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梓「君にしか聞こえない」#前編 【非日常系】


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1 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:06:56.36 ID:iPhPIt55o

乙一の小説&映画「きみにしか聞こえない/Calling You」の唯梓パロです。
唯高校1年、梓中学3年
一部のキャラ設定が改変されてます
梓の制服はアニメ1期8話参照

※シリアス注意





2 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:07:28.35 ID:iPhPIt55o

――横浜市内、とある中学校

prrrr

教師「誰だ?授業中に携帯鳴らしてる奴は!」

prrrr

生徒「すいませーん」

教師「全く、授業中は携帯の電源は切っとけ。
   というか校内に携帯の持ち込みは禁止って言ってなかったか?ええ?」

 私は多分、この学校で唯一携帯電話を持っていない生徒なのかもしれない。
 そりゃあ本当はみんなみたいに携帯が欲しいし、こんなやり取りが正直羨ましい。
 けど話す相手が殆どいない。
 鳴らない携帯程、持ってて辛いものはないんだから。

教師「よし次!中野!」

教師「……中野、いないのか?」

梓「あ――」

教師「なんだ、いたのなら返事をしないか」

梓「すいません……」

教師「次、34ページから朗読してみろ」

梓「纏咳狙振弾、棍法術最強の流派として名高いチャク家流に伝わる最大奥義。
  この技の創始者、宋家二代、呉竜府(ご・りゅうふ)は正確無比の打球で敵をことごとく倒したという。
  この現代でいうゴルフスイングにも酷似した打撃法は、
  運動力学的観点からいっても弾の飛距離・威力・正確さを得るために最も効果的で――」

教師「中野、お前朗読の意味分かってるのか?そんな呟くような小声じゃ誰にも聞こえんぞ」

梓「……はい」

 周りから失笑ともいえる笑い声が聞こえてくる。
 けど今に始まったことじゃないし、何とも思わない。



3 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:07:57.11 ID:iPhPIt55o

―― その日の帰り道、通学路の途中の公園

prrrr

梓(また携帯の音だよ。どこに行ってもこの音ばかり……)

 ん?ちょっと待った。
 この公園、私以外誰もいないような……
 誰か置き忘れていったんじゃないのかと思い、
 辺りを見回すと砂場の砂の山から頭半分だけ出た白い携帯が音を出して光っていた。
 手に取ろうとする直前に着信音は止まったけど、一応手にとって確かめてみる。

梓「この携帯可愛いデザインだなぁ。あれ?でもこれオモチャだ」

 そのまま元に場所に戻そうかとも考えたけど、
 不思議と惹かれる何かを感じ、その携帯を持って帰ることにした。
 これで今日から私も携帯持ち!おもちゃだけどどうせ本物持ってても使い道ないし却って好都合だもの。



4 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:08:37.83 ID:iPhPIt55o

 家に帰ってからその携帯を色々弄ってみた。
 ボタンを押すと音が出たり光ったりするんだ……案外凝った作りなんだなぁ。
 携帯持ちになったと思っている私はささやかな優越感を持って、
 自分の机の引き出しの中にそっとしまった。

―― 翌日・学校

prrrr

梓(また誰か授業中に携帯鳴らしてるよ……今度は誰なのよ)

prrrr

梓(あれ?周りのみんなも先生も何も言わない。
  聞こえてないの!?そんな筈あるわけない、こんな大きな音だもの)

 まるで自分にしか聞こえていないかのように感じるその音はしばらくしたら止まった。
 その間も周りは何も起きていなかったかのように淡々と授業が続けられていた。
 幻聴がするなんて、やっぱり今日は体調悪いのかな。

―― 保健室

保健室の先生「うーん、熱は別にないみたいね。
       でもちょっと顔色悪そうだし、しばらく横になってよっか」

梓「はい」

 ベッドで横になってどれくらい時間が過ぎたんだろう。
 またあの音が私の耳に鳴り響く。

prrrr

梓「えっ!?」



5 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:09:20.87 ID:iPhPIt55o

 すぐに飛び起きて辺りを見回す。
 カーテンの向こうでは保健室の先生が黙々と机に向かって仕事をしている。
 先生の電話じゃない……やっぱりだ、やっぱり私にしか聞こえてないんだ。
 そしてその音の出所は私のすぐ目の前、枕元にあった。
 枕元で私の目が見た物、それは昨日拾った携帯が音を出して光を放っている光景だった。

梓(あれ?確かに昨日引き出しの中に入れたままで学校には持ってきてないのに、なんでここにあるのよ)

梓(誰かから電話がかかってきたりとかだったりして。まさかね……おもちゃなんだしそんなのありえないし)

梓(……でもやっぱり気になるなぁ)

 そう心の中で自問自答した私は、携帯を手にとり恐る恐る通話ボタンを押してみた。

梓「もしもし?」

 返事はない、そりゃあそうでしょ、だっておもちゃなんだもの。
 ただ単に私が変なだけ、そう結論つけて携帯を片付けようとした時――

?『あっ、出た!』
 
梓「!!?」

?『もしもし?もしもし?もしもーし』

梓(何このおもちゃ!?本当に誰かから着信がきてる!)

梓「はい?」

?『おおっ!すごーい!繋がったよこの電話』

梓「え?」

?『え?って、もしかして私の声が聞こえるの?』

梓「ええ……まあ一応」

?『ちゃんと言葉になって聞こえてるの?』

梓「はい」

?『すっごーい!私の声が聞こえるなんて、すごいよこれ!』

梓「あの、これってどういう――」



6 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:10:09.18 ID:iPhPIt55o

 そこまで言おうとした時、机に向かっていた保健室の先生が立ち上がって歩き出した。
 こんな場所で電話なんかしてるのバレたらまずいと咄嗟に考え、携帯を背後に隠す。

『もしもーし?もしもし、聞こえてるのー?』

 その間も電話の相手の声は聞こえ続けている。
 しばらくして先生が保健室から出て行くのを見届けた後、
 電話を再開しようとして背後を見ると、さっきまでそこにあったはずの携帯がなかった。

 私は軽い混乱状態になり、辺りを見回す。
 その間も相手の人のもしもしコールは頭の中に鳴り響いている。
 え?頭の中に鳴り響く?
 もしかしてこの通話、頭の中に直接語りかけてきてるんじゃ……
 そう推理した私は、手で方耳を塞いでみた。
 すると案の定、まるで頭の中にスピーカーでも付いたかのように鮮明に声が聞こえてくる。

梓『何で?何で聞こえるんですか?』

 この時私は声に出さず、頭の中に出来た電話に向かって直接語りかけていた。

?『私にも分からないよぉ。
  ただ部室に壊れた携帯があったから適当に数字を押してみたら君に繋がったんだよ』

梓『どうして!?だって私、今声出してないんですよ?』

?『私もそうだよ。今は頭の中に直接話しかけてるんだ。
  一応言っとくけど、これいたずら電話じゃないからね』

梓(声の感じだと女の人、それも私とあまり歳が変わらない人なんだろうけど……この人一体何なの!?)



7 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:10:44.65 ID:iPhPIt55o

 ガチャリ

梓『あっ!先生がくる』

?『先生?君、もしかして学生さんなの?』

先生「中野さん、具合はどう?」

梓「はい、もう大丈夫です」

先生「そう、良かった。とりあえず今日は放課後まで休んでよっか」

梓「はい」

?『もしもし?聞こえてるのかな?』

梓『と、とにかく切りますね!』

?『あわわ……ま、待ってー!また掛けてもいいよね?』

梓『え?』

?『夕方5時、それくらいなら学校も終わってるし大丈夫かな?』

梓『ええと……そ、それは……』

?『そうだ、自己紹介まだだったよね。私は唯、平沢唯。君は?』

梓『えっと……梓です。中野梓』

唯『梓ちゃんかー。それじゃ、また後でねっ!』

 つーつーつーつー

 頭の中に電話が切れた時のあの音が小さく聞こえてくる。
 どうやら通話が終わったようだ、もう相手の人の声は聞こえてこない。

梓「平沢唯さん、か……なんかすごい人だったなぁ」



8 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:11:37.07 ID:iPhPIt55o

―― 中野家

 家に帰ってすぐに自分の部屋の引き出しを開けると
 そこには何事もなかったかのようにおもちゃの携帯が鎮座していた。

 やっぱりさっきのは幻聴だったのかな……
 だとしたらあの唯って人はなんだったんだろう、私の想像の産物だったとでもいうのかな。
 とにかく、電話が掛かってくる5時まで待ってみよう。
 それで電話が鳴らなかったら全部私の思い過ごしってことになるし。

――――――

――――

――

 もうすぐ5時になろうとしている。
 私の視線が腕時計に向く回数が次第に増えていく。
 ちなみに「本物の」携帯を持っていないから時間を確かめる手段は今腕にはめているこの腕時計しかない。
 こんなものをして学校に通っている生徒も多分私だけだろう。

梓「もうすぐ5時、か。本当にかかってくるのかな」

 短い針が5を示し、長い針が12を示し、「5時よ」と時報の声がする。
 まだ鳴らない。
 いつしか長い針は12を過ぎていく。
 そう、結局かかってこなかったんだ。

梓「そうだよね、何私こんなのに本気になってたんだろ。バカみたい……」

 と呟いたのと同時に、電話の音が鳴り響いた。
 一瞬びっくりしたけど、これは脳内の電話じゃない、家にある普通の電話からだ。



9 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:12:34.14 ID:iPhPIt55o

梓「もしもし、中野ですけど」

純『おっ、梓、ひっさしぶりー!元気してた?』

梓「純!?純なの!?」

 電話の相手は私の幼い頃からの幼馴染、そして私にとっては只1人の親友でもある純。
 でも1年前、中学2年の時に親の転勤で桜ヶ丘って街に引っ越しちゃって、
 今はこうやってたまに電話で話したり、時々会ったりしてる程度だ。
 
純『そうですよー、梓が寂しそうにしてるだろうし、たまにはこうやって電話してやらなきゃってね』

梓「べ、別に私は寂しくなんかっ!」

純『相変わらずの反応ですな梓も。そっちはどう?うまくやれてんの?』

梓「うん、全然平気だよ。何もかもうまく行き過ぎてて気持ち悪いくらい」

純『そっかー。なんかさ、私が横浜から引っ越す時、あんた色々と大変だったでしょ?だから気になってさ』

梓「あの時が一番酷かったんだって。今はもうすっかり片付いて平穏そのものだって」

 私は嘘をついていた、喉から手が出る程欲しかった一番の相談相手からの電話だったのに……
 純にはあっちでの生活もあるんだろうし、
 私の事で心配をかけさせたくなかったから出た強がりだったのかも。

梓「それよりも純、あんたそっちでの生活はどう?友達とか出来たの?」

純『まあね、1人よく出来た子がいてね。
  なんかいっつも自分のお姉ちゃんのことばかり話してるお姉ちゃんっ子でさ。
  今じゃすっかり仲良くなって、梓のこと話したら会ってみたいって言ってたよ』

梓「へぇー」

純『梓の方こそどうよ?なんか気になる子でもできた?』

梓「うん……まあ、一応、ね。ただちょっと」

純『なんなの?その子がどうかしたの?』

梓「笑わないで聞いてくれる?」

純『分かった!絶対に笑わないから聞かせてよその人のこと!』

梓「実はさ、まだその人とは電話で話してるだけなんだけど、
  正直その人が実際に実在してるのか分からないんだよね」

純『へ?何それ?いまいち理解出来ないんですけど』



10 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:13:32.19 ID:iPhPIt55o

 ここで私はおもちゃの携帯を拾った時の事、その後、唯という人からの頭の中の携帯着信の事、
 その唯という人が架空の人なのか現実に存在する人なのかどうか分からない疑問、全てを話した。

純『うーん、なるほどねぇ』

梓「やっぱり私の空耳だよね。こんなの非現実すぎるし」

純『かもしれないけどさ。でももしもだよ?
  またその人からまた電話があった時、確かめる手段、1つだけあるよ』

梓「どんな?」

純『えっと――』

 ここで私は純から相手の人が現実の人間か確かめる方法を聞いた。
 正直まわりくどい手段だとは思うけど、理にはかなってはいるとは私も思う。

純『今度その相手の人からかかってきたら試してみるといいよ。
  そうすればその人が実在の人か分かる筈だから』

梓「でも、かかってくるのかな?だってさっき約束した5時にかかってこなかったんだし」

純『どうなんだろうね。でもさ、もし電話きたらしっかりやりなよ?』

梓「うん……」

純『また困ったことがあったらいつでも相談しなさいな。この私がどーんと受け止めてあげますからっ!』

梓「はぁ……」

純『ほら、もっと元気だして!そんなんじゃいつまで経ってもいい人できないよ』

梓「そうだよね、わかった。もしもまたあの人から電話あったらさっき言われた方法試してみるね」

純『おっけー。それじゃまた電話するからさ、今度はもっとゆっくり話そっか』

梓「うん、今日はありがとね、純」

 そういって私は受話器を置いた。
 人付き合いを拒否している私にとって純は唯一気を許して話せる相手だ。
 そんな相手と電話越しとはいえ話すことが出来たから少し気が楽になったような気分かも。



11 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:15:04.63 ID:iPhPIt55o

 我が家は両親が遅くまで仕事に出ていて家では私が1人でいる事が多い。
 だから夕食も自分で用意しなきゃいけない。
 いつも1人で食事をするけど、それが変だとも寂しいとも思わない。
 だってもう慣れっこだし、それにこうして誰にも関わらないで1人でいるのが一番落ち着くから。

 夕食の支度が終わり、ようやく落ち着けると安心して食卓に座る、
 と同時に「6時だよーん」と夕方6時を知らせる時報が室内に響き渡る。
 その時報から3分くらいしてそれは起きた。

prrrr

 そう、あの電話だ。
 やっぱり幻聴なんかじゃなかった。私は恐る恐る脳内の通話ボタンを押す。



12 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:15:45.70 ID:iPhPIt55o

梓『もし……もし?』

唯『おっ、繋がったー!梓ちゃんだよね?私だよ、さっき話をしてた唯だよっ!聞こえるよね?私の声』

梓『聞こえてますよ』

唯『良かったぁー。聞こえなかったらどうしようってヒヤヒヤしてたんだよ。ごめんね、少しだけ5時過ぎちゃって』

梓(少しだけ?1時間以上も過ぎてるのに少しって……いくら何でもこの人時間にルーズすぎでしょ)

 私は腕時計を見ながら呆れた顔でため息をつく。
 相手の唯という人が余りにいい加減な人っぽく見えたから。

唯『だけど良かった、また梓ちゃんと話せて』

梓『私にはよく分かりません。私はここにいて、あなたはどこにいるのかも分からない、
  もしかしたら現実の人じゃないのかもしれないって』

唯『うーん、そんなもんなのかなぁ』

梓『だから確かめてみませんか?唯さんが本当に今私と同じ世界に住んでいる人かどうかを』

――――――

――――

――



13 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:16:12.31 ID:iPhPIt55o

 10分後、私はコンビニの店内の雑誌売り場にいた。
 着いた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
 その間、頭の中の電話は繋がったままになっている。
 私がコンビニに着いてから3分後、唯さんからコンビニに着いたという連絡が入る。
 そう、ここで私達はさっき純から言われた事を今から試そうとしていた。



14 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:16:51.80 ID:iPhPIt55o

梓『目の前の雑誌、何から何まで全部読んだことはありませんよね?』

唯『ないよー』

梓『つまり、私達2人はここの本の中身については一切知らない。
  だから、もし唯さんがここにある本の中身を知ってたら、
  あなたが想像の世界の人じゃなくて本当にいるって証明できるんです』

唯『なるほどー。梓ちゃんあったまいいねぇ』

梓『いえ……この方法考えたの私じゃないんですけどね』

唯『それじゃ、早速試してみよっか!どの本にしようかな……』

梓『お互いにまだ読んでない本でないといけませんからね』

唯『これにしよう!まんがタイムきららキャラットって雑誌、そっちにある?』

梓『ええと……ああ、ありましたよ。9月号でいいですか?これは読んだことありませんね』

唯『私もないよ。じゃあ適当にページ数言ってみてよ』

梓『はい。では51ページでいいですか』

唯『おっけー。ふむふむ』

唯『ツインテールの女の子がベッドで寝そべってるね。
  ドラムセットが来て部員の女の子が喜んでる様子が書かれてるかな』

梓『どれどれ……あっ、合ってる!けいおん!って漫画ですよね?すごい、全部言った通りの絵です』

唯『すごい!漫画の名前まで大正解だねっ!それじゃ今度は梓ちゃんの番だよ』

梓『わかりました。えっと……横浜ウォーカーって本でいいですか?』

唯『ほえ?ないよそんな本。というか、何でその横浜ウォーカーって本なの?』

梓『だって、この本が一番たくさん売り場に置かれてるから……』

唯『こっちには1冊もないよ?その代わり、桜ヶ丘ウォーカーならいっぱい置いてあるね』

梓『桜ヶ丘……!?』

唯『そっか……今私がいるとこは桜ヶ丘、梓ちゃんの家は横浜ってことなんだね』

梓(桜ヶ丘……純が住んでるとこと同じ場所だ……)

唯『どったの?』

梓『いえ……別に』



15 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:17:43.33 ID:iPhPIt55o

 コンビニを出た私は、横浜の夜景が見下ろせる公園に来ている。
 もうすっかり真っ暗で、辺りには私以外誰もいない。

唯『これで君も私も実在する、ちゃんと証明できたよね』

梓『だけど、私まだ信じられません。こんな風に見ず知らずの人と話すなんて』

唯『まあ、私もなんだけどね。だって、私が誰かと話すなんて夢みたいな話なんだもの』

 そう話しながら、目の前に広がる宝石箱の中身のように光り輝いている夜景を見渡すと、
 真っ黒な空に一際白い光を強く放っている満月が目に入った。

梓『うわぁー、綺麗な満月……』

唯『ふぇ?満月って何言ってるの?まだ夕方だよ。満月なんて見えないよー』

梓『夕方って、今7時ですよ?』

唯『7時って、こっちは6時なんだけど』

梓『へ!?』



16 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:19:24.14 ID:iPhPIt55o

 ここで私達は互いに今の状況を出し合って整理してみることにする。
 つまりこういうことだ。

 私と唯さんの間には1時間の時差がある。
 でも実際横浜と桜ヶ丘の間に外国みたいな時差があるわけじゃなくって、
 頭の中の電話のやりとりだけに時差があるようだ。

 つまり今私が話している唯さんは、1時間前の唯さんということになる。
 日付や年数は同じ、ただ時間だけ私が1時間先行している形ってことになるのかな。
 そしてもう1つ、電話を通して聞こえる音声は私達2人の声だけ。
 周りの人の声や物音は音の大小関わらず一切入ってこないようだ。
 これでさっき電話が1時間遅れてかかって来た理由が理解できた。

 唯さんに時間の感覚がなかったわけじゃない、本当はたったの3分遅れの5時3分にかけてきてたんだ。
 私はちょっと安心して、少し前に唯さんに呆れていた自分を責めた。



17 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/09(金) 01:20:59.43 ID:iPhPIt55o

唯『ねぇねぇ、梓ちゃんって学生さんなんだよね?この前先生がどうこう言ってたの聞いたからさ』

梓『はい。今中学3年生です』

唯『それじゃ私の1つ下になるね。私は今ピチピチの高校1年生だもの!』

梓『ピチピチって……』

唯『これからはさ、唯って呼んでよ。さん付けって何か堅苦しくって嫌だな』

梓『でも年上の人を呼び捨てってのも嫌ですし……そうだ!それなら唯先輩って呼んでもいいですか?』

唯『先輩っ!?』

梓『どうかしましたか?もしもし……もしもーし』

唯『先輩……先輩……あぁ、先輩……』

梓『あのー、もしかして嫌でしたか?嫌なら――』

唯『嫌じゃないよ!私、先輩って1度呼ばれてみたかったんだぁ……
  だって私、中学まで部活なんて入ったことなかったし
  後輩なんていなかったから、もう嬉しくて嬉しくて!』

梓『そうだったんですか。ということは今は部活に?』

唯『うん!軽音部に入ってギター練習してるんだよ!とっても楽しいよー』

梓『ギター……ですか……』

唯『どったの?』

梓『あ、いや、別に何でもないです。ただちょっと昔を思い出しただけです』

唯『そっかー。ああ、話変わっちゃうけど何か梓ちゃんの声、なんか猫さんみたいで可愛いな』

梓『ね、猫!?そんなこと言われたの初めてです』

唯『決めた!今日から君はあずにゃんだ!』

梓『あ、あずにゃんって、何なんですかその変なあだ名!?』

唯『えー!可愛くていいじゃーん。それじゃあずにゃん、また連絡するからね』

梓『はあ……分かりました』

唯『またねー!おやすみあずにゃーん』

梓『おやすみなさい、唯さん……じゃなくって――』

梓『――唯先輩』

 電話を切った後、不思議と笑みがこぼれる。
 こんな感覚初めてだ……不思議な人だな。



22 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:10:57.52 ID:WE6B+YjAo

―― 桜ヶ丘・平沢家

憂「お姉ちゃん、おかえりー」

 あずにゃんとの通話を終えた私は、家に戻って玄関のドアを開けると、
 いつものように妹の憂が笑顔で出迎えてくれる。
 その笑顔を見て私も同じように笑顔を返して、ゆっくりと両手を動かす。

唯「……」

唯【ただいま、憂】

 私の手の動きを見て、憂も同じように両手を動かして返事をするかのようにジェスチャーを送る。

憂「お姉ちゃん、遅かったね。誰かお友達と会ってたの?」

唯「……」

唯【新しいお友達が出来たんだよ。あずにゃんっていうとっても可愛い子なんだー。
  あ、でもまだ会話しただけで実際にはまだ顔を見てないんだけどね】

憂「あずにゃん?その子の名前?」

唯【私が付けたあだ名だよ。なんだか声が猫さんみたいで可愛いんだー】

憂「声?お姉ちゃん声が聞こえるの?まさか聞こえるようになったとか!?」

唯(あっ……)



23 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:11:30.01 ID:WE6B+YjAo

 そう、私はあずにゃんとの電話以外で声を聞くことができない。
 それだけじゃない……喋ることもできなくて、
 こうして手話や筆談をして相手に伝えることしかできないんだ。

 ちなみに耳と口が不自由になったのは5歳の時から。
 でも有難いことに、私のまわりのみんなはそれを理解してくれて受け入れてくれた。
 唯一自分の声を相手に伝えられて、相手の声を聞くことが出来る方法、
 それはあの頭の中の電話を使うことなんだ。

唯「……」アタフタ

唯【あ、ほら!そんな感じの声なんだってりっちゃんが教えてくれたんだよ】

憂「なんだ、そうだったんだ。お姉ちゃんの耳がよくなったんじゃないのかなって私びっくりしちゃった」

唯【でも、本当にいい子なんだよ!いつか直接会ってみたいなぁ】

憂「いいなー、私も会ってみたいなその子に。お姉ちゃん本当に楽しそうなんだもの、いい子に決まってるよ」

唯【えへへー】

憂「それじゃご飯にしよっか。もうすぐ出来上がるからね」

唯【うんっ!】



24 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:12:47.65 ID:WE6B+YjAo

――翌日・中野家

 学校を終えた私は、ただいまも言わずに家の玄関をまたぐ。
 だって今は家に誰も居ないの分かりきってたからわざわざ言う必要なんてないし……。

梓「さて、さっさとご飯済ませちゃおっと」

 そう呟いて居間に来た私の視界に、ある物が飛び込む。
 部屋の片隅で埃をかぶって佇んでいる赤いギターだ。
 
 フェンダー・ジャパン・ムスタング――私のギター。
 訳あってここ数年間全く触っていない、お陰ですっかり埃まみれ。
 多分、これからも私はこのギターに触れることはないかも。
 過去にあった嫌な記憶を呼び戻すことになるし……
 
 そんな過去を思い出したくなかったからかな、私はそのギターから拒絶するように目を背けた。



25 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:13:36.85 ID:WE6B+YjAo

――学校・昼休み

梓『へぇー、今年の春にギター始めたばかりなんですか』

 今は学校の昼休み、みんな思い思いのグループで固まり、
 持ってきたお弁当を見せ合ってそれぞれお昼ご飯を食べている。
 そんな中私だけどこにもグループに属さないで只1人、静かにお弁当を机の上に広げていた。
 いや、今日は1人じゃない。頭の向こうで話し相手になってくれている人が1人いたんだっけ。
 
唯『うん!高校生になってさ、
  何か新しいこと始めなきゃいけないかなーって思って悩んでたんだけどね。
  丁度たまたま知り合った軽音部の部長さんにね、うちに入らないか?って誘われたの』

梓『それでどうしてギターを選んだんですか?』

唯『たまたまギター弾ける人がいなかっただけなんだけど』

梓『部員の数少ないってことですよね。パートが足りないだなんて』

唯『私を入れて4人かな。でもみんないい人で毎日楽しいよー』

梓『へぇー……4人てそれはホントに少ないですね』

唯『毎日部室でお茶したりお菓子食べたりしてるんだ』

梓『軽音部なのに演奏しないでティータイムってどうかと思います』

唯『澪ちゃんにもそうやってよく怒られるんだよー』

梓『当たり前です!』

唯『ああそうそう、澪ちゃんっていうのはベースの子でね――』

 この時間、私達はお互いの近況を色々と話して時間を過ごした。
 唯先輩の高校での事、家族に私と同い年の家事万能の妹がいること、軽音部の3人の部員の人達の事。
 そして唯先輩も携帯を持っていないという事……部室の物置で見つけた「あの」壊れた携帯以外。



26 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:14:20.88 ID:WE6B+YjAo


唯『ねぇねぇ、あずにゃんも携帯持ってないんだよね?ならさ、時間はどうやって確認してるの?』

梓『へ?』

唯『みんな携帯の時計で時間見てるっぽいからさ、
  携帯ない子の場合どうしてるのかなーって……私は腕時計してるんだけどね』

梓『私もそうですよ。今時腕時計で時間計ってるなんで私ぐらいの物だと思ってたので、
  同じような人がいてなんだかちょっとうれしいです』

唯『あずにゃんはどんな時計してるの?』

梓『赤くて丸い時計です。小さい頃からずっと使ってる大事なものなんです』

唯『幸せ者だよねーその赤い腕時計も』

梓『え?』

唯『あずにゃんにずーっと大事に使っててもらえてるんだもの。きっと幸せだよ』

梓『そんなことないです。ただ貧乏性なだけですって』

梓『あっ、そろそろ昼休みが終わりそうです。次移動教室で忙しくなりそうなのでまた後でいいですか?』

唯『おっけー。それじゃまた後でね、あずにゃん』



27 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:14:51.92 ID:WE6B+YjAo

――――――

――――

――

律「おーい、ゆいー」筆談

唯「……」

澪「その様子だとこの前言ってたあの子と電話で話してたみたいだな」

唯「……」コクン

律「あー、確か梓って子だったっけか」

唯「……」コクン

紬「それにしても、頭の中だけで繋がる電話ってすごいわねぇ……
  何で部室にそんな物があったのかしら」

律「私が触った時には只の壊れた携帯だったんだけどなー」

唯「……」カキカキ

唯【やっぱりとんでもない話すぎて信じられないよねぇ】

律「まー普通に考えりゃそうなんだけどさ」

澪「唯がすごく嬉しそうな顔してるから、嘘とは思えないんだよな」

唯「……」えへへー

紬「どんな子かしらねー、梓ちゃんって子。
  唯ちゃんが言うには猫さんみたいに可愛い子って言ってたけど」

唯【私も気になるよ。会いにいきたいなぁ、あずにゃんに……どんな子なんだろう】

澪「そうだ!そんな話してる場合じゃなかった!次テストだぞ、歴史のテスト!」

唯【あーーっ!すっかり忘れてたよぉー】

律「想定内のお返事どうも」

唯【どうしよぉ……私何にも勉強してないよー!】

澪「自業自得だ」

唯「……」ふぇぇー



28 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:16:37.82 ID:WE6B+YjAo

補足:憂和は手話、律澪ムギは筆談で会話してる設定



29 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:17:08.87 ID:WE6B+YjAo

―― 授業中

prrrr

梓(あれ?唯先輩からだ……どうしたんだろ)

梓『はい』

唯『あずにゃーーーん!!助けてえぇぇ!』

梓『い、いきなり何なんですか!』

唯『今日本史のテストやってるんだけど勉強やってくるの忘れて
  チンプンカンプンなんだよぉぉぉ!だからあずにゃんお願い!』

梓『お願いってまさか……』

唯『うん、そのまさかだよ』

梓『本気で言ってるんですか?それってズルじゃないですか。
  第一勉強してこなかったのは唯先輩が悪いだけでしょう』

唯『お願いあずにゃん!また追試だなんてコリゴリだもん』

梓『だからといって中学生にテストの答えを教わる高校生ってのもどうかと思いますけど』

唯『ぶーっ!あずにゃんの意地悪~』

梓『意地悪で結構』

唯『いいもん、1人でやるから……』

唯『……』

唯『……』

梓『あの……大丈夫ですか唯先輩』

唯『ふーんだ』

梓『……』

唯『……』ぷしゅー

梓『……しょうがないですね、この人は全く』

唯『え?手伝ってくれるの!?』パアァー

梓『今回だけですからね?わかりましたか?』

唯『おおおっ!ありがとうあずにゃーん!!!』

梓『にゃああっ!そんな大きな声で言わなくても聞こえますって!』

梓(私もお人よしだな……でもなんかこの人の事、放っておけないや)



30 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:17:39.07 ID:WE6B+YjAo

――夜

梓『もうすぐ東の空に流れ星が見えますよ』

唯『ほえ?流れ星?』

梓『こっちは1時間前に流れ星にお願いしました』

唯『何を?』

梓『内緒ですっ』

唯『あっ!』

梓『どうしました?』

唯『今流れ星見えたよ!ちゃんとお願いできたよー、えへへ』

梓『どんな願い事ですか?』

唯『ふっふふふ……内緒だよっ』

梓『もうっ!』

唯『あずにゃんが内緒にしてるからお返しだもん』

梓『気になるじゃないですか』

唯『へへーん』



31 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:18:24.38 ID:WE6B+YjAo

――それからしばらくたったある日

 私と唯先輩は毎日、場所も関係なくいつも話しているような仲になっていた。
 周りに聞こえないし声に出す必要もないし
 長電話してもお金かからない、本物の携帯より便利だよね、これ。
 そんな毎日を過ごすようになって分かったことがある。
 それは、その日どんな嫌な出来事があってもあの人と会話をしてると、
 まるでそれが些細な事のように思えてくるということだ。



32 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:18:58.20 ID:WE6B+YjAo


梓『学園祭ですか』

唯『うん!私達軽音部にとっては初めてのライブなんだー』

梓『すごいじゃないですか!』

唯『えへへー。でもなんだか緊張するなぁ』

梓『大丈夫ですよ。唯先輩達なら必ず成功しますから。きっと上手くいきますって』

唯『ありがとあずにゃん。それでね、話があるんだけど』

梓『なんです?』

唯『今度の学園祭が終わったら
  しばらく時間に余裕が出来そうだからさ、もしライブが成功したらね……』

唯『あずにゃんに会いにいこうって思ってるんだ』

梓『え――』

唯『私、あずにゃんに会いたいんだ。駄目かな?』



33 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:19:34.09 ID:WE6B+YjAo

 夕方・中野家

純『会いにいきたいって言われたんだ!よかったじゃん梓』

梓「まあ……ね」

 あの日の電話以来、こうして純とは唯先輩とのやりとりというか近況を報告していた。
 どんな相談にも乗ってくれて、その都度色々なアドバイスを貰っていた。
 つまりここまで上手くいけてるのは純のお陰でもあるわけで……
 
純『それで、いつ会うことにしたのよ』

梓「それが……断っちゃったんだ」

純『ええっ!勿体ないって!どうして断っちゃったのさ』

梓「……」

純『もしかしてさ、もし会ってみて嫌われちゃったらどうしよう、とか思ってるんじゃない?』

梓「うっ……」

純『やっぱりそうだったか……怖いから悪い方にばかり考える……
  その方が楽だもんね。怯える事も傷つくこともないし』

梓「だってさ……」

純『梓、1つだけ聞いていい?』

梓「うん」

純『あんた、その唯って人に本当は会ってみたいの?会いたくないの?』

梓「そっ、それは!……それは」

純『それは?』



34 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:20:41.68 ID:WE6B+YjAo


梓「……会いたいな」

純『なら答えは簡単だよ。会えばいいんだって』

梓「会いたいけど……今はまだ会う時期じゃないって思うんだよ」

純『そっか……なら無理することもないでしょ。でもさ、これだけは覚えておいて』

純『会いたい気持ちに時期なんて関係ないよ。会いたいと思った時が会う時なんだからさ』

梓「そういうものなのかな。あんまりよくわからないや……」

純『そういうもんなんだって。それにしても梓さ』

梓「何?」

純『その人について、かなりのご執心のようだね』

梓「なっ!」

純『大好きなんだよね?その人のことがさ』

梓「じゅ、純!いきなり何言ってるの!!やめてよ、そんなんじゃないから!」

純『ほんとあんたってわかりやすいよね』

梓「もうっ!純のくせにっ」

純『あははっ!でもよかった。梓ずーっと元気なかったからさ、私も気になってたんだ』

梓「純……」

純『やっぱりあんたさ、その人にあってから少しづつ変わってきてるよね。
  あんた自身は気が付いてないかもしれないけどさ』

梓「そんなもんなのかな」

純『そうなんだって。傍から見ればよく分かるからそういうの。
  とにかく、また何か進展したら教えてね』

梓「うん、そうするね。今日はありがとね純」

純『どういたしまして。それじゃまたね梓』




35 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:21:58.02 ID:WE6B+YjAo

――それから数日後の日曜日の朝

梓母「それじゃ行ってくるから留守番頼むわね。夕方には帰ってこれると思うから」

梓「うん」

梓母「戸締りしっかりね」

梓「わかってる、いってらっしゃい」

梓母「いってきます」

 バタン

梓「はぁ……今日は1日留守番か。暇だなー」

 玄関から居間に戻った私の視界にまたあの赤いギターが入る。
 前はすぐに目を逸らそうとしたけど、今は何故かギターが気になってしょうがない。
 私は何かに吸い寄せられるかのようにゆっくりと近づいてネックを持たずに六弦を撫でる。

梓「何年ぶりかな……このギターに触るの……」

 静かな室内に弦を弾く音が聞こえる。
 
梓「……私何やってんだろ、もうギターは弾かないって決めてたんじゃなかったの?」

梓「……変な私」

 私は1人呟いて、ギターを手放して背中を向けた。
 もしかして意識しちゃってるのかな……唯先輩がギターをやってるってことに。



36 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/10(土) 00:23:13.34 ID:WE6B+YjAo

――翌週・学校

教師「よし中野、次!教科書20ページから読んでみろ」

梓「はい」

梓「蒙昧にして臆病なる貴族共よ、鼠の尻尾の先程でも勇気があるなら要塞を出て堂々と決戦せよ。
  その勇気がないなら内実のない自尊心など捨てて降伏するがよい」

梓「生命を救ってやるばかりか無能なお前たちが食うに困らぬ程度の財産を持つのも許してやる」

教師「中野!もっと腹から声を出せ、腹から!毛虫の声じゃないんだぞ!」

 プッ クスクス

 まただ……この先生、私に嫌がらせでもしてるんだろうか。
 いつも朗読で私を指名して笑い者の晒し上げにしたりなんかして何が楽しいのよ……

――帰り道

唯『どったの?なんか元気ないねぇ』

梓『今日、また笑われちゃったんです。
  クラスのみんなの前で毛虫みたいな声だなんて先生にいわれて……』

唯『そんなぁ……そんな事ないって!』

梓『今日だけじゃないんですよこんなの。
  私、何か話そうとするとすぐ緊張しちゃって、声が掠れて裏返って……それで結局笑われるんです』

梓『きっと、誰とも話したくない、関わりたくないと思って
  ずっと声出さないでいる内に退化しちゃったんじゃないかなって思うんです』

唯『そんなことないって。あずにゃんはちゃんと喋れるよ!
  ちゃんと声が出るんだよ!今だって私と普通に――』

梓『これは頭の中で口を使って喋らなくていいから……本当に声に出してなんかないじゃないですか』

唯『それは違うよあずにゃん。聞いて?私ね、実は――』

梓『唯先輩には分からないんですよ!!』

唯『!?』

梓『私なんて……私なんていなくなっちゃえばいいのよ!!』

唯『あずにゃん……』

梓『私がいなくなったって、何も変わらないんです。誰も気付いたりなんかしないんです!』

梓『だから……だから……』

唯『ねえあずにゃん』

唯『週末、私と一緒に遊びに行かない?』

梓『え?遊びに……ですか?』

唯『うんっ!』



42 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 18:56:42.13 ID:JLg6k+zEo

――土曜日・鎌倉

 この日は唯先輩に誘われて鎌倉に足を運んだ。
 横浜からはそう遠くない場所だけど、私にとっては初めての土地で何もかもが新鮮に映った。
 
唯『さ、いこっかあずにゃん。私の言う通りに進んでね』

梓『はい』

 唯先輩と一緒にとは言ったけど、実際に一緒にいるわけじゃなくって電話越しにってことなんだけどね。
 きっとこの人は落ち込んでる私に気分転換をさせてあげようと誘ったんだろう。
 正直私自身も気が滅入ってたし、先輩を心配させたくなかったので受けることにした。

唯『じゃあ早速、最初の指示です!駅を出たら真っ直ぐ進んで橋を渡ってね』

梓『橋ですね。分かりました』

梓『――それにしても、なんだか不思議な感じですね、これ』

唯『だよねー。これってあれかな?遠距離デートみたいだよね、えへへ』

梓『デ、デートって……!何でそんな恥ずかしい台詞が出てくるんですかっ!』

唯『えーいいじゃーん』

梓『よくありません!』

――――――

――――

――

梓『唯先輩は鎌倉に来た事あるんですか?』

唯『ちっさい頃に少しの間だけ住んでたんだ』

梓『そうだったんですか。だから道が分かってるんですね』

唯『あずにゃん、1つ訊きたいことがあるんだけどいいかな?』



43 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 18:57:35.09 ID:JLg6k+zEo

梓『訊きたいこと?何です?』

唯『あずにゃんが他人と話すのを苦手になっちゃった訳』

梓『……でも』

唯『大丈夫!心配しないでどーんと話してみなさいな!』

梓『そうですね……』

梓『小学6年の時だったかな……ギターのコンクールがあったんです』

唯『ギター!?あずにゃんギターやってたの!?』

梓『小学4年の時から、昔の話ですけどね』

唯『そんなー。何で言ってくれなかったのさぁ……
  知ってたのならあずにゃんに楽譜の読み方教えてもらおうと思ったのにー』

梓『今はもうやってませんから言う必要もないんじゃないかなって思ったので……
  というか唯先輩楽譜も読めないで今迄どうやってギターやってきてたんですか!』

唯『えーっと……何となくかなぁ』

梓『ありえない……無茶苦茶だこの人』

梓『ま、まぁ……話戻しますね。
  この日、私は初めてお人形さんのような可愛い服を着て、
  おめかしして、すごく嬉しい気持ちで舞台に立ったんです』

梓『その服可愛いね、ギター上手いねってクラスのみんなも褒めてくれました。
  私もう嬉しくて嬉しくて幸せな気分でした』

梓『……でも』

唯『でも?』

梓『……嘘だったんです、その言葉が』

唯『嘘?』



44 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 18:58:13.82 ID:JLg6k+zEo


梓『梓ちゃん、あんまり上手くないですね。あの服変だったよね。
  何か髪が日本人形みたいで怖いよねって……
  本番の後、廊下で同級生の子達がこっそりそう茶化しながら笑ってたんです』

梓『それからかな……人とどう話せばいいのか分からなくなったのは……』

梓『勿論ギターは辞めました。髪も日本人形と笑われるのが嫌でツインテールにしました』

梓『唯一理解してくれている幼馴染が1人だけいました。
  でもその子は私が中学2年の時に唯先輩が住んでいる場所と同じ桜ヶ丘に引っ越してしまって……
  1人ぼっちになっちゃって……それからは前以上に人と関わりあいになるのを避けるようになりました』

梓『そんな私から出る空気に周りも気付いてたのか、
  まるで腫れ物に触るかのような扱いをされてきて、
  そういう人達の視線まで気にするようになったというか』

梓『今でもそうです。
  昼休みはみんなそれぞれ集まってお弁当食べるけど私はいつも1人、
  体育の授業も私はいつも1人外れて見学……溶け込めないんですよ』

唯『なるほどねぇ……』

梓『ただの臆病かもしれません。でも私鈍感だから……
  冗談とかお世辞なんかも全く分からなくて、何でも真に受けちゃう性質なんです。』

梓『だから怖いです……私みたいな欠陥だらけな人間はそれなりに自己防衛しなきゃって……』



45 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 18:58:47.98 ID:JLg6k+zEo

唯『わかるよ。すごく分かる。人に笑われるのってすごく辛いよね。でもさあずにゃん』

梓『はい?』

唯『あずにゃんは1つだけ間違ってるよ』

梓『え?』

唯『あずにゃんに欠陥なんかないんだよ。
  いつも真剣に他の人の言葉と向き合ってるっていう意味なんだよそれは』

唯『人の言葉に対して1つづつ意味のある答えをしようとしてるだけなんだと思うな。
  だから多すぎる嘘に傷ついてくんだ。でも大丈夫!証拠もあるよ』

梓『証拠?どんなのですか?』

唯『あずにゃんは今さ、私とちゃんと話せてるじゃん。それで十分なんだよ』

梓『唯先輩……』

唯『私はすっごく好きだよ?あずにゃんの声、あずにゃんの言葉』

唯『えへへ。何だか偉そうなこといっちゃったね。ごめんごめん』

梓『いえ、そんな事ないです。私、唯先輩に話してみて良かったと思ってますから』

唯『そっかー。力になれてよかったよ』

唯『あっ!そうだそうだいけない!そこからさ、真鍋マリンサービスってお店の看板見えない?』

梓『うーん……あっ!ありましたよ』

唯『それじゃあね、そこに行って荷物を受け取ってきて欲しいんだ。
  私からあずにゃんへの荷物だよ?ちなみにここからはあずにゃんに1人で行ってもらいますっ!』

梓『ええっ!?1人……ですか?』

唯『ほいじゃ、健闘を祈るっ!なんちゃって♪』

梓『ちょっ!唯先輩っ!』

 つーつーつーつー



46 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 18:59:24.36 ID:JLg6k+zEo

梓「切れちゃった……はぁ、1人で行けだなんて無茶言ってくれるよあの人は……」

梓「まあ、とにかく行ってみよう」

――――――

――――

――

梓(サーフボードがいっぱい置いてある……マリンスポーツ関係のお店なのかな)

梓(入り口開けっ放しだ。中に入っていいんだよね?)

梓「あのぉーすいませーん……」

 店内に入った私は小さな声で呼びかける、が返事はない。
 どうみても聞こえるような大きさの声じゃない、覚悟を決めて大声で呼んでみよう。

梓「すみませーん!!」

 「はーい」

 今度は声が聞こえたのか、女の人の返事が返ってきて、奥から1人の女の人が出てくる。
 赤い眼鏡をした人で、私とそんなに歳が離れていないようないでたちだ。

梓「突然すいません。私、中野という者ですけど平沢唯さんから私宛に荷物が届いているかと」

和「へぇー、あなたが唯の言ってた梓ちゃんね。ちょっと待っててね」

 そう言うと、その眼鏡の人は店の棚から1つの小包を持ってきて手渡してきた。

和「ふふっ、全く唯もなかなか隅に置けない子ねぇ……はい、どうぞ」

梓「ありがとうございます」

和「唯によろしく言っておいてね」

梓「はい」

 それだけ言うと、眼鏡の人は店の奥へ戻っていこうとした。
 ここで私も帰ればいいのに、何故か呼び止めてしまう。
 それは、どうしても訊いておきたいことがあったから。



47 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 19:00:33.81 ID:JLg6k+zEo

――――――

――――

――

梓「そうだったんですか。唯先輩とは幼馴染だったんですね」

和「ええそうよ。あの子は昔っから本当に変わった子でね……はい、お茶」

梓「ありがとうございます」

和「いきなり私の家にやってきて浴槽を捕ってきたザリガニで一杯にしたりとか、
  家庭科の授業で班でタコ焼き作る実習の時にも
  タコ担当の唯がタコ忘れてきててタコ無しタコ焼き食べるハメになったりとか……」

梓「色々とすさまじい人だったんですね」

和「そうよ。まだまだ一杯あるけど聞いてみる?」

梓「いえ……もう十分です」

和「そう、でもね……確かにあの子と一緒にいると色々あるけど、
  何があっても1度として嫌な気になったことはなかったわね」

和「不思議と許せちゃうんですもの、あの笑顔を見ると、ね」

梓「そうですね、私も今まであの人といて同じような感覚になりましたね。
  悪気がないせいで怒る気にもならないっていうか何というか」

和「唯は中学まで何もやってこなかったわ。まあそれにも理由があるんだけど。
  でも本人は高校生になったら何か新しいことをしたいって言ってたの」

梓「そういえば前にそう話してくれた事がありました。
  何ていうか、部活の話をしてる時の唯先輩、すごく楽しそうな雰囲気でした」

和「そうね……軽音部に入って本当に変わったと思うの。
  自分を受け入れてくれる友達とギー太ができたって喜んでたもの」

梓「ギー太?」

和「ああ、唯のギターね。あの子、物に名前付ける癖があるのよ」

梓「唯先輩のセンスが分からない……」



48 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 19:01:24.11 ID:JLg6k+zEo

和「唯が段々と私に頼りっきりにならなくなってなんだか巣立ちされたような気分で
  寂しくなったとはちょっとは思うけど、それでも私は唯が軽音部に入って、
  梓ちゃんと出会って本当に良かったって思えるの」

梓「私に?」

和「ええ、唯ったらいつも嬉しそうに
  あなたの話ばかりするんですもの。毎日何度も細かく何を話したとか、ね」

梓「唯先輩が私を……あ!でも和さん今こちらにいるってことは今は唯先輩と離れ離れなんですか?」

和「違うわ。このお店は叔父の店でね、たまたま叔父に用事があって
  週末を利用して来てるだけなの。だから実家は桜ヶ丘だし明日になれば帰るわ」

梓「よかった、唯先輩と離れ離れってことじゃなくてよかったです。
  私が幼馴染と離れ離れで暮らしてて尚更そう思うので」

和「今日ここに行くっていう話は唯も知っててね、じゃあついでにこの荷物を預かってくれって。
  そして梓ちゃんが訪ねてくるからそれを渡してくれって頼まれたんだけどね」

梓「なるほど……そういうわけだったんですね」

和「梓ちゃん」

梓「はい」

和「唯の事よろしくね。あの子にはあなたが必要なんだから、ね」

梓(私が……頼りにされてる?他人に?)



49 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 19:02:47.37 ID:JLg6k+zEo

 荷物を受け取った私は、和さんと別れた後唯先輩に報告をすることにした。

梓『唯先輩、荷物受け取りましたよ』

唯『ほい、了解だよっ』

梓『先輩の幼馴染の人のとこだったんですね』

唯『そだよー』

梓『それで、次はどこに?』

唯『私が大好きだった場所だよ』

梓『どんな場所なんです?』

唯『へへー、着いてからのお楽しみー』



50 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 19:03:21.32 ID:JLg6k+zEo

 目的の場所へ向かう途中、色々なお店に寄り道した。
 全部土地勘のある唯先輩お勧めのお店だ。
 アクセサリショップ、服屋さん、わらび餅屋さん、喫茶店、本当に数え切れない程まわった。
 1人でいるはずなのに、何故か本当に隣に唯先輩がいてデートしているような……そんな気になる。



51 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 19:04:09.86 ID:JLg6k+zEo

梓『あの、先輩は今どちらに?』

唯『今はねぇ……街を見下ろせる丘の上の原っぱにいるんだ。私のお気に入りの場所なの』

梓『2人揃って先輩のお気に入りの場所ですねっ』

唯『だよねぇ。いつかここにもあずにゃんと一緒に来たいな』

梓『波の音が聞こえてきましたよ。先輩の言ってたお気に入りの場所って海だったんですね』



52 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 19:04:39.06 ID:JLg6k+zEo


 水平線を見えたと同時に私の足は自然と小走りになる。
 誰も人がいない静かな砂浜で、都会暮らしの私にとってはとても新鮮な光景だ。
 そこで私は砂浜に座って小包を開けてみる。
 そこには「あずにゃんへ」と書かれた一通の便箋と古いラジカセが入っていた。
 ちなみに頭の中の唯先輩との通話はここに到着したと同時に切れている。



53 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 19:07:50.41 ID:JLg6k+zEo

 ―――――――――――――――――――

 あずにゃんへ
 この小包を渡したのは、箱の中のラジカセをあずにゃんに受け取って欲しいからなんだ。
 ただ1つだけ、私のお願いを聞いてくれるかな?
 一緒に入れてあるテープを使って、あずにゃんの声を録音して私に送って欲しいんだ。
 あずにゃんの声で……なんでも好きな言葉を、大きな声で
 それじゃあ、よろしくね

 ―――――――――――――――――――



54 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 19:08:29.83 ID:JLg6k+zEo

 テープは既にラジカセにセットされていた。
 あとは録音ボタンを押せば自動的に録音が始まり私の周囲の音を拾い始める。
 
梓(これを押して喋ればいいんだよね……えいっ)

 録音ボタンを押すと中のカセットテープが回り出す。
 何か口を動かさなきゃいけないと分かっていても何も出来ない。
 おもわず停止ボタンを押してテープをとめ、ため息をつく。

梓(駄目だ、こんなんじゃ……この程度のことが出来ないでどうするの私!)

 意を決してもう1度録音ボタンを押し、ラジカセを地面に置いて立ち上がる。

梓「えっと……ちゃんと声……はいってるかな?」

 小さな声でそう言って、ラジカセの中を覗き込むと、テープが音を立てずに静かに廻っていた。
 ――ちゃんと声、拾えてるんだ……

 それを確認すると、水平線の彼方に沈む夕日を見つめる。
 いつの間にか私の顔から自然と笑みが漏れていた。
 その笑みの正体が、夕日によるものなのか、それとも他の何かなのかは分からないけど。
 ただ間違いなく言えるのは、以前の私ではありえない表情であるということ、それだけかな。



55 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 19:09:18.06 ID:JLg6k+zEo

梓「中野梓です。私は今、鎌倉の海岸に来ています。唯先輩が録音しろって言ったので録音しています」

梓「……少し照れくさいですけど、ね」

 照れた顔でそう呟くと、大きく深呼吸する。
 そしてこの空のどこかの下にいる唯先輩に直接語りかけるように大きな声で呼びかけた。

梓「唯せんぱーい、聞こえますかー?私の声、ちゃんと届いてますか?
  秋も深まってきてもうすぐ冬ですね!!!春になったらあなたに会いたいです!!!」

 私の心には何かをやり遂げた後のような充実感があった。
 私の声、本当に唯先輩に届けばいいな。



56 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 19:12:36.86 ID:JLg6k+zEo

――それから数週間後

教師「よし、じゃあ次は教科書311ページから!中野、読んでみろ」

梓「はい」

梓「あんた一体何なのよ!車は盗む、シートは引っぺがす、私はさらう、
  娘を探すのを手伝えなんて突然メチャクチャは言い出す!」

梓「かと思ったら人を撃ち合いに巻き込んで大勢死人は出す、挙句は電話BOXを持ち上げる!
  あんた人間なの!?お次はターザンときたわ。警官があんたを撃とうとしたんで助けたわ。
  そうしたら私まで追われる身よ!一体何があったのか教えて頂戴!!」


教師「はいそこまでだ。中野、座っていいぞ」

 ワイワイガヤガヤ

モブ生徒「おいおい何だよ、中野の奴どうしちゃったんだよ」

教師「おいそこ!静かにしろよ!!」

教師「中野」

梓「はい」

教師「今の朗読、すごくよかったぞ」

教師「じゃあ次!――」

梓(……えへへ)



60 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:38:12.80 ID:JLg6k+zEo

――平沢家

唯【ただいまーういー】

憂「お姉ちゃんおかえりー」

憂「そうだ、お姉ちゃん宛に荷物が届いてるよ」

唯【荷物?】

憂「はいこれ。私まだ中みてないから、どうぞ」

唯【あっ!これあずにゃんからだっ!】

憂「梓ちゃんから?」

唯【私が頼んでたテープが入ってるよ!本当に送ってくれたんだねぇ】

憂「へぇー、何か頼んでたの?」

唯【うんっ!後で憂にも見せてあげるね!】

憂(お姉ちゃんすごく幸せそうな顔してる……一体どんな子なんだろう、梓ちゃんて)



61 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:39:06.06 ID:JLg6k+zEo

――――――

――――

――

prrrr

梓『もしもし』

唯『もしもしあずにゃん?今何やってるのー?』

梓『今は体育の授業中です。体育館でバスケやってますよ』

唯『それじゃ今お話するのは気が散っちゃうからあんまよくないかな?』

梓『いえ、大丈夫ですよ。私、体育はいつも隅で見学してるだけなので』

唯『そっかー。あのね、今日は報告しておきたいことがあるんだ』

梓『報告?』

唯『テープ届いたよ。あずにゃんありがとね』

梓『え!?本当に?もう……聞いちゃいました、か?』

唯『……うん』

梓『うわああっっ!は、恥ずかしい……っ』

唯『そんな事ないって。すごく素敵で可愛い声だったよ』



62 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:39:38.14 ID:JLg6k+zEo

梓『そんな……おだてても何もでませんよ』

唯『私は嘘とお世辞は言わない子だよ?』

梓『ふふっ、ありがとうございます先輩。ああっ!』

唯『どったのあずにゃん』

梓『いえ、ボールが私の方に飛んできただけですから、大丈夫です』

モブ生徒「梓ちゃんごめーん。ボールとってー!」

梓「うん!いくよー?」

モブ「ありがとーっ!」

モブ「梓ちゃん、よければ私達のチームに来ない?」

梓「……」

梓「うん!」



63 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:40:32.08 ID:JLg6k+zEo

―― 中野家

梓「ただいまー!……って、誰もいないか」

梓「……私のギター、埃で真っ白だ。触ってない間にこんなに汚れてたんだ……」

梓「たまにはお手入れしてあげなきゃなぁ」

――――――

――――

――

梓「よし……できたっと!」

梓「折角だしちょっとだけ弾いてみようかな……」

 ジャラララーン

梓母「ただいま梓……ってこの音、あの子もしかして」コソコソ

梓母(何年ぶりかしら、あの子のギターを聴くなんて)

梓母(あれだけ嫌がってたのに……本当に変わったわね、何かあの子にいい事でもあったのかしら)

 ジャジャジャーン

梓(ふぅ……久々だからまだ指がついていけてないや)



64 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:41:11.22 ID:JLg6k+zEo

 もう2度と触らないと決めていたギターに触るとか、体育の授業で人に誘われるとか、
 授業で先生に褒められるなんてちょっと前の私には絶対にありえないことだった。
 永久に溶けない氷が時間をかけてゆっくりと溶けていくような感覚……
 多分、というか間違いなく原因はあの人だ。
 
 唯先輩といると、この世に不可能なことなんてないような
 何でも出来るような……そんな気持ちになる。



65 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:42:43.87 ID:JLg6k+zEo

――ある休日の午後

唯『ねぇねぇあずにゃーん』

梓『どうかしましたか?』

唯『あずにゃんってさー、ギター以外に趣味とかあるの?』

梓『そうですね……私最近通販に凝ってるんです』

唯『通販?ネットでお買い物してるの?』

梓『ええ。結構いい掘り出し物とかあるんですよ?』

唯『ほほぅ、どんなの買ってるのかね?』

梓『最近ギター用乾燥剤とか寝てる間にリズム感が養えるCDとか
  壁にくっつくギター用ハンガーとか買いましたね。
  ハンガーなんて肉球の形してて可愛いから思わず買っちゃったんです』

唯『あずにゃんや……それ本当に役に立ってるの?』

梓『うっ……ま、まあ……それなりには』



66 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:43:25.39 ID:JLg6k+zEo

梓『ああ!最近可愛いの買ったんですよ!
  キュゥべえってキャラのラバーストラップで気に入っててバッグに付けてるんです』

唯『それって最近やってたアニメのキャラだよね?』

梓『ええ、そうですよ』

唯『へぇー、意外だなぁ……あずにゃんアニメとかも見るんだ』

梓『あんま見てませんけどね。ただなんか一目見て気に入っちゃっただけです』

唯『衝動買いはダメだよー。お小遣いは大切に、だよ!』

梓『いつも無駄遣いしてお金に困ってる唯先輩に言われたくないです』

唯『うぅ……あずにゃん先輩厳しいっす』

梓『はいはい』

唯『でもなんか楽しいなぁ』

梓『何がですか?』

唯『だってこうやって話してるとあずにゃんの色んな物が分かってくるんだよ!
  私もっともっとあずにゃんの事知りたいよ』

梓『私のこと知ってもあまり役には立ちませんよ?
  それに教えるにしても唯先輩に対価をちゃんと払ってもらいますからね』

唯『たいか?』

梓『私も唯先輩のこと、もっといーっぱい知りたいんですから!いいですよね?』

唯『もっちろんだよ!ああ、それと話は変わるけど』

梓『はい?』



67 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:44:00.50 ID:JLg6k+zEo


唯『前にあずにゃんにラジカセあげたよね?
  あれまだ持ってる?古いラジカセだからちょっと気になっちゃったんだー』

梓『当然じゃないですか!私あのラジカセ飾っていつも眺めてるんです』

唯『大事にしてくれてるんだね、ありがとねあずにゃん』

唯『あのラジカセね、私の4歳の誕生日に両親から貰ったものなんだ』

梓『そんなに大事な物だったんですか……いいのかな、私なんかが貰っちゃって』

唯『だからこそ、あずにゃんにプレゼントしたかったんだよ?』

唯『それにね、私はこう思うんだー。そのラジカセは多分私のことを――』

唯梓『ずっと覚えてる』

唯『え……なんであずにゃんそれを……』

梓『ふふっ、私唯先輩の心が読めるんですよ?』

唯『ええっ!あずにゃん何時の間にそんなすごい子になったの!?』

梓『冗談ですよ冗談』

唯『もうっ!ひどいよあずにゃんったら私のこと騙すなんてさー』ブーブー

梓『えへへ、ごめんなさいっ。実はこの前鎌倉に行った時に和さんから聞いたんです。
  唯先輩が物に名前をつけてまるで意思のある友達のように大事にしているって話を』

唯『和ちゃんったらもう、変なとこまで喋らないでよぉー』

梓『そういえば唯先輩、もうすぐ学園祭なんですよね?』

唯『うん。そうなんだけどさぁ……』

梓『何か悩みでも?』

唯『実は――』



68 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:44:43.91 ID:JLg6k+zEo

――コンビニのFAX機

唯『それじゃ送るねー』

梓『はーい』

 お金を入れてFAXのボタンを操作すると、中から数枚の紙が吐き出されてくる。
 それらには楽譜が書かれていた。

梓『こちらはOKですよ、受け取りました』

――――――

――――

――

 近所の河原、私はベンチに腰を下ろすとさっき受け取った楽譜を広げ、
 背中に背負っていたギターケースを下ろし中からギターを出す。



69 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:45:23.21 ID:JLg6k+zEo

唯『ごめんねあずにゃん、こんなお願いしちゃって』

梓『いいんです、気にしないでください。私も唯先輩とギターの練習したかったので。
  それに……その……そんな気にさせてくれたのは先輩のお陰でもあるんですから』

唯『私の?』

梓『あ、いえ……と、とにかく始めましょうか』

――――――

――――

――
 
梓『私の恋はホッチキス、ですか。コピーバンドじゃなくてオリジナルをやるんですね』

唯『うん。でも楽譜を読んでも分からない場所がいくつもあるんだよ』

梓『どれどれ……随分変……じゃなくて特徴的な歌詞ですね』

唯『その歌詞考えたのは澪ちゃんだよ』

梓(どんな人なんだろ……こんな詞を書くなんてある意味すごいセンスだ)

唯『どしたの?』

梓『あっ、いえ別に……少し読ませてもらっていいですか?』

唯『どうぞー』



70 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:46:24.56 ID:JLg6k+zEo

梓『では……』

唯『……』

梓『……』

梓『~~♪』

 知らず知らずの内に曲のフレーズを口ずさんでいた私。
 なんか唯先輩達と同じバンドにいるような……そんな錯覚がする。

唯『……!!?』

梓『先輩?どうしました?』

唯『あ、いやぁー、何でもないよ?』

梓『すいません、久しぶりに楽譜なんて見たからつい心躍っちゃって……』

唯『あずにゃん、もう少しだけ歌ってみてくれないかなぁ?』

梓『私の鼻歌なんて聴いてもあんまり参考になりませんよ。私歌苦手ですし』

唯『いいんだよ。私にとってはそれが一番参考になるんだから』

梓『……分かりました』

――――――

――――

――

唯『ふぅ、あずにゃん教え方上手いね。これなら本番までに出来るようになりそうだよ』

梓『それ程でもありませんって。それよりも本当によかったんですか?直接音あわせしてませんけど』

唯『しょうがないよ。だってこの電話、私達の声しか送れないんだもん』

梓『こういう時ちょっと不便ですね』

唯『そろそろ時間も遅いし、帰ろっか』

梓『そうしましょうか。週末のライブ頑張ってくださいね』

唯『まっかせなさい!』



71 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:48:16.47 ID:JLg6k+zEo

――それから数日後・桜高音楽室

律「今日は私達にとって初めての学園祭ライブ、絶対成功させような!」

唯「……」コクコク

紬「おー」

澪「な、なあ……やっぱり私がボーカル……なのか?」

律「なーに言ってんだ。澪以外に誰がいるんだよ」

澪「そ、そんなぁー……代わって!お願い!お願い律!」

律「何だ何だー?私にドラム叩きながら歌えってか。それに今更代えるなんて出来るわけないだろ」

澪「ならドラムは私がやるから!」

律「ベースは誰がやるんだよー」

澪「それも私がやる!」

律「おぅおぅ!やってもらおうじゃないの。逆に見てみたいわ!」

唯「……」

唯【大丈夫だよ。澪ちゃんなら絶対出来るよ!
  私達、澪ちゃんがこっそり見えないとこで歌の練習してたの知ってるんだよ?
  ここまで頑張ってきたことは絶対に無駄にはならないから……だから頑張ろう?】



72 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:48:59.69 ID:JLg6k+zEo

澪「唯……」

紬「そうね。今日までやれるだけのことはしてきたんだもの。唯ちゃんもこう言ってるんだし、ね」

唯「……」ニコニコ

澪「……分かったよ。私達この日のために練習してきたんだもんな。ありがとう唯、私やってみるよ」

唯「……」コクン

 ガチャッ

和「みんないる?もうすぐ出番よ。そろそろ講堂の方に移動お願いね」

律「よっし!いくぞー!」

唯【終わったらティータイムしようね!】

紬「そうしましょー」

律「だなー」

唯「……」ハッ

唯【そうだ和ちゃん、みんな、ちょっとお願いがあるんだ】

律「なんだー唯」

唯【えっとね……今度のライブなんだけど――】




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梓「君にしか聞こえない」#前編

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