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唯「らぶれす!」#後編 【音楽】


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唯「らぶれす!」#前編
唯「らぶれす!」#後編




54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 22:08:56.01 ID:V+kigXBP0

そうして、澪先輩はだんだんとスタジオから足が遠のくようになっていきました。

唯「仕方ないね。ベースは私が弾いて、ボーカルは私とあずにゃんで分担しようか」

それでも唯先輩はレコーディングを中断することはありませんでした。

この頃からです。

唯先輩が口の悪いレコード会社のスタッフやエンジニアから
『コントロールフリーク』だの『独裁者』だの『神経質』だのの陰口を叩かれるようになったのは――。

しかし、唯先輩には確かにそう思われても仕方ないところはありました。

その① 自分以外の人間に卓のツマミは触らせない。

レコーディングには、何人もの腕利きのサウンドエンジニアが関わりました。
しかし、唯先輩はその誰にも、ミキシング卓のボタンひとつ触ることを許さず、
アンプに向けるマイク1本にすら触れることをよしとしなかったのです。

唯「だってこれはわたしたちのアルバムだよ?
  どうしてわたしたち以外の人に音をいじられなくちゃならないの?
  そんなの、私たちの飲むお茶をムギちゃん以外の人が淹れるようなもの……つまり台無しだよ!」

唯先輩の言うことはもっともにも聞こえましたが、異常なほどにこだわっていたのも事実です。

唯「わたしたち以外の人間に、絶対にアルバムの音はいじらせないよ!」

こんなことを言う唯先輩ですか、その実、自分以外の人間……
私や他の先輩達にすら、卓を操作する権限は与えられませんでした。



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 22:10:46.99 ID:V+kigXBP0

その② ギターの一音にすらこだわる。

とある曲のイントロのギターのワンコードを録音するだけで2週間の時間がかかりました。

私も何度ギターリテイクを出されたか、覚えていられないほどでした。

そして、ミキシングにもこだわり、ボーカルのブレスの聞こえ方ひとつから、
ベースとムギ先輩の弾くシンセサイザーの一音の重なりにまで、何度もリミキシングを重ねました。

思えば唯先輩は高校時代、
チューナーなしで4分の1音のチューニングのずれにまで気付いた絶対音感の持ち主です。

唯「うーん、今のところ、わたしが考えていたコードの響きとちょっとちがうかな~。もう一回だね」

口の悪い音楽雑誌の記者は『平沢唯は1曲でギターを200本も重ねるパラノイア』と書き立てました。



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 22:13:27.82 ID:V+kigXBP0

その③ とにかく時間がかかる。

前述したサウンドへのこだわり。

これにサンプリングした律先輩のドラムトラックの切り貼りが加わるというのですから、
かかる時間は考えたくもありません。

しかも、唯先輩はその全てを一人でこなすわけです!

レコーディングの予定は、当然のことならどんどん後ろにずれ込んでいきました。

そんなある日、創造レコードの社長にして唯先輩の幼馴染である真鍋先輩が、
真っ青な顔をしてスタジオにやってきました。

和「唯……ちょっと相談なんだけど」

唯「な~に?」

唯先輩はミキシング卓に向かったまま、振り向きもしません。

和「アルバムのレコーディング……もうちょっと早くならないかしら。
  時間がかかり過ぎているせいで、スタジオ代がとんでもないことになっているの。
  これじゃ、いずれ創造レコードは倒産してしまうわ」

真鍋先輩の言葉は冗談には聞こえませんでした。

この頃、創造レコードはHTT以外にもいくつかの売れっ子インディーバンドを抱えており、
資金にはそれなりに余裕はあるはずなのにもかかわらず、この発言です。



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 22:16:41.77 ID:V+kigXBP0

唯「それじゃ、こういうこと?
  和ちゃんはHTTに中途半端な出来のアルバムを出せっていうの?」

和「そう言うわけじゃないけど……いい加減に出費が……」

唯「だからもうすぐできるって! 何度も言ってるじゃん!
  すぐ! もうすぐ! 英語でいえば『Soon』!!」

和「…………」

この唯先輩の剣幕には、さすがの真鍋先輩も閉口してしまいました。

後年、HTTは『アルバム制作に金をかけ過ぎて、
レコード会社をひとつ潰しかけたバンド』とのありがたくない異名を頂戴することになりました。

とにかく、毎日がこんな調子――。

以前の軽音部の部室やHTTのスタジオにあったはずの、
ほのぼのとして楽しい空気は微塵もありませんでした。

そして、アルバムの制作に没頭する唯先輩は1日の殆どをスタジオで過ごし、
マンションには寝に帰ってくるだけ、(それも3日に1度程度)というありさまでした。
これですれ違いにならない方がおかしいというものです。

梓「今日も帰ってきてくれないんですか……?」

唯「うーん、まだミキシングの出来に納得いかないんだ~」

梓「そんな……。これで1週間も連続で一緒に夜を過ごしていないじゃないですか……」

唯「仕方ないよ。あずにゃんはギター弾いてちょっと歌うだけでいいけど、
  わたしはそれに加えて、もっといろんな作業をやらなくちゃいけないんだから」



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 22:20:37.79 ID:V+kigXBP0

当然、私も理解はしていたつもりでした。

唯先輩は天才だ。音楽の神に選ばれた人だ。そんな唯先輩を私は好きになった。
だから、我慢しなくちゃいけない。

そう何度も自分に言い聞かせてきました。

でも、それももう限界だったのです。

梓「いい加減にしてください!!」

ある日、スタジオで私は唯先輩に対して溜まりに溜まった感情を爆発させてしまいました。

梓「来る日も来る日もスタジオ、スタジオ、
  ミキシング、ミキシング……唯先輩はちょっとおかしいです!!」

唯「おかしい? どうして? 私たちHTTのアルバムのためだよ?
  一生懸命アルバムを作ることの何がおかしいの?」

梓「それが律先輩の身体の……澪先輩の心の……
  そして私と唯先輩の生活の破綻に繋がっていてもですか!?」

紬「梓ちゃん? 落ち着きましょう、ね?
  ほら、座って……紅茶も淹れるから、ゆっくり飲んで、落ち着いて話しましょう、ね?」

すかさずムギ先輩が間に入りますが、私は止まれませんでした。

そうして、私は言ってはいけない一言を言ってしまったのです。



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 22:24:07.26 ID:V+kigXBP0

梓「唯先輩は……私とアルバムのどっちが大事なんですか!!??」

その時の、固まった唯先輩の表情を、私は一生忘れることはないでしょう。

やってしまった――と後悔した時にはもう遅かったのです。

唯先輩は戸惑いがちに、ムギ先輩の顔をちらりと見、そしてもう一度私の顔を見ると、

唯「………ごめんね」

とだけ小さくつぶやき、またミキシングの作業に戻りました。

この瞬間、私にとって全てが……終わってしまったのです。



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 22:26:51.68 ID:V+kigXBP0

その後、気まずくなった私は当然スタジオに顔を出すこともできませんでした。

私の分のギターパートとボーカルパートのベーシックトラックは

全て録り終えた後だったというのが不幸中の幸いと言うほかありません。

そして、最後まで私たちの間に入ってくれたムギ先輩も、

とうとうスタジオに顔を見せなくなったとのことでした。

なんでもムギ先輩は真鍋先輩にこう言い残し、スタジオを後にしたと言います。

紬「りっちゃんに澪ちゃん……そして今度は唯ちゃんと梓ちゃん……
  あんなに仲の良かった皆の関係がこれ以上壊れていく様を、もう私は見ていられない」

ぐうの音も出ませんでした。

私が荷物をまとめ、唯先輩との愛の巣だったマンションを離れたのもそのすぐ後のことでした。

そうして、長い月日と、膨大な労力と、山のような札束と、
そして何よりも取り返しのつかない友情と愛情の喪失を引きかえに
完成した放課後ティータイムの2ndアルバムには、皮肉なまでに象徴的なタイトルが付けられました。

その名も

『らぶれす!(Loveless)』

まさに愛なき世界となってしまった私たちの未来を象徴するようなタイトルでした。



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 22:29:22.48 ID:V+kigXBP0

放課後ティータイムの2ndアルバム『らぶれす!』はとてつもない好評をもって世間に迎え入れられました。

しかし、後になると、この『らぶれす!』は『放課後ティータイムの2ndアルバム』ではなく、
『平沢唯のソロアルバム』として受け取られることが多くなりました。

それも当然です。

このアルバムはほぼ唯先輩が一人でつくったものなのですから。

その証拠に、律先輩はただのサンプリング音源のドラムマシーンと化し、
アルバムでは1曲も新録を行っていません。
(それでも唯先輩の巧みな編集技術により、
 アルバムで聴かれるドラム音は生録音と殆ど違わないものでしたが)

澪先輩は、アルバムでは一音もベースを弾いておらず、

数曲での作詞とコーラスに僅かに声が残っていただけです。

ムギ先輩が録音したキーボードパートは、最終的に全て唯先輩の演奏に差し替えられました。

私に関しても、数曲でのボーカルとギター演奏で、その痕跡を残したのみです。

そして、最も皮肉なのはそんなアルバムの出来が素晴らしかったことです。

ギターの轟音はこれまで以上に猛威を増し、

その間隙を流れるように漂うボーカルもこの世のものとは思えない天上の美しさを讃えていました。

『らぶれす!』アルバムは世紀の名盤として、
音楽史に名を刻み、後世に影響を与え続ける存在となったのです。



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 22:32:13.68 ID:V+kigXBP0

この後、あれだけのすれ違い、仲違いがあったにもかかわらず、
放課後ティータイムは『らぶれす!』のリリースに伴うライヴツアーに出ました。
(この頃には律先輩も一応のドラミングはできるまでに回復していました)

商業上、契約上の理由で仕方なく行ったものとはいえ、ツアーは当然ながらつらいものとなりました。

楽屋でも移動のバスの中でも、当然ながらまともな会話はなし。

唯「………」
澪「………」
律「……しゃれこうべ」
紬「………」
梓「………」

空気を変えようとした律先輩必殺の一発ギャグもまったく効果はありませんでした。

バンド全体としての雰囲気も悪かったけれど、
私と唯先輩の間にはそれ以上に気まずい空気が流れていました。

以前はあれだけ頻繁にされていた唯先輩からのスキンシップも、
二人の間でのちょっとした会話ですらも皆無。
互いが互いを空気であるかのように認識していました。

もっとも私は無理やりにでもそう思わなければ、
心がバラバラになってしまいそうなくらいつらかったからなのですが。



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 22:33:47.62 ID:V+kigXBP0

しかし、皮肉だったのはそんなバンドの雰囲気の悪さにも関わらず、
肝心のライヴ演奏に関しては、HTTのキャリア内でも最高の状態にあったことです。

唯「え~、それじゃ次は『ふわふわ時間』」

客「ウオーッ!!」

ふわふわ時間での長尺ノイズパートはもはやHTTライヴの風物詩となり、
多くの観客が轟音の波に身を委ね、気持ちよさそうに陶酔していました。

海外でのライヴを行うこともできました。

しかし、頂点に達したこの轟音は同時に、HTTというバンドの断末魔の叫びでもあったのです。

ツアーの終了と同時に、創造レコードとHTTの契約期間が終了しました。
レーベルには、契約更新の意思はなかったようです。

和「唯は個人的には友達だけど、あのアルバムのことについてはもう思い出したくないわ」

真鍋先輩にとっても、『らぶれす!』は苦い思い出になってしまったようで、
そのことがHTTとの契約終了の遠因になったことは間違いなさそうです。

その後、HTTはとあるメジャーレコード会社と新たに契約を結び、バンドは莫大な契約金を手にしました。
誰もが、メジャーでの『らぶれす!』に続くHTTのアルバムを期待していました。

しかし、それはとうとうリリースされることはなかったのです。



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 23:00:04.10 ID:V+kigXBP0

そんなある日、私の携帯に澪先輩から一本の電話が入りました。

澪『やぁ梓、久しぶりだな』

梓「こちらこそ。久しぶりです。どうしたんですか一体?」

澪『どうしたもこうしたもないよ。
  私たちのバンドの今度のライヴにギターで参加して欲しくてさ』

梓「ストライプスのライヴに……ですか」

澪先輩の今やっているバンドは『アクアブルー・ストライプス』。
自身が高校1年生の時の学園祭ライヴで
観客に晒したパンツの色から名前をとったという、曰くつきのバンドです。

澪『律もさ、久しぶりに梓に会いたいって言ってるよ』

アクアブルー・ストライプスは、
ベースボーカルの澪先輩とドラムスの律先輩の2人編成という、ギターレスの画期的なバンドでした。

ちなみに澪先輩と律先輩は晴れて結ばれ、
ストライプスも今では世間も公認の夫婦バンドになっているそうです。

梓「ちょっとだけ、考えさせて下さい――」

澪『何言ってるんだよ。最近じゃ殆ど音楽活動もせずに喫茶店の店番して過ごしているんだろう?
  悪い誘いじゃないと思うし、このままだと梓まで唯みたいに……』

梓「唯先輩ですか……」

澪『あ……悪い……思い出させちゃったな』

梓「いえ、いいんです。参加の件、とりあえず前向きに考えてみます」



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 23:04:34.38 ID:V+kigXBP0

『らぶれす!』アルバムに伴うツアーの終了とともに、
放課後ティータイムは無期限の活動休止状態となりました。
誰が言い出したわけでもない、自然な流れでした。

その後、世間においても、次々に新たなガールズ・バンドが登場し、
一時はHTT一色だった音楽シーンの様相も大分変わりました。

モデル並の美貌を誇るボーカル、デーモン・アルバー子、率いるポップなロックバンド『ブラブラー』、

いまどき珍しいムギ先輩も驚くほどのゲジ眉と、しょっちゅうのように起こす喧嘩が自慢の
乃絵瑠(のえる)&莉亜夢(りあむ)姉妹が率いる王道ロックバンド『オアシズ』、

ボーカルのトム・ヨーコはじめ、メンバー全員が名門大学卒業という
インテリジェンスが自慢のギターロックバンド『ラジオ頭』、

これらのバンドの台頭により、
HTTが音楽シーンで確立していたはずの地位は、徐々に相対的に下がっていきました。

しかし、一方ではHTTのメンバー達も休止期間を新たな音楽活動に充てていました。

先述した澪先輩と律先輩の夫婦ユニット『アクアブルー・ストライプス』は、
HTTとは180度違うまっすぐなサウンドを売りにし、
ライヴツアーを連日ソールドアウトさせるほどの人気を誇っていました。

一方、HTT末期での苦い経験から、バンド活動からは離れたムギ先輩は、
シンセサイザーの演奏を通じて得た電子音楽の素養を活かし、
個人で多数の名義を使い分けるテクノミュージシャンとして活躍していました。

ムギカル・シスターズ、タクアン・ワールド、ダフト・マユゲ等々……
世の第一線を走るテクノミュージシャンの正体が
全てムギ先輩だと知る人間は、世間にもそうはいないはずです。
まさにミュージシャン個人の匿名性が高いテクノというジャンルだからこそできる芸当です。



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 23:05:53.39 ID:V+kigXBP0

そして私はといえば……

HTT休止初期こそ様々なバンドのセッションにギター1本で参加し、
小銭を稼いでいたのですが、それもすぐに嫌になってしまったのです。

プロデューサー「梓ちゃんさぁ、HTTばりの轟音ギターもいいけど、ちょっと食傷気味だよ。
        たまにはもうちょっとテクニカルなのも弾いてくれないと」

梓「は、はい……」

そんなことを言われ、唯先輩から授かった轟音スタイルのプレイを捨てることもありました。

そして何よりも致命的だったのは、私の傍らに横たわるどうしようもない空白に堪えることができず、
音楽を演奏することをちっとも楽しめなくなったことでした。

その空白とは――すなわち唯先輩のことです。

認めざるを得ません。

私は唯先輩に未練がある。

そうして、私は唯先輩の幻影を感じざるを得ない音楽活動から足を洗い、
軽音部時代にムギ先輩から学んだお茶の知識を活かし、小さな喫茶店を営む毎日を過ごしていました。



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 23:10:12.09 ID:V+kigXBP0

そして、唯先輩はといえば……

唯「メジャーに移籍して、今度はお金の問題もないよ。
  これなら、次はもっと凄いアルバムができるね!」

HTT休止寸前に、そんなことを言っていたといいます。

しかし、その後私たち4人にレコーディングの連絡が来ることもありませんでしたし、
『らぶれす!』のように唯先輩が一人でレコーディングをしているという話も聞きませんでした。

こうして完全なる活動凍結状態――。

つまりは、HTTが『活動休止』と呼ばれる所以の殆どは唯先輩によるものなのです。

一度、3rdアルバム用のデモテープを
レコーディングしているとの噂が流れましたが、その後の音沙汰はありません。

また一度、HTTの1stアルバムである『Houkago Tea Time Isn't Anything』と『らぶれす!』、
そして何枚かリリースしたシングル音源等のリマスター作業を行っているとの噂がありましたが、
やはりその後の音沙汰はありません。

たまに他のバンドの楽曲のリミックスや
ソロ名義での映画への楽曲の提供などでその名を見ることはできたものの、
原則HTTの活動に関して、唯先輩は何ら具体的な活動を起こすことはありませんでした。

いつしか、何の動きも起こさない唯先輩は『怠け者』、『CD出す出す詐欺』、
果ては『音楽界のニート平沢唯』との異名で呼ばれるようになりました。

今では、HTTのメンバーも、レコード会社の人間も、音楽雑誌の記者も、
唯先輩がどこで何をしているか、誰も知りません。

こうして音楽界のニートの新たな伝説がひとつ、またひとつと増えていくのです。



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 23:13:32.44 ID:V+kigXBP0

律「いやー、今日のライヴも最高だったよ。特に澪のボーカルの調子が良かったな!」

澪「そ、そうか? でも律のドラミングもなかなかよかったぞ……なんて……(恥ずかしい)」

梓「あのー……楽屋でいちゃつくのは止めてもらえませんかね……」

律澪「べ、別にいちゃついてなんか……!!」

結局、私は二人の熱意に負ける形で、
アクアブルー・ストライプスのライヴツアーにギタリストとして参加しました。

相思相愛の澪先輩と律先輩に目の前でいちゃつかれるのは何とも微妙な感じですが、
この際気にしないこととします……。

すると、急に真面目な顔になった律先輩がこんな提案をしてきました。

律「なぁ梓、正式にストライプスに加入する気はないか?」

梓「えっ、私がですか?」

そして、さらに衝撃的な事実が澪先輩から語られます。

澪「実はな、梓にいい返事をもらえれば、ムギも誘おうと思ってるんだ」

梓「!!」

それはつまり――殆どHTTメンバーの再結集に等しいことでした。

しかし、私はどうしても『そこ』に触れないわけには行きません。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 23:17:56.57 ID:V+kigXBP0

梓「唯先輩は……どうするんですか?」

律澪「…………」

二人はともに黙り込んでしまいました。

それでも沈黙の裏にある言葉は読み取れました。

つまり、唯先輩にとって、5人編成のHTTはもう終わっているのです。

その証拠に、バンドの最高傑作である『らぶれす!』を、

あの人はほぼ一人で創り上げ、その後の音沙汰はない。

しかも、今の『音楽界のニート』たる唯先輩に、

具体的な音楽活動を期待することなど、まさに非現実的。

梓「やっぱり、少し考えさせて下さい」

それでも私は自信がありませんでした。

短期間のライヴツアーならまだしも、唯先輩が隣にいないにもかかわらず、

継続的なバンド活動などできるのか?

そんな不安の方が、まだ圧倒的に大きかったのです。

その少し後のことでした。
ストライプスの取材にやってきた音楽雑誌の記者から、私は驚くべき情報を聞くことになりました。

なんと、長い間沈黙を続けていた唯先輩が、『プライマル・アイスクリーム』という、
人気ガールズロックバンドの新ギタリストとして加入することが決定したというのです。



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 23:21:30.46 ID:V+kigXBP0

このニュース、動揺するなと言う方が無理です。

澪「そんな……あの唯が今更になって新しいバンドだって?」

澪先輩が驚くのも無理はありません。

律「つまり……HTTはやっぱり唯の中ではもう終わっているってことか……」

律先輩の言葉は、特に重く私の心に響きました。

それでも、私は信じたくなかったのです。

だからこそ、あの人の真意が知りたかった。

ちょうどその時、『プライマル・アイスクリーム』のメンバーとなった唯先輩の、
幾年ぶりかのインタビュー記事がその音楽雑誌に掲載されるとの噂を聞きつけ、私は書店へ走りました。

澪「梓、悪いことは言わない。記事を読むのは止めたほうが……」

律「世の中には知らなくていいこともあると思うんだ……」

唯先輩と私の過去の関係を知る澪先輩と律先輩のそんな言葉も、

私のことを思ってのものであることは理解していました。

それでも私は……諦められない。

そうして、私は恐る恐るページをめくりました。



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 23:23:04.24 ID:V+kigXBP0

―本当に久しぶりですね(笑)

唯「そうだね! 雑誌のインタビューなんて何年ぶりだろ~」

―先ずは今回のプライマル・アイスクリームへの電撃加入のいきさつを教えていただければ。

唯「私も長いこと引き篭もってたから、いい加減憂に怒られちゃって。
  『お姉ちゃん、いい加減にしないと本当にニートになっちゃうよ?』って」

―HTTの印税収入があるじゃないですか。『らぶれす!』は今でも売れ続けているアルバムですよね?

唯「そうだけど、とりあえずは人前に出ることからはじめようと思って。
  そうしたらちょうどプライマルがツアーに帯同するギタリストを探しているって話を聞いて、
  連絡を取ったんだよ~」

―と、いうことはもしかするとプライマルには正式加入したわけではない?

唯「そうだね。とりあえずツアーには参加するけど、その後のことは決まってないよ」

―そうだったんですか。てっきり正式加入されたものかと思っていました。

唯「プライマルと私じゃ、音楽性がちょっと違うし、
  それにプライマルのメンバーは1度や2度ならまだしも
  毎晩毎晩私の弾くギー太の轟音を聴いていたら耐えられないと思うよ~」

―(笑) しかし、それならばどうしても聞かなくてはいけないことがありますね。

唯「ああ、やっぱり? そう来ると思ってたんだ~」



77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 23:25:54.55 ID:V+kigXBP0

―単刀直入に聞きます。放課後ティータイムの次のアルバムはいつ出るんですか?

唯「う~ん、いろいろアイデアはあるんだよ。今度はドラムンベースに轟音ギターを乗せてみようとか、
  ダンスミュージックっぽいのをやってみようとか、それでデモテープを作ったりはするんだけど、
  ほら、わたしって、すごく凝る人だし――」

―『コントロールフリーク平沢唯』ですか。

唯「そうそう(笑) だからいつも時間ばかりむだにかかっちゃって、
  気付いたころにはそんな新しいアイデア自体が古くなっちゃってるっていう繰り返し」

―メンバーとは連絡は取り合っているんですか?
  最近では秋山澪と田井中律のアクアブルー・ストライプスに中野梓が加入するなんて話もありましたし、
  琴吹紬も実はムギカル・シスターズ名義で活動しているという噂がありますよね。

唯「みんなとは連絡は取っていない、というより、取れないんだ」

―それはかの名盤『らぶれす!』のレコーディング中にメンバー間の不和が表面化したから?
  それが現在までのHTTの活動休止の原因だなんて言われていますよね?

唯「不和……というか……私がいけないんだけどね。
  とにかく、あの『らぶれす!』アルバムは素晴らしい出来だったけど、
  そのかわりに犠牲にしたものが多すぎたんだ。今思えばわたしも若かったんだね……」

―『らぶれす!』は殆ど貴方独りで作ったもので、
  HTT名義と言えども実質は『平沢唯のソロアルバム』なんていう評価も今ではされていますよね。

唯「どうしてそういう風に言われるか、わたしにはわからないよ。
  たしかにあのアルバムでの殆どの楽器をわたしは演奏したし、
  ミックスもマスタリングも殆ど全部一人でやったけど」



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 23:27:56.09 ID:V+kigXBP0

―やっぱり、ソロアルバムじゃないですか。

唯「でも曲の殆どの歌詞は澪ちゃんが書いたやつだし、
  ムギちゃんやりっちゃんが書いた曲だってあったんだよ?
  それにあのアルバムの大元のコンセプトは、あずにゃんに影響されて出来たんだから」

―そ、そうだったんですか……。
  しかし、それだけの傑作が現時点でHTTのラストアルバムになってしまっているわけですが……
  やはりHTTはもう終わってしまったのでしょうか。

唯「終わってないよ!」

―え!?

唯「HTTは終わってないよ!
  HTTが終わったかどうかを決めることができるのは私たちだけだし、
  勝手に外野に決められたくないよ!」

―す、すいません……。しかし、HTTが終わっていないということは、活動を再開する可能性もあると?

唯「当然だよ。今はまだその時期じゃないかもしれないけど、いつか絶対にHTTは戻ってくるよ!
  それももうすぐ……もうすぐだよ! 英語でいえばSoon!」

―それでは、HTTの新たな音が届けられる日を、我々は待っていてもいいんですね?

唯「そういうこと!」

―今日はどうもありがとうございました。プライマルでのギタープレイも楽しみにしています。

唯「おーでぃえんすの鼓膜を突き破るくらいでっかい音でギー太を弾くから、楽しみにしててね!」



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/16(日) 23:29:45.99 ID:V+kigXBP0

律「……どうだった?」

ページを閉じ、静かに雑誌を置いた私を気遣うように律先輩は恐る恐る声をかけてくれました。

澪先輩も心配そうな様子で私を気にしています。

しかし、私はそんな二人の様子も気にならなくなるほど……泣いていました。

梓「唯先輩が……まだ……終わってないって……」

澪「なんだ? 何が終わってないって?」

梓「放課後ティータイムが……まだ終わってないって……」

律「ほ、本当か!?」

涙が止まりません。

胸の奥から熱い感情がこみあげてきて溜まりません。

泣くなと言う方が無理です。

唯先輩は断言してくれた。

まだ放課後ティータイムは終わっていないって。



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 00:00:06.88 ID:xHcEhq6P0

梓「唯先輩に……会いたいです……」

澪「梓……お前……」

梓「会いたい……会いたいよ……唯先輩に会いたいよぅ……」

そこから先はもはや言葉になりませんでした。

結局、私はあの人から離れられない。

新入生歓迎会で初めて、唯先輩の演奏を見て憧れたその日から、何も変わってなんかいなかったんです。



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 00:02:13.41 ID:xHcEhq6P0

その後、私は正式にアクアブルー・ストライプスへの加入を断りました。
しかし、澪先輩も律先輩も私のその決断を咎めることはなく、寧ろ、

澪「梓の気持ちは私もよくわかるんだ」

律「そうだなっ! 私もいい加減唯の弾く轟音ギターが恋しくなってきたところだったんだ」

放課後ティータイム再始動への意欲を見せてくれたのです。

しかし、唯先輩が動き出さない限り、HTTの再始動はあり得ません。
そして、それがどれだけ難しいことかも、3人とも理解していたのです。

そんな時、久しぶりに私たちのもとにムギ先輩からの連絡が入りました。

紬『そういうことなら任せて!
  実はね、私今度のサマーソニックにマユゲ・パンク名義で出ることになったんだけど、
  ちょうど同じステージのトリでプライマル・アイスクリームが出演するのよ~』

梓「そ、それじゃあ……!」

紬『ええ。唯ちゃんと何とか会って、HTTの今後について具体的な話をしてみるわ』

ムギ先輩の提案は渡りに船でした。しかし、一方で葛藤もあります。

梓「でも……いいんですか? ムギ先輩はもうバンドは……」

紬『いいのよ。何よりも大事なのは梓ちゃんの気持ちだもの』

梓「……っ!」



86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 00:04:08.58 ID:xHcEhq6P0

紬『まだ好きなんでしょ? 唯ちゃんのこと』

梓「……はい」

紬『だとしたら元々私には協力する以外の選択肢がないわ♪(ニヤニヤ)』

ああ、やっぱりこの人にはこの手のことで隠しごとができないな……。

そして数カ月後――。

紬「唯ちゃんは前向きに考えているみたいだったわ。
  ただし、当然今参加しているプライマルのツアーが終わってからになるみたいだけど」

律「ほ、本当か!?」

澪「そ、それじゃ……!」

紬「ええ。まずはライヴ活動からになると思うけど、
  皆が良ければ放課後ティータイムを再始動させたいって」

ムギ先輩の報告は、まさに私が待ち望んだものであった。

紬「梓ちゃん、よかったわね」

しかし、私の中にはまだ迷いがあった。

あの雑誌記事のインタビューを読む限り、HTTは唯先輩の中では終わっていなかった。
だとすれば、HTTを終わらせようとしてしまったのは唯先輩でなく、
あの日感情に任せてレコーディングスタジオを、そしてマンションを飛び出して行ってしまった私だ。



87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 00:06:31.02 ID:xHcEhq6P0

梓「唯先輩は……私を許してくれるでしょうか」

紬「どうして許される必要があるの? 梓ちゃんは何も悪いことをしていないじゃない」

梓「いえ……結局、唯先輩を信じられなかったのは私なんです……」

一抹の不安を抱えたまま、放課後ティータイムは再始動に乗り出しました。

再始動の舞台は、苗場でのフジ・ロック・フェスティバル大トリのステージに決まりました。

何とも皮肉な巡り合せです。

フジロックは唯先輩と私の気持ちが初めて通じ合った場所なんですから。

リハーサルが始まると、あの『音楽界のニート』だったはずの唯先輩は
一度も遅刻することなくスタジオに現れ、演奏に加わったといいます。

『いいます』というのは……私がそこにいなかったから。

私は唯先輩の前に立つことにまだ戸惑いがあり、
結局リハーサルでは一度も唯先輩と顔を合わすことができませんでした。

そうして、放課後ティータイムは結局、5人でのリハーサルは一度もすることなく、
再始動のステージ本番を迎えることとなりました。



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 00:09:08.39 ID:xHcEhq6P0

梓「唯先輩にどうしても聞きたいことがあります!」

唯「ふぁに? ふぁずにゃん?(なぁに? あずにゃん?)」

私の問いかけに、唯先輩はお茶受けのお菓子を口いっぱいに含んだまま応えました。

梓「どうやったら唯先輩のようなギターが弾けますか?」

唯「それ、前も聞いたよね」

梓「はい。だけどあえてもう一度聞くんです。
  唯先輩達に借りたCDも聴きこんで……とても参考になりました。
  機材もエフェクターも揃えましたし、毎日練習もしています。
  でも……それでもまだ私は唯先輩のようなギターが弾けない……」

唯「あずにゃんは考えすぎなんだよ」

梓「考え過ぎですか……?」

唯「わたしたちがやってるのは音楽だよ? だからもっと楽しくやらなきゃ!」

梓「楽しくやれば……唯先輩のようなギターが弾けますか?」

唯「うん! それにわたしはあずにゃんと一緒にギターを弾くの、楽しいよ?」



89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 00:11:46.74 ID:xHcEhq6P0

梓「ほ、本当ですか!?」

唯「ほんとうだよ!
  だからね、もうあずにゃんは別にわたしになる必要はなくて……うまく言えないけど、
  一緒に演奏していて、『楽しい!』って思える時点で、
  あずにゃんはもうHTTになくてはならない存在なんだよ?」

梓「唯先輩……」

唯「それにお世辞でもわたしのようになりたいなんていってくれて、嬉しかったな~。
  だって、わたし、昔から何やってもダメダメで、
  人にそんな風に誉められたことなんてなかったから~」

梓「ふふふ、確かに普段の唯先輩は少し怠けすぎかもしれませんね」

唯「そうだよね~……このままじゃ将来は本当にニート……? う~、考えたくないよ~」

梓「大丈夫ですよ。HTTがありますから」

唯「ほんと? HTTで武道館、目指せるかな~?」

梓「はい!」



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 00:13:56.99 ID:xHcEhq6P0

出番を待つ舞台裏で、私は不意に昔の……高校時代のことを思い出していました。

私にとって唯先輩はずっと憧れのギタリストで……それがいつかは最愛の人になっていた。

その過去は今更変えられないし、微塵の後悔もしていない。

唯「最初の曲はどうしようかな~……」

澪「おいおい、まだ決めてなかったのかよ……」

律「相変わらずだな~」

紬「とりあえず唯ちゃんの一番よく覚えている曲から、始めてみたらどうかしら?」

唯「う~ん、それじゃあ『ホッチキス』か『カレーのちライス』か……」

さっきから私はメンバー同士の会話にも入れず、唯先輩の顔も見れずにいます。

口の中はカラカラと乾いて、心臓はドキドキと波打って今にも飛び出しそう・・・・・・。

しかし、いつまでもこのままではいられません。

私は……今日自分の想いに決着をつける!



92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 00:15:51.74 ID:xHcEhq6P0

ステージに上がると、真っ暗な夜の野外だというのに鮮明にわかるほど、

大勢の観客がスキー場のゲレンデを埋め尽くしているのがわかりました。

唯「え~、久しぶりです。放課後ティータイムで~す」

唯先輩の気の抜ける相変わらずなMCに観客が沸きます。

唯「わたし平沢唯、ここ最近ずーっと引き篭もっていたせいで
  『ニート』だの『お菓子の食い過ぎで太りまくった』だの『池沼』だの色々言われましたけど、
  どっこい! こうして生きてます! それじゃいきます! 1曲目――」

そうして演奏が始まった瞬間、私はギターを弾くのを忘れ、その場に立ちつくしてしまいました。

ゴオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!
ギュギュギュググググワワワーーーーン!!!!!!!!!!
ガガガガガゴワーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!
グワワワワワワワワワワワワワワワワ!!!!!!!!!!!!!!

耳を劈く轟音が唯先輩の弾くギー太から放たれています。

あの頃と何も変わっていない、それどころかパワーアップすらしている……平沢唯のギターでした。

私は既に泣いていました。
やっぱり唯先輩は――何も変わってなんかいなかった。

私も負けていられないと、ビッグマフのスイッチととワウペダルを思い切り踏み込み、

ムスタングの弦を掻き毟りました。

ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!!!!!

真夏の苗場に、二本のギターの轟音がどこまでも響き渡ります。

それからあとは、まるで夢の中にいるような感覚でした。



93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 00:20:38.36 ID:xHcEhq6P0

そして、

唯「次で最後の曲です! でもきっとまた帰ってくるよ~、『ふわふわ時間』!!」

あの曲が始まりました。

――君を見てるといつもハートドキドキ ゆれる想いはマシュマロみたいにふわふわ♪

律先輩が疾走するドラミングで、澪先輩はブリブリに歪んでドライヴするベースとコーラスで、

ムギ先輩が幽玄なキーボードで、演奏を盛りたてます。

――AH 神様 どうして 好きになるほど Dream Night 切ないの♪

そして、あのパートがやってきます。

――とっておきのくまちゃん 出したし 今夜は大丈夫かな?♪

ゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!

間奏のノイズパート、今までのどの演奏よりもラウドに、

そして美しくなり響いた二本のギターの咆哮の最中、私は期せずして唯先輩と目があいました。

唯「(ニコッ)」

唯先輩は確かに笑いました。笑ったんです!

そして、史上最長40分に渡ったノイズパートの間、轟音に陶酔していたのは観客だけでなく、
ステージ上で一心不乱に弦を掻き毟り続ける二人のギタリストもまた、
この轟音の中で果てない夢を見ていたのです。



95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 00:23:37.70 ID:xHcEhq6P0

終演後――私は唯先輩を楽屋裏に呼びだしました。

梓「言いたいことはいっぱいあるんです――」

梓「この○年間ずっと何してたんですかとか、ダラダラニートばっかりしてちゃダメですとか、
  早くアルバムのリマスター盤出せよとか、早くニューアルバム出せよとか、
  でも今日のライヴは最高でしたねとか……」

梓「でも、一番大事なことを、そう言えば私は自分から一度も言ったことがなかったな、と思って」

梓「だから何よりもまず、それを言います」

梓「私、唯先輩のこと、大好きです」

梓「おそらく初めて会った時からずっと……
  そして会えなかった時もずっと……そしてこれからもずっと」

梓「唯先輩のことが大好きです」

すると唯先輩は、にっこり笑って、私の頭を撫でました。

唯「あずにゃんの気持ち、全部知ってるよ」

唯「寂しい思いをさせてごめんね」

唯「これからも寂しい思いをさせちゃうかもしれない」

唯「でもこれだけは言えるよ」

唯「私もあずにゃんのことが大好き!」

この瞬間、あの名盤『らぶれす!』の完成を境に止まっていた私たちの時間が、再び動き出しました。



100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 01:00:21.49 ID:xHcEhq6P0

(エピローグ)

梓「唯先輩! いい加減に毎日食っちゃ寝食っちゃ寝してないで、
  新しいアルバム用のデモテープ渡さないと! 真鍋先輩怒ってましたよ!?」

唯「いいんだよ~。和ちゃんは私のことよくわかってくれてるし、
  あともうちょっと待ってって言っておけば」

梓「ダメですよ! せっかく真鍋先輩が創造レコードと再契約させてくれたんですから、
  今度こそ期待を裏切らないようにしないと……」

唯「ん~、わかったよ~」

あれから、私はまた唯先輩と暮らし始めました。

しかし、最近になってわかったことがあります。

唯先輩の仕事に時間がかかるのは、コントロールフリークだからでも、
こだわりすぎだからでもなく、ただ単に唯先輩が怠け者だからということです。

いや、そんなこと、高校時代から気付いていることですよね(笑)



101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 01:01:57.39 ID:xHcEhq6P0

梓「1stアルバムと『らぶれす!』のリマスターCDも出すって断言しちゃったのに、
  ちっとも作業進んでないじゃないですか!

  これじゃまた2ちゃんのHTTスレに『平沢唯がニートに再就職www』とか『平沢早くCD出せや』とか
  『また出す出す詐欺か』とか『YOSHIKIとどっちが先にCD出すか賭けようぜ』とか書かれますよ?」

唯「う~、あずにゃんのいじわる~……」

でも、昔と違うのは、唯先輩の隣には私がいること。

梓「ほら、私も手伝いますから。アルバム用のデモテープ、早く作りましょう。
  曲の原案はもうできてるんだし、澪先輩も律先輩もムギ先輩も首を長くして待っていますよ?」

唯「……うん。そうだね、あずにゃんと一緒なら、面倒くさいデモテープ作りも楽しいかも!」

ただ、いい加減に無自覚で恥ずかしい台詞を言うのは止めて欲しいものです。

梓「そうですね。私も楽しいです」

でも、もう認めちゃいます。

この人には、一生かかっても叶いそうにありません。

そんなことを考えながら、私は今日もムスタングでかき鳴らす轟音の中で、

小さく『唯先輩、大好きです』と囁いてみるのです。

(おわり)



104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 01:06:03.66 ID:xHcEhq6P0

終わりです。

HTTのモデルとなったバンド→My Bloody Valentine

唯のモデル→ケヴィン・シールズ(同バンドのリーダー)
梓のモデル→ビリンダ・ブッチャー(同バンドのギタリスト&ボーカル、ケヴィンの妻)

その他モデルとなった固有名詞色々。

でした。

GW中に読んだ、同バンドのアルバム『Loveless』にまつわるヒストリー本と
昔ロキノンで連載してたシューゲイザーの主人公が青春パンクに立ち向かうというカオスな漫画、
なんかからモロに影響をされています。

百合を書くのは難しいですね。

なにはともあれ遅くまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

そして、とりあえずケヴィン、早くCD出せや!!!




103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 01:04:31.67 ID:WIX2t6ng0

乙 スレタイで、まさかと思ったが
マイブラネタとは



105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 01:07:27.30 ID:F/5OHPhnP



オチまで良く書いてくれた
これですっきり眠れるわ



106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 01:08:42.13 ID:Tu+X/vImP

楽しかったぜ
乙!



107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 01:10:18.35 ID:fuhtaAFV0



元ネタ知らないけど相変わらず楽しめたよ



110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 02:47:24.21 ID:1ovWVbiLO

>>1さん乙乙



111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 04:49:02.46 ID:RHHGwSj60

いちもつ



112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/17(月) 12:20:14.18 ID:hC8pJFhn0

今読み終わった >>1






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唯「らぶれす!」#後編
[ 2011/10/01 14:19 ] 音楽 | MyBloodyValentine | CM(1)

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タイトル:
NO:4207 [ 2011/10/28 14:07 ] [ 編集 ]

タイトル見てまさかと思ったらマジでマイブラw
おもろかった!

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