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青いカーネーション(けいおん! SS) 【ミステリィ】


http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1252230423/




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 18:47:03.81 ID:F0OngPcb0




飲み干したティーカップの底を見つめたまま、秋山澪は物思いに耽っていた。

ぽかぽかとした陽の光が窓から差し込み、ストーブの上のやかんが白くやわらかそうな湯気を吐いている。

「紅茶のおかわりはいかが? 澪ちゃん」

空になったカップを覗き込んでいる澪に、紬が微笑みながら良い香りのする紅茶をカップに注いでくれる。

向かいの席では唯がマドレーヌを握りしめたまま、牛のようにのんびりとあくびをしていた。

律は紅茶をすすりながら、とろんとした目で窓の外を眺めている。

少しでも気を抜くと、すぐ夢の中に入ってしまうようなのどかな冬の午後のことであった





3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 18:53:00.66 ID:F0OngPcb0

傍目にはこれほど平和を語るにふさわしい光景はないように見えるだろう。

しかし澪は日常というものにひどく退屈していたのである。

軽音部に入り、何か澪を満足させるような刺激に出会えるかと期待していたが、

その期待も成就しそうにないことがだんだん分かってくると、

果たしてこの部に自分の青春を捧ぐ価値があるのか、と、そんなことを考えたりもするのだが、

仲間のことを考えると、退部する訳にもいかず、

つまらないと思いつつもその日その日をおとなしく受け入れるほかなかったのである。



4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 18:54:22.18 ID:F0OngPcb0

だが彼女は退屈を押し殺したつもりでも、それは案外執念深く生きていて、

彼女の心にある恐ろしい考えを抱かせたのだろう。

その考えが彼女の頭をかすめたとき、彼女はティーカップを持つ手がガタガタと震えるのを必死に抑えた。

その考えというのも、この平和を根こそぎ剥奪してしまう……

もっと言えば、ここにいる誰かを殺害し、警察の捜査から逃れ、

さらに残された者の悲嘆に暮れる姿などを

とくと観察してみたいという想像にしても背筋の凍るような恐ろしいものだった。

「まさか…仮にも親友を殺すだなんて、そんなこと考えるのはよっぽどどうかしてるな」

澪はこのようなことを考えついた自分に罪悪感を感じたが、

その不穏な考えはいつまでも澪を捉えて離さなかった。



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 18:55:40.91 ID:F0OngPcb0



暇つぶしのために人を殺す。そんな途方もない考えがどうして浮かんだのか、それは澪にしかわからない。

いや、澪にもわからぬかもしれない。

刺激を求める一心で、

良心の呵責や犯罪行為への恐怖などといった感情がなくなってしまったのかもしれない。

なんにせよ、彼女はとうとうそれを実行することに決めたのである。



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 18:57:40.83 ID:F0OngPcb0

この殺人計画はまったく突飛なものであったが、

澪は周到に考え抜いた理論のもとで行動しようと決めていた。

まず澪は手始めに、どこを殺害現場とするかを考えはじめた。

一般の心理から言えば、犯行現場が離れていれば離れているほど安全と考えるのが普通だろう。

しかし、友人が殺されたとなれば無論、自分にも捜査の手が加わってこないとは言いきれない。

犯人にとって、アリバイの立証というものは容易ならざるものなのだ。

第一、誰かが澪たちを見かけないとも限らないし、人のいない場所へ誘い込んだとしても、

そこへ澪と出かけることを被害者の家族か誰かに言っていないという保証もない。

思いあぐねる澪の脳裏に、突如としていつもなじみの学校風景がよぎった。

「学校は誰でも入れるわけじゃないから、容疑者は普通、生徒や教師などの学校関係者に絞られるだろうな。

 でも、その状況下でも、私が疑われる理由も、そして決定的な証拠も残さなきゃいいじゃないか。

 それくらい限定されてなきゃ、やりがいがないからな」



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 18:59:04.75 ID:F0OngPcb0

それから2週間というもの、澪は寝食を惜しんでこの犯罪の完全性を追求した。

在宅時には部屋にこもっては古今東西のあらゆる未解決事件、殺害方法、警察の捜査方法など、

少しでも役立ちそうな知識は一つとして逃さぬよう頭に詰め込んだ。

学校では、唯たちの一挙手一投足に至るまで注意深く観察しては犯行の隙を窺った。

しかし、調べていくにしたがって、澪は大きな失望を感じた。

というのも、唯たち一人一人の行動の中に、

人を一人殺せるほどの時間的余地がないように思えたからである。

一日の授業が終わり、音楽室へ向かうと、いつも誰かしらが既にそこにいるのだ。

そして、そのままお茶を飲み、練習したのち、

皆で一緒に帰るというあんばいに一日が終わってしまうのだ。

ならば群集の真ん中で殺害してみようか、紅茶の中に劇薬をしのばせて皆の前で毒殺してしまおうか、

その他様々な殺害方法を考えてみたものの、

いずれにしても現実味がなく、犯罪発覚の危険性を十分にはらんでいた。

「やっぱりそんな簡単に殺人なんてできやしないよな、やめちゃおう、やめちゃおう」

澪の殺害衝動の炎は消えかかってきた。



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:01:12.19 ID:F0OngPcb0



ある日、澪は普段より5分程早く音楽室へ向かった。

まだ誰もいないだろうと思っていたが、意外にもそこには紬がいて、その日のお茶の準備をしていた。

「ああ、どうりでいつもムギは来るのが早いのか。みんなのためとはいえよくやるな」

自分の心の中で思った言葉にはっとした。

隙ならばあったじゃないか!

そして、罪なき哀れな被害者は、紬だ。

彼女の恐ろしい計画は再び姿をあらわにした。

澪は考えをまとめるため、紬に今日は休むとだけ伝え、逃げるように音楽室を後にした。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:02:44.93 ID:F0OngPcb0

唯と律の教室は同じ階に位置していて、決まって唯は律の教室に寄ってから音楽室へと向かう

ことは、かねてからの調査で分かっていた。

幸運だったのは、律のクラスのホームルームが他と比べて幾分か長いことだった。

担任が同じ事を何度も繰り返し話す癖があるとみえて、話を切り上げるのが遅いことがその主な理由だ。

さらに、場合によっては、唯と律は律のクラスで立ち止まり、

一つ二つの話をしてくることもよくあることだった。

それらの事情がなくても、澪はどうにかして殺人を成功させる気でいたので、この発見は幸福であった。

梓はというと、彼女のクラスは学年も違うこともあり、音楽室までは一番遠い位置にいるので

彼女が音楽室にたどり着く頃には紬はもう死体になっている手はずなのだ。

少しもぬかりはない。

第一、もし少しでも実行前に危険が伴うようなことがあれば、

すぐさま取りやめていつも通りの一日を過ごせばいいだけの話だ。



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:05:43.62 ID:F0OngPcb0



そして、ついにその計画を実行する日がやってきた。

部屋の窓を開け、澪は大きく伸びをして朝の空気を吸い込んだ。

なぜか小学生のとき、運動会の日の朝に吸い込んだ空気と同じ味がした。

そして、いつもは口にしないコーヒーをぐいと飲み干し、いつも通りに学校へ向かった。



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:07:27.92 ID:F0OngPcb0

授業終了までの時間は永遠のように感じられた。

澪は不審な言動を起こさぬよう、努めて普通に振舞った。

そして遂に放課後はやってきた。

澪は普段と変わらぬ風に、ただ、神経だけはいつもの何十倍も研ぎ澄ましながら教室を後にした。

音楽室へ行く道中で、誰かとすれ違ったり見られたりすることが一番恐れていたことだが、

もともと人通りの少ない淋しい場所だったから、心配には及ばなかった。

澪が音楽室の扉を開ける前に、肝心の凶器について述べておこう。



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:08:55.06 ID:F0OngPcb0

この殺人において澪が最も苦心した問題の一つが、凶器の調達であった。

始めは音楽室の窓から突き落とすことを考えた。

しかし、それは抵抗される危険性があり、

何より、3階程度の高さから落ちて確実に絶命するかどうかは大いに疑問だ。

次に考えたのは扼殺することであった。

しかし、扼殺には致命的な欠点がある。

それは、首を絞めて短時間で対象を死に至らしめるのは、現実には難しいということだ。

失神させることはできる。しかし、確実に絶命させるには時間を要する。

これは、時間に制約される澪には極めて難しい方法だ。



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:12:52.41 ID:F0OngPcb0

こうして、いくつもの考えを思いついては取り消すことを繰り返して、最終的に考えついた方法は、

紬の不意をついて首を絞めて失神させてから、鋭利な刃物で止めを刺すという方法だった。

刺殺は最も原始的な殺害方法に違いない。

しかし、これほど堅実かつ確実な方法が他にあろうか。

ただ、その刃物を入手する方法もまた難題であった。

普通の店で購入すれば、容易に特定されるだろう。

そして、監視カメラに記録されていたり、販売員が澪を覚えていた場合、澪の立場は間違いなく危険になる。

ましてやどこかから盗むわけにはいかないし、自分の自宅から持参するわけにもいかない。

そんな中で、澪が音楽室の戸棚に、ケーキや果物を切り分けるために

紬が持参したナイフが置いてあることを思い出したのは実に幸運であった。

こうして、澪は現実性と効率性で固めた理論を携えて、音楽室の扉を開いた。



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:14:23.89 ID:F0OngPcb0



部屋にはやはり紬がいた。

テーブルの上には綺麗に磨かれたカップ類が並び、

紬は袋の中の紅茶の葉を、棚の上の紅茶の缶に移し変えていた。

澪は紬に近づきながら、ふとテーブルの上のティーポットに目をやった。

普段は気にもかけていなかったが、テーブルの上にあった大きな陶磁器のポットを手にとってみた。

それは一般的なティーポットよりずいぶん大きく、

花の画家として知られたピエール・ルドゥテがポットに直に描いたような、

瑞々しさと爽やかさを感じさせる美しいアメジストブルーのカーネーションが四輪、堂々と咲いていた。

ふと、今手にしているポットが、まことに強力な凶器になるのではないかと澪は思った。

ずしりと重く、がっしりとした作りのこのポットで頭など殴られたりしたら、

人間であれば致命傷を負うに違いない。

第一、扼殺は首を絞めたときに自分の服の繊維や皮膚が付着したりする可能性も否めない。

ましてや抵抗され、引っ掻かれたりして傷を負った場合、

紬の爪の間と自分の体に動かぬ証拠を残すことになる。

しかしこれなら、一撃で動作は終わるかもしれぬ。

考えをめぐらせてみたが、問題はないと思われた。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:16:34.48 ID:F0OngPcb0

そのようなことを考えていると、紬の声がして現実に戻された。

「今日はいいアッサムが手に入ったの。だから今すぐ澪ちゃんの大好きなミルクティーを淹れてあげるね」

突然、紬が発した言葉に、澪は不意を衝かれた気がした。

澪に背を向けてはいるが、顔いっぱいにあの優しいほほえみを湛えているのが分かる。

澪はたじろいだ。

やめろ、お前は世に比類なき悪人になろうというのか。

今すぐその席に着くんだ。そしておとなしく紅茶を受け取れ。

どこからかそんな声が聞こえた気がした。

「うん、ありがとう、ムギ」

しばらくして澪はそう言うと、ポットを紬の脳天めがけて振り下ろした。



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:19:03.17 ID:F0OngPcb0



鈍い音が響くと同時に、頑丈なはずのポットは無残にも砕け散った。

紬は目前の棚に寄りかかるようにして崩れ落ち、

やがて床に横向きに倒れ、もうそれきりピクリとも動かなかった。

澪は自分の手の中に残っていたポットの取っ手を破片の中へ抛った。

そして長椅子からクッションを取り、紬を仰向けにしてそれを胸にあてがい、

ナイフを心臓めがけて力任せに突き刺した。

そしてぐるりと部屋を見渡し、失敗のないことを確かめるといそいそと部屋をあとにした。

先ほどあがってきた階段からは降りず、非常階段を使うことにした。

もし途中で誰かに遭遇したら、それこそ一大事だからである。



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:22:00.96 ID:F0OngPcb0

非常階段の重たい扉を少し開け、澪は顔を少し出して辺りの様子を窺った。

見える場所は全てくまなく見渡したが、動くものは何一つとしてなく、

建物の向こう側の校庭から僅かに誰かの笑い声が聞こえるくらいで、静かである。

澪はドアをそっと閉めると素早く階段を駆け降り、

用水路の濁った水の中へ殺害時にはめていた手袋を放り込んだ。

全て、5分とかからぬ作業であった。

そして正面玄関から何食わぬ顔をして進入し、トイレで手を洗い、

(クッションで対策はしたが)返り血を浴びていないか鏡で確認し、職員室へ向かった。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:23:22.22 ID:F0OngPcb0

「音楽室の鍵を貸してもらえますか?」

部屋に入るなり、澪はさわ子に言った。

「あら、鍵なら少し前に紬ちゃんが持って行ったわよ」

プリントの束を整えながらさわ子は言う。

「そうですか、わかりました。ああ、そうだ、この間の私のテスト結果はどうでした?」

澪はすまして尋ねた。

「相変わらず素晴らしい出来よ。
 今回は結構難解な問題が多かったはずだけど、澪ちゃんには問題なかったみたいね」

澪は安堵した。たとえ成績が落ちたくらいで疑われる道理はないだろうが、

神経質になっていた澪にはあたかも死活問題のように感じられたのだ。

それに、高校の試験などより殺人のほうがどれほど骨を折ることや。

それから文化祭の話などを少しして、澪は職員室を後にした。



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:25:09.58 ID:F0OngPcb0

7 

職員室から音楽室へ向かう途中、前方で唯と律が笑いながら歩いているのを見つけた。

澪は二人に気づかれないようそっと近づいて

「よっ、お二人さん楽しそうだな!」と二人の肩に手を添え言った。

「うぉああ!びっくりした。なんだ澪かよ」

律が口を膨らまして言う。

「あー、澪ちゃん。今ね、りっちゃんに合宿の時の秘蔵写真を見せてもらってたんだ!すっごいよ」

そこで律はあわてた風に唯の口を塞いだ。

「またなんか撮ったのか。り~つ~!見せなさい!」

澪が律の鞄を奪おうとすると、唯が笑った。律も、澪もつられて笑った。

澪は、この笑顔があと数分後にはどう変貌するか考えると、にわかに湧き起こる興奮を禁じえなかった。



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:41:47.15 ID:F0OngPcb0

「あっ!」

突然、唯が頓狂に叫んだ。

「鍵とってこなきゃ」

場合が場合だったので、澪はドキッとしたが、心配には及ばなかった。

澪は、先ほど職員室へ行ったが、紬が既に取りに行っていた事を話した

「そっかー、ムギちゃん早いねー。そうだ、お菓子お菓子!」

そう言って唯はみるみる早足になった。

澪は後ろから、唯たちが早く音楽室の扉を開けるのが

楽しみで仕方がないといった表情でゆっくりとついていった。

そして、唯は勢いよく扉を開けた。



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:44:12.60 ID:F0OngPcb0



「やっほー、ムギちゃん」

唯は扉を開くか開かぬかのうちに言った。

「ムギちゃん…?」

返事はなかった。

テーブルの向こうへ近づく唯を、澪はどきどきしながら眺めた。

「あっ…あ」

唯は二,三歩後退して床にしりもちをつき、目を見開いたまま唖然としている。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:47:23.00 ID:F0OngPcb0

「どうしたんだ?唯?」

澪は小走りに近づいた。

「いやああああああ!」

澪は紬を一瞥するなり大きく息を吸い込み、いかにも真に迫った感じに叫んだ。

そこには先ほどと変わらぬ紬の亡骸が、

頭からは血を流し、胸をナイフで刺され、無残にもティーポットの破片の中に転がっていた。

ケント紙のように白い顔に苦悶の表情はなく、安らかだった。

後ろの扉の入り口で、律が狼狽した目で紬の亡骸を見つめたまま、微動だにしないで立ち尽くしていた。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 19:51:52.48 ID:F0OngPcb0

学校周辺は警察と救急車が駆けつけ、騒然となった。

澪は警察から二度の訊問を受けた。

警察の一度目の訊問に対して、澪は犯行があった日、

自分はホームルームが終わり、トイレへ行った後に職員室へ音楽室の鍵を取りに行き、

そのとき紬が既に鍵を持って行ったこと、さわ子と少し談笑し、

そのあと唯と律と音楽室へ向かったことなどを説明した。

二度目の訊問は紬の交友関係などに関するもので、特に澪が気をつけるべき答弁は無かった。

警察は澪を疑うどころか、暗い顔をした澪の手をとって、

協力に対する感謝の言葉と悔やみの言葉を掛ける始末だった。

それでも警察は、犯人が紬と顔見知りであるとの見方を強めているだろうし、

部員が一番疑わしいと思うことに違いはなかろう。

しかし、いくら疑ってみたところで澪が犯人という結論にたどり着く証拠があるとは思えなかった。

それに澪は真面目で成績優秀、加えて元来の性格から、澪が人を殺すと誰が疑おう。

いよいよ警察の捜査は憶測だけが縦横に入り乱れ、

迷宮入りへのレールは着々と敷かれていくように思われた。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 20:01:40.55 ID:F0OngPcb0



事件のため、当面の間は休校となるので、澪は暇を持て余していた。

事件から数日経つというのに、テレビや新聞では、事件に関する報道がなされていた。

しかし、たいがいが犯人を捜索中だとか、動機は不明だとか、

使い古された言葉を並べるだけで澪を面白がらせるものは特になかった。

「人殺しなんて案外あっけないものだな」

少し遅めの朝食をとりながら澪はため息混じりに言った。

家にいてもすることがないので、とりあえず街へ出かけることにした。



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 20:03:38.81 ID:F0OngPcb0

街の人垣のそこここから時折澪の起こした事件の噂を小耳に挟んだとき、

澪は言いようのない達成感を感じた。

見よ、ここを歩いている人間のどれだけがこんな大罪ができる?

いつも殺すだ殴るだなどと口先だけで一丁前に言ってのける連中ばかりじゃないのか?

澪は妙な優越感を抱いて街を闊歩した。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 20:07:11.22 ID:F0OngPcb0

それから、行きつけの書店を覗いた。

推理小説などを手にとってみるのだが、どうも見る気がしなかった。

小説に出てくるようなトリックなんて洒落たものは現実にはあったもんじゃない。

大体、合理性を追求せずしてトリックなど少しの価値もないではないか。

小説を乱雑に棚へ戻し、代わりにアルチュール・ランボオの詩集を購入した。

店を出たところで携帯電話が鳴った。

それは唯からのメールで、これからの軽音部について唯の自宅で話し合いがしたいとのことだった。

澪は今から行くとだけ伝え、急遽唯の家へ向かうことにした。



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 20:10:09.31 ID:F0OngPcb0

10

唯の自宅には、すでに律と梓がいた。

澪が腰を下ろすと、憂が紅茶を入れて持ってきた。

「いきなりごめんね、澪ちゃん」

唯が申し訳なさそうな笑顔を浮かべて弁解した。

「いやいや、こんなことになったら話し合いは必要だよ」

澪は微笑して言った。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 20:22:31.67 ID:F0OngPcb0

皆、始めのうちは何から切り出せばいいのかわからないようで、へどもどしていたが、

澪が話を進めるとだんだん話の整理もついてきて、とりあえず部活は続けるとの結論になった。

「ああ、それとムギちゃんのお葬式の時にムギちゃんの家の執事さんに会ったんだけど」

話が一段落したところで唯が話し始めた。

「ムギちゃんが殺された時に使われた凶器の一つがティーポットだったね。

 それでね、ムギちゃんのご家族が、ムギちゃんの好きだったものは残らず持っていたいみたいなんだけど、

 そのポットがどうにもどこで買ったかわからないみたいでね、執事さんも全然知らなくて、

 少しでもいいから情報が欲しいらしいんだけど、わからない?」

そう言って唯は皆の顔を見回した。



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 20:23:49.30 ID:F0OngPcb0

「いやー、ムギのことだからイギリスかどっかのアンティークの物でも使ってたんじゃないか?

古ーい、高価そうなポットとか結構持ってきてたからな」

律はあごの先に手を当て、考えながら言った。

「いや、そうとも限らないよ。

 ポットに描かれていた青いカーネーションの絵は少しも色あせてなかったし、

 そもそも、青いカーネーションは確か1995年に世界で初めて遺伝子組み換えで誕生したんだ。

 だから一概に古いとは言い切れないだろ?」

澪は人差し指を立てながら得意げに言った。

「ふーん、しっかしホントに澪は物知りだな。桜高の澪は博学才穎ってとこか」

律がそう言うと、澪は愉快な気持ちで笑った。



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 20:27:00.10 ID:F0OngPcb0

11

「ポットで思い出したんだけどね、ムギちゃんをポットで殴った人は、

 つまりムギちゃんを殺した人は左利きじゃないかなって思うんだ」

唯が思い出したような口ぶりで言った。

まさに左利きであった澪は、思わぬ指摘に少なからず狼狽したが、

これは唯のでまかせだと思い、黙って話を聞くことにした。

「まず、ムギちゃんの後頭部の少し左寄りに傷があったのは警察の人が説明してたよね」

「でもそれだけで犯人は左利きだって言えるかな。

 警察も犯人は両手でポットを持って振り下ろしたって考えているみたいだし」

間髪入れずに澪が口を挟んだ。

「そうだね。でもね、それでも私は両手を使ったとは思えないんだ」

ここで話を切って、唯は紅茶を一口飲んだ。

澪は内心ビクビクしながら唯が話し始めるのを待った。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 20:40:17.33 ID:F0OngPcb0

「床に落ちていた破片の中にね、ポットの取っ手が落ちていて、

 よく観察してみると、取っ手とポット本体の接合部分が綺麗に取れていたんだ」

そう言って唯はテーブルの上の小さなティーポットを手に取り、

取っ手と容器本体の接合している部分を二箇所、指で切り落とす真似をした。

「何を言いたいのかよく分からないなあ」

澪は唯がどういう意図でこのようなまわりくどい言葉を弄しているのか

てんで理解出来なかったので、思わず言った。

「つまりね、もし両手でポットを持って振り下ろして割れたなら、

 この取っ手には少なからずもっと破片がくっついているはずだと思うんだよなー。

 そんな割れ方をするのは、片手で力いっぱい振り下ろして後頭部にあたったとき、

 この取っ手がガコッって外れたからじゃないかな。もちろん、確実にそうだとは言えないけど。

 それで、頭の傷のつき方から見て、相手は左手にポットを持って殺害したと思うのが自然じゃないかなって」



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 20:42:32.79 ID:F0OngPcb0

澪は今まで安全だと思っていた足元の地盤が、突如として薄氷に変わり、ひびが入り始めたように感じた。

そして、目の前にいる唯がいつもと違う、何か別人のような気がして恐ろしかった。

出来ればすぐさまその場から逃げたかった。

「あはは、それじゃあ澪が犯人みたいな言い方だな」

律が澪の顔色を窺いながら言った。

「そうだぞ、なんだか私が犯人みたいじゃないか」

澪はやっとのことで平静を保ち、作り笑いを浮かべて同調した。

「うーん、私はね、澪ちゃんが犯人じゃないかなって思うんだ」



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 20:44:38.69 ID:F0OngPcb0

12

唯の言葉はなによりも恐ろしい響きをもって澪の耳朶を打った。

一瞬、悪い夢ではないかと疑った程だ。

「どういうことですか唯先輩、私には澪先輩が人を殺すなんて考えられませんよ」

梓がいきり立って反駁した。

「青いカーネーションだよ」

唯がぽつりと言った。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 20:46:20.31 ID:F0OngPcb0

「あのティーポットは確かに青いカーネーションが描いてあったそうだね。

でも、執事さんから聞いたんだけど、あのポットをムギちゃんが音楽室に持ってきたのは、

事件の当日だったんだよ?

それも今まで持ってきたことは一度もないって。

澪ちゃんの言うとおり、最近買った新しい物みたいだね。

でも、どうして澪ちゃんは青いカーネーションが描いてあるってわかったんだろう。

私たちが駆けつけた時には、ポットはもうバラバラに壊れていて、とてもカーネーションが

描いてあるなんてわからないよね。

それでも、澪ちゃんはどうしてそれがわかったんだろう」



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 20:47:33.87 ID:F0OngPcb0

澪は冷や汗を額に浮かべ、顔には恐怖の色がありありとにじんでいた。

口も利けず、自分の犯した重大な失策を頭の中で反芻し、唯の罠にまんまとかかった自分を呪った。

そして、唯の鋭い推理に対して言い知れぬ敗北感を感じて、何を考えることも弁明することも出来なくなり、

一口も飲まなかったほの暗い紅茶のカップの底を、ただぼんやりと見つめていた。



Fin



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 21:04:34.29 ID:F0OngPcb0

読んでくれた方、ありがとうございました。
最初は、あまりにSSとして出来が悪いように思えて、ボツにしようと
思ったのですが、せっかく書いたからと思い、投下しました。

うう…澪すまない。




43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/06(日) 20:51:35.68 ID:wN3e9EM0O

乙 短いながら読み応えのあるSSだった






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NO:6866 [ 2019/02/01 07:28 ] [ 編集 ]

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