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純「超能力に目覚めちゃった」#前編 【SF】


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純「超能力に目覚めちゃった」#前編
純「超能力に目覚めちゃった」#後編




管理人:エロ少しあります。閲覧にはご注意下さい。




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)11:35:33.57 ID:g73tFaXFO


「へぇ~」

 いつもの学校、いつものランチタイム。

 いつもの調子で純ちゃんが言うので、私もいつもの調子で相槌を打った。

「そ、それだけ……?」

「だって、超能力って言われても」

「あー、そうだね。確かになかなか信じられる話じゃないか」

「それじゃあねぇ……憂、このベーコン持って」

 アスパラに巻いたベーコンを剥がして、純ちゃんは私に箸を寄越した。

 言われた通りに箸でベーコンを持ち上げると、
 
 純ちゃんはぷらぷら揺れるベーコンを見つめだす。

「……ふんっ!」

 純ちゃんが激しく鼻息を噴出した。

 特におかしいことは起こらないようだけれど。



3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)11:40:10.02 ID:g73tFaXFO


「あれ……ふんふんっ!」

 純ちゃんとしても不服な結果なのか、懸命に鼻息を噴き出し続ける。

「ねぇ、純ちゃん……」

「いや絶対出るから。持ってて憂」

「良いけど……」

 正直、そろそろ恥ずかしいかな。

 周囲の目も向いてきた気がする。

「う……しょうがないな。じゃあ地味ーな最小出力でいくよ」

 さすがに純ちゃんも、視線には気付いていたらしい。

 照れ臭そうに目線をちらちらさせて咳払いをした。

「さて。アヨイショー!」

 叫んだ瞬間、純ちゃんの瞳がきらりと光ったように見えた。



4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)11:45:01.74 ID:g73tFaXFO


 私が持っている箸に、ぴくりと振動が伝わる。

 ピンク色のベーコンがぶるぶる震えて、脂を噴きだしていた。

 初めは何が起こっているか理解できなかったけれど、
 
 ベーコンが徐々に変色していくにつれ、私は状況を理解した。

「ふふん」

 満足げに笑った純ちゃんの前で、私は恐る恐るベーコンに指先を触れてみた。

「熱っ」

 ちょん、と触れただけの指先が、一瞬にして私の耳たぶに吸い寄せられる。

 慌てて指を見たけれど、やけどした様子はなくてひと安心。

「そう、これが私の能力……お肉を加熱する力」

 自信満々に言いきる純ちゃん。

 うん、なんだろう。

「純ちゃんがいたらお料理が楽でいいなぁ」

 すごく拍子抜けしちゃった。



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)11:50:04.83 ID:g73tFaXFO


「超能力なんて言うからびっくりしちゃったけど、なんか可愛い能力だね」

「んなっ! 今のは最小出力だったからで……」

「でも、それ以外使い道ないよね?」

「ぶー」

 私が笑うと、純ちゃんは膨れっ面をしてすねてしまった。

 怒らせてしまってなんだけど、特にフォローはしてあげられそうにない。

「まあ、ね……こうしてお弁当を温め直すくらいしか……」

「いいんじゃないかな。人よりちょっと良い毎日だよ」

 私だったら、それだけでも十分超能力に目覚めた価値があると思う。

 お肉を焼き過ぎないように中まで火を通すのは、ちょっとだけ難しかったりするのだ。

「どうせ目覚めるならもっとすごい超能力が良かったよー」

「でも、あんまり常人離れした能力は嫌じゃない?」



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)11:55:11.33 ID:g73tFaXFO


「うーん……そういうのも悪くはないと思うけどなー」

 純ちゃんは顎を撫でる。

 純ちゃんの欲しがった「もっとすごい超能力」って、一体どんな力なんだろう。

「人にはどうやっても真似できない力で、他の人間を圧倒するの。良くない?」

「天才の憂には分かんないかもしんないけどさ」

「……天才だなんてことないよ」

 私は昔から、人に天才だって言われることが多い。

 純ちゃんにも、時折言われてしまう。

 確かに、私は人より飲み込みが早いんだと思うことは多々ある。

 だけど、だからって毎度毎度「天才」の一言で片づけられるのは気分が良くない。

 私だってそれなりに努力しているから、人並み以上の仕事をできているのに。

 ほんの少しばかりの抗議として、
 
 私は未だ箸にぶら下がっていた純ちゃんのベーコンを口に運んだ。



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)11:59:32.35 ID:g73tFaXFO


「とにかくね、私はもっと超能力を極めていくよ」

「よく分からないけど……そんなことしなくていいんじゃないかな?」

「まぁまぁ、良いじゃんって」

 純ちゃんはひらひら手を振った。

 それで純ちゃんが満足するならそれでもいいとは思うけど、

 お肉を熱くする力をこれ以上強くしてどうするんだろう、とも思う。

 もうすぐ中学も卒業するというのに、念力でお肉を焼くのはそんなに大事だろうか。

 純ちゃんらしい努力の方向性ではあるけれど。

「上手くできるようになったら、憂に一番に見せてあげるから」

「ほんとに? ありがとう」

 でも、頑張ろうという人を無理に引きとめるのもおかしな話。

 私は陰ながら純ちゃんを応援することにした。



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)12:05:22.30 ID:g73tFaXFO


――――

「ん~……」

 リビングでお姉ちゃんがくつろいでいる。

 少し眠たそうな目をして、たまにあくびをしたりして。

 とうとう耐えきれなくなって、ソファーに寝そべってうたたねを始めてしまう。

 私はちょっと料理の手を止めて、そろそろとリビングへ。

「すー……すー」

 そして、しばらくお姉ちゃんの幸せに満ちた寝顔を観賞してから、
 
 物音を立てないように台所に戻って料理を再開する。

 お姉ちゃんの寝顔を見ていると、本当に幸せなんだなってわかるから。

 私はお姉ちゃんの幸せのために役立ててるって感じるから。

 お姉ちゃんのことが大好きだから。

 私は料理がおいしくなるように、丹精込めて鍋を回す。



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)12:10:12.03 ID:g73tFaXFO


 正直に言ってしまうと、私はお姉ちゃんを愛している。

 親兄弟に向ける親愛のそれじゃなくて、胸を焦がすような愛情だ。

 常識に反していることは分かっている。だから、私だけの胸に秘めている。

 どうして姉妹同士でそんなことになってしまったのかというと、
 
 これには純ちゃんが吐き捨てた「天才」という言葉が関わってくる。

 私は自分のことを天才と表現されるのがたまらなく嫌いだ。

――――

 発端は幼稚園の頃、私の描いたクレヨン画が市から賞をもらったと聞かされた日。

 今でもよく覚えている。私はたくさんのフルーツの中からリンゴを描いた。

 先生から、よく見て描くようにと言われたから、私はまずリンゴをじっと見つめた。

 まず形がまんまるでないことに気付いた。

 表面はつやつやで、白く見える場所すらあることに気付いた。

 黄緑色の斑点に気付いた。リンゴは真っ赤じゃない。場所によって皮の色も違っている。

 私は懸命に、今まで自分の知らなかったリンゴを探究した。



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)12:15:28.99 ID:g73tFaXFO


 他の子たちがすいすいとクレヨンを動かす中、ただじっとリンゴを見ていた。

 そしてようやく、私の頭の中に本物のリンゴが見えた。

 あとはそのイメージ通りになるよう、画用紙にクレヨンを擦りつけた。

 私はきちんと努力をして、見えるままのリンゴを描いたんだ。

 そしたらどうだ。

「憂ちゃんは天才かも知れないわね」

 園長先生は私の努力をあっさりと切り捨てて、かつニコニコと笑った。

 私がその一枚の絵を描くためにどれだけ頑張ったか、とか。

 そんなことには興味なんてないらしかった。

 私は子供だったから、怒るよりも先に、泣いて走りだしてしまった。

 走って、走って、自然と行きついた先にお姉ちゃんがいた。

「おぉ、どうしたーうい。よしよーし」

 お姉ちゃんに抱き着いて、私はえぐえぐ呻きながら必死でわけを話す。



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)12:20:25.14 ID:g73tFaXFO


「わたしね、絵でしょうをもらったんだけどね」

「しょうって?」

「すごく上手な絵をかいたひとにあげるものだよ」

 お姉ちゃんの分からない所は、
 
 うまく喋れない私の代わりに和ちゃんが補足してくれた。

「なんと。うい、そんなにすごいものを!」

「うん、けどね……」

 私は次いで、園長先生の言葉を言おうとした。

 けれど、お姉ちゃんが次に放った言葉によって、
 
 その必要はなくなってしまった。

「ういはすごいなぁー。いっぱいがんばったんだねぇ」

――――

 思えば、その時からかもしれない。

 お姉ちゃんに対して、許されざる感情を抱き始めたのは。



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)12:25:20.67 ID:g73tFaXFO


 何も言わなくても、私の努力を理解してくれるただ一人の人間。

「くー……」

 私のお姉ちゃんである、平沢唯。

 本当の味方は、お姉ちゃんだけ。

 だから私は、お姉ちゃんのためなら何でもする。

 何でもできる。

「よしっ」

 お姉ちゃんの好きな、甘口カレーが出来上がる。

 私はそのことを知らせようと、リビングへとスリッパを鳴らして駆けた。

「お姉ちゃん、ごはん出来たよー」

 いや。ご飯ができたことを知らせよう、というのは半分くらい建前だ。

 軽く体を揺すってあげて、起きないことを確認すると、
 
 私はお姉ちゃんの耳にそっと口を近づけた。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)12:30:03.22 ID:g73tFaXFO


「お姉ちゃん、起きて……」

 小さな耳に、そっと囁く。

 長い同居生活で知った、お姉ちゃんのとあるクセ。

 横になって寝ている時に耳元で声をかけると、

「んぅ」

 もぞもぞと顔をこちらに向けて、腕を伸ばして、

「ちゅー……」

 抱きしめながらキスをしてくる。

「んっ、ふ……あむ、ちゅ……」

 しかも、けっこう情熱的なやつを。

 どこで覚えたのやら分からないけど、
 
 とにもかくにも脳みそが溶けそうになる。

 息苦しさにお姉ちゃんが目を覚ますまで、
 
 理性の糸が切れないようにがんばらな……きゃ。



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)12:35:22.53 ID:g73tFaXFO


 何だか、今日は特に体が熱くなる。

 いつもと変わらないお姉ちゃんのキスだけど、もう無理かもしれない。

 私の掌が忙しく動き回り、
 
 お姉ちゃんの脇腹をとらえたところで、お姉ちゃんの唇が動く。

「ん……あえ、うい?」

 ちゅっ、と唇が余韻を残して離れる。

「ごめん、またやっちゃったね。……ご飯できたの?」

 何食わぬ顔でお姉ちゃんは尋ねる。

 他の家庭がどうかは知らないが、我が家では日常茶飯事だ。

 私もお姉ちゃんも、いちいち動揺しない。

「うん、カレーだよ」

「きたー!」

 高校生になってそろそろ1年になるけど、
 
 お姉ちゃんは未だに夕御飯がカレーというだけでテンションが上がる。

 私はなんとなく後ろ暗さを感じて、
 
 お姉ちゃんのプレートにはお肉を多めによそっておいた。



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)12:40:05.96 ID:g73tFaXFO


――――

 翌日のお昼時、純ちゃんは少しだけ力を増してきた。

「ぬふふ」

 私がお弁当箱を開けると、もわっと湯気が上がった。

「見えてない物でも熱せるようになったよ」

 湯気の元はチキンハンバーグからだ。

 下に敷いたレタスが熱を受けて痛んでいる。ちょっと勘弁してほしい。

「すごいね~」

 でも、そんなことはおくびにも出さない。

 そんなふうに言っては頑張っている純ちゃんに対して申し訳ない。

「どうやって鍛えてるの?」

「とにかく実際にやってみることだね。
 目覚めさえすれば、意外とできちゃうものなんだよ」



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)12:45:37.03 ID:g73tFaXFO


「1日1時間、とにかく力を使ってみるんだ」

「見えないものだったり複数のものだったり、
 トリッキーな使い方に挑戦してみてる」

「そっか。そしたら何か使い道が増えるかもしれないね」

 純ちゃんなら、ステーキハウスを一人で回せるかもしれない。

「まあ実際、やることは決めてあるんだけどさ」

「へぇー、どんなこと?」

「ひみつ」

 ずいぶん満足げな笑顔を浮かべて、純ちゃんは指を立てた。

「やる時になったら教えてあげるよ」

「そう? うん、それじゃ楽しみにしてるね」

 純ちゃんが何をするつもりなんだろう、とかはどうでもよくて、

 一つの目標に向かって歩む純ちゃんを見ていることが、ただ心地よかった。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)12:50:04.69 ID:g73tFaXFO


――――

 純ちゃんが超能力に目覚めて一週間ほどしたある日のこと。

「お姉ちゃん……」

 私は、いつものようにキスしてもらおうと、
 
 眠っているお姉ちゃんの耳元で囁いた。

「ん」

 舌が入ってくることを期待してしまうような、熱烈なキス。

 だけど今日は、それが本当に熱かった。

「おねぇ、ひゃ……んぐっ」

 唇だけじゃない。お姉ちゃんの体中が熱い。

 やけどしそうな熱さに、私の思考力が急速に奪われる。

 しかし、私の欲望と、
 
 お姉ちゃんを心配する心が斬り結んだのは一合だけで、
 
 欲望はすぐに倒れた。

「んん……えいっ!」

 お姉ちゃんの肩を掴んで、めいっぱい突き飛ばした。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)12:55:34.33 ID:g73tFaXFO


「あれ、うい……?」

 息を荒げながら、お姉ちゃんが目を覚ます。

「う……」

「お姉ちゃん、すごい熱だよ」

 改めて、お姉ちゃんのおでこに触れてみる。

 尋常じゃない熱さ。39度台だとあたりをつける。

「すぐに救急車を……」

「大丈夫、大丈夫だよ!」

 お姉ちゃんが平常を訴えるけど、そんなの関係ない。

 私は電話機へと駆けようとした。

「ういっ!」

 だけど、お姉ちゃんが左足にしがみついてきて、
 
 私はバランスを崩して倒れ込んでしまう。

 この一大事に、私は何をもたついているんだろう。



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)12:59:47.35 ID:g73tFaXFO


「もうすぐおさまるからぁ……」

 お姉ちゃんは私の体を抱いて、のしかかってくる。

 フローリングの上でお姉ちゃんを突き飛ばす訳にもいかず、

 私は腹這いでお姉ちゃんを乗せたまま、電話機の方へ進んでいく。

「うい、良いからっ……もう!」

 お姉ちゃんが右側にぐっと体重をかける。

 左肩が少し浮いて、私はちょっとだけ振り向くような形となる。

 その一瞬に、お姉ちゃんの顔が急接近した。

「んっ……」

 素早く、唐突で一生懸命なわりに柔らかな感触が、私の唇を包んだ。

 お姉ちゃん、キス上手だなぁ。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)13:05:10.09 ID:g73tFaXFO


「はふ……」

 唇が離れるころには、私の力は完全に抜けていた。

 ころりと仰向けに転がされて、再びお姉ちゃんが覆いかぶさる。

「んむぅっ」

 頭の中で、無数の火花がスパークする。

 唇の隙間にとろとろと流れ込んでくる滴は、お姉ちゃんの唾だろうか。

 口の周りがべちゃべちゃになる。
 
 甘く神経を刺激する匂いが、鼻腔に漂ってくる。

「あ、は……」

 手首を上げることすらできない脱力感の中、
 
 お姉ちゃんが熱い体で私の唇をむさぼっている。

 すりすりとお姉ちゃんの太腿が私の股間に擦りつけられ、
 
 我慢もできずお姉ちゃんに液体を噴きかけた。

 お姉ちゃんも流石に私の反応の意味するところは分かっているらしく、
 
 意図的に太腿を押しつけ始める。



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)13:10:09.51 ID:g73tFaXFO


「ああ、はぁーっ!!」

 狂人が咆哮するように、私ははしたなく喘いだ。

 敏感な部分が、なおもお姉ちゃんの柔らかな太腿にぐりぐりと潰される。

「っう……あ、んうぅーっ!!」

 お姉ちゃんに押さえつけられた全身が、びくりと大きく震えた。

「うい……」

 やさしい手つきで、私の秘部と、
 
 もう片方の手で頭を撫でながら、お姉ちゃんは微笑んだ。

 体を痙攣させつつ、私はお姉ちゃんの笑顔をぼんやりと見ていた。

「はあ……はぁ」

 落ち着かない呼吸をする私のおでこに、お姉ちゃんは軽くキスをする。

「ごめんね、こんなことしちゃって……でも」

 お姉ちゃんの顔が降りてくる。
 
 またキスが来ると思って、私は狂う覚悟をした。

 けれど、くっついたのはおでこ同士だった。

「ほらね、おさまった」



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)13:15:01.63 ID:g73tFaXFO


「あ……」

 私自身がひどく熱いせいかもしれないけれど、

 少なくともお姉ちゃんのおでこは異様な熱をもってはいなかった。

「最近どうもこの時間になると、体が熱くなっちゃうんだ」

「でも結構すぐにおさまるから、救急車は呼ばなくていいんだよ、うい」

「ええっと……」

 それじゃあつまり、さっきの情事は。

「ごめんね。これくらいしか憂を引き止める方法、思いつかなくって」

「うい……怒ってる?」

「怒ってないよ。私が先走っちゃったのがいけないんだもん」

 私は落胆と不安と、ほんの少し幸せを感じつつ、平時の顔に戻った。

「それじゃあ、ご飯にしようよ」



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)13:20:03.54 ID:g73tFaXFO


――――

 お昼にステーキハウスを開く純ちゃんを想像してしまったので、
 
 今日の晩ご飯はサーロインステーキ。

 私とは相反して、すっかり冷めてしまったステーキを電子レンジで温め直す。

「……」

 ぐるぐる回るステーキ。

 お肉を加熱する超能力。

 1日1時間のトレーニング。

 純ちゃん。

 何か、引っかかる。

「……」

 チン、とお馴染みの音で加熱が終わる。

 2枚目のステーキも温め直そうと振り返ったところで、私は目を見開いた。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)13:25:03.86 ID:g73tFaXFO


 電子レンジに入っていたステーキはもちろん温まっている。

 問題は、まだお皿の上に置いてあるステーキまで、
 
 湯気を放っていることだった。

「……」

 お肉を加熱する超能力。

 1日1時間のトレーニング。

 純ちゃん。

 すぐ引いたお姉ちゃんの高熱。

 疑ってかかる必要があると思った。

「ういー?」

「あ、ごめんお姉ちゃん」

 でも、今はとりあえず食べようかな。



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)13:30:10.79 ID:g73tFaXFO


――――

「ねえ純ちゃん、いま超能力ってどんな感じ?」

 純ちゃんと私が、自然かつ最も長時間に腰を落ち着けて話し合える場。

 それは学校でのランチタイムに他ならない。

 放課後お茶に誘ってもいいけど、
 
 純ちゃんが何か手を打ってくる場合もある。

 このタイミングが一番、純ちゃんに考える猶予を与えないはずだ。

 私は弁当箱を開くとともに、唐突に切り出した。

「どんな感じって?」

「どれくらい極めたかってこと」

「あぁ……うーん」

 純ちゃんは天井を見上げて、軽く考え込む仕草をする。

「だいたい何でも出来るようになったかなぁ。
 あとは火力を上げるだけって感じ」

 はぐらかすような回答だった。
 
 何でもできるって言っても、出来ないこともあるはずだ。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)13:35:16.03 ID:g73tFaXFO


「何でもできる?」

「うん。どんなに遠くても見えなくても、
 何度のお肉がどこにあって、どんな動きをしているのか分かるんだ」

「そしてもちろんそれを温めることもできるよ。一瞬にして、ジュッとね」

「そんなの……流石に無理じゃない?」

 あまりにも飛び抜けた能力すぎる。

 だからこそ超能力というのかもしれないけれど。

「じゃあ憂、窓を見てて」

「え?」

「いいから」

 促されるまま、窓の外に目をやる。

 ぽつぽつと雲の浮かぶ青空の遠くを、三羽の黒い鳥がわたっている。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)13:40:22.58 ID:g73tFaXFO


「ふっ」

 純ちゃんが体をちぢこめた気配があった。

 それに少し遅れて、三羽の鳥がシンクロして墜落し始める。

「……」

 私は鳥が煙を上げながら落ちていくのを、呆然と見つめていた。

「はー、成功したっぽいね」

 純ちゃんのその言葉で、何が起こったのかを理解した。

 本当に超能力を成長させているらしい。

「まぁ今はこんなトコ。私の目的を果たすにはまだ遠いかな」

「そ、そうなの?」

 純ちゃんの目標はまだまだ高いらしい。

 こんな並はずれたことができても
 
 まだ届かない純ちゃんの目的って、一体何なんだろう。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)13:46:17.79 ID:g73tFaXFO


「……」

 私はいつの間にか、純ちゃんを睥睨していた。

「一体、何をするつもりなの? 純ちゃん」

「やだなぁ憂、怖い顔はよしてよ」

 そう言われても、私は純ちゃんに優しい顔は向けられなかった。

 その理由は分からない。

 確かに純ちゃんは無意味に生き物を殺したけれど、
 
 普段の私はそのくらいでここまで怒ったりしない。

「答えてよ」

 今、これほど純ちゃんにイライラしているのはどうしてなんだろう。

 私が純ちゃんのやりたいことに気付き始めているからだろうか。

「憂だって分かってるくせに」

 確かに言うとおりだ。私は純ちゃんの目的を、
 
 確証はないけれど分かっている。

 だからこそ、否定してほしい。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)13:55:18.75 ID:g73tFaXFO


「分からないよ。純ちゃんの考えてること、分からない……」

「……ま、証拠が足りないか」

 純ちゃんは泣く子をあやす母親のような目で、私を見ている。

「じゃあ、こうしよっか。私は今晩の7時あたりにトレーニングを始める」

「憂はそのあたりで気を配ってればいいから」

 こんなことを言われた時点で、既に嫌な予感がする。

 けれど、この問題ははっきりさせた方がいい。

「……約束だね?」

「もちろん。私は嘘はつかないよ」

 7時と分かっているなら対応も出来る。

 それに純ちゃんは「火力が足りない」と言っていた。

 きっと、まだ大きなものは無理なんだ。

 それなら今日は、確認のために費やしても大丈夫に違いない。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:02:34.17 ID:g73tFaXFO


「さて、せっかくのご飯時に険悪なムードはなしだよ。食べよ食べよ」

 純ちゃんは満足げに弁当箱をつつき始める。

 今日もアスパラベーコンが入っていた。

――――

 まず用意したのはぴったり時間を合わせた腕時計。

 次に、浴槽に冷水をたっぷり張り、氷もたくさん用意する。

 それから、体の内側からも冷やせるように、お姉ちゃんの好きなアイスも。

「よし……」

 純ちゃんの指定した時間まであと10分。

 念には念を入れて、そろそろお姉ちゃんを呼んだ方がいいかもしれない。

 私は手を拭くと、リビングに戻った。

「ういー、さっき何運んでたの?」

「アイスと氷。全部お姉ちゃん用だよ」



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:06:34.22 ID:g73tFaXFO


「私のため?」

 お姉ちゃんがこてん、と首をかしげる。

「うん。昨日お姉ちゃん、
 この時間になると体が熱くなっちゃうんだよね?」

「そうなんだよ。困ってるんだ」

 言われて、私は鼻頭が熱くなった。

 お姉ちゃんは私のなんにでも気付いてくれるのに、
 
 私はお姉ちゃんが困っていることにすら気付かない。

 どうして私はお姉ちゃんに何もしてあげられないんだろう。

「だから、すぐ体を冷やせるように水風呂を用意したんだけど……」

「ほんと!? ありがとううい~」

「えへへ、どういたしまして。ほらお姉ちゃん……お風呂場に行こう?」

 私は鼻をすすって、お姉ちゃんの手を引いて脱衣所に向かう。

 時間は6時53分12秒。服を脱ぐ時間も入れればぴったりというところか。

 私はさながら冷蔵室になっているお風呂場の戸を見つめた。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:10:02.06 ID:g73tFaXFO


「ういー、服脱いだよー」

 背後からお姉ちゃんの声がした。

 思わずドキリとする。

「う、うん。そしたら……」

 お姉ちゃんの裸を見てしまわないように、
 
 目をそらしながら背後に回る。

「熱くなるまでここで待って、始まったらすぐ浴槽に浸かって」

「でもそれまで寒いよ……」

 お姉ちゃんが肩を抱きながらブルブル震えていた。

 ときどき処理を手伝うから、背中なら見慣れている。
 
 まだ、理性がおさえられる。

「じゃ、じゃあ……私が抱きついてよっか?」

 抑えられなかった。

「うん、お願いうい~」



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:14:20.86 ID:g73tFaXFO


「よいしょっと……」

 平静を装いつつ、お姉ちゃんの背中に胸を当てて、首に腕を回した。

 時計の針を見つめて、興奮を必死に紛らわす。

 時刻は6時58分44秒。
 
 あとおよそ一分半、裸のお姉ちゃんとこうしていられる。

「あったかいねぇ、憂」

 お姉ちゃんは無垢な口調で笑う。

 私たちは姉妹だから、
 
 お姉ちゃんは裸くらい見られても恥ずかしくないのだろう。

「それにすごいドキドキしてるー」

「そ、そうかな?」

 私はお姉ちゃんの首筋に軽く触れた。

 とくとくと、いつも通りの脈拍で血が動いている。

 私のそれとは比べ物にならない穏やかさだ。

「……ほんとだ」



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:18:24.69 ID:g73tFaXFO


「……」

 時計の針が7時を指す。

「お姉ちゃん、まだ来ない?」

「うーん……」

 お姉ちゃんの体は、裸でいるせいかずいぶん冷えてしまっていた。

 精一杯暖めようと、私は体を左右に動かして摩擦熱を起こす。

 さらに1分が経つ。やっぱりただの杞憂だったんだろうか。

「うう……ういー寒いよぉ」

 このままではお姉ちゃんが風邪を引いてしまう。

 私はバスタオルも持って、必死でお姉ちゃんを温める。

 さらに10分が経つ。
 
 もうそろそろ、お姉ちゃんに服を着せてあげてもいい気がしてくる。

「ん……う」

 私が安心しかけたところで、お姉ちゃんが細く息を吐いた。



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:22:08.20 ID:g73tFaXFO


「来たかも……熱くなってきた」

「本当に? 分かった」
 
 7時11分。
 
 かなりの遅れはあったけれど、お姉ちゃんの体は確かに温まりだしていた。

 私はお姉ちゃんの体を離して、お風呂場の戸を開ける。

「おお、ここも冷えてるね……」

 お姉ちゃんはお風呂場に入ると、少し嬉しそうに身を震わせた。

 私も後に続く。

「ほえ?」

「氷を入れるのは私がやるから、お姉ちゃんはゆっくりしてて」

「おぉ、そっかぁ」

 下心がないわけではない。

 けれど、お姉ちゃんが心配なのだって本当の気持ちだ。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:26:22.78 ID:g73tFaXFO


 氷の浮いた浴槽に肩まで浸かって、お姉ちゃんは気持ちよさそうに鼻歌を歌う。

 自分で用意しておいて何だけど、異様な光景だ。

 お姉ちゃんは浮いている氷に唇を寄せて、水と一緒に吸いこんだ。

「アイスもあるよ?」

「ん……ぷはっ! うん、ちょうだい!」

 理性を突き崩すような台詞を吐くお姉ちゃんに、アイスの袋を破って手渡す。

 ぺろぺろとアイスバーに舌を這わすお姉ちゃんを見ながら、私は思考する。

 お姉ちゃんが熱を出し始めたのは7時11分。

 そして、純ちゃんの宣告した時間は7時「あたり」。

 これでは正確な判断はつけられない。

 純ちゃんのことだから、11分くらいズレても平気な顔をしていそうだ。

「おいふぃい~」

「……」



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:30:19.58 ID:g73tFaXFO


 この11分のズレはただの遅刻なのか、潔白の証明なのか。

 また、判断がつかない。

「……お姉ちゃん、熱っていつもどれくらい続く?」

「1時間ちょっとくらいかなぁ。
 1時間で終わって、それからすーっと熱が引いていくんだ」

「今までずっと同じだった?」

「そういえば……熱が引く時間は長くなってるかも。
 でも1時間で終わるのは変わらないな」

 1時間。純ちゃんがトレーニングしているという時間と同じだ。

「そっか、分かった」

 もし今日もお姉ちゃんの熱が1時間で引いたなら、

 私は純ちゃんを引っぱたかないといけない。



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:34:01.11 ID:g73tFaXFO


 お姉ちゃんの裸を見つめてきっかり1時間。

「寒い!」

 お姉ちゃんは突如として水から飛び出した。

 ばしゃりと冷たい水が跳ねてきたけど、
 
 お姉ちゃんの浸かっていた水なら浴びて飲みたいくらいだ。

「あ、ごめんねうい! 大丈夫……?」

「ぜんぜん平気だよ。お姉ちゃん、体拭こうね」

 お姉ちゃんにタオルを手渡しながら、私は時計を確認する。

 8時11分24秒。

「……」

 私は口元を引き締めた。

「ふーっ……びっくりした」

「でも今日は気持ちよかったよ」

 髪の水気を拭きつつ、お姉ちゃんはにこりと笑う。



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:38:06.15 ID:g73tFaXFO


「……」

「ういー?」

「あ、ごめん……何?」

 いつの間にかボーッとしてしまっていたらしい。

 お姉ちゃんに話しかけられていたのに気付いていなかった。

「水風呂きもちよかったよ。ありがとう」

「あ、うん。どういたしまして」

 私は服に付いた水を絞ると、立ち上がる。

「じゃあ私、すぐご飯作ってくるね」

「ありがとぉ~」

 台所に向かいながら、私は純ちゃんのことを思う。

 もはや純ちゃんが超能力で
 
 お姉ちゃんを攻撃していることは間違いなくなった。



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:42:07.77 ID:g73tFaXFO


「でも……どうして」

 スパゲティを茹でつつ、レタスをちぎる。

 パスタサラダなら素早く作れる。

 8時という時間になってしまった以上、
 
 お姉ちゃんもお腹をすかしていることだろう。

「ううん、理由なんていい。純ちゃんを止めないと」

 ぶちぶちと細かく、レタスをちぎっていく。

 それは怒りでも憎しみでもなく、恐怖と焦りだった。

 私は明日、純ちゃんに対してどんな顔をしてしまうのだろう。

「……」

 いや、そんなことはどうでもいいんだ。

 お姉ちゃんに危害を加えるつもりなら、容赦なんてしていられない。

 私はキュウリを切るために握りしめた包丁を、ゆらゆら揺らす。

 スパゲッティを茹でている鍋が噴きこぼれてしまった。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:46:30.48 ID:g73tFaXFO


――――

 翌日、私は家の前で純ちゃんを待ち伏せた。

 お姉ちゃんは早めに起こしておいたけれど、二度寝していないか心配だ。

 どちらにしろ、話が済んだら一度家に戻るつもりではあるけれど。

「……」

 7時48分。純ちゃんが家から出てきた。

 眠い目を擦って、まったくいつも通りという風情だ。

 私は塀の陰から現れて、純ちゃんの前に立ちはだかる。

「憂!?」

「おはよう、純ちゃん」

 私は笑顔を浮かべた。

 つられたように、純ちゃんも笑う。

「その顔を見るに、私のやりたい事が分かったみたいだね、憂」



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:50:22.42 ID:g73tFaXFO


「何が目的で、お姉ちゃんを攻撃するの?」

 私はスカートの中に隠した包丁の柄を握る。

「そうだねぇ……もう話してもいいかな」

 それには気付いていないのか、純ちゃんは余裕たっぷりだ。

 悠然と私に一歩、二歩、歩み寄る。

「……憂のお姉さんをね、殺そうと思うんだ」

 にたり。純ちゃんが唇をゆがめる音がした。

 握りしめた包丁が動かない。

「どう、して……」

 真に確証を得たら、すぐに刺してやろうと思っていたのに。

 怒りでも憎しみでもない。かといって恐怖でもなかった。

「どうして、うーんどうしてかぁ……」



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:54:27.09 ID:g73tFaXFO


「まぁ何て言うか……」

 純ちゃんは私の脇をすり抜けながら、道路に出た。

「憂を手に入れたいから、かなぁ」

 ぽん、と肩に手が置かれる。

「……わ、私のせい?」

「ちーがうよ。私のエゴ」

「そんなことで、私のお姉ちゃんを……!」

 腕は動かない。しかし、包丁を握りしめる手から力は抜けない。

 殺意と殺人の境界線に、私は立っているらしかった。

「じゅ、純ちゃん……」

 必死になって、腹の底から声を絞り出す。

「なら、私は……純ちゃんを殺そうと思うよ」



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)14:57:04.82 ID:g73tFaXFO


「そっかぁ」

 純ちゃんは、まるでその言葉を待っていたとでも言いたげに、
 
 満面の笑みを浮かべる。

「じゃあ決まりだね。私は憂のお姉さん。
 憂は私の命をそれぞれ狙うってことで」

「……」

 この状況を楽しんでいる口振り。
 
 純ちゃんへのいらだちが募っていくのを感じる。

 そうだ。純ちゃんを殺さなければ、お姉ちゃんは守れない。

「……純ちゃん、これ何だか分かる?」

 私はようやく、スカートの裾から包丁の刃先を覗かせることができた。

 さすがに純ちゃんの顔色が変わる。

「む……既に用意してたと」

「私も本気だってこと。お姉ちゃんに手出しするならね」

 殺意を瞳に込め、純ちゃんを睨みつける。



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)15:00:02.19 ID:g73tFaXFO


「面白くないなぁ」

 だけど、純ちゃんはそれでも考え直してくれそうにない。

 刃物と殺意を持った人間が、目の前にいるというのに。

「いい加減にしないと、本当に刺すよ?」

「いや、だってね……」

 純ちゃんは襟足を掻いて、言い淀む。

「どっからどう見ても、憂にはまだ無理っぽいし」

「……」

 刃先が再び服の中に隠れてしまう。

「……そうだね。ここじゃ捕まっちゃうもん」

「まぁ、そりゃそうなんだけど。それ以前に……」

「殺せるよ。甘く見ないで」



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)15:03:13.15 ID:g73tFaXFO


「純ちゃん、今は殺さない……
 けど、お姉ちゃんをこれ以上苦しめるなら、絶対に」

「そっかそっか。じゃあ頑張って」

 片手を上げて、純ちゃんはすたすた歩いていってしまう。

 無防備に背中を向けて、悠然と歩く姿はお姉ちゃんに通ずる物さえあった。

「私は……」

 周囲に人がいないことを確認して、包丁をカバンに戻す。

「……でも」

 純ちゃんの背中が離れていく。

 私は細く息を吐くと、包丁を置きに、来た道を戻ることにした。

「……」

 捕まるからなんだって言うんだろう。

 お姉ちゃんを助けるためなら、罪を背負うくらいなんでもない。

 それなのに。

 ……純ちゃんを殺すために、私に足りないものって何なんだろう。



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)15:06:20.94 ID:g73tFaXFO


――――

『……憂のお姉さんをね、殺そうと思うんだ』

 国語の時間、私は純ちゃんの言葉を思い出していた。

 殺意を持って包丁を向けても、訂正されなかった言葉。

 よほどの強い決意があって、お姉ちゃんの命を狙っているんだろう。

 一体なにが純ちゃんをそうさせるのかは分からない。

 間違いないのは、このままじゃ本当にお姉ちゃんが殺されてしまうこと。

 お姉ちゃんを守るには、何とかして純ちゃんを止めなければいけない。

 だけど、純ちゃんを止めるのは難しい。

 純ちゃんは、超能力をもう少し進化させるだけで、
 
 いつでもどこでもお姉ちゃんを焼き殺すことができる。

「……時間もないね」

 つまり、超能力が進化する前に、私は純ちゃんを止めなければいけない。

 止める。いや。純ちゃんを殺さないといけない。



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)15:10:03.41 ID:g73tFaXFO


 言葉で止められるような時期はとっくに過ぎている。

 私が今朝すでに包丁を握っていたことからもハッキリ分かる。

 殺したいという気持ちは、私にも純ちゃんにもたぎっている。

 けれど。

「鈴木さん」

「鈴木さーん。……まったく」

 先生が繰り返し純ちゃんを呼んでいる。

 何事かと思って顔を上げてみると、純ちゃんは机に突っ伏して寝息を立てていた。

 純ちゃんにとって、人を殺すって一体なんなのだろうかと思わされる。

「受験が終わったからって、鈴木さんのように気を抜いてばかりじゃ駄目ですよ」

「高校に入っても、勉強はまだまだ続くんですからね」

 生徒から「よしてくれよ」と言いたげな苦笑が上がる。



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)15:14:13.34 ID:g73tFaXFO


「ほら、起きなさい鈴木さん」

「んが……」

 揺さぶられても起きない純ちゃん。

 トレーニングとやらで疲れが溜まっているんだろうか。

 私はくすりと笑った。

「純ちゃん、起きなよ」

 腕を伸ばして、肩をとんとん叩く。

「んーあー……」

 純ちゃんは面倒くさそうに、頭のポンポンを整えて起き上がる。

 後でゆわき直してあげた方がいいかな。

「はぁ……寝てたか。おはよ、憂」

「もう4時間目だよ?」



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/25(土)15:18:48.03 ID:g73tFaXFO


「……あと5分でお昼ご飯だね」

「純ちゃんてば……そういうことばかり時間に厳しいんだから」

「へへっ」

 いたずらっぽく笑い、純ちゃんはお腹を撫でた。

 私もなんとなくお昼ご飯が待ち遠しくなる。

 お弁当には何を入れたっけ。

「……あっ」

 そこで、はたと気付く。

「どしたの?」

「お弁当忘れた……」 

「えぇー……何やってんの」

 純ちゃんから呆れた眼差しを向けられる。

 なんだろう、すごく胸に突き刺さる。



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純「超能力に目覚めちゃった」#前編
[ 2010/09/25 20:15 ] SF | 唯憂 | CM(1)

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タイトル:
NO:1778 [ 2011/04/30 22:54 ] [ 編集 ]

後編 http://sshozonbasho.blog90.fc2.com/blog-entry-2214.html

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