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憂「アヴァロンへようこそ」#前編 【SF】


http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1251769244/

憂「アヴァロンへようこそ」#前編
憂「アヴァロンへようこそ」#後編




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 10:40:44.41 ID:xhDGRan60

喪われた近未来――

現実への失望を埋め合わせるべく、若者たちは仮想戦闘ゲームに熱中していた。
架空の世界で繰り返される死。
その見返りとしての興奮と報酬は多くの若者を熱狂させ、
パーティと称する非合法集団の群れと無数のゲームフリークス(ゲーム中毒)を出現させた。

時には脳を破壊され、未帰還(ロスト)者と呼ばれる廃人を生み出す危険なゲーム。
この呪われたゲームは、英雄の魂の眠る場所――

それを人々は”アヴァロン”と呼んだ。





3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 10:41:40.23 ID:xhDGRan60

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Detalls
A-0253361 Wasteland
154023 009513 052586
-0035 0351 0195

Main Battle Tank-1 T-72M2 37-412-9174
048500,0106,004680
-Lock on-
Main Battle Tank-1 T-72M2 37-412-9155
177232,01693,01693
-Lock on-
Main Battle Tank-1 T-72M2 37-232-9105
201925,01935,00897
-Lock on-
Anti Aircraft Tank-1 ZSU-23-4M1 SHILKA 37-805-7179
080325,-00128,-00788
-Lock on-



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 10:42:29.90 ID:xhDGRan60


ヘリの爆音、そして戦車の隊列が草原を駆ける轟音が私のお腹にまで響いてきます。

ZSU-23-4M1 ”シルカ”対空戦車が、砲塔を旋回させている。
小さなレーダーを乗せたお椀のお化けのような砲塔から4つの23mm機関砲が生えた姿はちょっと不格好。
4つの発射炎を噴き出しながら、薬莢がバラバラと散らばります。触ったら熱そうだなあ。

その内ヒューンと甲高い音を立てて、対戦車ミサイルが空から降ってくる。
あっという間に4台の戦車たちは炎につつまれ、火柱が上がります。

キャタピラが外れ、散らばり、パーティクルで構成された爆発の”エフェクト”が交互に重なり合う。

でもこの”クラスA 0253361番 ウェストランド”は、もうお別れ。

私の周りは煉瓦を崩していくように切り替わり、ヨーロッパ風の町並みが姿を現していきます。

どんよりとよどんだ空気が、私のやる気をちょっぴり奪うけど、
逃げまどうニュートラルたちが私の気を引き締めます。

街道の向こうからは、数台の戦車。
逃げまどう民衆。
爆音と轟音、悲鳴、雄叫び。
殺人と破壊、戦闘のお遊戯。
空の色はくすんだままで、私の色も褪せて落ちてしまったよう。

そんな中に、私、平沢唯は降り立ったのでした。



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 10:43:36.90 ID:xhDGRan60

T-72M2戦車のドライシングルピンキャタピラがきしみ、キュラキュラと嫌な音を立てます。
私は持っていたライフルを肩に背負うと、一目散に走り出しました。

唯「……っ!!」
他のプレイヤー……ファイターやシーフ、メイジたちが、銃を撃ち鳴らします。
T-72の前面装甲にはじかれ、AKの軽い銃声と虚しい金属音が響き渡る。

クーン、とサイレンと手押し車を合わせたような音が聞こえてきて、
視界の隅にいるT-72の砲塔が回るのがわかる。

唯「はっ……!」

私はすぐさま戦車に肉薄して、よじ登らんばかりになります。

戦車は同軸機銃を撃ちまくり、プレイヤーたちが撃たれ、死亡していく。
この”アヴァロン”のルールは単純。
敵を倒して、経験値を手に入れる。死亡すれば、苦痛とともに現実へと還る。
ふと前を見れば、他のプレイヤーが私を見つけて銃を向けている。
私が敵を倒して、経験値をもらっていっては困るみたい。

唯「やってやる……っ!」

いきなり始まった相手の銃撃を戦車の車体でかわし、その上に飛び乗る。
待ってました、といわんばかりに私は砲塔の上へよじのぼり、
ぺたりとキューポラの上に腰を下ろした。
すぐに車載機銃のグリップに掴みかかり、敵に照準を合わせて、トリガーを叩く。

唯「うああああっ!!!」

大口径の機銃弾が敵に浴びせられ、一瞬のうちに死亡、消滅。
路上の車が蜂の巣になり、タイヤがガタガタと沈み込みます。

ベルトリンクで給弾される弾薬が無くなるまで、私は撃ち続けました。
気づけば、もう敵はいない。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 10:44:45.23 ID:xhDGRan60

唯「はぁ……」

私はおもむろに立ち上がり、灰色の空を見上げました。
顔を覆っていたマスクとヘルメットを投げ捨てて、深呼吸。

唯「……ふぅ……」

そして、ホルスターからPPK拳銃を取り出して、撃ち漏らしたプレイヤーを一人、殺しました。


唯「クラスAは、まだ早いよ」

唯「レベルを上げて、出直てきなさいっ」


ちょうどそのとき、私の上を重攻撃ヘリが爆撃していきました。



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 10:48:07.88 ID:xhDGRan60

たくさんのプレイヤーたちが、草原を駆け抜けていく……。
鯨に虫の頭を生やしたような重攻撃ヘリが空中に出現して、プレイヤーたちは熱気に包まれました。
フラグ……マップの最終目標です。

二つの巨大なローターが爆音を上げて、草を吹き飛ばす。

唯「ほっ……! ほっ……!」

私はみんなが塹壕を飛び越えフラグへと向かっていく中、塹壕の中を駆け抜ける!

肩には大事なSVD狙撃銃を担いで、できるだけ早く走っていく。
他のみんなが、機関銃を浴びせ、RPGを撃ち込んでいる。

でも正面からじゃ、パーティでも勝てるはずがない。
プレイヤーたちはロケット砲を空から撃ち込まれ、機銃掃射を受け、どんどん死亡していきます。

私は一番近い廃墟の中へと飛び込み、天井のない二階へと駆け上がる。
ちょうどい壁の穴を見つけて、すべりこみながらSVDの安全装置を解除する。
足を広げて、スコープを覗き込んで……。

唯「いくよ……!」



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 10:50:31.04 ID:xhDGRan60


敵はミサイルとロケットを撃ち尽くし、空中で優雅にホバリングを決めている。
私はゆっくりとスコープの倍率を上げて、息を整える。

唯「しょだん!」
はずれ。
コックピットに風穴を開けるだけ。

唯「じだん!」
はずれ。
コックピットに風穴を開けるだけじゃ涼しくなっちゃう。

唯「……とどめっ!!」

引き金を引いた瞬間、私は床の大穴から一回へと飛び込む!
廃墟の横で放棄された戦車の上に飛び乗り、車載機銃を上に向け、敵を睨んだ。
兵装を操作する人間を失った敵機は、もはや的と同じ。
無心で機銃を撃ちまくり、遠目に見ても敵の機体は穴だらけ。
そして、爆発。

私はちょっとだけ青い空に向かって、投げキッス。
誰かが上から見ていたような気がしたけれど……そんなこと気にならないくらい、嬉しいからいいや。

Mission Complete



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 10:52:30.44 ID:xhDGRan60

Destoyed Emeny
------------------------------
Dog Soldier x13 4120e+06
Heavy Armed Soldier x3 5800e+06
Player x9 1620e+06
Heavy Armed Chopper x1 320000e+06
------------------------------
Point 308968e+06
Time 10:00:00
------------------------------
Gotten Item
SVD 7.62x56R x1Mag 30000e+06
PPK 380ACP x2Mag 12000e+06



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 10:53:11.58 ID:xhDGRan60

AWETGKAOEWFEGPLPLPSLEGPHERJHOERSGHKS+LFWEPGF
FJODWADKZ+FSPFJQWDKL+AFSDZJFAKPFDKAFKW
EKSAFJKLASDJ          AWLFKDJSZKVG
FOKAEJFOKSAM          KALSDJJFGAHW
ODKGOSJKOTSO  AVALON  IOEJFIHSJFNE
FEISJFKLASNC          ;VJSLA;KFPOE
OWIEOQWKDOAC          DGIJSOPFKA@W
FSOJKFKLDZMVKLSDJFOPAKFL;WAFDL;AJFOAOFJAWOPA
GESKGSLEFEAWFOWIEWLGSIGZGIRESLKGPSKGRSGKSEKG

LOG OFF ...



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 10:53:54.45 ID:xhDGRan60

ぼんやりと、真っ暗な視界が戻ってきて、私は意識を現実に戻しました。

唯「ん……うぅっ……」

薄暗い、壁に配線の走った個室……下着姿でベッドに寝ころんだ私。
ゆっくりと頭に被った端末を脱いで、一息つく。

ベッドから降りて、壁にかけた服を着る。
汗かいたから、帰ったらシャワー浴びなくちゃ。

さわ「相変わらず見事な腕前ね、”うんたん”……いえ、唯ちゃん」

天井からぶら下がったモニターの中に、さわちゃん先生が姿を現した。

唯「さわちゃん先生~」

この人は”アヴァロン”のゲームマスターと言われている人。
なんだけど、私はなんとなく、さわちゃん先生と呼んでいる。
……どことなく、昔通っていた学校のある先生に似ているから。

唯「さわちゃん、7.62mmを1マガジンと、PPK、2マガジン補充したいな」


さわ「もう二、三度コンプリートすると、レベルアップよ」
さわ「タイムリミットのハンディがつくわ。判っている?」

唯「……残ポイントはキャッシュでお願い、さわちゃん先生」

さわ「ソロプレイは今まで以上に危険になるわ……」
さわ「また、パーティを組む気は……ないの?」



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 10:55:47.04 ID:xhDGRan60

私は黙ったまま、コートを着込むと、通路に出て行きました。
もう、パーティは組みたくない。
さわちゃん先生だって、知ってるはずなのに。

ロビーに戻ると、さっきの私のプレイが巨大なモニターに映し出されていた。
他のプレイヤーたちが、食い入るように見つめている。
私は気にせずカウンターの前に立ち、IDカードを差し出す。

唯「お願いします」

ポイントは、お金に換えることができる。
かくいう私も、そのお金で生活しています。

和「いい稼ぎね」

カウンターの向こうから、聞き慣れた声が届く。

唯「うん、まあまあね」

私の幼なじみの、和ちゃん。
今はこうして、プロバイダのカウンターのお仕事をしています。
引き出しを開けて、お札を数えてている間、私はカウンターの周りを見回した。
二人の子供の像。
左の子の首はなくなってしまっている。

和「はい、今日の分」

和ちゃんが慣れた手つきでお札を束ねて、IDカードと一緒にカウンターに滑らせた。

唯「ありがとう」

唯「じゃあ、帰るね和ちゃん」

和「ええ、憂ちゃんにもよろしく」

唯「うん」

和ちゃんは、アヴァロンから還ってきた私を見る度、なにかもの悲しい表情をします。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 10:57:26.04 ID:xhDGRan60

建物から出ると、夜の冷えた風が私に身体に突き刺さります。

唯「うう~っ、寒い!」

早足で、家へと急ぐ私。家に帰れば、憂が待っているから。

電車に揺られながら、私は今日の戦いを思い出しています。
ちょっとぼーっとしてしまうと、エンジンの爆音と、キャタピラの軋む音が聞こえてくるよう。
とっても静かな電車の中でも、心がなかなか落ち着かない。

唯「……はぁ……」

戦争中毒? アヴァロンは仮想空間だよ……?

電車の中で振り返った時、自分の目つきが違うことに気がついた。
こんなの私じゃない……平沢唯じゃないよ。

唯「……っ!」

私は頭をぶんぶんと振って、早く憂の待つ家に帰ろう、それだけを考えました。

隣の線路を、反対方向の電車が走り去っていく。



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 10:58:11.76 ID:xhDGRan60

唯「ただいま」

憂「お帰りお姉ちゃん! ご飯、できてるよ」

憂「一緒に食べよ」

唯「うい~っ!」

思わず、憂に飛びついてしまう。

憂「もう、お姉ちゃんったら……」

やっと、やっと現実の世界に還って来れような充実感。
殺伐とした殺しの世界では決して感じられない温かさがそこにあります。
それを憂もわかってくれるから、ゆっくりと私を抱きしめてくれる。

唯「メールは……なし、か」

ご飯を食べ終わって部屋に戻った私は、何気なくパソコンの電源を入れていた。
相変わらず、メールは誰からも来ない。
あの日から、誰からも連絡など来ていない……当然だよね。

私はパソコンをほったらかしにして、ベッドに身を投げた。
冷えた布団が、廃墟の空気のようにまとわりつくのを感じて、身震いしてしまう。

そのまま私はやりきれない気持ちでいっぱいになって、泣いてしまった。

明日になれば、またアヴァロンで戦って生活する。
だから、泣いちゃダメだよ、私。
私のするべきことは、憂にこれ以上迷惑をかけないで、一緒に幸せに暮らすことなんだから。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 10:59:38.86 ID:xhDGRan60

つぎのひ!

私はロビーに集まる人だかりがいつもより増えているのに気がつきました。
昨日私が墜とした重攻撃ヘリを他の人が破壊した映像らしい。

唯「……!」
「おい……この戦法ってよ」
「まるで”うんたん”の……」

ヘリが爆発を残して跡形も無く消え去り、小さく歓声が沸いた。

「奴よりも早いぜ……」
「しかも、確実ときた」

マントを被った人が、私と同じ戦法で、私よりも早く確実にヘリを破壊していた。
私に対する挑戦……?
あの人は何がしたいんだろう。
内心はらはらしながらモニターを見ていると、その人がこちらを振り返った。

唯「うそ……」

ウェーブした綺麗な髪、たくあんみたいに太い眉毛。
人差し指と中指をクロスさせて、にこやかに笑っているのは……

唯「ムギ……ちゃん……?」

そしてにこやかな笑みが、ふっと挑戦的な笑みへと変わった。
嫌らしいほどに優雅な笑顔。
私はすぐにロビーの隅にあるパソコンへと走った。

唯「ごめんなさい、どいてっ!!」

パソコンの前にいた人を突き飛ばして、私はキーボードを叩き始めた。

唯「クラスA完遂者……最新データを要求……!」

ムギちゃんがアヴァロンにいたなんて……誰からも聞いてないよ。



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:00:43.26 ID:xhDGRan60

モニターに検索結果が表示されて、私は食い入るように見ました。

唯「クラス……”ビショップ”」

唯「登録名不詳!?」

意味がわかんないよ。
登録者名が表示されないなんて、ありえないはず。

唯「そうだ、アクセスポイントを……」

検索にムギちゃんのアクセスポイントを要求する……

唯「データなし……?」

ありえないよ。どこからもアクセスしていないなんて。

唯「そうだ……さわちゃん先生に……っ!!」

滑って転びそうになりながら、私は端末のある個室へと走った。
勢いよくドアを開けて、モニタに向かって叫ぶ。

唯「さわちゃん!!」

さわ「どうしたの? 唯ちゃん」
さわ「まだ回線は空いてないわよ」

部屋の電気が点き、モニタにさわちゃん先生が現れる。

さわ「いくら”うんたん”の唯ちゃんでも順番は……」

唯「それはキャンセルでいいから!」
唯「さわちゃん先生。頼みがあるの……!」

さわ「それは駄目よ。唯ちゃん」

唯「どうして!?」

さわ「個人的な依頼は受けられないの。公正を欠くことになるから」
さわ「唯ちゃんも、わかっているはずよ」

唯「お願いさわちゃん! クラスAをクリアした”ビショップ”の情報が欲しいの!」
唯「パソコン以上の検索ができるはずでしょ!?」

さわ「……どうして彼女のことを?」

唯「どうしても会わなきゃいけない人なの……!」

さわちゃんは先生は少しばかり沈黙した。



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:02:31.87 ID:xhDGRan60

私の必死の願いは、伝わっただろうか。

さわ「……”うんたん”」
さわ「他のプレイヤーとの接触は持たない」
さわ「それがあなたの主義じゃあなかったの?」

さわちゃん先生の声は、冷たく私の耳に届いた。

唯「……うん」

私は、あの日から”ソロプレイヤー”として生きることを選んだ。

唯「それが、私の主義だよ……」

私はそれ以上何も言うことなく、個室を後にした。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:03:57.90 ID:xhDGRan60

アヴァロン――林檎の樹と霧の彼方の伝説の島
アヴァロン――いつの日か
アヴァロン――英雄の訪れる妖精の島
アヴァロン――いま英雄が旅立ちを迎える伝説の島
アヴァロン――九人の女神と
アヴァロン――ともにある聖霊の島
あゝ、アーサーよ
霧の水面にいま船は旅立つ――アヴァロンへ



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:07:39.14 ID:xhDGRan60

?「ねえ、ちょっと!」

夜も更けたある日の帰り道、私は聞き覚えのある声に呼び止められました。

唯「誰?」

電灯の下に照らされたその人は、すらりと伸びた綺麗な黒髪、豊かな体つき……そう、澪ちゃんでした。

澪「やっぱり唯、か……」

唯「澪……ちゃん……」

澪「元気そうだな」

唯「……う、うん」


過去の栄光を今一度照らすように懐かしみ、微笑み、澪ちゃんは言った。

澪「唯、今時間ある? 少し、話したいこともあるんだ」

唯「あ……うん、いいよ」


”放課後ティータイム”の仲間。
輝かしく、忌まわしい過去を一緒に背負った一人。

私たちはアヴァロンのプレイヤーたちが利用できる食堂に入っていく。
お金を払ってもIDカードを持っていなければ、ここで食事することはできない。
あんまり美味しいわけじゃないけど、たまに私もお昼ご飯をここで食べることがある。

澪「いろんな噂が耳に入ってくるよ。”放課後ティータイム”のメンバーだったせいもあるけど……」

澪「ほんと、未練なのかな」


”おじや”の盛られた皿をトレイに取りながら、澪ちゃんが言う。

澪「顔を突っ込むつもりなんかないのに、聞きたくもない話を聞かされるよ」

唯「そうなんだ……」


私はココアをひとつもらって、トレイの上にちょこんと乗せる。
澪ちゃんはミネラルウォーターのペットボトルを一本とっていた。

澪「凄腕のソロプレイヤーがいて、それが女の子だ、ってさ」

澪「もしかして、って思ってたら……ほんとに唯だった」


秋刀魚の煮付けと漬け物をトレイに乗せながら、澪ちゃんが続ける。



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:12:40.56 ID:xhDGRan60

唯「澪ちゃん……調べたの?」

澪「何を?」

唯「私のデータ」

澪「……偶然だよ。嘘じゃない」

澪「また唯たちと組むことができるんだったら……運命の再会かもしれない」


私は、何も答えない。

澪「……じゃあ、あそこで食べよっか」


食堂の机の端をとって、二人向かい合って座る。
私のトレイを見て、澪ちゃんが不思議そうな表情を浮かべた。

澪「……あれ? 唯は晩ご飯、食べないのか?」

唯「憂がご飯作って待ってるから、いいの」

澪「……そっか」

澪「ごめんな、唯。つきあわせちゃって……」

唯「ううん、全然いいよ」


私はココアを一口飲んで、澪ちゃんはおじやを一口食べる。

澪「唯は”ファイター”だったよな」

澪「”ファイター”なら、ソロでもプレイできる」

澪「私は”シーフ”だから、ソロじゃとてもじゃないけど戦えないな」

唯「そっか……澪ちゃんは今、どうしてるの?」

澪「適当なパーティと、斥候と罠の解除とか、ナビゲーターやってる」


ミネラルウォーターをぐいっと飲んで、澪ちゃんは一息ついた。

唯「でも澪ちゃんの腕なら、どこでもやっていけそうだね」

澪「ふふっ、そうでもないよ」

澪「……放課後ティータイムのわだかまりが……今も残ってる」


あまり聞きたくない言葉が、私の耳に届く。

澪「他の人だって、そうさ」

澪「最強といわれた”放課後ティータイム”のメンバーだった過去は……ハンディにすらなるから」



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:14:05.47 ID:xhDGRan60

澪「”放課後ティータイム”は……」


もう聞きたくない。……頭が痛くなってきた。
澪ちゃんの口から発せられる言葉の一つ一つが耳に届く度、胃がきりきりと痛み、吐き気がする。
澪ちゃんはどうしてそんなことを次々と言えるのかわからない。

唯「……っ!」


気がつけば私は、思い切り机を叩いて立ち上がっていた。

澪「唯……」

澪「ご、ごめん唯……私……っ!」


澪ちゃんが顔色を変えて、私に謝る。

唯「聞きたくない」


私は澪ちゃんを一瞥すると、椅子から離れた。

澪「ひっ……!」


澪ちゃんがすくんだように私を見上げる。

唯「……想い出に浸ってるほど、私も暇じゃないから」


私は財布からお札を適当に数枚とると、澪ちゃんのトレイに投げた。

澪「唯……!」

唯「お礼はいらないよ」


アヴァロンのおかげですっかり険悪になった私の目を見て、澪ちゃんがおそるおそる言った。

澪「違う……」

唯「?」

澪「そうじゃない!」


澪ちゃんが声を荒げて、私を制止した。

澪「待って唯……梓のことは?」

唯「あずにゃん……?」


何であずにゃんの話になるの。
あずにゃんがどうしたっていうの? もうみんな離ればなれなのに。
私が途方にくれたように立ちつくすと、澪ちゃんがホッとしたように続けた。

澪「その様子だと……聞いてないみたいだな」

澪「梓もソロでやってたんだけど……”ロスト”した」



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:21:14.39 ID:xhDGRan60

真っ白な病院の壁が、窓から入る陽光を反射する……。
看護士が車いすを押し、担架に横たわった患者の世話をしている。

――唯も、聞いたことがあるだろう。クラスAの、隠れキャラの話……。

車いすに座った男の人は、ぐったりと虚空を見つめている。
その目には、もう二度と光は差さない。廃人。
私は思わず目を逸らして、早足で歩いた。

――出るんだって、妙なニュートラルキャラクターが。

病棟のそこら中、死んだように眠る廃人だらけ。
医者や看護士たちは働きアリのように歩き回る。

――哀しそうな目をした、少女なんだ。
プログラムのバグだっていう人もいるらしいけど……”ゴースト”って呼ばれてる。
その少女を追いかけた人は……”未帰還”……つまりロストしてしまうんだ。
それが判っていながら、なぜ追うのか……?

唯だって知ってるだろ。
リセット不能の幻のフィールド、”スペシャルA”が存在するって噂を。
危険だけど、獲得できる経験値も法外なフィールド……。
”ゴースト”はそこに通じる唯一のゲートなんだそうだ。
だから、追う。アヴァロンを究めようとするプレイヤーは……。
スペシャルAを目指して。

梓も――



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:23:49.86 ID:xhDGRan60

ベッドに横たわったまま、物言わぬあずにゃん。
その目は、一体何を見ているのかわからない。
でも、何か……遠いようで近い、
もうひとつの世界のようなものを見ているような気がして、私はあずにゃんを見つめた。

唯「あずにゃん……」

目を瞑れば……あの日を思い出す。
軽音部のみんなと共に送った日々を。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:26:09.66 ID:xhDGRan60

律「澪! アヴァロンって知ってるか?」

澪「なんだそれ、馬か?」

律「違うっ! 今話題のネットゲームだよ!」

IDカードを申請して登録すれば、誰でもできる。
当時、現行のMMORPGとかを遙かに凌駕した究極のネットゲームといわれていた。
個室を借りて、頭に端末をかぶってプレイすれば、現実のような感覚でネットゲームができる。
究極だけど、リアルすぎて”おたく”向け。

ルールは簡単。現実的すぎる仮想空間で、銃を持って戦う。
プレイヤーキャラクターの職業を選んで、経験値でレベルを上げ強くなる。
ポイントは武器を買うため、そして現実のお金に換算することもできる。
いわゆる”プロゲーマー”になれば、それで生活することもできることが証明されたのはまだ先の話だけど……。
でも”おたくゲーム”なんて言われていたのもつかの間。
女子高生でも、会社員でも、誰でもその魅力に取り憑かれていった。
バランスのとれた6人ほどのパーティをくみ、他のパーティたちと競い争う。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:29:07.60 ID:xhDGRan60

澪「みんな、新聞の記事を見たのか!?」

澪「脳を壊されて廃人になるって……!」

律「でもよお、それって年に数人だろ。澪」

澪「それにしたって危険じゃないか!」


澪ちゃんはこのゲームの危険さ……
きっと、脳を破壊されて廃人になる前に、
ある種の廃人になってしまうことが想像できていたんだと思います。

唯「でも、お小遣いも入るし……何より面白いし」

紬「まあ、私も悪くないと思うわ」

律「梓はどう思う?」

梓「澪先輩が正しいと思いますっ!」

梓「練習だって回数減っちゃってるじゃないですか!」

どうしてあの時、私は気づくことができなかったんだろう。

律「ようし、じゃ練習して、帰りにみんなでアヴァロンやろうぜ!」

唯「さんせーいっ!」

梓「それなら……まあいいですけど」


大学を中退した私は、アヴァロン最強とうたわれたパーティ”放課後ティータイム”の一員となっていた。
りっちゃんと澪ちゃん、あずにゃんそして……私。
ムギちゃんは遠くへ嫁いでいってしまい、それ以来会うことができなくなってしまっていた。

みんなと会うのは、アヴァロンの中だけ……。
みんなで集まってバンドをすることは、なくなっていた。
その時の私は、アヴァロンの面白さに取り憑かれ、アヴァロンでお金を稼ごうと戦いに戦いました。
そんな私の姿が、澪ちゃんの言っていた”ある種の廃人”であることも気づけないまま。
莫大な報酬が手に入るクラスAに行けるだけの実力をつけた私は、さらにアヴァロンにはまっていった。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:32:07.75 ID:xhDGRan60

澪ちゃんは、大学に行きながらも、私たちに会うためにパーティに来てくれていました。
りっちゃんはフリーターとしてバイトをしながら、パーティにつきあってくれました。
あずにゃんはなんと、レベルが上がりづらいといわれる”ビショップ”で私よりも強くなっていました。
あずにゃんは高校を卒業してから、自分の身の上のことはまったく話さなくなりました。
最近は何をしているの? と聞くと、何かと話しをはぐらかされてしまう。

律「すっげえなぁ、報酬!」

澪「ほんと、唯と梓のおかげだな」

唯「そんなことないよ、みんなで戦って手に入れたお金だもん!」

梓「そうですね」


こんな時ばかりは、あずにゃんも可愛らしい笑みを見せてくれる。

律「んじゃゲームマスター、PG-7を5本補充ね!」

澪「多いだろ! 3本にして、後は7.62mmを3マガジンにしときなさいっ」


私たちはありあまる報酬を山分けして、アヴァロンでの名声を勝ち取った。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:35:31.91 ID:xhDGRan60

――機銃掃射だ!!

私は廃墟の中を駆け抜け、必死に遮蔽物を捜す。
窓の外の空には、2機のMi-24ハインドが迫っている。

その日私たちは、Aランクの中でも最も難しいといわれるマップを攻略していました。
強豪たちが”空の悪魔”ハインド攻撃ヘリのコンビネーションの前に敗れ去る恐ろしいマップ。


梓「澪先輩!! 右へ迂回して牽制をぉっ!!」


あずにゃんが一階にある壁の穴から、超低空に降りてきたハインドに向かって威嚇射撃する。
ガトリング砲の掃射がはじまり、あずにゃんは瓦礫の中にもがくように丸まる。

梓「……っ!!」

唯「あずにゃん!!」

梓「唯先輩!! 構わず火力を集中させてください!!」


あずにゃんが通路で立ち止まる私に怒鳴る。

律「唯! こっちだ早く!!」

澪「もう弾薬が少ない…っ!! いったん退却しよう! 梓!!」

律「くっそドジ踏んじまった!!」



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:36:34.62 ID:xhDGRan60

りっちゃんが急に立ち止まり、瓦礫の裏に飛び込む。
私は思いっきり転んでしまって、銃が床の大穴から一階に落ちてしまう。

唯「……きゃあっ!!」


その直後、ハインドの機銃掃射。
巨大な弾丸が空気をかすめ、私の周りの床に大穴を開けていく。

澪「もうダメだ……逃げよう梓……!!」

梓「弱音を吐いちゃダメ!!」

梓「”放課後ティータイム”の戦闘に、リセットはないんです!!」


こんなのあずにゃんの声じゃない……。
恐ろしいまでに殺伐としたあずにゃんの叫び声。

梓「唯先輩……唯センパイ、ユイセンパイ!!」


私は仮想空間の中で、全身の血の気が引いていくのを感じる。
空の悪魔のうなり声、あずにゃんの叫び声、絶望の奈落に落ちたような状況――



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:42:38.36 ID:xhDGRan60

――検索:アヴァロン

思い出してもしかたのない過去。
今でも嫌な気分になるハインドのエンジン音を頭の中でめぐらせながら、私はキーボードを叩く。

――検索:ゲート

多すぎてアテにならない。

――検索:アヴァロン ゲート ゴースト

まだ、ダメ。

憂「おねえちゃーん」


憂が呼んでいる。

唯「ちょっと待ってー」

――検索:アヴァロン ゲート ゴースト リセット不能

まだダメ。

――検索:アヴァロン ゲート ゴースト リセット不能 コンプリート クラスA

エンターキーを押して、さらに検索をかけてみる。
ここまでやればいけそうなんだけど……。



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 11:46:03.12 ID:xhDGRan60

でもモニターに現れた予想外の結果に、私は身震いした。

唯「何これ……」

”アクセス禁止”
”アカウント停止の警告”

唯「うわああっ……どうしよう……どうしよう!!」

憂「お姉ちゃん、どうしたの?」


憂がドアを開けて、私を呼びにきた。

唯「ういーっ!! 大変だよ!?」

憂「ど、どうしたのお姉ちゃん?」

唯「ぱ、パソコンが……」

憂が頷いて、パソコンに向かった。

憂「まかせて、お姉ちゃん」


憂がキーボードをパシッと押すと、警告は消えて検索画面は元に戻った。

憂「お姉ちゃん何見たの? こんなの初めて見た」

唯「ごめんね、憂。アヴァロンの事調べてたらこんなになっちゃって……」

憂「あれ、お姉ちゃん、検索にひとつだけ残ってるよ」

唯「え?」


憂が画面を指さした。

憂「ほら、ここ……”Nine Sisters”って」

唯「きゅうしまい……?」


取り消しにされた検索画面の中に一つだけ残ったキーワード。
何となく、私はマウスを掴みそれにカーソルをあわせた。

憂「待ってお姉ちゃん! ウイルスかもしれないよ!?」

唯「うぅーん……押してみる」

憂「ええっ!?」



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:00:45.46 ID:xhDGRan60

そして、画面が切り替わり、くすんだ9人の女の子の写真が現れた。
”アーサーここに眠る いつの日か再び蘇らん”

憂「お、お姉ちゃん……絶対怪しいよ」

唯「きっと大丈夫っ」


”アヴァロンの非合法性を確認の上 あなたのIDデータを入力してください”

唯「……」

憂「これ……きっと詐欺だよ。やめておいた方が……」

唯「ううん……どうしても知りたいことがあるから」

私は憂の制止にかまわず、IDカードをリーダーに通して、情報を入力した。

”クラスA 廃墟C66にて待つ”

唯「これって、来てってことだよね……」

憂「うん、そうだと思う……」


私は椅子から立ち上がると、クローゼットからコートを手にとった。

唯「ごめん、ちょっとアヴァロンしてくる」

憂「ええっ!! 行くの!? 危ないよ!」

唯「大丈夫。だって私はアヴァロン最強の”うんたん”だもん」



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:04:05.03 ID:xhDGRan60

憂が泣きそうな目で私を見つめている。
このゲームが時に植物人間を生み出す危険なものということは憂も知っている。

憂「何かあったら、お姉ちゃんだけの問題じゃないんだよ!」

憂「こんな危ないゲーム……今まで何も言わなかったけど……もう……」

唯「だいじょぶだよ、憂」


私は憂をぎゅっと抱きしめる。憂はすすり泣いている。

唯「憂が泣きやむまで、ここにいるから、安心して……」

憂「うん……」


唯「行ってきます」


まだ目もとが赤い憂を残して、玄関を出る。
休日のお昼下がり。
なんてこと、ない。今日も同じようにアヴァロンで一暴れしてくるだけ。
憂が目を潤ませて、手を振ってくれる。

憂「気をつけて……ね、お姉ちゃん」

唯「すぐ帰るよ!」



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:05:15.40 ID:xhDGRan60

服を脱いで端末を手に取った私に、さわちゃんが声をかける
さわ「今日はクラスAの回線が結構重いから、ラグに注意してね」

下手にラグを起こして接続をしくじると、とても危険。
でも私はいちいち待っている暇はない。

唯「さわちゃん先生! ”九姉妹”って、聞いたことある?」

さわ「モルガン・ル・フェのこと?」

唯「もーがん・る・ふぇ……?」

さわ「そうよ……伝説の島アヴァロンを支配する、女神たちのこと」
さわ「傷ついたアーサー王を黒い舟で、水の果てアヴァロンへ運んだ九人の女神たち」
さわ「妖姫モルガンは、ノルスガリスの王女、荒れ地の女王そして……」
さわ「守護者である湖の姫」

唯「なんだか、神話みたい……」

唯「小学校の頃読んだ神話の本に、そんな話があったよ」
唯「旅の途中で舟が壊れて、とおい島に流れついたオジールの話」
唯「オジールを助けたモルガンは、金の指輪を渡して、不死と永遠の若さを授けたの」

さわ「でもオジールは、モルガンが自分の頭に載せた王冠に気づかなかった」

唯「”忘却の王冠”……自分の国のことも、何もかもみんなを忘れちゃったんだよね……」


私は端末をかぶって、目を閉じる。

唯「アヴァロン、始めて。さわちゃん先生」



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:06:58.75 ID:xhDGRan60

クラスA 廃墟C66。
荒野の真ん中に建つ廃墟の中を、ゆっくりと歩く。

唯「……!」


不意に誰かの気配がして、拳銃を構える。

?「待って! 撃たないで」

高校生くらいの女の子が飛び出してきた。

?「……ほら」


訝しげに見る私に、銃のマガジンを外して見せる。
そしてコッキングレバーを引いて、チャンバーの中の弾薬まで落とした。


ジル「”九姉妹”の……ジルって呼ばれてるんだ」
ジル「高名な”うんたん”に会えるなんてね」

九姉妹? こんな私よりも年下に見える女の子が?
でも相手もこうやって敵意がないことを示しているし……とりあえず行ってみよう。

唯「……お出迎え、ありがとう」


拳銃をしまい、SVDのマガジンを抜いて、チャンバーも解放してみせる。



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:08:39.59 ID:xhDGRan60

ジル「こっちよ」

そう言われて、廃墟の裏側……湖の前に来る。
もう一人、男の人がいる。

?「ようこそ、”うんたん”」


抜いたマガジンを掲げて、彼も敵意がないことを示している。
正直なところ……とっても怪しい。

?「……って……唯さんじゃないですか!」

唯「え……?」

聡「俺ですよ! えっとデコの……田井中律の弟の、聡です!」

唯「あっ、聡くん」


見覚えのある、りっちゃんに似た顔立ちの男の子。
そうだ、聡くんだ。
何度かしか会ったことはないけど、よく憶えている。

でも私は、そんなに甘くはない。
昔のただ、ぽわぽわとしていた頃の私なら気づかないかもしれないけど、今は違う。

唯「聡くん……何が望みなの?」

唯「無償で情報は……得られないものだから」


私のアヴァロンでの険悪な視線が、聡くんに突き刺さる。

聡「さすがは唯さん……」

聡「じゃあ……装備一切を渡してもらおうか」

唯「!」



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:10:52.68 ID:xhDGRan60

廃墟のそこら中から、他のプレイヤーたちがログインしてきた。
そして、私に銃を向ける。

聡「あんたの装備データをほしがる馬鹿が結構いてね」

ジルと名乗った女の子が、私の銃を奪い取る。
私は何もできず、両手を挙げる。

唯「”プレイヤーキラー”だね……」

聡「これもアヴァロンで稼ぐ方法さ」


そう言って私に近づいてくる。

聡「うひょおいい貧乳だね、唯さん」


そう言って私の胸に手を……

唯「当てさせると思った?」

私は聡くんの腹に蹴りを入れて、首を抱え込んで拳銃をつきつける。
周りのプレイヤーたちが呆気にとられて、立ちつくす。



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:12:36.01 ID:xhDGRan60

唯「聡くん、痛いの嫌?」

聡「当たり前だろ……」

唯「”スペシャルA”の情報を」

聡「本気なのか?」


それに答えるかわりに、私は拳銃の撃鉄を起こした。
首筋に銃口が当たり、私は引き金に指をかける。

聡「ま、待って……詳しくは知らないけど……」

聡「この世界を……プログラムした連中」

聡「本物の”九姉妹”なら……」

唯「何、それ? 教えてほしいな、聡くん」


首にもっと強く拳銃押しつけて脅迫する。
私をただのか弱い女の子だと思われちゃ困る。
私はこの世界で食べていく、最強のソロプレイヤーの一人。

聡「……単なる噂だ……でも連中なら……」

ジル「聡!!」

女が叫んだ。皆が一斉にその方向を向く。

唯「!?」


そこには、空中に出現したハインド。

機体はジグザグにねじれて、残像が残る。

聡「ひでえ……ラグってやがる!」



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:15:01.39 ID:xhDGRan60

機影がはっきりとし始めたハインドから牛の鳴き声のような連続音。
機首のガトリング砲が雄叫びをあげた。
さっきの女の子は、ハインドの機銃掃射を食らって即死した。
次々と他のプレイヤー達も薙ぎ倒されて死亡していく。

唯「こっち!」


私は聡くんを掴むと柱の裏に吹っ飛ばした。
自分も柱を遮蔽物に、取り返したSVDを構える。

唯「……!」

せめてパイロットだけでも殺してやる。
そしてスコープの倍率を上げた。
そのレンズ越しに見えたのは、火の玉――



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:16:27.63 ID:xhDGRan60

私は端末を外してベッドから転げ落ちると、思いっきり胃の中のものを吐き出した。

唯「うっ……はあ……はあ…げぼっ……」


胃液のにおいが鼻を刺して、私はさらに胃液を吐き出した。

唯「……はぁ……はぁ」


喉とお腹が熱くて、息苦しい。

さわ「唯ちゃん……」


ディスプレイに表示された”RESET”の文字が消えて、さわちゃん先生が姿を現した。

唯「ごめんなさいさわちゃん……部屋、汚しちゃって……」

さわ「気にしないで」
さわ「そんな日もあるわ」



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:19:37.39 ID:xhDGRan60

ゆっくりと服を着て、何も言わず私は個室を出て、帰路についた。
どうしたの? と聞く和ちゃんに今日のキャッシュはないから、とだけ告げて。
電車を降りて駅のホームを見れば、”アヴァロンをやめよう”と書かれたポスター。

まんざら間違いでもないと、私は思う。
アヴァロン――フリークスと廃人の島。
アヴァロン――私の墓場。



66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:23:24.68 ID:xhDGRan60

ベンチに座っていると、憂からメールがきた。
『お姉ちゃんは今日の晩ご飯何がいい?』

唯「……そうだなぁ」


少しだけ、元気が出た。
吐いちゃったけど、元気だけが私のとりえだから、もう大丈夫。
お腹はぺこぺこ。

唯「カレー……」


中辛はダメ……甘口で。
『帰りにお肉とじゃがいも買ってきてほしいな』

唯「わかったよ。今から買って帰るから……っと」



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:28:05.73 ID:xhDGRan60

スーパーの中を、かごを持って歩き回る。
ここ数年でさびれちゃった感じがするけど、これが現実だから仕方ない。
何が悪いのかはわからない。
アヴァロンができたからか、政権が交代したからか、景気の低迷か。
なんにせよ、我が家はアヴァロンのおかげで生活には不自由しない。
わたしが戦い続けるからには、大丈夫。

いちご牛乳とマシュマロ、晩ご飯のあとで憂と食べようかな。
りんごも買っていこう。

もちろん忘れずに、お肉とじゃがいもも買わなきゃ。

スーパーを出たころには、私はすっかり上機嫌。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:30:39.99 ID:xhDGRan60

憂「おかえり! お姉ちゃん」


玄関を開ければ、憂が待っていてくれた。

唯「ただいま、憂」

コートを脱いで、手を洗って、うがいをして……。
それから私は、キッチンへと向かった。
カレー粉のいい匂いがする。

唯「うい~」


憂はいつものようにエプロンをして、うでまくりをしていた。

憂「どうしたの? お姉ちゃん」

唯「私も一緒につくるよっ」

憂「ええっ!?」

唯「だいじょうぶだよー、私もうそんなにやわじゃないもんっ」

憂「うーん、じゃあ、鍋でお肉とか炒めておいて」

唯「了解!」


憂といっしょにご飯をつくるなんて、どれほどぶりだろう。
高校時代のクリスマス会でケーキにいちごを乗せたとき以来かもしれない。



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:31:25.38 ID:xhDGRan60

――お肉お野菜ひみつのかくし味……育ちざかりの欲張り恋心
――大好き、コトコト煮込んだカレー
――キミがいなくちゃ寂しいテーブルなの
――女の子は甘いのが好き。あこがれだけど中辛はおあずけ
――だけど限界、辛すぎてもうダメ……カレーちょっぴり、ライスたっぷり



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:33:22.57 ID:xhDGRan60

憂「お姉ちゃん、もしかしてそれって新歓ライブの時の……」

唯「カレーのちライスっ」

憂「やっぱり! いい曲だよね」


二人笑いあって、お皿にカレーを盛りつける。

唯「カレー、おいしいね~」

憂「今日はいつもよりもっともっとおいしいよ」

唯「?」

憂「だって、お姉ちゃんと一緒に作ったから……えへへ」


憂の笑顔が、いつもに増して輝いて見える。
私のたった一人の妹。大事な、とっても大事な妹。
今の私の生きがいであって、私を待っていてくれる大切な人。



77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:34:37.93 ID:xhDGRan60

憂「お姉ちゃん、ほっぺにご飯つぶついてるよ」


そう言ってご飯つぶをとると、ぱくりと食べた。

唯「ありがとね~うい~」

憂「お姉ちゃんも変わらないね~」

唯「そんなことないよー!」


それから、私はテレビを見て、憂は食器を片付けてくれていました。

憂「皿洗ってるから、テレビ見てていいよ」

唯「ありがとう~うい~」


ホッとするひととき。



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:35:32.50 ID:xhDGRan60

テレビでは障害者の人の特集をやっている。
ちょっとネタにしすぎて、不謹慎じゃないかなぁと思う。
『衝撃の事実はCMのあと!』
数分経って、CMに入った。

唯「ういー」


台所が、とっても静かだった。
水の流れる音も、聞こえない。

唯「憂?」
私はテレビの電源を切った。
しん、と静まりかえったリビング。


唯「憂? どこ行ったの?」



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:36:16.95 ID:xhDGRan60

キッチンをのぞくと、誰もいない。
洗っていない皿が流し台にそのままになっている。

唯「ねえ、う~い~、いないの?」


1階のクローゼットを開けてもトイレにもいない。
二階の電気をつけて、誰もいないはずの二階へ上がる。

唯「ねえ憂」


私の部屋にも、憂の部屋にもいない。

唯「……うい……なんでいないの……?」

私はコートを羽織って、玄関を飛び出した。
外は真っ暗……そこには人の姿はない。

唯「うい……憂……!」

唯「ねえ憂、憂、どこにいるの……」

唯「憂……お願い出てきてよ憂……!」



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/01(火) 12:38:00.98 ID:xhDGRan60

夜の街を、一人走り回る。
最近はすっかり街はさびれ、治安も悪くなった。
夜に憂を一人で歩かせちゃダメ。
お姉ちゃんが迎えに行くから……憂。

唯「憂!」


ただただ走り回り、へとへとに疲れ、私はついに転んでしまった。

唯「う……うい……うい…どこなの……憂」

唯「……ひぐっ……うっ……憂……っ」


道に倒れ込んだまま、動けない。
悲しくって、わからなくって涙が止まらない。

何がおかしいの……現実がもう一つあるような気がしはじめてから?
あずにゃんが廃人になってから?
それともムギちゃんがいなくなってから?
……アヴァロンを始めてから?

軽音部ができた時……から?




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憂「アヴァロンへようこそ」#前編
[ 2011/07/20 21:00 ] SF | アヴァロン | CM(0)

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