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律・紬 「Blue Bird」 【非日常系】


SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)@VIPServiseより

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1313062580/




1 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 20:36:20.13 ID:oOz1EvMi0

おことわり

これは映画 Blue Bird のあらすじをミチルを律に、ツグミを紬に代えた程度です。

単にツグミとツムギの音が似ていたことと
寿美菜子さんが主演していたというだけという理由で書いていきますので、
興味がなければスルーしてください。





2 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 20:48:21.71 ID:oOz1EvMi0

律「男の子なんだから痒くっても我慢するんだよ。」

律「でもどうしても我慢できないときは、鼻をつまんでこうやって...」

律「フンっ!!」

律「ね?」

男の子「うん!!わかった」

律「じゃあね、バイバイ!!頑張るんだよ」ニコッ

律「ふぅ~」

律(あの子のお母さんの顔はまるで死人のようだなぁ~)

律「お父さ~ん」

律父「なんだ?」

律「あの子もやっぱり...」

律父「そうだ...」

律「そっかぁ~」

律父「この原因不明の病気が世界的に流行してからというものは...」

そう、感染して発病したら身体が腐っていくというこの原因不明の病気は、

私がすむ閑散とした片田舎でも蔓延しはじめていた。

この周辺で唯一人の医師である父の元にはほぼ毎日のように感染・発病者が訪れる。

また片田舎であることをいいことに療養施設と銘打った収容所も建設されている。

律(私たちもいつかはこの病気でしんでいくんだろうなぁ~)

14歳やそこらでこんな虚無感を抱えるなんて全くなんという人生なんだろう。



3 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/11(木) 20:57:58.70 ID:oOz1EvMi0

兄ぃ「お~い、律!!」

律「ん?なぁんだ兄ぃか?」

兄ぃ「なぁんだはないだろ!!」

兄ぃ「それより野球やろうぜ!!野球!!」

律「どうせ僕が投げて、兄ぃが打つんだろ?」

兄ぃ「わかってるじゃん!!なら話は早い!!」

兄ぃはこの村の駐在員。早い話が警察官。

でも、事件なんか村が始まってから一度も起こっていないから、

パトロールと称していつも俺と遊びたがる。

いつもの池の辺の原っぱに行く道中は、いつもの兄ぃの自慢話

兄ぃ「俺さぁ、ロックスターを目指して、高校でたらすぐにアメリカに渡ったんだけどさぁ~」

兄ぃ「結局、もう少しの所で挫折しちゃって...」

兄ぃ「今はしがないポリスマンさ」

毎度毎度聞かされる話を僕はいつも冗談半分で聞いていた。

でも、今のような状況では兄ぃの底抜けな明るさが僕の救いになっていた。



16 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/12(金) 20:28:45.33 ID:Ua7LuxRo0

いつものように僕がピッチャー

そしていつものように兄ぃがバッター

たった二人の野球...というよりバッティング練習みたいなもん。

キャッチャーもいないから、兄ぃは空振りするたびにボールを追いかけながら

兄ぃ「おい!!律!!ちゃんとストライクを投げろよ!!」

律「悪い悪い!!」

兄ぃ「さぁ~もう一丁!!」

僕はど真中にストレートを投げ込んだ

カキーン

兄ぃはジャストミーティングで打球をセンター方向に飛ばした。

....


兄ぃ「お~い!!いつまで探してるんだよ!!さっさと見つけろよ!!」

律「兄ぃも探すの手伝ってくれよ~」

兄ぃ「あ~...わかったわかった...」

僕は一生懸命、兄ぃはだるそうに池のほとりの草むらに隠れているであろうボールをさがしていた。

そしたら兄ぃが急に

兄ぃ「律?お前この池の幽霊の話を知ってるか?」

律「はぁ?なんだよ急に!!」

兄ぃ「昔、この池でなぁ」

兄ぃ「結婚を反対されて自殺した若い女がいてさぁ」

兄ぃ「今でも霧がかかるような日にはその女の幽霊がこの池のほとりに立つって話さ」

兄ぃ「場所は確かこのあたりだったような気が...」

律「兄ぃもうやめろ。それよりボールを探そうぜ」

兄ぃ「なんだ?恐いのか?」

律「そんなことない!!」

といいながら僕は池の方に振り向いた。

律「!!」

なんと一人の女性が身の回りに霧をまとっているように池のほとりに立っていた。

律「あっ、あっ、兄ぃ!!」

兄ぃ「なんだよ!!やっぱり恐いのか?」

律「違うよ!!それよりあんなところに女の人が!!」

僕は兄ぃを見据えながら、女性が居た方向を指さした。

兄ぃ「なんだって?ん?」

兄ぃ「誰もいないじゃん!!大人をからかうもんじゃねえぞ。」

律「えっ?」

僕が振り返ったら、誰もいない。

律「おっかしいなぁ~」

律「でもたしかにいたんだよ。今にも池に入りそうな感じで佇んでたんだよ!!」

兄ぃ「あぁ~わかったわかった。ボールも見つからないし今日は帰ろうぜ!!」

僕は納得できないまま、その場を後にした。



19 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/14(日) 16:55:01.13 ID:v7NSaMuD0

いつもと変わらない静かな日が続いたある日。

父親の診療所の診察室の前に兄ぃが立っていた。

いつになく神妙なのは職務の最中だからだろうか?

律「兄ぃ!!」

律「どうしたんだよ今日は?」

といいながら、僕は診察室に入っていった。

するとそこには...

律「あっ!!」

僕は顔を赤らめて思わずとっさに後ろを向いてしまった。

父親が一人の女性を診察していて、しかもその女性の上半身は下着姿だった。

律父「律か?ちょうどいい。ちょっと手伝ってくれ!!」

父は何を考えているんだろう?

僕だって子供じゃないんだから...

といいつつも父の言葉に従って、手伝いを始めた。

緊張と恥ずかしさの連続の後、少し平常心を取り戻した僕は改めて女性を眺めた。

律「あっ!!」

律父「ん?どうした律?」

律「な、なんでもない」

とっさに顔を下に向けたところを

女性「何見てるのよ!!」

律「見てなんかいない!!」

動揺しながら返答するのがやっとだった。



20 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/14(日) 17:02:39.42 ID:v7NSaMuD0

緊張した時間を終え、診察室をでたら兄ぃが

兄ぃ「どうやら家出したみたいで捜索願いもでているけど...」

兄ぃ「家族も消息さえわかったらいいみたいで、家には帰ってほしくないみたいなんだな~」

兄ぃ「本人も帰りたくないみたいだし」

律「なんで?」

兄ぃ「ん?」

兄ぃ「だって感染者だし、発症もしてるし...」 

律「...そ、そんなぁ~」

さっき覗き見するように見た上半身。

色白で華奢な身体つきに似合わない痣のようなものがある思ったけど...

あれが発症した証拠?

あまりにも衝撃的だった。

あの病気とは全く正反対ともいえる程、可憐で美しい女性。

それが紬との出会いだった...



21 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/14(日) 17:09:01.61 ID:v7NSaMuD0

兄ぃ「家族に連絡したんだけどさぁ~」

兄ぃ「『無事だったら、それでいい』だってさ」

兄ぃ「発症していることがわかったから、本人も家をでたらしいし」

話を聞くと紬の家はたいそうな資産家で感染がわかった時点であらゆる手を講じたらしいけど、

結局発症してしまい、紬はそれを気にして家を出てしまったらしい。

紬は僕よりも少し年上だと思うけど、まだまだ二人で話し込める雰囲気ではない。

発症が確認されたから、「療養所への隔離」は決まっているけど手続きなどのある間は、

僕たちと一緒に生活することになった。

なんだろう?

僕は初めて異性を気にするようになった。



22 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/14(日) 17:54:00.55 ID:v7NSaMuD0

ところがそんな僕の視線を毛嫌いするかのように紬は

紬「あんた、私の裸を見て興奮してたでしょ?」

とか言って、僕と距離を置いているようだった。

残念な気もするけど、感染者と仲良くすることもできないし...

僕も意識的に紬を無視するようにした。

紬の療養所への入所手続きはちょっと手間取っているみたいで、紬はまだ僕たち家族と一緒にいる。

僕の家族は父親だけだけど、夕食は兄ぃも一緒だ。

兄ぃは早くに家族を亡くしていて、

今は食事も風呂も僕の家で済ますのが普通になっているので、もはや家族同様だ。

そんな中に紬が入ってきた。

父親も兄ぃも全く意に介していないけど、僕にとっては一大事だ。

そんな僕を無視するが如く、紬は無表情で日々を過ごしていた。



23 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/20(土) 16:18:33.81 ID:VDrySH9Q0

ある日、どこからともなくオルガンの音が聴こえてきた。

律「はじめて聴く曲だけど」

律「なんだろう?この心地よさは」

僕は音に誘われるままに、音の出どころにたどり着いた。

律(ハッ)

そこにはオルガンに向き合う紬がいた。

一心不乱に鍵盤を叩き、自分の命を鍵盤に込めつつも、演奏が終わったら自分の命が終わるかのごとく...

とはいえ、僕は演奏に聴きほれていた。

紬は僕のことなど眼中にないようにオルガンを弾きつづけていた。

律(なんて可憐なんだ!!)

この時、僕は初めて恋をしたのかもしれない。

紬「?」

紬「なに、見てるのよ!!」

紬はまさに投げ捨てるような捨て台詞を残して、部屋をでていった。

あとに残されたオルガンを見つめて...

さっき紬が弾いていたメロディを必死に思い出していた。



24 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/21(日) 11:54:00.79 ID:nb5UJPuO0

紬は療養施設に入所することが決まった。

あの施設は父が主治医を担当していて僕も手伝いということで良く出入りしているので、

紬とは顔をあわせるのは簡単だけど、ちょっと距離があいたのが少し寂しい。

紬は施設の子供たちにとって、とても優しいお姉さんになっていた。

甘える子供、だだをこねる子供...

そんな子供たちの母親の如く、子供たちを優しく包んでいた。

一緒に遊び、一緒に歌い、一緒にはしゃぎ...

紬がきてからの施設はとても明るく、とても楽しく、治療法のない病気の療養施設とは思えなくくらいだ。

僕もその中に入り、律兄ぃと呼ばれるようになった。

そして、紬との距離も自然と縮まった。

そんな中、僕と紬は施設の子供達の合唱コンサートの開催を提案した。

普段、家族と離れ離れになっている子供たちの元気な姿を披露するということが目的だ。

反対する人もなく、村の協力も得られ、村内で唯一の会館で発表できることになった。

正式に開催が決まってからは大忙しだった。

紬が伴奏、僕が指揮に決まった。

曲は紬が作るといった。



25 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/21(日) 12:02:56.97 ID:nb5UJPuO0

家に帰った僕は、いつもの如く父親と兄ぃと3人で夕食を取りながら合唱コンサートの話をした。

兄ぃ「おっ!!それなら俺はギターを弾いてやるよ。なんせ俺はミュージシャンを目指して...」

兄ぃの自慢話は聴き飽きているので、無視するかのように、父親にたいして

律「ねぇ、お父さん?あの病気っていつか治るの?」

律父「無理だ!!感染して発症したら今の時点では100%治癒は不可能なのが現実だよ」

律父「でも、感染の危険性を抑えることは多少進展があったようだ。」

兄ぃ「そんなことどうでもいいじゃん。それより俺のギターはすごいぜ!!」

兄ぃ「そうだ!!律!!明日から俺がギターを教えてやるよ」

兄ぃはうれしそうに、ご飯をかきこんでいた。



26 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/21(日) 12:11:13.35 ID:nb5UJPuO0

兄ぃは原田という名前なんだけど、下の名前はよく覚えていない。

物心ついたころから、僕の家に出入りしていて、
最初は原田兄ちゃんと呼んでいたような気がするけど、
今は兄ぃと呼んで、本当の兄の様に慕っている。

兄ぃの素性については父親も明かしてくれないが、僕にとってそんなことはどうでもよく。

いい加減だけど、そばにいてくれるだけで人生を楽観できるようになる兄ぃの存在は本当にありがたい。

そんな兄ぃ

翌日からの警邏巡回にはギターを背負ってチャリンコに乗っていた。

律「兄ぃどうしたんだよ?ギターなんか背負ってさぁ~」

兄ぃ「おぉ律!!だって、いつお前からギターを教えてくれって言われるかわからないしな」

兄ぃ「アメリカ帰りの俺からギターを教えてもらったら恐いもんなしだぜ!!」

兄ぃの言葉を真に受けてはいけないけど、兄ぃが兄ぃらしくてとてもうれしかった。



27 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/21(日) 12:26:55.03 ID:nb5UJPuO0

合唱コンサートの曲は僕と紬で決めていった。

最初は全曲紬の作曲をと思ったけど、結局はだれもが知っている曲+紬の1曲となった。

僕は紬に

律「それだけでいいのか?」

紬「うん。いいよ。私だっていろんな曲を書くより、一生懸命作ったこの1曲に集中したいし」

律「そっそうなんだ。」

律「じゃあ、明日から練習しようか?」

紬「うん」

翌日からは、コンサートのための練習を始めた。

紬は失敗した子供、うまくできなくて泣きだした子供達をなぐさめながら、練習に精を出していた。

指揮を取る僕は音楽については全くの素人なので、紬の奮闘には本当に頭がさがる。

ある日、練習が終わった後...

僕はいつも紬が弾いているピアノの前に一人で佇んでいた。

紬の作った曲を弾いてみたいと思ったからだ。

そして、おそるおそる鍵盤を押してみた。

全然違う音がでたと思ったら、後ろから急に僕の指に触れる温かさを感じた。

ふと振り返ると紬がいた。

紬は何も言わず、僕の指の上に自分の指を重ね、鍵盤の上に踊らせた。

紬の作った曲だ。

僕と紬は一緒になって、その曲を弾いている。

なんだろう?

不思議な気持ちが伝わってくる。

紬に対する好意?

それだけじゃない!!

なんなんだろう?

...

わかった!!

律「紬!!」

紬「今日はここまでにしよ!!」

紬「じゃあ、またね」

紬はさっさと姿を消してしまった。



28 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/21(日) 13:17:32.32 ID:nb5UJPuO0

今日は国が行う施設の検査日なので普段は自由に出入りできる僕も入ることはできない。

そんな僕をみすかしたように

兄ぃ「おう律!!練習はどうだ?」

兄ぃ「なんなら俺様が直々にギターを伝授してやろうか?」

普段なら断るけど、今日は暇なので兄ぃにつき合うことにした。

兄ぃ「違う違う!!そこの指はここだ」

律「なぁ?兄ぃ?」

兄ぃ「なんだ律!」

律「兄ぃって本当にプロを目指したの?」

律「なんか、教え方も下手だしさぁ~」

兄ぃ「何いうんだよ。それは律が下手過ぎるからなんだよ。」

兄ぃの教えてくれるギターは退屈そのもの。

いっそ、野球をやってる方が楽しいや...

そろそろ検査も終わる頃なので、兄ぃのチャリンコの後ろに乗って施設に向かっていたら。

キキーッ!!

見慣れぬ車が私たちの横に止まり、から一人の女性がでてきた。

すらりと伸びた背、凛としたスーツ姿。

あきらかにこの村の人間では無かった。




29 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/21(日) 13:33:26.17 ID:nb5UJPuO0

女性「あらっ。警察官が二人乗りをしてていいのかしら?」

兄ぃ「なんだよ~、こいつは弟だよ」

女性「そう。まぁいいわ。それよりこの村の療養施設に案内してほしいのよ」

兄ぃ「そんなのカーナビでいきゃいいだろ?」

女性「特別療養施設はカーナビには表示されないのよ!!」

女性は兄ぃになにか証明証のようなものを提示した。

兄ぃ「しゃーねぇなぁー...俺に付いてこいよ」

兄ぃがチャリンコを漕ごうといしたらとたん。

女性「二人乗りは違反でしょ?後ろの弟さんは私の車に乗ったら?」

兄ぃ「はぁ?」

律「わりぃ、僕はあの人の車に乗るよ!」

兄ぃの乗り心地の悪いチャリンコよりは一見して高級車と思われる女性の車に乗ることにした。

女性「本当に兄弟なの?」

律「違います。でも兄弟同然です。」

女性「そう...」

女性「そうそう私はね」

女性は運転しながらおもむろに鞄を探り、一枚の名刺を差し出した。

女性「私は厚生労働省特別査察官の秋山澪」

女性「よろしくね?」

律「はぁ...」

澪「あなたの名前は?」

律「田井中律...」

澪「よろしくね!!律...でいいかしら」

律「はいっ。ところで今回はなんの査察なんですか?」

澪「最近、このあたりで例の伝染病の発症率が高まっているんで状況確認にきたのよ」

律「そうなんですか...」

澪「それとそんな療養施設の子供が合唱コンサートを開催して、
  家族との交流をはかろうとしているってことを聞いてね」

澪「それを1つの療養モデルにできないかって思ってきたのよ。」

まさかそんなことが伝わっているとは全く思っていなかった。

不思議に思っていると

澪「国の情報網はすごいのよ。ちょっとしたことでも筒抜けなの絵よ。」

澪「しらぬは国民ばかりなり!!」

澪「ごめんね?でもこれが日本を含めた先進国の実態なのよ」

律「はぁ...」

僕にはどうでもいいことだけど、

たかだか小さな村の小さなイベントすら監視されているということには少し驚かされた。

ふらふらとチャリンコを漕ぐ兄ぃに先導されて、

ようやく療養施設にたどりついたころには夕方になっていた。

澪「ありがとう!!」

澪さんは先導を勤めた兄ぃに一言かけて、施設に入っていった。

その施設の前には紬が立っていたんだけど、僕と澪さんが同じ車から出てくるのを見た途端。

踵を返して施設内に入っていった。

追いかけたい衝動にかられたけど、今日一日は国の検査日なので入ることができなかった。



30 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/21(日) 13:44:08.71 ID:nb5UJPuO0

紬の気持ちを知りたいと思いつつも、僕は合唱コンサートの練習に明け暮れた。

僕の指揮、紬の伴奏。

息をあわせるためにときどき目をあわせようとしたら、紬はいつも僕を見ている。

指揮は不安だけど、紬がみてくれていると思うととても安心できる。

僕は一切の楽器ができないから、紬は簡単な楽器をいろいろと教えようとしてくれた。

ピアノやオルガンはさることながら、散歩がてらに外出したときにはピアニカを教えてくれた。

紬は息の吹き方から指使いまでを丁寧に教えてくれた。

紬「はいっ、次は律がやってみて」

紬はなんの悪気もなくピアニカを差し出したけど...

律「練習はかまわないけど...これって間接キス?」

ちょっと照れていたら、紬が

紬「なによ、さっき教えたじゃないの。もう忘れたの?」

律「そうじゃないけど...」

ちょっと恥ずかしい気もしたけど、一生懸命教えてくれる紬のためにピアニカを手にして練習を始めた。

なんだろう、この時間は?

この瞬間が、永遠に続いてほしいって思った。



31 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/21(日) 13:55:51.93 ID:nb5UJPuO0

僕は澪さんと仲良くなり、いろいろなことを教えてもらうようになった。

本来ならできないであろう車の運転すら教えてもらうようになった。

澪「今のような時代、時代についてこれないような法律に従ってたら生きていけないんだから」

とか言われながら...

ある夜、澪さんに車の運転を教わり、

澪さんが宿泊している療養所に戻ろうとしたところ、ライトに一人の女性が照らされた。

澪「あっ?あれは?」

紬だった。

こんな時間になにをしてるんだろ?

心配をしつつも、紬は療養所に戻っていったので、

それ以上考えず、私は澪さんにお礼を言って自宅に戻った。



32 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 14:10:23.80 ID:GtyBZenq0

合唱コンサートの練習は順調に進んでいった。

兄ぃは相変わらずチャチャ入れをしてくるけど、

僕はそれを適当にあしらいながら子供たちや紬と一緒に練習を続けた。

いつもの野原で練習ということで紬と一緒にピアニカを練習していたとき、

律「うーん...なかなかうまく弾けないや」

紬「ちょっと、貸して」

紬はいとも簡単にメロディを弾いた。

でも、その時は、

律(さっきまで僕が口にしてたのに...)

顔に出さないまでも、少しは動揺した。

律(紬は全く意識していないのかな?)

そんなことをしながら、昼ご飯の時間を迎えた。

二人共お弁当を持ってきていたけど、

紬の持ってきたサンドウィッチが美味しそうだったので、ひとつもらった。

とても美味しかった。

律「美味しい!!僕にも作ってほしかったなぁ~」

紬「食べました!!」

律「えっ!!」

紬「作ったけど...食べました!!」

紬は不機嫌そうに横を向いて、吐き捨てるように、

でも、どことなく恥ずかしそうに言った。

...その時、紬の気持ちはわからなかったけど...
...今、思い返すとそれは...



33 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 14:17:03.45 ID:GtyBZenq0

コンサートの数日前

兄ぃ「なんで、今さら血液検査なんだよ」

律父「今さらだけど、血液検査で例の病気に感染してるかどうかがわかるようになったんだよ」

兄ぃ「ふ~ん」

兄ぃ(試験管の一本を手に取りながら)「こんなもんでねぇ~」

律父「おいっ!!勝手に触るな!!」

兄ぃ「わかってるよ。でも、病気に感染したことがわかってもどうしようもないのになぁ~」

兄ぃ「感染してもしてなくてもいつかは死ぬんだから、どうでもいいんじゃねえか?」



35 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 14:32:05.37 ID:GtyBZenq0

コンサート当日

この日はコンサートのことで頭が一杯だったけど、僕も含めた血液検査の結果がわかる日でもあった。

律(感染しててもいいや!!逆に紬と一緒にいられるなら感染した方がいいや)

そんなことより、コンサートの開演が迫っていた。

客席は一杯になっていた。

とてつもなく不安だったけど、紬がいてくれることがとてつもなく心強かった。

いよいよ開演時間になった。

僕はおそるおそる指揮者台の上に立ち、深呼吸をして紬に目を向けた。

自然と紬と目が合った。

そして、紬は僕の視線を待っていたように大きくうなずいて、ピアノを弾き始めた。

「星と廃墟」

紬がコンサートのために作った曲。

タイトルだけを見ると暗そうだけど、紬曰く

紬「廃墟でも都会でも星は同じように輝いているのよ。」

紬「だから誰だってどこでも輝けると思うの。」

紬「この病気が発症したからといって諦めたらいけないのよ。」

紬の言葉はとても重いんだけど、発症していない僕はその重さを実感することはできなかった。

律(今はわからなくてもいいかな?)



36 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 14:39:06.95 ID:GtyBZenq0

僕はタクトを振りあげて、演奏開始を告げた。

紬のピアノが前奏を始めた。

僕はタクトを振り始めた。

子供たちはそれを合図に歌い始めた。

一生懸命歌っている。

この子たちの中には末期症状寸前な状態の子もいる。

末期症状になれば、強制的に隔離施設に移される。

でも、今は一生懸命歌っている。

紬も楽しそうにピアノを弾いている。

この時間が永遠に続けばいいのに...

この子たちとずっと居られればいいのに...

そして

紬とずっと一緒に居られたらいいのになぁ...



37 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 14:47:34.93 ID:GtyBZenq0

コンサートは成功した。

子供たちも僕も紬も、そして観客も満足できるものだった。

紬「良かったね」

律「うん」

もっと紬と話をしたかったけど、今日はそろそろ帰らないといけない時間になった。

帰宅後の夕食時。

いつもと少しだけ違う夕食。

律「あれ?兄ぃは?」

律父「あ?今日はなんでも用事があるようだ」

律「兄ぃに?」

律「せっかく、コンサートが成功したことを自慢したかったのになぁ~」

でもその違いがとてつもなく大きな夕食だったことに気がつくのは翌日だった。



38 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 14:48:55.26 ID:GtyBZenq0

>>37

ミチルはここまでクールでなかったような...

もっと父親に問い詰めたような気がするけど...

重要なところなのに思い出せません。



39 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 15:10:45.45 ID:GtyBZenq0

翌日

いつもの野原に紬と一緒に居た。

紬に言いたいことがあるんだけど、うまく表現できない。

紬もなんとなくソワソワしている。

多分、同じ気持ちなんだろうけど、いざその場になると、どうしても緊張してしまう。

そんな時。

兄ぃが幽霊のように現れた。

律「あっ、兄ぃ!!」

律「昨日はなにがあったんだよ?言いたいことがあったのに!!」

兄ぃ「...」

律「兄ぃ?」

兄ぃは何も言わずに佇んでいた。

その目は紬を見つめつつ...

律「兄ぃ!!どうしたんだよ?」

兄ぃ「お前は恐くないのか?」

兄ぃ「お前は死ぬことが恐くないのかよ?」

兄ぃは攻めるような口調で紬に問いかけていた。

その瞬間。

兄ぃは腰に付けていた拳銃をおもむろに抜いて、紬に銃口を向けた。

律「兄ぃ、何してるんだよ。」

兄ぃ「お前は発症したんだよな?死んでも仕方ないよな?」

律「兄ぃ!!兄ぃ!!どうしたんだよ?いつもの兄ぃじゃないよ」

兄ぃ「律、俺はミュージシャンを目指してアメリカに行ったって言ったよな?」

兄ぃ「あれは嘘だよ」

兄ぃ「俺にはそんな根性も、何より才能もなかったしさ」

兄ぃ「それで普通に生きようと思ったのによお」

兄ぃ「それが...この様だ」

兄ぃは制服の前をはだいて、胸をさらけだした。

そこには...

兄ぃの胸部には憎むべき赤い発疹があった。

律「兄ぃ...」

兄ぃ「なあ?お前は恐くないんだろ?

兄ぃ「死ぬことが恐くないんだろ?」

兄ぃは銃口を紬に向けながら、引き金に指をそえた。

律「兄ぃ!!兄ぃ!!」

兄ぃ「はっ!!」

兄ぃ「冗談だよ」

といった瞬間。

兄ぃは銃口を自分のコメカミに当てたと思ったら...



41 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 15:12:11.39 ID:GtyBZenq0

パァン

乾いた音が響いた。

僕は紬を庇うように、そして兄ぃを見せないように

紬の手を引っ張って走った。

ひたすら走った。

紬は何か言ってかもしれないけど、そんなことは関係無く走りつづけた。



42 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/28(日) 15:30:35.66 ID:GtyBZenq0

僕たちがたどり着いたのは神社の裏側だった。

律・紬「ハァハァ」

息があがっている。

走ったこと以上に兄ぃがあんな最期を選んだ事が僕にはショックだった。

律(兄ぃなら発症しても最後まで笑いとばすと思っていたのに)

その瞬間、僕は命の儚さのようなものを感じたのだろうか

律「紬、どこかに行こう。」

紬「どこに?」

律「わからない。でもこの街をでてどこかに行こう!!」

律「そして二人で生きていこう!!」

僕は紬が嫌だといっても街をでる覚悟で必死に訴えた。

それは...

紬の命が長くないから

紬と一緒にいる時間が欲しいから

そして...

そして紬の事が好きだから...いや!!愛しているから。



44 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 18:04:31.92 ID:XZ411Qbz0

僕は紬の手を掴んで、強引に進もうとした。

が、紬は動かない。

紬「待って、ちょっと待って」

紬は僕の手を振り払って、僕を見つめている。

紬「恐くないの?」

紬「律は恐くないの?」

律「こ、恐くなんかないよ」

紬「ほんと?」

律「ああ、ほんとだ」

紬「じゃあ...」

紬「キスして」

律「...」

紬「私の事が好きなんでしょ?」

律「もちろんさ」

紬「じゃあキスして」

僕はどうしていいのかその時は全くわからなかった。

紬の事は好きだけど、キスの経験なんかないので、どぎまぎしながら突っ立っていた。

紬「恐いの?」

律「恐くないよ」

紬「じゃあキスして」

紬は目を閉じて唇を差し出した。

僕も目を閉じて、紬の肩を抱き、顔を紬の顔に近づけた。

あと数センチ...

あと数ミリ...

でも、そこから先に進めない。

紬が恐いからではなく、キスの経験がないからだ。

...

意を決した瞬間、突然紬が後ずさりして

紬「嘘だよ」

そういって、体を翻したと思うと、今きた道を走り去っていった。

僕はというと...

しばらくそこに立ちずさんでいた。

そして、紬を追いかけるどころか全く反対側に走っていった。



45 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 18:39:57.87 ID:XZ411Qbz0

僕はひたすら走り続けた。

そして

律「澪さん」

澪「おや?律じゃない。どうしたの?」

律「澪さん。僕をここから連れ出してください。」

澪「どうしたの急に?紬と喧嘩でもしたの?」

律「そうじゃないんです。でも、ここから出たいんです。」

澪「そう...」

澪「じゃあ、一緒に行こうか!!私も戻らなきゃいけないし」

僕は澪さんの車に乗って、ここを離れることにした。

澪「本当にいいの?」

律「......」

ちょっと考え込んだけど、

律「はい!!」

澪「そう...じゃあ行くよ」

ここを離れるのは初めてだ。

初めての世界に触れたような気持ち。

そして、あの忌まわしき伝染病が蔓延していることが嘘のように道には車が走っている。

夜になれば家の灯りがあちこちに見える。

律「あの病気が嘘のようですね。」

澪「そう?でもねぇ」

そう言って澪さんはカーラジオをつけた。

アナウンサー「○○市は感染者による暴動が発生し、非常事態地域宣言が発令されました。」

アナウンサー「△△市は立入禁止区域にしていされています。」

病気の事ばかりだった。

たまに

アナウンサー「発症後の進行をおさえることが期待できそうです。」

などの治療薬やワクチンの情報も流れてはいるけれど、

爆発的に感染が広がる状況では焼け石に水に思えた。

...

車はのどかな住宅街を走っているけど、人影はほとんどない。

少し先の交差点に親子と思われる人影があるだけだ。



46 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 18:58:15.82 ID:XZ411Qbz0

その交差点に差しかかったとき、信号が赤に変わり停車したところ。

バン!!

助手席側のドアを叩く音がしたんで驚いて左を見たら。

律「はっ!!」

ゾンビのような姿の少女がドアにもたれかかったかと思うと、そのまま崩れ落ちた。

律「...」

澪「大丈夫。心配しないで。危害はないわよ。」

律「でも...」

澪「見た目は恐いけど、まだ人間の心は残っているみたいなのよ。」

澪「でも脳が冒されると最期。もう手に負えなくなるのよ」

律「...」

律「じゃあ紬もいつか...」

澪「それはわからない。でも変わっていく自分を一人で受け止めるのは辛いと思うわよ」

律「...」

僕たちは遠回りをしながら、澪さんはわざわざいろいろな所を僕に見せてくれながら旅を続けた。

そんなある日、僕たちは小さなステージがある小さな公園で休憩を取った。

どこからともなく歌声が聴こえてきた。

上を向いて歩こおおぉ、涙がこぼれないよおぉに~♪(※)

(※)... 映画で歌ってたのは違ったようだけど思い出せません(花だったかな?)

よくみるとステージの片隅に腰かけて一人の女性がギターを弾きながら歌を歌っている。

澪「気がついた?」

澪「あの人は平沢唯っていってね」

澪「全国を旅しながら歌を歌ってるの。」

律「なんのために?」 

澪「わからない。でも、歌で届けたい物があるんじゃない?」

唯さんは歌いつづけていたけど、僕たちは出発の時を迎えた。

そんな旅を続けていたけど、いよいよ明日は目的地に着く。

このまま終わってもいいんだろうか?

なにかとてつもなく大事な事を忘れている。

いや忘れようとしているけど、忘れてはいけないんじゃないか?

そう思ったとたん。

律「澪さん!!」

澪「どうしたの?律?」

律「僕...やっぱり戻ります。」

澪「そう...」

澪「じゃあこれ持っていく?」

澪さんが差し出してくれたのは、ごく一部の人に配布される貴重な感染予防薬だった。

でも、僕はそんなものは欲しいとは思わなかったので

律「いらない」

澪「そうよね。じゃあ戻ろうか」



47 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 19:06:35.51 ID:XZ411Qbz0

澪さんは一直線で戻ってくれた。何週間もかかった道のりをたった数時間で戻ってくれた。

澪「じゃあ元気でね。紬さんによろしくね」

律「はい。」

澪・律「さよなら」

僕は一目散に紬のいる施設に向かった。

でも、そこで目にしたものは

「立ち入り禁止」

のビケテープだった。

律「そ、そんなぁ...」

僕はおもむろに家に向かった。

その途中で目にしたものは...

人気が全く無くなった街並み...

律「なにがあったんだ?」

僕は本当に不安になってきた

...紬...紬...紬...どうか無事にいてくれ!!

ようやく自宅にたどり着き、中に入った。

そこで僕が見たものは...

無人と化した家だった。

律 (お父さん?)

信じられなかった。

お父さんはここで唯一の医者であり、最後の砦のはずなのに...

僕は家中を探し回った。

そして最後に診察室に入った瞬間...

僕は諦めに似た現実に気付いてしまった。



48 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 19:18:43.60 ID:XZ411Qbz0

律「あぁ...ここでも...」

澪さんと旅をしていた時、僕は廃墟になった街をいくつも見てきた。

そして、廃墟になった理由は

澪「感染がおさえられなくなったら、集落ごと隔離するのよ」

今、澪さんの行っていたことがフラッシュバックする。

律「そ、そんな...」

その直後

ガサっ

背後で物音がした。

驚いて振り向いた僕が目にしたものは

律「!!」

紬だった。

紬「...」

紬「バカっ」

紬はそういいながら近づいてきたと思うと、

紬「バカ、バカ、バカ」 

泣きながら僕を叩きつづける。

紬「バカ、バカ、バカ!!」

最後は、泣き崩れるように僕に寄りかかってきた。



49 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 19:30:28.31 ID:XZ411Qbz0

律「一体なにがあったんだ?」

紬「ある日、政府の人達がやってきて、みんなをつれて行ったの。」

紬「私は必死に隠れてたの。」

紬「静かになってから出てきたら...みんな居なくなってた...ウワァーン」

紬は大きな声をあげて泣きだした。

僕は意を決して紬に伝えた。

律「ここをでよう!!」

律「そして二人で生きていこう。」

今回は紬が反対しても強引につれていこうと思ったけど。

紬「うん、連れていって」

早速、準備にとりかかる。

といっても、できる限りの医療品とお金を捜し出す程度だった。

移動手段は一台の自転車だけだけど、とにかくここを出るしかない。

紬を荷台に乗せて、僕は自転車を漕いだ。

あてのない旅の始まりだ。

不安しかないけど、紬が一緒だと僕は強くなれる。



50 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 20:58:31.20 ID:XZ411Qbz0

どこまでもどこまでも二人で行こうと思った。

紬は楽しそうに荷台に乗って微笑んでる。

季節は秋かな

厚いけど、陽射しはどことなく柔かく感じる。

僕たちは廃屋や廃校で寝泊まりを続けながら旅を続けた。

律(こんなに廃屋や廃校があること自体が異常なんだなぁ~)

僕には大切な日課がある。

それは紬の治療。

治療といっても発症している箇所を清潔に保つために消毒をして包帯を替えるだけなんだけど...

そのためには紬は上半身の衣類を脱がなければならない。

僕はおそらく上半身が裸であるであろう紬を見ないように目を閉じて消毒をして包帯を替える。

今でも恥ずかしい。多分これからも恥ずかしいだろうなぁ~

そんな旅をつづけいていたある日、

紬「なんだか、お尻が痛い。」

律「ん?」

律「そう言えば、自転車が重たい。」

自転車を止めて、自転車を調べてたら。

律「あちゃ~」

律「パンクしてる」

どうりで重たいわけだ。

とにかく修理をしたいけど、見知らぬ土地な上、集落も全く見当たらない。

僕と紬はひとまず自転車を押して、休憩できる場所を探すことにした。



51 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/11(日) 21:08:35.72 ID:XZ411Qbz0

どれくらい歩いたかわからないけど、ようやく無人駅を見つけた。

ここなら雨露は凌げるので、紬に留まるように言って、僕は自転車を修理しに駅を後にした。

紬「...」

......

紬「...寂しい...」

紬「...律...」

紬「...本当に戻ってきてくれるの?...」

律「只今ぁ~」

律「待たせてごめん。」

紬「ううん...」

律「でも、ちょっとしたサプライズがあるんだ。」

紬「えっ?」

僕は紬に紙袋を渡し、紬はしばらくの間、身を隠し...

紬は再び僕の前に現れた。

紬は...

僕が買ってきたワンピースに身を包み、はにかみながら僕を見つめながら。

紬「どぅ?」

僕は呆気に取られ、しばらく何も言えなかった。

それほど紬は美しかった。

ようやく口からでた言葉は

律「とっても似合ってる!!は本当に綺麗だよ。」

紬は照れながら、消え入るような声で

紬「ありがとう」

僕はとっても幸せな気分になった。

この時間がずーっと続いて欲しいと思った。

けど、現実はそんなに甘くはなかった。



52 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/17(土) 18:20:18.73 ID:/Fwaq5NO0

僕たちはひたすら旅をつづけた。

紬は自転車の荷台にチョコンと座って、うれしそうにしている。

昼間は休みながら自転車で移動し、夜は廃屋に泊まる生活にもすっかりなれてしまった。

たまには、ゆっくりと畳の上ででも休みたいところだけど、

感染者もいる二人組を泊めてくれるような場所はあるわけもなく、

夜を過ごす場所を探すには一苦労する。

そして今夜も廃屋に泊まることになった。

そして、いつものように紬の手当て...

相変わらず、僕は紬の体を見ることができないから、目をつむりながら包帯の交換をする。

律(あれ?右手の状態がひどくなってないか?)

と思っても、目はあけられない。

包帯の交換は大変だけど、僕と紬が直接肌を触れることができる貴重な時間だ。

でも、今日の異変は気になる。



53 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/17(土) 18:28:43.26 ID:/Fwaq5NO0

でも、それは覚悟の上だ。

ところで季節は晩秋といってもいい頃になった。

時計もカレンダーもないけど、夜の冷え込みはさすがに堪える。

僕は廃屋から失敬した毛布を紬にかけ、紬はうれしそうに毛布を身に纏い眠りについた。

僕も眠ろうと思ったけど、今夜の冷え込みはちょっと厳しい。

律(紬に心配かけちゃいけないから、我慢我慢)

そんなとき、紬が急に毛布を僕にかけたかと思うと、だまって僕によりそってきた。

律(暖ったかい)

律「紬?」

紬「......」

僕たち二人は寄り添いながら眠りに着いた。



54 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/17(土) 18:43:04.33 ID:/Fwaq5NO0

僕たちの旅は続き、紬も楽しそうだが紬の体調はあきらかに悪くなっている。

自転車での苛酷な旅、ベッドも布団もない場所での宿泊。

それでも、紬は不満を口にしない。

それどころか日を重ねるごとに笑顔が増えてきた。

初めて紬にあったときの無愛想と比べると雲泥の差だ。

律(今日はできるだけ広い場所で寝られるようにしよう)

せめて、手足を伸ばしてゆっくり寝られる場所をみつけようと決意した。

そんななかで、廃校らしき小学校を見つけることができた。

律「今夜はここに泊まろう」

紬「うん!!」

校内に入ると、僕も紬もなんとなくウキウキした気分になった。

紬「だれもいない学校に侵入するってワクワクするね?」

律「そうだね。それに広いし」

律「でも、広すぎるから夜は冷え込みそうだし。なるべく暖かい所を探そう。」

僕たちは窓や扉がしっかりしていて、隙間風が入らない教室を見つけ、

ひさびさに手足を思いっきり伸ばして眠った。



55 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/17(土) 19:00:35.17 ID:/Fwaq5NO0

翌朝、目を覚ましたら、紬の姿がなかった。

律(紬?)

僕は焦った。いや焦る前に紬を探し回った。

そして紬の姿はあっさりと見つけることができた。

それは思い当たるふしがあった講堂のステージの上だった。

前夜)
 紬「ねぇ?机を1卓講堂のステージの上に持っていってくれない?」
 律「え?別にいいけど...なんで?」
 紬「なんでもいいから」

律「どうしたんだよ急に!!心配したよ!!」

紬「ごめんなさい。でも、律に聞いてもらいたい歌があるのよ」

律「ここで?でも紬?紬はいつもピアノと一緒に歌ってたじゃないか。」

紬「ピアノはあるよ。」

律「えっ?」

紬「ほらっ!!これよ!!」

紬が指さした先には、昨日紬がステージに持っていって欲しいといってた1卓の机だった。

そういうやいなや、紬はピアノを弾くように机の上で指を踊らしはじめた。



56 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/17(土) 19:12:53.30 ID:/Fwaq5NO0

「さよなら」は言わないで欲しい♪
鍵のついた鳥かごそ抜けだして♪
つれてって~♪

折れた翼♪
身体に刺さってる♪
もう一度空を飛びたい高く♪

高く♪
空を♪
遠く♪
高く♪

紬は絞り出すような声で歌いだした。
その歌は紬の最後の願いでもあり、抵抗でもあるようだった。
そして、紬の指に導かれるようにピアノの音が聴こえてきた。


歌は続いた。



暗くて冷たい場所で育った♪
やさしさぬくもり悲しみ知った♪

ここじゃ君の姿が見えない♪
だから連れてって、ここから助けて♪

あなたに会いたかった♪
こんなにもふるえた♪
ひとつになりたい♪
言葉にならない♪

つれてって♪

つれてって♪



紬の思いがヒシヒシと伝わってくる。

僕は目を閉じて紬の歌声を聴いていた。

ずっと聴いていたい。このまま永遠に聴いていたい。



57 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/17(土) 19:56:35.09 ID:/Fwaq5NO0

ランラララランランラン♪
ララララララララン♪
ランララランランラララン♪

紬はスキャットを始めた。

絞り出すような弱々しい声だ。

でも、悲壮感はない。

それどころか未来に向かって生きていく決意をしているような声だった。

僕は目をつむったまま紬の声に聴き入った。

この瞬間を脳裏に焼き付けようとしていたのかもしれない。



ドサッ!!


突然、この場にふさわしくない音で僕は目を開けた。


そして、僕は僕が目にした光景に驚愕してしまった。

紬が右肩を左手でおさえている。

そして、

そして、その右腕の上腕部から下が無くなっている。

とっさに周辺を見渡したら、紬の腕が講堂に横たわっている。

律「......」

なんてことだ!!

紬の右腕が感染症のせいで朽ち落ちてしまった。

紬「私...私...」

紬「ピアノ弾けなくなっちゃった...」

僕はとっさに救急袋を取りに講堂を後にした。

律(はやく手当てをしなきゃ!!)

僕は救急袋を携えて講堂に戻った。

が、

律「つっ、紬?」

紬がいない!!

律「紬~!!紬~!!」

僕は紬を探し回った。一心不乱に探し回った。

そして校庭で跪いている紬を見つけた。

いそいでそばに駆け寄った。

律「紬!!」

紬「私、私...」

紬はただ泣きじゃくるだけだった。

律「......」

僕は何もできない...声ひとつかけることができない。

律(僕にできることはなんだ?)

律(今の紬に僕はなにをしてあげられるんだ?)

その時、僕は一辺のガラス片を見つけた。



58 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/17(土) 20:00:59.19 ID:/Fwaq5NO0

僕はガラス片を手に取り、それで左手の手首を切った。

血が流れ出した。

僕はそれを紬の口に近づけた。

紬はなにも言わずに、僕の手首から流れる血を飲み始めた。

紬「ありがとう!!ありがとう!!」

紬はそういいながら、僕に寄り添ってきた。

紬の肩をそっと抱く。

紬「ありがとう!!ありがとう!!」



59 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/17(土) 20:11:01.71 ID:/Fwaq5NO0

僕たちは旅を続けた。

紬は一時は落ち込んでいたけど、すぐに元気になった。

紬「こうなることはわかっていたし、それに今は律がいるから大丈夫」

僕は紬を守ることも救うこともできないけど、一緒にいることはできる。

それだけしかできない僕を紬はとても頼りにしてくれている。

紬「施設や病院にいたら孤独なまま死んでしまったと思うけど、今の私には律がいてくれる。」

紬「でも、本当に辛かったら、律は律で旅をしてね」

律「辛くなんかない!!僕は最後まで紬のそばにいるよ」

律「そのために旅にでたんじゃないか!!」

紬「,,,ありがとう」

と言うか言わないかのうちに紬は眠りについた。



60 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/17(土) 20:18:05.52 ID:/Fwaq5NO0

紬の衰弱が激しくなってきた。

意識はしっかりとしているけど、話すことも辛そうになってきた。

それでも旅を続けることを止めようとはしなかった。

紬「この病気は治らないし、病院に入っても病室に閉じ込められて死んでいくしかないの」

紬「だから、今が楽しいの...」

紬「律と一緒に旅をしていることが楽しいの」

紬「そして、一緒にいる一秒一秒が想い出なの」

そんな紬の想いを受け、僕も精一杯普通に振る舞った。



61 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/17(土) 20:39:34.38 ID:/Fwaq5NO0

季節は冬にさしかかったころだろう。

その夜は廃校に泊まることにした。

そこはつい最近廃校になったらしく、古物回収業者がいろいろなものを回収していた。

そんななか古ぼけたピアノだけが残されていた。

律「あの~このピアノはどうするんですか?」

業者「あん?これは廃棄だよ」

紬「おねがいがあるんです。」

律・業者「ん?」

紬「このピアノをあの浜辺に持っていってくれませんか?」

業者「えっ?」

紬「お願いします。お願いします!!」

紬がひたすら頭をさげた。

小汚い格好ながらも美少女な紬のお願いには業者も折れて

業者「やれやれ、わかったよ。あの浜までは運んでやるよ。」

業者「でも、回収期限は明日だから明日には回収するよ」

紬「ありがとうございます。ありがとうございます。」

浜辺におかれたピアノ。

ここは海なんだろうか?

それにしては海の匂いがしない。

紬は左手だけでピアノを弾いている。

合唱コンサートのときの流暢なピアノには及ばないものの、

魂を刻み込むように一音一音鍵盤を叩いている。

ふとピアノを離れ

紬「もういいよ」

律「そうか」

紬「うん」

僕たちは廃校に残っていた灯油をピアノにかけ、そして火を放った。

燃え上がるピアノ。

律(この炎の力強さが僕にあれば、紬にあれば)

紬は僕に寄り添いながら燃え上がるピアノを眺めている。

そしていきなり

「さよなら」は言わないで欲しい♪

と歌い出した

あの時からさらにか弱くなった声で...

それでも紬は歌いつづけた。

声はさらに弱まっていく。

僕は紬の声を必死に聴いていた。

脳裏に焼き付けなければいけないから...


ランラララランランラン♪
ララララララランラララン♪
...



62 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/17(土) 20:43:43.33 ID:/Fwaq5NO0

あとがき)
 BlueBird ははやくソフト化して欲しいです。
 Ghost Of Yeasterday よりも良い作品だと思うのですが、
 CO2 だとだめなんでしょうかねぇ~
 大阪ローカルでもいいからソフト化して欲しいもんです。
 ,,,Planet 1 の館長には雑談では話してるんですけど。
 寿美菜子さんが有名になればソフト化されてもいいと思ってるんですが、
 まだまだですかねぇ~ 




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[ 2011/09/29 00:43 ] 非日常系 | | CM(0)

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