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紬「はみんぐばーど」#中編 【非日常系】


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紬「はみんぐばーど」#前編
紬「はみんぐばーど」#中編
紬「はみんぐばーど」#後編




75 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:32:32.92 ID:PNdIIEYCo

―――
――


 琴吹邸 大廊下
 
律「……」

 人目を気にし、私はドアを一つ一つ開けて行く…

律「……ん~…ここも違うか…一体ムギのヤツどこにいるんだ?」

 私の家の何倍もある大きい廊下にはいくつものドア。

 そのドアの中の部屋の一つ一つが、まるでホテルの一室かのように整っていて、
 
 嫌でもここがお金持ちの屋敷なのだと言う事を認識させる。

 ムギのやつ…いつもこんな部屋で生活してるのかよ…



77 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:33:03.28 ID:PNdIIEYCo

唯「わぁ…おっきな絵…これ、いくらぐらいなんだろうね?」

 後の唯がもの珍しそうに壁に掛けてある絵を見ている。


律「さぁ、でも、私らじゃ一生かかっても買えないぐらいの値段はするだろうな」

唯「それって…いくらぐらい…?」

律「ん~~……1億とか?」

唯「い…いちおくっ!?」

律「よくテレビとかじゃそれぐらい言うだろ?」

唯「それって…私のお小遣い何か月分なんだろう…??」

 ひいふう…と指折り、唯は真剣な顔で金額を計算していた…。

 この状況下でも相変わらずのマイペース、恐れ入るっつーか、唯らしいと言うか……



78 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:33:47.16 ID:PNdIIEYCo

澪「おい律」

 その時、私の後ろに引っ付いてる澪が怪訝そうな声で尋ねた。

律「んあ? どーした澪?」

澪「どうした? …じゃないっ!」


 ―――ごちんっ!


 いきなりだった、澪お得意のゲンコツが私の頭を直撃する…。

 頭の中を星が回り、目の前がクラクラする…………。

律「痛たた……もー、何怒ってんだよ~?」

澪「お前…自分が何してるのか分かってるのか??」

律「何って、家宅侵入…」

澪「さらりと恐ろしい事を言うな!!」


 ―――ごちーん!!


 怒鳴り声と同時に間髪入れず炸裂する二度目のゲンコツ、
 
 今度はさっきのよりも威力が上回っていた………。

 …こいつは…なんでこんなに怒っているんだ……?



79 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:34:40.42 ID:PNdIIEYCo

律「……ぉぉぉおう…………」

唯「や、やめようよ澪ちゃん…」

澪「でも、唯……」

唯「りっちゃんだってムギちゃんの為にやってるんだよ、だから、分かってあげて?」

澪「…………唯……」

 唯が澪をなだめる。

 それで怒りの矛を引っ込めた澪は、不満そうにしながらもそれっきり何かを言う事は無かった。


梓「ですけど正直、私は反対です……」

唯「あずにゃん…」

律「梓、お前まで……」

梓「ムギ先輩の家の事はムギ先輩にしか解決できないと思いますし…
  やっぱり、赤の他人の私達が勝手に介入するのは…その…」

 弱い口調ながらも正論をぶつける梓。

 確かに、梓の言ってる事は正しいのかもしれない…でも、私はどうも梓のその意見には賛同できなかった。



80 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:35:38.59 ID:PNdIIEYCo

律「梓、それ違う」

梓「……?」

律「私達は赤の他人なんかじゃない、私達は、ムギの親友だ」

梓「……………」

律「その親友が言ったんだ…『あんなパーティーは嫌だ』って…」

律「だから私は、ムギを助ける為にここにいるんだよ」

律「家族の為に、その家族に言いたい事も言えず…
  その家族の為に、心を折って従っているムギを助ける為にさ……」

梓「………………」

 しばしの沈黙が続く。

 そして、ふぅとため息をつき、やや納得した口調で梓は口を開いた。

梓「…ふぅ、分かりました、律先輩がそこまで言うんだったら私もう何も言いません……。
  それに私だって、ムギ先輩の事情聞いたら、きっと何とかしたいって思うだろうし……
  私がムギ先輩だったら、そんなの嫌だっただろうし…」



81 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:36:23.24 ID:PNdIIEYCo

律「…ああ、梓、ありがとな…」

 言いながら、軽く梓の頭を撫でてやった。

 くすぐったそうに照れ隠しをする後輩を見て、私はみんなに向き合う…


律「でも、いくらムギの為とは言っても、
  私が言い出した事だし、それにみんなを巻き込んで悪かったと思ってる」

律「何かあったら私が責任取るからさ……みんな、私を手伝ってくれないか?」

 そう言って私は、両手を合わせて改めてお願いをしてみる。



82 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:38:12.40 ID:PNdIIEYCo

澪「ったく…困った部長だよ、ほんと」

梓「でも、今日はいつもよりかっこいいと思いますよ…?」

唯「うんうん、りっちゃん、なんか今日はすごくかっこいいよ♪」

澪「言った事は守れよ? みんな、律を信じてるんだからさ」

律「おうよ、あたしの土下座の美しさは世界一ーっ! なんてなっ」

 ちゃらけた表情で私はみんなに向き合う。

 そして心の奥で、声には出さず、何度も感謝した…


律(―――みんな、ありがとうな。)



83 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:38:58.68 ID:PNdIIEYCo

―――
――


唯「でもでも、まさかこんなにあっさり入れるとは思わなかったなぁ」

律「ああ、私もまさか、こうもすんなりさわちゃんのメイド服着て入れるとは思ってなかった」

唯「表にいたガードマンの人、私達をお手伝いのメイドさんだと思ってすんなり通してくれたもんねー」

澪「相当忙しい感じあったもんな…」

梓「だからって…こんな泥棒みたいな事……もう二度とやりたくないですけどね」

澪「言えてる…」

律「ま、さわちゃん様々って所だよな」


 唯の言う通り、私達の今の格好は、さわちゃんが用意した衣装姿だった。

 招待客でもない私達がここに入るには、
 
 急きょ採用されたメイドとして入り込む事ぐらいしか考えが付かなかったのだけれど…
 
 その目論見は当たっていたようだった…

 入口にいたガードマンに通され、屋敷に入る事には成功できたけど…
 
 肝心のムギがどこにいるのかが分からない…

 完全に道に迷ったかな…まさか、人ん家で迷子になるなんて、思っても見なかったなぁ…



84 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:39:31.21 ID:PNdIIEYCo

 そして…

声「あなた達、そんな所で何してるの??」

一同(びくっ)


 背後からの声に振り返ると、そこには私達と似たようなメイド服を着た女の人が一人。

 見たところ、ここのメイドさんのようだった。

澪「あ…あのその、私達は……」

梓「べ…別に怪しい者じゃ…」

 焦った澪と梓が手をバタバタ振り、しどろもどろに答えている。

メイド「見ない顔だけど…もしかして、新人さん?」

唯「あ…あのその、私達はムギちゃ…んぐっ!?」

 余計な事を言いそうになった唯の口を慌てて塞ぎつつ、困惑顔の澪と梓に目で合図する。

律(私に任せろ…)

唯澪梓(………)コクリッ

 私を信じてくれたのか、澪も梓も唯も、黙って頷いてくれていた…



85 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:40:03.26 ID:PNdIIEYCo

律「いやーすみません、そーなんですよぉ、
  私達今日からここで雇われたメイドなんですけどぉ~、道に迷ってしまいましてぇ~」

メイド「あら、そうだったの?」

律「はい、すみませぇ~ん」

 いかにもなドジっ子声で私はメイドさんに答える。

 …これで誤魔化せればいいけど……。


メイド「ん~、ここ広いからねぇ、まぁいいわ、それじゃこっちへお願いね?」

律「ラッキー、じゃあみんな、早くいこっ♪」

唯「う…うん! そうだね~」

澪「すみません、よろしくおねがいしますっ」

梓「わ、わざわざありがとうございます~♪」

メイド「いえいえ、今日は忙しいからしっかりお願いね?」

律「はいっ♪」


 ふぅぅ…なんとか誤魔化せた…

 …怪しまれたりしないか不安だったけど、どうにか大丈夫そうだった……

 とにかく、これで目的地まで行けそうだな…



86 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:40:59.08 ID:PNdIIEYCo

 琴吹邸 大ホール


 メイドさんに案内された私達はパーティー会場であるメインホールに通された。

律「うわ…でっか!」

唯「広いねぇ…もしかしたら、学校の講堂よりも広いんじゃないかな?」

梓「すごい…なんていうか……おとぎ話の世界に来たみたい…」

澪「これが…ムギの家…お嬢様としてのムギが住んでる世界なのか…」

 澪も梓も唯も、その凄さに圧倒されていた。

 かくいう私もこういう光景は、テレビぐらいでしか見た事がないからな…

 今日みたいな感じじゃなかったら、多分子供みたいに騒いでは澪のゲンコツでも喰らってた事だろう。



87 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:41:32.06 ID:PNdIIEYCo

 ホールの至る所でキラキラと煌めく大小様々な飾り。
 
 おそらく特注なのだろう、見た事もないような大きなケーキに、
 
 これまたテレビでしか見た事の無いような大きな七面鳥…。

 そして、それを囲むように談笑している綺麗なドレスの女の人や、
 
 高級そうなタキシードにを包んだ男の人…。

 それを見て、ここが私達の住む世界とは違う世界だってことを嫌でも実感させる。


 ―――間違いなくムギはここにいる、このホールのどこかで、寂しそうにしているに違いない。

 会場をぐるりと見回すが、ここじゃ人が多すぎてムギがどこにいるのかが分からないな……

 どうしたものかと思い考えていた時、メイドさんが私達に指示を飛ばす。

メイド「じゃああなた、早速だけど、向こうのお客様にこのワインをお届けして貰って良いかしら?」

澪「えっ? あ…はいっ!」

 メイドさんがワインの置かれたトレイを澪に手渡す。
 
 トレイの上には綺麗なグラスに赤々としたワイン、
 
 ラベルだけを見ても、そのワインが非常に高価なのがよく分かる。

澪「………………っ」



89 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:54:29.90 ID:PNdIIEYCo

 メイドさんからトレイを受け取った澪が、ぎこちない動作で男の人の元へ向かっていく。

 カタカタとトレイを震わせる姿にこっちもヒヤヒヤする…

 頼むから、盛大にひっくり返すなんてお約束、やめてくれよ………?


澪「ぁの…どう…ぞっ」

男「おっ、ああ、わざわざありがとう」

澪「…し、失礼…します……っ」

男「あの、大丈夫?」

澪「は…はぃ! 失礼ひますっ!」


律「―――あーらら…」

 ………あいつ、完全にここの空気に飲まれてるな…。

 ま、無理もないか…向こうはムギのお父さんの客、
 
 って事は…、相応のお金持ちなわけだからなぁ…

 しかもあいつ、あまり男慣れしてないからなー…

 一人じゃ何やらかすか分かったもんじゃないな…。



90 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:55:50.04 ID:PNdIIEYCo

メイド「そこのヘアピンの子とおさげの子はお料理を運んでちょうだい、
    カチューシャのあなたはあの長髪の子と一緒にお酒やお水をお客様にお配りしてくれる?」

唯「は…はいっ!」

梓「律先輩、どうするんですか?」

律「とりあえず私は澪と一緒にいるよ、何かあったらケータイで連絡するから、
  そっちもムギを見つけたら連絡ちょうだい!」

唯「うん、分かったよ!」

梓「律先輩、気を付けてくださいね?」

律「ああ、そっちこそドジ踏むなよ?」

梓「律先輩こそっ」

律「あいよー、じゃ、またあとでな!」


 そして私は澪と、梓は唯とペアを組み、散開する。

 仕事をしてるフリをしながらムギを探せば、必ず会えるだろう…。

 ムギ、待ってろよ…! 必ず見つけて、お前の事捕まえてやっからな―――!



91 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:57:23.24 ID:PNdIIEYCo

―――
――


 父と母は外に出て行き、斎藤はあくせくとメイドらに指示を飛ばす。

 そして私も、顔見知りの来賓と話をしている時だった。


男「紬お嬢様」

 ふと、男の人に声をかけられた。

紬「…はい?」

 声に振り向き、その男の人と対峙する。

 背はやや高めで、ブランド物の白いスーツを得意気に着こなし、
 
 金髪に染め上げた髪は丁寧にセットされている。

 その身体から微かに香る香水もブランド物だろう、
 
 靴もスーツもネクタイも、全てが一級品で、
 
 そこらの来賓とは一層違った雰囲気を存分にアピールしていた…

 お酒が回って火照った顔をしていても、その気品は崩れることなく、
 
 むしろ大人な雰囲気を演出している様にすら感じられる。

 …確かに、ぱっと見ただけなら、その人は十分かっこいい部類に入るのだろう。

 街を歩いて声をかければ、大抵の女の子は一目惚れしてしまう、そんな感じがする。



92 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:58:21.77 ID:PNdIIEYCo

 でも、私はそうじゃない……むしろ、その人を一目見て嫌悪感すら抱いていた。

 なんというか…伝わって来るんだ。

 その人の全身から“欲しい物は何でも手に入れてきた”って言う嫌な空気が…。

 とても欲深い…不気味な雰囲気が……。
 

 ………でも、この人どこかで…あぁ…!


 ……思い出した、確かこの人、数年前に立ち上げた会社でとても大きな成功を収めた若社長だ…

 いつだったか、テレビでこの人を取り上げた特集が組まれていた番組があったけど、
 
 この人もここに来ていたのか…


社長「本日は、お誕生日おめでとうございます」

紬「え…ええ、ありがとうございますわ、社長さん」


 笑顔を崩さぬよう、私は社長の世辞に答える。

 向こうの笑顔も、一見すればとても清らかなものに見えるのかも知れない…
 
 けど、その裏にある不気味な匂いが拭いきれない。

 …確かに、人は見た目では判断できない。
 
 でも、私には分かった…この人は、あまり良い人じゃない…


 …それは直感、こういう場で…腹の底で下らない事を企んでいる人たちから
 
 幾度となく声をかけられた私だからこそ思える、直感だった。



93 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 19:59:43.45 ID:PNdIIEYCo

社長「しかし、近くで見るとやはりと言うか、いや…とてもお美しい……」

紬「あ、ありがとうございます…」

社長「プレゼントもご用意させていただきましたよ、とはいっても安物ですが、車を一台ね…。
   アメリカの大手会社より取り寄せた新型です。 お気に召して頂ければ、僕も光栄ですよ」

紬「それは、わざわざ高価な物を…」


 …そんな物、私はいらない…。

 いくら高い車を持って来られても、同じ車なら、さわ子先生の車の方が何倍も安心できる…。

 どうして、こう……値段が高ければ良いって概念の人が多いんだ、こういう人は…!


 …それにさっきからこの人、私を見る眼が妙に嫌らしい。

 まるで、獲物に狙いを定めた鷹のようにじっと私を見ていて……気持ち悪い……。



社長「どうでしょう? こんなパーティー抜け出して、僕と一緒に…2人きりのバースデーでも…」

 小声で、私の耳元でそんな事を囁きながら…社長が私の肩に手を置く。



94 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:02:25.42 ID:PNdIIEYCo


 ――――――ぞわっ…


 何なんだ…この、すごく嫌な感じ………。

 まるで、猛獣の爪が肩に食い込む感じだ…


 ―――やっぱりこの人…すごく怖い……!


紬「…あ…あの…すみません…っ!」

 思わず社長の手を払いのけてしまった。

 やってしまったと思い、私はすぐに謝る…けど…

紬「…あ…………すみません…私、まだ、お客様にご挨拶が……その………」

 社長は私に払われた手を見る……

社長「……………これはこれは…失礼しました…」

 若干の沈黙の後、社長は低く、重い声で答える…。

 でも、その眼には謝罪の誠意なんて欠片も感じられない………。

 むしろ、怒りを我慢するような…恐怖感しか無かった……。



95 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:04:03.75 ID:PNdIIEYCo

社長「………チッ……でしたら、パーティーが終わった暁にでも…
   明日は日曜日、お嬢様も学校はお休みでしょう?」

紬「明日は…が…学校のお友達と予定が…」

社長「学校の友人とはいつでも会えますよ…明日ぐらい、良いでしょう…?」

社長「お嬢様の知らない甘美な大人の世界…僕が色々と案内して差し上げましょう……!」


 社長が目線を合わせ、射抜くように鋭い眼光で私を捕える…

 その威圧するような目線に震え、私は目を逸らす…。


 そして、社長の腕が私を掴みかけた…その時だった…。



96 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:04:51.14 ID:PNdIIEYCo


 ―――ガシャーーーン!!!

紬「ひっ…!」

 一際大きな音が私のすぐ傍で響き、顔を上げると、
 
 そこには真っ赤なワインまみれになった社長の姿が……

 …状況を察するに、メイドがワインの入ったトレイをひっくり返して、
 
 それが社長を直撃してしまったようだ。


社長「………………っっっっ!!!!!」

声「あ…あわわわわわわわわ………」

 メイドの怯えたような声と、怒りで顔を真っ赤にする社長。

 一触即発…いや、この手の男の人が怒り出したらどうなるか………
 
 そんな事、想像したくもなかった……。


男「…だぁぁぁ……テメェなんてことしてくれんだ!! このスーツ高かったんだぞ!!!!!!」

声「ご……ごめんなさい!! ごめんなさい!!!」

 必死で頭を下げて謝るメイドだけど…そんな事もお構いなく、社長はメイドを一方的に怒鳴り散らす。



97 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:05:40.18 ID:PNdIIEYCo

社長「オイテメェ!! 俺を誰だと思ってやがるんだ…? 弁償しろよこのガキがぁ!!!」

声「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさいっっっ!!!」

紬「あ…あの社長、他のお客様もいらっしゃいます…! ですから、ここはどうか穏便に…!」

 社長に向かい、メイドと一緒になって私は謝り…………え??


声「…………っっっ…ご…ごめんなさぃ…ごめんなさい……っっ!!」

紬「ゆい………ちゃん…?」


 謝るメイドを見る。

 そのメイドは、格好こそメイド服を着ていたけど…
 
 間違いなく、私の友達の唯ちゃんの姿だった……。


 ―――どうして…唯ちゃんがここに………どうして…どうして???



98 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:06:51.12 ID:PNdIIEYCo

―――――――――――

律「ん~~……ムギ、どこだぁ~??

 配膳と水配りの仕事を適当にこなしつつ、私と澪はムギを探す。

 漏れ聞いた話では、メイドも執事も本当に人手が足りてないらしく、
 
 今はほとんどのメイドが厨房で料理を運び、また来賓のルームサービスに追われているらしい。

 そして、今このホールにいるお手伝いさんは、私達を除けば数人の執事さんのみ。

 そう、誰にも邪魔をされずにムギを探すには、今が絶好のチャンスだったんだ―――。


律「なぁ澪、ムギ見つかったか?」

澪「いや……私も探してるけどなかなか…」

律「ん~~~…ここじゃないのかな?」

 ムギがこのホールにいないって可能性が頭を過った、その時だ…。

 
 ―――…ガシャーーン!!


声「ご…ごめんなさい!!」

律「ん…?」


 何処かで何かをひっくり返したような音が聞こえた。

 何事かと思ってその音の方を見ると、涙目の唯が男に怒鳴られているのが見えた。

 男は全身ワインまみれで、その白いスーツには赤い染み…ああ、間違いない。
 
 唯がワインを男にぶっ掛けてしまった事が十二分に伝わる状況だった。



99 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:08:00.05 ID:PNdIIEYCo

律「わ…やば………!」

澪「律っ! 唯が…!」

律「ああ分かってる…澪、行くぞ!」

 状況を察した私と澪は一目散に唯の元へ駆けつける。

 騒ぎを聞いて来たのか、唯の近くにいた梓もすぐに現場に駆けつけてくれた。


社長「オイ……聞いてんのかよガキィ!!」

 男が唯の胸倉を掴み上げ、真っ赤な顔で吠えている。

 …うわ…こいつ酔ってんな…
 
 確かに、せっかく決めてきたスーツを台無しにされた気持ちも分からなくもないけど…それでもだ。

 いくらなんでも…泣いてる女の子の胸倉を掴み上げて一方的に怒鳴り散らすなんて……どうかしてるぞ…!



100 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:08:41.10 ID:PNdIIEYCo

唯「ご……ごめんなさい!!!! ごめんなさい!!!!!」

紬「やめて下さい!! 社長!! その子を許して上げてください!!!」


 涙を流しながら、必死で許しを請う唯…

 そんな唯の涙なんてお構いなしに怒鳴り散らす男…

 その男の足元で、唯を許してくれと土下座で懇願するドレスの女の人の姿が見えた。


 ……いや違う、この人は…!


律「ムギ……!」

紬「…?…りっ…ちゃん…」

 やっと見つけた…! ムギを見つけられた…!

 綺麗なドレスを着飾り、私が見た事もない宝石を幾つも身に付けた親友は、
 
 その見た目だけはいつもとは違っていた…けど。

 友達の為に懇願するその姿は、間違いなく私達の知るムギそのものだった…。

紬「りっちゃん……あの…その……」

律「事情は後で話す、とにかく、今はここを何とかしないとな……!」



101 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:09:52.42 ID:PNdIIEYCo

社長「泣けば何とかなるとでも思ってんのか! アアァ!??」

唯「ごめんなさい……っっ!! ごめん…な…さい……っ…!!」

梓「律先輩…! 唯先輩が…唯先輩が…っっ!」

澪「律……怖いよ……あの人…怖い……!!」

律「ああ……! 分かってるさ…!」

 梓も澪も、完全に男の気迫にすくみ上がっていた…

 幸いっつーか、私はそれほど恐怖を感じていない。

 つーかあんな怒鳴り声、ザ・フーのパフォーマンスに比べりゃ全然大した事ないからな…


 …でも、それをモロに浴びてる唯はどうだ?
 
 自分のドジであんだけ怒鳴られて…それでムギが必死になって謝って……。

 ドジな癖に責任感だけは人一倍強いからな…ああああ…! …一体どうしたもんかな………!!



102 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:10:43.20 ID:PNdIIEYCo

律「あの…お客様!!」

 とにもかくにも、私は男の意識を唯から逸らそうと男に声をかける。

 声をかけられた男は、その眼をそのまま私に向けて…

社長「アア!?」

 と、凄む。 ………うわぁ……ブン殴りてえ……。


 顔だけ見りゃ整ってる感じするけど、これじゃ完全にそこらのチンピラじゃないか。

 こんな奴らを相手にいっつもパーティーやってたのか、ムギは…………。

 そりゃ嫌気も差すわ…。 お金持ちのパーティーも、私の想像とは全然違ってたみたいだ…。


社長「んだよテメェ…!」

 とにもかくにも、唯を解放した男は、今度は標的を私に定めたようだった。

 横目で唯を見ると、梓と澪に抱えられ、シクシクと泣いてるのが確認できた。

 ま、とりあえず目的は完了か…。



103 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:13:54.65 ID:PNdIIEYCo

律「…っ…すみません、私も謝りますから…その子を許してあげては貰エマセンカ…」

 平身低頭、とにかく平謝りで私は頭を下げる。 でも……。

社長「テメェなんかの土下座なんかいらねえんだよボケが」

 …………………はぁ…

 ………あーーー、なんで私はこんなヤツに頭下げてんだろ……。

 状況が状況なので仕方ないとは思うけど、私の性格上、やっぱりこれは苦手な事だ。


紬「…っっ…! 社長……! お願い…します!!」

社長「ハッ、テメェらガキがいくら頭下げようが、俺のスーツに着いたワインは取れたりしねェんだよ」

社長「謝っただけで済むんなら警察はいらねェんだよガキが…分かってんのか、アアァ??」

律「……っっ…ハイ、スミマセン…」

 男は尚も凄む。

 こういうヤツは毎回こうやって、立場の弱い人間をいたぶるのがとにかく好きなんだろう。

 そこに歳とか性別は関係ない、自分より弱い人間をいたぶり、
 
 自分より強い人間を蹴落として、こういう奴は更に幅を利かせて行きやがるのだ…。


 とことん性根の腐った…とんだクズだと…子供ながらに思ってしまう。



104 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:14:52.66 ID:PNdIIEYCo

社長「謝罪ってのは誠意って形で表すのが大人の常識、それ分かってんのか、コラ」

律「……誠意と言いますと………やっぱり、弁償…」


社長「っは…甘ェよ。 オイ、お嬢」

紬「…はい……」


社長「メイドの責任は雇い主の責任、そうだろ?」

紬「はい…」

社長「じゃあ、ここはその雇い主である紬嬢が責任を取る、これでどうだ…?」


 にやりと笑い、上から下まで舐め回す…まるで変態みたいな目でムギを見る男だ。


 …………てか、今コイツなんて言った?



105 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:17:20.18 ID:PNdIIEYCo

社長「紬嬢が1日俺の専属のメイドになる、それでこの件は無かったことにしてやるよ…!」

社長(これで上手くやりゃ…琴吹は俺のモンだ……!!)

 …………………くっ…

 ………こいつ……こいつっっっ!


紬「わ……分かり…ました………」


 …………この野郎…っっっ!!


紬「分かりました、私…何でもしますから……その子だけは……!!」

律「ムギ!!!! それ以上喋るなぁ!!!!」

 ……………っっ…もう、限界だった。

 この男は、人の弱みに付け込んで…私の友達に何をやろうとしてんだ…!!

 この場は堪えてやり過ごそうかと思ったけど…もう、そんな悠長な事言ってられっか!!!!

 やっぱりこの野郎…一発ブン殴ってやんねーと……!



106 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:18:18.53 ID:PNdIIEYCo

律「てんめぇ……!!」


 私は男のしがらみを強引に振りほどき、拳を男に向けて繰り出す!


 ―――その時だ。


声「あっちです! 早く来て!!!」

執事「お客様、如何なされましたか??」

メイド「早くお召し物の替えを! 執事の方は大至急お風呂の用意をお願いします!!」


 来賓の誰かが呼んでくれたのだろう、数人のメイドさんと執事さんが慌てて駆けつけてくれた。

 っかし、えらく時間がかかったな…


メイド「料理なんて後回し! とにかく何人かこっちに来て頂戴!
    あと、お客様へのご説明と旦那様への報告! よろしくお願いね!」

 メイド…長なのかな? テキパキと指示を出すメイドさんの指示に従い、
 
 数人の執事さんとメイドさんが動き回っている。



107 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:18:57.90 ID:PNdIIEYCo

メイド長「お客様……大変申し訳ございませんでした!!! ホラ!! あなた達も謝って!!!!」

一同「…はい…すみません……でした……っ!」

 メイド長さんに言われるがままに唯と澪と梓、それに私を含めた4人で男に頭を下げる。


社長「んな…オイ! まだ話は終わって!!」

執事「さあさあ、とにかく、お召し物をお預かりさせていただきます、お客様、どうぞこちらへ…」

社長「おいてめえ!! っく! 離せ!! 離しやがれ!!!!」

 そして、男は最後まで声を荒げたまま、数人の執事さんに連れられてホールの外に消えて行った…。



108 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:21:27.32 ID:PNdIIEYCo

―――
――


 騒動が落ち着き、遅れて斎藤が私の元へ駆けつけてくれた…


斎藤「お嬢様…ご無事でしたか?」

紬「斎藤……もうっ!! 遅かったじゃない!!」

斎藤「申し訳ございません…厨房でトラブルがあったようでして…」

紬「まったく………私…すごく…すごく、怖かったんだからぁ!!」


 怒り半分、嬉しさ半分で泣きじゃくり、私は斎藤の胸に抱きつく。

 そんな私の背中をさすりながら、斎藤は優しい声で謝ってくれた……。


斎藤「申し訳ございません…」

紬「でも……ぐずっ……ありがとぅ…ありがとう……!」



109 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:22:27.56 ID:PNdIIEYCo

斎藤「ええ……とにもかくにも、あの社長にはご退場頂きましょう」

紬「…でもっ…今回の不手際は…私の…」

斎藤「ご安心を…あの若社長がこの場に置いて働いた数々の無礼、
   それはここに居る何名ものお客様が見て下さいました」

斎藤「聞けば、既に何人かのお客様も迷惑を被ったそうで…
   立ち入りを禁ずる十分な理由は、既に整っておりますよ」

紬「……そう…なの?」

斎藤「ええ…。 まぁ、彼の力に頼り、強引に会社を拡大させたやり方は有名ですからな…
   これも、彼の社会勉強だと思いますよ…」

 ………そんな事が…。

 あの人は、私や、私の友人だけでなく…ここに居る…何人もの人に…あんな事を…。


斎藤「後始末は我々にお任せください、
   この件は旦那様に報告し、二度と今回のような事が無いように努めます」

紬「…ええ…っ…お願い…ね…」

 斎藤の言葉はとても心強く聞こえた。

 それは、不安に怯える私の心を落ち着かせるのに、十分すぎるぐらいだった……。


 でも、どうにも疑問が残る。

 一体…どうして、唯ちゃんやりっちゃん、澪ちゃんに梓ちゃんがここに…?



110 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:23:18.44 ID:PNdIIEYCo

―――
――


 騒動が一段落着いた後、私達はメイド長さんにこってりと絞られていた…。

メイド長「まったくあなた達は…なんとかなったから良いものの…
     自分たちが何をしたか、分かっているの!?」

唯「はぃ……すみま…せん……」

紬「あの…メイド長…その子達は…」

メイド長「紬お嬢様、申し訳ございません…この度の不手際、私の責任でございます……
     本当に…本当に…申し訳ありませんでした…!」


 ムギが口を挟むも、メイド長さんは変わらず、ムギの声を聞こうとはしてくれなかった…

 そして、別のメイドさんの口から非常にまずい事が告げられる。


メイド「って言うか…その子達、誰です??」

メイド長「誰って…あら、言われてみれば、あなた達見ない顔ね?」


唯律澪梓「…ぎくっ………」



111 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:24:26.54 ID:PNdIIEYCo

執事「……臨時で雇ったメイドだと、私はお聞きしましたが…?」

メイド長「確かに人手は足りてなかったけど…臨時のメイドを雇った覚えなんてないわよ…?」

執事「じゃあ………誰なんだ…キミ達は…??」

律「い…いや…その……あはははははっ!!」

 私は渇いた笑いでその場を誤魔化そうとする…が、さすがに今回は無理なようだ…。

 その時、数人の執事の間に緊張が走って…!


執事「………っっ!!! 総員、その少女達を囲め! 彼女達は侵入者だ!!」


 ――――バタバタバタバタ!!!


 刹那、どこからかSPらしき人が出てきて、私達はあっという間に囲まれた……
 
 まるで、警察に包囲された犯罪者のようだ……。

澪「…ひぃぃっ!」

唯「わわ…ど…どうしよう……!!」

梓「律先輩……どーするんですか???」  

律「んな事言われたって………」

 思わず両手を上げて私達は固まる……。

 あー、どうしよう………



112 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:25:37.73 ID:PNdIIEYCo

SP「お客様はお下がりください!!
   こちらホール、侵入者を発見! 大至急応援を要請します! ハイ!」

SP「キミ達、両手を後頭部に付けてうつ伏せになるんだ! 早くしろ!!」

律「…ちぃ…」

 SPの言われるがままに私達は従う……。

 …完っ全に犯罪者かテロリストじゃん…これ……


紬「止めて!! その子達は…!!」

SP「お下がりくださいお嬢様! ここは危険です!!」

紬「みんな!!!」

 ムギの静止の声も虚しく…私達は次々に拘束される。



113 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:26:04.78 ID:PNdIIEYCo

澪「わ…私達は…ム…琴吹さんの友達で…!」

唯「そうなんです! だから別に怪しい者じゃ…!」

SP「だったら、どうして忍び込んだりなんかしたんだ!」

梓「それは…! その……っ!」

律「と…とにかく、理由を聞いてくれーーー!!」

SP「ええい! いいから…大人しくするんだ!」


 っちぃ…ホント…どうしたもんかな…これ……!



114 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:27:23.41 ID:PNdIIEYCo

―――
――


 りっちゃん達を拘束するSPに向かい、私は必死で事情を説明しようとする。

 確かに、どうしてみんながあんな格好でここにいるのかは分からない…
 
 でも、みんなに限って何か悪い事を企んでるなんて事は無い…絶対に無いんだ…!

紬「やめて…やめて!! みんな!!!」

SP「危険です! お嬢様、お下がりください!!」


 私は尚も彼女達を解放して欲しいとSPに頼み込む…が、誰一人として聞く耳を持ってくれない…!

 どうにかしなければと思っていた時、ホールの異変に気付いた父と母が様子を見に来てくれた…。

紬父「…一体どうした事だ、これは??」

紬母「外で騒動があったからと聞いてみれば…これは一体…」

SP「旦那様、奥様…ハッ、たった今、侵入者と思われる少女達を確保した所でございます!」


紬父「なんと……彼女達が?」

紬母「見たところ…紬とそう変わらない年頃だと言うのに…何かの間違いではないの?」

SP「いえ、臨時で雇われたメイドの振りをして屋敷に侵入したと…そう聞いております」



115 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:28:34.64 ID:PNdIIEYCo

メイド「動かないで…! ボディチェックをさせてもらいます…」

律「わ…そこは……や…やめっ!!」

 メイドの一人がりっちゃんのポケットに手を突っ込む。

 ポケットから出したメイドのその手には…一枚の紙切れが握られていた…

メイド「旦那様、彼女達のポケットからこんな物が…!」

SP「これは…携帯電話に……何々『誘拐計画書』??…な…なんという…!」


紬父「キミ達は…一体……」

紬母「あなた………」


客「まぁ……聞きました? 誘拐犯ですって……こわいわぁ……」

客「なんと恥知らずな………」

客「薄汚い小娘らが………死ねば良いのに…」

客「どうせ、育ちの悪い下劣な庶民でしょう? 庶民は庶民らしく細々と生きていれば良いのですよ…」

客「でもまぁ…良かったじゃないですか、僕たちにも、紬お嬢様にも何事もなくて…ね」

客「ええ、違いありません…!」


 ―――はっはっはっはっは!!!



116 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:29:39.02 ID:PNdIIEYCo

紬「……………っっっ!」

 何を好き放題言ってるんだ…この人達は……!

 彼女達の事を何も知らないくせに…
 
 彼女達が…どれだけあなた達より素晴らしい子なのか…知りもしないくせに…………!!!


紬「…い……か…げんに………」


 ………もういい……。


 琴吹とか、来賓の事だとか…父や母の事なんて…もういい………。


 目の前で友達が……大事な人が酷い目に遭わされて…
 
 それを目の当たりにして…何もしないだなんて…

 そんな事をしてまで……この『琴吹』って名前が大事だとは…私には思えない………!




紬「―――――いいかげんになさいッ!」



117 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:30:57.60 ID:PNdIIEYCo

 それは…この18年で生まれて初めて上げる怒鳴り声だった……。
 
 息は上がり…酸欠で頭がふらつく…大声を出すのって…こんなにも疲れる事なのか。

 だけど、これぐらいで終わらせるつもりは毛頭ない。


SP「紬お嬢様……」

紬父「紬……」


紬「彼女達は私の大事な学友です、
  誘拐犯でもなければ侵入者でもないわ……客人として扱いなさい!!」


律「ムギ……!」

唯「ムギちゃん……」


客「どうしたのかしら…紬お嬢様…」


 みんなが意外そうな目で私を見る。

 自分でも正直意外だ…それは他の人から見ればさぞ驚いた事だろう……。


 だって私は…今……本気で怒っているのだから……!!



118 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:32:26.17 ID:PNdIIEYCo

紬「彼女を離しなさい…」

SP「しかしお嬢さ…っ!?」

紬「もう一度言います…彼女を離 し な さ い … !」

SP「わ…分かりました……!」

 間髪入れず唯ちゃんを拘束していたSPの腕を掴み上げる。

 ギリギリと音を立て…SPの顔が一瞬歪んだように見えた…。

 その、私のあまりの力に怯んだのだろう、SPが慌てて彼女を解放する。


律「ムギ……その…さ…」

唯「わふ…あ…あのねムギちゃん…これは……」

紬「ええ、みんな大丈夫よ…だから後で、何があったのか…理由を説明してね…?」

澪「ムギ…」

梓「ムギ先輩……」



119 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:33:17.89 ID:PNdIIEYCo

紬父「紬…」

紬「お父様…お母様……信じて下さい…っ…彼女達が私の友達…放課後ティータイムのメンバーです…」

紬「私の掛け替えの無い……大切な“仲間”です…!」


紬母「あなた達が…紬の言っていた…学校のお友達…」

紬父「だったら、どうしてこのような事を…
   紬の誕生日を祝う為だったら…何も忍び込むような真似なぞしなくとも…」


紬「理由は分かりません…ですが、彼女達にはそうした理由がある筈です……」

 私は彼女達に向き合い、優しい目で尋ねた。


紬「りっちゃん…唯ちゃん…澪ちゃん…梓ちゃん、それを聞かせて貰っても…良いかしら?」



120 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:34:07.64 ID:PNdIIEYCo

澪「律……」

律「ああ、分かってる……ここまで騒ぎが大きくなったら…もう誤魔化しきれないもんな…」

唯「りっちゃん……私も…言うよ」

律「ふふっ、大丈夫だよ…言ったろ? 責任は取るって……。 ま、私に任せなって」

梓「律先輩………」


 みんながりっちゃんを見る。 やっぱり発端は…りっちゃんだったのか……。


律「その前に…みなさん、私のせいで、
  琴吹さんのお誕生日会をめちゃくちゃにしてしまい…本当にすみませんでした…!!」

 そして彼女は来賓に向かい、トレードマークのカチューシャを外し、深く頭を下げた…。

 普段は楽しくて明るく、みんなを和ませてくれるムードメーカー…
 
 でも、真面目な時はとことん真面目、それが私達の部の部長であり、頼れるリーダーの本当の姿だった…



121 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:34:46.79 ID:PNdIIEYCo

客「ふん…今更何を………」

客「汚らわしい…悪いと思っているのなら早く出て行けば良いのに…」


紬「…………っ」

 彼女の謝罪に悪態を付いた来賓を無言で睨みつける。

客「……チッ…」

 睨まれた何人かがばつの悪そうな顔をしてそっぽを向くが、もう気にはしない。


 そして一通りの謝罪を済ませた彼女は、今度は父と母に向き合い、自己紹介を始めた…。


律「ム…紬さんのお父さん、お母さん、初めまして…紬さんの友達の、田井中律です」

唯「私、平沢唯です」

澪「秋山澪です…」

梓「中野…中野梓と申します」



122 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:35:38.57 ID:PNdIIEYCo

紬父「こちらこそ…紬の父でございます…」

紬母「紬の母です…いつも、学校では紬がお世話になっているようで…」

唯「そ…そんな……私達の方こそムギちゃ…じゃなかった…紬さんにはお世話になっていて…」

紬「そんな…私の方が………」

律「まーまー…とりあえず、それは今置いといて…」

 埒が明かないと思ったのか、一方的に会話を切り上げ、髪を下ろしたままでりっちゃんは本題に入った。


律「あの…今回…私達は『私達だけ』で、紬さんのお誕生日を開きたいと思ったんです」

紬父「キミ達だけ…で?」

律「はい……」

紬母「詳しく、聞かせて下さいますか…?」



124 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:36:24.02 ID:PNdIIEYCo

律「はい…これ…全部、“私”が勝手に考えた事なんです…。
  その…1ヶ月前にもあったんです…私達、紬さん以外のみんなで集まって、お泊り会を開いた事があって…」

律「でもそのお泊り会の日、紬さんはここでパーティーやってて…参加できなくて……
  それで……せめて誕生日ぐらいはと思って……私、計画したんです、紬さんのお誕生日会…」

律「紬さんの予定も聞かずに…一人で勝手に暴走して…。
  いやぁ……後になって知った時は焦ったなぁ…
  だってその時には紬さん、もう家でパーティーやるって決まってたんだもんっ」

律「だから私焦って……んで、一方的に掻っ攫って来ちゃえばいいって考えて…あははっ!」

律「それで私、唯と梓と澪にこの事話して…私の手伝いさせたんです…
  そう…だから、悪いのは全部アタシ……この3人は全然関係ないんですよ?」

澪「律……お前……」

唯「りっちゃん……!」

梓「律先輩…」


紬「……………………」



125 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:37:48.52 ID:PNdIIEYCo

 ―――――――――嘘だ。

 りっちゃんは…明らかに嘘を吐いていた。

 全部…りっちゃんが考えたなんて…そんな…事。

 いや、仮にそこまでは信用できたとしても、あんなに優しくて…
 
 ちゃんとした考えの出来る彼女が…そんな短絡的な理由でこんな大事をやるなんて…
 
 彼女をよく知る私には到底信用できる話ではなかった……


 ―――でも、じゃあなんで、りっちゃんはそんな嘘を…?


 …考えに考えてみる…りっちゃんの言葉の意味を…その、心理を……。

 これまでの事で…りっちゃんが私を誘拐しようとする…その、本当の意味は……。


 …え、“誘拐”……?


 その時…私の頭を駆け巡る過去のやり取り…。

 それを必死に思い出してみる……。

 あれは…確か前のパーティーの時…電話で……



126 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:38:21.96 ID:PNdIIEYCo

律『――――これでも一応部長なんだぜ、へへっ。 大切な部員の為なら、“誘拐”だってやってやんよ♪』

紬「……じゃあ、困ったときはりっちゃんに連れてって貰おうかな…?」

律『―――あははっ、世界中のどこへでも連れてってやるよ!』


 ……………あれ?

 ………も…もしかして…………。


 そして…河川敷で私が泣いた時も……


紬『私…本当は……行きたくない……パーティー…行きたくない……っっ』

紬『私…もう……嫌だ…っ……琴吹の為に、楽しくもないパーティーに参加するの…嫌だ……っっ』


律『へへへ…まあ、見てろって……』

律『―――私が、なんとかしてやっから』


 そして、りっちゃんは…………!!!!



127 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:38:48.49 ID:PNdIIEYCo

 ああ……そうか…………全部、私が理由だったんだ……。

 …私が……あの河川敷で…あんな泣き言を言わなければ……
 
 りっちゃんは…こんな事…考えもしないで……。



 結局……全部…私が……私のせいで…全部…全部全部全部…ぜんぶっっ!!!

 私が弱いから…………私が…家の事一つ、自分で解決できない…弱い人間だから………!!!


紬「…………っっく……うぅぅっっ…うっっっ…!!」

 あまりの悔しさに涙が溢れだしてくる……

 どこまで私は…どれだけの迷惑をみんなにかければ気が済むんだ………!

 私はどこまで………ダメな人間…なんだ………!!



128 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:39:34.48 ID:PNdIIEYCo

律「けれど、結局失敗はするし…
  それどころか、大勢の人に迷惑かけて…アタシったらホント…何やってんだろ…」


客「そんな…ふざけた理由で…誘拐なぞと…!」

客「なん…て、恥知らずな…! お…親の顔が見てみたいものだわ…!」

客「いくら紬お嬢様のご学友とはいえ…なんと常識知らずな…!」

客「紬お嬢様も…お可哀想に…お友達に恵まれなかったのですね………」


紬「………くっっ…な…何を…一体…何を言って…!!」

 まだ言うのか…あの人達は。
 
 彼女がどれだけ優しい気持ちでそれを言ったのか…
 
 それを汲み取ろうともしないで…よくも……よくも……

 いや…それ以前に…人の謝罪も満足に聞き入れられないのか…あの人達は……?



129 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:40:20.33 ID:PNdIIEYCo

斎藤「まぁまぁ…皆様落ち着き下さい…
   そのような汚らしい言葉、紳士淑女である貴女方には似合いませぬぞ?」

 相も変わらず無神経な事をのたまう外野に喰ってかかりそうになった時、
 
 斎藤の手が私を肩を押さえ、そして優しい口調で彼等を宥める。


斎藤(お嬢様…堪えて下さいませ…田井中様の言葉の真意を汲み取ったのであれば…
   ここは私に免じて…堪えて下さいませ…!)

紬「斎藤……っ!」

紬(でも…あんな暴言…私はもう…耐えられない……!)


 こんな状況でもりっちゃんは…一言も
 
 『私が泣いてたから』とか
 
 『私がパーティーに行くのを嫌がってたから』
 
 なんて私の不利になるようなことは言わず…
 
 それどころか、全部の責任を、自分一人で背負いこもうとしている…

 そんな優しい子が…どうしてあんな罵りを受けなければならないの…?
 
 悪いのは私なのに…どうして…あんなに酷い言葉をぶつけられなければならないの…??

 我慢できず、斎藤の腕を振り解こうとした時、りっちゃんの繋いだ言葉が私にストップをかけた…。



130 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:40:47.64 ID:PNdIIEYCo

律「……でも……」

律「でも、連れ出そうとして…私は正解だと思いました」

紬父「それは…一体どういう意味で…」


律「こんな所にいたら…きっと、紬さん……
  いや………“ムギ”は、笑って誕生日なんか迎えられやしなかった…
  こんな、こんな淀んだところに居たら…!」

律「お父さん…あの、ムギは今日…」

唯「…ムギちゃんのお父さん…! ムギちゃん、今日…笑ってましたか…?」


 りっちゃんの言葉に被せるように…唯ちゃんが父に疑問の声を投げかける。

 「…唯っ!」というりっちゃんの声を無視して、
 
 唯ちゃんはもう一度、同じ質問を父に投げかけた。



131 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:41:31.31 ID:PNdIIEYCo

紬父「そ…それは……」

唯「私、今日初めてムギちゃんを見たんだけど……いつものムギちゃんじゃないんだ…。
  確かに、今日のムギちゃんはすっごく綺麗なドレスを着て…
  見た事もないぐらいキラキラした宝石を付けてて…いつもの何倍も綺麗だと思います…」

唯「でも…今日のムギちゃん…全然楽しそうに見えないんだ…」


澪「あんなにお酒に酔った人がいて……それで…暴れるような人がいて…」

梓「来賓の方々もそうです…お誕生日の主役があんなに泣いてたのに…
  大人の人もいたのに…どうして誰も助けてくれなかったんですか??
  どうして遠くから駆け付けた律先輩が、あの男の人に怒鳴られなければならなかったんですか???」

律「唯、澪…梓まで…それは私が……!」


澪(律一人ばっかカッコつけすぎ…私だってムギの友達なんだぞ…?)

唯(そうだよ…たまには私だってかっこいい事言ってみたいっ♪)

梓(みんな…律先輩と同じです…いえ…律先輩以上に、ムギ先輩の事…大好きなんですよ?)

律「ったく…私一人に任せとけば良かったのに…どうなっても知らないからな?」


澪「こうなったら一蓮托生だよ、そうだろ?」

唯「えへへ…また憂に怒られちゃうかもね…」

梓「どんと来いですっ♪」

律「まったく…みんなたくましく育っちゃって…りっちゃん嬉しいわっ」



132 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:42:16.02 ID:PNdIIEYCo

 そして、開き直ったかのような口調で3人は言葉を紡ぐ…


律「そうだなぁ…この中に、本当にムギの事を考えてきた人…どのくらいいるんだろうな?」

唯「なんか…みんなムギちゃんとムギちゃんのお父さんの顔色ばかり窺ってるって感じがしたよねぇ」

梓「でなければ、いくら強面の若社長だからって何もしないワケないですよね、
  大方会社同士のお付き合いに支障が出るって事で…見て見ぬふりでもしてたんでしょうけど…」


律「そもそも、女子高生に贈るプレゼントが揃いも揃って宝石とか花束とか…
  ハッ…今日びの女子高生が、そんなん送られたって喜びやしないってーの…」

唯「私、お誕生日のプレゼントなら心の籠った美味しいお菓子が良いなぁ~」

澪「昔から、プレゼントは値段よりも気持ちって言うもんなぁ」

梓「私なんて、去年唯先輩がくれた誕生日プレゼント、唯先輩のハグとキスだったんですよ?」

律「ははははっ! 唯、そりゃいくらなんでも手抜きすぎだって!!」

唯「ごめんねぇ…あの時はホラ、お小遣いピンチでさー」



133 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:42:51.14 ID:PNdIIEYCo

―――それはもはや、謝罪とはかけ離れたものになっていた…。

 そこにいたのはいつもの彼女達…。

 私の大好きな…すごく…すごく……頼れる仲間…。

 どんな時でも自分たちの輝きを貫き通す仲間…。


 それが…放課後ティータイム―――――!!




客「だ…黙らぬか!! 小娘共が!!」

客「あなたのような庶民風情にワタクシ達の何が分かるって言うのよ!!」

客「そうだそうだ! 大体お前ら場違いなんだよ! 早く帰れ!! 消え失せろ!!」


梓「やです」

律「だって私らそもそも庶民だもん、そんな金持ちの理屈、分かるワケねえっしょ?」

梓「ここに居ていいのは…本心からムギ先輩のお誕生日を祝える方だけですよ」

律「それが出来ないってんなら…あたしらはこの場でムギを掻っ攫って行く」



134 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:43:41.85 ID:PNdIIEYCo

客「社長! もうあんな小娘さっさとつまみ出しましょう!
  ホラSP何やってんだ! そこの小汚い娘共を追い出せよ!!!」



紬父「……………」

紬母「あなた…………」

紬父「紬、お前はどう思う…?」

 父が私に尋ねる。

 それは、私の意見に賛同してくれるのか…それとも、その逆なのだろうか…


 だけど、私の答えはもう決まっている………!


紬「……ええ…彼女達の言う通りです」

 ……もう、私は迷わない。 何も怖くない。

 私は、琴吹家の令嬢である以前に…琴吹紬という…一人の女の子なのだから…!!



135 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:44:33.49 ID:PNdIIEYCo

 涙も吹っ切れた私は来賓の前に立ち、
 
 今までに私が抱えていた…全ての想いを打ち明ける……!


紬「皆さん、そこまでにしてください…
  これ以上、私の友人を侮辱するのは誰であろうと許しません」

客「紬…お嬢様……!?」

紬父「紬……!」

紬母「……………」


紬「お父様、お母様……私は、ここに居る人たちが…好きではありません」

紬「今日は私のせっかくの誕生日…
  それなのに…ここに居る方々は、私の後ろにいるお父様と琴吹の家しか見えておらず…
  それどころか、私の…掛け替えの無い友人を上辺だけで見下し、罵倒し…
  庶民だからと差別をする、心の卑しい方達ばかりです…!」

紬「そんな人たちに囲まれて祝われるぐらいなら…私はこのような宴会、即刻中止すべきだと思います」


客「な……なんという…事を!!」

客「紬お嬢様まで…そのような………」


 客の間から次々と動揺の声が飛ぶ。

 そんなのをお構いなしに私は次々と言葉を繋げる……

 今まで溜め込んできた鬱憤、後悔…我慢…
 
 その全てを、会場中の人間に聞こえるぐらいの大声で、言ってやる…。



136 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:45:30.93 ID:PNdIIEYCo

―――――――

紬父「……そうか…………」

紬母「あなた…私は……」

紬父「いや…みなまで言うな…分かっておる……」

紬父「私も眼鏡が曇っていたようだな……
   娘と、その友人に言われるまで…娘の本心に気付けぬとは……!!!」

 怒り心頭した父は、腕を大きく振り上げ…


 ――――――バキィィィ!!!


 そして、自分の頬に、思いっきり拳を叩き込む…。

紬母「あなた……!」

紬「お父様…!」

紬父「母さん…私は、社長としても…親としても…間違っていたようだ…っ!」



137 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:46:36.13 ID:PNdIIEYCo

紬母「あなたったら……」

 母が父に歩み寄り…父の腫れた頬に手を差し出して…


 ―――パシンッ!!


 …強烈な平手を一発、打った…


紬母「馬鹿ですね…そんな事で良ければ…私が紬に変わっていくらでもしてあげます…」

紬父「…はっはっは……これは、一本取られたな……」

紬母「紬、あなたの気持ちを無視して
   長い事振り回していた父さんと母さんを許してちょうだい…
   今まで、苦労を掛けたわね……本当に…本当にごめんなさい……」


紬「お母様…お父様……!」

紬父「田井中さん、パーティーを壊したのはキミ達ではない…
   これは、知らず知らずの内に、娘を営利目的に使っていた我等大人の問題だ」

紬父「だから、ここは私に責任を取らせてくれ…田井中さん、平沢さん、秋山さん…中野さん………」

紬母「後は、私達が何とかするから、あなた達はお出かけなさい…」

紬父「みなさん…紬の事、よろしくお願いいたしますぞ………!!」



138 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:47:46.21 ID:PNdIIEYCo

律「おじさん……」

紬「……みんな…行こう!! 私の誕生日は、これからなのよ!!」

唯「ムギちゃん…うん、そうだよ!」

澪「ムギ、お帰り…」

紬「ただいま…澪ちゃん、みんな……!」

梓「そうと決まれば早く行きましょう!
  唯先輩の家で、和先輩に憂に純…きっとさわ子先生も待ってくれてますよ!」

紬「ええ、そうね! わぁ…今からすごく…すごく楽しみだわ…!」


斎藤「ここは我々にお任せを…
   さぁお嬢様もお友達も、外に車を用意してあります、どうぞお乗り下さい!」

 斎藤に連れられ、私達5人はホールを駆け足で出て行く。

 お父様…お母様……斎藤…りっちゃん、唯ちゃん、澪ちゃん、梓ちゃん……
 
 みんなみんな…ありがとう…ありがとう………!!!



139 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:48:34.00 ID:PNdIIEYCo

紬母「紬!! 良いお友達を持てたわね…!! お母さん、正直驚いたわよ!」

紬父「皆さん、今度我が家へ是非遊びに来て下さい!
   紬が学校で、皆さんとどんな学園生活を送っているのか…是非、お聞かせください!!」

律「はいっ! おじさん、ありがとうございました!!」



客「おいおい…どうすんだよコレ…?」

紬父「皆さんっ! 聞いての通り、娘の希望により今日のパーティーはここでお開きとさせて頂きます!!
   わざわざ遠方よりお越しいただいた方には誠に申し訳ありませんが!
   娘のたっての希望という事ですので、何卒この場は寛容な心で受け入れてやってくだされ!!!」


客「お…オイ!! あんた、俺達が一体何のためにココに来たと思って…!」

紬父「申し訳ございません! ですが、この場は…どうかこの場だけはお納めください!!」



140 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:50:00.43 ID:PNdIIEYCo

客「っざけんな!! 納得できるかこんな事! 大体、俺がここに来たのだってあんたとの取引をだな!」

紬父「……………ええい!! 黙らぬか小童が!!!!」

客「…な…なんだって……?」

紬父「この期に及んでまだ会社会社等と…
   そのような守銭奴にくれてやる言葉なぞ…一片たりとも無いッッッ!!!」


客「そんな事言って、どうなっても知らないからな!!
  琴吹グループとの契約は金輪際打ち切らせて頂く!!」

紬父「構わぬ…欲目の為に心を捨てた者共の助けなど、元より必要ない…!」


客「強がりやがって…! 琴吹の様な小物が、ここに居る全員を敵に回して存続できると思うなよ…!」

紬父「私の会社を舐めるなよ…! 琴吹家の名はそう簡単には折れぬ…!
   私の娘も…私も…琴吹の全ては、私が守る…!」


紬母「…あなた……。 …ふふふ……紬、あなたにも見せてあげたかったわ……」

紬母「―――――――私も見た事の無い…パパの一番かっこいい瞬間を…ね♪」



141 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:51:19.32 ID:PNdIIEYCo

 窓が開かないと知った時。 それでも小鳥達はめげず、何度も窓に体当たりを続けます。

 羽が舞い、ぼろぼろになっても尚、小鳥たちは諦めません。

 傷付く仲間を前に小鳥はもういい、もういいと…ついには泣き出してしまいます。

 ですが、それでも仲間は、必ず小鳥を外へ連れて行くと言い、何度も窓にぶつかって行きました。


 その光景を見ていた親鳥は思いました。

 子供を守る為の窓が、いつの間にか、子供を縛り付ける牢になっていた事に気付いたのです。

 懸命に窓を開けようとする5匹を見て、親鳥は互いに頷き、小鳥の為に力を添えようと誓います。


 小鳥の身体を支える親鳥の大きな羽、その羽が、窓をこじ開けようと力をかけます…

 そして、親鳥と5匹の小鳥、7匹の力が一つになったその時…

 小鳥を閉じ込めていた窓は…静かに、そして大きく開かれたのでした…。



142 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:52:08.78 ID:PNdIIEYCo

 車の中

 屋敷を抜け、慌てて車の中に乗り込んだ私達は、そのまま唯ちゃんの家に直行する。

紬「そこの交差点を左にお願いね」

運転手「かしこまりました…」

 リムジンを器用に運転する使用人に指示を出し、私は助手席から後の座席を見回す。

 唯ちゃん、りっちゃん、澪ちゃん、梓ちゃん…全員が疲れた顔をしているけど…
 
 その表情には一切の曇りは無く、むしろ爽快感すら感じさせる…。


律「っかし…すごかったな……」

澪「…………………」

梓「なんかドラマみたいでしたね、私達っ♪」

唯「一時はどうなる事かと思ったけど…いやぁ……なんか…ねぇぇ?」

澪「………………」

紬「うふふっみんな…本当にヒーローみたいだったわよ?」

澪「………………」

律「澪もなんか言えよぉー? 表情固まってんぞー?」

 おちゃらけた声でりっちゃんが澪ちゃんのお腹を肘でつつく。

 確かに澪ちゃんだけさっきから笑顔のまま表情が固まっていて、まるでお人形か何かの様だった。



143 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:52:37.64 ID:PNdIIEYCo

紬「澪ちゃん…どうかしたの?」

 私の問いにぼそりと、か細い声で澪ちゃんは言う。
 
澪「……かった…」

律「な…なんだって???」

澪「こわかった………怖かった…怖かったぁぁぁぁぁ!!」

澪「もーーー!! 一時はどうなる事かと思ったんだからなお前ぇぇ!!」


 澪ちゃんは風船が弾けるように感情を露わにし、りっちゃんに掴みかかる。


律「み…澪だって乗り気だったろ? それにあん時、一蓮托生って言ってたの澪だろ?」

澪「あれは…その……その場のノリって言うか…ううぅぅっっ!」

 上げた声は次第に涙声に変わり…その綺麗な瞳が涙にまみれる……
 
 そして澪ちゃんはぽろぽろと涙をこぼし、泣いてしまった…。



144 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:53:06.58 ID:PNdIIEYCo

律「ちょ…澪、んなマジ泣きしなくたって…」

梓「緊張が緩んでしまんたんですよね…澪先輩、頑張ってましたもんね」

澪「ぅぅうっ…ぐずっ…あ…梓は大丈夫なの…?」

梓「私も…ちょっぴり膝震えてます…あははっ」


 梓ちゃんが澪ちゃんの手をさすり、安心させるようにその手を包み込む…。

 私も助手席から後部座席に移り、澪ちゃんの隣に座って彼女を励ましてあげた。


紬「澪ちゃん…」

澪「みんな…良かった…っ! 無事でよかったっっ」

紬「私もよ……こうしてみんなが無事で、本当にうれしいわ……」

唯「私もワインをひっくり返しちゃったときはどうなったかと思ったけどね…」

紬「みんな、今日は…その…」



145 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:53:40.22 ID:PNdIIEYCo

 ごめんなさい……と言いかけた時…りっちゃんの声がそれを遮った。

律「ストーップ! ムギ、別に謝る事ないんだぜ?」

紬「でも…私のせいで…」

律「ムギのせいなんかじゃないよ、これは…私g」

唯「私達が考えた事なんだよっ!」

梓「確かに発案したのは律先輩ですけど、私達も計画に乗ったわけですからっ!」

澪「…だからこれは、みんなの責任だ…」

律「だぁー! お前らさっきから美味しいとこ持ってくなー!」


唯「りっちゃんにばっかり美味しいとこは持って行かせないもーん♪」

梓「そうですよー♪」

律「んにゃろぉ~~!」



146 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:54:15.23 ID:PNdIIEYCo

 痺れを切らしたりっちゃんが二人の脇を器用に抱え、思いっきりくすぐり始める。


唯「あはははっ! ちょっ! りっちゃんくすぐったいぃぃ!」

梓「うわぁぁっ、や…止めて下さいぃぃっ…ひゃっ!」

澪「あははは…まったくあいつらは…」

紬「……♪」

 それを見ていた私もふと、いい事を思い付いたので、さりげなく澪ちゃんに抱きついてみる。

澪「な…ちょ…ムギ…へ?」

紬「………うふふ♪」

 びっくりした様子で私を見る澪ちゃんだが、私はそんな澪ちゃんの身体をがっしりと抱え…。

 そして、両腕と両手指を使って、澪ちゃんの身体を思いっきりまさぐり始めた。

紬「こちょこちょこちょこちょ~~♪」

澪「ひぃぃぃっっ!?!? む…ムギぃぃ??」

紬「こちょこちょこちょこちょ~~~~~♪」

澪「ちょ…や…やめ! ひゃっ……! も~~~~! た…助けてぇぇー!」



147 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/07/25(月) 20:54:54.10 ID:PNdIIEYCo

紬「あははははっっ♪」

唯「も~~~…か…勘弁してぇぇ~~っっっっ」

律「まだまだ…終わらせないかんな~♪」

澪「っっく…あはは…っ! も~、や…やめてくれぇ~~」

梓「律先輩ごめんなさいです…っっっ! だからもう…きゃっ! ごめんなさ~い!」


 みんなが笑いあう…。

 それはいつもの私の日常で…これからも変わらない事。

 そう…これが私が一番望んでいた事………。

 これが私の…一番の宝物………。


 そうこうして笑い合ってる内に、リムジンは唯ちゃんの家に着いたのだった…。




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[ 2011/10/26 21:32 ] 非日常系 | | CM(0)

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