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梓「君にしか聞こえない」#後編 【非日常系】


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梓「君にしか聞こえない」#前編
梓「君にしか聞こえない」#後編






73 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:50:58.27 ID:JLg6k+zEo

――学園祭から数日後・中野家

梓母「梓、お友達から荷物が届いてるわよー」

梓「荷物?誰からなんだろ」

梓母「平沢さんって方からよ」

梓「えっ!?」

梓(唯先輩、何を送ってきたんだろ……ん?CD?手紙も同封されてる……)



74 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:51:40.25 ID:JLg6k+zEo

 ――――――――――――――――――――――――――――

 あずにゃんへ
 学園祭での私達のライブ、みんなにお願いしてCDに録音してもらったんだ
 私達の練習の成果、あずにゃんにも聴いて欲しかったからね
 ここまで来れたのもあずにゃんと軽音部のみんなが色々と手伝って助けてくれたからだから
 こんな形でしかお礼できないけど、よかったら聴いてみてね   唯より】

 ――――――――――――――――――――――――――――



75 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:52:38.15 ID:JLg6k+zEo

梓(そっか……あの人私の為にライブ録音してわざわざ送ってきてくれたんだ)

――――――

――――

――

梓『先輩、CD聴きましたよ。大成功じゃないですか』

唯『へっへー。あずにゃんにそう言ってもらえて何だか私も自信ついたよー』

梓『唯先輩、本当に今年の春にギター始めたばっかなんですか?』

唯『そうだよー』

梓『すごい……始めて半年でこんな演奏ができるなんて本当にすごいですよ!』

唯『いやー照れますなぁ』



76 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:55:36.17 ID:JLg6k+zEo

梓『なんか少し前まで、もうギターなんか触りたくもないって思いつめてた自分が恥ずかしいです』

梓『私自身怖がりすぎて逃げてたんですね。
  周りから何か言われるのが嫌で、それにただ流されて逃げてたって……
  いくら不器用でも私は私の道を行くべきなんですよね』

梓『自分のやりたい事を正直にやるべきなんだって、先輩を見てて分かったんです』

唯『そうだね、色々悩んでてもさ、そんなんじゃ人生楽しくないもん。
  周りの人が何て言っても、最後に判断するのは自分だからね』

梓『もしも私が、唯先輩やこの人達と一緒にバンド組んでたら今とは違った人生になってたのかなぁ……』

唯『だったら一緒にやろうよ!一緒にバンドしようよ!』

梓『無茶いわないでくださいよ。横浜と桜ヶ丘じゃ遠すぎますって』

唯『うーん、残念だー』



77 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:56:51.70 ID:JLg6k+zEo

 それから数ヶ月後――
 私と唯先輩の仲は益々深まっていった。
 それだけじゃない、
 今では学校のクラスのみんなとも仲良くなって、1人でお弁当を食べることも無くなっていた。
 みんなが私の名前を呼ぶ時も気付かぬ内に「中野さん」じゃなくって「梓ちゃん」になってるし。
 何年経っても変わらなかった私自身と私の周辺が、
 唯先輩と出会ってからのたった半年で大きく変化していた。
 
 だけどそんな楽しい日々はいつまでも続かない……
 そう、私は中学3年生、もうすぐ卒業しなきゃいけない。
 現に今も高校の受験勉強に追われる毎日だ。
 そんなある日の夜、私は親にある用事で呼び出された。



78 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:57:41.47 ID:JLg6k+zEo

梓「え!?転勤!?」

梓母「そう、来年の春からお父さん転勤することになったのよ。
   本当はなるべく早くに行くつもりだったけど
   梓が中学を卒業するまで待とうって相談して、春ってことになったの」

梓「で、でもお父さんもお母さんもジャズバンドやってるんでしょ?
  サラリーマンでもないのに転勤だなんて……」

梓母「そうなんだけどね。新しく活動するバンドの拠点が変わっちゃったのよ。
   ここからじゃ遠すぎるから引っ越すしかないの」

梓「そっか、じゃあ私達も引っ越すってことなんだよね。それでどこに引っ越すの?」

梓母「桜ヶ丘よ」

梓「ええっ!?」

梓母「よかったわねー、また純ちゃんと一緒の学校に行けるかもしれないじゃない」

梓(桜ヶ丘……唯先輩と純の住んでる街だ……)



79 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:04:15.16 ID:JLg6k+zEo

 親から告げられた思いがけない桜ヶ丘への引越し。
 住み慣れたこの街から去るのは少し寂しい気もしたけど、それ以上に気持ちが心躍っていた。
 それは勿論、純との再会が果たせるのもあるけど――
 あの人……唯先輩にもしかしたら会えるかもしれないから



80 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:05:07.20 ID:JLg6k+zEo


梓「もしもし純?」

純『どうしたの梓』

梓「ちょっと報告しておきたい話があるんだ。
  実はね、私来年の春から桜ヶ丘に引っ越すことになったんだ」

純『ええっ!本当なのそれ!?』

梓「うん、お父さんの転勤なんだって。
  だから高校はもしかしたら純と一緒のとこに通うかもしれないね」

純『そっかー。あんた、かなり嬉しそうだよね』

梓「えへへ、まあねー」

純『一番嬉しい理由は、愛しの唯先輩とやっと会えるからなんだもんね?』

梓「なっ、何いってんのよっ!!」

純『全く、少しは素直になりなって。隠しても顔に出てるよ?』

梓「電話越しでそんなの分かる訳ないでしょっ!もうっ、純のバカッ!」

純『やっぱりからかい甲斐がありますなぁ梓は』

純『でも、あんたの言ってたその唯先輩、
  なんか私の友達のお姉ちゃんと特徴がすごくかぶってるんだよね……』

梓「うそ!?てことはまさかそんな身近に唯先輩が!?」



81 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:06:26.15 ID:JLg6k+zEo

純『あー、でも違うと思うよ。その人じゃない気がする。その人はそんなこと出来ないだろうし』

梓「なーんだ、残念だなぁ」

純『まあいいじゃん。どうせこの報告、唯先輩にもするんでしょ?』

梓「うん」

純『じゃあそん時に訊いてみればいいじゃん』

梓「そうだね」



82 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:15:41.92 ID:JLg6k+zEo

――その夜

唯『そっかー。学校のみんなとうまくやれるようになったんだね』

梓『はい、それもこれも唯先輩のお陰ですよ』

唯『私は何にもしてないよー。全部あずにゃんが自分でやったことなんだから』

梓『そんなことないです。私1人じゃどうする事も出来ませんでしたよ』

梓『きっと先輩は魔法が使えるんだと思います』

唯『魔法?』

梓『どんな時にも人を勇気付けて悩みも辛さも全部打ち消してくれる魔法です』

唯『もうあずにゃんったらー、人をおだてても何にも出ないよ?』

梓『ふふっ、ああそうだ、話は変わりますけど今日は先輩に報告があるんです』

唯『報告?どんなのなのかなー』

梓『私、来年から桜ヶ丘に行くことになったんです』

唯『ふーん、桜ヶ丘ねぇ……って、ええええええっ!!』

梓『ちょっ……声が大きいですって』

唯『だって桜ヶ丘だよ!?私のいる街だよ!?驚かずにはいられないよ!!』

梓『それで、高校は桜ヶ丘高校に進学しようって、そう決めたんです』

唯『本当に?本当に桜高にきてくれるのあずにゃん!?』

梓『はい。私、唯先輩のいる軽音部でバンドがしてみたいんです。
  あの学園祭のCDを聴いてみて思ったんです。みなさんすごく楽しそうに演奏してるなーって。
  だから私も一緒にあのステージに立ってみたいなって』

唯『これは大ニュースだよっ!早くりっちゃん達にも教えないと!』

梓『頼みますからあんまり大事にしないでくださいよ?』

梓『それにまずは受験に合格しなきゃいけませんからね』



83 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:16:33.77 ID:JLg6k+zEo

唯『あずにゃんなら出来るって!あずにゃん私よりしっかりした子なんだもん』

梓『ふふっ、頑張りますね。あと、また話変わりますけど先輩に尋ねたいことがあるんです』

唯『ほえ?尋ねたいこと?』

梓『先輩、前に妹さんがいるって教えてくれましたよね』

唯『うん、憂のことだね。憂がどうかしたの?』

梓『その妹さん……憂さんの友達に純って子いませんでした?』

唯『うーん、聞いたっけかなぁ……純ちゃんかぁ。
  もしかしてその子、前にあずにゃんの幼馴染って教えてくれた子?』

梓『はい、もしかしたら唯先輩も知ってるんじゃないかなーって』

唯『ちょっと思い出せないなぁー。
  でももしそうだったら私達意外と近い距離にいるって話になるよね』

梓『ええ、だから確かめたかったんです』

唯『それじゃあさ、今度憂に訊いてみるよ』

梓『はい、よろしく頼みますねっ!それじゃ今日はこの辺で』

唯『うん、おやすみあずにゃん』

梓『はい、おやすみなさい唯先輩』



84 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:21:38.62 ID:JLg6k+zEo

――翌日・桜高音楽室

唯【みんなおまたせー】

律「おっ、なんだ唯、今日はやけに上機嫌じゃないか?」

紬「何かいいことでもあったの?」

唯【へっへー。今日はみんなにビッグニュースを持ってきました!】

澪「なんだ。妙に勿体ぶってるな」

唯【何と!何とですねー。
  あずにゃんがお父さんの都合でこの街に引っ越してくることになったのです!】

紬「本当に!?良かったじゃない唯ちゃん」

澪「これでやっとその子と直接顔合わせが出来るかもしれないな」

唯【それでね、あずにゃん来年の春からこの学校に通って軽音部に入部したいって言ってくれたんだー】

律「おおっ!それは大手柄だぞ唯!ついに我が軽音部にも5人目の新入部員がっ!」

澪「まあ落ち着けよ律、まだ受験があるだろ。それにまだ12月だ」

唯【あずにゃんなら大丈夫だよ。もう受験勉強しててすっごく真面目な子なんだから】

澪「いや……この時期受験勉強してるのは受験生なら当然なんだけど……」

律「でもさ、もし本当に来てくれるなら歓迎パーティしてあげないとな!」

唯【いいねぇ、やろうよやろうよ!】

唯(あずにゃんと演奏したりティータイム……今からワクワクするよぉー)



85 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:22:33.90 ID:JLg6k+zEo

 桜高に入るために私は受験勉強への取り組みにますます熱をいれた。
 そうしてる内に年は変わり、願書の提出も済んで、受験の日取りも決まった。
 そして2月に入ったある日のこと――



86 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:23:56.19 ID:JLg6k+zEo

唯『いよいよ今週受験だね。金曜日だっけ?』

梓『はい。なんだか緊張してきました』

唯『何時からだっけ?受験』

梓『ええと……10時からですね。駅から遠いですか?』

唯『そんなに遠くはないけど、慣れないと迷うかもしれないね。あっ、そうだ!』

梓『どうかしましたか?』

唯『1つ提案があるんだけどね』

梓『提案?』

唯『もしよかったら私と途中で会えないかなーって』

梓『ええっ!』

唯『あずにゃん桜ヶ丘に来るの初めてで道も分からないでしょ?
  迷ったりなんかしたら大変だし、私が案内しようかなーって。学校も試験で休みだし』



87 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:24:35.19 ID:JLg6k+zEo

梓『で、でもそれって……』

唯『うん、だから今度こそあずにゃんに会えないかなって……会ってもらえるかな?』

梓『……』

唯『おーい、あずにゃーん。聞いてるー?』

梓『あっ!は、はい!』

唯『どうかな?会ってもらえないかな?会いたいんだあずにゃんに』

 とうとうこの時が来た、私はそう直感した。
 「会いたいと思った時が会う時」という純の言葉を思い出す、そう、まさにこれが「その時」なんだ。
 もう断る理由なんてない、会えばいいんだ、唯先輩に。

梓『……はい、会います。私、唯先輩に会います!』



88 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:25:51.55 ID:JLg6k+zEo

――受験当日

 この日の朝、出発前に純に電話をかけることにした。
 純も同じ高校を受験するし、現地で待ち合わせすることになってるから
 最終確認だけはちゃんとしておこうって思ったから。
 
純『そっか、もうそっちを出るんだ。やっぱ遠いと大変だねぇ』

梓「まあしょうがないよ。それより待ち合わせ場所分かってる?」

純『任せなさいって!校門前でしょ?私が忘れるなんてありえないっしょ』

梓「いまいち信用できないんだもん」

純『何をー!私は約束は守る女なんだからね、これでも!』

梓「ふふっ、分かった分かった」

純『それで、何時の電車に乗るの?』

梓「6時50分の新幹線かな……ああ、そうだ純」

純『どうかしたの?』

梓「私ね、唯先輩と今日会うことにしたんだ」

純『マジで!本当に!?』

梓「うん……私ね、あの人に会いたくて会いたくてさ、今その気持ちで一杯なんだよ」

梓「純が相談に乗ってくれたお陰で会う勇気が出来たからさ、ありがとね純」

純『くっそー!いいな梓は……羨ましいっ!』

梓「えへへ♪」



89 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:26:39.83 ID:JLg6k+zEo

純『それで、いつ会うの?』

梓「駅の近くまで迎えに来てくれるんだって」

純『なるほどね……まっ、今のあんたならもう心配ないっしょ。お幸せにねー』

梓「お幸せにって……私達別に結婚するわけじゃ……っ」

梓母「梓ー、そろそろ時間よ。早くしないと電車乗り遅れるわよー」

梓「あっ!もうこんな時間、ごめん純、私そろそろ行くね」

純『うん、じゃあまた後で』



90 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:30:23.44 ID:JLg6k+zEo

――新幹線車内

梓『もしもし?』

唯『おっ!あずにゃーん、おはよぉー』

梓『おはようございます先輩。今新幹線に乗ってそちらに向かってます』

唯『どれ位でこっちに着くの?』

梓『予定では8時丁度に着く予定になってますね』

唯『試験10時からでしょ?随分早くない?』

梓『少し余裕を持って出ておこうかなって』

唯『えーっ、私ならもう少し寝てるのになぁ』

梓『時間ギリギリはよくありませんよ。まして大事な試験の日ですし、唯先輩にも会うんですから』

唯『そんなものなのかなぁ……ま、いいや。
  それじゃ私は約束通り8時10分に駅の北口のパルコの前で待ってるね』

唯『で、そっちの時間だと……あー何か緊張してきたよぉ』

梓『私もなんですけどね』



91 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:31:47.79 ID:JLg6k+zEo

車内放送「現在三島~新富士間にて大雪の為徐行運転を行っております。
     お急ぎの方にはご迷惑をおかけしますが――」

梓『あー、すいません、もしかしたら時間に間に合わないかも』

唯『ほえ?どして?』

梓『大雪で電車が遅れそうなんです。本当にすいません……あんなこと言ったそばから』

唯『いいよー、それじゃ待ち合わせ場所かえよっか。
  南口出てすぐのとこにコンビニの7-11があるからさ、そこなら近いしそこにしようか』

梓『わかりました』

唯『でー、あずにゃんはさ……』

梓『どうかしたんですか?』

唯『ああいや、あずにゃんは今日どんな服装でくるのかなーって』

梓『ぶっ、別に普通の学生服ですって』

唯『教えてくれないの?』

梓『わざわざ言う程のことじゃないですから』

唯『そっかなぁー』



92 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:32:48.65 ID:JLg6k+zEo

梓『あの、今の内に唯先輩と1つだけ約束して貰いたいことがあるんです』

唯『どんな約束なの?』

梓『会ってみて全然思ったのと違っても、私を嫌いになったりしないって』

唯『あずにゃんも変なこと言うよね。嫌いになるわけなんてないよ?それに、それはこっちの台詞』

梓『え?』

唯『実は黙ってたけどね……今まで何度も言おうとしたけど、
  でも今日あずにゃんに会ったらちゃんと説明しなくちゃいけないなって思ってさ……』



93 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:33:31.78 ID:JLg6k+zEo

 と、ここで私を呼ぶ声が通路の方からした。
 見ると私と同じ髪型で背丈も同じくらいな学校の制服を着た女の子がいた。
 違うところを見ると、私の制服は紺で、その人の制服は白ということぐらいか。



94 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:34:23.51 ID:JLg6k+zEo

女の子「すいません、隣いいですか?」

梓「いいですよ、はい、どうぞ」

 女の子は会釈をすると荷物を上の荷物置き場に置いて、私の隣に座った。
 それを確認すると、私はまた唯先輩との通話を再開する。

唯『何かあったの?』

梓『すいません。隣の席に他の人が来てたので……』

 ここで腕時計を見てみると、どうみても約束に間に合わない時間になっていた。
 
梓『うーん、やっぱり間に合いそうにないですね』

唯『雪じゃしょうがないよ。
  むしろ私としては駅から出てくるあずにゃんを見つけるのがすっごく楽しみなんだよぉ』



95 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:35:37.94 ID:JLg6k+zEo

――結局、駅に着いたのは8時20分、やっぱり遅れてしまっていた。
 電車が停車するのを確認して、私は隣に座っていた女の子の後に続くようにホームへと出た。

梓『今着きました。8時20分、10分遅刻ですね』

唯『8時20分ね、おっけー。今こっちだと7時20分だよ。
  それじゃそろそろ私も家を出てそっちに向かうね。ああ、それとあずにゃん』

梓『はい?』

唯『この電話、もう必要ないよね?』

梓『え?』

唯『私達もう会えるんだよ?だからずれた時間も距離も1つになるんだからさ。
  1時間先の私によろしくね?あずにゃん』

梓『はい、分かりました』



99 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:27:47.56 ID:DxpWShSbo

通話を終えた私は改札を出て駅から外に出る。
 この街では雪こそ降っていなかったけど、それでも身体に突き刺さるような寒さで思わず身体が震える。
 これなら大雪で電車は遅れるのも頷けるかも。

 そういえば純と憂さんのこと、先輩に訊くの忘れてたっけ……
 ま、いいか、どうせ遅かれ早かれ分かるんだし。

 私は駅舎から外に出てしばらく歩き、赤信号につきあたる。
 すぐ目の前の横断歩道のすぐ向こうには待ち合わせ場所のコンビニがある。
 ここで私は信号待ちの間に受験票を忘れてないか確かめる為、
 後ろ手に持ってたバッグを前に出し確認する。
 
梓(よし、受験票もちゃんとあるし、準備OKだね!あとは先輩と合流するだけ、か)



100 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:28:22.18 ID:DxpWShSbo

 はやる気持ちを抑えながら信号が青に切り替わるのを待って、白いゼブラゾーンに足を踏み出す。
 もう少しで横断歩道を渡りきる所で遅刻しているのを焦っていた私は
 無意識に腕にはめていた腕時計でもう一度時間を確認する。
 今の時間は8時30分……20分遅刻になっちゃったな……



101 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:29:14.71 ID:DxpWShSbo

 時計の針を見たのと同時に私の耳に悲鳴のような轟音が聞こえてきた。
 音のあった方向を振り返ると、そこには目の前に迫った車のバンパーがあった。
 音の正体は悲鳴なんかじゃなくって車のブレーキのスキール音だったんだ。
 かなりの猛スピードで迫っているその車をかわす時間はもう残ってなんかいない……
 初めて襲い掛かる身の危険のせいか、私にはそれがまるでスローモーションのように映った。

 不意に、誰かに横から突き飛ばされ歩道へと倒され、粉々になったフロントガラスの破片が降り注ぐ。
 背後で車が大破した音が聞こえる。
 何が起こったのか理解できない……私は混乱して事態が飲み込めない状態だ。

一般人「君、大丈夫か?」

 突き飛ばされた衝撃の痛みを我慢して起き上がる私に、通行人の人が声をかけてきた。



102 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:30:01.64 ID:DxpWShSbo

梓「あ、あの……一体何が……」

一般人「君を突き飛ばしてあの子が代わりに……」

 通行人が指さした方向を見ると、学校のブレザーを着た女の人が仰向けで倒れていて、
 血だまりが路面に広がっているのが見えた。
 青いタイをして、セミロングの茶髪で前髪をヘアピンで留めたその人は、私を見つめている。
 私はおぼつかない足取りでその人の元へと向かう。
 その顔を見ていて、ある人の名前が頭の隅によぎった。

梓「唯……先輩……?」

 恐る恐るその名前を口にすると、その人は私を見ながらにっこりと微笑んだ。

梓「うそ……まさか本当に唯先輩!?」

 まさかとは思ってたけど、嫌な予感が的中しちゃった私。
 しゃがみこんで唯先輩の左手を握る。

梓「先輩!先輩っ!どうしてこんなことをっ!!」

 涙声で呼びかける私の問いに、声を出すのも辛いからなのかは分からないけど無言だった。
 ただ、唯先輩はその代わりに右手の人差し指を震えながら私に向け、
 何かジェスチャーのような仕草をしている。
 その一連の動作を終えた唯先輩は、まるで安心したかのような表情を浮かべゆっくりと目を閉じた。

梓「唯先輩……嘘ですよね?先輩!ねぇ!そんな……そんな……」

梓「いやああああっ!!!」



103 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:30:33.62 ID:DxpWShSbo

――病院

 あれからすぐに救急車が駆けつけ、唯先輩は病院へ担ぎ込まれ私もそれに付き添った。
 途中救急隊員の人が事故の概要とか先輩との関係なんかを色々聞いてきたけど、
 憔悴しきってた私はそれに答える事もなく、ただ俯いて声を出さず泣いているだけだった。
 ちなみに私の怪我は擦り傷とちょっとした打撲だけで何も問題はないそうだ。
 だけど、その代わりに唯先輩が……。

 結局、病院に到着したのとほぼ同時に唯先輩は息を引き取った。
 私はただ病院のベッドの上に横たえられてる唯先輩の傍で立ち尽くしている事しか出来なかった。
 
梓「先輩……どうして……折角会えたのに、こんなのって……こんなのってないですよ……」

梓「うぅっ……ぐすっ……」

 やっと会えることになって、ようやく会えるその日が
 まさか唯先輩の命日になってしまっただなんて、私には到底受け入れられない。
 大切な人が目の前でいなくなったせいで、私の心は絶望感で満たされていた。
 
 だがここでふと壁にかけられてる時計に目が行く。
 ここで私はあることに気付いた。

梓「今9時22分……てことは電話の先の唯先輩の時間はまだ8時22分……」

梓「私が事故に会うまで、まだあと8分残ってる!今なら……今ならまだ間に合う!!



104 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:32:06.89 ID:DxpWShSbo

 居ても立ってもいられず、すぐに頭の中の電話回線を開く。
 もうなりふりなんて構っていられない、少しでも可能性が残っているならそれに賭けるしかない!

梓(お願い!電話に出て……唯先輩……出て)

 呼び出し音が続き中々電話が繋がらない。
 藁にもすがる思いでひたすらコールを続ける。
 
唯『もしもしあずにゃん?』

梓『先輩っ!』

 電話の向こうの唯先輩は、もうすぐ自分が死んでしまうのも知らずに、
 いつものように抜けたような声で電話に出た。
 その声を聞いて少しほっとする私。

唯『どうして電話を?もう1時間後の私には会えたんだよね?』

梓『それは……』

唯『あーっ!そうかぁ、もしかして苦情の電話?想像してた人と違いました!とかだったりしてー』

 笑いながらそうジョークを飛ばしてくる先輩。
 今私の目の前で冷たくなって眠っている先輩とは全く真逆だ。
 その顔を見ながら私はある覚悟を決める……こうする以外にあの人を助ける手段がない。



105 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:33:11.78 ID:DxpWShSbo

梓『そうですよ……会わなきゃよかった。あなたになんて……』

 電話の向こうの唯先輩の声が止まった。
 そりゃあそうだろう、誰だってこんなこと言われればこうなるもの。
 でも止めるわけにはいかない。
 心の中で唯先輩への謝罪の言葉を何度も繰り返しながら感情を殺してさらに続ける。

梓『……だから、このまま帰ってください!お願いします!』

唯『理由はやっぱり私が……?』

梓『すいません……とにかくお願いします、会いたくないんです!』

唯『どうして?いきなりそんなこと言われてもさ……もうすぐ着いちゃうし』

梓『これだけ言ってもまだ分からないんですか!?
  平沢先輩なんて大嫌い!!その顔も!髪も!指も――』

梓『――あなたの声も!』

 涙声になりそうなのを誤魔化しながら
 とにかく思いついたままの暴言をひたすら並べ、つき慣れてない嘘を吐き続ける私。
 もう嫌われてもいい、そうする事で唯先輩が死なずに済むんならこんなの安いもんだもの。
 だけど……唯先輩の反応は私の想定を裏切るものだった。



106 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:34:29.51 ID:DxpWShSbo

唯『声!?嘘だよ!あずにゃんは嘘をついてるよ!あずにゃんに私の声が聞こえる筈ないもん!』

梓『嘘なんかついてません!!最低でした……幻滅しました!こんな筈じゃなかった!!』

唯『嘘だよ!だって私は……私は……話せないんだから!』

梓『……え?』

 余りの衝撃発言に私の頭の中は真っ白になる。
 いきなりすぎて理解できない……唯先輩が喋れない!?どういうこと!?

唯『私は5歳の頃から耳が聞こえないんだ。話すことも出来なくてね。
  だから、あずにゃんが私の声を聞けるはずがないんだよ』

梓『そんな……』

 不用意な発言であっさりと嘘を見抜かれ、その場にへたりこむ。
 やっぱりつき慣れてない嘘なんてつくもんじゃないんだ。見ての通りすぐボロが出るし。



107 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:35:42.54 ID:DxpWShSbo

唯『あずにゃん、どうして嘘なんかついたの?ワケを聞かせて?』

梓『それは……それは……っ!ぐすっ……ひっく……うぅ』

唯『あずにゃん、何があったの?どうして私を帰らせようとするの?』

梓『お願いします!とにかくすぐに帰ってください!』

唯『あずにゃんが私と会って何が起きたのかは知らないけど……
  でも……でも必ずあずにゃんに会いに行くから!』

 電話の向こうの唯先輩の発音が変わった。
 多分走り出してその状態で会話してるからかも。
 止めなきゃ……何とかしなきゃ……もう時間がない!

梓『どうして分からないんですかっ!!来たら……死ぬんですよ!?』

唯『え――』

 真相を聞かされた唯先輩が唖然とした声で呟く。
 いきなり死亡宣告をされれば誰だって同じ反応をするだろう。
 全力疾走状態だった先輩の足は今は完全に止まっているようだった。
 このまま怖くなって逃げてほしいと心の中で願う。



108 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:37:00.41 ID:DxpWShSbo

唯『死ぬ?私が?――もうっ!冗談にしちゃ悪ふざけがすぎるよ?』

梓『冗談なんか言ってません!先輩は私と会うと死ぬんです。
  私を助けて……だからお願い!このまま帰ってください!』

唯『だめだよ。あずにゃんが言ってることが正しければ、私が行かないとあずにゃんが……』

 それは私も十分分かっている。
 唯先輩があの場にいなかったら今頃死んでいるのは私の方だ。
 でも私はそれでいい。
 唯先輩がただ生きていてくれるだけで私にとっては何よりの幸せなんだから。

梓『私ならきっと助かります。だから――』

唯『私は行くよ!』

 私の懇願を遮るように唯先輩の言葉が割り込んでくる。
 どうやらまた走り出したみたいだ。
 逃げ出して欲しいという私のささやかな希望は断たれてしまった。



109 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:38:37.16 ID:DxpWShSbo

梓『ダメです!来ないで!来ないでってば……うぅっ……ぐすっ……ずずっ……』

唯『泣かないであずにゃん、私なら大丈夫だから……
  大好きなあずにゃんを残して死んだりなんか絶対しないから』

梓『……』

唯『ねえ、前に私にギター教えてくれた時のこと覚えてる?あずにゃんは鼻歌を歌ってくれたよね』

唯『10年ぶりだった。
  音楽の音色ってどんな物なのか忘れかけてた私の記憶をあずにゃんは蘇らせてくれたんだよ?』

唯『あずにゃんと初めて電話が繋がった時も驚いたな。
  誰かと手話や筆談なんかじゃなくって声で直接お話したいな……
  そう思ってたらあずにゃんの声が聞こえてきて……すっごく楽しかった』

唯『自分の気持ちを相手に伝えられる。そして聞いてくれる人がいる。
  それがこんなにも素晴らしいことなんだなーって……』

唯『だから……だからもう2度とあんなこと言わないで!!』

梓『え……?あんなこと……って?』

唯『自分のこと、居なくなっちゃえばいいなんて……
  そんな……そんな悲しいこと言っちゃダメだよ!!』

梓『分かりました!もうそんなこと言いませんから!だから本当にやめて……お願いだから……』

唯『うん、分かった。でもね、私は行くよ?必ずあずにゃんを助けるから。
  何度だって同じ選択をするよ!1時間先の私がしたように!』

唯『今コンビニの前に着いたよ!あずにゃん!あずにゃんはどこなの!?』

梓(このままじゃ唯先輩が……どうしよう……あっ、そうだ!)



110 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:39:25.10 ID:DxpWShSbo

 唯先輩は私の顔を見た事ないし服装もただ制服と言っただけでどんな格好なのか知らない。
 ここでさっき電車の中で隣に座っていたツインテールの制服姿の女の子がいたことを思い出した。
 私はここで最後の嘘をついた。

梓『白い制服!白い制服でツインテールの女の子が私です』

唯『白い制服ね、分かった。大丈夫、大船に乗ったつもりで見てなさい!』

 これで白い制服の子が私だと唯先輩が思い込んでくれるならそれで大成功だ。
 祈るような気持ちで私は目の前の唯先輩の亡骸の冷たくなった手を両手で強く握る。
 そうだ、あっちの時間で私が轢かれたら、今ここにいる私はどうなるんだろ。
 このまま消滅しちゃうのかな、どうなのか分からないけど、1つだけはっきりと分かることがある。
 それが今度こそ本当の、唯先輩とのお別れになるということだ。

唯『あっ!横断歩道の向こうに白い制服の子が見えた!ちゃんとツインテールだし、あずにゃんみっけたよ!』

唯『それじゃ、1時間後にまた会おうね、今度こそ』

梓『はい、また1時間後にきっと……』

梓(最後の最後まで騙すようなことしてすいませんでした……先輩)

梓(でも、こうするしかないんです……今までありがとうございました唯先輩。
  本当は直接言いたかったですけど……大好きです……どうかお元気で、さようなら――)

 私は心の中で唯先輩に最後の感謝の気持ちと別れを告げる。
 と同時にこの半年間の唯先輩との思い出が走馬灯のように駆け巡った。



111 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:40:12.13 ID:DxpWShSbo

 初めて電話が繋がって保健室で会話した時、
 電話を切ろうとした私をあなたは慌てて止めて半ば強引に話を進めましたよね……
 でもあれがなかったら、今の私は無かったんじゃないかなって、今になってそう考えるんです。

 その夜、公園でお話した時のこと覚えてますか?
 私にあずにゃんなんて変な名前を付けてきて正直呆れましたよ。
 でも初めてあの人を「唯先輩」と呼んだんですよね、私。

 テストの答えを教えてって泣きついてきた事もありましたね。
 結局成り行きでズルに加担しちゃったんですけど、放っておけないいんです……
 カンニングよりずるいですよ、あなたのその声――

 時間差で流れ星にお願いしたあの日の夜、覚えてますか?
 ……きっと私達、同じ願いをしてたんだろうな、今になってそう思えるんです。
 そう、「会えたらいいな」って――

 落ち込んでる私を励まそうと遊びに誘ってくれたこともありましたね。
 鎌倉で電話越しだけど一緒に遊んで、海岸で見た夕日、私はずっと忘れません。
 
 河原で音も合わせられないのに暗くなるまでギターを練習もしましたね。
 とても嬉しそうにしてくれて、お陰で私は音楽の楽しさを再認識することが出来ました。
 なんだか全てが昨日の事のようですね……

 もうすぐ死ぬかもしれませんけど不思議と怖さはないです。
 目を閉じてじっとその時を待つ私。

 
 ――しかし



112 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:40:55.59 ID:DxpWShSbo

唯『――違う』

梓『え!?』

唯『あれはあずにゃんじゃない!』

 唯先輩が何を言っているのか理解出来なかった。
 違うって……もしかして私の嘘がバレたっていうの!?
 次の瞬間、目には見えない筈なのに
 唯先輩がまた走り出す姿が鮮明に映ったような、そんな気がした。

唯『白い制服の子、目の前で携帯を取り出したんだ。
  本物のあずにゃんだったら携帯持ってない筈だからこの子は違う、あずにゃんじゃない』

 この時程携帯を持っていなかったのを心底後悔したことはない。
 でも、これだけの人がいる中で私を探し出すのは難しい筈だ。
 朝なんだし制服姿の女の子なんていっぱいいるんだから。
 唯先輩が私を発見するのは、私が車に轢かれて大騒ぎになった時……そう思った、が。

唯『車が来てる……すっごいスピードで』



113 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:41:29.04 ID:DxpWShSbo

 1時間前の私に避けられないスピードで車が突っ込む。
 もうどうすることもできない。
 でも直前になってあの人が私を横から突き飛ばす。
 聞こえないはずなのに、またあの車が大破して金属が歪む音と
 フロントガラスが飛散する音が聞こえたような、そんな感覚に襲われる。
 
梓『唯先輩っ!!』

 私は助けてくれた恩人の名前を叫ぶ。
 今回だけじゃない、去年初めて会った時からずっと、
 この人には助けられっぱなしだったのを改めて知った。
 時計を見ると、針は丁度私が事故を起こした1時間後を示していた。



114 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:42:17.81 ID:DxpWShSbo

梓『先輩っ!唯先輩!!返事してくださいっ!!』

唯『えへへ……聞こえてるよあずにゃん……』

梓『先輩……どうして……どうして私だって分かったんですか』

唯『私見ちゃったんだ……横断歩道で赤い腕時計見ながら歩いてる子を……
  確かあずにゃん前にそう言ってたからさ』

梓『そ、そんな……』

唯『あ……あずにゃん今立ち上がって私の方を見てる……
  強く押しちゃったけど……怪我……なかった?』

梓『平気です。それより私なんかより唯先輩の方が……っ』

唯『そっか……良かった……あずにゃんに……何も……なくて……』

梓『せんぱぁい……嫌だ……嫌だよ……死んじゃ嫌だ……』

唯『へへ、ありがと……そう言ってもらえて……嬉しいよ……
  ああ、あずにゃんてこんな……顔をしてたんだ……ね……
  とっても……可愛いな、一度抱きついて……みたかった……よ……』

梓『いくらでも抱きついてくれて構いません!だから……だから……っ!』

唯『だから……さ……もっと自分に……自信を持ちな……よ、ね?』

唯『あ、名前だ……私の名前を呼んでる……唯先輩って……
  よかった、ちゃんと聞こえた……きっと、きっといい声で』

梓『ううっ……どうして!?どうしてこんなにしてまで私を助けようと……』

唯『何言ってるの……助けてくれたのはさ……あずにゃんの方……なんだよ。
  ありがとね……あずにゃん、大好きだよ』

梓『唯先輩っ!』

唯『ねえ……あずにゃん……私はさ……あずにゃんと会えたお陰で……私達は……もう……』

 何かを言おうとしてたけど、最後迄伝えきる事なく力尽きたかのように唯先輩の声はここで途絶えた。

 つーつーつー……

 そして電話は途切れ空しい音だけが鳴り響く。
 
梓『先輩……唯先輩……うわああぁぁあっ!!』



115 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:44:53.54 ID:DxpWShSbo

――その後

 頭の中の電話がもう誰にも繋がらなくなってから1ヶ月半が過ぎた。
 事故を起こした車の運転手は飲酒運転をしていて即死だったそうだ。
 そして私に待っていたのは警察の事情徴収や親への説明等での慌しい日々だった。
 高校入試の方は学校側が事故の件を考慮してくれて後日再試験という形で受けさせてもらうことができた。
 もっとも、自分達の学校の生徒がその事故の被害者で亡くなっているというのもあって、大変だったらしい。

 そして私は入学試験に合格を果たし、この春から桜高の制服を着ることになった。
 でも……この晴れ姿を一番最初に見せてあげたかったあの人はもういない。
 
 引越しも済ませ入学式まであと数日と迫ったある日、私はある場所を訪れた。

――――――

――――

――

 こんこん

憂「いらっしゃい梓ちゃん。さ、あがってあがって」

梓「はい……お邪魔します……」

 そう、私はこの日平沢家に来ていた。
 玄関に現れたのは唯先輩の妹の憂さんだ。
 もっとも、私達2人はこれが初対面じゃない。
 あの事故の日、病院で会ったのが初対面だった。
 私の事故が原因で実の姉を亡くして辛い筈なのに、それでも笑顔で私に応対してくれている。



116 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:45:26.76 ID:DxpWShSbo

 平沢家の玄関をまたいだ私は仏間へ通された。
 そこには真新しい仏壇が置かれていて、私は線香をあげて手を合わせる。

憂「神様ってせっかち過ぎだよね。こんなに早くお姉ちゃんを連れて行っちゃうなんて」

梓「憂さん、あの――」

憂「さん付けはやめて?敬語で話さなくてもいいよ。私達同い年なんだし」

梓「あ、うん……」

憂「そうだ、お姉ちゃんのお部屋まだ見たことなかったよね?よかったら見ていってくれないかな?」

――――――

――――

――

梓「ここが、唯先輩の……」

憂「うん、あの日からそのままにしてあるんだ」

 そこはよくある普通の女の子の部屋だった。
 ここで部屋の隅に置かれているギターが目に入る。

梓「あのギターは……」

憂「ああ、ギー太だね。お姉ちゃんがいつも自分の友達みたいに扱って大事にしてたギターだよ」

憂「それにしても、純ちゃんがよく話してくれてたお友達が
  梓ちゃんの事だったなんてね……私ちょっとびっくりしちゃった」

梓「うん、私も純からよく話は聞いてて、
  もしかしたらその子が唯先輩の妹じゃないのかなって推測してたけど、まさか本当だったなんて」



117 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:46:06.22 ID:DxpWShSbo

憂「やっぱりね。あの事故の前の晩、お姉ちゃん私に訊いてきたんだ。
  「憂のお友達に純ちゃんって子いる?」って」

梓「私と唯先輩の電話のことは知ってたの?」

憂「知ってたよ。前にお姉ちゃんが話してくれたから。大好きな子が出来たんだって嬉しそうにね」

梓「唯先輩が……私のことをそんな風に……」

憂「ねえ梓ちゃん」

梓「ん?」

憂「この部屋さ、不思議だよね。
  ここにいるとお姉ちゃんに見守られてるっていうのかな、そんな安心した気分になれるんだ」

梓「私も今迄唯先輩と頭の中の電話で繋がっていた時そう感じたな……
  いつも傍にいてくれてるような雰囲気がして、それだけですごく心が安らぐんだよね」

憂「ただ近くにいてくれるだけでとても幸せな気分になっちゃう……やっぱりすごいよ、私のお姉ちゃんは」

梓「きっと唯先輩は魔法が使えるんだよ」

憂「魔法?」

梓「どんな人にも元気や勇気を分けてくれて明るくしてくれる魔法かな」

憂「そうだね、魔法かー。確かにあるのかもね。でもね、梓ちゃんも魔法を持ってるんだよ?」

梓「え?私が?」

 ここで憂は部屋の机の引き出しの中から1本のテープを持ち出してきて私に見せる。
 それは前に鎌倉の海岸で私が自分の声を録音して唯先輩に贈ったテープだ。



118 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:46:51.17 ID:DxpWShSbo

憂「このテープ、お姉ちゃんは何度も聞いてたんだ」

梓「でも、唯先輩は耳が……」

憂「聞こえないけど何度も何度も。実はお姉ちゃんね、このテープを聴いてってせがんでたんだよ。
  何を言ってるのかどんな声なのか教えてって言って」

梓「それじゃこのテープ、憂が?」

憂「うん、私が可愛い声だよって言ったらとっても嬉しそうにしてたのはっきり覚えてるな。
  特に最後の部分なんて何度も聞いててね……」

梓「最後?私、何て言ったんだっけ……」

憂「あなたに会いたいですって何度も何度も。
  あんな嬉しそうな笑顔、本当に久しぶりで私まで嬉しくなっちゃったよ」

憂「お姉ちゃんね、5歳で耳と口が不自由になってからしばらく塞ぎ込んでてね……
  自分と同じ目線に立ってくれて受け入れてくれる和さんや
  軽音部の皆さんと出会ってようやく自分と向き合えるようになったんだ」

憂「でも……一番大きかったのは唯一直接自分の声でお話が出来て、
  声を聞くことが出来る梓ちゃんの存在だったんじゃないかな。
  お姉ちゃん、よく梓ちゃんの事話してくれててその度にすごく幸せそうな顔してたから」

憂「ここまでお姉ちゃんがずっと楽しそうにいられたのも梓ちゃんの魔法のお陰かもね。
  本当は自分の方が辛いのに、それでも相手の人のことばかり考えちゃって……こうやって――」

 ここで憂は右手の人差し指を私に向けて、自分に向ける手話を始める。
 この一連の動作を見てハッとなった。
 この手話はあの日、唯先輩が亡くなる直前にしたものと同じだからだ。

梓「憂!それってどういう意味なの!?」

憂「これ?これはね……」

憂「――きみは、1人じゃない」

梓「きみは1人じゃない……か」



119 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:48:15.25 ID:DxpWShSbo


 あれから桜高に入学をした私の周りでは色々なことがあった。
 純と憂も一緒に入学しクラスメートになって今じゃ3人共親友と呼べる仲だ。
 
 今になって思うことがある。
 純は私の電話の相手は唯先輩本人なのを薄々感ずいてたんじゃなかったのかな、って。
 最初にお互いの存在を確かめた時、
 家の電話番号を聞きだしてかけるだけで解決できたんじゃないのかなって……
 単純で確実な手段だけどあの時はそれが考え付かなかった。
 あえてそれを教えず回りくどい方法を薦めたのは、
 純は唯先輩が喋れないのを知っていたからなんじゃないだろうか。
 
 でも今となってはわざわざ聞き出す気もしないし、する意味もない。
 
 その後私は軽音部に入部し、そこで律先輩、澪先輩、ムギ先輩と出会った。
 入学と同時に本物の携帯電話も買った。
 軽音部ののんびりムードには最初こそびっくりしたものの、今じゃなんだかんだで溶け込んでしまっている。



120 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:49:37.72 ID:DxpWShSbo

――それから半年が過ぎた秋

 この日は学園祭。
 私達軽音部は講堂の舞台袖に来て本番を今か今かと待っている最中だ。

紬「梓ちゃん、本当にいいの?いきなりボーカルだなんて」

律「だよな、お前歌あんまり得意じゃないって前いってたもんな」

梓「いいんです。私どうしてもこのステージでボーカルを1度やってみたいんです。
  その為に特訓だってしました」

澪「さわ子先生のとこに通ってたのはその為だったんだな……」

梓「そうですよ」

澪「もしかしてさ、私に気を使ってるとかじゃないよな?」

梓「違いますよ。ただ……私にはまだこのステージで確かめたいことがある、それだけなんです」

紬「確かめたいこと?それって唯ちゃんの……」

梓「はい、私一度唯先輩と同じステージに立ってみたいんです。
  あの人がここで何をしてきたのか、何を見てたのか知りたいんです。
  そうする事であの人がより身近に感じられるような……そんな気がするんです」

律「分かった。それならお前は思いっきりやれ。
  後は私等がフォローするからさ。みんなもいいか?それで」

澪「ああ!」

紬「ええ」

 ここで場内放送の音声が流れて意識がそっちに向く。

「次は軽音楽部によるライブ演奏です」

律「よーし!みんな今日は派手にいくぞー!」

澪「梓、頼んだぞ!」

梓「はいです!私、精一杯頑張ります!」

 私達の目の前に垂れ下がっていた緞帳がブザーと共にゆっくりと上がっていく。
 その先には満席になった客席が広がっている。

 唯先輩、私の声聞こえますか?私は今学園祭のステージに立っています。
 あの時先輩がくれたライブCDを聞いて、あなたのギターに感動して、とうとうここまでやってこれました。
 色々ありましたけど、私はちゃんと元気に生きてます。だって――

 ――私はもう、1人じゃないから

梓「こんにちは!放課後ティータイムです!!」

Fin



121 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:51:07.78 ID:DxpWShSbo

スローペースだったけどようやくここで完結です。

一応HAPPY ENDオチも書いてるけれど蛇足臭がするので今のところ考え中です。
「無理矢理でもHAPPY ENDがいい」
「唯トラENDなんて納得いかねー」
て声があるならそこまで長くもないし続きをやろうと思います。

ではここまで読んでくれてありがとうございました!




122 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 17:59:19.39 ID:VEL1FGeDO

乙!!

元ネタもこんな終わりかたなのかな?


[壁]ω・) ハッピーエンドも読んでみたいなぁ



124 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/09/13(火) 18:27:18.69 ID:u9ygF2fF0

1乙!
できればハッピーエンドも読みたいな





125 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 18:48:16.56 ID:DxpWShSbo

唯が死んだままなのもシャクだし原作シカトしてもいいよね
てことでHAPPY ENDルートいきます
とにかくめでたしめでたしを強引に狙いにいくので矛盾あるかもしれないけどご愛嬌



126 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 18:49:30.01 ID:DxpWShSbo

>>102 の続きから
 
~~ Take2 別EDルート

梓「唯先輩!唯先輩っ!しっかりしてくださいっ!!」

 病院へと向かう救急車の中、私は目の前で横たわる唯先輩にひたすら呼びかけていた。
 救急隊の人達が専門用語を飛ばしあいながら慌しく処置を施している中、
 私はただ先輩の手を握って呼びかけ続ける位しか出来なかった。
 時間が経つ毎に心電図に表示された数値が下がっていき、
 救急隊の人達の掛け合いも怒声染みたものになっていく。
 医療に全く詳しくない私でもこの状況がどれだけ危険なのか大体察しがつく。

梓(なんで……なんで先輩があそこに……)

梓(このままじゃ唯先輩が……)

 もう頭の中は真っ白だ。
 救急隊員の一人が私に何か色々尋ねてきているようだったけど
 答えられない……というより耳に入ってこない。
 
――――――

――――

――

 病院に到着し、これから唯先輩を外に運び出そうという時、
 短い周期で鳴っていた心電図の電子音が途切れることのない無機質な音へと変わった。
 
救急隊員「――8時39分……ご臨終です」

梓「……え」

 私は絶句した。
 今目の前で大切な人が死んでしまったんだから。
 思わず泣き出しそうになった時だった、私はある事に気がつき心を落ち着かせようとした。

梓(8時……39分……?)

 救急隊員の人が言った時間、これを聞いて私の頭は閃いた。

梓(確か頭の中の電話、1時間時差があったよね……
  ということは今電話の向こうの唯先輩の時間はまだ7時39分……)

梓(まだ事故が起きてそんなに時間が経ってない!上手くいけば事故を回避することができるかも!)

 居てもたってもいられず、1人取り残された病院の駐車場ですぐに頭の中の電話回線を開く。

prrrr



127 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 18:50:12.80 ID:DxpWShSbo

梓(出て、お願い……唯先輩……早く!)

 prrrr……がちゃっ

唯『あれれ?あずにゃんどったのー?私に会えたんじゃなかったの?』

梓『すいません……どうしても先輩に伝えたいことがあったので』

唯『伝えたいこと?なになにー?』

梓(ここで唯先輩を待ち合わせ場所に来させず帰らせれば先輩は助かる……でもどうやって)

梓(急用が出来た?それともやっぱり元の待ち合わせ場所にしてもらう?いや、なんか不自然だ)

梓(そうだ!先輩を怒らせてわざと嫌われるように仕向ければきっと帰ってくれるはず!)

唯『どうしたのあずにゃん。さっきから黙っちゃっててさ』

唯『あーっ!そうかぁ、もしかして苦情の電話?想像してた人と違いました!とかだったりしてー』

 ここで会ってみてガッカリしたから帰って欲しいって言えば不自然さは残らず帰らせることが出来る!
 そう閃いた私は「そうですよ」と言おうとしたが……

梓(待った!ここでうまく行けば先輩は死なずに済むけど、今度は私が死んじゃうかもしれない……
  先輩は私を助けて巻き込まれるんだから、そうなると私が助かる道がなくなる)

梓(それにあの人は勘がいいから私の言動に異変を感じて
  かえって逆効果になるかもしれない。だったら……どうしよう……)

梓(考えろ!考えるんだ私!唯先輩があの場にいなくて済んで私が事故にあわない方法を……!)

唯『あのーあずにゃん?さっきからどしたの?なんか変だよ』

 いくら考えても答えが出ない、唯先輩を8時30分頃にあの場から遠ざける方法が。
 しばらく考えてみて今度はある発想を思いつく。

梓『すいません唯先輩、1つ聞きたいんですけど』

唯『なになにー?』

梓『今先輩どんな手段でこっちに向かってるんですか?』

唯『ふぇ?なんでそんなの聞くの?』

梓『いいからとにかく答えてください!時間がないんです!』



128 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 18:50:48.95 ID:DxpWShSbo

唯『うっ!い、今は歩きだよー。別にそんなに遠くないし』

梓『歩きですか……なら今すぐそこでバスに乗ってこれますか?』

唯『うーん、この道バス通ってないんだよね』

梓『ならバスでなくてもいいです。タクシー拾って来てください。大至急です!』

唯『えー、タクシーだなんて私今月のお小遣い少ないんだよぉー。
  それにそんなに急がせてどうするの?』

梓『お金なら私が立替ます!ワケも後で話します!とにかく私を信じてください!』

唯『う、うん……分かった』

――――――

――――

――

 それから数分後

唯『あずにゃん、タクシー乗ったよ。もう訳を聞かせてくれてもいいよね?』

梓『そうですね、なら説明しますね。実は――』

 ここで私は全てを話した。
 私が車に轢かれそうになって、それを唯先輩が庇って死んでしまうことを。
 
唯『……冗談だよね?私が死んじゃうだなんてさ』

梓『冗談でこんな話するわけありませんよ。8時30分頃に事故は起きるんです』

梓『最初は唯先輩をあの場から遠ざけようと思ったんですが、
  勘のいい先輩のことだし嘘付いても逆効果になると思ったんです。
  それに事実を言って帰らせようとしても意地でも来ますよね?』

唯『うん、私なら多分そうするな。あずにゃんに何かあったら大変だもん』

梓『だったら逆に事故の起きる時間より早く来てもらって私と合流すれば
  誰も巻き込まれないで済むんじゃないかなって……まぁ推測ですけどね』

唯『なるほどねぇー。さっすがあずにゃん、頭いいねぇ』

梓『でも問題は私があの横断歩道に来る前に先輩が私を見つけ出せるかどうかなんです。
  私が横断歩道に入ってしまったらそこでおしまいですから』

唯『なら特徴教えてよ、あずにゃんのさ。私絶対見つけ出してみせるから!』

梓『分かりました。私は紺の制服で青いバッグを持ってます。ツインテールで背が低いのが私です』

唯『ふむふむ……おっけー!じゃあ駅に着いたらとにかく探してみるよ。ああ、あとね、あずにゃん』

梓『他に何か?』

唯『ありがとね。あずにゃんが私をこんなに心配してくれるなんてさ……私、すっごく嬉しいよ』



129 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 18:52:01.48 ID:DxpWShSbo

梓『い、いえ……ただ私のせいで唯先輩が大変な目に会うなんて嫌なんです。
  だって……先輩は私の人生を変えてくれた大切な人なんですから!』

梓『唯先輩には生きていて欲しいんです!ずっと……ずっと!』

唯『ありがとうあずにゃん。私嬉しいよ、
  あずにゃんが私のことそんな風に見ていてくれたなんてさ。でもね、それは私も同じなんだよ?』

梓『え?』

唯『これから話すこと、驚かずに聞いてくれるかな?』

梓『は、はい……』

唯『今まで言おう言おう思ってて結局言い出せなかったんだけど……私ね……喋れないんだ』

梓『え……それってどういう……』

唯『それだけじゃないんだ。私ね、耳も聞こえないの。どっちも5歳の時から、ね』

梓『そんな……』

唯『隠しててごめんね?でもあずにゃんがこれを知ったら
  もしかして嫌いになっちゃうんじゃないかなって想像して怖かった、だから今まで言えなかったの』

梓『……バカですよ先輩は……』



130 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 18:52:32.12 ID:DxpWShSbo

唯『あずにゃん……?』

梓『そんなんで嫌いになる訳ないじゃないですか!
  例え耳が聞こえなくても喋れなくても……唯先輩は唯先輩です!
  私の中で唯先輩が大好きな気持ちは変わりません!』

唯『そっかー、私の考えすぎだったんだね……
  ほんとバカな先輩だったよ私。私も大好きだよ、あずにゃんのことが』

梓『先輩……』

唯『ねえあずにゃん、1つ聞いて?』

梓『はい……』

唯『私ね、あずにゃんと初めて電話が繋がった時すっごく嬉しかった。
  私の声が直接届いて聞いてくれて、あずにゃんの声まで聞くことが出来た……
  すっごく楽しかったよ、この1年間』

唯『音が聞こえなくてもギターは弾けるけどさ……
  だけど音楽をみんなに聞かせることは出来ても
  私自身が聞くことが出来ないのが嫌で正直辛かったんだ』

唯『正直音楽の音色がどんな物か10年間忘れかけてたんだ……あずにゃんに会う迄は』

梓『私何かしましたっけ……』

唯『前にギター教えて貰った時に鼻歌歌ってくれたよね?』

梓『ああ……そういえば確かにあの時……だから先輩はもっと聞かせてって頼んでたんですね』

唯『そうだよ?私、あずにゃんに出会えて本当に良かったって思ってるよ。
  だからさ、居なくなっちゃえばいいだなんてもう言わないでね?』

梓『唯先輩……はい、わかりました』

唯『わかればよろしい!』

梓『でも……なんか変な気持ちです。
  私でも人の役に立てるんですね、ちょっとびっくりしちゃいました』

唯『それはお互い様ってね!あっ、もうすぐ駅につくよ。それじゃああずにゃん』

梓『はい、さよならは言いませんよ。絶対にまたお互い生きて会いましょうね……』

唯『うん!必ずまた会おうね!それじゃ行ってきます!』



131 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 18:53:09.56 ID:DxpWShSbo

――――――

――――

――

唯『ふえぇ~駅から来る人が多すぎてあずにゃんがどこにいるのか分からないよぉー』

梓『丁度通勤時間帯ですからね……流石に見つかりにくいですよね』

唯『どうしよう……今もう27分になっちゃってるよ!なんとかしなきゃ……』

梓『先輩……怖くないんですか?もしかしたらもうすぐ自分が死んじゃうかもしれないのに』
 
唯『怖くないわけないよ。でもね、私あずにゃんともっとお喋りしたいし
  一緒にバンドしたいから……だから絶対にこんなとこで終わりたくないの』

梓『すいません……最後の最後まで私、先輩に頼りっきりで……
  ほんと情けないです。私、先輩に借りばかり作ってしまって』

唯『へへー、ならあずにゃんには後でちゃんとお返しはしてもらうからねっ!』

梓『ええ、分かってますよ。
  まあ、とりあえず横断歩道のとこから探しなおしてみましょうか。
  もしかしたら見落としてるかもだし』

唯『そうしよっか』

――――――

――――

――

唯『うーん、横断歩道の向こう側で信号待ちしてる制服姿の子探してるけど、紺色だらけだよー』

梓『そうですよね……紺色の制服なんて至るとこで見ますし……
  ならツインテールの子を探してみてください。珍しい髪型だから見つかるはずです!』

唯『それがね……同じ髪型の子がいっぱいいるんだよぉ。もう何がなんだか……ふぇぇ~』

梓『なんて酷い偶然……』



132 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 18:53:59.23 ID:DxpWShSbo

梓(とうとう30分になっちゃった……どうしよう……ここまで来れたのにこのままじゃ唯先輩が……)

 無機質に時を刻む腕時計の針が、今の私には絶望へのカウントダウンに見えていた。
 何か手はないか頭をフル回転させる、
 けどパニック状態になりかかっている今の私にはどうすることも出来ない。
 
梓『唯先輩!今すぐ逃げてください!もういいですからせめて先輩だけでも』

 とにかく唯先輩だけでも助かって欲しい、万策尽きたと悟った私はそう叫ぶ。
 逃げてと呼びかけても逃げる人じゃないのは分かってる……
 けど藁をも掴むというのはこういう事なんだろう、それ位必死だった。

唯『そんなの出来ないよ。私が逃げたらあずにゃんが……』

梓『でも……でも!唯先輩が死んじゃったら
  私、この先どうすればいいか……お願い!お願いだから逃げて!』

唯『何を弱気になってるのさ!そんなあずにゃん、私は嫌いだよ!!』

梓『せ、先輩……』

唯『必ず生きてまた会おうねって約束したじゃん!そう言ったのはあずにゃん自身なんだよ!!』

 いつもほんわかして喜怒哀楽の怒が欠けてるような唯先輩が初めて声を荒げた。
 弱気になって投げやりになりかけてる私に対して本気で怒ってるのが
 見えない電話回線を通してひしひしと伝わってきている。

唯『怒鳴ってごめんね?でもね、私達はまだ生きてるんだから……
  可能性は0じゃないんだよ?だからもう少し頑張ってみようよ、ね?』

 今度は一転して優しい声であやすように語り掛けてくる。
 どうしてこの人はいつも自分のことより私のことばかり……
 そんな唯先輩の優しさで胸が痛み涙が零れ落ちてくる。

梓『どうして……どうしてなんですか!?
  いつもいつもあずにゃんあずにゃんって、自分の身を厭わず庇ってくれて……何で……っ』

唯『理由なんてないよ。あずにゃんは世界で一番好きな人なんだから』

唯『どんな苦難があっても、逃げ出したくなる位怖くても……
  私は絶対にあずにゃんを守るから!そして私も生きて戻るって約束するよ、だから安心して?』

梓『はい……約束ですからね!絶対の絶対ですよ!!』

唯『うん!私は嘘はつかない子なんだから、大丈夫!』



133 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 18:54:51.20 ID:DxpWShSbo

 己を見失いそうになっていた私だったけど、
 唯先輩の優しくて、そしてどこか心強い声を聞いている内に、段々と気分がほぐれてきていた。
 直接リアルタイムで話していないし、お互いの顔も知らないのに、その声だけで暖かい気持ちになってくる。
 同時に私の中である想いが湧き出てきてきた。
 
 ――ちゃんと生きて笑ってくれてる唯先輩に会いたい。
 
 ――唯先輩と同じバンドでツインギターで同じステージに立ちたい。
 
 ――今度は2人で鎌倉の海岸に遊びに行きたい。
 
 ――一緒に同じ高校で毎日楽しく過ごしたい。
 
 私の願望は心の中でより強くイメージされ、祈るように病院の外に広がる青空を見上げる。

唯『あっ!』

 突然素っ頓狂な声をあげる唯先輩。
 もしかして……いや、そのまさかだった。

唯『見つけたよあずにゃん!今横断歩道の反対側で信号待ちしてる!』

梓『本当ですか!?でも、どうやって私の居場所を!?』

唯『あずにゃん、前にQBのストラップ気に入ってて鞄に付けてるって言ってたよね?』

 そういえば少し前にそんな会話をしていたな……
 取るに足らない与太話で私はすっかり忘れてたけど、唯先輩はしっかりと覚えていたんだ。
 時計を見ると長針は丁度真下を向いていた。



134 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 18:55:51.49 ID:DxpWShSbo

唯『横断歩道の向こう側で青い鞄を前に出して中をガサゴソしてる子が見えたの。
  その子の鞄にQBが付いてた……間違いない!あれはあずにゃんだ!』

梓『先輩!もう30分です!時間がありません!』

唯『もうそんな時間!?あずにゃん、私行くよ!』

梓『で、でも赤信号じゃないですか。危ないです、待ってください!』

 頭の中に唯先輩が今何をしているのか鮮明に映像に映し出される。
 赤信号なのに、唯先輩は車が来るのも眼中にないかのように1時間前の私の元へ駆け寄るのが見えた。
 反対側の信号が赤信号になり、もうすぐ目前の信号が青に切り替わろうとしてるようだ。
 それと同時に、私の中では忌まわしい記憶として
 脳内に焼きついているあの車のボディが遠くから迫っているのが分かった。
 1時間前の私がゆっくりと横断歩道に足を踏み出し、唯先輩がそこへ無我夢中で駆け寄る。
 その全てが頭の中でスローモーションで展開されているようだった。
 まだ電話は切れていない……私は必死に呼びかける。

梓『唯先輩!返事をしてくださいっ!!せんぱあぁぁいっ!!』

 つーつーつーつー

 時計の針は31分を差していた――



135 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 18:56:34.19 ID:DxpWShSbo

――あれから半年後

 この日私は鎌倉に足を伸ばした。
 今は駅の前で1人で佇んでいる最中だ。
 もう9月だというのにまだまだ残暑が厳しく、私は何度もタオルで額の汗を拭う。
 どれ位たっただろう、ふと手提げ袋の中からピンクのSoftbankの携帯電話を取り出しモニターを覗き見る。



136 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 18:57:03.69 ID:DxpWShSbo

梓「9時10分、か……はぁ」

 携帯のモニターで時間を確認した私は小さくため息をついた。
 
梓「うん?メールが着てる……純と律先輩からだ」

梓「2人共同じようなメール送ってきて……全くもうっ!」

 2人のメールを見た私はその内容に顔を紅潮させ恥ずかしがるように俯く。
 と同時に、背後から柔らかい感触が私の全身を包んだ。

梓「にゃあっ!?」

 思わず叫び声をあげ背後を振り向くと、もう見慣れたあの人が私に満面の笑みで抱きついていた。

唯「……」ニコッ

梓「もう!唯先輩10分遅刻ですよ!折角のデートなのに困ります」

 私は少し怒ったような表情を見せながら手話でそう伝える。
 1時間時差のある電話じゃリアルタイムでの会話は出来ない、だから私は手話を覚えようとして今勉強中だ。
 学校等で直接会っている時は手話だけど、家にいる時とか離れている状態では
 相変わらず電話を使ってるんだけどね。



139 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 19:26:00.95 ID:DxpWShSbo

唯【ごめんごめん、途中で可愛いお犬さんがいて遊んでたらつい遅れちゃった♪】

梓「待っている身にもなってください!それからいい加減離れてください、暑いですから」

唯【えー、今日最初のあずにゃん分補給なんだよぉー、もう少しこのままでー】

梓「はいはい、分かりましたから離れてください。ほら、みんな見てる前で恥ずかしいじゃないですか」

唯【えー】

梓「えーもだってもありません!さ、行きますよ」
 
――――――

――――

――

 1年前に1度ここに来た道程を、今また同じように歩いている。
 ただ去年と違うのは、隣に唯先輩がいてくれている。

唯【なんだか私、夢を見てるみたいだなぁー】

梓「夢、ですか?」

唯【うん、こうやってあずにゃんと出会って2人で遊びに行けるなんて、本当に夢みたいなんだよ】

梓「そうですね。でも夢じゃないんですよ?私と先輩が同じ高校に通って
  同じ部活で一緒にお茶や演奏をしたり……
  今もこうやって2人きりでお出かけしてるのも全部現実なんです」

唯【だよねー。だけど半年前のあの日、あずにゃんには偉そうなこと言ってたけどさ……
  今になって白状すると、「私もうすぐ死んじゃうのかな」って内心怖くてしょうがなかったんだ】



140 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 19:27:30.90 ID:DxpWShSbo

 あの事故のあった8時30分、私と唯先輩の通話が途切れた瞬間、
 先輩は横断歩道に踏み出そうとする私に無我夢中で飛びついたらしい。
 1時間前の私はいきなり初対面の人に飛びつかれて動転してたそうな。

 その直後に1時間前の私がいた場所を暴走した車が走り抜けて、
 交差点の向こうのビルの壁に勢いよく突き刺さっていったそうだ。
 唯先輩の怪我は押し倒した時に少し顔と腕と足を擦り剥いただけで済んだ。
 あの時通話が切断されたのは、飛びついた時に頭を打ってしまったショックからだった。
 でももしあと1秒遅れてたらどうなっていたか……考えただけでも恐ろしい。



141 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 19:29:28.79 ID:DxpWShSbo

梓「あの時いきなり電話切れちゃうんですもの。
  もしかしたら駄目だったのかな、って私本気で心配したんですから!」
 
唯【私は約束は守る子だって言った筈だよ?
  それにあずにゃんには貸した借りを返してもらう約束もしてたからねっ!】

梓「そういえばそんな事いいましたね……」

唯【それじゃ、今ここでその貸しを耳揃えて返してもらいますっ!】

梓「ええっ!?な、何を!?」

 唯先輩は私に何を要求するんだろう……
 個人的には一生かけても返せないような大きな物だと思っていたから想像もつかず怪訝な表情をする私。
 
 唯先輩が人差し指である場所を指し示す。
 そこにはワラビ餅屋さんがあった。

唯【ここで休んでいこうよー。私今月お小遣いあんまないからあずにゃん払いでっ!】

梓「へ!?」

唯【貸しは返して貰うよ?それに私、あずにゃんと一緒にここに来たかったんだー】

 思わず拍子抜けする私。
 でも見返りを求めず、損得勘定も無視していつも私の事を第一に想ってくれてる
 こんな人だからこそ私も惹かれる物があったんだろう。
 改めてそう実感する。

梓「本当に食いしん坊ですね、唯先輩は」

唯「……」テレテレ



142 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 19:30:27.39 ID:DxpWShSbo

――――――

――――

――

 足を休めて一服を済ませた私達は茶店を後にして今度はあの海岸へと向かった。
 海水浴シーズンの過ぎた海岸は1年前と同じように人影はなく、私達専用のプライベトビーチ状態だ。

梓「うーん、やっぱり海の側は風が涼しくて気持ちがいいです」

唯【だねー。ここってさ、前にあずにゃんが私に贈ってくれたテープの声を録音してくれた場所だよね?】

梓「ええ、そうですよ」

唯【やっぱりね。ま、立ち話も何だから座りんしゃい】

梓「は、はい」

唯【私さ、あずにゃんから貰ったテープね、毎日何度も何度も聞いてたんだよ?】

梓「でも唯先輩、耳が……どうやって聞いてたんですか?」

唯【憂に頼んで聞いてもらってたんだ。
  あずにゃんがどんな感じで何を言ってくれてたのか……それを憂から手話で教えてもらってたの】

梓「そうだったんですか、憂が……」

唯【あずにゃん、私ね……すっごく嬉しかったんだよ?テープの最後にあずにゃんが言ってくれた一言がさ】

梓「最後に?私何言ったんだっけ……」



143 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 19:32:39.67 ID:DxpWShSbo

唯【思い出せないの?】

梓「ええ……正直自分でも何を考えてたか分からなくて。それで、私は何と?」

唯【「あなたに会いたいです」って……
  あずにゃんが私と同じ事想ってくれてて感激しちゃって……そこだけ何度も何度も聞きなおしてたの】

梓「何か……ちょっと恥ずかしいです、ね」

唯【前にあずにゃんさ、私が魔法を持ってるって言ってたけど、それはあずにゃんも同じなんだよ?】

梓「私も?」

唯【あずにゃんも魔法を持ってるんだよ。あずにゃんがいてくれたから、
  あずにゃんが私の声を聞いてくれたから……私は楽しくやってこれたの】

梓「先輩……」

 今日はここに来る前から心に決めていたことがあった。
 それは半年前……いや、それより前から私の中にあった「ある気持ち」に決着をつけるという事だ。
 本当なら半年前に永遠に告げる機会が無くなっていたかもしれない
 私の気持ちをぶつける時が来たんだと、そう確信し話を切り出す。



144 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 19:33:20.76 ID:DxpWShSbo

梓「その……唯先輩、今日は大事な話があるんです、少しいいですか?」

唯「……」コクリ

 私は唯先輩の目をじっと見つめる。
 するとさっきまでほんわかしていた唯先輩の表情が何時の間にか真剣な表情になっていた。
 その眼はじっと私の眼を見つけ続けている。
 水平線に沈む夕陽に照らされ神秘的に映る唯先輩の顔を見て、私の心臓は大きく波打つ。
 それは収まる事なく、まるで音が直接耳に聞こえてくるかのようだった。
 こんな感情、今まで生きてきて初めての経験だ。

梓「半年前、タクシーの中で私が唯先輩に言った言葉覚えてますか?」

唯「……」

梓「あの時はゴタゴタしててハッキリと伝え切れなかったので……改めて唯先輩に聞いてもらいたいんです」

梓「その……」



145 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 19:33:56.87 ID:DxpWShSbo

 こうやって落ち着いた場で改まって話そうとすると却って言葉に詰まってしまい口が動かない。
 そんな私を見ている唯先輩は、何も態度には出さず、ただニコッと微笑んでくれる。
 それはまるで、私を励ましてくれてるような……そんな表情を見て私はもう1度自分を奮い立たせた。

 正直照れ臭い……けど、勇気を出してずっと胸の奥にしまってきた正直な想いを唯先輩に――
 もう2度と離れたくない……ずっとずっと傍にいて欲しい……いつまでもあなたの笑顔を見ていたい――

 ――だから!



146 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 19:34:25.26 ID:DxpWShSbo

梓「唯先輩!私、先輩のことが大好きです!世界中の誰よりも……あなたのことが!」

梓「だから……これからもずーっと!ずーっと一緒にいてください!」

 想いの全てを吐露した私、正直もう思い残す物はない。
 しばらくの間、この場に重い沈黙が続く……聞こえてくるのは波の音だけ。
 時間にして僅かだろうけど、私にとってはそれがまるで永遠に続くようにも感じられた。
 ――その沈黙を破ったのは唯先輩だった。

唯【私もあずにゃんの事が大好きだよ!他の誰よりも……私にとっては大切な人だから……
  こんな私でよければこれからもよろしくお願いします!】

梓「こちらこそ、不束者ですがよろしくお願いしますね、唯先輩♪」

唯【うんっ!】

 私は唯先輩の胸元に飛び込んでぎゅっと強くその身体を抱きしめ、
 先輩はそんな私の背中に両腕を回りこませ更に強く抱きしめてきてくれた。。
 私の全身を暖かい感触が包み込む――



147 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 19:35:17.23 ID:DxpWShSbo

唯【ねえ、あずにゃん】

梓「どうしました?先輩」

唯【今度の学園祭ライブ、私達5人で絶対成功させようね!】

梓「はい!私達なら絶対出来ますって!」

唯【それじゃもう遅い時間だし、そろそろ帰ろっか】

梓「そうしましょうか」

唯【また来ようね?あずにゃん】

梓「ええ、またいつか」



148 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 19:36:19.37 ID:DxpWShSbo

 あの絶体絶命の危機を乗り越えた私達は
 結果的に前より強く結ばれた……今ならハッキリとそう断言できる。
 これから先も色んな困難が待っているかもしれない……
 けど、唯先輩と一緒なら何が起きても怖くないし乗り越えていける確信がある。
 いや……唯先輩だけじゃない――
 律先輩、澪先輩、ムギ先輩、憂、純、和先輩、さわ子先生――
 今の私にはこんなにたくさんの人が付いていてくれて見守ってくれてる……
 
 ――私はもう、1人じゃないんだ
  
梓「ほら唯先輩、早く行きますよ♪」

  今度こそThe End



149 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 19:40:32.56 ID:DxpWShSbo

今度こそ本当に終わりです

原作ENDは>>103から
別ENDは>>126からどうぞ

では、ありがとうございました




150 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 20:03:11.36 ID:VEL1FGeDO

乙乙!!!!

やっぱハッピーエンドは良いねぇ~



151 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/13(火) 20:20:30.98 ID:1bi1O9XSO

原作エンドの方、もし梓が最後に嘘をつかなかったら間に合ってたかもしれないと思うと皮肉な話だなぁ

乙でした






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梓「君にしか聞こえない」#後編

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タイトル:
NO:3945 [ 2011/09/30 07:03 ] [ 編集 ]

乙1

タイトル:
NO:3947 [ 2011/09/30 13:36 ] [ 編集 ]

誰うま

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