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澪「SFな平沢さん」#前編 【SF】


http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1311522531/l50

澪「SFな平沢さん」#前編
澪「SFな平沢さん」#中編
澪「SFな平沢さん」#後編




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 00:48:51.45 ID:ZWOh/UcV0


【0】


――唯が風邪で休んだある日のこと。
どういう流れかわからないが、私がちょっとした過去話をすることになった。

澪「――ずっと……ずーっと昔。それこそ幼稚園か、遅くても小学校低学年くらいかな。
  当時はまだ私だって明朗快活な女の子だったんだ」

紬「ウソだー」

澪「あれっ意外な所から意外な言葉が飛んできた」

律「私も信じてないけどな」

梓「まぁ、信じる信じないより最後まで聞きましょうよ」

梓もそうは言うが間違いなく信じていない。顔が笑っている。
おかしいな、私に憧れてるとか聞いたのに。





3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 00:51:27.30 ID:ZWOh/UcV0


澪「……腑に落ちないけどまぁいいや。
  とにかくその時、よく一緒に遊んでいた名前も知らない姉妹がいたんだ。
  双子だったのかもしれない。あまりにもそっくりな姉妹だったから」

梓「聞かなかったんですか?」

澪「名前も知らないのに姉妹か双子かなんて聞けないよ」

律「……なぁ、よく似た姉妹ってものすごく心当たりあるんだが」

澪「唯と憂ちゃんとは別人だよ。
  私がその姉妹と唯達を重ねて見てるのは事実だけど、それでも違うんだ」

梓「なんでです?」

澪「それは――」

―――
――



4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 00:55:24.94 ID:ZWOh/UcV0


【-2】


――約四年前。


紬「――斉藤! 斉藤ッ!!」

斉藤「なんでしょうお嬢様」

紬「何ですかこれは!!」バサッ

斉藤「…これ、とは?」

紬「新聞のこの記事よ!
  『自殺を図った少女、見知らぬ少女にキスされて救出される』って見出しのこの記事!!」

斉藤「……読んで字の如くですが」

紬「現場はどこなの!? 少女達の名前は!? 何処に行けば逢えるの!?」

斉藤「内容が内容ですので名前は公開されていませんが、場所は桜が丘のようですな」

紬「電車で行ける範囲ね……そして少女の居る割合が高いのは言うまでもなく女子高――!」


琴拭紬、色恋沙汰を感じ取る嗅覚に優れた女。
彼女はその天性の素質で進学先を決定した。



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 01:00:12.01 ID:ZWOh/UcV0


【-1】


――桜が丘女子高等学校、入学式当日。

高校入学という特別な日……であるはずなのだが、
私はそれまで過ごしてきた日々と何も変わらず、常に周囲に目を配って生きていた。二重の意味で。
片方はもちろん、私が人目を気にする性格だというのがある。そしてもう一つは……

律「みおー、そんなキョロキョロするなよ」

澪「……クセなんだ、しょうがないだろ」

律「まぁ命の恩人に逢いたい気持ちはわかるよー? でもな、あまりにも挙動不審だって言ってるんだよ!」 

澪「うるさい気が散る」

もう一つの理由は、数年前に私を助けてくれた彼女を、ずっと探しているから。
命を絶とうとした私を、親友の律の声さえも疑うほど追い詰められていた私を、
いとも容易く救ってくれたあの子の事を。

手がかりなんて何一つない。頼りになるのは私の記憶だけ。
だからこそ常に周囲に目を配り、探し続けてきた。ずっと、ずっと。

律「…相手も名乗らなかったってことは恩を感じられても困るってことだろ? そんなに縛られるなよ」

澪「ダメだ、私の気が済まない」



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 01:06:41.54 ID:ZWOh/UcV0


律「……はぁ。こうなったら聞かないんだもんなぁ」

当たり前だ。最低でも一言感謝の言葉を述べるまでは止まれない自覚がある。
だからこそこの高校を受験した。女の子が多いのはもちろん女子高だし、
あの場に居たという事は近所に住んでいるはずだし、
それに……その、女の子にキスする女の子なんて、
そういう環境――女子高がやっぱり相応しいというか。

とにかく、ここならあの子に逢えると私は確信を持っていた。
根拠なんか何一つない推理だけど、間違いなくそれは確信と言えた。


そして、入学から二週間が経とうかという頃。彼女は私の前に現れた。


律「みんなー! 入部希望者が来たぞー!」

紬「まぁ!」ガタッ

澪「本当――」

……続く言葉が私の口から発されることこそ無かったが、致し方ないことだろう。
律が後ろ手で引っ張ってきた彼女が、ずっと探してきた人だったんだから。
あ、ちなみに律は事情を知ってこそいれど顔を知らないから気づかなかったのだろう。
でも今の私の驚愕っぷりに何か感じるところはあったらしく硬直している。



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 01:11:45.20 ID:ZWOh/UcV0


だが、そんなことよりも気になることが。

紬「ようこそ軽音部へ! 歓迎いたしますわ~」

律「よ、よしムギ、お茶の準備だ!」

紬「はいっ!」

お茶の準備に走るムギと、こっそりと私の顔色を伺う律。
そして何故かオロオロする新入部員らしき彼女。
ちゃんと、ちゃんと私は彼女と視線が合った。目と目が合った。

なのに。
それなのに。

なぜ、驚いているのは私だけなの?



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 01:17:01.79 ID:ZWOh/UcV0



律「――え、辞めるって言いに来たの?」ショボン

?「う、うん…」

澪「え……」

きっとこの時の私は、何よりも寂しそうな顔をしていただろう。
そりゃそうだ、ずっと探し続けていた人が私のことをわかっていないばかりか、
唯一出来かけた繋がりさえも絶たれようとしているのだから。
……だから、この時ばかりは律の強引さに感謝した。

律「でもうちの部に入ろうと思ったってことは、音楽には興味あるんだよね?」

?「まぁ、一応……」

律「なら私達の演奏を聴いてみてから判断してみない?」チラッ

澪「あ……うん、そうだよ! 聴いてみてよ!」


そして――


ジャラーン

?「あんまりうまくないですね!」

律「バッサリだー」



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 01:23:27.60 ID:ZWOh/UcV0


?「でも……すごく楽しそうです! 入部したいです!」

澪「あ……ありがとう!」ガシッ

?「ひゃっ!?」

い、勢い余って手を握ってしまった…!
……って、よく考えたら数年前にもっと恥ずかしい事してるんだから別にいいか。
とにかく、本当によかった。まだ一緒にいられるんだ…!

澪「これから一緒に頑張ろう!!」

?「で、でも私、全然楽器できないし…」

紬「それならギター始めてみたらどうかしら?」

ムギ、ナイスアシストだ!
律はドラムだしムギはキーボードだから、
彼女がギターを始めれば近しいベースの私は自然と接する機会が増える!
接する機会が増えれば、彼女も思い出してくれるかも……!

?「あ、あの、それともう一つ言っておかないといけないことが…」

律「ん? なに?」

?「あまり遅くまでは練習できないと思うんだ……
  その、妹がね、帰りを待ってるというか、夕食の材料買って帰らないといけないから」

律「んー、それくらいなら大丈夫大丈夫。でも家で自主練はしとけよー?」

?「う、うん。頑張る」



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 01:28:56.29 ID:ZWOh/UcV0


澪「まぁまずはギター買わないといけないけど」

紬「じゃあ週末見に行きましょうか」

律「そーだな。じゃ、今日はとりあえず入部届だけ受け取っとくよ」

?「あれ? 渡してないっけ?」

律「……澪、知らない?」

澪「私達のはそこの引き出しの中にあるはずだけど…」

生憎、私はまだその子の名前を知らないからハッキリとは言えない。
律は部長だから知ってるはずなんだけど……しっかりしてくれよ、もう。

律「……ん、あったあった。そういえば確かに見たような気もするわ。んじゃいっか」

澪「あ、ちょっと待って律。見せて」

律「ん、あぁ、ホレ」



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 01:32:54.81 ID:ZWOh/UcV0


書かれている要項に目を通す。学年は一緒、だけどクラスは…別。
そして、そこに書かれている名前は…

澪「…平沢さん、か。あらためてこれからよろしく」

唯「唯でいいよ。よろしくね、えっと…」

澪「澪でいいよ。秋山澪」

唯「うん。よろしく、みおちゃん」

そう微笑む彼女は眩しくて。やっぱりあの時のあの子で。
それは要するに……私のファーストキスの相手で。でも、向こうはきっと覚えてなくて。

悔しい気持ちも勿論あったから、本来の目的の『あの時のお礼』は、
平沢さ――唯が思い出してからに延期することにした。
その代わり……と言っては何だけど、絶対に思い出させてやる。そう決意して。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 01:37:29.43 ID:ZWOh/UcV0



和「――え、結局軽音部に入ったんだ!?」

唯「うん。どうしても入部してほしいって言われて」

和「マジで!?」

唯「まじまじ。超まじ」

和「……それでいいの? 憂のこともあるのよ?」

唯「…うん、だから早く帰らせてってお願いしたよ」

和「こんな自分勝手な部員掴まされて大丈夫かしら、軽音部」

唯「耳と胸が痛いなぁ」



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 01:43:01.75 ID:ZWOh/UcV0


――そして週末。私達軽音部は四人でギターを買いに来た…のはいいのだが、唯の手持ちが足りず。

唯「――ちょっと待ってて、銀行行ってくる!」

澪「え?」

唯「お金! おろしてくるから!」

そう言って走り出す唯。
私達は黙ってその背中を見送る……つもりだったが、なんとなく不安なので、

澪「私も行く! 二人は待ってて!」

律「…なんか迷いそうだもんな、唯」

澪「そこまでは言わないけど…なんか目が離せないから」

と、私も唯を走って追いかける事にした。
だが店を出て数メートル走った曲がり角で、

唯「疲れたぁー」

澪「早っ!?」

地べたに座り込む唯と遭遇。危ないな、もう少しで蹴飛ばすところだったぞ。



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 01:49:24.70 ID:ZWOh/UcV0

唯「あ、あれ、みおちゃん。どしたの?」

澪「一緒に行くよ。私も手持ちが心許ないんだ」

唯「あ、うん。ありがと…」

澪「…疲れてるところ悪いけど、立って。あまり皆を待たせてもいられないし」

唯「うへぇ」

澪「……ほら、手」

唯「…ありがと」ギュッ

……握った手は、忘れもしないあの時の温かさそのままで、
どこか恥ずかしくて早足で歩き出してしまう。
――いや、あの時は手じゃなくて主に唇だったんだけど。
でもその後に抱きしめられた時の全身の温もりも勿論覚えてるけど――ってそうじゃなくて、えっと……
……うん、ダメだ、意識するともっと恥ずかしい。話を逸らそう。

澪「あー、その、お金足りそう? 下ろしても足りないなら貸すよ?」

唯「ん、結構貯金あるし大丈夫だと思うよ。
  それにお金関係で友達を頼るくらいなら親から借りるよ。後々こじれそうだし」

澪「ん、そうか……」

言ってることは正論なんだが……なんか、こう、頼りにされてないようにも思えてしまう。
いや、もちろん私が唯の立場でも、友人からお金を借りたりはしないと思うけど。額も額だし。
……でも、頼りにして欲しかった。
もちろんそれは、あの時私を助けてくれた唯に対する
私なりの感謝の気持ちの押し付けの一つの形にすぎないけれど。
そして、それを覚えてない唯からすれば、それは到底理解できないだろうけれど。

……考えてもしょうがない。
この件は考えても行動しないことには絶対、事態は好転しない。
そしてこっちから行動するのは…無理っぽい。
だって「私とキスしたこと覚えてますか」なんて普通は聞けない。恥ずかしすぎる。
それに、なんか癪だし……
だから、どうにかして唯のほうから思い出させる。思い出してもらう、それしかない。



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 01:57:33.84 ID:ZWOh/UcV0


澪「…そういえば唯は、なんで音楽に興味持ったの?」

唯「え? えっと、ちょっと昔に逢った女の子がね、ベースやってる、って言ってて」

澪「えっ……?」

唯「それで興味があったってだけだよ。大した理由じゃなくてごめんね?」

いや、謝られても困るっていうか、それって私じゃん!
――あの時、助けてもらった後、唯は私を落ち着かせる為か趣味の話とかを沢山振ってきた。
その時に確かに私は音楽と答え、ベースを持っていることまで告げた。
絶対私じゃん! なんで唯はそこまで覚えてて私を覚えてないんだ!?

澪「あの、唯――」

唯「それにしてもあのギター、かわいかったよねぇ」キラキラ

澪「――は?」

唯が見ていたギターはレスポールだったはず。かわいい…か?
そもそもギターの可愛い要素って何だ?

唯「もうね、なんか運命感じちゃったよ。この子しかいない! って」

澪「………そ、そう…」

ダメだ、まったく感覚がわからない。
少し不思議な子だな、唯って。少し不思議、略してSF、なんちゃって。

……とか言ってる間に銀行に着いたのでお金を下ろし、
帰りは特に何も無い、所謂『他愛ない話』をしながら戻った。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 01:58:36.21 ID:ZWOh/UcV0



――そうして唯は無事(?)、相棒のレスポールを手に入れ、次の部活の日。

チャラリーララ チャラリラリラ~

律「チャ○メラ!?」

澪「唯…家でギター練習してないの?」

律「自主練しろって言ったのに……ほったらかしなのか?」

唯「そ、そんなことないよー!? すっごい大事にしてるんだよ?」

紬「どんな風に?」

唯「鏡の前で(以下略
  添い寝(以下略
  写真(略
  ボーっと眺めてて一日が終わっちゃうこともしょっちゅう…」

律「弾けよ」

……やっぱり、どこか不思議な子だなぁ。
まぁそりゃ普通の人は見ず知らずの女の子に…キ、キスなんてしないと思うけど。
……ただのキス魔なんてことは…ないよな?

――その後、痛いのが怖いことがバレて唯に「かわいい悲鳴」って言われたり、
指をぷにぷにされたり、コード表を渡してあげたりして解散になった。
唯の意思をちゃんと汲んでる律は案外部長の器があるのかもしれない。
ともあれ、唯との距離は縮まった気がする。思い出してもらえるかは、まだまだわからないけれど――



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 01:59:37.52 ID:ZWOh/UcV0



和「――あ、唯っ!」

唯「あ、和ちゃん!」ガッ

和「ぬるぽ」

唯「」ガッ

和「なにそれ、新しい挨拶?」

唯「ちがうよー。えへへ、ギターのコード教えてもらったんだー」

和「へぇ、頑張ってるのね。憂のことはそっちのけで」

唯「……なんでそうイジワルな言い方するかなぁ」

和「冗談よ。姉妹の絆に口を挟むつもりもないし割って入るつもりもないって言ってるでしょ?」

唯「憂も…わかってくれてるよ。ちゃんと話したんだから」

和「…あの子のこと?」

唯「あの子の事も、軽音部のことも、ちゃんとわかってくれてる」

和「いい妹を持ったわねぇ」



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 02:01:39.44 ID:ZWOh/UcV0


唯「……ねぇ和ちゃん、本当に憂は…家事が好きなのかな?
  家事だけしてれば幸せなのかな? 私は、こんなことをしていていいのかな?」

和「……ちゃんとわかってくれてるんじゃなかったの?」

唯「ちがうよ、わかってくれてるんだよ、憂は。
  でもそれは私にとっての幸せで、憂にとっての幸せじゃないよね?」

和「幸せだって本人が言ってるんでしょ? 信じてあげなさいよ」

唯「でも……私なら、そんなの面白くないし…」

和「そうね、ぶっちゃけ私も家事だけやって生きていけなんて言われたら殴るわね」

唯「だよね……って、どっちなのさ」

和「どっちでも信じてあげなさいって言ってんの。
  憂が自分を偽ってるなら話は別だけど、
  憂が考えて最善だと思って出した結論なら、ちゃんとそれなりの理由があるんだから」

唯「本当に家事が好きだとしても、嘘だったとしても?」

和「そう。あの子のつく嘘はきっと優しい嘘よ。
  ちゃんと他人のことを思いやれる優しい子なのは、唯も知ってるでしょ?」

唯「…うん」



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 02:06:22.57 ID:ZWOh/UcV0


和「ならそれに報いないといけないの、あなたは」

唯「……そっか」

和「そうよ」

唯「………」

和「ところでもうすぐ中間テストなんだけど」

唯「マジ?」

和「マジ」

唯「……憂に――」

和「自力でやりなさいよ?」

唯「……はい」



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 02:12:13.18 ID:ZWOh/UcV0


そして中間テスト明け。


唯「――クラスで一人、追試だそうです」←遠い目

律「なんかよくわからんけど予想できたよこの展開」

唯「というわけで澪ちゃん助けてー」ヨヨヨ

澪「えっ、私…?」

とは言ったものの、頼られるのはすごく気分がいい。
まぁ、相手が唯だからなんだけど。
これが律だったら……あれ、普通に数日前に頼られて教えてやった気がする。
……いっそ二人まとめて見てやればよかったなぁ。期末からはそうしようか。

澪「仕方ないな…じゃあ今日勉強会するか」

唯「本当!? ありがとー!」

澪「いやいや、軽音部のためでもあるし気にしないで」テレテレ



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 02:17:33.99 ID:ZWOh/UcV0


唯「そうと決まったら先に帰って準備しとくよ! じゃあね!」ダッ

澪「えっ」

律「ちょ、おま、練習――は一応ダメなのか」

紬「追試で合格するまでは、ですね」

澪「……私達はどうすりゃいいんだ?」

律「……一回合わせとく?」

澪「いや、そうじゃなくて。私達唯の家知らないぞ?」

紬「あっ…」


お菓子を食べ、なんとなく唯を待ってみようという意味も込めて
一回だけ三人で音合わせをしたが戻ってくるはずもなく、とりあえず部室を出て校門まで向かう。

律「…メールしてみるか」

澪「電話でいいんじゃないか?」

そう言い、私が携帯を取り出した矢先のこと。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 02:22:17.37 ID:ZWOh/UcV0


?「あのっ!」

澪「ん?」

声をかけられ、振り向いた先にいたのは――

律「唯? 髪形変えた?」

唯?「あ、いえ、その、桜が丘高校の軽音部の方達ですよね?」

澪「うん、そうだけど……唯じゃないのか?」

どう見ても髪を後ろで縛った唯にしか見えないんだけどなぁ。
声も心なしか似ている気がするし。

憂「はい、私、妹の平沢憂といいます」

律「うわっ、似てる!?」

紬「髪型以外瓜二つね…」

憂「あはは、よく言われます……
  それでその、お姉ちゃんが部屋を片付けてるので、呼んで来てくれって頼まれまして」

澪「なんで自分で来ないんだ…」



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 02:27:51.28 ID:ZWOh/UcV0


律「まぁ、姉妹といえど互いの部屋を勝手に片付けるのもアレだしな。どっちの言い分もわかるよ」

澪「さすが弟持ち」

紬「私達にはちょっとわかりませんね」

たぶんムギは使用人に部屋を片付けさせているからだと思う。
あくまで私の勝手なイメージではあるけど。

憂「そう遠くはないのでついて来てもらえますか?」

律「うん。よろしくね、憂ちゃん」

憂「あ、はい!」

澪「これからテストの度にお邪魔するかもしれないからな…」

憂「あ、あはは……」


そうして辿り着いた唯の家は…まぁ、普通の一軒家で。

憂「ただいまー。お姉ちゃーん?」

律「部屋は上?」

憂「はい、呼んできますから少し待っててください」タタタ



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 02:32:47.07 ID:ZWOh/UcV0


軽やかに階段を駆け上がっていく憂ちゃん。
健気な妹だなぁ。こう言っちゃ何だけど、ほわほわした唯より頼りがいがある。
いや、どっちが好きとかそういうのではないぞ、断じて。って誰に言い訳してるんだ私は。
言い訳なんかするまでもなく、私が惹かれてるのは唯のほう――ってそれも違う!
ただ、ただ唯にはあの時のお礼を言いたいだけで、好きとかそういうのは断じて無いっ!!

律「おーい、澪? 何一人で悶えてるんだ?」

澪「な、何でもない!」

唯「ごめーん、みんなお待たせ! あがってあがってー」トテテ

紬「お邪魔しまーす」

澪「ホラ行くぞ律!」

律「はいはい…わかりやすい奴め」



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 02:38:17.86 ID:ZWOh/UcV0



律「――いやぁ、しかし姉妹でこうも違うもんかね?」

唯「何が?」

律「いや……」

私と同じような疑問を律も抱いていたようだ。そっくりなのは顔だけだな、まさに。
まぁ当の本人はわかっていないようだし気にしてもいないようだから多くは語るまい。

唯「あーそうだ、憂がお茶とお菓子準備してくれてたんだ、持って来るね!」ガチャ

澪「……本当に出来た妹だなぁ」

律「一家に一人欲しいですな」

紬「そうですねぇ」

律「あ、そこはムギから見ても同意なんだ…」

紬「?」


そうして唯が戻ってきたところで本題の試験勉強を開始する。
先にお菓子とか雑談とかにかまけてしまうとどんどん脱線していってしまうのは既に私も学習している。
唯のやる気があるうちに私とムギで出来るだけ詰め込む作戦だ。
その作戦は間違っていなかった。だけど、一つ見落としていた事があった。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 02:43:48.67 ID:ZWOh/UcV0

律「ひまだー」ソワソワ

……赤点でこそないが、人に勉強を教えられるほど頭も良くない幼馴染の存在を。

澪「うるさい」

ぶっちゃけこの場には不要だ。仲間はずれも可哀相ではあるけれど、居ても何一つプラスにならない。
というかさっきからずっとソワソワしてて目障りでしょうがない。

律「そういえば憂ちゃんは?」

唯「なんか邪魔したくないからどこか行くとか言ってたよ」

律「ちぇー、一緒に遊ぼうかと思ったのに」

澪「ホントに何しに来たんだお前は…」

ま、そうやって誰とも仲良くなれるのは律の長所なんだけどさ。
そして、唯と似ている所でもある。そう考えると――いや、考えなくても羨ましいか。

紬「それにしても、お姉さんを立てるいい妹をお持ちね、唯さんは」

唯「……ムギちゃん、さん付けとかいいよー、くすぐったい」

紬「そ、そう? じゃあ…唯ちゃん?」

唯「うん、やっぱそっちのほうが落ち着くよ!」

紬「そ、そうかしら……」



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 02:48:38.64 ID:ZWOh/UcV0


唯「えっへへ~、ムギちゃーん♪」

紬「っ…///」

……ん? なんかムギが赤くなってるぞ。

律「(ムギと唯が一気に距離を縮めちゃったなぁ。いいのか澪?)」ボソッ

澪「(…どういう意味だよ?)」

律「(だーかーら、なんでお前はもっと積極的に行かないのかって話だよ!)」

澪「(いやいや……)」

積極的とか……それどこの恋愛相談だよ、まったく。
その、キ、キスこそされたけど、そういう目では見てないぞ、私は。そしてきっと唯も。
……いや、唯はそういう目で云々以前に忘れてるんだっけ。

あぁ、なんだろ、やっぱモヤモヤするなぁ。案外、律の言う通り積極的にいった方がいいのかな?
律のそういう積極性は、やっぱり羨ましいし。見習うべきなのかな?



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 02:52:20.56 ID:ZWOh/UcV0


――というわけで、唯が無事追試をクリア(しかも満点で)した後、私は積極的に一つの提案をしてみた。

澪「――合宿をします!」

名目は学園祭に向けた強化合宿。でも下心ももちろんあって、
積極的に唯との距離を縮めて思い出してもらうためというのが本当の狙い。
もちろん、他のみんなの距離も縮まればよりいいんだけど。
とりあえず、そんな私の『下心満載だけど最終的には部のためにもなるはず』
な提案はムギの所持している別荘で決行された。

――結果から言うと合宿自体は有意義なものだったと思う。
だが何より水着の唯は可愛かった。髪を横で束ねているのとかもうヤバかった。

……私、こんなキャラだったか?

いや、あの時からだ。合宿の夜――

唯『――やっぱり音楽っていいね!
  合宿しようって言ってくれた澪ちゃんのおかげだよ! ありがとう!!』

――露天風呂で唯に手を握られ、真っ直ぐ感謝の言葉を告げられた時。
皮肉にも、感謝の言葉を伝えようとずっと前から心に決めていた私より先に。
そんな私に対して告げられたその想いに。
素直で綺麗なその心に、私の心もきっと揺り動かされてしまった。

……これが恋愛感情だとは言い切れないけれど、
それでもこの時から、唯の言葉が、仕草が、私の中で大きな意味を持つものに変わっていった。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 02:56:07.45 ID:ZWOh/UcV0


――そして、学園祭も近づいた頃。今更我が軽音部に顧問がついた。

さ「――で、学祭でやる曲は?」

この人が顧問の山中さわ子先生。唯に黒歴史を暴かれ、律に脅されて堕ちてきた哀れな子羊だ。
もっとも、顧問のいなかった軽音部にとっては救世主なのだが。
ともあれ、美人で評価も高い先生が顧問についてくれたのは心強い。
唯達によって晒されてしまった内面のアレっぷりは抜きにしても、だ。
というわけで、言うことには従おう。

澪「えっと、歌詞なら……」

唯「あるのー? 見たーい!」

澪「ひっ!? 唯はダメ!!」

唯「ええっ!? なんで…?」シュン

澪「ああっ、いや違う、その、恥ずかしいから…」

別に誰に見られても恥ずかしいんだけど、特に唯には…その、失望されたりしたら嫌だし…

さ「どうせ全員に見られるんだから一緒でしょうに。
  それどころか皆の前で歌うかもしれないのよ? 早く渡しなさい」

澪「は、はい……」

日々少しずつ書き溜めていたルーズリーフの中から一枚、山中先生に渡す。
自信作…というわけでもないけど、今のところ唯一最後まで書ききった歌詞だ。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 02:58:27.55 ID:ZWOh/UcV0


唯「あぁ~……見たかったのに」

澪「ご、ごめん…」

紬「どうせ見れますよ、すぐに。ね?」

唯「うん……」

……落ち込む唯を見ると、胸が締め付けられる。
そんな顔をさせたのは私だ。いつもの私の、いつもの行動が。
そう思うと、悔いる気持ちで一杯になる。

澪「……ううん、やっぱり私が悪いよ。こういう時は恥ずかしがってちゃいけないんだ…!」

恥ずかしがりな性格は私のコンプレックスの一つだ。
だからこそそういうのとは無縁そうな律や唯が羨ましく映るのであって。
それに加えて、今回のは軽音部の進退に関わること。恥ずかしがってる場合じゃなかったんだ。
恥ずかしいけど、恥ずかしくても、唯と一緒に学園祭で演奏するんだと考えるとそうも言ってられない。
私に出来ることは何でもして、成功させないと。
絶対に成功させる、そのためにはまず私が変わらないと!

律「………ふーん」ニヤニヤ



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 02:59:54.74 ID:ZWOh/UcV0

……と意気込んではいたんだけど、

フワフワターイム フワフワターイム

さ「うおぉ、体が…背中が…」カイカイ

律「しまった、澪だってことを忘れていた……てかお前、まだこんな詩を…?」カイーノ

澪「だ、ダメかなぁ…?」

少なくとも、褒めてくれてはいないのはわかる。
やっぱりダメなのかな…? 唯に見せなかった私の判断は正しかったのかなぁ…

さ「うっ、その……」

律「ゆ、唯はどう思う?」

澪「あっ、待って、見せちゃダメ――」

と手を伸ばすも、すんでのところで唯が先に取ってしまう。

唯「ゲットだぜー!」

澪「ちょ、ダメだってば!」

紬「まぁまぁまぁ」ガシッ

澪「ちょ、離せムギ――ぃ痛い痛い! 何この怪力!?」

紬「うふふ♪」



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 03:01:58.77 ID:ZWOh/UcV0


唯「………」ジー

ああああぁぁ……唯に、唯に読まれてるぅ……
やだ、ダメだ、人生終わった……

唯「すごくいい…」キラキラ

律「マジでー!?」

唯「私はすごく好きだよ、この歌詞!」ガシッ

澪「ほ…ほんと?」

唯「うんっ!」

人生始まった。超始まった。

どうしよう、すっごく嬉しい。きっと私、また赤面してる。
……あれ、でも待てよ?
ちょっと不思議ちゃんな面もある唯がマトモな芸術感覚を持ってるかは怪しいような…

紬「いいんじゃないでしょうかっ!」ウットリ

さ「わ、私もこういうの好きかもー」キャピ

律「あれぇ!?」

先生、さっきまで微妙な表情してたくせに…
ムギはなんか私達のやりとりを見てから肯定しだした気がするし…
まぁ、それでも認めてもらえたんだとしたら嬉しいけど。特に唯に認められたのは。



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 03:07:25.62 ID:ZWOh/UcV0


紬「じゃあ多数決で決定ね!」

唯「わーい!」

律「とほほ……んじゃボーカルは澪、頑張って」

澪「えっ!? 無理! こんな恥ずかしいの歌えないよぉ!」

律「おい作者」

いや、その、恥ずかしがりを克服しようとは思ってるんだけど!
でもさすがに全校生徒の前で自分の脳内世界全開の詩を歌うなんてハードル高すぎるって!
もうちょっとゆっくりやっていこうよ!

律「むぅ…予想はしてたけど、澪がダメとなると…」

唯「」キラキラ

律「…唯、やってみる?」

唯「えっ!? で、でも私、そんなに歌うまくないし…」テレテレ

律「あっそ。んじゃムギだな。あーもったいないなー、唯がやるって言えば決まりだったのになー?」チラッ

唯「わ、私歌う! 歌いたい! お願いします!!」ビシッ

……私が恥ずかしいと思った歌詞にここまで熱を上げる唯の感覚は、やっぱりきっと少しズレている。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 03:12:55.73 ID:ZWOh/UcV0


ともあれ、唯が歌う方向でボーカルも交えた練習をすることになったのだが……

唯「――ギター弾きながら歌えない…」ズーン

さ「仕方ないわねぇ……一週間つきっきりで特訓してあげる!」

唯「せ、先生っ!」

さ「まずは歯ギターのやり方――」

唯「それはいいです」


律「――へぇ、唯のやつ、今度はさわちゃんとフラグを立てるつもりか」

澪「フラグ?」

律「一週間のつきっきりの特訓で一気に仲良くなるって事」

澪「ッ!?」

その時、私に電流走る――!
残念ながらひらめき的な意味ではなく、ショックの方で。

澪「わ、私も付き合います!」

唯「ほへ?」



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 03:19:05.79 ID:ZWOh/UcV0

澪「ほら、こう、私達、ベースとギターだから!
  ライブパフォーマンス的な練習もしますから特訓に付き合います!」

さ「歯ギター?」

澪「それはいいです」

っていうか勿論パフォーマンスも嘘だ。何かと理由をつけて唯と一緒にいたいだけ。
あるいは唯と誰かが私の知らないところで仲良くなるのが気に入らないだけ。
……あれ、なんかイケナイ思考回路になってきてないか、私。


律「――んじゃ私らは帰るけど…」

さ「後は任せときなさいな。一流のギタリストに仕上げてみせるわ!」

澪「………」

律「なんかいろいろ不安が残るけど…まぁ、いいか」

紬「それじゃあお先に失礼しますね」

唯「またねー」

帰り際に律が親指を立てていった。うざい。

さ「……さーて、それじゃ始めますか! あ、澪ちゃんは帰りが遅くなるって連絡しといたほうがいいわよ?」

澪「私は、って? 唯は憂ちゃんに連絡しなくていいの?」

唯「あ、うん、大丈夫大丈夫」



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 03:27:01.82 ID:ZWOh/UcV0


澪「大丈夫って、そんなわけ……」

あんな健気でいい子の妹さんを不安にさせるのはどうかと思うぞ、唯。

さ「あー、そっちは私が連絡しておいたから、ね?」

澪「いや、さわ子先生ずっと一緒にいたじゃないですか…」

さ「連絡しておくから、ね?」

澪「…はぁ、まぁ、そう言うなら…」

腑に落ちないけど、とりあえず電話をかけに部屋の隅へ。


さ「……ごめんね、うっかりしてた」

唯「いえ…いつかは言わないといけないとは思ってるんですけど」


……何を話しているんだろう、二人は。よく聞こえない。

澪「あ、ママ。今日から一週間、練習が長引くから。うん、うん、大丈夫。ごめんね――」



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 03:33:25.10 ID:ZWOh/UcV0



――そして一週間後。律が案じていたような事態は起こらず、学園祭を三日後に控えて。

澪「いやー、唯のギターもだいぶ上達したな!」

唯「」コクリ

さ「唯ちゃん、昨日の課題ぶん、ちゃんと発声練習してきたかしら?」

唯「」コクリ

澪「……なんで喋らないの?」

唯「こ゛え゛か゛か゛れ゛た゛」

澪「」

さ「」




56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 03:38:54.83 ID:ZWOh/UcV0

――結局、本番は私がボーカルになってしまった。どういうことなの……

終わってみればそれだけでは済まず変な衣装は着させられるし、
下着まで晒してしまうし、本当に踏んだり蹴ったりの学園祭となった。
ただ、悪かったことばかりじゃない――


ワァァァァァー

澪(っ…人が…たくさん…! 律っ……)

律(澪――いや、そろそろしっかりしてもらわないと。いつまでも私と一緒にいれるわけでもないんだぞ?)

澪(っ、そんな……無理…怖い……)

失敗したらどうしよう。演奏を間違ったら、歌詞を忘れたら、みんなの頑張りを台無しにしちゃったらどうしよう。
恐怖が、プレッシャーが、頭の中で巡り巡って踊り狂う。他のモノ全てが認識できなくなるほどに。

……そうだよ、私は楽器や歌の練習こそしてたけど、プレッシャーに打ち勝つ特訓なんてしていない。
少し引いたところで演奏するのが限界の私が、そもそもこんなに沢山の人の前で、
私がいつも通りにやれる保障なんて、何一つないんだ――!

澪(っ……だめだっ――)

押しつぶされそうになった、その時。
怖さばかりが渦巻いて他の全てを拒む私の心に、なぜか一つだけ、すっと入ってきたモノがあった。


唯「澪ちゃん!!」


澪「っ!?」



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 03:44:57.90 ID:ZWOh/UcV0

唯「私、澪ちゃんが頑張って練習してたの知ってるから!」

澪「あ……」

見てた…の?
唯が、私が誰よりも自分の事を見て欲しい人が、見てくれていた…?

唯「私のせいだから偉そうなことは言えないけど…
  でも、澪ちゃんは誰よりも頑張ってたんだから、絶対大丈夫だよ! がんばろう!!」

澪「唯……」

……確かに唯のせい、ではあるけど。でも唯の代わりだから、私は頑張れたんだよ。
唯も頑張ってたから、それを無駄にしたくないから、私は頑張れたんだよ。

……そうだ。ちょっと恥ずかしいくらいで、私達の重ねてきた時間を、ぜんぶ無駄になんて出来るものか!

澪「――歌います! ふわふわ時間ッ!!」


――間違いなく、最高の演奏が出来た。
それに唯は、まだ喉も痛いはずなのにコーラスで参加してくれた。それが何より嬉しかった。
と同時に、その痛む喉で私を勇気付けてくれたんだと思うと…
また助けられちゃったな、という気持ちにもなるけど。

でも、この頃になると逆に開き直れてきてもいた。
きっと、私と唯は一生の友達になれる。ずっと一緒にいられる。だから焦ることなんてない、と。
じっくり、少しずつ唯に恩を返していけばいいと。


でも、すぐに私はそんな考えを悔いることになる。
もっとも、悔いたことろで時間は戻らないのだけれど。



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 03:49:28.94 ID:ZWOh/UcV0



――新年度。

澪「」ポツーン

……どうしよう。まさか友達誰とも同じクラスになれないなんて思わなかった。
それに…唯と律、ムギは同じクラスだって言うじゃないか。何か間違いでもあったらどうするんだ…!
いや、それも心配だけど、同じくらい私の今後も心配というか不安だぞ……便所飯コース一直線じゃ――

和「あ、澪」

澪「あっ!」

和「よかったー、唯ともクラス離れちゃって心p――」

澪「よろしくっ!」ガシッ

和「早っ!」



――だが、こんなのは序の口にすぎなかった。
新入生歓迎会で唯と息の合ったダブルボーカルを披露し、二人の相性を確かめ合ったのも束の間。
そう、奴が現れたんだ――



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 03:54:01.10 ID:ZWOh/UcV0


梓「――中野梓です! よろしくお願いします!!」

唯「かーわーいーいー!!」

さ「ネコミミつけてみ」

律「ニャーって言ってみ」

梓「にゃ、にゃー?」

唯「あだ名はあずにゃんで決定だね!」

澪「………」

律達がからかう対象が梓に移った…のは、別にいい。それどころか喜ばしいことだ。
ただ、唯の視線が、今まで私に注がれていたはずの眼差しが、全て向こうに行ってしまった。
それが……どうしようもなく寂しかった。
もちろん梓は大切な後輩なんだ、憎んだりなんて出来ないけれど。でも……

律「…いや、あまり気にするなよ? 後輩を可愛がりたいのは誰だって一緒だろ?」

澪「そりゃそうだけど…」

律「いいじゃないか。澪も尊敬されてるみたいだぞ?」

澪「それは…嬉しいけど」



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 03:56:23.90 ID:ZWOh/UcV0

律「最初だけだって。な?」

澪「うん……」

そうだ、きっといつかは飽きる。
梓には悪いけど、私はそう思い込むことでどうにか自分を保っていられた。


和「――軽音部はどう? 唯はうまくやってる?」

澪「一つの事覚えたら一つの事忘れて大変よぉ」

あ、私今唯の保護者っぽい! ヤッホゥ!
……ん、そういえば和は唯の先代保護者なんだよな……いろいろ聞いておいてもいいかも?


唯「――あの二人、なんだかいいムードですわよ? りっちゃん」

律「ううっ、よかったなぁ澪。
  お前のことだからぼっちで便所飯してるんじゃないかと思ったが…友達作れたんだな…」

唯「っていうかクラスに知り合いがいたってだけじゃん…大袈裟な」

律「それでも澪からすれば大きな進歩なんだよっ!」

唯「あはは……まぁ、本題忘れてないよね?」

律「おうよ! 突撃だー!」

唯「おー!」



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 03:57:27.94 ID:ZWOh/UcV0

澪「ギャー! なんか来たー!」

和「あら唯。何かあったの?」

唯「実は期末テストのことなんだけど――」

和「却下。自分でやらないと力にならないわよ?」

唯「いじわるー、ぶー」

……唯のあしらい方…勉強になるなぁ。やはり和からはいろいろと学ぶことはありそうだ。
ただ、本音を言うならば唯が私を先に頼ってくれたら私がコーチしてあげるつもりだった。ちょっと悔しい。


――結局、期末テストはいつも通り、律には私がつきっきりでコーチすることになり。
一方唯は憂ちゃんに助けてもらったらしい。それってどうなんだ。

澪「そういえば、憂ちゃんはどこに進学したんだ? 一つ下だったよな、確か」

和「えっ? 唯、言ってなかったの?」

唯「あー、うん。憂はね、主婦になりました」

澪「えっ!? 結婚したの!?」

唯「そうじゃなくて…その、私が家事とかサッパリだからね、家にいてくれるというか…」

要約すると進学も就職もしなかった、ということだろう。
レスポールを買えるくらいのお金はあるんだし、金銭面の問題ではないだろう。
というか、唯が言ってるままの理由だと思われる。



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 03:58:54.55 ID:ZWOh/UcV0


和「…まぁ、そう簡単に言える問題でもないわよね」

澪「和は知ってたの?」

和「まぁね。幼馴染だし」

……軽く言い放てる立場が羨ましいよ、和。
しかし憂ちゃん、最終学歴が中卒って、このご時勢かなり辛いんじゃないだろうか。
いい子なだけに不憫すぎる。
そして、そう思っていたのは私だけではなかったようで。

律「でもなぁ……言いにくいけど、さすがにそれは行きすぎじゃないか?
  憂ちゃんにも憂ちゃんの人生が――」

和「言いたいことはわかるけど、憂は中学さえもマトモに通ってないのよ?」

律「そう…なのか?」

和「色々あったのよ。そして、憂は唯の世話をすることに自分の居場所を見出した。大体そんな感じ」

バッサリと切り捨てる和は、それ以上の追求を拒むようであり、また、他人が口を挟むなと脅すようでもあり。
要するに有無を言わさぬ力強さを持っていた。
そしてもちろんそれは唯の、そして憂ちゃんのためだとわかるから、和個人を批判もできない。

ただ、二人の間には割って入れないような絆があるような気がして、また少し嫉妬してしまった。
……思ったよりもライバルとなりうる人は多いようだ。



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/25(月) 03:59:11.15 ID:ZWOh/UcV0


――夏休み。今年も海で合宿をしたんだけど、唯は髪型を変えてなかった。残念。


――そして夏休みが明けて。唯のギターのメンテナンス関係でさわちゃんに売られかけた。
冷静に考えれば冗談だとしても酷い話なんだけど、
唯に絡まれたのも久しぶりだったので少し嬉しかったのを覚えている。

それよりも、夏休み明けといえば学園祭だ。梓も交えた初めての舞台。
梓は唯を巡るライバルだけど、それ以前に同じ部活の仲間だ。こういう時はちゃんと一致団結しないとな。

――と思っていた矢先。

唯「風邪ひいたぁ……」

澪「おいぃぃぃぃぃぃ!?」




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[ 2011/07/25 21:52 ] SF | | CM(0)

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