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唯「崩壊後ティータイム!」#前編 【音楽】


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唯「崩壊後ティータイム!」#前編
唯「崩壊後ティータイム!」#後編




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:28:55.94 ID:fazd9RO50

律「なぁなぁ、どうやら世間じゃ『放課後ティータイム』って言ったら、
  真人間の『ま』の字もないイカれた集団っていうイメージらしいぜ?」

澪「はぁ? それは律だけだろう」

律「そんなことないぞ。もれなく全員が国宝級レベルの変人だと思われているらしい」

澪「まさかぁ」





3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:31:24.50 ID:fazd9RO50

放課後ティータイム(HTT)。
高校の軽音部の仲良し部員5人組で結成されたこのバンドは、在学中に何がしレコード会社に見初められ、
『今、最も熱い現役JKバンド』の触れ込みでアルバム『放課後ティータイム』でデビューを飾った。

梓「とにかく、そんな風に言われてるのは甚だ心外ですね……」

澪「す、少なくとも私は違うしな」

その話題性に違わず楽曲の質も高く、出すシングルは軒並みオリコン上位。
アルバムにおいてもただのアイドルバンドでないことを証明する上質なクオリティで玄人筋の評論家を唸らせ、
オリコンランキングでも堂々の1位を獲得した。

紬「うーん、私はよく『レズビアン』って言われていますわ。自覚はありませんけど」

唯「私も昔は『池沼』って言われてたけど、なんのことかわからなかったなぁ~」

そんな彼女たちの人気はデビューから瞬く間にうなぎ登り。
ライヴツアーは満員御礼、テレビで彼女達の姿を目にしない日はなく、関連グッズも売れに売れた。



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:34:22.54 ID:fazd9RO50

律「私も何でだかは全然わからないんだ。私たち、どこにでもいるフツーのガールズバンドだよなぁ」

降って沸いたような成功に喜ぶメンバー。
勿論名声も金も、それまでの一介の女子高生生活を送っていた時には想像もつかないほどに得た。
何よりも自分達が作った楽曲、そして5人の演奏を
多くの人々に受け入れてもらえたという事実が彼女達の心を充足させた。

澪「そうだとも」

梓「そうですね」

だが、ここで考えてみて欲しい。
いかに成功を得たロックバンドのメンバーとはいえ、彼女達はまだ10代の少女なのだ。
諸手に溢れるほどの名声を受け止めるすべも知らず、
ばら撒くほどの札束の扱い方など習ったこともなく、
群がる利己的な大人達をやり過ごすにはまだ幼すぎる。

紬「きっと私たちのことが嫌いなマスコミが垂れ流した出鱈目ですよ」

唯「そうそう! 気にしないで、とりあえずお茶にしようよ」

そのせいで、順調だったはずの5人のメンバーの人生は、大きな転換を迎えることとなったのであった。



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:37:57.41 ID:fazd9RO50

『ケース1:田井中律(ドラムス)の場合』

田井中律。

軽音部時代は部長として、メジャーデビュー後はバンドリーダーとして、
放課後ティータイムを引っ張ってきた張本人である。
ともすれば内気であったり天然だったりするメンバーを熱く鼓舞し、
持ち前の明るさでバンドのムードメイカーとなった。

そして演奏では笑顔を振りまきながら、手数が多く勢いのあるドラムを叩き、
こちらでもまたバンドを引っ張った。

そんな律はドラマーとしても評価が高く、業界では名ドラマーの名を欲しいままにしていた。

幼少時代からの盟友、ベーシストの秋山澪はそんな幼馴染の活き活きとしたドラミングを想って、
名曲『TAINAKA KILL YOU(タイナカ・キル・ユー)』を書きあげ、
バンド全体を鼓舞するかのように暴れまわる律のドラムに敬意を示した。

しかし、元来天真爛漫で豪放ながらも、
バンドメンバーの笑顔を何よりも大事にする性格だった律の人生は、
バンドの成功とともに変わっていった。

律「オラーッ!! ぶっ壊れろーっ!!」
澪「ちょっ……律!!」
梓「律先輩、またドラムセットを破壊して……」

いつからか、ライヴで最後の曲の演奏を終えると律は必ずドラムセットを破壊するようになった。
ハイハットをなぎ倒し、スネアの皮をスティックで突き破り、バスドラムを客席に放り投げるのだ。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:40:36.01 ID:fazd9RO50

一見して見栄えの良い破壊行為は客にはウケるが、
毎回ドラムセットを破壊するのはどう考えても非合理的だった。
特に金銭的な面では。

唯「りっちゃん……そんな毎回ドラムセット破壊してたら、バンドのお金が無くなっちゃうよ……?」

澪「そうだぞ! ライヴの度にドラムセットを修理したり、新調したり、
  どれだけ費用がかかると思ってるんだ?」

律「いいんだよ! 私たちは日本一……いや世界一のバンドだぜ?
  CDもグッズも売れまくって金なんて捨てるほどある。っていうか、唯もギー太ぶっ壊せばいいじゃん」

唯「そ、それは無理!」

梓「ギタリストにとってギターは命ですからね」

紬「そもそも律ちゃんはなぜそんなに破壊にこだわるの?」

律「決まってるだろ? それがロックンロールだからさ! ヒャッハー!」

こうして暴走した律は、終いにはメンバーに内緒で、バスドラムに火薬を仕込んでテレビの生放送に臨み、
演奏終了とともにそれを爆発させるという、一歩間違えば大惨事の破壊行為までやってのけた。

ちなみにこの爆発のショックで澪は気絶し、梓は鼓膜が破れ、紬は沢庵が反転した。
(唯だけは気にもせずにカスタネットソロを続けていたらしい)

だが破壊するのがドラムセットだけなら、まだ良かった。



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:43:29.19 ID:fazd9RO50

律「じゃーん! ロールスロイス買ったんだぜ~」

唯「わぁ~、すごいよ、りっちゃん! 外車だ~!」

紬「まぁ。私の家にも何台かありますわ」

梓「ムギ先輩は参考になりませんよ……って、それCDの売り上げのギャラで買ったんですよね?」

律「当たり前だろ。現金一括払いで買ってやったさ。ディーラーも驚いてたぜ?」

澪「でも律って……免許持ってたっけ?」

律「持ってないけど、いいんだよ。公道走らせるときは運転手雇うし。それに……」

澪唯紬梓「それに?」

律「公道を走る機会なんてないからな」

澪唯紬梓「?」



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:46:03.49 ID:fazd9RO50

その翌日――。紬の屋敷にて。

紬「キャアアアッ!!」

斉藤「お嬢様! どうしましたか!? まさかまた沢庵が取――」

紬「お庭のプールに……車が浮いてる」

斉藤「は?」

あろうことか、律はロールスロイスを無断で紬の屋敷の敷地内に運び込み、
庭中で運転しまくった挙句、琴吹家所有の大プールに買ったばかりのソレを沈めたのだ。

律「ヒャッハー! 私有地内なら道路交通法は適用されないから無免許でも問題ないだろ?
  それに私、ブレーキとアクセルの区別がつかなくてさ~」

紬「でも……なんでこんなことを?」

律「決まってるだろ? それがロックンロールだからさ! ヒャッハー!」

紬は言葉も出なかった。



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:50:56.22 ID:fazd9RO50

ライヴツアーで宿泊したホテルでの行動など、もはや目も当てられなかった。

律「ヒャッハー!! 部屋が狭いんだよッ!!」

梓「あぁ……また律先輩が窓からテレビを投げ落として……」

澪「もはや手に負えん……」

紬「下に通行人がいたら危険だわ……」

唯「私もカスタネット投げてみようかなー」

律「甘い甘い! 次はベッドを放り投げるぜ~!」

これ以外にも、マットレスを浴槽に沈める、部屋の壁をドリルで掘る、カーペットを全焼させる、
備え置きの水差しの中身をこっそり聖水に替える(きっとマニアには高く売れるだろう)、
夕食のカレーが辛かったという理由だけで従業員を殴る等、
律のホテルでの悪行はエスカレートする一方だった。

こうして、放課後ティータイム(というか主に田井中律)が
出入り禁止になったホテルの数はうなぎ登りに増えていった。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:53:29.07 ID:fazd9RO50

そして破滅型ロックスターのお決まりのコースとして、
経験するはアルコールとドラッグの果てしない酩酊の世界であった。

とある日。レコーディングスタジオで。

律「おーす!! みおーっ……今日もお前はかわいいなぁ……ヒック!」

澪「な、なんだよ! スタジオにやってきて早々、そんなにひっつくな……
  って、ヘンなとこ舐めるなよっ……ぁ」

紬「(フンガー!!!!!)」

唯「りっちゃん……なんかお酒臭いよ?」

律「えへへ~♪ うぉっかはうまいぞ~♪ ゆいものむか~?」

梓「やっぱり……また飲んできたんですね」

澪「ちょ……私たちは一応まだ未成年……」

律「いいんだよ~♪ きもちよければ~(はむっ)」

澪「あっ……耳たぶを……やっ……噛むなぁ……」

紬「(ハァハァハァハァ……)」

梓「ムギ先輩、オナニーするなら隣の部屋でしてくださいね。
  前にも発情して、私の汗がついたギターを
  得体の知れない液体でベチョベチョにした前科、忘れてませんよね?」

唯「いいなぁ~、楽しそうで。今度私もお酒飲んで憂の耳たぶ噛んでみようかな~」


そうして、律の酒量は日に日に増えていった。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 23:57:36.11 ID:fazd9RO50

とある日。ライヴの本番前の楽屋で。

律「じゃーん!! これなーんだ?」

梓「? どこにでもある普通のペットボトル飲料じゃないですか」

律「問題は中身だよ! な・か・み!」

澪「どうせまた酒だろ?」

律「ちがうんだな~」

紬「わかったわ! 実は中身はローションで……」

律「(無視)実はな~、これは動物園の象用の麻酔薬なんだって!」

唯「ますいやく?」

律「そう! とあるツテから手に入れてね。
  この容器の4分の1くらいをキメれば最高のハイを味わえるらしいんだけど……」

律「私は天下の田井中律だぜ!?」

律「たったの4分の1で我慢なんか出来るかよっ!(グイッ! ゴクゴク……)」


澪「あっ!」

梓「全部一気に行った……」

唯「お~! りっちゃん、イケる口だね~」

紬「ハァハァ……律ちゃんの……ディープスロート……」


律「(無視)プハァ~! あぁ~っ、流石にキクね~!」

澪「な、なんともないのか……(象用の麻酔薬だぞ!?)」

律「ハガネのりっちゃんがこれくらいでどうにかなるわけないだろ?
  ささっ、ライヴ本番! 行こうぜ!」

唯「りっちゃん……すごいねぇ……」

梓「でも……本当に大丈夫なんでしょうか」

紬「ハァハァ……りっちゃんの……ディープスロート……ハァハァ……ウッ……!」



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:01:46.49 ID:fazd9RO50

律は酒に比べれば薬に関してはあまりやらない方だった。
しかし、たまの一回、一発が度を超えていた。

今回も当り前ではあるが、どうにかなってしまったのだ。

ライヴでの演奏中――

澪「ぴぽーとらーいぷあすだーん♪(あれ……?)」

唯「とーきんばうまいじぇーねれーしょん♪(心なしかりっちゃんのドラムが……?)」

紬「ポロポロリン♪(……いつもの軽快さが微塵も感じられないし、手数が少なすぎますね?)」

梓「ギュワギュワーン♪(……何かおかしい?)」


律「ばたんきゅー」

澪唯紬梓「!!!!」

律はライヴ開始後の三曲目、とある有名海外バンドのカバー曲の演奏中、
いつものように軽快なドラミングを見せていたかと思うと、
突然電池が切れたかのようにドラムセットの上に倒れ込み、
泡を吹いて悶絶、そのまま病院へ緊急搬送されてしまったのだ。

突如バンドの屋台骨であるドラマーを失った放課後ティータイムは、
舞台袖からステージを見守っていた憂(唯の世話役として偶々ツアーに帯同していた)を呼び込み、
無理やりドラムを叩かせてライヴを何とかやりきった。

ちなみに憂のドラムはラリった律より巧かった。
憂曰く、
「前に音楽室にお邪魔した時に律さんに
 ちょっとだけドラムセットを叩かせてもらって覚えた」とのことだった。



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:04:03.28 ID:DPLT0mUl0

律はなんとか一命を取り留めた。
常人ならまず致死量の麻酔薬を摂取したことを考えれば、やはりタフだったのかもしれない。

事実、

「彼女の脈は30秒間に1回しか打っていない! 医学的には死んでいるはずなのになぜ!?」

と、医者は律のタフっぷりに舌を巻いていたが、
そんな医者にもお構いなしに、律は車いすに乗りながらも

律「みお~ッ! 酒もってこーい!!」

と病院の廊下で怒鳴り散らしていたという。

律「このハガネのりっちゃんが死ぬわけなんかないだろ?」

さて、このように破滅に向かってスキップしているとしか思えない最近の律ではあったが、
それとは対照的にテレビやラジオ、雑誌などのメディアへの露出もメンバーの中で最も多く、
ファンサービスにも熱心で、カメラを見せれば笑顔で活発にふるまって見せ、
ファンに声をかけられれば、たとえ街が群衆でパニックになろうとも
最後の一人までサインに応じていたという。
だからこそ、いかに私生活が破綻していようとも律は、ファンには人気があった。

しかし、肝心のドラミングにおいて、とうとう日々の不摂生が悪影響を及ぼすようになってくる。



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:07:15.84 ID:DPLT0mUl0

とある日。ニューシングルのレコーディングにて。

澪「ふーあーゆー♪(ボンボン♪)」

唯「ふっふっ♪ ふっふっ♪(ジャカジャカ♪)」

紬「(ピロピローン♪)」

梓「(ギョワーン♪)」

律「(ドコドコドコドコジャンジャンジャン……♪)」


澪「ん? ちょっと律、ストップ!」

律「なんだよ。また走ったか?」

澪「そうじゃなくて、その逆。今のところ、モタってたろ?」

律「そうか? 自分じゃよくわからないなー」

梓「律先輩……まさかまたお酒を……」

律「レコーディングの時はシラフでいるようにしてるよ、最近は」

澪「最近は……って、とにかく! この曲は変拍子がカギなんだ。しっかり叩いてくれないと困るぞ?」


律「へんびょうしぃ? 私にそんな細かくてグチャグチャしたものが叩けるわけないだろ!」

澪「なっ……!」

唯「でも、『スリーコードの単純な曲ばかりじゃ飽きられるから、複雑な曲もやろう』
 って澪ちゃんが提案した時は、りっちゃんも賛成したはずじゃ……」

律「あー、そうだったっけ? 記憶ないわ。たぶんそん時、酔っぱらってたんだよ」

澪「お前なぁ!」

紬「澪ちゃん、落ち着いて……」


律「あのなぁ、私は世界一の『タイナカ・リツ』スタイルのドラマーだぜ? 今更スタイルを変えられるかよっ!」


そう言って開き直ってみせる律だったが、
積み重なる不摂生で、ドラミングの質が落ちていたのは明らかであった。
しかもそれを律自身が自覚することはなく、レコーディングを途中で切り上げると
スタジオの中だというのに酒盛りを始めだす始末。
頼れるリーダーだったはずの律は、いつの間にかバンドのお荷物になっていたのだ。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:10:04.54 ID:DPLT0mUl0

唯「りっちゃん、変わっちゃったよね……」

梓「昔はふざける時はあってもいざという時は頼りになる人だったのに……」

紬「心なしか、最近はおデコにも光沢がありませんわ」

唯「最近じゃバンドの運営費が殆どりっちゃんに費やされているんだよね……」

梓「ツアー中の酒代だけで高級機材が買えるくらいですし、
  それに宿泊したホテルの修理代、ホテルに訴えられた時の和解費用……」

紬「あと、以前に律ちゃん、酔っぱらって移動の飛行機の中で暴れて逮捕されましたよね?
  琴吹家が手をまわしたのですぐに釈放されましたが、あの時の保釈金もかなり……」

律は成功に目がくらんで変わってしまった。誰もがそう思った時、

澪「それは……違うな」
唯紬梓「?」

3人の意見に異を唱えたのは、律のことをメンバーの中では誰よりも昔から知る澪であった。

澪「律はさ、ああ見えて、意外に繊細で、寂しがり屋なんだよ」

唯「あのりっちゃんが?」

澪「高2の時、覚えてるか? ほら、私と律の仲が少し険悪になったことがあっただろ?」

梓「ああ……ありましたね、そんなことが」

澪「あれの原因も、私が同じクラスの和と仲良くしてるところを見て、嫉妬したって、最近律に聞いたんだ」

紬「まさに愛ゆえ……ですね!」

澪「(無視)律はさ、自分の周りから人が去っていくのが、一人になるのがきっと一番怖いんだよ」



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:12:29.39 ID:DPLT0mUl0

澪「だからああやって大げさなくらい明るく、豪放にふるまって見せる」

澪「生活が荒れ始めてから……律は何度も『もうこんな無茶やめよう』って思ったはずだよ。

澪「でも、やめられない。
  それはキャラを変えることで自分の周りから人が居なくなってしまうのが怖いからなんだよ、きっと」

梓「律先輩は……『破滅型ロックスター』を演じているっていうんですか?」

澪「バカをやることでしか、今の律は自分の気持ちを紛らわせることができないのかもしれない」

紬「そ、そんな皮肉な……」

唯「りっちゃん……」

ほどなくして、律はアルコール中毒の治療のため、半ばメンバーに強制される形で、施設に入った。



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:14:53.45 ID:DPLT0mUl0

ケース2:中野梓(リードギター)

ある日、某テレビ局のスタッフが、
とあるドキュメンタリー番組の取材のため、これまたとある都内の高級マンションの一室を訪れた。
番組のタイトルは『消えた天才美少女ギタリスト、元放課後ティータイム・中野梓の今を追う!』であった。

部屋に一歩踏み入れると、取材陣はすぐにその異様さに気付いた。
ごみで散らかった玄関に廊下、
フローリングを埋め尽くすのは何日も清掃が放棄されたことをうかがわせる埃の山、
そしてそこら中を行きかう大量の猫の群れ――。

居間で取材陣を出迎えた梓は、見るからに不健康そうな面持ちであった。

かつては健康的だった肌の血色は悪く、
艶々しかったツインテールは光沢を失い、
希望に輝いていたはずの瞳には生気がなかった。

梓「それじゃあ始めましょうか。
  さっきまで寝てたので全然頭、回らないんですけどね」

ソファに腰掛けた梓は、マルボロに火を吐けると、深く吸い込み、インタビュアーを前に気だるげに話し始めた。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:17:11.37 ID:DPLT0mUl0

インタビュアー(以下:イ)「ここ数日は何をされていたんですか?」

梓「最近では音楽と猫に構うこと以外、興味がないんです」

猫だけでなく、梓の部屋には天高く積み上げられ、所狭しと散乱したCDとレコードの山が目立っていた。

イ「具体的には?」

梓「具体的というと?」

イ「はい。と、いうのもですね。
  あの超人気バンドであるHTT(放課後ティータイム)を脱退してから
  全く音沙汰が無くなってしまった貴方が、今どんなふうに毎日を過ごしているのか?
  と、いうことが今回の取材の最大のトピックなんです。
  これは貴方のファンも気になるところだと思いますが」

梓「えーと……ギターを弾いたり、曲を作ったり、あずにゃん2号と遊んだり……。
  あぁ、あずにゃんは今じゃもう15号まで増えてるんですよ? すごいでしょう?」

イ「猫のことは置いておいて……。曲を作っているということはソロ作品を発表する意思があるんですか?」

梓「んー……。わかんないです。
  レコーディングしたくなったらしますし、したくなければしない。それだけです」

HTT時代の梓は、その卓越した音楽的素養と演奏技術でもって聴衆を震撼させたのみでなく、
メンバーの中で最も年下で、バンドのマスコット的な存在としても持てはやされ、
またそれに見合うだけのキュートさがあった。

それがどうだろう。
今、明らかに適当にインタビューに答えている梓からは、
かの『あずにゃん』と呼ばれた頃の小動物のような無邪気さと対照的に
内に秘めた音楽への熱き情熱が殆ど感じられないではないか。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:20:32.82 ID:DPLT0mUl0

イ「そもそも貴方はなぜHTTを脱退してしまったのですか?
  世間で言われている理由には『方向性の違い』というのがあるのですが」

梓「耐えられなくなったんです」

イ「耐えられなく……?」

梓「はい。あの、ただ息を吸うだけで
  精神がキリキリと締め付けられるような息苦しい世界に、耐えられなくなったんです」

そう言うと梓はマルボロをもみ消し、遠い目で天井を見つめた。

(以下回想)
澪「放課後ティータイムを脱退するだって!?」

梓「はい」

律がアルコール中毒の治療施設に入所した少し後、梓は突然バンドからの脱退を申し出た。

紬「そ、そんな……今、梓ちゃんがいなくなったら……」

唯「あずにゃん……どうして!?」

梓「実は前々から考えていたんです。私は……もう放課後ティータイムではやっていけそうにありません」

澪「……律があんなことになったからか?」

梓「それは一因ではありますが、全てではありません」

澪「じゃ、じゃあ……」

梓「嫌になってしまったんです。目標だった武道館のステージにも立ったし、世界にも進出した。
  でもそれは逆に私にとってはプレッシャーになったんです」



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:24:32.64 ID:DPLT0mUl0

梓「今では私たちの一挙一動に世界中が注目しています。
  これじゃ、街を歩きながらハナクソだってほじれやしないです」

梓「私なんて……望んでもいないのに『天才ギタリスト』だなんて言われて……。
  天才だなんて白痴と同じようなもんですよ。
  おかげでちょっとライヴで演奏をミスしただけで叩かれて……」

梓「とにかくこんな縛られたような息苦しい状況で続けるのは私には無理です。
  それこそ、今では、放課後ティータイムがあのまま、
  高校の軽音部バンドで終わってしまってもよかったと思っています」

梓「それに……昔なら、律先輩がいないこの状況でライヴなんてありえなかった。
  結局それでもライヴをしなくてはいけないのは、もはやHTTが私たちだけのものではなく、
  ただの金稼ぎマシーンになってしまったから、バンドが大きくなりすぎてしまったから。
  とにかくもうまっぴらです」


澪「そこまで思いつめていたのか……」

紬「そ、そんな……今まで5人で同じ目標を持って頑張ってきたはずで……」

唯「これからもがんばっていこうって……そう思っていたのに……」


梓「ごめんなさい。
  でも、私は一刻も早くこのイカれたシチュエーションから抜け出しくて仕方がないんです」



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:27:24.16 ID:DPLT0mUl0

その後、梓は契約で決まっていたライヴツアーでの数か所の演奏を終えたのち、
正式に放課後ティータイムを脱退した。

梓の無気力ぶりは脱退までのステージにも顕著に表れ、
『ふわふわ時間』を澪と唯が歌いにくいようにわざとテンポを遅くして演奏したり、
『私の恋はホッチキス』では咥え煙草でコードを無視しためちゃくちゃなソロを弾いたり、
もはやバンドに対する悪意すら見てとれた。

このような状況を率先して解決できるリーダー、
律がアルコールの泥の中でもがいていたことも大きかったかもしれない。
とにもかくにも、その時期、急場しのぎのセッションドラマーを律の代役に添え、
無気力ギタリストが不協和音を奏でる放課後ティータイムの演奏は、それは酷いものであったという。

梓「私は自由が欲しいんです」

それが梓の最後に残した言葉であった。
(回想終了)

梓「――と、まぁこんな経緯があったわけです」

イ「……バンドを辞めたことを後悔していませんか?」

梓「後悔? どうしてそんなものをする必要があるんですか。
  私はHTTを抜けて、やっと自由を、精神の安定を手に入れることが出来たんです」



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:30:44.60 ID:DPLT0mUl0

『精神の安定』

この言葉に一段と反応したインタビュアーは、
公然のタブーとされてきた梓の『ある問題』について、言及した。

イ「ところで、世間では貴方は
  今やドラッグ漬けの日々を送っているというキナ臭い噂があるのはご存知ですか?」

余りにも悪い顔色、窪んで黒ずんだ目、フラフラと覚束ない言動。
そしてヨレヨレのシャツの袖からチラリと見えた右腕は紫色に変色し、至る所に注射針の跡すら見える。
そのような状況では、この質問の答えなど明白に思えたが――。

梓「ドラッグ? あれは最高のモノですよ。毎日……今日だってキメてますし。
  最近は左腕どころか右腕に注射針を刺すところが無くなっちゃって困ってますね」

あまりにもあっさり認めたことが、逆に取材陣に戦慄をもたらした。

梓「ドラッグはHTTにいた頃、律先輩に教えてもらったんでしたかね。
  まぁ、あの人はクスリより酒が好きな人だったので、
  あまりドップリとは浸かっていなかったようでしたが」

(以下また回想)

梓が放課後ティータイムでの活動に思い悩み始めた頃、
不意に浮かない顔をする後輩の姿を偶々見つけた律が、梓を誰もいない楽屋へ手招きした。

梓「こんなところに呼び出してどうしたんですか、律先輩?」

律「梓さ、最近なんか元気ないよな。悩みでもあるのか?」

梓「そ、そんなことは……」

律「いーや。私にはわかるぞ。なんせ部長だからな! 部員の調子は常に把握してないとなっ」



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:36:49.69 ID:DPLT0mUl0

梓「(……いつも酔っぱらって前後不覚の人がよく言うよ)」

律「しかし、元気がないのはよくないな。ロックンロールじゃない!」

梓「はぁ」

律「そんな梓には、この魔法の粉を授けよう!!」

梓「?」

そう言うと律は懐から小さなビニール袋を取り出すと、
中に入った白い粉で、楽屋のテーブルの上に綺麗な薄く細い直線を引いてみせた。

そしてまたもや懐からストローを取り出すと、
小さな鼻の穴にそれをあてがい、白い直線を一気に吸い込んでみせた。

梓「(これって……コ、コカ――)」

律「ウッヒョー!!! キタキタキターッ!! コココココココケーーーーイン!!」

梓「(やっぱりコカイン……!)」

律「コイツは上モノだぁ~! ほら、梓もビビってないで早くヤってみろよ。
  そうすればすぐに憂鬱な気分も吹っ飛ぶからさ」

梓「……(ゴクリ)」

いくら気力を失った梓にでも、この白いラインを吸い上げたら、
自分がもう戻れないところまで落ちてしまうだろうことは予想できた。
だが、待ってほしい。そもそも自分は戻る必要があるのか?
戻ったところでもう放課後ティータイムに自分の求めるものはないのだ。

だったら……

いっそのこと落ちるまで落ちたとしても、別にいい――。

梓「…………」

そして梓は無言のまま、律からストローを受け取ると、
自ら白いラインを新たにもう一本引き、思い切り吸い込んだ。

すると、はじめは頭の中で爆弾が爆発したかのような衝撃だったが、
すぐに見たこともないような世界が目の前で広がった。
それは梓にとって、自由で開放的な世界だった。



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:40:04.81 ID:DPLT0mUl0

律「ヒャッハー!! 気持ちいいだろ? 景気がついたところで一曲歌おうぜ!
  ニコチン、バリウム、ビコジン、マリファナ、エクスタシー、アルコール……♪」

梓「ニコチン、バリウム、ビコジン、マリファナ、エクスタシー、アルコール……♪」

律「コココココココケーーーーイン!!♪」

梓「コココココココケーーーーイン!!♪」

(回想終了)

梓「ドラッグをキメてるっていう私の発言を放送したければすればいいですよ。
  たとえそれで捕まろうが、私はそれが悪いことだとは少しも思いませんから」

イ「……それは本気ですか?」

梓「でも捕まっちゃったらしばらくドラッグをキメられなくなるのが困りものですよね。
  そうしたら捕まる前にアムステルダムにでも高跳びします」

イ「そのドラッグが……たとえ貴方の身体を破壊することになっても、貴方はやり続けるのですか?」

梓「やり続けます。だって、ドラッグは私に自由と幸せを与えてくれる存在ですから。
  それに、腐った世界に目を向けなくちゃいけないなら、たとえこの身が朽ち果てようとも、
  ドラッグの与えてくれる自由と幸せに縋るほうが、素晴らしいことだと本気で思ってます」

そう言って、インタビュー中始めて笑みを見せた梓の歯は、既に数本が抜け落ちていた。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:43:32.01 ID:DPLT0mUl0

梓「せっかく取材に来てくれたんですから、なんか一曲演りましょうか」

そして梓はおもむろにアコースティックギターを取り出し、
HTT時代の名曲、『ふわふわ時間』を弾き語りで歌い始めた。

正しい注射器の扱い方を知らず、静脈という静脈に適当に針を刺して
ドラッグを流し込んだことで腐りかけてしまった右腕でコードをかき鳴らし、
マルボロとコカインで潰れた喉で不気味なまでにしゃがれてしまった声でがなり立てるそれは、
澪が歌う凛々しい『ふわふわ時間』とも唯の歌うキュートな『ふわふわ時間』とも違う、
生と死のはざまの世界を浮遊するかのように不安定で、不気味で、残酷で、
それでもどこか美しい『ふわふわ時間』だった。

そしてインタビューは梓の印象的な一言で終わった。

梓「私は……自分が生きようが死のうがそんなことには興味すらないんですよ」

その後、あまりの衝撃的な内容のため、番組はお蔵入りとなり、
ファンはかの天才美少女ギタリストの悲惨たる現状を知ることがなく済んだ。

だが、梓は誰にも知られることなく、猫とCDの山に囲まれ、
今日も一人静かに破滅の時を待ち続けているのだった。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:45:33.86 ID:DPLT0mUl0

ケース3:琴吹紬(キーボード)

琴吹紬。
放課後ティータイムではキーボードを担当し、色とりどりの音色でバンドの楽曲に装飾を与える彼女は、
その担当楽器の特性もあってか、ともすればメンバー内で最も地味な立ち位置であった。

だが、その実、『ふわふわ時間』をはじめとするバンドの代表曲のほとんどの作曲を手掛ける一方、
高名な実業家である父を持つバックグラウンドを活かし、
資金面でもバンドをバックアップする縁の下の力持ち的存在であった。

それはメンバー間における人間関係においても同様で、紬の提供するお茶やお菓子、
そして特有のおっとりぽわぽわな性格は常にメンバーの心のよりどころであり、オアシスであった。

そんな紬には、ひとつだけメンバーにも打ち明けられぬ大きな悩みがあった。それは――

紬「私は……女の子しか愛せないの?」

高校時代まで、そんな自分の性的嗜好を疑問に思ったことは一度もなかった。
幼少の頃からお嬢様として箱入りの待遇を受け、学校も常に女子校であった。

女子しか周りにいない状況で、
親愛や尊敬の念を抱く対象が常に同性であることに、少しの疑問も感じなかった。

それが変わったのは、放課後ティータイムがメジャーデビューしてからのことだった。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:47:47.78 ID:DPLT0mUl0

敏腕プロデューサー(以下プ)
 「いやぁ、しかし紬ちゃんの才能には恐れ入るよ。
  演奏の腕が達者なのに加えて、作曲センスも申し分ない。ほんと、女子高生とは思えないな」

紬「ありがとうございます」

プ「俺も今までチャッ○モンチーとか9mmとか、いろんなバンドをプロデュースしてきたけど、
  放課後ティータイムは最高だよ。特に紬ちゃんみたいな子は今までいなかった」

デビューして最初のシングルを手かげたプロデューサーは、
どういうわけかメンバーの中でも紬にご執心だった。

プ「よし! それじゃあ次のシングルの打ち合わせを、
  今度紬ちゃんと二人でしたいと思うんだけど……いいよね?」

紬「はい。でも他の皆は……?」

プ「いいんだよ。曲の打ち合わせだから作曲担当の紬ちゃんだけでさ」

紬「はぁ……」

まだ業界の実情を知らぬ紬は「そんなものなのか」と特に疑問に思うこともなく、
一人でプロデューサーのもとに出向いたのであった。

だがそこで紬を待っていたのは……。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:50:54.78 ID:DPLT0mUl0

プ「だからぁ、俺の言うことを聞いてくれれば
  その見返りに紬ちゃんをソロデビューさせてやるって言ってるんだよ?
  なぁに、コネなんて敏腕プロデューサーの俺にかかればいくらでもあるし……。
  なんなら昔俺がやってたバンド仲間のナ○コーやミキに声かけて
  あいつらを紬ちゃんのバックバンドに使ってやってもいいし……」

紬「そ、そんな……遠慮させていただきます」

プ「なんでだよ? 悪い話じゃないだろう?
  俺と寝てくれるだけで、キミは秋山澪や平沢唯なんて目でもない、大スターになれるんだぜ?」

紬「ね、寝るって……!?」

プ「そうさ、業界じゃ仕事欲しさにプロデューサーと寝る女なんていくらでもいる。
   そりゃそうだよな。股開くだけで、スターへの道が開けるっていうんだから」

紬「そ、そんな汚らわしいことが……」

プ「汚らわしいだって? 甘いなぁ、それが『この業界』の常なのさ。
  幸運に思えよ、お前は敏腕のこの俺に気に入られた運のいい女なんだからなッ!!(グイッ)」

紬「やめてください!!(ビシッ!)」

プ「ぶへっ!!」

紬「男の人なんて……最悪です……」

結局、敏腕プロデューサーにビンタを張って逃げてきた紬は、
とんでもないトラウマを抱えることとなってしまった。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:53:53.66 ID:DPLT0mUl0

幸いなことに敏腕プロデューサーの逆恨みを買い、
その妨害工作を受けてもそれを歯牙にもかけぬほどにその後の放課後ティータイムの人気は爆発した。

が、紬の男性恐怖症はエスカレートしていく一方だった。
スタッフですら、男とあれば目を合わすことすらしなかった。

紬「やっぱり女の子の方がいいですね♪」

だが、すぐに紬は気付いた。
自分は「男が嫌い」なのではなく元々「女しか愛せない」性質の人間であったことに。
そういう意味ではプロデューサーに枕営業を持ちかけられたかの一件はきっかけでしかなかった。

唯「あずにゃ~ん、今日もかわいいね♪」

梓「ちょっ、唯先輩! いきなり抱きつくのは止めてください! コカインがバラけるじゃないですか!」

紬「(ハァハァハァ……)」

唯の梓に対するちょっと過剰なスキンシップに目を細め、

澪「また酒飲もうとしてるな! 没収だ!」

律「なんだよぅ、別にいいだろ!!」

紬「(ヒィヒィ……フゥ)」

澪と律の幼馴染特有の微笑ましい問答に頬を染める。
こういうことは、高校時代からよくあったことだ。
だが、今ではそれがエスカレートしてきているのだ。



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:57:05.12 ID:DPLT0mUl0

紬「(あぁ……今日も唯ちゃんは天然でかわいいわぁ。調教してみたいくらい)」

紬「(梓ちゃんのツインテール……カリカリモフモフしたいわぁ)」

紬「(澪ちゃんのおっぱい……背後から思い切り揉みしだいてみたいわぁ)」

紬「(律ちゃんのおデコ……唾液でヌルヌルになるまで舐めまわしてみたいわぁ)」

紬「はっ……私ったら何を考えて……」

今までは外から眺めているだけでよかったはずが、
明らかに異なる感情で彼女たちを見てしまっている自分に気付いたのだ。
しかもそれは妄想だけにとどまらなかった。

ライヴでの演奏中――。

紬「(あぁ……目の前に可愛いお尻が3つも……ウッ)」

フロントマンの3人(唯、澪、梓)の、曲のリズムに乗せて揺れるお尻を眺めながら、
後方のキーボードブースで紬は興奮のあまり、してはいけないことをしだしてしまった。
それに気付いたのは紬の横で、タイトなビートを刻むドラマーの律だけであった。

律「(ん? ムギのやつ、どうしたんだ……キーボードの角に股間を押しつけ始めたぞ?)」

紬「ああっ……私ったらいけない子……! でも気持ちイイ……ッ!」



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 00:59:43.08 ID:DPLT0mUl0

紬の心はもう限界であった。
いっそのこと、自分の性癖を放課後ティータイムの仲間達にカミングアウトしてしまいたい。
しかし、そんなことを考えた途端、最悪の想像が脳裏をよぎる。

唯『ムギちゃん……女の子が好きだったんだ……』

梓『き、気持ち悪いですっ……! 軽蔑します……!』

澪『私たちのこともずっとそんな目で見てたんだな』

律『最悪だよ……。そんなムギは、もう放課後ティータイム、クビだな』

唯『クビだね~』

澪『解雇だな』

梓『調子に乗るなよ沢庵』

律『と、いうわけで気持ち悪い同性愛者のムギは荷物まとめてさっさと出てってくれ』


紬「受け入れてもらえるわけがない……。言えるわけがない……」

こうして、紬は悶々とした気持ちを一人抱え込み続けることとなった。

そんな紬に転機が訪れた。
ある時、放課後ティータイムは、所属レコード会社主催のチャリティー企画の一環として、
身寄りのない子供たちが集まる孤児院へ、慰問演奏へと訪れた。



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:01:27.11 ID:DPLT0mUl0

子供1「わ~! ほうかごてぃーたいむのゆいちゃんだー!!」

子供2「りっちゃんにあずにゃんもいるー!」

子供3「みおちゃーん、ふわふわたいむうたってー!」

放課後ティータイムは子供たちにも人気があった。
中でも特に、紬の周りには幼女たちがこぞって集まった。

子供4「むぎちゃーん、かわい~!」

子供5「だっこして~!」

子供6「まゆげさわらせて~!」

紬「あらあら……」


唯「ムギちゃん、子供に大人気だね~」

澪「ムギはなんとなく保母さんっぽいからな~」

梓「ほんわかした雰囲気が子供にあうんでしょうね」

律「いいなぁ~。私なんかガキ大将にデコに泥団子ぶつけられたぞ」

紬「困りましたね……どうしましょう」

困惑しながらも、紬の胸の内にはひとつ、新しい感情が芽生えた。

紬「(唯ちゃん達はきっと私の性癖を理解してくれるはずがない……。
    でも、純粋で無邪気な幼女なら……)」

実家である琴吹家の潤沢な資金を活かし、
紬が恵まれない幼女のためのチャリティに積極的にかかわり始めたのはそれからすぐ後のことであった。

施設や病院への慰問、チャリティライヴ、現金の寄付
――紬が成した功績をあげればキリがないが特筆すべきは、
彼女が自宅の屋敷に幼女たちを招きはじめたことだろう。



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:04:36.71 ID:DPLT0mUl0

『タクアン・ランド』――
そう呼ばれた紬の自宅は、元々広大だった敷地をフルに生かし、
遊園地や動物園、プールに映画館等々、子供を愉しませるための
ありとあらゆる施設を備えた一大アミューズメント空間となった。

紬「幼じ……ゲフンゲフン、子供は天使です。
  私はそんな天使たちのために少しでも何かをしてあげたい。
  そう考えて、この『タクアン・ランド』を建設したのです」

マスコミを集めての会見で、大々的にブチあげた紬の思想に、
世間は諸手を叩いて『琴吹紬こそ博愛の天使』と賞賛した。

だが、


澪「ムギのヤツ、最近チャリティばっかりで放課後ティータイムの活動の方に身が入ってない気がする……」

律「殆ど毎日、屋敷に子供を呼んで遊んで過ごしてるって聞いたぞ」

梓「しかも、これは噂ですけど……
  ムギ先輩、子供とはいってもその実、小さな女の子ばかりを屋敷に招待してるらしいですね」

唯「いいなぁ~、私もあと10歳若かったら、ムギちゃん家でお菓子いっぱいごちそうになれたのに~」


紬「あぁ……やっぱり幼女は何て素晴らしいんでしょう。
  一切の打算もない汚れのない心、未成熟な蕾のような身体……美しすぎるわ」

幼女1「ねぇ~ねぇ~、ムギちゃん、きょうはムギちゃんちにおとまりしてもいい?」

紬「……えっ?」

幼女1「おかあさんもムギちゃんちにだったらおとまりしてもいいよって言ってたから♪」

紬「…………」

幼女1「ねぇ~、いいでしょ~?」

紬「……わかったわ、いいわよ♪」

幼女1「やった~、ムギちゃんだいすき~」

紬「そしたら今夜は、私と一緒のベッドで寝ましょうね♪」

幼女1「わ~い♪」

だが、紬の幸せは長くは続かなかった。




52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:06:06.77 ID:7VTprfZh0

マイケルかよ



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:07:05.56 ID:4HZcyR810

ポゥ!!





54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:07:08.50 ID:DPLT0mUl0

澪「おいっ!! 今週のフ○イデー!! 見たか!!??」

律「どうしたぁ~、またパ○ュームの熱愛でも発覚したか?
  (あー、酒切れたー。あとで澪に買いに行かせよう)」

梓「中田ヤ○タカ、恐るるに足らずですね。
  (あー、コーク切れた……。また律先輩に頼んでディーラー呼んでもらわないと)」

唯「チョコレイトディスコって本当にあったら美味しそうだよね~」

澪「そうじゃなくて! これだよこれ! ほらっ!」

澪が開くページを見た3人は一同に驚愕した。
なぜならば見出しには彼女達があまりにも見慣れた名前が躍っていたからだ。

『放課後ティータイム 琴吹紬に幼女虐待疑惑!?』
『真夜中のタクアン・ランド――無垢な幼女の肢体はベッドの中で陵辱された!?』
『“博愛の天使”のチャリティ活動は隠れ蓑? あらわになった琴吹の異常な性癖!!』
『被害幼女の母親が涙の訴え! 「あの女は許せない……!!」』

律「な、なんじゃこりゃーッ!!」

記事の内容は、『チャリティ活動』、『子供との触れ合い』と称し、
紬が自宅へ子供を招きいて性的いたずらを行っていたことを、
被害者少女の母親が涙ながらに暴露するという衝撃的なものであった。



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:09:30.66 ID:DPLT0mUl0

唯「そんな……。ムギちゃんは純粋に子供が好きだから、チャリティ活動をしていたんじゃないの?」

澪「私だってそう信じたいさ……」

梓「そういえば今日ムギ先輩は……?」

澪「朝から連絡が通じないんだ」

律「マジかよ」

澪「しかしこの記事は酷すぎる。
  『琴吹紬は物心ついたときから筋金入りのレズビアンで、
   放課後ティータイムのメンバーに言い寄ったもののフラれ、その代わりとして幼女愛好癖へと走った』
  ……って、でたらめにもほどがある!」

律「でもなぁ……」

憤慨する澪の顔色を伺うように、アルコール臭い息を吐きながら、言葉を挟んだのは律であった。

律「昔からそういうフシがあるのは事実なんだよなぁ。
  高校の時もさ、澪が無理やりコスプレさせられた時に嬉々としてそれを撮影してたり、
  唯と梓がじゃれあってるといつもホクホクした顔でそれを眺めてたり……」

梓「そう言えば私たちがデビューしてから、ムギ先輩にも大分言い寄る男の人がいたみたいですけど……」

唯「全部素っ気無く袖にしちゃってたもんね。ふつーなら少しは舞い上がりそうなのに」

澪「ま、まさか……本当に……」



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:11:05.77 ID:DPLT0mUl0

4人が一様に嫌な想像に、手に冷たい汗を握っていたその時、紬の自宅『タクアン・ランド』では――。

マスゴミ1『琴吹さーん! 隠れてないで出てきてくださいよ!!』

マスゴミ2『報道されている幼女虐待疑惑は本当なのですか!?』

マスゴミ3『貴方が同性愛者であるという噂は本当なのですか!?』

マスゴミ4『放課後ティータイムのメンバーとも肉体関係があったというのは!?』

抗議団体1『琴吹紬は己の罪を認めろーっ!!』

抗議団体2『ノーモア! たくあん!』

被害者団体『謝罪と賠償を要求するニダ!!』

屋敷を取り囲むマスコミと紬を糾弾する団体。そしてとめどなくあがる非難の声。

斉藤「本来なら琴吹家の力をもってすれば殆どの主要なマスコミは抑え込めるはずだったのですが……
   あのように突然スキャンダルが降ってわいてしまうと……」

窓の外を苦々しげに眺める執事をよそに、

紬「仕方ないわ」

紬は無表情で呟いた。



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:12:27.27 ID:DPLT0mUl0

斉藤「何をおっしゃいますかお嬢様!
   あのような低俗な雑誌の報道など真実ではないこと、私はわかっておりますぞ!」

紬「本当に……嘘だったらよかったのにね」

斉藤「お嬢様……? まさか……?」

紬「自分でもわからないわ。
  私は……幼女に劣情を催して
  いやらしいことをしてしまったのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
  そういうことをしたと言われればしたような気もするし、してないと言われればしていない気もする……。
  とにかくあの時のことは記憶に靄がかかったようで……私もよく覚えていないの」

斉藤「お、お嬢様っ……!」

紬「それにどちらにせよ……こんなことで騒ぎを起こしてしまった私は、
  今更どの面を下げて皆に顔を合わせればいいというの?」

紬の脳裏に、自分の歪んだ性癖に眉をしかめるメンバー4人の顔が浮かんだ。

紬「もう……私は放課後ティータイムにはいられない」

その後、被害を訴える幼女の母親が正式に訴訟を起こし、
紬は泥沼のような裁判へ己の性癖を晒さなくてはいけなくなることとなった。
当然ながら放課後ティータイムの活動に参加することもままならず、
メンバーの前に顔を出すことも殆ど無くなっていった。

紬「どうして……私は人とは違う性癖で生まれてしまったの?」

答える者はおらず、ただ窓の外からの、己を糾弾する人々の声のみが響き渡っていた。



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:16:34.13 ID:DPLT0mUl0

ケース4:秋山澪(ベース・ボーカル)

秋山澪。
放課後ティータイムのサウンドのボトムを支えるベーシストであり、
フロントマンとしてリードボーカルもとる彼女は、その凛々しい歌声、
美少女揃いのメンバーの中でも際立つモデルのようなルックスで、バンドの人気を牽引してきた。

一方、そんな大人びた正統派のイメージとは対照的に、放課後ティータイムの楽曲では作詞を担当し、
メルヘンチックでキュート、ともすれば吐血を催すくらいなリリックで
バンドの意外性をも担っていたまさに中心的存在であった。

高校時代から、演奏活動とは脱線しがちにはしゃぎ回る律と唯の手綱を握り、
後輩の梓の尊敬も集める澪は、誰もが認めるバンドの推進力。
まさに21世紀のロックヒロインのあるべき姿であったのだ。

ただひとつ――彼女は過剰なまでに内向的であるという欠点を除いては。

澪「やだ……やだよぉ……ライヴやだぁ……。人がいっぱい……こわひぃ……」

律「何言ってんだよ澪! せっかく私たちの初めてのメジャーワンマンライヴ@Zepp Tokyoだぜ?
  高校の学園祭と同じく、いつも通りやればいいんだよ!」

澪「やだよぉ……」


澪「人がいっぱい……見てるぅ~!! 見てるぅ~!! いやだよぅ~……」

梓「何言ってるんですか澪先輩! 私たちの念願だった武道館ライヴですよ!?」

澪「こんな大勢の人の前で演奏して……歌うなんて……むり……(ぶるぶる)」



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:18:28.42 ID:DPLT0mUl0

澪「うああああああああーーーーーーーーーーーーー!!!! いやだーーーーー!!」

紬「澪ちゃん……初めてのドーム公演だし緊張するのはわかるけど……もうちょっと落ち着いて……」

澪「うあああああああーーーーーー!!! どうせみんな期待してるのは私のパンチラなんだーーー!!」


澪「ぎゅわおえくあうそkをmしすぁksなあくぇrftgyふじこlp」

唯「澪ちゃん……初めての海外公演@マジソンスクエアガーデンだからってちょっと壊れすぎじゃ……」

澪「さういgshlなl;k;くぁwせdrftgふじこlp;」


いかに音楽で勝負するミュージシャンとはいえ、彼女たちもまた芸能人。
人から見られることを生業とし、それはもはや宿命のようなものだ。
しかし、元より繊細すぎるくらいに繊細だった澪に、
放課後ティータイムが大きくなりすぎたことで集まる世間の視線に耐えられるわけがなかったのだ。


澪「私はどうせ一人じゃアルバイトも出来ないし、軽音部以外の友達も殆どいないぼっちだったし、
  妄想で書いた歌詞は痛いし、番外編じゃ一人で冬の海に行って詩作にふけるなんて言う
  独身のアラサーOLみたいなことしてるし……
  要するに社会不適合者なんだグスン」

律「いや……そんなに自分を責めなくても……」

梓「そ、そうですよ! 澪先輩は素晴らしいミュージシャンです!」

唯「私……澪ちゃんのいいところいっぱい知ってるよ? おっぱいとか」

紬「そうです! おっぱいとかパンツとか」

澪「…………」



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:19:40.68 ID:DPLT0mUl0

こうして内向的だった澪の性格は、より悪化した。
そして、それは特に詩作に顕著に表れた。

律「澪……なんだ今度の新曲のこの『服を買いに行きたいけど、服を買いに行く服がない』って歌詞は……。
  いくらなんでも後ろ向きすぎやしないか?」

澪「何って、まさにその通りじゃないか。どうせ私の私服はしまむらですよ……」

律「…………(いいじゃんしまむら)」

非リア根性丸出しの悲しい曲『どうせ私はしまむら』は世の澪ファンを戸惑わせるには充分であった。

梓「澪先輩……『職探しをして職を見つけたけど憂鬱で仕方ない』だなんて歌詞はちょっと……」

澪「何でだ? だって働かなきゃいけないなんて悪夢以外の何物でもないじゃないか」

梓「………(この人、マジで社会不適合者だ)」

ニート根性むき出しの『働いたら負け』はメンバー内(唯除く)ですら不評を買った。

詩作の傾向はネガティヴな方向にのみ留まらず、鬱憤の表れか、過激にもなった。



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:21:10.37 ID:DPLT0mUl0

紬「澪ちゃん……『エンペラー・イズ・デッド』なんて曲、流石に過激すぎじゃ……。
  右○が黙っていないと思うわ」

澪「いいんだよ。別に私が殺したいのは天○じゃなくて、そういう権威に縋りつく豚全般なんだから。
  エンペラーっていうのは、まさにただの象徴だよ」

紬「…………(コイツはヤバイ)」

そして、以前のキュートでメルヘンな世界から逸脱し始めた澪の詩作は、
それまでの澪を応援していたファンにまで影響を与え始める。

唯「澪ちゃん! 大変だよ!」

澪「どうしたんだ唯、そんなに慌てて」

唯「澪ちゃんの書いた歌詞に影響されて、
  私たちのファンだった中学生の女の子が2階建てのバスに突っ込んで自殺しちゃったんだって!」

澪「そうか……そう言えばそんな歌詞の曲書いたなぁ……」

唯「そうか……って! 放課後ティータイムのファンだった女の子だよ?
  しかも特に澪ちゃんの大ファンだったんだって……」

澪「その子の人生に放課後ティータイムの音楽があっただけでも幸せだったんだよ。きっと」

唯「澪ちゃん……(駄目だこりゃ)」



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:23:45.11 ID:DPLT0mUl0

唯「澪ちゃん、ちょっと最近根暗に磨きがかかってる気がするよ。
  高校時代はあそこまでじゃなかったのに……」

紬「内気っぷりも酷くなっていますしね。
  この前は『出たくない。恥ずかしい』でゴネて、ライヴの開始が2時間遅れましたし。  
  (……まぁそういうところが可愛いんですけれど)」

律「んー、ライヴ前に気付けに酒でも引っ掛ければいいんだろうけど、
  澪のヤツ、筋金入りの下戸だからなー(ああ、またアルコール切れたよ……)」

紬「お酒どころか、炭酸ですら苦手ですからね」

梓「もしくはアッパー系のドラッグで気持ちを盛り上げれば、
  いくら恥ずかしがり屋の澪先輩でも大観衆の前で碧いうさぎの幻覚が見えるくらいに
  バキバキに決まったDJプレイだって出来ますよ(コカインキメてー)」

紬「無理よ、澪ちゃん、正露丸ですらお腹を壊すんですから……」

唯「とにかく、このままじゃ危ないね……」

こうして、律がアルコールに溺れて破壊活動に耽り、梓の腕に注射痕が目立つようになり、
紬の同性愛が高じてチャリティの皮をかぶった幼女愛好に勤しむようになるにつれ、
澪のダウナー具合は酷くなる一方であった。

この時、一人まだなんとかマトモな思考を保っていた唯は
澪の手首にリストカット跡がないことを確認する度、安堵する毎日であった

そんな矢先、決定的な事件が起こる。



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:28:01.88 ID:DPLT0mUl0

とある音楽雑誌の、澪への単独インタビュー。
記者はここのところ、大きく変わった澪の詩作について、鋭く遠慮ない質問を投げかけた。

記者「秋山さんの詩作は初期に比べると大分変化しましたよね?」

澪「そうですか……? 自分じゃわからないけど……」

記者「(わかんねーのかよ)初期はどちらかというと恋に恋する思春期の乙女というような曲が多く――
  『ふわふわ時間』などその典型ですよね。
  『キミを見てるといつもハートDOKIDOKI ゆれる想いはマシュマロみたいにふわふわ』
  なんて歌詞は並みのミュージシャンには書けませんよ」

澪「……馬鹿にしてますか?」

記者「そんなことは決して。
   しかし、なぜにそんな貴方が思春期の淡い恋心から、
   鬱屈とした引き篭もりの心情や過激な社会問題等を歌詞にするようになったのでしょうか?」

澪「……それが私の歌いたかったことだからです」

記者「本当ですか? たった数年で貴方の心境にここまでの変化が?」

澪「『ふわふわ時間』も『どうせ私はしまむら』も、全部私の歌です!
  私が思ったことを本音で書いた歌詞です!」

記者「本当ですか? 作り話の虚飾ではないんですね?」

澪「本当です。どうしてわかってくれないんですか!?」



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:31:30.31 ID:DPLT0mUl0

その後も澪は真摯に、懸命に、自分がとれだけ真剣に創作活動に、
バンド活動に取り組んでいるかを記者へ説明し続けた。

しかし、対峙する記者は相変わらず澪への疑念を隠そうとしない。
その目は『所詮アイドルバンドのフロントマンが、
えらそうにメンヘラぶってるんじゃないよ』と雄弁に物語っている。

澪「……そこまで言うなら、どれだけ私が本気か見せてあげますよ」

すると澪は突然ゴソゴソとポケットを漁り始めた。
見えないところに隠していたのはピックではなく……

記者「カッター?」

澪「よく見ていてください」

目を見開いて呆然とした記者を尻目に、澪は左手に持ったカッターの歯をゆっくりと右腕にあてがい――

記者「ちょ……!! まさか!!」

己の右腕をキャンバスがわりに、流れる血を絵の具がわりに、

『4REAL(FOR REAL=私は本気よ!)』

と、刻み付けたのだ。

澪「これでわかったでしょう。私は……至ってマジなんです」

勿論、その後澪が病院に搬送され、数十針縫うことになったのは言うまでもない。



77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:37:51.85 ID:DPLT0mUl0

律「しかし、澪がまさかここまで重度のメンヘラだったのはなぁ……ヒック」

紬「幸い、腕の傷の方は綺麗に治りましたけど。流石ご都合主義の現代医学♪」

梓「澪先輩もクスリやればいいんですよやっぱり」

唯「…………(だめだこいつらはやくなんとかしないと)」

そして、律のアル中更生施設入所、梓の脱退、紬のスキャンダルを見届けた後、
澪はとうとう失踪し、本格的な捜査願いまで出される騒ぎとなった。

その後数カ月、澪の足取りはつかむことが出来ず、
マスコミは人気バンドのフロントマンの失踪をスキャンダラスに煽り立て、中には

『既に川に身を投げて自殺している』、
『富士の樹海で目撃された』、
『北朝鮮に拉致された』、
『チベットで尼僧になった』

等々の身も蓋もない怪情報まで出回っていた。

果たして、澪が再び笑顔で放課後ティータイムのフロントマンとして
『ふわふわ時間』を歌う日は来るのか――。



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:42:59.76 ID:DPLT0mUl0

ケース5:平沢唯(ギター、ボーカル)

平沢唯。
放課後ティータイムの歴史は、全くの音楽初心者であった彼女が、
廃部寸前の桜高軽音部の門を叩いた瞬間から始まったと言っても過言ではない。

メジャーデビューした今でも頻繁にコードを忘れ、歌詞を忘れ、
妹の憂の随行なしには長丁場のツアーをこなすなどもってのほか。

それでも、唯のヘタウマな天才的センスのギターと
ほんわかした歌声と天然のキャラこそが放課後ティータイムの象徴だった。

ある時のインタビューで唯はこう語っていた。

唯『私は高校に入るまで何をするにも中途半端で、進んでやりたいことも何もない無気力な人間でした。
  でもひょんなきっかけで高校の軽音部に入って、みんなと出会って、
  いっしょに音楽を演奏することで、初めて自分の打ち込めるものを見つけることが出来ました。
  ……まぁ、練習しないでお菓子ばっかり食べてたような気がしなくもないんですけど(笑)』

音楽をやらなければニートになっていた――
そんな唯にとって放課後ティータイムは唯一無二の大切な居場所……だったはずが。


田井中律は奇行と暴力沙汰で周囲を混乱に巻き込み、遂にはアルコール中毒で施設へ強制収容。

中野梓は大きくなりすぎたバンドの活動に疑問を抱き脱退、
今では自宅に引きこもり、針とスプーンと睨めっこし、腕を駄目にしていく日々。

琴吹紬は己の性的嗜好に悩み苦しんだ挙句、幼女愛好へ逃避、
スキャンダルに塗れ、訴訟とマスコミの対応に忙殺されバンド活動どころではない。

秋山澪は元来の繊細な性格をメンヘラまでにこじらせ、
憂鬱な電波歌詞を連発した挙句、右腕を傷つけ、突如失踪してしまった。


そして唯は一人バンドに取り残された。



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:48:29.03 ID:DPLT0mUl0

唯「ははは……とうとう私一人だけになっちゃったね……」

憂「お姉ちゃん……」

唯の一番の理解者であった憂も、姉の落ち込みように言葉が出ない。

憂「大丈夫だよ……律先輩も中毒が治れば退院してくるし、
  梓ちゃんもそのうち思い直してバンドに復帰してくれるはずだし、
  紬先輩だって裁判が落ち着いて潔白だって証明されれば戻ってくるし、澪先輩だってきっと……」

唯「だめだよ」

憂「お姉ちゃん!?」

唯「放課後ティータイムは大きくなりすぎちゃったんだね、きっと」



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:51:43.75 ID:DPLT0mUl0

作品のリリースの度にかかるプレッシャー、
売上1位を確保しなければならないという至上命題、過酷なツアー……
その全ての要素が5人の心と身体を蝕み、堕落させていった。

唯「私たち、本当は高校の軽音部のままでよかったのかもしれないね……」

憂「そ、そんなことない!
  少なくとも私はお姉ちゃんたちの曲が多くの人に受け入れられて、
  お姉ちゃんの歌とギターに多くの人が酔いしれている光景を見るのがうれしくてたまらなかったんだよ?
  私だって放課後ティータイムの……平沢唯の一番のファンだったんだよ?」

後ろ向きな発言を繰り返す唯を必死にフォローする憂。そして、

憂「このままじゃ本当に放課後ティータイムはだめになっちゃうよ? ……お姉ちゃんはそれでもいいの?」

唯は数秒の間、視線をさまよわせ、ぽつりと答えた。

唯「そんなことはないけど……」

憂「だったら……アル中の律先輩を、ヤク中の梓ちゃんを、
  スキャンダルまみれの紬先輩を、失踪しちゃった澪先輩を……苦しんでる皆を助けてあげようよ?」

唯「……うん」

憂の呼びかけに唯はゆっくりながらも確かに頷いた。

唯「みんなのおかげで私は音楽という打ち込めるものを見つけることができた。
  今度は私がみんなを救うことでその恩を返す番なんだね」

憂「そうだよお姉ちゃん! その意気だよっ!」

かくして、大きな成功と引き換えに全てを失いかけている仲間達を救うため、立ち上がったのであった。



87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:53:22.29 ID:DPLT0mUl0

①律の場合

唯「りっちゃんは確かアルコールの中毒で病院に入院してるんだよね?」

憂「そうだよ。病院って言うよりは更生施設だけど」

唯「じゃあ、身体が良くなってアルコールが抜ければすぐに戻ってこれるんじゃ……」

憂「うん。確かに律先輩、身体の方は幸いにも手遅れにはなっていないって。でもね……」

唯「でも?」

身体は治る余地があっても、心の方はそうもいかなかった。

律「おい! いつまでこの私を狭苦しくて粗末なファッキン病室に閉じ込めておくつもりだ!
  さっさとここから私を出しやがれ!」

施設職員「ダメです! あなたは重度のアルコール依存症で
     この施設に入所しているということを忘れたのですか!?」

律「舐めんなよ? アルコールくらいなんだ! 私は田井中律だぞ!? ロックンロール・スターだぞ!? 
  アルコールぐらいでくたばるわけが無いだろ!? トゥナァ~イアイムアロケンロ~スター♪」

施設職員「何がロックンロール・スターですか!
      今のあなたはただの惨めなアル中患者です! それを自覚して下さい!」

律「ふざけんなッ!!! 酒飲ませろッ!!! ドラム叩かせろッ!!!(ジタバタ)」

施設職員「くっ……仕方ない!
     おい、801号室の田井中律がまた暴れ始めたぞ! 至急拘束具の手配頼む!」

律「クソッ!! 離せよ!! このファッキンチ○ポ野郎どもが!!」



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:56:26.98 ID:DPLT0mUl0

唯「知らなかった……。りっちゃんの状態がそこまで深刻だったなんて……」

憂「身体はゆっくり安静にすればきっと治る。
  でも今の律先輩は自暴自棄になって、
  お医者さんの言うことなんてとても聞くような状況じゃないって……」

唯「身体よりも心の問題っていうのはそういうことだったんだね……」


律「ファック!! 酒だ! 酒を持ってこいよ!! 澪はどこだ!? 
  ムギッ! お前んちにある最高級ブランデー、また飲ませろよ!! 
  梓!! ディーラーを紹介してやったんだから今度はお前が私に酒をおごる番だぜ!?
  唯、どこだよ唯!? またラリって2人で相撲取りゴッコしようぜ!? 
  ……なんでだよ。なんで皆私をそんな目で見るんだよ!?
  いいんだよ!! 今が楽しければ!! 老いぼれる前に死んじまっていいんだ!!」

施設職員「とうとう幻覚まで見始めたか……。
     このままじゃ依存症を克服する前に廃人になってしまうぞ……」

律「どうしてだよ……。どうして誰も返事をしてくれないんだ?
  私は放課後ティータイムのリーダーだぞ……軽音部の部長だぞ……。どうして……どうして……」

律「ひとりぼっちはいやだよぅ……」



92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 01:58:05.79 ID:DPLT0mUl0

唯「りっちゃん……」

そんな律の近況を唯は施設職員から聞き、思わず目を伏せた。

唯「澪ちゃんの言うとおりだったんだね。りっちゃんは本当は寂しがり屋だったんだ……」

施設職員「最近では毎日うわごとのように貴方達、バンドのメンバーの名前を呼んでいますよ」

唯「会うことは……出来ないんですかね?」

施設職員「それは簡単です。でも今の彼女にとって仲間に縋ることは甘えでしかない。
     豪放なロックスターとしての悪癖を完全に捨てるためには、
     以前の環境から完全に隔離された状況でないと……」

唯「…………」

職員の厳しい言葉に唯は決意した。

唯「職員さんの言うこともわかります。でも私は仲間としてりっちゃんを放っておくことは出来ない」

施設職員「ですからそれが甘えにつながると……」

唯「放っておくことと救うことは別です。とにかくりっちゃんに会わせてください!」

施設職員「…………」

唯のあまりの真剣な眼差しに、職員も渋々ながら律との面会を認めた。



93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:00:40.90 ID:DPLT0mUl0

律「あぁ……天井を這いまわる赤ちゃんが見える……ん?」

真っ白な天井に虚ろな瞳を向けて幻覚を見ながらベッドに横たわる律に、唯は恐る恐る声をかけた。

唯「りっちゃん……」

律「……唯か? 唯なのか?」

唯「うん。久しぶりだね、りっちゃん」

律「ハハハ……私がこの牢獄みたいなファッキン施設にぶち込まれてから数カ月、
  やっと見舞いに来てくれたな」

唯「ごめんね。今までこれなくて」

律「いいんだよ、唯は来てくれたんだからさ。
  それよりほかの三人はどうしたんだ? 見舞いどころか連絡すらよこさないし」

唯「…………」

律「特に澪なんて、一番付き合い長いのに
  私が使えないアル中の粗大ごみになった途端にポイ捨てかよって言うんだ!!
  全くひどい話だよな!? アイツがこんなに薄情な女だとは思わなかったよ!!
  クソッ!! 澪なんてふざけた腐れマ○コ女はエイズにでもかかって死んじまえばいいんだ!」

唯「澪ちゃんは精神を病んで失踪しちゃったよ」

律「………は?」

施設に収監され、外界の情報から遮断されていた律にとって、それは初耳であった。



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:03:13.22 ID:DPLT0mUl0

唯「ムギちゃんは幼女への性的虐待で正式に訴えられてバンド活動どころじゃないし、
  あずにゃんは放課後ティータイムを辞めてヤク中になっちゃったよ」

律「……マ、マジか?」

アルコールの酩酊に心も身体も支配され、
それでもロックスターとしての自分のキャラクターを保持しなければいけないという強迫観念に駆られ、
施設の壁の破壊に勤しんでいる間に、
澪たちが自分より深いかもしれぬ泥沼に嵌っていたことを知った律は思わずそのまま言葉を失ってしまった。

そして驚きと同時に律の胸に去来したのは、
放課後ティータイムのリーダーとして、桜高軽音部の部長としての責任であった。

律「私のせいか……私がメンバーの中で一番最初におかしくなっちゃったから……」

自責の念に駆られる律に、唯は言葉をかけることがなかった。
「りっちゃんは悪くないよ」、「そんなに自分を責めないで」
――慰めの言葉ならいくらでも思い浮かぶが、
それを投げたところで仕方ないことは唯にもよくわかっていた。

それに、バンドの精神的支柱だった律が変わってしまったことが、
他のメンバーに不安と動揺を与えたのは紛れもない事実だった。

律「ハハハ……私は本当にバカだなぁ……。
  破天荒なロックスターぶって自分の周りを賑やかにしてみたのはいいもの、その結果がこれだよ……。
  私のせいで、放課後ティータイムは壊れちゃったんだ」

唯「うん、りっちゃんがそんなに寂しくて悩んでいたこと、
  気付いてあげられなくてごめんね。でもまだ遅くないよ」

すると唯は、依存症の影響で震える律の手をギュッと握り締めた。




95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:04:24.51 ID:JniuUb/30

もう一度立ち上がれりっちゃん





96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:07:41.92 ID:DPLT0mUl0

唯「まだ諦めちゃダメだよ。りっちゃんの口からそんな言葉聞きたくない」

律「……」

唯「落ちてしまったらまた這い上がればいいんだよ」

律「這い……上がる……?」

唯「そうだよ。あの高校一年の春、
  文芸部に入るはずだった澪ちゃんを、合唱部に入るはずだったムギちゃんを、
  そして何の目標もなくニートになるはずだった私を、
  軽音部で引き合わせてくれたのは誰でもない、りっちゃんなんだよ?」

唯の言葉に、律の手の震えが一瞬止まった。

唯「バラバラになった放課後ティータイムをもう一度再生するためには、
  りっちゃんの力がどうしても必要なの」

律「今の私にそれができるのか……?」

唯「だからそのために……治療、頑張ろうよ?」

唯にとって、これは一種の賭けだった。
律が酒に溺れ、人格が崩壊したのは、
大きくなりすぎた自分達への期待に応えなくてはならないというプレッシャー、
それを紛らわせるための逃避が原因だった。

だが、律にとって、バンドによって壊れた心と身体を癒してくれる存在も
またバンドであろうことと唯は信じていた。



99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:09:33.74 ID:DPLT0mUl0

律「わかったよ……これからは真面目に治療に励んで、早くバンドに復帰できるようにする」

唯「りっちゃん……わかってくれたんだね!」

かくして律は態度を改め、自身のアルコール依存症の治療を受け入れることを決意した。

だが、その道のりは平坦なものでなく、度重なる禁断症状から、部屋中を唯が這い回る、
ベッドの中で澪が『ふわふわ時間』を歌いながら添い寝してくる、
ムギに襲われる(性的な意味で)、猫化した梓に甘噛みされる等々の恐ろしい幻覚を見続けた。

唯「りっちゃん……がんばって」

唯は影ながら、奮闘する律を応援し続けた。

律「だいじょうぶ……私はまた立ちあがれる……。
  だって私は軽楽部の部長なんだから……」



101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:11:36.53 ID:DPLT0mUl0

②梓の場合

唯「ここがあずにゃんのマンションか……」

来るものを拒むかのような黒塗りの重厚なドアの前に立って、唯は感慨深げに呟いた。

放課後ティータイムを脱退してからの梓は、元メンバーや関係者にすら己の消息を告げずにいた。
部屋に出入りするものもドラッグの売人以外になく、誰も彼女の今の生活の詳細を知らない。
唯一、わかっているのは

『放課後ティータイム脱退後の中野梓は、
 一日中家に引き篭もり、ヤクを打つだけの悲惨な生活を送っているらしい』

という、ファンなら誰でも知っているおぼろげな噂話のみ。

唯「ビデオで見たマンションと違うね」

憂「うん……梓ちゃん、引っ越したのかな」

脱退後の梓を追ったドキュメンタリー番組、あまりの衝撃的な内容にお蔵入りとなったあの映像は、
アンダーグラウンドで海賊版として出回っており、唯はそのコピーテープを手に入れた。
そこに映し出される死神から喉元に大ガマの刃先をあてがわれたかのような
生気のない梓の姿を始めて見た時の驚きと絶望を、唯は今でも忘れることが出来なかった。



103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:14:04.74 ID:DPLT0mUl0

梓「唯先輩……ですか? それに憂も」

憂「ひさしぶり、梓ちゃん」

唯「ひさしぶりだね、あずにゃん」

梓「そうですか? せいぜい一ヶ月ぶり……いや、三ヶ月? 半年? よくわからないですね」

唯「…………」

日がなヤクを打って過ごす梓にはもはや時間の感覚すらなかった。

梓「最近じゃ窓の外にカラスが飛んでるのを見て、
  とりあえず夕方だって気づくくらいなんですよ……って、どうでもいいですねこんな話は」

憂「梓ちゃん……上がってもいいかな?」

梓「ん、ああ……狭い部屋ですがどうぞ」

梓に促され、マンションの部屋に上がると、そこは家具も存在せず、ひたすらに殺風景な
無の象徴のような空間になっていた。

唯「あれ……? 確かあずにゃんのうちにはレコードとかCDとか一杯あったはずじゃ……」

梓「実はですね、前のマンションの部屋、火事にあっちゃって。
  その時にレコードもCDもギターも、全部燃えちゃいました。
  あずにゃん2号~17号まではなんとか助けだしたんですけどね。
  まぁ私の煙草の消し忘れが原因だったんで、自業自得ではあるんですが」

唯「そうだったんだ……」



105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:17:41.92 ID:DPLT0mUl0

梓の言うとおり、部屋には大勢の猫だけが所狭しと寝転がったり駆けまわったりする姿が見える。
ただヤク中の梓にはこれらの世話をするのが難しいようで、
猫達はところかまわず糞尿を垂れまくり、部屋の床は不潔なことこの上ない。

唯「あずにゃん……どうでもいいけどその腕……」

唯が最初に目に止めたのは、紫色に変色し、ケロイド状にボロボロになっていた梓の両腕だった。

梓「ああ……私、注射針の使い方よく知らなくて、適当に腕に打ってたらいつのまにかこうなってました」

唯「悪いお薬ばかりやってるって噂は本当だったんだ……」

梓「ええ。あ、そう言えばこの前いいヘロインが手に入ったんですよ。
  マレーシアとか中国から仕入れたのは混ぜ物が多くて嫌いなんですが、
  今回のこのコロンビア産は混ぜ物なしの純度100パーセントの上物ですよ? 唯先輩と憂もキメますか?」

憂「駄目だよ梓ちゃん! ドラッグなんて身体に悪いよ?」

梓「でも気持ちいいですし、他にすることもないんですよ。
  それに身体のことなら大丈夫です。スイスの病院で全身の血を入れ替えてもらいましたから」

憂「そ、そんな……」

梓「冗談ですけどね。とにかくドラッグを止めるのは難しいですね」

唯「冗談でも笑えないよ……。そうだ、また音楽活動はやらないの?」



106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:20:33.50 ID:DPLT0mUl0

唯は放課後ティータイムへの復帰要請の希望を濁しながらも尋ねたが、

梓「音楽活動ですか……正直HTT時代の貯蓄も底を尽きかけてるんで、
  クスリを買うお金のためにソロアルバムでも作ろうかな、
  と考えて曲作りなんかしてみようとは思ってますが」

唯憂「…………」

平沢姉妹はその返答を聞いて、たまらなく虚しくなった。
そもそもギターもアンプもエフェクターもDATも、
テープレコーダーすらも持たない今の梓がどうやって曲を作ると言うのか。

そしてそんな自分の境遇すら自覚できていない。
目の前にいる梓には、HTT時代のネコミミのよく似合うマスコット的後輩の面影はどこにもなく、
もはやただのエジンバラの不法占拠されたフラットの一室にたむろする、
スコットランドのクズのヘロイン中毒のチンピラ同然だった。

しかし、

唯「あずにゃんさ……HTTに戻る気は……ないかな?」

梓「!」

終始生気のなかった梓の表情が、その問いかけで初めて変わった。

梓「今更戻ったところで……どうなるっていうんですか。
  今の私は見ての通り、ヘロインのせいで腕は腐りかけてギターも弾けない、歯も抜けて呂律も回らない。
  コカインの吸いすぎのせいで鼻の骨だって溶けかけてるんですよ?
  私はたぶん、そのうち死にますよ?
  オーバードーズするか、猫のフンの細菌が脳内に感染して、頭が腐って死にますよ?
  そんな私は、きっとお荷物にしかなりません」



107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:23:18.91 ID:DPLT0mUl0

憂「そんなことを言うんなら、なおさら放っておけないよ?」

唯「そうだよ、あずにゃんが死んじゃいそうになっているのに何もしないなんて、私にはできない」

梓「それが私にとって大きなお世話だったとしても……ですか?」

唯「!?」

梓「前にも言いましたけど、HTTは大きくなりすぎてしまったんです。
  そのプレッシャーのせいで、私はちっとも演奏していても楽しくなかった」

唯「そ、そんな……」

梓「それは唯先輩たちだって同じだったのでは?
 律先輩もムギ先輩も澪先輩も、HTTがモンスターバンドになるにつれ、おかしくなってしまったでしょう?
 つまり、私が憧れ、心から演奏を楽しんでいたあの時の桜高軽音部
 ――放課後ティータイムはもう終わったんです。
 あんなバンドに戻るくらいなら、好きなだけクスリでトんで、ラリってたほうがましです。
 たとえ、その結果が破滅だとしても…」

唯「それが……あずにゃんの本当の気持ちなの?」

梓「…………」

部屋に気まずい沈黙が流れた。



110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:26:38.93 ID:DPLT0mUl0

梓はバツが悪そうにうつむき、唯は目に涙をためて梓を見つめ、憂はそんな姉の涙を心配そうに見守る。

だが、痺れをきらしたあずにゃん2号だけが「にゃあ」と控えめな鳴き声を上げた瞬間、

唯「(ぎゅっ)」

梓「えっ」

梓は自分が背後から抱きすくめられる感触に、思わず声を上げた。
まるで高校時代に唯に何度もそうされていたように抱きしめられた。
思わず高校時代のことが脳内にフラッシュバックする梓。

唯「私が……どうしてもあずにゃんに戻ってきてほしいって言っても……駄目かな?」

梓「……唯先輩……暑苦しいですよ。
  それに私……もう何日かお風呂に入ってないから臭いが移りますよ……」

言葉では冷たく突き放すものの、身体は正直なもので、梓の顔は耳まで赤くなっている。

唯「あずにゃんは……本当にこのままただのヤク中として朽ちていってしまってもそれでいいの?」

梓「だって……もう放課後ティータイムは……」

唯「私が、放課後ティータイムを昔のように戻してみせる!!」

梓「な……! 唯先輩が……?」

唯「うん。アル中になった律ちゃんも裁判に巻き込まれてるムギちゃんも失踪した澪ちゃんも
  きっと私がもう一度放課後ティータイムに戻れるようにしてみせるから!
  それでもう一度、放課後ティータイムをあずにゃんが
  ギターを弾きたいと思うバンドにしてみせる! だから……」



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:38:48.72 ID:DPLT0mUl0

言葉を紡ぐとともに力が入る唯の腕に抱きしめられ、梓はとうとう涙を流し始めた。

梓「私は……もうロクにギターも弾けませんよ? それでもいいんですか?」

唯「頑張ってリハビリしよう?
  クスリを身体から出して、キレイキレイにして、またギターの練習しよう?
  ちょうど私も最近あんまり弾いてなくて、コード殆ど忘れちゃったところだったんだ。
  だから一緒に練習しようよ? ね?」

梓「クスリを買う金欲しさにムスタングも手放しちゃいましたし……」

唯「また買いに行こうよ? ね?」

梓「今の私は、ドラッグのせいで歯もなければ鼻の骨だって溶けかけてるんですよ?
  もう人前に出ることなんて……」

唯「それもなんとかしよう? ムギちゃんがきっといい病院を紹介してくれるから……」

梓「唯先輩はこんな死にかけのクソったれジャンキーにこだわりすぎですよ……。
  今の放課後ティータイムなら別に他のギタリストを入れたって……」

唯「じゃんきーだろうとなんだろうと構わない。あずにゃんの代わりなんていないよ」

梓「……唯先輩は馬鹿です……馬鹿ですよ……おばかさんです」

唯「あはは……面と向かってそう言われると返す言葉もないけど……」

そう言ってバツが悪そうに唯が笑った時、梓の中で何かが切れた。



116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:41:51.29 ID:DPLT0mUl0

梓「う、うわ~ん!!」

唯「あ、あずにゃん!?」

梓「脱退しちゃってごめんなさい!! ジャンキーになっちゃってごめんなさい!!
  ひどいこと言ってごめんなさい!! でも私……ぐすっ……本当はHTTに戻りたくて……」

唯「わかってる。わかってるよ、素直になれなかったんだよね?」

梓「うえっ……本当はもう一度……唯先輩達と……ひっく……演奏がしたくて……
  でも最後の方はそれができなくて……ぐすっ……気づいたらドラッグにハマっちゃってて……」

唯「うんうん。わかってるよ、だからもう一度やり直そう? ね?」

梓「うわーーーーん!!」

かくして梓は唯の腕の中で、己の再起を涙とともに誓ったのであった。

憂「梓ちゃん……よかったね。
  でもお姉ちゃんにあんなにぎゅーっと抱きしめられちゃって、ちょっと妬けちゃうなぁ」

その後、梓はドラッグ中毒の治療のため律と同様に更生施設に入所。
身体中の骨がきしみ、穴という穴から冷や汗が吹き出すようなつらい禁断症状に襲われ、
苦しむこともあったが、唯や憂の励ましによってなんとかそれを乗り越えた。



119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/10(日) 02:43:54.63 ID:DPLT0mUl0

ドラッグの静脈注射の乱用で腐りかけた腕は寸でのところで一命を取り留め、
いずれはもう一度ギターを弾けるという医者のお墨付きも出た。

唯「ケロイド状の跡は残っちゃったけどね……。
  澪ちゃんがリストカットした時みたいにムギちゃんにいい外科医師を紹介してもらって……」

梓「いいんですこれで。
  この腕の傷跡を見る度、過去の愚かな自分を反省して、戒めることが出来ますから」

抜け落ちた歯やスニッフィングの連続で溶けかけた鼻骨の治療は簡単には行かなかった。
歯に関しては、腰の骨の一部を切除し義歯に充て、鼻にはプレートが入った。

梓「サイボーグにでもになった気分ですね」

唯「でもあずにゃんは可愛いままだよ?」

梓「(……この人は相変わらずだな)」

ドラッグどころか煙草とも手を切り、一度は売り払ったムスタングを買い戻すと、
梓はまた一日中部屋にこもり切る生活に戻った。
もっともこれはドラッグをキメるためでなく、ギターを弾きまくるためなのだが。

梓「ムギ先輩や澪先輩が戻ってくるまでに、カッコイイリフやソロをいっぱい考えておかないと」

こうして、『消えた天才美少女ギタリスト』のはずだった梓は、
今一度表舞台へと立つため、見えないところでのバタ足を始めたのであった。




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唯「崩壊後ティータイム!」#前編
[ 2011/09/05 23:50 ] 音楽 | | CM(0)

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