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唯「私の妹がこんなに可愛いわけがない」#15 【非日常系】


唯「私の妹がこんなに可愛いわけがない」 より
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1287330010/




679 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 05:55:00.51 ID:8ldVoLsN0

わたしが目を覚ますとそこは真っ白な天井だった。

体中の鈍い痛み。
閃光のように走る、頭と足の痛み。

男「―っ! ―意識がもどった!」

側で見ている男が叫んでいる。

天井から目線を下げる。
自分の周りは皆、白衣を着ている。
あぁ、ここはきっと病院で、この男は医者なのか。
自分の両足が吊り下げられている。

「(あぁ、折れてるのかな、これ)」

意識がはっきりして状況を確認する。
周りの雑音が、人の会話だと認識できる。

男「外の家族に伝えて。―平沢さん、大丈夫ですか?」

不意に質問される。答えなきゃ。

「……平沢? ……だれ、それ?」


看護婦「ご家族の方。平沢さん、意識を取り戻しましたよ」

病院の待合室でベンチに座っていた少女はその言葉を聞いて、立ち上がり、駆けていく。





680 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 05:59:19.07 ID:8ldVoLsN0


病室の少女が目を覚まして数分後。
病室の前で、駆けつけた方の少女に医者は告げる。

男「意識は戻りました。ただ、記憶に混乱が見られます。」

男「ひらたく言うと、記憶喪失。記憶はいつ戻るか・・・・・・」

男「今はまだ、自分のことすら覚えていません。ご両親は?」

少女は動揺し驚愕した表情を浮かべ、小さく震ている。

「お父さんと、お母さんは、、、今は、仕事で海外に・・・・・・」

医者は気の毒そうな声で、この少女を慰めるように言う。

男「―支えに、なってあげて下さい。」

少女の震えが止まる。

「はい」

その目は、決意に燃えていた。



681 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:07:08.78 ID:8ldVoLsN0

病室の外から、話し声がする。

そして、静かにドアを開いて1人の少女が入ってきた。

―わたしは、少女に問う。

「あなたは、誰?」

入ってきた少女は、少し悲しそうな顔をした後に笑顔で答える。

「わたしの名前は平沢 憂。よろしくね、お姉ちゃん!」

わたしは混乱した。記憶にない。わたしには、記憶がない。

そして、告げられた単語の中から推測される重大な事実に、狼狽する。
目の前の平沢憂と名乗る少女に恐怖すら感じながらも、つぶやくように聞き返す。

「お、姉ちゃん?」

憂「そう、あなたの名前は平沢 唯」

そして憂はわたしの手を握り、その額に当てて祈るような姿勢になる。

憂「わたしの、たった一人。大切な姉妹……」



682 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:21:49.43 ID:8ldVoLsN0

平沢 唯

わたしの……名前?

自分でも思い出せないわたしの名を、この初めて会った少女が与えてくれる。
その状況に激しい違和感を感じる。同時に平沢 憂を警戒する。
自分が何者なのか、自分の妹と名乗るこの少女は本物なのか。
記憶をたどることすらできない自分に、イライラしてきた。

もう一度、平沢 憂を見て自分の気持ちを整理する。

恐怖、不安、違和感。そして……気付いた。

自分の中の、この少女をどうしようもなく愛おしいと思う気持ち。

記憶のないはずのわたしが漠然とした『それ』を感じたとき、

「あぁ、だぶんこの女の子は自分の家族なんだ」と確信した。

と同時に「わたしは、平沢 唯なんだ」と納得した。



683 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 06:26:12.52 ID:8ldVoLsN0

わたしは憂を信じて警戒を解いたが、そこで新たに妙な罪悪感が生まれる。

先ほどからずっと祈るような姿勢の憂。

「(きっと憂……も不安なんだ。何か、何か言ってあげないと!)」

色々と感情を制御できない自分の中で、もう1つこの状況に不謹慎な感情に気付く。

先ほど警戒を解いたばかりで、
しかし尚混乱している わたしの口から、不意にその想いがこぼれ落ちる。

「私の妹はこんなにも可愛いのか……」

唐突なわたしの言葉に、憂は驚いた顔で唯を見る。
見つめ合い、静止した時間。

くすぐったい気持ちに絶えられず、わたしは笑顔になる。

どちらからでもなく病室の2人は笑い声をあげた。



684 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:03:04.67 ID:8ldVoLsN0


あれから一ヶ月

―わたしの記憶は未だに戻っていなかった。

この一ヶ月間、毎日憂は わたしの病室に来ている。

食事、着る物、暇つぶしの遊び相手。
看護婦も感心するほど、憂は甲斐甲斐しく わたしの世話をしてくれていた。

その間両親は一度も病室に来ていなかった。
なんでも海外での仕事が丁度立て込んでいて、どうしても都合がつかないらしい。

正直、そんな薄情な両親に憤りを感じてはいたが、
憂に見せてもらったアルバムから自分が両親に愛されていることが充分に理解できた。

両親は子供の わたし達ですら恥ずかしがるほど仲が良くて、
いつも わたし達をほったらかして旅行に行っていたらしい。
話の中の両親に、若干苦笑するが、なぜだか和やかな気持ちになる。

今となっては記憶にない、アルバムの中の両親に会うことが楽しみだ。



685 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:06:40.03 ID:8ldVoLsN0

両親の件をはじめ、憂は記憶のリハビリにも協力してくれている。

買い物の思い出。
食事の思い出。
旅行の思い出。
幼馴染との思い出。
―そして、学校の思い出。

特に高校に入学してから入ったという、軽音部の話は胸を躍らせた。
唯は中学までは部活をしていなかったらしい。
高校生になってから、軽音部に入って少々アグレッシブになったようだ。

唯が軽音部に入って変ったことが嬉しいのか、憂は特に軽音部の話を楽しそうに話した。



686 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:11:09.77 ID:8ldVoLsN0

本当に、楽しそうに唯の思い出を聞かせてくれる憂。

きっと憂は唯のことが大好きだったのだろう。

はやくわたしに記憶が戻って欲しいのだろう。

それなら、せめてわたしは精一杯、平沢 唯になろう。

記憶の補完も順調。混乱は、もうない。精神も……安定している。

わたしは日に日に元気になっていき、性格も明るくなっていった。



――それが、憂の前のわたし。



688 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:22:13.57 ID:8ldVoLsN0


憂「それじゃあ、また明日ね?おねえちゃん!」

そういって、憂は今日も笑顔で手を振って病室を後にする。

「うん!また明日っ!」

そういって、わたしは今日も憂に負けない笑顔で送り出す。

そして最後に、1人残された病室で わたしは今日も大きな溜め息をつく。

ハッキリと、胸を焼くような、大きな罪悪感がわたしを襲う。

今日も憂が楽しそうに話してくれた唯の思い出を反芻して、自問自答する。
しかし、わたしは何も思い出せない。

今病院のベッドにいるわたしは、憂の中にいる唯ではない。

それならば、憂の中にいる唯は……死んだの?

失った記憶が、かつての唯の魂であるかのように錯覚する。



689 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 07:26:09.21 ID:8ldVoLsN0

今いるわたしは憂にとってのなんだろう?

憂は笑いかけてくれる。しかし、その笑顔は唯に向けられたもの。

憂の中にある唯を想うと、わたしのアイデンティティが保てなくなる。

それでも、憂の笑顔を思い出すと気持ちが温かくなる。ずっと一緒にいたくなる。

―とても愛しい、憂。

――わたしの、可愛い妹。

「憂……つらいよ……寂しいよ」

「わたしは、憂が…・・・大好き、だよ」

そういって、本当のわたしは今日も、1人涙を流すしかなかった。



695 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 12:39:02.16 ID:UF3ug7JP0

更に半月が経った

ギブスがとれて、病室もリハビリ病棟に移るころ。

―わたしの病室に嬉しい客が来た。



696 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 12:41:40.85 ID:UF3ug7JP0

「おっっす!!!! 」

元気な声で、勢いよく病室のドアを開けたのは
カチューシャで前髪をあげた少女、田井中 律。

「声が大きいぞ、律っ! 他の病室の患者に迷惑だろうが!」

そういって、先ほどの元気な少女の頭を諌めるように小突いている
長い黒髪が綺麗な少女、秋山 澪。

「おじゃましま~す♪」

ふわふわした声と雰囲気で入ってきたのは
眉毛が特徴的な、琴吹 紬。

「……お邪魔します」

ふわふわ少女とは対極に、緊張しながら入ってきた
小柄なツインテールの少女は、中野 梓。

軽音部の面々だ。

「見舞いに来るのが遅れてごめんなさいね、唯」

「……やっぱり、この人数は少し多すぎかしらね」

彼女達の後に続いて
落ち着いた声で、気を遣いながら病室に入ってくる
メガネの少女は、わたしと憂の幼馴染の真鍋 和。



698 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 12:48:47.84 ID:UF3ug7JP0

わたしは今日のメンバーのことを知っている。

憂が今まで彼女達の話をきかせしてくれたり、写真を見せてくれたりしてきた。
(集まった少女達は皆、写真や伝え聞いたとおりの容姿をしていたので安心した。)

それに加えて、実はわたしは彼女達と前に、電話で直接話をしている。

彼女達は、今日の見舞いのアポをとるために、憂に電話をかけてきていた。
そのときに少し会話をさせてもらったのだ。

彼女達は、唯に会いたいのを今まで我慢していたらしい。
この時期まで、「記憶と精神状態が混乱する」
と家族(実際は憂1人)意外の面会を医者に止められていたのだ。

「だから最初は大人数で乗り込んでいくぞっ!!」と電話でわたしにも了承をとりにきた。



700 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 12:53:59.02 ID:UF3ug7JP0

憂「えへへ、いらっしゃ~い♪」

そういって、憂は満面の笑みで彼女達を出迎える。
憂も楽しそうで、わたしも嬉しい。

わたしは深呼吸をして、入ってきた面々に挨拶をする。

「えっと……お久しぶりですね、かな?」

わたしが硬い表情なのは、混乱しているからではなかった。

知らない仲じゃない。

それでも

「なんだか、緊張……しますね?」

いざ顔を合わせると、話しかける言葉もたどたどしくなる。
なんだかくすぐったい気持ち。

意識を取り戻した夜、憂と見つめ合ったときみたい。



701 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 12:56:40.73 ID:UF3ug7JP0

律「うぉっおぃ!! 唯が! 唯が敬語だ! 初々しいぞ!」

大げさな身振りで、律はリアクションをとる。

律「いや、むしろ『憂い憂いしい』 ! 敬語が、憂ちゃんっぽいって意味で!」

さらにたたみ掛ける。自信満々の顔をして、律はわたしを見た。
楽しい人だなぁ。

澪「変な造語つくるな!」

澪はすかさずツッコミを入れる。
まるで夫婦漫才だ。

憂「なんですか~、それ」

憂も笑ってる。

病室の中の空気も緊張感がなくなり、少し明るくなる。

わたしも、自然と笑みがこぼれる。
気が楽になった。

「相変わらずなんですね、律さんは」

気が緩んだ瞬間、不意にでた わたしの言葉に病室の中の全員が動きを止めた。



703 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 13:05:05.28 ID:UF3ug7JP0


『相変わらず―』

紬「唯ちゃん、まさか」

梓「覚えているんですか!?」

2人はわたしの側に来て、まっすぐとわたしの目を見て訊いてきた。

「ごめん」

紬と梓の期待が宿る目

その2人の目と、目を合わせるることができずに瞼を閉じる。

「ごめんね。思い出せないや」

やっぱり、わたしの頭の中にあるのは、憂との予習で得た知識としての思い出だけだった

自分でも、この人達に直接会ったなら、

もしかして記憶が戻るようなことがあるかも……という小さな希望はあった。

その小さな希望が、あさっり無くなったことに、失望する。


でも、なぜだろう。
さっき不意に出た言葉の理由は―。
自然と口から言葉が出る。

「……でもね、なんだか懐かしいんです」



704 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 13:06:35.88 ID:UF3ug7JP0


そうだ。

なんとなく、ただ懐かしい。

みんなが周りに居ると懐かしく感じる。

「だから、さっきまでみたいに今までどおりに接してください」

わたしはさっきと同じ笑顔でそう言った。



705 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 13:08:44.14 ID:UF3ug7JP0


「梓ちゃんも! そんな泣きそうな顔しないで、ね?」

少し、この後輩をからかってみる。

梓「うっ、な、泣きそうな顔なんてしてません!!」

入ってくるときは緊張でガチガチだったくせに。生真面目なコなんだね。

律「いつもどおりか~。
  いや、さっきのは緊張のあまり ちょっととばしすぎてたんだけどな?」

律は照れくさそうに笑っている。

澪「そうか?律はいつもあんな感じだぞ」

和「そうね。律は案外いつもああね。」

澪と和が律に厳しいツッコミを入れられる。

律「おぉい! 唯、違うぞ! これはこいつらの策略だからな!?」



706 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 13:09:58.37 ID:UF3ug7JP0


「どうなんですか?紬さん?」

懇願するような目の律を受け流し、側にいた紬にフッてみる。

紬「ふふふ、皆いつもどおりね~」

頬に手を添えながら、紬は柔らかい笑顔で答える。

律「っムギぃ~~~!!! わたしは本当はこんなキャラじゃなぁああい!!!」

しばらく、病室に笑い声が響く。


わたしはなんとなく気になって、憂の方を見る。

憂も楽しそう。

この感じ、やっぱり懐かしいな。



707 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 13:14:00.45 ID:UF3ug7JP0


紬「ときに、唯ちゃん?」

笑い声の中、紬が思い出したかのようにわたしに話しかけてきた。

「なぁに?」

わたしも、自然と敬語じゃなくなっていた。

紬は小さく先払いをした後、まるで幼子に言い聞かせるような柔らかく、ハッキリした声で言う。

紬「これからm、これからは……わたしのこと、『紬さん』じゃなくて『ムギちゃん』って呼んでね?」

「ムギちゃん?」

紬「そう、約束してねっ!」

紬は、さっきと同様の期待を宿した目で、わたしの目をまっすぐ見ている。


そうか、あだ名か。



708 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 13:20:47.74 ID:UF3ug7JP0


「うん! わかったよ、ムギちゃん!」

今度は、その目を逸らさずに答える。

なんだか、誇らしい。
やっと記憶の中の友達に出会った気がした。


そのやり取りを聞いていた皆も次々と名乗りを上げる。

律「わたしのことは『律さん』じゃなく『りっちゃん』って呼ぶんだぞ!」

澪「私は普通に『澪ちゃん』でいいよ」

和「私も普通に『和ちゃん』って呼ばれていたから、これからもそう呼んでね?」

それから

―憂は満面の笑みで梓の肩を掴んでいる。

なるほど。

「梓ちゃんは?」

わたしも憂と同じくらいの笑顔で梓に聞いてみる。



709 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 13:32:38.03 ID:UF3ug7JP0


梓「え、えとえと」

顔が真っ赤だ。

周りの皆も悪戯っぽく笑っている。

「?」

梓「~~~~~っっ!!!」

目が合うと、反らし、また目を合わせて。

遂に決心したかのように、梓は真っ赤な顔で言った。

梓「あ、ああ、わたしのことは『梓ちゃん』じゃなく、……『あずにゃん』と呼んで下さいぃ!!」

そのとき

半ばヤケになったような、梓の叫びは、病院中に響いたとか。響いてないとか。



712 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 13:47:27.10 ID:UF3ug7JP0

その日の夜

みんなが帰った後、いつものように、今日得た唯の思い出を反芻する。

「楽しかったなぁ」

1人になって静かになった病室で、なんとなく声をだしてみる。

みんな、聞いていたとおりの楽しい人たちだった。
ちょっと賑やか過ぎる気がしたが。

「ふふっ」

もう一度、今度は1人で笑い声を上げてみる。
さっきまでの賑やかさを確かめるように。

「ふふふっ」

思い出し笑いが止まらない。
まるで、修学旅行での旅先での夜みたい。

その日の夜、わたしは1人、笑いながら眠りについた。


―でも

―今日はいつもより、憂とあまり話すことができなかったなぁ……。



723 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 19:22:23.70 ID:1gr3S0Yg0

更に一月が経った。

目が覚めた頃の季節はまだ秋になりたてだった。
今では病室の窓からみえる景色も、空気の臭いもすっかり冬になっている。

憂「おねえちゃん。今日は寒くなってきたから、毛糸の腹巻持って来たよ♪」

相変わらず憂は毎日病室に来て、わたしの世話をしてくれている。

「ありがと~、憂♪」

憂からもらう、少し気の抜けたプレゼント。

嬉しい。



724 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 19:49:23.89 ID:1gr3S0Yg0

リハビリ病棟に移ってからは、両足のリハビリに励むことになった。

妙な言い方になるが、わたしの両足はかなりキレイに折れていたらしい。
骨の回復もはやく、わたしの足は順調に治っていた。
これだとリハビリの頑張りしだいでは、今年中には退院できると医者は言う。


それでもリハビリを始めた当初は、激しい痛みと倦怠感との闘いだった。



726 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 20:04:01.41 ID:1gr3S0Yg0

自分は特別不幸な存在だと言い訳をして、この苦痛から逃げ出したくなる。
自分には、両足で立って歩いていた記憶などない。
それならいっそ一生車椅子でも、いいんじゃないか?と自分に言い訳する。

そういって挫けそうになるとき、憂は何度も側にきて支えてくれた。
自分に言い訳はできても、憂にだけは言い訳はできない。

あの日、目が覚めたときに、憂のつぶやいた言葉を思い出す。

「わたしの、たった一人。大切な姉妹……」

愛しい憂。わたしの可愛い妹。

リハビリ生活を通じて、わたしの憂に対する想いは大きくなっていった。



727 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 20:13:22.44 ID:1gr3S0Yg0


そして、支えてくれているのは憂だけではない。

軽音部のみんなと和。

面会が許可されてから、彼女達は数日に1回のペースで会いに来てくれている。

毎度のことながら、彼女達は病室で賑やかに雑談する。
そして、たまにリハビリの手伝いもしてくれた。

彼女達の賑やかさには救われる。

楽しくて、余計なことを考えずに済む。

なにより彼女達は

きっと今までも、平沢 唯はこうしてみんなの助けを得て生きてきたのだろう。

「ふふふっ」

まるで、かつての平沢 唯になったかのような感覚に、自然と笑い声がでる。



730 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 20:32:55.36 ID:1gr3S0Yg0

―リハビリは順調に進んでいった。

男「立ち上がってみて」

「はい」

車椅子を支えに、わたしはなんとか立ち上がる。

男「うん。いや、すごいな」

医者は素直にわたしのリハビリの成果に感心する。

男「歩いてみてくれる?」

ゆっくりと、わたしは自分の足で、一歩、足を前に出そうとする。

「あっ」

しかし、片足を前に踏み出しせるほどには、腰と足の感覚はまだ戻ってなかった。

わたしはバランスを崩して倒れそうになる。

憂「おねぇちゃん!!!」

憂がわたしの肩を支えて、姿勢を元に戻してくれる。



731 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 20:52:20.77 ID:1gr3S0Yg0


男「まだ、日常生活を送るには松葉杖は必要か」

そう つぶやいた医者は腕を組んで唸り声をあげる。

憂「あ、あの……お姉ちゃんは、どこか深刻なんでしょうか?」

震えた声で医者にたずねる。

今にも泣きそうな顔をしている憂を見て、わたしも泣きそうになる。

男「あぁ、いやいや。逆だよ」

医者はあっけらかんと答える。

男「そろそろ、退院の時期も具体的に考えないとね」

そういって医者はカルテになにか難しそうな言葉を書き始める。

男「入院生活や生活態度を見ると、君の記憶障害は、
  日常生活をおくるのに、問題は、なさそうだけどね」

もったいぶった話し方をしながら、カルテを見つめ、溜め息をつく。

男「まぁ、記憶障害の件は専門の先生の意見もきかないといけないが」

男「2、3歩。歩けるようになったら、ていうのを……当面の退院の目安にするか」

そういって、医者はわたし達に笑顔を向けた。



733 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 21:11:18.39 ID:1gr3S0Yg0

既に溢れんばかりの笑顔だったわたしに向かって

男「退院とはいっても、しばらくは自宅から通院してもらうよ?」

医者は笑顔で釘をさす。



診察室をでた後。

そこで、わたしは遂に我慢できずに声をあげて喜んでしまう。

「やったー!!!」

そうだ!わたしが歩けるようになれば!

これからは、憂と一緒の家に帰ることができる!
これからは、みんなと同じ学校に通うことができる!

そして、もしかしたら自宅に帰ることによって記憶が戻るかもしれない!

「やったね!憂!」

わたしはこれまでにない誇らしい気持ちだった。

「やったね!お姉ちゃん!」

憂もまた、満面の笑みをわたしに向ける。

その目にはうっすらと涙がにじんでいた。



735 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 21:25:22.76 ID:1gr3S0Yg0

「もう!憂ってば泣くのはまだ早いよ?」

わたしは憂の目尻の涙を拭いながら言う。

憂「そうだね、まだ早いよね……」

憂は少し落ち込んだ顔になる。

その表情にわたしは狼狽する。

「ちょっ、ちょっと憂。そんなに落ち込まないで!」

憂はいまだに下を向いたままだ。

「わ、わたし頑張るからね!すぐに家に帰れるように、わたし頑張るから!」

憂「違うの」

憂はもう、さっきの笑顔になっている。

憂「また、2人で、家に帰って、学校いって。
  いままでみたいに一緒に過ごせるんだと思うと」

憂「ただ、嬉しくて……」



737 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 21:47:16.90 ID:1gr3S0Yg0


『いままでみたいに』

憂のその言葉で、わたしが忘れかけていた黒い罪悪感が蘇る。

憂がいっしょに家に帰りたいのは、『わたし』なのか?


憂「おねえちゃ~ん?」

慰めるように、若干甘い声で憂が声をかけてくる。

気付けば、わたしの目にも涙が溜まっている。

憂「ふふふ、おねえちゃんも今から泣いてるよ?」

憂はそう言って わたしが憂にしたのと同じように、わたしの目尻の涙を拭ってくれる。

その行為で、逆にわたしは涙が止まらなくなる。

―憂が側にいてくれるだけで、わたしは頑張ることができる

―憂が笑ってくれるだけで、わたしは幸せになる

「ゴメン、ゴメンね?わたし、頑張るから……頑張るからね?」

このとき、遂にわたしは心に決めた。

わたしのこの足で歩けるようになったなら……憂に、この想いを告白しよう。



740 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 21:55:43.61 ID:1gr3S0Yg0

記憶のない、わたし。

今までの、平沢 唯じゃないわたしだけど、貴方が好きですって伝えよう。

「……頑張るからね!」

わたしは、最後に強く憂いった。

憂「……」

憂は黙っている。

もしかしたら、わたしの決意が、想いが、伝わってしまったのかも。

憂は少ししてつぶやく。

憂「あんまり、頑張って、早く退院されるのも困るかも……」

「え?」

憂、なにを言ってるの?

憂「実は、あまり家の掃除してなくて」

憂「けっこう散らかってる……かな?えへへ」

憂は悪戯っぽく笑った。



743 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 22:06:17.59 ID:1gr3S0Yg0

それから数日後

―わたしは、眠る間も惜しんで、リハビリをしていた。

今日もまた、リハビリルームで1人、黙々と屈伸をしている。

憂はまだきていない。

リハビリに熱心になりすぎて、着替えの服を忘れていたのだ。

憂「汗、かきすぎて、風邪をひかないようにね?」

そう言い残し、憂は家に着替えを取りに行っている。


そこに、軽音部のみんながやってきた。



744 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 22:29:22.53 ID:1gr3S0Yg0

律「よっ、頑張ってるな!」

初めて病室に入ってきたときとは違って、あっさりとした挨拶。

「りっちゃん」


澪「憂ちゃんに聞いたぞ?歩くことができたら、退院なんだって?」

いつも律にいれるツッコミとは違って、優しい声で話しかけてくる。

「澪ちゃん」


紬「はい、唯ちゃん、すごい汗かいてるわよ?」

そういって、ふわふわのタオルをだしてくる。

「ムギちゃん」


梓「わたし達も手伝わせてください!」

ふふふ、やっぱり生真面目なコなんだね。

「あずにゃん」



746 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 22:33:36.59 ID:1gr3S0Yg0


和「まったく、着替えの服くらい電話くれればとってくるのに」

なんだか、いってることがお母さんみたいだよ?

「和ちゃん」



みんな、憂と一緒にわたしのことを支えてくれた。

そうだ。みんなにも、わたしの決意を伝えておかなきゃ。

「ねぇ、みんな。聞いてくれるかな?」



747 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 22:51:41.42 ID:1gr3S0Yg0


―わたしは問う。

「わたし、記憶を失くして、前と変った?」

軽音部の面々は、少し困ったような顔をした後に笑顔で答える。

律「少しだけ、雰囲気がちがうな」

澪「あぁ、記憶を失くす前より落ち着きがある……かな」

紬「そうねぇ~大人しくなったかも」

梓「以前よりしっかりしてます!」

和「……胸が大きくなったわね」

澪「和……」

和「あら?」



752 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 23:35:56.65 ID:1gr3S0Yg0

……そうか、やっぱり平沢 唯にはなれなかったか。

「そう、わたしは、もう記憶を失くす前の平沢 唯じゃないの」

「記憶を失くして、自分を失くして」

「空っぽの人間だった」

「でも、そんなわたしでもこの2ヶ月の間にいろんなこと考えて、耐えて、経験して」

「みんなとも、友達になって」

「そして、人を好きになったの」

また、自然と涙が溢れてくる。

「わたしね、憂が、あのコのことが大好きなの」

「わたしが歩けるようになったらね、この気持ちを伝えようと思うの」

「この気持ちはこの2ヶ月間で得た『わたし』だけのもの」



754 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 23:49:36.65 ID:1gr3S0Yg0

『自分は、もう記憶を失くす前の平沢 唯じゃない』といった。

みんなの記憶の中の平沢 唯は、もうどこにもいないのだと。

そう言ったのだ。

その事実に、軽音部の面々はショックを隠し切れないようだ。

当たり前か。

わたしはずっと騙してきたのだ。

それで、支えてもらっていたのだ。

「ごめんなさい。平沢 唯じゃなくて」

「ごめんなさい。平沢 唯になれなくて」

しかし、決めたのだ。この想いを伝えると。

これ以上、『わたし』の友達を騙したくない。

これ以上、『わたし』が大好きになった人たちに嘘をつき続けたくない。

伝えなきゃ。

全てを告白すると。



756 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/24(日) 23:57:37.56 ID:1gr3S0Yg0

平沢 唯がいなくなり、『わたし』がかわりになったことを。

きっとあのコは許さないだろう。

それでも、もし。

もし、許してくれるなら。

『わたし』はあのコを愛していると。

全ての事実を告白するんだ。


自分でも狂気じみていると思う。

自分よがりな、自己中心的な考えだと思う。

この2ヶ月間、支えてくれた友達を無為に傷つけた。

これからわたしは、最愛の人を傷つける。

その先にあるかもしれない。

あの、黒い罪悪感の無い、真実の愛を手にするために。



757 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 00:00:36.71 ID:ux1gAT2a0


憂が『わたし』を許したとき。

憂が『わたし』を愛したとき。

憂はそのとき、妹じゃなくなる。

憂はそのとき、恋人になる。

そうだ、きっと憂は恋人になるよ。

きっと妹じゃなくなる。

「だって、わたしの妹がこんなに可愛いわけがないもの」


―あ、歩けた



758 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/25(月) 00:02:18.25 ID:ux1gAT2a0

=終わり=

最後走っちゃったよ。

ほんとはもっと猟奇的ひどいバッドエンドにするつもりだった。

そのために伏線針まくったのに




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唯「私の妹がこんなに可愛いわけがない」#15
[ 2010/10/26 12:28 ] 非日常系 | 唯憂 | CM(0)

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