SS保存場所(けいおん!) TOP  >  宗教 >  唯「ゾロアスター教徒になるよ!」#2

お知らせ

SS保存場所は移転しました。
現在けいおん!関連の更新はしていません。
今後更新するかは未定です。
SS保存場所






唯「ゾロアスター教徒になるよ!」#2 【宗教】


http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1248027293/

唯「ゾロアスター教徒になるよ!」#1
唯「ゾロアスター教徒になるよ!」#2
唯「ゾロアスター教徒になるよ!」#3
唯「ゾロアスター教徒になるよ!」#4




236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 22:04:20.64 ID:zP8LrVH4O

翌日 軽音部部室

唯「zzz…」

律「あちぃ…」パタパタ…

梓「イライラ…」

澪「はぁ…」

紬「ボケーッ」





243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 22:51:37.66 ID:zP8LrVH4O

梓「唯先輩!律先輩!それに…ムギ先輩までっ!!」

唯「ふぁっ…」

律「へ?」

紬「ボケー」

澪「ハァ…」



248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 22:56:50.28 ID:zP8LrVH4O

梓「あーいったい何度目に…もうすぐ合宿も…」

唯「あっ練習か!」

唯「やろうやろう!」

梓「えっと…」

唯「練習するんでしょ?やろうよぉ♪」

澪(天然の王道だな…)



249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 23:03:45.68 ID:zP8LrVH4O

ぎゅぎゃいいーーーん♪

唯「うん!ギー太も絶好調だね!」

律「かぁ~…。気合い入れますか~!」

梓(さっきのでモチベーション下がっちゃった…)

澪「よし!じゃあ…」



253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 23:13:43.30 ID:zP8LrVH4O

澪「…」

紬「ボケー」

澪「むぎぃ…」

紬「ハッ…」

紬「ご、ごめんなさい…」

澪「お前まで…ほんとに…」



258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 23:39:28.52 ID:zP8LrVH4O

唯「じゃあ…いっくよー!」
律「おう!」

澪「ふぅ…」

梓「よし…」

紬「…」

唯「すぅ…はぁ…」

唯(…)

唯(ダエーワの主に。)

唯「ギー太に首ったけ!」



260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/20(月) 23:54:01.98 ID:zP8LrVH4O

軽音部部室前の廊下

さわ子「あの子たち、練習してるみたいですわ。」

校長「…」

桜高の校長は無口な男だ。細長い面立ちに眼鏡、頭髪は白髪。
けれど、その口端はわずかに緩んでいる。

小市民や善人といった言葉がよく似合う男だ。



264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 00:09:48.07 ID:z51nta+UO

さわ子「校長先生が見学なされるのなら、あの子たちも、今以上に熱が入りますよ。」
校長「…」

校長の口端はさらに緩む。

さわ子「ん、あら?」

さわ子は聞こえてくるメインギターと歌声に違和感を覚える。

おかしなビブラートがかかっている。
耳が良い、音楽をよく知った人間が集中しなければ、気付かないだろう。



269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 00:26:29.02 ID:z51nta+UO

微かに調和を乱すようなビブラート。

さわ子(f分の…あの揺らぎでは…ないわね…)

調和が崩れるわけではない。
さわ子(良い気分、少しずつ気分が高揚するわ…)

このわずかな乱れは、聞くものを惹き付ける。


アルコールや好きな菓子を『もうちょっとだけ…』、と欲求に負けて摘まんでしまう。
そんな感じだ、後をひくような。



272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 00:37:11.37 ID:z51nta+UO

校長「…」

よく見ると、校長の後ろ手の指が、楽曲にあわせて小刻みにうごいている。

さわ子(校長先生も楽しんでらっしゃる…)

さわ子(唯ちゃんて、やっぱり天才肌なのかしら?)

さわ子はそれ以上考えなかった。



277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 00:53:39.47 ID:z51nta+UO

ぎゅぎゅーー…ジャン!

唯「よぉっし♪」

梓(すごく…良かった…!)

澪「なんか…軽音部史上で一番良い出来だよ!」

律「…」

律は何もしゃべらず、潤んだ瞳で仲間たちを見やっている。
気分が高まっているのが傍目にもわかる。

紬(…)

紬は静かだった。



280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 01:11:55.60 ID:z51nta+UO

紬も、あの高揚感に触れたが、流されることはなかった。
高揚感とともに、体中を小さな虫が這うような、嫌な疼きを覚えたのだ。

その疼きに意識を集中すると、高揚感は全く無くなった。
同時に疼きも無くなった。


紬(どういう…こと?)



285 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 01:35:25.58 ID:z51nta+UO

さわ子「お邪魔するわよっ!」

唯「あー!さわちゃん!」

校長「…」

唯「…と校長先生!?」

一瞬部室の空気が緊張する。温厚なオジさんだとて、校長は校長だ。

校長は無言で唯に近付くと、両手を優しく唯の両肩に乗せ、
ゆっくりと何度も頷きかける。目の端には、じんわりと涙が滲んでいる。



287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 01:54:45.46 ID:z51nta+UO

さわ子「すっごくうまかったわよ!!」

さわ子も幾分、興奮気味だ。

梓「やればできるんですよ!先輩たちは!!」

梓は唯たちに向かって、かなり失礼な言葉を口走る。

梓(軽音部に入って良かった♪)



289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 02:12:34.42 ID:z51nta+UO

律「う~…よいしょっと!」

律は気持ち良さそうに、伸び、をしている。

紬「…」

澪「ムギ?」

澪が紬の様子に気付く。

澪「どうしたんだ?考え事か?」



291 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 02:23:27.09 ID:z51nta+UO

澪「どうしたんだ?考え事か?」

紬「えっと…」

紬はどう答えてよいか躊躇し、適当な話題で誤魔化した。
紬「一週間後、合宿でしょ、その事をね…」

律「合宿か~!聡も喜んでたぞ!みんなと一緒に行けるから!」



294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 02:31:41.41 ID:z51nta+UO

唯「憂も和ちゃんも楽しみにしてるよ!」

唯も話題に加わる。

紬は、憂、和、聡を誘ったことを思いだした。

紬「あんまり期待しないでね…」

紬は、校長が誘って欲しげに視線を向けてくるのが分かったが、
敢えて気にしないことにした。




295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 02:33:32.82 ID:8LIBgMwQ0

>>294
校長w





296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 02:44:02.51 ID:z51nta+UO

澪「で、今回はどこの別荘になるんだ?」

紬は、まだ行き先を決めていなかった。

合宿やお泊まりの場所で、琴吹家の別荘を借りる際には、
行き先の最終的な選定を紬に委ねることが恒例となっている。

先日、久しぶりに先祖の墳墓に参ったことを思いだす。
あの辺りの、のどかで、そして好奇心をくすぐる風景と文物。

紬「奈良の…明日香村よ。」
紬は、そう答えた。



299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 02:48:56.79 ID:z51nta+UO

さわ子「へぇ…それはまた…情緒あふれるような…おいしい地酒が…ジュルリ」

律(校長センセの前で、よくそんなこと口走れるよな…)

梓「先輩!先生!合宿はですね…」




一方で、唯達の様子を伺っている『眼』があった。



300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 02:59:21.84 ID:z51nta+UO

ギー太が光を反射すると、その『眼』はギー太のボディに、ほんの一瞬映り込む。

あまりにも短い時間なため、人間の視力で捉えることは出来ないだろう。


文字通り、眼だけであった。
ギー太を仮宿としているようだ。



304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 03:11:27.62 ID:z51nta+UO

対ではなく、一つだけ。

けれど唯が、この『眼』を見ることができたとしたら、思いだすかもしれない。

なぜならこの『眼』は、あの夢の中、朽ちつつある竜、アーリマンの背後で
一部始終を見ていた『眼』なのだから。



306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 03:25:21.83 ID:z51nta+UO

合宿の前日

奈良県某市 琴吹家傘下の博物館


紬は、合宿の準備があるからと、唯達と別に、一足先に奈良に入っていた。

この博物館を訪れるためである。

館長「紬お嬢さん、いらっしゃいませ。」

入り口の手前で、館長が紬に慇懃に頭を下げる。側の学芸員や事務員もそれに倣う。
紬も深々と頭を下げる。



307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 03:39:08.79 ID:z51nta+UO

紬と斉藤は館内に入る。

紬「それで館長さん、お願いしておいた…」

館長「はい、こちらです。」
展示室内を通り抜けて、一行は作業所のような場所に入る。

作業所の中は、幾つかの長机と椅子、用途不明の器材がおいてある。

館長は一番奥の長机の端に、紬たちを案内する。



310 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 03:53:13.47 ID:z51nta+UO

長机の上には30cm四方、高さ10cmぐらいの箱が置かれている。

館長は白手とマスクをつける。
年配の女性事務員が紬と斉藤にも同じものを手渡す。

館長は箱の蓋を取り去る。

中にもびっしりと和紙が詰められていた。

館長は、和紙も取り去る。
すると、布で包まれた何かが現れる。



313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 04:09:20.67 ID:z51nta+UO

館長は布をゆっくりと回転させるように剥いでいく。

段々と中身が見えてくる。

布に包まれていたのは『錠(じょう)』であった。

縦十五cm横三cmほどの細長いものである。



315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 04:32:29.91 ID:z51nta+UO

うっすらと黒がかった銅色で鈍い光沢がある。おそらく青銅製だろう。

斉藤は紬を見やる。

紬は驚きで目を見開いている。

錠の胴体の部分が、左右に翅を有する円を象ったものだったからだ。

アフラマズダーの翅とほとんど同じ形。



316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 04:44:23.90 ID:z51nta+UO

館長「電話で説明させて頂いたとおり、
   この錠はアフラマズダーのシンボルとほぼ同じ形です。」

紬「真ん中の円のようなものは?」

館長「日輪を具象化したものです。」

斉藤「すみません…」

斉藤が館長に質問する。

斉藤「錠であれば、鍵とセットになっているのでは…?」
館長「そのはずですが…」

館長「残念なことに、鍵については、どうであったか…
   全く由来が伝わっていないのです。」



317 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 04:53:49.55 ID:z51nta+UO

紬は祖先の墓から帰ったあとも、あの標と半円の石造物が気になって仕方なかった。

そのため父親の許しを得て、琴吹家由来の文物を保管してもいる、
この博物館に問合せを行ったのだ。

翅を有する標を持つ、もしくはケン教由来の文物がないかと。



318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 04:59:55.62 ID:z51nta+UO

紬「この『錠』は…どういった由来のものなのですか?」

館長「ササン朝ペルシア、をご存じでしょうか?」

紬は世界史の授業を思いだす。

紬(パルティアを滅ぼして建国した、ペルシア人の国で、
大化の改新と同じぐらいの時に、イスラム勢力に滅ぼされた…)



319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 05:03:56.53 ID:z51nta+UO

紬「はい、世界史の授業レベルですけれど…」

館長「十分です。」

館長「その錠は、ササン朝の大王専用の祠堂を閉じていたもの…」

館長「…という由来で伝わっているものです。」



320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 05:12:36.55 ID:z51nta+UO

斉藤「大王専用の祠堂?」

館長「大王がアフラマズダーに祈りを捧げる場所です。」

館長「詳しく話しますと…」
館長「ササン朝最後の大王は、イスラム勢力との戦いの最中、殺されてしまいます。」

館長「そして、大王の祠堂は、ムスリム達によって破壊されてしまいました。」

館長「ただ、最後の大王の王子の一人がなんとか生き延びまして…」

館長「その王子は、中国、当時は唐朝です、に亡命しました。」



323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 05:21:49.13 ID:z51nta+UO

館長「その王子が唐に逃げた際に、保有していたもの、だそうです。」

館長「なぜ祠堂の錠を唐にまで持っていったか…。その理由は、全く分かりません。」

館長「錠にまつわる意味についてもです。」

紬「なぜそれが琴吹家に?」

館長「琴吹家に渡ったルートについても、伝わっておりません。」

館長「何より、この錠が本物の祠堂の錠なのかすら…」

館長「第一、最低1400年を経ているわりには、全く錆が出ていないのですから…。」


錠は鈍く輝いており、確かに年月を感じさせない。



325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 05:33:33.40 ID:z51nta+UO

紬と斉藤は作業所を出ると、展示室内の見学をはじめた。

紬は真っ先に『烏飼の臣』の墳墓のコーナーに向かう。

そこでは、墳墓の壁画の、レプリカが展示されていた。


レプリカには、左上のほうに太陽のようなもの浮かび、黒い鳥が数多く飛び回っている。

右下には盃のようなものが描かれており、
その上には、貴人と思われる人物が寝かされている。

黒い鳥は、とくに『太陽』の周辺と、『盃』の周辺を飛び回っている。



351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 11:45:24.39 ID:z51nta+UO

盃のような台座の上に横たわり、貴人は目を閉じている…と思われる。

壁画の古人の顔は典型的なオカメ顔で、
目が細く閉じているのか開いているのか判別が難しい。
(この人物自体は、男性であるはず。)

紬「似ていないわね…」

紬は呟いた。それはそうである。1400年前の先祖だ。
おそらく紬から数えて六十代は軽く溯るだろう。


血の繋がりがあるかどうかすら、かなり疑わしい。



354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 11:54:15.20 ID:z51nta+UO

しかし、紬が気になったのは先祖と思うれる男性よりも、
そのまわりに群がる黒色の鳥である。

鳥たちの『動き』が躍動感を持っているのだ。全く、ヤマト的でない。

館長「鳥葬を描いたものに…見えないこともないですね。」

館長が後ろから声をかける。
館長「私は、その説に反対しますが…」

とも、続けた。



357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 12:07:17.40 ID:z51nta+UO

館長「墳墓の壁画に、このような絵が描かれたということは、もちろん異例中の異例です…」

館長「いわゆる『猿石』と同種の躍動感があるのも確かです。」

館長「しかし、日本にはヤタガラスや、ヤマトタケルと白鳥のように、」

館長「鳥にまつわる神話もあり、というか世界中にあって、その機能も似通っています。」

館長「これはごく当然な話です。」



359 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 12:17:20.24 ID:z51nta+UO

館長「イラン高原周辺の諸民族の伝統と日本のそれとに、
   直接的な関係を認めようとすりのは、まことに危険な話です。」

館長「ただし、当時の国際的な交流、という点は重んじてみても良いかもしれません。
その刺激の中での試みか、もしくは渡来人の手によるものとして解釈するという…」

館長はそこまで続けると、ふと、あることに思い至った。

壁画を照らす橙灯に照らされて、紬の髪は緩く輝いている。



361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 12:32:02.89 ID:z51nta+UO

紬の髪は日本人にはまず存在しえないほどに、
明るい色をしている。
そして同じく、濃く太い眉毛。

館長は、もちろん、紬の父や、そして祖父の顔も見知っている。

二人とも紬によく似た髪質と眉。



364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 12:45:19.24 ID:z51nta+UO

狂った二人の男、一人は哲学者、もう一人は政治家、の言葉を思いだす。

『金毛種族たるアーリヤ人!』

そこまで考えて、館長は自分の先走った直感に嫌気を覚える。

イラン高原、のみならず中近東の民族構成は、ここ数千年めまぐるしく動いてきた。

仮にコーカサス、もしくは黒海周辺に住んでいた金髪長身の種族が、
イラン高原に移動してきたとして、

それからササン朝が滅びるまでに、どれほど他民族との融合や混交があったのだろう。

館長はそれ以上考えないことにした。



365 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 12:51:25.61 ID:z51nta+UO

そう、ペルシア人が七世紀の日本に渡来し、我が国に子孫を残し、

しかもその子孫が先祖の身体的特徴を、現在まで保っているということに。

館長は再び紬に話しかける。
館長「紬お嬢さんは、鳥葬にも興味がおありですか?」

紬は答える。

紬「興味は…ありますね。」



370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 13:09:49.18 ID:z51nta+UO

館長「まず、鳥葬を発明した人々がどのよう者たちだったかについては分かっておりません。」

館長「けれで、メディア人、と呼ばれる、アーリヤ人の一種族で、
   古代ペルシア人と非常に近しい関係にある民族。」

館長「少なくとも紀元前七世紀には、
   そのメディア人が鳥葬の習慣を持っていたことは分かっています。」



381 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 14:26:21.21 ID:z51nta+UO

館長「そのメディア人から古代ペルシア人に、鳥葬の伝統が伝わったようです。」

館長「これがいつ頃かも、よく分かったおりません。」

館長「鳥葬の意味については…」

館長「まず、鳥類と霊的存在、とくに善神との関わりです。」

館長「先ほども少し触れましたが、鳥は神の眷属、というのはよく聞く話でしょう?」

紬「はい。」

館長「中近東あたりには、犬や猛禽類を人々の守護者と見る向きがあったようです。」



385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 14:50:58.31 ID:z51nta+UO

館長「もう一つは、死体を好む悪神の存在です。」

館長「『ナス』、と呼ばれるその悪神は、羽根を有する小昆虫の姿であらわされ…」

館長「死体の穢れを周囲にまき散らし、拡散させると考えられていたのです。」

館長「これには、伝染病とと言う意味も含められています。」

館長「かと言って、火葬にするわけにもいきません。
   その理由を話す前に、もうすこし、ナスについて…」



387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 15:03:29.64 ID:z51nta+UO

館長「このナスは時代を経ると、アンラ・マンユ配下の大悪神六体の一つ…」

館長「『ドゥルジ』と同一の存在とされるようになったんです。」

紬「ドゥルジ…」

その名を口にすると、一瞬、先日のように、紬の体中を虫が這う感覚が襲う。

館長「『虚偽』、を意味します。」



389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 15:16:31.12 ID:z51nta+UO

館長「ではなぜ火葬にしないのか?
   それは、死体を火にくべることで、
   火が穢されると考えられたからです。」

館長「拝火教の名の通り、ゾロアスター教徒が、
   火に対して礼拝を行うのは、ご存じですね?」

紬「はい。」

館長「火は彼らにとって、スプンタ・マンユ、『聖霊』を意味します、の化身であり、
   アフラマズダーに帰属する存在でした。」



392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 15:27:59.20 ID:z51nta+UO

館長「鳥葬を行う際には、寸胴の円筒をくりぬいた形の祭壇の上に死体を安置します。」

館長「壁画の祭壇のような物と似てないこともないですが…
   先ほど言った通り安易な比定はしないほうがよく、
   また、壁画のほうは円筒ではなく、どちらかと言えば半球ですし…」

紬は墳墓横の石造物を思いだす。あれも、どちらかと言えば半球だ。



393 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 15:39:37.46 ID:z51nta+UO

斎藤「お嬢様。」

斎藤が声をかける。

斎藤「管理人との約束の時刻まで、二時間です。」

その日は午後に入ってすぐ、別荘の管理人と落ち合う予定になっていたのだった。
昼食もとらねばならない。


紬は、館長に頭を下げながら、

紬「館長さん、今日は色々とありがとうございました。」
館長「いえ、お役に立てたのであれば…」



394 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 15:55:36.98 ID:z51nta+UO

紬「また何かありましたら…」

館長「どうぞどうぞ!お時間があるなら、会長や奥様もご一緒に!」

紬「伝えておきます♪」



翌日

京都駅 近鉄奈良線ホーム


唯「まだ来ないのかなぁ…」

和「まあ、気長に待ちましょ。」

唯達一行は明日香村へと向かうため、近鉄京都線のホームにいた。



397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 16:09:10.05 ID:z51nta+UO

一行は橿原神宮駅行きの列車を待っている。同駅で一度乗り換える必要があるのだ。

律「…」

聡「…」

田井中姉弟は、ベンチに座り込み、無線通信を使った対戦ゲームに興じている。

さわ子「やっぱ高いわ…近所のスーパーで買っとくんだったぁー!」

さわ子は、キヨスクでアルコールとつまみを買い終わった所だ。



402 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 16:40:07.83 ID:z51nta+UO

澪は、明日香村ガイドを見ながら眉をつり上げて、思案顔だ。

半分タテマエだとしても、練習第一の澪には珍しい。
和「澪、何をなやんでるの?」

澪「四泊五日で練習入れたらさ、どれだけ見て周れるんだろ…」

澪「五日丸々使える和が羨ましいよ…」

和(基本的には勉強するつもりなんだけど…)



407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 17:00:06.42 ID:z51nta+UO

唯は本を右小脇に抱えて、言葉そのまま、左うちわをしている。

暑さに弱いだけあって、暑天のもとでは本を読む気にならないらしい。

抱えているのは、梓経由でこのまえ手に入れた『アーリマン讃歌』だ。

ギー太とともに背負ったリュックにも、何冊か入れてある。



420 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 18:55:59.36 ID:z51nta+UO

梓と憂も澪と同じように、奈良県に関する情報誌を読んでいる。

こちらはグルメ雑誌だが…

梓はここ一週間、唯たちに一度もお小言を吐かなかった。

軽音部、とくに唯が遂に本領を発揮した!と信じるまでになっている。


信じているのだろうか?梓が?梓たちが?
その根拠の源は?



422 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 19:05:14.61 ID:z51nta+UO

『カーシハラズングウイクィキュゥゥコゥ…』

アナウンスの声色が聞こえる。

唯「あっ来たみたいだよ!」

赤色の列車が入場してくる。
賑やかに列車の中に入っていく八人。

一行は、対面座席のある一画に席をとる。



424 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 19:14:35.97 ID:z51nta+UO

進行方向、つまり橿原神宮方面を向いて、列車は右側のホームに停車している。

さわ子はホームと反対側の対面座席に座ると、前に梓と憂、横に聡をひっぱり込んだ。

すでに発泡酒500m缶二本を空けている。

さわ子「可愛い子ちゃんたちは…おねーさんとお話しましょーねぇ…ウフフ」

目が少し血走っている。

アーリマンのために弁解しておくが、これに関して彼の勢力に責任はない。




425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 19:26:10.28 ID:3l8lcGwiO

さわちゃんwwwwww





426 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 19:26:30.78 ID:z51nta+UO

時刻は午前10時を少しまわったあたりである。

梓「ハァ…唯先輩が真面目になったと思ったら…」

憂「まあまあ、梓ちゃん…」

聡「ビクビク…」

さわ子たちと、通路を挟んでホーム側に、律と澪、唯と和が座る。

律「よくやるよ…」

澪「気にするな…」

和「ええ…」

唯「♪」

唯は座席に付くと、ギターのソフトケースからギー太を取り出した。



427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 19:39:39.94 ID:z51nta+UO

律「ゆい、おま…何やってんだ!?」

和「ここで演奏するわけじゃ…ないわよね?」

唯「可愛い子には旅をさせろっていうでしょぉ?」

唯「ギー太にも電車からの景色を見せてあげようと思うんだ♪」

律「…」



429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 19:53:28.10 ID:z51nta+UO

澪「プッ…」

和「まったく…唯らしいわね。」

唯「えへへ…」

憂(おねえちゃんかわいいよぉぉ…)

『カーシワラズングウ…』

発車を知らせるアナウンスが聞こえる。

唯「ギー太!電車が動き出したよっ♪」



433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 20:10:30.09 ID:z51nta+UO

さわ子「コップについでついでぇぇ…そそそそ!良い感じじゃない!」

さわ子は憂からもらった紙コップを使い、聡の手で発泡酒をお酌させている。

左手で聡の太ももを撫でることも忘れない。

聡「…///」

犯罪の匂いがする。


律「そーいやさあ、今日行く明日香村って、大昔は日本の首都だったんだろ?」

弟の危機を無視して、律が話しはじめる。




434 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 20:21:23.79 ID:3l8lcGwiO

さわちゃんアーリマンより穢れてるwww



435 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 20:21:32.74 ID:zGXhXb+xO

聡逃げてぇぇ



436 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 20:22:11.53 ID:Ane0C2+K0

さわちゃんショタだったんかい





437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 20:29:09.68 ID:z51nta+UO

和「そうね、飛鳥時代って呼ばれる時代はそうかしら。」

和「というか、大王、つまり天皇の宮が置かれた場所だから、
  平安遷都まであちこちに移転してるわ。」

和「飛鳥時代は、敏達天皇もしくは推古天皇から持統天皇まで、約100年くらいね。」

唯「ウマコとかイモコとかエミシとか、変な名前ばっかだよね♪」



441 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 20:44:08.26 ID:z51nta+UO

澪「昔の人からしたら、私たちの名前のほうが変だろ?」
唯「あっ…そうか。」

唯「ならなんで、明日香村あたりを都にしたの?」

和「そうねぇ…当然地の利とか、
  あと、当時最有力の豪族、蘇我氏の地盤だったとかってことらしいけれど。」

唯「ふーん…」



442 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 20:57:13.49 ID:z51nta+UO

列車は平城京跡のすぐそばを通って、さらに先へ進む。

さわ子は両側に聡と憂、膝の上に梓をのせてセクハラし放題。

澪は風景を見ながら何かを書き取っている。

和は聞き手にまわって、律ととりとめのない話を。

唯は『アーリマン讃歌』の祈祷文に関する箇所を読み進めている。

人間の意識を、こちらに都合よく操作する、といういわゆる黒魔術のような内容である。



443 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 21:18:05.91 ID:z51nta+UO

『アーリマン讃歌』の内容は、アーリマン自体に捧げられたものと、
配下の諸デーウァに捧げられたものに分けることもできる。

唯が現在読んでいる箇所は、『タローマティ』という大悪神、
それも女神だと思われる、への祈祷文だ。



445 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 21:31:15.24 ID:z51nta+UO

唯はこの部分を読み終えると、小さな声で独り言ちた。


唯『タローマティ、臆見を司る君。』


あまりにも小さ過ぎて、誰も耳に止めなかった。

唯がその言葉を発し終えると、ギー太の中に住む『眼』の瞳孔が、数度収縮と拡大を繰り返す。


なぜそう発したのか、その理由は唯自体にもわからなかったし、
発したという事実さえ、唯の意識のはるか後方に消え去ってしまった。



446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 21:43:58.40 ID:z51nta+UO

ギー太の中の『眼』は、車窓を眺めているようにも思える。

車中ではもう、『眼』が動きを見せることはなかった。


けれど『眼』は、車窓を見ているのだろうか?
人の心見透かす、タローマティの目は?



449 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 22:18:15.66 ID:z51nta+UO

飛鳥駅前

時刻は11時を少しまわったあたりである。

唯「着いたよっ!!」

律「それほど田舎でもないかな?」

和「駅から離れると、ほんとにのどかな所らしいわ。」

律(『和』だけにね…)



452 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 22:22:57.91 ID:z51nta+UO

明日香村は、奈良県の真ん中あたり、
橿原市から見て南部、桜井市から見て南西部に位置している。

一方、飛鳥駅は、明日香村のかなり西より、
橿原市と、明日香村からみて南西の高取町との境近くにある。


ともかく、この風光清々しい場所で、大化の改新を始めとした、
日本史における幾つかの激動が起っていたのだ。



454 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 22:35:43.69 ID:z51nta+UO

律「ムギからメールで、もう着いてるってよ…」

唯「どこ~?」

澪「お前ら…どう考えても、あれしか考えられないだろ…」

澪が指さした方向には、本当に右左折できるのか?
というぐらいに長いボディの、黒色の車が止まっている。

梓「…(唖然)」

聡「り、リ○ジン…本物はじめて見た…」



457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 22:46:22.64 ID:z51nta+UO

唯「おーい!」

唯が駆け寄って手を振る。

するとリムジンは動き始め、ゆっくりと近付き、一行の前で停車した。

運転席から斎藤が、後部座席から紬が降りて来る。

紬「みんな、ようこそ、飛鳥の里へ♪」

律「ポカーン」

澪「ハァ…」

さわ子「今度の衆院選、左派政党に投票したくなったわ(キッパリ)」



458 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 22:54:14.71 ID:z51nta+UO

澪「ムギ、他の車はなかったのか?」

紬「ごめんなさい…これがウチで、一番たくさん人が乗れる車なの。」

澪は、小型マイクロ借りるか、二、三台に分乗すれば良いだろ、
と思ったが口には出さなかった。



460 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 23:04:54.92 ID:z51nta+UO

一行を乗せたリムジンは、南部へと進路をとる。

紬「別荘まで20分かかるわ。」

助手席の紬が振り向きながら言う。

紬「あ、あと途中、寄りたい所があったら言ってね!」

明日香村南西部のメジャーなスポットはキトラ古墳しかない。
あとは、ほとんど畑か水田だ。
主要な見所は北部に集中している。



462 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 23:14:57.74 ID:z51nta+UO

結局、あまり周囲の風景に気を払わず、リムジンの中でおしゃべりに収支する。

タローマティの『眼』は再び収縮と拡大をし始めていた。

タローマティの『眼』は、数千年来を経、この地に溜まった人間の欲望の臭い、
そして同胞と敵対者の臭いを見ている。



463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 23:24:15.61 ID:z51nta+UO

そして、尾根がまさに張り出さんとする所に建つ、
大きな屋敷の前にリムジンが止まった時、


タローマティの『眼』は、ある一点を見て、はじめて、『眼』、つまり己自身を細めたのだ。

タローマティが何を思っているのかは分からない。



465 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 23:30:57.33 ID:z51nta+UO

琴吹家別荘前 駐車場

梓「すごく大きな別荘ですね…」

さわ子「嫌になっちゃうわ…」

律「聡、荷物持て!」

聡「えー…」

律「持て!男子の本分を尽くせ!」

聡「わかったよ…、あ、澪姉のも持つけど…?」

澪「いいのか聡?悪いな。」



468 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 23:38:11.48 ID:z51nta+UO

憂「よいしょっと…これで全部…」

憂「…あれ、お姉ちゃんは?」

大きめのバッグを持ちあげながら、憂が言う。

和「唯がいないの?」

憂「はい。」

さわ子「唯ちゃん?唯ちゃんなら、あそこよ。」

さわ子が示した方向には、別荘の母屋の左側を、尾根に向かって歩いていく唯の姿。



471 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 23:44:57.97 ID:z51nta+UO

唯「…」

唯はさらに小走りになる。

別荘の左裏手の小道にでる。
小道は、下れば公道、上れば尾根を進む。

そして小道から尾根側に10mほど進んだ所に、二つの石像があった。

石像に近寄る唯。



475 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 00:02:12.36 ID:z51nta+UO

一つの石像は鎧を纏い、ヘルメット状の兜を被り、剣を持っている。
古代日本のますらおの姿だ。
ただ、背後には放射線状の光背がある。

もう一つの石像は、猿のような形をしている。
右手に体長の半分くらいの棒状の武器を持ち、
その表情は忿怒で変形している。
明王たちの義憤の表情とは全く異質な、である。


唯は戦士のような石像には気にも留めず、猿のような石像を手でふれる。



477 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 00:11:42.27 ID:5/I6CW4fO

一瞬、唯の心に大きな感情の波が生じる。
がむしゃらに目的を追求するときに覚えるような、焦燥感が走った。

不快ではなかった。
感覚が研ぎ澄まされるよう。

ギー太に住まうタローマティは、ギターケース越しに、より、『眼』を細めた。
タローマティが何を覚えているのは分からない。



480 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 00:20:01.03 ID:5/I6CW4fO

「お嬢様のお友達かな?」

背後から声がする。
少しずつ焦燥感は落ち着いていく。

唯「…」

「どうかしたかね?」

唯「ブルッ…」

唯「あ。」

唯は声のほうへ振り向く。



482 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 00:27:53.10 ID:5/I6CW4fO

眼鏡をかけた老人が立っていた。
麦藁帽に泥のついたナイロン性の黒ズボン、上は肌着一枚。
農家の旦那さんのような格好だ。
還暦はとっくに過ぎたであろう。

唯「えっと…」

唯「第一明日香村人さんですか?」

老人「はあ?」

老人はキョトンとする。




484 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 00:34:48.18 ID:dQtHIHeMO

ダーツの旅wwwww





485 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 00:35:33.66 ID:5/I6CW4fO

管理人「おれはほれ、そこの琴吹屋敷の管理をしてるもんだ。」

唯「あっ!じゃあムギちゃん家の…」

管理人「むぎ?むぎ…つむぎか!」

管理人「やっぱりお嬢様の友達の!」

唯「はい!」



488 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 00:40:33.61 ID:5/I6CW4fO

管理人「そっかそっか!」

管理人「よく来たねぇ!」

唯「お世話になります!」

管理人「ああ!食事だけ!…は期待してなさい!」

そう言うと、管理人は、腰にかけたタオルで汗を拭う。

管理人「で、なんで屋敷の外れにいるんだい?」

管理人は唯に聞く。



492 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 00:49:15.76 ID:5/I6CW4fO

唯「この石像が気になっちゃって…」

管理人「それかぁ。まあ、いわゆる猿石の類いだわな。」
管理人「二つで組み合わさってるらしいんだよ。」

管理人「それと、ほれ、そこのお堂。」

管理人はもっと尾根側の斜面を指す。

そこには五畳ぐらいの大きさの、木製の建物が建っていた。



494 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 01:00:56.48 ID:5/I6CW4fO

いわゆる観音像などを納めてあるような、仏教系のお堂である。

管理人「そのお堂には弥勒菩薩の仏像がおられてな…」

唯「へぇ~」

管理人「琴吹家のものじゃないんだが、近頃は仏像泥棒が多いから、
    ついでに管理してるんだ。」



496 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 01:12:02.76 ID:5/I6CW4fO

管理人「そのお堂の由緒、まあ、どうして建ってるかってことだけど…」

管理人「昔は、お堂なんかなくて、石造の弥勒菩薩が野晒しになってたんだ。」

管理人「かなり古いもんだったらしいんだが、いつのころからか無くなってしまってね。」

管理人「危篤な方がかわりにお堂を建てて、弥勒菩薩の仏像を置いたそうだよ。」



497 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 01:13:59.55 ID:5/I6CW4fO

管理人「で、その『ますらお』みたいな像は弥勒菩薩の家来で、
   その猿みたいな化け物と戦っているんだって。」

管理人「弥勒様の石仏のほうが古いのか、
    それとも、その猿石みたいな奴のほうが古いのかは、分からないがね。」

唯「猿…」

猿じゃないのに、と唯は思った。



499 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 01:26:49.63 ID:5/I6CW4fO

唯(アエーシュマ。)

唯(忿怒司る首人〈おびと〉)
唯は猿のような石像をじっと見つめた。

管理人「ん?どうしたんだい?」

唯「あっなんでもないです!」

管理人「なら…」

管理人「あっ!よくない!」



500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 01:29:55.14 ID:5/I6CW4fO

唯「えっ…」

管理人「あんたがここにいるなら、お嬢様を待たせちまってるわ!」

管理人「ごめんね、先に母屋に帰ってるから!お堂も見ていいよ!
    弥勒様には触らないでよ!」

そういうと管理人は母屋のほうに走っていった。



502 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 01:34:33.94 ID:5/I6CW4fO

唯「管理人さん行っちゃった。」

唯「私もみんなのとこ行こっ♪」

唯はお堂に見向きもしない。
方向転換して、管理人の後を、てくてく追う唯。


その時、唯の影から球状の形が顔を出す。



503 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 01:41:30.30 ID:5/I6CW4fO

球状の物体は、その胴体の最大円周まで、
つまり、ちょうど半球ぐらいの形になるまで、体を唯の影から現す。

色は唯の影と同色。平面のようにも見えるが、しかし球である。

唯は鼻歌をならしつつ、小道を下る。

球状の物体から、男性器のようなものが、生えるようにして現れる。



504 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 01:49:20.58 ID:5/I6CW4fO

男性器のような物は、跳躍するようにして球状の物体から分かれ、
弧を描き、猿のような石像に接触する。

すると、石像に吸い込まれるように、それは石像の中に消え去る。

唯は全く気付かなかった。


タローマティの『眼』は、これをギー太の内から見届けると、
瞳を上にずらし白目を見せた後、
すぐに再び、何の感情も持たぬ形に戻った。



530 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 09:35:46.63 ID:5/I6CW4fO

琴吹家別荘 玄関

憂「あっ!おねえちゃん!」
憂は、近付いてくる唯を見つける。

唯「ごめんごめーん!」

ちょうど管理人が紬を先導するような形で、
母屋に一行を招き入れるところであった。



531 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 09:59:44.33 ID:5/I6CW4fO

母屋は和風の造りをした二階建てで、尾根にそって北南に長い建物であった。

和風といっても農村によくあった形態のもの、
ぱっと見れば土地持ちや豪農の屋敷に見える。

憂「おねえちゃんっ!どこ行ってたの!?」

憂は少し必死である。ここは見知らぬ土地で、まわりは畑と山林だけ。



535 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 10:26:30.14 ID:5/I6CW4fO

憂「おねえちゃんはすっごく可愛いんだから、誘拐されちゃったらどうするの!?」

梓「憂、いくらなんでも…それは重症…」

こんな所でそんなことする人間はいないから、と梓は思った。

唯「ごめんよぉ~」

律「平沢姉妹って…」



537 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 10:56:53.05 ID:5/I6CW4fO

管理人「おお!もう戻ってきたか!」

唯「はい!」

管理人「弥勒菩薩の仏像はどうだった?」

唯「あ、見てないです、とりあえず今日はいいかなぁーって。」

澪(弥勒菩薩…ミスラが仏教に取り入れられた姿…)

澪は、唯が来た方向を見つめた。木々の影になっているが、お堂が見える。



539 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 11:24:22.34 ID:5/I6CW4fO

管理人「まあ、後で拝めばよし。」

管理人「ともかく、さ、お嬢様、皆さん、すぐに蕎麦を用意しますので…」

紬「ありがとうございます。」

一行は母屋の中へと入っていった。



542 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 11:55:43.71 ID:5/I6CW4fO

昼食に管理人手打ちの蕎麦を食べ終わった後、唯たちは明日香村北部へと向かった。

何のへったくれもない、いわゆる観光、である。
行き先は澪がピックアップした。


とある駐車場で停車する。
リムジンから降りる唯たち。
地元の人々や他の観光客の視線が少し痛い。



544 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 12:29:32.62 ID:5/I6CW4fO

すぐそばには、ちょっとした広場のようなものがあり、芝生に覆われている。
小岡のようなものもある。

小岡にも同じく、芝生が群がっている。
その上部には、巨大な岩を組み合わせた石造の建造物がそびえていた。

小岡の『ふもと』には石造りの入り口があり、内部へと続いている。

澪「石舞台古墳だぞ!」



548 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 12:57:07.27 ID:5/I6CW4fO

小岡はよく見ると方形になっている。

石造建造物に見えるものは、
墳墓内部の、被葬者を埋葬した石室、
いわゆる玄室の上部が露出したものである。

律「蘇我馬子のお墓…に推定…へぇ」

さわ子「あ、私に質問しないでね、音楽教師なのよ?」



549 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 13:15:57.30 ID:5/I6CW4fO

聡「聖徳太子と同じ時代の人でなんしょ?」

澪「ああ、大臣(おおおみ)っていう役職についてたんだ。
  今の総理大臣のような感じだな。」

唯(馬子っていうぐらいだから馬面だったのかなあ?)

和(唯、馬面の人を想像してるわね、きっと。)



553 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 13:46:35.50 ID:5/I6CW4fO

律「で、なんで古墳の上にストーンヘンジみたいのが乗っかってるんだ?」

澪「石造建造物に見えるものは、古墳の石室の上の部分なんだって。
  だから、もともとは、土の中に隠れてたはずだな。」
律「じゃあなんで顔出してんの?」

さわ子「千何百年も前のお墓でしょ?雨風で古墳も禿げるわよ。」



556 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 14:05:17.81 ID:5/I6CW4fO

紬「多分…葬られた人を辱めるためなんじゃないかしら。」

紬はぽつりと言い、小岡に向かって歩き出す。

梓「どういうことですか?」

澪「大化の改新で蘇我氏は滅ぼされたろ?
  そのとき殺された蘇我入鹿は蘇我馬子の孫だ。」

さわ子「驕れる者なんとやらってわけね…」



558 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 14:36:29.52 ID:5/I6CW4fO

石室の中は約10畳分くらいの広さだ。天井の狭い隙間から陽がうっすらと射してくる。

入り口からの入光もあるが、それでも暗い。

内部には何もない。石壁と地面だけ。

澪「静かだ。」

澪は天井を見上げたまま、ゆっくりと身体を左に回転させる。



560 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 14:49:57.32 ID:5/I6CW4fO

非日常的な場面で、そのような振る舞いをするのが、澪の癖である。

澪「っ…」

一瞬目が回って、床に尻餅をつく。

聡「澪姉、大丈夫!?」

聡は澪に駆け寄ると澪の腕を掴んで引き上げる。



561 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 15:06:49.31 ID:5/I6CW4fO

聡(お、重っ…)

まだ、聡より澪のほうがずっと長身だ。

澪「ごめんな、さとし。」

聡「うん。」

少し赤くなる少年。

律「暗いトコでくるくるまわったら、そりゃ目もまわるって…」

呆れる律。



565 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 15:29:36.21 ID:5/I6CW4fO

唯も続いて石室内に入る。


唯の背中のギー太の内から、タローマティの『眼』は見つめる。


辱める者と辱められる者。

この石室の被葬者も、かつては辱める者であったはず。


タローマティの瞳孔は縮小拡大を繰り返す。



567 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 16:01:28.22 ID:5/I6CW4fO

石舞台古墳を離れると、一行は徒歩で史跡をまわりはじめる。

そして、その際、所々に散在する奇妙な石像たち。猿型、人型、鳥型、爬虫類型…

また、石像ではなく、表面に幾何学的な図形が彫り込まれた奇岩。


それらの由来について想像力を働かせる彼ら。

王候貴族のインテリアだと熱弁する澪。
梓と憂がそれに同調する。



569 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 16:14:57.26 ID:5/I6CW4fO

UMAを模したものだと言う聡。

単なるベンチや椅子だろうと言う律。

仏教や道教との関連性について語る斎藤。

缶チューハイを飲みながら猿石とのツーショットを撮ってもらう、さわ子。

紬は話題に加わらない。



571 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 16:31:18.59 ID:5/I6CW4fO

和はそれよりも、唯のことが気になっていた。

唯が興味を示し、触れる石像は、常に、醜悪な姿のものや際立って異形なものなのだ。


唯は、石像のうちのいくつかが、ダエーワやヤザダ、
そして、それらの眷属を象ったものだということを知っていたが、
口には出さなかった。



574 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 16:54:17.23 ID:5/I6CW4fO

ギー太の内から、タローマティは『眼』を細めていた。


ヤザダたちの象りを見る度、
幾度となく争った敵対者、
アムシャスプンタ六柱の一柱、
豊穣と信仰の守護女神、
『アールマティ』のことを思う。


タローマティは、『眼』を一層細めた。



583 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 18:28:42.75 ID:5/I6CW4fO

軽音部一行は五時には観光を切り上げて戻り、離れの広間で練習を行った。

二時間ほど練習したあと、母屋に戻り、管理人手製の夕飯を頂くことになる。


その一方、次第に深くなる夕闇にまぎれて…



591 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 19:29:27.02 ID:5/I6CW4fO

琴吹屋敷左裏 弥勒堂前


『アエーシュマ』の石像から、影色の男性器が
ゆっくりと生え出るように現れ始める。


男性器のようなものが石像から体(たい)をひねり出すほどに
アエーシュマが持つ棒状の武器が闇の中に溶けていく。



593 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 19:37:35.71 ID:5/I6CW4fO

それに従い男性器のようなものは、タールのような黒光りする光沢を帯び始める。

それが石像と完全に分離したとき、アエーシェマの手には何もなかった。

その物体は黒光りするまま、
蛇のように体(たい)を左右にくねらせ、琴吹屋敷の方へ向かう。



594 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 19:45:29.06 ID:5/I6CW4fO

琴吹屋敷の北端に接触すると、壁沿いに東へ少し這い、
屋敷の北東の角を経て、少し南へと移動する。


黒光りする物体は、換気扇の通気穴から湯気の出ている所で一旦静止したあと、
その場所から壁を垂直に登り出す。

あいもかわらず蛇のような動きだ。
そのまま、通気穴から屋敷の中へ入り込む。



596 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 19:59:44.29 ID:5/I6CW4fO

台所では前掛けを垂らした屋敷の管理人が、
器用な手先で、緩やかに煮たつ鍋から灰汁(あく)をとっている。


管理人の真上を、男性器のようなものが進む。
そしてそれは床に降り立つと、
そのまま、台所の中央にあるテーブルへ向かう。



601 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/22(水) 20:11:38.09 ID:5/I6CW4fO

テーブルの上にあるのは、大きめの盆、何品目かをすでに盛り付けてある皿、
そして蕎麦焼酎の入った一升瓶。


黒光りする男性器、サウルウァの欠片は
一升瓶の栓の、ほんの小さな隙間を通って、中身の蕎麦焼酎に入り込む。

蕎麦焼酎に没入していくに従って、『酩酊の君』の欠片は、中身と同化していった。



関連記事

ランダム記事(試用版)




唯「ゾロアスター教徒になるよ!」#2
[ 2011/07/02 07:59 ] 宗教 | ゾロアスター教 | CM(0)

コメント(アンカー機能)
●>>1と半角で書き込むと>>1と記事へのアンカーが生成される。
●*1と半角で書き込むと1とコメントへのアンカーが生成される。
上記の2つのアンカーが有効なのは該当記事のみ。

コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

サイト関連
メール ツイッター 最新記事一覧(30件)
ユーザータグ 検索

U:
P:
色々変更
好みのカラーコードをどうぞ

記事の背景色変更


本体の背景色変更


名前の色変更
IE8:重
火狐4.01:軽
chrome:軽


広告4
広告5
広告6