SS保存場所(けいおん!) TOP  >  非日常系 >  「帰っておいで」

お知らせ

SS保存場所は移転しました。
現在けいおん!関連の更新はしていません。
今後更新するかは未定です。
SS保存場所






「帰っておいで」 【非日常系】


唯「こういうのどう?スキ?キライ?きらいじゃないけど……」より
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1256366532/




29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:39:12.56 ID:KJyVJ23C0

    「帰っておいで」

――また、やってしまった。

不機嫌な顔を湛えた上司を伏目がちに窺う。
私が喉に絡む声で謝罪の言葉を告げようとすると
上司はそれを遮り、怒声を発した。


「何度言えば解るんだっ!」


びくりと体が引き攣る。


唯「……も、申し訳ありません」


私は、深々と頭を下げた。


「平沢君さ。君ね、入社半年にもなって酷いと思わない?
 何で見積書の一つもまともに作成できないかね。
 計算機片手に手書きでやってるわけじゃないでしょ?

 パソコンで規定のフォーマットに数字打つだけじゃない。
 それにね、入力ミスしたって君がもう一度確認すればいいだけでしょ。
 ねぇ、こんなの顧客に渡して会社の信用に瑕つけたらどうすんの。
 君、責任取れないでしょ?
 全部私が被ることになるわけ。

 入社3ヶ月までは新人って事で大目に見てきたけどさ
 君、半年も何してきたの?
 先週も同じ失敗したよね?
 平沢君、その時なんて言った?もう一回言ってみてよ」


唯「その、もう二度と同じ失敗は……」





30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:40:02.61 ID:KJyVJ23C0

「だよね?平沢君、同じ失敗は二度としないって言ったんだよね?
 私の聞き間違いじゃないよね?
 で、何でまたミスしちゃったの?」


唯「……ごめんなさい」


課長は大きく溜息を吐いて
まじまじと私の顔を見る。


「ごめんなさい――じゃなくてさ、
 なんでまた失敗したのか聞いてるの。

 平沢君、君さ人の言うこと頭に入ってる?
 聞いたそばから忘れてるんじゃない?
 それで失敗したら謝れば済むとか考えてるわけだ。

 同じミスを繰り返すわ、遅刻も多いよね、君。
 会社入ってからも学生気分で居られると困るんだよねえ」


唯「そんなつもりは……ありません。
  ちょっと最近疲れが溜まって」


課長の顔が歪み、拳が小刻みに震えているのを見て
しまった――と思ったが遅かった。

課長は握った拳を振り上げデスクを叩き付けた。

空気が凍りつく。

背中に同僚達の冷たい視線をひしひしと感じる。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:40:48.23 ID:KJyVJ23C0

「言い訳なんて聞いてないんだよっ!
 平沢君さ、別に君じゃなくたっていいんだよこんなの。
 誰にでも出来るんだから。君以外はね。

 君が他の事できないから簡単な仕事回してやってるのわかってる?
 こんなことも出来ないで君どうするの?

 今時、お茶汲みと書類のコピー取るだけなんて楽な仕事無いんだよ?
 もしそんなの期待して内の会社入ってきたなら他行ってくれるかな?」


喉の奥に熱いものが込み上げてくる。
以前は、厳しさの余り声を上げて泣いてしまうこともあった。
その時は周りから同情を買うことが出来、課長もそれ以上何も言えなかったが
今泣いたとしても課長は私を叱責し続けるだろう。

容赦の無い課長の詰問に
奥歯を噛み締め必死に耐える。

――こんな筈じゃなかった。こんな筈じゃ……。

高校在学中、最後まで進路を決定できないで居た私は
進路指導の教員に促され
身の丈にあった大学への進学を決めた。

受験勉強に大学入試と私にとっての大きな壁を乗り越え
何とか合格するに到るも
音楽以外の道へ進むことに不安は隠せなかった。

そんな私の不安を知ってか知らずか
りっちゃん、澪ちゃん、むぎちゃんの3人は
大学に入ってからもバンドを続けようと言ってくれた。



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:41:33.02 ID:KJyVJ23C0

それぞれ進路は異なったが
週末には4人で集まり、音楽スタジオを借りて練習を行い
月に一度、ライブハウスでバンド演奏をした。

とても充実した日々を送っていた。

一方、大学では必修科目の単位を落としかけ
留年の憂き目に遭うなんてこともあったり、
レポートの提出期限ぎりぎりに
和ちゃんに泣きついて手伝ってもらった事も
今ではいい思い出だ。

その時はまだ、自分が社会人に為る事などまったく考えていなかった。
嘗ての軽音部の仲間とのバンド演奏と緩い大学生活、
そのモラトリアムのぬるま湯にどっぷりと浸かっていた。

真剣に将来のことを考え始めたのは大学生活も後半になってからだ。
ただし、今思えば甘ったるい考えであることは否めない。

――ミュージシャンになりたい。

半ば本気でそう考えるようになっていた。
そのために、ある程度余裕も出てきた大学3年時に独学で作曲の勉強を始め
1年もすると大分形になる曲を作れるようにもなった。
自分の思いを込めた詞を書いてギー太と共に音を奏でた。

周りからも好評を得たため、調子に乗ってデモテープを作り
幾つかの、レコード会社主催オーディションに応募した。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:42:18.86 ID:KJyVJ23C0

しかし、殆どは書類選考で落とされ
オーディションへの参加が適っても
他の参加者とのレベルの違いを認めさせられる結果にしかならなかった。

審査員からは、君才能無いよ――と死刑宣告に等しい言葉を言い渡された。

それからだろうか、
仲間とのバンド演奏も自然に回数が減り
何時の間にか集まることも無くなった。

後は淡々と大学生活を消化するだけの日々だった。
卒業論文を書き終え、4年の大学生活が終わり
適当な会社へ就職し現在に到る。

――私の人生って何なんだろう。

私には音楽の才能があると自負していた。
他の人とは違うと、心のどこかでは
平凡なサラリーマンやOLなんかを馬鹿にしていた。

やりたくも無い仕事をやって楽しいの?

そんなつまらない人生は嫌だから――だからミュージシャンになりたかった。
有名人になって周りの人達から賞賛の声を浴びたかった。

しかし、所詮夢は夢だった。
そのことを、嫌と云うほど思い知らされた。
私には才能なんて無かったんだ。
それどころか、会社で簡単な業務さえ行えない無能者なんだ。



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:43:03.40 ID:KJyVJ23C0

嫌になる。
馬鹿で無能な自分自身が――。


「……くん、平沢君、聞いてるの?ねえ」


課長は私の顔を覗き込んで言った。
大分怒りは治まってきた様だが、まだ言い足りない顔をしている。


「だからさあ、女は無責任で困るんだよ。
 どうせ、数年もすれば寿退社でお役御免でしょ?
 先月も斉藤君がそうだったけど、まあ彼女はそこそこ仕事は出来てたけどね。
 ああそうだ、斉藤君に指導受けてたんだっけ君。
 もしかして斉藤君、会社辞めるからって新人教育手抜いてたんじゃないかね?ん?」

唯「ち、違います。斉藤さんはちゃんと指導してくれてました」


入社当時を思い出す。
新入社員にはそれぞれ先輩が指導に当たり
業務内容を事細かに教えてくれた。

私の指導に当ってくれた斉藤さんは
優しくて、仕事が出来て、何より同性の私が見惚れるほどに綺麗だった。

教え方も丁寧で
忘れっぽい性格の私に呆れることも無く
根気強く教えてくれた。

私も優しくされて、迷惑を掛けたくなくて
必死になって教わった。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:44:11.46 ID:KJyVJ23C0

仕事に慣れ始めた頃に何度か失敗をしてしまい
その度に私を庇ってくれたこともあった。

本当にいい人だった。

だから、課長が斉藤さんを貶めるような発言をしたときに
若干ムキになって反論してしまった。
それがまた気に食わなかったのだろう。
課長は眉根を寄せて言った。


「じゃあ、何で君はこうも仕事が出来ないのかねえ?」

唯「……それは、私が――ば、馬鹿だからです」


くすくすと周りから笑い声が聞こえる。
恥ずかしさの余り顔から火が出そうだった。

赤面する私を見て満足したのか
課長はもういいよと云った風に手をひらひらさせた。

ぎこちない動作で自分のデスクへ向かう。
鳩尾の右側がちりちりと痛み出した。

先週のことだったか、先ほどと同じように課長に叱責され
胃の辺りに痛みを感じて、翌日病院へ行くと十二指腸潰瘍だと診断された。
薬を処方され5日ほどで痛みは退いたが、どうやら再発したようだ。

椅子に腰掛ると直ぐに遣り残した仕事に取り掛かった。
気を抜いたら涙が零れ落ちそうで怖かったから
仕事以外のことは頭から追い払った。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:44:58.05 ID:KJyVJ23C0

終業時刻になると早々と退社した。
同僚は皆残業を押し付けられていることだろう。
しかし、私には仕事を振られることは無い。

何せ、使い物にならない――馬鹿なのだから。

会社を出て夜の町並みを一人歩きながら
ふと、昔のことを思い返していた。

学校からの帰り道、
りっちゃんと澪ちゃんとむぎちゃんとあずにゃんの4人と共に
お喋りしながら家路を歩いたっけ。

昔は寂しいなんて思ったことは無かった。
和ちゃんと一緒に同じ高校に進学したし
軽音部の皆に出会って仲間が増えた。
家に帰れば妹の憂がいた。

――今は私一人だけ。

自宅アパートの玄関を開けて、
ただいま――と声を掛けるも返事は無い。
虚しく響く声がより一層の寂しさを齎す。

靴を脱いで玄関を上がり
暗い部屋の電気を点ける。

ソファーにバッグを投げ出すと
化粧も落とさずにベッドに伏せた。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:45:43.32 ID:KJyVJ23C0

――寂しいよ、憂。

憂の顔が脳裡に浮かぶ。
「お帰り、お姉ちゃん」
満面の笑みで私の帰りを迎えてくれた姿。

今、憂は何をしてるのだろうか。
最近はまともに連絡も取っていない。
寂しさのあまり、すぐにでも憂に会いたかった。

しかし、今住んでいるアパートから憂の居る実家までは
電車とバスを乗り継いで2時間ほど――
仕事帰りで疲れを引き摺ったまま行くのは正直辛い。
明日は休日だ。明日、憂に会いに行こう。

そう思い、ベッドから顔を上げて
ソファーに投げ出したバッグから携帯電話を取り出した。

履歴を表示すると、妙な可笑しさが込み上げてきた。
着信・発信履歴共に先月の日付になっている。

会社への連絡は固定電話を使い
同僚は私の携帯の番号を知らない。
軽音部の皆とは大学を卒業して以来連絡を取っていなかった。

和ちゃんとは連休中に遊ぶこともあるけれど
連絡を頻繁に交わすことはない。

先月、憂と電話をしたのが最後だった。
こんなに長い間親しい人と会話をしていなかったのか。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:46:31.30 ID:KJyVJ23C0

通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。

『お掛けになった電話は――』

初めは電源が切れているのだと思い落胆した。

『現在使われておりません』

その音声を聞いて不安と焦燥感が募る。

――嘘、なんで?

憂に何かあったのだろうか?
一ヶ月も連絡が無かったのだ。
もしかしたら、もっと以前に……。

慌てて実家の電話に掛けるが
3回のコールで留守電に切り替わった。
5回ほどそれを繰り返したが誰も電話に出ない。

――落ち着け。

そうだ、もし憂に何かあったのなら両親から電話があるはずだ。
だから、きっと憂に何かあったわけじゃない。
でも、じゃあどうして……。

次にどうするべきか
纏まりの無い思考を巡らす内に
携帯が着信を告げた。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:47:15.45 ID:KJyVJ23C0

ディスプレイを見ると《公衆電話》と表示されている。
暫く戸惑った後、そっと通話ボタンを押し電話を耳に当てる。


「あ、お姉ちゃん?私、憂だよ」


聞きなれた、懐かしい声が鼓膜を震わせた。

――よかった。

安堵感が胸の内に広がり、一粒の涙が頬を伝った。


憂「お姉ちゃん?」


電話口で見られているわけでもないのに
涙を慌てて拭って答えた。


唯「――憂?どうしたの?」

憂「うん、あのね。実は携帯失くしちゃってね。
  実は今、お姉ちゃんのアパートの直ぐ近くまで来てるの」

唯「ほ、ほんと?」


電話で、憂は小銭が足りないからと
早口で自分の居場所を伝えて切ってしまった。

兎に角、憂に何事も無くて安心した。
直ぐにでも駆け付けたいと思ったが
仕事帰りの汗臭い身なりのままではなんだか恥ずかしくて
手早く着替えを済ませてから自宅を出た。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:48:00.84 ID:KJyVJ23C0

アパートから程近い喫茶店に憂は居た。
店内に入り、憂の向かいに座ると
注文を取りにきたウェイターに憂と同じものを頼んだ。


唯「なんだか凄く久しぶりだね」

憂「うん、2ヶ月ぶりかな?」

唯「寂しかった?」

憂「――だって、お姉ちゃん最近連絡くれなかったから」


そう言えば、今まで私の方から憂に電話を掛けていたのだった。
憂は仕事帰りで疲れているだろう私を気遣って私の電話を待っていたのだろう。


唯「ごめんね、憂」

憂「ううん、私が我侭なだけだよ」

唯「そんなこと無いよ。私も寂しくて、憂に会いたかったよ……」

憂「やっぱり仕事大変なの?」

唯「大変って言うか――その、私失敗ばかりしちゃってて」


乾いた笑いで誤魔化したが
憂には無理をしているようにしか映らなかったようだ。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:48:47.25 ID:KJyVJ23C0

憂「もし辛かったら、何時でも帰ってきて良いんだよ」


昔からそうだった。
憂の優しさに触れるたびに思う。
ずっと甘えていたいと――。

でも、今はまだ――もう少しだけがんばっていたかった。


憂「お姉ちゃんはがんばり過ぎるから――」


私の心を読み取った様に憂は言った。

――憂には敵わないな。


唯「私、甘えちゃってもいいのかな?」

憂「私に甘えてくれるお姉ちゃんが大好きだよ」

憂は照れながらも最高の笑顔をくれた。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:49:57.97 ID:KJyVJ23C0

唯「憂、週末は憂の居る家に帰ってもいい?」

憂「もちろんだよ。美味しいご飯用意して待ってるから」


――なんだか、心が温かい。

私には帰る場所がある。
狭くて暗いアパートではなく、憂の居る――家族の居る本当の家が――。

帰ろう。

週末は優しい妹の待つ家に。

帰ろう。

心休まる憩いの場所へ。


    憂――ただいま。

http://www.youtube.com/watch?v=OfqS623ITT0

おしまい。



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 17:56:14.81 ID:KJyVJ23C0

さるさん食らわず何とか夕食前に全部投下できたよパトラッシュ……。
あぁ、散歩だね。わかってるって。

多分、飯食って散歩行って戻ってきた頃には落ちてるかな。

一応、言っておこうと思いますが先に言った書き溜め中の奴はこれじゃありません。
没にしたものをちょこっと改変して投下した次第です。
なので推敲もしていませんし、誤字脱字もあると思います。
見苦しい文章で申し訳ありませんが、暇つぶしになれば幸いです。

本当に、ごめんなさい。




45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 18:03:47.79 ID:0/MxlGmAO





46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 18:03:53.05 ID:glWieaFqO





47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 18:42:53.69 ID:AwqHnp9ZO

乙乙



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/24(土) 18:59:05.91 ID:FP4as8/YO





ジッタリンジンにも同名の曲があります。興味のある方はどうぞ。
「帰っておいで」 JITTERIN'JINN ジッタリンジン





関連記事

ランダム記事(試用版)




「帰っておいで」
[ 2011/08/18 10:36 ] 非日常系 | | CM(0)

コメント(アンカー機能)
●>>1と半角で書き込むと>>1と記事へのアンカーが生成される。
●*1と半角で書き込むと1とコメントへのアンカーが生成される。
上記の2つのアンカーが有効なのは該当記事のみ。

コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

サイト関連
メール ツイッター 最新記事一覧(30件)
ユーザータグ 検索

U:
P:
色々変更
好みのカラーコードをどうぞ

記事の背景色変更


本体の背景色変更


名前の色変更
IE8:重
火狐4.01:軽
chrome:軽


広告4
広告5
広告6