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唯「犯人は……わたしだ!」#前編 【ミステリィ】


唯「犯人は……わたしだ!」 より
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1269310851/
唯「犯人は……わたしだ!!」 より
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1269410471/

唯「犯人は……わたしだ!」#前編
唯「犯人は……わたしだ!」#後編




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 11:20:51.60 ID:LJB9wWgB0

わたしは最近人にイタズラをよくする。
そのされた人のリアクションを見るのが好きというそれだけの理由なのだけど。





4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 11:25:21.23 ID:LJB9wWgB0

授業前にすべてのチョークとお弁当のウインナーを入れ替えておいた。
澪ちゃんの下駄箱に大量のラブレター(全部わたしの手書き)をつっこんでおいた。
ムギちゃんに好きですつきあってくださいと告白した。

ほかにも色々あるんだけれど、あんまりつまびらかにするとわたしという人間が
誤解されそうなのでとりあえずこれくらいにとどめておこうと思う。ていうかすでに学校では、
けっこうなうわさになっているらしく、たしか『学校連続珍事件!』みたいな名前までついていた。

いやあ、わたしも立派になったもんだなあ。

しかし、最近はみんなのリアクションもだいたい読めてしまうため少々退屈だった。
そこで、わたしは幼なじみであり親友でもある和ちゃんに相談することにした。



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 11:29:54.33 ID:LJB9wWgB0

♪夏休み某日・平沢宅・リビング

和「それでどうしたの?」

和ちゃんは、私が用意したレーズンパイを頬張りつつ聞いてきた。

唯「うん、実はというとね……」

相談といっても自分の今までのよくない行いがばれるのは、さすがの
わたしでもマズイと思ったのでメチャクチャかいつまんで話すことにした。
まして相手は生徒会役員だ。

唯「いまわたし刺激に飢えているんです!」

和「……」

唯「なんかリアクションしてよ~」



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 11:36:27.18 ID:LJB9wWgB0

和「いや、まさか家にまで呼び出して相談することだから、
  よっぽどのことなのかと思ったけど。急にそんなことを言われてもね」

唯「いや、なんて言えばいいのかな……そう、なんか物足りないんだ」

和「……さっきとあんまり変わってないけどなんとなく言いたいことはわかったわ」

唯「さすが、和ちゃん!」



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 11:45:59.45 ID:LJB9wWgB0


和「恋でもしたら?」

唯「ぐ……っ!」

飲んでいた紅茶をはき出しそうになった。

和「どうしたのよ?」

唯「…………実はというとわたくし、つきあっている人がいるんです」

和「え……?ほんとに?」



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 11:56:31.51 ID:LJB9wWgB0

唯「その……………………ムギちゃんと」

和「へえ彼女と……っておい」

なかなか鋭いツッコミを食らった。またもや紅茶をはき出しそうになる。

唯「落ち着いてきいておくんだましい」

和「あんたが落ち着きなさい」



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 12:03:02.33 ID:LJB9wWgB0

唯「えーと、そのね。ちょっとした冗談でムギちゃんに告白したんだ」

本当は自分で自分のことをほめたくなるようなハクシンの演技で告白したのだけど。
しかも場所は体育館裏。
わたしとは思えないほどぬかりがなさすぎた。

和「それで?」

唯「オーケーされちゃったんだ」

和「へえ。自業自得、因果応報ね」

唯「ちがうんだよ!そのあとちゃんとあやまったんだよ!」



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 12:08:06.59 ID:LJB9wWgB0

和「なんて?」

唯「すみません調子に乗りましたどうかゆるしてくださいって」

そう、確かにわたしは謝罪したのだ。セーシンセーイ謝った……のだけど。

『謝らないで。女の子どうしに理解のある国があるわ。いつかそこへかけおちしましょ』

唯「って言われて……」

和「それこそ冗談じゃないの?」



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 12:14:36.86 ID:LJB9wWgB0

言われてみればムギちゃんとわたしの関係は文字通り何も変わっていない。
別にイチャイチャしたりするわけでもないし、夜中に電話したりするわけでもない。
共通の秘密をもっているわけでもない。

あまり深く考えないことにしよう。

話題ちぇんじ。

唯「ねえ、ほかになんかない? 生活をガラリと変えちゃうようなさ」

和「うーん、生活習慣を変えるところからはじめたら?」

唯「たとえばたとえば?」

和「妹に頼りっぱなしの生活を変えたら?」

唯「…………」

それは無理な相談だった。憂はわたしにとって言うならば酸素であり、
水であり母なる大地であるのだ。憂あるゆえに唯あり!ってね。



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 12:21:53.45 ID:LJB9wWgB0

唯「うん、それは無理だよ!」

和「でしょうね。でもまじめな話、あんた、このままだと本当にひとりになった
とき泣きを見ることになりそうね」

憂がいなかったら、か。でも憂がいなくなるというのはどういうシチュエーションなのだろう。
私が大人になってひとり暮らしをはじめるとか?

ありえなくはない。でもそれはまだ先のことなのでよくわからない。

じゃあわたしと憂がケンカする。そしてわたしが家出する、というのは……ケンカした
ことがないわけではないけれど、最後にケンカしたのがいつか思い出せない。
このあたりこれもまず考えなくていいだろう。

案外思いつかない。

あるいは、わたしたち姉妹のどちらかが事故にあう。トラックに轢かれるとか。
他界するというのは……まあ、ケンカする確率よりは高いかもしれない。



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 12:27:50.87 ID:LJB9wWgB0

唯「……!」

いや、テキトーに考えていたけれどこれを事故ではなく死……
もっと別の死に置きかえればどうだろう。
そう、たとえば殺人。

殺人、さつじん、サツジン――

和「……唯?」

なんだ。すごくかんたん。何よりこれは確実に人間をおどろかせることができる。
しかも、たぶん今まで自分が見たこともないような顔を見ることも。
想像しただけで口許が自然とゆるんでしまうのを感じる。

和「どうしたの?」

唯「ううん、ありがとね和ちゃん!」

和「別になにもしてないけど?」



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 12:32:53.84 ID:LJB9wWgB0

後はその方法を考えるだけだ。
幸い夏休みはまだまだたっぷりある。だらだらしつつアイスでも食べつつじっくり考えよう。

あ、そうだ。

唯「今日和ちゃん家に泊まっていかない?」

和「別にいいけど……急な話ね。唯の家に迷惑にならない?」

唯「だいじょーぶ。ふふ、今夜は和ちゃんにイタズラしよっと」

後半は口の中だけで呟いた。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 12:39:47.59 ID:LJB9wWgB0

♪某日・夜・とある孤島の別荘の広間

さてさて今わたしこと平沢唯がどこにいるのかというと、それはムギちゃんの別荘。

二学期の大イベントのひとつである文化祭を終えて、みんなで打ち上げをしようという
ことになった。今回は和ちゃんと憂も参加している。

ただし、さわちゃん先生は仕事が忙しいということで、来ていない。好都合だった。

紬「今回は打ち上げってことでお父様に無理を言って一番大きい別荘を借りたの」

ムギちゃんの言った一番大きいというのは本当に大きいもので、
その別荘を見たわたしを含めたみんなが、あぜんとしてしまった。

律「しかし、疲れたな~。つうか眠い」

澪「さすがにわたしも少し休憩したい」

梓「同じく……」



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 12:45:18.70 ID:LJB9wWgB0

デザートのケーキを食べ終わった後のことだった。

みんな今ごろになって疲れを実感しだしたのか、りっちゃん、澪ちゃん、
あずにゃんは床に寝転がってしまった。

まあ、それもそのはずだよね。
ここに至るまでの道のりはそれなりにハードだったし。

着いた後は後先考えず、遊びほうけた。海の時期はすでに終わっていたので
普段とは違う遊びをして時間をすごした(別荘にはカラオケルームや
レクリエーションルームがあって遊びには困らなかった。さすがムギちゃんちの別荘)。

夕食を終えた後は、お風呂にみんなで仲良く入った(これまたすごい大浴場だった)。

そしてデザートタイム――今まさにそれを終えた。

その後の予定は、わたしたち軽音部の演奏会だった。
今回はゲストとして憂と和ちゃんも来ていることだし、
せっかくなので演奏することにした。

ただし、少々休憩を挟むことにした。みんなが疲れていることへの配慮だった。

和「今が八時手前だから二時間くらいしたらはじめればいいんじゃない?」



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 12:49:30.21 ID:LJB9wWgB0

憂「明日にしたほうがいいんじゃないですか? みなさん疲れきってるし」

床に寝そべっている三人のことを言っているのだろう。
憂自身も眠たそうにまぶたをこすっている。

紬「う~ん、たしかにみんな疲れているけど今回は二泊三日で時間があまりないし、
  明日はまた別のことをしようと思ってて」

憂「そうですか……」

和「まあ、みんな若いんだしすこし休憩すれば大丈夫よ」

とりあえず憂も納得したのかソファーに腰をかけた。憂も疲れているのだろう。


しばらくするとわたし、ムギちゃん、和ちゃん以外のみんなの寝息が聞こえ始めた。

さてそろそろいい頃合いだ。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 12:57:27.30 ID:LJB9wWgB0

唯「和ちゃん、ちょっといい?荷物置きに行きたいんだけどひとりだと怖いから……」

演技だ。ここから荷物が置いてある部屋の距離はほとんどないに等しい。
しかも、廊下には明かりがきちんと灯っている。

和「いいわよ。ちょうどわたしも化粧水とりにいこうと思ってたから」

唯「ムギちゃん、ちょっといってくるね」

紬「……うん」

ムギちゃんはどこからか取り出したカメラでみんなの寝顔を取るのに夢中になっていた。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 13:00:54.17 ID:LJB9wWgB0


その荷物置き場にしていた部屋もまた大きな部屋だった。

ちょうどいいぐらいに月明かりがさしこんでいて、
中央に置いてある大きなテーブルを照らしていた。
おかげで電気をつけなくてもよかった。

唯「月がきれいだね~」

和「そうね。けれど明日から天気が崩れるみたいだけどね」

空を眺めてみればブキミな分厚い雲がまもなく月にかかろうとしているのが見てとれた。

唯「ああ、だから今日はむし暑かったんだね」

和「ていうか冷静に考えたら大して距離ないんだから怖くもなんともないわね」

唯「まあね。だいたいこんな小島には私たちぐらいしかいないだろうしね」

荷物は一箇所に固めておこうということで、この場所に置かれている。

唯「和ちゃん。少しおしゃべりしようよ。ひさびさにふたりっきりになったしさ」

和「言われてみればそうかもね」



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 13:06:36.93 ID:LJB9wWgB0

それからわたしたちは最近のできごとから、進路の話などとにかくいろいろなことを話した。

こうやって友達とおしゃべりしていてまさか、その友達に殺されるなんて思わないんだろうな。
普通だったら誰だって考えない。

わたしだって。

おそらく和ちゃんだって……


時間はいつのまにか過ぎていった。


――そして、わたしは和ちゃんを殺した。

唯「……ふぅ」



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 13:16:18.40 ID:LJB9wWgB0

予想していたよりは落ち着いてい行動できた。

予定したとおり、和ちゃんの死体をセッティングする。

あせってはいけない。でも急がなければならない。
この時点で“犯行”がバレてしまえばすべての目標が達成できない。

部屋を暗くする。視界が黒く塗りつぶされる。
いつのまにか月に雲がかかっていた。耳を澄ますまでもなく雨音が聞こえる。かなり強いようだ。

唯「バイバイ和ちゃん」

逃げるように部屋を後にした。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 13:20:49.06 ID:LJB9wWgB0

幸い普通に部屋には戻ることができた。

紬「あれ? いつのまに戻ってきたの?」

唯「今だよ」

思わず嘘をついてしまった。本当はこの部屋に戻ってきてから十分近く経過している。
戻ってきてすぐにムギちゃんに声をかけようとしたのだけれど、

紬『幸せすぎて怖いわ』

とかデジカメの映像を見てわたしにはいまいち理解できないことをつぶやきながら
うっとりしているので、しばらく声をかけられなかった。

唯「にしてもみんな起きないね」

紬「そうね。やっぱりみんな疲れちゃったのかしら」

唯「ムギちゃんは疲れてないの?」

紬「私は大丈夫よ」

唯「ムギちゃんってなにげに力持ちだし体力もあるよねえ」

紬「そうかしら?普通だと思うけど」

自覚はないらしい。



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 13:26:04.62 ID:LJB9wWgB0

紬「八時五十分……もうすぐ九時になるわね」

ふとムギちゃんが壁にかかっている時計に目をやった。

唯「もうそんな時間か」

紬「唯ちゃん、まだ起きないけど今日本当にするの?」



唯「うん、みんなが起きたらね」

しかし、どう見ても起きそうにない。まあ、それもそうか。
とりあえず、まずは憂から起こそう。

いつもと立場が逆だけどたまにはいいよね。



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 13:28:52.71 ID:LJB9wWgB0

その後なかなか起きないみんなに苦戦しつつもなんとか起こすことに成功した
(ムギちゃんがみんなの耳に息を吹きかけるといいというアドバイスのおかげだった)。

律「あ~、まだなんか頭がボーっとするな」

梓「う~~~私は耳がうずうずします」

憂「やっぱ、ちょっとはしゃぎすぎたのかな」

三人はいかにも眠たそうな表情だった。

澪「大丈夫か三人とも?」

澪ちゃんは対照的に元気そうだった。
眠ったおかげで疲れがとれたのだろうか。寝起きも他の三人とは違いすぐに目を覚ました。

律「この後なにするんだっけ?」

澪「演奏だろ」

律「その前に顔洗わせてくれ~。まぶたが重くてあけられない」

憂「わたしも……紬さん洗面所ってどこにありますか?」

紬「ああ、それならあの通路の一番奥よ」

ムギちゃんが指をさしたのは
--わたしと和ちゃんがしゃべっていた荷物置き場と間逆の左方向だった。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 13:36:10.16 ID:LJB9wWgB0


十分ぐらいして洗面所から澪ちゃん以外の寝ていた組が、顔を洗って戻ってきた。

律「おお、だいぶ目が冴えてきたぞ」

唯「りっちゃん隊員!イイ演奏はできそうですか!?」

律「ふふふ……今のわたしのデコを見てみな唯隊員」

唯「まぶしくて見れません!」

律「なら大丈夫だ!今日はいつも以上の演奏ができるぞ!」

パラメータもといデコメータだった。
さきほどまで鈍い光を放っていた、りっちゃんのおでこは
今や直視できないほどのカガヤきを放っていた。

憂「あのーところで和さんはどうしたんですか」

ようやく聞いてくれたかラブリーシスター。

なかなか誰も和ちゃんにふれないせいで、もう自分から言い出そうかと思っていたところだった。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 13:44:41.45 ID:LJB9wWgB0

唯「あ……そうだった!」

わざとらしかったかな。まあだいたいわたしのリアクションといえばこんな感じのはず。

律「どうしたんだよ唯?」

唯「実はというとね、さっきみんなが寝ているときに
  和ちゃんとこの別荘の探検してたんだけど、はぐれちゃって」

紬「荷物を置きに言ったんじゃないの?」

唯「うん。最初はそのはずだったんだけどね。みんな寝てるし、面白そうだからって」

もちろん、荷物を置きにいく以外の下りは真っ赤なウソ。

律「普通だったら信じられない話だけど、ここは恐ろしいほど広いし、
  何より唯だし、で意外と納得できちゃったな」

梓「まあ、唯先輩ですからね」

唯「納得しないでよっ」

……いや、納得してくれてありがとう。今だけは日ごろの自分の行いに感謝しよう。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 13:47:36.86 ID:LJB9wWgB0


梓「どこではぐれちゃったんですか?」

唯「いや~、正確には覚えてないんだけど二十分くらい前かな?
  四階か五階あたりかをうろうろしてたところで急に和ちゃんがいなくなっちゃて」

澪「それで、ギブアップしてここに戻ってきたのか?」

唯「もしかしたら和ちゃん、ここにいると思ってきたんだけど……」

梓「結局いなかった、ということですか?」

唯「うん……」

紬「探しにいったほうがいいかもしれないわね」

澪「うん、たしかに……」

唯「善は急げ!和ちゃんを探しにいこう!」



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 13:55:18.38 ID:LJB9wWgB0

最初にわたしたちがむかったのはすぐとなりにある荷物を置いた部屋だった。
この部屋が一番近いから、とわたしが提案した。

扉を開く。

律「なんかここ寒くない?」

雨音がさっきよりもはるかに大きく聞こえた。
もしかして窓を開けっぱなしにしていたのだろうか。
気が動転していたのか、戸締りについてはよく覚えていない。

どっちでもいいや。

何かが劇的に変わるわけではない。気にしないことにした。

唯「電気つけるよ……って、電気つかない」

律「あっ……あああぁ」
梓「う……そっ」

しかし電気は必要はなかった。廊下からさした光によってそれは十分にうかがえた。


――和ちゃんの死体。



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 13:58:50.73 ID:LJB9wWgB0

いささか広すぎる気もするその部屋の中央にあるテーブル。
木製のテーブル。それにかぶさる白いテーブルクロス。
赤いものが飛び散っていた。そこに置かれた和ちゃん。和ちゃんの首。

りっちゃんもあずにゃんも悲鳴をあげて目をそむける。
あずにゃんにいたっては床に座りこんでしまっている。
憂は声にならない声を漏らして、口許を押さえていた。

カチカチと音がする。何だろうこの音は。
耳をすます。すぐにわかった。あずにゃんのものだった。
歯と歯が奏でる音。ああ、人間って恐怖にさらされると本当にこんなふうになってしまうのか。

わたしの少ないボキャブラリーでは語りたくても語れないものがそこにはあった。

ここまでした甲斐があった――感嘆のため息をつきかけたとき。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 14:03:41.83 ID:LJB9wWgB0

「いやああああああああああああ」

耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。
いつか手順を誤ってアンプからギターを抜いたときのことを思い出す。
悲鳴の主は澪ちゃんだ。振り返ってみると、澪ちゃんは廊下の角に消えようとしていた。

紬「澪ちゃん!?」

澪ちゃんはすでに見えなくなってしまっていた。なんて足が速いのだろう。
しかし、わたしはそれを無視した。混乱して気づかないという振りをした。

床にうずくまって和ちゃん和ちゃん和ちゃんと壊れたようにつぶやく。

わたしだけ冷静なんておかしいことこの上ないのでせいぜい演技する。

憂「お姉ちゃん!しっかりして!」

憂の声がした。そうだ。この妹は見かけ以上にずっとしたたかだ。
ぎりぎりのところで、恐怖に打ち勝ったのだろう。
もっともそれは決して冷静という意味ではないと思う。

まあ、なにはともあれとりあえずは成功だろう。

ぴーす。



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 14:08:41.17 ID:LJB9wWgB0

♪別荘の広間

あの後、わたしも含めみんなは部屋からすぐに出た。


ムギちゃんがみんなに出したのはミネラルウォーターだった。
普段ならわたしたちのテーブルに並ぶのは紅茶だけど、
今この場においてはその水は一番ふさわしいように思えた。

みんなが口をつけたのを確認してわたしも飲んだ。

唯「……」

みんながみんな、わたしも含めてうつむいて会話を交わそうともしない。沈黙が痛い。
窓を叩く雨音がいやに耳についた。先ほどよりも雨音が強くなっている。

紬「そういえば、もうすぐ台風が来るそうね……」

返事はない。ノーリアクションだった。

こうなることくらい予想はできてはいた。無理もない。なにせ人がひとり死んだのだから。

水を飲み干して席を立つ。



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 14:14:08.16 ID:LJB9wWgB0


紬「どこへ行くの?」

唯「澪ちゃんをさがしてくる」

あれから発狂した澪ちゃんは戻ってきていなかった。

律「まって!私も行く」

唯「りっちゃん……大丈夫?」

聞くまでもなくその表情は大丈夫からは程遠かった。顔色が悪い。

額の輝きが曇ってしまっている。

律「わたしは大丈夫だって。唯のほうこそ……」

みなまで言わなくても何を言いたいのかはわかった。
そう。今のわたしは大切な幼なじみを失ってしまった、カワイそうな少女だった。

いや、ホントにかわいそうなのは和ちゃんだけどね。

唯「それよりも澪ちゃんをさがしに行こう」

律「……そうだな」

和ちゃんの死を考えないようにしている。そういうふうに見えるように演技しておこう。



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 14:19:24.45 ID:LJB9wWgB0

♪とある部屋の扉の前

澪『コワクナイコワクナイコワクナイコワクナイコワクナイコワクナイコワクナイコワクナイコワクナイ
  コワクナイコワクナイコワクナイコワクナイコワクナイコワクナイコワクナイコワクナイコワクナイ
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53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 14:32:07.11 ID:LJB9wWgB0


こわいよ!

扉が閉じられた部屋の中から女の子のつぶやく声が延々と続く。

唯「……」
律「……」

部屋を出て五分もかからないうちに澪ちゃんがいる場所はわかった。

この部屋のドアだけはほかの部屋のドアと少々違った。

造りが違うのだ。壁とドアにそれぞれに、穴のついた出っ張りがあって、
そこに南京錠をするだけという非常に原始的なもの……
うまく説明できないので、小学校にある飼育小屋のものを思い浮かべてほしい。

南京錠はドアのすぐそばの床に転がっていた。

りっちゃんはそれに気づいていないのだろう。ためらいもなくドアを開いた。

律「澪入るぞー……って真っ暗じゃん」

澪「だ、だれ!?」

律「落ち着けって、私だよ」



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 14:35:35.62 ID:LJB9wWgB0

暗闇から現れた澪ちゃんの顔は恐怖のあまり引きつっていた。
澪ちゃんの形相も十分に怖いのだけれど。

律「ていうかなんでこんな暗いところにいるんだよ?」
澪「うるさいうるさいうるさい!」

耳をふさいでしゃがみこんで、こちらを見ようともしない。
取りつく島もないとはこのことだった。仕方がないのでわたしは部屋の明かりをつけた。
しかし、照明は切れかかっているのか、先ほどと大して差はない。

目が暗闇に慣れ始めて、改めて部屋の中を見渡す。

この部屋のドアがどうしてほかと造りが違うのかは、一度見ればわかることだった。

この部屋は物置だった。

窓すらない。完璧な密室空間だった。様々なものが置いてある。

ノコギリに斧。他にもトンカチや電動ドリルなどもあった。こんな別荘で何に使うのだろう。

律「なあ、澪……」
澪「うるさい!何度も言わせるな!」

相変わらず問答は続いていた。りっちゃんひとりでは気の毒なので、加勢することにした。


唯「みんなのいる部屋にもどろうよ、澪ちゃん」



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 14:42:12.30 ID:LJB9wWgB0


澪「いやだいやだ!ここから私は絶対出ないからな」

律「何でだよ!?」

澪「うるさい!和は殺されたんだぞ!首を……切られて。
  こんな、こんな殺人鬼のいる別荘なんかにいられるか!
  私はひとりでこの部屋に閉じこもっているからな!」

絶対出ないぞ、と澪ちゃんはりっちゃんとわたしを威嚇する。ふと、部屋の内側の扉をふり返る。
外側と造りはまったく一緒だった。ただし、こちらには南京錠はついていない。

つまり、中からはカギがかけられないということ。
まあ、そうでなければわたしたちがこの部屋に入ることは不可能だったから当然の話だけど。


りっちゃんは必死に澪ちゃんを連れ戻そうとうったえた。
しかし、普段のりっちゃんなら腕力にまかせて無理やり連れ戻すはずなのに、
今日はそれをしようとはしない。


律「……もういい勝手にしろっ! どうなってもしらないからな!」



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 14:48:13.91 ID:LJB9wWgB0

張り上げた声にも力が足りない。よく見れば足元がおぼつかないのか、ふらふらしている。

律「みんなの部屋にもどろう、唯」

唯「え?でも……」

律「いいから!ほっとけあんなヤツ」

普段のりっちゃんだったら意地でも澪ちゃんを連れて行っているところだろう。

しかし、今は――

唯「りっちゃん大丈夫!?」

律「ああ、大丈夫。ちょっとよろけただけだから」

まあ、どうせ明日には首だけになっている澪ちゃんよりも、
今は目の前の友達を気づかうことにしよう。



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 14:58:25.29 ID:LJB9wWgB0

♪次の日・別荘・広間

わたしを含めてみんなが目覚めたのは、すでに十一時を回っていた
(ムギちゃんだけは先に目を覚ましていた)。
早めに床についたにも関わらず、起きるのが遅くなってしまった。

みんなのあまりのリアクションに興奮していたせいでなかなか寝つけなかったからだ。
そしてそれが明日も見れるのかと思うと、胸が熱くなる。

もとから早く起きることなんてあんまりないけれど。

紬「おはよう唯ちゃん」

唯「おはよお、ムギちゃん。わたしも起きたからみんなも起こそっか?」

紬「もう少し寝かせてあげたほうがいいんじゃない?昨日のアレもあるし」

唯「本当はそうしたいけど、まだ終わってないし」

紬「たしかに」

唯「じゃあ、よろしく。わたし顔洗ってくるね」

とりあえず、洗面所へ行くことにした。



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 15:03:22.94 ID:LJB9wWgB0

習慣にしている歯磨き、顔洗いをすませて広間に戻ったころにはみんなも起きていた。

しかし、りっちゃん、あずにゃん、
そして早起きが習慣化している憂すらも寝覚めこそ悪かったが、
表情を見る限りよく眠れたみたいだった。

布団を片付け、みんなで朝ごはんをとる。
会話はポツポツとしかなかった。和ちゃんについては誰も触れない。

梓「あの……澪先輩は?」

憂「そういえば……」

唯「ほんとだ!澪ちゃんの分のごはんもってかなきゃ」

紬「でも、澪ちゃんは……」

昨日の澪ちゃんについてはわたしからみんなに話した



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 15:06:13.79 ID:LJB9wWgB0

律「何言っても聞いてくれないかもしれないけどな……」

紬「そんなに酷い状態なの澪ちゃん?」

律「まあ……見ればわかると思うよ」

唯「でもでも!みんなで説得すれば澪ちゃんも出てきてくれるかもしれないよ?」

りっちゃんの顔を見る。一番澪ちゃんを心配しているのは彼女であることは言うまでもない。

それは名案だ、とりっちゃんが立ち上がった。心なしか先ほどより表情は明るい。


律「……そうだな。よしっ!そうとなりゃ行くぞ!」

もちろん誰も異をとなえなかった。



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 15:09:29.95 ID:LJB9wWgB0

♪別荘・物置部屋扉前

律「……何度呼びかけても澪からの返事はないし、扉も開かないし、どうなってんだ!?」

わたしたち全員が何度呼びかけても部屋から返事はなかった。業を煮やしたりっちゃんが
扉を開こうとしたものの、ほんのわずか動くだけで開く気配はない。

唯「りっちゃん、わたしがやってみるよ」

とは言ったものの、もちろんわたしにも無理だった。

その後にムギちゃんと憂とあずにゃんにもやってもらったけど、結果は変わらず。
みんなで扉を引っ張ろうにも、この部屋の扉のとってを引っ張れるのはひとりがせいぜいだった。

律「っだあ!! なんでここの扉だけこんな風になってんだよ!?」

梓「ムギ先輩。なんでここの扉だけこんなふうになっているんですか?」

紬「ここはね、物置だから普通の部屋とは違うの」

そうなんですか、とあずにゃんは納得したようだった。

憂「ところで、ここの部屋って中から鍵かけれるんですか?」

紬「かけることはできるわ。ただし、南京錠だけどね」

憂「それって……これですか?」



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 15:13:08.86 ID:LJB9wWgB0

憂が手のひらを見せた。思わずお手をしてしまった。

憂「お姉ちゃん……犬みたい」

唯「あははは……うん?」

冷たくて硬い感触。金属のそれだ。
手をどけて見れば今ちょうど話に出た南京錠が憂の手のひらにあった。

唯「どうしたの?これ」

憂「扉の前に落ちてたよ」

紬「ってことは……」

梓「中から鍵をかけるのは無理、ってことですか?」

紬「ここの南京錠にはいちおう予備もあるけど、私もそれがどこにあるかはよく知らないの」

唯「現時点ではこれ一個ってこと?」

紬「そうなるわね」

律「おい、澪!返事しろ、澪!」

りっちゃんが必死に扉を叩いているが、返事はない。



66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 15:17:14.15 ID:LJB9wWgB0


あずにゃんはみなまで言わなかった。いや、言えなかったんだと思う。

律「そんなわけあるかっ!」

もちろん、りっちゃんだってあずにゃんが何を言いたいのか、
そして言いたくないのかわからないわけがなかった。

鈍い音がした。りっちゃんが思いっきり扉を蹴ったのだ。
けれども女子高生の蹴りでは鉄製の扉はどうにもならなかった。

律「くそっ……!」

梓「どうにかならないんですかムギ先輩!?」

紬「……」


そろそろ頃合かな、そう思ったときだった。



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 15:21:58.59 ID:LJB9wWgB0

憂「……お姉ちゃん、なにか聞こえない?」

唯「今の音……なんかガラスが割れたような音だったよね!?」

みんなに聞こえるよう少々大げさにリアクションをした。みんなが注意がわたしにむかう。

梓「……そんな音聞こえました?」

律「そんなの、今はどうでもいいだろ」

紬「ねえ、みんなにひとつ聞きたいことがあるの」

ムギちゃんの顔は平生よりも白い。心なしか色のぬけた唇は震えているようにも見える。

紬「和さんは誰に殺されたと思う?」

今まで誰も触れなかったことだった。
誰かひとりくらい警察に連絡しようとしたりしたっていいはずなのに。
まあ、おそらく半分は人生で初めて見る死体に気が動転してしまったのだろう。
そして“もう半分”は――

紬「ここには間違いなく私たちしかいない。それは多分間違いない。でも……」

律「和は殺された……」



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 15:24:05.16 ID:LJB9wWgB0

梓「で、でもだったら……私たちしかいないなら誰が和先輩を……」

憂「私たち以外にこの孤島に人はいない。
  だとしたら私たちの誰かが犯人ってことになりますよね」

律「そんなわけあるかよ……私たちの中にそんなやつがいるわけ……」

りっちゃんの否定の言葉は最後まで続かなかった。

紬「唯ちゃん。さっき私もガラスが割れるような音が聞こえた」

唯「ホント?やっぱり音したよね?」

憂「…………」

梓「そんなこと今関係ないんじゃ……」

紬「そうかもしれない。でも、どちらにしようこのままじゃ進展も何も無いわ。
  それにもし私たち以外の誰かがここにいるとしたら……」

唯「誰かが窓ガラスを割って入ってきたのかもしれないよ」

憂「……でも私たち以外は誰もこの島にはいないんじゃないの?」

梓「そうですよ」

唯「でもわたしにはたしかに音聞こえたよ。ガラスが割れるような音」

憂「……お姉ちゃん。本当にそんな音だった?」



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 15:32:38.64 ID:LJB9wWgB0

唯「うん!こんな場面でさすがにわたしも冗談言わないよ」

憂「わかってる」

このままではラチがあかない。強引にとりあえずりっちゃんとあずにゃんの手をつかむ。

唯「とりあえず確かめに行こっ!」

律「なっ……澪は!?」

梓「そうですよ!澪先輩の按配を確かめてませんよ!」

二人の言葉を無視して走り出す。

唯「ムギちゃんが言ったとおり。とりあえず何か行動しよっ」

ムギちゃんにひっぱられるようにしてついて来る憂を確認して、わたしは目的の場所へ行くことにした。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 15:36:19.38 ID:LJB9wWgB0

♪別荘・広間の隣の部屋前

唯「音がしたのはここからだったと思う」

律「ここってよくわかったな」

梓「さっきの部屋からこの部屋までけっこうな距離ありますよね」

唯「わたし、耳はいいんだ」

憂「ってこの部屋って……」

憂が何かを言いかけたけれど、無視して扉を開いた。

律「――!」

梓「うそ……」

最後に見たときと明らかに部屋の様子が違った。

梓「私たちの荷物が荒らされてます!」

一目で見ればわかる違いだった。
わたしたち全員の荷物はみんな程度に違いはあるけれど、あらされていた。

次に目についたのは部屋の一番奥にある引き違い窓だった。
オセロの盤を思わせる格好のついた窓ガラスにはっきりとした異常があった。



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 15:40:31.84 ID:LJB9wWgB0

憂「窓ガラスが割れてる……」

憂の言ったとおりその右側の窓は真ん中のガラスがぽっかりと開いていた。
幸い豪雨にも関わらず風向きの関係で雨は入ってきていなかった。

唯「これは……この窓を割って誰か入ってきたってことかな?」

梓「そ、そんな……誰が?誰が私たちしかいないはずのこの別荘にいるっていうんですか!?」

紬「わからない。もちろんここには私たちしかいないはずよ。でも……」

律「現に私たちがいない間に誰かに窓ガラスが割られてる」

唯「ってことはやっぱりわたしたち以外に誰かいるってことじゃない?」

いよいよ複雑になってきた。
実際わたしがみんなの立場だったらとっくにメルトダウンしていたにちがいない。

憂「…………和さんはどこへ行ったの?」

鶴の一声とはこういうことを言うのかもしれない。憂の言葉に空気が文字通り凍りついた。

みんなの表情も霜が降りたかのように青ざめていた。



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 15:46:34.90 ID:LJB9wWgB0

律「和の……テーブルの上にあった和がいない!」

梓「まさか、ここから侵入した人が持ってたんじゃ……?」

空気がまたもや凍りつく。

紬「でもなんのために?」

梓「そんなの私にわかるわけありません」

律「ていうか本当に誰かが侵入していたとしたらヤバイんじゃないか?」

紬「そうね。和さんを殺したのはもしかしたらその人かもしれないし……」

唯「そ、そんな……」

そこで、わたしはいかにも今気づいたかのように叫んだ。

唯「だとしたらひとりでいる澪ちゃんも危ないよ!」

律「!!」

りっちゃんが目を見開いた。瞳孔が興奮によって開ききっているのが見てとれた。

すごくいい表情。

写真に収めたいなあ。



77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 15:51:47.64 ID:LJB9wWgB0

律「こうしちゃいられないっ」

どこへ、とは言わない。
さっきとは逆にわたしがりっちゃんに腕をつかまれた。
抗議の声を上げる間もなくひっぱられる。
足がもつれそうになる。

律「とにかく急ぐぞ!」


♪別荘・物置部屋・午後


どんなにがんばってもさっきまで開かなかった扉が、開いていた。

どうやって開けたのだろう。誰が開けたのだろう。みんなそう思っただろう。
しかし、そんなことは今のわたしたちにはささいなことだった。



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 15:54:33.09 ID:LJB9wWgB0

――昨日と同じでその物置部屋は暗かった。

律「…………」
梓「…………」
憂「…………」
紬「…………」
唯「…………」

ただ、昨日と決定的に違う点がある。

死体……首だけの死体がある。

律「み、お……?」

和ちゃんの死の状況と酷似していた。
昨日はなかったはずのテーブルが部屋の中央を陣取っていた。
テーブルクロスが敷かれている。
そしてその上にある顔。

澪ちゃんの顔。赤い点々がこびりついてる。


ドサッと音がした。りっちゃんがひざから崩れる音だった。

律「――――」

りっちゃんの絶叫が部屋にこだました。



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 15:59:23.24 ID:LJB9wWgB0

こっから律視点に変わります。



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 16:03:01.98 ID:LJB9wWgB0

♪広間・夜中・田井中律・編

雨が窓を叩く音で目が覚めた。からだを起こす。
わたしが寝ていたのはソファだった。
嫌な夢を見ていたような気がするが、明確には思い出せない。

律「つうか暗っ」

口に出すまでもなく真っ暗だった。いったいぜんたい今は何時だ?
いや、そもそもここはどこなんだろう。なぜか私の部屋じゃない気がした。
目に見えなくても雰囲気が明らかに違う。

律「ひざかゆっ……うわ、髪の毛ついているし」

ひざについている髪の毛をとる。私のものよりも短い。
不気味なナニかを暗示しているようだ。ポイする。

ようやく暗闇に目が順応しはじめたころ、思い出した。ここは私の家じゃなくて
ムギんちの別荘だ。同時に別の記憶もフラッシュバックする。

律「……っ!」

声をあげそうになったが、何とかこらえる。
恐怖の記憶に毛穴が一気に開くのがわかった。汗が吹き出る。気持ち悪い。額をぬぐう。
けれども震える吐息は抑えることはできなかった。



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 16:08:06.65 ID:LJB9wWgB0

不意に足音が聞こえた。無意識のうちに息を呑む。
そうだ。ここには私たち以外にも誰かいるかもしれないんだった。
扉がある方向を見る。
やっぱり、その足音はそこから聞こえてくる。

どうすればいい?

もし仮にわたしたち以外の誰かがこの別荘にいたとする。
そしてソイツは今この広間の扉の付近まで来ていたとしたとする。

ソイツはおそらく和と澪を殺している。だとすれば次に何をしようとする――

律「どうすりゃいいんだよっ……」

だめだ。全然頭が回転しない。
普段からそんなに働いてないんだからこんな緊急事態の時ぐらい働けよ。
なんのために毎日デコさらして日光浴させてると思ってんだよ。このカボチャ頭が。

――ガチャ

扉のノブが動いた。扉が開く。もはや私には何もできなかった。

開いた扉から現れたソイツの正体は――唯?




86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 16:16:16.25 ID:ccM3VzgY0

レッドラム!レッドラム!



87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 16:17:53.59 ID:dEjnOQiv0

マーダー!マーダー!





89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 16:21:22.37 ID:LJB9wWgB0

いや、違う――唯じゃない。


「律さん、起きてたんですね」

憂ちゃんだった。


♪広間の隣の部屋

とりあえず大浴場へ行って憂ちゃんと一緒にひとっぷろ浴びた。

律「しっかし、あの浴場をよく掃除しようと思ったな」

憂「その、手伝わせてしまってすみません」

律「ううん、気にしないでよ。まあいちおうこの別荘は借りものだし。
  普段からムギには世話になってるし」


そんな会話をしつつ彼女に連れられるまま、なぜかここに来ていた。

荷物場――もとい、ひとつ目の事件現場。



92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 16:26:49.80 ID:LJB9wWgB0

律「いちおう片付けたんだね」

荒らされていた荷物はいちおうまとめられていた。

憂「はい。さすがに気になったんで」
律「んで、なんで私をここに連れてきたの?」

理由なしで入るにはいささかここは居心地が悪すぎる。

憂「その前に」

律「その前に?」

憂「この部屋に違和感を感じませんでしたか?」

律「違和感?いや、特に何も感じないけど」

憂「私はここに入って電気をつけたときから感じてるんですけど……」

電気?
……そういえば、なんか変だな。たしか――

律「そういや、和を発見したときって確か電気つかなかったよね?」

憂「はい……私の記憶だと、そうです」

律「うん、私もパニックになってたけどたぶん、間違いない」



96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 16:32:32.79 ID:LJB9wWgB0

いや、でも待てよ。電気がつかないかどうか直接確かめたわけじゃない。
少なくとも私は電気のスイッチに触れてない。
じゃあ、私じゃない誰かが言ったんだ。
電気がつかないって。

律「でも、それって何か意味があるのか?」

憂「わかんないです。でもそれには案外深い意味があったのかもしれませんよ」

まるで探偵みたいな口ぶりだった。

律「そういや、警察には連絡したのか?」

憂「はい。律さんが気絶している間に紬さんが」

律「でもおまわりさんいないよ?」

憂「それが……」

ようは台風のせいでこの島に来るのは非常に困難なのだそうだ。
つまり小康状態になるか、台風が過ぎ去るまでの間、
私らはここで軟禁状態を強いられるということだ。

なんてこった!

律「ていうか普通人が死んでたら、真っ先に警察に連絡するよなあ」

なんで私たちはそれをしなかったのだろう。



98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 16:34:30.09 ID:LJB9wWgB0

憂「死体を見てパニックになっていたていうのもありますけど……」

律「我ながらなんかあのときはおかしかったな」

頭にモヤがかかっているみたいだった気がする。いや、今は今でもそんな感じなんだけど。

律「そういや酒飲んだときもあんな感じになるな」

憂「律さん、お酒飲むんですか?」

律「正月に親戚一同で集まったときとかにね。憂ちゃんは?」

憂「私は全然。それに酔っ払たらお姉ちゃんの面倒が見れないですし」

そこで不意に憂ちゃんは、何かに気づいたようにあごに手を当てた。

憂「部活でみなさんのお茶を淹れるのは紬さんなんですか?」

律「ん?まあ、なんかもうそういう習慣になってるからな」

初日のデザートタイムの時だってムギが紅茶を淹れていた。
実際ムギ以外のメンバーが淹れた紅茶って全然美味くないんだよな。

律「香りで違いがわかるな。ムギが淹れないと、まずそこから全然違うんだ」

一回、私がムギを真似てやってみたが、
あまりの味のちがいに少なからずショックを受けてしまった。

あれ以来、私は紅茶に関しては飲む専門になっている。



100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 16:40:00.88 ID:LJB9wWgB0

憂「へえ。紬さんってすごいんですね」

律「いやいや、憂ちゃんの料理の腕も相当なもんだろ?」

憂「えへへ、ありがとうございます」

律「どういたまして」

場が少し和んだ。気が和らぐのを感じる。

憂「匂い――」

律「え?」

憂「いえ、独り言です」

律「?」

その後も憂ちゃんと私は、警察の真似事でもするかのように部屋を物色しながら
この件について話を進めた。



101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 16:42:47.73 ID:LJB9wWgB0

梓と唯がこの状況にそうとう参っているとのこと
(二人して抱きしめあって寝ているらしい。ムギが喜んでそうだ)。

私が気絶している間に荒らされた荷物をみんなでチェックしたらしいが、
私たち全員のケータイが盗まれていたらしい。ケータイ以外は無事だったみたいだけど。
(なぜか和と澪のかばんからは着替えも盗まれていたらしい。犯人は変態か?)

犯人はなんで和の首を持ち去ったのか考えたが結局わからずじまいだということ
(まあ、女子高生がちょっと考えたぐらいで、
 犯人や犯人の真意が判るなら警察なんている意味がなくなってしまう)。

台風は明日の夕方には完璧に去るということ。

律「本当にこの豪雨は止むのかな?」

真ん中に穴の開いた窓ガラス越しに外を見る。雨もだが、雷もヤバイ。
澪あたりはきっと今夜みたいな天気だったら寝れなかっただろうな……


澪、澪、みお――



103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 16:51:17.98 ID:LJB9wWgB0

憂「大丈夫ですか?律さん」

律「あ……ああ、ごめんごめん。ちょっとな」

今だけは深く考えるのはやめよう。探偵ごっこでもして気をまぎらわしていないと、
とてもじゃないけどやっていられない。

律「そういえばここは雨が入ってこないな」

憂「風向きのおかげだと思います。それに立派なひさしもついていますしね」

なんとなく外の新鮮な空気が吸いたくなった。窓に近づく。開ける。いや、開かない。
カギを確かめる。おかしい。カギは外れている。

私の正面にある左側の窓はまるで固定されているかのように動かない。

律「あ、あれ?」

憂「ああ、それ左側の窓ははめ殺しになっているそうです。
  だから右側しか開かないって。紬さんが言ってました」

律「なんだそりゃ?変わってるな」

仕方ないので右側の窓を開ける――

律「え?」

なんだ?何か今すっごい違和感を感じた。



104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/23(火) 16:53:32.95 ID:LJB9wWgB0

たしかに、割られた窓ガラスは部屋の中にある。外側から割らなきゃこうはならない。

でもそれにしてもこれはおかしい。
三歩下がって窓全体を見てようやくその奇妙さ加減に気がついた。

思わず憂ちゃんの顔を見る。

憂「律さんもこの窓のおかしな状況に気づきましたか?」

律「うん」

予想通り、憂ちゃんもすでに気がついていた。
しかし、そうだとするとどうなのだろう。この奇妙な状態はいったい何を教えようとしているのか。

ようやく頭が回転しだそうとしたときだった――

憂「次はあっちの部屋へ行ってみましょう」

手がつかまれたと思ったときには憂ちゃんに引っ張られていた。
“できる妹”は私よりも事件のはるか先を見据えているようだった。




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唯「犯人は……わたしだ!」#前編
[ 2011/10/01 00:49 ] ミステリィ | | CM(0)

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