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梓「ゆいにゃん」 唯「あずにゃん」#前編 【ほのぼの】


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梓「唯先輩の馬鹿!!大好き!!」
梓「唯先輩の馬鹿!!大好き!!」#勉強会編

梓「ゆいにゃん」 唯「あずにゃん」#前編
梓「ゆいにゃん」 唯「あずにゃん」#後編




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:42:01.18 ID:ESiGxtBZ0

 あれは悪夢か、白昼夢か。
 見てはいけなかったムギ先輩と憂の暗黒面を垣間見てしまった上に、
 私の心とお尻に多大なる傷跡を残して瞬く間に過ぎ去った、
 斬新でいながら陳腐と言われたステキな『あの企画』から早くも一ヶ月が経ちました。

 こんにちわ、中野梓です。

 あれから今日まで、『あの日』のことが話題に上ることは一度としてありませんでした。
 誰もが、『あの日』のことを無かったことにしたいと思っているのかもしれません。
 もちろん、それで少しでも空気が悪くなるなんてことはなくて、
 それこそが、誰もが知っている、いつもの軽音部の空気なのです。

 これから先も、ずっとそんな平和な時が続いていく――
 少なくとも私は、そう思っていました。





3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:42:57.35 ID:ESiGxtBZ0

 その日、いつものように部室に入ると、そこに唯先輩、律先輩、澪先輩の姿はなくて。

紬「あら。こんにちわ、梓ちゃん」

梓「こんにちわ、ムギ先輩。……お一人ですか?」

紬「ええ。唯ちゃんとりっちゃんは、職員室に行ってるわ」

 職員室?
 ……期末の成績悪かったのかな?
 まぁ、勉強会がアレじゃあムリもないと思うけれど。 

梓「澪先輩は?」

紬「まだHRが終わってないんじゃないかしら。私たちのクラスの方が早かったみたいだし」

梓「そうですか」



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:44:34.43 ID:ESiGxtBZ0

紬「……梓ちゃん、ちょっと手伝ってもらっても良いかしら?」

 ムギ先輩は、少しだけ言いにくそうに上目遣いで私にそう言った。
 この人も大人しくしてたら普通に可愛いのになぁ。

梓「いいですけど……なにやるんですか?」

紬「これを貼ろうと思ってね」

 そう言って、ムギ先輩は少し大きめの筒から、一枚の紙を取り出した。
 丸まっているため中身は確認できないが、広げればかなりの大きさになるだろう。
 
梓「はぁ」

紬「私が押さえてるから、貼ってもらえるかしら?」

梓「わかりました」

 音楽室の壁にその紙を運び、ムギ先輩が両手で固定する。
 私は言われるがままにテープで両端を貼り付けた。



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:47:26.29 ID:ESiGxtBZ0

 そしてその全容が露になった。
yuinyan_anata_aa.png



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:48:09.85 ID:ESiGxtBZ0

梓「……」

紬「……」

梓「あの、ムギ先輩」

紬「なにかしら?」

梓「いや、やっぱいいです」

 突っ込みたいことは沢山浮かんだ。

 まず、『何故貼る前に照れたのか』
 次に、『ポーション高杉じゃなかったのかよこの人』
 続いて、『堂々と音楽室に貼るな』
 さらに、『いつ作ったこんなもん』
 もうひとつおまけで、『サイズがでけえよ』

 そして、私の脳内に一ヶ月前の悪夢が過ぎる。

 ……うん、よし。

 見なかったことにした。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:49:42.02 ID:ESiGxtBZ0

紬「聞いてくれないの?」

梓「あー、ええと、じゃあ聞くことにします」

紬「うふふ、どうぞ」

梓「剥がしてもいいですか?」

紬「梓ちゃん、目が怖いわ」

 だって。
 あれは、黒歴史として記憶の片隅に封印しようとしていたのに。

梓「あーもう!なんでまたファニーな名前の偉人引っ張りだしてきたんですか!?」

紬「うふふ、よく聞いてくれたわね!」

梓「聞きましたけど、もうあれはやりませんからね」



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:52:32.07 ID:ESiGxtBZ0

紬「実はね……」

 ムギ先輩は、低めのトーンで淡々と語りはじめた。
 その表情は暗く、何か深刻な悩みがあるかのようにも感じられる。
 この人のことだ、さっきの私の台詞に傷付いたなどということはありえまいが、
 それでも、聞き手を強く引き込むだけの空気が、確かにそこには存在する。

 背後で偉人がほくそ笑んでいるので、台無しだが。
 

紬「唯ちゃんと憂ちゃん、罰ゲームやってないみたいなの」

梓「そうですね」

紬「梓ちゃん、私に冷たくない?」

梓「いえ、そんなことはないですけど」



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:54:53.30 ID:ESiGxtBZ0

 ていうか、そんなことで深刻に悩んでたんですか。
 やらなくていいでしょう、憂の意思なんだから。

 そう、『あの日』勝利を収めた憂は、敗者である唯先輩を一日だけ好きにできるという権利を得た。
 にも関わらず、「お姉ちゃんが嫌がることはしたくない」と、真摯な態度で、その権利を放棄したのだ。

 姉のスカートの中に顔を突っ込んでいた人物の台詞とは思えなかったが、憂は真剣だった。
 唯先輩は少し驚いた後、嬉しそうに憂を抱きしめた。
 そんな光景に、私は少なからず嫉妬という感情を抱いたのだが……、それはともかく。
 あんなにカオスだった勉強会を、信じられないくらい綺麗なカタチで終わらせたというのに、
 何蒸し返そうとしてやがりますかこの沢庵様は。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:56:33.01 ID:ESiGxtBZ0

紬「……梓ちゃん」

梓「はい?」

紬「スウェーデンで今年の五月から同性同士の結婚ができるようになったらしいわ」

梓「そうですか」

 へえ。
 いや、今その話関係ないだr

梓「なんですと!?」

紬「落ち着いて、梓ちゃん。 反応が露骨よ」

梓「……すいません。で、それがなにか?」



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:57:36.52 ID:ESiGxtBZ0

紬「梓ちゃん、唯ちゃんのこと好きよね?」

梓「な、なななな!!なにを言ってやがりますかこの……この、えーと、バカ!!」

紬「梓ちゃん、先輩にバカはないと思うわ」

梓「あ、すいません。動揺しました」

紬「動揺したってことは、やっぱり好きなのね?」

梓「……」

 ちくしょう。

梓「で、それがなんなんですか?」

 やけくそ気味にそう問うと、ムギ先輩はしたり顔で、
 自分のカバンをごそごそと弄り、ビデオカメラを取り出した。

紬「唯ちゃんと憂ちゃんに、罰ゲームとご褒美をやってもらいましょう」



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:59:18.53 ID:ESiGxtBZ0

梓「えーと、話が全く繋がってこないんですけど」

紬「梓ちゃんには、罰ゲーム執行日に平沢家に進入し、カメラで撮影してくる役を命じます」

梓「丁重にお断りします」

紬「……」

梓「……」

紬「梓ちゃん、唯ちゃんと結婚したいでしょ?」

梓「話が飛躍しすぎてると思います」

 もっと、こう段階ってものがあるでしょうに。
 発想力に乏しい私には凡そ理解の及ばぬ二文字に、しかしどういうわけか意外と冷静だった。



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:03:02.64 ID:ESiGxtBZ0

紬「女性の卵子に女性の遺伝子を組み込んで、子供を作る方法を研究している機関があるの」

梓「……はぁ」

紬「琴吹グループに」

梓「すげえ!!」

 琴吹グループすげえ!!
 将来的に、私と唯先輩が結婚して、さらに子供まで作れるかもしれないってことですよ。
 私と唯先輩が結婚して、さらに子供まで作れるかもしれないってことですよ?

紬「モノローグ使ってまで、大事なことなので二回言いましたを体現しなくてもいいと思うわ」

梓「人の思考トレースしないでください」

 琴吹紬すげえ!!



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:08:36.18 ID:ESiGxtBZ0

紬「梓ちゃん、私はいつでもあなたの味方。必ず力になれると思うから」

梓「いや、ありがたい話ではありますけど……、私まだそんなこと考えてないですし」

紬「今はそうでしょうね。だから、将来的な話よ」

 なんとなく、ムギ先輩がどういう取引を持ちかけてきているのかが見えてきた。

紬「だ・か・ら♪」

梓「平沢家に行って、罰ゲームを取材してこい、と?」

紬「Yes!」

 ムギ先輩は、最高の笑顔でそう答える。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:12:35.97 ID:ESiGxtBZ0

梓「……まぁ、いいですけど。二人が罰ゲームやろうとしなかったら、私は何もできないですよ?」

紬「そのためのポスターじゃない」

梓「……」

紬「……」

梓「……いや」


 十中八九、効果ねえよ。


紬「なあに?」

梓「なんでもないです」

紬「等身大よ?」

梓「……」

 でけえ。
 バストアップしか映ってないけど、
 推測するに、確実に二メートル弱あるじゃん、高杉さん。
 あ、いや、高杉さんじゃないらしいけど。

 でも効果ねえよ。



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:17:41.41 ID:ESiGxtBZ0

 まぁ、何もできなくても、唯先輩の家に行く理由にはなるし。
 カメラは何も撮らずに翌日ムギ先輩に返せばいいだろう。

梓「そういえば、なんで私なんですか?」

 審判やってたんだから、ムギ先輩が行けばいいのに。

紬「梓ちゃん以外だと、二人のお邪魔になっちゃうから」

梓「へ?」

 律先輩や澪先輩でも、なんら問題はないように思う。
 なんで私だけが平気だと思うんだろう?

紬「そういうことだから、お願いね」

梓「……わかりました」

 一応、承諾することにした。
 私はそう言って椅子から立ち上がり、壁に向けて歩き出す。

 そして、あの日私たちを笑いの地獄へと追いやった一人の偉人に敬意を表し、
 その角に手をかけ「梓ちゃん剥がしちゃだめええええっ!!!」



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:24:28.35 ID:ESiGxtBZ0

唯「ムギちゃんただいま~。あずにゃんおいっすー」

律「おーっす梓ー。ムギ、お茶にしようぜー……って、澪はまだ来てないのか」

 しばらくして、軽やかな挨拶と共に二人が入ってきた。

梓「こんにちわ、唯先輩、律先輩」

紬「おかえりなさい二人とも。今お茶いれるわね」

 ムギ先輩はそう言って席を立つ。

律「しかし、よかったなー唯。追試受けなくて済んで」

唯「うん、全教化ぎりぎり合格ラインなんて、自分でもびっくりだよ」

 会話から察するに、二人ともセーフだったらしい。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:30:19.41 ID:ESiGxtBZ0

梓「あれ、律先輩はどうして職員室に行ってたんですか?」

律「私は、さわちゃんに用があったからな。唯の付き添いも兼ねて立ち寄ったんだよ」

梓「なるほど。そして唯先輩は、試験結果が全部ぎりぎりで注意された、と」

唯「いやぁ、すいやせんねー、えへへへへ」

律「なぁ、梓」

梓「なんですか?」

律「おもっきりお茶しようとしてるけど、注意しないのか?」

梓「……」

 あまりに自然な流れすぎて失念していた。



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:35:15.66 ID:ESiGxtBZ0

梓「い、いや、あれですよ。澪先輩がまだ来てないから、ほら。練習は皆揃ってからじゃないと!」

律「そういうことにしといてあげよう」

 ふふん、と胸を張る律先輩。

 むぅ。私としたことが。
 なんか、最近律先輩に優位に立たれることが増えてきた気がする。
 むくれていると、唯先輩がそっと頭を撫でてくれた。
 
唯「よしよし、あずにゃんいい子いい子」

 思わず顔が綻ぶ。

梓「にゃあ」



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:40:21.65 ID:ESiGxtBZ0

律「なぁ、梓」

梓「にゃ?」

律「私も唯もムギも、どっちかっていうとボケ属性だから、
  お前がボケると突っ込むやついなくなると思うんだ」

梓「……」

 ちがうもん。
 ボケとかじゃないもん。

 わからない人のために説明しよう!
 私は唯先輩に撫でられると猫語になってしまうことがあるのだ。

 苦しいとか言うな。言わないでください。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:44:51.55 ID:ESiGxtBZ0

 ムギ先輩が人数分の紅茶を淹れて戻り、四人で会話に花を咲かせる。
 しばらくすると、澪先輩が音楽室に顔を覘かせた。

澪「ごめん、遅れて。HRが長引いちゃtt」

 台詞を最後まで言わずに硬直する澪先輩。
 解説しておくと、件の等身大ポスターは、入り口から見て右側の壁に貼られている。
 扉を開けてそのまま無警戒で席へと着いた唯先輩と律先輩は、まるで気付いていないのだが、
 普段から警戒心の強い澪先輩は、すぐにその淀みの無い熱視線に気が付いたようだ。

唯「やっほー澪ちゃん」

紬「こんにちわ澪ちゃん。ごめんなさい、今澪ちゃんの分も淹れるわね」

律「どうした澪ー、早く座れよ?」



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:49:08.13 ID:ESiGxtBZ0

梓「……」

澪「あ、ああ。そうだな……」

 ちらちらと、様子を窺いながら、椅子に座る澪先輩。
 その視線の先には、圧倒的な存在感を持って壁に鎮座する推定二メートルの偉人。

 談笑を続ける三人を尻目に、澪先輩は隣から小声で私に囁きかける。

澪「(な、なぁ、梓。気付いてる?)」

梓「(まぁ、一応は……)」

 貼ったの私です。とは口が裂けても言えない。

澪「(これってやっぱり、アレだよな?)」

梓「(あー、えーと……。非常に説明し難い所なんですが)」

 一応、そこはフォローしておくべきだろう。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:52:47.70 ID:ESiGxtBZ0

梓「(笑っても大丈夫ですよ、今回はそういうんじゃないらしいので)」

澪「(そ、そうか。よかった……)」

 澪先輩は、心底ホッとしたような素振りを見せた直後、

澪「いや、良くないだろ!!」

 そう言って、机をバン!と叩いた。

律「うわー、澪が怒ったっ!」

唯「ご、ごめんね澪ちゃん! ムギちゃんのクッキー、一枚多く食べちゃってごめんね!」

 ああ。
 そんなことで澪先輩が怒るわけないのに。
 本当に、かわゆいお方だ。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:55:49.01 ID:ESiGxtBZ0

澪「そうじゃなくて、アレのことだよっ!!」

 言って澪先輩は、指先をポスターへと向ける。
 その指の先を、まるでテニスの試合を食い入るように見つめる観客のように
 シンクロした首の動きで追う唯先輩と律先輩。

 私はここがチャンスとばかりに唯先輩だけを見ていたが、
 ムギ先輩もまた、じっと私を見ていた。しまった、謀られた。

律「!!」

唯「!!」

律「なん……」

唯「だと……」

澪「全く、なんでこんなものがここに貼ってあるんだよ」



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:57:26.42 ID:ESiGxtBZ0

 つかつかと歩き出し、偉人の前で立ち止まると、
 澪先輩は私がしたのと同じように、ポスターを剥がしにかかる。

律「ま、待て澪! 安易に剥がすのは危険だ!!死体とか埋まってるかもしれない!!」

澪「ひぃぃっ!?」

 サササ、と綺麗な早歩きで音楽室の反対側の壁へと移動し、
 その場に蹲る澪先輩。

律「ありゃ、効果ありすぎたかな……」

唯「りっちゃん、さすがにそれは怖いと思うよ」

梓「澪先輩、大丈夫ですよ。死体なんてありませんから」

澪「見えない聞こえない見えない聞こえない見えない聞こえない」

梓「あー……。しばらくダメですね、これは」

 お決まりの念仏を唱えてしまっている。
 こうなってしまえば、この人はしばらく動けないのだ。



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:59:44.26 ID:ESiGxtBZ0

律「……ごめんな澪ー、悪ふざけが過ぎたよ」

 私と律先輩がフォローに回ったため、
 ポスターの前には、必然、唯先輩とムギ先輩が残る。

 ……もしかしてこの流れ、ムギ先輩の計画通りなのか?
 だとすると少しだけ不安になる。
 私は、澪先輩を律先輩に任せて、唯先輩の所へと戻った。

唯「ムギちゃんこれ、ふく―、ポーション高杉さんだよね?」

 今、「ふく」って言いかけましたよね?

紬「日系ボリビア人よ」

 もはや話聞いてねえなこの人。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:04:24.56 ID:ESiGxtBZ0

唯「やっぱり、先月のアレだよね……?」

紬「そうかもしれないわね」

唯「ほえ、ムギちゃんが貼ったんじゃないの、これ?」

紬「貼ったのは私じゃないわよ?」

唯「そっかぁ、そうなんだ。誰が貼ったんだろう……」

梓「……」

 貼ったのは、と来たか。
 確かにムギ先輩は貼ってはいないからなぁ。
 律先輩や澪先輩なら、持ってきたのはムギ先輩だと気付いてくれるのだろうけど、
 唯先輩はバ……、いや、純粋だから、簡単に信じてしまう。



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:10:02.46 ID:ESiGxtBZ0

 うむ、貼ったのは私だ。
 と名乗ればいいのだろうか。

 そして持ってきたのはムギ先輩だと訴えれば、解決できるのではなかろうか。

 しかし、そんな考えとは裏腹に、私は傍観に徹した。
 ムギ先輩のポスター計画がどこまでうまく運ぶのか、
 それに唯先輩の罰ゲームも見てみたい気は確かにある。
 憂があまり酷い要求をするようなら、現場にいける私が止めればいいのだ。

唯「罰ゲーム……」

紬「唯ちゃん?」

唯「私が、憂のご褒美の罰ゲームを受けてないから、こんなのが貼られたのかな」

紬「憂ちゃんが権利放棄して、無かったことになったのよね」

唯「うん。憂は本当にできた子だよぅ」

梓「……」



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:15:13.44 ID:ESiGxtBZ0

紬「やったほうがいいんじゃないかしら? 罰ゲーム」

唯「ほえ?」

紬「だってこれは、そういうことだと思うわ」

唯「そうだよね。私が負けたんだし、罰受けないなんてずるいもんね……」

 ああ、やはりそういう展開か。
 神はそういう展開を御所望か。

唯「わかったよムギちゃん!今日帰ったら、憂にお願いしてみるねっ!」

紬「えらいわ、唯ちゃん」

 わしゃわしゃと唯先輩の頭を撫でるムギ先輩。
 私はその光景に、北の動物王国の主を重ねる。



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:21:51.23 ID:ESiGxtBZ0

 ちくしょう。せめてその役目は私に譲ってほしかtt――じゃなくて、

 二メートルの等身大ポーション高杉おそるべし。

 さしもの私も、このご都合主義的展開は読めなかった。

 ムギ先輩は、「それじゃあ、剥がすわね」といって、
 役目を終えたポーション高杉を元の筒へと戻した。

 いや、筒。
 筒持ってるのムギ先輩ですから!
 気付いてくださいよ唯先輩!!

唯「りっちゃん、紅茶冷めちゃうよー!」

律「おう、分かってるー!」

梓「……」

紬「……ね?」

梓「脱帽です」



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:28:41.08 ID:ESiGxtBZ0

 翌日の放課後。
 音楽室の扉を開けば、そこにはほら、昨日と同じくムギ先輩が一人だけ。
 
 なんてことは無く。
 先輩方は既に全員揃っていた。

梓「こんにちわー」

唯「やっほー、あずにゃん」

律「おーっす」

紬「ちょうど良かったわ。梓ちゃん、今週の土曜日空いてるかしら?」

 なんか、デジャヴ。
 また勉強会とか言い出すんじゃあるまいな。



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:34:02.15 ID:ESiGxtBZ0

梓「えーと、はい。大丈夫だと思いますけど」

律「遊園地いこうぜ!」

梓「……はぁ、いいですけど。なんでまた唐突に?」

律「部員同士の親睦を深めるためだ!」

澪「遊びたいからに決まってるだろ」

律「なんだよー、澪だってノリノリだったじゃんか」

澪「それは……、皆行くって言うから……」

 段々と、声のトーンが下がっていく澪先輩。
 なんとも可愛らしい。



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:39:07.17 ID:ESiGxtBZ0

 ニヤニヤと頬を緩めていると、唯先輩が口を開く。

唯「実はね、憂が提案してくれたんだよ」

 憂が?
 遊園地?
 結びつかない。
 どうしてまた?

 唯先輩は、あまりテキパキとは言えない口調でゆっくりと、
 でも分かりやすく説明してくれた。

 昨日家に帰ってから、唯先輩は、憂に罰ゲームの話をした。
 すると憂は、『梓ちゃんがずっとカメラをまわすのは大変だから』、という理由で
 ”日中から夜まで”の間は、皆の前で罰をすればいい。
 皆で一緒に遊びながら罰をすればいい、と提案してくれたそうだ。



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:45:46.15 ID:ESiGxtBZ0

 確かに、ムギ先輩の前であれば、カメラで撮影しなくとも満足してくれるだろう。
 私も失念していたことだが、ムギ先輩が出したのご褒美&罰ゲームの内容は
 『勝者が”一日の間”、敗者を好きにしてかまわない』
 というものだった。
 一日というのは、つまるところ二十四時間。大目に見ても、夜寝るまでの間だ。
 確かに、私が一人で平沢家に行き、一日中カメラをまわし続けるというのは、なかなかに酷なもの。
 ともすれば、この憂の申し出は非常にありがたい。
 私としては、これを反対する理由は何一つ無い。

梓「なるほど。そういうことなら是非行かせてください」

 ていうか、今更だけどどうしてカメラ係とか引き受けたんだろう……。



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:48:43.00 ID:ESiGxtBZ0

律「やったな、唯!」

唯「やったね、りっちゃん!」

 律先輩と唯先輩が、両手を出し合って勝利のポーズ。
 最初は唯先輩の出した手のひらを、律先輩が上からパシン!
 続いて律先輩が出した手のひらを、唯先輩が上からパシン!
 最後に、二人とも右手でガシッ!と握り合う……かと思いきや、
 律先輩が、反対の手の人差し指で、唯先輩の頬っぺたをぷに。
 空を切る唯先輩の右手。

唯「あぁん、りっちゃんひどいっ!」

律「あはは、悪かった悪かった」



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:52:04.07 ID:ESiGxtBZ0

紬「相変わらず、二人は息が合うわね」

澪「あれをもう少し演奏に生かしてくれればいいんだけどな……」

梓「全くです。……ところで澪先輩」

澪「なんだ?」

梓「お化け屋敷とか、絶叫マシンとかありますけど、大丈夫なんですか?」

澪「……」

梓「……」

澪「……うん、だ、大丈夫」

梓「絶対嘘だ」

紬「梓ちゃん、口に出てるわよ」



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:57:23.28 ID:ESiGxtBZ0

唯「良い天気っ!」

律「見渡す限りの人、人、人っ!」

憂「そして今日もかわいいお姉ちゃんっ!」

梓「わー、遊園地だー……」

澪「梓、ムリに乗らなくてもいいんだぞ」

 上空には、雲一つ無い青い空が広がり、
 地上には、恐ろしい程の人が群がる。
 上空に輝く太陽は、止め処なく紫外線を照射し、
 地上に輝く太陽は、何処までも淀みの無い笑顔を振りまいている。

 私たちは電車に一時間ほど揺られ、某巨大遊園地へやってきていた。
 ちなみに、解散後は私のみ唯先輩の家に泊まりに行く予定となっている。
 もちろん、ムギ先輩に頼まれた罰ゲーム撮影のためである。



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:00:33.48 ID:ESiGxtBZ0

紬「……」

唯「あれ、ムギちゃんどうしたの?」

紬「いえ。ただ、友達同士で遊園地って初めてだったから……嬉しくて」
 
唯「そっかぁ。それじゃあ今日は一緒に楽しもうね!」

紬「そうねっ。ありがとう、唯ちゃん♪」

唯「えへへ」

 ムギ先輩はそう言って唯先輩の手を握った後、私の方へと振り向いてニコりと笑った。
 わざとやってやがんなこんちくしょう。



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:05:01.05 ID:ESiGxtBZ0

憂「それじゃあお姉ちゃん、最初のお願い」

唯「ほいほい、なんでもごじゃれ!」
 
憂「今日一日、皆で楽しく過ごすこと!」

唯「いえっさー!」

 ビシっと。
 なぜか敬礼する唯先輩だった。

紬「良いわねぇ。心洗われるようだわ……」

澪「ムギ?」

紬「うふふ、素敵な一日になりそうね、澪ちゃん」

澪「え、うん……」

 澪先輩は改めて、楽しそうに笑う律先輩や唯先輩を見つめて
 そうだな、と呟いた。



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:10:42.45 ID:ESiGxtBZ0

唯「……というわけでりっちゃん、まずは何から乗る!?」

律「そうだなー、やっぱり遊園地と言えば、まずは……アレだぁっ!!」

 律先輩の指差した先には、絶叫マシンの代名詞『ジェットコースター』
 その乗り込み口からは、長蛇の列が続いている。

澪「でも、凄い並んでるぞ?」 

律「こういうところにきたら、並ぶのも醍醐味ってな。待ち時間を有効に使えばいいのさ」
 
 そう言って、律先輩が取り出したのは、黒いカラーリングの携帯ゲーム機と、付属のタッチペン。
 それに呼応するように、ムギ先輩も白いカラーリングのそれをカバンから取り出していた。

紬「なるほど。それで持ってくるようにいってたのね」

 唯先輩はピンク、憂と澪先輩はライトブルー。 私は律先輩と同じくブラック。
 律先輩が親となり、他の五人がソフトをダウンロードする。
 これで、六人でも同時に対戦できるのだ。



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:15:29.41 ID:ESiGxtBZ0

 ――。

梓「ちょ、誰ですかアイテムエリアに偽物置いた人!!」

律「ふはは、私だ!」

憂「梓ちゃんいた」

梓「あーっ、律先輩のせいで憂に抜かれたし!」

律「踏むのが悪い!」

澪「律、覚悟!」

唯「あ、なんか飛んでった」

紬「あら本当。りっちゃん気をつけてー」

律「いやいやいや、澪お前周回遅れなんだからそういうことを――うおおッ!?」

 え、勝敗?
 会話から想像してみてください。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:19:59.42 ID:ESiGxtBZ0

 ――。

梓「せっかくなんだからパート変えましょうよ」

律「えー、じゃあ私ドラム~」

澪「変わってないだろ」

律「ぷえー。じゃあベースやるー」

紬「なら私がドラムやろうかしら」

唯「澪ちゃんは?」

澪「そうだな……、それじゃあギターにしよう」

憂「私もギターかな。お姉ちゃんの」

澪「憂ちゃんリードやってみる?」

憂「は、はい。頑張ります」

唯「それじゃ私たちはピアノだね、あずにゃん」

梓「はい、唯先輩」

 曲目は『ふわふわ時間』 
 スコアはあらかじめ澪先輩が入力してきてくれたらしい。



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:24:28.95 ID:ESiGxtBZ0

 ――。

律「ふ、あははは、澪、なんて動きしてんだよ」

澪「し、仕方ないだろ。こういうの苦手なんだから!」

律「そんな動きしてると撃っちゃうぞー」

 ピュン

律「おわっ!?誰だよデトネーター撃ったの、顔に張り付いてんじゃん!!」

憂「……」

律「く、こうなったら澪も道連れだっ!」

澪「ば、馬鹿!それ点灯させたままこっちくんなっ!」

 カチリ。

澪・律「うおおおっ!?」

 どかーん!

憂「……ふふ」

律「うわ、憂ちゃんだったか……。やられたよ」



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:29:17.58 ID:ESiGxtBZ0

唯「一対一だね、あずにゃん!」

梓「負けませんよ!」

 唯先輩の武器はショットガン。対する私はサブマシンガンの二丁。
 至近距離で撃たれるとヘッドショットでなくても即死コースだが、一発撃つ毎に隙が生じる。
 先輩のニブさなら、多分掻い潜れる。……多分。
 
 バンッ!

梓「っ!!」

 ズガガガガガ

唯「――!!」

 バンッ!

梓「なっ!?」

唯「ふっ、甘くみたね、あずにゃ―」どかああああん!!

唯「……」

梓「……」



77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:34:28.46 ID:ESiGxtBZ0

唯「……なんか、爆発した」

梓「……爆発しましたね」

 唯先輩と死闘を繰り広げていた矢先、
 なんらかの爆発物が飛んできた。
 憂は澪先輩と律先輩の方にいた筈だから、こんなことができるのは――。

紬「ふふっ」

唯「ムギちゃん後ろにいたのー!?」

紬「ダメよ、二人だけでイチャイチャしてちゃ!」

梓「し、してませんそんなこと!」



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:39:36.05 ID:ESiGxtBZ0

 ――。

 などとやってるうち、あっという間に私たちの番がやってきた。
 白熱しすぎて、危うく本来の目的を忘れるところだった。

 私達は係員に案内され、コースターの前に通された。
 二人席がずらっと一列に並んでいるので、必然、二人ずつのペアに別れる必要がある。

梓「席、どうするんですか?」

律「じゃあ私澪の隣ー!」

澪「……そういうことを平気で叫ぶなよ」

律「なに、嫌なの?」

澪「べ、別に嫌とは言ってないだろ!」

 ニヤニヤと嬉しそうな律先輩。
 律先輩は、唯先輩と気が合うくせに、こういう時は澪先輩を選ぶよなぁ。
 そしていつもの流れだと、ここで唯先輩が
 「あずにゃ~ん、一緒に乗ろう!」って言いながら私に抱きついて――



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:46:44.02 ID:ESiGxtBZ0

憂「あ、お姉ちゃん」

 む。

唯「どうしたの、うい?」

憂「一緒に乗ってもいいかな?」

唯「……」

 少し間を置く唯先輩。
 ……もしかして、考えてますか?

唯「ダメだよ」

憂「……え?」

梓「!」

 その発言に、思わずはっとする。
 まさか、私のため――?



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:50:44.94 ID:ESiGxtBZ0

唯「ふふ、そうじゃないでしょ、ういー。今日の私は憂の言いなりなんだから」

憂「……あ、そっか」

唯「ほら、ちゃんと言い直さなきゃ」

憂「命令します。お姉ちゃんは私の隣に座ること!」

唯「かしこまりましたっ!」

憂「えへへ~」

梓「……」

 むぅ。

紬「梓ちゃん?」

 ちょっと期待したのに。
 唯先輩のばか。
 ばかー。



86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:54:22.08 ID:ESiGxtBZ0

梓「……」

紬「あーずーさーちゃーん?」

梓「ふぇっ!? な、なんですか?」

紬「妬いてる?」

梓「なっ!! そ、そんな事、あるわけないです!!
  大体ムギ先輩はいつもいつも私達をそういう風に」

紬「妬いてたのね」

梓「妬いてません」

紬「……ふ」

梓「……」

 鼻で笑われた。ちくしょう。



87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:56:09.18 ID:ESiGxtBZ0

紬「そう、それじゃあ一緒に座りましょ♪」

梓「……ムギ先輩」

紬「なあに?」

梓「私、右側でいいですか?」

紬「ふふふ、もちろんよ」

梓「……どうもです」

紬「そこの位置なら、コースターがスピードに乗れば、唯ちゃんの匂いが嗅げるものね」

梓「そういう変態っぽい言い方しないでもらえますかね」



98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 21:59:42.41 ID:ESiGxtBZ0

唯「澪ちゃん、大丈夫?」

澪「なにが?」

唯「うぇ、いや、こういうの苦手かなーって思ったんだけど」

澪「ああ、痛いのとかお化けとかはダメだけど、これは別に……」

唯「へぇー、そうなんだー。ちょっと意外かも」

澪「そうかな……。ていうかアニメ版の私はやりすぎだろ。
  あそこまで臆病だとマトモに生活できないじゃないか」

梓「……」
律「……」
唯「……」
紬「……」
憂「……」

澪「ん?」

律「いや、はっちゃけたなーと思って」



99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:00:52.86 ID:ESiGxtBZ0

 シートベルトが下り、私達を乗せたコースターはレールの上を上昇していく。
 やがて、遊園地が一望できる高さまで……って、思ったより高いなコレ。
 ……いや、高すぎるでしょ。
 こっから一気に下りるの? まじで?

紬「まじです♪」

梓「わあ、声に出てましたっ!!」

 ―――。

梓「い、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

律「いやっほおおおい!!」

唯「おほぉぉぉっ!!」

憂「お姉ちゃんかわいいよお姉ちゃん」



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:04:54.85 ID:ESiGxtBZ0

 ―――。

澪「ひ、い、いいいいっ!!」

律「うおおおおおおっ!!」

憂「お姉ちゃん愛してる」

 ―――。

唯「おわぁぁぁぁぁっ!」

紬「わぁ、いい眺めよ梓ちゃん♪」

梓「う、ぐ……」

憂「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん」

 ―――。



103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:07:16.40 ID:ESiGxtBZ0

梓「……」

紬「気持ちよかったわね、梓ちゃん」

梓「……ええ、まぁ。 余裕でした」

 三回くらい意識飛びそうになった。
 匂いがどうとか言ってる余裕ねーですよ。

律「なんだよ澪、結局怖がってたじゃん」

澪「いや、なんていうか……。あそこまで急だとは思ってなかった」

律「あはは、まぁ、私もちょっと怖かったしね。澪にしては頑張ったと思うぞ」

 そう言って、澪先輩の頭を撫でる律先輩。

澪「な、撫でるな!」

 身長的に、普通は逆だろうと思う。
 ほら、私と唯先輩みたいに――



107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:13:47.00 ID:ESiGxtBZ0

唯「楽しかったねー、ういー」

憂「うん! 次も一緒に乗ろうね、お姉ちゃん」

梓「……」

 あー。

 あー。

 なんだろう、この気持ち。
 どす黒い何かが、私の心の中に――。

 そういえば今日って、まだ一回も唯先輩に抱きつかれてないよね。

紬「……」



109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:19:29.77 ID:ESiGxtBZ0

律「さて、お次は……アレとかどうだ?」

 律先輩が指差したのは、回転する巨大なトレイの上でくるくる回るコーヒーカップ。
 ハンドルを回すとその分、カップの回転速度が上昇するというファンキーな乗り物だ。

唯「おぉ、いいねー」

澪「そうだな、アレならあんまり人も並んでないし」

律「そんじゃ決定ー!いくぞぉ、みんなー」

唯・憂「おーう!」

 よし、次こそは唯先輩と――、言いたいところではあるのだけれど。
 唯先輩の腕は、憂ががっしりと掴んでいる。
 これじゃあ、私の入る隙が無いじゃないか……。

 ううん。
 ……皆楽しんでいるんだから。
 考えるな、考えなくていいんだ、私。



110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:24:23.38 ID:ESiGxtBZ0

梓「……」 

 頭ではそう思っているつもりなのに、
 言い聞かせても言い聞かせても、心のもやもやは消えてはくれなかった。
 いつから、こうなったのかな、私――。

澪「これも二人ずつだけど、どう分かれるんだ?」

律「うーん、そうだなぁ」

紬「憂ちゃん」

憂「なんですか?」

紬「今回は、私と一緒に乗ってくれるかしら?」

 ムギ先輩……?



112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:31:06.89 ID:ESiGxtBZ0

憂「え、でも」

紬「お願いっ」

憂「……まぁ、紬さんがそう仰るなら、私は構いませんよ」

紬「ありがとう!」

 ムギ先輩は、憂の腕を掴んで歩き出す。
 そして、私の方へと振り返り、ウインクをぱちり。

 ――頑張ってね。 

 そんな声が聞こえた気がしたから、

 ――ありがとうございます。

 心の中で、そう呟いた。



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:38:14.73 ID:ESiGxtBZ0

 ムギ先輩の心意気を、無駄にするわけにはいかない。
 だから、私も勇気を出して。 

梓「あの、唯せんぱ――」

律「んじゃ、唯。私と組むかー」

唯「え、うん。いいよ、りっちゃん!」

 うおぉぉぉぉい!!
 律先輩うおぉぉぉぉい!!

澪「じゃあ、梓は私とだな……って」

梓「……」



115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:42:38.38 ID:ESiGxtBZ0

澪「ご、ごめん梓。私とじゃそんなに不満だったか……?」

 ぷぅー、っと頬を膨らませる私と、それが自分のせいだと思い込んであたふたする澪先輩。
 困った。 私は唯先輩のことが好きだが、澪先輩のことも好きなのだ。
 なんというか、付き合うなら唯先輩、姉にするなら澪先輩、みたいな。
 だから、あらぬ誤解を招いて好感度を落とすわけにはいかない。
 二股とかじゃねーです。
 そこのけそこのけです。

梓「あ、ち、違います。ごめんなさい澪先輩!誤解です!」

澪「そ、そう? それならいいんだけど……」

梓「……はぁ」

 前途は多難らしかった。



116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:51:01.06 ID:ESiGxtBZ0

 物凄い勢いで超速回転する律先輩と唯先輩のカップ。

律「ひゃっほおおおおっ!」

唯「り、りっちゃん、目が!目がまわる!!」

律「うおお、そういえば私も目がまわってきた気がする!」

唯「ほわあああああ!!」

律「だが、まだだ。まだ終わらんよ!」

唯「り、りっちゃん隊員、これ以上は……!」

律「大丈夫だ、唯! 私が守ってやるっ!」

唯「り、りっちゃんっ!!」

律「唯っ!」

律・唯「イエス」

律・唯「フォーリン・ラヴ」


梓「……」

澪「あいつら、何やってるんだ……」



117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:01:30.91 ID:ESiGxtBZ0

 一方で、穏やかに回転するムギ先輩と憂のカップ。
 ムギ先輩と憂の声は、ここからでは聞き取れなかったけれど、
 なにやら楽しそうに談笑していた。
 案外あの二人、気があったりするのかもしれない。

 そして、優雅に回転する私と澪先輩のカップ。
 澪先輩は私の隣で、超速回転するカップを呆れた様子で見つめている。

梓「あの、澪先輩」

澪「うん?」

梓「澪先輩は、好きな人っていますか?」

澪「……」

梓「澪先輩?」

澪「いや、梓にそんなこと聞かれるとは思わなくて」

梓「……意外ですか?」

澪「少し、ね」

 そう言って澪先輩は優しく微笑む。



119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:07:10.76 ID:ESiGxtBZ0

澪「そうだな……。正直に言えば、気になるやつはいる。
  ただ、それが本当に好きっていう感情なのかと聞かれれば、かなり曖昧なものだけど」

 その視線は、相変わらず一つのカップに固定されていた。

梓「例えば、……その、例えばですよ。
  その気になる人が自分の目の前で、他の人と仲良くしてたら、どう思いますか?」

澪「……? 梓、もしかして」

梓「例えば、と言っています」

澪「……ふふ、それはアレだ。嫉妬するんじゃないかな?」

梓「……」

 澪先輩の気になる相手は、きっと律先輩なのだろうと思っているのだけど。
 唯先輩と楽しそうにしている律先輩を目の当たりにしても、澪先輩に凡そ嫉妬という感情は見て取れない。
 やっぱり、私が子供なんだろうか。
 或いは、律先輩のことを指しているのでは無いのかもしれないが。



122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:14:25.26 ID:ESiGxtBZ0

澪「なるほど、それでさっきむくれてたんだな」

梓「いや、あれは」

澪「自分の気持ちに正直になればいいんだよ。
  口にしなくちゃ伝わらないことだってある。相手が鈍感な場合は尚更、ね」

梓「……それ、澪先輩には言われたくないです」

澪「ぐ……。 い、いや、今は梓の話をだな」

 まぁ、澪先輩の場合、相手が鈍感ってわけでもないからな……って、あれ?
 おかしいな。オブラートに包んだつもりなんだけど。
 何故『相手が鈍感な場合』とか仰ったんですかね、このお方は。
 いやいやいや、待て、落ち着け私。
 鈍感と唯先輩が等号というわけではないだろう。
 ほら、思い返してみよう。
 この前の等身大高杉ポスターの時だって――。



124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:19:58.05 ID:ESiGxtBZ0

梓「……」


 やっぱいいや。


澪「どうした?」

梓「いえ、ただちょっと贔屓目に記憶を改ざんしようとしたけど、
  どう頑張ってもそれは唯先輩じゃヌエー!と」

澪「ああ、やっぱり唯か」

梓「……え?」

澪「気になる相手」

梓「……」

澪「……」



125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:24:37.88 ID:ESiGxtBZ0

梓「なんで分かったんですか?」

澪「今自分でバラしたじゃないか」

梓「……」

澪「……」

梓「ほぎゃああああ!!」

澪「う、うわ、梓落ち着けっ!」

 おもっきりハンドルをまわしてやった。



129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:32:33.53 ID:ESiGxtBZ0

唯「楽しかったねー、りっちゃん」

律「……ちょっと、まわしすぎたけどな」

 ベンチの背もたれに手を置いて、ぐったりの律先輩。
 ハンドル持ってたの律先輩なのに。なにやってんだか。

紬「そろそろおなかが空いたわね」

憂「時間もお昼過ぎてますし、ご飯にしましょうか」

 そう言って、憂は作ってきたお弁当を取り出した。
 人数分ともなると、作るのも持ち運ぶのも大変だろうに。
 献身的な子だと思う。

唯「賛成っ!」



130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:38:02.37 ID:ESiGxtBZ0

梓「向こうに公園がありますね」

 私は地図を見ながら、その方向を指差した。

唯「ほえー、どこどこ?」

梓「あ……」

 不意に、唯先輩の顔が真横に現れた。
 それは、抱きつかれるのとはまた違う感覚で、体温がぐん、と上がったような錯覚に陥る。
 勿論抱きつかれる方が個人的には好きなんですけど。
 ……いや、何を考えているんだ私は。いくらなんでも動揺しすぎだ。

唯「?」

梓「落ち着け私、落ち着け私……」



131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:44:49.15 ID:ESiGxtBZ0

唯「あずにゃん?」

梓「い、いえ。えーと、ほら、ここに」

唯「おおうっ! 本当だ! みんな、急ごう!!」

 唯先輩はそう叫ぶと同時に私から離れ、律先輩と一緒になって走り出す。

梓「あっ……」

 ほんの一瞬だった。
 もう少し、もう少しだけでいいから、近くに居て欲しかったのに。

紬「ふふ、元気ね、二人とも」

澪「全く。食べ物の事となるとこれだよ……。あの熱意を少しでも練習にまわしてくれればなぁ」

憂「梓ちゃん、ほら、私たちも行こ?」

梓「……あ、うん。そうだね」



134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:50:14.94 ID:ESiGxtBZ0

憂「はい、お姉ちゃん。あーん」

唯「あーん」

 もぐもぐ。

唯「それじゃ、ういも。あーんして」

憂「あーん」

 もぐもぐ。

梓「……」

澪「……」

紬「……」

 この三点リーダを解説しておくと、上から順に
 『嫉妬』『呆然』『至福』となる。
 表情の方は各自でご想像願いたい。




135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:52:14.23 ID:lSx6nIWx0

容易に想像できてしまいます





136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:56:11.15 ID:ESiGxtBZ0

律「お、お前ら……本当仲良いよな」

唯「そうかなぁ? これくらいなら普通にやると思うけど」

憂「冬場は特にねー。コタツから顔だけだしてミカンをねだるお姉ちゃん……
  もう、ほっっっんとに可愛いんですよ!」

 いや、強調しすぎだよ。
 実際可愛いけど強調しすぎだよ。
 ちくしょう。

 ちくしょう。

憂「それにほら、今日はお姉ちゃんの罰ゲームも兼ねてますから、
  ムギ先輩が喜びそうなことをしないと」

 絶対それ建て前だよね?
 
 ……。
 いやいやいや、そろそろ落ち着こうか私。
 親友に敵意を向けるとかありえないから。ありえないですから。
 ていうか、姉妹でしょ。仲は良いけど姉妹でしょ。
 こういう時は手のひらに人という字を書いて、その横に憂をつれてくれば、ほら。

 人に優しく!!

 私は手のひらに書いた字を意味もなく飲み込んだ。



137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:01:01.71 ID:WLo0G95R0

澪「まぁ、確かにムギは大喜びみたいだけど……」

紬「……」

 律先輩的に言うなら『ちょーウットリしてるぅ!?』だ。 

律「それはそうと、梓」

梓「あ?」

律「ご、ゴメンナサイ!?」

梓「あ、すいません、考え事してました」

律「なんか露骨に不機嫌になってないか?」

梓「いえ、そんなことないですけど。人に優しくです」

律「人に優しく?」

梓「人に優しく」

律「あ、ああ……」

 何故だか、珍しく律先輩が動揺していた。



139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:09:04.97 ID:WLo0G95R0

唯「あずにゃん」 

梓「……なんですか?」

唯「食べる?」

 嬉しそうに、私の目の前にたいやきをちらつかせる唯先輩。

梓「……」

 今更だ。
 そんな、そんなものに私は釣られない。
 釣られるわけがないのに。

律「物凄い目で追ってるな、たいやき」



140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:15:21.79 ID:WLo0G95R0

唯「……」

梓「あっ……」

 遠ざかるたいやき。

律「……」

憂「遊ぶお姉ちゃんと、遊ばれる梓ちゃん……」

紬「これはこれで、来るものがあるわね」

憂「わかります」

 ああ、唯先輩。

 食べさせてくれないんですか。

 おあずけですか。



141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:19:04.76 ID:WLo0G95R0

唯「あずにゃん」

梓「な、なんですか」

唯「あーん」

梓「……」

唯「あーん」

梓「あ、あーん……」

 ぱく。
 もぐもぐ。

梓「……おいしい」
 
唯「うっふっふ」

 勝ち誇ったかのように不敵に笑う唯先輩。
 せいぜい今のうちに勝利の美酒に酔いしれてると良いです。
 ……次はこっちのターンなんですから。



143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:24:48.47 ID:WLo0G95R0

梓「唯先輩」

唯「なぁに?」

梓「あ、あー、あー……」

唯「……うん?」

 そのキラキラの眼差しをやめていただきたい。
 無理だ。ちくしょう。
 私には無理なんだっ!!
 「あーん」なんていいながら食べさせるなんて私には無理なんですよぉぉ!!

梓「……あー、いえ、なんでもないです」



144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:29:39.12 ID:WLo0G95R0

唯「えー、食べさせてくれないの?」

 それは、人差し指を自分の唇に当てて、小首を傾げるという行為だった。
 何の変哲も無い、ただそれだけのポーズだ。艶っぽさも色気もあったものではない。
 強いて言うなら、子供が欲しいものをおねだりするときにこんなポーズをとることがある。
 たとえ友達や近所の子供達からこのポーズをされたところで、私は大した感慨を持たないだろう。
 それどころか、『甘えるな』と叱責するかもしれない。

 だがどういうことか。
 この瞬間、確かに私は一度死んだ。
 そして、憂がミサイルの如く公園の端まですっ飛んでいき、
 ベンチでポップコーンを食べながら小さな女の子を眺めて
 恍惚の表情を浮かべていた二十台くらいの青年の手から、
 ポップコーンを叩き落して「ブラボー!おお……ブラボー! 」と叫んだ。



146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:34:49.95 ID:WLo0G95R0

梓「……」

唯「あずにゃん」

梓「……なんでございますでしょうか」

唯「もしかして照れてる?」

梓「て、て、照れてる!? 私がっ!? な、なにを根拠に――」

唯「ああん、もう! あずにゃんかわいいよぅ!」

 ぎゅっ。

 『あーん』に続いてハグ→頬擦りのコンボを叩き込まれた。
 今日始めてのハグ。
 どうしてこうも落ち着くんだろう。
 ああ、唯先輩。できることならばしばらくこのままで――。

律「なんつーか、皆幸せそうだな……」

澪「察してやれ」

律「ていうか、憂ちゃんのアレはどう収拾つけるんだ」

澪「あの男の人も幸せそうだから、いいんじゃないか?」

律「いいのかよ」



148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:41:44.21 ID:WLo0G95R0

唯「午後の部!」

澪「午前中以上にテンション高いな」

唯「お昼食べたからねっ!」

 ふんす!と鼻息荒く、そんなことを言ってのける唯先輩。

梓「律先輩、何から乗るんですか!?」

律「えーと……、って、梓もテンション上がってないか?」

梓「秘密です!」

 ふんす!と鼻息荒く、私は答えた。

律「じゃあアレ」 澪「嫌だ」

律「……」

澪「……」



149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:47:11.57 ID:WLo0G95R0

律「即答だな……」

 律先輩が指差したのは遊園地の定番の一つ、お化け屋敷だった。

律「大丈夫だよ、所詮アトラクションなんだし、そんなに怖く」 澪「嫌だ」

紬「まあまあまあまあまあまあ。澪ちゃんも嫌がってるんだし、無理にいかなくても……」

 六回がデフォなんだろうか、この人。

律「ちぇー、仕方ないなー」

憂「律さん、それならアレとかどうですか?」

 落胆する律先輩に声をかける憂。
 その視線の先には『脱出!巨大迷路!』と書かれた、
 かなりの規模のアトラクションが佇んでいた。

梓「なんの捻りもない名前ですね」

紬「>>1の力量が知れるわね」

律「ぼろくそだなお前ら」



152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:55:56.58 ID:WLo0G95R0

唯「でも、楽しそうだよ。行ってみない?」

律「……そうだな、澪もあれなら大丈夫だろ」

澪「あ、……うん」

紬「行きましょ、澪ちゃん」

澪「ムギ、その……」

紬「?」

澪「ありがと……」

紬「ふふ、どういたしまして!」


唯・律「か、かわええっ……!」

 きゅるるるりーん。再び。
 でも、私から言わせてもらえるなら、唯先輩だって十分可愛いんですよ?
 ……なんて、言いたくても言えませんけどね。



153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 01:02:05.22 ID:WLo0G95R0

憂「お姉ちゃん”の方が”、かわいいと思うな」

唯「な、なんとっ!?」

 悶々としている私を尻目に、憂がさらりと言ってのけた。
 わざとではないのかと思えるほど、今日の憂は積極的だ。
 それはまるで、私へのあてつけのようにも思えて――

梓「……」

 違う。

 己の思考を断ち切るように、ぶんぶんと首を振った。
 このままだと、自己嫌悪に陥りそうだったから。

 友達に嫉妬なんてしたくない。

唯「いやいやいや」

 唯先輩は必死に右手を振りながら、のどを絞めたような声で否定しつつ、

唯「そんなことないですからッ!!」

 なぜか妹に敬語でキレた。



154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 01:03:55.54 ID:WLo0G95R0

憂「かわいいってば」

 しかし、微塵も気圧されることなく憂は攻める。

唯「……」

 うー、と小さく呟きながら俯く唯先輩。
 もしかして。
 いや、もしかしなくても――、照れてたりしますか?

 そこまで考えてから、やっぱり――、と思い直す。
 だって、ありえないもの。
 唯先輩は、かわいいと言われたくらいで照れる人ではないのだ。

唯「りっちゃん」

律「なんだね?」

唯「そんなことないよね? 」

律「いえいえ。 十分かわいいと思いますことよ?」

唯「ほあぁぁっ!!」

 今度は、律先輩に跳ね飛ばされたかのような動きで、私にしがみついて来た。
 予め断っておきますけど、棚ボタとか思ってないですから。



155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 01:05:05.73 ID:WLo0G95R0

梓「どうしたんですか? いつもならそのくらいで照れたりしないのに」

唯「いや。いやいやいや。ダメ、ダメなのあずにゃん……」

 ちょっと涙目になっているせいか、ドキリとする。
 直後に、憂が「ベリィィィキュゥゥトォォォ!!」と奇声を上げながら、
 申し分の無いクラウチングスタートを決めてすっ飛んでいったかと思えば、
 隣のサッカーグラウンドで爽やかな汗を流す男達の隙間を巧みに掻い潜り、
 選手の一人がフリーキックを蹴ろうかというタイミングで、
 サッカーボールを13ポンドのボウリング球と挿げ替える。
 
 そして、テニスのボールボーイの如くしなやかな動きでグラウンドを離脱すると、
 今度はスリーステップで大木を駆け上り、
 枝に引っかかっていた風船を掴んで、バク宙を決めながら華麗に着地。
 大木の下で泣いていた幼女に、無言でさっと差し出すイケメンっぷりで、
 彼女のハートをガッチリ鷲掴みにしていた。

 私は、憂を目で追うのをやめて唯先輩に視線を戻した。



157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 01:06:10.67 ID:WLo0G95R0

唯「私が澪ちゃんより……か、かわいいだなんて、そんなことあっちゃダメ。ダメなんだよぅ!!」

 え?

梓「……」

律「……」

 律先輩と思わず顔を見合わせる。
 えーと、ああ?

 可愛いと言われることにはまるで抵抗はないけれど、
 誰かよりも可愛いと言われることには抵抗があるということですか?

 いや、その対象が澪先輩だったから、か。
 なるほど、そういう線引きなのか。
 感覚が独特すぎて、理解するのに二分弱かかった。
 相変わらず良く分からないお人だ。

 けれど、こういう唯先輩を見るのは初めてだったから。

 ふふ、このネタを使っていじめてあげるのも悪くない。



193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 10:28:08.92 ID:WLo0G95R0

 雑談と唯先輩弄りに花が咲きすぎて、なかなかアトラクションにたどり着けなかった私達は、
 その後、憂が連れてきた外国人に謝ったり、唯先輩に謝ったり、
 先行して待ちぼうけを食らっていた澪先輩とムギ先輩に謝ったりして、
 ようやく目的のアトラクションへと到着した。

唯「ねえ、これ……」

律「見事にガラガラだな」

梓「人っ子一人見当たりませんね」

澪「みんな、これ見て」

 澪先輩の指差した先には、『本日貸切』の看板。
 それはつまり、どこぞの団体さんがこのアトラクションを一日丸々使うということだ。
 アトラクションだけ見てもかなり大きい施設だし、これだけ客が来ているのだ。
 一日とはいえ、これを貸切るなんて、相当のブルジョワジーに違いない。



197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 10:46:34.65 ID:WLo0G95R0

律「貸切かよ!」

唯「えー、じゃあ入れないの? 残念……」

澪「まぁ、仕方ないだろ。他のアトラクションに……」

?「も、申し訳ございません! 貸切ではございませんので、こちら今すぐご利用になれます」

 澪先輩の台詞を遮るように、アトラクションの係員らしき人物が慌てた様子で出てきた。
 なんか、どっかで聞いた事のある声だったけど、
 思い出せないということは、さほど重要な人物ではないのだろう。

憂「それじゃあ入ってもいいんですか?」

?「はい、そのように仰せつかっております」

律「なんか、馬鹿丁寧な口調だな……」

唯「私、この人に会ったことある気がする……」

梓「あ、唯先輩もですか? 実は私も、どこかで聞いたことのある声だなって……」

紬「とにかく入りましょう? グズグズしてると他のお客さんの迷惑になっちゃうわ」



199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 10:52:34.27 ID:WLo0G95R0

 私達が今日最初の入場者ということらしく、室内は静まり返っていた。
 全体的に白みがかった壁と、異様に高い天井。前方に何かを映すであろう巨大なスクリーン。
 無骨だった外観からは想像もできない作りだ。
 そのだだっ広い部屋の床には、正方形のタイルが敷き詰められていた。
 このタイルは大理石だろうか? いや、たかだか遊園地のアトラクションにそんなものが……
 
 物思いに耽りながら床を見ていた私は、
 視線の先に、この空間に恐ろしく不釣合いな文字を発見した。
 
梓「『スタート』って書いてありますね」

澪「本当だ。ここがスタート地点ってことなのかな?」

律「スタートだけじゃないぜ。皆、向こうの床を見るんだ!!」

 律先輩に言われるがまま、スタートパネルの奥を見る。
 そこには、縁を三原色で彩ったパネルの数々。
 スタート以外のパネルは、全て赤い紙が覆いかぶさっていて、
 そこに書かれているであろう文字を確認することはできなかった。



200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 10:56:16.83 ID:WLo0G95R0

憂「……ええと、このアトラクションって『脱出!巨大迷路!』だったと思うんですけど」

 憂の言っていることは正しい。
 私も外のでっかいアーチを確認しているのだ。
 ここは間違いなく、迷路であるはず。

唯「全然、迷路って感じしないね」

律「ああ。それどころか、これはまるで――」

「すごろく――」

律「じゃないか」
唯「だよね」
澪「だよな」
梓「ですよね」

 綺麗にハモったところで。
 ムギ先輩が衝撃の事実を口にする。

紬「そこに、大きな文字で『巨大!ファンタジーすごろく』って書いてあるわよ?」




 統一しとけよ。



203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 10:59:41.54 ID:WLo0G95R0

 支配人らしき人から、一通りの説明を受けたあと、順番を決める番号札を引かされた。
 せっかく来たんだし、という意見と、意外と楽しそう、という意見から、
 (ちなみに前者が澪先輩、後者が唯先輩だ。どうにも嫌な予感がするので、
 私としては遠慮しておきたかったのだが、この二人にそう言われたら、黙って従う他無い)
 結局、遊んでいくことになった。

 支配人からの説明を要約するとこうなる。
 このアトラクションは、コマは私達自身。サイコロを振ってゴールを目指すという部分では
 普通のすごろくとなんら変わりは無い。
 しかし、止まったマス目に書いてあることは、『当人に対して絶対に起きる』らしい。

 あからさまに胡散臭い。

 さらに。

 一番最初にゴールにたどり着いた人は、他の全員にそれぞれ一つだけ、
 どんな命令でもすることができる。 そして、敗者はそれに従わなければならない。
 
 とのこと。

 ……いやいやいや。
 デジャヴとかそういう次元じゃないですから。



204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 11:00:49.19 ID:WLo0G95R0

律「どんな……」

澪「命令でも……」

唯「だと……?」

梓「ちょっと、皆さん落ち着いてくださいよ」

律「え?なんだって?」

澪「勝つしかない、私が助かる術は勝つしかない」

憂「お姉ちゃんとベロチュウお姉ちゃんとベロチュウお姉ちゃんとベロチュウ」

唯「あれ、なんかこんな感じのこと、前にもあったような……」

梓「そうですよ唯先輩! 律先輩も澪先輩もしっかりしてください! ……憂も、帰ってきて」

 先月の笑ってはいけない勉強会に引き続き、今度は巨大なすごろくゲーム。
 しかも、不自然な貸切のせいでお客さんは私たちだけ。
 聞き覚えのあった係りの人の声と、その馬鹿丁寧な執事口調。
 そう、こんなことができるのはただ一人しかいない――。

梓「ムギ先輩、説明してくださいッ!!」



206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 11:09:14.87 ID:WLo0G95R0

紬「え?」

 ほら見たことか。
 ふふん。私の完璧な推理、見ていただけましたでしょうか、唯せんぱ――

梓「きょとんとしてるうぅぅ!?」

紬「どうしたの、梓ちゃん」

梓「……あ、いえ。これ仕組んだのって、ムギ先輩じゃないんですか?」

紬「そうよ?」

梓「どうしてそんなに意外そうな顔をしてらっしゃるんですか」 

紬「いえ、もう皆とっくに気付いているものだと思っていたから」

梓「ああ、そうですか……」



207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 11:16:11.47 ID:WLo0G95R0

紬「でも安心して? 今回は私も参加させていただくわ♪」

梓「わあ、すっごく安心……するもんかーー!!」

紬「……」

梓「……」

紬「唯ちゃん」

唯「え?」

紬「梓ちゃんを抱きしめてあげて」

唯「あ、うん」

梓「ちょ、何を言い出し――」



210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 11:20:22.48 ID:WLo0G95R0

唯「あずにゃ~ん」

 ぎゅっ。

梓「っ!!」

 お、おのれムギ先輩。
 こんなことで私は騙されない、騙されませんから―!!
 このまますごろくゲームなんてやったら、きっと前回みたいにとんでもない目に、
 とんでもない目に、飛んで、……。

梓「にゃ……」

 私の憤りはどこかへ遠くへ飛んでいった。 


紬「それじゃあそろそろ始めましょ?」

憂「順番って、さっきのくじで決めるんですよね」

紬「そうよ」



211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 11:26:19.90 ID:WLo0G95R0

律「えーと、私は三番、か」

唯「私二番だよー」

澪「私は五番」

梓「……」

憂「私六番です」

紬「私が四だから……」

 みんなの視線が集まる。
 ……まぁ、黙ってたところでバレますよねー。

梓「すっごい嫌なんですけど……」

憂「梓ちゃん、がんばって!」

 そんな激励されたところで、がんばりようがないんですけどね。
 支配人に巨大なサイコロを渡され、私は仕方なくそれを振った。

 お昼の看板番組を思わせるような挙動でサイコロは転がり、やがて静止する。
 上を向いていた目は『4』
 ゴールまではそこそこ長いようだし、『5』『6』では無いにしても上々の滑り出しと言える。



214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 11:32:47.17 ID:WLo0G95R0

梓「えーと……、タイル四つ分進めばいいんですよね?」

 支配人が静かに頷いたのを確認してから、私はゆっくりと歩みを進める。
 いち、に、さん、し――。
 タイル自体がそこそこ大きいため、私の場合、一歩では次のタイルへは届かない。
 ので、普通に歩いて、四マス目で停止した。
 すると、タイルに張られていた赤い紙がすうっと剥がれ、そこに文字が現れる。

  『ツインテールの片方がとれる』

梓「と、と、取れるッ!?」

 取れるってどういうことですか!?
 パニックになって、咄嗟に私は自分の髪を押さえた。
 しかし――

 『ぷちっ』

 何かが切れる音と共に、テイルの右側が――。

梓「ヘアゴムが切れた……」

律「……当人に対して絶対に起きるって、こういうことなのか?」

澪「まさか……、偶然だろ」

 サイドポニーなのはともかく、
 右側だけだらしなく下ろしているというのが、どうにも格好がつかない。
 ていうか、恥ずかしい。



215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 11:37:54.77 ID:WLo0G95R0

梓「……」

 逡巡した後、私は左側のゴムも一度外して、改めて一本にくくり直した。
 予備のヘアゴムなんて持ってきてないし、仕方ない。
 似合ってなさそうで、なんとも落ち着かないけれど。

憂「梓ちゃんのポニーテール……」

唯「あぁん、あずにゃんかわいいよあずにゃん!」

紬「ウットリね……」

澪「興奮してないで。唯の番だぞ?」

唯「え? あ。そっか」

 唯先輩の手にサイコロが渡る。
 ふと気付いたけれど、これで唯先輩が四を出したらどうなるんだろう?
 今更だけどツインテールの片方が取れるって、私にしか効果ないじゃん!
 ピンポイントで私狙いじゃん!!どういうことだよ!?
 いや。そんなことより!!
 ここでもし、唯先輩が四を出してみろ!
 次の私の番が来るまで、そこそこ大きいとはいえ、一つのタイルの上に二人きり!

 密・着・状・態!!

 密着状態ということは即ち、あんなことやこんな 「あ、5だ」 ですよねー。



216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 11:41:56.50 ID:WLo0G95R0

唯「いっち、にぃ、さん、しー……ごっ! お隣だねっ、あずにゃん!」

梓「そうですねー」

唯「なんでそんなにガッカリしてるの?」

梓「いえ。ただちょっと、現実は甘くないなーと思ってたりする次第で」

唯「?」

 唯先輩の足元のパネルがオープンする。


  『サイコロの目*5回腹筋する』


 同時に唯先輩の顔が青くなった。

唯「ど、どうしよう」

梓「どうしたんですか、そんなに慌てて」

唯「『3』以上出したら、多分私死ぬ」

梓「腹筋くらいで死なないでください」



217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 11:49:08.18 ID:WLo0G95R0

 唯先輩の手に再度サイコロがわたり、改めて振るう。
 両手を合わせて、あからさまな神頼みポーズの唯先輩。
 そんなに腹筋したくないんですか。

 やがてサイコロは止まり、出た目は『1』

梓「良かったですね、『3』以上じゃなくて」

唯「五回もできない……」

梓「どんだけ体力ないんですか」

 ドタン―!

律「!?」

澪「な、なに?」

 突如として部屋の奥の扉が開き、そこからスーツを纏ったサングラスの男達が数人現れた。
 所謂エージェントというやつで、いやこれ先月と同じですからー!!

唯「ま、また!?」

 エージェント達はこちらにマットを運ぶと、両手を後ろに組んで直立する。



220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 11:53:37.33 ID:WLo0G95R0

唯「え、ええと……、腹筋しろってことですか?」

 唯先輩の問いかけに、エージェント達はコクりと頷いた。
 黒尽くめのエージェントに囲まれて腹筋をする女子高生。

 シュールだ。

紬「梓ちゃん」

梓「はい?」

紬「足、押さえてあげて?」

梓「わ、私がですか?」

紬「私達は、まだ順番まわってきてないもの」

 む。もっともな理由な気がする。
 少なくとも私の順番がまわってくるのは、現時点では唯先輩の次に後ろなのだから。
 惜しむらくは、本日の唯先輩の服装がスカートでは無いことだ。
 だってほら、腹筋する人がスカートだと、足押さえる側の人からすると、ほら。ね?

梓「ね? じゃねえよ……」

 危ない。
 ナチュラルに『憂ムギさわやか変態同盟』に仲間入りするところだった。




222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 11:56:20.86 ID:YSt78wPO0

あらあら



223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 11:58:21.05 ID:uPzzBIS/0

まあまあ



224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 11:59:08.20 ID:3c4z0M170

うふふ





225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 12:01:22.91 ID:WLo0G95R0

唯「あずにゃん、なにぶつぶつ言ってるの?」

梓「……」

 なんでもありません、と上擦った声で答えてから、私は唯先輩の足を押さえた。

梓「……さあ、どうぞ」

唯「よーし……」

梓「……」

唯「……っ!!」

梓「唯先輩」

唯「……」

梓「早く腹筋してください」



226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 12:06:50.60 ID:WLo0G95R0

唯「わ、わかってるよぅ」

梓「……」

唯「……っ!!」

梓「……あの、先輩?」

唯「できない……」

梓「……」

 え?

 まじで?

梓「じゃあ、あの……こうやって、勢いつけてやってみるのはどうですか?」

 反動をつけてくいっ、と。
 私は見本を見せてあげた。

唯「あ、それなら……」

 ぶっちゃけ、それもう腹筋とかじゃないですけどね。
 エージェントの顔色を窺ってみたが、真ん中の人が明らかに半笑いになっていたので、
 おそらく大丈夫だろうと踏んだ。



229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 12:13:38.28 ID:WLo0G95R0

 思い切り反動をつけて腹筋を繰り返す唯先輩。
 いち、に、さん、しー……

唯「ごーーーー!」

梓「……」

唯「できたっ! やったよあずにゃん!!」

梓「……わあ、先輩すごーい」

 この人、社会にでたら生きていけないんじゃないだろうか。
 腹筋五回と言われて「できない」と、のたまう人を初めて見た。
 ……いやまぁ。
 そこが可愛らしいというか、守ってあげたくなるっていうか。

 ―あずにゃん、私あずにゃんがいないと生きていけないの
 ―大丈夫ですよ、唯先輩。私がずっとそばにいてあげますから
 ―ありがとう、あずにゃん大好き!!

 なんつって。
 もう唯先輩ったら……うふふ。

律「なんか、梓がくねくねしてるんだが」

澪「そっとしておいてあげてくれ」




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梓「ゆいにゃん」 唯「あずにゃん」#前編
[ 2011/08/06 22:41 ] ほのぼの | | CM(0)

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