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唯「天上のノモス!」#前編 【学問・古典・文学・哲学】


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唯「天上のノモス!」#前編
唯「天上のノモス!」#後編




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 01:22:55.73 ID:7A3qvQVI0

ノモス(νフμοツ,nomos)→一定の集団(集合)における秩序、
           およびその秩序が保たれている状態。


-2009年 12月16日 琴吹邸

唯「重いよぉ~」

律「もっと腰を入れろ腰をっ!!はっ!」





3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 01:27:41.78 ID:7A3qvQVI0

律「重いだとぉ!!だいたいお前が…」

しゃららーん。

紬「唯ちゃん、りっちゃん、こっちの首尾はどぅ?」

律「しゅい、しゅ、しゅびだと…、それ本気でいってんのか!?
  アタシの腰のあたりをみろ!!これはいわゆる奴隷的な…」

唯「こっちのせってぃんぐはおわったよぉ!」



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 01:36:05.80 ID:7A3qvQVI0

12月16日 京都府の某市琴吹邸の第三小広場は電飾、装飾などの準備に忙しい。
いわゆる、というかまさに、クリスマスパーティの準備である。

だのに、琴吹の使用人たちの混じって、なぜか唯や律が同作業を手伝っているのがみえる。
(唯のそれはかいがいしく、律のそれは面倒くさそうに)

紬「あ、ありがとう!
  後は、"ツリー"達を運び出すだけよぉ♪」



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 01:43:08.63 ID:7A3qvQVI0

唯と律は、琴吹邸第三小広場における、
クリスマスパーティ用のセッティングを手伝っているのだ。
(今年はこの第三小広場をあわせて、琴吹邸の三箇所は数回に分け、
 クリスマスパーティに利用される。)

なぜ彼女達が琴吹家のクリスマスパーティの準備を手伝わねばならぬのか?
…それは12月15日にまで遡らなくてはならない。



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 01:49:00.08 ID:7A3qvQVI0

2009年 12月15日放課後 音楽室にて

さわ子「はいっ!唐突ですが…

さわ子「冬休みに約十日間を残して…律ちゃん、および唯ちゃんには
    クリスマス約一週間以上前の素敵なプレゼントがありますっ!!」

律「は、はぁ…?」

唯「やったぁーーーー!!」

澪「イライラ…」

梓「…」



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 01:59:50.37 ID:7A3qvQVI0

唯「え、さわちゃん、なにぃ!?なんのなぉー!?
  賞品はなにがもらえるの!?」

律「いや、そんなんじゃないだろ…」

律は薄々というか、必然、という言葉は
今使われるんだろうな、という覚悟のもとにある。

冬休み前、それまでに蓄積された諸テスト及び授業態度の結果…

唯「この間の文化際で全生徒を魅了した賞… さわ子「んなわけあるかこの馬鹿どもがよぉ!!!」

さわ子「おまえら、今学期の授業態度とその"素敵に予想される"
    結果についてかんがえてみろやあ!!こらぁあ!!!」

さわ子が久しぶりにキレている。
ただ事ではない。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 02:09:39.71 ID:7A3qvQVI0

さわ子は数枚の小片紙切れを律&唯に叩きつける。
(とはいっても、空気抵抗でふわふわ浮いてしまたが)

噛み切れどもは今学期中における二人の成績の結果だ。
両人とも、桜が丘高校高普通科二年生のワースト10に見事にランクインしている。

さわ子「いいかしら…」

さわ子「私立高校ってね、校長先生えーんど教頭先生のチカラが
    ものすんごい強いの、公立校に比べて。」

さわ子「だ、か、ら…」

さわ子「なぜか、アタシのボーナス査定にあんたら二人の成績が加味されてんのだよぉぉぉ!!!」

唯「そうなんだ!!やったねさわちゃん!!」

律「おまmmっ!?」



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 02:18:09.12 ID:7A3qvQVI0

さわ子「ふざけなさいっ!!
    つデー判定よ!D、Dっ!!」

さわ子「A判定と※※パーセント以上の開きがあんのよっ!!」

さわ子「…ふぅ。」

さわ子「なんでアタシがあんたらの担任の連帯責任まで負わなきゃなんないじゃこらぁぁぁ!!」

さわ子「今年度は副担任で、
    問題があるクラス担当じゃないと思ったらっ!!」

桜ヶ丘高校の教員賞罰規定を唯&律が知るはずもない。

さわ子「といううことで…」

さわ子あなたち二人に罰を下します、生ビール350缶234本分の。」



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 02:28:43.96 ID:7A3qvQVI0

さわ子「クリスマスイブ及びクリスマス、元旦だけは休みをあげます。」

さわ子「それ以外の冬休み全日は、私が指定する冬季講習講師のもと、
    補講に勤しみなさい。」

さわ子「講師陣は、秋山澪、琴吹紬、真鍋和…」

さわ子「以上っ!!」

澪「はぁっ!?先生、聞いてな… さわ子「りっちゃんとゆいちゃんを甘やかしたあんた達にも連帯責任っ!!」

さわ子「日程等は講師間で自由に決めてよし。
    で、もし、年明け期末テストで二人の成績が二年生文系普通科の過半数以下なら…」

さわ子「…講師陣およびりっちゃんとゆいちゃんをアタシが自由にさせてもらうわ。」



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 02:38:04.55 ID:7A3qvQVI0

さわ子は、紬を真バイセクシャル化したほどの性剛だ。
女生徒にとってはまず、生涯の屈辱になることは間違いあるまい。

律「んな横暴… さわ子「異議は認めません。」

さわ子「あ、ついでだから梓ちゃんも、二人について講師陣に勉強見てもらいなさい。」

梓「はぁっ!!?なんでですか!!わたし、学年上位28番…」

さわ子「あずさちゃんが "ぱいぱん" てのは本当なのかしら?
    ぜひ確かめてみたいわぁ…」

梓「!?」

さわ子の目つきが尋常ではない。



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 02:51:34.38 ID:7A3qvQVI0

さわ子「せっかくだから、憂ちゃんも参加させましょう。」

唯「え…」

唯と律の最終評価がどっちに転んでも、さわ子にはプラスになるように、と。

そして講師陣間で協定がまとめられる。

各講師が、三日ずつで四生徒(唯、律、梓、憂)の授業を見る。

紬→16,17,18

和→19,20,21

澪→22,23,24(24日は午前中のみ)

紬→26…

という具合だ。
ちなみに冬休みに入るまで18日~23日は
各講師の家に泊まりこんで講義を受けるということになった。
なので、12月16日の午後五時には、唯と律は琴吹家に滞在しているというわけ。



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 03:03:58.36 ID:7A3qvQVI0

12月16日に戻る。
この日の放課後、"生徒"達は琴吹家のクリスマスパーティ準備を手伝っていた。

梓「紬先輩!!」

琴吹家の第16番蔵から出てきた梓が紬に呼びかける。
梓と憂も当然琴吹邸でクリスマスパーティの準備を手伝っている。

梓「なんか斉藤さんたちがツリーを出すのに手間取ってるみたいで…」

斉藤とはご存知のごとく、琴吹家の執事である。



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 03:11:41.14 ID:7A3qvQVI0

紬「あらあら…りっちゃん、ゆいちゃん、一緒に来て頂戴♪」

律「…わか、っりましたよぉ…」

唯「了承!」

片方は渋々、もう片方は楽しげに従う。
律はまあ、今日の力仕事に辟易しているんだろう。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 03:21:33.33 ID:7A3qvQVI0

-琴吹家 16番蔵-

琴吹家の16番蔵は"軽音部員達がクリスマスパーティを行う"広場のすぐそばにある。

唯「これがムギちゃんちのクリスマスツリー?」

高さ3メートルほどの小ぶりなモノ、である。

律「こんなちっこいのに、人数集まっても運べないんかよ…」

唯律紬梓憂の他に、斉藤をあわせて10人ほどがツリーの周りに集まった。
斉藤以外にももちろん男性は居あわせている。

紬「斉藤、この樹を軽音部用のパーティに使うはずよね?」

斉藤「はい、ですが…」



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 03:35:25.77 ID:7A3qvQVI0

斉藤「実は鉢植えの方に琴吹家の御家紋封印がしてありまして…」

紬「あらあら…」

おそらくは杉ノ木でできた、封印らしきもの?
(つまり板片と縄上の綱、板には牡丹をデフォルメした琴吹家の家紋と…)
がこの樹に掛かってある。

紬「…あら?」

紬は板辺に目を向ける。

この板片の、琴吹の下に、

LIGUNUM VITAE

と墨で書かれていたのだ。



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 03:45:56.55 ID:7A3qvQVI0

紬「リグヌム・ヴィタエ?」

斉藤「はい、ラテン語のようでございます。」

斉藤「訳すれば『生命の樹』です。
   クリスマスツリーの由来の関係で、耳にしたことのある言葉ですが…」

紬「でも、この十六番蔵にあるものでしょう?」

琴吹家本宅には一~二十番までの蔵がある。
そのうちで十六番蔵には、祭事や私的パーティ用の物品が納められている。

そして、この蔵の所蔵物の存廃は、
紬の父でなくとも、執事の斉藤自身の処断で行うことができる。
つまり、それほど重要の無い物品が納められているということだ。



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 03:55:17.17 ID:7A3qvQVI0

紬「お父さんか御祖父様より上のご先祖様方が、
  外国の方より頂いたものかしらね。」

紬「だけれど、この蔵の処断が斉藤、
  あなたに任されているから…」

唯「私はこの樹を使ってあげたいなぁ…」

律「樹っていうか、これ、造花の仲間だろ?」

この樹は実際の生ある樹ではない。
モミの樹を模した卑金属とも合成樹脂とも判別のつかぬ物質で作られている。
色など見た目は実物に極めて近いが、よくよく凝らせば、贋物由来の光沢がある。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 04:07:50.20 ID:7A3qvQVI0

唯がこの樹に目を付けたということか。

紬「お父さんの許可も必要ないでしょう。
  封を解いてしまいなさい。」

斉藤「…」

斉藤「はっ。」

ほんの少し躊躇したあと、斉藤は封印をはずす。
そのあと、この『生命の樹』鉢植えを数人かかりでかかえて小広場に運んでいった。
律が少し不満げに唯に、ぶつくさ、する。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 04:12:10.21 ID:7A3qvQVI0

律「ゆぃよぉ、あれ偽物ジャンか~」

唯「えー、ツリーに偽物も本物もないよぉ!」

唯「カワイイか、そうじゃないか、だよ!りっちゃん!!」

唯は律の言葉をかわし、広場に置かれたこの『生命の樹』の頂点へと目を向ける。
頂点のすぐそばかつ彼方には、方角も知れず夕闇の中、いくつかの星々が光を放っていた。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 04:22:08.57 ID:7A3qvQVI0

-二〇〇九年十二月十六日午後七時半頃ー

十六日分の作業を終え、夕食をとった後、
唯たち仮居候は入浴を終えたあたり。
琴吹家浴室、脱衣所にて(ちなみに脱衣所だけで二〇畳はある。)

唯「あずにゃんて、ホントになんにも生えてだねぇ!」

竹づくりの浅敷に腰掛けて、下着姿の唯がそう言う。

梓「…」

疲れた表情の梓。

憂「おねいちゃんっ!!失礼だよっ!!」



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 04:32:32.56 ID:7A3qvQVI0

律「マァ、発育の度合いには個人差がありましてェ…」

"手団扇"をひらひらとさせる律も、上下、下着姿。
紬、梓、憂も同じく。

律「例を出せばさ、」

律「あの某超有名コピーライターなんてさ、
  高校生まで"チンゲ"が生えなかったらしいぞ。」

梓「…」

紬「あらあら♪」

紬はうれしそうだ。



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 04:41:48.17 ID:7A3qvQVI0

梓「もう…いいです…」

梓は伏目。

紬「さてさて♪」

紬「艶話はお休み中、お布団の中にして…」

紬「私のお部屋でさっそくお勉強をしましょう♪」

紬がそう切り出す。



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 04:51:25.03 ID:7A3qvQVI0

浴室を出て、紬たち一行は琴吹家の母屋、紬の私室へ向かう。
その途中の回廊のこと。

律「ずいぶんと、ヴェルサイユ宮殿みたいなお屋敷ですな!」

半分以上皮肉だ。
とはいっても、嫌味ではない。

紬「うちの母屋はヴェルサイユ宮のプチトリアノン(小宮殿)を見て感動された
  御祖父様が模して作られたのよ。」

紬の方にも嫌味は無い。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 05:01:33.54 ID:7A3qvQVI0

回廊の途中、そういうたわいも無いおしゃべりのなか、唯が目をとめる。

唯「この絵の人、眉毛ぶっといねぇ!!あ、となりのオジサンの絵も!」

唯が指差す絵画の下には

琴吹○○,子爵 18○○~19○○

と書かれた金属製のプレートがある。



※以降○○という記述は個人情報保護とおもっていただきたい。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 05:10:26.10 ID:7A3qvQVI0

唯「琴吹○○??ムギちゃんのおじーちゃんかなんか??」

律「おいおい、"なんか"て…」

紬「私のひいひいひい御祖父様よ、その左お隣がひいひい御祖父様、その又隣が…」

紬は自分の祖父までの祖先の絵画について説明する。

梓「子爵ってことは、ムギ先輩の御先祖は
  やっぱり華族だったんですか?」

梓が質問する。



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 05:20:05.21 ID:7A3qvQVI0

紬「そう、そのとおりよ。」

紬はそれだけ答える。それ以上は続かない。
高貴さの自覚は、簡潔さか無視にあらわる、ということか。

唯「ねえ!」

唯「"かぞく"ってなんなの?"かぞく"はふつうにあるんじゃないの?」

唯の頭の中にあるのは、いわゆる"家族"だ。

憂「おねいちゃん、華族っていうのは貴族、偉い人たちのことだよ。」

そう説明する憂。



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 05:30:21.24 ID:7A3qvQVI0

梓「お公家さんですか?」

紬「そうよ、藤氏の末端だけれどね。」

藤氏とは藤原氏一族のことだ。
まゆげ太いお公家とはこれ如何に?と、梓は続けなかった。

唯「日本にも貴族っていたの?伯爵とか独身貴族とかのことだよね??」

紬「そんなところね。」

紬は短く答える。
それ以上は言わない。
それ以上言うことが、多数の反感を招くことを紬は知っている。

唯「すっごーーーい!!
  やっぱりムギちゃんはすっごいねぇ!!!」



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 05:38:31.13 ID:7A3qvQVI0

唯は驚きと、興味(キュリオ、というやつか)、
偉大な人物を見るような感じで紬を見る。

唯「いいなぁ!かっこいいなぁ!!」

紬は覚え返す。そう、これが唯ちゃんなのね、と。
桜高軽音部なのね、と。

律「まあまあ、ムギのじいちゃんたちがムギ似のイケ面なのはわかったから、
  はやくムギの部屋行こうぜ。」

すっきりとした律のウィンク。

紬「そぉね、ドリンクとお菓子も用意するわ♪」

紬はうれしそうにそう言う。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 05:48:20.47 ID:7A3qvQVI0

-紬の部屋-

いったいどのくらいの広さがあるんだろうか?
一年生の頃からたびたび来ている唯と律は、すでに慣れている。
梓もようやく。

琴吹家の母屋が欧風王侯貴族の館なら、紬の私室は、
一般的、と思える女子高生の私室をだだっ広くした様。
とはいえそれでも、律や澪の意見を取り入れたほうなのだが。

中央にあるテーブルで五人はお茶にする。

紬「澪ちゃんや和ちゃんも初日から来れれば良かったんだけれど…」



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 05:56:58.39 ID:7A3qvQVI0

律「澪は冬期講習の準備もあるし、それに、なんかさ
  『この休みで律と唯を変える!』とかいってるぜ。
 『イエス、ユー、ツー、キャン!!』だってよ!」

唯「和ちゃんもねぇ、生徒会長だからねぇ…」

和は今秋に生徒会長となった。
桜高は生徒自治の気風が高いだけに、
生徒会長の裁量と多さに比例し、その労苦も絶えない。
澪のことは…気にしないでおこう。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 06:15:36.88 ID:7A3qvQVI0

紬「澪ちゃんや和ちゃんと相談したして…
  二人も知っているように私が、二人のを教えるわ♪」

律「え?」

紬「教科関係なく三人が二人の弱点を教えるわけ♪」

律「大丈夫…なのか?」

紬「もち、大丈夫よ♪私と澪ちゃん、
  和ちゃんのをあわせて均等にお勉強できるシステムにしたから♪」


注 このSSは高校生用の学習SSではありません。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 06:31:07.82 ID:7A3qvQVI0

紬「梓ちゃんと憂ちゃんは二人の勉強する内容に従ってね♪」

梓「え…?」

憂「わかりましたぁ!」

梓「先輩達と同じとこ勉強しても何の役にも…」

憂「何言ってるの梓ちゃん!
  おねいちゃんと同じところを勉強することが勉強になるんだよ♪」

梓「は…えっと…」

梓には憂が何を言っているのか理解できない。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 06:45:06.28 ID:7A3qvQVI0

こうして紬講師のもと、補習は進む…とおもったのだが…

唯達の授業に紬はまず、『日本書紀』(もちろん漢文)を使った。
(高校生用に諸記号は割り振られている)

どの部分を使ったかというと
第十六巻『表題 小泊瀬稚鷦鷯天皇』である。

小泊瀬稚鷦鷯天皇(おはっせのわかさざきのすめらみこと)とは
武列天皇、第二十五代目の天皇である。

日本史唯一といってもいい、悪逆の天皇(として記述された)天皇だ。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 06:57:14.50 ID:7A3qvQVI0

どのようなことを行った天皇かと具体例を挙げれば、
自身の興味で妊婦の腹を割き、
ある女性のために有力家臣と争ってその家臣の一族を滅ぼしたとされる。
(この記述自体が史実である証拠はまったく無い。)

これを教材として選んだ紬の意図自体は簡単。
男性へ幻滅するような内容が日本史に付き物であることを、
『生徒』四人に示そうとしたのである。

律「ムギ、いくらなんでも…えぐいぞ…ちょっと…」

紬「勉強なんだから♪しっかりと読み進めなさい♪」

紬の後手には、女性間の愛情を表現した
古代ギリシアは女性詩人サッフォーの詩の英語訳が握られている。
この後に、一挙に百合へと持っていくつもりなのだ。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 07:08:06.95 ID:7A3qvQVI0

唯「ねえ、ムギちゃん。」

紬「なあに?」

唯「今のてんのうーへいかってこの、"ぶれつ天皇"の子孫なの?」

紬「武烈天皇に子孫はいないわ。
  武烈天皇のお姉さんか妹と結婚した親戚の方が天皇になられて皇位を継いだの。
  今の天皇陛下、今上陛下はこの天皇の子孫にあたられるわ。」

唯「昔のてんのーへいかって、こんな悪い人ばっかなの?」

紬「えっと…大小あるけれど、暴君、悪い王様のことね、
  なのはこの人ともう二、三人よ。
  その天皇のいずれも、今の陛下と直接的な血のつながりは無いわ。」



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 07:22:50.33 ID:7A3qvQVI0

唯「いやぁ、酷いねえ…ひどい…」

唯が思案顔で首を振りつつそう言う。
紬は内心、ニヤリ、とする。

紬「昔は常に男性上位、今もだけれど、だったから。
  日本には上は武烈天皇から、下はもっと女性に非道いことした人までたくさんいるのよ。」

紬「とにかく、いつの時代でも、男の人は…」

梓「あれ、でも、この教材には『古事記』と『日本書紀』では記述も違うし、
  その悪逆な内容も中国の歴史を真似て、
  あとに即位した天皇を正当化するための脚色に近いもの。
  って書いてありますよ。」

資料の後半部にあるページを紬に示す梓。



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 07:31:34.58 ID:7A3qvQVI0

紬「!?」

紬「しまったわ…消すの忘れてた…」

律「おいおい、ムギよぉ…」

律が畳み掛ける。

律「まさかとはおもうけど、これでさぁ…」

紬「お、おとこが悪いのよっ!おとこがっ!
  この資料の編集した人達もほら…」

資料の後半部を手で強く示す紬。
そこに書かれた名前は全員、男性のそれ。

紬「今の社会は男がつくって男達の都合の良いようにできてるの!!」

紬「だからそんな下劣なオスどもを見捨てて、女性だけですばらしい恋愛をして、
  恋愛をして、恋愛をして…社会を作っていかなければならないのよっ!」



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 07:43:59.86 ID:7A3qvQVI0

紬「はぁっ、はぁっ、はぁっ…!!」

一気にまくし立て、息の切れる紬。

梓「あのうそれは全く紬先輩個人の希…  憂「紬さん!!」

憂「素晴らしいお考えですよ!!」

憂「女性同士が恋愛できる社会!!」

憂「まさに究極の理想、ぜひに実現させねばならないものです!」

紬「憂ちゃん…」



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 07:57:04.13 ID:7A3qvQVI0

紬「そぉね…道のりはまだまだ険しいけれど…」

憂「紬さん…!」

梓「…」

唯「あのさー、ちょっといぃ?」

紬に向け発問する唯。



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 08:07:28.26 ID:7A3qvQVI0

唯「このぶれつてんのー陛下は、わざと悪く書かれているってことだよね?」

唯「悪く書かれたってことは、
  もともとは悪く書かれるほど悪くなかったってことでしょ?」

唯「じゃあさ、なんで、わざと悪く書かれたの?
  このぶれつてんのーはみんなに嫌われてたの??」

紬「えっとね、それは昔から男どもが…」

梓「先輩ストップです!!」

梓が割り込む。



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 08:17:45.85 ID:7A3qvQVI0

梓「多分ですけど、武烈天皇とその後の天皇は血が繋がってはいないんですよね?
  なら、後の天皇が天皇になった理由付けのために…」

梓「武烈天皇は悪人にされたってことじゃないんですか?」

唯「なんでそんなことするの?
  陰口言われるのと同じことだよね?」

唯「私だって…いろいろ変なことやって皆に迷惑かけてるのに…」

唯「ずっとずっと昔の王様が今でも陰口言われてるのは…
  すごく悲しいことだよ…」

唯は悲しそうな顔をし、紬の部屋の、ベランダに面した窓を見る。
紬の部屋は母屋の二階にあり、ガラス越しの先にあるベランダは六畳ほどの広さがある。
そのベランダの先の彼方にある暗闇で、一瞬、何かが光った。



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 08:28:00.85 ID:7A3qvQVI0

唯「あれ??」

律「どーしたぁ?唯??」

律が唯の表情、怪訝なそれ、に気付く。

唯「なんか、あっちの方で、なんかが光った…」

唯はベランダはガラス越しに近づき、そのを方向を指差す。



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 08:39:26.37 ID:7A3qvQVI0

紬「あっちは…第三小広場ね。」

律「ツリーを置いたとこだな。…不審者か何かじゃないの??」

紬「それは無いわ。お家の塀を越えて侵入した瞬間に黒コゲになるはずだもの。
  夜警の人間が持っている何かが光を反射したんだと思うわ。」

梓「黒コゲ…」

金持ちは本当に何を考えているかわからない、と梓は思った。

紬「とにかく、気にするほどの事ではないわ。」

そう言い終えると、壁にかけられた、
いかにも値の張りそうな掛け時計を見る。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 08:51:05.72 ID:7A3qvQVI0

紬「もう良い時間ね。明日は学校もあることだし、
  お休みしましょう♪」

そういうと紬は立ち上がり、私室の一角にある扉を開く。
もうひとつ続いて部屋があり、寝室となっていた。

律「いつ見てもあのベッドは羨ましいぜ…」

律の視線の先には、王侯貴族が用いるような天蓋付きのベッド。

紬「今日は地べたにお布団を敷かせたから、
  みんなで固まって寝ましょう♪」



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 09:00:49.96 ID:7A3qvQVI0

寝室の中央あたりのスペースには、
いくつかの布団と掛け布団がこぎれいにセッティングされており、
そこに天上や側面から軟らかく輝く照明が降り注いでいる。

律は、聡秘蔵のエロビデオでこんなシチュ見たことあるな、
と思ったが、口には出さなかった。

-消灯から数時間後-

唯は眼を覚ました。

音も無く、橙の薄明かりがわずかに室内を照らす。



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 09:15:04.25 ID:7A3qvQVI0

すぐに眼が冴えるのを覚える。
まどろみへ沈もうとするが、意識すればするほど、意識は尖鋭になる。

薄明かりの下に、まわりを見回す唯。
左隣の律は、静かに寝息。
右隣の憂は微動だにしない。おそらく寝ている、と思われる。
憂のさらに右となりには、紬、そして梓と続く。

唯「あれ?」

よく見れば、梓の下腹部あたりが布団越しに少し膨らみ、
微動しているのがわかる。
梓もゆっくりと寝息をついているが、
その横の紬の瞼が、ほんの少し、細かく痙攣している。
側面を向く紬の顔、そして紬の瞼の先には梓。
鋭い人間なら紬が薄目を開けているのがわかるだろう。
唯はついぞ気がつかなかったが。



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 09:26:32.58 ID:7A3qvQVI0

唯は律が寝ているその先、寝室の窓側に目を向ける。
そして、窓越しの彼方、何かが視線の先で輝いている。
就寝する前、ふと目にしたあの輝きと同じ色、そして同じ方向。

その輝きの色は薄い蒼とも翠とも判別がつかない。
形は円形だろうか?

唯(やっぱり…あの光り…)

唯は起き上がり、寝室のドアへと歩む。
紬が唯の背後へ薄目を向けたが、
先ほどと同じく、唯は気がつかなかった。



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 09:49:22.12 ID:7A3qvQVI0

深夜の琴吹家母屋。その玄関前ロビー。
当然、真っ暗闇のそこには誰もいない。
ロビーを進み、玄関の扉、唯の二倍程もある、をゆっくりと開く。

冷気が唯の全身に向いかかってくる。

唯「さむっ!」

京都は盆地にある。
ために、冬場はひどく冷え込む。



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 09:58:11.78 ID:7A3qvQVI0

唯は、玄関前の正面広場を斜めに横切り、
あの光があるであろう所、第三小広場を目指す。

そしてあの樹、唯達のクリスマスツリーとなるべくされた、
あの樹が見えてくる。

その樹の上空数メートルに、唯が見たあの光が止まっている。
いや、少々だが、ぶれる様にして小刻みに動いている。



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 10:08:20.73 ID:7A3qvQVI0

『生命の樹』の前にたどり着く唯。
そして、唯が停止するのと同じくして…

あの光が唯の目前に急降下した-

『やっと来たようね。』

光、いや光球から声がする。
光球の輝きは、やや白みを帯びた赤色へ変わっていた。
直径は10cmほど。光球が発する"フレア"を含めれば、直径30cmほど。



66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 10:17:24.09 ID:7A3qvQVI0

唯は驚きのため、何事も発しえない。
見開いた眼(まなこ)で、顔前近くに佇む紅い光球を見る。

『あなた、名前は?』

光球から声が続く。

唯は声を発しえない。

『ふぅ…』

『あなた!』

『あなたの名前を聞いているの!』

光球の声は強さを帯びる。



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 10:29:14.25 ID:7A3qvQVI0

「ゆ、い…ひらさわ、ゆい…」

『ゆい…そう、良い名前ね。』

光は落ち着いた声音に戻る。

唯「あ…」

唯「え、えっと…」

『私のことね?』

光球がそう答える。



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 10:38:06.13 ID:7A3qvQVI0

『私は、まあ、精霊の一種なのだわ。とはいっても、
 昔は実体を持っていたのだけれど…』

『そうね、しん…い、いえ、ホーリエとでも呼んで頂戴。』

「…」

唯は黙ったまま。

『この樹はね…』

聞かれてもいないのに、精霊は続ける。

『LIGUNUM VITAE(リグヌム・ヴィタエ)。』



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 10:49:14.41 ID:7A3qvQVI0

『封印に書かれていたでしょう?
 サンジェルマン伯爵"とも呼ばれた"、さる稀代の錬金術師が作り上げた樹よ。
 私は、それに宿るもの。』

唯は答えない。

『なぜあなたの前に私があらわれたのか、ね?』

またまた、聞かれてもいないのに精霊は続ける。

『あなたは古代の暴王に強い憐憫を覚えたわ。
 それに私が興味を覚えた、とでも言っておこうかしら。』



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 11:01:39.53 ID:7A3qvQVI0

『人間の歴史が始まってから、暴君と呼ばれた王達は数知れず。
 だけれど、彼らに同情を向けた者など…ほとんどいないもの。』

『それに私の直感も加味して…だから。』

『…あなたになら、≪天上のノモス≫の秘密を教えてもいいとおもったのよ。』

唯「天上の、ノモス??」

唯がやっと口を開く。



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 11:12:02.96 ID:7A3qvQVI0

『天上のノモスは…』

『人間が意識を持ち始めて以降、
 それがためにずっと苦しんできた、ある、巨怪な"謎"をとく鍵。』

「ノモスって、なん、な…の?」

『ノモスはまあ、そうね…良いこと、のために人間を縛るもの、
 そして縛られてできた良い状態。
 天上のノモスは、大地のノモスと対になるもの。』
 
『狭い意味で、大地のノモスは人間に関わる全ての法律や規範を指すわ。
 ある高名な人間は、特に国際法を比喩的にそうよんでいたけれど。』



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 11:23:58.25 ID:7A3qvQVI0

唯「…」

唯は言葉を発しない。

『ゆい、あなたの瞳は、穢れていないままの瞳。
 男、金、名誉…そういったものから、生まれてきたときからずっと、離れたまま。』

『だけれど、』

『人間が最後の息を吐き出すそのときまで、
 穢れない瞳を保つことは…ほとんどないの。』

『戦い、戦い、戦い。取り分を争う相手との、憎む者との、愛する者との、
 …そして、血を分けた者たちとの。』

そう言う精霊の声音に、悲しみの色が、少し、混じる。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 11:38:09.83 ID:7A3qvQVI0

『あなたに、まず教えましょう。』

 声音をもどし、精霊がそう言う。

『目的のために、手段を用いて、人間は目的に到ろうとする。』

『だけれど、目的こそ、人を誤らす最も大きな原因でもある。』

『その過ちは、個人の目的が、集団の目的に束ねられるときに起こるわ。』

『それは、本来には、より良いことのために、束ねられたはずなのに。』

『巌(いわお)が長い年月をかけて、その形をかえるように…』

『人間の行いに付属する小さな悪は、束ねられて、時を経て、
 取り返しのつかないものになるの。』



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 11:44:06.60 ID:7A3qvQVI0

『今はここまで。』

『あとさきに、あなたは≪天空のノモス≫を知り…』

『≪生命の実≫へと手を届かせるぐらいまでなるでしょう。』

『今はお部屋に帰りなさい。』

『再び床にお入り。』

そういうと、精霊はゆっくりと上昇し、『生命の樹』の中へと消えていった。



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 12:40:45.61 ID:7A3qvQVI0

翌朝(12月17日) 琴吹家食堂

唯「ふぁあ…」

紬母「唯ちゃんはまだお眠かしら♪」

やさしく唯に微笑みかけつつ、紬の母がそう言う。

唯「えへへ…」

唯たちは、紬の母とともに朝食を摂っている。
紬の父はとっくに自分のオフィスへ向っていたため、同席していない。



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 12:55:14.37 ID:7A3qvQVI0

紬母「斉藤に学校まで送らせるから、ゆっくりご飯をとって頂戴ね。」

眉毛こそ沢庵でないものの、明るい髪色、おっとりとした雰囲気、
やわらかな物言い、と紬によく似ている。

憂「あずさちゃん、まだ来ないのかなぁ…」

梓は、バスルームを借りているところ。

律「寝汗かいて、下着までびっちょりだったんだってさ。」

紬「♪~」

おそらく、寝汗だけではあるまい。



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 13:01:36.55 ID:7A3qvQVI0

紬は上機嫌だ。

律「ムギよ、豪くご機嫌だな…」

紬「そうかしら~♪?」

紬母「紬のクリスマスパーティは、あのツリーを使うそうね?」

紬「うん、唯ちゃんがすごく気に入ってくれたのよ♪」

唯「…」

唯は再び、昨夜のことを思う。



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 13:11:41.85 ID:7A3qvQVI0

あの場から離れ、再び床の中に入ったも後も、中々寝付けなかった。
起きてからも頭の中の奥まで強くこびりついたまま。

あの精霊-ホーリエと名乗った-はいったい何者なのか?
あのツリーは??
天上のノモスとは??生命の実とは??
人間の目的にまつわる悪とは??
唯は本能的に、深く考えないようにしている。

だけれども、近いうちに、あの精霊と再び邂逅するであろうことを、
唯は知っている。



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 13:21:06.21 ID:7A3qvQVI0

12月17日 桜高 昼休みの澪の教室

澪と和は二人で昼食を摂っている。
だが…

和「ずいぶんと熱心にやってるわね…」

澪は食事半分に、目前の書き上げ作業に没頭していた。

澪「これは良い機会なんだ…あいつらを、泥沼から引き上げてやれる…」

和へ視線を返し、澪はそう答える。



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 13:30:36.98 ID:7A3qvQVI0

澪「何事もやれば変えられる!私達は絶対に変えられるんだ!!」

最近は、オバマ大統領の語録集を愛読書にしている澪。

和「さわ子先生に頼まれた手前だけれど、
  私はあの子達のペースにあわせて教えさせてもらうわ。」

頼まれた、と言ったあと、
ああ違う、脅迫だったわ、と思い返す和。

澪「和、私は鬼になるから…!」

目が本気である。



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 13:42:52.25 ID:7A3qvQVI0

12月17日 夕刻 琴吹邸

学校からの帰宅後、今日の分のパーティ準備をすませ、
唯達は紬の指導のもと、勉強に勤しんでいた。
数学を重点的に攻めているところである。

律「微分とかさ、絶対やる意味ないよな。
  一生涯微分と無関係に過ごす自信あるぜ。」

唯「むふぅう…うううううう…」

かたや唯の脳味噌はパンク状態。

梓(まだ習ってないけど、予習は重要だよね…)

その横ですらすらと二年生の問題を解く憂。
日本に飛び級のシステムが無いのが悔やまれる。



86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 13:53:12.88 ID:7A3qvQVI0

紬「そうは言ってもね、数学は論理的思考を鍛えるのに
  一番良い教科なのよ。」

律「いやいやいやいや、あたしらがいくら頑張っても
  頭の回転なんてぜんぜんよくなんねーからぁ。
  な、唯?」

唯「くぅぅぅ…」

目前の計算に苦悶する唯。

憂「律さん!おねいちゃんはやればできる子なんですからっ!」

唯が"お馬鹿"にカテゴライズされるのが気に触るらしい。



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 14:09:22.53 ID:7A3qvQVI0

紬「『人間は考える葦』って、ブレーズ・パスカルも言っているわ。」

紬「今の便利な世の中も全て、そのおかげでしょう?」

律「パスカルだかヘクトパスカルだか知らないけれどさぁ…」

そのとき、どこからともなく、唯の耳にある声が聞こえるて来る。

『パスカルは、≪力なき正義は無力であり、正義なき力は暴力≫
 とも言ったわ。』

あのホーリエの声。
律たちの顔色を伺うが、誰も気が付いていないようだ。

『けれど、良き考えすら良き結果を生むとは限らない。
 自分が良きことと考えることが、
 隣人には許しがたいことであるかもしれない。』



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 14:19:29.37 ID:7A3qvQVI0

唯「力なき正義は無力であり、正義なき力は暴力…」

唯がそう呟く。

律「は?」

唖、となる律。

紬「それも…パスカルの言葉ね。」

唯「正義は、誰が正義だって決めるんだろう?
  暴力は、誰が暴力だって決めるんだろう??」



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 14:30:41.14 ID:7A3qvQVI0

紬「パスカルはものすごく強い信仰心をもつクリスチャンだったらしいから…」

紬「パスカル自身の正義は、キリスト教の教えと切っても切きれない
  、神様が下し示したもの、のはずだわ。」

唯「じゃあ、私達はどうなの??」

紬「…」

紬は答えに窮する。



92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 14:40:52.00 ID:7A3qvQVI0

しかし、刹那の思案の後に紬は答える。

紬「正義を深く考えなくても、人間は生きていけるわ。
  けれど私は、よくよく考えて、
  それを、自分の正義を確かなものにする必要があると思うの。」

紬「うちのお父さんは、そんなことをよく言うから…」

紬「だって、そうしないと、琴吹家に関係する多くの人間が
  苦しむことになるでしょう?」

律(ムギの奴、唯のギー太を値切ってたよな、確か。)



93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 14:53:41.56 ID:7A3qvQVI0

唯「偉くなればなるほど、その人の考え方次第で
  たくさんの人が幸せにもなり、不幸にもなるんだ、ね。」

唯「でも、今の日本にも、他の国にも、色々な理由で苦しんでいる人はたくさんいるし、
  他人を苦しめてまでお金を稼ごうとするひともたくさんいるよね。」

唯「そういう人たちはどうなるんだろう??」

梓「だから法律や警察があるんじゃないですか?」

梓が口をはさむ。



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 15:04:04.45 ID:7A3qvQVI0

唯「でもやっぱり、苦しんでいる人はたくさんいるよ。」

梓「それは、人間は万能じゃないですし、自分が蒔いた種で苦しむ
  自業自得な人たちもたくさんいますし…」

唯「他人のせいで苦しんでいる人もたくさんいるよ。」

律「まあ唯よ、なんだ、理想を言ってもはじまらねーし…」

律が口を入れる。

律「とにかく終わりだー終わりっ!
  今日はもう切り上げてスマブラしようぜっ!」

律が場を収める。
けれど…



97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 15:16:31.89 ID:7A3qvQVI0

その日、皆が眠りについたあと、唯は再び生命の樹の前に立つ。
そして、呟く。

唯「堀江さん…」

すると生命の樹から、あの紅く輝く光球が現れ、唯の目前へと下降する。

『ゆい、月並みだけれど、私はライブドアの元社長ではないのだわ…』

『ホーリエ、よ。』

『よく覚えて頂戴。』



98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 15:23:29.42 ID:7A3qvQVI0

唯「私だけに聞こえるように、声をかけてくれたよね?」

『ええ、そうよ。』

精霊は答える。

唯「なんかわたし、よくわからなくなっちゃった…」

『ふふ…ゆい、まずはそれでいいの。』

唯「…」



99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 15:29:34.35 ID:7A3qvQVI0

『昨日、あなたに話したわよね?
 人間が意識を持ち始めてから、
 それがためにずっと苦しんで来た、最大の"謎"のことを。』

『そう…大変巨怪な"謎"、≪エニグマ≫のことを。』

唯「えに…ぐま?」

『ゆい、あなたに教えましょう。』

『人間が長い間苦しんで来たこの謎は…』

『なぜこの世界に悪が存在するかということよ。』

『とくに一神教が優勢な地域においてだけれど、
 なぜ完全である神のもと、世界に悪が生じたのか、
 多くの人が頭を悩ませてきたわ。』



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 22:32:28.42 ID:7A3qvQVI0

『多くの人々は悪を…』

『善が欠けている状態としたり、
 神との距離のために神との関係が弱まったもの、としたり
 神との距離のため、神が放射する勢力からの恩恵に、
 より少なくしか預かれぬため、としたり、
 人間の根源的罪のため、としたり…』

『その点、ゆい、あなたたち日本人をはじめとする、アジアの人々は
 昔から実際的だっただわね。』

『生きることにおいて諦念を強く有する、とでもいうのかしら?
 輪廻及び転生の概念を背後に持つ民族に多く見られるわ。』



116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 22:44:58.64 ID:7A3qvQVI0

『そして悪の改善や悪を消滅させる、ないし善に近づく、方法も…』

『人間の欲望を意識的に抑制するやり方。
 まったく呪術的な方途にたよるもの。
 善の知的追求による一種の啓蒙。
 善のもと、悪とされたモノを意図的に排除する方法…』

『けれど、人間、種としても個体としてもの、この人間には、
 悪は執拗にこびり付き、根付いて、
 …決して分かたれることはなかった。』

『今の今まで、ね。』



118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 22:55:24.99 ID:7A3qvQVI0

『また、悪を遠ざけることが得てして…』

『全く逆説的な…結果、遠近法的な結果を多く生み出すだけ、だったわ。
 つまり、あるモノに意識が集中されることで、
 その周辺にある、そのモノから距離のある別のもの、
 その輪郭がぼやけただけだった。』

『つまり、多く存在する悪をあいまいなものにし、
 あまり目に付かないようにする、という結果になっただけだった。』

『意識的、無意識的な逃避でもあったわ。』



119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 23:05:10.77 ID:7A3qvQVI0

『人間が意識を獲得し、歴史を紡ぎ始めてから…』

『人間はずっと悪くなっていったわ。』

『悪への無関心も強くなっていった。』

『…けれど、こうも考えられたわ。』

『そうではなく、人間は、人間を悩ましてきたこの迷信から
 自由になりつつあるのではないか、と。』



120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 23:14:20.76 ID:7A3qvQVI0

『必要なのは、この善及び悪という迷信ではなく、
 ≪合理的かつ的確な采配≫なのではないか、とね。』

『例えるなら、あなたの時代の交通法規のようなもの、よ。』

『けれど、それでは同時に、個人が個人の内に持つ倫理感が
 小さくなることを意味するわ。』

『倫理感は、一種の信念と恐怖感情の間の子。』

『倫理感を迷信として捨て去ったとき、そのときこそ、
 あの怪物は、大きく開いた口をもって
 人間という種をひと飲みにすることでしょう。』



121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 23:22:50.99 ID:7A3qvQVI0


『ふぅ…』

精霊は一息置く。

『あの太い眉毛の子、大変良い子だわ。
 私も好きよ。』

唯「むぎ、ちゃん…」

『けれど…』



123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 23:31:25.72 ID:7A3qvQVI0

『動物はその体格が大きくなるほどに、多くの栄養を必要とし、
 不要とされたより多くの排泄物を体外に捨て去る。』

『同じように、あの子の一族の富を糧に生きるものも多いけれど、
 その分だけ、あの子の一族に起因する悪のために苦しむ者達も多い。』

『人間は汚れている、と考えたモノから目をそらそうとする。
 これを虐待し、遠く離れたままにしておこうとするの。』

『あなたの生きるこの時代は、人間の歴史のなかで
 最も、それが極大化している時代よ。』

『さて。』

『…今日はここまで。』



124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 23:39:10.53 ID:7A3qvQVI0

『ゆい、よくよく考えなさい。』

唯「…」

唯は黙ったまま。

『ふふ…大丈夫よ、ゆい。あなたは、結晶のような意志を持ち
 その意志のもと、透徹した直感を持っているのだから。』



125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/18(金) 23:46:16.33 ID:7A3qvQVI0

そう言い終えると精霊は樹の中へとかえっていった。

精霊が描いた軌跡の残り香を見つめる唯。

唯「わたしも、たくさんの人を、苦しめてきた…のかな…」

そう独り言つ。

京都の冬はまだまだずっと、寒くなるはず。




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唯「天上のノモス!」#前編
[ 2011/08/30 20:35 ] 学問・古典・文学・哲学 | | CM(0)

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