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澪「花は咲き、枯れてまた咲く」 【非日常系】


SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)@VIPServiseより

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1317865007/

梓「ラッキープール」




1 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:36:48.09 ID:yJ8J35aI0

おととい買って置きっぱなしだった文庫本を手に取って、ベッドに寝転がる。
秋晴れの風はベランダの洗濯物を揺らし、金木犀の香りを部屋に運び込む。

折角気持ちの良い午後だ、眠くなればそのまま寝てしまおう。
そう思いながら仰向けになって、頭上に掲げた本を両手で開いた。

タイトルに惹かれてなんとなく手に取った、女性作家の旅行記。
バックパッカースタイルでアジアを旅するそのエッセーは
ユーモアに溢れつつ時々どきりとするような描写をみせる。


……そういえばアイツ、今頃どこ歩いてるんだろ。

つらつらと文字を追いながら、頭の隅で考える。
脳裏に浮かんだ幼馴染の笑顔は、今よりも少し幼く思えた。

彼女の笑顔はプールの底から水面を見上げた時のようにゆらゆら光りながら揺れて、
やがて私の意識をゆっくりと眠気の中に落としていった。





2 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:37:20.52 ID:yJ8J35aIo




***



澪「ムギ、こっちこっち」

紬「澪ちゃん。ごめんなさい遅くなって」

澪「ううん、遅れたのは天気のせいだし。それより飛行機、揺れなかった?」

紬「うん、結構揺れて、少し酔っちゃった」

肩と袖が少し濡れたジャケットを脱ぎながら、ムギが苦笑いする。

澪「大丈夫? 具合悪いんだったら……」

紬「ううん、もう平気。あ、これ。お土産どうぞ」

差し出された薄紫色の紙袋を受け取ると、
ベタかなって思ったけどホワイトチョコ、
会社の近くのお店が作ってて美味しいの、と
笑顔と一緒に説明が添えられた。



3 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:38:16.38 ID:yJ8J35aIo

澪「ありがと。そっちはもう寒い?」

紬「うん、朝晩は特に。街を歩いてると私だけ厚着してるみたいでちょっと恥ずかしいよ」

澪「あはは、そっか」

ムギは大学を卒業して、親が経営する企業の音楽事業を行う系列会社に就職した。
彼女が親の敷いたレールに大人しく乗ったわけでないことは、私たちもよく知っている。

去年の秋頃、北海道に支店ができたのを機にムギは本社から異動となり、
現在は札幌市内に住んでいる。

出張で帰ってくるという連絡を貰って、今日こうして久し振りに顔を合わせた。

紬「急な連絡だったのに、ありがとね澪ちゃん」

澪「私もムギに逢いたかったから。連絡くれて嬉しかったよ」

注文をとりにきたウェイターからメニューを受け取って、ふたりでじっくり吟味する。
ちょっと贅沢してこのコースにしちゃおうか、
とメニューに載った写真を指差した私に、ムギが笑顔で同意した。



4 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:38:58.84 ID:yJ8J35aIo

注文を終え、厨房に向かうウェイターのすっきり伸びた背中を見送る。
スイーツも楽しみだね、と内緒話をするみたいに言ったムギに頷いて、
ふたりでくすくすと笑った。

紬「澪ちゃんも、元気にしてた?」

澪「見ての通り相変わらず」

紬「夏期講習の時期は結構忙しかったんじゃない?」

澪「うん、夏休みはどうしてもね。でもそれも終わって、少し落ち着いてるかな」

これから受験生の授業が大変になってくるけど、と付け足すと、
塾の先生もプレッシャー掛かって大変そうだね、とムギは眉尻を下げた。

澪「あ、そうだ。これ持って来たよ」

バッグから茶封筒を取り出して、テーブルに置く。



5 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:39:24.64 ID:yJ8J35aIo

紬「うん? なあに?」

澪「例の雑誌。2冊とも入ってるから」

紬「あっ、唯ちゃんとりっちゃんの?」

澪「そそ」

紬「すごく読みたかったの! 嬉しい」

澪「家にもう1冊ずつあるから、これはムギにあげる」

紬「いいの?」

澪「もちろん」

満面の笑みを浮かべてありがとうと言ったムギに、どういたしまして、とこたえる。
ムギは早速封筒から2冊の雑誌を取り出して、じっくりと表紙を見比べ始めた。



6 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:40:02.79 ID:yJ8J35aIo

1冊は先月発行された、私たちの地元、桜が丘の出版社が出している情報誌。
インディーズレーベルで活動している唯の特集が4ページに渡って掲載されている。

紬「唯ちゃん、もうすっかりミュージシャンだね」

特集ページのライブ写真を眺めながら、ムギが感嘆の溜息を漏らす。

澪「インタビューの内容は、相変わらず唯らしいけどね」

紬「そうなんだ。私たちのことも書いてあるのよね? ふふ、読むの楽しみ」

ムギは私に笑ってみせてから、情報誌を閉じるともう1冊を手に取った。
毎月そこそこの部数を発行している旅行雑誌の最新号だ。

紬「……でも、りっちゃんが雑誌で連載なんてね。びっくりしちゃった」

ザラリとした質感の表紙をひと撫でして、ムギが目を細める。



7 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:41:10.53 ID:yJ8J35aIo

澪「私もびっくりしたよ。律がコラムなんて書けるのかって。……だけど」

紬「うん?」

澪「読んだら驚くと思うよ。ムギも」

少し首を傾げた彼女に、コラムが載っているページを教える。
ムギはすぐに目当てのページを見つけて文字を追い、あら、と小さく声をこぼした。

紬「これって、コラムっていうか……。手紙?」

澪「誰かに宛てた手紙、っていうのがコンセプトらしいよ」

紬「へぇ……、面白いね。旅の楽しさが伝わってきて、すごくいい」

澪「そういうのじゃないと書けないって律が言ったから、らしいけどね」

紬「ふふっ、そういうところもなんだかりっちゃんぽくていいわ」



8 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:42:24.60 ID:yJ8J35aIo



律は在学中から就職活動を一切せず、卒業後もアルバイトでお金を貯めては旅に出る
いわゆるバックパッカーを続けている。

南米を旅している時、偶然出会った旅行専門のライターと意気投合したそうで、
この雑誌の編集部に紹介され、そこからトントン拍子に話が進んで
毎月1/2ページ分の、旅のコラムを書くことになったらしい。


ムギが何か言おうと口を開きかけたとき、前菜が運ばれてきた。
彼女は慌てて雑誌を閉じて、テーブルを空ける。

いただきますと手を合わせて、のんびりと食事しながら互いの近況を報告。



9 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:43:25.41 ID:yJ8J35aIo



紬「……でね、向こうの仕事が落ち着いたら、企画部への転属願いを出そうと思ってるの」

澪「へえ、企画部かぁ」

紬「配属されたら私、どうしてもやりたいことがあって」

澪「やりたいこと?」

紬「女性ボーカリストだけのライブイベント。で、唯ちゃんにオファーを出すの」

澪「唯に」

紬「うん」

澪「……ああ、いいな。うん、いいよそれ」



10 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:44:25.03 ID:yJ8J35aIo

紬「梓ちゃんが唯ちゃんのサポートやるって聞いてね、私も何かしたいって思ったの」

澪「そっか……。あー……、みんながそうやって、どこかでまた繋がって……」

紬「わくわくするよね、そういうの」

澪「うん。なんか嬉しくなる」

紬「でしょう? って言っても、相当がんばらないと叶わないかもだけど」

澪「ムギらしいと思うよ、すごく。応援してる」

ワイングラスを揺らして笑う彼女の頬が、酔いのせいか照れなのか少し赤く染まっている。
好奇心旺盛、楽しいことにどん欲。ムギのそういうところは全く変わっていない。

私も微笑んでみせて、赤ワインを一口飲んで、ふぅ、と息を吐いた。



11 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:45:09.10 ID:yJ8J35aIo



紬「そういえば、りっちゃんのコラム」

澪「うん?」

紬「マチュピチュだったね。夏に絵葉書が届いてた」

澪「あー。……私たちへの近況報告とコラムの内容があんまり変わらないなんてさ」

紬「”律に書かせるなんて編集部も思い切ったことするなぁ”」

澪「ん」

紬「……でしょ?」

いたずらっ子のように微笑んだムギに苦笑いを返す。

紬「りっちゃん、今度いつ帰ってくるの?」

澪「さあ、いつだろ。時々メールはくるけど、予定までは把握してないから」

紬「そうなんだ? りっちゃん、相変わらず唯ちゃんとルームシェアしてるの?」

澪「そうなんじゃないかな、たぶん」



12 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:46:00.73 ID:yJ8J35aIo

音楽の道を選んだ唯とバックパッカーになった律。
ともに経済的な余裕があるはずもなく、ふたりは卒業してすぐルームシェアを始めた。

唯の活動が軌道に乗り始めてからもふたりぐらしの部屋はそのままで、
不思議なバランスのシェア生活を続けているらしかった。

澪「ほんとにあの根無し草は……。まったく、あいつの将来が心配だよ」

紬「まぁまぁ。……あ、でも澪ちゃん」

澪「うん?」

紬「りっちゃんは根無し草っていうより、どっちかというと……」

澪「うん」

紬「種を撒く人、って感じがしない?」

澪「種を撒く人……」

口の中で復唱した私に、ムギがにこりと微笑む。



13 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:47:06.93 ID:yJ8J35aIo

紬「りっちゃんって誰とでもすぐ仲良くなれるでしょ」

澪「うん」

紬「りっちゃんのそばにいるとみんな笑顔になって、楽しい気持ちになって」

澪「……」

紬「りっちゃんが通ったあとは、ぱっと花が咲いてるような、そんな感じ」

なるほど、ムギから見た律はそんなふうなのか。
わからなくもないな、と心の内で思う。

澪「……メルヘンなのは私の専売特許かと思ってたけど」

紬「澪ちゃん、それ自分で言っちゃう?」

澪「散々からかわれたからな。特に、律のやつには」

紬「ふふっ。私は好きよ、澪ちゃんの詞。もちろん今もね」

ムギはそう言うと、丁度運ばれてきたスイーツに視線を移して
可愛い、と嬉しそうに呟いた。



14 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:47:51.89 ID:yJ8J35aIo




 ・
 ・
 ・


紬『りっちゃんが通ったあとは、ぱっと花が咲いてるような、そんな感じ』

つい数時間前に聞いたムギの言葉を思い出しながら、
お土産に貰ったホワイトチョコをひとかけら口に放り込む。

澪「……あ、これ美味し」

さすがムギ、と自然に頬が緩む。
口の中でほのかにラベンダーの香りが広がって、パッケージに描かれた花の絵に納得した。



15 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:48:34.26 ID:yJ8J35aIo

時間が時間なので残りは冷蔵庫に入れて、コーヒーカップを手にワークデスクへ向かう。
椅子に腰を下ろし、キーを叩いてノートパソコンのスリープを解除する。

澪「……うーん」

座ってはみたものの、アルコールを入れてしまったせいか仕事の資料を読む気にはなれず、
わけもなく唸ってコーヒーをひとくち啜る。


── 花が咲いているような、そんな感じ

ムギの言葉と一緒に浮かんだのは、はにかんだ律の笑顔。

澪「……」

両手で顔を覆って、深く息を吸う。
溜息にはならないように、できるだけゆっくりと吐き出した。



16 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:49:27.30 ID:yJ8J35aIo






私の……私たちの恋は、誰にも知られずひっそりと咲いて、ひっそりと散った。

高校3年生の時に律から告白され、
大学を卒業する間際に、やっぱり律から切り出された。


『付き合おっか、私たち』  『もとに戻ろっか、私たち』


付き合って、もとに戻る。
告白と別れの言葉を繋いでみれば呆れるほどシンプルで、思わず笑ってしまう。



17 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:50:18.00 ID:yJ8J35aIo

小さな頃から、何をするにも意識のどこかに律がいた。
それを人は依存と言うのかもしれないけれど、それとは違うと私は思っている。
なにか言葉にしなければいけないとしたら、そうだな、目安、ってところか。

性格がまるで正反対のふたりだからこそ、互いが互いの目安になった。
長所が短所に、短所が長所になるのだと気付かせてもくれた。


友情がいつ恋心に変わったのかは自分でもはっきりとおぼえていないし、
お互いを嫌いあって別れたわけでもない。
恋人から幼馴染へ……ただ、もとに戻っただけ。

付き合い始めた時も別れを決めた時も、互いが互いの気持ちにぼんやりと気がついていた。
それをちゃんと言葉にしてくれたのは律で、私は今も彼女のやさしさに感謝している。



18 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:51:04.43 ID:yJ8J35aIo

澪「……やっぱり今夜はやめとくかな」

結局溜息を吐いて、ノートパソコンを静かに閉じた。明日の朝は少し早起きをしよう。


ふと、デスク脇に置いた旅行雑誌が目に留まって、思うより先に手を伸ばしていた。
暗唱できるほど何度も読んだ律のコラムに視線を落とす。

澪「……」


律は今頃、どこでどんな花を咲かせているのだろう。

呆れるほど寂しがりで、
いつも自分が笑顔でいたいから人を笑わせているあいつは。



19 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:52:14.67 ID:yJ8J35aIo




***



澪「……ん」

ふと目を覚ましたら、何かに反射した光が天井の一部を不規則に照らしていた。
ゆらゆらと揺れるそれを眺めているうちに、意識がはっきりとしてくる。

澪「あ、洗濯物……」

思いのほか日が傾いていることに気がついて、首をひねって窓の外を見る。
秋風に揺れる洗濯物の向こうで、空がオレンジ色に染まり始めていた。

上半身を起こしたら、胸の上にあった文庫本がばさりと床に落ちた。
ベッドから降りて網戸を開け、サンダルを引っ掛けてベランダに出る。



20 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:53:08.30 ID:yJ8J35aIo

取り込もうと掴んだ長袖Tシャツはまだ陽の暖かさを残していて、
何気なく袖口を鼻先に寄せて、目を閉じてゆっくりと吸い込んでみる。

 「いい匂いする?」

突然聞こえた声に、はっと顔を上げてベランダの外を見る。

澪「……」

律「よっ! 久し振り」

澪「……りつ」

律「おう、りっちゃんだぞ」

日に焼けたせいか、前に会ったときより少し精悍な顔つきに見える。
マンション前の歩道からこちらを見上げて、律は軽く手を上げてニカッと笑った。



21 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:54:23.12 ID:yJ8J35aIo




 ・
 ・
 ・


律「金木犀の匂いがする。もうそんな季節なんだな」

澪「いつ帰ってきたの?」

律「今日の昼前に成田に着いた」

使い込んだバックパックを床に下ろして、律もその横にどかりと座る。

澪「何か飲む?」

律「あ、うん。お茶かジュースがあったら嬉しい。……あー、あと」

澪「うん?」

律「ちょっと、お腹すいちゃったかなーって」

てへ、とおどけた律に溜息を吐いてみせてから、
キッチンに行って冷蔵庫からオレンジジュースの紙パックと薄紫色の箱を取り出した。
トレイにグラス2つとチョコレートを載せて、律の待つ部屋に戻る。



22 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:55:29.94 ID:yJ8J35aIo

澪「とりあえずこれ食べてて。あとで食材買いに行って、ご飯作ってあげるから」

律「おお、いただきまーす。……ん、これうまっ! どこのチョコ?」

澪「ムギからのお土産。会社の近くのお菓子屋さんが作ってるんだって」

律「ムギに会ったのか?」

澪「先週ね。出張でこっちに戻ってきたときに」

律「そっか。元気そうだった?」

澪「うん。仕事もがんばってるみたいだったよ」

そうこたえると、律はもう一度そっかと言って、オレンジジュースをひとくち飲んだ。



23 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:56:39.40 ID:yJ8J35aIo

澪「部屋にはまだ帰ってないの?」

律「あー、いや、帰ったことは帰ったんだけどさ」

私の問いに律は少し口籠って、うっすらと苦笑いを浮かべる。

澪「なにかあったの?」

律「んー。帰ってみたら、私の部屋に梓が居候してた」

澪「梓が?」

律「梓が。思ってたより元気だったよ、あいつ」

澪「……そっか」

律「梓な、唯のバックバンドに参加するらしいぞ」

澪「あ、うん。こないだ唯から聞いたよ」

律「そか。……それでまあ、収入がまだほとんどないから、それでな」



24 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:57:37.69 ID:yJ8J35aIo




スタジオミュージシャンを経て独立した梓が
一時期仕事をやめて実家に戻っていたことは唯から伝え聞いていた。

やめた原因も分からず、
連絡しても返事をよこさない梓にみんなやきもきしていたけれど、
やっぱりというか、あの子の心を開いたのは唯だった。

澪「そっか。梓が元気そうでよかったよ」

律「うん。そんでまあ、それならってことでさ」

澪「うん?」

律「梓に、私が出てくから住んじゃえばいいじゃんって言っちゃった」

澪「え」

ぽかん、と口を開けてしまった。律はニヘラと笑って頬を掻いている。



25 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:58:29.74 ID:yJ8J35aIo

律「どーせ1年の半分は家にいないし、二人が一緒に住むほうが何かと便利だろうし」

澪「だからってそんな軽く決めて……」

律「もともと私の荷物も微々たるもんだし、問題ないよ」

澪「いや、そうじゃなくて、律」

律「ん?」

澪「残りの半分は……こっちにいる時はどうするんだよ」

律「ぬ……」

まるで今気付きましたといわんばかりに、律がぎゅっと眉を寄せた。
最初から分かっていたくせに、とツッコミを入れるのはやめておいて、
わざとらしく難しい顔をして唸る彼女の、次の言葉を待つ。



26 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 10:59:21.60 ID:yJ8J35aIo

律「まあ……。しゃーないから、しばらくは実家のお世話になるかな」

澪「……」

律「ここよりバイトの時給がちょい安いのがネックだけど、まあなんとかなるっしょ」

なんでもないと言いたげに笑うと、律はチョコをつまんでぽいと口に放り込んだ。
コロコロと口の中で転がしながら、澪の部屋は相変わらず片付いてんなぁ、と
私の視線から逃れるように部屋を見回す。

澪「……あ、読んだよ、コラム」

律「おー、どだった?」

澪「ん、面白かったよ。誰かへの手紙っていうやりかた、いいと思う」

暗唱できるほどに何度も読んだ、律からの手紙をまた思い出す。



27 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 11:00:23.12 ID:yJ8J35aIo

律「……そか。よかった」

澪「……。ねえ、律」

律「んー?」

澪「うちに来なよ」

律「……」

澪「ここに住めばいいよ」

一緒に暮らして、また、花を咲かせようよ。
心の中で、私はそう言葉を続けた。

……やっぱりメルヘンは私の専売特許みたいだよ、ムギ。



28 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 11:01:18.42 ID:yJ8J35aIo

律はゆっくりとこちらを向いて、やけに神妙な面持ちで私と視線を合わせた。
2、3度瞬きをして、静かに息を吐く。

律「……そんな、軽く言って」

澪「もともと荷物も微々たるもんなんだろ? 問題ないよ」

律「いや、そうじゃなくて、澪」

澪「ん?」

律「……あー、えと……」



29 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 11:02:01.43 ID:yJ8J35aIo

そこまで言って、律はぎゅっと唇を閉じた。
けれどこらえきれず、ぷは、と息を吐き出すと肩を揺らして笑った。

律「私が言ったこと真似すんなよ、ばーか」

澪「お前もな」

律「なあ、澪」

澪「うん?」

律「また付き合おっか、私たち」



30 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 11:02:58.47 ID:yJ8J35aIo




……結局私は心の内で思うばかりで、きちんと言葉にしてくれるのは律なんだな。


付き合って、もとに戻って、また付き合う。


誰もが複雑に絡まり合いながら日々を生きているのに、
律の言葉を繋いでみると、やっぱり私たちは呆れるほどにシンプルだ。

そう思いながらちょっと笑って、うん、と頷いた。



31 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 11:04:46.28 ID:yJ8J35aIo




 ・
 ・
 ・


澪「もう、外で何か食べようか」

軽く身支度を整えて、玄関に向かいながら律に提案した。
ドアの前でしゃがみ込んでトレッキングシューズの紐を結んでいる律が顔を上げる。

律「え……、でも」

澪「そんなにお腹鳴らしてたら、うちに帰って作るまで待たせられないよ」

にやりと笑ってみせたら、律は失敗を見られた子供みたいに頭を掻いた。



32 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 11:05:48.16 ID:yJ8J35aIo

澪「ねえ律」

律の隣でスニーカーを履きながら、彼女の名を呼ぶ。

律「んー?」

澪「あのコラム、追伸の部分さ」

律「ん」

澪「あれ、私宛?」

律は少し眉を上げて、それからちょっと笑って、さあどうかな、とこたえた。
紐を結び終えて立ち上がって、踵をトントンと鳴らす。

澪「うぬぼれてるかな」

律「さあ? どうだろう」



33 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 11:06:59.76 ID:yJ8J35aIo

狭い玄関で並んで立って、私よりも少し低い位置に律の笑顔が咲いた。
みお、と、律の唇が私の名前に合わせて動く。

私の肩に律の右手が乗って、顔が近づく。
同じ方向に顔を傾けてしまって、ちょっと顔を引いて、揃って照れ笑いする。


彼女からもらったやさしいくちづけは、
ホワイトチョコの甘い味と、かすかにラベンダーの香りがした。



34 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 11:07:53.05 ID:yJ8J35aIo




***



  追伸:

  この綺麗な風景を見ていたら、何故か君のことを思い出しました。
  マチュピチュの話をしたことなんてあったっけ?

  日本に帰ったら、今回の旅の話をお土産にして会いに行きます。
  その時は美味しいご飯を食べさせて下さい。





おしまい




35 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 11:15:23.99 ID:avbAP/Nko

乙!すごいよかった。
やっぱりこの二人は一緒にいるのが一番だね。



36 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東):2011/10/06(木) 11:48:44.54 ID:6avZF+OAO

いいなこれ



37 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 15:33:47.32 ID:RQosD7rSO

>>1
素敵な律澪ありがとう





38 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 16:25:56.90 ID:yJ8J35aIo

乙ありがとうございます。

以前書いた、梓「ラッキープール」というSSと繋がっています。
読んで下さった方がいらっしゃると嬉しいです。




39 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/06(木) 18:22:01.40 ID:mpswHbaXo


梓「ラッキープール」も面白かった



40 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/10/06(木) 23:34:28.11 ID:pYxYlRwO0

良かったよ
おつー







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澪「花は咲き、枯れてまた咲く」
[ 2011/10/10 20:37 ] 非日常系 | | CM(2)

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タイトル:
NO:4056 [ 2011/10/11 01:04 ] [ 編集 ]

律澪はやはりいつまでも一緒だな。

タイトル:
NO:4057 [ 2011/10/11 01:19 ] [ 編集 ]

ほっこりした

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