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唯紬「秋、夏、春、そして冬」#中編 【非日常系】


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唯紬「秋、夏、春、そして冬」#前編
唯紬「秋、夏、春、そして冬」#中編
唯紬「秋、夏、春、そして冬」#後編






75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 20:06:14.98 ID:eu45cZuv0

・         ・
     ・

私の知っている人の中で一番可愛いのはあずにゃんだと思う。
澪ちゃんも可愛いけど、一番綺麗って言った方がいいかな。

一番話が合うのはりっちゃん
りっちゃんとならずっとバカな話しをしてられる

一番安心できるのは和ちゃん
心の故郷って言ったら分かりやすい

一番甘えられるのは憂
妹だけど自然に甘えられる

……彼女はこのどのランクも一番じゃない
時々何で彼女と付き合ってるのか分からなくなる。
だって一緒にいても話はりっちゃんほど合わないし、緊張するし、
スキンシップなんて恥ずかしくて絶対できない。

彼女と一緒にいるときは全然いつもの私らしくないのだ。

けど…それでも一番に考えてしまうのが彼女の事で、こうやって別な人といても
ふとした瞬間に彼女の事ばかり考えてしまう。


「物思いにふけるなんて唯らしくないわね」

声の主は私が一番安心できて信頼している子。



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 20:10:32.35 ID:eu45cZuv0

唯「失礼な、私だっていろいろ悩んだりするんだよ」

和「ごめんなさい。これで機嫌を治してもらえるかしら?」

お盆の上にはケーキと紅茶がのっている

唯「よし、治りました~」

和「相変わらず調子いいんだから」

和ちゃんはニコッと笑い、私の分をわけてくれた。


―――――――
――

和「そういえばこうして唯と2人っきりになるのって久しぶりね」

唯「そうだね、私和ちゃんのお部屋に来たの2ヶ月振りだよ~」

中学の頃は頻繁に遊びに来ていたこの部屋はその頃から変わらず、

部屋の主と同じに私をあたたかく迎えてくれる

和「まあ私も唯も生徒会や部活忙しいもの、特に唯の方はね」

含みのある笑い方をする和ちゃんを見て、私はケーキを喉に詰まらせた

唯「ゴホゴホ…もう和ちゃん!!」

和「いいじゃない、本当の事なんだし」



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 20:15:57.31 ID:eu45cZuv0

唯「うぅ……」

和「それで、ムギとは順調なの?」

和ちゃんには私とムギちゃんの事を話していた。
付き合う前、私がこの感情を恋と理解する前から
苦しんでる私に気がついて助けてくれたのが和ちゃんだった。

和ちゃんには……と言うように、それ以外の人――軽音部のみんなや憂にもまだ話していない


唯「う~ん多分」

私はケーキを食べながら答える

和「歯切れ悪いわね」

唯「だって経験したことないからこれが順調なのかわからないんだもん」

和「それもそうね……ケンカとかするの?」

唯「……しょっちゅうする」

和「それは意外ね……
  唯もムギもぽわぽわしてるイメージあるから、そういうのとは無縁だと思ってたわ」


やっぱり意外だよね……
実際誰よりも自分が一番意外に思ってる。
私が昔イメージしていた誰かと付き合うっていうのは、毎日笑顔で楽くて、
全てがバラ色に見えるんだろうな、なんて思っていた。



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 20:19:30.01 ID:eu45cZuv0

だけど実際は悲しい事や辛い事もたくさんある……

特に彼女と喧嘩してる時がそうだ。
だったら喧嘩なんてしなければいいと思うのだけど、
子供のように何で分かってくれないの?と、不満に思いいじけたのも一度や二度ではない。

だからこそ軽音部のみんなには言えなかった。
今言ってしまったら、私はきっと彼女との問題を軽音部の問題にしてしまうから。
みんなに甘えて協力をあおぎ、解決しようとするかもしれない……
そうして部内を巻き込んでしまって、みんなにも迷惑をかけてる。

もしかしたら軽音部のみんなは優しいからそれでもいいと言ってくれるかもしれないけど、
私にとってはそれだけは絶対にしてはいけないことだった。

だからもう少し気持ちのコントロールができるまではみんなに黙っていようと思っている。
話せるのは当分先な気がするけど……


和「けど澪がね、最近唯は真面目になったって言ってたけど私もそう思うわ、
  遅刻ほとんどしてないでしょ?」

唯「まあ……」

和「部活も頑張ってるって聞くし、赤点はとらなくなったし、
  彼女と付き合って全部がいい方にむいてるじゃない?
  やっぱり大事な人ができると変わるものなのね」


確かに和ちゃんの言ってることは当たっている。憂に言われなくても起きるようになったし、
ギターも誉められることが多くなった。勉強も……まあ努力はしている。



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 20:21:52.23 ID:eu45cZuv0

けど私が真面目になろうとしているのは、あまり前向きな理由じゃない。

彼女と付き合えた――気持ちが向かい合った時、
本当に嬉しいと思えたし、それは人生最良の日と言っても良かった。

けど次に私を襲った気持ちは恐怖だった。

せっかく手に入れたものがなくなってしまう恐怖。
一度味わったものが失われるのは、一度も味あわないより辛い事だと思う、
だってそれは麻薬のようにすでに私を虜にしてしまっているから。

だから私は何とか失わないよう努力する事にした。
だって彼女は頭もよくて作曲までしていて、非の打ち所がなかったから

彼女の隣を歩ける人になろうと、
彼女が一緒にいて恥ずかしくない人になろうと勉強や部活をがんばった。

けど彼女の前に立つとどうしようもなく緊張して、
普段ならなんてことないお喋りやスキンシップですら、まともにとれなかったりする。

本当に私らしくない。

いつも思う。彼女はこんな私と一緒にいたくて付き合ってるわけではないんじゃないかって

だってそれは彼女が付き合う前に見ていた平沢唯とは真逆の女の子だから


和「どうしたの?」

私は和ちゃんを無視して考え事を耽ってしまっていたみたい

唯「ううん、何でもない」



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 20:24:56.94 ID:eu45cZuv0

和「……何かあるなら言っちゃいなさい。
  経験がない私じゃ大したアドバイスできないけど、話さないよりはマシかもしれないんだから」

唯「ありがとう和ちゃん……ねえ、私の良いとこってどこかな?」

和「唯の?う~ん……笑顔とかかしら?あとはそののんびりした雰囲気とか」

唯「……そっか」

だとしたら、やっぱりムギちゃんにとって私は全く魅力のない女の子になっちゃうな

和「はぁ~これはあくまで私の考える唯の良いとこなんだからそんなにへこんだ顔しないでよ。
  そんなもの相手の受け取り方で変わるものよ」

あからさまにへこんだ私に、和ちゃんが優しく声をかけてくれる。けど受け取り方って……

唯「どういう事?」

和「例えば私が思う唯の良いところを悪く言えば、いつもヘラヘラしてとろいって事でしょ」

唯「ひ、ひどいよ~」

和「だから悪く言えばよ。優しいっていうのも優柔不断や自主性がないとか、
  真面目っていうのも面白味がないとも言えるわよね」

唯「う~ん、そんなもんかな?」

和「まあ言い過ぎな部分はあるけどね。
  だけどムギには私とは違った唯の良いところが見えていているのかもしれないんだし、
  少なくともムギはあなたが好きだから付き合ってるんでしょ?そこには自信持ちなさい」

唯「うん……」



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 20:29:05.59 ID:eu45cZuv0

その後気をつかってくれたのか違う話題を振ってくれたけど、
私は和ちゃんの話が最後まで頭の中にくすぶっていた


――――――
――

家が近いという油断からすっかり帰るのが遅くなり、
憂からの心配の電話でやっと私は和ちゃんの家を後にした。
やはり和ちゃんの隣は時間を忘れるほど居心地がいい

外は時期的にはまだ春だけど、夜風に少しだけ夏の匂いが混じってる気がする。

私の良いところか……

和ちゃんに言われたことを考える。
直接ムギちゃんに聞くのが一番早いけど、
普通の状態で面と向かって自分の良いところなんて聞けるわけないよね


最近、澪ちゃんが恥ずかしがったりする気持ちが良くわかる、
次りっちゃんやさわちゃん先生が澪ちゃんをいじめていたら助けてあげよう

そんな事を考えてるとまた携帯がなった。

憂の心配症にも困ったものだと思って携帯を開くと、そこにはドキッとする名前が書かれていた


あっ私今ニヤついてる…

何だかんだ言っておいて、結局彼女からの連絡が嬉しいのだ、
この名前が表示されるだけで携帯の価値があがった気がする。



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 20:33:09.46 ID:eu45cZuv0

私は一度深く呼吸をして、通話ボタンを押した


唯「もしもし」

一瞬の間ですら焦れったい、早く彼女の声が聞きたかった


紬「紬です」

唯「うん」

もう少し普通に愛想良く話したいけど、
先ほどから心臓が痛いほどドキドキしてるから今回も無理そう

後ろから車の光が近づいて来たので、
道路の真ん中で突っ立ってた私は端へと避け、家の塀に体をあずけた。


紬「もしかしてまだ外?」

唯「うん。和ちゃんと遊んでて、その帰り道」

紬「和さんと……」

変な間が空く、もしかして勘違いさせてしまった?

唯「違うよ、和ちゃんとはそんなんじゃないからね」

とたんに携帯からクスッと笑い声が聞こえる。



87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 21:00:47.20 ID:uSH39SxU0

紬「分かってる。けど私が何も聞いてないのに言い訳するなんて逆に怪しいわよ」

またやられた……こうやって彼女は時々小さい意地悪をしかけてくる

唯「用あるんじゃないの?」

ムっとして、ちょっとキツい言い方になってしまう

紬「なかったら連絡しちゃいけない?」

唯「……別にそうじゃないけど」

紬「良かった」

口調から彼女の笑った顔を想像できて私は簡単に照れてしまう、本当にらしくない

唯「じゃあちょっと待ってて、お家に帰ってご飯食べたら私から連絡するから」

紬「ありがとう、けどその前にひとつ聞いておきたい事があって」

唯「何?」

紬「来週の土曜日なんだけど予定ある?」

唯「予定?部活あるんじゃない?」

紬「うん、多分夕方までは。それ以降なんだけど……」

遊ぶ予定だろうか?だったらわざわざ電話してくるなんて珍しい。
だって今日みたいにどうしても外せない用事以外の日は、一緒にいるのは当たり前になってるし、
私に関してはどうしても外せない用事なんてほとんどなかったから



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 21:03:22.87 ID:uSH39SxU0

ちなみに今日はムギちゃんのお父さんの誕生日があった為、遊ばなかった。
なんでも家でパーティーがおこなわれてるらしい


唯「多分暇だと思うよ」

紬「じゃあ一緒に来て欲しいところがあるんだけど……」

ムギちゃんの話し方が、いつもより歯切れの悪いものになっている気がする。
嫌な予感が湧いてきたので、携帯を強く握り締めた


唯「どこ?」

紬「……私のお家なの」

とりあえず携帯は落とさずにすんだ



――――――
――

この駅で降りるのは初めての事だった。
同じ車両から降りた人達は迷わず進んで行ったので、
降り口がわからなかった私はその後ろにくっついて歩く事にする。


途中大きな鏡がおいてあり、自分の姿が写し出される。
もっとかっちりした服を着てくれば良かったと後悔したけど、
私が持っている服でそれに唯一該当するのって制服なんだよね……



89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 21:09:35.38 ID:uSH39SxU0


これでも恥ずかしくならないように、家にある服を総動員して選んだものではあった。
それはお母さんの服や憂の服も例外ではなく、まさに総動員で。

服を選んでる時の憂の顔を思い出す。
彼女は貸すことには抵抗なかったみたいだけど、最後まで何か聞きたそうな顔をしていた。

それも当たり前か……
誰かの家にお泊まりに行くからって、
あんなに次から次へと洋服を着て感想を求められたら困惑するよね。


結局上着は一番のお気に入りの物を着て、
憂には靴とスカートを、お母さんには黙ってだけどネックレスを借りた。


家ではなかなかさまになってると思えていた服も、
こうやって見ると少し子供っぽ過ぎたかと心配になる。

けど今更家に帰るわけにもいかない

私は腹をくくり、諦めにも似た心境で彼女との待ち合わせ場所に歩みを早めた。


――――――
――

待ち合わせ場所に指定していた駅の入り口には
帰宅を急ぐ人でごった返していたけど、彼女はまだ着ていないようだった。
とりあえず遅刻はしなくてすんだ

それでも体は少し強ばっていて、自分でも緊張しているのがよくわかる
いつも以上に服を気をつけてたのもその為なんだろう。



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 21:13:57.59 ID:uSH39SxU0

だって彼女の家に呼ばれるのは初めての事だったから……

友達の時も、付き合ってからも、彼女のお家に行ったことはなかった。
彼女がどんな部屋で過ごしてるのか興味はあったけど、
漠然と彼女はそれを望んでないんじゃないかと思っていた。

それは彼女のお家が普通とはちょっと違うからなのか、
私達の関係が普通とはちょっと違うからなのか。

どんな理由でも結局のところ断られるのが怖かった私は、彼女が誘ってくるまで待とうと思っていて、
だから今回の突然の誘いに対しても真意が分からず、ただ行くことを了承しただけだった。


 「唯ちゃん」


横から声をかけられ顔を向けると、先ほど部活で会った時とは違い、私服に包まれた彼女が立っていた。

紬「ごめんね、待たせてしまって」

最後に別れてから2時間もたってないのに、何でこんなに嬉しくてたまらないんだろう。
今すぐにでも抱きつきたい気持ちをグッと我慢する

唯「待ってないよ、今来たとこだから」

紬「なら良かった。あら?そのスカート初めて見るわね」

気づいてくれた事が嬉しくて、顔がしまりのないものに変わるを必死に抑える

唯「憂に借りた」



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 21:19:04.11 ID:uSH39SxU0

紬「そうなの?可愛いわね」

こんなセリフで私の顔は簡単に熱くなる。
それを誤魔化す為、小さく息を吐きながら自分とは関係ない話題を探すことにした

唯「人けっこういるんだね」

紬「ええ、ここは住宅街だからこの時間は家に帰る人が多いのよ」

唯「ムギちゃんの家は遠いの?」

紬「少しね。普段はバスを利用してるんだけど、今日は車で来てるから」

唯「え!?」

自然と声のボリュームが二段階ほど上がってしまった

紬「どうしたの?」

唯「え……ううん何でもない」

紬「そう、じゃあここにいても何だし行きましょうか」


そういうと彼女は私を先導するように歩き始める。
ここまで車で来たって事はムギちゃん以外の誰かが運転してきたって事で、
それはもしかしたらムギちゃんのお家の人で……


紬「大丈夫?怖い顔してるわよ」

唯「うん……だ、大丈夫」



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 21:23:43.07 ID:uSH39SxU0

全然大丈夫ではない。
覚悟はしていた事だけど緊張する、だって相手は彼女の家族なんだから……

紬「あそこの車よ」

そこには黒くて長いピカピカした高級そうな車と、
その横にスーツを着た年配の男性がこちらを見て姿勢良く立っていた。

ゴクリと生唾を飲み込む

唯「あ、あれがムギちゃんのお父さん?」

紬「違うわよ、あれは執事の斎藤」

執事……お父さんじゃないのか……
少し緊張がとかれる。

………執事?

唯「ムギちゃんのお家って執事いるの!?」

紬「ええ、ほら車に乗りましょ」


ムギちゃんが男性に目をやると、何も言わずに車の扉が開けられた。
執事なんてものがこの世に存在していることに驚き、
その執事に命令してるのが自分と同い年のましてや恋人なのに尚驚きながら、
男性に頭を下げて車の中に足を踏み入れる。

車が静かに発進して、車なのにムギちゃんと向かい合いながら座っていても
私はただただ圧倒されてばかりいた。

別荘があったり、余らせるほどお菓子があったりと、
ムギちゃんのお家がお金持ちなのは知っていたけど、それは私の想像を越えていたようだ。



95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 21:26:20.70 ID:uSH39SxU0

紬「今日はありがとう」

唯「え?」

紬「来てくれて嬉しかった」

唯「え……あ…うん、いいよ」


何となくムギちゃんもいつもと違うように見える
車中の会話はいつも以上に続かないまま、目的地である彼女の家に到着早々と到着した。

彼女の家を見ても先ほどより驚かずにすんだ。
ただでさえムギちゃんが隣にいるのにこれ以上心臓に負担をかけたくない。

ただ驚かずにすんだのは、私が彼女の家を西洋のお城くらいはあるかもと覚悟していて、
実際は私の家の5倍くらいだけだったという話で大きいのに変わりはしなかった。

小さい頃なら巨人が出入りしてるんだと夢見できるほどの玄関をくぐると、
メイド服を着ている女性が2人立っている。


 「お帰りなさいませ、紬お嬢様」

まるで定規で計ったよう正確に、同じ角度でお辞儀をする女性が
一瞬ロボットかなにかなのではと疑ってしまう
彼女の家なら本当にありえそうで怖い

紬「ただいま、お母様は帰ってきてる?」

 「いえ、先ほど予定より少し遅くなると連絡がありました」

紬「そう、……お父様はいつも通りね?」



97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 21:35:43.70 ID:1fDivCfV0

 「はい」

メイドさんと話してる彼女は軽音部にいる時とも、私といる時とも違って少し冷たく感じた。

紬「唯ちゃんお腹減ってない?」

唯「うん、大丈夫…」

本当は少し減ってるけど、この場でそれを言うのは
自分だけが子供みたいで恥ずかしく言いだせないよ

紬「なら先に私の部屋に行きましょうか」

唯「あっ……うん」


靴を脱ごうとして彼女に止められる。どうやら脱がなくていいらしい
雨の日とか大丈夫なのかと心配になったけど、少なくてもどこもかしこもピカピカだった。

階段を二回上り、初対面のメイドさんと執事さんに一回ずつすれ違ってから
やっと彼女の部屋にたどり着いた。


紬「どうぞ、つまらない部屋だけど」

大きい扉が開けられる。
中はとても広く、高級そうなベットやソファが置かれていて雑誌に載っていそうな部屋だったけど
カーテンの色とかソファーの色とかが、彼女の趣味とは少し違う気がした。

しかし扉を開けた瞬間、部屋の中からフワリと彼女の匂いがして、
やっぱり彼女の部屋なんだと当たり前の事を考えていた。



98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 21:42:01.09 ID:1fDivCfV0

唯「綺麗な部屋だね」

ありきたりなセリフしかでてこない自分のボキャブラリーの無さが悲しくなる

紬「物がないだけよ。そっちのソファーに座ってて、すぐにお茶がくると思うから」

唯「うん」


ソファーはテーブルを挟んで二人掛けと三人掛けのものが対面に置かれていて、
私は促され三人掛けに彼女は二人掛けに座ると、
すぐにまた初対面のメイドさんがいい匂いの紅茶を運んできてくれた。
しかしメイドさんはいったい何人いるんだろう?

紅茶を一口飲むとやっと落ち着いた気がする。まるでいつもの部活のように

紬「どう美味しい?」

唯「うん……」

紬「あら?口にあわなかった?」

唯「いやそうじゃないよ、美味しいんだけど……」

―――思い出してしまっただけ

紬「何?」

唯「普段飲んでる方が私は好きかな……って……」



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 22:03:23.86 ID:/jxMPabi0

もちろん普段飲んでるのは彼女の淹れてくれたもので純粋にそう思ったから言ったのだけど、
いつもなら少し意地悪な切り返しをしてくるであろう彼女が、
何も言わずに自分の持っている紅茶に視線をおとしていたので、
私は何かまずい事を言ってしまったのかと不安になる。

ありきたりなお世辞にとられて、嫌なやつだと思われただろうか……

私は緊張の為また一口紅茶を飲んだけど、
やっぱり彼女の淹れてくれた方が美味しいと思っただけで、喉の渇きはそれほど癒えなかった。


紬「唯ちゃん」

唯「な、何?」

紬「そっちに行ってもいい?」

唯「……いいけど」


彼女が隣に腰をおろすと体と心がまたざわざわして、それを隠すために私も座り直す


紬「唯ちゃん……」

言葉と共に彼女の左手が私の膝に降りる。
タイツ越しに伝わるいつもより冷たい彼女の手にビクっとなってしまった。
いや、ただ私の体温が上がってるからそう感じただけかもしれないけど……

何だかマズい気がする



103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 22:05:38.69 ID:/jxMPabi0

唯「ムギちゃん、誰かくるかもしれないしちょっと離れよう」

紬「誰も来ないわよ」

彼女の体重が私にかかり、ワザとなのかどうなのか彼女の胸の膨らみが私の肘にあたっている。
私はそれだけで、全身を堅くしながら下を向き身動きがとれなくなってしまった。

紬「ねえ唯ちゃん…」

さらに肘に柔らかい感触がかかる

唯「ん?」

先ほどみたいに言葉はだせず、口を閉じて反応する。
開けてしまったらはしたない声をだしてしまいそうだったから…

髪に何かサワサワと当たったかと思ったら、耳のすぐそばから彼女の声がした

紬「先週和さんとどんなお話ししたの?」

それは耳というより脳に直接話しかけられてるみたいで、私はもう何も考えられなくなる。

彼女が怒ってるのか?

何でこのタイミングで和ちゃんの話をするのか?

疑問に思う事はあったけど、全部忘れて彼女の魔法のような言葉にただただ答えるしかなかった。


唯「が、学校の事とか……部活の事とか……」



104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 22:08:05.38 ID:/jxMPabi0

紬「私の事は?」

唯「少しだけ……」

紬「どんな事を話したの?」

膝に置かれていた手が円を描くように動かされる。

唯「ふぁ……」

紬「気持ちいいの唯ちゃん?」

膝から太ももに手があがり、それだけで体が震える

唯「ん……」

紬「可愛い……それで和さんと私について何を話したの?」

唯「和ちゃん……和ちゃんは……ムギちゃんと付き合えて……良かったねっ…て」

紬「そう……」

彼女の手が太ももからまた少し上にあがる。
せっかく憂から借りてきたスカートはだらしなくはだけていた。

紬「唯ちゃんは和ちゃんが好き?」

また突飛な質問がとぶけど先ほどと同じように私は答えるしかない

唯「好き、だよ」



105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 22:15:04.64 ID:nIU5kWye0

また手が上へとあがる

唯「んぁ…」

紬「私より?」

唯「…く…比べられないよ」

本心だった。和ちゃんへの好きとムギちゃんへの好きは全く別物だったから

紬「比べられないのね……」

また手が上へとあがり、もうそれはタイツ越しとはいえ私の大事な部分まで到達している。
私は何とか抵抗しようと閉じている足の力を強めた

紬「和さんはこんな気持ちいい事してくれないわよね?……それともした事ある?」

指先がわずかに大事な部分に触れる

唯「あンッ…あるわけないじゃん!!」

出来る限り声をだし否定した

紬「ふふっ、そう、良かった。」

そう言って彼女の吐息が耳に近づき、甘く噛まれる

唯「いや…」

スカートの中に入ってる手を柔らかに動かし指先でつついてくる。



106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 22:20:12.41 ID:TIUyHXm70

今日はこんな事をしにきたわけじゃないのに……

唯「いや…ムギちゃん……したく、ない」

これからムギちゃんの家族と会うかもしれない、
もしかしたら大事な話をしなきゃいけないかもしれないのに

唯「…ダ…ダメだってば」

しかし彼女の手が撫でるように動くと私の意志は簡単に崩れてしまい、
体と心がバラバラにされてしまったようにこのまま流されてしまう。


―――けどそうはならなかった
彼女の次の言葉が私を現実へと引き戻す

紬「ほら、邪魔な服は脱いじゃいましょ…」

火照っていた体温が一気に下がる


違う……
だって彼女は知ってるから、私がどんな気持ちでこの服を着ているのか。


彼女との初デートの前日。
どんな服を着ていけばいいか分からなくて、和ちゃんと一緒に買いに行った。

普段はあんまり行かないようなちょっと高めのお店に行って、見つけたこの上着。
和ちゃんも店員さんも似合うって言ってくれたけど、ムギちゃんに言われるまでずっと自信がなかった。

だからデートの日一番最初に聞いたんだ、この服変じゃない?って。



107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 22:25:46.29 ID:TIUyHXm70

彼女はキョトンとしてたけど、私に聞き返してきた

もしかして今日の為に買ってくれたの?って。

私は恥ずかしがって声をうわずらせながら、そんなわけないじゃんって嘘をついたんだ。
けどやっぱり彼女にはバレてて

そう、ごめんなさい。ありがとう。とっても素敵よって言ってくれた。

その日から大事な日には絶対これを着ていくようにしている。


だから違う……
彼女はこんな時でも絶対この服を邪魔だなんて言わない。

魔法がとかれた私は彼女の手をはねのけて、ソファーの端へと逃げる。


紬「唯ちゃん?」

彼女からあまり聞かない不安な声がする。
心が苦しい……こんな声を彼女にださせてしまったことが。
だけど私はどうしても許せない、だってこの服は特別だから。


紬「ど、どうしたの……唯ちゃん?」

私は彼女を強く見据えると、先ほどとは立場が変わったのか彼女は弱々しい顔を見せてきた

紬「いい子だからこっちに来て」



108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 22:29:39.59 ID:fDyvyIkY0

哀願する彼女に首を振る

紬「何で?気持ちよくなかった?なら私もっと頑張るから…」

やっぱりおかしい……彼女は私が何に怒ってるのか分からない人じゃない、
一体どうしてしまったんだろう?

紬「唯ちゃん…わ、私…唯ちゃんに……」

彼女の手が伸びて私の髪に触れようとする。怖かった、彼女が私の知らない人みたいで

唯「いや、触らないで」

自分でも怖いほど低い声がでて、彼女の手が空中で止まり力なく落ちていく。

同じソファーの隣同士に座っているのに、今私達の間には絶対的な距離ができてしまった気がした。

そう思った矢先、重たい空気を割るように扉を叩く音がする

「お嬢様」

低い男性の声が聞こえたけど、呼ばれた彼女は動こうとせず、
ただ私にすがるような視線を送るばかりだった。
私は彼女の寂しげな視線に耐えきれなくなり視線を外す

そしてもう一度ノックの音がするとやっと彼女は反応し、フラフラと立ち上がると扉に近づていった。

紬「何」

ゾッとするほど冷たい声がムギちゃんの口からでる。

「奥様ですが、急な仕事が入ったため明日の朝にならないとお戻りになれないそうです。」



110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 22:32:03.74 ID:fDyvyIkY0

彼女の変化に気づいてないのか、受け答えしてる男性は淡々と言葉を発していた。


紬「…分かりました」

「あと夕食なのですが…」

紬「斎藤、それはこちらから連絡しますから
  とりあえず準備はしといて下さい。もうないなら下がっていいわよ」

斎藤「はい、かしこまりました」

矢継ぎ早な会話が終わったのが分かり
私は急いでスカートを整えて、その上にある手をぎゅっと握りしめ彼女の言葉を耐えるように待った。


紬「唯ちゃん」

先ほどのドア越しの会話の時とはまったく違った、頼りなさげな声がする。
目線を合わせると彼女の顔はただでさえ白い肌が一段と蒼白くなり、目元に涙すら浮かんでいた。

そうさせたのは私か…

紬「さっきはごめんなさい」

唯「あっ……ううん、私も言い過ぎた」

お互い謝っても気まずい雰囲気は消えることはなかった。
だって彼女はなぜ先ほどのような真似をしたのかまでを話してはくれなかったから

紬「そろそろ時間も遅くなったし、夕食にしない?」



116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 23:21:13.36 ID:E/cYr4b/0

唯「うん……」

紬「なら食堂に行きましょ、きっと唯ちゃんも気に入ると思うわ」

唯「うん、ありがとう」

会話が止まる。

やっぱりこのまま何てダメだ

唯「ムギちゃん…何かあったの?」

彼女が答えやすいようできるだけ優しい声で聞いてみる。だけど彼女の顔の陰りが消えはしなかった。


紬「……何もないわよ。それじゃあ行きましょう」

無理に微笑みながらそう言って歩き始めるムギちゃんを問い詰めたいけど、、
彼女の後ろ姿は私の質問を完全に拒否していた。


食堂に行くと次々と美味しそうな料理が並びはじめ、それを大きいテーブルで二人っきりで食べる。
広々とした食堂内には皿やファークが奏でる無機質な音ばかりがなっていて、
こんなに美味しそうな料理も大して味がわからなかった。


ムギちゃんどうしたの?何かあったの?

何度も聞こうと喉まででているこの言葉が口から出ることはない、
たった一度の拒否で恐怖心が私の口を塞いでいて、
もしあの時ムギちゃんを受け入れていたらと後悔ばかりが頭をあげる



117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 23:23:26.76 ID:E/cYr4b/0

紬「そろそろ寝ましょうか?」

あれからほとんど会話もないまま、ただただ気まずい時間を過していた時
彼女が思い出したようにポツリと言う

時間は23時
普段なら間違いなく寝てはいない時間だけど私もどうしていいか分からず、小さい声で同意してしまった。


ただもしかしたらベッドでなら話しができるかもと小さい希望は持っていた。

ソファーから立ち上がりベッドに向かう彼女の後ろをついて行くと、側まできた彼女が振り向き私を見る。


紬「唯ちゃんはここで寝て。私はソファーで寝るから」

唯「え?」

紬「別々に寝ましょう……」

唯「…何で?」

空気がさらに重くなる。
彼女は何も答えてくれないけど、もうムギちゃんの拒否を恐れている場合ではないことは私にも分かった

唯「一緒に寝ようよ」

こんな事言うのは初めてかもしれない、それだけ私達にとって自然な事だったから。



118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 23:25:38.86 ID:E/cYr4b/0

もう一度自分の意志を伝えようと口を開きかける私を、彼女の言葉は遮った

紬「ごめんなさい」

そういうと彼女はひとつ枕を持ってソファーに向かう

唯「何で?」

唯「……何で一緒に寝ちゃダメなの?」

聞き分けのない子供みたいに同じ問いを繰り返す
この場の空気と不安な気持ちに私は押しつぶされそうだった。

唯「ねえ、少しだけでもいいk……」

紬「ごめんなさい」

私の哀願するような声がまた彼女の声に阻まれる

紬「今の私少しおかしいの。そんな状態で唯ちゃんの隣に寝たら……
  あなたをめちゃめちゃにして、傷つけてしまうから。ごめんなさい」

彼女はそう言うと扉の近くまで行き、部屋の電気を消した。
一気に広がる暗闇に一瞬で彼女を見失う
それは視覚的にも、そして心情的にも。

心が折れそうだった。何でこんなになっても私は何もしないでこうやって立ってるだけなんだろう

ムギちゃんが何かに苦しんでるのは分かってるくせに、それを知ってしまうのが怖い。



119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 23:27:51.89 ID:E/cYr4b/0

彼女を苦しませてるほどのものが、私にどうにかできるのか?
助けてあげられなかったら彼女に失望されるかもしれない・・・

眼先で拒否されているのに私はそんな事ばかり考えていた。

布の擦れる音が聞こえて、また静かになる

紬「お休みなさい」

彼女の言葉が永遠の別れに聞こえた

私は誰かに助けを求めたくなる。
軽音部のみんなや和ちゃん、憂に私はどうすればいいのか聞きたかった。

けどそんなことしても無駄なんだ。
誰かに聞いて答えがででも結局やるのは私だから、私が何かしないと変わらないんだ。

これは二人の間の問題で、ムギちゃんが苦しんで解決できないなら私がやるしかない。

ムギちゃんならどうするか……

きっと私がそうなっても私の本心を見抜いてくれて、良い方へ導いてくれる。
けど私はムギちゃんではないし、彼女にはなれない。

だったら私ならどうする……



唯「いいよ……」



120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 23:30:15.45 ID:E/cYr4b/0

紬「え?」

暗闇の中、私の言葉が彼女に届く

唯「ムギちゃんがしたいようにしていいよ」

私は服を脱ぐ
さっき私は彼女を一度拒んだ。
あまつさえ触らないでとまで言ったのだ、彼女がおかしいと気づいていながら。
それが――私の犯した間違いなんだと思う。
私にはムギちゃんみたいに本心を見抜くことができない、
だったらその歪な気持ちのまま受け止めるしかなかったんだ。
受け止めた後にその中から探すしかない、彼女の本当に望んでいることを

着ていたものを全て脱いで一歩一歩彼女に近づく、覚悟を決めても情けない事に足は震えていた。

暗闇の中でも近づけば彼女が上半身を起こしてるのがわかったので、そのまま柔らかく抱き締める。


紬「ゆ、唯ちゃん!!…えっ……ふ、服は!?」

触って初めて気づいたのか、ムギちゃんの声がたじろいでいた

紬「……ゆ、唯ちゃん!?」

唯「いいよ」

もう一度伝えよう、ムギちゃんに私の気持ちを

唯「めちゃくちゃにしていいよ。」



121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 23:33:26.65 ID:E/cYr4b/0

紬「えっ……」

唯「痛いことでも我慢する、もしかしたら泣いちゃうかもしれないけど大丈夫だから。
  ムギちゃんがしたいこと全部受け入れる」

紬「……」

唯「私バカだから、ムギちゃんが悩んでたり苦しんでたりしても、解決させてあげられない。
  頼り無くてごめん……

  解決はできないけどそれを分けて欲しい。
  ムギちゃんの傷とか悲しみとか私にも分けて、私も一緒に悩んだり苦しんだりするから。
  ムギちゃんとならどんなに辛くても、きっと大丈夫。

  だから……だからね……
  一緒にいて……あなたの隣にいさせてください。お願い…大好きなの…ムギちゃんの事…」

多分最後の方は言葉になっていなかったと思う。声をだしたくても涙と嗚咽が邪魔をしていたから
だけど少しは私の気持ちが彼女に届いたのか、彼女はキツく強く抱きしめてくれていた。


―――――
――

紬「先週の父の誕生パーティーの日、偶然話を聞いたの」

相変わらずの闇の中、ベッドで彼女に身を寄せている私が落ち着いたのを見ると彼女は語り始めた。



122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 23:36:24.37 ID:E/cYr4b/0

紬「そのパーティーには父の友人や仕事上付き合いのある人、後は会社の部下の人達が主に出席しててね、
  私にとっては同世代の話し合い手もいないから毎年あまり面白いものでもないのよ。
  けど今年は若い男性が何人か話しかけてきてくれてね」

私は彼女のパジャマの袖をすがるように握る。さっきあんな大見得きっておいてもう不安になってしまった


紬「ん?……ふふっ大丈夫。当たり障りない会話よ、学校の事とか部活の事とか聞かれたわ
  まあそうやって時間を過ごして、そのまま無事にパーティーは終わったのだけど、
  部屋に戻った時にそういえば父にプレゼントを渡してないことに今更気づいたの。

  やっぱりこういうのは当日中に渡したくて書斎に届けに行ったら、
  部屋には斎藤と父がいて話をしていたわ。

  その時斎藤が聞いていたの、
  パーティーの時、お嬢様に男性が何人か話しかけてたみたいですがって。
  私はなぜそれを父に聞くんだろうって思って、部屋には入らず父の返事を待った。
  そしたら父が言ったの……あいつらは会社の後継者候補だって」


それがどういう意味か私にもわかった。
袖を握る力を強める、彼女がどこにもいかないように。
そんな私の手を彼女も上から包むように握ってくれた


紬「父は軽い気持ちだったみたい。
  別に今すぐ結婚とかではないし、本人達の意志は尊重するって言ってたわ。
  ただ一度会わせたかったみたいで、彼らに少し娘と話してみないかって言ったようなの」


つまりムギちゃんのお父さんは彼らのうち誰かとムギちゃんが結婚して、
会社を継いでくれる事を望んでるんだろう



125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 23:38:54.59 ID:E/cYr4b/0

紬「私の知らないところでそんな事をしてるなんて正直頭にきたわ。
  けど同時に思ったの、やっぱりそれが父の願いなんだって」

彼女の体に手を回す。少しでも彼女が安心できるように

紬「もっと普通の家に生まれたいって思った時もあったけど、私は父も母もこの家も大好き。 だから…」

唯「分かるよムギちゃん」

ムギちゃんに悲しい言葉を言わせたくなくて、我慢できなくなり声をかける。

彼女と付き合ってるのは誰かを喜ばしたいからじゃない
ただ私が彼女を好きで、彼女も好きって言ってくれたから。
けどもし私達が付き合っているせいで誰かが悲しむのもイヤだった、
特に私達にとって大事な人が悲しむのは……


紬「そうよね……唯ちゃんも一緒だもんね」

悲しく微笑む彼女の顔が見える。

そして私は今日一番聞きたかった質問をした



唯「……何で私をお家に招待してくれたの?」

彼女はゆっくりと目を閉じる。まるで何かを覚悟したように・・・

紬「父の話を聞いて、唯ちゃんに私の住んでる家の事とか
  家族の事を知ってもらうには来てもらうのが一番だと思ったから。
  ・・・きっとこれから先、私達の間にずっと付きまとう問題だし」



126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 23:41:58.33 ID:E/cYr4b/0

唯「そっか…」

私が男の子だったら違っていたんだろうか?
でも結局のところ私が男の子でも、桜ヶ丘には入れず
ムギちゃんとも出会えなかったから、私達は最初からこうなる運命だったんだろう

紬「本当はもうひとつあったんだけど……」

唯「何?」

紬「まあそれは後でね」

何だろ?

紬「それでさっそく唯ちゃんに電話したんだけど、唯ちゃんは和さんと……」

また含みのある言い方をする彼女

唯「だ、だから私和ちゃんとは!!」

紬「ふふっごめんなさい、ちゃんと分かってるから……今はだけど」

今は?

紬「けどね、その時は違ったの……
  もし唯ちゃんの相手が和さんだったら、
  そっちの方が唯ちゃんにとっては幸せなんじゃないかって考えてしまった」

唯「えっ?」

紬「だって和さんとは幼なじみで家族ぐるみで付き合ってる訳だし、
  少なくてもそういう問題はでなかったんじゃないかって……」



127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 23:44:41.16 ID:E/cYr4b/0

唯「……バカ」

彼女を抱く力を強める

紬「そうね、バカだった……けどその時心がぐらついていたから、
  普段なら一蹴できるような考えにずっと捕らわれていた」


ムギちゃんを不安にしたのは私なんだ。
私がまだまだ頼りないから、彼女が少し揺れただけで私達の関係自体もすぐにおかしくなってしまう


紬「実はね、今日母にだけは唯ちゃんを紹介したかったの」

体がビクッと揺れる、これがさっき言っていたもうひとつなんだろう

唯「それは……どういう意味で?」

紬「大切な人って意味で」

暗闇の中でも分かってしまうくらい、自分の顔が赤くなってる気がする

紬「母はどちらかと言えばそういうのに寛容だと思うから……
  結局帰って来なかったのだけど、
  だから私今日はずっと緊張しててあんまり和さんの事は考えていなかったの。
  
  だけど……唯ちゃんが普段飲んでる紅茶の方が美味しいって言ってくれた時、すっと緊張が取れた。
  こんなに可愛くていい子なんだからきっと大丈夫だって、母も許してくれるって」


私はムギちゃんの胸に顔を埋める。
そうしていないと嬉しくて泣いちゃいそうだったから



129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/30(火) 00:01:03.76 ID:bCBq5z4C0

紬「今日唯ちゃんを呼んで良かったって思った。
  きっと母にも、そのうち父にも認めてもらえる。それで思ったの……

  ……これで和さんに近づけるって」

近づける……私は埋めていた顔をあげる。
ムギちゃんは目を開けボーっと上を見ているばかりだった。

紬「おかしいわよね……近づくなんて。
  唯ちゃんと付き合ってるのは私なのに……
  
  だけど多分ずっと考えていたんだと思う。
  だって和さんは昔から唯ちゃんの事を知っていて、
  私なんかより唯ちゃんの事をわかってる人で……

  だからずっと彼女になりたかった。
  だって唯ちゃんの事で知らない事があるのが怖かったから

  自意識過剰かもしれないけど、和さんだけが私にとっては唯ちゃんを奪う可能性のある人だった。
  他の人になら絶対負けない。
  けどもし彼女に……私の方が唯を幸せにできるって言われたら私勝てないから。

  だから母に紹介する前にはっきりさせようと思ってあんな事したんだと思う。

  ごめんなさい、私はずっと和さんに対してかなり失礼に思っていたの、唯ちゃんの親友なのに」


きっと今まで彼女は悩んでも全部自分一人で解決してきたんだろう、
それはとても強いことだけど、とても寂しい。

私は今まで何回もムギちゃんの前で和ちゃんの話をした。
私達にとっては唯一付き合ってる事を知っている人だったし、私にとっては昔からの親友だったから。
それが彼女をずっと苦しめていたんだ。なのにそんな時でも彼女は笑っていた



130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/30(火) 00:04:41.03 ID:bCBq5z4C0

紬「……許してくれる?」

だから今は私が……



唯「……今度三人で遊ぼっか?」

脈略のない私の言葉にムギちゃんは当惑の顔を浮かべる

紬「三人……和さんとって事?」

抱きついてた体を離し彼女を上から見る。
うっすら悲しみを浮かべている彼女の顔はやっぱりきれいだった


唯「うん。私、和ちゃんの事は親友だと思ってる。
  今までいろいろ助けてもらって、こうやってムギちゃんと付き合えてるのも和ちゃんのおかげだから。
  和ちゃんとは和ちゃんとのたくさんの思い出があって、やっぱりそれはこれからも大切にしていきたい。」


紬「うん……」

唯「けど……私はそれもムギちゃんに知ってもらいたいの」

紬「……思い出を?」

唯「うん。私が今まで生きてきた17年分全部。もちろん和ちゃんとの思い出も。
  私もムギちゃんの全部を知りたい。どんな子供だったのかとか、小学校仲良かった子の話とか
  だってそれのおかげで今の……私の大好きなムギちゃんがいるから」



133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/30(火) 00:12:37.13 ID:bCBq5z4C0

彼女が全て、後は全部いらないとは言えなかった。
もしかしたらそう答えるのが正解なのかもしれないけど、
きっと彼女がそういう事を望んでるわけじゃないと思ったし、
私は強欲だから恋人、親友、仲間、家族、どれかひとつなんて決められない。

唯「欲張りでごめん……」

けど信じてほしい、その中でこれから先も一番はずっとあなただから。
私は言葉にはださず、そう思う。
きっと言葉にしたら嘘臭く聞こえちゃうから……だから変わりに思いが伝わるよう彼女にキスをした。


紬「……じゃあもし私が和さんと、唯ちゃん以上に仲良くなっても嫉妬しないでいてくれる?」

唇が離れて、一番にそう言う彼女の顔はいつものように悪戯っぽい笑顔だった。
私はその場面を想像してみて、彼女のわき腹を結構本気でつねる


紬「もう、言ってること違うじゃない」

私達の間に柔らかい空気が流れ、ケンカでできた距離も今はもう完全になくなっていた。


唯「……教えてよ、ムギちゃんの事全部。」

知りたい、こんなに素敵な人ができるまでを。


紬「……名前は琴吹紬」

唯「知ってる」



134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/30(火) 00:15:23.29 ID:bCBq5z4C0

紬「桜ヶ丘高校の二年二組に在籍」

唯「席は私の斜め前」

彼女と同じクラスになってどれほど嬉しかったか、けど今でも授業はなかなか集中できない

紬「軽音部でキーボードをしてます」

唯「けっこう上手いよね」

演奏中は優しい音がいつも後ろから聴こえてくる

紬「実は桜ヶ丘高校にくる予定ではなかったの」

唯「本当!?」

紬「はい、実は……」


それから彼女といろいろな事を話した。
まだまだ彼女について知らないことばかりだった事がちょっと悲しくて、
けど彼女の新たな一面を知ったことが何倍も嬉しくて、
私の話を聞いた彼女もきっと同じ気持ちだったと思う。

そうして幸せな時間を過ごす内に、私達はいつの間にか眠りについていた。



135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/30(火) 00:19:40.26 ID:bCBq5z4C0

――――――
――

 「………ン………ええ………だ…ぶ………」


遠くから彼女の声がする
せっかく昨日近づいたのに、また離れてるのが寂しくて手を動かして彼女を探すけど見つからない。

声は聞こえるのに

呼べば気づいてくれるかな?



目を開けると普段とは違う真っ白な枕が目に入る。
そっか……ムギちゃんのお家に来てたのか。
夢から覚めても、寝る時は隣にいてくれた彼女の姿がない。
昨日の今日で不安になった私が体を起こそうとすると、ドアの閉まる音が聞こえてきた。

紬「あら?起こしちゃった」

柔さかな笑顔を向け、窓から差し込む光にうつされる彼女は本当にキレイで、
私はまだ夢の中にいるのかと疑ってしまう


彼女はそのまま私の横に滑り込むように入ってきたので、
私は我慢できなくて彼女の体にキツく抱きついてしまった。

紬「朝から甘えん坊ね」

そんな事言いつつ抱きしめ返してくれる彼女からはとても甘い匂いがして、
私は鼻を押し当て思いっきり吸い込んだ



136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/30(火) 00:24:05.07 ID:bCBq5z4C0

紬「いつもこれだけ素直なら嬉しいのに」

彼女の手が頭に置かれる。
本当に幸せだと思ったけど、
私は彼女の前ではひねくれ者になってしまうのはやっぱり変わらないよう

唯「……うるしゃい」

紬「ふふっ唯ちゃん可愛い」

唯「……可愛くないし、うるさい」

そう言ってそのまま甘えるように足を絡ませる

紬「ふふっ、そういえば唯ちゃん昨日の約束覚えてる?」

和ちゃんと三人で遊ぶ事だろうか?
そう考えてると彼女の口が私の耳に近づいてくる

紬「……めちゃくちゃにしていいんでしょ」

体がビクッと震えた

唯「あ、あれは……」

紬「痛いこともしていいんでしょ?」

確かに言ってしまった……
痛いことって私は何をされてしまうんだろうと考えてえ、体が震える。
けど……少しだけ期待している私は本当にどうしようもない人間らしい



137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/30(火) 00:28:23.19 ID:bCBq5z4C0

紬「唯ちゃん耐えられるかしら?」

触れ合ってるせいか、言葉だけで朝から私はすっかりその気になってしまった。
こんなにも欲求に忠実なのは彼女と付き合ったせいなのか、
もともと私が最初からそうなのか分からなくなる

そんなことばかり考えてると、彼女の震えが伝わりしだいに笑い声が聞こえてきた。

ああ、またやられたんだと遅ればせながら気づいたので、絡みついた足を締める


紬「ごめんなさい、けど唯ちゃんも悪いのよ。
  あの時私が言ったのは別にそういう行為でって訳じゃなくて、
  ヒドいことを言ったりしてあなたを傷つけてしまうかもしれないから言ったのに、
  あれじゃあまるで私が変態みたいじゃない」

唯「……変態じゃん」

紬「そんな事ないわよ?」

唯「自覚持ちなよ」

キョトンとしている彼女に、ため息混じりで答えてやった

紬「変態だったら……本当にめちゃくちゃにしてもいいわよね?」

彼女の手がゆっくりとお尻をなでる

唯「……ふぁ」

紬「唯ちゃん、大好き」



138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/30(火) 00:31:26.61 ID:bCBq5z4C0

返事の変わりに、彼女の胸元につけていた顔を子犬のようにクリクリと動した

紬「そういえばね……」

唯「ん?」

紬「母がお家に帰ってきてるのよ」

一瞬にして動きを止まる

紬「さっきドアのところで話したら、唯ちゃんと一緒に朝食食べたいって」


ああ……今日も大変な1日になるだろうなって思った。
だけどきっとどうにかなる。
だって私の隣には、意地悪で可愛い……大好きな強い味方がいてくれるから。




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[ 2011/10/01 01:27 ] 非日常系 | | CM(0)

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