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唯「とれすぽ!」#後編 【非日常系】


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唯「とれすぽ!」#前編
唯「とれすぽ!」#後編






60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:49:32.88 ID:LAhfm++g0

12 Dark And Long by 唯


唯「知らない天井だ……」


目を覚まして、私は自分が病院のベッドに寝ていることに気付いた。
さわちゃん先生から貰ったヘロインをキメて、私は倒れてしまったのだ。
質が悪かったのか、もしくはへんな混ぜ物でもあったのかもしれないね。


憂「お姉ちゃん! 気がついたんだね!」

唯「う……憂?」

憂「心配したよ……お姉ちゃんが倒れて運ばれたって聞いて……」

唯「うう……ごめんね、憂」

憂「お姉ちゃんが無事だったなら……でも、お医者さんに聞いたよ?
  お姉ちゃん、またヘロインやったんでしょ?」

唯「あ……」

憂「こうなったらもう国のメタドンプログラムになんか頼っていられない。
  お姉ちゃんは私が連れ帰って、クリーンになるまで面倒を見る」

唯「え……」

憂「そういうわけだから、お姉ちゃん、私と一緒に帰ろ?」


こうなった憂はもはや止めることはできない。
私はなすすべなく実家に連れ戻され、自室のベッドに縛り付けられた。



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:52:51.88 ID:LAhfm++g0

最悪なのは、よりによってこういう時になって、身体中の血管という血管がドラッグを欲することだった。


唯「憂……なんでも……なんでもいいから身体に入れたいよぉ。メタドンでもいいから……」

憂「だめ! 今のお姉ちゃんに必要なのは、有害無害に関わらず、
  全てのクスリを身体から抜くことなんだよ?」

唯「そ、そんなぁ……うい~ドラッグぅ~……」

憂「お姉ちゃんのためなんだよ……? 我慢してね……?
  私がきっとお姉ちゃんの病気を治してあげるから、それまでの辛抱だよ?」


そういい残して憂は部屋から出て行った。ご丁寧に、外からの厳重な施錠つきだ。

そしてしばらくすると、ついにコールド・ターキー(禁断症状)が襲ってきた。


唯「う~ん、う~ん……痛い……痛いよぉ……」


身体中の骨という骨がすり合うかのように、キリキリピキピキと音を立てているような錯覚。


唯「う……ん……気持悪いよぉ……」


絶え間なく襲い来る吐き気、身体中の毛穴という毛穴から吹き出る脂汗。


唯「やだ……もうやだよぉ……」


頭の中は死とか孤独とかHIVとか、これ以上ないくらいの欝な想像でいっぱい。

いっそのこと死んでしまいたい。でもやっぱり死ぬのは嫌だ。わからない。もうなにもわからないよ。



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:55:07.85 ID:LAhfm++g0

すると足元に突然、人影がひとつ。


聡「なんだよ、唯さんはヤク中だったのかよ。
  危なかった~、俺、ヤク中のビッチとヤるところだったのか~」


やめてやめてやめて。私はビッチなんかじゃない。


聡「やっぱりヤるなら澪さんみたいな女性が理想だよなぁ~。今度姉ちゃんに紹介してもらおうっと」


ヘンなこと言わないで。澪ちゃんだってヤク中なんだよ? しかも今はブタ箱入り。私よりクズじゃない。

すると人影の姿が変わる。


紬「唯ちゃん、酷いザマね」


なにしにきやがったんだ、この沢庵。私の裁判にも来てくれなかったくせに。


紬「私は禁ヤクに成功したし、可愛い彼女もいるし、
  今はまさにバラ色の生活よ? うらやましいかしら?」


うるさいうるさいうるさい。

どうせムギちゃんだって同じ穴のなんとやらじゃないの。彼女の穴に突っ込むための棒もないくせに。

堪りかねて私は頭から毛布を被る。これならもうヘンな幻覚を見ずにすむ。

と、思ったら布団の中にはどこかで見慣れたデコが。



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 01:56:40.49 ID:LAhfm++g0

律「はん。酷い顔だな。これがジャンキーの末路ってやつか?」


だまれだまれだまれ。そのデコ、シンバルでカチ割ってやろうか。


律「別にいいけどさ。何なら私が力づくで唯の禁断症状を覚ましてやってもいいぜ?」


やめて。お願いだからやめて。
もう布団の中も耐えられない。すると、


憂「お姉ちゃん、お腹空いたと思って。シチュー作ってきたよ?」


シチューなんて、今の私には牛乳の混じったゲロの沼にしか見えない。


憂「だめだよ? 食べて体力つけないと良くならないよ?
  私にはお姉ちゃんの病気を治す義務があるのに……」


すると今度は部屋のドアの方向。どこかで聴いたことのある歌が聞こえてくる。


澪「あぁ~神様~お願い~2人だけの~ドリームタイムくださーい♪」


やめて。今の私には耳触りでしかないから。


澪「唯のこと、見損なったよ……。まさか私を裏切って一人だけ執行猶予だなんて」


ふざけないで。こんなつらい思いをするくらいなら、それこそブタ箱行きの方がよかった。



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 02:01:21.48 ID:LAhfm++g0

梓「私の……私の子供……あずにゃん2号……どうして……どうして……」


今度はあずにゃん? お願いだから、もう私を混乱させないで。
でも悪夢はまだ終わらない。今度は天井をあの猫が這いつくばっている。
あの猫はあずにゃん2号だ。泣いている。不憫な死を迎えた自分を儚み泣いている。


猫「よくも……よくもわたしをしなせたにゃ!」


あずにゃん2号が言った。
やめて。そんなのあの可愛かったあずにゃん2号じゃない。


猫「あんたがしなせた わたしをころした
  いっつもやくをうってばかりでろくにわたしのせわをしなかった

  わたしはまだいきたかった せいごいちねんもたってなかった
  あんたみたいなやくづけのばかのところにひろわれたせいで
  わたしはなんのたのしみもあじわえずしんだ

  ふざけるな ころしてやる
  あんたをずたずたにひきさいてそのへろいんづけのちぶさをかみちぎってころしてやる
  あんたのま○こをどすぐろいこっくでぶちやぶってころしてやる
  わたしがそうされたみたいに いきができなくなるようにしてやる
  してやるしてやるしてやるしてやるしてやる」


そうして天井を這いつくばっていたあずにゃん2号が落ちてきた瞬間から、私のその日の記憶はなくなった。

そんな感じで数日間、私は地獄の苦しみを味わい続けた
正気を取り戻した時には、身体中引っかき傷だらけ。
涙も枯れて、生理も一時的に止まっていた。

その後、私は憂に連れて行かれHIVの検査を受けた。
私が日常的に他人と注射針を共用してヘロインを打っていたことが憂にバレたからだ。
結果は奇跡的に陰性。憂は私のことを幸運だと言って、泣いて喜んだ。
確かに幸運かもしれない。
でもそれがなんだっていうんだろう?



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 02:05:24.59 ID:LAhfm++g0

13 新天地 by 唯


真剣に考えてみた。
自分はなんでヘロインと手を切れないのだろう?
意志が弱いから?
そんなことはない。私にだって自分の意思で何かを始めることが出来る。
高校時代、軽音部の活動でそれは証明したはずだった。

だったら……?

その答えのヒントを得たような気になった私は、生まれ育った街を離れた。
どっちにしろ、このまま実家にいても過保護すぎる憂のせいで、
私は籠の中に囚われたカブトムシのように、水分過多のスイカを食べさせられて死んでしまうだろうから。


唯「いらっしゃいませ~。本日はフェンダーのテレキャスターが大変お安くなっております~」


楽器屋の店員という仕事も見つけた。
店主のご厚意で下宿場所まで手配してもらえた。小さなアパートだけど、住み心地は上々。

なんだ、人生を選ぶのってこんなにも簡単だったんだ。

ここには私をヤクに誘う友人も、ケンカに巻き込む悪友も、レズセックスの良さを無理やり語る沢庵もいない。

つまりはそういうことだったんだね。



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 02:07:04.77 ID:LAhfm++g0

14 追跡 by 律


さすがにちょっとやり過ぎたかな、という自覚はある。
パブのチンピラとケンカするならともかく、
カツアゲ目当てに戦闘力の欠片もないモヤシくんをいきなり路地裏に引きずり込んでボコボコっていうのは、
いくら気が立っていて酔っぱらっていたからとはいえ、やりすぎだったかもしれない。

おかげで私は今、警察に追われてる。


紬「ちょうど良かったわ。私も新しい刺激に飢えていたところなの」


禁ヤクしていたムギも、付き合っていた女と上手くいかず、いらいらしていたらしい。
ま、そんなことはどうでもいいが、この街を離れる必要があるっていう利害は一致してる。


紬「律ちゃんが一緒なら、心強いですわ♪」


こんな風ににっこり微笑んで、ぶっとい眉毛を垂れ下げる時のムギは特に信用ならない。
まぁ、もし私に牙を向くようなことがあれば、眉毛が反転するまで殴ってやればいいんだけど。

梓はどうやらついてくる意思も気力もないらしい。
澪が出所してくるのはもう少し先の話だ。

鍵盤奏者とドラマー、不釣り合いな2人だけのパーティーだけど、なんとかなるだろう。


律「私から逃げ出そうなんて、100年早いぜ、唯!」



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 02:11:31.17 ID:LAhfm++g0

14 デコと沢庵 by 唯


一日の仕事を終え、少しの充実感と疲れた身体を引きずりアパートに戻った時、
部屋のドアの前で胡坐をかいてラッキーストライクを吸いこむ
りっちゃんの姿を見つけてしまった時の私の心はどういう風に表現すればいいんだろう?


律「お、やっと戻ってきたな」


聞けば、ムギちゃんまで一緒らしい。
私はヘロインを打ってもいないのに立ちくらみがして、一瞬倒れそうになった。
それからりっちゃんとムギちゃんは私の部屋に居つくようになった。勿論、拒否権はなし。

りっちゃんは今、警察に追われる身らしい。
寧ろ今まで追われたことないのが不思議なくらいなので驚かない。
ムギちゃんは地元の女の子にはほとほと嫌気が差したという。
私からすればムギちゃんの性癖のほうが、嫌気が差す。

ともかく、私の新生活は一瞬にして悪友たちに侵食されることとなった。



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 02:15:16.27 ID:LAhfm++g0

律「なぁ唯、お前今楽器屋で働いてるんだろ?」

唯「そうだけど?」

律「楽器ってさ、知ってのとおりだと思うけどめっちゃ高く売れるんだよな。
  唯のギターも元は25万もしたし」

ギー太のことだね。
私はギー太についてはクスリ代のために転売してしまうのが心苦しく、
今でも部屋の押入れの奥で眠らせている。
他の皆はとっくに楽器なんて手放してしまっているというのに。
でも……なんか嫌な予感がする。


律「そうか……ギブソンにフェンダー、モノを選べば当分の逃亡資金と酒代には困らないな」

唯「お願いだから、そういうことはやめてよ……」

律「あん?」

律「…………」


嫌な予感は的中してしまった。
りっちゃんはムギちゃんを引き連れ、私が働いている楽器店に押し入った。
幸いなことに強盗は未遂で終わり、2人ともうまいこと逃げおおせたが、犯行の際にりっちゃんが、


律「唯ーッ!! 来てやったぞー!! さっさとこの店で一番高いギター出せ~!」


とか、大声で叫んだものだから始末が悪いよね。
当然のごとく私は楽器店をクビになった。

どうしてなんだろう?
あの悪夢のようなヘロインを断ち切ったのに、何も変わらない。
私はいつまでたっても人生を選ぶことができない。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 02:18:22.43 ID:LAhfm++g0

15 帰郷 by 澪


半年の刑期を終えてシャバに戻ってくると、
相変わらずのメンバーが揃って、酒盛りで私を出迎えてくれた。
やっぱり仲間というのは良いよな。

でも、半年振りに見る仲間の表情はどこか違和感がある。特に唯。
唯は一度この町を離れ、職に就いたものの、辞めてまた戻ってきたらしい。


唯「選ぶ……選んだのに……人生……元通り……」


唯はウーロン茶を啜りながら視点の定まらないうつろな表情でそう呟くのみ。
あれ? 唯はもうヘロインは止めたって聞いたんだけど……。

ちなみに唯がこの町に戻ってきた理由はもう一つあった。
幼馴染の和がオーバードーズで倒れ、入院したのだ。
……って、あの和までヘロインやってたなんて、知らなかったよ。


和「ああ唯……それに皆まで……。うふふ、こうして全員揃うのは高校時代以来ね」


病床に伏せる和には、ヘロイン歴数年の私たちの内の誰よりも、げっそりとして生気がなかった。


唯「和ちゃん……」

和「いいのよ唯、貴方が責任を感じる必要はないわ。これは私が自分で選んだ道ですもの」


もっとも、オーバードーズで仲間が気を失うくらい、今までもよくあったこと。
それでも唯が和の病状を心配している理由は……和がHIVに感染し、既に発症の兆しを見せていたからだ。



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 02:21:49.58 ID:LAhfm++g0

唯「こんな話ってある? 注射針の使いまわしなんて今までに腐るほどやってきた私たちじゃなくて……
  まだ覚えたてのひよっこだった和ちゃんが……」

紬「1回も100回も関係ないわ。当たる時は当たる。妊娠と同じようなものなのね」

梓「真鍋先輩……もしかして死んでしまうんですか? ……私の子供と同じように」

律「ケッ……あのお利口で優等生だった和がなぁ……」


もしかしたら私は、まだ恵まれているほうなのかもしれない。
刑務所帰りの身ながら、少しだけそんなことを思った。



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 02:25:42.81 ID:LAhfm++g0

16 儲け話 by 唯


その危険な儲け話の発端はムギちゃんからであった。
なんでも昔琴吹家と取引をしていたロシアの貿易商が、
物凄い量と質のヘロインを格安値で譲ってくれるらしいと。


紬「あの貿易商も昔はそういう商売はしていなかったんですけど、今は未曾有の不景気ですからね。
  生き残るためなら、どんな黒いことにも手を染める。
  思えば琴吹家はそれが出来なかったからこそ、没落してしまったのかもしれません」

律「ま、なんでもいいけどさ。要はそいつを転売して、一儲けしてやろうって話さ」


いつもそうだ。
悪い企みをもってくるのはいつもこの二人。


澪「でも……ロシア人からそのヘロインを買うお金はどうするのさ」

梓「私も澪先輩も律先輩も……ムギ先輩ですら文無しだというのに」

律「そこはホラ、いるだろう?
  ついこの間までせっせと額に汗して働いて、それなりの貯蓄がある素晴らしき元労働者が!」


りっちゃんはとてもわざとらしく、大げさな声で言った。
私にケンカの腕があれば、そのオデコをかち割ってやったのに。


律「なぁ唯? 悪い話じゃないだろう? いっちょ将来性のある投資だと思って、考えてくれないか?」


何が「考えてくれないか?」だ。力づくでも私から銀行口座の暗証番号を聞きだすつもりのクセに。

結局、私はそのヘロイン転売ビジネスの資本金を出す羽目になった。
それはつまり、この危険なビジネスの片棒を担ぐ一員に、
ほぼ自然と、そして強制的に、なるということ。
優柔不断の澪ちゃんももはや自分の意思すら持たない
壊れた人形になってしまったあずにゃんも、断れるわけがない。

こうして私たちは、ヘロインの買い手であるヤクザとの取引のため、
住み慣れた故郷から都会へと向かう夜行バスに乗った。



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 02:27:38.91 ID:LAhfm++g0

17 祝勝会 by 唯


律「ヒャッハー! カンパーイ!!」

紬「かんぱ~い」

澪「乾杯……」

梓「…………」


りっちゃんがパブ中に響き渡る大声で音頭をとると、各者各様の反応を見せた。

結果から言って、取引は成功し、私たちは大金を得ることが出来た。

夜行バスの車中、実を言うと私と澪ちゃんは売り物だったヘロインに手を出してしまった。
パーキングエリアのトイレの個室でほんの数グラムキメただけだったが、
たぶんムギちゃんとあずにゃんにはバレているだろう。

ともかく予め話を通していた重量より、僅かに少ない量のヘロインにヤクザの幹部は一瞬顔をしかめたものの、
特に問題なく、希望の金額を、今りっちゃんの足元にあるボストンバックに放り込んでくれたのだ。


律「おい唯に澪! せっかくの目出度い席なんだからさ!
  そんなウーロン茶なんかチビチビやってないで酒飲めよ酒!」

澪「うう……そんなこと言われても……」

唯「わかったよ。じゃあ私、カシスオレンジ。澪ちゃんも同じのでいいよね?」

律「よっしゃ! じゃあ今日は特別にこのりっちゃん隊員様が直々にグラスを貰ってきてやろう!」


そう言うと、りっちゃんは一目散にカウンターへ向かっていった。



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 02:29:04.61 ID:LAhfm++g0

澪「それにしてもこんな大金……どうしようか?」

紬「山分けしましょ♪ 五等分してもこれだけあれば、しばらくは遊んで暮らせるわ」

梓「お金があればあずにゃん2号……戻ってきてくれますかね」

唯「…………」


確かに大金は得た。
五等分しても、私が出した資本金より大きい額だ。
でも、カスタネットを叩いても音が鳴らなかったかのような、この空しさはなんだろう?
そんなことを考えていると……


律「おいテメエ! 私の自慢の一張羅が濡れちまったじゃないか! どうしてくれんだ!」


背後からりっちゃんの怒鳴り声が聞こえてくる。
どうやら、両手一杯にジョッキを抱えたりっちゃんが、
店内の中年男性客と肩がぶつかり、酒が跳ねてスーツを濡らしてしまったらしい。
そういえば「ヤクザに小娘と思われてなめられちゃいけない」と、
今回の取引に備えてりっちゃんはスーツを新調していた。
でも、そんなものじゃ、にじみ出る暴力的チンピラの雰囲気は隠せなかった。


男「悪かったよ……気付かなくてさ」

律「気付かなかったじゃねえよ。どう落とし前つけてくれるんだ?」

男「……チッ。ジョッキもロクに持てねえのにパブなんて来るんじゃねえよ」

律「あ?」

男「それ以前にオメエみたいなチビのツルペタ小娘なんか視界に入らねえんだよ!」

澪「ダメだ! 律は体格のことを一番気にしてるのに……!」



86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 02:57:14.90 ID:LAhfm++g0

まずいと感じた澪ちゃんがテーブルから立ち上がった時にはもう遅かった。
顎に中ジョッキを叩き込まれ、血まみれの顔面をおさえて倒れた男の頭を、
りっちゃんはサッカーボールのごとく遠慮なしに蹴り付けている。


澪「やめろ律! 今騒ぎを起こしたら……!」

律「うるせえ! 黙ってろ!」

澪「きゃっ!」


止めようとした澪ちゃんをりっちゃんはあろうことか平手打ちで退けた。
今まで身内に手を上げることなんてなかったのに……。


律「私の邪魔をするからこうなるんだ! わかってるか?
  私の邪魔をするやつはいつでも相手になってやる! 次はお前か!?」

別の客「……(ふるふる)」

律「それなら……お前か!?」

また別の客「……(ふるふる)」


懐からナイフまで取り出して周囲を威嚇するりっちゃんを店中の客が、
檻から逃げ出したライオンを見るかのように、遠巻きに眺めていた。



87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 02:58:06.00 ID:LAhfm++g0

ムギちゃんやあずにゃんは「やれやれ」といった表情で俯き、
目の前で繰り広げられる暴力沙汰に無関心を貫いている。
そして私は――


律「ったく、意気地なしのタマなし男共が! おい、唯!」

唯「…………」

律「聞こえてんだろ! 唯! 煙草もってこい!」

唯「…………」

律「唯!! 耳ついてねえのか!!」


渋々、ラッキーストライクを持っていくと、りっちゃんはゆっくりと火をつけ、煙を吸い込んだ。


律「……なぁ、唯」

唯「…………」

律「お前は私の味方だよなぁ?」

唯「…………」

律「なにせ軽音部のときからずーっと一緒にやってきた一蓮托生の仲だもんなぁ」

唯「…………」

律「仲 間 だよなぁ?」

唯「…………」


そう言って、りっちゃんは吸い込んだ煙草の煙を思い切り私の顔面に吹き付けた。



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:00:53.11 ID:LAhfm++g0

18 CagayakeないGirls by 唯


ちょっとだけ昔のことを思い出した。


唯「もうさ、放課後ティータイム、解散しようか……」

澪「な、何を言い出すんだよ、唯……」

律「そうだぞ! 冗談きついな~」


高校を出て、4年もバンド活動を続けた頃だろうか、
私の突然の提案に、皆は一様に戸惑った表情を浮かべていた。


紬「そうよ唯ちゃん、せっかく皆で頑張ってきたのに……」

梓「私だって……このバンドに賭けていたのに(中退までしてたのに……)」


確かに、放課後ティータイムは高校時代には聴衆にウケた。
学園祭での演奏で喝采を浴びたことも一度や二度ではない。
若い女の子ばかり5人という編成が珍しく、卒業後の活動も出だしは好調だった。
しかし、その後、地道にライヴハウス出演等の活動を重ねてきたが、一向に芽は出ない。
一度だけ自主制作でCDも作ったが、全く売れていない。
最近ではライヴでの動員も頭打ち。



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:04:00.64 ID:LAhfm++g0

唯「みんなも内心は思ってるでしょ? ……私たち、もう限界だって」

澪「……確かに、がむしゃらに活動してきたけど、私たちももう20歳過ぎてるんだ。
  同級生で就職した子は勿論、結婚した子だって……」

律「ちょ! 澪まで弱気になるなよな~!」

紬「最近は創作意欲も沸いてこなくて新曲も出来ませんよね……」

梓「そう言えば澪先輩もめっきりいい歌詞が浮かんでこなくなったって……」

律「確か……に……」

唯「やっぱり……潮時なんだよ」


そう言えば解散の言いだしっぺは私だったんだな。
でも私が感じていたことは皆同じだったようだから、私は皆のためにあえて言いだしっぺになった。


唯「別にさ、メジャーデビューを目指さなくてもいいじゃない。
  皆、これからはそれぞれの人生を生きてさ。
  お仕事とか学校がない日に、スタジオに集まって練習して……
  たまにライヴハウスで演奏して……楽しくやれれば」

澪「確かに……このまま続けていってもあるのは焦りと義務感だけだしな」

律「そしたら私は……大学ってガラでもないし、仕事でも探すしかないな」

紬「私はもう一回大学受験をしてみます」

澪「私もバイトしながら予備校にでも通うよ」

梓「…………(……だから私の最終学歴は中卒だって!!)」

唯「決まりだね。放課後ティータイムの絆は、これからも変わらないよ!!」

澪律紬「うん!!!」

梓「だから私は中(ry」



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:05:56.48 ID:LAhfm++g0

結局、私の言った通り5人の絆は固かった。
もっともそれは全員がケンカ好きのアル中やヘロイン中毒のニートになって、
ぐだぐだとつるみあうという結果になったが。


律「よく考えれば私たちがここまで来れたのも、
  あの1年の春、唯が入部してくれて、軽音部が廃部を免れたおかげだもんな」

澪「そうだね。唯には感謝してるよ」

紬「ありがとう、唯ちゃん♪」

梓「だから私は(ry」


唯がいてくれたから……か。
ありがとう……か。

なんかあの頃のこと、我ながら誰かの人生を映画にしたものを見せられてるみたいだなぁ。



96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:08:34.43 ID:LAhfm++g0

19 Born Slippy by 唯


とある格安のビジネスホテル。
ヤクザとの取引と血塗れの祝勝会を終えた私たちは
ここに宿をとり、ツインのルームに五人で雑魚寝していた。

「あずにゃん2号……」と寝言で遺児の名を呼ぶあずにゃん。
スースーと静かな寝息をたてて落ちついているムギちゃん。
りっちゃんに平手を喰らった頬に湿布を貼って眠る澪ちゃん。
そして稼ぎの詰まったボストンバッグを抱えてベッドを占領しているりっちゃん。

私はなぜか眠りにつくことが出来なかった。
起き上がり、洗面所で顔を洗う。頭がちょっとだけすっきりする。
部屋に戻り、バッグを抱えて爆睡するりっちゃんの姿を見下ろす。
気持ちよさそうに眠っている。それこそちょっとやそっとのことでは起きそうにないくらいに。

バッグに手をかけると、驚くほどあっさりとそれはりっちゃんの手を離れた。
りっちゃんは全く気付くこともなく、空気を抱きしめて寝息を立てている。
ハンガーから上着を取る。
もう一度眠る四人を見渡し、ひとつ息をつく。

すると寝息を立てていたはずの一人と視線が合った。澪ちゃんだ。


澪「(唯……!! だめだ!!)」


澪ちゃんは化けものをみたかのような表情で首を振り、
その深刻すぎる視線で私がこれからしようとしている行動をとがめた。

私はそのまま部屋を出て、フロントを何食わぬ顔で通り過ぎるとホテルを後にした。
現在時刻朝の8時半。
通勤途中のサラリーマンが行き交う通りを、私はボストンバッグを持って歩き始めた。



97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:10:35.55 ID:LAhfm++g0

Drive boy dog boy ♪
Dirty numb angel boy♪
In the doorway boy ♪
She was a lipstick boy ♪
She was a beautiful boy ……♪

いつかクラブで流れていたテクノの曲が頭の中で流れている。

なんで私が仲間を裏切ったかって?
いくつも答えがあるけど、それは全部間違っているかも。
ほんとうのところは私が悪い子だから。

でも、私は変わる。私は変わるんだ。

私が最初に人生を選んだのは高校1年の、あの軽音部に入部した時だった。
あの3年間で私は大きく変わることが出来た。
でも今は、あの時の3年間で背負った重荷が私の行く手を阻んでいる。



99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:13:22.64 ID:LAhfm++g0

りっちゃんは怒り狂うだろけど、そんなのもう知ったこっちゃない。

ムギちゃんだってどうせいつか裏切る。

でも、あずにゃんと澪ちゃんは別だ。
あずにゃんは巻き込まれたんだ。2度も子供を失った。

澪ちゃんは根がいい子だ。
だから私は二人にだけメモを残した。

二人が後日そのメモを頼りに駅前のコインロッカーにたどり着けば、
私が今持っているボストンバッグの中身の何割かがそこにはあるだろう。

どっちにしろ、こんなことはもう終わり。
足を洗って真っ当に生きる。そして今度こそ人生を選ぶんだ。
もう楽しみでしょうがないよね! だってこれを見ている皆と同じ人生だよ?
仕事、家族、高級なステレオ、洗濯機、カスタネット、MP3プレイヤー、
電動こけし、健康、低コレステロール、歯の保険、美容院、
住宅ローン、マイホーム、よそ行きの服、新しいバッグ、健康食品、
サプリメント、スイーツ、隠れ家的なお店、ネイルアート、テレビドラマ、美味しいハーブティー、
死ぬまでの寿命をせっせと勘定して、なんとか生きていくんだ。

唯「ふふふ……♪」

本当、楽しみで仕方ないよね?



101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:16:04.43 ID:LAhfm++g0

19 エピローグ

それから風の噂で色んな話を聞いた。

HIVを発症した和ちゃんはほどなくしてあの世に旅立ったらしい。
余り苦しむこともなかった最後だったらしいのが唯一の救いかな。
そういえば例の「タカシくん」も最期に立ち会ってくれたって。

さわちゃん先生は未だにジャンキー兼売人をやっているらしい。
ただ、とうとう動脈に注射を打つまでになったらしく、右腕を切り落とす羽目になったとか。
あの超絶的なギター捌きがもう見られないのが残念だよね。

憂は結婚して、子供も生まれたって聞いた。
姪っ子の顔、見に行きたいけど、今更どんな顔して実家に帰ればいいのかな。
しかも憂の相手はあの聡君だって言うんだから、なおさら始末が悪いよね!



103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:20:02.01 ID:LAhfm++g0

あずにゃんはその後、本格的に精神を病み、施設に入所してしまったらしい。
だけど施設では何匹もの猫に囲まれ、穏やかに過ごしているとか。
ちなみに私が残したお金であずにゃんは2人の子供のお墓を建てたって聞いた。

ムギちゃんは実家の家業が少しだけ持ち直したらしく、そっちの仕事で忙しいらしい。
ただし最悪の女癖は相変わらずで、その内財産を巡って愛人同士の骨肉の争いが起こることは確実かな。
どっちにしろ、幸せな死に方はしなさそうだよね。

りっちゃんはあの後、ホテルの部屋で暴れているところを現行犯で逮捕。
その後地元での余罪も判明してブタ箱入り。
今は判決を待つ身らしいけど、おそらく懲役10年はくだらないだろうって。
因果応報ってやつだね。

澪ちゃんに関しては、全くその後の話を聞かなかった。
もしかしてオーバドーズで死んじゃったか、またへまでもやらかしてブタ箱に入ってしまったか。
そんな風に考えていたある日、テレビを見て驚いた。
澪ちゃんは今売り出し中のとあるパンクロックバンドのベース兼ボーカルにおさまっていたのだから。
バンド名は『ぴゅあ☆ぴゅあ』、高校時代に廃案になったあの名前だ。
どうもそっちのセンスは相変わらずらしい。

ともかく私は今それなりに充実した暮らしを送っている。
トレインスポッティング(電車オタク)のように挙動不審なヘロイン中毒の時代はもう遠い昔のよう。
こうやって人生を選ぶのは私にとって2回目。
今度こそ上手くいくといいなぁ。

『とれすぽ!』True End




104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:22:54.58 ID:zwqVc2vD0

あれ、終わりか……乙
これから唯と律の壮絶なバトルが始まるのかとばかり思ってたのに



105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:23:57.74 ID:DNnR9xIvO

>>1乙!
めちゃくちゃ面白かった!
今日朝早いのにどうしてくれるんだ



106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:25:04.06 ID:htoiEW6/0

乙でした!起きてて良かった公文式



107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:25:13.89 ID:kKudIOMNO

元ネタは知らないが、良かった…
乙です!





108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:25:39.01 ID:LAhfm++g0

とりあえず終わりです。

いくつかのレスでお察しの通り、映画『トレインスポッティング」のパロディでした。
原作の小説とごっちゃに美味しいところだけ抜いてみました。
原作だと死ぬのは猫じゃなくてマジで赤子だったり、
クラヴで出会った男(女)とはしっぽりセックスしてたりするんですが、その辺は改悪しましたw
とりあえずアンダーワールドはガチ。

以下、これじゃけいおん!キャラがあんまりだという諸氏のために、とってもアレな蛇足。



110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:26:42.75 ID:LAhfm++g0

19.5 Born Slippy Nuxx

Drive boy dog boy ♪
Dirty numb angel boy♪
In the doorway boy♪
She was a lipstick boy ♪
She was a beautiful boy ……♪


どっちにしろ、こんなことはもう終わり。
足を洗って真っ当に生きる。そして今度こそ人生を選ぶんだ。
もう楽しみでしょうがないよね! だってこれを見ている皆と同じ人生だよ?
仕事、家族、高級なステレオ、洗濯機、カスタネット、MP3プレイヤー、
電動こけし、健康、低コレステロール、歯の保険、美容院、
住宅ローン、マイホーム、よそ行きの服、新しいバッグ、健康食品、
サプリメント、スイーツ、隠れ家的なお店、テレビドラマ、美味しいハーブティー、
死ぬまでの寿命をせっせと勘定して、なんとか生きていくんだ。

律『あなたが入部希望の平沢唯さん?』

そうだ。クズの仲間のことなんか全て忘れて。



111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:27:38.78 ID:LAhfm++g0

澪『ありがとう! これから一緒に頑張ろう!』


全て忘れて。


紬『そうだ! せっかくだから入部と同時にギターを始めてみたらどうかしら?』


忘れる……?


梓『新歓ライヴの皆さんの演奏を聞いて感動しました!』


忘れるの……?


澪『みんな唯のことが大好きなんだよ?』


本当に……忘れるの?


唯『これからもずーっとこうしてみんなでバンドできるといいねぇ』


それで本当に……


唯『もうさ、放課後ティータイム、解散しようか……』




本 当 に い い の ! ?




112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:28:58.71 ID:LAhfm++g0

唯「…………」

私は立ち止まってしまった。

どうしてなんだろう。

このまままっすぐに駅に行き、ずーっと北の方へ電車を乗り継ぎ、
バッグの中のお金で小さな部屋を借り、履歴書を買い、身なりを整え、
求人雑誌を買い、誰も自分を知らない土地で新しく生活を始めればいいだけなのに。


唯「……なんで?」


自分の意思とは、別に、私の足はとある方向へ。



115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:35:44.17 ID:LAhfm++g0

20 Don’t Look Back In Anger by 澪


律「うがぁあああああああッ!! 唯のクソ野郎!!
  fuck!! piss!! cunt!!
  あの腐れマ○コが調子に乗りやがってーーーーーーーッ!!!!」

翌朝。ホテルの部屋では案の定、怒り狂って大魔神と化した律が暴れ、
ベッドをただの木くずへと変貌させている最中であった。


紬「唯ちゃんがまさか裏切るなんて……。盲点だったわ……」

梓「ゆ…い…先輩が……うら……ぎった?」


ムギと梓も動揺が隠せない。
唯……なんであの時、私と目があったのに、
起きていた私と目が会ったのに行ってしまったんだ……。
え? 唯についていけばよかったって?
そんな勇気なんて私は元から持ち合わせていないし、何よりも、


律「殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!! 唯は絶対に殺す!!」


目の前で完全にイッちゃってる幼馴染を放っておけない。


澪「律!! やめとけ!! となりの部屋の客に警察に通報されたらまずいだろ!?

律「うるせえ!! このクソビッチが!! テメエも道連れか!?」

澪「ばか! お前、警察に追われてたんだろ? 騒ぎを起こすのはまずいだろ!!」

律「かんけえねえええええええええええ!!!!」

澪「くっ!! ムギ! 梓! 律を押さえるの、手伝ってくれ!」



117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:37:45.96 ID:LAhfm++g0


幸い二日酔いでフラフラだった律はすぐに押さえつけられ、私たちは逃げるように地元に戻った。
落ち着きを取り戻した律は恐喝犯の容疑でどのみち地元には帰れない。
この街の近くでしばらく潜伏し、ほとぼりが冷めたら戻ってくるらしい。


律「唯のヤツ……なんで裏切りやがった!」


そう捨て台詞を吐いた律の顔は心なしか、少しだけ寂しそうだった。

そして数カ月後。
私たちは相変わらず、あのフラットに溜まる日々を続けていた。
ただ前と違うのは、唯がいないと誰もヘロインをやろうとは言い出さないことだった。
職を探すでもなく、音楽を聴くでもなく、女を漁るでもなく、
ただ何をするでもなく一日中ぼーっと過ぎ去った日々に思いをはせながら日が沈むのを待つ毎日。
その内、律が帰ってきてこの無為な毎日の一員となる。
なんと、あの暴力の権化だった律は、不思議と酒も飲まず、誰にもケンカを売ることがなくなっていた。

そんなある日、朝方に私が何気なしにフラットに足を踏み入れると、


律「み、澪!!」

紬「澪ちゃん!!」

梓「み、澪先輩!!」

澪「ど、どうしたんだみんな……?」

律「とにかくこっち来てくれ!」



119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:39:52.60 ID:LAhfm++g0

手を引かれるまま、居間に入る。すると、


澪「――え」


私たちがこれまで幾度となく、ヘロインをキメ、ぶっ倒れていたこの居間に


律「私が使ってた……ヤマハのドラムセット……」

紬「私が手放したはずの……KORG TRITON……」

梓「私が中絶手術費用にするために売り払った……フェンダー・ムスタング……」

澪「私がラリって壊しちゃったはずの……フェンダー・ジャズベース……」


高校時代に戻ったかのような4人の楽器が、堂々と鎮座していたのだ。
そして、私の背後には、


唯「みんな……ただいま」

澪律紬梓「ゆ、唯!!??(ちゃん!?)(先輩!?)」

唯「結局私は……みんなのいない人生を選ぶことなんてできなかったよ」


そう言って、笑う唯の姿があった。



120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:41:24.80 ID:LAhfm++g0

律はあれだけ「殺す」と言っていた唯に殴りかかることを忘れていた。
ムギはあまりの驚きで久しぶりに眉毛が反転していた。
梓もあまりの驚きで語尾が「……にゃあ」になっていた。
そんでもって私は、


澪「唯……どこ行ってたんだよぉ……」


泣いていた。いや、みんな、泣いていた。

あれから唯がぽつぽつと話すことには、
一度は金を持ち逃げし、一人で新たな生活を始めることを考えた。
しかし寸でのところで私たち4人の顔が浮かび、足が止まった。
そして引き返し、気がつくと街の楽器屋の前に立っていたと。


澪「……ってことはもしかして」

唯「うん。皆の楽器、あのお金を使って、買っちゃったんだ」


そう言う唯は抱えていたソフトケースから
あのギブソン・レスポール・スタンダード、ギー太を取り出した。
どうやら唯だけは、楽器を手放さずに大切に保管していたらしい。



122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:42:40.16 ID:LAhfm++g0

唯「裏切っておいて今更だけど……
  自分からバンドを解散させておいて今更だけど……やっぱり私にはこの道しか選べないと思う」

おずおずと涙を浮かべる唯のその言葉に、反論を投げかけられる人間なんて誰もいなかった。


澪「でもさ……あれだけの金、楽器を買ってもまだ余ってるはずだろ?

唯「あ……」

紬「まさかまたヘロインに……」

唯「うん…・・・それはね」


そして唯は、一枚の書類を取り出して見せた。


唯「スタジオ、3週間押さえたんだ。このあたりじゃ有名な、プロも使ってるレコーディングスタジオ」

梓「それって……!」

律「レコーディング……またバンドをやるのか!?」

唯「うん……みんなさえよければ……だけど。放課後ティータイムもう一回……」


何度も言ってるだろう?
その提案を退けるような言葉を言えるような舌、私たちのうち、誰も持ってるわけがないよ。

だいぶ遠回りしたけど、より道もしたけど、

落とし穴にもハマったけど、私たちはまた軽音部の仲間に戻ったんだ。




『とれすぽ!』 Happy End



129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:45:59.71 ID:LAhfm++g0

以上、原作にはなかった改悪はっぴいえんどでしたwww

支援いただいた方ありがとうございました。
「トレインスポッティング」、未見の方はぜひ見てみてください。
UKロックとか好きな人も楽しめますよ。
たとえ何も刺激的なことがなくても、アニメや2ちゃんにうつつを抜かしていられるふつーの生活が愛しくなりますw




124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:43:31.60 ID:htoiEW6/0

再乙ww



125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:44:46.93 ID:93nY6dwE0

ハラショー!
こんなの書かれるともう俺SS書けねぇわw



126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:44:58.09 ID:SA2EZhc/0

トレインスポッティング観ようかな



127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:45:05.27 ID:zwqVc2vD0

乙乙
面白かったよ



128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:45:45.85 ID:DNnR9xIvO

乙!!



130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:46:56.36 ID:kKudIOMNO

良かった…感動した…
本当に乙!



131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:47:09.53 ID:93nY6dwE0

>>1の過去作が是非とも知りたい





132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:52:33.00 ID:LAhfm++g0

あ、ちなみに原作知ってる方のために一応。

キャラの配役は

唯=レントン
澪=スパッド
律=ベグビー
ムギ=シック・ボーイ
梓=なんか子供が死んじゃう女(名前忘れたw)
和=トミー
聡=ダイアン
さわ子=修道院長

でした。

>>131
見ての通り、こういうロック寄りのカルチャーとかに目がない人間なんで、
それっぽいグダグダと長いヤツをいくつか書いてました。
澪がカート・コバーンよろしく自殺しかけるやつとか、HTTをビートルズになぞらえたヤツとか、ムギが軽音楽部を辞める話とか。
たぶん文体ですぐにわかっちゃうと思いますがwwwwww



澪「錆びつくくらいなら燃え尽きちゃった方がいいよね」
澪「放課後ティータイムは解散します」
紬「軽音部を辞めることになりました」




133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 03:57:40.44 ID:yXJV/J6WO

乙!ビートルズの話見てたぜ



140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 04:36:31.55 ID:qhfs21UWO

すげー面白かった!

Her soul slides away
But don't look back in anger
I heard you say

It's not today.



141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 04:44:47.25 ID:gXgo3WBWO

ちなみに、ユアン・マクレガー演じるトレインスポッティングの主人公レントンは、
エウレカセブンの主人公レントンの名前の由来になっている。

映画好きや、サブカル好きであれば知っている、そして影響を受けている映画。
日本でも90年代後半から上映とともに人気で、エウレカ京田監督辺りの年代は、
青春時代に観て影響を受けているんだろうね。

小説・映画共に面白い。
観賞後は、何か些細な悪い事をしたくなる衝動と、
健全に生きられているという爽快感を味わえるよ。



142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 04:58:03.17 ID:qhfs21UWO

全く関係ないがエウレカのアドロック・サーストンてのは、サーストン・ムーアから名付けたのかね?
オルタナ・グランジ周辺と意外と関わりがあるのな



143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 05:03:30.20 ID:NGKXLyd5O

アドロックってのもビースティーボーイズが元ネタだね。
キャラ名といい、各話のタイトルといい、エウレカは90年代ロックへのオマージュだらけ。
そのきわめつけが音楽にスーパーカーだもんな。

スレチだけどトレインスポッティングもそんな90年代の象徴。



144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 05:03:45.66 ID:67ED5l42O

ビートルズの話は見てた
なるほど、天才はここにいたんだな
激しく乙でした



146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 05:29:32.84 ID:qhfs21UWO

>>143
へー、ビースティボーイズだったのか
聴いたことないが興味持った
スーパーカーも、アーリー90'sの転生みたいなバンドだったしな

ともかく、このSS読んでたら映画やら音楽フラッシュバックしまくったわ
ラストで頭の中でドンルク流れてきて泣きそうになった



148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 08:25:52.99 ID:r+q5C2Yp0

まだあった!!!!いちおつ!
まさかVIPでけいおんでトレインスポッティングが来るとはwめちゃくちゃおもしろかった
Drive boy dog boy Dirty numb angel boy…が完璧に再生されたw

UKいいよなUK



149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 09:09:26.31 ID:erQDOpYGO

激しく乙
拍手を



150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/23(水) 09:28:23.17 ID:pJTPWWX20

トレスポ大好きだから嬉しい






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唯「とれすぽ!」#後編

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