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唯「お墓参り行ったら憑いてきちゃったみたい」 【ホラー】


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8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 02:32:34.06 ID:7EQJmppb0

唯「ただいまぁ~」

夕暮れが迫る頃お姉ちゃんは帰宅した。

憂「お姉ちゃん、おかえり」

玄関に行くと後ろに背の小さい女の子が一緒にいた。
逆光になって顔は見えなかったが、
なぜか不思議と知らない人ではない気がしていた。

憂「お姉ちゃん、その子お友達?」

お姉ちゃんは首を振って答えた。

唯「お墓参り行ったら憑いてきちゃったみたい」





10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 02:41:19.50 ID:7EQJmppb0

夕日が沈み、女の子の顔がはっきりと見て取ることができた。

憂「あ・・・梓ちゃん・・・」

そこには、数ヶ月前に此の世を去った梓ちゃんが居た。
生きていた?違う、確かに死んだはずだった。
じゃあ矢張り幽霊なのだろうか。

唯「え?憂知ってるの?」

なんと答えればいいのだろう。
梓ちゃんが死んだと聞かされたとき
お姉ちゃんは酷く取り乱し、一晩中大声を上げて泣いていた。
一週間ほど原因不明の高熱に苦しんで
以降は梓ちゃんのことなど無かったかの様に日々を過ごしていた。

そして今、漸く理解した。
お姉ちゃんは本当に梓ちゃんのことを忘れてしまったのだ。



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 02:51:39.81 ID:7EQJmppb0

憂「ううん、人違い・・・だよ」

唯「そうなの?でもこの子梓ちゃんって名前なんだよ」

憂「そうなんだ、偶然だね。私の友達にも同じ名前の子がいたから」

お姉ちゃんはごまかせただろう。
しかし、梓ちゃんには何を言えばいいのだろうか。
多分、お姉ちゃんが梓ちゃんのことを忘れてしまったことも、気づいているのだろう。
梓ちゃんは何故お姉ちゃんに憑いてきたのだろうか。
何かを望んでいるのだろうか?
だったら──

憂「お姉ちゃん、先上がってて」

唯「あいよ~」

お姉ちゃんは階段を上がっていった。
梓ちゃんはそのまま玄関に佇んでいた。
どうやら、常にお姉ちゃんの後ろに憑いている訳ではないのだろう。

憂「梓ちゃん、私のことわかるよね?」

梓ちゃんは、こくりと頷いた。



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 03:00:26.17 ID:7EQJmppb0

梓「憂、ごめんね」

悲しそうな表情を向ける梓ちゃんをつい抱きしめたくなって
手を伸ばしたが、触れることは叶わないのだろうと思い直して
手のひらをそっと頬に沿わせた。

憂「冷たい・・・」

梓「死んでるからね」

憂「でも、何でお姉ちゃんに付いて来たの?」

梓「唯先輩、お墓参りに行ったって言ってたでしょ?」

梓「私のお墓にお花を供えてくれたの」

梓「でもね、私が姿を見せると、私が誰なのか、何で自分がお墓に居るのか、
  何で私のお墓にお花を供えたのか、さっぱり分からないみたいだったの」

梓「それで私が、お墓参りに来てたんですよって言うと、そうなんだ──ってそれだけ言って・・・」



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 03:19:14.16 ID:7EQJmppb0

お姉ちゃんは心のどこかでは梓ちゃんのことを覚えていて
それで、梓ちゃんのお墓に行ったのだろう。
その時だけは梓ちゃんと過ごした時間を思いながら祈りを捧げたはずだ。
でも、長く心に抱えるのは辛過ぎたのだ。
すぐに思い出を片隅に隠して、自分が何をしていたのかさえ忘れてしまった。
そんなお姉ちゃんのことを思うと私も胸が痛んだ。

梓「憂、唯先輩は本当に私のこと忘れちゃったのかな?」

憂「そんなこと無いと思う。だって、梓ちゃんのお墓にお花供えてくれたんでしょ」

憂「きっと覚えてはいるんだろうけど、梓ちゃんの死を受け入れられないんだよ」

憂「それで、梓ちゃんが生きていたときの思い出まで隠してるんだと思う」

憂「梓ちゃんは何で幽霊になってお姉ちゃんの前に?」

梓「私にもわからない。ただ、唯先輩が悲しそうな顔をしてたから、笑って欲しいなって思ったら・・・」



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 03:29:00.58 ID:7EQJmppb0

梓「私、もう一度だけ唯先輩の笑顔が見たい」

お姉ちゃんの笑顔、最近はあまり見ていない。
笑っていてもどこか切なそうだった。
昔みたいな、そう、ギターを弾いているときのあの笑顔を──

憂「・・・私も、見たいな」

梓「ねぇ憂。唯先輩は今でもギター弾いてる?」

言うべきか迷ったが、隠しておいてもどうにもならない。

憂「あの・・・ね、ギターはもう弾いてないの。軽音部もやめちゃった」

梓「えっ!何で?あんなにがんばってたのに・・・やっぱり私の所為なのかな」

何も言えなかった。

梓「今、軽音部はどうなってる?3人じゃ部として活動できないよね」

憂「実はね、私が軽音部に入ったの。もちろん、お姉ちゃんが戻ってくるまでの間だけ」



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 03:41:25.09 ID:7EQJmppb0

そう、お姉ちゃんはきっと戻ってくる。
澪さんも律さんも紬さんもみんなそれを信じて待っていた。

梓「唯先輩が私のこと思い出したらどうなるかな?」

憂「わからない・・・でも乗り越えなきゃいけない事だって思う」

梓「私、どうしたらいいのかな?」

憂「梓ちゃんは何か遣り残したことがあって幽霊になったんじゃないのかな」

梓「うん、唯先輩に昔の笑顔を取り戻してあげたい」

憂「私も、協力する。だから一緒にお姉ちゃんの事考えよ」



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 03:57:43.60 ID:7EQJmppb0

少し相談した後、梓ちゃんを連れてリビングへ上がった。

唯「おそいよ~何してたの?」

憂「なんでもないよ」

そう言って、梓ちゃんと並んでお姉ちゃんの向かいに座った。

唯「そう。で、梓ちゃんってどこに住んでたの?」

梓「この近く・・・かな」

唯「今、何歳?」

梓「えと、15です。死んだときも15でした」

唯「へぇ~じゃあ私の一つ下だ。憂と同級生だね」

梓「そうですか、じゃぁ唯先輩って呼んでも言いですか?」

さっき相談したとおり梓ちゃんはお姉ちゃんのことを知らない振りをしながら
少しずつ、今までお姉ちゃんと接してきた状況を作ろうとしていた。

唯「いいよぉ~でも先輩ってなんか照れるよね」

梓「そうだ、私のことも何かあだ名で呼んで下さいよ」

唯「う~ん、あずさ・・・だから、あず・・・あず・・・あ・・・」



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 04:07:28.78 ID:7EQJmppb0

ここで梓ちゃんのあだ名を思い出してくれれば
そんな淡い期待はすぐに裏切られてしまった。

唯「やっぱり梓ちゃんでいいよ」

梓「そ、そうですか・・・」

憂「そうだ、梓ちゃんは生きてたときは何してたの?」

梓「えと、実はバンドをやってたんです」

お姉ちゃんの表情を見る。
特に変化は無かった。
興味も抱いている様子はあまり無い。

憂「へ、へぇ。どんな楽器弾いてたの?」

梓「ギターをやってました」

梓「それから、それから──」

梓ちゃんは、きっと思い出しているのだろう
軽音部に入って、お姉ちゃん達と過ごした楽しい日々のことを。
そして、意を決したように話始めた。
お姉ちゃんに向かって。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 04:17:47.56 ID:7EQJmppb0

梓「そのバンド、学校の軽音部なんですけど、とっても楽しかったんです」

梓「私は1年生で後はみんな先輩達ばかりなんですけど、みんな優しくて」

梓「それに演奏も凄く上手で、とくに──」

梓「とくに、ギターを弾いてる先輩の演奏に聞き惚れてしまって入部を決めたくらいなんですよ」

梓「その先輩なんですけどね、いつも私に抱きついて来るんです」

梓「私に変なあだ名つけて、いっつも練習サボってお菓子ばっかり食べて」

梓「ギターのコードだってすぐに忘れちゃうんです」

梓「でも、先輩と居ると凄く楽しくて。
  ずっと一緒に居たいって、一緒に演奏したいって今でも思ってます」

梓「私っ、その先輩のこと好きだったんです」

梓ちゃんの声は震えていた。
泣いてしまうのではないかと思うくらい。
それでも、涙は見せなかった。



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 04:33:22.61 ID:7EQJmppb0

お姉ちゃんに目を移すと俯いていた。

憂「お姉ちゃん・・・?」

ゆっくりと顔を上げる。
お姉ちゃんは目に涙を浮かべていた。

唯「あれ・・・?どうしてだろ・・・?」

お姉ちゃんは自分の涙に戸惑いをみせ、両手の袖で涙を拭う。
それでも、頬を伝う涙は止むことはなかった。
ついには、肩を震わせ、声を上げて泣き出してしまった。

憂「お姉ちゃん、大丈夫?」

梓「唯先輩・・・」

唯「ごめんね・・・ごめん・・・私にもよく分からないけど、凄く悲しくて・・・」

思い出したわけではなかった。
それでも、これほど取り乱してしまうお姉ちゃんを見ていて
本当に思い出させることがいいことなのか不安になった。
乗り越えることが大事だとは言ったが、もし乗り越えられなかったら
あの頃の笑顔を見ることは叶わないだろう。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 04:43:14.14 ID:7EQJmppb0

暫くしてお姉ちゃんは立ち上がり自分の部屋へと入って行ってしまった。

梓「憂、どうしよう」

憂「うん、ちょっと無理があったのかも」

梓「そう・・・。私考えたんだけど」

梓ちゃんは一層悲しそうな顔をして言った。

梓「私のことは忘れたままでもいい」

梓「だから、もう一度ギターを弾いてる唯先輩を見たい」

憂「でも、ギターを弾けば──たぶん梓ちゃんのことも思い出さないわけにはいかないかも」

梓「そっか・・・そうだよね。唯先輩がそのことを望まない限り無理だよね」

憂「ねぇ、明日軽音部に来て。もし、みんなにも梓ちゃんが見えるなら協力してもらおうよ」

梓ちゃんは期待と不安を滲ませた表情で頷いた。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 05:12:56.21 ID:7EQJmppb0

翌日の放課後、軽音部の部室に梓ちゃんを連れて入った。
それを目に留めたみんなの表情が驚きに満ちているのがわかった。

澪「あ、梓・・・!?」

律「・・・え?嘘だろ・・・」

紬「本当に、梓ちゃんなの?」

みんなにも梓ちゃんの姿が見えるようで安心した。
梓ちゃんもそれがわかったのだろう、みんなに頭を下げて挨拶をした。

梓「みなさんこんにちは。あの・・・幽霊になっちゃいました」

澪さんは私に説明を求めるように目を向けた。
私は、昨日あったこと、
お姉ちゃんが梓ちゃんのことを忘れてしまっていることを丁寧に説明した。

紬「やっぱり、そうでしたか」

紬さんは気づいていたようだった。
でも、お姉ちゃんに梓ちゃんの話しをして確かめる事はしなかったのだろう。
お姉ちゃんが梓ちゃんの死に酷く心を痛めていることを知っていたから
何も言えず、多分みんなにも口止めしていたのかも知れないと思った。

律「そうか・・・そういえば一度だけ梓のこと口にした時、唯何のことだか分からないって顔してたな」

澪「馬鹿っ!あれだけ唯の前では梓の話しをするなって言ってただろう」

律「悪い悪い。つい口から・・・」



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 05:27:21.23 ID:7EQJmppb0

紬「それで、梓ちゃんは何でここに?」

憂「そのことなんですけど」

憂「実は、お姉ちゃんに思い出させて上げたいんです。梓ちゃんのことを」

澪「でも、さっきの話だと梓の顔を見てもなにも思い出さなかったんだろ?」

律「どうやって・・・ってそれを相談しに来たわけだな」

梓「はい」

律「全部話しちゃまずいよな・・・やっぱり」

澪「合宿の時の写真もあるけど、あまり強引なやり方だと・・・」

紬「ええ、唯ちゃんの心を傷つけることになりかねませんね」

憂「そのことなんですけど、昨日梓ちゃんがお姉ちゃんの名前を伏せて思い出を語ったんです」

憂「そしたら、お姉ちゃん突然泣き出しちゃって」

憂「だから、無理やり思い出させるんじゃなくて、
  お姉ちゃんの方から思い出したいって言ってくれるような方法を見つけて欲しいんです」



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 05:49:57.11 ID:7EQJmppb0

紬「そうね、とりあえず何で唯ちゃんは梓ちゃんのこと忘れちゃったのか考えましょう」

律「そりゃあ思い出すのが辛いからだろ?」

澪「いや、なんで思い出すのが辛いかって事じゃないのか?」

律「憂ちゃん何かわかる?」

それは何度も考えてみた。
お姉ちゃんが何で梓ちゃんのことを忘れたのか。
死んだことを認めたくないから?
それなら逆に、生きていることを妄想するのではないだろうか
在らぬ幻覚を見て、在らぬ思い出を語る
それを拠り所に、梓ちゃんの死を否定するはずだ。
では、いったい何が原因なのだろうか。

憂「私にはわかりません」

紬「でも、唯ちゃんにも梓ちゃんが見えるってことは、
  本心から忘れたいと思ってるわけでもないのよね」

澪「そうかも、そもそも梓のお墓参りに行ってたんだ。
  きっと唯も思い出したいとはどこかで思っているのかも知れない」

律「なんだか、ややこしいな」



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 05:59:00.83 ID:7EQJmppb0

澪「とりあえず、みんなで一晩考えてみよう」

紬「そうですね、さっき聞いた話も整理して考えればなにか分かるかもしれません」

律「じゃあ今日の部活は終わりにするか。憂ちゃんも梓も唯と一緒にいてあげたらどうだ」

澪「律、さっきの話聞いてなかったのか?」

律「聞いてたよ。たださ、思い出なんて話さなくても一緒に居るだけなら問題はないだろ」

紬「そうね、普通に一緒に過ごすだけでも何か進展があるかもしれないわ」

紬さんの言葉に少しの期待を抱いて
今日は梓ちゃんと一緒にそのまま家に帰ることにした。

家に着くとお姉ちゃんは昨日のことなど無かったかのように迎えてくれた。
梓ちゃんとも取り留めのない会話をして、楽しそうに微笑んでいた。
その様子を見て、このまま一緒に過ごすうちに何かきっかけを作れるのではないかと
益々期待を膨らませた。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 06:29:48.95 ID:7EQJmppb0

次の日も、梓ちゃんと一緒に部室に顔を出した。

梓「あの、昨日の話ですけど」

澪「ああ、私も一晩考えて見たんだけど、唯には何か遣り残したことがあるんだと思う」

梓「遣り残したこと?」

澪「そう、梓のことでだ」

憂「どういうことでしょうか?」

紬「さっき3人でも話してたんですけど、唯ちゃんは梓ちゃんのことを忘れてるのよね」

紬「それって多分、梓ちゃんに何かを伝えたかったけど、
  死んでしまってそれが永遠に叶わないと知ったからじゃないかしら」

紬「しかも相当な心残りなんだと思うの。だから思い出も全部心の奥に仕舞ったのよ」

紬「でも、幽霊になった梓ちゃんは見える。
  これは、その心残りを晴らすチャンスだからじゃないかしら」

なるほど、と思った。
だからお墓参りに行ったのかもしれない。
そして、梓ちゃんの幽霊が見えるわけもわかった。
しかし、何故梓ちゃんが現れたにも関わらず心残りを解消しないのだろうか。
その疑問に答えるように澪さんが言う。

澪「そのチャンスがあるのに出来ない訳は、
  多分本人が何を伝えたいのか忘れているのかもしれないな」

律「唯らしいよ、ホント」



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 06:46:15.52 ID:7EQJmppb0

梓「じゃあどうやって思い出させればいいんでしょうか?」

紬「それはね、一緒に居るだけでいいのよ」

梓「一緒に居るだけ、ですか」

澪「梓に伝えたいと思ってることだ。
  梓と一緒に居るうちに、以前に伝えたいと思っていた気持ちと同じ事を思うかもしれない」

律「時間は掛かるかも知れないけどさ、一番いい方法だと思うぞ」

梓「でも、何話したらいいのか・・・」

律「昔みたいに接したらどうだ?」

梓「そうは言っても、昔はギター教えたりしてましたけど・・・唯先輩、今は・・・」

澪「そうだな、唯がギターを弾いていれば切っ掛けは作れただろうけど」

紬「この際、ギターを教えてあげたらどうでしょう?」

みんなは疑問の声を上げたが
紬さんは確信に近い自信があるようだった。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 07:03:48.82 ID:7EQJmppb0

紬「これを開けてみて?」

紬さんは、壁に立て掛けてあったギターケースを机に置く。

梓「え?でも私幽霊ですよ。物に触ることなんて・・・」

紬「それは先入観よ。だってここ3階なのよ?」

紬「それに階段も上がってこれたでしょ。
  物に触れられないのに足場は確保できるっておかしいと思わない?」

紬「それはね、幽霊は地面に立ったり階段を上がったりできるけど、
  物には触れないって本人が思い込んでるからだと思うの」

紬「それに壁を通り抜けられるって思えば、それもできるし、
  何かに触りたいって思えばやっぱりそれも出来ると思うの」

梓ちゃんはそれを聞いて
ギターケースに触れる。

梓「あ・・・触れた」

慎重にギターケースを開ける。

梓「これ・・・私のギター・・・」

紬「ええ、ご両親に無理を言って、
  私たちが卒業するまで軽音部に置かせてもらうことにしてたの」

律「梓、持ってみろよ」

梓ちゃんはストラップを肩に掛け、ギターを持つと
懐かしげに、感触を確かめるように撫でた。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 07:15:04.86 ID:7EQJmppb0

澪「久しぶりに、弾いてみないか?」

律「そうそう、唯の変わりに憂ちゃんも居るし」

紬「唯ちゃんも今日は掃除当番だったかしら、ならまだ学校にいるかも知れないですね」

澪「なるほど、おい律、窓開けるぞ」

律「唯にも聞かせるんだな。よっしゃ」

私も一緒に窓を開けて、部室の扉も開けた。
もし、お姉ちゃんに私たちの演奏が聞こえれば
きっと気づいてくれるはずだ。
梓ちゃんのギターが交じっていることを。

律「準備できたかー?」

梓「いつでもいいですよ」

澪「なんだか久しぶりだな」

紬「懐かしいです」

憂「学園祭前に戻ったみたいですね」

律「それじゃあいくぞー。ワン、ツー、スリー、フォー!」



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 07:27:27.51 ID:7EQJmppb0

──梓ちゃんのギターを弾く姿は生き生きとしていた。
──澪さんも紬さんも何時もより楽しそうだった。
──律さんのドラムは何時も以上の迫力があって、まるでお姉ちゃんを呼んでいるかのようだった。

演奏が終わって静寂の後
どこからか拍手が聞こえてきた。

入り口に目をやると
満面に笑みを湛えたお姉ちゃんが、そこに居た。

憂「お姉ちゃんっ」

唯「みんな、あのね──」

唯「ありがとう。それから、ごめんなさい」

お姉ちゃんは私たちの目の前まで来ると
一人一人の顔を見て、最後に梓ちゃんに目を止めた。

誰も何も言わなかった。
ただ、お姉ちゃんの言葉を待っていた。
誰もが聞きたかった言葉を、私は聞いた。

唯「あずにゃんっ」



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 07:39:16.77 ID:7EQJmppb0

唯「私ね、やっと思い出したんだ。あずにゃんのこと」

唯「ずっと忘れてた。でも、さっきの演奏で全部思い出したよ」

唯「それから、あずにゃんが私に話してくれた先輩のこと、私のことだよね?」

梓「はいっ」

梓ちゃんは笑顔で大きく頷いた。

唯「大好きだって言ってくれたよね」

梓「はいっ言いました。唯先輩が大好きですっ!」

唯「私、あの時凄く悲しくて泣いちゃったって言ったけど、違うって分かったの」

唯「凄く嬉しかったんだよ」

唯「それでね、ずっとあずにゃんに伝えたかったことも思い出したの」

唯「お墓の前でもそのことを伝えたかったんだと思う」

唯「でも、これを伝えたらあずにゃんが消えちゃうんじゃないかって──」

唯「凄く不安で、でも今言わなきゃ絶対後悔するから言うね」

唯「あずにゃんのこと、大好きっ!」



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 07:55:31.96 ID:7EQJmppb0

お姉ちゃんは、勢いよく梓ちゃんに抱きついた。
触れることが出来ないのではないかと思ったが
二人は互いをしっかりと抱いていた。

梓ちゃんもそうしたいと心から願ったのだろう。

二人は見つめあい、そっと唇を重ねた。

その二人を誰もが暖かな目で
満面に祝福を湛えた表情で、
包み込んでいた。

暫く二人は抱き合っていたが、梓ちゃんは消えることは無く
少し照れながら口を開いた。

梓「なんだか恥ずかしいです。唯先輩」

唯「う~ん、もうちょっと~」

お姉ちゃんは梓ちゃんに甘えるように頬擦りをしていた。

梓「は、離れてくださいよ」

唯「だって、消えないんだもん」

梓「そ、そうですけど・・・消えて欲しいんですか?」

唯「やだ。でも、消えるまで離さない」

梓「じゃあずっと離さないで下さい」



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 08:09:42.28 ID:7EQJmppb0

二人はもう一度キスをしてお互いを確かめ合った。

そんな惚気た二人に妬いたのだろうか
澪先輩が口を開く。

澪「でも、何で梓は消えないんだ?普通、幽霊って心残りが無くなったら成仏するもんじゃないのか?」

律「そもそも、梓の心残りって何なんだ?」

憂「ギターを弾いてるお姉ちゃんの笑顔が見たいって言ってましたけど」

梓「でも、今の唯先輩の笑顔が一番です。私はこれで満足なんですけど」

紬「もしかして、ずっと一緒に居たいって思ってるんじゃないかしら」

梓「そうかもしれないです」

唯「じゃあ一緒に居ようよ。これからも」

梓「はいっ」

お姉ちゃんの笑顔も、梓ちゃんの笑顔も
今まで見てきた笑顔よりずっと幸せそうだった。
このままでもいいのかな──このままが一番幸せなんだ
そう思うと、私まで幸せな気分になった。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 08:19:14.82 ID:7EQJmppb0

それからは、お姉ちゃんと梓ちゃんが居る生活を楽しく過ごした。
3人で街に出かけることもあった。
周りの人からも、どうやら梓ちゃんが見えているらしい。
鏡にも映るみたいで、まるで本当に生きているようだった。

私もお姉ちゃんも、梓ちゃんが生きていたときと変わらずに接した。
学校には一緒に通えないけれど、
先生の目を盗んでは軽音部の部室でお茶をして過ごした。

お姉ちゃんが軽音部に復帰したことで、私は居なくても大丈夫なのだけれど
そのまま軽音部に留まって、梓ちゃんのギターでライブをしたりもした。

幸せだった。
何もかもが幸せだった。
梓ちゃんが居る生活が。
幽霊になっても、触れ合うことが出来る梓ちゃん。
このまま、ずっと一緒に居られる。
このまま、梓ちゃんと──ずっと── 一緒に ──



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 08:27:57.42 ID:7EQJmppb0

声が聞こえた。

──うい。
──憂。
──私が付いて居るからね。
──だから、早く・・・

目を開くと、お姉ちゃんが私の顔を覗き込んでいた。

憂「お姉ちゃん・・・」

唯「憂・・・」

憂「お姉ちゃん、あのね──昨日ね、梓ちゃんと一緒にお出かけしたの」

憂「お姉ちゃんがいつもいくケーキ屋さんでね。ケーキ食べたの」

憂「それで、梓ちゃんもおいしいねって・・・」

憂「それからね──」

唯「憂・・・あずにゃんは死んだんだよ・・・」

憂「知ってるよ。でも、いつも私たちと一緒に居るんだよ」

唯「・・・うん、そうだね」



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 08:37:58.64 ID:7EQJmppb0

お姉ちゃんは私の手を強く握った。

唯「憂。私が付いて居るからね」

唯「だから、早く良くなってね」

私は、見知らぬ部屋の白い天井を眺める。
真っ白なベッド、真っ白なシーツ、窓の外には銀杏の木が見える。

憂「ここ、どこだっけ?」

唯「病院だよ」

あぁ、夢だったのか・・・長い夢だった・・・とても幸せだった。

お姉ちゃんに目を向けると、傍らに背の低い女の子が居た。

憂「お姉ちゃん、その子お友達?」

お姉ちゃんは、私の視線の先を目で追った。
暫く女の子を見つめた後、私に顔を戻して
お姉ちゃんは首を振って答えた。

唯「誰も居ないよ。憂」

おしまい。




51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 08:42:50.66 ID:vf8MrI8pO





52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 08:42:58.55 ID:+nFcVjUG0

なん・・・だと・・・



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 08:44:30.63 ID:ReXqa61I0

ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 08:45:19.48 ID:RkFkcTej0

途中までチープな展開だと思ってたら、こんなオチとは・・・



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 08:45:33.77 ID:JiUK0tg5P






56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 08:49:35.71 ID:7EQJmppb0

だって、ホラーにしろって言うんだもん。

人の出した御題で書くのは考えるのにも時間が掛かってしまいますね。
慣れないことを必死でやるとまぁこんな感じです。
眠い目を擦りながら朝までやりましたが、
見てくださった方には相当のご苦労でしたでしょう。
お憑かれ様でした。




57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 09:03:46.12 ID:Z91He4xm0

夢オチだったのが残念に思ってしまう…



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 09:11:55.20 ID:kcsZCbslO

即興なんだぜ、コレ…



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/15(土) 09:13:12.98 ID:PJs/FcdGO

素直に面白かった。乙






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