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梓「ジョニーが凱旋するとき」#第10話「前進!」 【戦争】


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梓「ジョニーが凱旋するとき」#index




153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 21:56:02.86 ID:W/Ns2wUZ0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第10話「前進!」をお送りします”





154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 21:57:04.76 ID:W/Ns2wUZ0


窓からの秋風が私たちの頬を柔らかに撫でている。


嗚咽をこらえていた唯先輩が、両前腕を律先輩の肩に押し当てて、
ゆっくりと押しはがす。そして話し始める。

「ごめんね…。私だって、分かってなかったわけじゃないよ…
 前と同じようになんか生きていけないって。
 でもね、私は諦めたくないんだよ」

「唯ぃ、気持ちはわかるけどさ、現実から逃げるなよぉ!
 私たちだって、前に進もうとしてるんだぞ!」

律先輩が今にも泣き出しそうな顔で叱咤する。



155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 22:01:49.20 ID:W/Ns2wUZ0


 「…違うよ!現実から逃げてるのは、みんなだよっ!」

唯先輩が、窓ガラスが振動するかと思うほどの気迫で叫ぶ。
私は、思わず背筋を正して、唯先輩に向き直る。唯先輩が問う。

 「みんな、負傷してから、どのくらい楽器をさわったの?
  本当にもうダメだっていうくらい試したの?」

律先輩も、澪先輩も、ムギ先輩も押し黙って、
唯先輩からわずかに視線を逸らす。
その一人一人の顔を見返しながら唯先輩がたたみ掛ける。

 「………みんな、全然やってないんでしょ!
  なんだかんだ理由付けて楽器にさわれなかったんでしょ!
  やりもしないでできないなんて、絶対おかしいよ!卑怯だよ!」


澪先輩が憤懣やるかたない表情でいきり立って反論する。

 「でも、仮にできてもバンドやってる場合じゃないだろ!?
  私だって、目も見えないから勉強もままならないんだぞ。
  このまま高校にいられるかどうかもわからないんだ。
  生きていくために必要なことを優先しなきゃダメだろ!」

若干、唯先輩のいる方向とは外れたところを向いているが、
そんな無粋なことは誰も言わない。



156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 22:03:31.38 ID:W/Ns2wUZ0


 「…そんなの、詭弁だよっ!」

唯先輩が斬って捨てると、律先輩が努めて感情を抑えてさらに問う。

 「バッサリだ、な。唯、お前らしいよ。
  でも、どこが詭弁なんだよ。正論だろ?
  唯みたいな甘い考えで生きていけるのか?」

 「確かに、これから生きていくのはキツいと思うよ。

  でも、自分たちが本当にやりたいことをすぐ諦めちゃう人間が、
  キツいことやツラいことを乗り越えられるとは私には思えないよ!

  私の考えが甘いっていうなら、りっちゃんの考えも甘甘だよ!
  どうして、バンドも生活も、両方頑張っちゃいけないの?」

唯先輩が、両腕を振りながらさらに反論すると、
余った制服の袖が、勢いよくはためく。



157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 22:15:51.48 ID:W/Ns2wUZ0

ムギ先輩が、穏やかに諭す。

 「唯ちゃん…、でもそれは茨の道よ。
  失礼かもしれないけど、普通に高校の勉強と両立するのだって、
  唯ちゃんは大変だったじゃない」

 「もう一度バンドやるって目標があれば、きっと頑張れるよ。
  両方は確かに大変だと思うけど、少なくとも、バンドをやめることは、
  これからの人生をより楽しくすることなんかにならないよ!」

唯先輩は、勉強の指摘をされて、
若干決まりの悪そうなはにかみを浮かべたが、
表情を正すと、私たち一人一人の顔を覗き込んで説き伏せるように言う。



159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 22:22:05.98 ID:W/Ns2wUZ0


 「…憂には、まだ会ってないんですよね?」

 「うん。さっき着いたばっかりだし。
  …ううん、あずにゃんごめん、ウソついちゃった。
  会おうと思えば真っ先に会えたのに、会わなかったんだよ」

 「じゃあ、憂のこと、どう思ってるんですか?どうしてあげたいんですか?」

私が唯先輩に質問すると、唯先輩の表情が陰る。
心が痛んだが、唯先輩の意志を確かめたかった。

 「…私も、憂に会うの、実は怖かったんだよ。
  憂はすっごく優しいから、あの顔を見たら、また甘えちゃうんじゃないか。
  ホントに一生、その優しさに寄りかかっちゃうんじゃないかって。

  でも、確かに、憂にはこれまで以上に迷惑かけるかもしれないけど、
  それ以上に憂に喜びをあげられるようになりたいんだよ。
  だって、私がケガしただけでも憂は悲しむのに、
  ケガのせいで諦めたら、憂はきっともっと悲しむよ…っ」

唯先輩が再び嗚咽する。全員が沈黙する。



160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 22:26:00.66 ID:W/Ns2wUZ0


清秋の青空から、うろこ雲の薄衣を通して、暖かな日差しが検品室の窓に降り注ぐ。


唯先輩が、一語一語、言葉を絞り出す。

 「私だって怖いんだよ。おっかないんだよ。不安なんだよ。
  これからどうやって生きていけばいいのかなって。

  でも、りっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃん、あずにゃん…
  みんな、心の底ではもう一度、何とかしてバンドやりたい、
  一緒にいたいと思ってるはずなのに、なんでウソついちゃうの…?

  現実から逃げてるのは、自分たちの本心から目を背けてるのは、みんなだよぅ…っ」


気が付けば、他の先輩方も、そして私自身も、必死に嗚咽を堪えている。



161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 22:29:31.60 ID:W/Ns2wUZ0


そしてどのくらい時間が経ったか。
ものの数十秒だったかもしれない。数十分だったかもしれない。

不意に、静寂が破られる。

背後で大きな水音がした。トンちゃんだ。
そういえば、今日は餌の大豆粕をあげていなかった。
我に返って席を立とうとすると、俯いていた律先輩がにわかに声を上げる。

「……夢はでっかく武道館、か。
 ははは、そうだな。そういやそうだったな。
 すっかり忘れてた!はは、はははは!そうだろみんな!」

律先輩が椅子の背もたれに目一杯背中を預けて哄笑する。
私は一瞬、気でも触れたのかと、不安になる。

「ごめん!澪!ムギ!梓!やっぱ放課後ティータイム解散取りやめ!
 解散とかありえないわ!解散の言い出しっぺが私だから、取りやめも私でいいだろ?」

「え?りっちゃん…それ…って…」

唯先輩が、状況を把握しきれず、目を真っ赤にしたまま問う。
それは、私も、澪先輩も、ムギ先輩も同じ気持ちだっただろう。



163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 22:34:57.53 ID:W/Ns2wUZ0


律先輩が泣き笑いしながら答える。

 「やろう。バンド。できるかわかんないけど、やれるだけやろう。
  少なくとも、今の私たちからそれを取ったら、何も残らないよ!
  トンちゃんの世話を梓一人に押しつけるわけにもいかないし!」

ようやく文脈を把握した私と澪先輩とムギ先輩は、
当惑と喜びの混じった表情を浮かべるが、
澪先輩は、私とムギ先輩の表情がわからないせいか、いち早くこう言った。

 「そうだな…。もちろん不安はあるよ。すごく大きな不安が。
  でも、死んだら殺すってさわ子先生にも言われたのに、
  手足や目なんかと一緒に希望まで失ってたら、何回殺されるかわかんないしな!」

すると、固まっていたムギ先輩が、満面の笑みを浮かべて言う。

 「そうね。このまま終わるのは嫌だもの。
  私も、やっぱりみんなと一緒に活動したい!みんなも一緒でしょ?
  仮にこれで出遅れても、受験で浪人したと思えば、何てことないわ!」

 「あずにゃんは!あずにゃんはどうなの!?ダメ?」

唯先輩に突然話を振られた私は、とっさに返す。

 「ふざけないでください!先輩方と一緒にバンドしたいに決まってるじゃないですか!」

 (あ、言っちゃった…)

言ってから、赤くなった顔をさらにこれ以上ないほど赤面させる。



164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 22:37:18.38 ID:W/Ns2wUZ0


 「…決まりだな。放課後ティータイム再結成!」

律先輩が全員の顔を眺め回しながら言うと、澪先輩がたしなめる。

 「はは、まだ正式に解散もしてないんだから再結成じゃないだろ」

 「せっかくだから、お茶とお菓子でお祝いしたいくらいよね」

ムギ先輩がそう言うと、唯先輩が手を打つ代わりに前腕を打って言う。

 「あ!番茶と砂糖がちょっとだけポケットにあるよ。
  なんか、帰りのトラックに乗る前、慰労品とか言ってもらったよ」

 「じゃあ、さっそくお茶にしますか?」

そう言って、私が席を立ってお茶の準備をしようとすると、
ムギ先輩が目を輝かせて笑っている。

 「フフフ、梓ちゃん!ようやくティータイムの素晴らしさを実感してくれたわね?」

 「ち、違います!今日は新しい節目だからです。
  あ、そうだ!納期!今日の検品をちゃんと終わらせましょう!
  納期に遅れたら大変です!ティータイムはそれからです!」

 「え~、あずにゃん厳しいよ~」

そう言って、私は芋のツルが入っていたアルマイト食器を片づけ、樹脂製品を机上に並べる。



165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 22:39:17.22 ID:W/Ns2wUZ0


唯先輩が加わったおかげだったのか、検品は日没前に終わった。

その後、夕食の時間が近かったけれど、
私たちは久しぶりに全員揃って、ティータイムを楽しんだ。

砂糖と、化学実験室から拝借したアルコールランプと重曹で、
私は先輩方と一緒にカルメ焼きを作って、そして番茶を飲んだ。


ちょっと焦がしてしまって苦かったけど、それ以上に、甘く感じた。

                            [第10話 終]




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[ 2011/08/15 01:30 ] 戦争 | | CM(1)

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タイトル:
NO:5728 [ 2012/03/03 07:43 ] [ 編集 ]

唯△

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