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唯「ギコギコギコギコギコ」#前編 【ホラー】


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唯「ギコギコギコギコギコ」#前編
唯「ギコギコギコギコギコ」#中編
唯「ギコギコギコギコギコ」#後編



管理人:グロ描写を含んでいます。閲覧にご注意下さい。




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 22:36:06.96 ID:TpuSMYbF0

憂「あ、みなさんいらっしゃい」

律「おう、憂ちゃん。唯ー来たよー」

澪「おじゃまします」

紬「お邪魔します」


高校生活最後のクリスマス。
この日は二年前同様、私の家でパーティーをする事になっていた。
発案したのは憂だった。

8月の合宿以来、プール底の虫の死骸の様に沈み込んでいた私達軽音部に、
憂は少しでも活気を取り戻そうとしくれた。恐らく表向きはそういう事だろう。

りっちゃんの明るいんだか気が抜けてるんだかよくわからない声を聞いた私は、
部屋着のままのそのそと部屋から這い出して、みんなを出迎えた。


唯「おー、りっちゃんに澪ちゃんにムギちゃん。みなさんお揃いで」



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 22:40:57.27 ID:TpuSMYbF0

憂が食卓に料理を運び終えると、
私達はムギちゃん持参のシャンメリーが入ったグラスを持った。


憂「えっと…じゃあ乾杯しましょうか」

律「…」

澪「…」

紬「…」

憂「あ、あの…乾杯を…」

律「…え?あ、ああ!ゴメンゴメン!そんじゃかんぱーい!」


りっちゃんは憂に乾杯を促されると、半ばやっつけ気味に音頭をとった。
安物のグラスが鳴らす、カンという真の抜けた音と共に、炭酸の泡が一際激しく立ち上っていった。



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 22:45:52.79 ID:TpuSMYbF0

最近の軽音部は、教室にいても、音楽室にいても、ずっとこの調子だった。

何かの必要に迫られない限りは、誰かが率先して話を振る事もなく、
全員があの日の事故(正確には私達が事件にしたのだが)について思いを巡らせ、
鬱屈としたまま十代の貴重な時間を浪費するのだった。


憂「えと…今日ははりきってお料理作りましたから…みなさんいっぱい食べてくださいね」

唯「ありがとう憂!さ、みんな食べよ食べよー」


このいつ浮かび上がるとも知れない、重くのしかかる空気を生み出した全ての元凶は私だった。

私は憂の好意(憂を信じるという前提があればの話だが)、
それとその憂の提案に乗ってくれたみんなの好意を無下にしないために、
既に枯渇しきっていた元気を振り絞った。

…というフリをした。
それが事前にりっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃんと決めた今日の私の役割だった。

フリと言えど、気持ちが沈んでいるのは事実だったので、
明るく振る舞うのには雑巾が擦り切れるような痛みを伴ったが、
あずにゃんのそれに比べれば、無責任に耐え難い等と甘えた事は言えなかった。

ノコギリがその刃を擦り減らしていく音は、私の頭蓋の中を、
出口を失った煙の様に右往左往していた。


あの日から。ずっと。鳴り止む事なく。



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 22:50:29.03 ID:TpuSMYbF0

みんなは憂の手料理を口にしても、特に何か感想を言う事はなかった。
ただテーブルに置かれた牛なのか豚なのか鳥なのかわからない肉を含んで、
奥歯で噛んだ後、胃に流し込むだけ。

これまで、笑い、泣き、喋り、そして歌うためについていた私達の口は、
その単純作業を実行するだけの器官に成り下がっていた。

今自分達の口に入っている料理がなんなのか、
これはイタリアンなのか中華なのか、和食か洋食か、
肉なのか野菜なのか…全てが興味の対象外だった。

砂を食べてるような…と表現される事もあるが、
今の私達には極上のドルチェだろうが校庭の砂だろうが、
口に入った時点で何の違いもなかっだろう。

ただ、口に入っているもの…それ以上でもそれ以下でもない。


澪「…」


澪ちゃんがその少し吊り上がった目で私を見た。
かつて凛々しく光っていたその目は、
今ではクマのせいか窪んで見え、力強さなどもはや見る影もなかった。

その澪ちゃんの視線の意図する所が、私にはすぐにわかった。
今日、みんながここにいるのは、クリスマスパーティーをするため。

しかし私達四人の本当の目的は、大昔の宗教者を祝うとかそんなきらびやかなものではなく、
この場を提供してくれた憂を探って、今後私達がどう動くべきなのかを判断するという
酷く保身に寄ったものだった。



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 22:53:53.42 ID:TpuSMYbF0

律「あ、テレビつけようぜテレビ」


まずりっちゃんが動いた。
テレビをつけ、憂の目をそちらに向けるつもりだろう。

私達は事前に、憂の前で口にするべきでない内容に関しては、
その場でケータイのメールを以って伝え合うという旨を決めていた。
憂の目がテレビに向いていれば、私達がメールを打つ隙も出来る…そんな所だろう。
澪ちゃんとムギちゃんが何も言わなかった事から、りっちゃんのこの提案は是とされたのだろう。

事実、憂は液晶テレビに映る、若手芸人を寄せ集めただけの特番をじっと眺めている。
恐らく私達の空気に耐えかね、テレビのほうに話題を向けるため、
必死にその内容を頭に入れているのだろう。


憂「あはは…おかしいですね…」


旬の過ぎた芸人のキャラ芸に愛想笑いをして、
食卓の空気をなんとかもたせようとしている憂をちらちら見ながら、私は3人にメールを一斉送信した。


唯[みんなはどう思う?憂はやっぱり知ってるのかな?]



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 22:56:25.84 ID:TpuSMYbF0

勿論、みんなはケータイのバイブ機能もオフにしていて、憂に気付かれないよう配慮していた。
あの日以来、私達の行動は、澪ちゃんとムギちゃんの二人が
その聡明な頭をきりきりさせるほど使ったその上で、意思決定されていた。
そこには寸分の油断も隙もなかった。これまではそれで乗り切ってきた。これからもそうであるはずだ。

三人とも私のメールに気づき、こたつの下でケータイをいじり始めた。
私達はテレビの特番を見る振りをしながら、その意識は指先のケータイと、憂の挙動に向けられていた。

そして私のケータイには新着メールが3件。


律[まだわかんない。気づいてないのかな]

澪[梓の話題出してみようか]

紬[梓ちゃんの話を出して、様子を伺いましょう]


私達のブレインである澪ちゃんとムギちゃんが全く同じ提案をしている。
決まりだ。



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 22:58:19.08 ID:TpuSMYbF0

唯[オッケーだよ]

律[それでいこう]

澪[誰が聞く?]

紬[私が切り出してみる]


不自然にならないよう、私達はあえてムギちゃんを見る事もなく、
そっと携帯を閉じて、今度はテレビと憂に意識を向けた。

テレビが発泡酒のCMを流しはじめたあたりで、ムギちゃんが口を開いた。


紬「梓ちゃんも、一緒にパーティーできれば良かったのにね…」



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 23:02:22.13 ID:TpuSMYbF0

私達全員の意識が、一斉に憂へと向けられた。
意識は憂に向いているが、視線は言葉を発したムギちゃんに向けられていた。
私達はつとめて自然に振舞おうとした。
憂に何かを気取られてはならない。
嘘の上塗りを繰り返してきた今の私達には、そういった演技をこなす事が身についていた。


憂「…そうですね。でも…大丈夫です梓ちゃんも一緒ですから」


私は憂の言葉の意味を考えた。
単語のひとつひとつ、テンポ、呼吸、行間、
全てをなるべくかみ砕き、言外の意を汲み取るべく思考を巡らせた。
が、私には発せられた言葉以上のものは理解できなかった。

しかしそこに何かが潜んでいる気配はあった。

こういう時、私とりっちゃんは口をつぐみ、澪ちゃんとムギちゃんに二の手を任せる事にしていた。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 23:08:04.77 ID:TpuSMYbF0

澪「一緒にいるってのはどういう事?」


澪ちゃんが出した答えは、素直に意図を尋ねる…だった。
そうだ。今は憂の様子を見る事が目的だ。
まだ下手に勘繰る様な段階ではないのだ。

澪ちゃんのほうに顔を向けた憂は一言、


憂「いえ…」


と呟くと、再びCMが流れるテレビへと視線を戻した。
ケータイ会社のCMは、新しい料金プランの告知をしていた。

こう言われてしまっては、食い下がるのも不自然だ。
澪ちゃんはそのCMが流れている10秒程の間、何か考えているようだった。

今、澪ちゃんの頭の中では、憂の言葉、態度、
あらゆる要素が、物凄い速さで分析されているのだろう。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 23:12:00.33 ID:TpuSMYbF0

憂は、澪ちゃんとこの空気に圧されて黙り込んでいるのか、
それとも何か腹に抱えて口を閉ざしたのか、私にはわからなかった。

私にはさっきのCMの様に新しいプランなんて浮かばなかったので、
澪ちゃん達に助けを求めようと、こたつの中のケータイをちらっと見た。
こたつの暗がりの中でぼんやりと光るケータイのディスプレイには
「新着メール2件」の表示。


澪[やっぱり憂ちゃんは何か知ってるよ。
  どこまで知ってるかはわからないけど、私達を疑ってるのかも]

紬[私もそう思う。もう少し梓ちゃんの話題出してみる?]

私がそこまで読み終えたところで、さらに新着メールが来た。

澪[うん。ムギ、お願い]



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 23:15:09.42 ID:TpuSMYbF0

りっちゃんは頬杖をついて、テレビに目を向けたままだった。
どうやら早くも自分の思考力に見切りをつけ、この場は静観すると決め込んだようだ。
私も情けない気持ちを押し殺しながら、この先は澪ちゃんとムギちゃんに任せる事にした。


紬「梓ちゃん、帰ってくるのかな?」


ムギちゃんの問い掛けに誰も答えない事を確認した憂は、ニッコリと笑いながら答えた。


憂「大丈夫ですよ。あんまり心配しないほうがいいと思いますよ。
  みなさんのほうがおかしくなっちゃいますし…。お姉ちゃん、お肉もういらないの?」


突然話を振られた私は、一瞬言葉に詰まったが、


唯「あ、うん。じゃあ食べるね。みんなはもういいの?」


と何とか答え、会話の体裁は保った。

みんなはいらない、と答えたので、私は皿にあった料理を味わう事もなく口に流し込んだ。
結局、憂の料理は私達によって全て平らげられた。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 23:20:00.52 ID:TpuSMYbF0

その後も、ムギちゃんと澪ちゃんが何度か憂に探りをいれたが、
その度に憂はどちらともとれない返答をするばかりで、
結局お開きになるまで、憂が私達に気付いているという確たるモノは得られなかった。

それでも私達の間には、憂は少なからず合宿後の真相の一部を
知っているのだろうという共通認識があった。

ムギちゃんと澪ちゃんは何度もメールのやり取りをしていたらしく、
みんなを玄関で見送った後に私がケータイを開いた時は、新着メールの数は80件を越えていた。

私には、憂と澪ちゃん達の会話は、他愛のないものにしか聞こえなかったが、
相当練りに練った舌戦をしていたのだろう。

憂に私達と争う様な気持ちがあったかはわからないが。


とにかく、澪ちゃんとムギちゃんの異常な数の新着メール件数を見て、私は感心してしまった。



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 23:25:51.75 ID:TpuSMYbF0

二人のメールによる綿密な作戦過程を読み返す前に、私は風呂に入って一息つく事にした。


憂「お姉ちゃん、お風呂沸いたよー」

唯「うん、ありがとう。先入っていい?」

憂「うん。じゃあ私はパーティーの片付けしておくね」

唯「そんな、悪いよ憂ばっかり。私もお風呂あがったら手伝うよ」

憂「え?でも…」

唯「手伝いたいんだよ~」

憂「…」


憂は一瞬、困ったような顔をしたが、すぐにまた表情を緩ませて、


憂「わかった。じゃあ一緒に片付けようね」


と言って、階段を上がり自分の部屋に入って行った。



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 23:29:02.75 ID:TpuSMYbF0

私は風呂桶の蓋を開け、立ち上る湯気を全身に浴びた後、
蛇口を捻ってシャワーを浴びながら、足元の排水溝に絡まる髪の毛を眺めていた。

黒い毛。
茶色がかった私と憂の毛ではない。
お父さんのだろうか?もしかしたら私か憂の陰毛かもしれない。
とにかくその黒い毛は、あの日のあずにゃんを連想させ、私にとって気持ちのいいものではなかった。


私の耳の奥の奥…脳の…記憶が詰まった海馬の中で、ノコギリの音はまだ響いている。
不規則なリズムで響くその音は、海馬を越え、頭全体、身体全体、風呂場全体に響き渡った。
シャワーの水流音よりもずっと大きく。

私はあの日から沢山の嘘をつき、沢山の人を疑ってきた。親友の和ちゃんも、妹の憂もそこに含まれていた。

憂は何を知っていて、何を知らないのだろう。
結局今日、それはわからず終いだった。



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 23:37:19.31 ID:TpuSMYbF0

唯「はぁ~…」


湯舟に浸かると、足先から下腹部にかけてお湯の熱が染み渡ってきて、
それは言いようのない快感と安堵感を生んでくれた。

私は性体験の類は殆ど無かったが、きっとこれに似た感覚なのだろうと勝手に思っていた。
高校二年の時に、一度だけあずにゃんとそれらしい体験をしただけだ。

今年の合宿とは違い、平穏無事に終わった二年の夏合宿の夜。
夜中にギターの練習を終えた私とあずにゃんは寝室に戻り、一緒の布団に入った。
私がふざけてあずにゃんの乳房を触り、あずにゃんが怒って私のを触り返す。

そんな具合に互いの身体を触りあうだけで、性的な興奮があったわけでもない。
つまるところ、私には性的な体験は皆無と言って差し支えなかった。


唯「…ふぅ」


息を吐き出しながらふと湯舟の縁に置いた自分の手を見ると、
さっきの排水溝に絡まっていたものに似た黒い毛が
二本ほど手の甲あたりにぴたりとくっついていた。

唯「お父さん、抜け毛かなー…あはは…」



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/18(日) 23:39:31.77 ID:TpuSMYbF0

湯舟の水でその毛をさばっと流した私は、膝を抱えて身体を小さく丸めた。

ノコギリの音とあずにゃんの笑い声が交互に風呂場に響いた。

唯「う、うう…あ…あずにゃん…うぐっ…ひっく…」

涙なのか風呂の水滴なのかわからないが、
湯の表面から出た曲げた膝の上に、ぽたぽたとそれは零れた。

私は嗚咽を漏らしながら、あの高3の夏合宿の日を思い出していた。


第一部 完



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 00:03:03.10 ID:yQlSaSRh0

梓「うわぁ…。お、大きい別荘ですねー…」


高校3年の夏。
私達は例によってムギちゃんに別荘を提供してもらい、そこで合宿をする事にした。

街中から電車を二回乗り継ぎ、約2時間。その後バスで30分。
海に面したその別荘に決めたのは、私とりっちゃんの


唯律「海!絶対海がいい!!」


という強い希望によるものだった。

ムギちゃんは最後くらい大きい別荘を使わせてあげたかったと言っていた。


紬「海があるところなら、もっといい別荘があったんだけど…
  今年も予約で埋まってたの。ごめんなさい…」


ムギちゃんは今年も謝っていたが、5人で使うには広すぎるくらいの別荘だ。
誰もムギちゃんを責めるはずもなく、みんなムギちゃんへの感謝の言葉を口にした。



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 00:10:19.76 ID:yQlSaSRh0

律「いよっしゃー!遊ぶぞー♪」

唯「うおー!」


私とりっちゃんはお決まりのセリフを口にすると、我先にと服を脱ぎだした。
着いたらすぐに泳げるように、服の下には新調した水着を装着済みだった。


律「ほらー!みんな行くぞー!!」

澪「こら!練習が先だろ!今年こそは絶対に譲らないからな!!」

梓「そうですよ!去年の二の舞は嫌です!!」

唯「えぇー?あしょびたい!!」


すでにビーチ用のゴムボール、イルカの浮き袋には空気を入れていて、
後は砂浜と海水があれば、すぐにでも遊べる状態だった。
当然、私とりっちゃんも折れない。


律「えー?んじゃあ多数決な!民主的に!」



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 00:17:48.56 ID:yQlSaSRh0

結局去年同様、ムギちゃんが澪ちゃんサイドを裏切る格好になり、私達は浜辺で遊ぶ事になった。


唯「あっははははははは♪」

律「うっふふふふふふふ♪」

唯「そーれー♪」

律「えいやー♪」

澪「あーあ…結局今年もコレかぁ…」


そうぼやいてた澪ちゃんも、10分もしないうちに私達の輪に入る事になった。
私はパラソルの下でちょこんと体育座りをしているあずにゃんの手をとった。


唯「あずにゃんも一緒に遊ぼうよ~♪」



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 00:24:09.58 ID:yQlSaSRh0

梓「うぅ…わかりました…」

唯「泳ご泳ご~♪」


去年のあずにゃんなら、「けっこうです!」と言って私の誘いを一蹴していただろう。
しかし今年はすでに部員と打ち解けているため、すんなりと了承してくれた。

その後も結局は去年までと同じ。
時間忘れて遊んでしまった私達は、練習する時間もほとんど無く、練習は食事の後という事になった。


梓「ご飯食べたら必ず練習しますからね!」


頭のてっぺんからつま先まで真っ黒に日焼けしたあずにゃんは、私を睨みながらそう言った。
頭は元々黒かったけど。


唯「うん!するする~♪」



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 00:28:38.01 ID:yQlSaSRh0

鉄網の上で焼かれる牛肉と野菜。
それを串に刺して食べる。


唯「んまい!」

律「やっぱ夏はBBQに限るな~」

澪「あつつ…」

唯「はい!あずにゃん、あーん…」

梓「あ、あーん…」

猫に餌付けするように、私はあずにゃんの口に、私の吐息で冷ましておいた肉を入れて上げた


梓「おいひいでふ…///」

唯「エヘヘ」

紬「ウフフ…これだけでお腹いっぱいになりそう///」


練習を後回しにした事で、ご立腹だったあずにゃんの機嫌も、どうやらなおったようだ。


律「食い終わったら何するー?」

唯「お風呂!露天風呂入りたい!」



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 00:34:58.00 ID:yQlSaSRh0

梓「ちょっ…練習するんじゃないんですか!?」


当然の反論だ。
約束を反故にされたあずにゃんは、再び仏頂面をしていた。

この時、澪ちゃんは珍しく反論しなかった。
後で聞いた話によると、最後の合宿で喧嘩はしたくなかったらしい。
海水浴以降、澪ちゃんは私とりっちゃんの要望をきく事に専念していたようだ。


唯「お風呂あがったら必ず練習するから!」

梓「そんな…約束が違いますよ…」


怒りを通り越して、今にも泣き出しそうなあずにゃんを、私はいつも通り抱きしめた。
こういう時のあずにゃんの扱いに、私は慣れていた。
大体の事はこれで丸く収まる。


梓「わ…わかりました…」


どうやら今回も上手くいったようだ。



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 00:43:21.23 ID:yQlSaSRh0

律「うおっ!広いなー!!」


夏虫の声が心地良く響く露天風呂。
満天の空に匹敵するのではと見まがうほど、広い浴場だった。


唯「さ、あずにゃん、入ろ?」

梓「は、はい…」


私はあずにゃんがまたヘソを曲げないように、ずっとそばにいて機嫌をとっていた。
それ自体は苦でないし、自分が可愛がっている後輩のそばにいると、私も気分が良かった。

シャワーでその日の汚れを落とした後、お湯で濡れないように私は髪を後ろで束ねた。
その横であずにゃんは、黒く長い髪をタオルの中におさめようと、格闘している。


梓「あっ…」


手元を違えたのか、あずにゃんの髪を包むはずのタオルは地面に落ち、
その髪はばさりと解け、横にいた私の肩を滑らかにかすめていった。



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 00:51:05.14 ID:yQlSaSRh0

その瞬間、私の海馬の中にずっと眠っていた光景が、
めいっぱいエフェクトをかけたレスポールの弦音のように、一気に蘇ってきた。


去年の夏。
合宿の夜。
布団の中。
隣にあずにゃんがいる。
私はあずにゃんの身体を触り、あずにゃんは私の身体を触っている。
髪の匂い。感触。
ツインテールから解放された髪のそれは、あの時私の身体全体を繭のように包んでいた。


今まで忘れていた記憶。
情事と呼ぶには幼稚な行為だったが、
今あずにゃんの髪を通してあの時私の五感が捉えた感覚が、私の中に舞い戻ってきた。


梓「…?唯先輩?どうしたんですか?」



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 01:01:49.68 ID:yQlSaSRh0

唯「へっ?な、なんでもない…早く入ろう!はい、タオル」

梓「…?ありがとうございます…?」


私はタオルを拾ってあずにゃんに渡すと、その髪を触りたいがために、束ねるのを手伝った。


梓「すいません、唯先輩。じゃ、行きましょう」


礼を言われた私は、肺と臍のあたりが重くなるのを感じた。
陳腐な言い方をすれば、罪悪感というやつだろう。

私が髪を束ねるのを手伝ったのは、あずにゃんのためではない。
この軽音部に似つかわしくない、鉄錆の様に汚れた欲望を満たすためだ。

今まで私の中に無かった欲望。あの夜ですら、そんなものは無かったはずだ。
それが今になって芽生えてきた理由はわからなかったが、
とにかくこの時私のあずにゃんに対する見方が変わっていた事をはっきりと自覚した。



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 01:12:55.74 ID:yQlSaSRh0

梓「唯先輩、シャンプー使いますか?」

唯「うん、ありがとう。使わせてもらうね」


あずにゃんは髪をシャンプーの泡だらけにして、
目に泡が入らないよう薄目にしながら私にシャンプーを手渡した。
シャンプーのノズルを押すと、うっすらと桃色がかった液体がどろりと私の手の平に飛び出した。
それを両手で混ぜ合わせ、十分に泡立ててから、濡らしておいた自分の頭に当てる。

私はシャンプーが沁みないよう、目を閉じた。
視覚が奪われた事によって、触覚と嗅覚が鋭敏になっていく。
そうすると、シャンプーの香りに私の神経が満たされていくのわかった。
日が昇るようにゆっくりと、しかし確実に、柑橘系のその香りは広がっていった。


あの時と同じ匂いだ。

先程蘇った記憶は、よりいっそう鮮明になり、激情を伴っていった。



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 01:22:47.75 ID:yQlSaSRh0

私は、自分の鍔間接が痙攣しているのがわかった。
全身の産毛が総立ちになり、意識が遠のいて行くような錯覚に襲われた。
頭を洗う手は止まり、堅い木の枝のような指の強張りも感じた。


梓「唯先輩、何やってるんですか?」


わずかに残った私の理性が、あずにゃんの言葉を耳に入れないように無駄な抵抗をした。
あずにゃんの声が骨の芯まで響き、電流の様に全身を駆け巡った。

――ダメ…。今あずにゃんの声を聞いたら、おかしくなる…。

理性の声か、良心の叫びか…今にも消えてなくなりそうなその声に、私は必死で耳を済ませた。


梓「シャンプー沁みたんですか?…しょうがないですね、流してあげますから」



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 01:33:20.01 ID:yQlSaSRh0

あずにゃんはそう言いながら、私の頭の泡をシャワーで流した。


梓「はい。頭は流しましたよ。目を洗うんで顔を上げてくださいよ」


私は無言で、あずにゃんに言われるままに顔を上げた。
あずにゃんは私の顔にシャワーから放出される41度のお湯をかけ続ける。


梓「ちょっと目を開けてください。そんな風に閉じてたら洗い流せませんよ…」


その言葉に従って目を開けると、ぷつぷつと開いたシャワーのヘッドから流れるお湯が見えた。
霞んだ視界の中、私の顔にお湯はかけ続けられる。


梓「ちょ…ちょっと!いつまでやってるんですか?もう…」


そう言うとあずにゃんはシャワーを止めた。
キュッという音と共に、噴出していたお湯は止まった。


梓「唯先輩、大丈夫ですか…?」



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 01:40:50.20 ID:yQlSaSRh0

声のするほうをゆっくりと向くと、ぼやけた視界に、黒髪の女の子が映った。
2、3度瞬きをすると、目に溜まっていた水は落ち、はっきりとその姿を見る事ができた。

私が目を瞑っていたのは、せいぜい2、3分てところだろう。
しかし、あずにゃんを見るのは何百年ぶりに思えた。
それほど私は、あずにゃんを渇望していた。


梓「…?どうしたんですか?」


私にじっと見つめられたあずにゃんが、不思議そうな顔をして覗き込んできた。

私は立ち上がって、あずにゃんの小さい身体を抱きしめた。

膝に置いていたタオルがベチャリと音を立てて床に落ちた。

突然の出来事に驚いたのか、あずにゃんの身体は強張っていた。
私はその身体を抱く力を、さらに強めた。



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 01:46:48.54 ID:yQlSaSRh0

私を動かしたのはあずにゃんへの肉欲か所有欲か…
とにかく理性ではない私の中の何かがあずにゃんを欲しがった。
私は無言で腕に力を込めた。


梓「ちょっ…や…!な…何ですか唯せんぱっ…苦しいですよ…!」


それでも私はあずにゃんから離れようとしなかった。

今まで何度もこういう事はあったが、
今回の私は明らかに異常だという事にあずにゃんも気づいたのか、
引き離そうとする小さい手が力を強めた。


梓「や…やだっ…!やめて…唯先輩やめて…っ!!」


私達の様子がおかしい事に気づいたりっちゃんが、近づいてくる。


律「お、おい。お前ら何やってんだ?」



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 01:54:33.31 ID:yQlSaSRh0

梓「ゆっ…唯先輩がいきなり…っ」


あずにゃんはまだ私を引き離そうとしていた。
私はあずにゃんの抵抗を無視して、痛がるのも構わずに抱きしめ続けた。


梓「あ…あ……」


一瞬、あずにゃんの力が緩んだのがわかった。
何かを悟ったような…私の欲望に気づいたのか、
もしかしたら、私同様、去年の記憶がフラッシュバックしたのかもしれない。
どっちしろ、身の危険を本気で感じたのは間違いなかった。


梓「やだ!!いや!!うわあああああああ!!いやああああああああっ!!!」


あずにゃんは、今度は癇癪を起こした赤子のように大声を上げて、泣きながら抵抗しはじめた。
私の肩、背中、腰を引っかき、死に物狂いで私から離れようとした。


澪「唯!もうやめてやれよ!梓怖がってるぞ!?」

梓「ぎゃああああああ!!いやああああああ!!やだああ!!やだああああっ!!!」



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 02:07:06.11 ID:yQlSaSRh0

紬「唯ちゃん!どうしたの!?」

律「バカ!やめろよ唯!!」

梓「うあああああああっ!!やだっやだあああああ!!!」


すでにあずにゃんは絶叫に近い声をあげていた。
満天の星空の下、あずにゃんの声が響き渡り、夜空に吸い込まれていく。
私はりっちゃん達の制止も聞かず、
あずにゃんの細い身体を、渇望してやまなかった身体を抱きしめ続けた。


律「いい加減にしろよ!離れろって!!」


りっちゃんが私とあずにゃんの身体の間に割って入ろうとしたが、私は力を緩めなかった。
ムギちゃんもそれに加わり、無言の私と絶叫するあずにゃんとで揉み合いになった。
離れてはくっつき、離れてはくっつきを繰り返す私とあずにゃんの身体。

何度目かの身体の別離の後、突然あずにゃんの声は止んだ。



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 02:15:52.00 ID:yQlSaSRh0

ぱしん

澪ちゃんの平手打ちの後、私は理性を取り戻した。

視線を下に落とすと、私の足元にあずにゃんが倒れている。
長い髪で顔は覆われている。
床の石畳に赤い濁りができている。

その濁りは少し上に設置されたシャワーのハンドルの
(お湯を出す赤いものと水を出す赤いものの)丁度真ん中あたりまで続いている。

りっちゃんとムギちゃんの顔が、みるみる青ざめていくのがわかった。


唯「あずにゃん…?」


その呼びかけに答える者はいなかった。
りっちゃんも、澪ちゃんも、ムギちゃんも答えなかった。
あずにゃんも。



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 02:21:05.00 ID:yQlSaSRh0

律「あ…あう…ああ…」

紬「…あ、梓ちゃん!大丈夫!?」

紬「りっちゃん!そ…蘇生…応急処置しないと!!手伝って!!」

律「あ…ム、ムギ…」

紬「りっちゃん!!」

律「わ…わかった!!」


ムギちゃんがあずにゃんの胸のあたりに、
組んだ手の平をあてがい、体全体の体重をかけて押し込んだ。

何度かそれを繰り返した後、りっちゃんが息を深く吸い込み、
あずにゃんの鼻をおさえながら、口から直接空気を送り込んだ。



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 02:28:02.18 ID:yQlSaSRh0

その一連の動作を何度か繰り返した後、ムギちゃんが力無くその場に座り込んだ。

紬「うっ…うう…ううううう…」

律「…マジかよ…」

澪「嘘だろ…なんだよ…こんな…」

唯「あ…あ…私…私…」


つまりこういう事だ。
あずにゃんに欲情して理性を失った私はずにゃんを抱きしめた。
それに本能的に恐怖したあずにゃんは抵抗し、止めに入ったりっちゃん達と揉み合いになった。

その時に何かの弾みであずにゃんはシャワーの蛇口あたりで頭を強く打った。
その結果、あずにゃんは今石畳の上で動かなくなった。

陳腐だった。馬鹿げていた。
私が引き起こしたこんな下らない事故のせいで、私達は中野梓という後輩を失った。



86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 02:32:33.21 ID:yQlSaSRh0

澪「梓…あ、梓が…ううう…」

紬「うっ…うっく…うあ…ああ…」

律「梓…梓ぁ…」

唯「あずにゃん…」

唯「あ…いや…」

唯「いやああああああああああああ!!!!」

唯「やだっ!!やだよ!!あずにゃん!!ダメだよぉっ!!!」

唯「ごめんなさい!ごめんなさいあずにゃん!!もうあんな事しないから!!」

唯「あずにゃ…」

唯「うあ…うああああああああああああん…」



87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 02:38:21.37 ID:yQlSaSRh0

そのまま一時間か二時間か…湯冷めするには十分すぎる時間が経過した。
ひとしきり泣いた後、私達を冷静にしてくれたのはりっちゃんだった。


律「…な、なあ…どうする…?」


既に「それ」は起こってしまったのだ。
ああすれば良かった、こうしなければ良かったなどと言い合っても仕方が無い。
私達は現実を受け入れる事も出来ないままだったが、次の選択を迫られていた。


澪「…や、やっぱり警察に言うべきか?」

唯「…」

紬「でもそしたら、みんな捕まっちゃうのかな…?」

唯「で、でもあずにゃんをこんな風にしたのは私だし…みんなは悪くないよ…?」



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 02:45:37.72 ID:yQlSaSRh0

律「唯…お前何であんな事したんだ?」

唯「…それは…」


私は先程まで私の中を駆け巡っていた記憶、欲望、その全てをみんなに話した。
もちろん、話したくない事もあった。

しかし、今私が置かれた状況は、私一人で処理出来るものではなかった。
私は皆に頼るしかなかった。
何より、この事故を起こしてしまった以上、
隠し事をする権利など私には無いという自責の念があった。


澪「…そうか…」

唯「…ごめんなさい…。本当にごめんなさい…」

紬「…起きてしまった以上、仕方ないわ…。これから私達がどうするか考えましょう…」

律「あぁ…。悲しむのも、唯を責めるのもその後だ…」



89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 02:49:07.66 ID:yQlSaSRh0

律「まず、警察に通報した場合だな…」

澪「過失とはいえ、唯は確実に捕まるだろうな…。私達が共謀扱いにされる可能性もあるし…」

紬「事故だと証明できるとも限らないからね…」

唯「…うぅ」

律「あ、救急車は?もしかしたらまだ助かるかも…」

澪「それでもし助からなかったら唯は捕まるよ…。
  助かっても殺人未遂…か?法律はよくわからないけど…」

紬「…どの道梓ちゃんは助からないわ。もう心停止から二時間以上たっちゃってるし…」

澪「…そうだな」

唯「ごめんなさい…」



93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 02:53:23.08 ID:yQlSaSRh0

紬「…」

紬「警察に言うのはナシね…」

澪「うん…」

律「え?さすがにそれは…」

澪「…梓は…死んだ…。梓はもういない…これは動かしようのない事実だ」

澪「これで唯まで捕まったらどうなる?」

律「…部活どころじゃなくなるな…」

紬「ええ。私達も唯ちゃんと梓ちゃんがいないままこれから生きていく事になるよね」

澪「それは私達にとって何のメリットにもならない…って事」

律「今は部活とか言ってる場合じゃないだろ…」

澪「律、部活だけじゃない。残りの人生全部、梓と唯の穴を抱えたまま生きる事になるんだ」

紬「でも通報しなければ…少なくとも唯ちゃんだけは守れるよ…」



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 02:56:10.42 ID:yQlSaSRh0

唯「みんなで今日の事を隠すってこと…?」

澪「…そういうこと。大変だろうけど…」

律「…そ、そんな…。いつかバレるに決まってるって…」

澪「ここはムギのプライベートビーチにある別荘だ。別荘を借りる客以外はまず立ち寄る事はないはず」

紬「家の者に無理を言えば、しばらく人を入れないようにする事も…出来ると思う…」

律「ここに梓を隠すのか…?」

澪「ここらには森もあるし、海もある。隠し場所なんていくらでもある…」

律「…」



97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 02:59:26.75 ID:yQlSaSRh0

澪「律…もうどうしようもないんだ。隠し通さなきゃ…」

律「…」

澪「それとも梓が死んだ事を通報して、唯は逮捕、軽音部は廃部、私達も退学、お先真っ暗だよ…」

澪「それでいいの?」

律「…いや…だ…。でも…お前ら罪悪感はねーのかよ…」

紬「もちろんあるわ…。でもそれとこれは別の話よ…」

律「…」

澪「…決まりだな」

紬「…うん」

律「唯もそれでいいのか…?」

唯「…」

唯「…良くない」



98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 03:02:27.13 ID:yQlSaSRh0

唯「私のバカな行動のせいであずにゃんは死んじゃったんだし、
  私はちゃんと罪を償うべきだと思う…」

澪「…償ってどーするの?
  梓が生き返るわけじゃないし、唯の人生が…私達の人生が元に戻るわけでもないだろ」

唯「でも…!ひ、ひ…人殺しなんだからそれも罰なんだよ、きっと…」

澪「私達が寂れた人生を送る事は、梓も望んでないだろ。梓は唯に憧れて入部したくらいだし」

唯「それは論点のすり替えだよ…。今となっては、あずにゃんの気持ちなんてわからないんだし…」

律「…」

紬「わかったわ。唯ちゃんの悪ふざけのせいで私達も人生棒にふるわ。
  唯ちゃんの人生ももう終わり。ついでに憂ちゃんの人生にも影を落とす事になるわね」

紬「さ、通報して?」

唯「……」

律「ムギ!そういう言い方はないだろ!」



99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 03:05:58.68 ID:yQlSaSRh0

紬「私は、私達全員にとって最善の道を示してるだけよ…」

律「梓が死んだ時点で最善も何もないだろ!」

澪「ああそうだよ。梓が死ななけりゃそれが最高だよ」

紬「でも死んじゃったものは仕方ないでしょ…。私達はその上で最善の選択をしなきゃいけないのよ…」

澪「こんな事故で、私達と唯の人生がめちゃくちゃになるなんて私は絶対イヤだ」

律「隠したってそれは同じだろ!」

澪「同じじゃないよ!少なくとも憂ちゃんや聡、和やさわちゃんにまで嫌な思いをさせる事はない!!」

律「そうじゃない!唯は罪を償いたいと思ってるんだ!それを尊重するのが先だ!」



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 03:10:13.72 ID:yQlSaSRh0

澪「じゃあそれで私達まで殺人の片棒を担いだみたいに言われたらどうすんだ!?
  実際はそうじゃなくても、周りがどう思うかなんてわかったもんじゃない!」

澪「その時、律は唯を恨まないって言い切れるか!?私は無理だ!きっと唯を恨んじゃうよ!」

律「…そ、それは…」

澪「私は唯と友達でいたい!唯を恨むなんて嫌だ!
  だったら私は唯の荷物を唯と一緒に抱えて生きるほうを選ぶ!!」

律「そんな事言って、自分の身を守りたいだけだろ!」

澪「そうだよ!確かに自分の身は守りたい!でも唯もみんなも守りたい!!何でわかんないんだよ!!」

紬「澪ちゃん…ちょっと落ち着こう?私達に今一番必要なのは平常心よ…」

紬「唯ちゃんも、さっき酷い事言っちゃってごめんね?」

唯「…ううん、私のせいなんだし…」



104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 03:13:04.89 ID:yQlSaSRh0

律「ムギ…」

紬「私は、みんなが仲良くしてる軽音部が好き…。こんな風に言い合いをするのは嫌だよ…」

澪「…そうだな。ごめん」

紬「…私はまだみんなと一緒にいたい。
  一緒にお茶して、練習して、ライブして…
  それが許されない事だとしても、私はそれを一番望んでるわ…」

紬「みんなはどう…?」

律「…」

律「…わかった…。いいよ。隠すなら私も…それでいいよ…」

唯「り、りっちゃん…」



105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 03:16:33.51 ID:yQlSaSRh0

澪「後は唯だけだ。どうする?」

唯「…」

唯「できないよ…。隠すとしたら、みんなを一生巻き込む事になるし…」

澪「…もう巻き込まれてるよ。通報しようがしまいがそれは変わらない。
  今はそういう次元の話はとっくに過ぎてるんだ」

唯「…でも…」

紬「どうせ巻き込まれてるなら、ちょっとでも希望が残されてるほうに行きたいわ」

澪「それに唯の荷物なら、私達は喜んで持つよ。私達は唯が大好きなんだから」

律「そう…だな…。私も…唯を守りたい…」

唯「……」

唯「……」

唯「…わかったよ」



111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 03:25:09.73 ID:yQlSaSRh0

紬「唯ちゃん、いいのね?」

唯「うん…。ごめんねみんな…ありがとう…」


この時点で、澪ちゃんとムギちゃんが私達の行動指標になり始めていた。
正直に言って、この時もまだ内心では、私は隠す事に賛成できなかった。

が、私が原因である以上、自分の意見を通すのは身勝手な気がした。
それに澪ちゃんとムギちゃんなら…本当に隠し通せてしまうのでは、と期待してしまったのも事実だ。
矢張り私も所詮自分の身が一番可愛かったのだろう。

そしてこの時、不慮の事故は悪意を持った事件になった。
尤も、首尾よくコレが明るみに出る事がなければ、事故でも事件でもないのだろうが。



第二部  完



154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 11:28:17.29 ID:yQlSaSRh0

それから私達は、露天風呂を出て、脱衣所で話し合う事にした。
澪ちゃんとムギちゃんは寝室か音楽練習室でいいと言っていたが、
あずにゃんを欲情に残したまま話し合う事に、私とりっちゃんは抵抗を感じた。

かと言ってあずにゃんの目の前で段取りを決めるのも心苦しかったので、
浴場横の脱衣所という何とも格好のつかない場所で、私達は知恵を出し合う事になった。


澪「まず私達の役割を決めよう」

唯「役割?」

澪「うん。最初に役割を明確にして、無駄な争いをする事なく集団として機能させるべきだ」

紬「そうだね。私と澪ちゃんが頭脳、りっちゃんはそれを受けて行動…といったところかしら」

律「うん。小難しい作戦は二人に任せるよ」

唯「私は?」

澪「…言い方が悪いかもしれないけど、唯は私達の言う事だけ聞いてて欲しい…」

唯「う、うん。そうだね。私、すぐボロが出そうだし…」

澪「…ごめん」

紬「それと、頭脳は私達だけど、唯ちゃんもりっちゃんも意見があったらどんどん言ってね」

澪「うん。私とムギはそれを受けて色々考えて、最終的に判断を下すから」

律「わかった」

唯「…わかったよ」



155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 11:34:28.54 ID:yQlSaSRh0

澪ちゃんとムギちゃんは、同じ女子高生とは思えない程、冷静だった。

恐らく、ふたりとも一杯一杯だったはずだが、
今この状況下で私達に唯一出来る行動が「話し合い」だったので、
それに固執する事で平静を保っていられたのだろう。

いずれにせよ、私には二人が頼もしく見えた。


律「…よし。じゃあ梓をどこに隠すか考えようか」

澪「ちょっと待って。その前に、これから起こるであろう事と
  それに私達がどう対応するか…この二つを考えるのが先だ」

紬「そうだね。それに合わせて隠し場所を考えたほうがいいかも」

律「これから起こる事…か。そうだな、まず梓の両親は動くだろうな」

澪「うん。隠したところで、行方不明扱いになるからな」

紬「警察に通報して……警察もご両親も、まず私達のところに来るでしょうね」

唯「やっぱり私達が一番怪しまれるよね…。あずにゃんは合宿直後に行方不明なんだもん」

律「て事は私らで口裏合わせなきゃいけないな」



157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 11:43:16.43 ID:yQlSaSRh0

澪「口裏合わせると言っても、なるべく新しい情報は入れないようにするべきだと思う」

唯「新しい情報?」

紬「嘘をつくとそれを補うための嘘が必要になって、どんどん膨れ上がってしまう…って事ね」

澪「ああ。それにシラをきるだけなら、「忘れてた」で済ませられるけど、
  全くの嘘は、バレた瞬間に言い訳ができなくなる」

唯「…なるほど」

唯「で、どう口裏を合わせるの?」

律「うーん…合宿終わって別れた後の事はわからない…てのは?」

紬「それはダメよ。駅の監視カメラに私達四人だけが映ってるところを撮られるよ」

律「帰りは電車使わなきゃいいだろ。ムギんちの車とか…」

澪「それだと運転手に私達四人だけってのがバレるだろ。
  ムギの家の人とは言え、どんな些細な情報も外に出すべきじゃない」

律「そっか…」

紬「梓ちゃんは先に帰ったって事にするのは?」



158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 11:48:29.75 ID:yQlSaSRh0

律「え?それってさっき澪が言ってた「新しい情報」なんじゃないか?」

澪「いや、幹になる嘘はどうしても必要になる。
  私が言ったのは、本当に必要な嘘以外はつかないって事だよ」

唯「そうだね…。じゃあ、友達から緊急の連絡が来たとか…そーゆー感じはどうかな?」

律「でも梓のケータイの履歴はどーすんだ?電話会社のほうにも記録は残らないし」

澪「…私達と喧嘩して先に帰ったって事にしよう」

唯「え…?それって逆に私達が怪しくならない?」

澪「私達が殺したなら、そんな不利になるような事をわざわざ言わない…そう思うのが普通だろ」

澪「それにこれくらいなら別段、不利でもないよ。どっちにしろそこからアシがつく事はないと思う」

律「そうかもしれないけど…」



160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 11:50:34.88 ID:yQlSaSRh0

紬「うん。私も澪ちゃんの案に賛成だよ」

澪「唯と律が練習しないから、それに腹を立てて梓は帰った…それで十分成立するはずだ」

律「確かに梓っぽいな…」

唯「でもそれだと、今この別荘にあるあずにゃんのケータイの現在位置情報から嘘ってバレないかな?」

澪「そうだな…梓はケータイも荷物も置いたまま帰ったって事にすればいい」

唯「あ、そっか。喧嘩して帰っちゃうんだから、それでも不自然ではないね」


先程の澪ちゃんの意見とは裏腹に、嘘はどんどん膨れ上がっていった。



161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 11:57:09.07 ID:yQlSaSRh0

律「なあ、それだと私らが梓を心配してないと不自然じゃないか?」

澪「そうだな…」

紬「明日、梓ちゃんの荷物を梓ちゃんの家に届けましょう」

唯「あずにゃんが荷物を忘れていって、先輩が届ける…うん、不自然じゃないよ」

澪「その時は梓の親の前で、梓を心配するフリもしておかないとな」

律「そういうのは私が得意だから私がやるよ」

紬「そうね。お願いしますりっちゃん」



163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 11:59:35.19 ID:yQlSaSRh0

唯「あと、さわちゃんと…憂と純ちゃんはどうする?」

澪「同じだよ。合宿中に別れてからの事は知らないで通すしかない」

律「先生はなんだかんだで鋭いからな…。用心しないと」

唯「憂もだね…」

澪「大体の事は、知らないでシラを切るしかないな」

唯「じゃああずにゃんは何時頃に別荘を出た事にする?そこも口裏合わせとかないと…」



166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 12:09:45.81 ID:yQlSaSRh0

紬「それは細かく決めても逆に怪しいわ。そうね…お昼前くらい…って事にしない?」

澪「うん。午前の練習を始めようとしても、唯と律が遊んでばかりで全然始められない。
  それに腹を立てて別荘を飛び出した…。一応筋は通ってるな」

律「私と唯は、海で遊んでたって事にしよう」

唯「うん」

澪「相手は警察だ。もっと細かい事を聞かれるかもしれない。
  でもあまり細かい事まで覚えてるのも不自然だ。これ以上の事は覚えてないで通すしかないな」

紬「でも記憶がみんな同じところで途切れるのも不自然よ」

律「じゃあ、唯は今までのところまで証言して、後は私達で補足だな」

唯「うん、わかった」

澪「多少食い違いが出るかもしれないけど、その時は「そうかもしれない」程度でごまかすしかないな」


実際、この後澪ちゃんとムギちゃんが細かい部分の補足をして、
私とりっちゃんはそれに従い、私達が疑われる事は殆ど無かった。
綿密に練られた二人の設定は、食い違いなど生む事もなかった。


澪「…なんにせよ、細部はこれから決めればいい。後は…何かあるかな?」

律「今のところは特にないな」

紬「うん。これ以上は予測しようがないよ。その都度対応するしかないわ」



167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 12:12:22.23 ID:yQlSaSRh0

澪「そうか…。じゃあ次は…」

唯「あずにゃんをどこに隠すかだね…」

律「ムギ、別荘はどのくらい閉鎖できるんだ?」

紬「この別荘だと…一ヶ月が限度かな…。
  それにさっきはああ言ったけど、別荘を閉鎖するのはかなり不自然かも…」

律「ああ…それはそうかも…」

澪「閉鎖は無し…か。て事は別荘内に隠すのはダメだな」

紬「ええ。お客様が来るかもしれないし。
  この別荘はあまり人気ないけど、管理人は常駐してるの。今は私が言って出払ってもらってるけど…」

律「海に捨てるのもリスクがデカすぎるな。森に埋めるのは?」

紬「…この辺りは地盤が緩くて、よく地崩れを起こすの。人気がない理由もそこなんだけど…」

澪「なるほど。埋めても地崩れで出てくる可能性があるな…」



169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 12:19:56.49 ID:yQlSaSRh0

律「…燃やすしかないのかな…」

唯「…」

澪「ダメだ。燃やしても骨が残るだろ。それに灰から何かバレるかもしれない」

紬「うん。警察がどの程度動くかわからないけど、別荘のまわりは確実に調べられると思う」

澪「そうだ。私らは警察について何も知らない。
  塵一つからでも私達に辿り着けるくらいに思ってたほうがいい」

澪ちゃんは頭が良かったが、真価はその臆病な性格にあった。
いくら頭が良くても、それを過信せずに、自分はただの高校生である事を自覚していたのだ。


唯「…うーん、どうする?どこに隠す?」



171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 12:23:28.23 ID:yQlSaSRh0

律「…やっぱさ、自分達で管理するのが一番安全じゃないか?」

唯「…管理?」


私がりっちゃんに聞き返したのは、言葉の意味ではなかった。
管理という言葉であずにゃんを無機質に扱った事に対してだ。
私はむっとした表情をしていたはずだが、りっちゃんはそれに気づかずに言葉を続けた。


律「どこに隠したって不確実だし、何がキッカケで発見されるかわからない。
  だったら自分達で梓の死体を管理するのが一番確実で安全だ」

澪「管理って…どうするんだ?持って帰るわけにも……。あ…!」

紬「…まさか……」

律「…持って帰ろう。みんなで分担して…」



174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 12:28:50.50 ID:yQlSaSRh0

澪「お、おいおい…それって…」


そこで澪ちゃんは言葉を濁した。
全員がその意味を理解していた。

いや、最初から全員の頭の中にはその方法が浮かんでいたが、
なるべくそれを実行しないで済む様に、ここまで意見を出し合っていた。


唯「…それは…ちょっと…」

律「…それしかないじゃん…」

紬「…確かに…そうだけど」

澪「…し…死体損壊は更に罪に問われるんじゃなかったか?」

律「だからバレなきゃいいだろ」



175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 12:32:17.10 ID:yQlSaSRh0

澪「そりゃそうだけど…」

律「…私だってこれ以上梓を傷つけるマネはしたくない。
  でもやらないと…バレるのは時間の問題だろ」

紬「…」

唯「うう…」

紬「…やりましょう…」

澪「ムギ!?」

紬「私にも他の策は思い浮かばないわ…。
  梓ちゃんを解体して、分担して持ち帰って管理する。
  ミスをしない限り、それが一番確実よ」

澪「でもさ!警察が家を調べたらどうするんだよ!」


恐らく澪ちゃんもこれが最善の策だと言う事は悟っていたはずだ。
しかし痛い事を苦手とする澪ちゃんの性質が、それを必死で拒んだ。



176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 12:34:24.19 ID:yQlSaSRh0

紬「よほど私達が怪しくなければ、家宅捜索なんてしないと思う」

澪「…」

律「つーかそこまで怪しまれた時点で、素人の私達じゃもうどうしようもない。相手は警察なんだし」

律「そうならないために、徹底的に予防策をとっておくべきだろ」

澪「…」

澪「…そうだな…。それしか…ないな…」

唯「う…うぅ…」


まさかここまでする羽目になるとは思っていなかった。
私は未だに現実を直視できていなかったが、みんなはもう受け入れ始めていたのかもしれない。



179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 12:41:12.12 ID:yQlSaSRh0

今さら事態の重さを理解した私は、自分の能天気さを殊更恥じた。

私の足元に開いた穴が微弱の重力を以って私をゆっくりと吸い込み、
その穴が少しずつ広がっていくような、ぬめりとした感覚に襲われた。

私が同意を躊躇っているのを見かねたりっちゃんが、返事を促す。


律「いいな?唯」

唯「私には…難しい事はよくわかんないから…みんなの決定に従います…」

唯「それに、私に意見する資格なんてないよ…」

私はそう言って思考を停止させた。

律「…」

律「ムギ、ノコギリとかある…?」

紬「うん…。木材調達用のが物置にあるはずだから、持ってくる…」




180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 12:42:32.61 ID:X/CaBFxj0

犯罪者の心理って実際こんなのなんだろうな



181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 12:45:14.97 ID:gXwQ574N0

怪我した時点ですぐに救急車、滑って転んだで事故死にすれば
けいおん部は潰れても人生は何とかなったのにな・・・
あの子らなら憂に電話したりして助けを求めるんだろうが、こういうテンパル展開もちょっと楽しみ





183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 12:57:56.89 ID:yQlSaSRh0

それからムギちゃんとりっちゃんは物置に向かった。
私と澪ちゃんは言葉も交わさず、目も合わせず、
朽ちた樹木の様に立ち尽くしながら、二人の帰りを待った。

これから行われるソレに向けて、心の準備をしていた。
いくら準備をした所で、整うはずもなかったが。

10分後、りっちゃんとムギちゃんは、
18歳の少女には不似合いないかついノコギリを抱えて脱衣所に戻ってきた。

私達は返り血を浴びないよう、衣服を脱いで浴場に入った。
これは血塗れた衣服の処理に手間取らないようにという澪ちゃんの提案だった。
澪ちゃんは平時ならそんな提案をしないだろう。その事がますます私に事の異常さを痛感させた。


律「…ここなら血が出てもすぐに流せるな」

紬「ええ。全部水で流せるわ…」

律「まさか裸で人をノコギリで切る事になるなんてな…」

唯「うぅ…あずにゃん…」

澪「…」


顔を真っ青にして、歯をガチガチ鳴らしながら、澪ちゃんは無言のまま私の手を強く握っていた。
解体はりっちゃんとムギちゃんが行う事になった。


律「じゃ、いくぞムギ…」

紬「う、うん…」



184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 13:06:53.01 ID:yQlSaSRh0

律「梓、ごめん…」

りっちゃんはそう言って、あずにゃんの肩のあたりを足で押さえながら、

右手にノコギリをあてがった。

ギコギコという音と共に、あずにゃんの細い腕から血が滲み、水溜りが出来た。

唯「ううっ…」

紬「…う」

ムギちゃんはあずにゃんの腰のあたりを、

りっちゃん同様におさえながら、左足の膝にノコギリの刃を入れていった。

澪「うぷっ…」

ギコギコという音が不規則なリズムで、満天の星空の下、湿った空気を伝って私の耳の奥に響いてくる。

律「う…お、おえええええ…」




185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 13:07:52.90 ID:8QlagJJx0

いやああああああああああああああああああ



188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 13:14:10.66 ID:Dd4TbuH2O

うう、こっちまで痛くなってくる・・・





189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 13:15:29.45 ID:yQlSaSRh0

何分かかけてあずにゃんの右手を切り落としたりっちゃんは、嗚咽を漏らしながら、嘔吐した。
嘔吐物の刺激臭と、あずにゃんの血の匂いがあたりに立ちこめ、私も嘔吐した。


澪「う…うああ…ぁあぁぁぁ…」


澪ちゃんは全身を震わせながら、隣で咳き込む私の手を握って、声をあげて泣き続けていた。
先程までの冷静な澪ちゃんとは似ても似つかない。

それからりっちゃんは、げほげほと咳き込みながら、
あずにゃんの右肩にノコギリをあて、前後に刃を動かし始めた。


唯「ごめん…ごめんねあずにゃん…ごめん…」


念仏も、お祈りの言葉も、何も知らない私は
ただただ謝罪の言葉を繰り返しながら、その光景を目に焼き付けていた。



192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 13:25:11.01 ID:yQlSaSRh0

何十分、いや、何時間かもしれない。
気の遠くなるほど長い時間をかけて、りっちゃんとムギちゃんはあずにゃんの両手両足を切断した。

すでに私の胃は空になっていたが、
それでも食道を胃液が逆流し、露天風呂の石畳の上にぼたぼた落ちていった。


律「ふっ…うぐぅ…あぁ…ああああぁ…」


りっちゃんは声をあげて泣きながら、
あずにゃんの胴体部分にノコギリをあてて、先程の様に前後に動かした。
しばらくそれを繰り返していると、ぼろんと、あずにゃんの腹からチューブ状のモノが出て来た。
大腸か小腸か、とにかくそれが消化器系の一部である事がわかった。

屋外にも関わらず、密室のように充満する悪臭はよりいっそう酷くなり、私達は嘔吐を繰り返した。



193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 13:26:30.31 ID:yQlSaSRh0

ギコギコギコギコ
ギコギコギコギコ

ギコギコギコギコ
ギコギコギコギコ

ギコギコギコギコ
ギコギコギコギコ

ギコギコギコギコ
ギコギコギコギコ



194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 13:29:11.94 ID:yQlSaSRh0

解体を終えた私達は、血と嘔吐物を、シャワーを使って洗い流した。

この夜、私達は決して流れる事のない罪を犯した。




律「血も流したし、これで終わりか…」

紬「うん…」

澪「…右腕、左腕を二つに分けたから計4つ。脚も同様に4つ…」

唯「胴体が二つと…頭…だね…」

紬「…ギターケースの余りが別荘にあるから、それに入れて持って返りましょう…」



196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 13:33:35.61 ID:yQlSaSRh0

唯「私が上半身と頭を持って行くよ…」

律「じゃあ私が右脚と右腕…」

澪「私は左腕と左脚…」

紬「私が下半身ね…」

律「これで…大丈夫だよな…?」

紬「うん…。後は管理を間違えなければ…」



198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 13:38:09.40 ID:yQlSaSRh0

律「私はクローゼットの奥に入れておくよ」

澪「私も…」

紬「私は自室の金庫にしまっておくわ…」

唯「私もクローゼット…かな…」

律「よし…」

澪「当たり前だけど、誰も部屋に入れないようにな…」

唯「うん。気をつけるよ…」

紬「…」

暫しの沈黙の後、ムギちゃんが俯きながら口を開いた。

紬「あの…提案があるんだけど…」



199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 13:41:47.29 ID:yQlSaSRh0

澪「なに?」

紬「私の部屋なら、全部管理できると思うんだけど…。
  それなら万が一見つかった時も、うまくやれば捕まるのは私だけで済むわ」

唯「そ、そんなの…」


全員が沈黙する。

いつの間にか空は白んでいて、浴場からはうっすらと遠くの山の輪郭が見えた。


律「ダメだ。ムギ一人が捕まるなんて絶対ダメ。ここは全員がリスクを背負うべきだ」

澪「今までの話の流れだと、リスクを背負うってのは矛盾するかもしれないけどさ…
  私達の誰か一人でも欠けたら意味がない。
  誰も欠けないように、私達はこうする事を決めたんだから」



201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/19(月) 14:00:23.32 ID:yQlSaSRh0

紬「…そうよね。ごめんなさい…」

律「いいかみんな。ここまで来たら、一蓮托生だ。なにがあっても隠し通す。軽音部を守り抜くんだ」

澪「うん。わかった」

唯「わかったよりっちゃん…」


山の向こう側から、陽が昇るのが見えた。厭味なほど、空は広かった。
朝日が私達の顔を照らし出すと、あずにゃんを除いた全員の、目と鼻が赤くなっているのがわかった。
誰が見たって、泣き腫らしたのだと一発で分かるだろう。

いつかの倫理の授業中、大昔の哲学者がある事を言っていたと先生が説明するのを思い出した。
夜に生まれて、朝には消えるもの――それは希望だと。

希望の象徴たる朝日が、まるでこの世の終わりを告げている様に見えた私には、
その言葉の意味がよく分かった。


第3部 完




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唯「ギコギコギコギコギコ」#前編
[ 2011/08/17 02:45 ] ホラー | | CM(0)

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