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律「私は田井中律、しがないハケン社員だ」 【非日常系】


http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1253457193/

澪「食事はドアの前に置いといてって言ってるだろ!!」
澪「今日も便所飯か……」




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/20(日) 23:33:13.11 ID:w37whTDF0

今回はこの会社にハケンされた。
特に大きくも小さくもない普通の会社だ。

私を含めた数人のハケンたちは社内の一室に集められていた。

社員「えー、皆様お集まりいただけましたね。
   では、説明係の人に来てもらいますので……中野さーん」

梓「はーい……あ」

律「あ」





3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/20(日) 23:39:00.10 ID:w37whTDF0

それは確かに梓だった。
高校を出てからもう何年も会っていなかったが、
あの頃の面影は残っていた。

梓も私に気付いたようだったが、
すぐに手元の書類に目を落として説明を始めた。

梓「えー、みなさんにやってもらう業務ですが……」

律(うわー、こんなとこで梓に会えるなんて、すごい偶然だな~。
  高校出て以来だからもう6年ぶりか)

私は旧友との久々の再会に心を躍らせていた。

が、その喜びもすぐに砕かれることとなるのを
私はまだ知らなかった。



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/20(日) 23:47:23.25 ID:w37whTDF0

説明を聞き終えた私たちはさっそく仕事に入った。
内容は書類の整理やデータ入力など、まあ簡単な事務仕事のたぐいだ。

私は仕事をしながら横目で梓の方を見やった。

律(ふうん……梓、けっこう周りからの信頼も厚いみたいだな……
  まだ入社2年目くらいだよな~、すごいな梓は)

そんなことを考えていると、梓が私の視線に気づいたようで、
私の方に振り向いた。

私はニカッと笑顔で返した。が。

梓「田井中さん、へらへらしてないで仕事してください」

律「え……」



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/20(日) 23:54:26.96 ID:w37whTDF0

やっぱり仕事中にふざけるのは良くなかったのだろう。
梓はクソ真面目だから、私に対しても毅然とした態度で注意をしてきたのだ。

私はパソコンの画面に視線を戻した。

律「♪~」
カタカタカタカタカタカタ

梓「田井中さん、ちょっといいですか」

律「ん?なに、梓」

梓「なっ……なんですか、その態度。
  確かに私のほうが年下かもしれませんが」

律「え、ああ、スマンスマン」

やはり梓は真面目だ。
楽しい談笑は仕事が終わるまで待ったほうがよさそうだ。

律「で、何か御用ですか」

梓「はい。データ入力間違ってませんか?」

律「え」



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 00:00:28.10 ID:w37whTDF0

言われてみると確かに間違っていた。
今までやった分をすべて入力し直さねばならない。

律「あああああ、すみません……今すぐやり直します」

梓「はあ……時間ないんですからしっかりしてください」

律「はい……」

その日は結局データの再入力だけで終わってしまった。



夜遅くまで残業して、さあ帰ろうという時、
会社の玄関で梓の姿が見えた。

律「おーい、梓~」

梓「……」

律「梓~」

梓「……」

律「あず……」

梓「話しかけないでください」



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 00:08:34.05 ID:o18YjH5G0

律「え……何言ってんだよ梓、
  もう仕事終わったんだしさ~。
  今から暇?どっか飲みに行かない?」

梓「やめてください」

そう言って私を見つめる梓の瞳には、
まぎれもない軽蔑の意識が込められていたのだった。

律「あず……さ……?
  もしかして私のこと忘れちゃったかな、
  高校時代、一緒に軽音部で……」

梓「覚えてますよ。下手くそなドラムやってましたね」

律「梓……」

梓「なれなれしくしないで下さい、ハケンのくせに」



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 00:15:27.30 ID:o18YjH5G0

律「ははは、何言ってんだよ……」

梓「あなたみたいな低学歴のハケンと話すことなんてありません」

律「え」

梓「この社会は実力がものを言うんですよ。
  正社員で周りからも信頼されてて、
  入社2年目にしていろんな仕事や企画をこなしている私と、
  ハケンのあなたと、どっちが上だと思いますか」

律「いや、上とか下とかないだろ。
  そりゃ私より梓のほうが社会的地位は上だろうけどさ、
  それでも私は昔の友達として」

梓「昔のことなんて……忘れました」

律「え」

梓「とにかく今は正社員の中野梓とハケンの田井中律、そういう関係です。
  それじゃ」

それだけ言うと梓は去っていってしまった。
私は追いかけることもできずその場に立ち尽くした。



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 00:22:13.28 ID:o18YjH5G0

なぜいきなりあんなことを言い出したのか、私には想像もつかなかった。
昔のことを忘れたと言った。なぜだろう。
なにか思い出したくないことでもあったのか。

律「高校時代か」

私が所属していた軽音部は平和そのものだった。
厳しい上下関係も確執もなく、
のんびりと活動していた。

嫌な思い出とか、忘れたい過去とか、
そういうのを生み出す環境ではなかったはずだし、
梓自身も楽しく部活動をしていたように見えた。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 00:28:24.66 ID:o18YjH5G0

3年目の文化祭が終わったと同時に3年生は引退し、
軽音部は梓一人になったのだった。

私たちは受験勉強に励んだ。

もっとも私はほとんど勉強なんてせず、
底辺大学に進むことになり、まともに就職もできなかったので
今はこうして。ハケンで食いつないでいる。

唯は音楽学校へ、
紬は有名な女子大へ、
澪は地元の一流大学へと進んだ。

私とほかの3人の間には、大きな壁があるような気がして、
大学に入ってからは3人と殆ど連絡を取らなくなっていた。
もちろん梓とも。

律「……」

とりあえず明日もう一度話してみよう、
私はそう思ってさっさと帰ることにした。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 00:34:06.43 ID:o18YjH5G0

翌日。

私はまたも会社の玄関で梓とはちあわせた。

梓「オハヨウゴザイマス」

律「おはよう……ございます。
  あの、中野さん」

私は敬語で話しかけた。
ため口だとまた会話を拒否されると思ったからだ。

梓「はい」

律「昨夜のことなのですが」

梓「……そのことについてお話しすることはありません」

律「なぜですか!」

梓「あなたには関係ないからです」

律「私に関係してるからこそ話せないんじゃないんですか?」

梓「それは……」



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 00:39:56.70 ID:o18YjH5G0

今までと反応が違う。
どうやら図星のようだ。

律「教えてください」

梓「……お断りします。
  確かにあなたに関係がないとは言えませんが、
  これは私の問題ですから」

律「でも……!」

課長「ああ、中野君、おはよう」

梓「あ、課長……おはようございます」

律「オハヨウゴザイマス」

課長「もうすぐ始業時間だぞ、早く行きたまえ」

梓「はい、すぐ行きます」

律「はい……」

話はそこで打ち切られてしまった。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 00:46:21.20 ID:o18YjH5G0

仕事が始まった。

とりあえず梓のことは忘れ、
目の前の仕事をこなすことだけに集中しようとしたが、
昨日と同じようなケアレスミスが続いてしまい、
そのたびに梓から厳しく注意されることとなってしまった。

そうこうしているうちに昼休みになり、
私はコンビニで買ったお弁当をひらいた。

梓はどこか別の場所で食べているようで、姿はなかった。

午後の仕事も何とかこなし、
梓が帰るのを見計らって私も帰ることにした。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 00:51:25.98 ID:o18YjH5G0

会社から出たところで私は梓に声をかけた。

律「中野さ……いや、梓」

梓「……」

律「話してもらうぞ」

梓「言ってるでしょ、あなたには関係ないって」

律「嘘つけ。朝はあなたに関係ないともいえないって言ってたろ」

梓「……」

律「私と関係ないとは言えない、ってことは、高校時代の話か。
  なんだ?高校時代に何があった」

梓「……」

律「唯のことか?」

梓「……」

律「澪のことか?」

梓「!……」



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 00:58:45.10 ID:o18YjH5G0

律「……澪のことなんだな」

梓「……」

律「澪となんかあったのか」

梓「……」

律「だんまりかよ」

梓「……」

律「そういや澪は高校出たあとかなりレベル高い大学行ったんだったな」

梓「……」

律「いまはどっかの一流企業でバリバリ働いてんのかな~」

梓「……働いてません」

律「え?」

梓「……澪先輩は……引きこもってるんです、6年も前から!あなたのせいで!」

律「……え?」



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 01:07:14.57 ID:o18YjH5G0

律「6年前?澪が大学入った年じゃないのか」

梓「大学に馴染めなくって、すぐ辞めたらしいんです。
  それ以来、ずっと引きこもりで」

律「そうなのか……でも、それがなんで私のせいなんだ」

梓「分からないんですか?」

律「ああ、分からん」

梓「澪先輩には律先輩が必要だったんです」

律「え?」

梓「澪先輩は、ほんとは気弱で、億病で……
  でも律先輩と一緒だったから、軽音部では、あんなに明るく、元気でいられたんです」

律「……」

梓「でも大学にはいって、律先輩と離れ離れになってしまって……
  きっと澪先輩は心細くてしかたなかったことでしょう」



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 01:15:35.36 ID:o18YjH5G0

梓「澪先輩は大学で孤立して……居場所をなくして……
  今では部屋に籠ってネトゲと2ちゃんねるに明け暮れる生活を送っているそうです」

律「それが、私のせいだってのか」

梓「はい。律先輩は澪先輩の親友でありながら、澪先輩のことを何一つ理解していなかった。
  澪先輩のことを本当に分かっているなら、澪先輩と同じ大学に行って
  澪先輩と友達関係を続けて、澪先輩と同じサークルに入って、
  澪先輩と同じ講義を取って、澪先輩と一緒に居続けるべきだったんです。
  私が律先輩なら迷わずそうしますけど?」

律「……」

梓のあまりの剣幕に、私はひるんでしまった。
そして、梓の澪への執着ぶりが恐ろしく感じた。

律「で、でも……それは無茶だよ」

梓「ですよね。律先輩は澪先輩と違って勉強できませんから、
  クソみたいな大学に行くしかありませんもんね」

律「……」



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 01:22:52.22 ID:o18YjH5G0

梓「まあ、私もそこまで律先輩に期待してたわけじゃないですから。
  でも大学が違っても友達関係は続けられましたよね」

律「それは」

梓「メールしたり、電話したり、休みの日にお出かけしたり。
  それだけでも澪先輩の心の支えになったと思いますけど。
  なぜそれをしなかったんですか?」

私が低学歴で、澪が一流大学だから引け目を感じた、とは言えるはずもなかった。

梓「まさか自分が低学歴で、澪先輩が一流大学だから引け目を感じた、とか言いませんよね」

あっさり見抜かれた。

梓「そんなくだらない理由で友達を辞めるんですか」

律「……」

梓「別に律先輩を責めるつもりはありませんよ。
  むしろ律先輩なんかを心の拠り所としていた澪先輩が哀れすぎますよ」

律「……」



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 01:31:21.56 ID:o18YjH5G0

律「私のせいなのか」

梓「律先輩のせいとも言えなくもないですよ。
  でも今さら、しかも私に対して反省みたいなことされてもお門違いも甚だしいです」

律「……じゃあ、今から澪のところに」

梓「やめてください。
  澪先輩は、もう律先輩のものじゃありません」

律「なに?」

梓「律先輩は澪先輩のことを見捨てたじゃないですか。
  だから、私が律先輩の代わりになるんです」

律「どういうことだ」

梓「私が働いてお金を稼いで澪先輩を養うんです」

梓が何を言っているのか私は一瞬分からなかった。
しかし梓のその言葉を飲み込むと、
梓が澪に執着する理由、私を無視し続けた理由、
そして必死に仕事に励んでいた理由がなんとなく理解できた。



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 01:41:29.39 ID:o18YjH5G0

梓「もっと仕事を頑張って、出世して、お金をいっぱい貰えるようになったら、
  引きこもりの澪先輩は、私が面倒を見てあげるんです。
  私が澪先輩の心の拠り所になってあげるんです」

律「なんで、そこまで」

梓「私は澪先輩のことを愛していますから」

律「!?」

梓「今はメールしても、家を訪ねても、相手にしてくれません。
  だから、澪先輩が私を認めてくれるまで、頑張るんです」

律「……」

私は言葉が出てこなかった。
梓の言ったこと、梓の考えていること、すべてに反論しなければならない気がした。
しかし、そのための言葉が思いつかない。

私が何も言えないままでいると、梓はそのまま去って行ってしまった。

私はしばらくその場から動けなかった。



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 01:48:43.87 ID:o18YjH5G0

律「……」

♪~♪~

私の心の静寂を破るように携帯が鳴った。
着信音は唯が最近出した曲だ。
唯は音楽学校を出た後プロデビューし、そこそこヒットしていた。

携帯を見るとメールが届いていた。
彼氏からだった。

「今から会えない?」

胸にもやもやを抱えたまま会うのは気が引けたが、
独りでいても仕方がないし、
最近彼氏にずっと会っていなかったので、会いに行くことにした。



93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 01:56:21.18 ID:o18YjH5G0

20分後、私は彼氏のアパートの前にいた。

彼氏「やあ」

律「会うの久々だな」

彼氏「うん、そうだね。
   とりあえず、入って」

彼氏は明るい気さくな人だ。
私と性格の相性が良く、大学時代から付き合いが続いている。

私は部屋に入った。
片付いてるのか散らかってるのかよく分からない部屋だが、
こういう部屋のほうが私としては落ち着く。

彼氏「……」

律「……ん?何?」

彼氏「いや、なんかいつもと違うから。
   何か悩み事でもあるのか?」

律「ん……実はね」

私は昔の友人がもう6年も引きこもっているということを話した。
梓のことは言わなかった。



99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 02:01:38.93 ID:o18YjH5G0

彼氏「ふうん……じゃあ、会いに行ってみたらいいんじゃないか」

律「え?澪に?」

彼氏「ああ。とりあえずそういうときに必要なのは対話だよ。
   よし、今から行こう。善は急げだ」

律「え?え?今から?」

私は思いがけない形で、澪に会いに行くことになってしまった。

澪の家には電車を乗り継いで30分ほどで着いた。



105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 02:07:11.63 ID:o18YjH5G0

インターホンを押すと、澪の母親が出てきた。
6年前とは比べ物にならないほど老けこんでおり、
顔にはいくつも深いシワが刻まれていた。

母「まあ……りっちゃん?」

律「お久しぶりです。澪に会いたくて来ました」

母「それが……澪ちゃん、部屋から出てこなくて」

律「はい、分かってます。上がらせてもらっても良いでしょうか」

母「ええ……澪ちゃんには会えないと思うけど」

律「会えないなら会えないでいいんです」

私は秋山家に足を踏み入れた。
澪の母親とともに澪の部屋に向かう。



109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 02:10:46.97 ID:o18YjH5G0

澪の母親が扉をノックした。

コンコン

澪「ん?」

中から澪の声が聞こえる。
数年ぶりに聞く旧友の声だ。

母「澪ちゃん、お客さんよ。りっちゃんが来てくださったの」

私は澪の返事を待たずに部屋の扉を開けた。

律「入るぞ、澪」
ガチャ

澪「律……」

律「澪と会うのももう5年ぶりか~?
  はっはは、汚い部屋だな~」

色々と思うところはあったが、
とりあえず私は明るくふるまうようにした。

澪「……何しに来たんだ」



112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 02:15:43.15 ID:o18YjH5G0

律「幼馴染に何しに来たんだ、はご挨拶だな。
  あ、タウンワークじゃん。ついに働くのか?」

澪「……」

澪が私に向ける表情に、もうあの頃の親しみは感じられなかった。

律「澪、家で毎日何してんだ?ずっと籠ってても暇だろ」

澪「そんなことないよ。
  インターネットでは毎日新しい情報が見られるし、
  そこに参加してみんなと一緒に楽しんだりできる。
  ゲームだって漫画だってあるし、たまにはベースも弾いたりするし」

律「ふうん」

澪「そういう律こそ何やってんだ」

律「あはは、私はハケンだよ」

澪「ぷっ、ハケンって……あはははははは」

律「な、なんだよ」



121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 02:23:36.37 ID:o18YjH5G0

澪「ハケンって……低賃金でくだらん仕事させられて、
  用済みになったらポイだよ?使い捨ての存在だよ?
  まさに社会の奴隷って奴じゃん、あははははは」

律「……」

なぜか笑われた。ものすごくバカにされている。
私だってハケンが安定しない底辺の仕事だってのは分かっている。

澪「なんでハケンなんてやろうと思ったの?
  そんなんで将来どうすんのさ。
  新卒で正社員になれないとか人生積んだも同然じゃん。
  だいたい律は大学選ぶ時から……」

自分が低学歴なのも承知している。
それがコンプレックスになって、澪たちとの関係も断った。
でも、なぜ今、その澪本人からこうも嘲笑を受けなければならないのか。

なるべく明るく振舞おうと思ったが、
ここまであからさまに馬鹿にされると、それも無理だ。

律「お前には言われたくない」



126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 02:30:50.59 ID:o18YjH5G0

澪「え?何?」

律「この数年間!働きもせずに!一日中部屋にこもりっきりで!
  親のすねをかじり続けてきたお前には言われたくない!!」

思わず感情に任せて言ってはいけないことを言い放ってしまったが、
澪はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていた。

澪「おーおー、逆切れだよ。
  もっと論理的に話せないもんかね。
  これだから低学歴は困る」

律「おまえなぁ……」

私は呆れかえってしまった。
6年の引きこもり生活はこうも人を歪めてしまうものなのか。
もはやこれ以上何を言っても無駄かもしれない。

律「……もういい。かつての親友を心配してきてみたら……
  お前とは絶交だ。もう帰る」

澪「ああ、それで結構。
  お前みたいな低学歴底辺人間と友達なんて人生の汚点だからな」

律「そうかい。じゃあな」
ガチャ



133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 02:38:54.01 ID:o18YjH5G0

律「はあ」

母「どうでした……?」

律「いえ……なんかもう、話を聞いてもらえない感じで」

母「そうですか……あの子、ネットの知識だけで頭でっかちになってて……
  私もろくに会話を成立させられない状態で」

律「そうなんですか……すみません、なにもできなくて」

母「いえ、またお暇なときにでも立ち寄ってください」

律「はい」

何しに来たのか自分でもよく分からないまま終わってしまった。
分かったのは、澪はもう心の拠り所なんか必要としていないのではないか、ということだ。
澪にはインターネットさえあれば、それでいいのかもしれない。
梓が相手にされなかったというのもよく分かる。
澪はもう、外界との生身の交流をまったく望んでいないのだろう。

私は彼氏と一緒に家に帰った。



138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 02:45:31.59 ID:o18YjH5G0

翌日、会社で梓に昨日のことを報告した。

律「昨日、澪の家に行ったよ」

梓「!!……なんでそんなことを。
  律先輩にそんな資格はありません」

律「まあ、行っても相手にされなかったんだけどな」

梓「ふん、そりゃそうです。
  私ですら相手にされないんですから、
  低学歴ハケン社員の律先輩が澪先輩と話せるはずないんです」

なんだか梓と澪のペアならうまくやっていけるような気がした。

律「そうかい。まあ澪に認められるように頑張ってくれ」

梓「はい。もう律先輩はこのことに関与しないでください。
  これからは正社員とハケンの関係に戻ります」

そう言われて、いつの間にか梓から律先輩と呼ばれていたことに気がついた。
いつからだったのだろう。



141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 02:52:28.42 ID:o18YjH5G0

そのまま2週間が過ぎた。

その間、私は澪のことを忘れて仕事に専念した。
小さな失敗をやらかして梓に注意されることもしばしばあったが、
順調に与えられた仕事を消化していった。





そして、ついにこの会社での仕事の最終日。
すべての仕事をやり終え、他のハケン仲間と談笑しながら帰り支度をしていると、
梓が切羽詰まった顔で私に詰め寄ってきた。

梓「律先輩!!!」

先輩という呼称に周りのハケンたちは困惑している。
私だってそうだ。正社員とハケンの関係に戻ったはずなのに、
今さら先輩などと呼ぶのは何故なのだろう。

梓「澪先輩に何したんですか!」

律「はあ?」



150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 02:58:04.89 ID:o18YjH5G0

律「いきなりなんなんだよ」

梓「澪先輩が社会復帰したんですよ!!」

律「…………へ?」

梓「澪先輩がコンビニでアルバイトを始めたんです!」

律「……へえ、良いことじゃないか」

梓「律先輩が何かしたんでしょ!澪先輩に働けとかなんか言ったんでしょ!」

律「いや、言ってない」

梓「嘘ですよ!返してください!私の澪先輩を!」

律「……梓、お前、澪に引きこもっててほしかったのか?」

梓「そうですよ!だって、そうしたら澪先輩はずっとずっとあのままで、
  外にあるいろんなものに汚されることもなくて、私だけの澪先輩でいてくれて……」

最後のほうは涙声になっていた。



161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 03:05:44.47 ID:o18YjH5G0

梓「私は澪先輩のために……やってきたのに……
  澪先輩を好きで……なのに……」

律「お、おい、梓……」

正社員の梓がハケンの私を先輩と呼び
そのうえ私に縋りついてむせび泣くという異様な光景を、
周りのハケンたちはただ茫然と眺めていた。

梓「澪先輩を返してください!!私の澪先輩を!!」

梓はいきなり暴れはじめた。
しかし、すぐに周りのハケンたちによって取り押さえられてしまった。

梓「離せぇぇぇ!!あいつが悪いんだあ!!律先輩が!!
  私の澪先輩を奪ったんだああああああああああ!!」

手足を押さえつけられてもなお必死にもがく梓。

私はカバンを手に取り、梓の叫び声を背にその場から走り去った。
やましい気持ちがあったからではない。
ただ梓のこんな姿をこれ以上見たくなかったから。



164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 03:11:57.15 ID:o18YjH5G0

その後、私は梓に会うことはなかった。
風の噂で聞いたが、梓は仕事を辞めて引きこもっているらしい。
愛するヒキニート澪を養うという使命が無駄になってしまい、
気力が一気に失われてしまったのだろうか。



ある日、私は澪がバイトをしているというコンビニに行ってみた。

澪「いらしゃいま……ああ、律か……」

律「よう」

澪「……ごめん」

律「なにが?」

澪「ほら、この前、私の家に来てくれただろ。
  その時、色々と酷いことを言っちゃって」

律「いや、いいよ」

澪はネットの支配からも解放されたようだ。



170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 03:18:16.00 ID:o18YjH5G0

律「私だって……」

澪「え?」

律「……澪が、良い大学行ったから。
  それに、引け目感じたというか……それで、連絡やめたりして、その」

言おうか言うまいか迷ったが、言ってしまうことにした。
澪が自分の暗部を曝け出してくれたのだから、自分もそうしないといけない。

澪「そうだったのか……もう、そんなこと気にしなくても良いのに」

律「うん……ごめん、ほんとに。
  ずっと、澪と一緒に居れば良かったな」

澪「ううん、もういいんだよ、過去のことは。
  いろいろと水に流しちゃってくれ」

律「ああ……そういえば、梓のことなんだけど」



175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 03:24:16.29 ID:o18YjH5G0

澪「梓か。私が引きこもってたときによく連絡くれたけど、
  全部無視しちゃてたなあ」

律「あ、そうなの」

澪「今、梓はどうしてるんだ?」

律「あー、えっと……」

私が梓のことを言おうかどうか迷っていると、
店が混雑してきて、澪のレジにも列ができてしまった。

律「澪、今日は忙しいみたいだから帰るな。
  またあとで連絡する」

澪「うん……はい、いらっしゃいませー」

梓は澪にべた惚れみたいだし、
ちょっと澪が梓に声かけてやればすぐに社会復帰するんじゃなかろうか、
と考えながら私は帰路に着いた。



179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 03:32:47.81 ID:o18YjH5G0

後で聞いたことだが、澪は唯に説得されて引きこもりをやめたらしい。
唯が6年も引きこもった人間を改心させるだけの言葉を吐けるというのが意外であったが、
プロのミュージシャンになって唯も人として成長しているのかもしれない。

澪は引きこもり生活から脱し、
梓も澪を養うために生きる、なんてバカな考えを改めるだろう。
過去を清算できたかは微妙なところだが、
とりあえず過去を引きずって生きるなんてことはもうなさそうだ。

私も澪と仲直りすることができた。
後は梓とももう一度ゆっくり話をして、また元の仲に戻りたい。

そして私も澪のように前に進んでいこうと思う。
梓が言うように私は社会の底辺かも知れないけど、
それでもやれることはあるはずだ。
自分なりに精一杯、頑張って生きていきたい。






             お          わ           り



183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 03:34:48.34 ID:o18YjH5G0

これで終わり
前に書いたヒキ澪のサイドストーリーでした
眠い




182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 03:34:48.29 ID:tC13QBcq0

俺も来週の就職試験、今日からでも足掻いて勉強するかな




185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 03:35:22.75 ID:7q7qFvNIO

いちもつ



187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 03:36:46.59 ID:PMmYLV4m0

>>179
乙!



189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 03:38:36.35 ID:PgM3WjFrO



俺も知り合いに音楽学校行くって言ったら
「負け組wwwww」とか言われて散々バカにされたな



190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 03:38:51.84 ID:hLfDpEDpO

終わったか
お疲れ



195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 04:34:51.48 ID:27a7JWBeO

たいへん良いゴキにゃんでした
1乙!



198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 05:57:38.67 ID:Y4Qj/ScbO

乙です
良かったわ



201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 06:56:10.43 ID:PLFyTUAZO

>>1乙なのだわ



205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 10:02:28.11 ID:5mW0EC7pO

唯好きな梓はただの変態止まりだが、
澪好きな梓は必ずどこかが壊れてる



215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 13:32:19.40 ID:JfGQMft/i

おつ。おもしろかったぞ



216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 14:11:54.21 ID:bCFqJ8qh0





217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 15:07:55.25 ID:XqiaaUtAO

乙。会社リストラされてやる気なくして澪状態になってたけどもう一度頑張るわ、ありがとう






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律「私は田井中律、しがないハケン社員だ」
[ 2011/08/06 00:36 ] 非日常系 | | CM(0)

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