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律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」#後編 【非日常系】


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律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」#前編
律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」#後編




195 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/13(土) 23:30:43.54 ID:G/RCQufV0


律「う、ん・・・」

律は体中を走る鈍痛に、深い眠りから呼び起こされた。

男B「ち、もう目ぇ覚ましやがった」

自分の後ろから聞こえてきた声に、律は状況を思い出してハッとする。
振り返ろうとしたが、もう一人の男に押さえ込まれて動けなかった。

律「っ!放せよ!!」

男B「まぁまぁ慌てなさんなって。よし、縛ったぞ」

律は男を振り払おうとして、手の自由がきかないことに気がついた。
両手が体の後ろで縛られている。
律の体を押さえていた男Cが、ニヤニヤとのぞき込んでくる。





198 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/13(土) 23:33:16.12 ID:G/RCQufV0


男C「お友達を守り抜いた気分はどうだよ?え?」

律「・・・・・・」

男C「お前のせいでさぁ、俺たち折角の獲物逃がしちゃったんだぜ?どうしてくれんだ?」

そう言って、男Cはいきなり律の胸を服の上から鷲掴みにした。

律「あっ!?」

男C「ちっ・・・あの女と比べたらだいぶ小せぇギャアアッ!!!?」

律の足が男Cの股間を蹴り抜いた。男Cは股を押さえてのたうち回る。

律「汚い手で触んなっ!」

男C「てぇめえっ!!!」

憤る男Cの肩に、先生Bが手を置いた。



199 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/13(土) 23:34:31.72 ID:G/RCQufV0


先生B「お前はいつも気が早すぎる。まずは手も足も出せない状態にするのが基本だろう」

そう言って、先生Bは律に歩み寄る。
律は立ち上がって逃げようとしたが、まだ体にしびれが残っていて、
上手く動けずにいるうちに男Aに捕まえられた。

男A「おっと、逃がさないぜ?」

律「くそっ!」

先生B「上手いぞ」

先生Bが男Aにロープを投げ渡す。
男Aは律を無理矢理押し倒すと、両足を縛り始めた。

律「いやっ!やめろ!!」

男A「ち・・・あんだけボコボコにされておいて、まだ元気なのかよ」

毒突きながらも手早く男Aは律の足を縛り上げる。

男A「よぅし、完璧♪オラ、顔上げろ」

男Aが律の首元へと手を伸ばす。一瞬の隙を突いて、その手に律は噛みついた。



203 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/13(土) 23:37:08.10 ID:G/RCQufV0


男A「いっ!いででででで!!」

男Aは律から弾かれたように遠ざかった。

男B「ったく、大人しくならねぇな・・・」

先生B「全くだ。もう無駄な抵抗はやめてもらいたいな」

ため息をつきながら、先生Bは地面に横たわってこちらを睨む律に近づく。

律「来るな・・・変態」

先生B「・・・ほう」ピク

先生Bは律の傍にしゃがみ込むと、彼女の頬を思い切りはつった。
乾いた音が響く。

律「・・・・・・っ」

先生B「・・・ふん」



208 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/13(土) 23:39:20.69 ID:G/RCQufV0


先生Bが、律の胸ぐらを掴んでねじ上げた。

先生B「お前のせいで全部台無しなんだ。秋山の代わりに、私達を楽しませてくれよ?」

律「・・・ふん。変態なことしか考えてないから、私みたいなのに邪魔されちゃうんだよ」

先生B「・・・!!!」

律「・・・そんなので、よく先生なんかになれたなぁ」

強がりな笑みを浮かべる律を、先生Bは怒りで言葉を失って睨む。

律「・・・お前らの好きにさせるもんか。絶対に抵抗はやめない」

先生B「き、さま・・・」

律「澪にも逃げられたし、タクシーの人にも見られたし、
  どーせもうすぐ警察がくるよ。そうなったら終わりだな」

律は先生Bの血走った目を、真っ正面からきつく見据えた。

律「このバカなお遊びも、お前らの運命も」



213 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/13(土) 23:42:11.54 ID:G/RCQufV0


先生Bは律を思い切り地面に投げ捨てた。
埃まみれの大地に叩きつけられ、律は咳き込みながら呻く。その時。

・・・・ポー・・・ピー・・・ポー・・・

先生A「サ、サイレン、の音・・・」

・・・ピーポーピーポー・・・

男A「パ、パトカーのサイレンだ・・・!」

男B「もう、終わりだ・・・」

男C「・・・やっぱり逃げてりゃ良かったんだ」

しかしそのパトカーのサイレンは、遠ざかったり近づいたりを繰り返していた。

先生A「もしかして・・・まだ俺たちがここにいるって事、ばれてないんじゃないか?」

男C「そ、そうだ!絶対そうだ!!まだ間に合う!今からでも逃げれるぞ!!」

先生A「先生、どうしますか――」

先生Aは、そこで初めて先生Bの異変に気付いた。



221 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/13(土) 23:43:29.22 ID:G/RCQufV0


先生A「せ、先生?」

先生Bは、低く、小さく、おぞましい声で笑っていた。

先生B「ふははははは・・・はははははは」

律「・・・・・・」

先生B「無駄だよ。秋山は私達の生徒だ。もう私達に逃げ場はない。
    もちろん共犯のお前達全員もだ。だから最後まで楽しませてもらおうと思ったんだ・・・」

微かに聞こえるサイレンと、先生Bの笑い声が不協和音を奏でる。

先生B「そうだなぁ田井中ぁ・・・。もう終わりだ・・・」

両手を大きく広げ、血走った目で穴の開いた廃工場の屋根を見上げ、
先生Bは恍惚とした表情で言葉を紡ぐ。
そして、おもむろに懐へと手を入れた。



225 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/13(土) 23:46:14.90 ID:G/RCQufV0


律「なっ・・・!」
律(こ、こいつ――)

顔に出てしまった恐怖に、先生Bは満足そうににやついた。
彼の手には、小さな折りたたみナイフが握られていた。

先生B「もう終わりだ・・・。この素晴らしい娯楽も、私達の運命も――お前の命も」

律「正気、かよ・・・!」

先生B「どうせ捕まるなら、目一杯楽しんでからの方がいいね」

先生A「ほ、本気ですか・・・?」

先生Bはナイフの刃を出したりしまったりしながら、固まる男達を振り返った。

先生B「本気・・・?お前ら、何を考えて今まで遊んできたんだ?
    こういう事は承知の上だろ?女の子ぼこぼこに痛めつけといて、そりゃあ無いな」

先生A「し、しかし・・・罪が重くなって――」



228 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/13(土) 23:48:19.81 ID:G/RCQufV0


先生Bは、腹を抱えて笑った。

先生B「罪!今更だな!!今まで何人の女と遊んできたと思ってる?
    短かろうが長かろうが、刑務所に入ったら変わらんだろう」

先生Aは、何も言わなくなった。止めようとは、しなかった。

先生B「さぁ、待たせたなぁ田井中・・・。一度人を刺してみたかったんだ・・・」

律「く、来るな・・・!!」

先生B「くくく・・・いい顔だ。お前のそういう顔が見たかったんだ。
    普段気の強い人間の恐怖と絶望に強張った表情はとても興奮する」

両手両足を縛られた律は、ただもがくことしかできない。
そんな彼女に、先生Bは一歩、また一歩と歩み寄っていく。



233 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/13(土) 23:50:40.40 ID:G/RCQufV0


先生B「その腹に何度も何度もこのナイフを突き立ててやる」

律は男達に目をやった。先生Bを止める気配はない。
男Bにおいては興味深そうに笑ってこっちを見ている。

律(最悪だ・・・)

パトカーのサイレンは聞こえない。まだここに気がついていないのか。

先生B「その顔が絶望に満ちたまま生気を失っていくのを、この目で見届けてやる」

先生Bが、律の傍で跪く。

律(もう、駄目――)

先生B「さぁ、血反吐を吐いて泣き叫んでくれ!!」

振り上げられたナイフの小さな刃が、暗い工場の中で鈍い光りを放ち、律の目に焼き付いて――



269 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 00:26:39.71 ID:Teq7VHCk0


「りっちゃあああああああああん!!!」

突如響き渡る、甲高い少女の声。それと同時に、重々しい工場の鉄扉が開かれた。
工場内に鋭い光が入り込み、男達の姿を照らし出す。

男A「な、なんじゃありゃあ!!」

男Aが叫ぶのも無理はない。
自分たちを照らすのは無数の車のライト。その前に立つ、三人の少女達。あの逃がした女もそこにいた。
そして、車の中から現れたのは、大勢の警備員。
凄まじい光景が、目の前に広がっていた。

紬父「誰一人として逃がすな!!確保だ!!」

一台の車から、紬の父が声を上げつつ飛び出す。
その叫びを合図に、工場内に警備員がなだれ込んだ。



279 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 00:34:11.35 ID:Teq7VHCk0

>>275
スマソ



警察官達「・・・・・・」

ようやく現場を見つけた・・・否、無数の車の後についていったら
現場につけた警察は、眼前の光景に愕然とする。
ぼーっとしている場合ではない、とすぐに我に返ると、警備員と共に中に突入した。

男A「はなしやがれ!!」

先生A「っ・・・!」

男B「っくしょおおおおぉ!!」

次々に押さえ込まれていく、犯罪者達。
そんな騒動の中で、三人は懸命に律の姿を探した。



282 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 00:37:46.56 ID:Teq7VHCk0


澪「律!!」

そして澪はいち早く、地面にうつぶせになって横たわる律を見つけた。
彼女の声に、唯と紬も律を発見する。
澪は律の傍に跪くと、手足の拘束を解き、彼女を抱き起こそうとした。と、

ぴちゃ

澪「・・・?」

律の体の下に入れた手が、生温かい物で濡れたのを感じた。

澪「――律・・・?」

ゆっくりと、律の体を仰向けに返す澪。――そして、見た。

澪「い――」

――律の白いカッターシャツを、鮮血が紅く染め上げようとしていた。

澪「いやああああああああああああああぁ!!!」

唯「ひっ――!!」

紬「――・・・!!!」



291 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 00:42:31.25 ID:Teq7VHCk0


律のカッターは、腹部に穴が開いていて、そこからじわじわと赤が広がっていた。

先生B「あっははははははははは!!はっはっははははは!!!」

警察「こいつ、ナイフを持ってるぞ!ちゃんと押さえろ!!」

警備員と警察に押さえ込まれた先生Bが、大声で笑う。

先生B「刺してやった!!刺してやったぞ!!
    一度しか刺せなかったが、もっと滅多刺しにしてやりたかったな!!」

警察が、暴れる先生Bをさらに押さえつける。
警備員に確保された他の男達も、これには声を失っていた。

先生B「ひっひっひ!ひゃはははははは!!最高の夜だ!!
    お前等みんな仲良し軽音部のおかげで!一生忘れない夜になりそうだよ!!」

先生Bは大勢の警備員や警察につれられ、無理矢理外へと連れて行かれた。



293 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 00:43:34.10 ID:Teq7VHCk0


先生Bの狂言に、紬は今までにない憤りを感じた。
澪の肩に置いていた手に、ブレザーにしわが出来るほど力を入れていて、
それに気付いた紬は慌てて手をゆるめた。

だが、それにも気付かない様子、むしろ先生Bの言葉も耳に入っていなかった様子で、
澪は自分の手にべっとりと付いた血を、穴が開くほど見つめていた。
唯も唯で、動かない律を呆然と眺めている。

澪「ああぁ・・・あああぁあ!!律が!律が死んじゃう!!」

紬「澪ちゃん!澪ちゃん!!落ち着いて!!まだりっちゃんは大丈夫よ!!」

唯「きゅ、救急車・・・。救急車呼ばなきゃ!!」

我に返った唯が警備員に助けを求めに走る。
紬の呼びかけに、澪は涙を抑えることはできなくても、何とかパニックから回復した。



296 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 00:45:53.45 ID:Teq7VHCk0


紬「りっちゃん!りっちゃん聞こえる!?今唯ちゃんが救急車呼んでくれてるから!」

澪「律・・・律っ・・・!」

血を見るのは怖かった。正直、初め律の様子を見たとき、
ショックと共に吐き気がして、嘔吐しそうになった。だけど――
このまま、ただ律を眺めているだけなのは嫌だった。
気付いたときには、澪は律の刺傷にハンカチを当て両手で圧迫し、止血を試みていた。

紬「澪、ちゃん・・・」

警備員や警察官が駆けつけてくるが、救急車が来ない以上為す術がない。
彼らはただ黙って、澪達の様子を見守っていた。

唯「救急車、すぐ来るって!警察の人が手配してくれるって!!」

警備員の輪を割って、唯が戻ってきた。その時だった。



302 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 00:48:02.61 ID:Teq7VHCk0


律「・・・み、お・・・」

微かながら聞こえてきた声に、その場にいた誰もが息を飲んだ。

澪「り・・・律っ!!!」

気を失っていたはずの律が、目を覚ました。なんとか瞳を動かし、軽音部の仲間達の姿を確認する。

律「みんな・・・来て、くれたんだ・・・」

唯「りっちゃん・・・!!」

こふ、と律の口の端から血が漏れて、澪は背筋に寒気が走った。
傷口を圧迫する手に力が入る。

紬「駄目・・・りっちゃん駄目!しゃべらないで!!もうすぐ救急車くるから!」

澪「律・・・頑張ってっ・・・!」

律「澪・・・。無事、だったんだな・・・」

澪は律の顔を見る。彼女は真っ青な顔で、だが笑っていた。

律「本当に・・・良かった・・・・・・」

澪「り、つ・・・」



306 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 00:51:21.45 ID:Teq7VHCk0


律の頭が力なく下がる。

澪「い、嫌・・・律!嫌!!」

何度呼んでも返事は返ってこない。澪はわけがわからずただ律の体を揺さぶった。そこへ――

救急隊員「怪我人は何処ですか!!」

救いの声が響き渡る。
工場の外に、救急車が止まっていた。

紬に連れられて、邪魔にならないように律の脇から離れる澪。
すぐにストレッチャーが駆けつけ、救急隊員達によって、再び気を失った律がそこに乗せられる。
聞いても意味がわからない単語の集まりが飛び交い、そのまま律は救急車に運び込まれた。



308 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 00:52:40.12 ID:Teq7VHCk0


工場の外に出て、遠ざかっていく救急車をただ呆然と見つめる三人。
澪は手の中にある、真っ赤になったハンカチに視線を落とした。
それだけで、収まっていた涙がまた溢れ出す。

澪「ふぇ、ぐすっ、りつ~・・・」

唯「っ、うぁ、澪ちゃん泣かないでよ~・・・」

紬「二人とも・・・うっ・・・」

三人は何も言えず、ただただ泣き続けた。紬の父が、静かに歩み寄る。

紬父「・・・今日はもう遅い・・・。一旦みんな家に戻ろう。私が送る」

澪「で、でもっ・・・ぐすっ」

紬父「律ちゃんは大丈夫。きっと大丈夫だ。明日病院に行こう。
   今日は澪ちゃんは私の家に泊めてあげよう。さぁ、車に乗って」

澪「・・・・・・」コクリ

紬父「・・・二人も、いいね」

唯「ふえぇ・・・」

紬「ううぅ・・・」



311 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 00:56:03.38 ID:Teq7VHCk0


憂「・・・じゃがいもが溶けてもろもろだよ・・・。お姉ちゃん。電話でないし・・・」

いつまでも帰ってこない姉を心配しつつ、
憂は机の上の、肉じゃがへと変更したカレーであった物を眺めていた。

長い間火を止めたりつけたりしながら温めていた上、
焦げ付かないように混ぜたりしていたので、
タマネギは消え、じゃがいもは溶けてドロドロになっていた。

憂「どうしよう・・・警察に電話した方が良いのかな・・・。お姉ちゃん・・・」

だんだん不安になってきた憂は、泣きそうになってきた。
と、知らぬ車が家の前で止まったのが、憂の目に入った。

憂(ど、どどどどどうしよう・・・)

不安になっていた憂は、若干パニックに陥った。辺りをきょろきょろと見渡す。
チャイムなしで、玄関の扉が開く音がした。憂は咄嗟に箒を掴むと、玄関へと駆けた。



314 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 00:58:32.50 ID:Teq7VHCk0


憂「えええええぇい!」

箒を振り上げて憂は廊下に出る。と、

憂「お、お姉ちゃん!!?」

靴も脱がずに、そこにぼーっと立っているのは、間違いなく待ちわびた姉の姿。
憂は箒を放り捨て、唯に抱きついた。

憂「お姉ちゃん、遅いよぉ!!心配したんだよ!
  ごめんね!カレーが肉じゃがになっちゃったの!!
  じゃがいもが溶けちゃって、それで――」

涙ぐみながら訳もわからず叫ぶ憂。
だが、姉の体が震えていることが、
その体を抱きしめる腕を通してわかり、憂は顔を上げた。

憂「お姉ちゃ――」

唯「ういいいぃ・・・」



319 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 01:01:56.32 ID:Teq7VHCk0


今度は唯の方から憂を抱きしめた。
憂のエプロンに顔を埋め、ぽろぽろと大粒の涙を流す。

憂「お姉ちゃん・・・泣いてるの?どうしたの?」

唯「ふええええぇん・・・」

ただ泣き続ける姉に、憂はそれ以上聞くのはやめた。

憂「お姉ちゃん、部屋に行こう?とりあえず、靴脱いで」

優しく唯を支えながら、憂は彼女を部屋へと連れてあがった。
自分の部屋に入ると、唯はベッドに倒れ込んでさらに泣く。
憂は黙って下に下りると、ご飯と肉じゃがと野菜を皿に盛り、
お盆にのせて持ってあがった。

憂「お姉ちゃん。机に晩ご飯置いておくから、落ち着いたら食べてね」

返事はなかったが、憂は静かに唯の部屋を出た。

憂(どうしたんだろ・・・お姉ちゃん・・・。明日聞けたら聞いてみよう・・・)

憂は一人、台所で晩ご飯を食べ始めた。



321 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 01:06:58.15 ID:Teq7VHCk0


翌日。

憂(休日にお姉ちゃんが、私より早く起きるなんて・・・)

普段は起こしても起きないような筋金入りのねぼすけの唯。
そんな彼女が、どういう訳か置き手紙を残してすでに出かけていた。

憂(昨日の夜のことかな・・・。一体何があったんだろう)

憂は自分の朝食を机の上に並べつつ、テレビをつけた。

憂(お姉ちゃん・・・)

なかなか置き手紙を読む気になれず、リモコンを手に持ったまま俯く憂。

『――・・・次のニュースです。昨晩私立桜が丘高等学校の生徒が、
 暴行の末、ナイフで刺されるという事件が起きました。』

ぼんやりとした彼女の耳に、聞き覚えのある単語が入った。

憂(桜が丘・・・お姉ちゃんの高校!!)

憂は慌てて画面を食い入るように見つめる。
出てきた地名、風景は見慣れたものばかりだった。



324 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 01:10:10.50 ID:Teq7VHCk0


憂(嘘・・・けっこう家から近い・・・)

『・・・調べによると、
 この生徒は友人が暴行されそうになったところを助けに入り、巻き込まれた模様です。
 また、犯人グループの中には桜が丘高校の教員も二名いたそうで、現場は騒然としています』

『当時暴行されかけていた生徒に怪我はないようですが、
 被害者の田井中律さんは、意識不明の重体です』

画面に映し出された顔、聞こえてきた名前に、憂はリモコンを取り落とした。

憂「嘘・・・律、さん・・・?」
憂(律さんが、刺された!?)

憂は唯の置き手紙を開ける。

『りっちゃんのお見舞いに行ってきます。帰りは遅くなると思う』

震えた文字で、紙の真ん中に小さくそれだけ書かれていた。
よく見るとその紙は、水分を含んだようにしわしわになっていた。

憂(律さん・・・)



325 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 01:12:07.72 ID:Teq7VHCk0


紬の父に連れられて、三人は律が運び込まれた病院まで来ていた。
だが、三人は律の姿を見ることができなかった。
律が収容されている病室の扉に刻まれた、面会謝絶の文字。
その文字が、まるで呪いのように三人をその場に凍り付かせた。

澪「り、つ・・・っ!」

澪が倒れ込むようにその扉に縋りつき、声を殺して泣き始める。
昨日から一体どれほど泣いただろうか。
いくら泣き虫とはいえ、これほどにまで泣き続けることが出来る自分に驚くほどだ。
だが、そう思っていても、止まらない物は止まらない。
床に座り込んで泣き続ける澪を、紬がそばにあったソファに座らせた。



328 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 01:15:22.82 ID:Teq7VHCk0



痛いほど静かな時間が過ぎていく。
紬の父は、三人だけの時間が過ごせるように気をつかったのか、どこかに行ってしまった。
おそらく病院の先生と話をしているのだろう。
澪は泣きはらしてしまった目にハンカチを当ててうずくまっている。
そんな彼女の背中を、紬が優しくさすってやる。
唯はただ、呆然と面会謝絶の文字を眺める。

唯(こんなの・・・ドラマの中だけだと思ってた・・・)

こんな状況、空想の話の中だけだと思っていた。人ごとのようにしか、考えたことがなかった。
現実ではこうも心臓を抉られるような気になるのだと、初めて知った。

唯(りっちゃん・・・冗談だよね・・・。嘘だって言って、出てきてよ・・・)

唯はそれ以上その残酷な文字を眺めていることができなくなり、顔を背けた。



330 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 01:16:44.13 ID:Teq7VHCk0


どれほど時間が経っただろうか。
おもむろに沈黙を破ったのは、澪だった。

澪「律・・・気を失う前に、私を見て笑ったんだ」

小さく首を振って、澪は続ける。

澪「ううん、それだけじゃない・・・。
  私だけをタクシーに乗せて逃がしてくれたときも、振り返って笑った」
澪「どうして・・・怖かったに違いないのに・・・
  苦しかったはずなのに・・・何で笑ったの?」

澪は俯いたまま、誰にというわけでもなく、疑問をぶつける。
それに答えたのは、意外にも――

唯「・・・そんなの、決まってるよ・・・」

唯だった。澪を見つめるその顔は、見たことないぐらい真剣だった。



334 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 01:19:30.55 ID:Teq7VHCk0


唯「澪ちゃんを助けることが出来たから、だよ。絶対」
唯「辛そうにしてた澪ちゃんを見た時は、りっちゃんも辛そうだったもん」

唯の言葉に、紬も小さく頷いた。

紬「小さい頃から、りっちゃんは澪ちゃんの親友だったんでしょう?」
紬「ずっと一緒にいたから、りっちゃんは、
  『こいつは守ってやらなきゃ』っていう使命感をいつの間にか持っていたのかもしれないわね」

唯「だって、あのりっちゃんだもんね・・・」

澪「唯・・・むぎ・・・」

澪は顔を上げ、もう一度固く閉ざされた扉を見つめた。

澪(そうだ・・・あの時だって・・・)



336 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 01:21:51.99 ID:Teq7VHCk0


ちび律『もー!みおってほんとあぶなっかしいよね!』

ちび澪『うえぇええ・・・ぐすっ・・・』

ちび律『もうわんちゃんいないよ。ほら、だいじょーぶ』

ちび澪『うん・・・うん・・・』

差し出された手を、涙で濡れた手で握り返す、幼き日の澪。そこへ、笑い声が飛んできた。


ガキA『あはははは!みたぞみたぞ!犬においかけられてないてやーんの!』

ガキB『なきむしだ!なきむしだー!』

ちび澪『っ!!ふ、ふぇ・・・』

ガキA『また泣いたー』

ガキB『また泣いたー』

ちび律『――~っおまえらー!!』



337 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 01:23:38.41 ID:Teq7VHCk0


ガキA『うわっ!』

ちび律『みおをいじめるやつは私があいてだー!』

ガキB『田井中だっ。おまえにはかんけいないだろー』ドンッ

ちび律『っなにをー!』ベシッ

ガキB『いてっ』

ガキA『なにすんだよ!』バシッ

ちび律『そっちがやってきたんだろ!』ボコッ

ガキA『いてっ』

ちび律『とっととあっち行けぇ!ばかやろー!』

しっぽを巻いて逃げていくガキ共に、幼き日の律はあっかんべーをした。



340 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 01:25:09.12 ID:Teq7VHCk0


ちび澪『・・・すんっ・・・』

ちび律『きにすることないよ。さ、かえろ?』

もう一度澪の手を取る律。澪はおずおずと、律のおでこを指さした。

ちび澪『たたかれたところ、赤くなってる・・・』

ちび律『だいじょーぶ。いたくないもん』

ちび澪『ほんと・・・?』

ちび律『ほんとっ!だって、みおがかなしそうにしてるの見るほうがもっといたいもん』

ちび澪『いたい?りつが?』

ちび律『うん。みおが泣いてるの見ると、むねのところがぎゅっ、ていたくなるんだ』

ちび律『だから、それにくらべたらぜーんぜん、へいきだよっ!』

ちび澪『りつ・・・ありがとうえぇ・・・』

ちび律『ないちゃだめー』



347 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 01:31:11.16 ID:Teq7VHCk0


澪(・・・律は小さい頃から私を助けてくれていた)
澪(馬鹿で、ふざけてて、おっちょこちょいだけど、心の底に強さを持っていて・・・)
澪(私はその強さに甘えてたんだ・・・)
澪(私自身、もっと強くならなきゃいけないのに、心のどこかでそれをめんどくさがってた・・・)

澪「私・・・馬鹿だ・・・」

頭を抱え込んでうなだれる澪。と、そこへ紬の父が帰ってきた。

紬「お父様・・・」

紬父「・・・今日は、帰ろう」

紬「・・・っ」

紬父「――明日から、面会可能になる」



359 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 01:39:25.23 ID:Teq7VHCk0


澪「本当ですか・・・!」

弾かれるように顔を上げる澪に、紬の父は小さく微笑み、また真顔に戻った。

紬父「親族と、君たち軽音部関係者だけ特別に、だそうだ」

唯「私達・・・だけ・・・」

それほどの状態なのだと、嫌でもわかった。
だが、明日になれば律にあえる。それだけが三人の励みになった。

紬父「さぁ、家まで送ろう」

重い体を起こして、三人は立ち上がった。
途中何度も振り返りながら、三人は律の病室を後にした。



434 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 10:22:28.78 ID:Teq7VHCk0


憂「お姉ちゃん・・・」

唯「憂・・・」

家に戻った唯を出迎えたのは、涙目の憂。

唯「りっちゃんのこと――」

憂「朝、ニュースで見て、新聞で詳しく知ったよ・・・。律さん、大丈夫だよね?」

唯「うん。大丈夫だよ、絶対」

偽りの笑みを浮かべる唯。憂は心が痛くなった。

憂「お見舞い、どうだったの・・・?」

唯「・・・・・・」

唯の顔が曇る。聞かなければ良かった。憂は後悔した。

憂「――・・・っお、お昼ご飯作る――」

唯「会えなかったんだ」



436 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 10:26:17.43 ID:Teq7VHCk0


憂「えっ・・・」

唯は決心した。
憂だって、律とは仲が良かった。きちんと何があったか、説明しなくてはいけない。

唯「憂、ちょっと長くなるけど、全部話すね」

唯は靴を脱いで、リビングへと向かう。その後ろを、憂が黙って付いてきた。
いつもと違う姉の雰囲気に、少し戸惑った顔をして。



437 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 10:29:36.49 ID:Teq7VHCk0


憂「そう、だったんだ・・・。澪さんが・・・」

唯「うん・・・。でも、今日は会えなかったけど、明日からは部屋に入っても良いんだって」

憂「ホントに!?」

唯「でも軽音部関係者と、りっちゃんのお父さんやお母さんだけって」

憂「そっか・・・心配だね」

憂が肩を落としたその時、インターホンのチャイムが鳴った。

憂「・・・お客さんだ」

憂は目に滲んだ涙を拭った後、玄関へと駆けていった。



440 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 10:35:08.23 ID:Teq7VHCk0




唯「・・・・・・」

何をするわけでもなく、ただぼーっとする唯。ギターを触る気にもなれなかった。
床に寝転ぼうとしたとき、ドアが開いた。

憂「お姉ちゃん、和さんだよ。あがってもらうね」

唯「ん、うん」

体を起こし、座り直す。憂は一度廊下に戻ると、台所へと向かった。

和「唯!」

血相を変えた和が、すぐにリビングに現れた。

唯「和ちゃん・・・」

和「携帯にかけても繋がらなかったから来たんだけど・・・その・・・」

憂「どうぞ、座って下さい」

お茶とお菓子を持って、憂が戻ってくる。
和は何か言いたげにしていたが、とりあえず腰を下ろした。



442 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 10:39:33.89 ID:Teq7VHCk0


唯「りっちゃんのこと、だよね」

和「・・・えぇ。ニュースを見たとき、信じられなかったわ。
  いてもたってもいられなくなって・・・」

唯「ごめんね、連絡入れられなくて・・・。私も昨日から取り乱しちゃってて」

苦い笑みを浮かべて唯は和を見る。唯のこんな辛い笑顔を見たのは、初めてだった。

和「・・・刺されたって、本当なの?」

唯「うん・・・。B先生に・・・」

和「嘘・・・あの先生が・・・」

二度目になる事件の説明を始める唯。
話が終わる頃には、和の眼鏡の奥の瞳は微かに揺れていた。

和「律・・・信じられない・・・」

唯「私も・・・夢ならいいのにって、ずっと思ってるよ」

和「・・・お見舞い行きたかったけど・・・これじゃあ無理ね」

唯「こまめに連絡入れるようにするよ」

和「お願い。・・・私もたまに顔を出すようにするから」



446 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 10:43:40.00 ID:Teq7VHCk0


唯と澪を自宅に送った帰り道。
紬は静かな車の中で、ずっと引っかかっていたことを口にした。

紬「お父様・・・何かしたの?」

紬父「・・・何がだ?」

紬「両親はともかく・・・私達も特別に面会可能だなんて・・・」

紬父「・・・・・・」

紬「普通なら両親だけのはずでしょう・・・?」

紬父「・・・・・・」

紬の父は、一つため息をつくとその重い口を開いた。



449 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 10:49:21.52 ID:Teq7VHCk0


紬父「私は何もしていない。だが・・・」

紬「・・・?」

紬父「正直に言うと・・・律ちゃんは危険な状態だ」

求めていた真実が、残酷に紬の胸を抉っていく。

紬父「どっちに転ぶかわからない不安定な状況なんだ。
   だから・・・医師の方々も、お前達に託したいみたいだ」

紬父「少しでも長く、律ちゃんの傍にいてあげなさい。
   親友のお前達が傍にいるだけで、律ちゃんは救われるだろう」

紬「ふ、ぐすん・・・りっちゃん・・・」

俯いて泣き出した紬の頭に、紬の父は静かに手を置いた。




450 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 10:53:15.42 ID:Teq7VHCk0


澪はベッドで一人横になっていた。
本当はマスコミやらに追いかけ回される状況だが、紬の父が手配してくれた。
律の状態が安定するまでは、電話一つかけてこないそうだ。

澪「・・・・・・」

明日、連絡を聞いた旅行中の両親が帰ってくるらしい。――律の両親もだ。
ベッドの横には自分の鞄と並んで、律の鞄が置いてある。
あの夜、家の玄関に放置されていた鞄だ。
澪はおもむろにそれを持ち上げると、きつく抱きしめた。

澪(明日・・・律に会える・・・)



453 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 10:58:03.06 ID:Teq7VHCk0


さらに翌日。
日曜の朝の人影が少ない道を、三人を乗せた車が走っていく。
全員終始無言だった。
いつもならこういうとき、律が話題を作ってくれるのに。
同じ事を誰もが一緒に思っていた。


紬父「それじゃあ、私は今日は用があるから・・・」
紬「えぇ、また連絡するわ」

紬の父は三人を見回すと、車に戻っていった。



454 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 11:02:47.23 ID:Teq7VHCk0


律の病室の前には、すでに人がいた。
澪の両親だった。
ソファに座って黙していた二人は、澪に気がつくとすぐに彼女に駆け寄った。

澪母「澪!!あぁ澪!!」

澪の母は澪を縋りつくように抱きしめると、その場に泣き崩れた。

澪父「澪・・・無事で良かった・・・。悪かった、一人にして・・・」

顔をぐしゃぐしゃにして泣く妻の傍に行き、澪の父は娘の顔をじっと見つめた。
その声は心なしか震えていた。

澪「お父さん、お母さん・・・」

二、三日会えなかっただけなのに、
ものすごく長い間感じてなかったかのように感じる、家族のぬくもり。
澪は母の抱擁に、ただ身を任せた。



456 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 11:10:17.67 ID:Teq7VHCk0


ガチャ
ふいに、律の病室の重い扉が開かれた。
出てきたのは、やつれた顔に涙を浮かべて
ふらつきながら歩く律の母と、彼女を支える律の父だった。

唯「りっちゃんのお母さんとお父さんだ・・・」

唯の声に、こちらに気がつく律の両親。
澪は母の腕をそっと離すと、二人の前まで歩いていき、頭を深く下げる。

律父「澪ちゃん・・・」

澪「謝っても許されることじゃありません・・・。
  でも、謝らせて下さい・・・お礼を言わせて下さい・・・!」

澪「律が・・・律が助けてくれなかったら、
  私っ・・・!本当に、すみませんでした・・・!!」

震える声ですみませんと繰り返す澪。
澪の両親も、彼女の隣で頭を下げた。



459 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 11:15:22.44 ID:Teq7VHCk0


律父「顔を上げて下さい。澪ちゃんも、ご両親も」

律の父が静かに口を開く。それでも澪は、頭を上げなかった。

律父「今回の件は律が・・・
   あの子が自分の意志でやったことです。澪ちゃんが謝ること、ないよ」

澪「・・・・・・」

律父「律は澪ちゃんが傷付くのを見たくなかったんだ。
   そんな顔してたら、逆に律が救われない。いいかい?」

律の父が、澪の前にしゃがみ、彼女の肩に手を置いた。

律父「どうしても償いたいと思っているなら、律の傍にいてやってくれ。それだけで十分だよ」

律母「・・・お願いね、澪ちゃん。それに、唯ちゃんに紬ちゃんも。それが律の励みになるわ・・・」

泣きはらした目で薄く微笑み、律の母は三人を見た。
澪はにじんだ涙を拭うと、顔を上げてしっかりと頷いた。



463 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 11:19:39.76 ID:Teq7VHCk0


医師の許可をもらい、三人は律のいる病室へと入る。
目に入った光景に、胸が締め付けられた。
律と面会が出来たことを、素直に喜ぶことができなかった。

確かに律はそこにいた。
無地のベッドの上に、飾り気のない患者服を着て横になっていた。
嫌でも目に付くのは、彼女の体に取り付けられた数々の機器。
顔につけられた酸素マスクから伸びるチューブが、半開きの口に入れられている。
無数のコードが伸びた心電図が、静かな室内に一定のリズムを刻む。
律の頭や腕には包帯が巻かれ、あちこちにガーゼが貼り付けられていた。

普段の彼女からは想像できない――想像したくもない姿だった。



466 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 11:22:49.32 ID:Teq7VHCk0


澪「律・・・」

澪はふらふらとベッドの横へと行く。
自分を映すことはない閉ざされた瞳は、開く気配を微塵も見せない。

唯「りっちゃん・・・」

紬「・・・・・・」

紬父『正直に言うと・・・律ちゃんは危険な状態だ』

紬父『どっちに転ぶかわからない不安定な状態なんだ』

その事実を知るのは、父から聞いた紬のみ。
紬は不安で引き裂かれそうになる体を自分で抱きしめるようにした。



469 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 11:26:50.13 ID:Teq7VHCk0


また、沈黙が三人を包んでしまう。

澪(駄目だ・・・これじゃ、駄目なんだ)
澪(律は私達が悲しむのを望んでいないんだから・・・)

澪は小さく頭を振ると、唯と紬を振り返り、気丈に振る舞った。

澪「――明日から学校だけど、私毎日ここに通うことにするよ!」

唯「澪ちゃん・・・。なら、私も!」

紬「・・・当然私も」

唯がびしっと手を挙げ、紬もにっこりと笑う。
澪はもう一度律を振り返ると、点滴の管がつながれた手を、そっと握った。

澪「律、頑張れ・・・。明日も、明後日も――律が元気になるまで毎日絶対来るからな」



472 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 11:30:06.69 ID:Teq7VHCk0


それから数時間後。
病室の扉がノックされ、話をしていた三人は立ち上がって返事をした。
看護士によって開けられた扉の向こうに立っていたのは、さわ子だった。

澪「さわ子先生!」

さわ子「りっちゃん・・・りっちゃんは大丈夫なの!?」

真っ青な顔で病室に入るさわ子。
ベッドで眠る律を見て、彼女は眼鏡の奥の目を潤ませた。

さわ子「うっ・・・りっちゃん・・・」

唯「さわちゃん先生・・・研修は?」

さわ子「そんなものどうでもいいのよ!
    ・・・B先生、急に研修の話持ちかけてきたと思ったら・・・」

紬「B先生に研修の話を・・・」

さわ子は机の上に鞄を置くと、眼鏡を取ってつかつかと歩き出した。

さわ子「ちょっとBの野郎ぶちのめしてくる」

澪「い、いやいや・・・」



479 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 11:36:39.71 ID:Teq7VHCk0


澪は慌てて彼女を止める。

澪「先生落ち着いて下さい。もうB先生は留置所の中ですよ」

さわ子「うううぅ・・・なら、面会許可もらって情け容赦ない罵声の数々を――」

唯「そんなことより、りっちゃんの傍にいてあげてよぉ」

腕を引っ張って言う唯の言葉に、さわ子は我に返った。

さわ子「・・・そうね・・・。ごめんなさい、取り乱したわ」

澪「いえ・・・」

でも、と紬がさわ子を見る。

紬「先生忙しいんじゃないですか?
  職員の中から犯罪者が出たんですし・・・会議とかあるんじゃ・・・」

さわ子「そうなのよね・・・。できるだけここには来たいけど、さすがに毎日は無理かも・・・」

唯「そんな~・・・」



485 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 11:39:29.14 ID:Teq7VHCk0


さわ子は真面目な面持ちになると、三人の顔を一人一人しっかりと見つめた。

さわ子「頼んだわよ、あなた達・・・。りっちゃんのこと、しっかり見守っていてあげて」

澪「――もちろんです」

さわ子は鞄を手に取ると、中から手帳を取りだした。

さわ子「そうそう、大事なことを忘れてたわ。
    ・・・その、学校の中からわいせつ行為の犯人と、
    それの被害者がでたってことで、むぎちゃんの言う通り、今学校中大騒ぎなの」

さわ子「明日から月曜日だけど、学校は一時休校になるみたいよ」

唯「ホント!?」

さわ子「えぇ」

澪「じゃあ、ずっと律の傍にいてやれるな」

紬「嬉しいわぁ」

さわ子は喜ぶ三人を見て、小さく微笑んだ。



487 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 11:43:02.87 ID:Teq7VHCk0


それから毎日、三人は律の病室を訪れた。

澪「律!今日は和と憂ちゃんも、そこに来てくれてるんだぞ」

唯「二人とも入室は許可されないんだけど・・・
  りっちゃんが元気になるようにって、千羽鶴折ってくれたんだよ!」


澪「今日は久しぶりにバンドの練習をしたんだよ、律」

紬「りっちゃんが起きたときに、なまけてたなーって怒られないように、頑張ったんだから」

机の上に置かれた小さなスピーカーから、録音された演奏が流れてくる。
しかし、ドラムの音はない。

澪「お前がいないと、全然演奏に迫力が出ないよ・・・。早く元気になれよ」


唯「りっちゃん!さわちゃん先生が来てくれたよ!」
さわ子「無理言って抜け出してきたわ!さあ、夕方までしゃべるわよー!」



499 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 11:55:50.58 ID:Teq7VHCk0


澪「律、凄いぞ・・・。クラスのみんなから、手紙がいっぱい来てる」

唯「寄せ書きも預かってきたよ!」

紬「みんな、りっちゃんが元気になるの、ずっと待っててくれているのよ」

澪「幸せ者だな、お前は・・・」

その後も、励ましの言葉が録音されたテープや花も病室に届けられた。

澪達も時間が許す限り律の傍にいて、他愛もない話を続けた。
律が笑いながら相づちを返してくれるのを期待して。



しかし――いっこうに律は目覚める様子を見せなかった。



503 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 11:58:50.09 ID:Teq7VHCk0


――事件の夜から、一週間が経とうとしていた。

澪「今日は良い天気だぞ、律」

澪は部屋のカーテンを開け、窓を開ける。
雲一つ無い青空から、太陽の日差しが暖かく降り注ぐ。
心地よい風が頬を撫で、長い黒髪を揺らしていく。

紬「この演奏を録音した日と同じぐらい良い天気ね」

紬が机の上の小さいスピーカーを見て、目を細めた。
そこから音量を抑えて流れてくるのは、
みんなでアレンジして歌いながら演奏した、『翼を下さい』。

唯「みんな初めて演奏したときより凄く上手になってて、嬉しかったよね」

演奏が終わり、最後に少しだけ入ってしまった
皆のはしゃぐ声が聞こえてくる。それを聴いて、唯は微笑んだ。
二人の会話を、澪は黙って窓の外を眺めたまま聞いていた。
そして思い出す、その日の会話――。



505 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 12:03:31.29 ID:Teq7VHCk0


律『――綺麗な空だな』

紬『え?』

律『悲しみのない自由な空、か・・・。まさにそんな感じだよ。
  どんなに辛いことがあっても、こんなに綺麗な空見てたら、
  また頑張れるような気がしてくるよなぁ』

唯『ぶっwwりっちゃん詩人だねwww』

律『ふっ・・・私も自分で言っといてちょっと後悔してるぜ・・・』

澪『脳天気な律に辛いことなんかあるのか?w』

律『なっ、澪!お前それ失礼すぎるだろ!!私だって人並みに悩んだりすることだってなぁ!』

紬『りっちゃん顔真っ赤よww』

律『あれ?何この仕打ち。何か泣けてきちゃう』



507 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 12:06:02.60 ID:Teq7VHCk0


澪「律・・・空、綺麗だよ。本当に辛いことなんか消してくれるぐらい」

澪は窓の外の青空から目を離さない。

澪「でも、でも・・・律がそんなだと・・・
  いくら空が消してくれても、次から次に辛い気持ちが溢れてくるじゃない」

紬「澪ちゃん・・・」

一週間もベッドの上で静かに眠り続ける律。
どんなに気丈に振る舞おうと決意しても、さすがに辛さがぶり返してくる。

澪「起きてよ、律・・・。一緒に空見ようよ・・・」

消え入りそうな声で、澪は小さく呟いた。
CDも止まってしまい、病室の中は、一定のリズムを刻む心電図の音だけが虚しく響く。



512 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 12:09:42.93 ID:Teq7VHCk0


イスに座って、じっと律を見つめていた唯が、おもむろにその小さな口を開いた。

唯「今~私の~ねが~いごとが~ 叶~うな~らば~ つば~さ~が~ほし~い~」

呟くようにぽつりぽつりと、唯は歌を紡いでいく。
驚いてぽかんとしていた紬が、小さく微笑んで息を吸う。

唯・紬「この~背中に~鳥~のように~ 白~い~つ~ばさ~ つけ~て~く~ださ~い~」

決して大声で歌っているわけではないのに、澪は二人の歌声が、自分の体を震わすのを感じた。
滲んだ涙を指で拭って、澪も息を吸った。

唯・紬・澪「この大空~に~翼を広~げ~ 飛んで~ゆきた~い~よ~」



517 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 12:15:58.74 ID:Teq7VHCk0


さわ子「・・・?」

偶然出会い、律のお見舞いに一緒に来たさわ子と和、憂は、律の病室の前で、
ノックをする体勢のまま泣いている看護士の女性を見て、眉をひそめた。
女性は三人の姿を目にとめると、ハッとしたように頭を下げる。

さわ子「どうかされたんですか?」

さわ子は心配そうに彼女に歩み寄り、耳に掠めた歌声に足を止めた。
扉に近づくと、囁くような優しい歌声が、病室の中から聞こえてきていた。

さわ子「・・・・・・っ」

急に目頭が熱くなって、さわ子は病室の前の椅子に座ると、ハンカチを顔に押しつけた。
子供達の前では泣きたくなかったのに、涙が溢れて仕方ない。
和と憂も、ドアの前に立ったまま、静かに泣いていた。



520 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 12:20:13.62 ID:Teq7VHCk0

唯・紬・澪「悲しみのな~い~自由な空~へ~ 翼~はため~か~せ~ ゆきたい~・・・」

歌声が一人足りない『翼を下さい』が終わり、再び部屋の中に悲しい静寂が訪れる。
三人はあの日律が言った言葉を、同時に思い出していた。
清々しいほど蒼い空を三人はただ静かに見つめる。

その時――

「――・・・綺麗な空だな・・・」

小さな声が沈黙を破った。
小さな、とても小さな声だった。
だが、誰も聞き逃さなかった。
弾かれるように振り向いた。

――誰もが望んでいた笑顔が、そこにあった――



528 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 12:23:19.19 ID:Teq7VHCk0


静かになった病室から、突如聞こえてきた壮絶な泣き声。
さわ子はビックリして立ち上がった。
憂と和も気が気でない様子でドアを見ている。

看護士が急いでドアを開ける。
暗い廊下から、日差しの差す明るい病室へと入る看護士とさわ子。
後ろからのぞき込む憂と和。
まばゆい日差しに一瞬目が眩むが、飛び込んできた風景はそれ以上に輝いて見えた。


ベッドにしがみつき、抱き合って泣きまくる唯、紬、澪。
その様子を、小さく首だけ傾けて見守っているのは、ベッドの上の律。
まだ疲れが抜けきっていないその顔に、彼女は困ったような笑顔を浮かべていた。



536 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 12:26:49.70 ID:Teq7VHCk0


さわ子「りっ・・・ちゃん・・・?」

震える口で、さわ子はその名を呼ぶ。
ゆっくりと顔を動かし、律は確かにさわ子の方を見た。

律「・・・さわちゃん・・・おはよ・・・」

はにかんだ笑いと共に、小さな声が返ってくる。
看護士が嗚咽を上げながら部屋を飛び出した。
部屋の外で和と憂が抱き合って泣き崩れた。
さわ子がまるで子供のように声を上げて泣いた。

皆がずっと待ち続けていた瞬間が訪れた。

澪「り、律!うえっぐ・・・律!!」

律「何・・・?」

涙でぐしゃぐしゃの顔を上げ、必死に言葉を紡ごうとする澪。
律は優しく返事を返して待つ。

澪「律っ・・・おかえりいぃ・・・」

ベッドのシーツに顔を埋めて、澪はまた泣きじゃくった。

律「えへへ・・・――ただいま」



548 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 12:32:57.26 ID:Teq7VHCk0


その日はそれ以上律の傍にいることはできなかった。
大勢の医師が律の部屋へとやって来たからだ。
目覚めた後の対処等、いろいろあるのだろう。

それでももう全員からは、暗い気持ちなど全て吹き飛んでいた。
目を覚ました律の笑顔は、晴れ渡った空よりも、辛い気持ちを無に返してくれた。

その後、律は驚異的な回復力を発揮した。



558 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 12:38:08.75 ID:Teq7VHCk0


唯「りっっちゃーん!!」バンッ

律が目を覚ましてから二日後、ようやく全員に面会の機会が訪れた。
勢いよくドアを開けて部屋に突入する三人。
もう面会謝絶の文字は、ドアの前から消えていた。

律「おぉ!よく来たなぁ!!」

ベッドの上で身を起こし、窓の外を眺めていた律は、嬉しそうに笑った。
久しぶりに見る、元気な律の笑顔だった。
喉の奥がきゅっと締まる感覚を覚え、唯は涙ぐみながら律に抱きついた。

唯「うえぇん!りっちゃぁん!!」

律「ぐあいたたたたた!!」

唯「あ、ごめん」

律「お前なぁ・・・。一応まだ入院患者なんだぞ?」

腕の包帯をさすりながら、律は涙目になってぼやく。

紬(二人とも可愛い・・・)

律「おーい?むぎー、かえってこーい」



570 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 12:51:52.35 ID:Teq7VHCk0


律「まったく・・・お前ら相変わらずだなぁ」

ため息をついた律の傍に、静かに歩み寄るのは、澪。

澪「律・・・」

律「よっ、澪。もう大丈夫か?」

明るい笑みを浮かべて、律は澪を見る。
こんな状況でも自分のことを心配してくれる律を見て、
澪は情けなくなって、また涙がにじんだ。

澪「律・・・ごめんな・・・ごめん。私のせいで、こんな事になっちゃって――」

律「なーにいってんだよ、澪。お前が私に守ってくれって命令した訳じゃないだろ?」

澪「律・・・」



573 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 12:53:17.55 ID:Teq7VHCk0


澪「律は・・・強いな」

律「へ?」

澪「こんな私のために・・・本当にありがとう。
  ――私ももっともっと、強くならなきゃ駄目だって気付かされたよ。
  今の私は、臆病で泣き虫で・・・」

唯「澪ちゃん・・・」

律「――澪」

俯く澪を呼び、顔を上げさせる律。
律は彼女に自分の右手を差し出して見せた。
指の先まで、包帯がぐるぐる巻きになっている。



577 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 12:59:47.35 ID:Teq7VHCk0


律「覚えてるか?澪。私の手が、踏みつけられた時のこと」

澪「う、ん・・・」

男Aが、律の手を踏み砕いて、二度とドラムが出来ない手にしようとしたのだ。
あの時の律の悲鳴は、耳に張り付いて消えることはない。

律「あの時澪がアイツにぶつかっていってくれなかったら、
  今頃この手は使い物にならなくなってたんだよ?」

澪「あれは・・・何が何だかわかんなくなって――」

律「それだけじゃないぞ」

ぴっと指を立てて、律は澪の言葉を遮る。

律「私、B先生に刺されちゃったじゃん」

唯「あの時はホント・・・もう頭の中真っ白だったよ」

紬「えぇ・・・」

律が申し訳なさそうに頭をかく。



581 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 13:09:20.49 ID:Teq7VHCk0


律「あの時さ・・・澪、血とか全然駄目なはずなのに、応急処置してくれたんだよね」

澪「あ・・・うん」

律はお腹を撫でながら続ける。

律「あの時・・・あの時、止血処置を行ってなかったら・・・
  私、確実に死んでたんだってさ」

澪「――!!」

澪は息を飲んだ。唯と紬も言葉を失っている。

律「昨日、医者の先生から言われた。止血してくれた子に感謝しなさいって」

澪「り、つ・・・」

律「ありがとな、澪。お前が勇気出してくれなかったら、私今頃お陀仏だったんだぞ」

ふざけて笑った後、律は真顔に戻って、真っ直ぐに澪を見た。

律「――澪は自分で思ってるよりも強いんだよ?ずっと、ずっとさ」

澪「――・・・っ」

澪はぼろぼろ涙をこぼしながら律に抱きついた。

律「あ゛ーだだだだだだぃ!!」

唯「あははははは!」

紬「うふふ・・・」

四人とも、泣きながら笑い続けた。



584 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 13:11:33.00 ID:Teq7VHCk0


数日後

人でいっぱいに――満杯になった桜が丘高校の体育館。
ステージの幕が、ゆっくりと上がる。同時に、歓声も上がる。
スポットライトを浴びて、照らし出されるのは、四人の少女。
その一人が、マイクを握ると、騒いでいた観衆が一気に静まった。

唯「みなさん!!今日は私達軽音部の特別ライブに来てくれて、本当にありがとう!!」

わき上がる歓声。唯はニッコリと笑うと、振り返ってマイクを差し出した。
立ち上がり、それを受け取ったのは――律。

律「・・・えー、こほん。本日は、私なんかのために
  こうやってライブの場を与えて下さって本当にありがとうございました!」

さらに大きな歓声が、会場中に響き渡る。律はマイクを握りなおして口を開いた。



589 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 13:14:47.31 ID:Teq7VHCk0


律「皆さんには、本当に大変なご迷惑をお掛けしたと思います。
  申し訳ない気持ちでいっぱいです」

小さく頭を下げる律。そして、後ろを振り返った。

律「でも、今回の出来事で、私はこんなに最高の仲間を持っているんだ、
  ということに改めて気付かされました。
  この三人とこうやってまたバンドが出来ることを、幸せに思います!」

すぅ、と息を吸うと、律は大声で叫んだ。

律「やっぱ軽音部は最高だぜ!!」

澪「律・・・」

絶え間ない歓声が上がる。
律はふぅ、と小さく息をつくと、手の中でマイクを一回回し、大きく叫んだ。

律「今日はこのかけがえのない仲間達との演奏を、
  思いっきり楽しみたいと思います!!みんなも楽しんでってねーーー!!!」

拍手や歓声が会場を揺らす。
律は幸せそうに一度目を閉じて微笑むと、もう一度皆を振り返った。頷きが返ってくる。



593 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 13:17:48.96 ID:Teq7VHCk0


律「それじゃあ早速!まず最初は私を死の淵から蘇らせたと言ってもおかしくないこの曲から!!」

笑い声と拍手が聞こえてくるなか、律は唯にマイクを返してドラムの元へと戻る。
澪が背中を叩いてくる。紬が笑いかけてくる。
胸が熱くなって急に視界が滲む。律は座りながら、タオルで顔を拭いた。

律「え、演奏する前から汗かいてきちまったぜ!」

その様子を見て唯は笑うと、観客の方へと向き直った。

唯「おっけー!じゃあ最初の曲!『翼を下さい』!!」

二本のスティックが、高々と掲げられる。



静かになった会場に、乾いた音が心地よく鳴り響いた。



fin.



618 名前:1 ◆RzJK4cmtFk:2009/06/14(日) 13:23:46.17 ID:Teq7VHCk0

ふぃー・・・終わったぜ
なんか、燃え尽きた
一話で律に惚れ、学園祭での思いやりにこのSSを書くことを決め――
気がつけば、もう最終回直前だった
なんとか終わるまでに書ききれて良かったよ

スレタイ、どこに入れようかと必死だったぜ・・・
やっぱ最初に考えておくべきだよな


では、ここまでご愛読ありがとうございました
支援と保守もマジ励みになりました
全ての方々に感謝感謝です

さて、律のキャラソン予約に行くか




596 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:19:20.39 ID:C7b+Q4UXO


投下早いし内容も良かった



597 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:19:25.26 ID:iDloJpNJ0

乙!



600 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:20:26.81 ID:8Luwyj18O

おお…久々にいいもの読んだ。乙!



602 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:20:33.40 ID:KORI7jPZ0

おつかれさん



603 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:20:40.68 ID:2J78MQSbO

>>1乙!最高だった。



604 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:20:58.69 ID:UZRniT2yO

>>1
お疲れ様でした.原作もアニメも観たこと無いけど軽く泣きそうになった



605 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:21:07.27 ID:f3A08CNn0

おっつーっす



606 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:21:10.79 ID:0tJUIpWlO

よかった…ハッピーエンドで本当によかった…
乙!



608 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:21:19.17 ID:4RPVSuN7O

>>1ありがとう



609 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:21:24.31 ID:YmofJCWoO





610 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:21:33.68 ID:YB/DiQp2P

乙でした
きれいにまとまって良かった・・・



611 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:21:52.16 ID:upXza74C0

>>1お疲れ様、とてもよかったよ!



613 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:22:10.10 ID:Hpz9JDOEO

>>1乙!
泣ける(´;ω;`)



615 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:22:35.36 ID:jeY2/zDB0

乙!



616 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:23:09.23 ID:DcaS8g/JO

>>1



617 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:23:09.39 ID:y5jJZOPRO

泣いた




619 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:24:04.98 ID:KpanKv2IO



よかった!



625 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:25:09.78 ID:cnAKBHRD0

>>1
長編超乙
次回作期待してるぜ



627 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:25:25.93 ID:yeQIgTfeO





629 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:26:15.81 ID:JwGHGGhr0

りっちゃああああああああああああああああああああああああああああああああんだいすき
いちおつ!めちゃくちゃおもしろかった



630 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:26:22.78 ID:0PTthJkf0

>>1お疲れさま
いままで読んだSSのなかで一番話の構成が
上手くておもしろかったと思う



632 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:27:22.33 ID:wi+UVjm20

いちおつ!



633 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:28:22.45 ID:RWYUb/VVO

乙!感動したぜ…
次回作も期待してる



635 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:29:08.84 ID:c56niiQJ0


けいおんSSで泣いたのは二回目だ。



636 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:29:32.07 ID:0ob49F8RO

乙!



637 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:30:08.21 ID:rICUs6MqO

>>1乙!!
面白かったぜ



643 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:41:26.56 ID:oiMe7QkZO

乙!感動した!



644 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 13:48:37.90 ID:pwUvizLDO

けいおんSSので泣いたの三回目だ…



659 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 14:26:15.31 ID:S7MIvmj/0

乙ー(´;ω;`)



663 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 14:53:04.00 ID:hFYE4zQkP

亀だが>>1乙!
律だいすきになった!



667 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 15:10:34.42 ID:y/rdmi320


けいおんSSはキチガイSSだけだと思ったらそうでもないんだな



673 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/14(日) 15:42:53.59 ID:R7sNR4ul0

乙!!昨日から見てたぜ





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タイトル:
NO:2317 [ 2011/06/02 00:05 ] [ 編集 ]

紬父△

タイトル:
NO:2321 [ 2011/06/02 16:11 ] [ 編集 ]

律スキーな自分大歓喜な名SS

タイトル:承認待ちコメント
NO:6626 [ 2012/06/21 20:34 ] [ 編集 ]

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