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律「バンドミーティング」#前編 【音楽】


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律「バンドミーティング」#前編
律「バンドミーティング」#中編
律「バンドミーティング」#後編

梓「あごらえせうてんぽ」
澪「Living On The Edge」
紬「ね、私を連れ出して?それで一緒に踊るの」




3 名前:1:2010/08/12(木) 22:59:17.63 ID:oi4BMfHG0

律「わるいわるい、店長との話が長引いちゃってさ」

私は、ライブハウスのブッキングを終え、いつもの気分でスタジオに脚を踏み入れる。
ちょっとした違和感。

唯はソファーでだらだらしながらギターをいじっている。
ああ、口の周りにチョコが…。

袖口で拭って…。

あーあー…。

唯はびっくりするぐらいいつも通り。

澪は、ベースをケースから出しもせず椅子にすわっている。

いつもと同じように見えるけど、ちょっと緊張した面持ち。





4 名前:1:2010/08/12(木) 23:01:53.08 ID:oi4BMfHG0

他の奴なら見逃しちゃうかも知れないけど、私は見逃さない。

長い付き合いだしね。

律「あれぇ?澪ちゃん、なんか心配ごとかーい?」

わざとおどけて。

2人きりの時を選んでって、感じでも無いだろ。

だって、こっちから話かけて欲しいって顔してたし。

良く分かってるさ。

これも長い友情の賜物。

ふふ、緊張してる。

澪は緊張しいだからなあ。



5 名前:1:2010/08/12(木) 23:05:11.63 ID:oi4BMfHG0

澪「な、なぁ、律、唯」

唯「なぁにぃ?」

律「んー?」

私はちょっとだけ嫌な予感。

澪「バンドミーティングしないか?」

唯「えぇぇっ!!バンドミーティング?!」

私も唯と同じぐらいに驚いている。

まあ、唯ほどは表に出ないけど。

バンドミーティングって言葉ほど、ロックンロールの世界で恐れられている言葉があるか?

私は「バンドミーティングしたい」ほどロックンロールの世界で恐れられている言葉は無いと思う。



6 名前:1:2010/08/12(木) 23:06:56.74 ID:oi4BMfHG0

唯「んで、バンドミーティングって何?りっちゃん?」

律「って、知らないで言ってたのかよ?!」

私は、まさかそう言うバンドミーティングでは無いだろう、と言う期待もこめて、おどけてみせる。
勿論ショックを隠すためってのもある。

律「バンドミーティングってのはロックンロールの世界で最もシットな言葉だよ、なぁ澪?」

澪からは返事が帰って来ない。



7 名前:1:2010/08/12(木) 23:12:27.75 ID:oi4BMfHG0

唯「シット?嫉妬に狂うって事?んー?」

律、よしよし唯はそう言う次元だよな。

もっと悩むと良い。

その間に私は澪と話をしなきゃいけない。

律「ミーティングってどう言う事だよ」

澪「こ、言葉通りの意味だよ」



8 名前:1:2010/08/12(木) 23:16:48.51 ID:oi4BMfHG0

律「なんだよ、それ」

澪「だから、お祭りもそろそろお終いにする時期じゃないかと思って」

律「最近は、ライブだってやっと埋められるようになって来たじゃん。
  物販のCDだって、それなりに出るようになったしさ。
  今がその時期ってのはおかしい。大事な時期の間違いだろ」

澪は私が強調したライブの下りを鼻で笑う。

澪「そんなバンドが全国にどれだけいると思ってるんだよ」

そう言う言い方に理屈で反論出来る言葉は無いよ?

でもさ…。

律「はぁ?約束したじゃん。2人で約束したじゃん。目指せ武道館って」



9 名前:1:2010/08/12(木) 23:19:10.29 ID:oi4BMfHG0

澪「どうやって武道館でやるクラスのバンドになんの?
  そのためのタイムスケジュールはきっちり出来てんの?
  デモテープ送っても無しのつぶて。オーディション番組も一次審査で落選。
  恥ずかしいの堪えて動画サイトにアップしたのだって…」

あれは失敗だった。

叩かれて炎上するならまだましで、閲覧数が三桁ってのは悲しすぎた。

澪「まさか、今度のライブにいきなり大物プロデューサーがお忍びで来てて、
  それでデビュー決定とか?あり得ないよね」

律「要するに、HTT捨てたいって事かよ」

澪「捨てる?何で私にだけそう言う言い方するんだよ?ムギの時は何も言わなかっただろ。梓の時は?」



12 名前:1:2010/08/12(木) 23:48:34.32 ID:oi4BMfHG0

律「あ、あれは…。だって、ムギは留学だし、梓は東京の大学に進学するから…」

澪「それと同じ。私はただ、それが就職って言うだけで」

律「だ、だったら、別に辞めなくても…」

澪「律はプロになりたいんじゃないのか?
  プロって本業持ちが趣味でやっててなれるようなもんなの?」

私は今度こそ、言葉が出ない。

唯「澪ちゃん…?」

唯はようやく、言葉の意味が分かったらしくおろおろしている。



13 名前:1:2010/08/12(木) 23:51:20.74 ID:oi4BMfHG0

澪「それに…、私なんかいなくても…」

律「澪?」

澪「そう言うことだから」

律「あ、おい待てよ!澪!」

足が出ない。

追いついても澪にかける言葉が無い事を私の気持より身体の方がずっと理解してるからだ。

扉がゆっくりしまる。

くそ、防音扉ってなんであんなにゆっくり閉まるんだよ。

ガチャンって勢い良く閉まってくれれば、
私の気持ちだって軽く断ち切ってくれる感じがするのにさ。



14 名前:1:2010/08/12(木) 23:56:07.91 ID:oi4BMfHG0

何で、こんな時に限って三時間パックで取っちゃったんだろな。

つーか、澪の奴、三時間パックの時に言い出さなくったって良いだろうにさ。

律「さて…、っと。こうしてても練習する訳じゃないし、取り合えず出ようぜ、唯」

唯「あ、うん…」

放心状態の唯に声かける。

泣く余裕も無いって感じだな。

律「あ…」



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:00:37.05 ID:oi4BMfHG0

澪の座ってた椅子を見ると、足元にベースのケースが置きっぱなしになっている。

律「ははは、ベース置きっぱじゃん。冷静に見えたけど澪も随分テンパってたんだろうなー…」

これ、どうしたもんかね?

家に届けてやるって?

私だってそんな図太い訳じゃない。

せめて3日は間を置きたい。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:07:29.02 ID:oi4BMfHG0

唯「あ、それ私届けるよ…」

気が利くな。

唯、やっぱお前、最高だぜ。

律「そっか…」

唯「澪ちゃんもそっちの方が良いと思うし…」

律「ありがとな」

唯「うん」

律「じゃ、替わりといっちゃなんだけど、片付けとかは私がやっとくよ」

唯、その笑顔は苦笑なのか、作り笑いなのか?

唯「お言葉に甘えましてー」

律「おう、任せとけ」



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:35:24.43 ID:VWt2VP5+0

澪、どうして…。

どうして?

数時間前まではそんな事考える必要無かった。

十数年に及ぶ友人関係によって、そう言う自信を育んで来ていたから。

澪はこう考えてるだろう、こうしたらこう反応するよな、だから私に任せておけば大丈夫だって…。

ただ、どうやらその自信は脆い地盤の上に立っているものでしか無かったみたいだ。

律「うぅ…、澪ぉ…、どうしてだよぉ…」



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:36:00.29 ID:VWt2VP5+0

希望や夢も時には眠りに就く。

私の希望と夢は眠りに就いた。

その時初めて知ったのだが、人生は常にこう言う危険と隣り合わせらしい。



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:36:57.91 ID:VWt2VP5+0

引き籠ってから何時の間にか一週間がたっていた。

一日の終わりにバイト先のレコード屋と唯からの電話が何回あったかと言う着信履歴を数えるだけの生活。

どれだけ着信があったかと言うのを知っているのに、電話に出ないでいると言うのは時にとても疲れる。

分かりやすく言うと、ある種の精神力を要求される。

そう言うときは我慢するべきでない。

すぐ、唯からの電話に出るべきだ。



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:37:30.31 ID:VWt2VP5+0

律「唯か?」

唯「あ、りっちゃん?やっと出た…」

律「何か用…」

唯「あ、あのさ!その…、スタジオ取ったんだけど…」



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:44:36.91 ID:VWt2VP5+0

正気?

3ピースバンドでメンバーが一人抜けて、デユオになっちまって?
そんでバンドを続けてくかどうかって言う状況なのに?

練習?

何のために?

唯「ライブハウス予約入れちゃったでしょ?
  今からじゃキャンセル料発生するでしょ…?だから、それ用の練習を一応、ね?」



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:47:12.51 ID:VWt2VP5+0

律「あ…」

すっかり忘れてた。

律「で、でも…」

唯「とにかく、来てね!」

律「あ、唯、待てよ!」

唯の奴、なに考えてんだ…。

良いさ、どうせキャンセル料を払うんなら、

唯の考えってのを聞かせて貰ってからでも一緒だ。

スタジオレンタル料が余計に増えるのは気にしないでおけ。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:48:18.93 ID:VWt2VP5+0

膝の抜けたスキニーデニムと毛玉だらけのパーカー。

髪は寝癖も直さずヘアバンドで上げただけ。

私はまだロックスターなどではないのだから、

身なりよりも友の元へ駆けつける方を優先するのさ。



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:49:23.72 ID:VWt2VP5+0

律「おぃーっす」

唯「あ、りっちゃん!」

律「一週間振り」

唯「うん」

律「ベース届けた時、澪、なんか言ってた…?」

唯「いや、あ…、うん…」

唯は言い淀む。

ん?



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:50:26.66 ID:VWt2VP5+0

律「まぁ、良いや。少ししたらどうか分からないけど、すぐ意見を覆すような奴でも無いし…」

あれ?唯、ギター変えたのか…?

違う、ベースだ。

律「唯?」

唯「ああ、これ?リズムセクションの方を固めた方が良いでしょ?だから」

唯はちょっと拙いながらも私達の曲のベースラインをちょっとだけ弾いてみせる。

唯「どう?ちょっとは弾けてるかなあ…」

律「ちょっとって…。凄ぇじゃん!!」



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:51:28.86 ID:VWt2VP5+0

唯「えへへ…、あ、あれ…、涙…」

唯、照れるのか泣くのかどっちかにしろよ。

唯「あれ…、りっちゃん…」

なんだよ。

唯「りっちゃんも涙…」

うるせー。



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:56:45.35 ID:VWt2VP5+0

澪がいなくたって、The show must go on。

人生は続いていくんだぜ、ベイベー。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:57:32.81 ID:VWt2VP5+0

唯「ギターソロのところはオミットしちゃって…、
  いや、今思いついた!そこだけキーボードを私が弾いて代替させるの。
  ギターとベースを持ち替えるのは難しいけど、
  ベース首に掛けながらでも、キーボード押さえるぐらいは出来るし」

律「そ、それで?」

私は音楽を始めたばかりの頃みたいに少しドキドキする。

唯「一応、うわモノは打ち込みを入れれば厚みが出せると思うんだ。ただ、それだけだと弱いから…」

唯は高音部を押さえて、ベースでメロディラインを奏でる。

唯「ね?ね?ちょっと、良いでしょ?」

律「ああ、うん」



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:58:29.96 ID:VWt2VP5+0

私は唯のアイデアにうっとりとする。

私の夢はもう一度蘇る。

この場合は三日後じゃなくて、七日後だったけど。

ここで言いたいのは宗教が生まれた時の話じゃない。

単純に禍福は糾える縄の如しで、つまりは物事は流転するという話。

私は楽天的な方だけど、でもああ言う事が有ったあとで手放しで喜んでいたらただの馬鹿だ。

そう、もっと重要な事があった。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:05:08.03 ID:VWt2VP5+0

律「そこまでして私達バンド続けていくべきなのか?」

梓もムギもいない、澪もいなくなって…

唯「当たり前だよ!」

律「だ、だって、もう2人しかいないんだぞ?みんないなくなっちゃって…」

唯「そうしないと、皆が戻って来る場所が無いじゃん!
  ここでライブしなかったら、本当にHTT無くなっちゃうよ!」



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:05:45.87 ID:VWt2VP5+0

唯、凄いな、お前…。

律「あ…、あぁ、そうだな…。もしかしたら、澪も戻って来るかも知れない…しな」

唯「うん…、澪ちゃんも…ね」

ん?

まあな、澪だって何時かは戻って来るかも知れないよな。

律「今回は色々唯に教えられたなー?」

唯「あはは…、あ、バイトの時間だ!じゃあまた次の練習日にね!」

律「お、おう」

ははは、慌ただしいね。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:21:39.09 ID:VWt2VP5+0

また、戻って来る。

そう、あの夢を追いかける日々が戻って来るのだ。

律「唯の奴すげーな…。いきなりあれだけ弾けるなんて。絶対音感のたまものってやつか?」

いや、違う。そんな事じゃないんだ。

音に新鮮さを与えるのはテクニックじゃない。

アイデアと衝動。

ノせられるなら何でも良い。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:22:15.58 ID:VWt2VP5+0

ベースでメロディーラインを弾くなんて見渡せばそこそこあるスタイルだ。

でも、澪が中心を取っていた今までは出て来なかったスタイルでもある事も事実だ。

まだ私達が軽音部だった頃、今よりも皆稚拙で、

特に唯なんか、3コードを押さえる事すら怪しかったころ、

あいつが掻き鳴らしただけで風景が大きく変化したのは何故だ?



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:23:35.07 ID:VWt2VP5+0

私は、ちょっと怖い想像に辿り着く。

律「澪は…、この事に気付いてた…?」



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:24:33.14 ID:VWt2VP5+0

私の意気込みとは反対にと言うか、残念ながらライブの入りは散々だった。

澪の手売り分が丸々無くなったのが痛いし、ましてそれがVoもやるメンバーの分なのだから尚更だ。

フロントメンバーが脱退しました!残り2人で活動していきます!

これには数少ない固定ファンもがっかりしてしまう。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:26:53.59 ID:VWt2VP5+0

唯「良いライブだったよね?人、少なかったけど…」

律「でも、最高だったろ?」

唯「うん、良かった」

律「歴史に残るよ、きっと」



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:27:33.10 ID:VWt2VP5+0

さて、こう言うポジティビイティはどうだろう?

伝説のライブはしばしば観客が少なくて、観客もまた後々担い手として共犯関係になるなんて話。

つまり、こう言う事だ。

人数が少なければ少ないほど、歴史的な意味が増す。

最後の晩餐は12人。

私たちの方が勝っている。

大事な事だから、もう一回言うね。

律「歴史に残るよ、きっと」



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:28:08.43 ID:VWt2VP5+0

唯「ね、りっちゃん、ドリンクバー取って来るけど、何が良い?」

律「そだなー、コーラかなー」


さて、これからだ。

どうしたら、良いんだろう。

澪に指摘されたように、私は漠然とし過ぎていた。

そんな怠惰な楽園がずっと続くと思い込んでいた。



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:28:39.48 ID:VWt2VP5+0

私はライブの打ち上げだと言うのに、今日の事よりも次の事ばかりを見ている。

ここにいない澪との過去よりも未来ばかりを考えている。

どうしたら良いか。

澪が出て行ってしまった事で気付かされた。

そう、もう気付いている。

気付いて…。



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:29:21.23 ID:VWt2VP5+0

律「おい、唯…。人が考え事してる時にジュースブクブクするのは止めろよ」

唯「だってぇ、りっちゃん、ドリンク持って来たのに全然反応してくれないからさ」

そりゃーなー…。

律「なぁ、唯。これからどうやって活動していく?」

唯「え、なに、急に…」

律「だからさ、今までみたいに漠然としてたんじゃ駄目かなって…」

唯「まあねー」

律「おい、そこはちょっと否定しろよ。私のリーダーとしての資質がって話になっちゃうだろ?」

いや、五人が二人になってる時点で資質はもう疑問符どころでは無いのも事実だけどさ。



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:29:54.78 ID:VWt2VP5+0

唯「えへへ…」

律「でさ、ちょっと考えたのは、
  ライブを休止してデモテープ作りに本格的にシフトして見ようと思うんだよ」

唯「デモテープ?」

律「あからさまにがっかりした顔するなよ…」

唯「え、私、そんな顔してた?」

分かりやすい奴。

ま、それが唯の良いとこなんだ。



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:30:25.73 ID:VWt2VP5+0

律「そりゃあ、ライブは楽しいよ。客と私達。気の合ったメンバー。
  そこにケミストリーが生まれて、バーンっと…。
  でもさ、今のままじゃ次に繋がらないって言うか…」


そうだ。

今までは、今が続く事ばかり願っていた。

でも、何時の間にか次の事ばかり考えるようになっている。

夢が続くとはそう言う事だ。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:31:14.32 ID:VWt2VP5+0

唯「うー」

律「だよなあ?だから、さ…」

唯「うん」

律「取り合えず、2人でやって行くならその方向性も決めなきゃいけないだろ?
  ただ、漠然とスタジオに入っても時間とお金が、さ」

唯「仕方無いかぁ…」

律「つー訳で、明日うちに12:00に集合な。遅刻すんなよ?」

唯「ぶー、残念でした。あたし一人暮らし始めてからもバイトに遅刻した事無いんだからね!凄い?」

ははは、そりゃあ凄いな。

唯にしちゃあ大進歩だよな。

でも、私は唯がもっと凄いって事に気付いてしまった。



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:31:48.59 ID:VWt2VP5+0

律「10分遅刻とは上出来上出来」

扉を開けると、そこにはどや顔の唯。

唯「えっへん」

ま、遅刻はしてるんだけどな。



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:32:28.55 ID:VWt2VP5+0

唯「おぉー、りっちゃん凄い!片付いてるー!もっと汚いかと思ってたよー」

律「唯んとこに比べたらか?」

唯「そんな事無いよ!私の部屋綺麗だよー?憂が二月に一度は掃除に来てくれるもんね」

唯はフンスと胸を張る。

何で自慢げなんだ?

まあ、この部屋の綺麗さも澪が手伝ってくれてたからなんだけどな…。

…。

ああ、もうっ!!

澪、ごめんな。

裏切るのは私の方も一緒かも知れない。

でも、私はお前みたいに考えられないよ。

唯だって友達だし、それに…。



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:33:00.94 ID:VWt2VP5+0

唯「あ、これリマスタリング版再発されたんだー。ねぇ借りてって良い?良いよね。借りてっちゃお。
  あ、このEPってレアでプレ値付いてるやつだよね?どこで手に入れたの?」

律「あー、それはバイト先で…って、おい!何やってるんだー!」

唯「ぺヤング探しだよ!りっちゃん!」

律「こらー、今日は遊びじゃないんだぞー」

唯「だよね!」



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:33:36.87 ID:VWt2VP5+0

律「新しい曲はさ、澪が途中まで作ってた奴があるじゃん?
  それを完成させる形で取り合えず、一曲やるのが良いと思うんだよ」

唯「うんうん」

律「でさ、アレンジとかリフ作りとかさ諸々、
  今まで澪がやってくれてた部分は唯にやって欲しいんだわ」

唯「うんうん…、って、えぇっ?!」

律「だから、アレンジとかさ…」

唯「一度言えばわかるよ。で、でも、そんなの私やった事無いし…」

律「大丈夫だって」



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:34:15.73 ID:VWt2VP5+0

唯「ふぇ?」

律「この前みたいにさ、思いついたアイデアを形にして見てくれたら良いんだよ。私も色々するからさ」

唯「でも…」

迷ってんじゃねーよ。

律「澪だけじゃなくて、ムギや梓にも見えるようなおっきな塔を建てなきゃいけないんだぞ?」

唯「ん?」

律「大丈夫だって、唯なら出来るって」

唯「うん…」



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:35:01.18 ID:VWt2VP5+0

もう、決心は出来てるんだ。

今までと違ってしまうかも知れない。

でも、それでも構わないんだ。

澪は逃げ出したくなったかも知れないけど、私は逃げない。

だって、唯がどこまで行けるか見てみたくないか?

それに、高いところまで行ければ、澪だけじゃなくて、ムギ、梓からだって見えるようになる。

戻って来る場所があるのは良いもんだぜ?なあ、澪。



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:37:22.06 ID:VWt2VP5+0

唯に色々な事をさせてみると言うのは我ながら良いアイデアだったと思う。

今まで、楽をし過ぎてた反動だろうか、最初こそブーブー言う事が多かったが、

どんどん新しいアイデアを出して来るようになる。



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:37:55.78 ID:VWt2VP5+0

唯「ねえ、りっちゃん。こう言うのはどう?」


唯「りっちゃん、アレンジのここ変えてみたんだけど」


唯「ねー、このワウを効かせたイントロどう?爆発って感じだよね?」


私は唯の提案を聞きながらいちいちニヤニヤする。


唯「ね?これ良いでしょ?身体揺れちゃうでしょ?踊れるでしょ?」



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:41:09.29 ID:VWt2VP5+0

今まで唯はほんの少ししか音楽に手を入れてこなかった。

ちょっとジャムってる時やライブの時に魔法を一つまみ。

そのちょっとした魔法にやられて入部した梓や、その凄さに気付いてしまった澪ってのは、

それこそ今になってやっと分かった私なんかよりもずっと音楽の神様に愛されてるんだろうな。

でも、これからの魔法は純度100%だ。

きっと、凄い事になる。



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:41:48.44 ID:VWt2VP5+0

唯「スネアをさ、もうちょい高音にチューニングして、で、もっと…、マーチ的に…」

律「あー、っと…?」

唯「だから、こうタタタタって」

律「手がつっちまうよ…」

唯「だからさ、ちょっと貸して。こう言う感じにして…。
  んで、リムショットでこうカカカカって…。分かった?」

ふふふ。

律「唯と音楽やれて良かったよ。凄くそう思う」

唯「りっちゃん、突然なに言い出すの」

律「まあまあ、急に感謝したくなったんだよ」

唯「変なりっちゃん」

律「そうかな?」

唯「そうだよ」



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:42:23.97 ID:VWt2VP5+0

大義ってのは良いものだと思う。

HTTは、いや平沢唯はそれに値するアーティストだ。

つまり、こう言う事だ。

20年近くに及んだ友情の終焉。

退屈なレコード屋のバイト。

先が見えないアマチュアバンド生活。

そう言う諸々の苦痛の解消法を私田井中律は見つけたって事だ



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:44:10.92 ID:VWt2VP5+0

デモテープは完成する。

澪の残したのを作りかけを完成させた曲。

私が鼻歌で歌ったのを、唯が起こして完成させた曲。

これはちょっと稚拙な曲だ。

これまでの曲、例えば昔にムギが作ってくれた曲のAメロBメロ、
フック、フレーズを引っ張ってきて再構成させたみたいな曲だからだ。

才能の無い私にはこれが精一杯。

でも、逆に今までのHTTに一番近いかも知れない。



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:44:44.55 ID:VWt2VP5+0

この二曲に唯のアイデア、アレンジを大量に盛り込んだ結果、

作りも作ったりバージョン違いが6つずつ。

こんなデモテープを取り合えずどうぞ。

『放課後ティータイム』
Vo:平沢唯
G :平沢唯
B :平沢唯
Key:平沢唯
Dr:田井中律



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 02:22:51.87 ID:VWt2VP5+0

ふはっ、女の子2人バンド。

送られてくる山ほどのデモテープの中、少しはフックになってない?

おまけに一人はマルチプレイヤー。

レコード会社のお偉いさんはまだテクニック信奉なんて言う間抜けさを持ち合わせてるに違いない。

だったら、それを利用しない手は無い。

皆が才能に背を向けないで済むように。



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 02:26:00.24 ID:VWt2VP5+0

デモテープを送ってから一月。

連絡は来ない。

私はちょっとがっかりする。

さて、ここで問題。

唯が才能が無いのか。

私に見る目が無いのか。

メジャーのA&Rマンに見る目が無いのか。

チャンネルはそのままで。



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 02:28:13.32 ID:VWt2VP5+0

メール着信。

律「ん?唯から?」

すぐ来ての文字。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:08:46.35 ID:VWt2VP5+0

唯のアパートに来るのって引っ越し手伝って以来だな。

いや、魔窟になってそうだから遠慮してたんだ。

唯「りっぢゃ~ん」

うぉ、玄関開けて0.1秒かよ。

律「ど、どうしたんだよ、鼻水垂らして」

唯「だっでぇ、だっでぇ…」



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:10:31.29 ID:VWt2VP5+0

あっちゃー、やっぱ魔窟になってたか。

こう足の踏み場も無いと、唯一の生活スペースであろうベッドまで行くのも…。

あぁ、貴重な盤をこんな積み方をしやがって。

後でちゃんと言い聞かせなくては…。

唯「りっちゃん、早く早く…」

律「あ、うん。ほいほいっと…」

私は何とか孤島であるベッドに上陸して唯と共にノートPCを覗きこむ。



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:12:56.15 ID:VWt2VP5+0

要するに、才能溢れる唯とだけ契約したいって事か。

唯「どうしたら良い…。こんなの私…」

しょうがねーなー。

律「契約するしかないだろ」

唯「で、でも…」

律「だって、私のせいで唯が先に進めないのって辛いしな。
  引き上げるんじゃなくて、自分のとこまで引きずり下ろそうってするようなのは友達じゃないだろ?」

もう一回言うぜ。

迷ってんじゃねーよ!



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:16:42.80 ID:VWt2VP5+0

唯「りっちゃん…」

律「おいおい、抱きついてくるなよ」

唯「だって…」

律「唯がさ、武道館でやってくれればそれは私達の夢を実現してくれたって思えるからさ。
  ただ乗りなんて図々しいかも知れないけど、友達だと思ってくれてるなら、な?」

唯「う、うん…」



77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:18:43.64 ID:VWt2VP5+0

唯は最後まで渋ってたが、契約する事にした。

向こうの提示した条件はあまり良いものでは無かった。

アマ活動でも大した実績が無かったので、当たり前だが高額でも長期の契約でも無い。

1stアルバムの時点で契約の見直し、再検討。

全く、問題無い。

私には勝算がある。

唯の作りだすアートに自信がある。



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:19:15.14 ID:VWt2VP5+0

条件闘争が出来るような評価でも無かったが、
それでも契約に当たって一つだけのお願い。



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:19:56.30 ID:VWt2VP5+0

律「ほーら、唯早くしないと」

唯「ま、待ってよ、りっちゃ~ん」

律「インストアイベント15:00からだぞ?今何ん時だと思ってんだよ」

唯「13:00です、えへへ…」

まったく、モーニングコールのあと二度寝するとは。

いや、予測可能ではあったけどさ。



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:21:33.47 ID:VWt2VP5+0

私は唯のマネージャーになった。

それはこの世界に唯を放り込んだ私なりの責任の果たし方だ。

本当はバンドのメンバーとして見て行きたかったけど、

でもそれが出来なかったんだから仕方が無いだろ?

A Dream Goes On Forever.

そのために自分に出来る事は何か?と言う単純な話で。



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:24:51.71 ID:VWt2VP5+0

律「あ、渋谷のタワレコまでどんぐらいかかります?」

タクシー「そうですね~、この時間だと40分ぐらいですかね」

律「あー、やばいな…。リハ間に合わないかなー。…首都高入ったら少し早くなります?」

タクシー「あー、どうですかねー、でも、気持ちってとこですよ?」

律「構いません、それでよろしくお願いします」



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:26:48.33 ID:VWt2VP5+0

それまで神妙な顔をしていた唯は、私とタクシー運転手の会話を聞いて元気を取り戻す。

少しは反省しろ。

唯「なんだ、楽々間に合いそうじゃん。りっちゃん、大袈裟だよー」

バカ野郎。

律「スタッフへの挨拶とかあるだろ?」

唯「そーだけどさー」

律「それにリハだって」

唯「でも、リハなんていらないよー。すぐに弾けるし…。それにあんな曲…」

おいおい、自分の曲、おまけに初登場オリコン一桁のスマッシュヒットをあんな曲扱いかよ…。



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:28:53.22 ID:VWt2VP5+0

唯「私は『YUI』じゃないよ。平沢唯だもん…」

律「そう言うなよ」

唯「だってぇー…」

まあ、唯の気持ちも分からないでは無いけどな。

律「あ、クマ…。唯、あんま最近眠れて無いのか?」

唯「あー、うん…。ちょっと寝付き悪いかも…」

律「そっか。じゃあ着くまでちょっとでも寝ときな。着いたら起こしてやっから」

唯「うん、そうさせて…」

※現実のYUIには何の思うところも無いです。
ただ、このSS中では芸名として付けられていると言う事です。



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:29:47.28 ID:VWt2VP5+0

唯の気持ちは分かる。

何しろ、このシングルで唯のやってる事は楽器を弾いてるだけだ。

しかも指定されたように。

曲の出来が悪いって訳じゃない。

とても良く出来たポップミュージックだし、私だって嫌いじゃないし、

唯だって言うほど嫌ってはいないだろう。

PVも悪い出来じゃなかった。

天真爛漫にピアノ、ギター、ベース、ドラムととっかえひっかえ演奏する姿を撮ったPVは

中々にキュートだし、そこに唯の才能の閃きってのを見出せるようにもつくられてる。

ただ、それもこれも唯のものじゃない。

周りが思う才気あふれる若手女性歌手ってのをシミュレートさせてるだけだ。

「平沢唯」とレコード会社の作り上げ、デビューさせた「YUI」と言う歌手は別物だ。



87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:33:20.76 ID:VWt2VP5+0

・・・

それでも、良いとこまで行く事は出来るかも知れない。

薄めて、能動的には音楽を聴かない人達に売る。

ダウンロード数を稼ぐ。カラオケで歌われる。

良いプロダクトだ。



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:34:47.47 ID:VWt2VP5+0

そのかわり、天才の才能は失われる。

つまり、こう言う事だ。

鳥は翼を失い地面に墜落し、そして最後には出血多量で息絶える。



89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:36:09.34 ID:VWt2VP5+0

律「お疲れさまでした」

スタッフ「お疲れしたー」

まったく、唯の奴。

本番でアレンジをいきなりいじって来るか?

今日は必要の無いはずのギターを背負って出て来た時点で気付くべきだったんだが…。

でもでも、あんな遅刻寸前の入りって状況でそんな事にまで気付けってのは無理だろ?



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:38:00.23 ID:VWt2VP5+0

今日はキーボードってのが唯のやるように言われた楽器だった。

キーボード弾き語り。

レコード会社が唯をどう売り出したいか分かるやり方だ。



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:38:52.39 ID:VWt2VP5+0

バックバンド有りでってのが悪い方向に作用した。

スタッフの目を盗んでバンドメンバーと打ち合わせ。

少しでも音楽を齧ってる奴は唯の言い出す事の面白さが分かってしまう。

結果、録音されたものとはまるで別のものになる。



92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:39:55.43 ID:VWt2VP5+0

唯「りっちゃん、疲れたー。早く帰ろー。行ってるよー?」

律「ああ、今日は私も直帰だから…、ん?」

スタッフ「田井中さん」

律「あ、はい、何か?あー、唯行ってて?」

唯「ほいほーい」

律「えーっと…?」

スタッフ「あ、あの、今日の唯さん、CDとは全然違う感じでしたけど、凄く良かったです…」

律「あ、ありがとうございます…」

あー、唯?私達は自信を持って良いみたいだぜ?



93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:41:00.52 ID:VWt2VP5+0

スタッフ「それで、このバージョンで今度出るアルバムとかに収録されたりするんですか?」

さてと…。

律「あー…、それはですね…、あはは…」

ちょっと気まずいね、色々と。

スタッフ「そうなんですか…。いや、CDのバージョンより全然良かったから、惜しいなって…。
     あ、CDの方も良いと思いますけど、個人的には今日の方が好みかなって」

律「あはは、良いですよ。アフレコにしときます」

スタッフ「…すいません」



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:44:03.54 ID:VWt2VP5+0

唯「りっちゃん、店側の人と何話してたの?」

タクシーが走りだすまでは、硬い表情。

2人きりと言う事でやっと口を開く。

唯は唯なりに気を使ってんだよな。

だから、外では不満を口に出さない。

レコード会社にも事務所にも、きっとメジャーデビューを勧めたり、

マネージャーを買って出た私にも、不満はあるんだろうけど。

今日みたいなのは…。

まあ、耐えられないよな、全てをコントロールされるってのは。

だから、少しぐらいは発散したくなるよな。



95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:44:43.73 ID:VWt2VP5+0

律「いや、大した事無いよ」

唯「なら話してよ」

律「あー、そだなー…」

唯「気になるよー」

律「えっとな、今日やったアレンジの方がCDの奴より良かったってよ」

唯「あー…、そっか…」

おーおー、嬉しそうな顔しちゃって。

気持ちは分かるけどな。



96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:45:40.49 ID:VWt2VP5+0

唯「何かさ、りっちゃんとデモ作ってた時の方が楽しかったんだよね」

律「今は?」

唯「どうかなー?」

律「冗談はそんぐらいにしとけー?」

唯「冗談なんかじゃないよ」

唯の表情も声も見ない振り聞こえない振り。

だから返事もしない。



97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:47:12.97 ID:VWt2VP5+0

律「ほら、着いたぞ」

唯「りっちゃん…」

律「明日からまたアルバムの作業だからな。遅れんなよ…、いや、明日は不安だから迎えに来る。
  12:00に来るからちゃんと起きて顔洗うぐらいはやっとけよ」

律「ん?どうかしたか?」

唯「りっちゃん…、あのさ…」

律「ん?」

唯「何でも無い…」

律「今日は早く寝つけると良いな。じゃな」



私達はほんの少しだけ夢を見て、その夢が長く続く事を祈ってた。

その夢はいつの間にか悪夢になって、私達の中の一番才能ある一人を浸食しつつある。



98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:47:56.40 ID:VWt2VP5+0

律「おはよございまーす!」

スタッフ達「あ、おはようございます!」

唯は昔のような陽気さは無くボソリと

唯「おはようございます…」

プロデューサー「唯ちゃんおはよー。今日もよろしくねー」

律「おはようございます」

プロデューサー「りっちゃんもおはよう」



99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:49:28.18 ID:VWt2VP5+0

プロデューサー「はーい、OK」

唯「はい…、ありがとうございます」

プロデューサー「じゃ、少し休憩しよっか?」



100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:53:25.24 ID:VWt2VP5+0

唯はすっかり不機嫌そうなオーラを纏うミュージシャンと言う感じになってしまっている。

だから、その本当の感情に周りが気付かなくても無理は無い。

プロデューサーもミキサーもスタッフの全員に罪は無い。

ここに連れて来てしまった私に、そして一人唯の苦痛に気付いてしまう私には罪はある。



101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:54:09.32 ID:VWt2VP5+0

P「りっちゃん、ここ良い?」

律「あ、はい」

プロデューサーは私の横に腰を下ろし、コーヒーを啜る。

唯は休憩だと言うのにブースの中に入ったままギターをいじっている。

最近ではスタジオに入る日に笑顔を見せる事は無い。

差し入れのお菓子を口に頬張る事も無い。

唯らしく無いその姿に私の心は痛む。



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:55:43.52 ID:VWt2VP5+0

P「僕らはさ」

律「あ、はい」

P「僕らはさ、楽で良いし、それにまあクオリティコントロールの面でも問題無いんけどさ…」

律「はい」

P「いや、こんなに楽な子って初めてだなと思ってね」

?!

P「いや、悪い意味じゃなくてさ、何となくね」

そうしてプロデューサーはまたコンソールの方へ戻って行く。



103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:57:46.74 ID:VWt2VP5+0

なあ、唯。

お前の衝動が周りを傷つける程に育つのと、

お前が擦り切れてしまうのとどっちが早いんだろうな?

ほとんどのバンドが音楽業界に入りたいからステージに立つ。

ロックスターになりたいから、と言い換えても良い。

そう言うバンドは周りを傷つけない。



104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:58:33.19 ID:VWt2VP5+0

ただ、私は唯に気付かせてしまった。

平沢唯はアーティストで有ると言う事に。

あるのは表現衝動だ。

だが、その衝動の正しさ、尊大さは時に人々を傷つける。

例えば、それを抑えてしまうとしよう。

だが、それは太平洋を跳ねるマグロの泳ぎを止めるようなもので、

窒息してすぐにも死んでしまうだろう。

私はどっちを選ぶべき?



105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 03:59:58.66 ID:VWt2VP5+0

「YUI」のファーストアルバムはそこそこ売れた。

業界全体でパッケージが売れない時代だからと言うのもあるが、初登場オリコン10位以内にも入った。

シングルの時よりは唯のアイデアも生かされたのも事実だ。

でも、やっぱりこれは唯の作品じゃない。

CDが売れた事が、唯にとっても、そして私にとっても

思い描いていた喜びを与えてくれるものじゃないってのは、不幸過ぎる話だ。



106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 04:01:13.04 ID:VWt2VP5+0

私達は唯のアパートで2人だけの打ち上げをする。

六本木の創作料理店の個室で?

柄じゃないだろ?

スタッフ全員で?

一生懸命にやってくれている彼らにどんな顔を見せたら良い?

幸い、事務所の契約してくれた唯の部屋は部屋数が多くて

さすがの唯も汚しきれないので、居間で飲むには問題ない。



107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 04:02:05.89 ID:VWt2VP5+0

唯・律「乾杯」

律「オリコン7位だってさ」

唯「…うん、良かったよね…」

私達はお互いに次の言葉に詰まる。

2人ともこのアルバムに、と言うか全てに満足してない事が

分かり過ぎるほどに分かっているからだ。



108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 04:02:51.42 ID:VWt2VP5+0

それでも、酔いが回ってくればそれなりに本音は出てくる。

唯「だからさぁ、遠まわしに糞だよ、fuckin’だって言ってるのにさぁ…、ホント分かって無いのかなぁ」

律「ばっか、分かっててもそこは見ない振りってのは、やつらの一つのやり方でさ…」

唯「ちょっと待ってて」

スタッフの悪口にも飽きが来た頃、唯が隣の部屋に駆け込む。



109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 04:05:19.15 ID:VWt2VP5+0

唯「じゃーん。な~んだこれ?」

小袋を持って戻って来る。

「芸能界」に足を突っ込んだ中で良かった唯一の事は、

こう言うものを比較的自由に使えるようになった事だ。



110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 04:06:10.43 ID:VWt2VP5+0

唯「ねえ、りっちゃん。こう言うのってさ、
  もしも対処出来るなら素晴らしいものだと思うんだよね。
  その事を理解して…、信じてさえくれれば、ベローナベラドンナってさ、アハハ…」

律「なんだよ、アイスじゃなくて良いのか?アハハ…」

唯「私の好きなアイスはアイスだけだよぉ、ウフフ…。
  りっちゃんはマリファナ派なんでしょ?
  私は俄然ハイブリッドだね。何でもありっでって…」

律「ばっか、その決めつけだと、私がヤリマンみたいだろ?
  パンツの中のコンドーム詰めにされたものが、
  太平洋を渡ってくるのを待ちわびてましたって?ハハ…」

ただひたすらに酩酊感に酔う。

唯も私も。

取り合えず、バッドトリップのような日々とさようなら。



111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 04:07:41.18 ID:VWt2VP5+0

窓から光が差し込んでいる。

目が覚めると、日が昇る所だった。

私は目を細めて太陽を見る。

ここにいたら喉がつまりそうなる。

そうだ、どっか別の場所に行く事にしよう。



112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 04:08:34.92 ID:VWt2VP5+0

ファーストアルバムの売上を考えれば会社は契約の延長を提示してくるだろう。

だが、そんなものは糞喰らえだ。

マーケティング?パッケージ?クオリティ?そんなものはくれてやる。

良く分かってる連中がやれば良い。

お前らの仕事だ。

でも、素晴らしい曲を書いて、人々を魅了するアートはミュージシャンのものだ。

それはお前らの仕事じゃない。



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 04:10:03.55 ID:VWt2VP5+0

唯が眠そうに目を擦りながら、起きて来る。

唯「もう、朝?」

律「あぁ」

唯「朝だね、りっちゃん」

律「朝だな、唯」

唯「新しい朝かなぁ?」

そうさ、新しい日々の始まりだぜ。

律「なぁ、唯?」

唯「ん?」

律「止めちまうか?」

唯「りっちゃんに任せるよ」



115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 04:13:09.96 ID:VWt2VP5+0

らしく無かったってことだ。

私は唯の才能を皆に届ける手伝いをしてやるんだ、と粋がっていたけど、
実際には何の力も無い雇われ監督で、
ただ唯を間違った方向へ進ませる事に協力して来ただけだった。



116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 04:14:11.20 ID:VWt2VP5+0

独立騒動?芸能界を干される?

勝手にすれば良い。

最後までやる事に決めたんだ。

くたばれショウビズ。

中指でも喰らえ。



122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 05:05:53.37 ID:VWt2VP5+0

・・・

「『YUI』と言う名称は使わせないぞ」

どうぞ、それはあんた達のものだ。

私達と、少し大袈裟な言い方をすると時代に必要なのはアートであって。

その貴方がたが作り上げた名前は、貴方がたにお返ししよう。



123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 05:07:15.57 ID:VWt2VP5+0

・・・
律「他のとこのA&Rを待つか?それとも…」

唯はあからさまに嫌悪の表情を示す。

唯「上手くしてくれるなら良いけどなぁ…」

律「ですよね~」

これは高校時代からの口癖だ。

別に唯がアーティストだからへりくだってる訳じゃない。



124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 05:08:53.39 ID:VWt2VP5+0

私は、あのスタジオでの事や高校時代の出会いの事を思い返す。

その選択の基準はどこから来たか。

有りがちな話なのだけど、きっと言葉よりもっと深いところ。

言語化は出来ない。

だが、それでも自信がある。



125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 05:10:50.28 ID:VWt2VP5+0

それに続く言葉はこうだ。

なるほど、それならやって見たまえ。

そうしよう。

パンクが世界にもたらしたもっとも素晴らしい発明品は何だったか?

DIY精神。

つまり、手前でやってみろって事なのだ。



126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 05:12:19.35 ID:VWt2VP5+0

律「自分達で出そう!」

唯「うん、私もそう思ったところだよ!」



その夢がもう少しだけ長く続くように。

いや、終わらないようにとしておこう



127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 05:14:01.56 ID:VWt2VP5+0

律「唯が曲を作る」

唯「私がアーティスト」

律「そして私がそれを売る」

律、唯「ギャラは?」

律「5:5で」

七三じゃないよな。



128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 05:17:33.53 ID:VWt2VP5+0

唯「レーベル名はどうするの?」

唯がニヤニヤする。

きっと、同じ事を考えてる。

律「いっせーのせで言おうぜ」

律、唯「HTTレコード!」

爆発!

良い感じじゃないか?

私たちはこうでないといけない。



129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 05:18:40.27 ID:VWt2VP5+0

レコード会社との取り決め通り、「YUI」の名前は出さない。

まったくの別人だから。

彼女は死んだ。

そして平沢唯は蘇る。




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律「バンドミーティング」#前編
[ 2011/10/01 23:05 ] 音楽 | | CM(0)

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