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唯「巨万の富」 【カオス】


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 22:17:36.15 ID:78PKSee90


私がそれを手に入れたのは、高校卒業後まもなくしてだった。





7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 22:21:37.49 ID:78PKSee90


律「よお、唯」

今年のフランスも暑かった。パリでは数百人の市民が暑さのために死んだらしい。

私とりっちゃんは、パリを一望できる高層ビルの最上階のレストランで久しぶりに再開した。

りっちゃんはあいかわらず、カチューシャをつけて、安そうなワイシャツを着ていた。

私は礼服の黒いドレスを着ていた。

律「全面ガラス張りだぜ、怖くないか?」

フロアには私達のほか誰もいなかったので、りっちゃんは遠慮なくはしゃいでいた。

私は静かに着席を促した。ボーイがやって来たので、コニャックを注文した。



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 22:25:40.30 ID:78PKSee90


律「金がいるんだ」

りっちゃんはあっけらかんに相談してきた。

律「人を殺そうと思ってな、金がいるんだ。あ、煙草いいか?」

りっちゃんは胸ポケットから紙巻たばこの箱を取り出して、一服した。私も勧められたが、断った。

唯「いくら?」

私はため息をついた。りっちゃんが驚くべき額を要求したからだ。

唯「そんなにいるの?」

律「ちょっと足りないくらいだよ、それでも。いや、唯にとってははした金だろ?」

私は渋々承諾した。りっちゃんは、喜んでいた。



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 22:28:46.08 ID:78PKSee90


律「それにしてもだ、唯は変わったよ。落ち着きがある、なんだか大人っぽい。

  金の力、いとおそろしや!」
  
唯「りっちゃんも変わったよ。」

律「そうか?この前澪にも言われたよ。」

唯「澪ちゃん元気にしてる?」

律「澪はまだ東京にいるよ。N女子大学で青春を謳歌しているってさ。もう30歳にもなったのにな。

  青春!なんて懐かしい響きなんだ、私にはもう縁遠いものになってしまった。」
  
唯「青春はお金で買えないよ、そういう意味では、澪ちゃんが一番豊かなのかも知れないね。」

テーブルの上に置かれたコニャックを一口飲むと、舌がしびれた。嫌な味がした。



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 22:30:56.75 ID:78PKSee90


唯「りっちゃん、もうやめたら?」

律「何を?」

唯「そーいう事するの。もう飽きたでしょ?それに地獄に堕ちるよ、そんな事ばかりしていると」

りっちゃんは笑うだけで返事をしなかった。

そして食事が出てくる前にりっちゃんは立ち上がり、私を誘った。

律「パリを歩かないか?」

私は頷き、私たちはレストランを後にした。



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 22:36:18.20 ID:78PKSee90


律「私の考えじゃ、もうこの国も終りさ。

  そういった意味で、凱旋門を見れるのは最後かもしれない。

  そう思ってわざわざパリくんだりまで遊びに来たんだ。」

私たちは、通りを歩く人が減ってしまったパリの凱旋門の前にいた。

律「ナポレオン、ビスマルク、ヒトラー、彼らが闊歩したこの門は、今よりもっと輝いていたんだろうか。」

律「見なさい、唯。この石版を。100年前の大戦争で死んだ兵士を弔う言葉。

  今では花を捧げる人はいない。彼らの魂はどこへ向かうのだろうか?」
  
律「戦争で蹂躙された街ほど、輝くんだ。

  私はロンドンが嫌いだよ。パリ、ワルシャワ、ベルリン、キエフ、モスクワ。

  市街戦があった都市ほど、洗練されている。

  うん、それは間違いないな。どう思う?唯。」

唯「黙祷を捧げよう、りっちゃん!」

私が叫ぶと、りっちゃんも頷き、目を瞑った。やけに静かなパリの昼下がり、私は昔を思い出していた。



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 22:39:45.31 ID:78PKSee90


紬「やめときなさい、唯ちゃん。お金は人を狂わせる。うん、私が言うんだから間違いない。」

誰もが羨む富を手に入れた後、ムギちゃんに会うとその話を聞かされた。

紬「お財布にね、一万円札が入っているだけで、幸せを感じられるようになりたかったの、私も。

  それはとっても傲慢だったわね。
  
  けれども、何事もほどほどが一番よ。

  唯ちゃん、悪いことは言わないから、その財産をなげうって、自分の名前をとっとと塗りつぶしなさい。」
  
唯「でも、無いより有る方がいいよ。

  ムギちゃんがムギちゃんなのも、お金があったからでしょ?」



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 22:44:32.47 ID:78PKSee90


紬「否定はしないわ。でも、私は塗りつぶしたわよ。とっても勇気が必要だったけど、今は体が軽い。

  40歳まで生きられないと思うけど、毎日食べるお米にも事欠くようになったけど、

  小さな事に幸せを感じるようになってきたの。

  お勤め先のスーパーでね、お弁当が売れ残るの。それをたまあに貰えるの。

  いつもご苦労様、ってお客さんに言われるの。

  化粧もできずに肌はぼろぼろ、手は洗剤と水で焼けただれている。筋肉はひきつって、笑えない。

  けれども、生きているだけで幸せなの。

  卑屈だけれどもね、唯ちゃん、ある意味であなたはとっても貧しいわ。」

唯「そーかな、欲しいものは何でも買えるよ、命だって、買えるんだよ。

  みんな言うことを聞いてくれるよ、誰も私のことを蔑まないよ。
  
  でもムギちゃんだけは軽蔑するの?
  
  よくわからないよ、ムギちゃんが一番この幸せを分っていると思っていたけど。」
  
紬「あなたもいつか、存在の耐え難き苦しみに気がつくわ。まあ、気がついたらまた会いに行くね。」



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 22:49:40.01 ID:78PKSee90


律「おい、唯。目を開けろ」

唯「ああ、ごめんねりっちゃん。昔を思い出していた。

  あの頃は楽しかったなぁって。また5人で集まりたいな。

  ねえ、武道館でライブをしようよ。お客さんなんていなくていいからさ、5人でまた集まろう。」

律「でも、澪はお前が名前を塗りつぶさないと会わないそうだ。

  それは出来ねーだろ、それくらいなら、死んだほうがましだよな。まあ、死にたくなったら教えてくれ。」
  
唯「死にたくはないよ。」

律「だそうだ、梓。」

気がつくとあずにゃんが凱旋門の向こう側にいた。



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 22:54:14.14 ID:78PKSee90


梓「お久しぶりですね、お二人さん。」

あずにゃんは高校時代から着ていたのではないかというくらい煤けたコートを着て、パリにいた。

梓「唯先輩、とっとと死んでくださいよ。あなたがいると、他の人が苦しむんですよ。

  世界はゼロサムゲームですから、
  
  あなた一人が、人間の資産の9割を握っている現状、あんまり良くないんですよ。
  
  このままじゃ人間は衰退しますよ。」
  
唯「あずにゃん、いつから共産党員になったのさ。」



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 22:57:28.83 ID:78PKSee90


梓「別にマルクスは好きじゃありませんけどね。

  あなた以外の人間たちは、残り1割の資産を巡って死に物狂いで争っているのはご存知ですよね。
  
  昨日、核爆弾が大陸を焼き尽くしましたよ。これで敵は減ったと喜ぶのが人間なんです。
  
  死は悲しむべきものでもあり、喜ぶべきものでもあるのです。」
  
律「あいかわらずずれてるぜ、梓。」

梓「まあ、律先輩には何も言えないですけどね、もう、呆れて。」

唯「あずにゃん!またライブをやらない?」



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:02:09.23 ID:78PKSee90


梓「あなたが名前を塗りつぶしたらね。またゆいあずを組んであげてもいいですよ。」

律「えらそーな奴だ。」

唯「ごめんね、そんな事はできないよ。せっかく手に入れたんだから。捨てることなんて、想像できない」

  捨てることは得ることでもある、なんて欺瞞だと思うな。
  
  弱者の欺瞞、怨念、憎むべき罪悪!」
  
梓「そんなこと言って……早くしないと何もかもが手遅れになっちゃいます。時間は無慈悲に進むだけです。」

この時、りっちゃんが下卑た笑いを浮かべたのが、頭にこびりついた。一瞬だけあずにゃんが顔をしかめた。



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:05:15.27 ID:78PKSee90


あずにゃんを誘ったけれども、あの子は無視してパリの裏路地に消えていった。

唯「ところでりっちゃん、前にあげたお金で何したの?」

律「今梓が言っただろ?

  私はもう、人間が普通に悶え苦しむ姿に飽き飽きしていたんだ。
  
  もっと苦しめよ。なあ、ところで私は早く生き残った人間を見に行きたいんだ。
  
  飛行機も手配したから、そろそろ見に行こうと思うけど、唯はどうする?
  
  焼け爛れて、家族も家も、人間に付随すべき全てが欠けた人間の苦悩を見るのは、ちょっとした息抜きだ。」



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:09:35.88 ID:78PKSee90


律「私の事を非難するのはお門違いだぜ、本当に恨むべきは、人間の本質だよ。

  ただ、私は正直なんだ。多くの人間が誤魔化し続けている残酷さに向き合っているだけだ。
  
  私は奇形じゃないよ。人間の奇形は、マザーテレサのような人間さ、
  
  平和賞は奇形児に与えられる安っぽい表彰状だった。」
  
唯「りっちゃんは戻りたいと思わない?」

律「どこに?」

その問いに答えられず、うつむいてしまうと、りっちゃんは笑い声をあげた。



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:15:43.36 ID:78PKSee90


りっちゃんと一緒に大陸の消尽した都市を訪れてみた。

私達のように洗濯した綺麗な服を着ている人間は一人もいなかった。

街では転がる死体に蝿が湧き、身体が欠損した生存者は、死体を踏み越えてどこかへ向かって歩いていた。

水を求めてうめき声をあげる物乞いのように動かない市民と、

蠅に食いつぶされていく死体が、爆心地から少し離れたブロックでも見られた。

ここはかつて高層ビル群が立ち並び、快楽の中心だった場所だ。今は瓦礫と死体の山がここを占拠している。

りっちゃんは興味深そうに何かを探していた。

更に爆心地から離れても、人間の腐臭と蠅の柱が道しるべとなってどこまでも続いていた。

しかし、しばらく行くと、空き地で子供たちがサッカーをしていた。

ボロを纏い、いずれは見えない毒に蝕まれていく体を抱えても、彼らは球を追い続け、遊んでいる。

音楽が流れ続ける。いてつく太陽の光と、蠅のやかましい騒音、人間のうめき声……

ビートルズもローリング・ストーンズもここにはないけれども



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:18:38.52 ID:78PKSee90


律「これが見たかったんだ、唯。生きることの輝きは、破滅の上にあるんだよ。

  ほら、見ろ!崩れた道路のそばで、暖かい湯気が立ち上っている。

  炊き出しだよ、生き残った者たちは、それに群がっていく。
  
  そして、これだけ酷い目にあってもまだ生き続けようとする。
  
  アインシュタインは第四次世界大戦は、核兵器で焼き尽くされた為に、
  
  石と棒で戦う事になると言ったと伝承されているよな。
  
  でも、違うよ。人が生きている限り、残酷さは更に追求される。

  滅びるのは兵器ではなく、民主主義、平和主義、人道主義といったいわゆるはりぼてだよ。」



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:20:55.77 ID:78PKSee90


律「そもそも、人間が人間を滅ぼせるなんて傲慢すぎるよ。

  ヒンドゥーの聖典、マハーバーラタに核戦争の記述があるよな。人間は再び核を手にし戦っているんだ。
  
  マヌ法典、プラナ文書には、人間の始祖は14人いて、
  
  人間は何度も滅びを経験し、それでもなお立ち上がり、滅びと転生へ向かうと記されている。

  有名な輪廻転生の考えだよ。
  
  人間を滅ぼせるのは宇宙だけさ。唯、どう思う?」
  
私はこみ上げた吐き気をこらえきれず、嘔吐した。

吐瀉物にまで、まるまる太った蝿が群がり始めたのを見て、泣き出しそうになった。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:24:54.92 ID:78PKSee90


りっちゃんは私の背中をさすってくれた。

りっちゃんの眼は輝いているが、虚ろで、ここを見ていないように感じられた。

律「宇宙の気まぐれで、地球に大きな隕石が落ちてくる時、きっと人間は滅びることができるんだ。

  その巨大さ、深遠さに比べれば地球なんて、人類なんて、塵芥にすぎない。
  
  だからそんなに大切に扱う必要はないんだ。ただ、真摯に運命と向きあえばいい。」
  
  
律「古代文明から中世まで、人類は星の位置に意味を感じていた。私はこれに意味はあったと思うよ。

  占星術、私も今凝っているんだ。
  
  まだ、宇宙に五衰の兆しは見えないから、唯、しばらく人間は滅びないけどね。
  
  その日まで生きていたら!私はまた5人で集まってもいいよ。
  
  所で唯。朝昼晩、毎日風呂に入ったほうがいい。もう服は脂ぎっているぞ。」
  
唯「毎日入っているのに、なんでこうすぐに汚れちゃうんだろうね。最高級のドレスなのに。」



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:28:03.29 ID:78PKSee90


律「まあ、いいや。じゃあな。」
  
りっちゃんはあらかた自分の考えを述べると、廃墟の中へ消えていった。

私は一人、瓦礫の傍らに座り込んで考えていた。
  
私は孤独になった。もう誰も私に会ってくれない。


澪ちゃんは私が名前を塗りつぶせば会ってくれるらしい。

あずにゃんは私が死ねば会ってくれるらしい。

りっちゃんは世界が滅べば会ってくれるらしい。

ムギちゃんは私が気がつけば会ってくれるらしい。


ならば私はムギちゃんに会うしかないと思った。



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:31:06.24 ID:78PKSee90


その足で東京に帰り、ムギちゃんを探す前に私は憂の墓を訪れる事にした。

墓が立ち並ぶ霊園の隅に、憂の墓はあった。花を携えてそこへ行くと、すでに新鮮な花が捧げられていた。

唯「憂は幸せものだね。死んでなお、愛される。でも、死ねば終わりだよ。

  憂。私を許してよ。私を救ってよ。」
  
私は涙もろくなった。些細なことで泣くようになれた。

巨万の富は、一人では支え切れないほどの苦しみを携えていた。

5人揃えば救われる気がする。でも私は、この人生をどう扱っていいのかわからなくなっていた。

唯が直立したまま涙を流し、途方にくれ、太陽が西へ傾きかけていた頃、墓地の奥から懐かしい人が訪れた。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:34:50.91 ID:78PKSee90


和「唯!唯じゃない!元気にしてたかしら?」

和は背広を着て、少し老いたがあいかわらず美しい容姿を保っていた。

和「墓参りなんて、唯らしくないわ。

  そんなに憂の事を気に病んでるなら、もっと立派な墓石でも立ててあげなさいよ。

  あ、今私、内閣総理大臣やってるの。
  
  閣議があるから、あんまり長居はできないけど、お茶しないかしら?」
  
唯「和ちゃん。あなたは苦しくないの?憂を犠牲にして手に入れた権力、どこか空虚で、冷たくて……」

和「何いってんのよ。生きているだけで苦しいのよ、そんな当たり前の質問する必要はないわ。

  今私はとっても充実している。やっぱり人の上に立つ仕事はやりがいがあるわね。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:37:11.17 ID:78PKSee90


和「唯もせっかく巨万の富を手に入れたんだから、楽しみなさいよ。ねえ、こういうのはどうかしら?
  
  今度また、石油メジャーを使って原油価格を高騰させるの。
  
  そうすると、日用生活品の価格が上昇するから、市民は苦しむと。
  
  唯の会社は、ものを売らないで、貯めこもうか。金持ちにだけ売りつけて、もっと儲けよう。
  
  たくさんの人が餓死するのよ、この文明時代に。
  
  それを私がうまくなだめて、頃合いをつけて石油価格を下げましょう、物価を元に戻しましょう。
  
  私はきっと尊敬されるわ。唯だって、あなたの元に更に多くの資産が集まるわよ。
  
  律のやつは経済ブロック形成に乗じて戦争を仕掛けるかも知れないけど、程々にやらせておきましょう。
  
  どう、このアイディア?」
  
唯「もう興味がわかないよ。」



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:39:49.64 ID:78PKSee90


和「残念ね。そーいえば、中野のガキを殺したいんだけど、どうかしら?

  彼女、私の事を批判するのよ。そのせいで私の仕事ははかどらない。
  
  律は賛成してくれたわ。澪は賛成しないだろうけど、ムギはこっちに傾くかも知れない。
  
  なら、唯の賛成で中野をぶっ殺せるんだけどね。どうかしら?」
  
私は逡巡した。でも5人に会いたいだけなら、殺すことに賛同するのも悪くないことだった。
そのような状況が形成されれば、おそらくムギちゃんも澪ちゃんも、あずにゃんも集まって
またティータイムが開かれるかも知れない。

唯「うん。いいよ。あずにゃんを殺そうか。」



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:41:28.06 ID:78PKSee90


夜、ホテルに帰り、明日ムギちゃんに会いに行こうと考えると、

電話の取次があった。澪ちゃんからだった。

澪「和に聞いたぞ。お前、梓の殺害動議に賛成したそうじゃないか。」

唯「うん。」

澪ちゃんの声は、怒りに震えていた。

澪「律はどーしようもない奴だから、諦めていたけど、お前が賛成するなんて……」

澪ちゃんは電話の向こうでブツブツ言っていた。成功したぞ!私は喜んだ。

閉塞した状況を打破するには、一見無意味な行動でも起こすに限るのだ。

どうせムギちゃんも澪ちゃんもあずにゃんも、賛成はしない。

ならばこれほど有効に、私の悩みの1つを解決する方法はないではないか。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:43:29.12 ID:78PKSee90


唯「澪ちゃんから電話をくれるなんて、うれしいよ。電話じゃなんだから、これから会わない?」

澪「お断りだ、おまえなんか、顔も見たくない……でも……いや、やめておこう。」

唯「ねー澪ちゃん、大学は楽しい?友達はできた?」

私は昔を思い出して澪ちゃんに話すことができた。

堅苦しい礼服のタイを緩めて、親しい友と喫煙所で一服するような気分だった。

でも澪ちゃんは深刻そうにあずにゃんの事を考えているらしい。

澪「なあ、なんでこれまで私達は死ななかったかわかってるのか?

  私と、ムギと、唯、その誰もが繋がりが欠けることをある面で恐れていたからだ。
  
  律は、頭がおかしいから、もう全員の執行書にサインしちまっているんだよ、
  
  律は、あの日の太陽のせいで、狂ってしまった。」



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:48:53.39 ID:78PKSee90


唯「でも、澪ちゃんたちが反対すればそれでいいじゃない。」

澪「バカ、梓の気持ちを考えろ。梓はお前のことを愛しているんだ、

あの子が死を望むとしたら、お前の死か、自分の死、以外にあり得ない。

  だから、下手すると、梓自身が賛成しかねない、ああ、大変な事をしてくれたな」
  
  
私はあずにゃんが自殺する可能性を感じて、心の底で地獄の鐘が鳴り響く音が聞こえた。

地獄の前に座ったカバが、大きな口を開けて、小さなあずにゃんを飲み込もうとしているようだった。



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:50:17.69 ID:78PKSee90


唯「ど、どうしよう」

澪「ムギも自分の死を望んで、毎日私にサインを求める。

  想像以上に、人間は、己の死を求める生き物だったということだ。
  
  死は不条理を超克する唯一の手段である、ならば、私達に残されたのは自殺しかない。」
  
澪ちゃんはそれだけ告げて、電話を切った。天国から地獄に落とされた気がした。

私には名前を塗りつぶす選択も、自分の執行書にサインすることも出来なかった。
時計の音だけが、静かな洋室になり続け、また幻覚が見え始めたので、
私は薬を飲み、ベッドに横になった。



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:52:44.95 ID:78PKSee90


あずにゃんはこの時、南カリフォルニアの研究室に安置された屍蝋化した憂の死体を前に、静かに立っていた。

梓「She is my best friend.」

あずにゃんは、照明の照らさぬ陰で、フードをかぶった女に説明を続ける。

梓「We lost everything , when She GET mean , however,
  We got something like wisdom, life, and happiness.」

「えいごはやめてくれ、わたしばかだからわからねーんだ。
 にほんごで、それもできるだけわかりやすしろ。
 それにかたことのえいごではなされるくらいならかたことのにほんごのほうがまだましだよ」

梓「先輩、よくそれでアメリカに来れましたね。まあ、いいです。専門的な説明は日本語のほうがわかりやすい。

 象形文字はとても便利です、これから行う検死は英語でinspection、字面だけじゃわかりにくいですからね。」
 
「それでいいよ、梓」



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:54:16.78 ID:78PKSee90


あずにゃんは憂の死体を眺め、フードをかぶった女に説明する。

梓「死因は溺死でしょうかね、肺に水が入っていました。

  あと生前酷い暴行を受けた痕があります。生きている状態で傷つけられたのでしょうか。

  まあ、詳しい初見は、お手元の資料を見てください。
 
  それより特徴的なモノがあります。椎骨に、犯人の名前が彫ってあります。
 
  最初は血で書かれたものが、徐々に染みこんで、もう既に塗りつぶせません。
 
  平沢唯、真鍋和。
 
  椎骨は24個、仙椎を一つの椎骨と見なすと25個あるのですが、まだあと23人の名前が彫れますよ。」
 
「ヒデェ奴らだ。まあいいや。梓、私の名前を残り全部に彫っておけ。血で描くなよ。

 私は幸せなんてこの世に無いと思っているんだ。それに、あの3年間はもう二度と得られないんだ」



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:56:08.91 ID:78PKSee90


梓「正気ですか、先輩。そんなことしたら、途方も無い時間、苦しむことになりますよ。

  研究したでしょ。刑期が終わるまで、それじゃ10の230乗年かかります。
  
  唯先輩と和先輩の刑期がおおよそ10の10乗年、つまり100億年です。」
  
「星の動きでは、もうすぐアイツらも地獄に堕ちる。きっと後悔するだろうな。

 そこで幸せには途方も無い代償が必要だと気がつくんだ。
 
 もう唯は……気がついてしまった。ムギは気がついていたんだ、生まれた時から。
 
 ムギは、でも肝心な所に気がついていなかったんだ。
 
 結局、あいつはどこかで自分だけが救われようとして、自分の名前しか塗りつぶさなかった。
 
 だから、唯と和は、名前を書いてしまった。
 
 私はそれを知ってしまったら、見て見ぬふりをしたりは出来ねーな。
 
 まぁいいや。一人で地獄に堕ちるとするか、私は。」
 
梓「所で、唯先輩ももう私の死刑執行書にサインしたようです。

  後は私がサインするだけ。死は救いですね。死ねるなんて幸せじゃないですか。
  
  今度生まれたら、きっと私は人間にはなれないだろうけど、
  
  おそらく死体を食い荒らす虫になるんだろうけど、それもまた一興です。



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:58:46.32 ID:78PKSee90


「そーかい。美味しい肉を食べれるといいな。さ、早く彫っちゃおうぜ。」

梓「遠慮はしませんよ。仏心を起こして、かわりに私の名前を彫ってあげるなんて事しませんよ。

  あなたは宇宙が生まれて滅びるまでの年数を1回とすると、100億回苦しむ事になるんです。

  そこには救いはありませんね。激痛と悔恨、そして己のアホさを呪うだけ。
  
  おとなしく死ねばいいじゃないですか。なあに責任感じて罪を引き受けようとしているんですか?」
  
私は二人の会話を聞いて、肌寒い思いになってきた。

え?なにそれ?100億年の苦痛?たかが10年ちょっと、幸せを享受しただけで?

その幸せも偽りだった。なのになぜ苦しまなくちゃいけないの?

今思えば、価値のある人生なんて、

憂がいて、みんながいて、ギー太を弾いて、だらだらして、のんびりして……

私はちょっとそれに飽き飽きしちゃったから

そもそも口車に乗せたのはあなたでしょ?

憂を殺して、その代償にちょっぴり幸せになりたかっただけ。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/10(月) 23:59:41.77 ID:78PKSee90

梓「あれ?唯先輩じゃないですか。」

私はいつの間にか、憂の口をかりて、叫んでいたらしかった。

梓「よっぽど自分の場所に帰りたくないんですね。

  ついに来ましたか、五衰の兆候、最後の徴が。あとは地獄に堕ちるだけです。
  
  まあ、ゆっくりしていってください。ここは空調も効いて、涼しいですから。」
  
暑いよ!それにじめじめする。ナメクジが肌をさっきから這いまわっているんじゃないかと思うくらい。

「すまねーな、唯。恨むんなら、ムギの忠告を受け入れなかった己のバカさを呪っておけ。

 もう名前を塗りつぶせないって、梓に聞いたから、私はわざわざアメリカまで来たんだ。

 澪とムギにも連絡しておこう。」
 
体も動かせず、ただ私は見開いて濁った憂の眼から見える暗い天井を見つめていた。

部屋の隅の暗闇の向こうで、りっちゃんの声が聞こえてくる。

でも、それは私の知っているりっちゃんではなかった。

あずにゃんもどこか冷たかった。



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/11(火) 00:00:05.12 ID:CN+dyjwi0


梓「もう一人ぼっちになることなんて怖くありませんよ。

  死ぬときは皆一人です。」
  
紬「そうよ、梓ちゃん。ぱちぱち。よくそれに気がついたわね。」

ムギちゃんの声まで聞こえていた。

紬「唯ちゃんもバカね。あの時とっとと名前を塗りつぶして、憂ちゃんに許しを乞えばよかったのに。」

「もうちょっとかかるな、それまでその骸の中で、地獄を想像して待っていな。じゃあ、私は先に行くよ。」

梓「じゃあ、彫りますよ、先輩。」



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/10/11(火) 00:00:30.65 ID:CN+dyjwi0


彫刻刀で、憂の背骨にゴリゴリあずにゃんが名前を彫っていく。田井中律田井中律田井中律田井中律……

そのたびに私は、耐え難い激痛に見まわれ、のた打ち回ることも出来ずじっと空を見ている。

作業が終わって、暗闇だけが残った死体安置所からあずにゃんが去り、憂の死体だけが残された。

暗闇はただ、変わらずそこにあって、そこにいたはずのフードをかぶった女は消えてしまった。

おわり




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唯「巨万の富」
[ 2011/10/11 19:14 ] カオス | | CM(8)

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タイトル:
NO:4065 [ 2011/10/13 13:41 ] [ 編集 ]

カオスの様で、劇中では何らかの軸があり道理がある。
細部に執着を感じる屍体の描き方から「いひひ」の作者さんかな?
もし、そうであれば久しぶりの新作ですね。

タイトル:
NO:4095 [ 2011/10/17 22:18 ] [ 編集 ]

「いひひ」って作品も読んでみたい

ggった限りではそれらしいのは見つからなかった

タイトル:
NO:4103 [ 2011/10/18 19:07 ] [ 編集 ]

> 「いひひ」って作品も読んでみたい
>
> ggった限りではそれらしいのは見つからなかった

唯「澪ちゃんを殺しちゃった」
http://sshozonbasho.blog90.fc2.com/blog-entry-529.html

「いひひ」とは、上記SS内に出てくる梓のセリフに起因しています。

タイトル:
NO:4105 [ 2011/10/18 20:21 ] [ 編集 ]

スレタイが「いひひ」だと思い込んでた…見つからない訳だorz

さっそく読ませていただきますね

ありがとうございました!

タイトル:
NO:4138 [ 2011/10/21 15:29 ] [ 編集 ]

この作者さんの作品、唯「巨万の富」と唯「澪ちゃんを殺しちゃった」以外でどなたかご存じありませんか?

タイトル:
NO:4144 [ 2011/10/21 19:03 ] [ 編集 ]

> この作者さんの作品、唯「巨万の富」と唯「澪ちゃんを殺しちゃった」以外でどなたかご存じありませんか?


澪「世界の終り?」
http://sshozonbasho.blog90.fc2.com/blog-entry-707.html

梓「唯糞」
http://sshozonbasho.blog90.fc2.com/blog-entry-1016.html

梓「律先輩が死んだ」
http://sshozonbasho.blog90.fc2.com/blog-entry-1050.html


同じ作者かどうかは分かりませんが、上記SSが近い雰囲気だと思います。

タイトル:
NO:4148 [ 2011/10/21 19:52 ] [ 編集 ]

わざわざご丁寧にありがとうございます
じっくり読ませていただきます

いつもいつもこまめな更新お疲れ様です
応援してますよ

タイトル:
NO:4160 [ 2011/10/22 15:46 ] [ 編集 ]

他のSSだとこのあたりかと思います
律「梓をころす」(ころすの部分は漢字ですがコメントで引っかかるので)
http://ssflash.net/archives/1393080.html
唯「人生ってさ」
http://matomech.com/article.aspx?aid=600675&bid=370
紬「りっちゃんバイク買ったんだ」(これはどうか分からない)
http://ssflash.net/archives/1393104.html

できればこれらのSSもこのブログでまとめてくれると嬉しいです

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