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梓「ジョニーが凱旋するとき」#第14話「帰還!」 【戦争】


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梓「ジョニーが凱旋するとき」#index




239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 17:56:18.50 ID:ma4sc4GF0


“ΝНΚアーカイブス 戦争特集アニメ「幻の放課後」

 (中略)

 今回は、前回に引き続き、第14話「帰還!」をお送りします”





240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 18:01:17.29 ID:ma4sc4GF0


こうして、翌日から私たち軽音部の活動、もとい“懲罰”が始まった。
ひとしきり練習をしたあと、私はやかんに汲んだ水道水を、湯飲みに注ぐ。

 「みなさん、お疲れさまです。少し休憩しましょう」

 「あー…ドラム死ねる……関節が脱臼する…」

律先輩が左の義手義足を外して放り投げ椅子の背もたれに身を預けると、澪先輩がたしなめる。

 「律、ここで死ねるなら本望じゃないか。
  だいたい、律のドラムは走りがちなんだから、今くらいでちょうどいいんだ。
  私なんか何も見えないんだからな。曲も歌詞もとにかく聞いて覚えるしかないんだぞ?」

ムギ先輩が両手を合わせて目を輝かせると、澪先輩が笑って受け流す。

 「でも盲目のベーシストなんて、現代の検校ね!琵琶法師みたいでかっこいいわ!」

 「はは、ムギ、そんなおだてても何も出ないぞ?」

律先輩がさらにぼやくが、ムギ先輩や澪先輩のあしらい方も大したものだ。

 「あーあ、せめてヒジとヒザが残ってればなあ。
  動作大きくしないといけないし力が入らないし…ムギ、片ヒジくれよ~」

 「ごめんなさいりっちゃん。さすがにヒジはあげられないわ。
  ヒザが残ってればあげてもよかったんだけど」

 「じゃあ澪!片目と片脚交換してくれ!」

 「なかなか魅力的な提案だな…って、そりゃ無理だろバカ律!」



241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 18:03:51.69 ID:ma4sc4GF0


もはや私が突っこめる内容の会話ではないのだけれど、
もう一人、この会話に入ってこれない人物がいた。

 「………」

唯先輩が珍しく無言だ。無理もない。両手に義手をつけてはいるものの、
ピックの固定はともかく、コードの押さえようがない。
意気込んではみたものの、演奏の体を為さない。
思った以上に状況が厳しいことを実感し、沈んでいるのだろう。

 「唯先輩、大丈夫ですか?
  まだ練習は始まったばかりですけど、なんとかなりそうですか?」

 「……え?うん!なんとかなるよ!なんとかするよ!私とギー太の仲だもん!」

唯先輩はこういう時わかりやすい。残念ながらとても不自然だ。

そして、そんな唯先輩の様子を注意深く見ていた人が私以外にもう一人いた。



242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 18:06:37.25 ID:ma4sc4GF0


その日、紬は斎藤にあらかじめ確かめて家族の在宅状況を調べ、外泊許可を取る。

夜、紬は、自宅屋敷内にある父の書斎で、父と対峙していた。

 「……紬か。“死の商人”に何の用だ?」

机に向かった父は、振り返りもせずに言う。
紬は、その背中に威圧感を覚えながらも声を張る。

 「お父様、私に力を貸してください。友人を、軽音部を救いたいんです!」

 「勝手なことを。私を、いや、琴吹の血を拒んだのは紬、お前だろう」

 「…お願いします!この通りです!」

紬は、車いすから崩れ落ちるようにして地に伏し、父に土下座する。



243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 18:07:46.07 ID:ma4sc4GF0


紬の父は、その物音に一瞬驚くが、手を貸すどころか振り返ることもなく、冷然と言う。

 「恥ずかしくないのか、お前は。自らが口汚く非難した相手に屈するなど」

 「私は、私が正しいと信じることをしているだけです。
  恥ずかしいとか屈するとか、それは私個人の些末な問題です。
  私個人のことよりも、友のことを優先したいのです!助けたいのです!」

紬は、地に伏した姿勢のまま、自らの意志で決然と反論を続ける。

 「だから、私はもう、お父様から、琴吹の血から逃げません。
  お父様も私から逃げないでください。私がお父様を、“死の商人”を動かしてみせます!」

父と娘の間に、鉛のような沈黙が流れた。

そして、父は娘に振り返る。

 「…大義のための礎となる、か。話を聞かせてもらおう。琴吹、紬よ」



244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 18:09:58.05 ID:ma4sc4GF0


───翌々日


 「ねえ。せっかく活動再開したし、久しぶりに楽器屋さん行かない?」

珍しくムギ先輩が音頭を取って言い出す。
みんな、いぶかしい顔をしている。唯先輩と私は当然の疑問を投げかける。

 「え?でもあのお店、出征前からもうずいぶん閉まってるよね?」

 「楽器も品薄でしたし、たしか、店員さんも徴兵されて…」



 「…うふふ、あのお店、うちの系列だもの。特別に開けてもらったの!」



245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 18:32:10.22 ID:ma4sc4GF0


───商店街

物資不足の中、売る物も少ない商店街は、人影もまたまばらだった。
米穀店の周囲にのみ、配給の穀類を求める人の列が連なっている。

楽器店に着くが、正面のシャッターは下りたままだ。

 「こっちよ、みんな。やはり一般向けの営業は難しいみたいで…」

ムギ先輩が裏手の通用口に案内する。

店内に入ると、やはりがらんどうだ。楽器はほとんどない。
それでも、久しぶりに入る楽器店は、懐かしい香りがした。
相当な老境とおぼしき白髪の店員が一人、黙ってレジに座っている。

 「おい澪、レフティは結構残ってるぞ」

 「そうなのか?どれどれ…」

私が弦などを手にとって品定めしながら、律先輩、澪先輩の会話を耳にしていると、
ムギ先輩と唯先輩が、老店員とともに奥の事務室に入っていくのが見えた。



247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 18:37:40.20 ID:ma4sc4GF0


 「…拝見するとなかなか厳しいですな。しかし、やりましょう。
  そのためにお呼びいただいたのですからな」

店員が、唯の両手の義手とギー太を交互に見て、額にしわを寄せながら言う。

 「ありがとうございます。何とお礼を申しあげたらいいのか…」

紬が直角に頭を下げる。車いすから落ちんばかりである。
老店員は笑って対する。

 「紬お嬢様からそのようなお言葉、この老骨にはもったいない」

 「…え?ムギちゃん、どゆこと?」

やはり状況を理解しきれていない唯が紬に問う。
紬は、唯の両前腕に手を添えて応じる。

 「唯ちゃん、残念だけれど、このままじゃムリよ。少なくとも、発表には間に合わないわ…。
  だから、少しだけ、お父様の力を借りることにしたの!」



248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 18:40:20.58 ID:ma4sc4GF0


───夕方

店舗事務室の中には、軽音部員と老店員がいる。

改造されたギー太には、大小様々な鍵盤が取り付けられ大正琴の亜種のようになり、
義手にも様々な電子部品が付け加えられている。
老店員が唯に手ほどきする。

 「コードはそれぞれの鍵盤と、義手のここを合わせて…
  そうそう…で、ここで腕を内側にしぼると…そして…」

 「…すごいね!おじさんどうもありがとう!
  なんだか元の手より上手く弾けそうだよ!
  そうだ!どうせなら手を動かさないでも音が出るようにすればいいよ!」

唯が驚嘆して言いたい放題言っていると、澪が深い溜め息をつきながらぼやく。

 「唯、それならCDでも何でも流しておけばいいだろ。演奏にならないじゃないか…」

 「そうだよね、ごめん!えへへ…」

唯が苦笑いすると、老店員も、軽音部員もみな失笑する。


琴吹財閥が戦後、軍事技術を民生用に転換しさらに事業を拡大するのだが、それはまた、別の話である。



249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 18:45:21.04 ID:ma4sc4GF0


こうして、ようやく練習も軌道に乗りはじめた。

なにしろ“懲罰”なので、手を抜くわけにはいかない。
もちろん、今の私たちには手を抜くなどという考えは微塵もないけれど。

そういえば、三年生が帰還してくるということだったのに、
いつになったら帰ってくるのだろう?
このままでは決起大会兼慰問大会に間に合わない。

そんなふうに気を揉みながら、本番まであと一週間を切った。


練習も最後の追い込み。
でも、“腹が減っては戦はできぬ”なんて、昔の人はうまい言葉を考えたものだ。

唯先輩が昼食のトウモロコシを両腕に挟み、糸巻きのように器用に回転させて食べながら、

 「だいぶサマになってきたよね!」

と言うと、同じくトウモロコシをかじっていた澪先輩が力無くつぶやく。

 「ああ。でも練習するとお腹が空くんだよな…」

 「そうだよ!ボーカルは声出すから余計にお腹が空くんだよ!
  あずにゃん、だからそのトウモロコシちょうだい?」

唯先輩がそう言って腕を伸ばしてくる私のお皿から、私は素早くトウモロコシを取り上げる。

 「ダメです!これは私のです!」



250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 18:49:25.09 ID:ma4sc4GF0


 「…そうよね。お茶やお菓子どころかトウモロコシも満足にないのよね。
  久々に帰ってきたのに、寂しいわぁ」

すると突然、聞き慣れた声とともに懲罰房のドアが開く。
澪先輩と唯先輩が驚きの声を上げる。

 「その声は…」

 「さわちゃん!?久しぶり!いま帰ってきたの?」

 「ええ、そうよ。さっき帰ってきたばかり。3年生は講堂で帰還後の手続きをしているところ。
  こうして見ると、制服も…意外といいわね」

さわ子先生は、左目に眼帯をしている。どうやら一時的なものではなさそうだ。

律先輩は婉曲なのかよくわからない表現で冷やかすが、
ムギ先輩が遠慮がちに確かめる。

 「おお、その格好、まさに鬼軍曹!」

 「先生、その目はやっぱり…」

 「ちょっとね。あなたたちに比べれば大したことないわ。
  クラスのカワイイ教え子たちより軽音部をひいきするつもりはないけれど、
  でも、よりによってあなたたちが揃いも揃って負傷するなんて…」



251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 19:01:51.63 ID:ma4sc4GF0


さわ子先生が、声のトーンを落として言う。

特別に目を掛けていた軽音部員ばかり負傷しては、
自責の念に駆られる心境になるのも無理はない。
すると、唯先輩がさわ子先生を励ますように嬉々として言う。

 「でも、結局病室のメンバーが私たちだけだったってことは、
  3年2組のみんなは最後まで無事だったんでしょ?
  さわちゃんは胸を張るべきだよ!名指揮官だよ!」


 「そうだよさわちゃん、シケた顔してるとさらに男運がなくなっちゃうぜ!」

 「ぁあ゛!?なんですって!?」

律先輩のセリフに一転して憤怒の相になり、しかし口角に笑みを残したさわ子先生は、
律先輩のこめかみを両拳で挟んでぐりぐりと締め上げる。

そして、苦悶の声を上げながらも顔は笑っている律先輩。
ムギ先輩も、その光景を微笑ましく眺めている。

 「痛い痛いいだいい゛た゛い゛!助かった命をこんな形で失うとは~!」

 「うふふ、ようやくいつもの先生らしい表情が見られました~」



252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 19:05:44.23 ID:ma4sc4GF0


その光景を想像して笑っていたのであろう澪先輩が、さわ子先生に話し掛ける。

 「…先生、せっかくだから、私たちの演奏、久しぶりに少し聞いていきませんか?」

 「そろそろクラスのみんなを迎えに行かないといけないんだけど、
  …そうね。はるばる帰ってきたんだものね」

"When Johnny Comes Marching Home"のメインボーカルは唯先輩
"Johnny I Hardly Knew Ye"のメインボーカルは澪先輩。
さわ子先生は感慨深げな面持ちで、耳を傾けている。

先生自身、自分が戦地から帰れるとは思っていなかったのだろう。
ましてや、傷ついた教え子たちの演奏が再び聴けるなどとは。

    "…I'm happy for to see ye home, hurroo, hurroo
       I'm happy for to see ye home, hurroo, hurroo
       I'm happy for to see ye home
       All from the island of Sulloon
       So low in flesh, so high in bone
       Oh Johnny I hardly knew ye.…"

…あなたがたと故郷で会えて私は幸せです。
はるかな戦地から還ってきてくれて。
生きて還る者は少なく、骨となる者は多いのだから。

その一節を聞きながら、先輩方とさわ子先生の姿を見て、私もまた、演奏しつつ感慨にふけった。

                                          [第14話 終]




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