SS保存場所(けいおん!) TOP  >  音楽 >  唯「らぶれす!」#前編

お知らせ

SS保存場所は移転しました。
現在けいおん!関連の更新はしていません。
今後更新するかは未定です。
SS保存場所






唯「らぶれす!」#前編 【音楽】


http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1274008509/

唯「らぶれす!」#前編
唯「らぶれす!」#後編




1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:15:09.28 ID:V+kigXBP0

こんばんは、みんなのあずにゃんこと、中野梓です。

この春、私はめでたく桜ケ丘女子高校に入学することができました。
ぴかぴかの一年生です。

さて、今日は体育館で新入生歓迎の出しものとして、
各部活が発表を行う催しがあるようです。
文化部や運動部の人たちが次々に舞台に上がり、
自分達の部活のアピールをするのですが、何となく退屈です。





4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:16:55.74 ID:V+kigXBP0

『続いては軽音楽部によるバンド演奏です』

ところが生徒会のナレーションがそう告げると、
私は思わず舞台にくぎ付けになってしまいました。

純粋にバンド演奏に興味があったからです。

何を隠そう私も小さい頃からジャズミュージシャンだった父親の影響で、
ギターを嗜んでいたからです。

これでも『ちびっ子ジョン・マクラフリン』なんて言われて、
地元では有名なギタリストだったんですよ?
まぁ、ちびっ子っていうのは余計なんですけど。

おっと、話がそれました。

舞台の上にはいつのまにか、4人の女子生徒が現れて、それぞれの持ち場についていました。

ギター、ベース、キーボード、ドラムという楽器編成から見るに、
どうやら一応はロックバンドのようです。

憂「わぁ~……すごい……お姉ちゃんボーカルなんだ」

私の隣にいる女の子(確か同じクラスの平沢さんだったっけ?)が、
感激の混じった溜息を漏らしています。
どうやらギターボーカルのあの先輩は、この平沢さんのお姉さんのようです。

よく見るとあの人は本物のギブソン・レスポールを抱えています。
普通に買えば30万円は下らない代物です。とても高校生の女子が持つギターとは思えません。



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:18:17.29 ID:V+kigXBP0

でもどんなに楽器が良くても、演奏が良くなければ意味はありません。

見たところ、ベースボーカルのあの先輩なんかは凛々しい雰囲気ですが、
ドラムの先輩やギターのあの先輩もいかにもミーハーな感じですし、
どうせこれから演奏する曲もJ-POP(笑)かなんかのコピーなんでしょう。

正直私は見下していました。期待するほどでもないと、甘く見ていました。

どんな演奏をするのか、いっちょ値踏みしてやろうと、そんな視線で見ていたのです。

そんなことだから、見落としていたのです。
その軽音部バンドを囲んでいるのが、山のようなマーシャルアンプの壁であることを。
ギターボーカルの先輩の足元には、これ見よがしにたくさんのエフェクターが置いてあったことを。

唯「それじゃ、演奏しま~す。『私の恋はホッチキス』」

ゆるゆるとした気の抜けるギターボーカルの先輩のMC。
いかにもこれから繰り広げられる演奏の質を物語っている感じがして、
私は軽く失笑すら漏らしてしまいました。



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:20:17.53 ID:V+kigXBP0

しかし、次の瞬間――。

梓「……え?」

――ゴオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!

一瞬、私は体育館の屋根が崩れてきたのかと思ってしまいました。

しかし、それがギターの轟音による震動だと気付くのに、そんなに時間はかかりませんでした。

ゴオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!

ギュギュギュググググワワワーーーーン!!!!!!!!!!

ガガガガガ……ゴワーーーーーーーーン!!!!!!!!!!

掻き毟られる六本の弦から捻りだされる悲鳴のような轟音――。

あまりに衝撃的な、ギターによる音の洪水、洪水、洪水――。

とにかくおっきい音――。

耳を劈くようなその轟音に、見れば周囲の新入生たちは皆こぞって耳をふさぎ出していました。

こんな音の洪水、私も初めての経験でした。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:22:05.87 ID:V+kigXBP0

轟音に負けず、ステージに目を凝らしてみます。
演奏の方、技術的な観点から見れば、お世辞にも素晴らしいとは言えませんでした。

手数は多いものの、せわしなく、走っているようにも聴こえるドラムス。

音を歪ませ過ぎで何を弾いているのかよくわからないベース。

延々と不穏なムードの不協和音(コード)を奏でるキーボード。

そしてひたすらに轟音を放出し続けるギター。

それぞれのパートの演奏はあまりにお粗末でしたが、
それらが合わさった瞬間、ただのノイズが極上のハーモニーに変わったんです!

そして、

――きらきら ひかる なやみごとも ぐちゃぐちゃ へたる なやみごとも♪

――そうだ ホッチキスで とじちゃおう♪

ギターノイズの間隙を漂うように囁かれる不安定なボーカル。

辛うじて聞きとれた歌詞は、何とも力の抜ける内容で。



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:23:44.13 ID:V+kigXBP0

技術的に見れば全然ダメな演奏なのに……

それでもどうしてこんなに心が惹かれるんだろう……っ!!

憂「ぐへへ……お姉ちゃんのフィードバックノイズ……すてき……」

ふと隣を見ると、平沢さんがヨダレを垂らして光悦の表情で、ギターノイズの洪水に浸っていました。

頭の中がとろとろに溶けて、完全にイッちゃってる人の目をしています。

確かに……聴いていると徐々に頭の中がとろとろに溶けるような感覚が……。


この演奏を聴いて、私は何としてでも軽音部に入ると決めました。

――ゴオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!

そして、舞台の上でじっと自分の靴を見ながら、ギターを弾き、ノイズに自らの身を漂わせるように佇み、
そして偶に思い出すように歌っている、あの平沢先輩のようになりたいと、心からそう思いました。

あのギターノイズを生成に加担するギタリストの一人になりたい。

そう、心から思ったのです。



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:25:25.95 ID:V+kigXBP0

数日後――。

友人「ねぇ、梓……本当に軽音部にいくの?」

梓「うん、もう決めたんだ」

友人「軽音部って……この前の新入生歓迎会で出てた、
    あのすごくうるさい音楽を演奏する人たちでしょ?
    あの人たち、評判悪いみたいだよ?
    この前の演奏を聞いて、鼓膜が破れちゃった新入生の子もいたみたいだし……」

友人の忠告も気にせず、私は迷うことなく軽音部の門を叩きました。

律「うそっ!? 新入部員!?」

澪「まさか私たちの部に入ってくれる人がいるなんて……」

紬「歓迎するわ~」

唯「ちっちゃくてかわいい子だね~」

思いのほか、私は歓迎されたようです。

なんでも必死の勧誘を行ったにもかかわらず、これまで一人の入部希望者も来てくれなかったとか。

新入生歓迎会であれだけの衝撃的な演奏をしてしまったのですから、それも当然ですよね。



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:27:04.87 ID:V+kigXBP0

紬「梓ちゃんはギターが弾けるのね~」

梓「はい。一応、小学生のころからやっていました」

唯「それならこれからは私が教えてあげるよ!」

澪「お、早速先輩風吹かせてるな?」

律「まー、そしたらとりあえず試しに何か弾いて見せてよ」

律先輩のその言葉は、私にとって待ち望んだものでした。

これまでに培ったギターの技術をここで見せれば、私もあのバンドの一員になれる!

そう思った私は、愛機のフェンダー・ムスタングを取り出すと、これでもかと弾きまくりました。

梓「……ど、どうでしたか?」

律「うん、巧いな」

澪「確かに巧いね」

紬「高校1年生でそれだけ弾ける子ってなかなかいないと思うわ」

梓「(……にんまり)」



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:29:29.70 ID:V+kigXBP0

良い反応です。

思わず笑みがこぼれそうになりました。

しかし、

唯「うん、巧いけど……『巧いだけ』だね」

唯先輩のその言葉が、私の抱えている弱点をズバリそのもの言い当てて見せたのです。

律「ちょ……唯! おまえせっかくの新入部員になんてことを……!」

梓「いいんです。わかっていたことですから。
  私のギターは小手先の技術ばかりだということは……。
  それをわかった上であえて唯先輩に聞きたいのですが……」

唯「ん~? なぁに~?」

梓「どうやったら……あんなギターを弾けるんですか?」

唯「あんなって、新入生歓迎会の演奏みたいな?」

梓「はい」



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:32:17.81 ID:V+kigXBP0

唯「あれはね~、マーシャルを壁みたいにどどん!と置いて、
  このギー太にファズとディレイとワウと……
  とにかく一杯エフェクターをつなげれば……こんな感じで40個くらい」

http://zvex.com/phpBB2/viewtopic.php?t=4005

澪「その機材も全部、ムギに買ってもらったやつだけどな」

紬「いえいえ。唯ちゃんが喜んでくれるならこれくらい♪」

唯「とにかく、そうすれば出るよ~?」

梓「機材を揃えれば『あの』音が出るのはわかっています! でもそういうことじゃないんです!
   唯先輩はあの時、そのギターから発される洪水のような轟音を完璧にコントロールして、
   それをタダのノイズから極上のハーモニーに変えていました!
   ああやって自由に轟音を支配できるようなギタリストに、私もなりたいんです!」

興奮して思わず大きな声をあげてしまいました……。

律先輩も澪先輩も紬先輩も、キョトンとした顔で私のことを見ています。

梓「す、すいません……」

律「梓は唯みたいなギタリストになりたいのか?」

梓「あ、は、はい! あの新入生歓迎会での演奏を見た時、
  私のギタリストとしての目指す場所が決まりました!」



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:36:27.96 ID:V+kigXBP0

澪「ははは……『目指す場所』だって。なんかすごいな……」

紬「唯ちゃんったら、まるでアイドルね」

唯「そっか~。そこまで言われるなんて、ちょっと恥ずかしいな~」

すると唯先輩は、照れながらもカバンをごそごそと漁り始めた。

唯「それならさ、このCDを聴くといいよ。
  わたしもこれを聴いて、今の『ぎたーすたいる』をあみだしたんだ~」

そう言って借りたCDは、The Velvet Undergroundというバンドの
『White Light White Heat』というアルバムでした。

唯「これのね、最後の曲だっけ、『しすたー・れい』っていう曲が最高にかっこいいんだ!
  あとは日本のバンドもあったっけなぁ……」

http://www.youtube.com/watch?v=2EfSapCA5ls&feature=related
(The Velvet Underground 『Sister Ray』)


YouTube:The Velvet Underground - Sister Ray - White Light/White Heat - part2



そうして渡されたもう1枚は、『裸のラリーズ』というバンドの……タイトルがよくわからないCDでした。

http://www.youtube.com/watch?v=ZN5v-yWVXU4&feature=related
(裸のラリーズ 『The Last One』)


YouTube:Les Rallizes Denudes - The Last One



澪「おい、唯。ヴェルヴェッツはともかく、ラリーズのそれは海賊盤だろう?
  新入部員にいきなり海賊盤ってのはどうなんだ?」

唯「だってこの『らりーず』ってバンド、正規盤は全部廃盤で、中古でも高くて手に入らないんだもん」



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:38:58.99 ID:V+kigXBP0

その後、澪先輩にはイギリスの『RIDE』というバンドのCDを借りました。

澪「アンディ・ベルはオアシスに行って日和っちゃったのが残念だよなぁ」

http://www.youtube.com/watch?v=E5zTuVhNs5c
(RIDE 『Dreams Burn Down』)


YouTUbe:Ride- Dreams burn down



律先輩には『CHAPTERHOUSE』という同じくイギリスのバンドのCDを借りました。

律「最近再結成して日本に来たんだよなぁ。見に行きたかったなぁ」

http://www.youtube.com/watch?v=Fp_3g8EpemQ&feature=related
(CHAPTERHOUSE『Treasure』)


YouTUbe:Chapterhouse - Treasure



紬先輩には『COALTAR OF THE DEEPERS』という日本のバンドのCDを借りました。

紬「このバンドのリーダーの人、
  幼稚園児ばかり出てくるロリコンアニメの音楽なんかもやっているのよ~?
  多才な人って、素晴らしいわよね」

http://www.youtube.com/watch?v=pADYaKph7Uo
(COALTAR OF THE DEEPERS 『C/O/T/D』)


YouTUbe:Coaltar of the Deepers - C/O/T/D



それからというもの、家での私は借りたCDを聴きこむ日々を送りました。

どのバンドの音楽も、轟音ギターが印象的で、
ともすればノイズにも聴こえてしまうようなサウンドでありながら、
とても美しいメロディを併せ持っていました。
先輩達から借りたCDから自力で同系統のアーティストを辿って行き、
Jesus and Mary Chain、Slowdive、Swervedriver、Dinosaur Jr、
Sonic Youth、Cruyff In The Bedroom、Luminous Orange、
といった新たなバンドの音もとにかく進んで自分の血肉として行きました。



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:40:08.65 ID:V+kigXBP0

それからの私のギター練習は、

それすなわち『今まで培ってきた技術を捨てていくこと』と同義でした。

一方、肝心の部活動は言うと・・・

紬「今日のケーキはとびきりのレアチーズよ♪」

唯「わーい! レアチーズ!」

律「ただのチーズじゃないぞ! レアなチーズだ!」

唯「どれくらいレアかというと、裸のラリーズのレコード盤くらいレアだよっ」

澪「別にそういう意味じゃないだろう……」

あの壮絶なステージでの演奏がまるで嘘のように、まったりと、ダラダラとした毎日でした。

梓「もう、唯先輩! ダラダラばかりしてないでちゃんと練習しましょう!」

唯「え~、あずにゃんのケチ~」

そうして、首根っこを掴ませて演奏をさせてみると、唯先輩は本当に素晴らしいギターを弾くのです。

ギュギュギュギュワワワワ……ゴオォォォォォォォォォォッ!!!!!!

まさにフィードバック・マエストロ……唯先輩の指とギー太にかかれば、
ノイズという言葉は『雑音』でなく『極上の美しい音』を表す意味に早変わりです。

梓「…………」

そんな唯先輩の隣に立ち、小手先の技術に長けただけのつまらないギターを弾く私にとって、
バンドの練習の時間はいかに自分がダメなギタリストであるかを思い知らされる時でもあるのです。



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:42:23.48 ID:V+kigXBP0

唯「それじゃお疲れー」

律「おう、また明日ー」

紬「お疲れさま~」

その日の部活が終わり、それぞれが帰路につこうとした時、

澪「梓、せっかくだし途中まで一緒に帰ろうか」

澪先輩に誘われた私は、途中まで一緒に帰るだけという野暮なことはせず、

二人でとある喫茶店に入りました。

澪先輩は色々な話をしてくれました。

特に印象深かったのが、バンドの話。

何と桜高軽音部は、先輩達4人が集まった当初は今のような音楽性ではなかったというのです。

澪「前はもっと早くてビートの利いたパンクっぽいのとか、綺麗なバラードも演ってたんだ。
  曲は昔からあってさ、梓が新歓で聴いた『私の恋はホッチキス』も『
  ふわふわ時間』も昔は今と違うアレンジで演奏していたんだ」

梓「それがどうして今のような轟音ギターロックになってしまったんですか?」

澪「ひとえに唯の影響だよ。
  唯って、軽音部に入部した時はギターを触ったこともない初心者だったんだ」

梓「そんな! 俄かには信じられない話ですね……」

澪「そのせいかな……どういう経緯かわからないけど、
  唯は普通の演奏スタイルからは逸脱した、あんな変なギターを覚えてしまったんだ」



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:44:53.05 ID:V+kigXBP0

梓「それでバンドの方向性も変わったということですか?」

澪「まぁそんなところかな。元々、律はバンドでドラムが叩ければ何でもいいってやつだし。
  ムギは耳触りのいい音楽しか聴いてこなかったような温室育ちのお嬢様だったから、
  今まで聴いたこともないような新しい音楽に興奮して、すぐにバンドの方向性は変わったよ」

梓「そうだったんですか……」

そこで、会話は一度止まり、澪先輩はゆっくりと紅茶に口をつけた。

梓「そ、それでっ……!!」

澪「わかってる。梓は唯に憧れて軽音部に入ったんだろ?」

梓「そうです……」

澪「でも実際に唯を見てしまうと、
  とてもあの域には追いつけないと思い知らされ、悩んでいる。違うか?」

梓「その通りなんです……」

すると、澪先輩はもう一度紅茶に口をつけると、数秒間何も言わず押し黙った。

梓「……あの」

澪「唯は天才なんだよ」



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:50:03.82 ID:V+kigXBP0

梓「えっ」

澪「いや、天才という言葉は些か正確じゃないかな。
  創造性に長けてると言うか、発想が突飛もないというか……。
  梓も普段の唯を見ていればわかるだろ?」

梓「まぁ……何となくは……」

澪「まぁ天然ボケっていう方が正確かもしれないけどね」

そう言って澪先輩は小さく笑いましたが、私はちっとも笑う気にはなれません。

梓「でもそれじゃ私はいつまで経っても唯先輩の域に達せないということですか!?
  唯先輩のあれが生まれ持った才能だと言うなら……
  もはや努力でカバーできる域を超えています!
  それじゃ……どうあがいたって追いつけないじゃないですか!」

澪「…………」

梓「あ……すいません」

澪「焦ることはないさ。私は梓には才能があると思うよ。
  今はまだそれが開花していないだけだ。
  梓が唯のようなギタリストを目指すと言うならそれもいいけど、今はまだ早すぎる」

焦り過ぎ――澪先輩の言うことは確かに事実かもしれません。



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:53:35.26 ID:V+kigXBP0

澪「バンドは全てのメンバーがいなくちゃ成り立たない。
  まずは自分ができることを探さなくちゃ」

梓「自分ができること……」

澪「私の場合は、歌詞とボーカルかな。勿論、ベースプレイもあるけどさ、
  本当は恥ずかしいから、最初は歌いたくなかったんだ。
  でも今じゃそれが私の個性になってる」

梓「自分ができることを探す……」

それは、1年生の1年間をかけての私の至上命題となりました。

唯先輩と同じスタイルの轟音ギターでは、勝負にならない。
私だけのギタースタイルを確立して、唯先輩の隣に立つことを目指すのです。

1年生の学園祭までは、まさにあっという間でした。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:56:00.28 ID:V+kigXBP0

唯「それじゃあ次の曲は……『ふわふわ時間』!」

この頃になるとバンド名も『放課後ティータイム』に決まっていました。

そして何よりも特筆すべきは、HTTで初めて作ったオリジナル曲、『ふわふわ時間』の進化でした。

4分ほどの軽快なポップパンク風のこの曲を、

唯先輩は20分以上もの長尺演奏にアレンジし直したのです!

しかも、20分の内の15分――曲の間奏に延々と続く轟音ノイズパートを挿入する形で!

ゴオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!
ギュギュギュググググワワワーーーーン!!!!!!!!!!
ガガガガガ……ゴワーーーーーーーーン!!!!!!!!!!

かつて、軽音部はあの新入生歓迎会での演奏による持ち時間の大幅なオーバーで、

生徒会にこってり絞られたと言います。

でも、そんなこともお構いなしです。

グガガガガガガガガガガガピーーーーッ!!!!!!!!!!
ゴオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!

そして、私はその15分間を唯先輩とともに、ムスタングを掻き毟り、
足元のエフェクターをいじりまくり、マーシャルを苛め倒して、轟音の生成に加わることが出来たのです!



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 20:59:02.28 ID:V+kigXBP0

そしてこの瞬間、私は驚くべき光景を目にしました。

はじめは耳を塞いで苦悶の表情を浮かべていた観客の人たちが、
ひとり、またひとりと私たちの繰り出す轟音に身をゆだねるように、
ある者は踊り、ある者は腕を振り上げ、
ある者は焦点の定まらないふやけた瞳でこちらを見て……とにかく陶酔していたのです!

いつかの澪先輩の言葉が思い出されました。

澪「私もあんなうるさい音を出す音楽、初めは嫌だと思ったよ。
  でも梓、知ってる? 轟音ってある一定のレベルを超えると、
  聴く者の感覚は麻痺し、一種の夢遊状態に陥ることがあるって――」

唯先輩は、まさにそれを狙ってやっていたのです。

和「唯! 貴方また持ち時間をオーバーしたでしょ!?
  しかもあんなうるさい音……近隣の住民から苦情が来るわよ!?」

唯「そんなこと言って~。和ちゃんも舞台袖でアヘ顔して轟音シャワーを浴びてたくせに~」

和「なっ……!(確かにそうだけど……)」

やっぱり怒られました。

でも悪い気はしません。心地よい達成感で身体が一杯です。
こんなこと、ギターを手にしてから初めての経験です。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:03:46.08 ID:V+kigXBP0

すると、唯先輩はまるで赤子のような無垢な笑みを浮かべて、私に振り返りました。

唯「それと、あずにゃん!」

梓「は、はいっ……?」

唯「『ふわふわ時間』のノイズパート、良かったよ~!
  やっぱりギターが二本だと、厚みが違うよね~」

梓「!!」

この瞬間の私の胸の高鳴りをどう表現すればよいでしょう。

今思えば、この瞬間から、唯先輩は私の憧れのギタリストというレベルを通り越して、
身も心もゆだねたくなるような存在――つまりは、愛しい人に変わっていたのです。



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:06:36.00 ID:V+kigXBP0

梓「唯先輩、『ふでペン~ボールペン~』のアレンジはどうしましょうか?」

唯「んー、そうだね。ギターの壁の後ろで、
  澪ちゃんのボーカルが微かに聴こえる感じまで、ギターの音を厚くしたいかな~」

唯「あずにゃん、この映画面白いんだよ~? 今日家帰って見てみてよ!」

梓「『血のバレンタイン』……ホラー映画ですか。私は苦手なんですけど……」

唯「澪ちゃんに貸そうと思ったら断固嫌がられてさ~。
  なんならあずにゃんの家で二人一緒に見ようよ!」

梓「は……はい!」

この頃から、唯先輩と私は音楽のことやそれ以外のことでもよく会話を交わすようになりました。
その近しさは、仲の良い先輩と後輩というには、少々異様なものだったらしいです。

紬「私は特別何とも思わないわ。むしろどんとこいです!」

律「まぁ恋愛の形は人それぞれっていうし……」

澪「梓がいいなら、いいんじゃないか?」

幸いなことに、軽音部には理解のある先輩しかいませんでした。

でも、違うんです。
これはまだ私の一方的な片思いで、唯先輩に気持ちは伝わっていない……。

一歩踏み出す勇気は、私にはまだありませんでした。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:10:13.94 ID:V+kigXBP0

4月――。
私は2年生になり、唯先輩達は3年生になりました。

新入生歓迎会では最高の演奏を見せたにもかかわらず、1年生は入部しませんでした。

それでも別にいいかな、と思ってしまったのは、
自分と唯先輩の間に余計なお邪魔虫が入らなくて済むという、
あまりにも勝手で少しだけ醜い女の子心からだったのかもしれません。

同級生の友達にも、こんなことを言われました。

純「たぶんね、軽音部は傍から見ると5人の結束が強いように見えるから、入りにくいんだよ。
  梓と唯先輩の轟音ギターの隙間には余計な音一つ入り込む隙間がないように、ね」

本当にそうだったら、どれだけよいことかと思いました。

ちなみに、この頃には『ふわふわ時間』の間奏ノイズパートは30分を超えていました。



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:14:11.07 ID:V+kigXBP0

夏休み――。

私の提案で軽音部は夏合宿として、野外フェスを見に行くことになりました。
所謂フジ・ロック・フェスティバルというやつです。

律「あー、やっぱり青い空の下で見るライヴは最高だな!
  よーし、澪! 次はあっち行ってみようぜ!」

澪「おい律! 炎天下なんだからあまりはしゃぎ過ぎるなよ!」

紬「野外フェスティバルなんて初めてだから新鮮だわ~」

唯「そうだね~。あ~、やきそばたべたいな~」

梓「…………」

正直言って、私は狙っていました。何って、唯先輩を。

まぁ、こういう言い方は語弊があるかもしれませんが、

理解してほしいのは私ももう限界だったということです。

最初はその魔法のようなギタープレイに
同じギタリストとして憧れただけのはずの唯先輩、
今ではその全てが欲しくてたまらなかった。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:18:51.60 ID:V+kigXBP0

そうしてその夜――。

私は運よく二人きりで、大トリのバンドのステージを見ることができました。

律先輩は昼間のはしゃぎ過ぎのせいで、疲れてテントで既に就寝。
澪先輩と紬先輩は別のステージを見に行っています。
もしかしたら気を使ってくれたのかもしれません。

唯「わたし、一度でいいからこのバンドのライヴを見てみたかったんだ!」

大トリははるばるアイルランドからやってきたというバンド。
なんでもかなり昔に名盤と言われる1枚のアルバムをリリースしてからは、
活動を休止してしまい、その後長い休眠を続けたものの今年再始動。
今日が17年ぶりの日本でのライブだそうです。
なんでもフロントのギター・ボーカル担当の2人のメンバーは夫婦同士だとか……。うらやましいなぁ。

そして、そのバンドは唯先輩がギターを始めてから最も影響を受けたバンドだということでした。

『ゴオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!』

野外とは思えない物凄い轟音――。さすが唯先輩が影響を受けたバンドだけあります。
そして、その轟音の隙間から漏れ聞こえてくるのは、どこまでも美しいメロディ。

梓「HTTに……すごく似てる……」

私が思わずそう漏らしてしまったのも無理はありません。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:21:20.68 ID:V+kigXBP0

そして、感極まった私は、

(ぎゅっ)

唯「えっ?」

唯先輩の手を握ってしまいました。

私は轟音にかき消されぬよう、唯先輩の耳元で囁きました。

梓「私、唯先輩と一緒に音楽がやれて、本当によかったです」

唯先輩はにっこり笑いました。

唯「それは私もだよ――あずにゃん」

違う。

本当はもっと言いたいことがあるのに――。

私は自分がイヤになりました。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:23:37.97 ID:V+kigXBP0

唯「だいじょうぶ。全部わかってるよ、あずにゃん――」

でも、唯先輩はそんな私の頭を優しく撫でてくれました。

もはや、言葉は要りませんでした。

その日、恐ろしいほどのギターのフィードバックの轟音に包まれて、
唯先輩と私は初めてのキスを交わしました。

今となってはあまりに興奮していたもので、その時のバンドの名前も正確に覚えていません。

確か、前に唯先輩に薦められたホラー映画のタイトルみたいな、趣味の悪い名前でした。

でも、キスを交わした時に演奏されていた曲のタイトルだけは、一生忘れることはないでしょう。

『You Made Me Realize(あなたがわたしに気づかせてくれた)』



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:27:40.89 ID:V+kigXBP0

それから先は、まるでジェットコースターにでも乗っているかのように、速く時は過ぎて行きました。

でも、その分だけ濃密で、楽しい時間でした。

唯先輩と私は、軽音部内でも公認のカップルになることができました。

紬「いいものが見れて、私、軽音部に入って本当によかったわ。
  もし私が明日二階建てバスに轢かれて死んだとしても、
  唯ちゃんと梓ちゃんのことを思い出せば、世界一幸せな女として死ねるわね♪」

律「唯と梓を見ているとこっちまでホンワカした気分になってくるよ。
  あ~あ、私も彼氏でも作るかな~」

澪「なっ! 律みたいにガサツな女に彼氏なんてできるわけないだろ!」

律「なんだよー。そんなのわかんないじゃん。そういう澪こそどうなのさー?」

澪「……ばか律。(そういう意味で言ったんじゃないのに……)」

紬「オゥフwwwwwww(今日轢かれてもいいかも……)」

そして、一番の心配のタネだったあの人も……

憂「お姉ちゃんが選んだ人なら……私は何も言わないよ。
  それにお姉ちゃんの相手が梓ちゃんでよかった」

梓「憂……」

なんとか理解を得られました。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:31:46.68 ID:V+kigXBP0

こうして、唯先輩と私は蜜月の日々を過ごしました。

本当に、この時の幸せを何と表現したらよいでしょうか!

そして、この頃、私たち放課後ティータイムが演奏しているような音楽は
『シューゲイザー(shoegazer)』というジャンルにカテゴライズされることを知りました。

澪「何でも、演奏中に客に愛想を振りまくこともせず、じっと手元ばっかり見て演奏している様子が、
  『自分の靴ばかり見てる(shoe gaze)』ように見えるからそういう名前になったんだって」

律「へぇー」

澪「それで音楽的な特徴は、やたらと轟音のギター、
  歌詞の聞き取りづらいふわふわとした不安定な歌、綺麗なメロディーライン……」

紬「まさに私たちのことですねー」

でもそんなジャンル付けは唯先輩と私には関係ありませんでした。

放課後ティータイムは放課後ティータイム以外の何物でもないからです。

それに、演奏中の唯先輩と私は、傍からは『靴を見て』
周囲には無関心に自分の演奏に没頭しているように見えても、
その実傍らにいる大切な人の暖かい存在感を、
ギターから発される轟音を通して感じあっているのですから。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:34:42.99 ID:V+kigXBP0

その後、秋の学園祭ライヴを終える頃になると、
放課後ティータイムにはライヴハウスへの出演(1年生の冬に一度だけ出たことがあった)や、
インディーズでのレコードデビューの話が来るようになりました。

しかし、ライヴハウスへの出演はともかく、レコードデビューは時期尚早と判断し、
私たちは地道に軽音部としての活動を続けていました。

そうして、とうとうやってきてしまった卒業ライヴ。

私はあまりの寂しさにステージ上で泣きじゃくり、コードを押さえる指は勿論、
足元のエフェクターのスイッチさえ涙で滲んでよく見えず、うまく踏むことができませんでした。

それでも演奏は最後だけあって気合いが入り、素晴らしいものとなりました。

この時、私はいつか澪先輩が言っていた『自分のできること』が何か、わかりました。

それは、唯先輩と二人三脚で、唯先輩の呼吸を察知し、意図を汲み、
共に轟音の壁を作りだすパートナーとしての役目。

それはまさに、私にしかできない役目です。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:37:47.75 ID:V+kigXBP0

律「はははっ、梓は泣き過ぎだよ! ……会えなくなるわけじゃないのに」

梓「らって……グスン……みんな卒業しちゃう……そんなのいやで……グスン」

澪「それでも演奏だけはちゃんとやっていて、えらかったぞ?」

梓「ありがとうござ……グスン……います……」

紬「よっぽど唯ちゃんと離れるのが寂しかったのね(ニヤニヤ)」

唯「大丈夫だよ! 私たち4人、みんなおなじ女子大に行くし、HTTも続けられるよ?」

梓「でも……でもぉ……」

唯「あずにゃん……軽音部のことよろしくね……?」

梓「でも……わたし……ひとりになっちゃうんですよ? そんなのって……」

唯「『私たちの軽音部』を守っていくのはあずにゃんにしか出来ない役目なんだよ?」

梓「ゆいせんぱぁい……」

HTT、軽音部としての最後のライヴ。
その轟音はとうとうレッドゾーンを超え、講堂の窓ガラスは振動で割れ、
アンプの前をたまたま通りかかったネズミがあまりの爆音で破裂し、
観客達はまるでドラッグをキメたかのように音の壁に身を任せ、ゆらゆらと漂っていたといいます。

まさに最高のライヴでした。



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:41:43.56 ID:V+kigXBP0

その後、私は3年生になりました。

唯先輩達の卒業で消沈し、部員集めもロクにできない私を見かねて、
憂が決意して入部してくれ、純もジャズ研と掛け持ちという条件ながらも参加してくれました。

その後、憂と純の協力もあり、4人の新入部員を獲得。
唯先輩達から受け取った軽音部のバトンを、私もなんとか次の世代につなぐことができそうです。

その後、私は純をベース、憂をドラムス
(というより憂はちょっとコツさえつかめば
 どんな楽器も人並みに演奏出来てしまう、唯先輩とは違った意味での天才でした)に据え、

トリオバンド『放課後涅槃タイム』として活動。

HTTとは違う、時には爽やかなポップロック、時にはちょっとハードなグランジロックを演奏して、
『轟音製造機』なる軽音部の妙な異名を払拭することもできました。

唯先輩達も学園祭に私たちの演奏を見に来てくれ、とても誉めてくれました。

唯「たまにはこういう爽やかな音楽もいいね~」

唯先輩はこんなことを言っていましたが。

全く、唯先輩はたまにこういう素直じゃないところがあるんですよね。

ベッドの中とかでもそうだけど……。あ、今のは聞かなかったことにしてくださいね?



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:46:22.61 ID:V+kigXBP0

そして、私の高校卒業を機に、
この1年間はライヴを中心に活動していた放課後ティータイムが、
更に本格的な活動に乗り出しました。

きっかけは、唯先輩達の同級生である真鍋和さんが、
生徒会長の経験で培ったリーダーシップと元来の知力を活かし、
大学在学中にインディーズのレコード会社を起業。

その第1弾アーティストとして、
放課後ティータイムをレコードデビューさせたいという話を持ってきたことでした。

和「私も唯達の影響で音楽に目覚めてね。
  楽器は出来ないけど、レーベルの経営なら……って思ったの。
  レーベルの名前は『創造(クリエイション)レコード』!
  HTTなら、きっと新たな音楽シーンを創造する旗手になれるはずだわ」

創造レコード――まさにHTTに相応しい名前です。

そうしてレコーディング。

唯「必殺! フィードバック!!」

――ギョワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

ああ、この音です……この音。

唯先輩のギー太(トレモロアームを装着する改造済み)から放たれる轟音に身を任せていると、
つくづく自分がこのバンドにいることができる幸せを、

そして、何よりも自分が唯先輩の隣を歩くことのできる唯一無二の存在(
つまり恋人ってやつです!)であることの幸せを感じます!

私、ちょっと病気でしょうか……?



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:50:29.46 ID:V+kigXBP0

ともあれ、レコーディングは順調に推移。

放課後ティータイムとしての1stアルバム
『Houkago Tea Time Isn’t Anything(放課後ティータイムは何者でもない)』
が完成しました。

この意味深なタイトルは唯先輩がつけました。

HTTに対して、シューゲイザーだのサイケデリックロックだのオルタナだの何だのという、
無意味でキリのない空虚なジャンル付けをしたがる世間に対する、唯先輩からの回答でした。

アルバムは評論家筋にも好評、売上もそれなりに上がり、
創造レコードの今後の操業資金とするには十分な利益を得ることもできました。

そうして、アルバムリリースに伴うライヴツアー。

放課後ティータイムの、

『最初の10分はただ耳を塞いでいるだけでいっぱいいっぱい、
 20分すると帰りたくなる、でも30分経つと轟音に身をゆだねて踊りたくなる』

と評された轟音ライヴは、各所で話題となりました。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:55:08.26 ID:V+kigXBP0

唯「あずにゃん、今日のライヴも最高だったよ!
  いいビックマフとワウのコントロールっぷりだったね!」

梓「ほ、本当ですか……!?」

唯「うん! わたしも最高に気持ち良かった~。これだから、あずにゃんのこと、大好き!」

梓「…………ありがとうございます(顔から火が出そう……)」

紬「あらあら♪ 微笑ましいわ~」

律「こっちまで熱くなってくるな~」

澪「それなら律……今夜は私と……いや、なんでもない」

まさに放課後ティータイムの活動は順風満帆でした。

そして、私にとってはあの、最愛の人、
唯先輩に認められているという事実が、何よりもうれしかったのです。

でも、そんな幸せな日々は長くは続きませんでした。



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 21:58:29.78 ID:V+kigXBP0

年頃の女の子と言うものは、時には身体が疼いて仕方ない夜を過ごすものです。

梓「唯先輩……唯先輩……」

その日、奇しくも発情期であった私は、
耐えきれなくなって同じベッドで寝ている唯先輩の肩をゆすりました。
(ちなみに唯先輩と私は1stアルバムの印税で、二人で住むためのマンションを借りました)

いつもなら、

唯『もうあずにゃんったら、仕方ないなぁ~。発情すると止まらないところも猫そっくり♪』

とか言って可愛がってくれるのが常なのですが……。

唯「んー……今日はダメ……」

帰ってきたのは眠そうな返事でした。

唯「今日……1日中……ミキシング……つかれた……」

結論から言ってしまいましょう。
この頃、唯先輩とのすれ違いが激しいのです。

きっかけは、間違いなく2ndアルバムのレコーディングが始まったことでした。



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 22:03:49.83 ID:V+kigXBP0

和「1stアルバムも好評だったし、次はもっと期待できるわ! 
  最近とみに増えてきているHTTのフォロワーのようなバンドとの違いを
  シーンに見せつけるためにも、次のアルバムが大事よ!」

そんな期待と共に、創造レコードからは多額のアルバム製作費がHTTにあてられました。

これなら今まで以上に機材にもレコーディングにもこだわることができて、すごい作品ができる!

5人のうちの誰もがそう考えたことでしょう。

しかし、現実はそうはいきませんでした。

最初のトラブルは、不動のドラマー、律先輩に起こりました。

律「最近、身体が動かないんだ……」

激しいドラミングが身上だった律先輩は、

2ndアルバムのレコーディングという最悪のタイミングで身体を壊してしまいました。

特に脚へのダメージは甚大で、

もはや律先輩はロクにバスドラムを踏むことすらできなくなっていたのです。

律先輩は、レコーディングを中断し、入院することになりました。

退院しても、しばらく以前のようなドラミングは難しいそうです。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 22:06:05.24 ID:V+kigXBP0

澪「律が……入院だって……!?」

このことに最も心を痛めたのは澪先輩でした。

もはやこの時期には澪先輩が律先輩に

幼馴染の友情を超えた特別な感情を抱いていることは、周知の事実でした。

そして、そんな澪先輩の心のダメージに拍車をかけたのは――

澪「唯……お前は何を考えているんだ!?」

唯先輩が、離脱した律先輩のドラムパートを全てサンプリングで賄うと言いだしたことです。

唯「別にりっちゃんをクビにするわけじゃないよ。
  前のアルバムのセッションの時のりっちゃんのドラムパートをサンプリングして、
  編集して2ndの曲に使うんだよ?」

澪「でも……律が叩いていないことに変わりないじゃないか!
  律が回復するまでレコーディングは延期するべきだ!」

唯「でも和ちゃんからもらっている製作費にも限りがあるし、
  そうそう長い間レコーディングをひきのばすこともできないよ?」

唯先輩の案が苦虫をかみつぶした末の苦肉の策であることは、私もムギ先輩も重々承知していました。

澪「ふざけるな!! それじゃあバンドの意味がないじゃないか!!」

しかし、『バンドとはメンバーの誰一人欠けても成立することはない』が信条であり、
その上、律先輩という大切な人の問題となった時の澪先輩にとって、その提案は承服しかねるものでした。




関連記事

ランダム記事(試用版)




唯「らぶれす!」#前編
[ 2011/10/01 14:15 ] 音楽 | MyBloodyValentine | CM(0)

コメント(アンカー機能)
●>>1と半角で書き込むと>>1と記事へのアンカーが生成される。
●*1と半角で書き込むと1とコメントへのアンカーが生成される。
上記の2つのアンカーが有効なのは該当記事のみ。

コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

サイト関連
メール ツイッター 最新記事一覧(30件)
ユーザータグ 検索

U:
P:
色々変更
好みのカラーコードをどうぞ

記事の背景色変更


本体の背景色変更


名前の色変更
IE8:重
火狐4.01:軽
chrome:軽


広告4
広告5
広告6