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梓「昔、唯先輩がいたところ」 【非日常系】


SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)@VIPServiseより

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1318057497/




1 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東):2011/10/08(土) 16:04:57.02 ID:nMrKbtYAO


わたしは公園のベンチに座っていた。
長い年月をかけてさび、汚れたこの黄色いベンチの上に。
どこか遠くから声が聞こえた。まるで誰かを呼んでいるみたいだ。
結局、わたしはどこにたどりついたのだろう。
まあ、今となってはどっちも同じこと。

ただ――あの頃、たしかにわたしはあの場所にいたんだ





3 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 16:27:41.82 ID:nMrKbtYAO

【A】

律「缶けりしよーぜー」

澪「え?」

唯「いいねいいねー」

紬「いいわいいわー(缶けりって何かしら)」

梓「皆さん今は部活の時間です」

澪「そうだそうだー」

律「まあまあ、たまにはいいじゃん」

梓「たまにじゃないじゃないですか」

唯「じゃないじゃない」

梓「しかもなんで缶けり」

律「なんか懐かしくなっちゃってさ」

梓「いきなりですね」

律「まあな」

唯「よーし、じゃあ行こー」



4 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 16:39:54.37 ID:nMrKbtYAO


というわけでわたしたちは学校の近くの公園に行った。
何人かの子どもたちが無邪気にあたりを走り回っていた。
彼らに自らの少女時代を重ねてみようとするが、何一つ思い出せることはなかった。
昨日の夜は何を食べたんだっけ。
律先輩が缶コーラを一気飲みしてげっぷをした。

律「よしっムギもルールはわかったか?」
紬「うん、ばっちりよ」

律「じゃあ、鬼決めじゃんけん…ぽいっ」

三回あいこの後、律先輩が鬼に決まった。

唯「本物の鬼になっちゃわないよう気をつけてよ、りっちゃん」

律「わかってるってー」

澪「じゃあ蹴るぞー」

助走をつけて澪先輩が缶を蹴り損なった。
澪「いったあー」

律「ぷっ……澪見っけ缶ふーんだ」

澪「」

律「どんまい」

澪「……うるさい」



5 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 16:52:29.03 ID:nMrKbtYAO


とりあえずトンネルの形をした遊具にわたしは隠れた。
ぬっと影が現れてもう見つかっちゃったかあと思ったけど、それは唯先輩だった。

梓「驚かせないでくださいよ」

唯「ごめんごめんー入ってもいい?」

梓「いいですよ」

わたしは腰を少しずらしスペースをつくった。
唯先輩がはいるとかなり狭かった。お互いの体がちょっとだけへこんだ。
トンネルの入り口から秋風が吹き抜けて、くたびれた音がした。

唯「さむいねー」

そう言って唯先輩はさらに体をよせてきたけど、悪い気はしなかった。



6 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 17:19:37.39 ID:nMrKbtYAO


梓「こんなとこじゃすぐ見つかっちゃいますよ」

唯「へーきへーき」

梓「その自信は」

唯「作戦があるんだよー。
  鬼がきたらあずにゃんは道路側から、わたしは自販機側から逃げて挟み撃ちだよっ」

梓「意味あるんですか、それ?」

唯「意味なんか考えちゃダメだよー」

梓「はあー」



7 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 17:34:15.09 ID:nMrKbtYAO


予想に反してなかなか律先輩はなかなか現れなかった。
聞こえてきた声でムギ先輩が捕まってしまったのがわかった。

唯「あずにゃん変なこと聞いていいかな?」

梓「ダメです」

唯「なんでさ!?」

梓「変なことですから」

唯「あずにゃんって毎日が幸せ?」

梓「……それはどういう…」

唯「うーん……毎日が楽しくて夢みたいってこと」

梓「夢みたいかどうかはわかんないですけど……楽しいですよ」

唯「そっか」

梓「軽音部に入る前の思い出なんてほとんどなかったんですけど、今はとっても充実してます」

そう言ってから軽音部に入ってからの日々を巻き戻そうとしたけど、
なぜか脳ミソがきゃべつみたいになった気がして、考えるのをやめてしまった。



8 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 17:45:32.29 ID:nMrKbtYAO


唯「ねえあずにゃん、今まで日々が夢だったらどうする?」

梓「え?」

唯「……ううん、なんでもない」

ちょっと沈黙。
律先輩はまだここを見つけられていないのだろうか。
簡単なとこほど見落としやすいってことかな。



9 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 17:47:23.00 ID:nMrKbtYAO

唯「そうだっ、あずにゃんはどこか行きたいところある?」

梓「えと…たとえば?」

唯「どこでもいいんだよっ……
  オーロラを見に行きたいとかさ、シロクマに会いに行きたいとかー」

梓「そうですね……あ、夜の海に行きたいです」

唯「夜の海かあー」

梓「唯先輩は行ったことあります?」

唯「ないよーどんな感じなのかな?」

梓「さあ…でも、イメージだと
  ちょっと寒くて、きれいな月があって、くらげがいたりしてって感じですかね」

唯「ふむふむ」



10 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 17:55:50.18 ID:nMrKbtYAO


そんなことをだらだらと話していたら、トンネルの向こう側でにゅっとのびる影が映った。
秋の夕暮れだと影法師が長くのびる。

梓「律先輩がきましたよ」

唯「よーし、じゃあせーのでいくよ」

唯「せーのっ」



11 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 18:08:06.26 ID:nMrKbtYAO


わたしはトンネルを飛び出した。
逆の方向から唯先輩が出てきたのも見えた。不意をつかれた律先輩は遅れをとったようだ。
唯先輩の作戦通りわたしは道路に出た。
普段走ることが少ないから、どうしても疲れて、注意力が散漫になる。

つまり、原因は運動不足なのかあ。

向こう側からやってくるヘッドライトの光に目を細めながら、
わたしが考えていたいたのはそんなことだった。

目の前がぐにゃりとした。
誰かが遠くで叫んでいた。

これでおわりなんていやだよ――そう思った。



12 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 18:41:03.55 ID:nMrKbtYAO

【Y】

おわりました。
お仕事が。

唯「ふあーつかれた」

わたしはひとつ欠伸をして、この部屋を後にしました。
柔らかそうなベッドの上にあずにゃんが寝ているのが見えました。

廊下に出ると和ちゃんがいました。
わたしの仕事が終わる頃を見計らってやってきたのでしょう。



13 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 18:45:33.70 ID:nMrKbtYAO


和「今日はどうだったの?」

唯「ばっちりだよっ」

和「嘘でしょ」

唯「えへへ」

和「脳波に乱れがあったわ」

唯「ちょっとミスしちゃった」

和「はあーしっかりしなさいよ。素人じゃないんだから」

唯「す、すいません」



14 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 18:50:38.13 ID:nMrKbtYAO


和「まあいいわ……わたしがなんとかしてみるから」

唯「面目ないです」

和「それで今日はどんな物語にしたの?」
唯「缶けりするお話だよ」

和「ふうん独特ね……じゃあご苦労様」

そう言ってわたしの肩を叩くと、和ちゃんは歩いてどこかへ行きました。



15 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 19:04:21.39 ID:nMrKbtYAO


わたしは仕事場から外に出ました。
遠慮なく吹き付けてくる風が冷たいです。
いくつかの路地を曲がって大通りに出たけれど、
人の姿を見ることはできませんでした。ほとんどの人は夢の中にいます。

あたりはもう真っ暗だったけど、街灯があるので怖くはないです。

家に帰る間中、わたしは自分のミスについて考えていました。
どうやら、わたしはそういうことをくよくよ気にするタイプみたいです。



16 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 19:08:01.47 ID:nMrKbtYAO


わたしの仕事はお話をつくることです。
けれど作家とか漫画家とかいうことではなくて、夢を見せるお仕事です。

いつからかはもう忘れてしまいましたが、人々は現実の問題に疲れはててしまいました。
それで夢の中で暮らすことのできる機械を作りました。
ただひとつ問題があって夢を見続けるには楽しいものでないとダメです。
だって、嫌な夢からは誰もが覚めたいと思うはずです。
そこでわたしたち(わたし以外にもこの仕事をしている人はいます)の出番です。
わたしは人の夢に入り込んでその夢を楽しくするのです。



19 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 21:26:22.64 ID:nMrKbtYAO


大好きな歌をハミングしながら歩けば、家にはすぐつきます。
玄関をあけて中に入りました。
がちゃりという音が聞こえたのか、憂が出迎えてくれました。

憂「おかえりー」

唯「ただいまー」

憂「ご飯できてるよ、食べる?」

唯「うん、今日はなにー」

憂「ハンバーグだよ」

唯「やったあ」

食卓には憂の手料理がきれいに並べられてありました。やわらかい匂いが鼻をくすぐります。
いただきますのあいさつをして、わたしはハンバーグに手をつけました。おいしい!



20 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 21:28:46.89 ID:nMrKbtYAO


憂「そういえばね」

唯「うん」

憂「船がきてるらしいよー」

唯「船?」

憂「うん、なんでも近くの港に寄ってるらしいんだよ」

唯「ふうん、めずらしいね」

憂「ねー」



21 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 21:37:08.84 ID:nMrKbtYAO


唯「ねえねえ」

憂「うん?」

唯「その船ってどこから来たの?」

憂「さあ?」

唯「いいなあ~」

憂「そうかな」

唯「うん、一度はのってみたいよー」

船が連れていってくれる海の向こうの国をわたしは想像しました。
無学なわたしにはその国がどうなっているのかわかりませんが、きっと素晴らしいところだと思いました。



22 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 21:49:46.96 ID:nMrKbtYAO

【A】

日曜日。
わたしは公園のベンチに座って唯先輩を待っていた。
遊びにいこうと誘ってきたのは唯先輩のほうなのに、集合時間に遅れるのはひどいと思った。
だけどまあ唯先輩だから仕方ないか、いやたまにはびしっと言ってやろう、
でもあの顔を見たら許しちゃうんだろうなあ、なんて考えているうちに唯先輩がやって来た。

唯「あずにゃんごめーん待った?」

梓「……少しだけ」

唯「えへへ、すいません」

梓「別におこってないですよ」

唯「よかったあ」



23 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 22:02:02.46 ID:nMrKbtYAO


唯先輩は心からほっとしたような顔した。
このゆるんだ顔に安心を覚えるようになったのはいつからだっけ。

梓「そういえば、この公園に来ること多いですよね」

唯「そうだっけ?」

梓「そう言われると自信はないですけど」
唯「ここはわたしとあずにゃんの運命の場所だねっ」

梓「あんまりおおげさにするのって好きじゃないです」

唯「じゃあ、因縁の場所でいいやー」

梓「一気にマイナスになりましたね」

唯「あずにゃんわがままー」

梓「うっさいです」



24 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 22:06:12.06 ID:nMrKbtYAO


梓「それでどこに行きます?」

唯「さあ」

梓「はあ」

唯「ああ」

梓「にゃあ」

唯「わあ」

梓「っていいですから、こういうの」

唯「ちぇっー」



25 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 22:34:46.43 ID:nMrKbtYAO


これといってお互いに行きたいところもなかったので、フラりフラりと町を散策することにした。

駅を通りすぎ長い坂道を越え並木道を抜け商店街に入った。
ここも昔は活気があったらしいが、デパートや大型店なんかが建ちはじめた今では閑古鳥が鳴いていた。

唯「なんか最近鬼がでてるらしいよー」

梓「鬼って桃太郎にやられたあの鬼ですか?」

唯「うん」

梓「それは怖いですねー」

唯「信じてないでしょ」

梓「…まあ」

唯「ほんとなんだよー」



26 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 22:48:13.29 ID:nMrKbtYAO


梓「鬼に会うとどうなるんですか?」

唯「なんかね、呪われるらしい」

梓「うわー」

唯「なにさっ?」

梓「いえ、だっておかしいですよ。鬼の呪いなんて」

唯「鬼といると夢からでられなくなるらしいよー」

梓「眉唾物ですね」

唯「どーでもいいけど眉につばつけるってすごく変だよね」

梓「ほんとにどうでもよかった」

唯「えへへ」



27 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 23:02:09.01 ID:nMrKbtYAO


商店街のほとんどの店が扉を閉める中、
営業を続けている店があったのでわたしたちはそこに行った。

その店はたい焼き屋だった。
店の奥のほうから甘い匂いがただよってきた。
『おいしいたい焼き』という昇り旗があがっている。

唯「わあ、おいしそう!」

匂いに引かれてたい焼き屋に向かっていった唯先輩に
「犬ですかっ」というツッコミをいれて、わたしもその後に続いた。



28 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 23:22:46.56 ID:nMrKbtYAO


店で二人分のたい焼きを買った。
クリームがないことに唯先輩は文句を言っていたが、
あんこ派のわたしに問題はなかった。しかも、つぶあんだったしね。

唯「はい、あずにゃんの」

受け取ったたい焼きはまだ暖かくて手のひらにしるしを残していった。
たい焼きの姿をふと見るとなんだか不恰好だった。
わたしの記憶にあるたい焼きとはずいぶん違う。
まあ記憶なんてあいまいなものだけど。



29 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 23:33:14.49 ID:nMrKbtYAO


唯「うーん甘いっ、あまあまだ」

梓「さっきまでクリームがいいってあんなに言ってたじゃないですか……あ、おいしい」

唯「それとこれとは別だよっ」

梓「なんだかなあ」

閑静な商店街をわたしたちはただ歩いていた。
まるで世界に二人しかいないみたいだという比喩が浮かんだけど、
それは前からやってきた自転車をこぐおばさんによって台無しになった。

なんだか前にもこんなことがあったような気がした。デシャヴという感じ。

唯先輩は空を神妙な表情で眺めていた。
不意に寒気がして後ろを振り返ったけど、鬼がいるなんてことはなかった。



30 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 23:49:15.84 ID:nMrKbtYAO

【Y】
わたしの仕事は朝がはやいです。
とはいっても仕事は寝ながらなので昼と夜が逆になります。
だから朝は憂に頼らず自分でしたくをするのです。

仕事場につくと早速わたしはあずにゃんのところに向かいます。
あずにゃんの安らかな顔
(なんか死んじゃってるみたいですけど、そんなことはないですもちろん)
を見ると、今日も頑張ろうって気になります。

あずにゃんの眠るベッドにはいくつかの機械がつながっています。
和ちゃんが言うにはそれこそが夢を見せる機械なのだそうです。



31 名前:名無しNIPPER:2011/10/08(土) 23:58:00.18 ID:nMrKbtYAO


その後わたしは和ちゃんのいる部屋に行って、今から夢の中に入るということを報告します。
この部屋はどこもかしこも真っ白で気が滅入りそうになっちゃいます。

唯「おはよー」

和「おはよう唯」

唯「ねえねえ、この部屋、模様替えしたらどうかな?」

和「いいのよ、別に住んでるわけじゃないし」

唯「むぅー」

和「とっとと仕事に行きなさい」

唯「はーい」

和「あ、そうだ。仕事の後にちょっとここに寄ってくれないかしら?」

唯「いいけど、どうしたの?」

和「なんか上から連絡あるみたい」

唯「ふうん、じゃあバイバイー」

和「またね」



33 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 00:10:01.61 ID:iCuZgnGAO


そうしてやっとわたしはあずにゃんがいる部屋に戻り、仕事ができます。
別にそんなに仕事がしたいわけじゃないんだけどねー。

ベッドに横たわるあずにゃんに今日もよろしくと声をかけ、わたしはカプセルみたいな機械に入ります。
ここから夢の中に行くことができるのです。

時々、人から(といっても和ちゃんと憂の二人だけど)
夢をつくるのってどんな感じなのか尋ねられることがありますが、
残念ながらうまく答えることができませんでした。

それはたぶん自転車の乗り方みたいに、説明不可能なものなんじゃないかって思います。



34 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 00:18:03.80 ID:iCuZgnGAO


その真っ白なカプセルの中の真っ黒な暗闇のなかで、わたしは今日のお話について考えます。
最近はちょっとネタが減ってきて同じことを使い回しちゃうこともあるけど、できるだけそれは避けたいのです。
両手で極めて個人的なおまもりを持って目を閉じます。

ゆっくり世界がねじれてきて一回転した後、わたしはあずにゃんの夢の中に溶けています。




32 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/08(土) 23:59:08.99 ID:uen+MYaSO

何歳くらいの設定なんだ?





35 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東):2011/10/09(日) 00:21:44.27 ID:iCuZgnGAO

>>32
唯が高校3年生
仕事の方は大人になると頭が固くなって云々だから子どもじゃないとっていう言い訳でお願いします



36 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 00:39:35.92 ID:iCuZgnGAO


唯「和ちゃーん、仕事終わったよ!」

なんとなくまだ夢心地の頭でわたしは部屋の扉を開けました。
白い机の向こうに立っている和ちゃんは暗い顔していて、
よくないニュースが待っていることはわたしにもわかりました。

和「唯、落ち着いて聞いてほしいんだけど」

唯「なに?」

和「中野さんは死んでしまうかもしれないの」

唯「え」



37 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 00:51:31.16 ID:iCuZgnGAO


和「いいえ語弊があったわね。正確には中野さんは意識を失ってしまうのよ」

唯「……な、なんで…そんなのやだよっ」
和「辛いこと言うようだけど……恐らくあのときミスが」

唯「そんな……わたしのせいで?」

和「中野さんの意識は少しずつだけど死に向かっているわ。
  夢の中で起きたことと意識は密接につながっているから」

唯「……あ」

缶けりしたときあずにゃんは車に轢かれそうになったのをわたしは思い出しました。



38 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 01:05:12.08 ID:iCuZgnGAO


和「心当たりがあるようね」

唯「でもあれからあずにゃんの夢には何度か入ったよっ……」

和「これは説明が難しいんだけど……人間の意識っていうのは分裂的…」

唯「えと、もっとわかりやすくおねがいします」



39 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 01:11:34.17 ID:iCuZgnGAO


和「そうね…気分によって考えることって全然違うわよね?」

唯「うん」

和「だから頭の中にいろんな自分がいるって考えることもできるじゃない?」

唯「うん」

和「で、夢を見せる機械っていうのは夢を現実だと錯覚させるわけ……ここまでOK?」

唯「なんとか」

和「中野さんの場合、頭の中の1人が自分は死んじゃったと錯覚したの。
  それで死とか大きなパワーを持つ考えは影響力が強いから
  そのうちに頭の中みんなが死んでると錯覚しちゃうのよ」

和「だから唯が夢に入れたのはまだ被害が小さかったからってことになるわね」



41 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 02:00:45.67 ID:iCuZgnGAO


唯「じゃあ、どうすればあずにゃんは助けられるのっ?」

和「残念だけど……」

唯「そんな……。やだよっ!」

気づくとわたしは部屋を飛び出していました。
外はちょっと寒くて、暗くて街灯の明かりが灯っていて、
それらがいつも通りだということにわたしは腹が立ちました。

わたしは泣いていました。
泣いたのははじめてです。
今までにあずにゃん以外に対して仕事をしたこともあるのです。そして別れというのもあります。
だけどなんでだろうあずにゃんは少し違いました。
なんでだかはわからなかったのですが。

そして今もわからないままで、だけどすごくあずにゃん会いたいと思いました。



42 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 02:12:19.16 ID:iCuZgnGAO

【A】

波の音が聞こえた。
だから、わたしは海に来ているんだと思った。
時刻は夜。
上を向けば星と月が空を泳いでいるのがわかる。
ちなみに右を向けば唯先輩がいるのがわかる。
目の前に広がっているはずの海はひどくあいまいだった。

わたしはなんでここにいるんだろうという疑問が浮かんだ。
最近、日々の連続性が失われてきているような気がする。途切れ途切れの映画を見ているみたいに。

まあ、慣れてしまえばそんなに気になることでもないけどね。



43 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 02:18:09.69 ID:iCuZgnGAO


唯「あずにゃんどうしたの?」

梓「へ?」

唯「ぼうっとしてたから」

梓「ああ。幸せは途切れながらも続くってことを考えていたんですよ」

唯「そっか」

なんとなくわたしは星の数を数えてみた。18個まで数えたところで唯先輩が口を開いた。



44 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 02:27:37.80 ID:iCuZgnGAO


唯「あずにゃん、夜の海はどう?」

梓「暗くてよく見えないです」

唯「そっか、ごめんねー」

梓「なんで先輩が謝るんですか」

唯「それは……わたしがあずにゃんをここに連れてきたから…」

梓「別に唯先輩のせいじゃないですよ。それにわたしはこうしてるだけで楽しいですし」

唯「ほんとっ?」

梓「はい」

唯「よかったあー」

何を考えたか唯先輩はわたしに飛びついてきた。わたしの体がぎゅうと圧縮された。



45 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 02:36:06.96 ID:iCuZgnGAO


梓「唯先輩ってなんというかプレス機みたいです」

唯「ふうむ」

梓「いい意味でですけど」

唯「潰しちゃうぞー」

唯先輩が先ほどより強くわたしの体を締め付けた。小さいわたしがさらにちっちゃくなっちゃいそうだ。

そういえば、何個まで星を数えていたか忘れてしまったな。別にいいけど。



46 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 02:56:05.25 ID:iCuZgnGAO


唯「あ、くらげだ」

唯先輩か指差した方向にはたしかにくらげがいた。
くらげは暗い海の上を漂い、ほのかに光を放っていた。
くらげって発光するんだっけという疑問がちょっと頭をよぎったが、
ただの月明かりなのかもしれないなと思い直す。

梓「でもこの時期にくらげがでるなんて変ですよね」

唯「え、そうなの」

梓「いや詳しいわけじゃないので間違ってるかもしれませんが」



47 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 03:03:40.42 ID:iCuZgnGAO


唯「あちゃー。くらげさん出てきちゃダメだよー」

梓「別にいいじゃないですか」

唯「それじゃにせものみたいじゃん」

梓「なにがですか?」

唯「季節がだよー」

梓「たまに唯先輩は変なこと言いますね」
唯「そーかなあ」



48 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 03:27:08.88 ID:iCuZgnGAO


梓「ふああ」

わたしはあくびをした。

唯「あずにゃん眠いの?」

梓「少し…最近よく眠くなるんですよ」

梓「……ふああ」

わたしはもう一度あくびをした。

唯「ねえ、あずにゃん」

梓「ん…なんですか?」

唯「わたしさあずにゃんに会えてよかったよ」

梓「わっ、恥ずかしくなるんでそういうことは心の中で留めておいてくださいよ」

唯「えへへ……でもね、ほんとはわたしずるしちゃったんだけど、それでもそう思うんだよ」

唯先輩は一度わたしを見てから夜空に視線を移した。
わたしも夜空を見上げたが、何か特別なものがあるわけじゃなかった。
けれど、唯先輩は真剣な表情のまま。

ときどき唯先輩が遠くなってしまった気がする。例えばこんなときに。

わたしはこっそり三回目のあくびをした。




50 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/09(日) 06:43:57.90 ID:zhvmyCN+o

面白いよ、最近ここまで引き込まれたSSはなかった。
設定が完全には分かってないから気にならないけど敢えて今質問するなら
唯が仕事上で眠ってる梓と出会ったならなんであずにゃんと呼んでるかって事かな
まぁ夢の中で出会いのエピソードがあったと考えればそれで納得だけど





51 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 13:30:01.05 ID:iCuZgnGAO

>>50
その指摘でこれから先の場面でのアイデアが浮かびましたありがとう



訂正:>>48 わたしの夜空を

わたしも夜空を

たぶん他にもミスあると思いますけど、とりあえず気づいたとこで


じゃあぼちぼち書いていきます



52 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 13:53:59.43 ID:iCuZgnGAO

【Y】

どこをどう歩いたのかは覚えていないけど家までは一直線だから、
たぶんいつもの道を通ってわたしは家に帰ったんだと思います。

それまでの日々と同じようにわたしを出迎えてくれた憂が、
それまでの日々にはなかった顔をしたわたしを心配そうに見つめてきました。
泣きはらした顔を隠すことができず、わたしはよれよれの笑みを浮かべました。

憂「おねえちゃん大丈夫?……じゃなそうだね」

唯「あはは……」

憂「ほら、とりあえず上がりなよ。玄関は寒いし」

憂に促されるままわたしは暖かいリビングに入りました。



53 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 14:04:30.37 ID:iCuZgnGAO


憂「それで何かあったの?」

唯「……うん」

憂「あ、言いたくなかったらいいんだよ」
唯「ううん大丈夫」

憂「わかった」

唯「あのね、あずにゃんが死んじゃうかもしれないんだって」

憂もあずにゃんのことは知っています。わたしがよく話すからです。
自分でいうのもなんですが、わたしたちは仲のよい姉妹で普段からいろんなことを話しているのです。



54 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 14:25:32.76 ID:iCuZgnGAO


憂「どうしてなの?」

わたしは和ちゃんから聞いた説明をほとんどそのまま憂に話しました。

憂「……そっか」

部屋の隅の方から暖房機の唸るような音が聞こえてきました。
この暖かさはわたしの悲しみを融かしてしまう気がして、ちょっぴり嫌になります。
憂「おねえちゃんにとって梓ちゃんは特別だったんだよね?」

唯「そう、なのかな」

憂「そうだよ。梓ちゃんの夢の話をするときすごく楽しそうだったし」

唯「だけどあずにゃんの夢はわたしが壊しちゃったんだ」



55 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 14:40:20.50 ID:iCuZgnGAO


憂「……あのさ、梓ちゃんを起こしちゃったらどうかな」

唯「え?」

憂「やっぱダメだよね……あはは」

唯「いや、すごいよ! うんそうだ、起こせばいいんだよ」

憂「ほ、ほんとに?」

唯「だってあずにゃんが死んだのは夢の中でだもん」

わたしは憂の両手を握ります。

唯「憂、ありがとうっ」

そうしてから、勢いよく家を飛び出しました。



56 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 15:13:47.90 ID:iCuZgnGAO


外に出ると夜の凍てつくような寒さが襲ってきて、わたしは身を震わせました。
でもこれくらいのほうがちょうどいい。
信号機は真ん中の黄色だけが点滅していて、それを見たわたしは駆け出していきました。

ふと夢を見せられていたのはあずにゃんではなく、わたしのほうだったんじゃないかなって感じました。
もしかしたら今もまだ夢を見ていたりして。



57 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 15:19:31.43 ID:iCuZgnGAO


仕事場の扉を押して中に入ります。
鍵がかかっていないなんてずさんな管理ですが、今のわたしには好都合でした。

蛍光灯が廊下をほの暗く照らし出していました。
わたしは一目散にあずにゃんのいる部屋を目指します。今回は和ちゃんの許可もなしです。

階段を上がり、折れ曲がった廊下を進み、やっとのことでその部屋にたどり着きました。



58 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 15:32:52.36 ID:iCuZgnGAO


わたしは寝ているあずにゃんに近づきます。

そして、ブチン。

ベッドに繋がれたコードのうちの一本を抜きました。
バチン。
もう一本。
ブチン。
プチ。
グウーン。
プシュウ。
バチバチッ。
プツン。

ひとつひとつ機械があずにゃんから断たれていきます。
残るは最後のコード。
これを抜けばきっとあずにゃんは助かるはずです。



60 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 20:38:48.07 ID:iCuZgnGAO


わたしは手に力を込めました。

和「ダメよ唯っ」

ぷ つ ん

わたしがコードを抜いたのと和ちゃんの声が聞こえたのはほとんど同時でした。

和「そんなことしたら……」

あずにゃんはそのままの姿勢を保ち続けています。
ぶうぅんという機械音がしました。
わたしは弱々しくあずにゃんの頬に触れました。
どこかで何かが壊れていったそんな気がしたのはなぜでしょう。



61 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 20:45:04.16 ID:iCuZgnGAO


和「ゆい」

ぴ くん。

何ががわたしの手のひらの向こうで揺れました。

ぴくっ。

人形みたいに固まっていたあずにゃんの顔についた瞼が光を欲して開いていきます。
和「……うそ」

懐かしい初めての出会いに向かって、そっとわたしは呟きました。

唯「 おはよう 」



62 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 20:52:13.07 ID:iCuZgnGAO

【A】

あれれ、さっきまで海にいたんじゃなかったっけ。

公園の片隅でわたしは思った。
たぶん思い違いか何かなんだろうけど。

その後で違和感を感じた。
唯先輩がいない。



63 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 21:12:22.20 ID:iCuZgnGAO


不意にはじめて唯先輩に会ったときのことを思い出した。
今までそんなことなかったのに。
たぶんわたしの中(または外)で変化が起こっているのかも。

そういえばその時もこの公園だったな。
そう思ってわたしはくすりと笑った。



65 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 21:28:45.41 ID:iCuZgnGAO

――――――
――――――

あの頃のわたしは自分の中の空白を塗りつぶしてくれるものを探していた。
でも、今だって見つかったわけじゃないけどね。

錆びた黄色ベンチにわたしは座っていた。ぬるくなった炭酸を飲み干した時だった。
 「あーずにゃん」

後ろから声が聞こえた。
なぜか、それが自分を呼んだものだという確信めいたものを感じた。
今思えばこの時からわたしは、別の場所に迷い込んじゃったのかもしれない。
例えば、夢の中なんかに。



66 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 21:37:47.11 ID:iCuZgnGAO


わたしは振り向いた
そこには女の人――唯先輩が立っていて、少し不安そうな顔でこちらを見ていた。
その曖昧な表情がよくわからないけど柔らかくて、気づいたときにはわたしは笑っていた。
うまく笑えなくて、唯先輩に笑われたから、さらにわたしも笑った。

それが出会い、なんていうのは少しおおげさだから嫌だけど、でもとりあえずそういうことだ。


これはいつの話だっただろう。
もちろん軽音部に入部する前のはずだけど、でもなんか違う気もする。

間違い。
その言葉がやけにしっくりきてしまった。だけど……だけど何だろう?


――――――
――――――



67 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 21:43:21.27 ID:iCuZgnGAO


『みーつけ』

背後から声が聞こえた。
振り向こうとしたけど何故だかできなかった。

梓「おに?」

なんでそう思ったんだろ。

『あったりぃ』

梓「律先輩?」

『どーだろうな』

梓「でも、じゃんけんに負けたのは律先輩でしたよ」

『うふふ、そうだったかしら』

今度はムギ先輩だ。

『細かいことは気にしないほうがいいぞ』
澪先輩。

『あずにゃん、そろそろ終わりだね』



68 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 22:07:05.41 ID:iCuZgnGAO


梓「おわり?」

『そ、今まではどうだった?』

梓「今まで?」

いきなり頭の中で光がはじけて、記憶が溢れだした。
数々の光景が現れては消え、現れては消える。
これは走馬灯?



69 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 22:14:23.00 ID:iCuZgnGAO


軽音部のみんなで缶けりをしていた、演奏していた、合宿に行った、楽器を買った、キャッチボールをした、何もしなかった、トンちゃんにえさをあげた、ティータイムをした、、律先輩が冗談を言った、澪先輩がそれを叩いた、さわ子先生が話していた、純がドーナツをくれた、憂と買い物に行った、ムギ先輩が驚かせてきた、唯先輩と海に行ったたい焼きを食べたギターを弾いた公園のベンチに座ったスイカを割った動物園のペンギンを見た花を育てた二人で笑った。

あったようなでもなかったような、そんな記憶たち。
唯先輩の鬼の話を思い出した。

ここが ほんもの か にせもの かはわからないけど
確かにわたしはここにいた。



70 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 22:27:46.42 ID:iCuZgnGAO


『缶、踏ーんだ』

視界がぐにゃりと歪んだ。
たしか前にも同じことがあった。
何かが壊れる音がした。

これが終わりなんだろうか?
それともはじまり?
まあどっちにしたって似たようなものだ。

この結末はやだなとはちょっぴり思った。
遠くで誰かが「おはよう」と言った気がした。
こういうときはおやすみって言うべきですよ。
指摘したかったけどひどく眠くて――

ぷつん



71 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 22:53:03.61 ID:iCuZgnGAO

【Y】

わたしたちは港にいました。
あずにゃんを起こした後、逃げてきたのです。
わたしはルールを破ってしまったのです。もし捕まったらあずにゃんもどうなるかわかりません。

わたしはあずにゃんのほうを見ました。
まだ少し眠そうです。
ずっと夢の中でしか会うことのできなかったあずにゃんがここにいるのです。
これじゃ恋する乙女みたいですね。
まあ間違ってもないですが。



72 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 22:57:35.77 ID:iCuZgnGAO


梓「えと、唯先輩」

唯「おおっ、わかるの?」

梓「夢でさんざん会いましたから」

唯「てへへ、そうでしたね」

梓「ていうか唯先輩のつくった夢だったんですか?」

唯「そうだよー」



73 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 23:05:56.66 ID:iCuZgnGAO


梓「あの、夢に入るのってどんな感じなんですか?」

唯「いやあ、説明はしにくいんだ」

梓「そうなんですか」

唯「でもコツならあるよっ」

梓「コツ?」

唯「これだよっ」

わたしは、緑色をしたよくあるおまもりをポケットから取り出してあずにゃんに見せました。



74 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 23:10:51.64 ID:iCuZgnGAO


梓「おまもりですね」

唯「これを持ってると見たい夢が見れる、魔法のおまもりなのです」

梓「へえ」

唯「ほんとだよー」

梓「じゃあ機会があったら貸してください、試してみますから」

唯「おーけおーけ、ちゃんと覚えておくねっ」

梓「はい、お願いします」



75 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 23:17:15.47 ID:iCuZgnGAO


唯「さてとこれからどうしよっか」

梓「そうですね……あ」

ぐうぅとあずにゃんのお腹が鳴った。

唯「何か食べたいみたいだねー」

梓「ち、ちがいますっ……ちがくないですけど」

唯「よしよし、素直なのはいいことだよ」
梓「むう」



76 名前:名無しNIPPER:2011/10/09(日) 23:51:45.15 ID:iCuZgnGAO


適当にあたりをうろつき、たい焼き屋があったのでたい焼きを買いました。
もちろんわたしはクリームであずにゃんはあんこです。

海が見えところまで歩き、コンクリートの上に腰を下ろしました。
子供の落書きでしょうか、まわりには白いチョークで絵が描いてありました。



77 名前:名無しNIPPER:2011/10/10(月) 00:01:17.38 ID:RN41ivvAO


梓「たい焼きの魚ってけっこうしっかりした顔つきしてますよね」

唯「いまさら何を言ってるのさ」

梓「いえ、夢の中では変な顔してたので」
唯「それはわたしのせいなのかなー」

梓「さあ」

唯「だ、大事なのは形じゃないはず……たぶん」

梓「まあ、あっちはあっちで愛嬌がありましたけど……あ、味は同じですね」



78 名前:名無しNIPPER:2011/10/10(月) 00:06:12.95 ID:RN41ivvAO


さくりふしゃりぐにゃり。
たい焼きに歯をたてあふれたクリームが舌の上で広がり、それをわたしは飲み込みます。

唯「甘い」

梓「クリームは邪道ですよ」

唯「食べる?」

梓「……あんこがありますから」

唯「そっかあ……うん、おいしい」

梓「……やっぱほしいなーんて」

唯「にやにや」

梓「やっぱいいです」

唯「ほらっどうぞー」

梓「じゃあ……あっ」

唯「にやにや」

梓「怒りますよ?」

最後にはちゃんとあげました。
もちろん。



79 名前:名無しNIPPER:2011/10/10(月) 00:36:07.75 ID:RN41ivvAO


たい焼きを食べきってしまいしばらくぼうっとしていたら、
先ほどまで子供が使っていたと思われる白いチョークが落ちているのを見つけ、
わたしはそれを拾い上げました。そして、地面に向かって絵を描きはじめます。

梓「なに描いてるんですか?」

唯「なんだと思う?」

梓「えと、わたしですか?」

唯「あたりっ」

梓「うまいですね」

唯「そんなことないよ……てれてれ」

梓「ふふっ」



80 名前:名無しNIPPER:2011/10/10(月) 00:43:25.70 ID:RN41ivvAO


安心感というのはつまり油断です。
彼らの声が聞こえてわたしはそれに気がつきました。

「いたぞっ、あそこだ」

ついさっき仕事場から逃げ出したとき、実は数人の職員に見つかっていました。
ここまでくれば安全だと思っていたんですけどね。

梓「あわわ大変ですよ」

あずにゃんはちゃんと事態を理解しているみたいで、すごく助かります。

唯「あずにゃんこっち」

わたしはあずにゃんの手を握り、追手とは逆方向に駆け出しました。



81 名前:名無しNIPPER:2011/10/10(月) 00:55:35.82 ID:RN41ivvAO


「くそ、あっちに逃げたぞ」

和「やめなさい!」

「……」

和(ここまで追いかけてくるのどれだけ大変だったか)

和「はあはあ……もういいわ」

「しかし……」

和「いい、中野梓は死んだのよ」

「え?」

和「わかるでしょこの意味」

「は、はい」

和「じゃあいいわ」

和「……唯、どこ行っちゃったのよ。もう逃げなくていいのに」



82 名前:名無しNIPPER:2011/10/10(月) 01:07:23.66 ID:RN41ivvAO


わたしは海の上にいました。
海の上といっても海に浮かぶ船の上です。
ここに逃げ隠れたらいつの間にか出港してしまったのです。
あずにゃんは船酔いしたので吐いてくると言ったきり戻ってきていません。
少し嫌な予感がしました。

あずにゃんを探しに甲板にでます。
なんだか人だかりができていました。
わたしもそこに混ざっていき、尋ねてみました。

唯「何があったんですか?」

「女の子が足をすべらせて海に落ちたらしいんだよ」

唯「そ、それどんなこでした?」

「さあ、なんでちっちゃくてツインテールの……」

唯「うそ……うそだっ」



84 名前:名無しNIPPER:2011/10/10(月) 01:16:41.47 ID:RN41ivvAO


群衆をかき分けてわたしは一番前に出ました。
柵は低く、たしかに手を滑らしたら落ちてしまいそうです。
下を見ると黒々した海が広がっていました。まるで誰だって飲み込んでやるとでもいうように。

ここにあずにゃんが落ちた?
なんてチープな物語!
悲劇にもなれないくせにひどく悲しくて悲しくて……

つい、あずにゃんは夢の中で幸せだったのかなあと思ってしまいました。
いつの間にかわたしは物語をあずにゃんのためではなく、自分のために語っていたのではないでしょうか。



86 名前:名無しNIPPER:2011/10/10(月) 01:27:26.88 ID:RN41ivvAO


そう考えたら全身の力が抜けてわたしもぽろっと海の中に落ちていきました。

水が全身に侵入してきます。
でも不思議と冷たさは感じない。

この期に及んでなお、もがき、息をしようとバタバタしている自分がいました。
どうせならくらげに刺されて動けなくなってしまえばいいのに。
あ、今はくらげいないんだっけ。


そういえば、海岸に書いた落書きは結局完成できなかったよ―――



87 名前:名無しNIPPER:2011/10/10(月) 02:25:03.48 ID:RN41ivvAO

【A】

目を覚ますと一番に見えたのは白く光る蛍光灯だった。
固いベッドにわたしは寝転んでいる。

唯「あ、あずにゃんっ、起きたんだね!」
梓「ほえぇ…何なんですか?」

唯「何なんですかじゃないよ!あずにゃんもう目を覚まさないかと思ったんだよ」

梓「へ?どういう……」

よく見ると唯先輩の目の下に泣いたあとがあった。

唯「缶けりしてたらあずにゃん車に轢かれてそれで…」

車?轢かれる?缶けり?
いったい何のことだろう?
だけど、そんな記憶もたしかに存在していた。



90 名前:名無しNIPPER:2011/10/10(月) 22:13:46.00 ID:RN41ivvAO


唯「あずにゃんずっと寝てたんだよ?」

梓「あ…」

少しずつわかってきてしまった。
もちろん大部分はわからないまま。
だけど今どうしたらいいかそれはわかる。
梓「唯先輩、お願いがあるんです」

唯「何?わたしなんでもするよっ」

梓「えへへ、そですか」

唯「うん」

梓「たぶんおまもりを持っていると思うんです。緑色の」

唯「持っているよ。でも、なんであずにゃんが知ってるの?」

梓「唯先輩が教えてくれたんですよ」

唯「そうだっけ」

梓「……はい」



91 名前:名無しNIPPER:2011/10/10(月) 23:43:46.57 ID:RN41ivvAO


梓「それを少しの間かしてくれませんか?」

唯「いいよ、ちょっと待っててー」

唯先輩はそう言うと、後ろに置いてあるバックの中をかき回しはじめた。

梓「もとに戻ると思います?」

唯「え?」

梓「唯先輩、わたしたちって遠回りしすぎですよね」

わたしの右手に唯先輩はおまもりを持たせた。

唯「どうだろうねー」

梓「もう少しだけ待っててください……今度はちゃんとしたところで会えますから」
梓「意味わかんないと思いますけど」

唯「うん、よくわかんないけど……大丈夫だよ。わたしはいつでもあずにゃんを信じてるから」

目を閉じた。
深い暗闇が襲ってきた。
結局、わたしたちはどこにたどり着いたんだろう。
でもまあこれで最後だ。
そして、わたしは夢の中に戻っていく―――



92 名前:名無しNIPPER:2011/10/10(月) 23:52:56.68 ID:RN41ivvAO

【解説】

わたしは公園にいる。
はじめて唯先輩と会ったときに座っていた錆びた黄色のベンチに座っている。
立ち上がって周囲を見まわす。
トンネルの形をした遊具を見つけてそこに近づいていく。
中をのぞきこむと唯先輩がいる。

梓「入っていいですが?」

唯「いいよ」

わたしは中に入る。
体が触れあう。



93 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 02:10:46.93 ID:E57fpwnAO

梓「唯先輩が鬼だったんですね」

唯「あったり」

梓「やっぱり」

唯「なんでわかったのー?」

梓「だって唯先輩、海に落ちて死んだじゃないですか」

唯「わたしは生きてるよ?」

梓「それがおかしいんです」

唯「ていうかさ、なんであずにゃんはわたしが海に落ちたことを知ってるの?」

梓「実はあのとき落ちたのわたしじゃなかったんですよ」

唯「は?」

梓「わたしに似ているだけの別人です」

唯「うそっそんな展開あり!?」

梓「さあ」

唯「えー」



94 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 02:15:56.88 ID:E57fpwnAO


梓「じゃあ教えてもらいますよ。なんでこんなことになったのか」

唯「それは…」

梓「それは?」

唯「わからないです」

梓「どっ……て、三文芝居じゃないんですから」

唯「いやあー、まあ今から二人でそれを考えていくことにしようよ」

梓「は、はあ…わかりました」



95 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 02:21:04.15 ID:E57fpwnAO


唯「それではまず、わたしは死んだはずなのに生きているのはなぜでしょうか?」

梓「ゾンビだからじゃないですか」

唯「あずにゃんはロマンチストだねー」

梓「ゾンビのどこロマンチックなんですか…」

唯「えへへ、答えはわたしがお話をつくっていたからでしたー」

梓「お話?」

唯「そうだよ。わたしはあずにゃんの夢をつくるお仕事をしてたんだよ」



96 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 02:25:48.93 ID:E57fpwnAO


梓「それってどうやって……」

唯「わたしが眠ってあずにゃんの中に入ったんだよ」

梓「じゃ、じゃあわたしが今まで現実だと思ってたものは唯先輩の見てた夢ってことですか?」

唯「そうかも」

梓「うわ、うわっ」

唯「だいじょうぶ……じゃないよね」

梓「いやもうわけわかんないです」

唯「ごめんね」



97 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 02:30:49.38 ID:E57fpwnAO


梓「ホントのわたしはどこにいるんですか」

唯「ここに」

梓「でも、でもそれは唯先輩の夢で……」
唯「ストップ。でもねそれだとおかしくなっちゃうんだよ」

梓「へ?」

唯「あずにゃんは船のときのこと覚えてるよね?」

梓「はい」

唯「あれはどこだったでしょう?」

梓「そりゃあ船の上ですよ」



98 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 02:39:33.19 ID:E57fpwnAO


唯「そうじゃなくて、ほらっあずにゃんはあのときすでに起きてたじゃん」

梓「あ……え?それすらも唯先輩の夢じゃ」

唯「ううん。わたしもそのとき起きてたよ」

梓「じゃあ、あのときのわたしがホントのわたし?」

唯「でも、それじゃわたしの生きてることに説明がつかないんだ」

梓「むう」



99 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 02:49:17.39 ID:E57fpwnAO


唯「ねえ、あずにゃんにとってはどの自分が現実だった?」

梓「それは唯先輩つくったとかいう世界のほうです」

唯「わたしにとってはそこは夢の中だったんだよ。逆にわたしが現実だと思ってる世界はどう感じたかな?」

梓「まるで夢を見てるような……あ、夢……」

唯「もしかして、わたしの現実はあずにゃんの夢だったとか?」

梓「そんな……馬鹿げてる…」

唯「えへへ、わたしもそう思うよ。でもさずっと馬鹿げてたんだよ。夢をつくる機械も、船で逃げるとかも」

梓「鬼の話も、公園の缶けりも…」



100 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 02:53:41.13 ID:E57fpwnAO


梓「どこでおかしくなったんでしょう?」
唯「最初から、とか?」

梓「わたしたちはずっとお互いの夢の中で生きてきたってことですか?」

唯「やっぱり馬鹿げてるや……あはは…」
沈黙が訪れる。
風が吹いてきてわたしたちの髪を揺らした。



101 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 02:58:46.03 ID:E57fpwnAO


梓「いったい、わたしたちは現実に戻れるでしょうか?」

唯「またはお互いの夢の中?」

梓「まあ今となってはどっちも同じようなものですけど」



102 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 03:03:02.83 ID:E57fpwnAO


唯「あ……そうだ!」

梓「なんですか」

唯「ヒントをあげよう」

梓「ヒント?」

唯「わたしは一度はあずにゃんのほうから抱きしめてもらいたいと思ってるんだー」
梓「へ?」

唯「だって、これからあずにゃんが会う唯先輩はわたしじゃないかもしれないじゃん。だから、ヒントだよ」

梓「むだに切なくなること言いますね」



103 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 03:08:47.91 ID:E57fpwnAO


すると唯先輩は微笑んでから言う。

唯「あずにゃんみーっけ」

梓「もう、ずるはなしですよ」

唯「わかってる」

唯梓「せーの」

わたしはトンネルを飛び出した。
逆の方向から唯先輩が出てきたのが見えた。わたしたちはほとんど並ぶようにして走っていく。

「缶、ふーん………」

唯先輩が缶を踏む瞬間、わたしは思いきり缶を蹴りあげた。



104 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 03:14:20.42 ID:E57fpwnAO

【エピローグ】

わたしは歩道に立っている。
目の前に広がるのは見慣れた景色だけど、どこか違った。
わたしは、その違和感の正体を5秒ほど考え、見つけた。
すぐ正面にある空き地に立つ看板、工事予定地の文字。
ここは公園だったはずの場所だ。

「あずにゃーん」

右手側から声がして、そちらに視線を向けた。唯先輩が走ってくる。



105 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 03:18:32.57 ID:E57fpwnAO


唯「どうしたの今日部活に来ないからみんな心配してたよー」

梓「いや、あの……すいません」

唯「もういいんだけどさ」

梓「あの、あそこ」

唯「ああ、なんかねデパートみたいなのができるらしいよー。
  商店街に人がいなくなるって隣のおばあちゃんが嘆いてた」

梓「あ、そうなんですか」



106 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 03:22:37.53 ID:E57fpwnAO


わたしはそのもと公園を眺めた。
運命の場所なんだっけ?それとも因縁?
昔、唯先輩がいたところ。

梓「あの、海に行きませんか?」

唯「今から行ったらきっと夜だよ?」

梓「夜の海が見たかったんですよ」

唯「いいよ、いこっか」

そう言って唯先輩は歩きだした。
コーラの缶が落ちていたので、わたしはそれを拾ってゴミ箱に捨てた。



107 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 03:29:50.37 ID:E57fpwnAO


星に照らされて海は青白く輝いていた。
わたしと唯先輩は固いコンクリートの地面に座っていた。

梓「くらげはいませんね」

唯「この季節にくらげはいないよー。ていうかそれ教えてくれたのあずにゃんだよ」
梓「そうでしたっけ……あ、これありがとうございます」

緑色のおまもりをポケットからわたしは取り出した。

唯「あれ?あずにゃんにかしたっけ?」

梓「はい」



108 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 03:37:55.80 ID:E57fpwnAO


わたしは立ち上がった。
唯先輩の後ろにまわる。

唯「どうしたのー………あっ///」

わたしは唯先輩を抱きしめた。
暖かくて柔らかくてふわふわしている。
なのに、不思議と揺るぎなくてずっと昔からここにあった気がした。



109 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 03:44:24.66 ID:E57fpwnAO


梓「わたし、のろわれたんです」

唯「なにそれ?」

梓「どこにいたって、そこには唯先輩がいるんですよ」

唯「それはのろいなのかな?」

梓「魔法かもしれません」

言ってからどっちだって同じだってことに気づいた。
重要なのはその内容だから。

ふと下を見た。
手を繋いだ二人の少女の絵が白いチョークで描かれていた。

それはわたしたちにそっくりで、わたしはこっそり笑った。



110 名前:名無しNIPPER:2011/10/11(火) 03:47:13.91 ID:E57fpwnAO

終わり。
こんなよくわからないものを最後まで読んでくれた人はホントにありがとう
きっといいことあると思うよ!




111 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県):2011/10/11(火) 05:22:58.97 ID:TBDnUPnio

よく分からなかったけど、面白かったぜ!
乙!!



112 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/11(火) 06:32:21.87 ID:tA0gBWqRo

考えるほど不思議な感じになるなあ。

あとできればオリジナルのほうがよかったかも。



113 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/10/11(火) 10:17:25.71 ID:vyZeAMmBo

おつ。おもしろかったけど若干もやもやする。



116 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/12(水) 18:14:29.80 ID:jRBI3stjo

おつおつ
正直言えば分らんところもあるがおもしろい






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梓「昔、唯先輩がいたところ」
[ 2011/10/18 20:25 ] 非日常系 | | CM(1)

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タイトル:
NO:4106 [ 2011/10/18 22:52 ] [ 編集 ]

寝る前にいいもん見れたよ乙

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