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律「部長命令だ!」 【非日常系】


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 19:48:52.77 ID:AfXt/JxQ0


 ――シトシトと雨が降っている。

 鈍色の雲が空悉皆を覆い、雨を降らしている。
 そのせいで靴が濡れそぼち、冷たく、足先が痛い。


俺は小走りで何某との待ち合わせ場所である喫茶店に入った。

カランカラン

 小気味いい音が俺が入店したことを告げる。

「いらっしゃいませー」

 目当ての人物は何処にいるだろうか?
 キョロキョロと探すと、窓側に座っている人物と目があった。

 その人はこっちを睨みつけながらむくれた。

「遅かったじゃあないか。待ちわびたぞ」

 ゴメンゴメンと言いながら俺はその人物の向かいに腰をおろした。





3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 19:54:37.98 ID:AfXt/JxQ0


 俺の向かい側に対峙して座る人物は、相当待ちくたびれていたのか、
 頬杖をついてストローが入っていた紙にアイスコーヒーを垂らしていた。

「久しぶりだな~。まぁ大きくなって~」

「親戚のおばちゃんか、あんたは」

 何ら昔と変わってないなぁ、前髪意外は。



4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 19:57:48.00 ID:AfXt/JxQ0


 眼前の人物はまだ三分の二ほどあるアイスコーヒーを、
 ジュウウウと音をたてて飲みながら質問してくる。

「それで…なに?私に聞きたいことってのは?」

「あぁそれは――「ご注文はお決まりですか?」

 あぁもう
 
 はかったようなタイミングでウェイトレスが尋ねてくる。

 可愛いから許すけど。

「ああ、カフェオレで」

「かしこまりました」

 立ち去る彼女の後ろ姿をしげしげと眺める。
 スラッとした足がまた魅力的だ。ハアん。

 よし決めた!ここの常連になろう。

「おいこらスケベ野郎」キュウゥ

「痛い痛い、つねらんといて」



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:00:15.73 ID:AfXt/JxQ0


「んで何なの用って?」

「あのさ、あの時の話について聞きたいんだけど。
 新しい小説書きたいんだ。
 その種にしたいし、時期的にももう話してくれたっていいだろ?」

「……あの話、か」

「だって前聞いた時は、また今度な、って言ってはぐらかしたじゃん」

「んん…」

「なぁーこの通り!お願いします!」



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:02:26.27 ID:AfXt/JxQ0


「……。そういやこの話、お前に全く話してなかったんだよなぁ」

「うん。だからさぁ」

「…」ジユゥゥゥ

 目の前のアイスコーヒーがみるみる減っていく。

 俺のカフェオレまだかなあ
 美味しそうに飲まれると喉が渇く。

「分かった。事のついでだ、話すよ」

 前髪の長い女性は、妙齢の頃の記憶を引っ張り出してきて、腹をくくったように話し始めた。

「あれは、今日のように雨降りの日だったな」



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:05:02.07 ID:AfXt/JxQ0


 ――シトシトと雨が降っている。

 廊下の窓から見える外の景色は雨雲のせいで暗く、
 あまつさえ私の気分も心なしか暗い。

 あと数日で三年生にあがる私。
 勉強や進路のことからくる強迫観念が頭をもたげるのだ。

 まぁそんなちっぽけな春愁、この扉を開ければ吹っ飛ぶさ。

ガチャ

律「ういーす」

紬「あらりっちゃん、掃除当番お疲れ様」

律「う~んちかれたー。…あれ?他は?」

紬「澪ちゃんと梓ちゃんはまだホームルームが終わってないんじゃないかしら」

律「ふうん……唯は?ムギと一緒に先に教室出てったじゃん」

紬「唯ちゃんは模試の結果のことで先生に呼び出されちゃって」

律「ふふ、アイツらしいな」

紬「そうね」クスクス



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:07:18.35 ID:AfXt/JxQ0


ザアアアアアアアア・・・

 雨脚はさっきよりまして強く地面を打つ。
 春雨のくせに生意気だ。

紬「……」

 ムギは窓の外を眺めながら黙りこくっている。

 どこかいつもと違う…

律「…どしたの?ムギ。具合悪いのか?」 

紬「いえ大丈夫…。……」

律「?」

紬「あのりっちゃん…相談があるんだけど…」

 ムギが相談か…珍しい。

律「何でも言ってくれぇ。ドんとこいだぜ☆!!」キリッ

紬「うふふ、頼れる部長さんね」

 ムギが眉を開く。



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:10:07.98 ID:AfXt/JxQ0


 意を決したようにムギが口を開く。

紬「……あの――

ガチャッ!!

 あぁもう

 はかったようなタイミングで扉が開く。

 出鼻をくじかれたムギは口をつぐんでしまった。

唯「たのもー!」

梓「こんにちはー」

澪「唯も元気だなー。さっきまで先生に剣突食らってションボリしてたのに」

唯「だってーここに来たらおいしいお菓子が待ってるんだもん」

紬「うふふ、唯ちゃん今日はチーズケーキあるわよ。
 (りっちゃん、部活の後でさっきの話、いいかしら?)」

律(りょうかい)

唯「わっふー!ケーキケーキ!ケーキだよあずにゃん♪」ギュウ

梓「うわ!?ちょっと落ち着いてください!!」



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:26:07.57 ID:AfXt/JxQ0


ジャジャ ジャジャ ジャーン~♪・・・………

 春休みを越えれば新学年。つまり新入生が入ってくる。
 部員獲得の為、新勧ライブは成功させなくてはならない。

 自然と練習にも熱が入る。

律「フゥーっ」

澪「今の良かったな。唯の間違いもほとんどなかったし」

唯「やるときゃやりますよ!わ・た・し」

梓「頼もしいですね」

キーンコーンカーンコーン・・・

紬「あら、もう下校時間?」

律「集中するといつもより時間経つの早いな。よし!!帰るか」



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:28:24.76 ID:AfXt/JxQ0


唯「ふい~お疲れー」

梓「お疲れ様です」

澪「あれ?ムギも律も帰らないのか?」

紬「うん…ちょっとりっちゃんと話したいことあるし先帰ってて」

澪「? そうか、分かった」

ガチャ

梓「失礼しまぁす」

唯「じゃあねムギちゃん、りっちゃん」

バタン

ガヤガヤガヤガヤ・・・

 かしましい喋り声が遠ざかっていく。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:30:37.95 ID:AfXt/JxQ0


ザアアアア・・・

律「して、なんでございましょう?相談事というのは?」

 椅子に仰け反り座りながらムギの返答を待つ。

紬「実は……家出がしたいの…」

律「……ぁ」

紬「……」

 開いた口がふさがらない。



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:32:52.49 ID:AfXt/JxQ0


 仰け反っていた体をいっきに引き戻し、前につんのめる。
 さながらヘディングを決めるサッカー選手のよう。

律「家出!?」

 机に身を乗り出して叫んだ。

紬「驚きすぎよ、りっちゃん」

 ムギは平静に座ってしゃべっている。

律「家出って…。だってムギ…」

 そう、なにを隠そうこの御方は琴吹家のお嬢様なのだ。
 生活は御蚕包み。家出なぞ無縁なのでは? 


 この御方をどなたと心得る!!かの琴吹財閥の令嬢、琴吹紬様であらせられるぞ!!
 この眉毛が目に入らぬか!!ええぃ頭が高い!! 
 ひかええ!!ひか――



23 名前:>>22昨日完結出来なかった… だから最初からやってる…:2010/01/25(月) 20:40:47.92 ID:AfXt/JxQ0


律「でも、どうして?」

 またとんちんかんなムギの夢なのだろうか?

”わたし、前から家出することが夢だったのお~”

 脳内ムギがしゃしゃり出て、目をキラッキラさせている。

紬「……私、結婚することになりそうなの」

 そうか結婚か…そいつぁしかたねぇ。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:43:00.50 ID:AfXt/JxQ0



律「エエエエエエエエエエエエエエ!?」

 エエエエエエエエエエエエエエ!?

”14個”

 ダマレ。私の思索の邪魔をスルナ。

 とりあえず、逃げ回る脳内ムギを鳥かごにぶち込む。

 あとでお仕置きだ。

 そうじゃないそうじゃない!!
 脳内ムギの相手なんてやらずもがな。

 思考がおいつない。混乱している。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:45:49.98 ID:AfXt/JxQ0


紬「親が今度お見合いするぞって」

律「企業の為ってことか……」

紬「……」

 紬家はムギを駒として使う気だろうか…
 ドラマみたいな話だ。にわかには信じられない。

律「つまり…ムギはお見合いが嫌で家出したいってわけだな」

紬「ええ、それに…」

律「それに?」

紬「家出をするのが前からの夢だったの」

律「……」



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:48:01.17 ID:AfXt/JxQ0


律「それで私に相談してきたと。…どうして私?」

紬「りっちゃんだったら家出の達人かな?って」

律「」パシ

 HAHA。澪のに負けず劣らずでシャープなチョップをかましてやったわ。

紬「ァィタ」ウルウル

律「いつもどんな風に私を見てるんだ?!私そんなにズベ公じゃないよ?」



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:50:23.78 ID:AfXt/JxQ0


 …まぁ頼られるのは嫌いじゃない。

律「んで、そのお見合いはいつあるわけ?」

紬「よくわからないの…多分三年生になってからだと思うけど」

 まだ時間はあるわけだ。

律「ムギはどうするつもりなの?」

紬「この春休みを使って家出しようかと」

律「一人で?」

紬「ええまぁ」



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:52:39.18 ID:AfXt/JxQ0


 よし決めた!!

律「私もその家出に付き合っていい?」

紬「ええ!?」

律「ねぇダメ~?」ウルウル

紬「ウッ、り りっちゃんも何か家出したい理由があるの?」

律「ああぁ~いや~まあな…」

 言えない、言えないよ。
 オモシロそうだから付き合わせてって言ったなんて。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:54:48.36 ID:AfXt/JxQ0


紬「いいの?私、不安だから…お願いしたいのはこっちなんだけど…
  で、でも巻き込んだら迷惑掛けちゃうかもしれないし…」

律「お願いしてるのはこっちなんだぜ?迷惑だなんて滅相もない」

紬「じゃ、じゃあ」

律「ああ、二人で家出しよう」

紬「律隊長……」

律「戦友を見捨てはしないさ」

 ムギは相当一人で抱え込んでいたんだろう。
 急に安堵したせいでその場にヘタリこんでしまった。

 ふと外の景色を見遣る。

 外の雨は止み、雲の切れ間から光芒が地上に届いていた。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:56:59.03 ID:AfXt/JxQ0


 光陰矢の如し。

 あっという間に春休み前日。

 私たち軽音部は今年度最後のクラブに精を出していた。
 二年生最後のクラブ。こう考えると何か寂しい。

ジャジャ、ジャジャ、ジャーン♪~・・・ダカダン!

さわ子「いいんじゃなーい」

紬「ふふ、ありがとうございます」

律「なんといっても新入部員が欲しいからな」

梓「そうですね。新歓成功させてたくさん新入生ゲットしましょう!」



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 20:59:26.79 ID:AfXt/JxQ0


さわ子「よっしゃ!その意気や!私も新しい衣装作りに一肌脱がせてもらおうじゃないの♪」

澪「やめてください!」

唯「いいじゃん新しい衣装~」

紬「いいじゃん~」

澪「唯~、ムギ~、先生のやる気を助長するようなこと言わないでくれー」

さわ子「澪ちゃんったら素直じゃないんだから~」

澪「はぁ…」

梓「ヤレヤレですね」



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:01:36.54 ID:AfXt/JxQ0


律「さてと、時間だし帰るか」

澪「そうだな」

ガチャ

 扉を開けて、顧みる。

律「次ここに来る時は三年生か…」

唯「そうだね」

梓「私は二年生…」

さわ子「ヤーねぇしんみりしちゃってぇ、まだまだ若いんだからそんなに暗い顔しない」

澪「青春、ってやつですよ、先生」

 青春、かぁ

バタン

 私は扉を閉じた。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:04:39.80 ID:AfXt/JxQ0


 夜。夜はあんまり好きじゃない。
 他人と触れ合わない寂しさと、夜の暗さが相まって、物憂い気持ちになるのだ。
 
 だが今は違った。明日のことで胸が躍っていた。

 何をもっていこうか?
 おやつは無用だろうし、衣類を中心に荷物を見繕うか。

 お金も幾らかおろしてきた。いざとなればムギの金を…。
 いやいや、それは気が引ける。

 何処に何泊するかもきまってない、向こう見ずな計画だ。
 驕奢は出来ないなぁ。

 けれどこんな悩みも今の自分は楽しんでいた。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:06:51.19 ID:AfXt/JxQ0


ブーーブーー

 やにわに私の携帯が震える。ムギからだ。

律「もしもし」

紬『明日の集合時間どうしましょう?』

律「10時にいつもの場所でいい?」

紬『わかった。じゃあまた明日ね』

律「ああ、寝坊するなよ?」

紬『大丈夫よっ』



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:09:34.29 ID:AfXt/JxQ0


律「ハジケル時も、憂鬱な時も、出遅れないで、さあ行くよ~♪
  みんなでクラップユアヘンズ!毎日チャンスチャンスチャンス!身軽にジャンプジャンプジャンプ!
  もっと行ける! 
  楽しいだけが基準でいいじゃない!!とにかくレッツゴー!!!」 

 朝。
 
 ご機嫌に、洋々と歌を口ずさみながら一階に降りると…あれ?


 誰も居なかった。


 …ああそうか、聡はクラブだし、親は仕事なのだ。
 
 私は一人納得して身支度を始めることにする。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:11:53.00 ID:AfXt/JxQ0


 一通り身繕いを済ますと一つの問題にぶち当たった。

 どう家族に説明しよう?

 そう。清廉潔白な私にゃ家出する理由がない。

 どうしたものか?

 考えぬいた結果、置き手紙を書いておくことにした。


"自分探しの旅に出ます  律  "



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:14:03.08 ID:AfXt/JxQ0


ザアアアア・・・

 未だに外の雨が収まる気配はない。

「お待たせいたしましたー」

 おおきた!愛しのカフェ・オ・レ♪

「ごゆっくりどうぞ~」

 再び去っていく彼女の御御足を拝む。眼福。

「オイコラ」ズブ

「gyッああああああああ」

 まさかの目潰し。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:16:32.73 ID:AfXt/JxQ0


「目潰しを喰らうとは不覚」

「お前がドスケベだからいけないんだよ。
 そんなことより、私がさっきから一生懸命しゃべっているのにメモも取らないの?」

「分かってないな~。メモなんざ不要なんだよ。
 いいか?人ってのは何かに記録しちゃうと自分で記憶しなくなるんだ。
 『これで忘れないで済むぞお。安心安心』ってさ。

 けれど写真やビデオにその時の思いを鮮明に残すことが出来るか?出来ないだろ?
 俺は話の内容も、その時抱いた感情も自分で大事に記憶したいんだ。だからメモなんか要らない」

「……」ジトー

「なっ、なんだよ」

「……」ジー

「ぅ……」

「……」

「ゴメンナサイ、急いでてメモのことなんか失念してました。ゴメンナサイ」

「しっかり覚えて帰れよ」

「はい…」



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:19:36.61 ID:AfXt/JxQ0


「どこまで話した?ムギが家出したいッスって打ち明けたところまでだっけ?」

「う~ん聞いてる限りそんな体育会系な口調じゃないと思うよ?」

「こまかいことは気にしない」


「いよいよ家出か?」

「ああまぁそうなるな」



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:21:54.87 ID:AfXt/JxQ0


律「おおい」

紬「あらおはよ、りっちゃん」

律「ごめん、待った?」

紬「いえ、全然」

律「じゃあ、いこっか」

紬「ええ」

 
 ……でも何処に?



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:24:13.08 ID:AfXt/JxQ0


 とりあえずムギが電車に乗ろうと言ってきたので、駅に向かうことにする。

律「でもなんかドキドキするな。だってえ家出だぜ?家出」

 家出って言うだけで、ハイティーンの私たちの気持ちを高揚させるには十分だった。

紬「りっちゃんも?私もドキドキが収まらなくて…」

律「ふふ、ムギもかぁ。こうして出掛けるのも楽しいな」

紬「そうね♪」

 空は快晴で、心も自然と躍る。
 いつもは耳障りなここかしこの喧騒も、その音が重なって音楽に思えてくる。



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:26:22.27 ID:AfXt/JxQ0


律「ムギ大丈夫だった?」

紬「何が?」

律「家族の人とか。私は家に誰もいなかったから大丈夫だったけど」

紬「こっそりぬけだしてきちゃった」(・ω<) てへぺろ

律「そうかあ」

紬「でも使用人の一人に見つかりかけちゃってね。気絶させちゃった」(・ω<) てへぺろ

律「なん…だと……」

 ムギが後ろから忍び寄り、使用人の首をへし折る。
 そんな光景が目に浮かんだ。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:28:32.32 ID:AfXt/JxQ0


紬「冗談はさておき」

 おい、待て
 冗談がコワすぎやしないかい?

紬「電車に乗っても行く宛がないのよねー。どうしましょう?」

律「じゃあどして駅に行こうなんか言ったの?遠くまで歩くの嫌だったのか?」

紬「歩きでも良かったんだけど…この辺の歩ける範囲には、
  私の家の系列の店だとか会社が至る所にあるから、
  私を見知っている人に見つかる可能性が高いの。
  だからまずこの街から離れたくて」

律「なんと」

 うう、アンビリバボー
 つまるところ、この見渡す限り林立する建物のいくつかは紬様の意のままだ、と。
 要するに私は紬様の前にいるのだ、と。
 

 貴様は今、紬様の前にいるのだ。
 ひざまずけ!!命乞いをしろ!!
 三分間待ってや――



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:31:30.68 ID:AfXt/JxQ0


 そうこうしてるうちに何の決定もなされないまま駅に到着する。

紬「どうする?」

律「んん、そうだなあ…」

 ふと、切符の値段の書いてあるボードを見つめる。

律「こうゆうのはどうだ?一番高い切符の行く駅へ向かうんだ」

紬「ここから行ける限界まで行こうってことね?」

律「そゆこと」

 そう、知らない駅名、乗ったことない路線。



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:33:54.58 ID:AfXt/JxQ0


 私たちは英世さん二人分と金属少々の価値がある切符を手に意気揚々と電車に乗り込んだ。
 今の私たちは自信に満ちていた。両虎向かうとこ敵なしだ!!




 だが、電車の中で私たちは向かいの座席に座ったお婆さんに、入れ歯の凄さについて延々と語られた。

 入れ歯はすごい。そのことが骨身にしみた。あんなヨボヨボお婆ちゃんを饒舌家にしてしまうのだ。

プシュー
 
 電車の扉が閉じ、再び走り始めた。

 超絶ばあちゃんは私たちより先に電車から降りた。

律「フゥーっやっと解放された…」

紬「凄かったわね、あのお婆さん」

律「ああ、世の中いろんな人がいるもんだ」



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:36:04.85 ID:AfXt/JxQ0


アナウンス『終点~終点~』

 はじめ結構居た乗客は、今は見る影もなく、車内は静けさが支配していた。 

プシュー

紬「おりましょうか」

 外に降り立つと寒い風が私たちを出迎えた。
 日は既に傾いて、ぐるりの景色は少しオレンジがかっている。



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:39:13.30 ID:AfXt/JxQ0


律「さーてと、どうしますかねぇ」

紬「またそぞろ歩きすることになっちゃったわね」

 私たちの降り立った地は、辺りにまだ緑の多い、いうなれば田舎だった。

 風が通り過ぎる度にさわさわと木々の葉が擦れ合う音がする。
 木々たちが会話しているみたいだ。



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:41:22.60 ID:AfXt/JxQ0


紬「のどかねー」

 時間的に、どこか泊まるところを探さなくてはいけない状況だ。

律「うーん。……ん?あれ」

紬「え、何?」

 看板を指差す。

 まぁなんと、都合のいいことに民宿があるではないか。

 渡りに船と私たちはその民宿に足を運んだ。



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:43:53.21 ID:AfXt/JxQ0


あばさん「いらっしゃい」

 ここの女将さんらしき人が出迎えてくれた。

紬「あのー今夜、一泊させてもらえます?」

おばさん「いいよいいよ」

律「ありがとうございます」

おばさん「ここは紅葉が売りだからねぇ、今はかき入れ時じゃないんだよ。
      他の客いないから好きな部屋選んでいいよ」



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:46:03.09 ID:AfXt/JxQ0


 急な客人、面倒な相手にも関わらず、おばちゃんは如才なく待遇してくれた。

律「やったなムギ」

紬「ええ、ほんとにありがとうございます」

おばさん「それにしても、二人旅かい?」

律「いや、家出だよ」

おばさん「ははは、家出か。色々大変なんだね。ぱっとしないところだけどゆっくりしてって」

 家出を冗談だと思ったんだろう。おばちゃんは笑ってスルーする。



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:48:15.09 ID:AfXt/JxQ0


 夜。夜は嫌いだけど、ムギといれば別にどうってことない。

おばさん「お風呂用意出来たよー」

 階下から声がする。私たちは二階の部屋を選んでいた。

律「はあい、ありがとうございまあす」

紬「どっちが先入る?」

律「ムギ先どうぞ」

紬「そう?じゃあお言葉に甘えて。今日いつもと違うことばかりしたから体こっちゃって」

律「ばあさんにも絡まれたしな」

紬「ふふ、そうね」



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:50:29.45 ID:AfXt/JxQ0


 和室であるこの部屋は畳の匂いが充満している。
 普段嗅がないい草の匂いは新鮮だ。
 
 畳の上に仰臥して、天井とにらめっこ。

 木目調の天井は落ち着いた雰囲気を漂わせていた。 

 …………



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:52:46.72 ID:AfXt/JxQ0


ブーーブーー

 震えだした携帯を手にとる。澪だ……

律「はい、もしもし」

澪『おい、律!今どこだ?』

律「さぁ~何処だろうねー?」

澪『茶化すな。こっちは真剣に聞いてるんだ。
  お前のおばちゃんから聞いたぞ…家飛び出したんだって?
  …まぁおばちゃんそんなに気にしてなかったけど』

律「そうなのか」

 そりゃあまぁ放任主義の家だからな。

律「それだけのことの為に電話を?
  もしかして私がいないから寂しいんでちゅかあ?みおちゅわ~ん」

澪『アホか』

律「じゃあなんでぇ?」

澪『……ムギ、そこにいるだろ?』



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:54:56.18 ID:AfXt/JxQ0


律「……」

澪『お前の無言は肯定だ』

律「…いや、いないよ」

 ムギは風呂に行ってて、ここにはいない。あながち間違いじゃない。

澪『何年お前のお守りやってきたと思ってるんだぁ?』

律「お守りってのは聞き捨てならないな、私は赤ちゃんか!」

澪『ムギ、…家出したんだ…携帯は家におきっぱなし…』

律「へ、へぇ。そ、そうなのか」

 知らないふりをする。…今更だけど。



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:57:07.39 ID:AfXt/JxQ0


澪『その片棒担いでいるんだろ?ムギの家族、血まなこになってムギのこと捜してるぞ。
  私の家にさっき執事さんが訪ねてきたよ…次はお前の家に行くってさ。

  なぁ、何があったか知らないけどさ、こんな家出なんてバカなのことやめろよ』

律「……私たちは至って真面目だ。生真面目、マジで」

澪『ふざけてるのか?』

律「…澪、ありがとう電話くれて…でも、もうかけてこないで」

澪『おい?どういうつも――ツーツー・・・

 心配無用。

パタン
 
 私は携帯を閉じた。



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 21:59:20.16 ID:AfXt/JxQ0


タンタン‥‥
 
 階段を上がって来る音。

紬「りっちゃん次どうぞー」

 ほかほかと湯気をあげるムギが帰ってきた。

律「……」

紬「どうかしたの?」

律「いや、別に。じゃあちょっくらお風呂に馳せ参じてくるわ」

紬「いってらっしゃい」



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:01:47.45 ID:AfXt/JxQ0


・・・・・・

 風呂からあがると澪と母親からの着信履歴が携帯にしこたま残っていた。

 嫌気のさした私は携帯の電源を切った。

 布団を敷いて私たちは寝る準備を済ます。

 私は即行、布団に潜り込んだ。

 歩き過ぎたのが祟って、正直体の節々が痛い。



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:03:57.69 ID:AfXt/JxQ0


紬「りっちゃあん、ねた~?」

律「うう」

 なんだヨもぅ、良い子は寝る時間なの。

紬「りっちゃあん」

 ムギが猫撫で声で擦り寄ってくる。

 寝かせてくれー、
 歩き疲れんたんじゃ無かったのかよ?ムギさん?

紬「えい♪」

 ええ!?

 ムギが藪から棒にのしかかってくる。



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:06:42.37 ID:AfXt/JxQ0


紬「枕投げしよ?」

 何故だ?







 なぜだ?

紬「寝れなくて暇なの」

 しんどくないのか?
 このタフネスターミネーターめ、強靭な体をお持ちでいらっしゃる。

 だけど、今の私に交戦意欲など毛頭ない。

律「やd――バフう

 枕が私の顔面にヒット!!

紬「やった♪」

 やりやがったな、こんちきしょう。

 よろしい、ならば戦争だ。先度の行動、宣戦布告と受け取ろう。



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:08:55.50 ID:AfXt/JxQ0


 私の闘争心に火がつく。

律「フハハ!!私に楯突いた愚行、悔やむがいい」

 小学校の時、休み時間のドッジボールで鍛え上げたこの剛腕、とくとみよ。

 私はムギに投げつけられたムギの枕を力一杯にムギに投げつけた。



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:11:08.10 ID:AfXt/JxQ0



ガシッッッッッッ!!

 なんと……

 右足目掛けて投げた枕を、ムギは体全身を使いしっかりキャッチした。

紬「ふふ、甘いわね」

 見くびっていた。こいつ予想以上の手練者だ。

 ムギが枕を投げるモーションに入る。

 させるか!!私は私の枕を引っ掴み、投げ――

おばさん「ちょっとおー、二階で何やってるのぉ」

紬・律「ゴメンナサイ」

 ちと熱くなりすぎました。



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:13:27.18 ID:AfXt/JxQ0


 気付けば朝。
 
 朝?

紬「昼よ」

 何!?

 昨日のあの後すぐに眠りについて…そうか、今は昼なのか…。

 
 ところで、あのぉムギさん。人の心読むのやめて下さい。

紬「べつにいいじゃぁん」

 ちょ、ホントヤメテ。



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:15:40.71 ID:AfXt/JxQ0


律・紬「ありがとうございましたぁ」

おばさん「また来てねえ」

 飽満、満腹。

 朝食と昼食を兼ねた食事をたらふく食べた私たちは民宿を後にした。



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:18:01.89 ID:AfXt/JxQ0


 叢雲の間から覗く春光が暖かい。
 
 私たちは駅へと続く道をひたすら歩く。

 道中、小さな子供たちが自転車で何処かへ向かう姿を見た。
 彼らも春休み。友達の家にでも遊びに行くのだろう。

 それを眺めつつムギはふとこう漏らした。

”小さい頃。私、友達と遊ぶ機会が少なかったの。
 家柄のせいもあるんだけど…、私自身どこか友達との間に一線を引いてたのかも…。

 だけどね…桜高に入って、みんなと出会って、私今スッゴク楽しい”

 こういう時どのように返答するべきか、ストックのない私…。

”そうか”

 と、笑って誤魔化した。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:20:50.61 ID:AfXt/JxQ0


 駅に到着。

律「さて、どこ行く」

紬「なにする」

律「エイトフォー」


紬「……」

律「……」


紬「…ひとまず、先行ってみましょ?」

律「…ああそうだな」

 切符を買って、私たちは改札を通った。



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:23:51.25 ID:AfXt/JxQ0


 二両編成の電車内にはほとんど人は居ず、ガラガラだった。

 発車する間際、ムギは外に何かを認めたのか、外の景色を凝視している。

 私もつられて外を見るが、さっき歩いて来た道、路傍に停められた黒い車、街路樹。

 特に気になるものは見受けられない。

律「どうしたのさ?」

紬「いえ、別に。ちょっと感傷的になっちゃって」

律「あのおばさんも優しかったし、確かにここを離れるのは名残惜しいね」

紬「……えぇ」



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:26:04.74 ID:AfXt/JxQ0


 ガタンゴトンガタンゴトン・・・・・・

プシュー

 今、あの駅から何駅目だろうか。
 目的の駅はまだ先だ。

 だけど、ムギは突然私の腕を掴み

紬「降りましょ」

律「え?!」

紬「途中下車しましょう♪」

 まさかだった。



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:28:32.75 ID:AfXt/JxQ0


 こりゃ、すごい…

 奇勝がそこにあった。

 私たちの降りた駅は無人駅。辺りを見渡せば田園や山、緑色ばかり。

 某ジブリアニメに出てきそうな景色が私たちを取り囲む。

紬「ごめんなさい。あまりに綺麗な景色だったから急に降りてみたくなって」

律「いやこれは降りた価値あるよ」

 コンクリや排ガスに囲まれない、見慣れない風景。
 浮き足立つ自分の気持ち。だけど私を惹きつける景色だった。



77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:31:05.53 ID:AfXt/JxQ0


 私たちは春の夕日の斜陽を背に、細い道をひた歩く。

 道すがら私たちはよもやま話を累積して盛り上がった。

 春風に乗った花の香が私たちの鼻腔をくすぐる。



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:33:28.15 ID:AfXt/JxQ0


律「ああこれ」

紬「え、なになに?」

 私は道端にあるものを見つけた。

 シロツメグサだ、つまりクローバーだ。

 白くてかわいい花を咲かせている。

 私はその花のいくつかを摘み取っていく。

紬「?」



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:36:34.58 ID:AfXt/JxQ0


 私も器用なとこあるんだってこと教えてやろう。

律「ほい、完成」

 出来上がった品をムギの頭にのせる。

 自作の花の冠だ。

紬「りっちゃんすごい!」

律「そうだろそうだろ」

紬「ありがとうりっちゃん。あ、お礼にこれ」

 ムギが手に握り締めたクローバーを差し出してくる。

律「四つ葉のクローバーじゃん」

紬「さっき見つけたの」

律「へへ、ありがと」



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:39:01.17 ID:AfXt/JxQ0


紬「でもこの花飾り、りっちゃんのほうが似合うと思うなあ」 

 そう言うやいなや、ムギは冠を私の頭にのせようとしてくる。

律「いやいいって、そんなキャラじゃないよ私」

紬「いいから、いいから。カチューシャ取って」

 強引に冠を頭にのせられる。

紬「いい!!すごくいい!!ハアん」

 フラフラとするムギを支えてあげる。

紬「可愛いは武器だわ。ああダメ!!りっちゃんこっち見ちゃ。
  あまりの可愛いさに私卒倒しそお!!」

 何をのたまっているんだ?こいつは。



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:42:08.88 ID:AfXt/JxQ0


紬「やっぱりりっちゃんは前髪をおろしたほうが可愛いよ」

律「……おかしいし」

紬「おかしくねぇし!!」

 なんか気恥ずかしい。

紬「この冠はりっちゃんのね」

律「ええでも…」

紬「お願い」

律「じゃあこのクローバーはムギのな。大事にもってて。願い事叶うから」

紬「ふふ、ありがとう」

 箸が転んでも可笑しい年頃。こんな他愛もないことが心から楽しめる。



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:45:05.98 ID:AfXt/JxQ0


紬「ありがとう、りっちゃん」

律「花飾りのこと?いいっていいって」

紬「うんうん、家出のこと。ごめんさい、私の我儘に付き合わせちゃって」


律「あのさ。ムギならさ、私が助けてって言ったらどうする?」

紬「りっちゃんの為ならたとえ火の中水の中、地球の裏側にいたって飛んで行くわよ」

律「おおぅ。予想以上の答えだ。
  ムギだって友達の頼みなら自分のことなんて二の次だろ?
  取りも直さずそういうことだよ。私だってムギの為なら喜んで何でもこなせるさ」

紬「りっちゃん…」

律「はい、暗い顔しない! 知ってる?悲しみって人にうつるものなんだぜ。
  第一、そんな顔してたらせっかくの端整なムギの顔が台無しになるよ?」

紬「ふふ」ニコッ♪

律「それでいい」ニコ



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:47:47.13 ID:AfXt/JxQ0


紬「私ね…小さい頃から、好きな人と一緒に大恋愛して結婚したいなぁって思ってたの」

律「可愛らしい夢だね。だからお見合いはいやだったわけだ」

紬「うん」

律「絶対叶うよ、その夢」

紬「ありがと」



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:52:42.84 ID:AfXt/JxQ0


 満点の星空の下、私たちは野宿をすることになってしまった。

 足が棒になるまで歩いたのに、街に出ることはなく、周りに家もない。

 まぁなにより、例に漏れずムギが目をキラキラさせてたし。

 私たちは本日の寝床に寂れたバス停を選んだ。家がないのにバス停はある。

 不思議な光景。まるで別世界に来たようだ。



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:54:53.09 ID:AfXt/JxQ0


 このバス停。よくある感じのバス停。
 座るところもあって屋根もあるけど、四面のうち、前だけはひらけていて吹きさらしだ。

 だが、こんな貧寒なバス停でも今の私たちにはありがたい。



86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 22:58:26.13 ID:AfXt/JxQ0


 隣に座るムギは昨日と打って変わって私より先に船を漕いでいた。

 私は糠星を眺めながら瞑想する。

 結婚……その言葉を咀嚼してみる。

 とても重く、鉛のような味がする。 勝手なイメージだけど。
 
 私たちみたいな擦れ枯らしでない女子高生、
 
 ましてや純真無垢なムギが飲み込もうとするには大変すぎる。 

 
 まだ私には縁遠いものだと思っていた。こういう形で結婚について考えることとなろうとは。

 結婚=男女×婚姻届。こんな安易な因数分解で済まない事象だとは分かっている。

 だから、ムギは家出した。怖いから…結婚という大きな問題が…
 それに、ムギの夢は親の決めた婚姻ではなく恋愛結婚だ。
 

 私がムギの立場なら、私だって家出するだろう。



87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 23:02:00.53 ID:AfXt/JxQ0


 これからを慮る。

 家出したものの、どうしたものか…
 ムギは親に自分の気持ちの真剣さが伝わればいい、そう言っていた。

 だけど、私は不安を覚える。この家出には意味がないのではないか。

 際限なく旅を続けることなんか出来ない。この家出の旅にも終点はある。
 
 その終尾が来た時、
 ムギは否応なく自分の将来が決め付けられてしまうのではないか。
 親には一切ムギの気持ちは伝わらないのではないか。そんなの元の木阿弥だ。

 結婚すればムギはもう遠い存在になってしまう…先に大人の階段駆け上がるとかの問題じゃない。
 ホントに会えなくなるんじゃ…

 そんな会えなくなるなんてことはないさ。自分に言い聞かす。

 だけど……だけど…。

 手放したくない、ムギと一緒に居たい……


 私はムギの温かい手を握り締め、眠りに落ちた。



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 23:04:21.04 ID:AfXt/JxQ0


サアーーーー・・・

 アスファルトに出来た轍に溜まった雨水。
 車が通る度に、水溜りは激しく躍る。
 地上でダンスするたくさんの仲間のもとへまた雨は降る。

 まだ、遣らずの雨は降っていた。


「もしかして…レズっ気があったのか?」

「違う…。ただ怖かったんだよ、大切な友達を失うかと思うと…」

「けれど、まだ結婚するとは決まってなかったわけだし、
 仮に結婚しても友達を失うことにはならないんじゃないかな…」

 友達の家出のために奔走した女性…
 彼女は何処か遠くの方を見ながら、こう呟いた。

「大人になりたくなかったのかもな…」

「?」



89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 23:06:47.23 ID:AfXt/JxQ0


――っちゃん・・・りっちゃん

 んn。んんん?

 春眠暁を覚えず。まだ眠いようぉ。

紬「起きて、りっちゃん。朝よ」

 そうか朝か。
 仕方なく私は眠気眼をゴシゴシこすって目を開ける。

律「おはようムギ」

おじさん「おはよう」

律「誰だお前は?」



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 23:10:55.89 ID:AfXt/JxQ0


律「だ、誰なんだ?この人」

紬「バスの運転手さん。私を起こしてくれたの」

律「そうだったのか」

 確かに、目の前にバスが止まっている。

おじさん「いやぁ、吃驚したよ。若い女の子がこんなところで寝てるんだから」

紬「私たち、家出中なんです」

おじさん「ほう、それで野宿か、度胸あるね。
     何処に行きたいのかは知らないが…このバスに乗るかい?」

紬「いいんですか?」

おじさん「街まで送ってあげるよ」



92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 23:15:14.88 ID:AfXt/JxQ0


プシュー

 独特なドアが開く音。
 その音が、私たち以外誰も乗っていないバスの車内に響く。

おじさん「じゃあ頑張ってな、お二人さん」

紬・律「ありがとうございました」

 なんと驚いたことにあの運転手さんはただで街まで送ってくれた。

 この旅で私は人の持つ温かさが身にしみていた。



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 23:21:40.53 ID:AfXt/JxQ0


 車があちこちに走っている賑やかな街へと私たちはたどり着いた。


グゥウー

 私の腹が、空腹だと喚く。

紬「昨日から何も食べてないし、私もお腹減っちゃったし何か買いに行きましょうか」

 私たちはコンビニに行くことにした。
 こういう時、コンビニエンスストアとは本当に便利だとつくづく思う。 



95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 23:24:32.47 ID:AfXt/JxQ0


 コンビニでパンを買って、むしゃむしゃと頬張る。

 食べ終わると一息ついてコンビニから街へと繰り出すことにした。


 けれどここで、私たちの旅は急を告げる。

 青天の霹靂。何かを見たムギが不意に早歩きになったのだ。



97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 23:31:37.79 ID:AfXt/JxQ0


律「どうしたのさあ?急に早く歩き出して」

紬「……見覚えのある車が見えたの。多分、私の家の」

 え?

紬「私を探してるんでしょうね」

律「そうか、じゃあ逃げなきゃな」

 ムギがその車のいる方向とは別方向に歩き出す。

 だが…

紬「……」

律「?」

 ムギが前方を見据えている。私もそちらを見る。

 そこには、昨日電車の中から見かけた黒い車がこっちに向かっている光景があった。



98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 23:33:47.88 ID:AfXt/JxQ0


 あれがムギの家の車…
 一台じゃないのか。どうする?走って逃げるか?

 そうこうしているうちに車が近づく。
 その車は歩道に寄せられて停まった。

ガチャ
 
 ドアが開く。

 私は咄嗟に身構える。

 ムギを守る為なら実力行使も辞さないぞ。



99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 23:37:05.24 ID:AfXt/JxQ0


 だが予想に反して、車から出てきたのはよく知っている顔だった。

唯「りっちゃん!!ムギちゃん!!」

梓「先輩!!」

律「唯!?梓!?」

紬「どうして?!」

唯「ムギちゃんのことも、りっちゃんのことも心配だったから、
  ムギちゃんのところの車に乗せてきてもらって二人を捜しに来たんだよ!」

紬「私たちのこと心配して…」

梓「そうですよぉ、こんなとこいないで早く帰りましょう」



101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 23:42:43.96 ID:AfXt/JxQ0


律「それは、出来ないんだ…」

紬「りっちゃん…」

梓「どうしてですか?」

律「それは……――ガチャ!!

 ムギがなかなか車に乗ってこないことに痺れをきらしたのか、
 いかにもって感じのSPが車から登場する。

 マズイ!!

 考えるより先に体が動く。
 私はムギの腕を掴んで身を翻し、しゃにむに走り始めていた。 

SP1「あ、こら!待て!」

唯「りっちゃん!」

 後ろから声がするが、右から左へ馬耳東風。



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 23:45:33.00 ID:AfXt/JxQ0


 クッ、足がしんどい。昨日今日の疲労感が溜まっているのだ。

バクン‥バクン‥

 心臓がこれでもか、というほど全身に血液を送り込んでいる。
 汗が私の総身から凜々と迸る。

 歩道のアスファルトがグニャグニャしたゴムみたいに感じられる。
 肩にかける鞄の紐が欝陶しい。 

 うまく走れない。それでも隣のムギは黙って付いてきてくれている。

 眼前の交差点、次はどちらに向かって走ろうか。

 決めあぐねいていると

 !! 

 もう一台、黒い車が姿を現した。

 くそっ!こっちもダメか。
 私は踵を返して路地裏に向かって走ろうとする。



103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 23:47:58.66 ID:AfXt/JxQ0


”りつ!!!”
 
 !! 私たちは立ち止まって後ろを振り返る……

 


 そこには、澪がいた。



104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/25(月) 23:51:41.12 ID:AfXt/JxQ0


澪「逃げるな!!律!」

律「逃げるなって言われても…」

 澪は段々と私たちに近付いてくる。

澪「帰ろう。な?」

 澪は優しい声で私を諭そうする。

律「帰らないよ!」

澪「馬鹿律!」

律「ムギの事、何も知らないくせに!!」

澪「…」



105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 00:04:46.86 ID:3zjEdu1l0


澪「ムギのことは聞いた…。だけど、お前たちは帰るべきだ…」

律「知ってて、どうしてそんなこと言うんだ!?」

澪「律……、ムギは私たちとは住む世界が違うんだ」


!!

 ”この手を放したくない”

 
 誰かが囁く。


 自分が呟く。



106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 00:07:17.71 ID:l0TW3tYo0


 頭のなかの何かが切れる。

律「住む世界が違うってなんだよ!?」

 頭に血がのぼる。

律「ムギはここにいるだろうがっ!!!今私は紛れもないムギの手を握ってるんだよ!!!」

澪「落ち着け律」

律「黙れ!!!」



107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 00:10:59.69 ID:3zjEdu1l0


 私は再び走り出した。思いっきり地面を蹴って。

 逃げなきゃ!!
 
 もはや、自分で自分が制御出来ない。


 冷静な自分が自らを鳥瞰して言う、


” もう終わりだ ”

 ガクッ!!

 

 私の足は動かなくなった…



108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 00:13:16.54 ID:3zjEdu1l0


紬「りっちゃん!」

 地面に伏す私はちっとも立てずにいた。

 足に力が入らない
 肺が、心臓が痛い
 上半身がだるい。

クソッ

 やっとのことで立ち上がるが、足が悲鳴をあげる。



109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 00:15:28.07 ID:3zjEdu1l0


ガシッ!!

 突然腕をつかまれる。

 後ろから追いかけてきたSPが追いついたのだ。

 SP達が私たちを強引に引き剥がす。

紬「りっちゃん!」

律「ムギ!」



110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 00:18:13.65 ID:3zjEdu1l0


律「クッ!離せよ!!」

SP2「暴れないで下さい」

 私は三人のSPに捕まり、身動きがとれない。

斉藤「さ、お嬢様、こちらの車に」

 ムギは執事に連れられ車に乗せられそうになっていた。


ちくしょう!!



111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 00:20:32.38 ID:3zjEdu1l0


 周りに騒ぎを聞きつけた野次馬が、なんだなんだと取り巻いてくる。
 だがそんなこと今の私の視界には入っちゃいなかった。

 ここが先途だ。分水嶺だ。関ヶ原だ。

 私は深呼吸をして覚悟を決める。捲土重来。


ガブッ!!!

SP2「いってええ!」

 私のことを掴んでいたSPの腕をおもいッきり噛んだ。

 そのままの勢いで近くに居た二人目のSPのもとに走った。

 そいつは突然の事態に、目を白黒させている。



113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 00:22:56.63 ID:3zjEdu1l0


SP3「おとなしくして下さい!」

 そんな命令聞けないね。
 私はそいつの弁慶の泣き所を目一杯蹴り飛ばす。

SP3「痛!」

 ムギのところまで30m弱。

SP1「こいつ!待て!」

 もう一人のSPが近づいてくる。

律「どおりゃ!!」



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 00:25:49.87 ID:3zjEdu1l0


 男の急所を蹴り上げる。
 クリーンヒット!

SP1「ァゴフくぁwせdrftgyふじこlp」

 あと20m。

 足が限界だ。歩くのが精一杯。

 よし!あと10m。



115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 00:29:32.64 ID:3zjEdu1l0


澪「律!後ろ!」

 澪の声。
 後ろを振り返る。

SP2「この女郎が!!」

シャキン!!

 伸縮式の警棒を持ったSPが目の前に立っていた。

 ……万事休す。


 ……私の負けだ。



120 名前:さるってた:2010/01/26(火) 01:02:06.85 ID:3zjEdu1l0


紬「やめなさい!!!」

 ムギの澄んだ怒号が辺りの空気を震わす。あまりの大音声に私も気圧される。

SP2「!!……申し訳ございません」

 私を殴ろうとしていたSPの体が鞠躬如になり、肩をすくめて後退する。

 他のSPも何事かと詰め寄る野次馬に手を焼いている。

 邪魔するものはいない。
 私は再度、ムギに向かって歩き始めた。



121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 01:04:25.30 ID:3zjEdu1l0



 あと5m。

紬「お願い、来ないで」

 !!?

律「……どうして」

紬「お願い……」

 行かなきゃ。

 よろめきながらも必死に足を前に置く。

紬「来ないで!!」

 意思に反して足がすくんだ…。



122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 01:06:47.47 ID:3zjEdu1l0


律「け、けど…」

紬「お願い、りっちゃん…」

律「だ、だって…」

紬「……」



123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 01:08:59.50 ID:3zjEdu1l0







律「ムギ…泣いてる…じゃん……か……」





紬「……りっちゃんの悲しみがうつったのよ…」



124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 01:11:46.17 ID:3zjEdu1l0


 膝が折れる。もう立てない。

 手を地面につく。

律「だ……だって……」

紬「…あ…りが…とうりっちゃん…」

律「…ぅぁぁぁああああああ」

 手の甲が濡れる。

 それが、降り始めた雨だったのか……

 私の涙だったのか……私には分からなかった。



127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 01:14:16.03 ID:3zjEdu1l0


 ――シトシトと雨が降っている。

 帰りの車の中で臍を噛んだ。
 車の中はワイパーが雨を退ける音と、私の噎び泣く声だけが響いている。

 ムギとは違う車に私は乗せられていた。

 隣には澪と唯が座って、助手席の方に梓が座っている。

 私のことを察して、誰ひとりとして喋らない。



128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 01:16:55.70 ID:3zjEdu1l0


律「…ウグッ……ヒグッェ…ぐ、くやしぃょ…」

 何がだ?…自分でも分からない。

でも……でも……

 涙が止まらない。

唯「…」
 唯の手が私の背中をさする。

澪「…」
 澪が私を抱きしめる。

梓「…」
 梓が私の手を握る。

 家に向かう車の中、こうして私の家出の旅は幕を閉じた。



129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 01:19:44.07 ID:3zjEdu1l0


 雨は止んでいた。

「ここまでだよ…あの話は。あとは知ってるだろ?」

 姉は遠くを見つめていた顔をこちらに向き直し、アイスコーヒーを飲み始めた。

「ああ。 姉ちゃん、目泣き腫らしてかえってくるんだもん。びっくりしたよあの時は」

「あん時お前うざかったぞ、やたら問い詰めてくるし」

「だってぇ、気になったんだよ。 それよかムギさん、その後はどうなったんだ?」

「ん?結婚することになったよ」

 卒爾に俺は口をあんぐりと開けて喫驚する。

「え?」

「え?」



130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 01:22:40.21 ID:3zjEdu1l0


「それじゃ姉ちゃんが手伝った意味ないんじゃ…。家出は徒労に終わったわけ?」

「無駄だとは思ってないよ、楽しかったし。
 それにムギが結婚したのは親が無理やりさせたんじゃないぞ?」

「と、いうと?」

「ムギの親御さんな、ムギのこと思ってお見合い組んでたらしい。 企業のためとかじゃなくて。
 ムギさぁ、女子高通って、おまけに女子大行くって言い始めたからご両親思ったわけ
 『このままじゃ、ムギは出会いのない人生を送ってしまう』って」

「ああお」

「もちろんムギが拒否すれば、お見合いの話は破棄して、なかったことにするつもりだったんだって。
 ただ、一回は相手に会っておいて欲しかったらしい。
 なにせ全力で非の打ち所が無い旦那候補を探してきてたらしいから」

「で、どうなったの?」

「お互い一目惚れ」

「まじかよ」

「そう、惚れた腫れた。
 結局大学在学中のあいだはずっと熱愛でさ、んで、この度めでたくゴールイン」

「夢、叶ったわけだ」



131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 01:24:50.53 ID:3zjEdu1l0


「てんちょー、先にしつれいしま~す」

「は~いおつかれー」

 店の奥の方でウェイトレスさんの声がする。

「お、仕事おわったかな」

 ?

「りっちゃんーごめんー待たせてー」

 ??ん、なんだこの状況は

「姉ちゃん、このウェイトレスさんと知り合いなの?」

「知り合いもなにも…、こいつが唯だぞ」

 エエエ!?

 開いた口がふさがらない。



137 名前:さるたん♪さるたん♪:2010/01/26(火) 02:00:46.33 ID:3zjEdu1l0


「どうも~。 は!! もしかしてりっちゃんの彼氏だったの?」

「違う違う、弟」

「どうもです。聡って言います。もしよかったらアドr――フゴア!!

(テメエ私の大事な友達に手ぇ出すんじゃねえ)

 ゴメンナサイ

 目で誠心誠意謝る。

「じゃあ行こ!りっちゃん」

「そだな。じゃあ聡またな」

「ああ、今日はサンキューな。 あ!ちなみに何処へ?」

「へ?ムギの結婚式」

   


  …マジで?!



138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 02:03:04.13 ID:3zjEdu1l0


「マジで!?」

 どおりで姉ちゃん張り切った格好してたわけだ。

 …化粧も濃かったし。

「そうだよ~、じゃあまたね聡君」

「あ、はい!また」

「小説がんばれよ」

カランカラン

 二人は楽し気に外へと出て行った。

 残ったのは俺と伝票。そしてカフェオレ。

 ふぅ。一息ついてそとを見遣る。

「さっきのが嘘みたいだな…」

 
 
 ――外はサンサンと陽光が降り注ぎ、晴れていた。



139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 02:05:18.93 ID:3zjEdu1l0


 結局、家出をしたことで変わったことはあまりなく…

 三年生になっても相も変わらずティータイムのひととき。

 ”こんなんだから新入生が入って来なかったんですよ!!”

 と梓に怒られたのもついこの間。







 今日は私もみんなも少し足が地につかないでいた。

 なにせ今日はムギがお見合いの相手と初対面する日だからだ。



140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 02:07:43.09 ID:3zjEdu1l0


紬「じゃあ私そろそろ帰るわね」

澪「ああ…」

唯「頑張ってね」

律「ムギ、もし相手がやな奴だったら殴り飛ばせよ」

梓「ムギ先輩はそんな悍婦じゃありませんよ」

紬「ふふ、ありがとみんな」

律「ムギ!!」



141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 02:10:03.31 ID:3zjEdu1l0


紬「何?」

律「いつでも私たちを頼れ!友達なんだから」

澪「そうだな」

唯「うん」

梓「そうです」

紬「みんな…」

律「いいか?これはな」

 そう、これは……


律「部長命令だ!」




 ――外はサンサンと陽光が降り注ぎ、晴れていた。




fin―



143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 02:15:27.82 ID:3zjEdu1l0


こんな晦渋で拙い文章に付きあってくれた人、ありがとう


読んでくれた人、書き込んでくれた人、ほんとありがとうございました。




144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 02:20:45.94 ID:cRTFsHGmO

乙 よかったよ



145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 02:21:23.63 ID:GgeCdVOw0

乙でした
引き込まれたわ



146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 02:23:11.40 ID:xu/f0C2N0

乙、もうちょい長く旅するシーンも見たかったな



148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 04:01:40.64 ID:vo71Melt0

おっとくだらない疑問のせいで書き忘れてた
とても楽しめた。乙



150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 05:23:17.11 ID:kolqHdcz0

ところどころ文語じゃなかなか使わなさそうな単語が出てきて思わずググった
かしこさが 1 あがった! 紬ちゃんが幸せでよかった。乙



151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 07:34:01.97 ID:Sk3TY7Av0


地の文のおかげかいい味だしてたわ



152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 11:56:58.83 ID:TIYWQozPO


感動した



153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 12:35:35.68 ID:cRgQ8dBV0

ハッピーエンド乙!
聡だとは思わなかった



154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 13:05:43.66 ID:ptT2OIuHO


良かった



156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 13:20:11.61 ID:lWVWL3Nd0

もうちょっと山がほしかったかも
旅の部分はすごくよかった
おつかれ



157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/26(火) 14:13:05.15 ID:yfH/5RyJP

ぶっちゃけストーリー自体は斬新なものじゃなかったけど構成がすごく良かった 乙






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律「部長命令だ!」
[ 2011/09/08 20:49 ] 非日常系 | | CM(0)

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