SS保存場所(けいおん!) TOP  >  ミステリィ >  唯「ミステリー!」#後編

お知らせ

SS保存場所は移転しました。
現在けいおん!関連の更新はしていません。
今後更新するかは未定です。
SS保存場所






唯「ミステリー!」#後編 【ミステリィ】


http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1258470504/

唯「ミステリー!」#前編
唯「ミステリー!」#後編






229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/18(水) 23:55:19.49 ID:2txrWpErO

幸・肆


翌日、私が向かった所は、この街にある警察署だった。
別に誰かが捕まったとか、そんなのじゃない。
ただの調べものだ、調べもの。


ならなんで、帽子にマスク、メガネなんかしているの?犯罪者なん?
と聞かれても仕方ない格好をしている。


これは……やはり昨日のことで、ほっとけと釘刺されたにも関わらず、
『唯』のことを調べようとしている、その罪悪感からだろう。


誰にも見つかりたくなかった。

逆に言うと、見つからなければ調べてもいいと考えた。
私は、結局知りたい気持ちに勝てなかったのである。



233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 00:00:43.31 ID:9qg6QhEVO


警察署に入り受付にむかった。
受付カウンターでは、中年の肉付きのよいおじさんが、肘をついてうとうとしていた。
こんな平和な街だ、やることもなくて暇なんだろう。


幸「すみません。この街で過去に起きた事件記録を見せてほしいのですが」

男「んあっ?なんだって?」


おじさんは私が来たのを見て、だるそうに伸びをする。
……ホントに警察署か、ここ?



234 名前:>>231ごめん、素で間違えた:2009/11/19(木) 00:06:20.61 ID:9qg6QhEVO


幸「ですからっ、過去の事件記録を見せてください!」


おじさんは私の頭の上から、足の先まで見下ろし、胡散臭そうに言った。


男「……じゃぁここに、見たい事件の日付、あとあなたの住所、氏名記入して」


やっぱりそうくるか!
様々な事件が綴られている帳簿は、まさにプライバシーの塊。
隅々まで見せてくれないとは思っていた。


しかし『唯』は、おそらくそう遠くない昔、おそらくこの街で事件に関わった可能性は高い。
見れなかったら無駄骨だ、引き下がらないと!



235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 00:11:41.14 ID:9qg6QhEVO


幸「私、その事件がいつあったかも分からないんです!
  でもどうしても知りたいんです!」

男「規則は規則だから、困るよ」


大方、私が女子高生だとわかってうわてにでたのだ。
よっし、じゃぁとっておきだぁ!


幸「そ、そんなぁ、グスッ」


泣き真似。
おじさんはギクッとし、カウンター奥の同僚からは、『あ~ぁ泣かした』空気。


男「分かった、分かったよおお嬢ちゃん」


意外に簡単♪泣いてみるものだね!


男「……ったく、めんどくせぇな」


…………めんどくさかっただけかよ。


―――
―――――
―――――――



237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 00:16:56.97 ID:9qg6QhEVO

―――
―――――
―――――――


男「とはいってもなぁ……
  だいたいいつごろか分からんと、膨大な量だよ?お嬢ちゃん」

幸「えっと、多分ここ一、二年の間だと思います」


憂先輩と軽音部の先輩が知り合って一年半。
憂先輩が関係あるなら、絶対にこの期間に間違いない。


男「二年て……。空き巣、引ったくり、そんなレベルからわんさかあるんだよ?
  どんな程度の事件なんだい?」

幸「多分……大きな事件。
  桜ヶ丘高校の女子高生が絡んだ事件……とかないですかね?」


ダメもとで聞いてみたのだが……

男「あぁ、あそこの高校で起きた大きな事件といったら、後にも先にもあの事件しかねぇなぁ。
  ちょっと待っとき。……えぇっと昨年の……?」


おじさんは棚をごそごそやり始める。

あった。あったのだ。やはり事件が。
そんな有名な事件なのか?……なんか嫌な予感がする。



238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 00:23:07.79 ID:9qg6QhEVO



男「はいよっ、これだろ?
  女子生徒自殺事件。この街始まって以来の大きな、嫌な事件だったなぁ」


おじさんから手渡された資料を食い入るように見つめる。


男「というか比較的最近の有名な事件じゃないか。
  この街の者ならみんな知ってるぞ?
  なぁ、お嬢ちゃん?…………お嬢ちゃん?」






なんだこれは。



240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 00:26:42.70 ID:9qg6QhEVO


一体どういうことなのか、事態がまったく飲み込めない。


なんで二人も死んでいるんだ?




『誰だ、これは?』




殺人? そして自殺?

それにこれって…………



241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 00:36:03.09 ID:9qg6QhEVO


幸「私、今春この街に越してきたんです。
  桜ヶ丘高校一年生で、軽音学部に所属しています」


資料の信じがたさに、自分が何を言っているのかも分からない。
体がおそろしく震えているのは確かだった。


嘘だ。資料が嘘なんだ。だって意味が無い。 意味が分からない。



男「へぇ軽音学部に!
  部活動また再開してるんだねぇ!」

おじさんは私が軽音部員だと分かった瞬間、私ににわかに興味を持ったようだ。


男「まぁ今年越してきたんなら、知らないだろうねぇ。
  あれは凄惨な事件だったなぁ。
  一人は殺され、一人は自殺。おぉ怖い怖い!
  最近の女子高生は狂ってんなぁ」


おじさんに何を言われても、私の心はさわりとも、なびかなかった。



243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 00:47:04.54 ID:9qg6QhEVO


男「どうだい?きがすんだかいお嬢ちゃん?
  終わったら早く帰ってくれー」


追い出されるように警察署からでた。

こんなに暑いのに帽子とマスクを着用している私は、周囲にはさぞ変に映るだろう。


そしてこんなに暑いのに、私はとても涼しい。
冷や汗が止まらない。
どうしてだ、どうしてこうなった……



その日、私は足取りもおぼつかず自宅へ帰った。

夕方にはひぐらしが泣き出した。
まだ八月も上旬なのに冷夏のせいなのか。

知らなければ良かった……
今さら後悔しても遅かった。



283 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 19:38:41.14 ID:9qg6QhEVO

律・肆


唯「えっ弦って交換するものなの?」

一同「なにぃ!?」


学園祭も近付いた、十月のある日は、唯の常識外れの質問から始まった。
唯がギターを『大切に』してるとこはありありと目に浮かぶなぁ。
でもギターの弦を変えることぐらい私でも知っとるわい!


唯「さわちゃん先生なんとかしてよ~」

さわ子「えぇー、やっぱりそおゆうのはお店の人に頼んだ方がいいんじゃなーい?」


絶対めんどくさいだけだろ……


唯「えぇっ、そこまでしなくても!」



285 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 19:43:53.17 ID:9qg6QhEVO


梓「いや!学園祭も近いのにこれじゃ練習にならないですよ!」


梓が唯に詰め寄る。
いつもは梓のやる気に振り回されっぱなしだが、今日ばかりは同意見だ。


唯「りっちゃんはお手入れなんかしないよねぇ?」

律「しとるわい!」

唯「ぶー、りっちゃんのくせにぃ」


一発グーをお見舞いしてやった。


―――
―――――
―――――――



286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 19:48:13.37 ID:9qg6QhEVO

―――
―――――
―――――――


律「はいはいとうちゃーく」

澪「じゃあ私ここで待ってるから」

梓「どうしてですか?」


聞くと、右利き用ギターばかりで鬱になるらしい。
自分が使えないもん見ても面白くないわな。
……ん?


律「あ、でも澪?なんかレフティーフェアやってるよ?」


―――
―――――
―――――――



288 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 19:52:54.90 ID:9qg6QhEVO

―――
―――――
―――――――


澪「ここは天国ですかっ!?」


そう言ってギターに魅入る澪は、
まるでおもちゃの王国にやってきた子供のように生き生きとしている。

楽しむ澪をおいて、ムギの所へ行く。

しばらくムギとマラカスをふって遊んでたら、どうやら唯のギターのメンテナンスが終わったらしい。

メンテはまたもやムギの恩恵をこうむった。
……借金だらけだぞー、唯。


梓「あれ、でも澪先輩は?」


帰る段になって梓が気づく。


律「あぁー、呼んでくるわー」



289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 19:59:16.30 ID:9qg6QhEVO


律「澪ー帰るぞー」

澪「やだ」

律「小学生か。澪しゃーん」

澪「やだ」


何かに一生懸命になってる澪を急かすのは気がひけるが……。
みんなを待たせちゃいけないだろう。
私は澪の襟を無理矢理引っ張った……。


澪「バカっ!」



290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 20:09:22.99 ID:9qg6QhEVO


ズシン!
澪がベースとともにしりもちをついた。


律「あは、何やってんだよ澪!」


いつものようによくあることだろー?
そう思ったのに……。



澪「もういいよ!」

律「……え?」

澪「……馬鹿律」


え?


―――
―――――
―――――――



292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 20:19:39.24 ID:9qg6QhEVO

―――
―――――
―――――――


紬「このあとどうします?」

律「そうだなー。よし!お茶にするか!」

梓「またですか……」

唯「ごめーん、私和ちゃんと約束あるんだぁ」

律「えぇー」


なんだよ唯、のり悪いなー!
パァッと盛り上がろうと思ったのに。


澪「えぇ和も来るの!?私も行っていい!?」

律「え?」



294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 20:27:08.90 ID:9qg6QhEVO


澪がこう言った時の心情は唯の時の心情とは、まったく違っていた。

澪……お前も行っちゃうのか?
私達おいてっちゃうのか?

……私より和のほうがいいのか?



唯「うんいいよー。
  和ちゃんに連絡してみるねー」

澪「はは、ありがとー!」


行くな……行くなよ……
澪をとるなよっ!
……ずっと、ずっと私のそばにいてくれよ……!


その時だった。



また……あの視線だ。



295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 20:33:29.06 ID:9qg6QhEVO


あの視線を感じる。
今度は背後からなんかじゃない。
まざまざと正面から、あの冷気が襲ってきた。


唯がこちらを見ていた。
まるで私の中の全てが見透かされているよう。
数週間前体験したのとまったく同じ感覚。

私は確信した。

唯が……唯が澪をストーキングしていたヤツだ!

澪は……澪は和にも唯にも渡さない!!
澪は私が守るっ!!


―――
―――――
―――――――



298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 20:39:24.86 ID:9qg6QhEVO

―――
―――――
―――――――


その時から私は、唯が澪に近づかないよう牽制した。
確かに和は悪気はない。
分かってはいたのだが、自分でも認めたくない、
つまらない感情によって、和も牽制するはめになった。


言うまでもなく、嫉妬、である。


お二人さん仲良いっすねー!
いやーいつもウチの澪がお世話になってますー!

ランチタイムしゅーりょー!
これから学園祭までは、昼休みも練習するから!


そう口実づけて、澪を離れさせた。
昼休み……



299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 20:45:28.96 ID:9qg6QhEVO


律「ふぅーん、もどれば?」

澪「えぇ?」

律「悪かったよ、せっかくの和との楽しいランチタイムを邪魔してさっ!!」

澪「はぁ?そんなこと言ってないだろっ!」


ほんっと素直じゃない。
これじゃ仲がこじれる一方じゃないか。

……それなのにやめられなかった。


後輩の梓に気ぃ遣われるなんて……かっこわる……私……。


梓「皆さん、仲良く練習しましょぁ………」



300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 20:50:54.18 ID:9qg6QhEVO

律「……そうだな……」

澪「……うん、やろっか……」





ジャッジャジャジャッジャッ
ジャッジャジャジャッジャッ
ウィーン
ダンダンダカダカダカ


澪「………ん?」








301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 20:58:23.48 ID:9qg6QhEVO


澪「律?ドラム、走りすぎないのはいいけど、なんかパワー足りなくないか?」


分かってるよ……

体に力入んねぇんだよ……

澪「おい!律っ

律「あーあ、なんかやる気出ないやー。
  また放課後ねー」


頼む、とめてくれ。
澪、私のこと好きだよな?
私のこと思ってくれてるよな?
私、意地張ってるんだよ。仲直りしたいんだ。ほんとは。

頼む、とめてくれ……。


―――
―――――
―――――――



303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 21:05:50.05 ID:9qg6QhEVO

―――
―――――
―――――――


一人外に出ると雨が降り出していた。


時雨。冷たい雨。まるで
『これに耐えないと、冬なんて乗り切れないぞぉ』
とでも、お天道様が言っているかのようだった。


律「…………上手くいかねーなぁ」


ポツリと一人言を呟き、どんよりと灰色の雲が立ち込めた空に向かって傘を開いた。


―――
―――――
―――――――



304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 21:10:51.06 ID:9qg6QhEVO

―――
―――――
―――――――


…………ん、







―――
―――――
―――――――



305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 21:15:53.75 ID:9qg6QhEVO

―――
―――――
―――――――


…………んん、良く寝た。

風邪ひいちゃったのかなぁ、長い間嫌な夢を見ていた気がする……


体が妙に軽い。ふわふわする。
ついさっきまで暖かな繭に包まれていたサナギが、宙に解き放たれたよう。


そうだ、澪に謝りにいかなきゃ。

私の気持ち、澪に伝えなきゃ。

私、澪のことが…………


―――
―――――
―――――――



307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 21:23:51.06 ID:9qg6QhEVO

―――
―――――
―――――――

走ってた。

私は疾走っていた………澪のところに向かって。


あれ、向こうに唯たちが見えるじゃん。
……唯めぇ、私がいない間に澪にちょっかいだしてねーだろーなー。


律『おーい、唯ー!!ムギー、梓ぁー!!』


……聞こえないのか?

三人の背後に立った。驚かしてやるぜ!


律『ばぁあ!びっくりしたろー、はは』


私の声は妙に響いた。

三人は振り向かない。……シカトとか質悪ぃーぞ。


律『おいっ、聞いてんのかぁ?』

唯「…………りっちゃん」


……私の体は空に浮かびあがった。



309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 21:54:35.76 ID:9qg6QhEVO

幸・伍


律「おーっす、ありゃ、幸一人か?他のみんなは?」

幸「こんにちは、律先輩。
  ムギ先輩と梓先輩は遅れるそうです。
  さっき会って話しました」

律「そっかぁ。お、お、お菓子~♪お菓子はまだかなぁ~っと♪
  っつーか、今日寒くないか、幸?
  八月とは思えねーな」


そう言いながら、律先輩は鞄を長椅子に放り投げた。
律先輩の言う通り、今日はやたら肌寒い。
冷夏とは聞いていたが、これじゃ夏服では風邪をひいてしまうレベルだ。



311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 22:01:10.61 ID:9qg6QhEVO

律「聞いてくれよ、さちー。
  今日さわちゃんがさぁ~……」

律先輩が愚痴を言い始める。
愚痴っていっても、可愛いものだ。つくづく平和な昼下がり。


……なぜこの先輩は私にしゃべりかけているのだろう。
なぜ半年もこうしていられるのだろう。

……律先輩、




あなたの平和、壊していいもですか?



312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 22:08:45.00 ID:9qg6QhEVO


律「おい、幸、どーしたんだよ?元気ないぞ?」


先輩の話を聞く私の反応が、いつもより鈍かったのだろう。
律先輩が私の顔をのぞきこんできた。


幸「……いえ、なんでもないです」

律「……いつもの幸らしくないぞぉ?
  ……あっ、さては梓と喧嘩したかぁ?
  しょーじきにいったら、仲介してやるぞ」


そう言って律先輩が私の肩ポンポンを叩く。

それでも私がうかない顔をしていたからであろう。
今度はさっきより心配そうな顔をして言った。


律「幸、ほんとに大丈夫か?気分悪かったら保健室連れてってやるぞ?」

幸「……いえ、気分が悪いわけじゃないんです……。
  ただ律先輩に答えてほしいことがあって……」



313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 22:15:18.32 ID:9qg6QhEVO


律「答えてほしいこと?
  なんだ、なんでも聞いてやるぞ?」

ほんとにかっこいい。頼れるいい先輩。
あなたがいたから、軽音部が回ってました。

……先輩は、間違いなく、軽音部の部長です。

私は…………私は先輩が大好きです。


でも…………







幸「……秋山 澪」



317 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 22:23:53.87 ID:9qg6QhEVO



ガタンッ

派手に椅子の音がした。

律先輩に殴られると思い、一瞬身が縮まったが、
律先輩はその場で立ち上がっただけであった。

こんなに狼狽している律先輩は見たことない。
目はカッと見開き、顔全体が引きつっている。
先輩の体が震える中、特に目を引くのはその手だ。
ギターの弦をはじいているようにも見えるし、
まるで何か機会を狙うかのように、ピクッピクッと動いている。


律「そ、その名前を、誰から聞いた……?
  ムギか?梓か?……憂なのか……?」



318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 22:26:36.13 ID:9qg6QhEVO


こないだのように怒鳴りつけるかと身構えていたが、律先輩は静かに聞いてくる。


幸「誰からでもないです。

  秋山 澪。この人は誰なんですか!?
  律先輩、知っているますよね?……いや、知らないはずないんです!
  ……去年まで一緒に練習していた仲間ですから」


律先輩はしゃべらない。黙ったままだ。

…………黙ったままなんて肯定じゃないですか。


幸「律先輩、答えてください!!なんでも……なんでも聞いてやるって言ったじゃないですか!!」



319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 22:32:05.67 ID:9qg6QhEVO


指のピクピクが速度を増した。

信じられない……。
……だって、軽音部はあったんだよ?
私……私軽音部のスタートに立ちあえたって喜んでいたのに……。


軽音部の結成も嘘だ! 初めての文化祭っていうのも嘘だ!!


お願いです……律先輩……。これ以上はこの半年の結晶を壊したくないんです……
これを言ったら……もう元には戻れない……


幸「……お願いします……何か言ってください……」








幸「 平沢 唯 先輩 」



321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 22:37:51.44 ID:9qg6QhEVO



ドスンッ

先輩は全身の力が抜けたように椅子に座りこんだ。
その顔は、まるでいたずらっ子が、しでかしたいたずらが発覚したときのような、
汚れない純粋な笑い顔だった。


唯「いつ気づいたの?」


半年間聞いてきた声なのに、声のトーンまで変わったような気がする。


幸「……『唯』のことが気になって、この街の警察署まで調べに行きました。
  けっこう大きな事件だったんですぐに分かって……
  事件録に、写真入りで関係者の詳細が書いてありました。
  ……びっくりしましたよ。 田井中 律 は死んでいて、
  平沢 唯 の写真が律先輩だったんですから」


律先輩、もとい唯先輩は、ははっと笑った。
観念したように、穏やかな顔でご名答だよ、幸、とつぶやく。



325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 22:42:58.28 ID:9qg6QhEVO


唯「じゃあこのカチューシャも、もう意味ないな」


そう言って、いつもの、あの黄色のカチューシャを取り外す。
押さえ付けていた前髪が、目までふりかかった。


唯「ほんとに幸の行動力はすごいな、あずにゃんにひけをとらない、ふふ」


あずにゃん……梓先輩のことか……
『律先輩』は梓先輩をそうは呼ばなかったんだろう。



326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 22:47:15.02 ID:9qg6QhEVO

唯先輩は微笑しながら続ける。


唯「んー、澪ちゃんの名前が出た時点で観念した。
  澪ちゃんが分かって私が分からないわけないもんな。
  ……まぁでも他の三人が口外しなかったのはえらいっ!しっかり口止めしてたからなぁ」


そんなこと……


幸「そんなことが聞きたいんじゃありません!!
  どうしてですかっ!?どうしてこんなことする必要があったんですか!!?

  私……私律先輩のこと、ほんとに頼りにしていたんですよ……?
  半年もっ!!半年も、何も知らない私をのけ者にして、
  あなたたちは私の信頼を裏切り続けてきたっ!!!
  …………どうして……」


呼び慣れた名前が違うと分かっていても口をついた。

高ぶる感情、押さえきれない怒り、大きな喪失感が私の瞳を濡らす。



329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 22:52:38.74 ID:9qg6QhEVO


唯「泣くなよぉ、幸!別にのけ者にしていたわけじゃないさ。
  新入部員にのっけから暗い話するわけにいかねーじゃん。私達なりの配慮だよ」

幸「ヒック……ほんとにそれで慰めているつもりですか?
  ……それは、それは律先輩が『 田井中 律 』を演じていた理由にはなっていません!!!」



332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 22:59:14.72 ID:9qg6QhEVO


ここで初めて唯先輩に恐怖の色が浮かんだ。
そこに、その理由の全てが、詰まってる。


唯「そ、それは……
  そ、それはねっ、幸、私がりっちゃん演じないと軽音部暗くなっちゃってさぁ!
  あずにゃんもムギちゃんもなんも喋んないんだもん! 悲しんじゃってねー」



『律先輩』のしゃべり方がとけて、地がでてきた。
唯先輩は焦っているに違いない。


幸「…………じゃあなんで 秋山 澪 じゃないんですか?」

唯「!!」



335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 23:02:58.71 ID:9qg6QhEVO


再び指のピクピクが始まった。

幸「だっておかしいです!!
  秋山 澪 をストーカーして自殺においこんだのは 田井中 律 でしょう!?
  なら、この部にいなければならないのは澪先輩のほうなんじゃないんですか……?
  どうして唯先輩は犯罪者のまねごとなん

唯「りっちゃんは犯罪者なんかじゃない!!!」



341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 23:06:34.75 ID:9qg6QhEVO


その大声に圧倒され、私は言葉を失った。
唯先輩の顔は、再び引きつり、目は焦点があっていない。


唯「りっちゃんは犯罪者じゃないよ……?
  ……犯罪者なのは私なんだ……

  りっちゃんを止められずに、みすみす二人を死なせてしまった……
  悪いのは……全部私……りっちゃんは悪くない……」

幸「……唯先輩?」


唯先輩は虚空に向かって、一人言を呟き始めた。
……まるでそばにいる『りっちゃん』を慰めるように……



342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 23:09:53.85 ID:9qg6QhEVO


唯「りっちゃんは悪くないよ……?
  りっちゃん、様子おかしいの分かってた。なのに止められなかった、私のせい。
  りっちゃんは軽音部からいなくなっちゃいけないよぉ、部長さんだもんね、えへへ」


その様子に、私は背筋がゾクッと凍りつく。
放っておくと永遠に会話を続けるんじゃないか。


幸「唯先輩っ!!」

唯「ほぇっ?」


あぁ、もう完全に『 平沢 唯 』だ。もう完全に別人なんだ……


『律先輩』は完全にこの世から消えてしまったのだ。


……しかし、まさか唯先輩は……



343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 23:13:45.63 ID:9qg6QhEVO

まさか唯先輩……


幸「唯先輩、どうしてそんな律先輩のことを……」

唯「…………」



347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 23:18:07.62 ID:9qg6QhEVO


唯「…………」

唯「……私、りっちゃんのことが好きだったんだぁ」

唯「好きって、友達としての、じゃないよ……?
  楽しいし、面白いし、頼りがいがあるし……」

唯「交わりたいって思った……いけないことだよね、やっぱり……へへ」

幸「先輩……やっぱり……」


私はそれが悪いことだと思わない。

だって……私だって……



348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 23:22:22.24 ID:9qg6QhEVO


唯「……でもね、りっちゃんには澪ちゃんがいたんだよ……。
  二人はほんとに仲が良かった。私が立ち入る隙間なんてなかった……」

唯「私は諦めたの。
  ……もちろん澪ちゃんのことは少し憎かった。
  でもね、澪ちゃんも私の大切な友達。私澪ちゃんも大好きだもん」

唯「そしたら去年あの事件が起きた」

唯「一度に二人が死んで、私達軽音部は奈落の底に突き落とされた……。
  あの時のあずにゃんの悲しみようは見てられなかったよ……」



349 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 23:28:48.60 ID:9qg6QhEVO


唯「当然、軽音部は活動中止。
  ……四月に言ったように、ムギちゃんの家で練習してたけどね、ふふ」


唯「全校生徒には正確な情報は隠されたの。
  ……なんか学校は自分の学校で殺人があったなんて知られたくなかったみたい」

唯「……でも、りっちゃんが悪かったらしいっていう噂はすぐ広まっちゃった」

唯「……りっちゃん…可哀想だよぉ、ヒック
  だ、だって死んだ後にも、わ、悪く言われて……」

唯「わ、私……嫌だったんだ……りっちゃんのこと悪く言われるの。
  り、りっちゃんが犯罪者のまま、みんなの記憶に残り続けるなんてた、堪えられなかった……」

唯「だから……だから私がりっちゃんになって、りっちゃんの評価を取り戻した」



352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 23:37:59.03 ID:9qg6QhEVO


唯「ムギちゃんもあずにゃんも、そして憂も、私がしたいこと分かってくれて」

唯「もちろん、私はずっと 平沢 唯 。
  でも、周りも私の行動を見て、生前の優しいりっちゃんを思い出してくれた」

唯「噂は消えて、ただの自殺事件として片付いたの」



358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 23:54:37.41 ID:9qg6QhEVO


幸「……今思えば、みんな先輩のこと『唯』とか『お姉ちゃん』ってよんでましたね……。
  初日には、ムギ先輩、このあいだは憂先輩が……
  ……あれ、先輩のこと呼んでたんですね。
  はは、なんで気付かなかったんだろ、私……」


先生も名字、二人分しか呼ばなかったではないか……


幸「唯先輩がギターが上手なのも納得です。当たり前ですよね……」

唯「あずにゃんには、悪いことしたなと思ってる。
  ……ベースほんと弾きにくそうだったもんね……
  私なんかすぐドラム諦めたのに……あずにゃんは最後まで頑張ってくれてた。
  ほんといい後輩だよぉ……」

幸「唯先輩がドラム、どこか澪先輩の面影のある梓先輩をベースに、軽音部再結成ですか……


  ……でも、そんなの……」



360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/19(木) 23:56:41.46 ID:9qg6QhEVO


幸「……でも、そんなの……」


やめたほうがいい。今の唯先輩に追い撃ちをかけてはいけない。


幸「でもそんなの何の解決にもなっていません!」


やめろ。


幸「誰を誰に仕立てあげたって、その人は戻ってきません!」


言うな。


幸「死んだ、その事実を受け止めて、生き残った者が『自分』を生きないでどうするんですか!?」


唯先輩が……


幸「今の唯先輩を見ても……きっと二人の先輩は喜びません!!」



ピクリ



362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 00:00:10.93 ID:mbJUUyGXO


一瞬だった。


唯先輩は懐から刃物を取りだし、あっという間に自分の喉につきつけた。


幸「唯せんぱっ、

唯「こないでっ、幸!!」


私はビクッとして足がとまる。馬鹿っ、何やってんのよ私の足!!動けっ!!唯先輩を止めなきゃ……


唯「きちゃダメだよ……
  こんな大嘘つきさんに触ったら、幸がよごれちゃう……」


嘘だっ!そんなこと私思ってないっ!
動いてよぅ!



365 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 00:03:28.04 ID:9qg6QhEVO


唯「ごめんね幸……私最後まで頼りない部長だったね。
  うん、まったく幸の言う通りだ、はは」


そう、分かってた……。
こんなことしてもりっちゃんは還ってこない……。

私のわがままで、みんな共犯者にしちゃったよ……ほんとにごめん……。

ムギちゃん、あずにゃん、私の戯言に付き合ってくれてありがとう。

……最後に抱きつきたかったなぁ。

憂、最近あなたの『お姉ちゃん』やってあげれなかった。ほんとにごめんね。

澪ちゃん、『これ』使わしてもらうね。かわいいよね?澪ちゃんにぴったりだよ。


唯「りっちゃん、今行くから」


そう言った時、唯先輩は笑っていた。ほんとに幸せそうな顔で。


幸「ダメですっ!!!!」


瞬間、呪縛が解けた私は、唯先輩に向かって手を伸ばした…………



372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 00:12:05.13 ID:mbJUUyGXO

律・伍


律『えっ……ちょっ!』

私の身体は地上から1mくらいの場所で静止した。

……は?なにこれ?


律『……ははっ!おーい唯ー、私空飛べるようになったぜー!……』


誰も振り向かない。


律『っ、おい、いいかげんにしろよっ』


正面に周りこんで、愕然とした。

誰も、誰の目もピクリとも動かない。

もしかして、私、見えてない?



376 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 00:15:18.44 ID:mbJUUyGXO


なんだこれ。何が起こってんの?

冷静になれ、足りない頭で考えろ。

自分を落ち着けた私。落ち着けようとしたのにのに……


律『……なんでこんなに人がいっぱい……』


なんで気づかなかったんだろう。三人の周りにはゴマンと人が座っていた。

……しかも


律『喪服じゃねーか』


そこにいる人間全員が黒に身を包んでいた。
落ち着けた心臓の鼓動が、跳ね馬のように一気に暴れだす。じわりとあぶら汗が滲む。


律『……どこだ』



378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 00:18:50.99 ID:mbJUUyGXO


律『……どこだ』


私は無意識に何かを探し始める。
心臓は早鐘を打ったかのようだ。


花が飾られた祭壇。私は滑るように棺に駆け寄り……




心臓が、一回飛ばして打った。



いや、そもそもこれは心臓なのかが怪しい。



二つの棺の中に眠っているのは…………澪と私。



379 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 00:21:31.08 ID:mbJUUyGXO


律『ちょっ、ちょっと待って、なんで私も澪も死んっ!』


なんとも奇妙な気分だ。
自分で『自分だったもの』を見下ろす。

土気色の私の隣に眠る澪の顔は驚くほどに白い。
ちょっとピンクがさせば、いつもの澪じゃんか……


律『どうしてっ!!どうしてだっ!!どうして澪が死んでる!!?』


私のことはもうどうでもいい。
なぜ、澪が、澪が死んでるの……?
どうして何も覚えてないの……?

どうしていいか分からず、涙が溢れてきた……その時……


『お迎えにあがりました』



380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 00:25:52.48 ID:mbJUUyGXO


律『っ!!』


凍りつくような声に、私はギョッとして振り向いた。

そこにいたのは……身の丈2mもあるボロ布……

かと思えば、顔の所にポッカリ暗い穴のあいたフードを被った、何か。

私は直感的に感じた……ソレは、私を絶対『いい所』へは連れていってくれないだろう……。



382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 00:28:30.90 ID:mbJUUyGXO


律『だ、誰だおまえは!!』

『おやおや、申し上げましたように、あなたを迎えにきました死神ですが?』


死神だって!?そんな漫画そっくりの死神がいるかってんだ!!

ソレの声が私は嫌いだった。
よくニュースで、『音声は変えてあります』とある時のあの声……。
あの人口的で、暖かみがない、甲高い声……。


死神『ふふ、さぞ怖がっておられるようですねぇ。
   私がどんな風に見えるか存じませんが、
   私の姿は、あなたのイメージを反映してますから』


それで……


律『ふざけんなっ!死神が私になんの用があるってんだ!!』



383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 00:31:46.93 ID:mbJUUyGXO


死神『おやおや、物わかりの悪い方だ。
   あなたは死にました。ストーカーなんて馬鹿な真似をしてね』

律『はっ!!私がストーカー!?あれは、唯が……』

死神『ちょうどいい具合です。今唯さんが真相を語ってくれますよ』


見ると唯が二人に何かしゃべりかけていた。……真相?


唯「澪ちゃんと、りっちゃんが死んだのは私のせいだ……。
  私、澪ちゃんがストーカーにあったって言った日から……
  りっちゃんの様子が変なことに気づいていたの……」



384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 00:36:09.95 ID:mbJUUyGXO


梓「……ヒック、唯せんぱい?」

唯「まるでりっちゃんの中に、もう一人りっちゃんがいるみたいだった……。
  そのりっちゃんは……多分澪ちゃんの、自分に対する愛が揺らいだと感じたとき、
  出てきてたんだと思う……」

唯「そのりっちゃんは……その、怖かった。
  『澪は私のものだ!』『私のものになるまで放さない!』……絶対そんな目だったの、ヒック」

唯「私は……私はそれにずっと気づいてて、り、りっちゃんの挙動を見守っていたの……。
  な、なのに……なのにっ、二人とも死んじゃった……!
  どうしよう……私のせいだっ!私のせいでっ!」

紬「唯ちゃん……それが唯ちゃんのせいなわけないじゃない!
  私達だって……私達だって、全然気づかなくて……グス」

…………



387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 00:39:26.52 ID:mbJUUyGXO


死神『クスッ、あはは、はい、お分かり?』

死神『?ククッ、りっちゃーん?』




嘘だ。

私はまだ夢を見ているんだ。

私がストーカー?澪のことを思うあまりに?……自分を忘れて?

ばかばかしい、そんなことあるわけない。嘘だ。



―深層心理が表にでるって怖いですね……―



397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 01:17:20.69 ID:mbJUUyGXO


突然の梓の声に、私は驚いて顔をあげた。


律『死神っ、お前か!?』


死神はククッと笑いながら続ける。


―そうよ唯ちゃん?ストーカーがエスカレートして殺人事件まで発展することもあるのよ?
相手を思いすぎるあまりに、ね。歪んだ愛、というものなのかしら―


今度はムギの声。


律『やめろおぉ!!汚れた姿であいつらのマネすんなあぁぁ!!』


私は激昂した。

事実なのか?……ほんとに私が澪をストーカーしていたのか?

……私が澪を脅えさせていたのか……。


はっ!!じゃ、じゃあまさか、私が死んだのって……


死神『はい、その通りです。あのグッズはしっかり役割を果たしましたね、クク』



399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 01:23:39.22 ID:mbJUUyGXO


あざ笑いながら、死神は祭壇を指差す。

そこにはあの日買った、あの護身刀が、綺麗に血を拭き取られ安置されていた。


律『そ、それじゃあ、まさか私は……』


私は浮遊している自分の体を見た。



穴が空いている。
ちょうどみぞおちのあたりに、細長い穴がポッカリと空いていた……


死神『そ♪澪ちゃんは見事、ストーカーを撃退したのでした♪
   ま、そのままそれで自分の胸を貫いたけどね』



401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 01:29:20.75 ID:mbJUUyGXO



なんてことだ。

澪が私を刺したのだ。

そして、それが私だと分かり……自殺した……。


死神『あの時の澪ちゃんの顔最高だったなぁ♪
   自分の親友がストーカーで、そいつ、刺しちゃったんだもん。
   あの時の絶望した顔、悲痛の叫び、胸から吹き出る血潮、たまんなかったぁ、ククッ』


死神はしたてに出ることも忘れ、自己の快想に浸っている。

澪の遺骸はきちんと整えられ、胸の傷は見えなかった。

しかしそこからは、今も血が溢れているような気がする。

その血は、私にまとわりつき、締めつけ、染みこみ、何度も言ってくる。



『律のことは信じていたのに』



404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 01:35:30.43 ID:mbJUUyGXO


死神『さぁって、そろそろ行きましょうか』


死神がそう言った途端、視界が暗転し、回転しだした。

律『ちょっ!!待ってくれ!!
  まだみんなを、家族を、軽音部のみんなを見ていたい!!』

死神『はぁ?無理無理、もう行くんだよ。
   ……まぁ、そう落ち込まなくていいよ、喜べ。
   一年もしないうちに、お仲間さんがやってくるしさぁ』


死神はおかしさを堪えられないかように、体をよじる。



406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 01:41:01.01 ID:mbJUUyGXO


律『お仲間?それ、どういう意味だっ!?』

死神『まぁ待ってりゃ分かるって、ヒヒ。
   どっちにしろ、君はもう、軽音部のみんなを見ることもねぇな』


そんな……。

父さん、母さん、聡……

ムギ、梓ぁ……

唯ぃ……唯ごめんな、私が間違ってた……


もうみんなとは会えない……お別れだ。


でも……


律『なぁっ!!澪は!?澪なら会えるだろっ!?澪も死んだんだし!!
  私謝るから!澪を傷つけてごめんって!
  これからは澪を怖がらすことは絶対しないって謝るから!!』



407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 01:46:17.60 ID:mbJUUyGXO


死神『あぁ澪ちゃんね……』


死神はそう呟いたかと思うと、突然高笑いし始めた。

その内臓にまで響きわたるような凍りつく声に、私は戦慄する。


死神『アァーハッハッハ!!キヒッ、クククッ、君は澪ちゃんとはもう会えないよ、ククッ』



410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 01:51:56.45 ID:mbJUUyGXO


律『どうしてっ!?』


私がそう言うと、死神は突然フードを脱いだ。
その下から顔を出したのは、生気のない、土気色の、のっぺりした顔。
口は耳もとまで裂け、目は下弦の三日月を描いている。

その姿を見た瞬間、私の視界の回転は強くなり、強い目まいがしてきた。


死神『だってさぁ……




―こんな刀で刺されたストーカーさんは、間違いなく地獄いきだね!―



413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 01:58:29.83 ID:mbJUUyGXO


あぁ……唯の声だ……そっか私が行くのは……


…………ああ……澪……

あのころに戻りたいよ……

澪とずっと一緒に……ずっと一緒にいられると思ってたあのころに……


私も大好きだよ、澪。



414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:03:35.70 ID:mbJUUyGXO


目まいが強くなる。目を開けていられない。……もう時間なんだ……。

私が見る現世最後の景色。
薄れゆく意識の中、私が最後にみたもの。
ソレの口がニヤリと耳もとまで裂け、さぞ楽しそうに大きく口を開ける。

だってさ……


ソレはこうのたまわった。







『 行き先が違うんだから 』


-Fin-



428 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:25:27.10 ID:mbJUUyGXO

終わりです。三日間、保守、支援、ありがとうございました。

最後言葉足らずでgdgdになりましたね……刀で刺された『ストーカー』は地獄行き、
唯は自分の意志で律を追った、と解釈していただければ嬉しいです。

軽音でシリアスやるの、なんか難しかったです。。。
オリキャラだして、不快感感じた方、すみません。
あずにゃん主人公にしようかなとも思ったけど、
それだと入部時、人数が三人しかいなくなって廃部になっちゃうんで……




415 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:04:15.17 ID:nOyRqXETO

同じ刀で自殺したんなら澪ちゃんも逝き先同じでは…?



416 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:05:51.08 ID:ZO4EGnVA0

乙ー

>>415
まぁどっちにしろ唯来るまでの辛抱じゃね?



418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:07:49.86 ID:3cc44t0UP



欲を言えば幸編の続きを読みたい



419 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:08:38.73 ID:CEyBwcKVO

おつ!



420 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:10:13.05 ID:nOyRqXETO

楽しかった

あの天然唯が他人になりきれちゃう辺りが一番のミステリーな気がしないでもないがw



421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:10:51.37 ID:6+C6Yb7H0

>>1乙

結局唯は何なの?なんで地獄いきなの?orz



423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:16:02.69 ID:xKVlCvO60

>>421
キリスト教では自殺は地獄行きだからじゃない?
護身刀にラファエロ像が、とか書いてあったし



426 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:21:27.23 ID:Ko+jDmcBO


せめて律の分まで唯は生きててもらいたかったな。

おもしろかった。



427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:25:10.19 ID:YfvlDi7gO

いちおつ
幸は結局唯を止められなかったのか…
残されたけいおん部どうなってしまうん



429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:29:22.23 ID:z0fxq8f20

誰も救われないエンドは苦手だー
とにかく乙でした



432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:32:16.20 ID:DRrIX0p7O


ただ唯が律のふりをしてる理由がちょっと弱かった気がする
律を殺した犯人をおびき出すために律が生きてるように装ってたのかと思った



433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:37:38.89 ID:yEfHvyc60

良かった乙!

>>あぁ……唯の声だ……そっか私が行くのは……
>>唯は自分の意志で律を追った
唯は地獄に来たの?自殺した人は行き先を選べるってこと?



434 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 02:41:28.31 ID:nOyRqXETO

>>433
唯は律が死んだあとも律に執着し続けてた = ストーカーみたいなもんじゃね?
という解釈はどうだろう



435 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 03:00:17.69 ID:yEfHvyc60

>>434
それは何となくわかってたけど行き先選べるなら
澪が律に会いに地獄に来てくれたらなんかいいなと思ってさ
俺の中でそうやっていい方向に完結させたいだけなんだけどねwwww



436 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 03:14:02.33 ID:YfvlDi7gO

唯が律になって周りの悪い噂をなくす事が出来たのに
その時唯はもう律をやめる事が出来なかったのかな?

憂ちゃんかわいそう…



437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 03:51:57.54 ID:eQ7Uz66TO





438 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 04:22:42.35 ID:IwNaP2V0O

乙!
りっちゃああああああああぁああああああああぁん!!!



443 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/20(金) 10:36:05.23 ID:NMEjaYdeO

おつ






関連記事

ランダム記事(試用版)




唯「ミステリー!」#後編
[ 2011/08/22 22:34 ] ミステリィ | | CM(0)

コメント(アンカー機能)
●>>1と半角で書き込むと>>1と記事へのアンカーが生成される。
●*1と半角で書き込むと1とコメントへのアンカーが生成される。
上記の2つのアンカーが有効なのは該当記事のみ。

コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

サイト関連
メール ツイッター 最新記事一覧(30件)
ユーザータグ 検索

U:
P:
色々変更
好みのカラーコードをどうぞ

記事の背景色変更


本体の背景色変更


名前の色変更
IE8:重
火狐4.01:軽
chrome:軽


広告4
広告5
広告6