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唯「ゾロアスター教徒になるよ!」#1 【宗教】


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唯「ゾロアスター教徒になるよ!」#1
唯「ゾロアスター教徒になるよ!」#2
唯「ゾロアスター教徒になるよ!」#3
唯「ゾロアスター教徒になるよ!」#4




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 03:14:53.57 ID:zP8LrVH4O

それはいつもの帰り路


唯「ふわぁ~あちぃ…あずにゃん、アイス屋さんよっていこうよぉ!」

梓「先輩…昨日も一昨日も同じこと…」





3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 03:18:40.71 ID:zP8LrVH4O

唯「暑は夏いからアイスを愛す、そんな私は貴方に熱中症患者♪」

梓「何言ってるん…」

梓「あ…」

唯「どしたの、あずにゃん?」



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 03:22:38.04 ID:zP8LrVH4O

唯と梓が、ふと、立ち止まったのは、
ちょっとした街角にはよく見掛けるような古本屋。


唯「ど~~したのぉ?あずにゃん??」

梓「先輩、少し寄っていきませんか?」



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 03:27:41.55 ID:zP8LrVH4O

古本屋に入ると案の定無愛想なご主人。夕刊に夢中の様子。


唯「うわっ…むっずかしいほんばっか…」

梓「先輩…」

梓「お邪魔しまーす。」

店主「…」

店主「ん?」

店主「あずさちゃんか!」


途端に店主の顔が綻ぶ。



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 03:33:38.19 ID:zP8LrVH4O

梓「小父さん、久しぶりです♪」

店主「○○は元気にしてるかい?」

唯(○○…確かあずにゃんのお父さん…)

唯は数週間前に会った梓の父親を思いだす。



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 03:38:44.14 ID:zP8LrVH4O

唯(ねえねえ、)

梓(はい?)

唯(このおじさん、あずにゃんの伯父さんなの?)

梓(いえ、親戚の伯父さんじゃなくて…お父さんのお友達なんです。)

店主「あずさちゃん!友達じゃなくて、腐れ音楽仲間だから!」

そう言う店主は梓の父親よりほんの数年年かさに見える。
けれど、きっと親しい関係に違いない。
梓を見る目が、ほんとに優しいから。



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 03:46:04.52 ID:zP8LrVH4O

唯(本がたくさん…)

梓「通りかかったんで、ちょっと寄って見ました♪」

店主「そっかそっか!」

店主「相方はお友達かい?」



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 03:48:03.79 ID:zP8LrVH4O

梓「友達というか…部活の先輩です。」

店主「へぇ、そっかそっか…」

唯(私には一生縁のなさそ…な…)

唯「あ…」

人と『本』との出会いは偶然と好奇だ。好き嫌いと直感がよく横顔を差し挟む。

けれど…



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 03:56:10.85 ID:zP8LrVH4O

唯「あ…」

唯「あべすた。」

梓「はい?」

店主「『アヴェスター』か。完全版の奴だね。
   日本語じゃあ、古層アヴェスターから新層まで…」

店主「残ってるやつが全部翻訳されてるのはそれだけだ。」※



※脚色です。実際には存在しません。




35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 04:35:52.25 ID:8/C4Esu6O

木村鷹太郎の全訳が一応出てなかったっけ?
とりあえずしえん





40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 04:46:00.26 ID:zP8LrVH4O

>>35
それは思想界では無かったかとことに…理由は…うぐぐ。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 04:03:19.11 ID:zP8LrVH4O

梓「なんなんですか?それ?」

店主「旧約聖書あるだろ?簡単に言うとアレに近い本だ。」

店主「神の言葉と予言者の言葉がごっちゃになってる…」

梓「キリスト教の本ですか?」

店主「うんにゃ。アーリヤ人の古い宗教だ。」

梓「?」

唯「あべすた…」



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 04:08:17.36 ID:zP8LrVH4O

唯「…あべすた。」

唯は数分冊に分かれている、アヴェスターの一つを手に取る。

そのとき。

周辺の音が甲高く反響して、暗くなり明るくなる。

『双子。』

唯「え?」



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 04:12:22.11 ID:zP8LrVH4O

『時間は双子を孕んだ。』

唯「…」

『時間は双子を産んだ。』

唯「…」

『私はそれを見る。』

唯「…」

『私は双子のためにある。』
唯「…」

『私はやがて来る。』



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 04:15:01.75 ID:zP8LrVH4O

唯「…」

梓「せんぱい?」

唯「あうっ。」

梓「?」

店主「?」



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 04:22:13.69 ID:zP8LrVH4O

唯「あれ?」

梓「せんぱい…大丈夫ですか?」

店主「いやいや、あずさちゃん。馬鹿にしちゃいけない。」

店主「『本』との出会いなんてそんなもんだ。自分の世界を好奇心が突き破ってさ、

   その人を一瞬にして、どっかに連れてくんだよ。」

唯「一瞬?」



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 04:27:21.31 ID:zP8LrVH4O

店主「先輩さん?」

唯「ボケッ…」

梓「せんぱい!」

唯「うん?」



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 04:29:42.29 ID:zP8LrVH4O

店主「ほしいのかい、それさ。」

店主「あべすたー。」

唯「…」

唯「ほしい…かも。」

店主「…」



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 04:36:35.71 ID:zP8LrVH4O

店主「じゃ、一冊百円でいいさ、もってけな~!」

梓「え!?いいんですか!?」

店主「ああ。ついでにバンヴェニストの解説本もつけるぞ。」

梓「そんな…悪いですよ!」

店主「いいんだって!さっき言っただろ、本と人は…」

唯「…」


唯は譲ってもらった本を紙袋に入れてもらい、引きずるようにして家に持ち帰った。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 04:46:00.26 ID:zP8LrVH4O


唯はそれから貪るように読み始めた。

読み始めた?

後になって覚えれば、両親まで伝った『神の種』が発芽して、栄養を求めたような。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 04:51:29.89 ID:zP8LrVH4O

けれど、ギー太を愛でることも欠かさない。

アフラの王もデーウァの君も、音楽をもまた愛するから。



軽音部部室

唯「ふぁぁ…」

律「眠。」

澪「お前ら…」

和「唯たちの担任、私に直接文句言ってきたわよ…」

和「二人とも弛みすぎだって。」



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 05:00:15.47 ID:zP8LrVH4O

律「どぅわってもうすぐ夏休みなんだもーん!」

澪「律、講習受けないんだって?」

律「今年も遊び倒すぜ!」

澪「…」

唯「ふぁ…ぁ…」

ドサッ

和「!」

和「唯、最近よく読んでるわね、その図象の本。」

紬「図象?」



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 05:08:00.31 ID:zP8LrVH4O

紬の目に入ったのは、唯の読んでいる古い本の、
羽根(翅?)をもつ人間を象った一種のマーク。


紬(あれ?あのマーク…)

紬(…)

律「おいおい…ゆいちゃんまでお受験対策ですかぁ…」


唯「ん~?」ペラペラ…



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 05:13:33.51 ID:zP8LrVH4O

梓「ゾロアスター教の『きょうてん』だそうですよ。」

律「ゾロアスター教?なんだそれ?RPGに出てきそうな響き。」

澪「世界史でちらっと出てきたろ…」

梓「確かずっと昔に絶滅したとかって…」

和「あずさ、確かイランやインドにはまだ残ってたはずよ、いわゆる信者が。」



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 05:17:22.85 ID:zP8LrVH4O

梓「そうなんですか…」

律「じゃ、何か?唯もゾロアスター教徒になったってか?」

唯「うん。」ペラ…ペラ…

律「へ…」

梓「え…」



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 05:26:29.80 ID:zP8LrVH4O

唯「…」ペラ…ペラ…

律「えっと…私の又従兄弟がさあ…例の『しゅーきょー』に捕まって脱会させるのに…」

紬「日本人では一人もゾロアスター教徒はいないはずよ。」

紬「たしか、師資相伝ならぬ親子相伝で。基本的に異教徒が改宗するのは無理らしいわ。」



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 05:29:22.11 ID:zP8LrVH4O

和「紬、詳しいわね。」

紬「お父さんのお友達にインドの方がいらしてね、昔ちらっと…」

紬(…)

紬(それに、あのマーク…)

澪「唯は何かに夢中になると…つきっきりだからな。」

律「…唯よ、面白いんかそれ?」



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 05:33:12.61 ID:zP8LrVH4O

唯「面白いよ~。」ペラ…ペラ…

律「どんな内容なんだよそれ?」

唯「ん~?」

唯「せかい、かな。」

律「はあ?なんだその中二病的な…」



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 05:38:59.93 ID:zP8LrVH4O

唯「基本はザラシュストラの生き方と言葉、神様への『うた』だよ。」

律「ざ、ざら…なんだそれ…」

唯「ゾロアスターはザラシュストラとも読むんだって。
  昔のイランの言葉はわかんないからどう読むかしんないけど…」

唯「でも、言葉の後ろには神様がいるでしょ。」

律「…(こりゃ重症だ…)



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 05:47:21.17 ID:zP8LrVH4O

澪「ゾロアスターって予言者、だよな?」

梓「預言者?」

唯「『ふわるなふ』を受けた人の子として『しゅっぴたーま家』に生まれたひと。」

律「あの…ゆいさん?ふわるなふって…」



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 05:56:46.02 ID:zP8LrVH4O

唯「『ふわるなふ』は神様から溢れる光。
  キリストさんの頭に付いてるのとか天使の『わっか』、だよ。」ペラ…ペラ…

律「…」

澪「イエス・キリストまで出てくるのか、その本?」

唯「出てこないけど、お話の筋は少し似てるかな。」

澪「そ、そうなのか…」



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 06:06:12.62 ID:zP8LrVH4O

唯「『さおしゅやんと』っていう人が現れて、デーウァの君と、その配下を全て滅ぼして、」

唯「アフラの王が、『あむしゃすぷんた』、『やざだ』たちのもと、
  治める正しい世界が来るんだって。」

唯「『あむしゃすぷんた』も『やざだ』も天使みたいなものだよ。」



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 06:13:27.40 ID:zP8LrVH4O

和「いわゆる善と悪の戦いね。」

唯「うん。」

唯「『めーのーぐ(精神的なもの)』と『げーてーぐ(物質的なもの)』の。」

唯「けどね、間違って考えてるんだ、今のマズダー教徒は。」

唯「ザラシュストラもぺるしあ王の『まご(祭司)』たちの考え方も…みんな結構間違ってる。」



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 06:18:55.46 ID:zP8LrVH4O

唯「…」

唯は一瞬、哀しそうな顔をした。

和「どういうこと?」

唯「今日はおしまい!おしまい!アイス食べにいこ!」

律「プッ…それでこそ唯だな!」

和「そうね…。今日は私も一緒に行くわ。」

澪「はあ…」

紬「…」



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 06:24:11.90 ID:zP8LrVH4O

その夜、田井中家

律「ぷぅ…食べ過ぎた…」

聡「姉ちゃん!」

律「げふっ…なんだよ…」

聡「なんだよって…エヴァンゲリオンの劇場版のDVD見たがってたろ?
  今日借りてきたんだ。」
律「マジでか!?」



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 06:29:43.61 ID:zP8LrVH4O

律「よし見るか!いざ居間へ!」

聡「おう!」


画面の中でなされる、エヴァンゲリオンと使徒の戦い。人と人とのたたかい。


リツコ『MAGIが…』


律「まぎ?」

律「どっかで…」



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 06:37:42.47 ID:zP8LrVH4O

律「使徒…」

聡「みんな後ろに『~エル』がつくよね?」

律「ふ~ん…」

律「なんか…」

律(不思議な…)



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 06:43:38.98 ID:zP8LrVH4O

田井中姉弟がヱヴァンゲリヲンを見ているそのころ…

奈良県某所 琴吹家地所


紬「ありがとう、斉藤。」

車から降りる紬。

斉藤「いえ…」

斉藤「しかしお嬢様、なぜこのような場所に…」



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 06:54:06.02 ID:zP8LrVH4O

あたりは全くの野っ原。少し離れた所に小高い、奇妙に窪んだ小山がある。
ずっと昔の、有力者の墓だろうか?

紬はその小山に目を向ける。
紬「あれも御先祖様のお墓なのよね?」

斉藤「はい、ニニギノミコトから数えて三十…」

紬「ごめんなさい、それはいいわ。」



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 07:02:44.13 ID:zP8LrVH4O

墓に近付く紬。
近付くに従って悪寒を覚える。
それを御先祖に申し訳なく心中で許しを乞い、周囲に視界を凝らす。


その墓のまわりには奇妙な石像が多いのだ。

紬「お猿さん、鳥?ウサギ…蛙…台のような石。亀?たくさんあるわね。」

斉藤「この辺りにはとくに、猿石の類いが多ございます。」

紬「猿石…」




72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 07:08:04.66 ID:a9qFfDl6O

むぎってニニギの子孫なのか…





74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 07:19:15.08 ID:zP8LrVH4O

>>72
すまん、それは適当だ。ヤマサチ、ウミサチの祖父さんだから借用した。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 07:17:51.44 ID:zP8LrVH4O

斉藤「ヤマト…日本の文物から見て、異質なモノ共です。
   一説では渡来人や異国の教えに関係しているとか…」

紬「異国の教え…か。」

斉藤「道教や…それに、まこと怪しい由緒ですがケン教のものとも。」

紬「ケン教、拝火教ね。」

斉藤「今日日は、ゾロアスター教ともパールシーとも呼ばれております。」



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 07:29:16.43 ID:zP8LrVH4O

墳墓の前に立つ。
遠灯かりが紬の髪を微かに照らし、緩く輝く。

紬は、頭を垂れ手を合わせる。
後ろの斉藤も、それに倣う。
正面に向きなおると、紬は墳墓の横手にまわる。歩数で約二十歩。

紬「これね…」

紬の前には、すり鉢のような皿のような1m四方におさまる、半球をくりぬいた岩。



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 07:39:23.38 ID:zP8LrVH4O

その岩の前に立つ。

半球の円周は、紬の手前で十cmほど途切れ、そこから地面に段々状のものが伸びる。

斉藤「まことに奇怪な岩です。盃のようにも見えますが…
   『口』が空いておりますゆえ、そうではないでしょう。」


紬はその『盃』の反対側にまわる。

風雨と年月で朽ちつつあるが、そこには
浮き彫られた、羽根(翅?)をそなえた何か、の図表があった。



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 07:49:41.27 ID:zP8LrVH4O

紬「この図表…」

斉藤「羽根を持った何か、ですな。中央部分がひどく痛んでいますが…」

紬「ここに葬られている方の渾名は、確か…」

斉藤「『烏飼(からすかい)の臣』です。」

斉藤「これもまた奇妙な…」
斉藤「ハッ…御無礼を…」

紬「斉藤、いいのよ。」



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 07:56:33.25 ID:zP8LrVH4O

紬(ずっと昔に、お父さんやお母さんとお墓参りに来て…)

紬(その時、この標(しるし)を見つけて…)

紬(お父さんは、烏飼っていうぐらいだから烏の彫り物だろう、って言っていたけど…)


紬(唯ちゃんは確か…)


唯『それ?〈あふらの王〉をでほるめした形なんだって。』

紬「アフラの王、アフラ・マズダ…」



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 08:04:51.01 ID:zP8LrVH4O

同時刻 秋山家

自室でネットをする澪。

澪「ゾロアスター…」

澪「ふむふむ…」

澪「おそらくは紀元前六世紀ごろ…」

澪「スピタマ家に生まれウィーシュタースパ王の友となり…」

澪「いわゆるゾロアスター教の開祖、と言われる…」

澪「ふむふむ…」



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 08:07:08.97 ID:zP8LrVH4O

澪「光と闇か…」

澪「次の作詞に生かせるかも…」カチッカチッ…

澪「ふむ…」

澪「…」

澪「ミスラ?」



86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 08:15:53.61 ID:zP8LrVH4O

澪「ヤザダの一柱…」

澪「唯が言ってたな、ヤザダは『天使』だって…」

澪「ヤザダはゾロアスター教における下位の神格…」

澪「ただし、ミスラの同教における地位は比較的高い…」
澪「ミスラはもともとアーリヤ人の神格であって…
  古くはヴェーダやヒッタイトの碑文にもあらわれ…」

澪「弥勒菩薩の原型で、古代ローマ時代には『ミトラ』として
  キリスト教と二分するほど教勢があり…」



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 08:22:10.61 ID:zP8LrVH4O

澪「戦いと調停と光の神…」

澪「一言でいえば契約を司る神…」

もともと文芸部を志望していただけあって、
神秘性や秘教性を含んだネタに引き寄せられるタチである。

澪「アテネとかミネルバみたいな…」



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 08:26:50.55 ID:zP8LrVH4O

律がその場にいたら、

『さすがナイスばでぃのビーナス様は…』

と馬鹿にしていただろう。

澪「ふむふむ…」カチッ

しかし。

〈次へ〉をクリックした後、澪の目に飛びこんできたのは、



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 08:34:06.55 ID:zP8LrVH4O

ゴヤの『我が子を喰らうサトルヌス』であった。


澪「ヒイッ…!!」

ギョロ目の巨人が人型を半分ほど喰らい、血潮とともに口からぶら下げている絵だ。


サトルヌス、つまりクロノスは自分の子が己を凌ぐことを恐れ、
それがために食らう、という神話を題材にしている。



92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 08:40:34.83 ID:zP8LrVH4O

澪「う…ぅ…」

この手のモノが酷く嫌いな澪にとっては、まったくもって精神的ブラクラである。

とはいえ、椅子から飛び退きたいのだが、体が言うことを聞かない。

澪「う…うぅ…ぅぅぅ」

それに、視線を逸らしたいはずなのに、なぜか、逸らせない。



111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 13:52:42.61 ID:zP8LrVH4O

澪は画像横にある解説文を読む。

澪「く、クロノスは…『時間』に…まつわる神で…」

澪「ゼウス…以下…主要なオリュンポス諸神…の親神…です…」

澪「ゾロアスターの…宗教のにも…比較的に後の教えですが…」

澪「時間に…まつわる…親神が…あらわれます…」

澪「『ズルワーン』と…呼ばれる…その神は…」


澪「ズルワーン…」



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 14:02:54.78 ID:zP8LrVH4O

澪「イスカンダル…大王の東征のころには…その存在が確立されており…」

震えや恐怖はいつの間にか止み、解説文を読み下る澪。

澪「イスカンダル大王…?」
澪「検索っと…」

澪「ヤマト…沖田……違う…」

澪「アレキサンドロスⅢ世大王…中東では『イスカンダルと』呼ばれ…」

澪「ふむ…」



116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 14:13:17.07 ID:zP8LrVH4O

澪「ズルワーン神のゾロアスター教における詳細な位置は、実際のところ、よく分かっていません。」

澪「というのは、ゾロアスター教自体がその時期や、
  おそらくは場所によっても、性格を異にするからです。」

澪「原始仏教と現代日本の仏教諸派が全く異なるように…」

澪「ザラシュストラのころ、イスカンダル大王のころ、
  ローマのネロ帝と同時代、そしてムハンマドと同時代とでは…」

澪「違った様相が展開されます。」

澪「さて、このズルワーン…」



118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 14:21:09.29 ID:zP8LrVH4O

澪「ズルワーンの属性として確実なのは…」

澪「原初の時間と関係しているということ…」

澪「それと…」

澪「『双子神』の親神であるといことです。」

澪「『双子神』…」

澪「アフラマズダーまたはオフルミズド、アーリマンまたはアンラ・マンユの…」

澪「親神であります…」




121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 14:25:11.99 ID:N4x/qpYi0

現存する世界最古の一神教だっけ?



122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 14:27:22.89 ID:6DVWuswdP

>>121
そう認識されがちだけど、実情は一神教じゃないよね
神々が複数出てくるし



124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 14:29:22.53 ID:N4x/qpYi0

>>122
霊的存在が複数いても一つの神様を信仰するなら一神教じゃないの?





125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 14:41:10.23 ID:zP8LrVH4O

澪「ここで、なぜ私がゴヤの絵をこのページに掲載したかのか…少し解説します…」

澪「この絵はギリシア・ローマの神話をモチーフにしていますが…」

澪「サトルヌスとクロノスはもともと、別別の神格です。」

澪「サトルヌスは、ローマと、
  そしてもともとはエトルリアにおける農耕にまつわる神です。」



126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 14:46:56.85 ID:zP8LrVH4O

澪「エトルリア人はその神話のなかで、自民族の神々と
  ギリシアの神々を結び付けて考えるようになりました。」

澪「ネプテューンとポセイドン、など同じように…」

澪「サトルヌスとクロノスもそうです。」


澪「さて、この絵は先ほどの通り、
  ギリシア神話的にはクロノスの我が子喰い、と解釈できます。」



127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 14:53:27.05 ID:zP8LrVH4O

澪「しかし、これを原初的な意味から考えてみると…」

澪「再生と消滅の輪です。」
澪「サトルヌスは我が子を生み、喰らい、また生み、また喰らい…そしてまた生み…」

澪「農耕のサイクル、そして何よりも、自然と宇宙のサイクルを模しています。」

澪「そして、ゾロアスター教の教えにはこれと対照的な、そして見様によっては類似の、考え方があります。」

澪「『フラショ・クルティ』です…」


ここで秋山家の全電源と灯かりが落ちる。
一瞬にして真っ暗闇に。


澪「ヒィィィァァァ!!!」



131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 15:01:02.17 ID:zP8LrVH4O

澪ママ「ごめんごめん!」

澪ママ「冷房つけたままでホットプレートの電源入れちゃった♪」

階下から母親の声がする。

澪「プル…プル…」

澪「ママぁぁぁーー!!」



澪の頭の中には、『フラショ・クルティ』という言葉が引っ掛かかっていた。




フラショ・クルティ(フラショーカル)とも
参考:ペルシア神話辞典





132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 15:05:46.10 ID:zP8LrVH4O

平沢家の居間、夕飯時


唯「モグモグ…」ペラ…

憂「…」

唯「モグ…」ペラ…

憂「…」

唯「モグ…モグ…」ペラ…

憂「おねえちゃん!!」



133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 15:17:24.91 ID:zP8LrVH4O

唯「ん~?」ペラ…

憂「お行儀悪いよ!!」

憂「昨日だって一昨日だってその前だって…」

憂「ご飯食べてる時は食べるのに集中してっ!!」



134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 15:20:27.98 ID:zP8LrVH4O

憂(それにさ…最近ずっと…その本に構いっきりじゃない…)

結局、怒りの大もとはシス魂(こん)由来である。

唯「分かったよ~モグモグ…」ペラ…

憂「プルプル…」

憂のボルテージが飛躍的に上昇する。
珍しいことだ。



137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 15:28:03.44 ID:zP8LrVH4O

憂「おねえちゃん!!」

テーブルを思いっきり叩く憂。

その衝撃で、烏賊の塩辛を盛ってある小皿が倒れ、
中身の一部が唯のアヴェスターにかかってしまう。

唯「ああぁぁぁーーー!!?」

憂「!?」

憂「ご…ごめん…!」



138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 15:35:52.41 ID:zP8LrVH4O

開いているアヴェスターの、右側のページに、肌色の液体と烏賊の切り身が点々とつく。

唯「あ…あぅあぅ…」

憂「ご…めん…」

涙目になる憂。
小さい頃の思い出―唯のおもちゃを誤って壊してしまった―が頭をかすめる。



140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 15:46:50.56 ID:zP8LrVH4O

塩辛がかかったページには、文章でなく絵が描かれている。
あご髭を持つ男性が、トカゲのような竜のような、
爬虫類のような何かを踏付けている絵だ。

髭の男性は長いゆったりとしたローブを着込み、背中に光背と羽根(翅?)を有している。

爬虫類のような何かは、苦悶の表情を浮かべながら、
その目に憎悪をたたえて本の外界を睨みつけている。


憂「ごめんなさい…」

一層、シュン、とする憂。



141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 15:53:00.31 ID:zP8LrVH4O

唯「…」

憂「おねえ…ちゃん…」

唯「ま…」

憂「『ま…』?」

唯「…あ、いいや。読めなくなったわけじゃないし~」

憂「えっ…」

大雑把というか、無頓着というか、大度量というか…



142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 16:03:27.03 ID:zP8LrVH4O

唯「ティッシュで軽く吹いて…」

唯「ぽぽいのぽいっ…と。」
憂「…怒ってない?」

唯「ぜーんぜん。『あべすた』に夢中だった私も悪いし。」

憂(よかった…)

ご存じの通り、憂がこの世でもっとも恐れるのは、愛姉に嫌われることである。



143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 16:10:09.35 ID:zP8LrVH4O

唯「一区切りだから、ご飯食べ終わったらおフロ入ろっと。」

唯「久しぶりに憂も一緒に入る?」

憂「!」

憂「うん!」


唯のアヴェスターからは、烏賊の醗酵臭とともに、
微かに、それ以外のにおいが発せられていた。



145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 16:17:40.61 ID:zP8LrVH4O

先ほどの平沢家の一件から二時間後

中野家、居間


梓父「あずさ、お母さんから氷のおかわりもらって来てくれ。」

梓「うん!」

梓の父が同年代の男性と透明な酒を飲んでいる。
この間の古本屋の店主だ。

店主「ごめん、あずさちゃん、水もお願い!」

梓「はいっ♪」



146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 16:24:04.20 ID:zP8LrVH4O

店主「泡盛は薄めて飲みなさいよ!割ってさ!」

梓の父「先輩と違って、生(き)を味わいたいんですよ♪」

店主「肝臓にも胃にも悪いっんだよ!」

梓「はい、氷、とお水です♪」

梓は、部室や学校ではあまり見せない、人懐っこい表情を浮かべている。



148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 16:30:49.95 ID:zP8LrVH4O

店主「ありがとね、あずさちゃん!」

店主「…っと、お前は本屋一つしかないオレと違って、奥さんと梓ちゃんがいるんだから!」

梓の父「本屋一つだけって…」

梓の父「そういえば、この間も、梓の部活の…唯ちゃんだっけか、あの子に…」

梓の父「…高価な本を何冊も、タダ同然で大判振る舞いしたらしいじゃないですか?」



150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 16:36:03.86 ID:zP8LrVH4O

店主「いいんだって、読みたい人間が読みたい本を読めばさ。楽器と同じさね。」

店主「それに、何千冊もあるうちの、ほんの少しだ。」


そういうと古本屋の店主は、傍らに置いてある紙袋から何冊かの古書をとりだす。

店主「あずさちゃん、これもあのお嬢ちゃんにあげてやってくれ!」



151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 16:45:54.31 ID:zP8LrVH4O

梓「!」

梓の父「はぁぁ…先輩…」

梓「小父さん!これ以上はホントに悪いですから!」

唯先輩を甘やかすと…、と続けたくなる梓。

店主「いーからいーから!」

こういうタイプの人間は、自分の気に入った相手へ
モノを贈り与えることに矜持を持っているようだ。



154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 17:13:48.66 ID:zP8LrVH4O

店主が差し出した本は、日焼けが目立つのが二冊、真新しいのが一冊、計三冊。

梓「『ブンダヒシュン』、『ミスラ讃歌』…」

古いほう二冊の背表紙を読み上げる梓。


店主「『ブンダヒシュン』はイスラム教が今のイランを覆った時代のもんで
   ゾロアスター教の創造神話が書かれてる。」

店主「『ミスラ讃歌』はミスラに捧げられた『うた』を集めたもんだよ。」



157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 17:24:53.79 ID:zP8LrVH4O

真新しいほうの名前も読み上げる

梓「『アーリマン讃歌』?」

店主「それは眉唾もんだよ。イラン各地でここ最近発見された碑文や石碑を元にしてるらしいけど…」

店主「悪神アーリマンに捧げられた『うた』らしい。」



159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 17:36:04.93 ID:zP8LrVH4O

店主「『らしい』ってのは、どうも捏造されたモノみたいなんだよな、その内容。」

店主「まあ、珍しいもんだから、一応ね!」

梓は『アーリマン讃歌』を手に取る。

見開き部分には、トカゲのような竜のような、爬虫類のような何かが
涙を流しながら、本の外界を無意思の瞳で見つめている。
次に数ページ捲ってみる。

そこはちょうど、アーリマンと腐敗の神秘について謳われた箇所だ。



161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 17:44:44.23 ID:zP8LrVH4O

梓父「アーリマンですか…昔、大学の講義で聞いたことがありますね。」

店主「キリスト教でいう、サタンみたいなもんだ。
   まあ、堕天使じゃなくて、主神アフラマズダーの兄弟神なんだが…」

店主「学者さんの弁だと、イスラム教以前のイランには
   アーリマンを奉ずる一派もいたらしいんだと。」



162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 17:52:29.43 ID:zP8LrVH4O

梓父「いわゆる悪魔崇拝みたいな?」

店主「今の俺らの感覚からすればな。
   もっともさ、昔のイラン人の宗教感覚なんて全くわからんだろ?」

店主「なんともいえんさ。」
店主「とにかく、その本は、アーリマンを奉ずる一派が残した文書を集積したもの、」

店主「ということなってるわけ。」



163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 18:03:20.65 ID:zP8LrVH4O

梓は読め進める。
次の讃歌は、アーリマンと老いについて謳われた部分だ。

その内容は、自然の移り変わりと老いの意味について書かれている。
率直で醜悪な表現も目立つ。
はたして、これも唯に渡していいものか、と梓は考えてしまう。



165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 18:07:20.69 ID:zP8LrVH4O

店主「おっと、もうすぐ日が替わりそうじゃないか。」

店主「そろそろ、お暇するわ。」

梓父「せっかくだから泊まっていって下さいよ!」

店主「いいっていいって!」

店主「あ、あずさちゃん、その本お願いね。」



そして、また、平沢家。



166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 18:13:15.83 ID:zP8LrVH4O

唯は夢を見ている。
これは唯本人にも分かっている。

まわりは全くの真っ白。
色がない。

そして目の前には、七色に輝く竜のような、大きな生き物が、
長い首をもたげて、大きな、少し細長い目で、唯を見つめている。

唯はパシャマを来たまま、正面の竜と向き合っている。



168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 18:21:46.86 ID:zP8LrVH4O

竜のような生き物は、長い首と、少し寸胴な胴体を持ち、
視界の端にはヒョロッとした、長い尾がある。
瞳の色は、その輝きのため窺い知れない。

竜の胴体はぷっくりと膨れて、まるで臨月間近の妊婦のよう。


そして竜の傍らには、光りを放つ人型があった。
背中に羽根(翅?)のようなものを生やして、
ローブのような物を羽織っている、ように見える。
あまりにも発する輝きが強く眩しく、それ以上は判別できない。


『わたしは…』

竜が突然、声をあげる。



170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 18:25:44.45 ID:zP8LrVH4O

『ズルワン。』

『供物、いたみいる。』


竜は長い首を、一層、唯に近付ける。

輝く人型のほうは黙ったまま。しかし、視線は感じる。


『これは、我が子。』

竜は、輝く人型を、我が子、といった。



172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 18:28:21.10 ID:zP8LrVH4O

『さて、ユイ。』


『お前は何を望む?』


『なんなりと言え。』


竜は唯に問う。

唯は答えない。

かわりに、輝く人型へ顔を向ける。



174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 18:34:11.38 ID:zP8LrVH4O

唯は、人型を指さす。

そして呟いた。

唯『ドゥルジ。』

ドゥルジ(虚偽)と。


その瞬間、まわりの白が解け始める。

白はどんどん溶けて黒が現れる。



177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 18:48:25.26 ID:zP8LrVH4O

全くの暗闇になる。

『戯れだ。』

竜はそう発した。
大変低く、不快なほど湿って響き渡るようは声。

その瞬間に竜の体が腐り始める。

膨れていた胎(はら)も無くなっている。

高速度写真の映像を見ているようだ。

骨と腐肉にまみれると、竜は朽ちるのを止めた。いや、今でもゆっくりと朽ちているのだ。
時折どす黒い血だまりを作って、腐肉が崩れ落ちる。

暗闇でよく見えないはずなのに?



179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 19:06:28.10 ID:zP8LrVH4O

唯『デーウァの君。』

『いかにも。ダエーワを統べている。…いや、デーウァを統べている。』

『お前の言葉に則ろう。』

竜は瞳の無くなった、ぽっかりと穴の空いた目で、唯に頭を近付け、唯を見つめる。

竜が近付くほど、その腐臭は強くなる。

唯は少し顔をしかめる。

そのとき、耳に酷く障る哄笑が響き渡った。



181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 19:19:45.98 ID:zP8LrVH4O

ドゥルジと呼ばれた人型が笑い声をあげているのだ。

すでに光りを失っており、のっぺりとした白色をしている。

本当に大きな紙で作った人型のようだ。

唯が人型のほうに視線を向けると、哄笑は一層大きくなり。人型の形が歪む。
そしてその刹那、見るもおぞましい人型の生き物に姿を変えた。



185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 19:24:45.78 ID:zP8LrVH4O

大きさは小学校低学年の児童ぐらい。
そのかたちは、一言でいえば、単眼症の赤ん坊が成長したような、
そんなかたちをしている。


ゆえに、顔の真ん中には大きな一つ目と、その下にほんのわずかの鼻、裂けた口。
その口内から笑い声が聞こえてくる。
腕は二本だが足は一本。
体色は気持ちの悪いほど血の気の全くない白。死人のそれだ。

メソポタミア神話のフンババにも似ている。



189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 19:40:23.39 ID:zP8LrVH4O

『我が子だ。』

朽ちつつある竜、アーリマンはかしらを人型に向けて、そう言う。

唯『あむしゃすぷんたと争う六柱の君の一柱、ドゥルジ。嘘を統べる君。』

ドゥルジ『フフ…ハハ…いかーにもっフフフ…フハッ…フッハハハハハハハ!!』



190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 19:47:55.61 ID:zP8LrVH4O

一つ目の人型が声を発する。
男子児童の声とも、女子児童の声とも、甲高い老人の声ともとれる、不快な音だ。

ドゥルジが声を発し終えたあと、
アーリマンのまわりの暗闇から五つの物体があらわれる。
あるものは爬虫類と人が融合したかたちをし、地を這い、
あるものはどす黒い血塗れの肉塊として空中に浮かんでいる。

あるものは…

そのような醜悪なかたちをした物体が五柱、ドゥルジと合わせて六柱。



193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 19:58:12.84 ID:zP8LrVH4O

『我が子たちだ。』

竜はそういう。

『わたしは、ユイ、お前が気に入った。』

ドゥルジ『うそだうそっ!ヒヒッ…ヒーヒッヒハハハハ!!』

おぞましい笑みを浮かべた後、ドゥルジは口を挟む。



195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 20:02:48.56 ID:zP8LrVH4O

アーリマンは続ける。

『お前は麗しい。身も心も。』

アーリマンがそう言った後、突然、先ほどの肉塊のような物体から声が発せられる。

『げに…眩しい…げに…ウォフと争うた…時のよう…』



196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 20:07:49.09 ID:zP8LrVH4O

唯『アカ・マナフ、あむしゃすぷんたが一柱ウォフ・マナフと争う、悪思を統べる君。』

唯は肉塊を指して、そう言う。

アカ・マナフ『いかにも。』
肉塊は答える。

アカ・マナフ『ダエーワの主よ、眩しいからこそ…染め甲斐があるというもの。』

『その通り。』

アーリマンは答える。



198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 20:12:11.69 ID:zP8LrVH4O

『ユイ、お前は麗しい。』

『ゆえにだ、わたしは悲しみ、また喜ぶ。』

そういうと、アーリマンは突然涙を流し始める。腐敗液と涙の混じったものが滴りおちる。

『麗しきものが老い、また朽ちるのは、わたしの喜びであり、悲しみなのだ。』



199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 20:19:28.81 ID:zP8LrVH4O

アーリマンは言う。

『これからはお前は…』

『些細なことで、お前と同じイマの末どもと争い…』

『男と契りその子を孕み…』
『より多く、またイマの末どもと争う…』

『最後の一息をはきだすその日までだ。』

そのとき、アーリマンの右側を這う、爬虫類と人型が混ざった物体が口を挟む。

『失うべくされた幸福を追ってなんになろうか?』



202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 20:29:31.72 ID:zP8LrVH4O

すると、爬虫類と人型の物体から別の声が発せられる。

『熱いぞ…苦しみとは灼熱の炎で炙られるよう。』

爬虫類の部分から突然、亀のような頭が現れ、そう口を挟む。

爬虫類と人型が混じったような物体は、
実際は二柱のダエーワが共生している姿だったのだ。



204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 20:34:32.11 ID:zP8LrVH4O

唯は人型のほうを指して、

『ザリチュ、渇きを司る君。』

ザリチュ『いかにも。』

続いて爬虫類のほうを指して、

『タルウィ、熱を司る君。』
タルウィ『いかにも。』



208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 20:48:30.56 ID:zP8LrVH4O

『もう一度言おう。』

アーリマンが再び話し始める。

『ユイ、わたしは、お前が気に入った。』

『今の世はグメーズィシュン(混合)の世。』

唯『めーのーぐ(精神、天上)、と…げーてーぐ(物質、地上)…の?』

『いかにも。』



210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 20:52:13.40 ID:zP8LrVH4O

『かつて、わたしのみで…世界を統べていた日々が懐かしい。』

『だが今は、我が〈はらから〉と勢を分けている。』

唯『アフラの王と?』

『いかにも。』



212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 20:57:24.55 ID:zP8LrVH4O

『しかし、混合の世のほうがより麗しい。』

『お前は、マズダーか私かを選ぶ自由がある。』

『両方ともを選ぶ自由もある。我が〈はらから〉は承知しないだろうが。』

『また、私とマズダーとも拒絶する路もある。』



214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 21:02:53.11 ID:zP8LrVH4O

そう言うと、アーリマンは口をつぐんだ。

唯は何も答えない。

アーリマンは数回瞬きをした後、その細く、極めて長い尾を弛ませた。

そして竜は、尾を唯のからだへ、ゆっくりと伸ばす。



217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 21:08:14.47 ID:zP8LrVH4O

唯の体のまわりを螺旋状に、竜の尾が絡み付く。

唯は無表情のまま動かない。
絡み付いた尾が、また弛んだ後、一気に緊張し、唯の体に直接触れる。

唯の体に尾が触れた瞬間、唯の身に着けているものは、全て消滅してしまう。

全裸になっても、唯は表情を変えない。



221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 21:16:04.41 ID:zP8LrVH4O

形の良い小振りな胸を、

胸にある二つの印を、

小さく可愛らしいへそを、

女性器の入り口の上にある小丘を、

適度に張り出した尻を、

竜の尾が這う。

『麗しい。』

アーリマンは目を細める。

赤黒く腐り、所所骨の見える尾と、血色の良く張りのある唯の体は、
まことに対照的。



223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 21:23:13.18 ID:zP8LrVH4O

その時である。突然、唯の体に、暗く影のような人型がまとわりつく。

舌や男性器のようなものが、人型から無数に伸び始める。
その中の一つは、唯の女性器の入り口に、その先をあてがい、そして、一瞬弛む。

唯は表情を変えない。



225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 21:27:52.26 ID:zP8LrVH4O

『ひかえよ。』

アーリマンが感情を込めぬ声で言う。

アーリマンの声に反応して、人型はすぐさま唯の体から離れ、
空中で球形のかたちをとる。

唯はその球を指して言う。

『サウルウァ、酩酊を司る君。』

サウルウァ『いかにも。くちおしや…』



228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 21:39:11.86 ID:zP8LrVH4O

アーリマンはまた数回瞬きをすると、ゆっくりとその尾を唯の体から取り払い、
みずからの背後に控えさせた。

それとともに、唯は再び下着とパジャマに包まれる。

『ユイよ、わたしはお前が気に入った。』

アーリマンは、もう何度目かの、その言葉を繰り返す。

『決するのはいつでもよい。
 サオシュヤントが我が体を、まさに傷つけんとする、その時でも構わぬ。』


パチッ…



229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 21:45:05.10 ID:zP8LrVH4O

『ユイよ、わたしはお前が気に入っている。』

『弦を奏で、歌を謳ってくれ。』

『わたしのために。』


パチパチッ…


ベッドの上で瞬きをする唯。

唯「ゆめ、だった…の?」

唯「デーウァ…ううん、ダエーワの主が…」

ベッドから上半身を起す唯。



233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 21:50:51.31 ID:zP8LrVH4O

枕元を見る唯。

アヴェスターが無造作に開かれている。

塩辛をこぼしてしまったあのページだ。

翅を有する人物が竜を、アフラマズダーがアーリマンを踏み付けている絵である。

夢に出てきたアーリマンは、絵のそれと非常に似ているが、
全く同一というわけでもない。



234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 21:58:37.92 ID:zP8LrVH4O

唯「なんなんだろ…」

唯「ダエーワの主、ホントに哀しそうな表情してた…」

穴の空いた目を持つ、アーリマンの顔を思いだす。

唯「…」

唯「とりあえずもう一眠り♪」

唯はまた、眠りにつく。

唯は先ほどの絵が微かに変わっていたことには気付かなかった。
アーリマンの目から涙が流れていることに。



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唯「ゾロアスター教徒になるよ!」#1
[ 2011/07/02 07:57 ] 宗教 | ゾロアスター教 | CM(0)

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