さわ子「プチ同窓会…?」

紀美「あっちあっち」

 紀美がクイクイと親指を向ける方向、そこには懐かしい顔ぶれがそろっていた。

「おいっすさわ子~!こっちこっちー!」
「去年の披露宴以来だねー、キャサリン元気だったー?」

 そこには、デスデビルのメンバーだったデラやジェーンの姿があった。

さわ子「あ…! みんな久しぶり! どうしたのー?」

 まさか、みんなに会えるとは…!
 確かに最近仕事仕事で立て込んでたから、これは嬉しいサプライズだ。

紀美「それだけじゃないよ、今日はもう二人特別ゲストにも来てもらったのさ」
さわ子「特別ゲスト…?」

紀美「おーい、2人ともこっち来なー」

 そして、紀美の声に合わせて奥から顔を覗かせる2人の女性が…。



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:03:01.31 ID:rCu3B8tI0

「さわ子、久しぶりね」
「やほー、さわ子元気してたー?」

さわ子「みゆき……恭子…?」

みゆき「こうして会うのも卒業以来だねぇ」
恭子「んま、過去の事は水に流して…今日は飲みましょ♪」

さわ子「………え…ええ……そう……ね…」

 みゆきに恭子……

 私の、昔の仲間…

 私が裏切ったこの2人にだけは、もう会うまいと思っていたのに…
 どうして………その2人がここに…?

―――
――


 頃合いを見て、紀美を連れて外に出る。
 
 降り続ける雪のせいで身体が締まる様に寒いが、
 
 店の中で…何よりもあの2人の耳に届く所でだけは…話したく無かった…

 それに幸いというか…他の4人は昔の思い出話に華を咲かせていたので、
 
 今が抜け出すには絶好のチャンスだったのだ…



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:03:30.85 ID:rCu3B8tI0

さわ子「紀美、どういうつもり…?」
紀美「どういうって…そーゆー事さ」

さわ子「アンタ…知ってるでしょ? 私があの2人に何したか…」
紀美「うん、知ってる」

さわ子「ふざけないでよ…私は今更あの2人に合わせる顔なんて…!」

 そうだ、あの2人を…私は裏切ったんだ。

 …もしも過去に戻れるのなら、あの時の自分を殴ってでも止めてやりたい。
 
 一時の恋心を理由に仲間を裏切ってまで
 
 違うグループの所へ行くなんて…あの時はどうかしてた…
 
 確かに恋愛に一途だったと、聞こえ良く言えばそうなのかもしれない…
 
 でも、結果的に私が抜けた事で…あの2人は…!

 …………嫌な過去が頭に蘇る……

 忘れたくても忘れられない……苦い思い出が頭に鮮明に蘇ってくる……



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:04:29.66 ID:rCu3B8tI0

―――――――――――――――――――

みゆき『ちょっとさわ子……アンタマジで言ってんの?』

さわ子『ええ、私、本気よ…』

恭子『か…考え直そうよ! 私達、これから3人で頑張るって約束したじゃん…!』

さわ子『恭子…ごめんなさい…私、あの人だけはやっぱり忘れられない……!』

さわ子『私…これからはワイルドに生きていくの……!
    河口さん達と一緒に…ワイルドに生きて行くのっ!』
さわ子『だから…だから……こんな…ちゃらけたギター………っっ!…ふんッッ!!』

 ―――バキィッッ!!

さわ子『はぁ…はぁ……! 聞いて二人とも…私…本気なの…!』

恭子『…さわ子……あ…あんたねぇ!!!』

みゆき『もういいよ……さわ子がそこまで言うならさ…』

恭子『ちょっとみゆき…あんたまで何言って…!』

みゆき『勝手にしなよ…もうアンタの事なんて知らない…』

さわ子『……………』

みゆき『恭子…行こう……こんなヤツ…もう知らない……』

みゆき『裏切り者…』



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:06:24.42 ID:rCu3B8tI0

――裏切り者…。

 それが、いつも温厚で優しい仲間が、最後に私に向けて放った言葉だった……。

 …そして、そう日もかからない内に、みゆきと恭子は…部を辞めた。

 残った私は…デスデビルのボーカルとして、軽音部に残ったんだ…

 私は…私情であの2人の夢を奪って…図々しく居残ったんだ…

―――――――――――――――――――

さわ子「やめてよ…嫌な事思い出させないでよ…お願いだから…っ」

紀美「じゃあ聞くけど、なんでアンタは生徒にあんな恰好させて歌わせてるのさ?」
さわ子「…あんな恰好って…唯ちゃん達の事?」

紀美「そ、昔に未練タラタラなのがよく分かる衣装だと思ったけど?」
さわ子「紀美には…関係ないでしょ……」

紀美「いんや、関係あるね」
さわ子「…なんでよ?」

紀美「このままいなくなったら、アンタ一生その事気にして余所へ行かなきゃならないんだよ?」
さわ子「…知ってたの? 私の転勤の話…」

紀美「ちょいと小耳に挟んで…ね」
さわ子「でも…今更なんて言ってみゆき達に会えばいいって言うのよ……」

紀美「…………」



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:07:04.84 ID:rCu3B8tI0


 少し間を置き、紀美はタバコに火を付け、怒ったような目で私を睨みつける。

紀美「キャサリ…いやさわ子、いいかげんにしなよ…?」

さわ子「…何よ?」

紀美「お前が逃げてたら意味ねえだろ?
   お前自身の為にも、お前を慕ってる生徒の為にもならねえだろ…?」

さわ子「別に私は逃げてなんか…ってか、紀美には関係ないじゃない!!」

紀美「聞け!! デスデビルのボーカルだったキャサリンも…
   その前から萌え萌えの服着て踊ってたさわ子も…」
紀美「生徒の為に教師として軽音部の顧問やってるさわ子も…
   全部軽音部の『山中さわ子』に変わりねえだろうがっっ!!!」

さわ子「…っ!!」

 ……紀美の迫力に声が出なくなる…
 ここ一番で怒った時の迫力…変わってないな……

 でも、それでも私は……!


紀美「これからアンタは大きな感動を目にする、
   ここで教師やってて良かったって…そう思えるようなことがさ…」
紀美「その為にも、今ここでさわ子の中の過去を、
   嫌な思い出を…良い思い出にしとかなきゃなんねえんだよ!!」

さわ子「一体…何の話よ?」



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:07:45.18 ID:rCu3B8tI0

紀美「それはまだ言えない、でも、『その時』の為にも…さわ子が生徒として、
   また教師として桜高で過ごした思い出に、悪い思い出があっちゃならないんだ…」

紀美「それにもう時効だよ…恭子も言ってたじゃん…過去は水に流してってさ……」

さわ子「…………っっ…でも…でも……」

 紀美の言葉に声が出ない。
 
 …どうすればいいって言うんだ…今更、どう謝れって言うんだ……

 私のせいで2人は部活を辞めた…私の身勝手な振る舞いで…2人は……

 ……でも……忘れられないのもあった

 たとえ一時でも、みゆきや恭子と歌った『あの歌』を…。
 紀美やみんなで歌った…あの激しいヘビメタも…。
 教員としてあの子達と共に過ごした…あの音楽室を…。

 あの部室で…みんなと出会ったあの音楽を…
 たとえどんなに苦い思い出があったとしても…忘れる事なんて…できやしなかった…。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:08:21.98 ID:rCu3B8tI0

紀美「昔に未練あるんだろ?
   だから、あの子達の衣装に、昔の思い乗せて…せっせと衣装作ってたんだろ?
   あの子達の可愛い歌声、楽しみに聴いてたんだろ?」

さわ子「そりゃ未練なんてあるわよ…でも、でも!! 私は…私は……!!」

さわ子「………っっく…っう…! わたし…は……!」

 
 柄にもなく涙が出てきた…きっと酒のせいだと、そう思いたい……でも…!
 止まれ止まれと思うほどに…涙が溢れてくる…!

 泣いてこの気持ちが晴れるなんて思っちゃいない…
 でも…忘れようと思えば思う程に蘇る…あのメロディが…。
 みゆきと恭子と奏でた…あのメロディが。頭に響いてくる…

 …許して貰いたいとでも思っているのか、私は…

 でも…それは…

 どんな事があろうと…私は背負って行かなければ…自分の犯した罪を…背負わなければ…


さわ子「どんな理由であれ…私は恭子とみゆきを……裏切っ…て…!」
さわ子「今更…どんな顔して…2人…に……っう…ぅ…」

紀美「さわ子……まだそんな事…」

 
「まったく、やっぱりそんな事だろうと思った…」

「ホント、相変わらず気にしいなんだから…」

さわ子「……っ…?」



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:09:13.19 ID:rCu3B8tI0

 声に振り向く、するとそこには…いつの間にか話を聞いていたのか、みんなの姿があった…

ジェーン「あんなに叫んでりゃそりゃ様子も見に来るってえの」

みゆき「恭子も言ってたでしょ?もう、時効だよ」
恭子「気にしていてくれてありがとう、さわ子…でももう良いのよ。」

みゆき「あの頃は許せなかったけど…でも今はもういいよ…」

恭子「さわ子が作った今の軽音部、
   放課後ティータイムの歌、聴かせてもらったよ…すごく、完成されてるじゃない…」

デラ「うん、演奏技術もそうだけど、純粋に音楽を楽しもうって気がビンビン感じられたよ」

恭子「私もみゆきも感動しちゃった、さわ子が桜高で先生やってる事にもびっくりしたけど…」
恭子「それで軽音部の顧問やってて、
   あんなに素敵な演奏ができる生徒に囲まれてるって知って…ホントにびっくりした」

ジェーン「さわ子の造った軽音部、すごいよなぁ」


さわ子「みん…な……」

紀美「みんな、あの子達の演奏聴いて、先輩として鼻が高いって言ってるんだよ」



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:11:21.91 ID:rCu3B8tI0

紀美「さわ子、あんたはこうしてやってくれたじゃないか…」
みゆき「私達の音楽も、紀美達の音楽も…」

恭子「きっとさわ子はさ、無意識のうちに、でもしっかりと引き継いでいてくれてたんだね…」
紀美「私達も、この子達もそう、さわ子がいたから、
   音楽をより楽しもうって気になれたんじゃないか?」

みゆき「まぁ…これだけやってくれてたのなら、
    私達から離れた事も間違ってなかったなって、今ならそう思えるんじゃないの?」

紀美「さわ子、だからもう過去を引きずるな、むしろ受け入れろ」

さわ子「…受け入れ…る…」

みゆき「そ、さわ子は、もう立派にやってくれたんだよ?」
恭子「昔は昔、今は今、そして…これからはこれからだよ…」

紀美「さわ子もさ、長い間後悔して…辛かったろ、
   でももう、そんなこと気にしなくて良いんだよ」

さわ子「みんな……」

みゆき「長い間お疲れ様、さわ子…」
恭子「それに…せっかく久々に会えたんだし、今日は楽しみましょ♪
    私、まだまだ飲み足りないのよ~」

ジェーン「さーてさて、んじゃあ過去の清算も終わった事だし、飲みの続きと行きましょか?」

デラ「この後さ、久々にカラオケ行かない?」
紀美「お、それいいねぇ…」



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:12:55.04 ID:rCu3B8tI0

 そして、みんなは連れだって店の中へと戻っていく…
 残された私は…涙を拭ってから……少しの間だけ佇んでいた。

恭子「ほら、さわ子、早く戻ろっ!」
さわ子「……う…うん……」

みゆき「私達がいなくなってからの事も、じっくり聞かせて貰いましょうかね…」
さわ子「そ…それは……」

 ……本当にこれで良かったのか、それは…まだ分からない。 実感もあまりない…。

 でも、これだけは言える、きっと間違いない……
 みゆきも恭子も…紀美も…みんなが、私を認めてくれた。
 
 あの子達の歌が、みんなを認めさせてくれたんだ…

 
 ……あの子達の顧問になって本当に良かった…

 唯ちゃん…りっちゃん…澪ちゃん…紀美…みゆき…恭子……

 みんな…ありがとう………。

紀美「さわ子ー? 風邪引くから早くー」

さわ子「…ええ、待って、今行くから…!」

 気付けばもう、雪は止んでいた……  
 明日は晴れるに違いないと…そう、思えるように…

 月明かりが煌々と、雪道を照らしていた…。



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:15:19.02 ID:rCu3B8tI0

―――
――


 試験まであと3日、バレンタインも近付いて来た2月の放課後、
 私達はあずにゃんと一緒に部室に集まりました。

梓「…さわ子先生の、お別れ会ですか?」

律「そ、どう? 梓もやってみない?」
澪「この曲を、私たちなりにアレンジしてやってみようと思ってさ」

紬「実はもうパートの振り分けも終わってるのよ、
  あとは梓ちゃんが頷いてくれればすぐにでも音合わせ出来るわ」

梓「ちょっと、聴かせて貰っていいですか?」

唯「うんっ!」



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:16:25.55 ID:rCu3B8tI0

 ………………………

梓「………わぁ…」

梓「以外です…さわ子先生の演奏だって聞いたから、てっきりヘビメタかと思ってました…」

梓「でも、良いですねこの曲、私達らしいって言うか…
  ううん、私達にもぴったりですよ! この歌!」

紬「じゃあ…!」

梓「ええ、私にも演奏させてください!」

律「よっし決まったな! じゃあ早速演奏を…」

澪「りーつ、試験までもう残り少ないんだから、演奏してる暇なんか…」

律「ん~…でもぉ~」

紬「じゃあ、勉強してから休憩でやりましょ?」
澪「ま、それならいいか…」

唯「よっし…がんばるぞ~っ」

梓(……………。)

梓(そっか…先生も先輩達も、もうすぐいなくなっちゃうんだ……。)

梓「……………っ…」



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:17:49.85 ID:rCu3B8tI0

――――――――
――――――
―――

 そうして、試験当日…

律「絶対合格するぞーーー!」
澪「この日の為に、今日まで頑張ってきたんだもんな…!」
紬「行くわよみんなっ」

唯「放課後ティータイム、ファイトー…」

一同「お~~~~!!」

―――――――――

 部室

梓「先輩……」
憂「お姉ちゃん…」

純「だ…大丈夫だよ二人とも…みんな絶対に受かるって!」

さわ子「そうよー、だから後輩のあなた達まで不安になってないの」

さわ子「先輩を信じましょう…あの子達が本番に強いの、知ってるでしょ?」

梓「…そう…ですね……あははっ…私ったら、なんで不安になってるんだろ…」
純「なんか雰囲気重いな…ねえ梓、憂…何か演奏しない?」



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:18:21.05 ID:rCu3B8tI0

さわ子「あ、それいいわね~、
    じゃあ今日は私が指導してあげるから、何か演奏してごらんなさいな」

憂「私達の演奏、聴いてくれるんですか?」

さわ子「ええ、『次期』軽音部の演奏、『元』軽音部の私も聴いてみたいわぁ」

梓「…ええ、それじゃあ先生聴いてって下さい、私達の演奏を…」
憂「おぼつかない所とかあればどんどん言って下さい!」
純「ここで人前で演奏するの初めてだから…なんか緊張するなぁ…」

さわ子「言っとくけど私の指導は厳しいわよ~? みんな、覚悟なさいよー?」

梓「先生…ありがとうございます!」
さわ子「いえいえ…」

さわ子(私も残り少ないし…顧問としてやれることはやっておかなきゃ…)

さわ子「じゃあ頑張りなさい、みんな!」

梓「…ふわふわ時間、いきます!」

梓「せーの…!」



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/25(水) 20:19:44.20 ID:rCu3B8tI0

 梓ちゃん達の演奏は…先輩には及ばないとはいえ、熱意の籠った音になっていた。

 おぼつかない憂ちゃんのオルガンに、基礎のしっかりしてる純ちゃんのベース、
 
 そして部長としてみんなを支えようとしてる梓ちゃんのギター。

 それぞれの旋律が個々を支え合っている…その意思は、あの子達に劣らないものがあった…

 今なら胸を張って言える…


 …この学校に来て、この部の顧問になれて本当に良かった……と
 
 だからこそ、それが残念でもあった…

 これからこの子達の指導が、
 
 あの子達の意思を受け継ぐこの子達の指導を出来ない事が…辛かった…

 残念な気持ちと、こんなにも立派な演奏が出来るこの子達を前に
 
 目頭が熱くなるのを堪えながら、私は彼女達の音に聴き入っていた……



―――
――


 そして1か月後の春。
 桜も芽吹く時期に、志望校に見事受かることが出来た私達はこの日を…卒業の日を迎えました。



関連記事

ランダム記事(試用版)




さわ子「輝け!乙女達!」#前編
[ 2011/05/26 21:16 ] 非日常系 | | CM(0)

コメント(アンカー機能)
●>>1と半角で書き込むと>>1と記事へのアンカーが生成される。
●*1と半角で書き込むと1とコメントへのアンカーが生成される。
上記の2つのアンカーが有効なのは該当記事のみ。

コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

サイト関連
メール ツイッター 最新記事一覧(30件)
ユーザータグ 検索

U:
P:
色々変更
好みのカラーコードをどうぞ

記事の背景色変更


本体の背景色変更


名前の色変更
IE8:重
火狐4.01:軽
chrome:軽


広告4
広告5
広告6